(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】歪み点が高く、ヤング率が高いガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20240201BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20240201BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20240201BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20240201BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/095
G02F1/1333 500
(21)【出願番号】P 2020571359
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 US2019036280
(87)【国際公開番号】W WO2019245777
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ボトゥ,ヴェンカテッシュ
(72)【発明者】
【氏名】グオ,シアオジュー
(72)【発明者】
【氏名】キング,エレン アン
(72)【発明者】
【氏名】ランバーソン,リサ アン
(72)【発明者】
【氏名】タンディア,アダマ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーギーズ,コチュパラムビル ディーナンマ
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ジンシー
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533877(JP,A)
【文献】特開2016-011255(JP,A)
【文献】特表2011-522767(JP,A)
【文献】国際公開第2011/001920(WO,A1)
【文献】特開平09-263421(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077609(WO,A1)
【文献】特表2014-503465(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185976(WO,A1)
【文献】特表2015-512849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
G02F 1/1333
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモルパーセントで、69~73%のSiO
2、12~14%のAl
2O
3、0~3%のB
2O
3、4~7%のMgO、5~6%のCaO、3~4%のSrO、および0.4~2%のY
2O
3、ZrO
2、およびZnOのいずれかからなる群から選択される他の酸化物を含み、Y
2O
3、ZrO
2、およびZnOのそれぞれが、0~1モル%の範囲にある、ガラスであって、
該ガラスは、無アルカリガラスである、ガラス。
【請求項2】
760℃超の歪み点を有する、請求項1記載のガラス。
【請求項3】
1650℃未満の200ポアズ温度を有する、請求項1または2記載のガラス。
【請求項4】
1300℃未満の液相温度を有する、請求項1から3いずれか1項記載のガラス。
【請求項5】
20,000ポアズ超の液相粘度を有する、請求項1から4いずれか1項記載のガラス。
【請求項6】
85GPa超のヤング率を有する、請求項1から5いずれか1項記載のガラス。
【請求項7】
33GPa/g/cm
3超の比弾性率を有する、請求項1から6いずれか1項記載のガラス。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載のガラスから作られた液晶ディスプレイ用基板。
【請求項9】
酸化物基準のモルパーセントで、69.86~72.13%のSiO
2、11.58~13.01%のAl
2O
3、0~1%のB
2O
3、4.44~6.45%のMgO、5.53~7.23%のCaO、0.09~1.67%のSrO、2.92~4.57%のBaO、0.09~0.1%のSnO
2、および0.4~2%のY
2O
3、ZrO
2、およびZnOのいずれかからなる群から選択される他の酸化物を含む、ガラス。
【請求項10】
760℃超の歪み点を有する、請求項
9記載のガラス。
【請求項11】
1650℃未満の200ポアズ温度を有する、請求項
9または10記載のガラス。
【請求項12】
1300℃未満の液相温度を有する、請求項
9から11いずれか1項記載のガラス。
【請求項13】
20,000ポアズ超の液相粘度を有する、請求項
9から12いずれか1項記載のガラス。
【請求項14】
85GPa超のヤング率を有する、請求項
9から13いずれか1項記載のガラス。
【請求項15】
33GPa/g/cm
3超の比弾性率を有する、請求項
9から14いずれか1項記載のガラス。
【請求項16】
請求項
9から15いずれか1項記載のガラスから作られた液晶ディスプレイ用基板。
【請求項17】
関係式:
78GPa≦69.91973399947+0.803977834357368×Al
2O
3-0.906331789808018×B
2O
3+0.773177760652988×MgO+0.358794596568283×CaO+0.0167545708595792×SrO-0.382565908440928×BaO≦90GPa
により定義されるヤング率を有する、請求項
9から16いずれか1項記載のガラス。
【請求項18】
関係式:
750℃≦854.140323860904+4.46948220485465×Al
2O
3-14.4689626526177×B
2O
3-5.91884532478309×MgO-5.94752853843398×CaO-5.85611498931903×SrO-6.03112833503798×BaO≦860℃
により定義される徐冷温度を有する、請求項
9から16いずれか1項記載のガラス。
【請求項19】
請求項
17または18記載のガラスから作られた液晶ディスプレイ用基板。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2018年6月19日に出願された米国仮特許出願第62/686850号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施の形態は、ディスプレイ用ガラスに関する。より詳しくは、本開示の実施の形態は、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイのためのディスプレイ用ガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
液晶ディスプレイ、例えば、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ(AMLCD)装置の製造は複雑であり、基板ガラスの性質は重要である。何よりもまず、AMLCD装置の製造に使用されるガラス基板は、厳しく制御された物理的寸法を有する必要がある。ダウンドローシート延伸法、および特に、両方ともDockertyの特許文献1および2に記載されたフュージョン法は、ラップ仕上げおよび研磨などの費用のかかる成形後の仕上げ操作を必要とせずに、基板として使用できるガラスシートを製造することができる。残念ながら、このフュージョン法は、ガラス特性にかなり厳しい制限を課し、その制限のために、比較的高い液相粘度が要求される。
【0004】
液晶ディスプレイ分野において、多結晶シリコンに基づく薄膜トランジスタ(TFT)が、電子をより効果的に輸送する能力のために好ましい。多結晶系シリコントランジスタ(p-Si)は、アモルファスシリコン系トランジスタ(a-Si)に基づくものよりも高い移動性を有するとして特徴付けられる。これにより、より小型でより高速のトランジスタを製造することができ、これにより最終的に、より輝度が高く、より高速のディスプレイが製造される。
【0005】
p-Si系トランジスタに関する問題の1つは、その製造に、a-Siトランジスタの製造に用いられる工程温度よりも高い工程温度が必要とされることである。これらの温度は、a-Siトランジスタの製造に使用される350℃のピーク温度と比べて、450℃から600℃に及ぶ。これらの温度では、ほとんどのAMLCD用ガラス基板は、圧密として知られる過程を経る。熱安定性または寸法変化とも称される、圧密は、ガラスの仮想温度の変化によるガラス基板における不可逆的寸法変化(収縮)である。「仮想温度」は、ガラスの構造状態を表すために使用される概念である。高温から急激に冷却されるガラスは、「凍結した(frozen in)」より高温の構造のために、より高い仮想温度を有すると言われている。より遅く冷却された、または徐冷点の近くである時間に亘り保持されることによって徐冷されたガラスは、より低い仮想温度を有すると言われている。
【0006】
圧密の大きさは、ガラスを製造する過程、およびガラスの粘弾性特性の両方に依存する。ガラスからシート製品を製造するためのフロート法において、ガラスシートは、溶融物から比較的ゆっくりと冷却され、それゆえ、比較的低温の構造に「凍結する」。それに対して、フュージョン法では、ガラスシートは溶融物から非常に急速に冷却され、比較的高温の構造に凍結する。その結果、圧密の推進力は、仮想温度と、圧密中にガラスが経る工程温度との間の差であるので、フロート法により製造されるガラスは、フュージョン法により製造されるガラスと比べて、少ない圧縮を経るであろう。それゆえ、フュージョン法並びに他の成形法(例えば、フロート法)により製造されるガラス基板における圧密のレベルを最小にすることが望ましいであろう。
【0007】
ガラスにおける圧密を最小にする手法が2つある。第1の手法は、ガラスを熱的に前処理して、p-Si TFT製造中にガラスが経るものと類似の仮想温度を生じることである。この手法には、いくつかの難点がある。第一に、p-Si TFT製造中に利用される多数の加熱工程により、この前処理で完全には補えないガラス中のわずかに異なる仮想温度が生じる。第二に、ガラスの熱安定性は、そのp-Si TFT製造の詳細に密接に関係するようになり、このことは、異なるエンドユーザにとって異なる前処理を意味し得るであろう。最後に、前処理により、加工の費用と複雑さが増してしまう。
【0008】
別の手法は、ガラスの粘度を増加させることによって、工程温度での歪み速度を遅くすることである。これは、ガラスの粘度を上昇させることによって達成することができる。徐冷点は、ガラスの固定粘度に対応する温度を表し、それゆえ、徐冷点の上昇は、固定温度での粘度の上昇と同じである。しかしながら、この手法の難題は、対費用効果的な徐冷点の高いガラスの製造である。費用に影響を与える主因は、欠陥と資産の耐用年数である。フュージョンドロー装置に結合される現代の溶融装置において、4つのタイプの欠陥に一般的に遭遇する:(1)ガス状含有物(気泡または膨れ)、(2)耐火物またはバッチを適切に溶融できないことによる固体含有物、(3)主に白金からなる金属欠陥、および(4)低い液相粘度またはアイソパイプの両端での過剰な失透から生じる失透生成物。ガラス組成物は、溶融速度、およびそれゆえ、ガラスがガス状または固体欠陥を形成する傾向に不均衡な影響を有し、ガラスの酸化状態は、白金欠陥を含む傾向に影響を与える。成形用マンドレル、すなわちアイソパイプ上のガラスの失透は、高い液相粘度を有する組成物を選択することによって、最良に管理することができる。
【0009】
資産の耐用年数は、主に、溶融および成形システムの様々な耐火物および貴金属部材の摩耗または変形の速度により決まる。耐火材料、白金システム設計、およびアイソパイプ耐火物における最近の進歩は、フュージョンドロー装置に連結される溶融装置の有用稼働寿命を大幅に延ばす可能性を提示している。その結果、最新式のフュージョンドロー溶融および成形プラットフォームの寿命限定部材は、ガラスを加熱するために使用される電極である。酸化スズ電極は、時間の経過と共にゆっくりと腐食し、腐食速度は、温度とガラス組成物の両方の強力な関数である。資産の耐用年数を最大にするために、上述した欠陥を限定する属性を維持しながら、電極の腐食速度を減少させる組成物を特定することが望ましい。
【0010】
ガラスの圧密が閾値レベル未満である限り、基板としてのガラスの適性を決定する重大な属性は、TFTの構成要素の配列の狂いを生じ、最終的なディスプレイにおける不良画素を生じ得るTFTの製造中の基板の全ピッチにおける変動性、すなわちその欠如である。この変動性は、ガラスの圧密の変動、TFT製造中に堆積される膜により印加される応力下にあるガラスの弾性歪みにおける変動、およびTFT製造中のそれらの同じ応力の緩和の変動のために、もっとも著しい。高い寸法安定性を有するガラスは、減少した圧密の変動性、並びに減少した応力緩和を有し、高いヤング率を有するガラスは、膜応力による歪みを減少させるのに役立つ。その結果、高いヤング率および高い寸法安定性の両方を有するガラスは、TFT過程中の全ピッチ変動性を最小にし、これらの用途のための有利な基板になる。
【0011】
さらに、高い歪み点を有するガラスおよび高いヤング率のガラスも、可撓性有機発光ダイオード(OLED)の担体として、また熱補助型磁気記録(HAMR)技術から製造されたハードディスクドライブ用の基板としての用途も見出されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第3338696号明細書
【文献】米国特許第3682609号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、高いヤング率および高い寸法安定性を有しつつ、他の有利な性質および特徴を有するガラス組成物が、当該技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の1つ以上の実施の形態は、ガラスであって、酸化物基準のモルパーセントで、範囲:65~75%のSiO2、12~14%のAl2O3、0~3%のB2O3、4~8%のMgO、5~10%のCaO、0~5%のSrO、および0~2%のY2O3、ZrO2、ZnOを含む他の酸化物を含むガラスに関する。追加の実施の形態において、そのガラスは、酸化物基準のモルパーセントで、範囲:69~73%のSiO2、12~14%のAl2O3、0~3%のB2O3、4~7%のMgO、5~6%のCaO、3~4%のSrO、および0~1%のY2O3、ZrO2、ZnOを含む他の酸化物を含み、760℃超の歪み点、1650℃未満の200ポアズ温度、1300℃未満の液相温度、20,000ポアズ超の液相粘度、85GPa超のヤング率、および/または33GPa/g/cm3超の比弾性率を有する。
【0015】
例示のガラスは、少量のY2O3、ZrO2、ZnOを加えた、MgO・CaO・SrO・Al2O3・SiO2系にあり、780℃の歪み点、68,000ポアズ超の液相粘度、および1650℃の200ポアズ温度(または典型的な溶融温度)を提供して、より高い歪み点、溶融中のエネルギー節約を提示し、延長された溶融槽の寿命を与える(その全てが、著しい費用節約に寄与する)ことがある。追加のガラスは、MgO・CaO・SrO・BaO・B2O3・Al2O3・SiO2系にあり、757℃以上の歪み点、62,400ポアズ超の液相粘度、32.18超の比弾性率、および83.56GPa超のヤング率を提供することがある。
【0016】
本開示の1つ以上の実施の形態は、ガラスであって、酸化物基準のモルパーセントで、範囲:69~74%のSiO2、11~14%のAl2O3、0~3%のB2O3、4~7%のMgO、5~7%のCaO、0~3%のSrO、および1~5%のBaOを含むガラスに関する。本開示の追加の実施の形態は、ガラスであって、752℃超の歪み点、1300℃未満の液相温度、20,000ポアズ超の液相粘度、83.56GPa超のヤング率、および/または32GPa/g/cm3超の比弾性率を有する、酸化物基準のモルパーセントで、範囲:70~73%のSiO2、11~13%のAl2O3、0~1%のB2O3、4~7%のMgO、5~7%のCaO、0~3%のSrO、および1~5%のBaOを含むガラスに関する。
【0017】
本開示の1つ以上の実施の形態は、ガラスであって、酸化物基準のモルパーセントで、範囲:68.84~74.07%のSiO2、10.41~14.87%のAl2O3、0~2%のB2O3、3.44~7.45%のMgO、4.19~8.23%のCaO、0~3.36%のSrO、0.91~5.59%のBaO、および0.09~0.2%のSnO2を含むガラスに関する。本開示の追加の実施の形態は、ガラスであって、酸化物基準のモルパーセントで、範囲:69.86~72.13%のSiO2、11.58~13.01%のAl2O3、0~1%のB2O3、4.44~6.45%のMgO、5.53~7.23%のCaO、0.09~1.67%のSrO、2.92~4.57%のBaO、および0.09~0.1%のSnO2を含むガラスに関する。
【0018】
本開示の追加の実施の形態は、ダウンドロー方式のシート製造法により製造されたガラスを備えた物体に関する。さらなる実施の形態は、フュージョン法またはその変種により製造されたガラスに関する。
【0019】
本明細書に含まれ、その一部を構成する添付図面は、下記に記載されるいくつかの実施の形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】フュージョンドロー法において精密シートを製造するために使用される成形マンドレルの概略図
【
図2】位置6に沿った
図1の成形マンドレルの断面図
【
図3】1200℃および1140℃の黒体のスペクトル、および0.7mm厚のEagle XG(登録商標)非晶質薄膜トランジスタ基板の透過スペクトルのグラフ
【
図5】例示の組成物の群が中に含まれた
図4の凸包のグラフ
【
図6】
図4の凸包内の無作為に選択された組成物の式(2)のグラフ
【
図7】
図4の凸包内の無作為に選択された組成物の式(3)のグラフ
【
図8】MgO・CaO・SiO
2・Al
2O
3(20質量%のAl
2O
3)系のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
高い徐冷点および/または歪み点および高いヤング率を有し、TFTの製造中に優れた寸法安定性(すなわち、圧密が小さい)を持つことができ、TFTプロセス中の変動性を低下させる無アルカリガラス、およびその製造方法がここに記載されている。徐冷点および/または歪み点が高いガラスは、ガラスの製造後の熱処理中の圧密/収縮によるパネルの歪みを防ぐのに役立ち得る。それに加え、本開示のいくつかの実施の形態は、高い液相粘度を有し、それゆえ、比較的冷たい成形マンドレル上での失透の可能性が低下するか、またはなくなる。それらの組成物の具体的な詳細の結果として、例示のガラスは、ガス状含有物のレベルが非常に低く、貴金属、耐火物、および酸化スズ電極材料に対する腐食が最小である良好な品質に溶融する。
【0022】
1つの実施の形態において、前記実質的に無アルカリのガラスは、高い徐冷点を有し得る。いくつかの実施の形態において、その徐冷点は、約790℃、795℃、800℃または805℃より高い。操作のどの特定の理論によっても束縛されないが、そのような高い徐冷点により、緩和速度が低くなり-それゆえ、圧密の量が比較的小さくなり-例示のガラスを、低温ポリシリコンプロセスにおけるバックプレーン基板として使用することができると考えられる。
【0023】
ガラスの液相温度(Tliq)は、それより高い温度では結晶相がガラスと平衡状態で共存できない温度である。様々な実施の形態において、ガラス物品は、約1200℃から約1350℃の範囲内、または約1220℃から約1325℃の範囲内のTliqを有する。別の実施の形態において、ガラスの液相温度に対応する粘度は、約150,000ポアズ以上である。いくつかの実施の形態において、ガラスの液相温度に対応する粘度は、約175,000ポアズ以上、200,000ポアズ以上、225,000ポアズ以上、または250,000ポアズ以上である。
【0024】
別の実施の形態において、例示のガラスは、T35k-Tliq>0.25T35k-225℃を与え得る。これにより、フュージョン法の成形マンドレル上で失透する傾向を最小にすることが確実になる。
【0025】
1つの実施の形態において、前記ガラスは化学清澄剤を含む。そのような清澄剤としては、以下に限られないが、SnO2、As2O3、Sb2O3、F、ClおよびBrが挙げられ、その化学清澄剤の濃度は、0.5モル%以下のレベルに維持される。いくつかの実施の形態において、その化学清澄剤は、約0.5モル%以下、0.45モル%以下、0.4モル%以下、0.35モル%以下、0.3モル%以下、または0.25モル%以下の濃度で、SnO2、As2O3、Sb2O3、F、ClまたはBrの1つ以上を含む。化学的清澄剤として、CeO2、Fe2O3、およびMnO2などの遷移金属の他の酸化物も挙げられるであろう。これらの酸化物は、ガラス中の最終的な原子価状態における可視吸収によりガラスに色を付けることがあり、それゆえ、それらの濃度は、0.2モル%以下のレベルにあるであろう。1つ以上の実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.2モル%、0.15モル%、0.1モル%、または0.05モル%以下の濃度で遷移金属の1種類以上の酸化物を含む。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.01モル%から約0.4モル%の範囲で、SnO2、As2O3、Sb2O3、F、Clおよび/またはBrのいずれか1つまたは組合せを含む。具体的な実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.005モル%から約0.2モル%の範囲で、Fe2O3、CeO2および/またはMnO2のいずれか1つまたは組合せを含む。いくつかの実施の形態において、As2O3およびSb2O3は、そのガラス組成物の約0.005モル%以下を占める。
【0026】
1つの実施の形態において、例示のガラスは、フュージョン法によって、シートに製造される。このフュージョンドロー法は、高解像度のTFTバックプレーンおよびカラーフィルタに対する表面媒介歪みを減少させる、無垢な火仕上げされたガラス表面をもたらすことがある。
図1は、非限定的なフュージョンドロー法における成形マンドレル、すなわちアイソパイプの概略図である。
図2は、
図1の位置6に近いアイソパイプの概略断面図である。ガラスが入口1から導入され、堰の壁9により形成された樋の底部4に沿って、圧縮端2に流れる。ガラスは、アイソパイプの両側で堰の壁9から溢れ(
図2参照)、ガラスの2つの流れが基部10で接合または融合する。アイソパイプの両端にあるエッジディレクタ3は、ガラスを冷やし、ビードと呼ばれるより厚い片をエッジに作る働きをする。そのビードは、牽引ロールによって下に引っ張られ、よって、高粘度でのシート形成が可能になる。シートがアイソパイプから引き出される速度を調節することによって、フュージョンドロー法を使用して、一定の溶融速度で非常に幅広い厚さを生じることが可能になる。
【0027】
ダウンドローシート延伸法、および特に、ここに引用される特許文献1および2(両方ともDockerty)に記載されたフュージョン法を、ここに使用することができる。操作のどの特定の理論によっても束縛されないが、フュージョン法により、研磨を必要としないガラス基板を製造できると考えられる。現行のガラス基板の研磨は、原子間力顕微鏡法で測定して、約0.5nm超の平均表面粗さ(Ra)を有するガラス基板を製造することができる。フュージョン法により製造されるガラス基板は、0.5nm未満の、原子間力顕微鏡法で測定される平均表面粗さを有する。その基板は、150psi(約1.03MPa)以下の、光学的遅れにより測定される平均内部応力も有する。もちろん、ここに記載された実施の形態は、以下に限られないが、フロート成形法などの他の成形法にも等しく適用できるので、ここに付随の特許請求の範囲はフュージョン法に限定されるべきではない。
【0028】
1つの実施の形態において、例示のガラスは、フュージョン法を使用して、シートに製造される。例示のガラスはフュージョン法に適合しているが、それらは、異なる製造法によって、シートまたは他の品物に製造されてもよい。そのようなプロセスとしては、スロットドロー法、フロート法、圧延法、および当業者に公知の他のシート成形法が挙げられる。
【0029】
ガラスのシートを形成するこれらの代わりの方法に対して、先に述べられたようなフュージョン法は、無垢な表面を有する、非常に薄く、非常に平らな、非常に均一なシートを作ることができる。スロットドロー法は、無垢な表面を得ることができるが、時間の経過によるオリフィス形状の変化、オリフィスとガラスの界面での揮発性破片の蓄積、および真に平らなガラスを供給するためのオリフィスを作るという難題のために、スロットドロー法により製造されたガラスの寸法の均一性および表面品質は、一般に、フュージョンドロー法により製造されたガラスより劣っている。フロート法は、非常に大型の均一なシートを供給することができるが、その表面は、片面でのフロート浴との接触により、そして反対の面でのフロート浴からの凝縮生成物への暴露により実質的に損なわれる。これは、フロートガラスは、高性能ディスプレイ用途に使用するためには、研磨されなければならないことを意味する。
【0030】
フュージョン法は、高温からのガラスの急冷を含み、高い仮想温度Tfを生じることがある。この仮想温度は、ガラスの構造状態と、関心のある温度で完全に緩和したとしたときの状態との間の相違を表すと考えることができる。Tp<Tg≦Tfとなるように、ガラス転移温度Tgを有するガラスを加工温度Tpに再加熱する工程は、ガラスの粘度の影響を受けるであろう。Tp<Tfであるので、ガラスの構造状態は、Tpで平衡から外れており、ガラスは、自発的に、Tpで平衡な構造状態へと緩和する。この緩和速度は、Tpでのガラスの有効粘度と逆比例し、よって、高い粘度により遅い緩和速度となり、低い粘度により速い緩和速度となる。有効粘度は、ガラスの仮想温度と逆に変動し、よって、低い仮想温度は高い粘度をもたらし、高い仮想温度は比較的低い粘度をもたらす。したがって、Tpでの緩和速度は、ガラスの仮想温度と直接的に関連する。高い仮想温度を導入する過程は、ガラスがTpで再加熱されたときに、比較的高い緩和速度をもたらす。
【0031】
Tpでの緩和速度を減少させる手段の1つは、その温度でのガラスの粘度を増加させることである。ガラスの徐冷点は、ガラスが1013.2ポアズの粘度を有する温度を表す。温度が徐冷点より低く低下するにつれて、過冷された溶融物の粘度が上昇する。Tg未満の固定温度では、徐冷点が高いほうのガラスは、徐冷点が低いほうのガラスよりも高い粘度を有する。したがって、徐冷点を上昇させると、Tpでの基板ガラスの粘度は上昇するであろう。一般に、徐冷点を上昇させるのに必要な組成変化は、全ての他の温度での粘度も上昇させる。非限定的実施の形態において、フュージョン法により製造されたガラスの仮想温度は、約1011~1012ポアズの粘度に相当し、よって、フュージョン法に適合するガラスの徐冷点を上昇させると、一般に、その仮想温度も同様に上昇する。ガラス成形過程にかかわらず所定のガラスについて、仮想温度が高いほど、Tg未満の温度での粘度が低くなり、それゆえ、仮想温度を上昇させることは、徐冷点を上昇させることによって、そうしなければ得られるであろう粘度の上昇と反対に働く。Tpでの緩和速度を実質的に変化させるために、徐冷点を比較的大きく変化させることが一般に必要である。例示のガラスの態様は、そのガラスが、約790℃以上、795℃以上、800℃以上、または805℃以上の徐冷点を有することである。操作のどの特定の理論によっても束縛されないが、そのような高い徐冷点により、低温TFT加工、例えば、典型的な低温ポリシリコン高速熱アニールサイクル中の熱緩和の許容できるほど低い速度となると考えられる。
【0032】
徐冷点を上昇させると、仮想温度に対するその影響に加え、溶融および成形システム全体の温度、特に、アイソパイプ上の温度も上昇する。例えば、「Eagle XG」ガラスおよびLotus(商標)ガラス(ニューヨーク州、コーニング所在のCorning Incorporated)は、約50℃異なる徐冷点を有し、それらがアイソパイプに供給される温度も、約50℃異なる。アイソパイプを形成するジルコン耐火物は、約1310℃より高い温度で長期間に亘り保持されると、熱クリープを示し、これは、アイソパイプ自体の質量に加え、アイソパイプ上のガラスの質量によって促進され得る。例示のガラスの第2の態様は、その供給温度が、約1350℃以下、または1345℃以下、または1340℃以下、または1335℃以下、または1330℃以下、または1325℃以下、または1320℃以下、または1315℃以下、または1310℃以下であることである。そのような供給温度は、アイソパイプを交換する必要なく長期の製造キャンペーンを続けさせる、またはアイソパイプの交換の間の時間を長くするであろう。
【0033】
徐冷点が高いガラスおよび1350℃未満と1310℃未満の供給温度の製造試行において、そのガラスは、徐冷点の低いガラスと比べて、アイソパイプの基部および-特に-エッジディレクタ上で失透の傾向が大きいことが分かった。そのアイソパイプ上の温度プロファイルを注意深く測定すると、エッジディレクタの温度は、予測していたよりも、中央の基部温度に対してずっと低く、放射熱損失によると考えられることが示された。そのエッジディレクタは、一般に、エッジディレクタの間のシートを張力下に置き、それゆえ、平らな形状を維持するように、ガラスが、基部から離れて行くときに十分に粘性であることを確実にするために、中央の基部温度より低い温度に維持される。エッジディレクタはアイソパイプの両端に位置しているので、エッジディレクタは、加熱するのが難しく、それゆえ、基部の中央とエッジディレクタとの間の温度差は、50℃以上異なるであろう。
【0034】
理論で束縛する意図はないが、フュージョン法における失透に対する傾向の増加は、温度の関数としてのガラスの放射熱損失の観点から理解できると考えられる。フュージョン法は実質的に等温過程であり、よって、ガラスは、特定の粘度で入口から出て、ずっと高い粘度で基部を出るが、実際の粘度値は、その過程の温度またはガラスの正体に強くは依存しない。それゆえ、徐冷点の高いほうのガラスは、一般に、供給粘度および出口粘度にちょうど一致するために、徐冷点の低いほうのガラスよりもずっと高いアイソパイプ温度を必要とする。一例として、
図3は、それぞれ、「Eagle XG」ガラスおよび「Lotus」ガラスに関するアイソパイプの基部(
図2の10)での温度に近い、1140℃および1200℃に対応する黒体スペクトルを示す。約2.5μmでの垂線は、ホウケイ酸ガラスにおける光吸収が高いほぼ一定の値まで急勾配で上昇する近赤外線における領域である赤外線カットオフの始まりにほぼ対応する。そのカットオフ波長よりも短い波長では、ガラスは、UVカットオフである、300nmと400nmの間の波長にかなり透明である。約300nmと約2.5μmの間では、1200℃の黒体は、1140℃の黒体よりも、大きい絶対エネルギーを有し、その全エネルギーの大部分が大きい。そのガラスは、この波長範囲を通じてかなり透明であるので、1200℃でのガラスからの放射熱損失は、1140℃でのガラスのものよりもずっと大きい。
【0035】
重ねて、操作のどの特定の理論によっても束縛されないが、放射熱損失は温度と共に増加するので、また徐冷点が高いガラスは、徐冷点の低いガラスよりも高い温度で成形されるので、中央の基部とエッジディレクタとの間の温度差は、一般に、ガラスの徐冷点と共に増加すると考えられる。このことは、アイソパイプまたはエッジディレクタ上の失透生成物を形成するガラスの傾向に直接関係するであろう。
【0036】
ガラスの液相温度は、ガラスをその温度に無限に保持した場合に結晶相が現れるであろう最高温度として定義される。液相粘度は、液相温度でのガラスの粘度である。アイソパイプ上での失透を完全に避けるために、ガラスはもはや、アイソパイプの耐火物またはエッジディレクタの材料上で液相温度またはその近くにないことを確実にするように、液相粘度が十分に高いことが役立つであろう。
【0037】
実際には、無アルカリのガラスは殆ど、所望の大きさの液相粘度を持たない。アモルファスシリコン用途に適した基板ガラス(例えば、「Eagle XG」ガラス)に関する経験により、エッジディレクタは、特定の無アルカリガラスの液相温度より60℃まで低い温度で連続的に保持できることが示された。徐冷点の高いほうのガラスは、より高い成形温度を必要とするであろうと理解されたが、エッジディレクタは、中央の基部温度に対してずっと低いであろうことは予測されなかった。この効果の経過を追うための有用な測定基準は、アイソパイプ上への供給温度とガラスの液相温度Tliqとの間の差である。フュージョン法において、約35,000ポアズ(T35k)でガラスを供給することが一般に望ましい。特定の供給温度について、T35k-Tliqをできるだけ大きくすることが有用であろうが、「Eagle XG」ガラスなどのアモルファスシリコン基板について、T35k-Tliqが約80℃以上である場合、長期の製造を行えることが分かった。温度が上昇するにつれて、T35k-Tliqは同様に増加しなければならず、よって、1300℃に近いT35kについて、T35k-Tliqを約100℃以上にすることが役立つであろう。T35k-Tliqの最小有用値は、約1200℃から約1320℃の温度についてほぼ線形に変化し、式(1):
最小T35k-Tliq=0.25T35k-225、 (1)
にしたがって表すことができる。式中、全ての温度は℃で表されている。それゆえ、例示のガラスの1つ以上の実施の形態は、T35k-Tliq>0.25T35k-225℃を有する。
【0038】
その上、前記成形過程には、液相粘度が高いガラスが必要であろう。このことは、ガラスとの界面での失透生成物を避け、最終的なガラス中に目に見える失透生成物を最小にするために必要である。それゆえ、特定のシートサイズと厚さのフュージョンに適合する所定のガラスについて、より幅が広いシートまたはより厚いシートを製造するようにその過程を調節すると、一般に、アイソパイプの両端の温度が低くなる。いくつかの実施の形態は、フュージョン法による製造の融通性を大きくするためにより高い液相粘度を有する。いくつかの実施の形態において、その液相粘度は、約150kP以上である。
【0039】
液相粘度と、フュージョン法におけるその後の失透傾向との間の関係の試験において、例示のガラスのものなどの高い供給温度は、一般に、長期の製造のために、徐冷点がより低い典型的なAMLCD基板用組成物の場合にあるであろうよりも高い液相粘度を必要とすることを、本発明者等が見出した。理論で束縛する意図はないが、このことは、温度の上昇と共に結晶成長の加速速度に起因すると考えられる。フュージョン法は基本的に等粘度過程であり、よって、ある固定温度で粘性の高いガラスは、粘性の低いガラスよりも、より高温でのフュージョン法により形成されるであろう。ある程度の過冷却(液相温度より低い温度での冷却)は、より低温でガラスにおいて長期間に亘り維持できるが、結晶成長速度は温度と共に上昇し、それゆえ、粘性の高いガラスは、粘性の低いガラスよりも、より短期間で同等の許容できない量の失透生成物を成長させる。どこで成形されたかに応じて、失透生成物は、成形の安定性を損ない、最終的なガラス中に目に見える欠陥を導入し得る。
【0040】
フュージョン法で形成されるために、前記ガラス組成物の1つ以上の実施の形態は、約150,000ポアズ以上、または175,000ポアズ以上、または200,000ポアズ以上の液相粘度を有する。意外な結果は、例示のガラスの範囲の全体に亘り、ガラスの液相粘度が他の組成物と比べて異常に高いように、十分に低い液相温度、および十分に高い粘度を得ることができることである。
【0041】
ここに記載されたガラス組成物において、SiO2は基礎ガラス形成材として働く。特定の実施の形態において、SiO2の濃度は、ガラスに、フラットパネルディスプレイ用ガラス(例えば、AMLCDガラス)に適した密度と化学的耐久性、およびダウンドロー法(例えば、フュージョン法)によりガラスを形成できるようにする、液相温度(または液相粘度)を与えるために、60モルパーセント超であり得る。上限に関して、一般に、SiO2の濃度は、従来の大量溶融技術、例えば、耐火性溶融装置内でのジュール溶融を使用してバッチ材料を溶融できるように、約80モルパーセント以下であり得る。SiO2の濃度が増加するにつれて、200ポアズ温度(溶融温度)が一般に上昇する。様々な用途において、SiO2の濃度は、そのガラス組成物が1,750℃以下の溶融温度を有するように調節される。いくつかの実施の形態において、SiO2の濃度は、約65モル%から約75モル%の範囲、または約69モル%から約73モル%の範囲、または約69モル%から約74モル%の範囲、または約70モル%から73モル%の範囲、または約68.84から74.07モル%の範囲、または約69.86モル%から約72.13モル%の範囲にある。
【0042】
Al2O3は、ここに記載されたガラスを製造するために使用される別のガラス形成材である。10モルパーセント以上のAl2O3の濃度が、ガラスに低い液相温度および高い粘度を与え、高い液相粘度をもたらす。少なくとも10モルパーセントのAl2O3を使用すると、ガラスの徐冷点およびヤング率を改善もする。比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3が1.0以上であるためには、Al2O3の濃度は約15モルパーセント未満であろう。いくつかの実施の形態において、Al2O3の濃度は、約12から14モルパーセントの範囲、または約11から約14モル%の範囲、または約11モル%から約13モル%の範囲、または約10.41モル%から約14.07モル%の範囲、または約11.58モル%から約13.01モル%の範囲にある。いくつかの実施の形態において、Al2O3の濃度は、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3の比を1.0以上に維持しつつ、約10.0モル%以上、10.5モル%以上、11.0モル%以上、11.5モル%以上、12.0モル%以上、12.5モル%以上、または13.0モル%以上である。
【0043】
本開示のいくつかの実施の形態は、約83GPa超、または約83.5GPa超、または約84GPa超、または約84.5GPa超、または約85GPa超のヤング率を有する。
【0044】
アルミノケイ酸塩ガラス物品のいくつかの実施の形態の密度は、約2.7g/cc未満、または2.65約g/cc未満、または約2.61g/cc未満である。様々な実施の形態において、その密度は、約2.48g/ccから約2.65g/ccの範囲内にある。
【0045】
B2O3は、ガラス形成材でありかつ、溶融を促進し、溶融温度を低下させる融剤でもある。それには、液相温度および粘度の両方に影響がある。ガラスの液相粘度を上昇させるために、B2O3を増加させることを使用できる。これらの効果を達成するために、1つ以上の実施の形態のガラス組成物は、0.01モルパーセント以上のB2O3の濃度を有することがある。SiO2に関して先に述べたように、ガラスの耐久性は、LCD用途にとって非常に重要である。耐久性は、上昇した濃度のアルカリ土類酸化物によりある程度制御することができ、上昇したB2O3含有量によって著しく低下させることができる。徐冷点は、B2O3が増加すると共に低下し、よって、アモルファスシリコン基板における典型的な濃度に対して、B2O3含有量を低く維持することが役立つであろう。それゆえ、いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、約0.0から3モルパーセント、または0超から約3モル%、または約0.0から約1モル%、または約0から約2モル%の範囲内のB2O3濃度を有する。
【0046】
Al2O3およびB2O3の濃度は、ガラスの溶融特性および成形特性を維持しつつ、徐冷点を上昇させ、モジュラスを増加させ、耐久性を改善し、密度を低下させ、熱膨張係数(CTE)を減少させるために、対として選択することができる。
【0047】
例えば、B2O3の増加およびAl2O3の対応する減少は、より低い密度とCTEを維持するのに役立ち得るのに対し、Al2O3の増加により、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3の比が約1.0未満に減少しないという条件で、Al2O3の増加およびB2O3の対応する減少は、徐冷点、モジュラス、および耐久性を上昇させるのに役立ち得る。約1.0未満の(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3の比について、シリカの原材料の後期溶融のために、ガラスからガス状含有物を除去することが難しいか、または不可能であろう。さらに、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3≦1.05である場合、アルミノケイ酸塩結晶であるムライトが液相として現れ得る。ムライトが液相として一旦存在したら、液相線の組成感度が著しく増加し、ムライトの失透生成物が、非常に急速に成長し、かつ一旦生じたら、除去するのが非常に難しい。それゆえ、いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3≧1.0(すなわち、約1.0以上)を有する。様々な実施の形態において、このガラスは、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3≧1.05(すなわち、約1.05以上)、または約1から約1.25の範囲内にある上記比を有する。
【0048】
1つ以上の実施の形態において、AMLCD用途に使用するガラスは、約3.0ppmから約4.0ppmの範囲内、または約3.2ppmから3.9ppmの範囲内、または約3.23ppmから約3.88ppmの範囲内の熱膨張係数(CTE)(温度範囲22~300℃に亘る)を有する。
【0049】
ここに記載されたガラスは、ガラス形成材(SiO2、Al2O3、およびB2O3)に加え、アルカリ土類酸化物も含む。1つの実施の形態において、少なくとも3つのアルカリ土類酸化物、例えば、MgO、CaO、およびBaO、並びに必要に応じて、SrOが、前記ガラス組成物の一部である。そのアルカリ土類酸化物は、ガラスに、溶融、清澄、成形、および最終用途にとって重要な様々な性質を与える。したがって、これらに関するガラス性能を改善するために、1つの実施の形態において、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3の比は、約1.0以上である。この比が増加するにつれて、粘度は、液相温度よりも強力に上昇する傾向にあり、それゆえ、T35k-Tliqの適切に高い値を得ることが次第に難しくなる。それゆえ、別の実施の形態において、比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3は、約2以下である。いくつかの実施の形態において、比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3は、約1から約1.2の範囲内、または約1から約1.16の範囲内、または約1.1から約1.6の範囲内である。詳しい実施の形態において、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3の比は、約1.7未満、または1.6未満、または1.5未満である。
【0050】
本開示の特定の実施の形態について、アルカリ土類酸化物は、事実上、単一の組成成分であるものとして扱われることがある。これは、粘弾性特性、液相温度および液相の関係に対する影響が、ガラス形成酸化物であるSiO2、Al2O3およびB2O3に対するものより、定性的に互いにより似ているためである。しかしながら、アルカリ土類酸化物のCaO、SrOおよびBaOは、長石鉱物、特に、灰長石(CaAl2Si2O8)およびセルシアン(BaAl2Si2O8)および同じストロンチウムを有する固溶体を形成することができるが、MgOは、これらの結晶に著しい程度には関与しない。したがって、長石結晶がすでに液相である場合、MgOの上乗せ添加は、結晶に対して液体を安定化し、それゆえ、液相温度を低下させる働きをするであろう。それと同時に、粘度曲線は、一般に、より急勾配となり、低温粘度にほとんどまたは全く影響せずに、溶融温度を低下させる。
【0051】
少量のMgOの添加は、高い徐冷点、およびそれゆえ低い圧密を維持しつつ、液相温度を低下させ、液相粘度を増加させることによって、成形に有利に働き、溶融温度を低下させることによって、溶融に有利に働くであろうことを本発明者等は見出した。様々な実施の形態において、前記ガラス組成物は、約4モル%から約8モル%の範囲内、または約4モル%から約7モル%の範囲内、または約3.44モル%から約7.45モル%の範囲内、または約4.44モル%から約6.45モル%の範囲内の量でMgOを含む。
【0052】
意外なことに、T35k-Tliqの値が適切に高いガラスでは、他のアルカリ土類酸化物に対するMgOの比、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が、比較的狭い範囲内に入ることを本発明者等は見出した。先に述べたように、MgOを添加すると、長石鉱物が不安定になり、それゆえ、液体が安定化し、液相温度が低下し得る。しかしながら、MgOが一旦特定のレベルに達すると、ムライトAl6Si2O13が安定化され、それゆえ、液相温度が上昇し、液相粘度が低下するであろう。さらに、より高濃度のMgOは、液体の粘度を低下させる傾向にあり、それゆえ、MgOの添加によって液相粘度が不変のままである場合でさえ、やがて、液相粘度が低下することとなる。それゆえ、別の実施の形態において、0.20≦MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)≦0.40、またはいくつかの実施の形態において、0.22≦MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)≦0.37。MgOは、他の所望の性質を得るのと一致して、T35k-Tliqの値を最大にするために、これらの範囲内で、ガラス形成材および他のアルカリ土類酸化物に対して変えられてもよい。
【0053】
操作のどの特定の理論によっても束縛されないが、前記ガラス組成物中に存在する酸化カルシウムは、低い液相温度(高い液相粘度)、高い徐冷点とヤング率、およびフラットパネル用途、特にAMLCD用途に最も望ましい範囲のCTEを生じることができると考えられる。その存在は、化学的耐久性に有利に寄与もし、他のアルカリ土類酸化物と比べて、それは、バッチ材料として比較的安価である。しかしながら、高濃度では、CaOにより、密度およびCTEが増す。さらに、十分に低いSiO2濃度で、CaOは、灰長石を安定化し、それゆえ、液相粘度を低下させることがある。したがって、1つ以上の実施の形態において、CaOの濃度は、4.0モル%以上であり得る。様々な実施の形態において、そのガラス組成物中のCaOの濃度は、約5モル%から約10モル%の範囲内、または約5モル%から約6モル%の範囲内、または約5モル%から約7モル%の範囲内、または約4.19モル%から約8.23モル%の範囲内、または約5.53モル%から約7.23モル%の範囲内にある。
【0054】
SrOおよびBaOは両方とも、低い液相温度(高い液相粘度)に寄与し得、それゆえ、ここに記載されたガラスは、典型的に、少なくともこれらの酸化物の両方を含有する。しかしながら、これらの酸化物の選択および濃度は、CTEと密度の増加、およびモジュラスと徐冷点の低下を避けるように選択される。SrOおよびBaOの相対的比率は、そのガラスをダウンドロー法で成形できるように、物理的性質と液相粘度の適切な組合せを得るようにバランスをとることができる。様々な実施の形態において、そのガラスは、約0から約5モル%、または約3から約4モル%、または約0超から約3モル%の範囲内、または約0モル%から約3.36モル%の範囲内、または約0.09モル%から約1.67モル%の範囲内でSrOを含む。1つ以上の実施の形態において、そのガラスは、約0から約5モル%、または1から約5モル%、または約0.91から約5.59モル%、または約2.92モル%から約4.57モル%の範囲内でBaOを含む。
【0055】
本開示のガラスの中心成分の効果/役割をまとめると、SiO2が基礎ガラス形成材である。Al2O3およびB2O3も、ガラス形成材であり、対として選択することができ、例えば、B2O3の増加およびAl2O3の対応する減少は、より低い密度とCTEを得るために使用されるのに対し、Al2O3の増加により、RO=(MgO+CaO+SrO+BaO)である、RO/Al2O3の比が約1.0未満に減少しないという条件で、Al2O3の増加およびB2O3の対応する減少は、徐冷点、ヤング率、および耐久性を上昇させるのに使用される。この比が低くなり過ぎると、溶融性が損なわれる、すなわち、溶融温度が高くなり過ぎる。溶融温度を低くするために、B2O3を使用することができるが、高レベルのB2O3は徐冷点を損なう。
【0056】
溶融性および徐冷点の検討事項に加え、AMLCD用途について、ガラスのCTEは、シリコンのCTEに適合すべきである。そのようなCTE値を達成するために、例示のガラスは、ガラスのRO含有量を制御することができる。所定のAl2O3含有量について、RO含有量を制御することは、RO/Al2O3比を制御することに対応する。実際には、RO/Al2O3比が約1.6未満である場合、適切なCTEを有するガラスを製造することができる。
【0057】
これらの検討事項に加えて、それらのガラスは、ダウンドロー法、例えば、フュージョン法により成形可能であることが好ましい。これは、ガラスの液相粘度が比較的高い必要があることを意味する。個々のアルカリ土類は、そうでなければ形成されるであろう結晶相を不安定にさせ得るので、この点に関して、重要な役割を果たす。BaOおよびSrOは、液相粘度を制御する上で特に効果的であり、少なくともこの目的のために、例示にガラスに含まれる。下記に提示された例に示されるように、アルカリ土類の様々な組合せにより、液相粘度が高いガラスが製造され、そのアルカリ土類の合計は、低い溶融温度、高い徐冷点、および適切なCTEを達成するのに必要なRO/Al2O3比の制約を満たす。いくつかの実施の形態において、液相粘度は、約150kP以上である。
【0058】
上記成分に加え、ここに記載されたガラス組成物は、ガラスの様々な物理的属性、溶融属性、清澄属性、および成形属性を調節するために、様々な他の酸化物を含み得る。そのような他の酸化物の例としては、以下に限られないが、TiO2、MnO、Fe2O3、ZnO、Nb2O5、MoO3、Ta2O5、WO3、Y2O3、La2O3、およびCeO2、並びに他の希土類酸化物およびリン酸塩が挙げられる。1つの実施の形態において、これらの酸化物の各々の量は、2.0モルパーセント以下であり得、それらの総濃度は、5.0モルパーセント以下であり得る。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0から約2モル%、または約0から約1モル%の範囲の量でZnO、Y2O3、および/またはZrO2を含む。ここに記載されたガラス組成物は、バッチ材料に関連する、および/またはガラスを製造するために使用される溶融、清澄、および/または成形装置によってガラス中に導入される、様々な汚染物質、特に、Fe2O3およびZrO2も含み得る。そのガラスは、酸化スズ電極を使用したジュール溶融の結果として、および/またはスズ含有材料、例えば、SnO2、SnO、SnCO3、SnC2O2などのバッチ配合により、SnO2も含有し得る。
【0059】
前記ガラス組成物は、概して無アルカリである;しかしながら、そのガラスは、いくらかのアルカリ汚染物質を含有し得る。AMLCD用途の場合、ガラスから薄膜トランジスタ(TFT)のシリコン中へのアルカリイオンの拡散によるTFT性能への悪影響を避けるために、アルカリレベルを0.1モルパーセント未満に維持することが望ましい。ここに用いられているように、「無アルカリガラス」は、0.1モルパーセント以下の総アルカリ濃度を有するガラスであり、ここで、総アルカリ濃度は、Na2O、K2O、およびLi2Oの濃度の合計である。1つの実施の形態において、その総アルカリ濃度は、0.1モルパーセント以下である。
【0060】
先に述べたように、1.0以上の(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3比は、清澄、すなわち、溶融されたバッチ材料からのガス状含有物の除去を改善する。この改善によって、より環境に優しい清澄パッケージを使用することができる。例えば、酸化物基準で、ここに記載されたガラス組成物は、以下の組成特徴の内の1つ以上または全てを有し得る:(i)多くとも0.05モルパーセントのAs2O3濃度、(ii)多くとも0.05モルパーセントのSb2O3濃度、(iii)多くとも0.25モルパーセントのSnO2濃度。
【0061】
As2O3は、AMLCD用ガラスの効果的な高温清澄剤であり、ここに記載されたいくつかの実施の形態において、As2O3は、その優れた清澄特性のために、清澄に使用される。しかしながら、As2O3は、有害であり、ガラス製造過程中に特別な取扱いを要する。したがって、特定の実施の形態において、清澄は、相当量のAs2O3を使用せずに行われる、すなわち、完成したガラスは、多くとも0.05モルパーセントのAs2O3しか含まない。1つの実施の形態において、ガラスの清澄には、As2O3は意図的に使用されない。そのような場合、完成したガラスは、典型的に、バッチ材料および/またはそのバッチ材料を溶融するのに使用される設備中に存在する汚染物質の結果として、多くとも0.005モルパーセントのAs2O3しか有さない。
【0062】
As2O3ほど毒性ではないが、Sb2O3も、有害であり、特別な取扱いを要する。その上、Sb2O3は、清澄剤としてAs2O3またはSnO2を使用するガラスと比べて、密度を上昇させ、CTEを上昇させ、徐冷点を低下させる。したがって、特定の実施の形態において、清澄は、相当量のSb2O3を使用せずに行われる、すなわち、完成したガラスは、多くとも0.05モルパーセントのSb2O3しか有さない。別の実施の形態において、ガラスの清澄には、Sb2O3は意図的に使用されない。そのような場合、完成したガラスは、典型的に、バッチ材料および/またはそのバッチ材料を溶融するのに使用される設備中に存在する汚染物質の結果として、多くとも0.005モルパーセントのSb2O3しか有さない。
【0063】
As2O3およびSb2O3による清澄と比べて、スズによる清澄(すなわち、SnO2による清澄)は、それほど効果的ではないが、SnO2は、公知の有害な特性を持たないどこにでもある材料である。また、長年に亘り、SnO2は、AMLCD用ガラスのバッチ材料のジュール溶融における酸化スズ電極の使用により、そのようなガラスの一成分である。AMLCD用ガラスにおけるSnO2の存在は、液晶ディスプレイの製造におけるこれらのガラスの使用にどのような公知の悪影響ももたらしていない。しかしながら、高濃度のSnO2は、AMLCD用ガラスに結晶欠陥を形成させ得るので、好ましくない。ひとつの実施の形態において、完成したガラス中のSnO2の濃度は、0.25モルパーセント以下である。
【0064】
いくつかの実施の形態において、予期せぬことに、ここに記載された粘度がより高いガラスは、ガラスにどのような有害な影響ももたらさずに、より高濃度のSnO2を含むことができることが分かった。例えば、従来の見識は、高い徐冷点を有するガラスは、高い溶融温度をもたらすという情報を与えるであろう。そのような高い溶融温度は、それぞれのガラスにおいて悪化した含有物の品質をもたらし得る。そのような含有物の品質に対処するために、清澄剤を添加することができる;しかしながら、粘度が低いガラスは、一般に、ガラス中のその結晶化のために、SnO2を添加することができない。しかしながら、ここに記載されたような例示のガラスは、より高い粘度を有し得、より高い成形温度をもたらし、それゆえ、より高濃度の清澄剤をガラスに添加することができ、それによって、含有物が少なくなる。簡単に言えば、例示のガラスの組成を変えて、より高い工程温度を生じることによって、結晶化が生じる前に、含有物を除去するために、より多量の清澄剤を添加できることが分かった。それゆえ、例示のガラスは、0.001モル%と0.5モル%の間の濃度でSnO2を含み、約1270℃以上、約1280℃以上、または約1290℃以上のT35kPを有し得る。別の例示のガラスは、0.001モル%と0.5モル%の間の濃度でSnO2を含み、約1650℃以上、約1660℃以上、または約1670℃以上のT200Pを有し得る。別の例示のガラスは、0.001モル%と0.5モル%の間の濃度でSnO2を含み、約1270℃以上、約1280℃以上、または約1290℃以上のT35kP並びに約1650℃以上、約1660℃以上、または約1670℃以上のT200Pを有し得る。さらに例示のガラスは、0.001モル%と0.5モル%の間の濃度でSnO2を含み、約1150℃超、約1165℃超以上、または約1170℃超の液相温度を有し得る。そのようなガラスは、上述したようなT35kPおよび/またはT200Pも有し得る。もちろん、SnO2は、酸化スズ電極を使用するジュール溶融の結果として、および/またはスズ含有材料、例えば、SnO2、SnO、SnCO3、SnC2O2などのスズ含有材料のバッチ配合により、ガラスに与えることができる。
【0065】
スズによる清澄は、単独で使用しても、所望であれば、他の清澄技術との組み合わせで使用しても差し支えない。例えば、スズによる清澄は、ハロゲン化物による清澄、例えば、臭素による清澄と組み合わせることができる。他の可能性のある組合せとしては、以下に限られないが、スズによる清澄に加え、硫酸塩、硫化物、酸化セリウム、機械的泡立て、および/または真空による清澄が挙げられる。これらの他の清澄技術は単独で使用しても差し支えないと考えられる。特定の実施の形態において、(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3の比および個々のアルカリ土類の濃度を先に述べられた範囲内に維持することにより、清澄過程をより容易にかつより効果的に行うことができる。
【0066】
ここに記載されたガラスは、当該技術分野で公知の様々な技術を使用して製造することができる。1つの実施の形態において、これらのガラスは、例えば、フュージョンダウンドロー法などのダウンドロー法を使用して製造される。他の実施の形態において、これらのガラスは、フロート法を使用して製造される。1つの実施の形態において、無アルカリのガラスシートを製造する方法であって、そのシートを構成するガラスが、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaOおよびBaOを含み、酸化物基準で、1.0以上の(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3比を有するように、バッチ材料を選択し、溶融し、清澄する工程を有してなる方法が記載されている。
【0067】
米国特許第5785726号(Dorfeld等)、同第6128924号(Bange等)、同第5824127号(Bange等)、および同第7628038号と同第7628039号(De Angelis等)の各明細書に、無ヒ素ガラスを製造するプロセスが開示されている。米国特許第7696113号(Ellison)明細書には、ガス状含有物を最小にするために鉄およびスズを使用して、ヒ素とアンチモンを含まないガラスを製造するプロセスが開示されている。
【0068】
いくつかの実施の形態は、酸化物基準のモルパーセントで:65~75のSiO2、12~14のAl2O3、0~3のB2O3、4~8のMgO、5~10のCaO、0~5のSrO、および0~2のY2O3、ZrO2、およびZnOを含む他の酸化物を含むガラスに関する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、酸化物基準のモルパーセントで:69~73のSiO2、12~14のAl2O3、0~3のB2O3、4~7のMgO、5~6のCaO、3~4のSrO、および0~1%のY2O3、ZrO2、およびZnOを含む他の酸化物を含む。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、760℃超の歪み点を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、1650℃未満の200ポアズ温度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、1300℃未満の液相温度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、20,000ポアズ超の液相粘度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、85GPa超のヤング率を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、33GPa/g/cm3超の比弾性率を有する。
【0069】
いくつかの実施の形態は、酸化物基準のモルパーセントで:69~74のSiO2、11~14のAl2O3、0~3のB2O3、4~7のMgO、5~7のCaO、0~3のSrO、および1~5%のBaOを含むガラスに関する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、酸化物基準のモルパーセントで:70~73のSiO2、11~14のAl2O3、0~1のB2O3、4~7のMgO、5~7のCaO、0~3のSrO、および1~5%のBaOを含む。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、752℃超の歪み点を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、1300℃未満の液相温度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、20,000ポアズ超の液相粘度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、83.56GPa超のヤング率を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、32GPa/g/cm3超の比弾性率を有する。
【0070】
いくつかの実施の形態は、酸化物基準のモルパーセントで:68.84~74.07のSiO2、10.41~14.87のAl2O3、0~2のB2O3、3.44~7.45のMgO、4.19~8.23のCaO、0~3.36のSrO、0.91~5.59のBaO、および0.09~0.2%のSnO2を含むガラスに関する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、酸化物基準のモルパーセントで:69.86~72.13のSiO2、11.58~13.01のAl2O3、0~1のB2O3、4.44~6.45のMgO、5.53~7.23のCaO、0.09~1.67のSrO、2.92~4.57のBaO、および0.09~0.1%のSnO2を含む。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、760℃超の歪み点を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、1650℃未満の200ポアズ温度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、1300℃未満の液相温度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、20,000ポアズ超の液相粘度を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、85GPa超のヤング率を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、33GPa/g/cm3超の比弾性率を有する。
【0071】
いくつかの実施の形態は、酸化物基準のモルパーセントで、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、およびBaOを含み、関係式:78GPa≦69.91973399947+0.803977834357368×Al2O3-0.906331789808018×B2O3+0.773177760652988×MgO+0.358794596568283×CaO+0.0167545708595792×SrO-0.382565908440928×BaO≦90GPaにより定義されるヤング率を有するガラスに関する。いくつかの実施の形態は、酸化物基準のモルパーセントで、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、およびBaOを含み、関係式:750℃≦854.140323860904+4.46948220485465×Al2O3-14.4689626526177×B2O3-5.91884532478309×MgO-5.94752853843398×CaO-5.85611498931903×SrO-6.03112833503798×BaO≦860℃により定義される徐冷温度を有するガラスに関する。
【0072】
様々な開示の実施の形態は、その特定の実施の形態に関して記載された特定の特性、要素または工程を含むであろうことが認識されよう。ある特定の特性、要素または工程は、1つの特定の実施の形態に関して記載されているが、様々な図示されていない組合せまたは順序で代わりの実施の形態と置き換えられても、または組み合わされてもよいことも認識されよう。
【0073】
ここに用いられているように、名詞は、「少なくとも1つの」対象を指し、それと反対であると明白に示されていない限り、「たった1つの」対象に限定されるべきではないことも理解されよう。
【0074】
範囲は、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、とここに表すことができる。そのように範囲が表現された場合、例は、その1つの特定の値から、および/または他方の特定の値までを含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して、近似として表現されている場合、その特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。それらの範囲の各々の端点は、他方の端点に関してと、他方の端点とは独立しての両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0075】
ここに用いられている「実質的」、「実質的に」という用語、およびその変形は、記載された特性が、ある値または記載と等しいか、またはほぼ等しいことを留意することが意図されている。さらに、「実質的に類似の」とは、2つの値が等しいか、またはほぼ等しいことを意味することが意図されている。いくつかの実施の形態において、「実質的に類似の」とは、互いの約5%以内、または互いの約2%以内など、互いの約10%以内の値を意味することがある。
【0076】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを必要とすると考えられることは、決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に列挙していない場合、もしくはその工程を特定の順序に限定すべきことが、特許請求の範囲または説明に他の具体的に述べられていない場合、どの特定の順序も暗示されていることは、決して意図されていない。
【0077】
特定の実施の形態の様々な特性、要素または工程が、「含む」という移行句を使用して開示されることがあるが、移行句「からなる」または「から実質的になる」を使用して記載することができるものを含む、代わりの実施の形態が暗示されることを理解すべきである。それゆえ、例えば、A+B+Cを含む装置に対して暗示される代わりの実施の形態は、装置がA+B+Cからなる実施の形態、および装置がA+B+Cから実質的になる実施の形態を含む。
【0078】
本開示の精神および範囲から逸脱せずに、本開示に様々な改変および変更を行えることが、当業者に明白であろう。本開示の精神および実体を含む開示の実施の形態の改変、組合せ、下位の組合せおよび変更が当業者に想起されるであろうから、本開示は、付随の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内に全てを含むと解釈されるべきである。
【実施例】
【0079】
以下の実施例は、開示された主題による方法および結果を示すために、下記に述べられている。これらの実施例は、ここに開示された手段の全ての実施の形態を含むことは意図されておらず、代表的な方法および結果を示すことが意図されている。これらの実施例は、当業者に明白な本開示の同等物および変種を排除することは意図されていない。
【0080】
数(例えば、量、温度など)に関する精度を保証する努力が行われてきたが、ある程度の誤差および偏差を考慮すべきである。特に明記のない限り、温度は、℃で表されるか、または周囲温度であり、圧力は大気圧であるか、またはそれに近い。その組成物自体は、酸化物基準のモルパーセントで与えられ、100%に正規化されている。記載された過程から得られる生成物の純度および収率を最適にするために使用できる反応条件、例えば、成分濃度、温度、圧力および他の反応範囲と条件のバリエーションと組合せが数多くある。そのような工程条件を最適にするために、妥当かつ日常的な実験しか必要ない。
【0081】
表1に挙げられたガラスの性質は、ガラスの技術分野で標準の技術にしたがって決定した。それゆえ、温度範囲25~300℃に亘る線熱膨張係数(CTE)はppmで表され、徐冷点は℃で表されている。これらは、ファイバ伸長技術(それぞれ、ASTM基準E228-85およびC336)により決定した。グラム/cm3で表された密度は、アルキメデス法(ASTM C693)により測定した。℃で表された溶融温度(ガラス溶融物が200ポアズの粘度を示す温度として定義される)は、円筒形回転粘度計により測定した高温粘度データに対するフルチャーの式のフィッティングを用いて計算した(ASTM C965-81)。歪み点および徐冷点はビーム曲げ粘度計(BBV)により測定し、ガラスの軟化点(107.6ポアズと等しいガラスの粘度に対応する温度)より高い高温粘度(HTV)は、ASTM C965手順(B)にしたがって円筒形回転粘度計によって測定した。
【0082】
℃で表されたガラスの液相温度は、ASTM C829-81の標準勾配ボート液相線法を使用して測定した。この方法は、白金ボート内に粉砕ガラス粒子を入れる工程、温度勾配のある領域を有する炉内にそのボートを入れる工程、24時間に亘り適切な温度領域内でボートを加熱する工程、および顕微鏡検査によりガラスの内部に結晶が現れる最高温度を決定する工程を有してなる。より詳しくは、ガラス試料を一片でPtボートから取り出し、偏光顕微鏡法を使用して検査して、Ptと空気の界面に対して、および試料の内部に形成された結晶の位置と性質を特定する。炉の勾配はよく知られているので、温度対位置は、5~10℃以内で、うまく予測することができる。結晶が試料の内部に観察される温度は、ガラスの液相線(対応する試験期間について)を表すと解釈される。試験は、時折、より遅い成長段階を観察するために、より長い時間(例えば、72時間)で行われる。ポアズで表される液相粘度は、液相温度およびフルチャーの式の係数から決定した。
【0083】
GPaで表されたヤング率の値は、ASTM E1875-00e1に述べられた一般型の共鳴超音波スペクトロスコピー技術を使用して決定した。
【0084】
例示のガラスが表1に示されている。表1から分かるように、例示のガラスは、そのガラスを、AMLCD用基板用途、より詳しくは、低温ポリシリコンおよび酸化物薄膜トランジスタ用途などのディスプレイ用途に適したものとする密度、徐冷点およびヤング率の値を有する。表1に示されていないが、そのガラスは、市販のAMLCD用基板から得たものと類似の酸性および塩基性媒体中の耐久性を有し、それゆえ、AMLCD用途に適している。例示のガラスは、ダウンドロー技術を使用して形成することができ、特に、上述した基準により、フュージョン法に適合している。
【0085】
表1の例示のガラスは、90質量%が標準的な米国100メッシュの篩を通過するように粉砕されたシリカ源として市販の砂を使用して調製した。アルミナがアルミナ源であり、ペリクレースがMgO源であり、石灰石がCaO源であり、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウムまたはその混合物がSrO源であり、炭酸バリウムがBaO源であり、酸化スズ(IV)がSnO2源であった。原材料を完全に混合し、炭化ケイ素グローバーで加熱された炉内に吊された白金容器に装填し、1600℃と1650℃の間の温度で数時間に亘り溶融し撹拌して、均質性を確実にし、白金容器の底にあるオリフィスを通して送達した。得られたガラスのパテを徐冷点またはその近くで徐冷し、次に、様々な実験方法に施して、物理的、粘性および液相線属性を決定した。
【0086】
これらの方法は変わったものではなく、表1のガラスは、当業者に周知の標準方法を使用して調製できる。そのような方法に、連続溶融過程で行われるような、連続溶融過程があり、その連続溶融過程に使用される溶融装置は、ガス、電力、またはその組合せによって加熱される。
【0087】
例示のガラスを製造するのに適した原材料としては、SiO2源としての市販の砂;Al2O3源としての、アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナの水和形態、および様々なアルミノケイ酸塩、硝酸塩とハロゲン化物;B2O3源としての、ホウ酸、無水ホウ酸および酸化ホウ素;MgO源としての、ペリクレース、ドロマイト(CaO源でもある)、マグネシア、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、およびケイ酸マグネシウム、アルミノケイ酸塩、硝酸塩とハロゲン化物の様々な形態;CaO源としての、石灰石、アラゴナイト、ドロマイト(MgO源でもある)、ウォラストナイト、およびケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、硝酸塩とハロゲン化物の様々な形態;並びにストロンチウムおよびバリウムの酸化物、炭酸塩、硝酸塩とハロゲン化物が挙げられる。化学清澄剤が望ましい場合、SnO2として、別の主要なガラス成分との混合酸化物(例えば、CaSnO3)として、または酸化条件下で、SnO、シュウ酸スズ、ハロゲン化スズ、または当業者に公知のスズの他の化合物として、スズを添加することができる。
【0088】
表1のガラスは、清澄剤としてSnO2を含有するが、TFT基板用途のために十分な品質のガラスを得るために、他の化学清澄剤も使用して差し支えない。例えば、例示のガラスは、清澄を促進するための慎重な添加物として、As2O3、Sb2O3、CeO2、Fe2O3、およびハロゲン化物のいずれか1つまたは組合せを使用して差し支えなく、これらの内のいずれを、実施例に示されたSnO2化学清澄剤と共に使用しても差し支えない。これらの内、As2O3およびSb2O3は、一般に、有害材料として認識され、ガラス製造の過程またはTFTパネルの加工において生じるであろうものなどの廃棄流の規制の対象である。したがって、As2O3およびSb2O3の濃度を、個別に、または組合せで、0.005モル%以下に制限することが望ましい。
【0089】
例示のガラスに慎重に含まれる元素に加え、周期表におけるほぼ全ての安定元素が、原材料中の低レベルの汚染、製造過程における耐火物および貴金属の高温腐食、または最終的なガラスの属性を微調整するための低レベルでの慎重な導入のいずれかにより、あるレベルでガラス中に存在する。例えば、ジルコニウムは、ジルコニウムの豊富な耐火物との相互作用により、汚染物質とて導入されることがある。さらなる例としては、白金およびロジウムは、貴金属との相互作用により、導入されることがある。さらなる例として、鉄は、原材料中の混入物として導入されるか、またはガス状含有物の制御を向上させるために慎重に加えられることがある。さらなる例として、マンガンは、色を制御するために、またはガス状含有物の制御を向上させるために、導入されることがある。さらなる例として、アルカリは、Li2O、Na2OおよびK2Oの総濃度で約0.1モル%までのレベルで、混入成分として存在することがある。
【0090】
水素は、ヒドロキシル陰イオンOH-の形態で必然的に存在し、その存在は、標準的な赤外線分光技術によって確認することができる。溶解したヒドロキシルイオンは、例示のガラスの徐冷点に著しくかつ非線形的に影響し、それゆえ、所望の徐冷点を得るために、補償するのに主要酸化物成分の濃度を調節する必要があるであろう。ヒドロキシルイオン濃度は、原材料の選択または溶融システムの選択により、ある程度制御できる。例えば、ホウ酸はヒドロキシルの主要源であり、ホウ酸を酸化ホウ素と交換することは、最終的なガラス中のヒドロキシル濃度を制御するための有用な手段であり得る。同じ根拠が、ヒドロキシルイオン、水和物、もしくは物理吸着または化学吸着された水分子を含む化合物を含む他の潜在的な原材料に当てはまる。溶融過程にバーナが使用される場合、ひいては、ヒドロキシルイオンは、天然ガスおよび関連する炭化水素の燃焼からの燃焼生成物によっても導入され得、それゆえ、補償するために、溶融に使用されるエネルギーをバーナから電極にシフトすることが望ましいであろう。あるいは、溶解したヒドロキシルイオンの有害な影響を補うために、主要酸化物成分を調節する反復プロセスを代わりに利用してもよい。
【0091】
硫黄は、天然ガス中にしばしば存在し、同様に、多くの炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、および酸化物の原材料中の混入成分である。硫黄は、SO2の形態で、ガス状含有物の厄介な供給源であり得る。SO2の豊富な欠陥を形成する傾向は、原材料中の硫黄レベルを制御することにより、ガラスマトリクス中に低レベルの比較的還元された多価陽イオンを含ませることにより、有意な程度に管理することができる。理論で束縛する意図はないが、SO2の豊富なガス状含有物は、ガラス中に溶解した硫酸基(SO4
=)の還元により主に生じるようである。例示のガラスの上昇したバリウム濃度は、溶融の初期段階でガラス中の脱硫効果を増加させるようであるが、上述したように、バリウムは、低い液相温度、それゆえ、高いT35k-Tliqおよび高い液相粘度を得るのに必要とされる。原材料中の硫黄レベルを低レベルに慎重に制御することは、ガラス中の溶解硫黄(おそらく硫酸塩として)を減少させる有用な手段である。詳しくは、硫黄は、好ましくはバッチ材料中200質量ppm未満、より好ましくはバッチ材料中100質量ppm未満である。
【0092】
例示のガラスのSO2ブリスターを形成する傾向を制御するために、還元された多価元素を使用しても差し支えない。理論で束縛する意図はないが、これらの元素は、硫酸塩還元のための起電力を抑制する潜在的な電子供与体として挙動する。硫酸基の還元は、
SO4
=→SO2+O2+2e-
などの半反応に関して記載でき、式中、e-は電子を示す。この半反応の「平衡定数」は
Keq=[SO2][O2][e-]2/[SO4
=]
であり、式中、角括弧は化学的活性を示す。理想的には、その反応により、SO2、O2、およびe-から硫酸基を作らせたい。硝酸塩、過酸化物、または他の酸素の豊富な原材料を添加することは、役立つてあろうが、溶融の初期段階における硫酸基の還元に不利に働くかもしれず、これは、初めの段階で、それらを添加する利益を無効にするであろう。SO2は、ほとんどのガラス中に非常に低い溶解度を有し、よって、ガラス溶融過程に加えることが実際的ではない。電子は、還元された多価元素により「加えられる」であろう。例えば、第一鉄(Fe2+)の適切な電子供与半反応は
2Fe2+→2Fe3++2e-
と表される。
【0093】
電子のこの「活性」は、硫酸基還元反応を左に強制し、ガラス中でSO4
=を安定化させることができる。適切な還元された多価元素としては、以下に限られないが、Fe2+、Mn2+、Sn2+、Sb3+、As3+、V3+、Ti3+、および当業者に馴染みのある他のものが挙げられる。各場合において、ガラスの色に対する有害な影響を避けるために、もしくはAsとSbの場合には、エンドユーザの過程における廃棄物管理の複雑さを最小にするのにそのような成分を高い十分なレベルで加えることを避けるために、そのような成分の濃度を最小にすることが重要であろう。
【0094】
例示のガラスの主要酸化物成分、および上述した微量または混入成分に加え、原材料の選択により導入される汚染物質、またはガラス中のガス状含有物をなくすために使用される意図的な成分のいずれかとして、ハロゲン化物が様々なレベルで存在することがある。清澄剤として、約0.4モル%以下のレベルでハロゲン化物が含まれることがあるが、排ガス取扱設備の腐食を避けるために、できればより少量を使用することが一般に望ましい。いくつかの実施の形態において、個々のハロゲン化物元素の濃度は、個々のハロゲン化物の各々について、約200質量ppm未満、または全てのハロゲン化物元素の合計について、約800質量ppm未満である。
【0095】
これらの主要酸化物成分、微量および混入成分、多価元素およびハロゲン化物清澄剤に加え、所望の物理的、光学的または粘弾性特性を達成するために、低濃度の他の無色酸化物成分を含ませることが有用であろう。そのような酸化物の例としては、以下に限られないが、TiO2、ZrO2、HfO2、Nb2O5、Ta2O5、MoO3、WO3、ZnO、In2O3、Ga2O3、Bi2O3、GeO2、PbO、SeO3、TeO2、Y2O3、La2O3、Gd2O3、および当業者に公知の他の化合物が挙げられる。例示のガラスの主要酸化物成分の相対的比率を調節する反復プロセスによって、そのような無色酸化物は、徐冷点、T35k-Tliq、または液相粘度に許容できない影響を与えずに、約2モル%までのレベルまで加えることができる。
【0096】
表1は、いくつかの実施の形態によるガラスの実施例を示している。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
上の表1に関して、実施例3は、MgO・CaO・SiO
2・Al
2O
3(20質量%)系(例えば、
図8参照)のムライト、トリジマイトおよび灰長石の共焦点を与える。この実施の形態は、高い歪み点、高いヤング率、低い20
230ポアズ温度、低いCTEおよび低い密度などの多くの望ましい性質を与える。しかしながら、実施例3の液相温度は高く(1320℃)、液相粘度は低く(17,000ポアズ)、これにより、特定の製造過程にとっていくつかの難点がもたらされる。実施例17は、実施例3に対して約1モル%のAl
2O
3の増加を与え、これにより、歪み点、ヤング率が増加し、さらに200ポアズ温度が低下し、液相温度が低下し、液相粘度が増加する。実施例21は、実施例17におけるCaOの一部をSrOと置換して、液相線をさらに改善し、これにより、液相温度がうまく減少し、液相粘度が2倍になった。実施例21においてY
2O
3およびZrO
2を添加すると(実施例9および20)、液相温度がさらに低下し、高い歪み点および高いヤング率が維持された。ヤング率を増加させるために、いくつかの実施の形態においてY
2O
3およびZrO
2の含有を使用することができる。実施例10は、液相粘度を改善するために、Al
2O
3の濃度が減少し、アルカリ土類が増加した実施例12の変更例である。実施例10における液相温度を低下させるために、少量のY
2O
3、ZnOおよびZrO
2を添加した。それゆえ、1モル%のY
2O
3(実施例16)および1モル%のY
2O
3+0.5モル%のZnO(実施例8)により、溶融温度(200ポアズ温度)が約50℃低下したが、液相温度は維持された。実施例5は、溶融温度を改善するために、SiO
2が減少し、アルカリ土類が増加した実施例10の変更例であり、溶融温度は実施例10から40℃減少した。実施例5に少量のY
2O
3、ZnOおよびZrO
2を添加して、他の性質を改善した。表1の残りの実施例も、改善されたヤング率および低下した溶融温度を与える。
【0102】
表2は、いくつかの実施の形態によるガラスのさらに別の実施例を示している。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
いくつかの実施の形態において、例示の組成物は、所定の寸法の空間内に一群の点を収容する最小の凸形境界として定義できる凸包により記載されることがある。例えば、以下により境界される空間:68.64~74.07モル%のSiO
2、10.41~14.87モル%のAl
2O
3、0~2モル%のB
2O
3、3.44~7.45モル%のMgO、4.19~8.23モル%のCaO、0~3.36モル%のSrO、0.91~5.59モル%のBaO、および0.09~0.2モル%のSnO
2:を考えた場合、Al
2O
3およびB
2O
3をAl
2O
3_B
2O
3という名前のグループに分類し、残りを、それぞれの範囲でMgO、CaO、SrO、BaOおよびSnO
2を含有するROという名前のグループに分類することができる。次に、新たな三元空間を、表3、並び
図4および5に示されるように、境界が、モル%で表された以下の組成により設定される空間により定義することができる。
【0108】
【0109】
先の表3に列挙された組成により構成される境界によって範囲が定められた凸包内の組成物は、酸化物がモル%で測定される、それぞれ、式2および3により与えられる徐冷点およびヤング率を有する:
78GPa≦69.91973399947+0.803977834357368×Al2O3-0.906331789808018×B2O3+0.773177760652988×MgO+0.358794596568283×CaO+0.0167545708595792×SrO-0.382565908440928×BaO≦90GPa (2)
750℃≦854.140323860904+4.46948220485465×Al2O3-14.4689626526177×B2O3-5.91884532478309×MgO-5.94752853843398×CaO-5.85611498931903×SrO-6.03112833503798×BaO≦860℃ (3)
【0110】
図6および7は、表3に示された組成境界により範囲が定められた凸包(
図4および5)から無作為に選択された組成の試料群に関して、ずっと大きい組成群を有するグローバルモデルに対して、それぞれ、式(2)および(3)を使用して予測されたヤング率および徐冷点である。これらの図面は、凸包内のデータからの単線形モデルと、グローバルモデルとの間の一致を示している。凸包からの1000のデータの無作為抽出が、それぞれのヤング率および徐冷点の予測により一旦行われたら、線形モデルを構築することができる。式(2)および(3)は、凸包内のヤング率および徐冷点の有効な表現である。
【0111】
モル%で表された組成内にある、表3に列挙された組成によって境界が与えられる凸包内の組成物は、それぞれ、式(2)および(3)により与えられるそれぞれのヤング率および徐冷点を有する。
【0112】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0113】
実施形態1
酸化物基準のモルパーセントで、65~75%のSiO2、12~14%のAl2O3、0~3%のB2O3、4~8%のMgO、5~10%のCaO、0~5%のSrO、および0~2%のY2O3、ZrO2、およびZnOを含む他の酸化物を含むガラス。
【0114】
実施形態2
酸化物基準のモルパーセントで、69~73%のSiO2、12~14%のAl2O3、0~3%のB2O3、4~7%のMgO、5~6%のCaO、3~4%のSrO、および0~1%のY2O3、ZrO2、およびZnOを含む他の酸化物を含む、実施形態1に記載のガラス。
【0115】
実施形態3
760℃超の歪み点を有する、実施形態1または2に記載のガラス。
【0116】
実施形態4
1650℃未満の200ポアズ温度を有する、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラス。
【0117】
実施形態5
1300℃未満の液相温度を有する、実施形態1から4のいずれか1つに記載のガラス。
【0118】
実施形態6
20,000ポアズ超の液相粘度を有する、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラス。
【0119】
実施形態7
85GPa超のヤング率を有する、実施形態1から6のいずれか1つに記載のガラス。
【0120】
実施形態8
33GPa/g/cm3超の比弾性率を有する、実施形態1から7のいずれか1つに記載のガラス。
【0121】
実施形態9
実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラスから作られた液晶ディスプレイ用基板。
【0122】
実施形態10
酸化物基準のモルパーセントで、69~74%のSiO2、11~14%のAl2O3、0~3%のB2O3、4~7%のMgO、5~7%のCaO、0~3%のSrO、および1~5%のBaOを含むガラス。
【0123】
実施形態11
酸化物基準のモルパーセントで、70~73%のSiO2、11~14%のAl2O3、0~1%のB2O3、4~7%のMgO、5~7%のCaO、0~3%のSrO、および1~5%のBaOを含む、実施形態10に記載のガラス。
【0124】
実施形態12
752℃超の歪み点を有する、実施形態10または11に記載のガラス。
【0125】
実施形態13
1300℃未満の液相温度を有する、実施形態10から12のいずれか1つに記載のガラス。
【0126】
実施形態14
20,000ポアズ超の液相粘度を有する、実施形態10から13のいずれか1つに記載のガラス。
【0127】
実施形態15
83.56GPa超のヤング率を有する、実施形態10から14のいずれか1つに記載のガラス。
【0128】
実施形態16
32GPa/g/cm3超の比弾性率を有する、実施形態10から15のいずれか1つに記載のガラス。
【0129】
実施形態17
実施形態10から16のいずれか1つに記載のガラスから作られた液晶ディスプレイ用基板。
【0130】
実施形態18
酸化物基準のモルパーセントで、68.84~74.07%のSiO2、10.41~14.87%のAl2O3、0~2%のB2O3、3.44~7.45%のMgO、4.19~8.23%のCaO、0~3.36%のSrO、0.91~5.59%のBaO、および0.09~0.2%のSnO2を含むガラス。
【0131】
実施形態19
酸化物基準のモルパーセントで、69.86~72.13%のSiO2、11.58~13.01%のAl2O3、0~1%のB2O3、4.44~6.45%のMgO、5.53~7.23%のCaO、0.09~1.67%のSrO、2.92~4.57%のBaO、および0.09~0.1%のSnO2を含む、実施形態18に記載のガラス。
【0132】
実施形態20
760℃超の歪み点を有する、実施形態18または19に記載のガラス。
【0133】
実施形態21
1650℃未満の200ポアズ温度を有する、実施形態18から20のいずれか1つに記載のガラス。
【0134】
実施形態22
1300℃未満の液相温度を有する、実施形態18から21のいずれか1つに記載のガラス。
【0135】
実施形態23
20,000ポアズ超の液相粘度を有する、実施形態18から22のいずれか1つに記載のガラス。
【0136】
実施形態24
85GPa超のヤング率を有する、実施形態18から23のいずれか1つに記載のガラス。
【0137】
実施形態25
33GPa/g/cm3超の比弾性率を有する、実施形態18から24のいずれか1つに記載のガラス。
【0138】
実施形態26
実施形態18から25のいずれか1つに記載のガラスから作られた液晶ディスプレイ用基板。
【0139】
実施形態27
酸化物基準のモルパーセントで、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、およびBaOを含み、関係式:
78GPa≦69.91973399947+0.803977834357368×Al2O3-0.906331789808018×B2O3+0.773177760652988×MgO+0.358794596568283×CaO+0.0167545708595792×SrO-0.382565908440928×BaO≦90GPa
により定義されるヤング率を有するガラス。
【0140】
実施形態28
酸化物基準のモルパーセントで、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、およびBaOを含み、関係式:
750℃≦854.140323860904+4.46948220485465×Al2O3-14.4689626526177×B2O3-5.91884532478309×MgO-5.94752853843398×CaO-5.85611498931903×SrO-6.03112833503798×BaO≦860℃
により定義される徐冷温度を有するガラス。
【0141】
実施形態29
実施形態27または28に記載のガラスから作られた液晶ディスプレイ用基板。
【符号の説明】
【0142】
1 入口
2 圧縮端
3 エッジディレクタ
4 底部
9 堰の壁
10 基部