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特許7429639抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20240201BHJP
   A61K 31/132 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240201BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240201BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K31/132
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 Y
A61K45/00
A61K45/06
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P43/00 107
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C07K16/18
C07K14/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020526555
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 US2018061822
(87)【国際公開番号】W WO2019100005
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】62/588,346
(32)【優先日】2017-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520155170
【氏名又は名称】デ マガリャエス,ンゾラ
【氏名又は名称原語表記】DE MAGALHAES,Nzola
【住所又は居所原語表記】553 N Fairhaven St,Anaheim,CA 92801
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】デ マガリャエス,ンゾラ
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521897(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017133(WO,A1)
【文献】XUE, F. et al,eIF5A2 is an alternative pathway for cell proliferation in cetuximab-treated epithelial hepatocellular carcinoma,Am J Transl Res,2016年,Vol.8(11),pp.4670-4681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
31/00-33/44
38/00-39/44
45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
C07K 14/00
16/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n(m(I)-L)-Ab-(L-(D)m)nの形を有し、
Abは抗体および抗原結合フラグメントからなる群から選ばれる分子を表し、かつ、ターゲットとする癌上の細胞表面レセプタと特異的に結合し、
DはN1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン(GC7)またはその塩を表し、
Iは造影剤を表し、
Lは連結基を表し、
mは1から8の範囲の整数を表し、
nは1から10の範囲の整数を表す、抗体薬物複合体(ADC)またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記GC7は塩の形である、請求項1に記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
前記Abは上皮成長因子レセプタ(EGFR)または癌胎児性抗原(CEA)と特異的に結合可能な抗体または抗体フラグメントである、請求項1または2に記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記連結基は、カルボジイミド架橋剤、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)架橋剤、またはジチオビスマレイミドエタン架橋剤である、請求項1から3のいずれかに記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
KRAS変異癌の処置に使用される、請求項1から4のいずれかに記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
ヒトの膵管線癌(PDAC)を含む膵管線癌の処置に使用される、請求項1から4のいずれかに記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
薬学的に許容されるキャリア、ベシクル、または添加剤とともに請求項1から5のいずれかに記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩を含む、薬学的組成物。
【請求項8】
前記Abは内在化抗体である、請求項1に記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
ターゲットとする前記癌は癌細胞であり、前記細胞表面レセプタが前記癌細胞上で過剰発現する、請求項1に記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項10】
前記癌細胞は、KRAS変異癌細胞である、請求項9に記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項11】
前記KRAS変異癌細胞は、膵臓がん細胞である、請求項10に記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩。
【請求項12】
KRAS変異癌をインビトロで検出する際に使用する抗体薬物複合体(ADC)またはその薬学的に許容される塩であり、
前記抗体薬物複合体はn(m(I)-L)-Ab-(L-(D)m)nの形を有し、
Abは抗体および抗原結合フラグメントからなる群から選ばれる分子を表し、
DはN1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン(GC7)またはその塩を表し、
Iは造影剤を表し、
Lは連結基を表し、
mは1から8の範囲の整数を表し、
nは1から10の範囲の整数を表す、抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩
【請求項13】
前記KRAS変異癌は、膵管線癌(PDAC)である、請求項12に記載の抗体薬物複合体またはその薬学的に許容される塩
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬化学と薬学の分野に関連する。特に本発明は、癌やその他の疾患、病気に対する治療と診断に役立つ特性を有し、毒素に接合した抗体、抗体フラグメント、またはペプチドを含有する治療診断化合物に関連する。
【0002】
本願は、2017年11月18日に出願された、米国出願番号62/588,346の「系抗に結合したGC7(N1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン)系複合体」と題される仮特許出願の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
過去10年間で全ての癌による全死亡率は低下しているものの、膵臓癌による死亡率は毎年0.4%増加している。従来の化学療法や放射療法、外科手術を含む従来の処置を施した後であっても、癌再発率が高い。従来の処置方法後の5年生存率はわずか1から5%に留まる。膵臓癌の高い再発率は、一部はKRAS遺伝子内の変異に関連する抵抗力に起因する。膵臓癌の95%は、KRAS遺伝子内に既に存在していた変異に関連している。しかしながら、従来療法は腫瘍に対する選択性や細胞傷害効率が乏しく、このため、処置の繰り返しおよび/または腫瘍の不完全な傷害もKRAS遺伝子内の治療抵抗性変異に関連している。
【0004】
最近の証拠によると、KRasの変異活性は、ヒトの膵管線癌(PDAC)の進行を左右する細胞翻訳機構のコンポジットである、真核生物翻訳開始因子5A(eIF5A)を増加させることが指摘されている。EIF5Aは、一連のタンパク質の発現を精密にチューニングしてPDAC細胞の遊走と転移を促進する役割を有している可能性があり、このため、PDACの発病において鍵となっている可能性がある。PDAC細胞におけるEIF5Aの発現は、eIF5Aプロテインのヒプシン化を含む特有な経路によって調節される。ヒプシン化は翻訳後の独特な修飾プロセスであり、デオキシヒプシンシンターゼ(DHS)とデオキシヒプシンヒドロキシラーゼ(DOHH)という二つの酵素によって媒介されるアミノ酸ヒプシンの水酸化を通してeIF5Aプロテインを活性化する。
【0005】
eIF5Aのヒプシン化経路を阻害することにより、細胞を死滅させ、転移を阻害し、インビトロとインビボでのKRAS変異した野生型ヒトPDAC細胞株内におけるKRas発現を大幅に低減させることができる。このため、eIF5Aのヒプシン化経路によってKRasプロテイン発現が調節される(さらにKRas発現によって調節される)。さらに、DHSとDOHHの阻害剤がeIF5Aのヒプシン化と活性をブロックしてインビトロで化学療法抵抗性PDAC細胞を効果的に死滅させたことは、これらの阻害剤がインビボで膵臓癌予防薬として潜在的に使用できることを示唆している。
【0006】
一方、KRASによって促進される膵臓癌は、ヒプシン化が阻害される、またはeIF5Aが打撃を受けた時に治療薬に対して敏感になることが観察されている。
【0007】
抗原が結合したGC7系複合体を介して薬理学的にeIF5Aを阻害することにより、KRASによって促進される腫瘍においてインビボでの腫瘍の成長と転移を大幅に抑制できる可能性がある。GC7投与後にインビトロではかなりの細胞毒性が観察されるものの、インビボでの結果も混じっている。薬物が全身の全ての細胞へ分配されたため、腫瘍細胞へ輸送される薬物の量が低下し、その有効性が低減したものと予想される。
【0008】
免疫複合体または抗原が結合した複合体は、架橋剤によって細胞傷害性製剤と連結された、抗体やペプチド、抗原結合フラグメントなどの抗原結合部分を含有する分子である。癌や血管新生疾患においては、複合体内の抗原結合部分は、対応する抗原を含む細胞に対して細胞傷害性製剤、薬物、または薬物部分を特異的に輸送するために用いられ、これにより、目標としない正常で健康な細胞に対する毒性を最小化することができる。
【0009】
現在、癌や免疫疾患、感染病などの疾患の療法において安全に使用できる、抗体-薬物複合体(一般的にADCと呼ばれる)やペプチド-薬物複合体(一般的にPDCと呼ばれる)などのGC7系免疫複合体で承認されたものは存在せず、抗体やペプチド、抗原結合フラグメントへの活用においてGC7はいまだに説明しなければならない。
【0010】
このため、この疾患に悩まされている患者の全体的な生存率を改善するための治療的処置のニーズが逼迫している。薬物抵抗性や放射線抵抗性に打ち勝つだけでなく腫瘍の再発を阻害する効果的治療戦略の発展により、死亡率の減少を促進し、膵臓癌患者の生活の質の向上が見込まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態によると、本発明は癌性の細胞を処置する方法を指向する。この方法は、効果的な量のn(m(I)-L)-Ab-(L-(D)m)nの形の抗体薬物複合体(ADC)を癌細胞集団へ投与することを含む。ここで、Abは、抗体、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および抗原結合フラグメントからなる群から選ばれる分子を表し、Dは薬物部分を表し、Iは造影剤を表し、Lは連結基を表し、mは1から8の範囲の整数を表し、nは1から10の範囲の整数を表す。
【0012】
本発明の実施形態によると、Dは真核生物開始因子5A(eIF5A)の阻害剤である。本発明の他の実施形態によると、eIF5A阻害剤はN1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン(GC7)の形である。
【0013】
本発明の実施形態によると、ADCは癌細胞の処置における他の治療薬と組み合わされる。
【0014】
当発明の別の実施形態によると、本方法は癌細胞を診断、処置する方法を含む。この方法は、(a)被験者から癌試料を受け取ること、(b)KRasの異常に関して癌試料を検査すること、および(c)n(m(I)-L)-Ab-(L-(D)m)nの形の抗体薬物複合体(ADC)を投与することを含む。ここで、Abは、抗体、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および抗原結合フラグメントからなる群から選ばれる分子を表し、Dは薬物部分を表し、Iは造影剤を表し、Lは連結基を表し、mは1から8の範囲の整数を表し、nは1から10の範囲の整数を表す。
【0015】
当発明の他の実施形態によると、薬物部分は真核生物開始因子5A(eIF5A)のヒプシン化の阻害剤である。幾つかの実施形態では、ヒプシン化阻害剤は、N1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン(GC7)の形である。
【0016】
当発明のさらなる実施形態によると、癌細胞を攻撃する方法は、治療診断抗体薬物複合体(ADC)を使用することを含み、ADCは真核生物開始因子5A(eIF5A)のヒプシン化を阻害する薬物を含む。
【0017】
当発明のさらなる実施形態によると、治療診断抗体薬物複合体は、真核生物開始因子5A(eIF5A)のヒプシン化の阻害剤を含む。幾つかの実施形態によると、ヒプシン化阻害剤は、N1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン(GC7)の形、デオキシヒプシンシンターゼ(DHS)の阻害剤、またはデオキシヒプシンヒドロキシラーゼ(DOHH)の阻害剤である。他の実施形態によると、治療診断抗体薬物複合体は、GC7、DHSの阻害剤、またはDOHHの阻害剤などのヒプシン化阻害剤を一つまたは複数含む。
【0018】
当発明のなおさらなる実施形態によると、癌細胞を処置するために狙いを定めて薬物を輸送する方法は、(i)癌性の細胞内で過剰発現した細胞表面タンパク質を決定すること、および(ii)n(m(I)-L)-Ab-(L-(D)m)nの形の複合体を設計することを含む。ここで、Abは、抗体、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および抗原結合フラグメントからなる群から選ばれる分子を表し、Dは薬物部分を表し、Iは造影剤を表し、Lは連結基を表し、mは1から8の範囲の整数を表し、nは1から10の範囲の整数を表す。
【0019】
当発明のなおさらなる実施形態によると、この方法は、KRasタンパク質を過剰発現したADC複合体を設計することを含む。幾つかの実施形態では、薬物はeIF5Aの阻害剤であり、さらなる実施形態では、薬物はN1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン(GC7)の形である。
【0020】
当発明のなおさらなる実施形態によると、この方法は哺乳類に対して使用され、幾つかの実施形態ではこの方法はヒトにおいて使用される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本特許または出願ファイルは、カラーで表された図面を少なくとも一つ含む。カラー図面を有する本特許または特許出願公開公報は、請求と必要な手数料を納付することで官庁より提供される。
【0022】
図1】ヒプシン化阻害剤の化学式を示す。図1aはGC7(N1-グアニル-1,7-ジアミノヘプタン)分子の化学構造を与え、図1bはGC7の塩形態、すなわち、1-(7-アンモニオヘプチル)グアニジウムスルフェートの化学構造を与える。
図2】GC7系ADC(抗体薬物複合体)の構成デザインを図示する。
図3】EDC(カルボジイミド架橋剤)カップリング反応によって生成したGC7系ADCの構成デザインを図示する。
図4】開裂可能なヘテロ二官能性SPDP(N-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)架橋剤を用いるマレイミド化学反応によって生成したGC7系ADCの構成デザインを図示する。
図5】開裂可能なホモ二官能性DTME(ジチオビスマレイミドエタン)架橋剤を用いるマレイミド化学反応によって生成したGC7系ADCの構成デザインを図示する。
図6】薬物部としてG7を有する本発明のADCでBxPC-3細胞を処理した後の細胞生存分析と薬物応答の結果を、CEA抗体とセツキシマブ抗体による処理との比較として示す。BxPC-3はeIF5A発現が高い細胞株である。図6aはコントロールグループと処置グループの割り当てを表す。図6bはクリスタルバイオレットで処理した後の生データを示す。図6cは、コントロールデータをグラフで示す。
図7】薬物部としてG7を有する本発明のADCでFG細胞を処理した後の細胞生存分析と薬物応答の結果を、CEA抗体とセツキシマブ抗体による処理との比較として示す。FG細胞は比較的普通のレベルでeIF5Aを発現する。図7aはコントロールグループと処置グループの割り当てを表す。図7bはクリスタルバイオレットで処理した後の生データを示す。図7cは、コントロールデータをグラフで示す。
図8】薬物部としてG7を有する本発明のADCでPanc-1細胞を処理した後の細胞生存分析と薬物応答の結果を、CEA抗体とセツキシマブ抗体による処理との比較として示す。Panc-1細胞は比較的普通のレベルでeIF5Aを発現する。図8aはコントロールグループと処置グループの割り当てを表す。図8bはクリスタルバイオレットで処理した後の生データを示す。図8cは、コントロールデータをグラフで示す。
図9】薬物部としてG7を有する本発明のADCで779E細胞を処理した後の細胞生存分析と薬物応答の結果を、CEA抗体とセツキシマブ抗体による処理との比較として示す。779E細胞は比較的普通のレベルでeIF5Aを発現する。図9aはコントロールグループと処置グループの割り当てを表す。図9bはクリスタルバイオレットで処理した後の生データを示す。図9cは、コントロールデータをグラフで示す。
図10】779E細胞から誘導される左右両側の皮下腫瘍を持つヌードマウス内における本発明のインビボでの効能分析の結果を示す。
図11】eIF5Aのヒプシン化経路を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
全体として当発明は、複合体化合物、および癌などの疾患を選択的に検出・処置するためにこの複合体化合物を用いる方法を含む。この複合体化合物は、一般的にn(m(I)-L)-Ab-(L-(D)m)nの形、またはその薬学的に容認される塩の形である。ここで、Abは、抗体、ペプチド、ポリペプチド/タンパク質、またはその抗原結合フラグメントであり、Lは連結基であり、Dは薬物部分であり、Iは造影剤であり、mは1から8の範囲の整数であり、nは1から10の範囲の整数である。Ab(またはmAb)はペプチドに基づく部分であり、目標サイトと接着するために使用される。一度Abが目標サイト(例えば、癌性の細胞上の細胞表面レセプタ)に結合すると、連結基を介してAb部分に付加している造影部分が目標サイトの同定と局在化においてガイドの役割を果たす。一方、Abは連結基を介して薬物部分にも結合している。これにより、目標サイトに処置を提供することができる。したがって、当発明により、分子レベルで異常を検出・処置することができる。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明は、哺乳類、すなわちヒトの真核生物開始因子5A(eIF5a)をターゲットとするが、これは、このタンパク質はKRAS内の変異に起因してPDAC細胞内で過剰発現するからである。したがって、クレームされた発明における適切な薬物部分は、ヒプシン化の阻害剤のサブクラスなどのeIF5aの阻害剤を含む。
【0025】
過剰発現は複数の方法で定義することができるが、最も本質的な部分においては、正常を超えた遺伝子発現レベルと定義される。遺伝子発現のパターンは、正常細胞と癌性の細胞との間で複雑に異なることが知られている。したがって、遺伝子の正常発現とは目立った変化を誘起しないタンパク質のレベルと定義でき、遺伝子の過剰発現とは遺伝表現の変動性に寄与するレベルと定義できる。主に二つの手段によって遺伝子を過剰発現させることができる。一つの簡潔化されたモデルでは、遺伝子はアロステリック反応に起因して過剰発現する。他のモデルは、伝子の複製に起因する。
【0026】
本発明は、抗原が結合した複合体またはバイオマーカーで駆動されるGC7系複合体、およびこの複合体ならびにその前駆体を、抗原結合部分、連結剤、造影剤、およびGC7、GC7類縁体、若しくはその薬学的に容認できる塩を用いて作製し、調製し、合成し、複合し、精製する方法を提供する。前駆体は、これらの方法を適用する際に製造される。本発明の化合物は治療薬として、および癌や免疫疾患、感染病などの疾患の診断、予防、および/または処置において使用することができる。現在、疾患の処置において安全に使用できるGC7系の抗体-薬物複合体(一般的にADCsと呼ばれる)やペプチド-薬物複合体(一般的にPDCsと呼ばれる)で承認されたものは存在しない。
【0027】
本発明の複合体の利点は、正常な組織を無傷のままで腫瘍細胞を攻撃できること、KRAS変異した腫瘍細胞の化学療法に対する感度を増大できること、および三種類の治療アプローチを利用できることであるが、これらに限られない。本発明の複合体は、毒素部分であるG7により、eIF5Aを過剰発現した腫瘍細胞における光線療法、抗体療法、および薬物療法を通し、腫瘍細胞内におけるインビトロとインビボでの細胞毒性を明らかにすることができる。
【0028】
本発明の実施形態によると、細胞結合剤である本発明に係る抗体(Ab)に制約はなく、モノクロナール抗体、キメラ抗体、ヒト型化抗体、ヒト遺伝子操作抗体、ヒト抗体、組換えヒト抗体、ラクダ抗体、抗イディオタイプ抗体、システインまたは他のアミノ酸で置換された抗体、ドメイン抗体、ポリクロナール抗体、一本鎖抗体(scFv)、あるいはこれらの抗体フラグメント、リンホカイン、ホルモン、ビタミン、成長因子、コロニー刺激因子、または栄養輸送分子であってよい。本発明の一つの態様では、抗体は非内在化抗体、内在化抗体、および/または中和抗体である。
【0029】
抗体は、どのようなアイソタイプ/クラス(例えばIgM、IgA、IgG、IgD、IgE、IgY)、サブクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2)でもよい。
【0030】
本発明のある実施形態における抗体は、抗CEA抗体、抗CA19-9抗体、抗EGFR抗体、抗葉酸レセプタ抗体、セツキシマブ、パニツムマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、オビヌツズマブ、ブレンツキシマブ、リツキシマブ、またはオファツムマブを含むが、これらに限られない。
【0031】
当発明の実施形態によると、抗体、抗体フラグメント(例えば、抗原結合フラグメント)、または本開示の機能的等価物は固体の担持体に付着していてもよく、このような抗体は、ターゲットとする抗原の免疫学的検定や精製に特に有用である。このような固体の担持体は、ガラス、セルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、あるいはポリプロピレンを含むが、これらに限られない。
【0032】
当発明の実施形態によると、本発明に係るペプチド、ポリペプチド、あるいはタンパク質には制約はなく、天然のL型またはD型、若しくは両配座型のアミノ酸や人工ペプチドであってもよい。
【0033】
当発明の実施形態によると、本発明に係る連結基(L)に制約はなく、他のタイプの連結基に加え、開裂可能な連結基、開裂不可能な連結基、親水性連結基、プロチャージされた連結基、ジカルボン酸系連結基、ホモ二官能性連結基、ヘテロ二官能性連結基、チオール反応性架橋剤、カルボキシル-アミン反応性架橋剤、アルデヒド反応性架橋剤、光反応性架橋剤、ヒドロキル反応性架橋剤、またはアジド反応性架橋剤であってもよい。一つの態様では、連結基はヘテロ二官能性のゼロ距離EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド)架橋剤であってもよい。他の態様では、開裂可能な連結基は、ヘテロ二官能性のSPDP(N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)架橋剤でもよい。他の実施形態では、開裂可能な連結基は、ホモ二官能性のDTME(ジメチルビスマレイミドエタン)でもよい。
【0034】
本発明のある実施形態において連結基は、ヘテロ二官能性のゼロ距離EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド)架橋剤を含むが、これに限られない。他の態様では、開裂可能な連結基は、ヘテロ二官能性のSPDP(N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)架橋剤でもよい。他の態様では、開裂可能な連結基は、ホモ二官能性のDTME(ジメチルビスマレイミドエタン)でもよい。
【0035】
当発明の実施形態によると、本発明に係る造影剤(I)に制約はなく、蛍光体またはPET(ポジトロン断層撮影法)トレーサ、SPECT(単光子放射型コンピュータ断層撮影法)トレーサ、もしくはMRI(核磁気共鳴画像)トレーサなどの検知可能な化合物または組成物である。造影剤はそれ自体検知可能であってもよく(例えば、放射線同位体トレーサ、蛍光色素)、あるいは酵素試薬の場合では、検知可能な基質化合物または組成物の化学変性を触媒してもよい。検知可能な化合物として働く放射性核種には、例えばI-131、I-123、I-125、Y-90、Re-188、Re-186、At-211、Cu-67、Bi-212、およびPd-109が含まれる。造影剤はまた、治療に役立つ造影剤(例えば、感光性色素)でもよく、毒素部分や薬物部分などの検出不能なもののために置換されてもよい。つまり、造影剤(I)は治療薬でも、非治療薬でも、診断薬でもよい。
【0036】
本発明のある実施形態では、造影剤は、フタロシアニン系色素である700DxなどのM-テトラヒドロキシフェニルクロリン(mTHPC)、ルテチウムテキサフィリン、およびDYLIGHT500 NHSやDYLIGHT 650 NHS、DYLIGHT 800 NHSなどの蛍光色素を含むが、これらに限られない。
【0037】
当発明の他の実施形態によると、上述した実施形態の抗体またはペプチド薬物複合体は、いずれも他の治療薬と組み合わされてもよい。
【0038】
当発明の他の実施形態によると、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞、微生物感染細胞、寄生虫感染細胞、自己免疫細胞、活性細胞、骨髄細胞、活性T-細胞やB細胞、あるいはメラニン細胞などのターゲットとする細胞に対し、任意の細胞結合剤を用いることができる。他のターゲットとしては、CEA、eIF5A、若しくはHer-2抗原を発現する細胞、Her-3抗原、またはインスリン成長因子レセプタや上皮成長因子、葉酸レセプタを発現する細胞が含まれる。
【0039】
本発明の他の目的は、上記実施形態の抗体またはペプチド薬物複合体を含む薬学的組成物、および薬学的に容認可能なキャリア、ベシクル、あるいは賦形剤である。
【0040】
本発明に係る複合体は、本分野で知られた従来の方法によって調製することができる。他の適切な方法も適宜用いることができる。複合体の効能は、研究動物モデルを用いてインビボで、あるいは複合体の抗体やペプチド、または抗原結合フラグメントによって認識される抗原を発現する細胞株上、若しくはeIF5A陽性である細胞株上においてインビトロで調査することができる。
【0041】
本発明の実施形態では、薬学的に容認可能な塩、すなわち、薬学的に容認可能であり、要望する親化合物の薬理学的活性を備える化合物の塩を採用してもよい。塩形態の実例としては、(1)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸を用いて調製される酸添加塩、あるいは酢酸、酪酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、吉草酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、けい皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクタ-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、三級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などの従来の化学的手段で作られる有機酸を用いて調製される酸添加塩、または(2)親化合物の酸部分が、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、若しくはアルミニウムイオンなどの金属イオンに置き換わることで形成される塩、または親化合物の酸部分が従来の化学的手段で作られるエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルグルカミンなどに配位することで形成される塩であってよい。
【0042】
当発明の構造と方法を説明するとともに当発明の効能を示すため、以下の図が開示される。
【0043】
図1はヒプシン化阻害剤の化学式を示す。図1aはGC7の化学構造を与え、図1bはGC7の塩形態、1-(7-アンモニオヘプチル)グアニジウムスルフェートの化学構造を与える。GC7はデオキシヒプシンシンターゼ(DHS)をターゲットとし、DHSの活性サイトと競争的に結合することでDHSを阻害する。この競争的結合により、eIF5Aにおける一つのリシンのヒプシンへの翻訳後変換の最初のステップが阻害される。
【0044】
本GC7の免疫複合体の具体的な態様を図2、3、4、5に示す。これらの図では、PSは光増感剤を表し、Mabは抗体を表すが、Mabは抗体やペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および抗原結合フラグメントからなる群から選ばれる任意の分子であってもよい。この説明においては、GC7は任意の薬物部分によって置換されてもよい。図2は一般的なGC7系ADC構成デザインの図を示す。この図示された態様のGC系ADCは近赤外蛍光標識されたGC7を含む。EGFR(上皮成長因子レセプタ)とCEA(癌胎児性抗原)はともにPDAC腫瘍において過剰発現するので、この蛍光標識はEGFRまたはCEAに対する抗体に対し、開裂可能な架橋剤によってまたは架橋剤を用いず、確立された異なる三つの共役化学を利用して結合される。図3はEDC(カルボジイミド架橋剤)を用いる反応を示し、この反応では最終生成物のADCには架橋剤が付加されない。図4は、ピリジルジスルフィド反応を利用して開裂可能なヘテロ官能性架橋剤SPDPによって抗体をGC7と複合化する他のアプローチを示す。図5は、マレイミド反応を利用して開裂可能なホモ官能性架橋剤DTMEによって抗体をGC7と複合化する第3のアプローチを示す。上述した各ケースにおいて、まずGC7系ADCを培養細胞中でインビトロで評価し、その後ATCCから購入したeIF5A陽性のFG、779E、Panc-1、およびBXPC-3膵臓癌細胞株を異種移植したマウスモデル、ならびにこれらに対応する安定なshRNAによって媒介されたeIF5Aが破壊された誘導体を用いてインビボで評価した。
【0045】
以下の例では、GC7系ADCの調製方法がさらに示される。
【0046】
以下は、図3に示すようなEDC/NHS共役化学を利用してGC7-mAb-DYLIGHT 550 NHS ADCを調製する例である。
【0047】
簡潔に述べると、カンファーキノン-10-スルホン酸修飾法または1,2-シクロヘキサジオン修飾法を変形した方式を利用してGC7の官能基(グアニジン基)を保護する。反応は窒素またはアルゴンガス下で24時間維持した。この保護/修飾は、チモール次亜臭素酸塩試薬分析を用いてスペクトル的に確認した。DYLIGHT 550 NHS蛍光分子は、DYLIGHT蛍光色素の標準的なTHERMOSCI複合プロトコルを用いてCEA抗体またはセツキシマブ抗体と複合化される。セツキシマブ抗体に関しては、平均DARは5.1と計算され、一方CEA抗体の平均DARは3.4であった。平均DARは、紫外分光法や質量分光法、ELISA分析、放射分析法、疎水相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電気誘導、HPLCなどの従来からある種々の手段を用いて決定することができる。GC7-mAB-DYLIGHT 550 NHS ADCを生成するため、EDC(カルボジイミド架橋剤)カップリング反応を用いて抗体のカルボキシル基(-COOH)をGC7の一級アミノ基(-NH2)と複合化/連結させ、生理的pHにおいて安定であり、リソソーム内での分解中に開裂可能なアミド(ペプチド)結合を形成する。このアプローチの利点は、EDC架橋剤は単に中間体として用いられるだけであるため、最終生成物に付加されないことである(ゼロ距離架橋剤)。さらに、複合化において抗体のN末端ではなくC末端を敢えて利用することで、抗体の結合サイト上に見出される一級アミンの使用を避けることができ、その結果、抗体の結合能を維持することができる。
【0048】
GC7の修飾は、pH7.0において0.5MヒドロキシルアミンバッファーでADCを処理することによって、あるいは、1,2-シクロヘキサジオン修飾法を用いるときにはホウ酸バッファーをpH7のリン酸ナトリウムバッファーにバッファー交換することによって反転される。その後、ADCはゲル排除クロマトグラフィーを用いて精製される。薬物負荷は質量分析法によって決定され、最終のADC中の抗体濃度はブラッドフォード分析によって決定される。
【0049】
以下は、図4に示すようなピリジルスルフィド共役化学を利用してGC7-mAb-SPDP-DYLIGHT 550 NHS ADCを調製する例である。
【0050】
簡潔に述べると、まず、GC7の官能基(グアニジン基)を図3のために記述されたプロトコルを用いて保護する。第二に、DYLIGHT蛍光色素の標準的なTHERMOSCI共役プロトコルを用いて抗体をDYLIGHT 550 NHS蛍光分子に複合化する。DAR(薬物対抗体比)は、上記プロトコルで記載した標準的計算方法によって決定された。複合化した薬物分子の抗体あたりの数を表すDAR(薬物対抗体比)または薬物負荷は、1から8であってよい。複数の抗体-薬物複合体のコンポジット、バッチ、および/または配合は、平均DARによって特定される。セツキシマブ抗体に関しては、平均DARは5.1と計算され、一方CEA抗体の平均DARは3.4であった。平均DARは、紫外分光法や質量分光法、ELISA分析、放射分析法、疎水相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電気誘導、HPLCなどの従来の種々の手段を用いて決定することができる。
【0051】
GC7-mAb-SPDP-DYLIGHT 550 NHS ADCを生成するため、ピリジルスフフィド反応を利用し、開裂可能な不溶性ヘテロ二官能性架橋剤であるSPDP(N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)架橋剤によって抗体からのスルフヒドリル基(-SH)とGC7からの一級アミノ基間で複合化を行う。複合化の前に、抗体のヒンジ領域にあるジスルフィド結合が還元されてフリーのスルフヒドリル基を与える。SPDPの一方の末端においてN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルからなる反応性部分がGC7の一級アミノ基と反応し、SPDPの他方の末端であるピリジニルジスルフィドは抗体のフリーのスルフヒドリル基と反応して可逆的なジスルフィド基を与える。得られるジスルフィド基は、腫瘍細胞に取り込まれる際に酸化剤である内因性グルタチオンによって開裂する。このアプローチでは、生体共役反応のためのヒンジ領域を利用することで抗体の抗原結合サイトが侵されずに残存する。
【0052】
第四に、GC7の修飾は、pH7.0において0.5MヒドロキシルアミンバッファーでADCを処理することによって、あるいは、1,2-シクロヘキサジオン修飾法を用いるときにはホウ酸バッファーをpH7のリン酸ナトリウムバッファーにバッファー交換することによって反転される。その後、ADCはゲル排除クロマトグラフィーを用いて精製される。第五に、薬物負荷は質量分析法によって決定され、最終のADC中の抗体濃度はブラッドフォード分析によって決定される。
【0053】
以下は、図5に示すようなマレイミド共役化学を利用してGC7-mAb-STME-DYLIGHT 550 NHS ADCを調製する例である。
【0054】
簡潔に述べると、GC7の官能基(グアニジン基)を例1で述べたように保護し、DYLIGHT 550 NHSを例1で述べたようにCEA抗体とセツキシマブ抗体に複合させる。セツキシマブ抗体に関しては、平均DARは5.1と計算され、一方CEA抗体の平均DARは3.4であった。平均DARは、紫外分光法や質量分光法、ELISA分析、放射分析法、疎水相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電気誘導、HPLCなどの従来の種々の手段を用いて決定することができる。
【0055】
GC7-mAb-STME-DYLIGHT 550 NHS ADCを生成するため、マレイミド反応を利用して抗体とGC7からのスルフヒドリル基(-SH)間で複合化を行う。複合化の前に、トラウト試薬(2-イミノチオラン)を用いるチオール化によってGC7の一級アミノ基をスルフヒドリル基へ変換し、抗体のヒンジ領域にあるジスルフィド結合を還元してフリーのスルフヒドリル基を生成する。両端にマレイミドを有するDTME(ジチオビスマレイミドエタン)架橋剤(ホモ二官能性架橋剤)は、一方の末端上で抗体のスルフヒドリル基と反応し、他方の末端上で薬物のスルフヒドリル基と反応してこれらを連結する。DTMEのジスルフィド結合は、腫瘍細胞に取り込まれる際に酸化剤である内因性グルタチオンによって開裂する。このアプローチでは、生体共役反応のためのヒンジ領域を利用することで抗体の抗原結合サイトが侵されずに残存する。
【0056】
GC7の修飾は、pH7.0において0.5MヒドロキシルアミンバッファーでADCを処理することによって、あるいは、1,2-シクロヘキサジオン修飾法を用いるときにはホウ酸バッファーをpH7のリン酸ナトリウムバッファーにバッファー交換することによって反転される。その後、ADCはゲル排除クロマトグラフィーを用いて精製される。第五に、薬物負荷は質量分析法によって決定され、最終のADC中の抗体濃度はブラッドフォード分析によって決定される。
【0057】
以下は、図6図7図8、および図9において細胞の生存と致死を示すために用いられる細胞生存分析の準備例である。
【0058】
PDAC細胞株であるBxPC-3、FG、Panc-1、および779Eはアメリカンタイプカルチャーコレクションから取得し、標準的なプロトコルに従って培養した。ウエスタンブロット分析では、全ての細胞株はeIF5Aに関して陽性である。細胞株BxPC-3(高)と779E(低)はCEAを発現し、一方、FGとPanc-1はCEAを発現しない。全ての細胞株はEGFRを発現する(BxPC-3とPanc-1(高)、FGと779E(中))。Panc-1細胞株はKRAS変異しており、セツキシマブ感受性を有し、ゲムシタビン(PDACの先導的な化学療法薬物)耐性を有する。FG細胞株は、インビボでセツキシマブ感受性を有し、インビトロでセツキシマブ耐性を有し、ゲムシタビン感受性を有する。現在のところFG細胞株については、KRASの表現型に関する情報がない。BxPC-3細胞株はKRAS野生型であり、セツキシマブ耐性、ゲムシタビン耐性である。現在のところ779E細胞株については、薬物耐性と薬物感受性に関する情報がない。779E細胞株はKRAS変異している。
【0059】
ゲルクロマトグラフィーで精製したのち、インビトロで細胞用培地にADCを投与し、GFPでラベルされた腫瘍細胞の蛍光シグナルの消失を測定することで、eIF5A陰性細胞と比較された、eIF5A陽性腫瘍細胞に対する薬物の細胞傷害効果が評価される。
【0060】
六つのADCの腫瘍細胞の成長に対する効果は、クリスタルバイオレット染色分析を用いて評価した。ウェルプレート内において、1日目に2000細胞の濃度で細胞を播種し、三日間成長させた。各ウェルに対し、図6a、図7a、図8a、および図9aに挙げられる対応する処理を施した。
【0061】
図6b、図7b、図8b、および図9bは、種々のコントロール実験、および種々の細胞株における薬物処理についてのクリスタルバイオレット染色形式の生データを示し、生データを図6c、図7c、図8c、および図9cにグラフ形式で表す。処理グループは各ウェルプレートに対応する。「薬剤無し」はマイクロモラー(例えば、GC7 25は25μMのGC7)を表す。以下は分析に用いた試薬である。Dylight 550 NHS:蛍光色素、CET:セツキシマブ、CEA:癌胎児性抗原。SPDP、DTME、およびEDCは、薬物GC7を抗体-色素複合体に付着するために用いられる三つの架橋剤である。最終的な複合体は、抗体、色素、架橋剤、およびGC7を含む。全体として、ADCは野生型細胞株と耐薬物性細胞株に対して似たような細胞毒性を示した。STMEを有するADC複合体は最低の細胞傷害効果を有し、これに対してSPDPまたはEDCを有するADC複合体は最大の細胞傷害効果を有していた。
【0062】
以下は、図10に示される、皮下マウスモデル内でのADCの細胞傷害効果のインビボ分析のプロトコルの例と結果である。
【0063】
ゲルクロマトグラフィーで精製したのち、インビボ造影システムであるIVISスペクトルを用い、マウスに対して尾静脈注射を介してインビボでADCを投与し、GFPでラベルされた腫瘍細胞の蛍光シグナルの消失を測定することで、eIF5A陰性細胞と比較された、eIF5A陽性腫瘍細胞に対する薬物の細胞傷害効果を評価した。図10のグラフに示すように、GC7単体の時の0.4%に対し、GC7-セツキシマブ-EDC-DYLIGHT 550 NHSでは12日後に-3.7%の腫瘍成長阻害が見られ、GC7-セツキシマブ-SPDP-DYLIGHT 550 NHSでは84.4%の腫瘍成長阻害が見られた。
【0064】
ADCの癌細胞に対する特異的な結合効率は、ADS DYLIGHT 500 NHS色素からの赤色蛍光と緑色蛍光タンパク質(GFP)が遺伝子導入された腫瘍細胞の緑色蛍光の共局在を確認することで判断した。コントロールとして共局在が存在しないことは、前もって対応する抗体で処理して抗原結合サイトをブロックした細胞株を用いて確認された。
【0065】
当発明の生成物の形状は、様々な投薬形状で可能である。投薬形態は、被験者に対する粘膜(例えば鼻、舌下、膣、口腔、直腸)投与、非経口(例えば皮下、静脈、筋肉、または動脈注射であり、ボーラス投与でも点滴投与でもよい)投与、経口投与、あるいは経皮投与のために調整される。投与形状の例には、分散液;座薬;軟膏;湿布(湿布薬);ペースト;粉末;包帯;クリーム;絆創膏;溶液;膏薬;エアロゾル(例えば、点鼻薬または吸入薬);ゲル;分散液(例えば、水分散液または非水分散液、水中油型エマルジョン、または油中水型液体エマルジョン)、溶液、エリキシール剤を含む、被験者への経口または粘膜投与に適した液体投与形状;被験者への非経口投与に適した液体投与形状;および水を加えることで被験者への非経口投与に適した液体投与形状を与える無菌固体(例えば、結晶固体またはアモルファス固体)が含まれるが、これらに限られない。
【0066】
注入可能な(例えば静脈注射)組成物は、水キャリアなどの許容できるキャリア中に分散した抗体または抗体をターゲットとする組成物を含むことができる。例えば、水、バッファー水、0.4%生理食塩水、0.9%等浸透圧生理食塩水、0.3%グリシン、5%デキストロースなどの種々の水キャリアを用いることができ、水キャリアは、安定性を増大させるため、アルブミンやリポプロテイン、グロブリンなどの糖タンパクを含んでもよい。通常のバッファー生理食塩水(135から150mM NaCl)が頻繁に用いられるであろう。組成物は、生理的条件に近づけるための薬理学的に許容される予備的な物質、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレートなどのpH調整緩衝剤、等張化剤、湿潤剤を含んでもよい。
【0067】
当発明の種々の実施形態の製剤は、薬学的に許容されるキャリアと協働する活性成分を含むので、他の治療成分を任意に含む。キャリアは、製剤の他の成分と適合するという意味において許容されなければならず、有害であってはならない。
【0068】
例えば関節内(関節の中)経路、静脈経路、筋肉内経路、腫瘍内経路、皮内経路、腹腔内経路、および皮下経路による非経口投与に適した製剤は、酸化防止剤、バッファー、静菌剤、および被投薬者の血液と等張にさせる溶質を含み得る水性または非水性の無菌等張注入溶液、ならびに分散剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および保存料を含み得る水性または非水性の無菌分散液を含む。注入溶液と分散液は、無菌の粉末、顆粒、および錠剤からも調製することができる。本発明の実施においては、組成物は、例えば静脈点滴により、あるいは局所的に、腹腔内に、膀胱内に、くも膜下に投与することができる。
【0069】
目的とする組成物の製剤は、アンプルやバイアルなどの単位投与または複数回投与の封止容器で提供することができる。
【0070】
製剤は単位投与の形状で便利に提供することができ、薬学分野で知られている任意の方法で調製することができる。全ての方法は、一つまたは複数の副次的成分を構成するキャリアと混合するステップを含む。一般的には、製剤は、液体のキャリアまたは細かく分割された固体のキャリア、もしくは両者に活性成分を均一によく混合し、必要に応じて生成物を要望される製剤に成形する。
【0071】
GC7複合体はまた、例えば化学療法のための若しくは細胞傷害性製剤、サイトカイン、または成長阻害剤などの活性化合物を複数与えるように調合してもよい。活性成分は徐放性製剤(例えば、固体の疎水性ポリマー(例えば、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)またはポリビニルアルコール)、またはポリラクチド)の半透過性マトリクス)として調製されてもよい。複合体は、例えばヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルやポリメチルメタクリラートマイクロカプセルといった、それぞれコアセルベーション技術と界面重合によって作製されるマイクロカプセルに、コロイドドラッグデリバリーシステム(例えば、リポソームやアルブミンのマイクロスフィアやマイクロエマルジョン、ナノパーティクル、ナノカプセル)に、あるいはマイクロエマルジョンに取り込むことができる。
【0072】
本開示の薬理学活性化合物は、経腸または非経口での応用に適した添加剤やキャリアと結合または混合されることで、効果的な量の薬理学活性化合物を含む薬学的組成物の製造に有効である。好ましいのは、活性成分、および以下の一つまたは複数を含むタブレットとゼラチンカプセルである:(a)ラクトースやデキストロース、シクロース、マルミトール、ゾルビトール、セルロース、グリシンなどの希釈剤;(b)シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムまたはカルシウム塩、ポリエチレングリコールなどの潤滑剤;タブレットの場合にはまた、(c)マグネシウムアルミニウムシリケート、スターチペースト、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、あるいは30ポリビニルピロリドンなどバインダー;要望されるのであれば、(d)発泡性混合物などの崩壊剤;および(e)吸収剤、着色剤、香料、甘味料など。
【0073】
当発明の実施形態は、薬学的に許容されるキャリアによって製剤化されてもよい。この薬学的組成物は、殺菌される、および/または保存剤、安定剤、潤滑または乳化剤、溶液促進剤、浸透圧を調整するための塩、バッファーなどの補助剤を含んでもよい。この組成物は、それぞれ従来の混合、粒化、またはコーティング法によって調製することができ、所定量の活性成分を含むことができる。
図1
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