(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】耐火物品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/632 20060101AFI20240201BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240201BHJP
B28B 1/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C04B35/632
C04B38/00 304Z
B28B1/00 B
(21)【出願番号】P 2020566985
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 CA2019051900
(87)【国際公開番号】W WO2021026629
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-11-24
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520317321
【氏名又は名称】パイロテック ハイ テンパッチャー インダストリアル プロダクツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(74)【代理人】
【識別番号】100201938
【氏名又は名称】杉山 静可
(72)【発明者】
【氏名】グーアン,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイエット,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】シマール,アラン
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102011005914(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0255290(US,A1)
【文献】特表2017-505861(JP,A)
【文献】特表2005-529831(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0236981(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106866150(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,38/00-38/10
B28B 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物品を製造する方法であって、
a)
炭水化物をカラメル化して得られるカラメル化炭水化物成分と、第1のコロイド状結合剤と、アジュバントとを含む結合剤系と、耐火装入物と、第2のコロイド状結合剤とを混合して水性スラリーを形成し、
b)
0℃より高いスラリー成型温度の前記水性スラリーを型に流し込み、
c)前記水性スラリーを含む前記型を、グリーン強度物品を形成するのに十分な時間、前記スラリー成型温度未満の温度に曝し、
d)前記グリーン強度物品を、熱均質性を得るのに十分な時間、少なくとも450℃の温度で焼成し、これにより、耐火物品を形成し、
前記カラメル化炭水化物成分は単糖、二糖、三糖、およびオリゴ糖のうちの少なくとも1つに由来し、
前記耐火物品は、球状気孔構造および気孔の等方的な分布を有する
製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、さらに、
補強材料を前記型内または前記型上に配置する
製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法であって、
前記水性スラリーを含む前記型を-195℃から0℃の温度に曝す
製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の製造方法であって、
前記水性スラリーを含む前記型を-100℃から-30℃の温度に曝す
製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法であって、さらに、
前記グリーン強度物品を離型する
製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記グリーン強度物品を前記焼成工程の前に乾燥する工程を含まない
製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法であって、さらに、
前記結合剤系を形成し、
前記結合剤系を形成することは、
水と
前記炭水化物とを含む混合物を調製し、
前記炭水化物をカラメル化して
前記カラメル化炭水化物成分を形成するのに有効な時間、前記混合物をカラメル化温度に加熱し、
前記カラメル化炭水化物成分を
前記第1のコロイド状結合剤および
前記アジュバントと混合して前記結合剤系を形成する
ことを含む
製造方法。
【請求項8】
請求項
1から6のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記カラメル化炭水化物成分は、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、およびラクトースのうちの少なくとも1つに由来する
製造方法。
【請求項9】
請求項7または
8に記載の製造方法であって、
前記第1のコロイド状結合剤は、コロイド状シリカ、コロイド状アルミナ、コロイド状ジルコニア、コロイド状イットリア、有機変性コロイド状シリカ、有機変性コロイド状アルミナ、有機変性コロイド状ジルコニア、および有機変性コロイド状イットリアのうちの少なくとも1つを含む
製造方法。
【請求項10】
請求項7から
9のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記アジュバントは、酸、無機湿潤剤、および酸性リン酸接着剤のうちの少なくとも1つを含み、
前記アジュバントが酸を含む場合、前記酸は、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、およびシュウ酸のうちの少なくとも1つを含み、
前記アジュバントが無機湿潤剤を含む場合、前記無機湿潤剤は、硫酸アンモニウムアルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、および硫酸カルシウムのうちの少なくとも1つを含み、
前記アジュバントが酸性リン酸接着剤を含む場合、前記酸性リン酸接着剤は、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、およびリン酸アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む、
製造方法。
【請求項11】
請求項7から
10のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記カラメル化炭水化物成分は前記結合剤系の5重量%から70重量%を含み、前記アジュバントは前記結合剤系の0.25重量%から10重量%を含み、前記第1のコロイド状結合剤は前記結合剤系の25重量%から90重量%を含む
製造方法。
【請求項12】
請求項1から
11のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記耐火装入物は、ケイ酸塩、金属酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、
BaSO
4
、フッ化物、アルミナイド、合成ガラス、ガラス繊維、耐火セラミック繊維、非耐火セラミック繊維、グラファイト、骨灰、チタン酸アルミニウム、およびアルミン酸カルシウムのうちの少なくとも1つを含む
製造方法。
【請求項13】
請求項1から
12のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記第2のコロイド状結合剤は、コロイド状シリカ、コロイド状アルミナ、コロイド状ジルコニア、コロイド状イットリア、有機変性コロイド状シリカ、有機変性コロイド状アルミナ、有機変性コロイド状ジルコニア、および有機変性コロイド状イットリアのうちの少なくとも1つを含む
製造方法。
【請求項14】
請求項1から
13のいずれか1項に記載の製造方法であって、さらに、
前記焼成工程の後に前記耐火物品を冷却する
製造方法。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記結合剤系は前記水性スラリーの2重量%から10重量%を含み、前記耐火装入物は前記水性スラリーの40重量%から75重量%を含み、前記第2のコロイド状結合剤は前記水性スラリーの20重量%から50重量%を含む
製造方法。
【請求項16】
請求項1から
15のいずれか1項に記載の製造方法あって、
前記耐火物品は、かさ密度が1g/cm
3から2.2g/cm
3であり、見かけの気孔率35%から65%であり、かさ密度に対する冷間破砕強度の比率が4MPa/g/cm
3から25MPa/g/cm
3であること特徴とする
製造方法。
【請求項17】
請求項1から
15のいずれか1項に記載の製造方
法であって、
前記耐火物品は、かさ密度が1g/cm
3から2.2g/cm
3であり、見かけの気孔率が35%から65%であり、かさ密度に対する冷間破壊係数の比率が0.6MPa/g/cm
3から2.5MPa/g/cm
3であることを特徴とする
製造方法。
【請求項18】
請求項1から
15のいずれか1項に記載の製造方
法であって、
前記耐火物品は、かさ密度が1g/cm
3から2.2g/cm
3であり、見かけの気孔率が35%から65%であ
ることを特徴とする
製造方法。
【請求項19】
請求項1から
15のいずれか1項に記載の製造方
法であって、
前記耐火物品は、耐火繊維材料で強化され、1g/cm
3から2.5g/cm
3のかさ密度と、6MPa/g/cm
3から15MPa/g/cm
3のかさ密度に対する冷間破壊係数の比率とを有する
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2019年8月14日に出願された米国仮特許出願第62/886707号の利益を主張するものであり、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、耐火物品を製造する方法に関する。より詳細には、本開示は、水性スラリーからグリーン強度物品を形成することを含む耐火物品を製造する方法に関する。本開示の方法に従って製造された耐火物品は、気孔構造と機械的特性との特有の組み合わせを有する。
【背景技術】
【0003】
高温、浸食性、または腐食性環境等の過酷な環境に置かれることが意図される物品は、耐火材料で製造されることが多い。このような耐火物品は、センシング、溶融、輸送、成型等を行うために、様々なプロセスにおいて高温の気体、液体、または固体から保護するために使用することができる。耐火物品は、ほんの数例を挙げると、金属、ガラス、石油化学、およびセメント産業に不可欠である。耐火物品は比較的低い気孔率(例えば、<35%)または比較的高い気孔率(例えば、≧35%)で製造することができ、これは典型的には見かけの気孔率として報告される。見かけの気孔率は、耐火物品の表面に接続された気孔(または開放気孔)を指す。
【0004】
耐火物設計では、一般に強度と気孔率の間にトレードオフが存在する。一般に、気孔率の高い耐火物品は(大量の空気を封入していることにより)絶縁性に優れ、かさ密度が低いが、気孔率の低い物品よりも耐食性および強度が低い。気孔率は、物品の重量を減少させること、浮力を改善すること、システム全体にわたるエネルギー損失を最小限にすること、流体または気体の流路を可能にすること、および亀裂伝播を遅くすること、それにより物品が故障するまでの時間を長くすること等、様々な理由で望ましい場合がある。
【0005】
しかしながら、気孔率の利点には、主に、気孔構造、すなわち、物品中の気孔のサイズ、形状、および分布に対するある程度の制御が想定される。従来の低コストの焼結技術は、精密なレベルで気孔率を制御する能力を欠いており、同様に製造された物品間の材料特性の変動や同じ物品内の材料特性の変動が問題となることが多い。焼成物品の気孔構造を制御する際の主要な課題の1つは、液体から水を均一に抽出することである。水が不均一に抽出されると、物品が全体にわたって様々に収縮し、これは、物品において大きな気孔または空隙が集中的に形成されること、幾何学的な反り、および内部応力または亀裂等のいくつかの望ましくない結果をもたらし得る。収縮の変動を最小限に抑えるために当業者が採用する多くの方法があるが、より高い製造安定性を得るために、ほとんどの方法では、厳密に制御された処理パラメータ(例えば、特定のミキサー、精密な型、制御された環境チャンバー等)、長い乾燥時間、または物品もしくはスラリー組成物の設計に対する設定制限が必要となる。
【0006】
形成中における水の除去を制御するための1つの興味深い方法は、水性凍結成型法の使用によるものである。この方法は、水が凍結して特定の気孔率を有する多孔質セラミックを生成するときに形成された氷結晶の構造を型にすることを含む。この方法は有望であるが、いくつかの制限もある。主要な制限の1つは、この方法を用いて形成された物品が、一般に、気孔の長軸が気孔の短軸よりも著しく長い層状気孔を有することである。理論的には、この層状構造により、強度が一方向にのみ必要とされる場合、強度と密度との間のトレードオフを改善することができる。しかしながら、実際には、製造設定におけるスループットの要求と同様に複雑な形状を有する場合には、気孔と一軸荷重方向との位置合わせをすることは困難である。これは、製造(形成中の亀裂)および使用の両方において課題を再び提示する。層状気孔構造を有する耐火物品は脆く、意図した通りに正確に装填されなければ亀裂を生じやすい。さらに、実世界のほとんどの用途では、耐火物品は複数の方向に装填される。
【0007】
したがって、上述の問題に対処する耐火物品を製造する方法が、当技術分野において依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、耐火物品を製造する方法に関する。本発明の概念の様々な態様を例示するために、当該方法のいくつかの例示的な実施形態が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によれば、耐火物品を製造する方法が提供される。当該方法は、a)結合剤系と、耐火装入物と、第2のコロイド状結合剤とを混合して水性スラリーを形成し、b)スラリー成型温度の上記水性スラリーを型に流し込み、c)上記水性スラリーを含む上記型を、グリーン強度物品を形成するのに十分な時間、上記スラリー成型温度未満の温度に曝し、d)上記グリーン強度物品を、熱均質性を得るのに十分な時間、少なくとも450℃の温度で焼成し、これにより、耐火物品を形成することを含む。
【0010】
本発明の概念の他の態様、利点、および特徴は、以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の例示的な方法(スケールバーは1mm)に従って製造された耐火物品の約100倍の倍率での光学デジタル顕微鏡画像である。
【
図2】従来の凍結成型法(スケールバーは1mm)に従って製造された耐火物品の約100倍の倍率での光学デジタル顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に開示されるのは、耐火物品を製造する方法および当該方法により製造された耐火物品である。本開示は当該方法および耐火物品の例示的な実施形態を詳細に説明するが、本開示は開示された実施形態に限定されることを意図しない。また、本明細書に開示される例示的な実施形態の特定の要素は任意の例示的な実施形態に限定されず、その代わりに、本開示のすべての実施形態に適用される。
【0013】
本明細書で使用される用語は実施形態の説明のみを目的としており、本開示を全体として限定するものとして解釈されるべきではない。本開示の単一の特性または制限への参照はすべて、対応する複数の特性または制限を含むものとし、また、その逆もまた同様である。ただし、別段の指定があるか、または参照がなされる文脈により反対に明確に示唆されている場合はこの限りでない。別段の指定がない限り、「a」、「an」、「the」、および「少なくとも1つ(at least one)」は互換的に使用される。さらに、明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈によりそうでないことが明確に示されていない限り、それらの複数形を含む。
【0014】
「(含む)includes」または「(含んでいる)including」という用語は、明細書または特許請求の範囲において使用される限り、「具備する(comprising)」が請求項中の移行句として用いられるときに解釈される「具備する(comprising)」と同様に包括的であることが意図される。さらに、「または」という用語が使用されている範囲においては(例えば、AまたはB)、「AまたはB、またはその両方」を意味することが意図される。出願人が「AまたはBのみであって、両方ではない」ことを示す意図がある場合には、「AまたはBのみであって、両方ではない」という用語を使用する。したがって、本明細書における「または」という用語の使用は、包括的であって、排他的な使用ではない。さらに、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」という用語は、「Aのみ、Bのみ、Cのみ、またはその組み合わせ」と解釈されるべきである。
【0015】
本開示の耐火物品を製造する方法および当該方法により製造された耐火物品は、本明細書に記載される本開示の必須要素、および本明細書に記載されるか、そうでなければ耐火用途に有用な追加もしくは任意の要素を含み、それらからなり、または本質的にそれからなることができる。
【0016】
本明細書で使用されるすべての百分率、部、および比率は、特に明記しない限り、全組成物の重量による。本明細書に開示される、百分率、部、および比率を含むがこれらに限定されないすべての範囲およびパラメータは、それに包含される任意のすべての想定されるサブ範囲、およびエンドポイント間のすべての数を包含すると理解される。例えば、「1から10」と記載された範囲は1以上の最小値で始まり10以下の最大値で終わる(例えば、1から6.1、または2.3から9.4)任意のすべてのサブ範囲、およびその範囲内に含まれる各整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10)を含むと考えられるべきである。
【0017】
本明細書で使用される方法またはプロセス工程の任意の組み合わせは、特に指定されない限り、または参照された組み合わせがなされる文脈によって反対に明確に示唆されない限り、任意の順序で実行されてもよい。
【0018】
本明細書で使用される「グリーン強度物品」という用語は、物品を取り扱うことができるように、かつ/または操作することができるように十分に固化された水性スラリーから形成される物品を指す。
【0019】
「気孔の等方的な分布」または「等方的な気孔分布」という用語は、本明細書では耐火物品全体にわたって実質的に均一な形状、サイズ、および間隔を有する耐火物品中の気孔を指すために互換的に使用される。本明細書で使用される場合、「実質的に均一」という用語は、特定の値がそれぞれの平均値の25%以内であることを意味する。例えば、実質的に均一な気孔サイズは、個々の気孔のサイズが耐火物品中の平均気孔サイズの25%以内であることを意味する。
【0020】
本開示に係る耐火物品を製造する方法は、a)結合剤系と、耐火装入物と、第2のコロイド状結合剤とを混合して水性スラリーを形成し、b)スラリー成型温度の上記水性スラリーを型に流し込み、c)上記水性スラリーを含む上記型を、グリーン強度物品を形成するのに十分な時間、上記スラリー成型温度未満の温度に曝し、d)上記生強度物品を、熱均質性を得るのに十分な時間、少なくとも450℃の温度で焼成し、これにより、耐火物品を形成することを含む。本開示の製造方法は、気孔構造と機械的特性との特有の組み合わせを有する耐火物品を製造する。
【0021】
上述したように、耐火物品における気孔率の利点には、主に、気孔サイズ、気孔形状、および気孔分布等の気孔構造に対するある程度の制御が想定される。見かけの気孔率が同じである2つの耐火物品を比較すると、より小さく、より均一に分布した気孔を有する耐火物品は、一般に、気孔率が制御されていない耐火物品よりも3次元にわたってより断熱性が高い。さらに、耐火物品の実世界での大部分の用途は、複数の方向に装填することを含み、これには、強度のより高い均質性(例えば、単一の(一軸)方向とは対照的に複数の方向での強度)が必要とされる。本開示の方法は、耐火物品において生成される気孔のより等方的な分布により、強度のより高い均質性、および改善された強度対重量比(または強度対密度比)を有する耐火物品を提供する。
【0022】
本開示の方法は驚くべき結果をもたらし、従来可能であったものよりも軽く、より強く、より断熱性が高く、より費用効率の高い各種耐火材料を用いて耐火物品を形成することを可能にした。それは、特性と、内部構造の最適化における前進を意味する所与の耐火材料の強度と密度(または気孔率)との間の関係の改善と、拡張された範囲の特定の設計基準を満たすための強化された能力との組合せである。
【0023】
さらに、本開示の方法は、大幅な処理コストおよび時間の節約を提供することができる。例えば、本開示の方法は、従来の方法に伴う同一の反り現象を生じない、寸法収縮性が低い耐火物品、またはネットシェイプ物品を提供する。これは、グリーン強度物品の優れた熱衝撃特性として実現される、内部形成応力の低減と相関する。以下の実施形態では、それぞれのグリーン強度物品をフリーザー(例えば、-80℃)から直接取り出し、中間工程なしで炉(例えば、700℃)に入れる。これだけでも注目すべき業績であり、製造フロアにおいて、時間、コスト、およびスペースの大幅な節約となる可能性がもたらされる。ネットシェイプは厳しい公差が要求される場合に、さらに有益である。さらに、耐火物品のネットシェイプは、特定の幾何学的形状を得るために必要とされる労力または機械時間を制限する。
【0024】
本開示の方法は、結合剤系と、耐火装入物と、第2のコロイド状結合剤とを混合して水性スラリーを形成することを含む。本開示の諸実施形態では、上記結合剤系は、カラメル化炭水化物成分、アジュバント、および第1のコロイド状結合剤を含む。本開示の諸実施形態では、上記結合剤系は水性液体である。本明細書に記載の混合工程のいずれも、高剪断ミキサー等の従来の混合装置を使用して実施することができる。
【0025】
諸実施形態では、本開示の方法は、上記結合剤系を形成することをさらに含む。本開示の諸実施形態では、上記結合剤系がカラメル化炭水化物成分を調製し、上記カラメル化炭水化物成分をアジュバントおよび第1のコロイド状結合剤と混合することにより形成されてもよい。
【0026】
本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、水と炭水化物とを含む混合物のカラメル化によって得られる。特定の実施形態では、上記カラメル化は、5分から30分、5分から20分、および5分から10分を含む少なくとも5分の時間等の、上記炭水化物をカラメル化するのに有効な時間、水と炭水化物とを含む上記混合物を50℃から120℃、60℃から120℃、70℃から120℃、80℃から120℃、90℃から115℃、100℃から110℃、および100℃から105℃を含む20℃から125℃の温度等の、カラメル化温度に加熱することにより実施される。当業者は、使用する上記炭水化物に基づいて、適切なカラメル化温度およびカラメル化時間を容易に決定することができる。カラメル化処理はあまり理解されていないままであるが、上記炭水化物の加熱により、とりわけ、カラメラン、カラメレン、およびカラメリン等のカラメル製品が形成される。
【0027】
上記カラメル化炭水化物成分は、カラメル化した種々の炭水化物に由来していてもよい。本開示によれば、カラメル化炭水化物成分は、単糖、二糖、三糖、およびオリゴ糖のうちの少なくとも1つに由来する。例示的な単糖としては、グルコース、フルクトース、およびガラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な二糖としては、スクロース、ラクトース、およびマルトースが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な三糖としては、マルトトリオースおよびラフィノースが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なオリゴ糖としては、マルトデキストリン、フラクトオリゴ糖、およびガラクトオリゴ糖が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、およびラクトースのうちの少なくとも1つに由来する。本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、スクロースに由来する。
【0028】
他の実施形態では、事前にカラメル化されたカラメル化炭水化物(例えば、市販のカラメル化炭水化物)を水と混合して、上記カラメル化炭水化物成分を形成してもよい。そのような実施形態では、上記事前にカラメル化されたカラメル化炭水化物と水との混合物は、上記カラメル化炭水化物成分を得るために処理される(例えば、カラメル化温度に加熱される)必要がない。さらに、そのような実施形態では、得られたカラメル化炭水化物成分を、第1のコロイド結合剤およびアジュバントと混合して、上記結合剤系を形成してもよい。
【0029】
本開示によれば、上記結合剤系は、アジュバントを含む。諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分を形成するために加熱される水と炭水化物との上記混合物にアジュバントを添加してもよい。したがって、このような実施形態では、上記アジュバントは、上記カラメル化炭水化物成分の成分である。諸実施形態では、事前にカラメル化されたカラメル化炭水化物と水とを混合することによって得られるカラメル化炭水化物成分にアジュバントを添加してもよい。上記アジュバントは、酸、無機湿潤剤、および酸性リン酸接着剤のうちの1つ以上であってもよい。例示的な酸としては、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、およびシュウ酸が挙げられるが、これらに限定されない。上記酸は、典型的に必要とされる温度よりも低い温度で上記炭水化物のカラメル化を促進するために有用であり得る。例示的な無機湿潤剤としては、硫酸アンモニウムアルミニウム、硫酸マグネシウム、および硫酸アルミニウムが挙げられるが、これらに限定されない。上記無機湿潤剤は、上記カラメル製品用の水性媒体における湿潤剤として作用して、上記耐火装入物を湿らせてもよい。例示的な酸性リン酸接着剤としては、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、およびリン酸アルミニウム、それらの一塩基性、二塩基性、および三塩基性のもの、ならびに、それらの種々の水和物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、およびシュウ酸のうちの少なくとも1つを含む酸、硫酸アンモニウムアルミニウム、硫酸マグネシウム、および硫酸アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む無機湿潤剤、ならびにリン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、およびリン酸アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む酸性リン酸接着剤のうちの少なくとも1つを含む。特定の実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、75重量%のH3PO4と25重量%の水との混合物から得られてもよいリン酸と、AlNH4(SO4)2・12H2Oを含んでもよい硫酸アンモニウムアルミニウムと、その無水物または一水和物を含んでもよいリン酸一水素カルシウムとを含む。諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、1つ以上の酸を含み、任意に無機湿潤剤および/または酸性リン酸接着剤を含む。
【0031】
諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、25重量%から75重量%の炭水化物と、25重量%から70重量%の水と、0.01重量%から25重量%の酸と、0重量%から5重量%の無機湿潤剤と、0重量%から2重量%の酸性リン酸接着剤とを含む混合物のカラメル化により形成される。
【0032】
本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、40重量%から60重量%の炭水化物と、40重量%から60重量%の水と、1重量%から25重量%の酸と、0重量%から1重量%の無機湿潤剤と、0重量%から1.5重量%の酸性リン酸接着剤とを含む混合物のカラメル化により形成される。
【0033】
本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、40重量%から50重量%の炭水化物と、25重量%から40重量%の水と、15重量%から25重量%の酸と、0.25重量%から0.75重量%の無機湿潤剤と、1重量%から1.5重量%の酸性リン酸接着剤とを含む混合物のカラメル化により形成される。
【0034】
本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、45重量%から55重量%の炭水化物と、30重量%から40重量%の水と、0.5重量%から1.5重量%の酸と、0.5重量%から0.75重量%の無機湿潤剤と、1重量%から1.5重量%の酸性リン酸塩接着剤とを含む混合物のカラメル化により形成される。
【0035】
本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、65重量%から75重量%の炭水化物と、25重量%から30重量%の水と、1.25重量%から1.75重量%の酸とを含む混合物のカラメル化により形成される。
【0036】
上述の実施形態のうちの特定の実施形態では、上記炭水化物はスクロースを含み、上記酸は75重量%のH3PO4と25重量%の水との混合物から得られてもよいリン酸を含み、上記無機湿潤剤はAlNH4(SO4)2・12H2Oを含んでもよい硫酸アンモニウムアルミニウムを含み、上記酸性リン酸接着剤はその無水物または一水和物を含んでもよいリン酸一水素カルシウムを含む。上述の実施形態のうちの特定の実施形態では、上記酸は、リン酸およびホウ酸を含む。
【0037】
本開示の諸実施形態では、上記アジュバントは、上記カラメル化炭水化物成分が形成された後に、上記カラメル化炭水化物成分に添加される。
【0038】
上記カラメル化炭水化物成分および上記アジュバントに加えて、本開示の結合剤系は、第1のコロイド状結合剤も含む。本開示によれば、上記第1のコロイド状結合剤は、コロイド状シリカ、コロイド状アルミナ、コロイド状ジルコニア、コロイド状イットリア、およびそれらの有機変性されたもののうちの少なくとも1つを含む。有機変性されたコロイド状結合剤の一例は、ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー-コネチカット(W.R. Grace & Co.-Conn.)(メリーランド州コロンビア)から市販されているルドックス(Ludox)(登録商標)SKコロイド状シリカである。一般的に、上記第1のコロイド結合剤は、水溶液中に分散されたサブミクロンサイズの無機粒子(例えば、SiO2、Al2O3、ZrO2)を含む懸濁液である。本開示の諸実施形態では、上記結合剤系を形成するために使用される上記第1のコロイド状結合剤は、コロイド状シリカを含む。
【0039】
本開示の結合剤系に使用するのに適した第1のコロイド状結合剤の一例は、ナルコ社(Nalco Company)(イリノイ州ネイパービル)から市販されているナルコ(NALCO)1144コロイド状シリカである。当該ナルコ(NALCO)1144コロイド状シリカの懸濁液は、以下の特性を有する。SiO2として40重量%のコロイド状シリカ、25℃でpH9.9、14nmの平均粒径、比重1.30、粘性15cP、および0.45重量%のNa2O。
【0040】
上述のように、本開示の結合剤系は、上記カラメル化炭水化物成分と、上記アジュバントと、上記第1のコロイド状結合剤との混合物を含む。本開示の諸実施形態では、(上記カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)0.01重量%から25重量%のアジュバントを含んでもよい上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の5重量%から95重量%を含み、上記第1のコロイド状結合剤は、上記結合剤系の5重量%から95重量%を含む。本開示の諸実施形態では、(上記カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)0.01重量%から25重量%のアジュバントを含んでもよい上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の10重量%から90重量%を含み、上記第1のコロイド状結合剤は、上記結合剤系の10重量%から90重量%を含む。本開示の諸実施形態では、(上記カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)0.01重量%から25重量%のアジュバントを含んでもよい上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の15重量%から85重量%を含み、上記第1のコロイド状結合剤は、上記結合剤系の15重量%から85重量%を含む。本開示の諸実施形態では、(上記カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)0.01重量%から25重量%のアジュバントを含んでもよい上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の25重量%から75重量%を含み、上記第1のコロイド状結合剤は、上記結合剤系の25重量%から75重量%を含む。本開示の諸実施形態では、(上記カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)0.01重量%から25重量%のアジュバントを含んでもよい上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の40重量%から70重量%を含み、上記第1のコロイド状結合剤は、上記結合剤系の30重量%から60重量%を含む。本開示の諸実施形態では、(上記カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)0.01重量%から25重量%のアジュバントを含んでもよい上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の55重量%から75重量%を含み、上記第1のコロイド状結合剤は、上記結合剤系の25重量%から45重量%を含む。本開示の諸実施形態では、(上記カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)0.01重量%から25重量%のアジュバントを含んでもよい上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の60重量%から70重量%を含み、上記第1のコロイド状結合剤は、上記結合剤系の30重量%から40重量%を含む。上述のカラメル化炭水化物成分、アジュバント、および第1のコロイド状結合剤のいずれも、上述の実施形態における上記結合剤系において使用してもよい。
【0041】
本開示の諸実施形態では、上記カラメル化炭水化物成分は、上記結合剤系の40重量%から70重量%を含み、50重量%から60重量%のスクロース等の炭水化物と、35重量%から45重量%の水と、0.75重量%から1.5重量%のリン酸等の酸と、0.25重量%から0.75重量の硫酸アンモニウムアルミニウム等の無機湿潤剤と、1重量%から1.5重量%のリン酸一水素カルシウム等の酸性リン酸接着剤とを含む混合物のカラメル化により形成され、上記第1のコロイド状結合剤は上記結合剤系の30重量%から60重量%を含み、かつ、コロイド状シリカを含む。
【0042】
本開示の諸実施形態では、上記結合剤系は、上記結合剤系の総重量に基づいて、5重量%から70重量%のカラメル化炭水化物成分と、0.25重量%から10重量%のアジュバントと、25重量%から90重量%の第1のコロイド状結合剤とを含む。本開示の諸実施形態では、上記結合剤系は、上記結合剤系の総重量に基づいて、5重量%から45重量%のカラメル化炭水化物成分と、0.25重量%から3重量%のアジュバントと、50重量%から90重量%の第1のコロイド状結合剤とを含む。本開示の諸実施形態では、上記結合剤系は、上記結合剤系の総重量に基づいて、55重量%から70重量%のカラメル化炭水化物成分と、2重量%から10重量%のアジュバントと、25重量%から40重量%の第1のコロイド状結合剤とを含む。
【0043】
上述のように、本開示の水性スラリーは、上記結合剤系を耐火装入物および第2のコロイド状結合剤と一緒に混合することにより形成される。本開示の諸実施形態では、上記水性スラリーを形成するために使用される上記第2のコロイド状結合剤は、コロイド状シリカ、コロイド状アルミナ、コロイド状ジルコニア、コロイド状イットリア、およびそれらの有機変性されたものうちの少なくとも1つを含む。本開示の諸実施形態では、上記第2のコロイド状結合剤は、上記結合剤系を形成するために使用される上記第1のコロイド状結合剤と同じ材料である。本開示の諸実施形態では、上記第2のコロイド状結合剤は、上記結合剤系を形成するために使用される上記第1のコロイド状結合剤とは異なる材料である。本開示の諸実施形態では、上記第2のコロイド状結合剤と、上記結合剤系を形成するために使用される第1のコロイド状結合剤とは、ともにコロイド状シリカを含む。
【0044】
本開示によれば、上記水性スラリーは、耐火装入物を含む。本開示の方法では、種々の耐火装入物を使用してもよい。本開示の方法に従って耐火物品を形成するために使用される耐火装入物は、様々な要因に基づいて選択されてもよく、これら要因としては、上記耐火物品が使用される特定の用途、および上記耐火物品が接触する特定の種類の化学環境または溶融金属等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本開示に係る耐火装入物は、異なる形態(例えば、繊維状、針状、層状、粒状)で提供されてもよく、鉱物または合成起源であってもよい。本開示によれば、上記耐火装入物は、ケイ酸塩、金属酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、硫化物、フッ化物、アルミナイド、合成ガラス、ガラス繊維(例えば、Eガラス繊維)、耐火セラミック繊維、非耐火セラミック繊維、グラファイト、骨灰、チタン酸アルミニウム、およびアルミン酸カルシウムのうちの1つ以上を含む。例示的なケイ酸塩としては、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ジルコニウム、マイカ、ウォラストナイト、マイクロライト、およびタルクが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な金属酸化物としては、MgO、Al2O3、TiO2、ZrO2、Y2O3、MgAl2O4、およびWO2が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なホウ化物としては、TiB2およびZrB2が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および窒化シリコンが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な炭化物としては、炭化ケイ素および炭化ホウ素が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な硫化物としては、BaSO4が挙げられるが、これに限定されない。例示的なフッ化としては、CaF2およびAlF3が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なアルミナイドとしては、MgAlおよびTiAlが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
諸実施形態では、上記耐火装入物は、窒化ホウ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ジルコニウム、溶融シリカ、マイカ、ウォラストナイト、マイクロライト、タルク、MgO、Al2O3、TiO2、ZrO2、Y2O3、MgAl2O4、WO2、Eガラス繊維、TiB2、ZrB2、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、BaSO4、CaF2、AlF3、MgAl、およびTiAlのうちの少なくとも1つを含む。実施形態では、上記耐火装入物は、窒化ホウ素、マイカ、ジルコン、タルク、ウォラストナイト、溶融シリカ、炭化ケイ素素、マイクロライト、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フルオロケイ酸マグネシウム、グラファイト、骨灰、二酸化チタン、およびフッ化アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む。諸実施形態では、本開示の水性スラリーを形成するために使用される耐火装入物は、ウォラストナイト、溶融シリカ、および炭化ケイ素のうちの少なくとも1つを含む。
【0047】
諸実施形態では、本開示の方法に従って形成される水性スラリーは、2重量%から10重量%の結合剤系と、40重量%から75重量%の耐火装入物と、20重量%から50重量%の第2のコロイド状結合剤とを含む。諸実施形態では、本開示の方法に従って形成される水性スラリーは、2重量%から10重量%の結合剤系と、40重量%から70重量%の耐火装入物と、25重量%から50重量%の第2のコロイド状結合剤とを含む。諸実施形態では、本開示の方法に従って形成される水性スラリーは、5重量%から10重量%の結合剤系と、45重量%から70重量%の耐火装入物と、25重量%から48重量%の第2のコロイド状結合剤とを含む。本開示の水性スラリーを形成するために、上述の結合剤系、耐火装入物、および第2のコロイド状結合剤のいずれかを使用してもよい。諸実施形態では、本開示の方法に従って形成される水性スラリーは、2重量%から10重量%の結合剤系と、ウォラストナイト、溶融シリカ、および炭化ケイ素のうちの少なくとも1つを含む40重量%から75重量%の耐火装入物と、コロイド状シリカを含む20重量%から50重量%の第2のコロイド状結合剤とを含む。諸実施形態では、本開示の方法に従って形成される水性スラリーは、2重量%から10重量%の結合剤系と、ウォラストナイト、溶融シリカ、および炭化ケイ素のうちの少なくとも1つを含む60重量%から75重量%の耐火装入物と、コロイド状シリカを含む20重量%から50重量%の第2のコロイド状結合剤とを含む。諸実施形態では、本開示の方法に従って形成される水性スラリーは、2重量%から10重量%の結合剤系と、ウォラストナイト、溶融シリカ、および炭化ケイ素のうちの少なくとも1つを含む65重量%から75重量%の耐火装入物と、コロイド状シリカを含む20重量%から50重量%の第2のコロイド状結合剤とを含む。
【0048】
本開示の水性スラリーは、上記結合剤系、上記耐火装入物、および上記第2のコロイド状結合剤に加えて、1つ以上の添加剤を含んでもよい。このような添加剤は、上記水性スラリーの総重量に基づいて0.1重量%未満の量で上記水性スラリー中に存在してもよい。本開示の水性スラリーに使用するのに適した例示的な添加剤としては、レオロジー調整剤、分散剤、および可塑剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
本開示によれば、耐火物品を製造する方法は、上記水性スラリーを型に流し込むことを含む。上記型は、製造中の上記耐火物品用の任意の所望の形状に対応していてもよい。上記型は種々の材料から形成されてもよく、当該種々の材料としては、厚紙、発泡体(例えば、ポリスチレン)、金属、木材、プラスチック、天然ポリマー、および合成ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本開示によれば、上記水性スラリーは、上記水性スラリーが上記型に流し込まれるときにスラリー成型温度にある。上記スラリー成型温度は、広範囲に変化してもよい。諸実施形態では、上記スラリー成型温度は、1℃から80℃、1℃から60℃、5℃から50℃、10℃から40℃、および15℃から30℃等、0℃より高く100℃未満であってもよい。
【0051】
上記型は、上記水性スラリーが上記型に流し込まれるとき、様々な温度(例えば、室温(15℃から30℃)、室温より高い温度(>30℃)、室温未満(<15℃))であってもよい。諸実施形態では、上記型は、上記水性スラリーを上記型に流し込むとき、30℃から100℃の温度であってもよい。諸実施形態では、上記型は、上記水性スラリーを上記型に流し込むとき、15℃から30℃の温度であってもよい。諸実施形態では、上記型は、上記水性スラリーを上記型に流し込むとき、-195℃から15℃の温度であってもよい。
【0052】
諸実施形態では、本開示の方法は、さらに、1つ以上の補強材料を上記型内または上記型上に配置することを含む。上記型内または上記型上に組み込んでもよい適切な補強材料の例としては、高温布(例えば、ガラス繊維織布マット、炭素繊維織布マット)、ガラス繊維、耐火セラミック繊維、非耐火セラミック繊維、炭素繊維、合成繊維(例えば、ポリマー繊維、ポリプロピレン繊維)、金属繊維(例えば、鋼鉄針)、鉱物繊維、ならびに各種サイズおよび形状の金属アンカーが挙げられるが、これらに限定されない。諸実施形態では、本開示の方法は、さらに、1つ以上の強化材料(例えば、上述の繊維材料のうちの任意の1つ以上、耐火性繊維材料)を上記水性スラリーに直接添加することを含む。諸実施形態では、本開示の方法は、上記水性スラリーを上記型に流し込む前に、高温布、好ましくはガラス繊維織物マットの層を上記型内または上記型上に配置することを含む。諸実施形態では、本開示の方法は、高温布、好ましくはガラス繊維織物マットの層を上記型内または上記型上に配置し、上記水性スラリーの第1の部分を上記型内に流し込み、高温布の追加の層、好ましくはガラス繊維織物マットを、上記型に流し込まれた上記水性スラリーの上記第1の部分上に配置し、上記水性スラリーの第2の部分を上記型内に流し込むことを含む。この工程は、補強材料および水性スラリーの複数の層を形成するために、複数回繰り返されてもよい。しかしながら、上記水性スラリーは(例えば、上記補強材料が上記水性スラリーに埋め込まれるように)上記補強材料の複数の層を完全に含浸または飽和させてよいことを理解されたい。
【0053】
本開示によれば、耐火物品を製造する方法は、上記水性スラリーを含む型を、グリーン強度物品を形成するのに十分な温度および時間に曝すことを含む。本開示によれば、上記水性スラリーを含む上記型は、上記スラリー成型温度よりも低い温度に曝される。換言すれば、上記型に流し込まれた上記水性スラリーは、上記水性スラリーをより低い温度に曝すことによって固化し、それによりグリーン強度物品を形成する。例えば、上記型に流し込まれた上記水性スラリーは、凍結によって固化し、それによりグリーン強度物品を形成する。グリーン強度物品を形成する上記工程は、当業者に公知の従来の技術および装置(例えば、冷凍機、液体窒素への暴露)を使用して実施してもよい。諸実施形態では、上記水性スラリーを含む上記型は、上記グリーン強度物品を形成するのに十分な時間、-195℃から0℃の温度に曝される。諸実施形態では、上記水性スラリーを含む上記型は、上記グリーン強度物品を形成するのに十分な期間、-125℃から0℃の温度、-100℃から-10℃の温度、-90℃から-25℃の温度、-90℃から-50℃の温度、および-85℃から-75℃の温度等の-150℃から0℃の温度に曝される。上記グリーン強度物品を形成するのに必要な時間は、例えば、質量、形状、上記水性スラリー組成物、および上記水性スラリーを含む上記型が曝される温度を含む種々のパラメータに依存して変化し得る。諸実施形態では、上記グリーン強度物品を形成するのに必要な時間は、10分から60時間、30分から48時間、1時間から36時間、2時間から24時間、6時間から24時間、8時間から24時間、12時間から24時間、18時間から24時間、および24時間から72時間等の1分から72時間であってもよい。諸実施形態では、上記グリーン強度物品を形成するのに必要な時間は、1分から1時間であってもよい。
【0054】
上記水性スラリーから上記グリーン強度物品を形成する工程は、本開示の方法にとって重要である。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、上記水性スラリー、特にカラメル化炭水化物成分を形成するために利用される上記結合剤系、および上記水性スラリーを含む上記型を本明細書に記載の温度に曝すことによって上記グリーン強度物品を形成する工程により、上記耐火物品において独特で有利な球状気孔構造および気孔の等方的な分布が相乗的に生じると考えられる。また、いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、上記水性スラリー中の耐火装入物粒子が凝固前面から排除され、成長する氷晶の間に捕捉されることにより、凍結成型グリーン強度物品が形成されると考えられる。この工程は、熱力学の法則、および凝固体、液体、および個々の耐火装入物粒子間の表面自由エネルギーの関係によって支配されると考えられる。上記結合剤系の上記カラメル化炭水化物成分は、液体の粘度および上記耐火装入物粒子の表面自由エネルギーの両方を変化させ、これにより氷面からの上記耐火装入物粒子の抽出を変化させ、本明細書に記載の物品が得られると考えられる。さらに、上記結合剤系の上記カラメル化炭水化物成分は、蒸発性シネレシスによる系からの水分の除去の制御を援助し、これにより、上記グリーン強度物品をフリーザー(例えば、-80℃)から直接取り出し、中間工程(例えば、乾燥工程)なしで炉(例えば、700℃)に入れる処理が可能になると考えられる。さらに、これもいかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、本開示の方法および当該方法により製造された耐火物品の基礎となる原理は、使用される特定の耐火装入物に強く依存せず、化学的相互作用よりもむしろ物理的相互作用により依存すると考えられる。
【0055】
本開示に係るグリーン強度物品を形成することなく凍結成型される耐火物品は、一般に、本開示の方法で達成される球状気孔および気孔の等方的な分布とは対照的に、層状気孔および気孔の不均一な分布を有する。上述のように、層状気孔を有する耐火物品は、脆いことが多く、亀裂を生じやすく、典型的には一軸方向の強度を示す。
【0056】
本発明によれば、耐火物品を製造する方法は、上記グリーン強度物品を、少なくとも450℃で、熱均質性を得るのに十分な時間焼成し、それにより耐火物品を形成することを含む。諸実施形態では、上記グリーン強度物品は、熱均質性を得るのに十分な時間、550℃から1250℃までの炉温度、550℃から1,200℃までの炉温度、600℃から1150℃までの炉温度、650℃から1100℃までの炉温度、675℃から1000℃までの炉温度、675℃から900℃までの炉温度、675℃から850℃までの炉温度、675℃から725℃までの炉温度等の450℃から1500℃までの炉温度で焼成され、それにより、耐火物品を形成する。熱均質性を得るために必要な時間は、例えば、質量、形状、上記グリーン強度物品を形成するために使用される上記水性スラリー組成物、および上記グリーン強度物品を焼成する温度を含む種々のパラメータに依存して変化し得る。諸実施形態では、焼成中に熱均質性を得るために必要な時間は、1時間から18時間、1時間から12時間、1時間から8時間、1時間から5時間、および2時間から3時間等の0.5時間から24時間である。上記グリーン強度物品の焼成は、オーブン、炉、またはキルン等の従来の装置を使用して実施することができる。
【0057】
本開示の諸実施形態では、上記方法は、さらに、上記グリーン強度物品を焼成する前に上記グリーン強度物品を離型することを含む。本開示の諸実施形態では、上記方法は、上記型および上記グリーン強度物品を焼成することを含むため、離型工程を必要としない。上記型およびグリーン強度物品が一緒に焼成される諸実施形態では、上記型は、焼成中に燃焼するか、そうでなければ分解する材料、例えば、厚紙または発泡材料で形成される。
【0058】
本開示の諸実施形態では、上記方法は、焼成前に上記グリーン強度物品を乾燥させることを含まない。言い換えれば、(凝固水を含有する)上記グリーン強度物品を追加の処理なしに直ちに焼成してもよい。従来のプロセスでは、典型的には、乾燥工程により、焼成前に水または他の溶剤を除去する。しかしながら、本開示の方法は、本明細書に記載の独特な気孔構造および利点を有する耐火物品を形成するために、そのような乾燥工程を必要としない。さらに、乾燥工程は床面積、装置、人力、および設計を必要とするので、従来の乾燥工程を排除することには経済的利点がある。乾燥工程は必要ではなく、実際、好ましくないが、他の実施形態では、本開示の方法は、焼成前に上記グリーン強度物品を乾燥させることを含んでもよい。上記乾燥工程は、乾燥装置(例えば、炉、フリーズドライヤー)を使用して、または上記グリーン強度物品を環境温度もしくは室温で自然乾燥させることによって実施されてもよい。
【0059】
諸実施形態では、本開示の方法は、上記焼成工程の後に上記耐火物品を冷却することを含む。諸実施形態では、上記冷却工程は、上記耐火物品を環境温度または室温に自然冷却することによって実施してもよい。諸実施形態では、制御された段階で上記冷却工程を実施してもよい。例えば、上記耐火物品を、焼成後、上記炉を所定の温度に冷却し、所定の時間上記炉を開け、上記炉から上記耐火物品を取り出すことによって冷却してもよい。上記冷却工程の制御された段階の特定のパラメータは、典型的には、上記耐火物品のサイズおよび形状、ならびに特定の耐火装入物に依存する。当業者は、日常の実験により、上記冷却工程の制御された段階の特定のパラメータを容易に決定することができる。
【0060】
本開示の方法では、多数の独特な特徴および利点を有する耐火物品が製造され、当該多数の独特な特徴および利点は、開放球状気孔率、等方的な気孔分布、低密度、より高い強度対密度比、およびネットシェイプを含むが、これらに限定されない。開放された気孔により、流体が上記耐火物品の型を通って容易に流れることが可能になり、これは、濾過用途において、または上記耐火物品全体に潤滑剤、触媒、または保護コーティング等の有益な液体を分散させる場合に有利であり得る。上記気孔の球状形状により、上記耐火物品内の亀裂発生および/または亀裂伝播に対してより良い抵抗となる。低密度を有することによって、本開示の方法に従って形成された耐火物品をより軽量にすることができ、これは耐火物品と嵌合するか、そうでなければ耐火物品に接合する成分上の応力を低減することができ、かつ、プロセスオペレータの安全性を改善することができる(例えば、より軽量の物品は持ち上げるのがより容易である)。さらに、低密度であることにより、溶融金属中の上記耐火物品の浮力を向上させることができる(例えば、耐火物品が破損すると、その破片は当該溶融金属上に浮上し、容易に取り除くことができる)。上記耐火物品の強度は、機械的要求(例えば、圧力、摩耗、変形、クリープ等)に対する抵抗となり、当該耐火物品の寿命を延ばす。上記気孔の等方的な分布により、本開示の方法に従って製造された耐火物品に、強度のより高い均一性および改善された強度対重量比(または強度対密度比)が与えられると考えられる。さらに、本開示の方法に従って形成された耐火物品は、型形状と比較して極わずかに収縮もしくは変形したネットシェイプ、または全く収縮もしくは変形していないネットシェイプである。収縮量を最小限に抑えることにより、より複雑な形状、より厳しい公差、より少ない仕上げ加工時間、および熱ストレスからの処理中スクラップの電位の低減が可能となる。上記耐火物品は、一般にネットシェイプまたはニアネットシェイプを有するが、本開示の方法に従って形成された耐火物品は、所望の形状および/または仕上げに機械加工してもよい。
【0061】
本開示の方法を使用して、様々な用途のための様々な耐火物品を製造してもよい。本開示の方法に従って製造することができる耐火物品としては、一体的な巨大ブロック(炉壁用)、取鍋、注ぎ口、樋、注入管、プランジャー、ピン、フロート、タンディッシュ、ヘッドボックス、坩堝、バーナー先端、フィルター、絶縁/導電レンガ、絶縁/導電基板、拡散器、および吸収材が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、ASTMC830に従って測定された場合、35%から65%の見かけの気孔率を有する。諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、40%から60%の見かけの気孔率、45%から55%の見かけの気孔率等の35%から60%の見かけの気孔率を有する。
【0063】
諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、ASTMC830に従って測定されたかさ密度が1g/cm3から2.5g/cm3であり、これには、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度、1.05g/cm3から2.15g/cm3のかさ密度、1.1g/cm3から2.1g/cm3のかさ密度、1.15g/cm3から2.05g/cm3のかさ密度、1.25g/cm3から1.9g/cm3のかさ密度、1.3g/cm3から1.6g/cm3のかさ密度、および1.1g/cm3から1.65g/cm3のかさ密度が含まれる。
【0064】
諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、ASTMC830に従って測定された特定密度が2.15g/cm3から3.75g/cm3であり、これには、2.2g/cm3から3.7g/cm3の特定密度、2.5g/cm3から3.1g/cm3の特定密度、2.6g/cm3から3g/cm3の特定密度、および2.7g/cm3から2.9g/cm3の特定密度が含まれる。
【0065】
諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、修正ASTMC133に従って(標準の2インチ×2インチ×2インチの試験片とは対照的に1.5インチ×1.5インチ×2インチの試験片を用いることによって)測定された冷間破砕強度(CCS)が4MPaから25MPaであり、これには、4.5MPaから22MPaのCCS、4.65MPaから20MPaのCCS、5MPaから15MPaのCCS、5.5MPaから10MPaのCCS、10MPaから25MPaのCCS、15MPaから25MPaのCCS、および17MPaから22MPaのCCSが含まれる。CCSは、室温での圧縮荷重下における耐火物品の故障耐性能を表す。CCSは、圧縮試験されたときの上記耐火物品の成分の結合強度を表すものと見なすこともできる。
【0066】
諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、(絶対値で)0.01%から0.25%の寸法収縮率および0.01%から0.15%の寸法収縮率等の0%から0.3%の寸法収縮率を有する。寸法収縮率は、上記グリーン強度物品の寸法および上記耐火物品の寸法を測定し、上記グリーン強度物品の寸法と上記耐火物品の寸法との差を求め、その差を上記グリーン強度物品の寸法で割ることによって求めることができる。このような寸法収縮率は、ネットシェイプを有する耐火物品を形成するために本開示の方法を使用できることを示す。
【0067】
諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、修正ASTMC133に従って(標準の9インチ×2インチ×2インチの試験片とは対照的に8インチ×1.5インチ×2インチの試験片を用いることによって)測定された冷間破壊係数(CMOR)が1MPaから3.5MPaであり、これには、1.05MPaから3.3MPaのCMOR、1.1MPaから3.25MPaのCMOR、1.25MPaから3MPaのCMOR、1.5MPaから2.5MPaのCMOR、1.75MPaから2.25MPaのCMOR、1MPaから2MPaのCMOR、1.75MPaから3.3MPa、および2MPaから3.25MPaのCMORが含まれる。CMORは、上記耐火物品の弾性領域の限界における強度を表すので、上記耐火物品の重要なパラメータである。CMORは、破壊試験により決定される。
【0068】
諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、3MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率とを有する。特定の実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、4MPa/g/cm3から14MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率、4.1MPa/g/cm3から13.75MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率、および5MPa/g/cm3から13.75MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率等の3.5MPa/g/cm3から14.5MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1.1g/cm3から2.1g/cm3のかさ密度と、35%から60%の見かけの気孔率と、4MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1.12g/cm3から2g/cm3のかさ密度と、40%から60%の見かけの気孔率と、4MPa/g/cm3から14MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率とを有する。諸実施形態では、本開示の方法に従って製造された耐火物品は、1.1g/cm3から1.7g/cm3のかさ密度と、40%から60%の見かけの気孔率と、4.1MPa/g/cm3から14MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率およびMPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率等の4MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率とを有する。かさ密度に対するCCSの比率は、「比冷間破砕強度」と呼ばれる規格である。このような規格は異なる材料のCCSを比較するのに有用である。
【0069】
諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、0.5MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、0.5MPa/g/cm3から10MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、0.5MPa/g/cm3から8MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、0.5MPa/g/cm3から6MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、0.65MPa/g/cm3から3MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、0.75MPa/g/cm3から2.25MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率、0.85MPa/g/cm3から2.1MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率、および0.95MPa/g/cm3から2.05MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率等の0.65MPa/g/cm3から2.5MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1.1g/cm3から2.1g/cm3のかさ密度と、35%から60%の見かけの気孔率と、0.75MPa/g/cm3から2.1MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1.12g/cm3から2g/cm3のかさ密度と、40%から60%の見かけの気孔率と、0.85MPa/g/cm3から2.1MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有する。かさ密度に対するCMORの比率は「比冷間破壊係数」と呼ばれる規格である。このような規格は、異なる材料のCMORを比較するのに有用である。
【0070】
諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、気孔の等方的な分布とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、修正ASTMC133に従って(標準の2インチ×2インチ×2インチの試料片とは対照的に1.5インチ×1.5インチ×2インチの試料片を使用することによって)測定された4MPaから25MPaのCCSと、気孔の等方的な分布とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、修正ASTMC133に従って(標準の9インチ×2インチ×2インチの試料片とは対照的に8インチ×1.5インチ×2インチの試料片を使用することによって)測定された1MPaから3.5MPaのCMORと、気孔の等方的な分布とを有する。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された耐火物品は、1g/cm3から2.2g/cm3のかさ密度と、35%から65%の見かけの気孔率と、3MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCCSの比率と、気孔の等方的な分布とを有する。
【0071】
上述のように、本開示の方法は、上記水性スラリーを上記型内に流し込む前に、耐火繊維材料を上記水性スラリーに添加して、繊維強化耐火物品を提供する工程を含んでもよい。そのような実施形態では、本発明の方法に従って製造された繊維強化耐火物品は、1g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、6MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対する冷間破壊係数(CMOR)の比率とを有していてもよい。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された繊維強化耐火物品は、1.1g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、8MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有していてもよい。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された繊維強化耐火物品は、1.2g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、10MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有していてもよい。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された繊維強化耐火物品は、1.5g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、12MPa/g/cm3から15MPa/g/cm3のかさ密度に対するCMORの比率とを有していてもよい。諸実施形態では、本発明の方法に従って製造された繊維強化耐火物品は、1g/cm3から2.5g/cm3のかさ密度と、6MPa/g/cm3から10MPa/g/cm3のかさ密度に対する比率とを有していてもよい。耐火繊維材料で強化される場合、耐火繊維材料が占める体積は気孔形成プロセスに関与しないが、かさ密度に対するCMORの比率がより高いことによって実証されるように、より高い強度を示すので、上記耐火物品は、典型的には、気孔率がより低い。
(実施例)
【0072】
以下の実施例は、本開示の方法に従って製造された耐火物品の特定の例示的な実施形態を示す。当該実施例は、単に例示の目的のために与えられ、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、その多くの変形が可能であるので、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0073】
耐火物品の3つのサンプル(サンプルAからC)を、本開示の方法に従って製造した。各サンプルを製造するために、水性スラリーを形成した。各サンプルを製造するために使用した水性スラリーは、結合剤系と、耐火装入物と、第2のコロイド状結合剤との混合物を含んでいた。各水性スラリー(スラリーAからC)を形成するために使用した各成分の(水性スラリーの総重量に基づく)重量パーセントを以下の表1に列挙する。
【0074】
さらに、耐火物品の3つの比較サンプル(サンプル1から3)を調製した。各比較サンプルを製造するために、比較水性スラリーを形成した。当該比較水性スラリーは、サンプルAからCを形成するために使用される水性スラリーと同様であったが、本開示の結合剤系を含まなかった。各比較水性スラリー(スラリー1から3)を形成するために使用した各成分の(比較水性スラリーの総重量に基づく)重量パーセントを以下の表1に列挙する。
【表1】
【0075】
上記結合剤系はスラリーAからCのそれぞれについて同じ組成であり、以下のように調製した。ステンレス鋼の容器中で以下の成分、すなわち、a)ランティック社(Lantic, Inc.)(カナダ、ケベック州モントリオール)の食品グレードのテーブル糖(すなわち、スクロース)、b)水、c)実験室グレードのリン酸75重量%(すなわち、75重量%のH3PO4と25重量%の水との混合物)、d)スペクトラム・ケミカル・マニュファクチャリング・コーポレーション(Spectrum Chemical Manufacturing Corp.)(ニュージャージー州ニューブランズウィック)のCa(H2PO4)・H2Oを含むリン酸一水素カルシウム、およびe)エーシーピーケミカルズ社(ACP Chemicals, Inc.)(カナダ、ケベック州サン・レオナール)のAlNH4(SO4)2・12H2Oを含む実験室グレードの硫酸アンモニウムアルミニウムアンモニウムを一緒に混合することによって、1キログラムの混合物を調製した。
【0076】
上記混合物は、550グラムのスクロースと、415グラムの水と、11グラムのリン酸(75重量%)と、14グラムのリン酸一水素カルシウムと、10グラムの硫酸アンモニウムアルミニウムとをステンレス鋼容器に添加し、次いで、均一な混合物が得られるまで、上記成分をペイントミキサーで一緒に混合することによって調製した。
【0077】
その後、上記均一な混合物を80℃から120℃までの温度に加熱し、その温度で少なくとも5分間保持して、カラメル化炭水化物成分を形成した。上記カラメル化炭水化物成分を室温(例えば、20℃から25℃)で冷却させた。
【0078】
次に、515グラムの第1のコロイド状結合剤を1キログラムの上記カラメル化炭水化物成分に添加した。上記第1のコロイド結合剤は、ナルコ社(Nalco Company)(イリノイ州ネイパービル)から市販されているナルコ(NALCO)1144コロイド状シリカであった。その後、上記コロイド状シリカと上記カラメル化炭水化物成分とをペイントミキサーを用いて一緒に混合して、上記結合剤系を形成した。混合は均一な結合剤系を得るのに十分な時間(この場合、約10分間)、室温(例えば、20℃から25℃)で実施した。
【0079】
必要量の上記結合剤系と、上記耐火装入物と、上記第2のコロイド状結合剤(表1に示す)とを一緒に混合してスラリーAからCを形成した。少量(すなわち、約0.05重量%)のレオロジー改質剤(ナルコ(Nalco)625、ナルコ社(Nalco Company)(イリノイ州ネイパービル)から市販されている)を、各水性スラリーを流し込む直前にスラリーAからCの各々に添加した。次に、各水性スラリーを型に流し込み、当該スラリーを含む型を-80℃のフリーザー温度のフリーザー内に置き、当該フリーザー内に一晩(例えば、約18から24時間)保持した。上記スラリーは上記型内で固化してグリーン強度物品を形成し、当該グリーン強度物品を離型し、700℃の炉温度の炉内で2から3時間直ちに焼成して、上記耐火物品サンプル(すなわち、スラリーAからCに対応するサンプルAからC)を製造した。得られた耐火物品サンプルを、以下の表2に示すように、種々の物理的および機械的特性について試験した。上記比較サンプル(サンプル1から3)を、サンプルAからCについて上記した方法と同様の方法で調製し、同じ物理的および機械的特性について試験した。その結果も表2に示す。
【表2】
【0080】
表2に見られるように、本開示に従って形成された耐火物品(サンプルAからC)は、比較耐火物品(サンプル1から3)と比較して、統計的に有意に高い冷間破砕強度および冷間破壊係数の値を示した。さらに、サンプルAからCの見かけの気孔率の値は、比較サンプル1から3の見かけの気孔率の値よりも統計的に有意に高かった。さらに、かさ密度に対する冷間破砕強度の比率およびかさ密度に対する冷間破壊係数の比率もまた、比較試料1から3と比較して、試料AからCについて統計的に有意に高かった。これらの比率は、本開示に従って製造された耐火物品(サンプルAからC)が比較耐火物品(サンプル1から3)よりも機械的に強いことを示す。
【0081】
サンプルAからCによって示される強度の改善は、本開示の方法を使用することによりもたらされた気孔の等方的な分布に起因すると考えられる。
図1は、耐火装入物として炭化ケイ素を使用するサンプルCに対応する耐火物品の光学デジタル顕微鏡画像を示している。
図1に見られるように、上記耐火物品の気孔は、当該耐火物品全体にわたって均一なサイズ、形状、および分布を有する。一方、
図2は、同様に耐火装入物として炭化ケイ素を使用する試料3に対応する比較耐火物品の光学デジタル顕微鏡画像を示している。
図1に示すサンプルCの気孔の等方的な分布とは異なり、
図2に示すサンプル3の気孔がサンプル3の耐火物品全体にわたって均一なサイズ、形状、または分布を有していないことは明らかである。
【0082】
本開示はその実施形態の説明によって例示されており、当該実施形態はかなり詳細に説明されているが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に限定することは出願人の意図ではない。追加の利点や変更は、当業者にとっては容易に想到されるものである。したがって、本開示は、そのより広い態様において、特定の詳細、代表的な組成物およびプロセス、ならびに示され記載された例示的な実施例に限定されない。したがって、本開示の精神または範囲から逸脱することなく、そのような詳細から逸脱してもよい。