(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】免疫細胞の製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240201BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240201BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240201BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240201BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20240201BHJP
A61P 35/02 20060101ALN20240201BHJP
A61K 35/17 20150101ALN20240201BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/13
C12N15/62 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/17
(21)【出願番号】P 2021557872
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 KR2020004198
(87)【国際公開番号】W WO2020197319
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0036264
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0036265
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515276624
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ,イー ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハン-ソップ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ ユン
(72)【発明者】
【氏名】セオル,ビンナ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/195175(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/222593(WO,A1)
【文献】特表2017-513498(JP,A)
【文献】特表2018-528786(JP,A)
【文献】国際公開第2012/031744(WO,A1)
【文献】特表2018-531025(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0087727(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
I)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)又はII)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)及びCAR(Chimeric Antigen Receptor)遺伝子が導入された分離された細胞を、a) SCF(Stem Cell Factor)、FLT3(FMS-like Tyrosine Kinase)、IL(Interleukin)-3、IL-6及びCHIR99021を含む第1培地;並びにb)(1)SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、FICZ及びビオカニンAを含む培地、又は(2)SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、OKT3及びUCHT1を含む第2培地で、段階的に培養してNKT細胞に直接リプログラミングさせる段階を含む、iNKT(induced Natural Killer T)細胞の製造方法。
【請求項2】
上記a)の第1培地又はb)の第2培地は、FBS(Fetal Bovine Serum)、抗生剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上をさらに含む、請求項1に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項3】
リプログラミング因子が導入された分離された細胞は、上記a)の第1培地で4~8日間培養した後、上記b)の第2培地で12日間以上培養する、請求項1に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項4】
上記リプログラミング因子は、Lin28、Asc11、Pitx3、Nurr1、Lmx1a、Nanog、Oct4、Oct3、Sox2、Klf4、Myc及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上である、請求項1に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項5】
上記リプログラミング因子は、Oct4、Sox2、Klf4及びMycである、請求項4に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項6】
上記リプログラミング因子が導入される分離された細胞は、NKT細胞を除く体細胞である、請求項1に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項7】
上記CAR遺伝子は、上記リプログラミング因子導入の際、上記a)の第1培地で培養時又は上記b)の第2培地で培養時から選択されるいずれか一つの時点で上記分離された細胞に導入される、請求項1に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項8】
上記CAR遺伝子は、
i)CD8リーダ(Leader)、CD19 scFv、CD8ヒンジ(Hinge)、CD8膜貫通ドメイン及びFc-γ受容体を含むCAR遺伝子;
ii)CD8リーダ、CD19 scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRES(Internal Ribosome Entry Site)を含むCAR遺伝子;
iii)CD8リーダ、MSLN(Mesothelin)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子;並びに
iV)CD8リーダ、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子;からなる群から選択されるいずれか一つである、請求項1に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項9】
上記CAR遺伝子は、GFP(Green Fluorescent Protein)をさらに含む、請求項8に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項10】
上記製造されたiNKT細胞は、CD56+、CD3+及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上を発現する、請求項1に記載のiNKT細胞の製造方法。
【請求項11】
a)SCF(Stem Cell Factor)、FLT3(FMS-like Tyrosine Kinase)、IL(Interleukin)-3、IL-6及びCHIR99021を含む第1培地を含有する第1容器;並びにb)(1)SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、FICZ及びビオカニンAを含む培地、又は(2)SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、OKT3及びUCHT1を含む第2培地を含有する第2容器;を含むiNKT細胞製造用直接リプログラミング培地キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離されたヒト体細胞を直接リプログラミングして誘導されたナチュラルキラーT細胞(induced Natural Killer Tcell,iNKT)及びキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor; CAR)をコードするCAR遺伝子が導入されたiNKT細胞の製造方法、上記方法で製造されたiNKT細胞、上記iNKT細胞を含む細胞治療剤組成物及び癌の予防又は治療用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄、リンパ線、肝臓、脾臓、血液など多様な組織及び器官に存在するナチュラルキラーT(Natural Killer T,NKT)細胞はTリンパ球(Lymphocyte)とナチュラルキラー(Natural Killer,NK)細胞の特徴を共に有しているT細胞の一種であり、T細胞受容体(T-cellreceptor)とNK1.1等のT細胞又はNK細胞の表面抗原を共に発現することが知られている。
【0003】
一般的なT細胞は、MHC(Major Histocompatibility Complex)クラス(Class)I/MHCクラスIIにより提示される抗原を認知するが、NKT細胞はCD1d(MHC-like Molecule)により提示される糖脂質(α-GalCer;アルファーガラクトシルセラミド)を認知する。従って、T細胞及びNK細胞のような細胞毒性を有するNKTはT細胞の一種であるにもかかわらず、移植片対宿主病(Graft-versus-host Disease, GVHD)を誘発せず、自己由来だけではなく、同種由来細胞治療剤の開発に有用な細胞資源として認められている。活性化されたNKT細胞は、IFN(Interferon)、IL(Interleukin)-4、GM-CSF(Granulocyte-macrophage Colony-stimulating Factor)、IL-2、IL-13、IL-17、IL-21、TNF(Tumor Necrosis Factor)のような多様な種類のサイトカイン(Cytokine)及びケモカイン(Chemokine)を分泌してNKT細胞及び多様な免疫細胞(NK細胞、T細胞、B細胞、マクロファージ等)の免疫機能を調節することにより先天免疫と後天免疫の仲介的な機能を行うことが知られている。
【0004】
人体(末梢血液など)に存在する患者又は同種由来のNKT細胞は単純分離、増幅して生産する一次培養方法を通じて確保可能であるが、根本的には、NKT細胞が極少量(末梢血液の白血球内0.1-0.01%程度)で制限的に存在することが知られており、細胞ソースによるバッチ(Batch)間の細胞タイプの異質性、生産工程の複雑性及び可変性などの問題が指摘されている。代案としてNKT細胞への分化能を有する幹細胞の分化を通じて確保しようとする努力が進行しているが、低生産効率、相対的にかなりの時間及び費用の所要、生産工程が複雑であるなどが克服されるべき問題として指摘されている。従って、免疫細胞治療剤としての潜在力に優れたNKT細胞の活用を増進させるためには、優先的に新たなNKT細胞資源の確保または生産方法の開発が必要なのが現状である。
【0005】
最近、ターゲット癌細胞に対する特異性と活性化を促進し、結果的に抗癌治療効果を増進するための方法として単一クローン抗体と同様に特定癌表面抗原を標的にする癌細胞標的キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor; CAR)遺伝子を導入して生産された免疫細胞(CAR-T、CAR-NK細胞)の改善された抗癌効果が立証されながらCAR-免疫細胞治療剤の開発に対する関心が台頭している。キメラ抗原受容体(CAR)の発現が操作されたNKT細胞(CAR-NKT)はCAR-特異的な作用機序に依存的に抗癌増進効果を奏するT細胞とは異なり、樹状細胞(Dendritic Cell)の成熟誘導、NK及びCD8+ T 細胞活性化サイトカイン分泌を誘導することにより直接・間接的に高抗癌効果を奏することができる。また、MICと相互作用しないため、同種抗癌免疫細胞治療剤開発の主要な資源として浮上している。しかしながら、機能的に改善されたCAR-NKT細胞を生産するための初期NKT細胞資源が非常に制限的に新たなNKT細胞資源の確保又は生産方法の開発が必要なのが現状である。
【0006】
最近、体細胞リプログラミング技術を用いて比較的確保が容易な初期ヒト体細胞からこれと異なる系統の特性を有する高付加価値ヒト組織特異標的細胞を直接生産する技術が急発展している。しかし、今のところ直接リプログラミングを通じて分化工程過程なしにNKT細胞を生産する技術については報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Morgan RA, Hum Gene Ther. 2012;23:1043-1053
【文献】Wilkie S, J Immunol. 2008;180:4901-4909
【文献】Willemsen RA, Gene Ther. 2001;8:1601-1608
【文献】Emtage PC, Clin Cancer Res. 2008;14:8112-8122
【文献】Kakarla S, Cancer J. 2014;20:151-155
【文献】Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【文献】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989;
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ヒトNKT細胞を効率よく生産する方法を開発すべく鋭意努力した結果、NKT特異的なリプログラミング培地及びリプログラミング培養条件を開発し、これを通じて初期細胞資源の制限なしに分化工程の過程に必要ではない方法でヒト体細胞からNKT及びCAR-NKT細胞を作製することができ、生産されたNKT細胞に優れた癌細胞殺傷能を示して癌の予防又は治療に適用できることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、I)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)又はII)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)及びCAR(Chimeric Antigen Receptor)遺伝子が導入された分離された細胞を、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3 beta)阻害剤(Inhibitor)を含む第1培地;並びにb)(1)成長因子、サイトカイン及びAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)作用剤(Agonist)、又は(2)成長因子、サイトカイン及び抗-CD3抗体を含む第2培地で、段階的に培養してNKT細胞に直接リプログラミングさせる段階を含む、iNKT(induced Natural Killer T)細胞の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記方法により製造されたiNKT細胞を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、上記方法により製造されたiNKT細胞を有効成分として含む、癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、上記方法により製造されたiNKT細胞を有効成分として含む、癌の予防又は治療用薬学組成物を提供することにある。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β阻害剤を含む第1培地を含有する第1容器;並びにb)(1)成長因子、サイトカイン及びAHR作用剤、又は(2)成長因子、サイトカイン及び抗-CD3抗体を含む第2培地を含有する第2容器;を含むiNKT細胞製造用直接リプログラミング培地キットを提供することにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明による方法は、iNKT細胞又はCAR遺伝子が導入されたiNKT細胞を直接リプログラミングを通じて分離された細胞から生産することにより生産工程が簡素化され、生産時間が短く、これにより費用が節減され、NKT細胞の生産効率に優れ、誘導多能性幹細胞を経由することなく生産されることにより安全性が確保され、従来リプログラミング技術と差別化される優れたNKT細胞の生産性効果がある。また、上記方法により製造された、iNKT細胞又はCAR遺伝子が導入されたiNKT細胞は癌細胞殺傷能に優れるところ、癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物あるいは薬学組成物として有利に活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)体細胞直接リプログラミングによるiNKT製造方法の模式図、(B)PBMC細胞から製造したiNKT細胞を確認した結果である。
【
図2】CD3+CD8-細胞から製造したiNKT細胞を確認した結果である。
【
図3】iNKT第1培地及び第2培地の組成によるiNKT生産効率を確認した結果である。
【
図4】AHR作用剤または抗-CD3抗体添加有無によるiNKT生産効率を確認した結果である。
【
図5】製造されたiNKT細胞と癌細胞との共培養時にCD107a発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図6】製造されたiNKT細胞の癌細胞殺傷能を確認した結果である。
【
図7】膵臓癌細胞異種移植マウス動物モデルにおいて上記iNKT細胞の腫瘍成長抑制効果を確認した結果である。
【
図8】CAR遺伝子4種の構成ドメインを示した図である。
【
図9】体細胞直接リプログラミング及びCAR遺伝子導入によるCAR-iNKT製造方法の模式図である。
【
図10】CD19-CAR2細胞が導入されて製造されたCD19-CAR-iNKT細胞を確認した結果である。
【
図11】MSLN-CAR細胞が導入されて製造されたMSLN-CAR-iNKT細胞を確認した結果である。
【
図12】HER2-CAR細胞が導入されて製造されたHER2-CAR-iNKT細胞を確認した結果である。
【
図13】製造されたCD19-CAR2-INKT細胞の癌細胞殺傷能を確認した結果である。
【
図14】製造されたMSLN-CAR-iNKT細胞の癌細胞殺傷能を確認した結果である。
【
図15】製造されたHER2-CAR-iNKT細胞の癌細胞殺傷能を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本発明で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用され得る。即ち、本明細書で開示された多様な要素の全ての組み合わせが本発明の範疇に属する。また、下記の具体的な記述により本発明の範疇が制限されることはない。
【0017】
本発明の目的を達成するための一つの様態として、本発明は、I)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)又はII)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)及びCAR(Chimeric Antigen Receptor)遺伝子が導入された分離された細胞を、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3 beta)阻害剤(Inhibitor)を含む第1培地;並びにb)(1)成長因子、サイトカイン及びAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)作用剤(Agonist)、又は(2)成長因子、サイトカイン及び抗-CD3抗体を含む第2培地で、段階的に培養してNKT細胞に直接リプログラミングさせる段階を含む、iNKT(induced Natural Killer T)細胞の製造方法を提供する。
【0018】
本発明において用語、「NKT(Natural Killer T)細胞」とは、先天免疫及び後天免疫を担当するTリンパ球細胞の一種であり、身体の種々の組織で発見される。これはTCR(T Cell Receptor)鎖により2グループに分けられ、類型I NKT細胞は不変NKT細胞とも呼ばれるが、制限されたTCRβ-鎖レパートリーを有する不変のTCR鎖を用い、類型II NKT細胞は多様なTCR鎖の組み合わせを広範囲に発現する。NKT細胞は感染した細胞や腫瘍細胞など標的細胞を認知すれば、即刻攻撃して除去できることが知られており、T、NK細胞と共に免疫細胞治療剤開発の主要なターゲット細胞として認められている。
【0019】
NKT細胞は、多様な癌細胞を直接・間接的に殺傷する抗癌効果を有しており、癌疾患を対象とする治療剤及び再発抑制剤など既存の抗癌治療法の限界を克服するための有用な資源である。主に末梢血液から単純分離、増幅、又は幹細胞から分化誘導培養を通じてNKT細胞を生産する技術が開発されているが、依然として生産性が低く、時間及び費用がかなり要される等の問題が浮き彫りになっており、新たなNKT細胞資源の開発に対するニーズが高いのが実情である。
【0020】
また、癌細胞に対する特異性と活性化を促進するための案として多様な癌の抗原に特異的なキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor; CAR)を発現するNKT細胞(またはCAR-NKT細胞)を作製し、これを抗癌免疫細胞治療剤として開発するための関心が急増しているが、上記CAR-NKT細胞を製造する方法として一次培養したNK細胞に直接CAR遺伝子を導入する方法が用いられており、前述したように生産性が非常に低いなどの問題がある。
【0021】
これについて、本発明者らはNKT細胞を生体外培養条件で製造しようとし、その結果、直接リプログラミングを通じてNKT細胞を直接誘導及び生産できる方法を初めて究明した。
【0022】
本発明において用語、「iNKT(induced Natural Killer T)細胞」とは、本発明の方法により直接リプログラミングを通じて誘導された(induced)NKT(Natural Killer T)細胞を意味する。
【0023】
本発明において用語、「CAR-iNKT(induced Natural Killer T)細胞」とは、本発明の方法により直接リプログラミングを通じて誘導され(induced)、CAR遺伝子が導入されたNKT(Natural Killer T)細胞を意味する。
【0024】
本発明において用語、「リプログラミング(Reprogramming)」とは、特定細胞が有する全体遺伝子発現パターン(Global Gene Expression Pattern)などを調節し、全く異なる特性を有する目的とする細胞に系統を転換する方法を意味する。リプログラミングは細胞の逆分化(Dedifferentiation)、直接リプログラミング(Direct Reprogramming又はDirect Conversion)、又は直接分化転換(Trans-differentiation)を含んでもよいが、これに制限されない。本発明において、上記リプログラミングは外来遺伝子あるいはDNAを含むベクターを細胞に導入することにより行われてもよい。上記「転換」とは、細胞が異なる状態に変わることを意味し、上記「分化」とは、細胞が分裂して作られた娘細胞が本来の母細胞と異なる機能を得る現象を意味し、本発明において上記「転換」と「分化」は、「誘導」と混用され得る。
【0025】
本発明において用語、「直接リプログラミング(Direct Reprogramming)」とは、特定細胞をリプログラミング培地で培養して目的とする細胞への直接転換を誘導する方法を意味する。従来のリプログラミング技術を用いて目的細胞であるNKT細胞を生産するためには、1)分離された体細胞から誘導多能性幹細胞を生産し、2)誘導多能性幹細胞から中間体である造血幹(前駆)細胞を分化生産した後、3)分化した幹(前駆)細胞から目的細胞であるNKT細胞を分化生産しなければならなかった。このように、従来技術は、複雑な培養過程を順次経なければならないために、生産効率が低く、時間的、費用的消耗が多いという短所がある。また、全分化能を有する誘導多能性幹細胞を経由して生産されるため、未分化細胞の残留有無、安全性確保有無が検証されるべき重要な点である。これに対し、本発明は、直接リプログラミングを通じて分離された体細胞から目的細胞であるNKT細胞を直接生産することにより、生産時間が短く、費用が節約され、効率に優れ、安全性が確保されるところ、従来技術と差別化され、この問題を克服できる対案を提供することができる。上記直接リプログラミングは直接逆分化、直接分化、直接転換、直接分化転換、分化転換などと混用されてもよく、本発明において、上記直接リプログラミングは、分離された体細胞からNKT細胞への直接逆分化又は分化転換を意味してもよいが、これに制限されない。
【0026】
本発明において用語、「分化した細胞」とは、構造や機能が特殊化した細胞、即ち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられる役割をするために適した形態及び機能に変化した状態を意味する。例えば、広くは胚性幹細胞のような全分化能幹細胞に由来した外胚葉、中胚葉及び内胚葉細胞が分化した細胞であり、狭くは造血母細胞に由来した赤血球、白血球、血小板などが分化した細胞であってもよい。
【0027】
本発明において用語、「系統が転換された細胞」とは、細胞が有していた固有の系統特性が発生学的に又は人為的な方法(例えば、リプログラミング等)で変わって異なる系統特性を有する細胞類型に転換された細胞であり、転換される前の細胞類型の特性とは全く異なる細胞類型の特性を有する。本発明において、上記系統が転換された細胞は目的細胞であってもよい。例えば、末梢血液単核細胞内の非NKTリンパ球細胞がリプログラミング培地でのNKT細胞に転換されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0028】
本発明において、上記方法はI)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)又はII)リプログラミング因子(Reprogramming Factor)及びCAR(Chimeric Antigen Receptor)遺伝子が導入された分離された細胞を、a)の第1培地;並びにb)の(1)AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)作用剤(Agonist)を含む第2培地、又は(2)抗-CD3抗体を含む第2培地で、段階的に培養してNKT細胞に直接リプログラミングさせるものであってもよい。
【0029】
本発明の用語、「分離された細胞」とは、特別な制限はないが、具体的には生殖細胞、体細胞(Somatic cell)又は前駆細胞(Progenitor Cell)など、既に系統(Lineage)が特定された細胞であってもよい。上記「体細胞」とは、生殖細胞を除いた動・植物を構成する分化が完結したあらゆる細胞を意味し、上記「前駆細胞」とは、子孫に該当する細胞が特定分化形質を発現することが明らかになった場合、分化形質を発現しないが、その分化運命(Fate)を有している母細胞をいう。例えば、神経細胞(ニューロン)に対しては神経芽細胞(ニューロン幹細胞)が前駆細胞に該当し、筋管細胞に対しては筋芽細胞が前駆細胞に該当する。
【0030】
上記分離された細胞はヒトに由来した細胞であってもよいが、これに制限されず、多様な個体に由来した細胞も本発明の範囲内に属することができる。また、本発明の分離された細胞には生体内または生体外の細胞がいずれも含まれてもよい。具体的には、上記分離された細胞は体細胞であってもよく、より具体的には、NKT細胞を除いた体細胞であってもよいが、これに制限されない。
【0031】
本発明において用語、「リプログラミング因子(Reprogramming Factor)」とは、細胞に導入されてリプログラミングを誘導できる遺伝子(あるいはポリヌクレオチド)、又はこれからコーディングされるタンパク質を意味する。上記リプログラミング因子はリプログラミングを通じて得ようとする目的細胞により、そしてリプログラミングされる前の細胞の種類に応じて変わり得る。例えば、分離された体細胞をNKT細胞に誘導しようとする場合、上記分離された体細胞に導入されるリプログラミング因子は、Lin28、Asc11、Pitx3、Nurr1、Lmx1a、Nanog、Oct4、Oct3、Sox2、Klf4、Myc及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上を含むものであってもよく、具体的には、Oct4、Sox2、Klf4及びMycであってもよいが、これに制限されず、分離された体細胞をNKT細胞に誘導できるリプログラミング因子であれば当業界において公知となった全ての因子を含んでもよい。上記リプログラミング因子を用いたリプログラミングは、細胞が有する全遺伝子発現パターンを調節して目的細胞への転換を誘導するものであり、上記リプログラミング因子を細胞に導入し、細胞を一定期間培養することにより目的とする種類の細胞の遺伝子発現パターンを有する目的細胞に細胞をリプログラミングさせることができる。
【0032】
本発明において用語、「リプログラミング因子の導入」とは、リプログラミング因子を細胞の培養液に投与する方法;リプログラミング因子を細胞に直接注入する方法;細胞内に存在するリプログラミング因子の発現水準を増加させる方法;リプログラミング因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターを細胞に形質転換させる方法;リプログラミング因子をコードする遺伝子の発現が増加するように遺伝子配列を変形する方法;リプログラミング因子をコードする外来発現遺伝子を導入する方法、リプログラミング因子の発現誘導効果を奏する物質を処理する方法;及びこれらの組み合わせを通じて細胞内のリプログラミング因子の発現水準を増加させる方法であってもよいが、リプログラミング因子の発現水準を増加させることができる限り、これに制限されない。特に、リプログラミング因子の導入は、所望の時間及び条件の下でリプログラミング因子の発現を誘導するものであってもよい。具体的には、上記リプログラミング因子を細胞に導入する方法は、リプログラミング因子を細胞の培養液に投与する方法、リプログラミング因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターを細胞に形質転換させる方法であってもよいが、これに制限されない。
【0033】
上記リプログラミング因子を細胞に直接注入する方法は当業界において公知となった任意の方法を選択して用いることができ、これに制限されないが、マイクロインジェクション法(Microinjection)、電気穿孔法(Electroporation)、粒子噴射法(Particle bombardment)、直接筋肉注入法(Direct Muscle Injection)、インシュレータ(Insulator)及びトランスポゾンを用いた方法から適宜選択して適用できる。
【0034】
本発明において用語、「ベクター」とは、適した宿主内で目的タンパク質又はポリペプチドを発現させるように、適した調節配列及び上記目的タンパク質又はポリペプチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。上記調節配列は、プロモーター、オペレータ、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーを含んでもよい。本発明のベクターは、調節配列以外にも膜標的化又は分泌のための信号配列又はリーダ配列を含み、目的に応じて多様に製造され得る。ベクターのプロモーターは、構成的又は誘導性であってもよい。また、ベクターはベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能なベクターの場合、複製起源を含む。上記ベクターは、適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムと関係なく複製され、機能することができ、ゲノムそのものに統合され得る。
【0035】
本発明で用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能であれば、特に限定されず、当業界において知られた任意のベクターを用いることができる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態であるか、組み換えられた状態のウイルスベクター、エピソームベクター(Episomal Vector)、プラスミドベクター(Plasmid Vector)、コスミドベクター(Cosmid Vector)などを挙げることができる。
【0036】
具体的には、上記ウイルスベクターは、センダイウイルス(Sendai Virus)、レンチウイルス(Lentivirus)、HIV(Human Immunodeficiency Virus)、MLV(Murineleukemia Virus)、ASLV(Avian Sarcoma/Leukosis)、SNV(Spleen Necrosis Virus)、RSV(Rous Sarcoma Virus)、MMTV(Mouse Mammary Tumor Virus) などのレトロウイルス(Retrovirus)、アデノウイルス(Adenovirus)、アデノ関連ウイルス(Adeno-associated Virus)、単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus)などに由来したベクターを含んでもよく、より具体的には、RNA基盤ウイルスベクターであってもよいが、これに制限されない。
【0037】
上記エピソームベクターは、非ウイルス性非挿入性ベクターであり、染色体内に挿入されることなくベクターに含まれた遺伝子を発現させる特性を有することが知られている。従って、上記エピソームベクターを含む細胞は、エピソームベクターがゲノム内に挿入され、又はゲノム内に挿入されていない状態で細胞内に存在する場合をいずれも含んでもよい。
【0038】
本発明の用語「作動可能に連結された(Operably Linked)」とは、一般の機能を行うように核酸発現調節配列と目的とするタンパク質をコードする核酸配列が機能的に連結(Functional Linkage)されていることをいう。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野においてよく知られている遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野において一般に知られている酵素などを用いる。
【0039】
本発明において用語、「培養」とは、細胞を調節された環境条件で生育させることを意味し、本発明の培養過程は、当業界において知られた培地と培養条件に応じて行われ得る。このような培養過程は、選択される細胞に応じて当業者が容易に調整して用いることができる。本発明の目的上、上記培養は、リプログラミング因子が導入された細胞を異なる系統の目的細胞に転換する過程であるため、上記リプログラミング因子が導入された細胞を培養する第1培地又は第2培地の組成は、目的細胞に転換されるのに適した組成、例えば、成長因子、サイトカイン、GSK3β阻害剤、AHR作用剤または抗-CD3抗体などを含んでもよいが、これに制限されない。
【0040】
上記a)の第1培地は、成長因子、サイトカイン及びGSK3β阻害剤を含むものであってもよい。
【0041】
本発明において用語、「成長因子」とは、種々の細胞の分裂、成長及び分化を促進するポリペプチドを意味する。上記成長因子は、例えば、EGF(Epidermal Growth Factor)、PDGF-AA(Platelet-derived Growth Factor-AA)、IGF-1(Insulin-like Growth Factor 1)、TGF-β(Transforming Growth Factor-β)、FGF(Fibroblast Growth Factors)、SCF(Stem Cell Factor)及びFLT3(FMS-like Tyrosine Kinase)などであってもよく、具体的には、SCF、FLT3及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0042】
本発明において用語、「サイトカイン」とは、細胞から生産され、細胞信号伝達に用いられる比較的小さいサイズの多様なタンパク質であり、自身を含む他の細胞に影響を及ぼすことができる。一般に炎症又は感染に対する免疫反応と関連があることが知られている。上記サイトカインは、例えば、IL(Interleukin)-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、BMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)、アクチビンA(AcivinA)、ノッチリガンド(Notch Ligand)、G-CSF(Granulocyte-colony Stimulating Factor)、SDF-1(Stromal Cell-derived Factor-1)などであってもよく、具体的には、IL-3、IL-6、IL-2、IL-7、IL-15及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0043】
本発明の目的上、上記成長因子及びサイトカインは、分離された細胞を目的細胞に直接リプログラミングする培地に含まれ、成長因子及びサイトカインの種類は直接リプログラミングに用いられるものであれば、特に制限されない。
【0044】
本発明において用語、「GSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3 beta,GlycogenSynthaseKinase-3B)阻害剤(Inhibitor)」とは、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータの活性を阻害又は抑制する物質を意味する。上記GSK3β阻害剤は、例えば、1-Azakenpaullone, 2-D08, 3F8, 5-Bromoindole, 6-Bio, A 1070722, Aloisine A, AR-A014418, Alsterpaullone, AZD-1080, AZD2858, Bikinin, BIO, BIO-acetoxime, Bisindolylmaleimide I, Bisindolylmaleimide I Hydrochloride, CAS 556813-39-9, Cazpaullone, CHIR98014, CHIR98023, CHIR99021(CT99021), CP21R7, Dibromocantherelline, GSK-3β Inhibitor I, VI, VII, X, XI,XV, GSK-3 Inhibitor IX, XVI, Hymenidin, Hymenialdisine, HMK-32, I3M(Indirubin-3-monoxime, Indirubin, Indole-3-acetamide, IM-12, Kenpaullone, L803-mts, Leucettine L41, Lithium, Lithium Carbonate, LY-2090314, Manzamine A MeBIO, Meridianine A, NP00111, NP031115, NP031111, NSC 693868, Palinurin, Ro 31-8220 Methanesulfonate, SB-216763, SB-415286, TC-G 24, TCS 2002, TCS 21311, Tideglusib, Tricantin, Trihydrochloride, Tungstate, TWS-119, TZDZ-8, Zincなどであってもよく、具体的には、CHIR99021であってもよいが、これに制限されない。
【0045】
上記a)の第1培地は SCF、FLT3、IL-3、IL-6及びCHIR99021を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0046】
上記a)の第1培地は、FBS(Fetal Bovine Serum)、抗生剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上をさらに含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0047】
上記抗生剤は、ペニシリン/ストレプトマイシン(Penicillin/Streptomycin)であってもよいが、これに制限されない。
【0048】
具体的には、上記a)の第1培地は、FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、SCF、FLT3、IL-3、IL-6及びCHIR99021を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0049】
より具体的には、上記a)の第1培地は8~12%のFBS、0.1~2%のペニシリン/ストレプトマイシン、50~200ng/mlのヒトSCF、50~200ng/mlのヒトFLT3、10~30ng/mlのヒトIL-3、10~30のng/mlヒトIL-6、2~8UMのCHIR99021を含むStemSpan SFEM IIであってもよく、さらに具体的には、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、100ng/mlのヒトSCF、100ng/mlのヒトFLT3、20ng/mlのヒトIL-3、20ng/mlのヒトIL-6、5uMのCHIR99021を含むStemSpan SFEM IIであってもよいが、これに制限されない。
【0050】
上記b)の第2培地は(1)成長因子、サイトカイン及びAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)作用剤(Agonist)、又は(2)成長因子、サイトカイン及び抗-CD3抗体を含むものであってもよい。
【0051】
上記用語「成長因子」及び「サイトカイン」とは、前述した通りである。
【0052】
本発明において用語、「AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)作用剤(Agonist)」とは、TCDD(Dioxin(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin))により活性化されるリガンド活性化転写因子(Transcription Factor)であるAHRに結合して活性化させる物質を意味する。上記AHR作用剤は、例えば、TCDD(2,8-dihydroxyquinoline, 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin), FICZ(6-Formylindolo[3,2-b]carbazole)、ビオカニンAなどであってもよく、具体的には、FICZ、ビオカニンA及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0053】
本発明において用語、「抗-CD3抗体」とは、T細胞受容体(T Cell Receptor,TCR)と結合して抗原認識複合体を形成する分子群であるCD3抗原に特異的に反応するタンパク質であり、CD3分子は、TCRと比較して細胞内領域が長く、抗原認識信号を細胞内に伝達することが知られている。上記抗-CD3抗体は、例えば、OKT-3、UCHT1、HIT3aなどであってもよく、具体的には、OKT3、UCHT1及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0054】
上記b)の第2培地は(1)AHR作用剤を含む第2培地の場合、SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、FICZ及びビオカニンAを含んでもよく、又は(2)抗-CD3抗体を含む第2培地の場合、SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、OKT3及びUCHT1を含んでもよいが、これに制限されない。
【0055】
上記b)の第2培地は、FBS、抗生剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上をさらに含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0056】
上記抗生剤は、ペニシリン/ストレプトマイシンであってもよいが、これに制限されない。
【0057】
具体的には、上記b)の第2培地は(1)AHR作用剤を含む第2培地の場合、FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、FICZ及びビオカニンAを含んでもよく、又は(2)抗-CD3抗体を含む第2培地の場合、FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、SCF、FLT3、IL-2、IL-7、IL-15、OKT3及びUCHT1を含んでもよいが、これに制限されない。
【0058】
より具体的には、上記b)の第2培地中、(1)AHR作用剤を含む第2培地は8~12%のFBS、0.1~2%のペニシリン/ストレプトマイシン、10~30ng/mlのヒトSCF、10~30ng/mlのヒトFLT3、100~500IU/mlのヒトIL-2、10~30ng/mlのヒトIL-7、10~30ng/mlのヒトIL-15、1~3uMのFICZ及び10~30μg/mlのビオカニンAを含むStemSpan SFEM IIであってもよく、さらに具体的には、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mlのヒトSCF、20ng/mlのヒトFLT3、200 IU/mlのヒトIL-2、20ng/mlのヒトIL-7、20ng/mlのヒトIL-15、2uMのFICZ及び20μg/mlのビオカニンAを含むStemSpan SFEM IIであってもよいが、これに制限されない。
【0059】
上記b)の第2培地中、(1)抗-CD3抗体を含む第2培地は8~12%のFBS、0.1~2%のペニシリン/ストレプトマイシン、10~30ng/mlのヒトSCF、10~30ng/mlのヒトFLT3、100~500IU/mlのヒトIL-2、10~30ng/mlのヒトIL-7、10~30ng/mlのヒトIL-15、5~15ng/mlのOKT3及び5~15ng/mlのUCHT1を含むStemSpan SFEM IIであってもよく、さらに具体的には、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mlのヒトSCF、20ng/mlのヒトFLT3、200 IU/mlのヒトIL-2、20ng/mlのヒトIL-7、20ng/mlのヒトIL-15、10ng/mlのOKT3及び10ng/mlのUCHT1を含むStemSpan SFEM IIであってもよいが、これに制限されない。
【0060】
上記方法において、リプログラミング因子が導入された分離された細胞は、上記a)の第1培地で4~8日間培養した後、上記b)の第2培地で12日間以上培養するものであってもよいが、これに制限されない。
【0061】
本発明の一実施例では、末梢血液単核細胞または末梢血液単核細胞を構成するT細胞の亜型であるCD3+CD8-細胞群にリプログラミング因子を形質転換するためにリプログラミング因子を発現するセンダイウイルスを上記細胞と1日間培養し、形質転換された細胞をiNKT第1培地で5日間培養した後、AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)作用剤(Agonist)を含むiNKT第2培地又は抗-CD3抗体を含むiNKT第2培地で12~35日間培養してNKT細胞に誘導した結果、末梢血液単核細胞中、62%、CD3+CD8-細胞群中、94.1%がiNKT細胞に誘導されたことを確認した(
図1B、
図2)。
【0062】
本発明の他の一実施例では、iNKT第2培地にAHR作用剤が含まれた場合又は抗-CD3抗体が含まれた場合が含まれていない場合よりiNKT細胞製造効率が3.7~4.7倍以上優れることを確認した(
図4)。これは、AHR作用剤又は抗-CD3抗体が直接リプログラミングを通じたNKT製造方法で重要な役割をすることを確認した。
【0063】
発明において用語、「CAR遺伝子」とは、抗体ドメイン(scFv)を含む細胞外ドメイン、細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインをコードする遺伝子を含み、上記細胞外ドメイン、細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインからなるキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor)をコードする遺伝子を意味する。本発明の目的上、本発明のCAR遺伝子はCD19 scFvを含むCD19-CAR1遺伝子またはCD19-CAR2遺伝子、MSLN(mesothelin) scFvを含むMSLN-CAR遺伝子及びHER2(human epidermal growth factor receptor 2) scFvを含むHER2-CAR遺伝子からなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0064】
固形腫瘍に対するCARの標的因子としては、EGFRvIII(Morgan RA, Hum Gene Ther. 2012;23:1043-1053(非特許文献1)), MUC-1(Wilkie S, J Immunol. 2008;180:4901-4909(非特許文献2)), MAGE(Willemsen RA, Gene Ther. 2001;8:1601-1608(非特許文献3)), CEA(Emtage PC, Clin Cancer Res. 2008;14:8112-8122(非特許文献4)), PSMA, GD2, CA125, Her2及びMSLN, FAP, VEGFR(Kakarla S, Cancer J. 2014;20:151-155(非特許文献5))などが用いられることが知られている。
【0065】
また、上記CD19は、細胞表面抗原群(Cluster of Differentiation; CD)として免疫表現型に応じて細胞表面分子を識別する番号19を割り当てたことで、上記CD19は、Bリンパ球の標識子を意味する。上記CD19は、大部分のB-細胞悪性腫瘍癌細胞で発現し、これら癌腫に対する理想的な標的を提供することが知られている。
【0066】
具体的には、上記CAR遺伝子は、i)CD8リーダ(Leader)、CD19 scFv、CD8ヒンジ(Hinge)、CD8膜貫通ドメイン及びFc-γ(Gamma)受容体を含むCAR遺伝子(CD19-CAR1遺伝子);ii)CD8リーダ、CD19 scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRES(Internal Ribosome Entry Site)を含むCAR遺伝子(CD19-CAR2遺伝子);iii)CD8リーダ、MSLN(Mesothelin)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子(MSLN-CAR遺伝子);並びにiV)CD8リーダ、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子(HER2-CAR遺伝子);からなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0067】
上記CD8リーダは配列番号1、CD19 scFvは配列番号2、MSLN scFvは配列番号3、HER2 scFvは配列番号4、CD8ヒンジは配列番号5、CD8膜貫通ドメインは配列番号6、Fc-γ受容体は配列番号7、CD28細胞内ドメインは配列番号8、CD3ζは配列番号9、上記CAR遺伝子を、二重シストロンを構成するベクターにクローニングするために挿入するIRESは配列番号10の塩基配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0068】
上記CAR遺伝子は、GFP(Green Fluorescent Protein)をさらに含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0069】
上記GFPは、配列番号11の塩基配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0070】
上記配列番号1~配列番号11の塩基配列は、公知のデータベースであるNCBI Genbankでその配列を確認することができる。
【0071】
本発明において、上記配列番号1~配列番号11の塩基配列は、上記配列番号1~配列番号11と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の相同性(Homology)又は同一性(Identity)を有する塩基配列を含んでもよい。また、このような相同性又は同一性を有し、上記配列番号1~配列番号11の塩基配列と対応する機能を示す塩基配列であれば、一部配列が欠失、変形、置換又は付加された塩基配列を有する配列も本発明の範囲内に含まれることは自明である。
【0072】
本発明の用語「相同性(Homology)及び同一性(Identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列と関連した程度を意味し、百分率で表されることができる。用語、相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられ得る。
【0073】
保存された(Conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立したデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有し(Homologous)又は同一の(Identical)配列は、中間又は高いストリンジェントな条件(Stringent Condition)で一般的に配列全体または全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上でハイブリッドすることができる。ハイブリッド化は、ポリヌクレオチドでコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0074】
上記ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列に対する相同性又は同一性は、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST[参照:Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)(非特許文献6)]、又はPearsonによるFASTA(参照: Methods Enzymol., 183, 63, 1990(非特許文献7))を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照: http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。また、任意のアミノ酸又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するかどうかは定義されたストリンジェントな条件の下でサザンハイブリダイゼーション実験により配列を比較することにより確認することができ、定義される適切なハイブリダイゼーション条件は、当該技術範囲内であり、当業者においてよく知られている(例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989(非特許文献8); F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology(非特許文献9))。
【0075】
本発明において、上記CAR遺伝子は、前述したリプログラミング因子の導入方法と同様の方法で細胞内に導入されてもよく、特に、リプログラミング因子とCAR遺伝子は所望の時間及び条件の下で同時に、又は順次導入されてもよい。
【0076】
上記CAR遺伝子は、上記リプログラミング因子導入の際、上記a)の第1培地で培養時又は上記b)の第2培地で培養時から選択されるいずれか一つの時点で上記分離された細胞に導入されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0077】
具体的には、
図9の青色で示したように、CARを発現するレンチウイルスはリプログラミング因子と同時に(Day 0)、リプログラミング因子導入後にiNKT第1培地(a)の第1培地)で培養する段階又はiNKT第2培地(b)の第2培地)で培養する段階から選択して培養培地に接種することによりiNKT細胞に転換される過程のPBMC又はリプログラミング誘導過程の細胞に形質転換されてもよい。本発明による方法は、NKT細胞ではなく、分離された細胞にCAR遺伝子をリプログラミング因子と導入してCARを発現するNKT細胞を生産できることに意義がある。また、CAR遺伝子を導入する時期をリプログラミング培養過程で当業者が所望するままに定めることができることに意義がある。
【0078】
また、上記CAR遺伝子は、これを発現するウイルスベクターを上記第1培地培養の段階又は第2培地培養の段階のいずれか一つ以上の培養段階に添加した場合、添加した後、4~28日間さらに培養してCAR遺伝子を誘導中のNKT細胞に形質転換するものであってもよいが、これに制限されない。
【0079】
本発明の一実施例では、末梢血液単核細胞をCAR-NKT細胞にリプログラミング誘導するためにリプログラミング因子をコードする遺伝子を含むセンダイウイルスを末梢血液単核細胞と共に1日間培養し、形質転換された細胞をiNKT第1培地で5-6日間培養した後、抗-CD3抗体を含むiNKT第2培地又はAHR作用剤を含むiNKT第2培地で12-35日間培養した(
図9)。この過程で、CD19-CAR1遺伝子、CD19-CAR2遺伝子、MSLN-CAR遺伝子又はHER2-CAR遺伝子を発現するレンチウイルスをリプログラミング因子と同時に又はリプログラミング因子導入後に形質転換導入してCAR-iNKT細胞を製造した(
図9)。
【0080】
本発明の一実施例では、本発明の方法によりCAR-iNKT細胞の製造時にCD19-CAR-iNKT細胞が20.3%の効率で(
図10)、MSLN-CAR-iNKT細胞が28.8%の効率で(
図11)、HER2-CAR-iNKT細胞が33.1%の効率で(
図12)製造されることを確認した。
【0081】
本発明の方法により製造されたiNKT細胞はCD56+、CD3+及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上を発現できるが、これに制限されない。
上記「CD56+」及び「CD3+」とは、NKT細胞の表面にある指標であり、本発明ではCD56+、CD3+及びこれらの組み合わせの発現をフローサイトメトリー(Flow Cytometry)を通じて分析してNKT細胞が製造されたことを確認した(
図1B、
図2、
図4、
図10~12)。
【0082】
また、本発明の方法により製造されたiNKT細胞は、多様な癌細胞に対する殺傷能に優れたものであってもよい。
【0083】
本発明の一実施例では、iNKT細胞と共培養された癌細胞において癌細胞溶解能を有するCD107a+細胞の頻度(%)が増加し(
図5)、血液癌細胞株、大腸癌細胞株、前立腺癌細胞株、肝癌細胞株、肺癌細胞株、膵臓癌細胞株に対するiNKT細胞の殺傷能を確認した結果、優れた殺傷能を示すことを確認した(
図6)。また、膵臓癌が発生したマウスモデルにiNKT細胞注入後14日目に腫瘍の大きさがiNKT細胞を注入していない対照群に比べて顕著に減少することを確認した(
図7)。
【0084】
また、本発明の他の一実施例では、CD19-CAR2遺伝子、MSLN-CAR遺伝子又はHER2-CAR遺伝子が導入されたiNKT細胞が、CAR遺伝子が導入されていないiNKT細胞より高い癌細胞殺傷能を示すことを確認した(
図13~15)。
【0085】
本発明の他の様態は、上記方法により製造されたiNKT細胞を提供する。
【0086】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0087】
上記iNKT細胞は、前述したように、多様な癌細胞に対する殺傷能に優れたものであってもよい。
【0088】
本発明の他の様態は、上記の方法により製造されたiNKT細胞を有効成分として含む癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物を提供する。
【0089】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0090】
本発明において用語「予防」とは、上記組成物の投与により癌を抑制し、発生を遅延させる全ての行為を意味する。
【0091】
本発明において用語、「治療」とは、上記組成物の投与により癌による症状が好転し、有益に変更される全ての行為を意味する。
【0092】
本発明において用語、「細胞治療剤」とは、個体から分離、培養及び特殊な操作を通じて製造された細胞及び組織に治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品(米国FDA規定)であり、細胞あるいは組織の機能を復元させるために生きている自己、同種、または異種細胞を体外で増殖選別し、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品を意味する。
【0093】
上記細胞治療剤組成物は、本発明の方法により製造されたiNKT細胞を含むことにより癌の予防又は治療効能があるものであってもよい。
【0094】
上記細胞治療剤組成物は、組成物の全重量に対して上記iNKT細胞を1.0×104~1.0×1010個の細胞/ml、好ましくは1.0×105~1.0×109個の細胞/mlで含んでもよいが、これに制限されない。
【0095】
上記細胞治療剤組成物は、薬学分野の常法により患者の身体内投与に適した単位投与型の薬学製剤に剤形化させて投与することができ、上記製剤は1回又は数回の投与により効果的な投与量を含む。このような目的に適した剤形としては、非経口投与製剤として注射用アンプルのような注射剤、注入バッグのような注入剤、及びエアロゾル製剤のような噴霧剤などが好ましい。上記注射用アンプルは、使用直前に注射液と混合調製することができ、注射液としては生理食塩水、ブドウ糖、マンニトール、リンゲル液などを用いることができる。また、注入バッグは、塩化ポリビニルまたはポリエチレン材質のものを用いることができ、バクスター(Baxter)、ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、メドセップ(Medcep)、ナショナルホスピタルプロダクト(National Hospital Products)またはテルモ(Terumo)社の注入バッグを例示することができる。
【0096】
上記薬学製剤には、上記有効成分以外に一つ又はそれ以上の薬学的に許容可能な通常の不活性担体、例えば、注射剤の場合には、保存剤、無痛化剤、可溶化剤又は安定化剤などを、局所投与用製剤の場合には、基剤(Base)、賦形剤、潤滑剤又は保存剤などをさらに含んでもよい。
【0097】
このように製造された本発明の細胞治療剤組成物またはこの薬学製剤は、当業界において通常に用いる投与方法を用いて癌治療に用いられる他の細胞と共に又はそのような細胞との混合物の形態で投与されてもよく、望ましくは治療が必要な患者の疾患部位に直接生着又は移植し、腹腔に直接移植又は注入することが可能であるが、これに限定されない。また、上記投与はカテーテルを用いた非外科的投与及び疾患部位の切開後に注入又は移植など、外科的投与方法のいずれも可能である。また、常法により非経口的に、例えば、直接病変に投与すること以外に血管内注入による移植も可能である。
【0098】
上記細胞治療剤組成物は、1日0.0001~1000mg/kgで、具体的には、0.001~100mg/kgの用量で投与することができ、上記投与は、1日に1回又は数回に分けて投与することもできる。しかし、有効成分の実際の投与量は、治療しようとする疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の体重、年齢及び性別などの種々の関連因子に照らして決定されなければならないと理解されるべきであり、従って、上記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するわけではない。
【0099】
本発明の他の様態は、上記方法により製造されたiNKT細胞を有効成分として含む、癌の治療又は予防用薬学組成物を提供する。
【0100】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0101】
本発明において、上記癌はiNKT細胞の免疫反応などにより予防又は治療の効果を示す癌であってもよい。上記癌は、例えば、繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫癌、骨原性肉腫、骨髄癌、骨髄腫、骨髄異形成症、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、血液癌、黒色腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ血管内皮肉腫、滑液膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、胃癌、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌腫、結腸癌、大腸癌、直腸癌、膵胆管癌、膵臓癌、胆道癌、胆嚢癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、前白血病、白血病、急性白血病、B-細胞急性リンパ性白血病(BALL)、T-細胞急性リンパ性白血病(TALL)、小リンパ球性白血病(SLL)、急性リンパ性白血病(ALL);慢性白血病、慢性骨髄白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、扁平細胞癌腫、基底細胞癌腫、腺癌腫、汗腺癌腫、皮脂腺癌腫、甲状腺乳頭癌、嚢腫癌、甲状腺髄様癌、気管支原性癌腫、腎細胞癌腫、肝癌、胆汁管癌腫、絨毛膜癌腫、精上皮腫、胎生性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸部癌、皐丸腫瘍、肺癌腫、肺癌、小細胞肺癌腫、膀胱癌腫、上皮癌腫、頭頸部癌、脳癌、神経膠腫、星状細胞腫、腎細胞癌、膠芽腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏枝膠腫、脳髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫及び肉腫であってもよく、具体的には、膵臓癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、大腸癌、骨髄癌、肝癌、脳癌、前立腺癌、胃癌、結腸癌、神経膠腫、黒色腫、リンパ腫、直腸癌、血液癌及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよく、より具体的には、血液癌、大腸癌、前立腺癌、肝癌、肺癌、膵臓癌及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0102】
また、上記癌はCAR-iNKT細胞の免疫反応などにより予防又は治療の効果を示す癌であってもよく、例えば、CD19、MSLNまたはHER2のいずれか一つ以上の発現と連関した癌、例えば、骨髄異形成症、骨髄異形成症候群、前白血病、血液癌、急性白血病、B-細胞急性リンパ性白血病(BALL)、T-細胞急性リンパ性白血病(TALL)、小リンパ球性白血病(SLL)、急性リンパ性白血病(ALL);慢性白血病、慢性骨髄白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、非ホジキンリンパ腫、リンパ腫、骨髄腫、膵臓癌、胆道癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、子宮癌、直腸癌、大腸癌、結腸癌、骨髄癌、肝癌、脳癌、前立腺癌、胃癌、神経膠腫、黒色腫、扁平細胞癌腫、頭頸部癌、腎細胞癌、膠芽腫、髄芽腫、肉腫及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよく、より具体的には、血液癌、大腸癌、前立腺癌、肝癌、肺癌、膵臓癌及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0103】
上記薬学組成物は、本発明の方法により製造されたiNKT細胞を含むことにより癌の予防又は治療効果があるものであってもよい。
【0104】
本発明の薬学組成物は、組成物の全重量に対して上記iNKT細胞を1.0×104~1.0×1010個の細胞/ml、好ましくは1.0×105~1.0×109個の細胞/mlで含んでもよいが、これに制限されない。
【0105】
上記薬学組成物は、薬学組成物の製造に通常用いる薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでもよく、上記担体は、非自然的担体(Non-naturally Ocuring Carrier)を含んでもよい。上記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油などを挙げることができる。
【0106】
また、上記薬学組成物は、それぞれ常法により錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、経皮吸収剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、カタプラズマ剤、ペースト剤、スプレー、皮膚乳化液、皮膚懸濁液、経皮伝達性パッチ、薬物含有包帯または坐剤の形態に剤形化して用いることができる。
【0107】
具体的には、剤形化する場合、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調剤されてもよい。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含むが、これに制限されない。このような固形製剤は、少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルシウムカーボネート、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤されてもよい。また、単純な賦形剤以外に、マグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤なども用いられる。経口のための液状物、リキッドパラフィン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを添加して調剤され得る。非経口投与のための製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤を含む。非水性溶剤及び懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性オイル、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテプゾール、マクロゴール、ツイン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0108】
本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与されてもよい。上記用語、「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、個体の種類及び重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に用いられる薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られている要素により決定され得る。例えば、上記薬学組成物は1日0.0001~1000mg/kgで、具体的には、0.001~100mg/kgの用量で投与することができ、上記投与は1日に1回または数回に分けて投与することができる。
【0109】
上記薬学組成物は、個別治療剤として投与し、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは段階的又は同時に投与されてもよい。そして単一又は多重投与され得る。上記要素を全て考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者により容易に決定され得る。
【0110】
上記「投与」とは、任意の適切な方法で個体に本発明の組成物を導入することを意味し、上記組成物の投与経路は、目的の組織に到達できる限り、任意の一般的な経路を通じて投与されてもよい。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与されてもよいが、これに制限されない。
【0111】
上記「個体」とは、癌が発病しているか、発病し得るヒト、サル、牛、馬、羊、豚、鶏、七面鳥、ウズラ、ネコ、犬、マウス、ラット、ウサギまたはモルモットを含むあらゆる動物を意味する。本発明の薬学組成物を個体に投与することにより上記疾患を効果的に予防又は治療できれば、個体の種類は制限なく含まれ得る。
【0112】
本発明のもう一つの様態は、上記細胞治療剤組成物又は薬学組成物を、ヒトを除く個体に投与する段階を含む、癌の治療方法を提供する。
【0113】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0114】
本発明のもう一つの様態は、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β阻害剤を含む第1培地を含有する第1容器;並びにb)(1)成長因子、サイトカイン及びAHR作用剤、又は(2)成長因子、サイトカイン及び抗-CD3抗体を含む第2培地を含有する第2容器;を含むiNKT細胞製造用直接リプログラミング培地キットを提供する。
【0115】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0116】
本発明のキットは、上記第1培地を含有する第1容器及び第2培地を含有する第2容器を含み、iNKT細胞製造用直接リプログラミング培地として用いられる道具を意味する。上記キットは、その種類が特に制限されず、当該技術分野において通常用いられる形態のキットを用いることができる。
【0117】
本発明の上記キットは、上記第1培地及び第2培地がそれぞれ個別容器に入れられた形態、または一つ以上の区画に分けられた一つの容器内に入れられた形態で包装されていてもよく、上記第1培地及び第2培地は、それぞれ1回投与用量の単位容量の形態で包装されていてもよい。
【0118】
上記キット内の上記第1培地及び第2培地は、当業者の実験計画に従って適切な時期に順次投与されてもよい。
【0119】
本発明の上記キットは、上記第1培地及び第2培地のそれぞれの添加量、添加方法と添加頻度などを記載した使用説明書をさらに含んでもよい。
【0120】
本発明は、直接リプログラミングを通じて分離された細胞からNKT細胞を直接生産することにより生産工程が簡素化され、生産時間が少なくとも18-22日間程度に従来のリプログラミング技術を用いてNKT細胞を生産した方法に比べて短く、これにより費用が節約され、NKT細胞の生産効率が最大94.1%優れ(CAR遺伝子を追加導入時は33.1%)、誘導多能性幹細胞を経由することなく生産されることにより安全性が確保され、従来リプログラミング技術と差別化される優れたNKT細胞の生産効果がある。
【0121】
併せて、本発明は、従来の直接採取、幹細胞分化過程などを通じてNKT細胞を得る方法とは異なり、NKT細胞と系統が異なり、収集が容易な細胞をリプログラミング培地での培養を通じてNKT細胞を直接製造することができるところ、細胞の種類、品質に対する広範囲な選択肢を提供できることに意義がある。
【0122】
それだけでなく、本発明の方法により製造されたiNKT細胞は、前述したように癌細胞殺傷能に優れるところ、これを含む癌の予防または治療用細胞治療剤組成物及び薬学組成物として提供することができる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を通じて本発明の構成及び効果をより詳しく説明する。これら実施例は専ら本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれら実施例により限定されるものではない。
【0124】
実施例1:PBMCからNKT細胞への直接リプログラミング
分離された末梢血液単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cell: PBMC)を培養液で2日に1回ずつ培地を交換して4日間培養した。
【0125】
上記PBMC細胞にリプログラミング因子(Oct4、Sox2、Klf4及びMyc)を形質転換するためにリプログラミング因子を発現するセンダイウイルスシステム[Oct4、Sox2、Klf4及びMyc発現RNA基盤センダイウイルス(CytoTune 2.0 Sendai Reprogramming Kit, Thermo Scientific); OSKM-SeV]を用いた。具体的には、PBMC細胞をリプログラミング因子で形質転換させるために上記センダイウイルス(5 MOI)、PBMC細胞及びポリブレン(4μg/ml)を共に1日間標準培養培地(SCM培地)で培養後に新鮮な培地に交替した。翌日、48-ウェルプレートに2×10
5個の上記形質転換された細胞をiNKT第1培地(10% FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Penicillin/Streptomycin)、100ng/mlヒトSCF、100ng/mlヒトFLT3、20ng/mlヒトIL-3、20ng/mlヒトIL-6、5 uM CHIR99021を含むStemSpan SFEM II)で5日間培養した後、AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)作用剤(Agonist)を含むiNKT第2培地(10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mlヒトSCF、20ng/mlヒトFLT3、200 IU/mlヒトIL-2、20ng/mlヒトIL-7、20ng/mlヒトIL-15、2 uM FICZ(6-formylindolo[3,2-b]carbazole)及び20μg/mlビオカニンA(Biochaninin A)を含むStemSpan SFEM II)または抗-CD3抗体を含むiNKT第2培地(10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mlヒトSCF、20ng/mlヒトFLT3、200 IU/mlヒトIL-2、20ng/mlヒトIL-7、20ng/mlヒトIL-15、10ng/ml OKT3及び10ng/ml UCHT1を含むStemSpan SFEM II)で12-35日間培養してNKT細胞に誘導した(
図1A)。
【0126】
上記直接リプログラミングを通じてNKT細胞が製造されたかどうかを確認するために、CD56抗体、CD3抗体で上記細胞を染色後にフローサイトメトリー(Flow cytometry)を用いてNKT細胞(CD56+及びCD3+)群を分析した。具体的には、直接リプログラミングを通じて誘導されたNKT(iNKT)細胞を蛍光が付着されたCD56及びCD3に対する抗体が添加された、1% BSA(Bovine Serum Albumin)及び2 mM EDTA(Ethylenediaminetetraacetic Acid)を含むリン酸塩緩衝液(FACS緩衝液)で20分間常温で反応させた後、細胞を遠心分離機を用いて洗浄及び回収した後、FACS(BD Bioscience)で分析した。
【0127】
その結果、PBMCから直接リプログラミングを通じて約62%の効率でCD56+CD3+ NKT細胞が製造されることを確認した(
図1B)。
【0128】
実施例2:T細胞の亜型からNKT細胞への直接リプログラミング
PBMCを構成するT細胞の亜型のNKT製造効率を分析するために、FACSAriaII(BD)を用いてPBMCをCD3+CD8-、CD3+CD8+、CD3-CD8-、CD3-CD8+細胞群に分離した後、実施例1の方法で直接リプログラミングを実施した。直接リプログラミング後、24日目、実施例1の方法でFACS分析を実施した結果、CD3+CD8-細胞から直接リプログラミングを通じて約94.1%の効率でCD56+CD3+ NKT細胞が製造されることを確認した(
図2)。
【0129】
上記実施例1及び2の結果を通じて、リプログラミング因子の導入による直接リプログラミングにより分離された体細胞からNKT細胞が直接製造されることを確認した。
【0130】
実施例3:リプログラミング培地の最適化
3-1:iNKT第1培地及び第2培地の組成最適化
実施例1のiNKT第1培地及び第2培地の組成でCHIR99021(CT)、SR1(SR)、FICZ添加有無によるNKT生産効率を確認した。具体的には、
図3の表のようにiNKT第1培地及び第2培地内CHIR99021(CT)、SR1(SR)の添加有無をそれぞれ異にした培地A~Fを製造した。培地C及びFの場合、SR1(SR)の代わりにAHR作用剤であるFICZを添加した。PBMC細胞を互いに異なる培地組成で製造したiNKT第1培地及び第2培地を用いて実施例1の方法で直接リプログラミングを実施し、NKT細胞の製造効率を分析した。
【0131】
その結果、
図3のようにCHIR99021(CT)はiNKT第1培地にのみ添加し、iNKT第2培地にはFICZを添加した培地CでiNKT生産効率がそれぞれ40.5%優れることを確認した。
【0132】
3-2:iNKT第2培地のAHR作用剤または抗-CD3抗体添加有無によるNKT生産効率
実施例1のiNKT第2培地の組成でAHR作用剤であるFICZまたはビオカニンA、抗-CD3抗体であるOKT3またはUCHT1を添加した時のNKT生産効率を確認した。具体的には、iNKT第2培地にAIHR作用剤または抗-CD3抗体を添加した場合、添加していない場合に比べてNKT生産効率が3.7~4.7倍以上増加すること(無添加時に10.0%→FICZ添加時に42.9%、ビオカニンA添加時に39.6%、OKT3添加時に47.7%、UCHT1添加時に36.9%)を確認した(
図4)。
【0133】
上記実施例の結果は、NKT細胞への直接リプログラミング段階でAHR作用剤または抗-CD3抗体がNKT生産収率を増進するのに効果的に用いられることを確認した。
【0134】
実施例4:CD107a+細胞定量の分析
実施例1で製造されたiNKT細胞の癌細胞殺傷能を検証するために、iNKT細胞を癌細胞と共培養した後に発現される、癌細胞溶解能を有するCD107a+細胞の頻度を定量分析した。具体的には、癌細胞であるHCT116(Human Colon Cancer cells)、NIC-H460(Human Lung Cancer Cells)、HepG2(Human Liver Hepatocellular Carcinoma Cells)、Mia-paca-2(Human Pancreas Ductal Adenocarcinoma cells)それぞれ1×106個の細胞/mlとiNKT細胞1×106個の細胞/mlを6-ウェルプレートにそれぞれ1mlずつ分注した後、400gで1分間遠心分離し、これを2時間または16時間37℃、5% CO2存在下で細胞インキュベーターで培養した後、フローサイトメトリーを通じてCD107a+細胞の頻度を確認した。具体的には、CD107a+細胞の頻度はiNKT細胞を蛍光が付着されたCD56-PE、CD3-APC及びCD107a-FITC抗体が添加されたFACS緩衝液で常温で20分間反応させた後、FACSでCD56+CD3+細胞群をゲーティング(Gating)して分析した。
【0135】
その結果、癌細胞と共培養が行われない対照群に比べて共培養されたiNKT細胞でCD107a+細胞の頻度(%)が増加した(
図5)。
【0136】
実施例5:iNKT細胞の癌細胞殺傷能の測定
実施例1で製造されたiNKT細胞の癌細胞殺傷能を測定するために、カルセイン-AM(Calcein-AM)を用いた細胞殺傷能の測定を行った。具体的には、癌細胞である Raji(Raji B, Human B Lymphocyte; Burkitt's Lymphoma), SNU-817(Human B-lymphoblastoid Cells), K562(Human Immortalised Myelogenous Leukemia Cells), HCT116, PC3(Human Prostate Cancer Cells), HepG2, NIC-H460, Mia-paca-2を10%のウシ胎児血清を含むDMEM培地でそれぞれ1×105個の細胞/mlになるように希釈した後、25μMになるようにカルセイン-AMを添加し、37℃で1時間培養後にDMEM培地で洗浄し、カルセイン標識標的癌細胞を作製した。
【0137】
iNKT細胞を、培養液を用いてそれぞれ0.25×105個の細胞/m1、1×105個の細胞/m1、2.5×105個の細胞/mlの密度に希釈して準備した後に96-ウェルプレートにそれぞれ100mlずつ分注した。製作したカルセイン標識標的癌細胞(1×105個の細胞/ml)を100ul/wellずつ96-ウェルプレートに添加した後、400gで1分間遠心分離し、これを4時間37℃、5% CO2存在下で細胞インキュベーターに培養した後、各ウェルから上清100ulをとって蛍光プレートリーダー(485nm/535nm)で測定した。細胞殺傷能(%)は下記数式により算出した。
【0138】
【0139】
上記式中、最小値はカルセイン標識標的癌細胞のみ存在するウェルの測定値であり、最大値はカルセイン標識標的癌細胞に0.1% TritonX-100を添加して細胞を完全溶解したウェルの測定値である。
【0140】
その結果、iNKT細胞が癌細胞に対して高い殺傷能を有することを確認し、iNKT細胞の細胞数に比例するように癌細胞殺傷能が増加することを確認した(
図6)。
【0141】
実施例6:iNKT細胞の生体内癌細胞殺傷能の検証
生後8週目のヌードマウス(Balb/c-nude Mouse、平均重量20-25g)の背中にルシフェラーゼ(Luciferase)を発現するCFPAC-1(Human Huctal Pancreatic Adenocarcinoma Cells) 2×106個の細胞/ml5mlを皮下注入(Subcutaneous Injection)し、膵臓癌細胞異種移植マウス動物モデルを製造した。翌日、陰性対照群としてPBS 200 ulまたは実験群としてiNKT(1×107個の細胞/200 ul PBS)を注入した後、7日間の間隔で腫瘍の大きさをIVIS 100(PerkinElmer)を通じて確認した。
【0142】
その結果、PBSまたはiNKT注入後、14日目で陰性対照群で形成された腫瘍の大きさ[1.21×10
10放射輝度(Radiance)]に比べてiNKT実験群で形成された腫瘍の大きさ(8.01×10
9放射輝度)が顕著に減少したことを確認した(
図7)。
【0143】
実施例7:CARをコードする二重シストロンレンチウイルスベクターの構築
CAR(Chimeric Antigen Receptor)をコードする二重シストロンレンチウイルスベクターを製作するために、CD19、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)またはMSLN(Mesothelin)にそれぞれ結合する4種のCAR遺伝子を作製した。上記各CAR遺伝子は、抗体ドメイン(scFv)を含む細胞外ドメイン、細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインをコードする遺伝子を含めて構成された。具体的には、上記各CAR遺伝子は下記の通り構成された(
図8)。
【0144】
i)CD8リーダ(Leader)(配列番号1)、CD19 scFv(配列番号2)、CD8ヒンジ(Hinge)(配列番号5)、CD8膜貫通(Transmembrane, TM)ドメイン(Domain)(配列番号6)、Fc-γ(Gamma)受容体(配列番号7)及びGFP(Green Fluorescent Protein)(配列番号11)を含むCD19-CAR1遺伝子;
ii)CD8リーダ(配列番号1)、CD19 scFv(配列番号2)、CD8ヒンジ(配列番号5)、CD8膜貫通ドメイン)(配列番号6)、CD28細胞内(Intracellular)ドメイン(配列番号8)、CD3ζ(Zetta)(配列番号9)、IRES(Internal Ribosome Entry Site)(配列番号10)及びGFP(配列番号11)を含むCD19-CAR2遺伝子;
iii)CD8リーダ(配列番号1)、MSLN(Mesothelin) scFv(配列番号3)、CD8ヒンジ(配列番号5)、CD8膜貫通ドメイン(配列番号6)、CD28細胞内ドメイン(配列番号8)、CD3ζ(配列番号9)、IRES(配列番号10)及びGFP(配列番号11)を含むMSLN-CAR遺伝子;及び
iV)CD8リーダ(配列番号1)、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)scFv(配列番号4)、CD8ヒンジ(配列番号5)、CD8膜貫通ドメイン(配列番号6)、CD28細胞内ドメイン(配列番号8)、CD3ζ(配列番号9)、IRES(配列番号10)及びGFP(配列番号11)を含むHER2-CAR遺伝子。
【0145】
上記IRESは、CAR遺伝子を、二重シストロンを構成するベクターにクローニングするために挿入した。上記4種のCAR遺伝子を含む各ベクターは、CAR1(Addgene ID:113014)から
図8の各ドメインを合成し、オーバーラップPCR(Overlap PCR, Gibson Assembly)を通じてCARを発現するレンチウイルスを作製した。
【0146】
実施例8:PBMCからNKT細胞への直接リプログラミングを用いたCAR-iNKTの製造
PBMCを培養液(2.5% StemPro-34 Nutrient Supplement, 2 mM Glutamax I, 1% Penicillin/Streptomycin, 20 ng/ml ヒトIL-6、100ng/mlヒトSCF、100ng/mlヒトFLT3を含むStempro SFEM II)で2日に1回ずつ培地交換して4日間培養した。
【0147】
上記PBMC細胞にリプログラミング因子(Oct4、Sox2、Klf4及びMyc)及び実施例7で製作したCD19-CAR1遺伝子、CD19-CAR2遺伝子、MSLN-CAR遺伝子またはHER2-CAR遺伝子を形質転換するために、リプログラミング因子を発現するセンダイウイルスシステム[Oct4、Sox2、Klf4及びMyc発現RNA基盤センダイウイルス(CytoTune 2.0 Sendai Reprogramming Kit, Thermo Scientific); OSKM-SeV]と実施例7の4種のCARを発現する4種のレンチウイルスを用いた。具体的には、PBMC細胞をリプログラミング因子で形質転換させるために、上記センダイウイルス(5 MOI)、PBMC細胞及びポリブレン(4μg/ml)を共に1日間標準培養培地(SCM培地)で培養後に新鮮な培地に交替した。翌日、48-ウェルプレートに2×10
5個の上記形質転換された細胞を実施例1のiNKT第1培地で5-6日間培養した後、抗-CD3抗体を含むiNKT第2培地又はAHR作用剤を含むiNKT第2培地で12-35日間培養してNKT細胞に誘導する過程で、CD19-CAR1遺伝子、CD19 CAR2遺伝子、MSLN-CAR遺伝子又はHER2-CAR遺伝子を発現するレンチウイルス(2 MOI)及びポリブレン(4mg/ml)を添加して4-28日間さらに培養し、誘導されたNKT細胞にCAR遺伝子が形質導入されるようにした(CAR-iNKT細胞)(
図9)。CARを発現するレンチウイルスは
図9のようにリプログラミング因子と同時に(Day 0)、リプログラミング因子導入後にiNKT第1培地で培養する段階又はiNKT第2培地で培養する段階から選択して培養培地に接種することによりPBMC細胞からNKT細胞に転換されるリプログラミング過程の細胞に形質転換された。
【0148】
上記直接リプログラミングを通じてCD19-CAR1遺伝子、CD19-CAR2遺伝子、MSLN-CAR遺伝子またはHER2 CAR遺伝子が導入されたiNKT細胞が製造されたかどうかを確認するために、CD56抗体、CD3抗体、CD19抗原、MSLN抗原、HER2抗原で上記細胞を染色後にフローサイトメトリーを用いてCD56+CD3+ CD19-CAR-iNKT細胞群、CD56+CD3+ MSLN-CAR-iNKT細胞群、CD56+CD3+ HER2-CAR-iNKT細胞群を分析した。具体的には、CD19-CAR1遺伝子が導入されたiNKT細胞(CD19-CAR-iNKT細胞)の場合、実施例1と同様の方法でFACS分析した。MSLN-CAR遺伝子が導入されたiNKT細胞(MSLN-CAR-iNKT細胞)又はHER2-CAR遺伝子が導入されたiNKT細胞(HER2-CAR-iNKT細胞)の場合、1次でCD3-PE(BD Bioscience)及びMSLN抗原-ビオチン(Biotin)又はHER2抗原-ビオチンが添加されたFACS緩衝液で常温で20分間反応後、細胞を遠心分離機を用いて洗浄及び回収した。2次でアビジン(Avidin)-APC(Allophycocyanin)が添加されたFACS緩衝液で常温で20分間反応後、細胞を遠心分離機を用いて洗浄及び回収してFACS分析した。
【0149】
その結果、CD56+CD3+ CD19-CAR-iNKT細胞が20.3%の効率で(
図10)、CD56+CD3+ MSLN-CAR-iNKT細胞が28.8%の効率で(
図11)、CD56+CD3+ HER2-CAR-iNKT 細胞が33.1%の効率で(
図12)製造されることを確認した。
【0150】
実施例9:CD19-CAR2が導入されたiNKT細胞の癌細胞殺傷能の測定
実施例1のiNKT細胞及び実施例8のCD19-CAR2が導入されたiNKT細胞(CD19-CAR2-iNKT細胞)をそれぞれ0.25×105個の細胞/mlまたは1×105個の細胞/mlの細胞数密度になるように培養液で希釈した後、96-ウェルプレートにそれぞれ100ulずつ分注した。癌細胞であるRaji(Raji B)、SNU-817を用いて実施例5の方法でカルセイン標識標的癌細胞を製作した。カルセイン標識標的癌細胞1×105個の細胞/mlを100ul/wellずつ96-ウェルプレートに添加した後、実施例5の方法で癌細胞殺傷能を測定した。
【0151】
その結果、標的癌細胞に対してCD19-CAR2-iNKT細胞が対照群iNKT細胞より高い殺傷能を示すことを確認した(
図13)。
【0152】
実施例10:MSLN-CARまたはHER2-CARが導入されたiNKT細胞の癌細胞殺傷能の測定
実施例1のiNKT細胞、実施例8のMSLN-CARが導入されたiNKT細胞(MSLN-CAR-iNKT細胞)及び実施例8のHER2-CARが導入されたiNKT細胞(HER2-CAR-iNKT細胞)をそれぞれ0.25×105個の細胞/ml又は1×105個の細胞/mlの細胞数密度になるように培養液で希釈した後、96-ウェルプレートにそれぞれ100ulずつ分注した。癌細胞であるPC3(PC-3)、CFPAC-1、HepG2を用いて実施例5の方法でカルセイン標識標的癌細胞を製作した。カルセイン標識標的癌細胞1×105個の細胞/mlを100ul/wellずつ96-ウェルプレートに添加した後、実施例5の方法で癌細胞殺傷能を測定した。
【0153】
その結果、標的癌細胞に対してMSLN-CAR-iNKT細胞またはHER2-CAR-iNKT細胞が対照群iNKT細胞より高い殺傷能を示すことを確認した(
図14~15)。
【0154】
上記実施例の結果から、分離された細胞を直接リプログラミングを用いて抗癌活性を示すNKT細胞に誘導できるだけでなく、直接リプログラミング時にCAR遺伝子を導入して抗癌活性にさらに優れたCAR遺伝子が導入されたNKT細胞を製造できることを確認した。
【0155】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】