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特許7429722蓄電デバイスの箔位置特定方法及び蓄電デバイスの箔間距離算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの箔位置特定方法及び蓄電デバイスの箔間距離算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/00 20060101AFI20240201BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240201BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01B15/00 H
H01M10/48 A
H01M10/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022009417
(22)【出願日】2022-01-25
(65)【公開番号】P2023108350
(43)【公開日】2023-08-04
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 寿隆
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031431(WO,A1)
【文献】特開2016-15371(JP,A)
【文献】特開2013-229189(JP,A)
【文献】特開2006-134697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00-15/08
H01M 10/42-10/48
H01M 10/00-10/04
10/06-10/34
H01M 10/05-10/0587
10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスのX線CT解析を行って、上記蓄電デバイスの各位置におけるX線吸収量を取得する解析工程と、
取得した上記X線吸収量から、上記蓄電デバイスの電極板を貫通する特定仮想軌跡上の各軌跡上位置における上記X線吸収量である軌跡上X線吸収量を取得する取得工程と、
取得した上記軌跡上X線吸収量から、上記特定仮想軌跡が貫通する上記電極板の電極箔の箔位置を特定する箔位置特定工程とを備え、
上記箔位置特定工程は、
上記特定仮想軌跡のうち、単一の上記電極箔を内部に含むフィッティング領域内における上記軌跡上X線吸収量の変化に対して、これにフィットして変化し、かつ、上記フィッティング領域内に単一ピークを生じる近似曲線を定めるフィッティング工程、及び、
上記特定仮想軌跡の上記フィッティング領域のうち、定められた上記近似曲線における上記単一ピークに対応する上記軌跡上位置を、上記単一の電極箔の上記箔位置と推定する箔位置推定工程を有する
蓄電デバイスの箔位置特定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスの箔位置特定方法であって、
前記特定仮想軌跡は、
直線で、かつ、上記特定仮想軌跡が貫通する前記電極板の前記電極箔に対し垂直に貫通する仮想軌跡であり、
上記電極板は、
上記電極箔の両面に同厚みの電極層を有しており、
前記フィッティング工程の前記近似曲線は、
前記単一ピークに対応する前記軌跡上位置を中心として、対称な曲線である
蓄電デバイスの箔位置特定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蓄電デバイスの箔位置特定方法であって、
前記電極板は、正極板及び負極板のうち、一方極の電極板であり、
前記電極箔は、正極箔及び負極箔のうち、一方極の電極箔であり、
前記特定仮想軌跡は、上記一方極の電極箔を複数貫いており、
前記箔位置特定工程は、
前記フィッティング工程及び前記箔位置推定工程を、各々の上記一方極の電極箔について行い、上記一方極の電極箔の前記箔位置を、各々の上記一方極の電極箔について特定し、
隣り合う上記一方極の電極箔について特定した一対の上記箔位置から、上記隣り合う上記一方極の電極箔の同士の間に位置する他方極の電極箔の箔位置を推定する他方極箔位置推定工程を更に備える
蓄電デバイスの箔位置特定方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの箔位置特定方法により特定した前記電極箔の前記箔位置を用いて、異極を介して隣り合う同極の又は隣り合う異極の上記電極箔間の箔間距離を算出する箔間距離算出工程を備える
蓄電デバイスの箔間距離算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスについて、電極板の電極箔の箔位置を特定する箔位置特定方法、及び、この方法を用いて、異極を介して隣り合う同極の又は隣り合う異極の電極箔間の間距離を算出する蓄電デバイスの間距離算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池に代表される蓄電デバイスの内部構造を非破壊で解析したり検査したい場合がある。例えば、蓄電デバイスの有する電極体をなす電極板(正極板と負極板と)が積み重なった状態の適否やその経時変化、電極間の距離の大きさやその経時的な変化などを検知したい場合がある。
【0003】
このような場合に、X線を用いたコンピュータ断層撮影装置(X線CT装置)によるX線CT解析が用いられる場合がある。例えば、特許文献1では、X線CT解析により、二次電池についてラインプロファイルを取得し、この二次電池の複数の正極板及び負極板について、それらの正極箔および負極箔の箔位置を特定できる例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/031431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蓄電デバイスの体格が大きいなど、X線源から検査したい蓄電デバイスまでの距離を大きくせざるを得ず、X線CT解析により得た各位置のX線吸収量の位置分解能が低い場合や、照射するX線エネルギーが高いためにコントラストが低いなどの理由により、得られるX線吸収量の多寡を示す断面画像やラインプロファイルに正極箔や負極箔の箔位置を示すピークが明確に現れず、断面画像やラインプロファイルだけでは、電極板が含む電極箔の箔位置を明確に特定できない場合がある。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、蓄電デバイスの電極板に含まれる電極箔の箔位置を適切に特定できる蓄電デバイスの箔位置特定方法、及び、この方法を用いて、異極を介して隣り合う同極の又は隣り合う異極の電極箔間の間距離を算出する蓄電デバイスの間距離算出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、(1)蓄電デバイスのX線CT解析を行って、上記蓄電デバイスの各位置におけるX線吸収量を取得する解析工程と、取得した上記X線吸収量から、上記蓄電デバイスの電極板を貫通する特定仮想軌跡上の各軌跡上位置における上記X線吸収量である軌跡上X線吸収量を取得する取得工程と、取得した上記軌跡上X線吸収量から、上記特定仮想軌跡が貫通する上記電極板の電極箔の箔位置を特定する箔位置特定工程とを備え、上記箔位置特定工程は、上記特定仮想軌跡のうち、単一の上記電極箔を内部に含むフィッティング領域内における上記軌跡上X線吸収量の変化に対して、これにフィットして変化し、かつ、上記フィッティング領域内に単一ピークを生じる近似曲線を定めるフィッティング工程、及び、上記特定仮想軌跡の上記フィッティング領域のうち、定められた上記近似曲線における上記単一ピークに対応する上記軌跡上位置を、上記単一の電極箔の上記箔位置と推定する箔位置推定工程を有する蓄電デバイスの箔位置特定方法である。
【0008】
上述の蓄電デバイスの箔位置特定方法によれば、フィッティング工程で、フィッティング領域内に単一ピークを生じる近似曲線を定め、箔位置推定工程で、近似曲線において単一ピークに対応する軌跡上位置を、フィッティング領域内における単一の電極箔の箔位置と推定する。かくして、電極板の電極箔の箔位置を適切に特定することができる。
【0009】
X線CT解析を行う蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池などの二次電池、リチウムイオンキャパシタなどのキャパシタが例示される。蓄電デバイスが含む電極体としては、積層型電極体、捲回型電極体(円筒捲回型電極体、扁平捲回型電極体)のいずれも許容される。検査対象となる「電極板」としては、例えば、正極板、負極板、バイポーラ電極板が含まれる。
【0010】
(2)更に上述の(1)の蓄電デバイスの箔位置特定方法であって、前記特定仮想軌跡は、直線で、かつ、上記特定仮想軌跡が貫通する前記電極板の前記電極箔に対し垂直に貫通する仮想軌跡であり、上記電極板は、上記電極箔の両面に同厚みの電極層を有しており、前記フィッティング工程の前記近似曲線は、前記単一ピークに対応する前記軌跡上位置を中心として、対称な曲線である蓄電デバイスの箔位置特定方法とすると良い。
【0011】
上述の箔位置特定方法では、特定仮想軌跡が直線で電極板の電極箔に対し垂直に貫通するので、フィッティング領域内における軌跡上X線吸収量の変化は、電極板の厚み方向の各部位の組成(X線吸収係数)の違いを表したものとなる。そして、近似曲線を、単一ピークに対応する軌跡上位置を中心として、対称な曲線(左右対称な曲線)としている。このため、この近似曲線の単一ピークに対応する軌跡上位置を、単一の電極箔の箔位置と推定することで、精度良く箔位置を特定することができる。
【0012】
なお、近似曲線として用いる、単一ピークとなる軌跡上位置を中心として、対称な曲線としては、例えば、ガウス関数、ローレンツ関数、二次関数、cos関数などが挙げられる。
【0013】
(3)上述の(1)又は(2)の蓄電デバイスの箔位置特定方法であって、前記電極板は、正極板及び負極板のうち、一方極の電極板であり、前記電極箔は、正極箔及び負極箔のうち、一方極の電極箔であり、前記特定仮想軌跡は、上記一方極の電極箔を複数貫いており、前記箔位置特定工程は、前記フィッティング工程及び前記箔位置推定工程を、各々の上記一方極の電極箔について行い、上記一方極の電極箔の前記箔位置を、各々の上記一方極の電極箔について特定し、隣り合う上記一方極の電極箔について特定した一対の上記箔位置から、上記隣り合う上記一方極の電極箔の同士の間に位置する他方極の電極箔の箔位置を推定する他方極箔位置推定工程を更に備える蓄電デバイスの箔位置特定方法とすると良い。
【0014】
正極板の正極層に、例えば、LiNiOなどアルカリ金属遷移金属酸化物を用いる一方、負極板の負極層に黒鉛などの炭素系物質を用いた場合、正極層のX線吸収量は相対的に大きく、負極層のX線吸収量は相対的に小さい。この様な正極板及び負極板を有する蓄電デバイスについてX線CT解析を行い、各位置におけるX線吸収量を得ると、正極板の正極層の位置でX線吸収量が大きくなり、明確なピークが現れる一方、負極板の負極層の位置でX線吸収量が小さくなり、明確なピークが得られにくくなる。
このため、X線CT解析で得られた各位置のX線吸収量から、正極板について箔位置特定工程を行い、(X線吸収量が大きな値となる)正極板の正極層の位置から、(例えば2つの正極層に挟まれた)正極箔の正極箔位置を特定することは比較的容易となる。しかし、負極板について箔位置特定工程を行っても、(X線吸収量が小さな値となる)負極板の負極層の位置から、(例えば2つの負極層に挟まれた)負極箔の負極箔位置を特定することは、比較的困難となる場合が有る。
【0015】
これに対し、上述の(3)の箔位置特定方法では、複数の一方極の電極箔の箔位置を適切に特定できるほか、一方極の電極板同士に挟まれた他方極の電極板の電極箔の箔位置も容易に推定することができる。
【0016】
他方極箔位置推定工程としては、例えば、正極板は正極箔の両側に同厚みの正極層が設けられており、負極板は負極箔の両側に同厚みの負極層が設けられており、正極板と負極板の間に介在させるセパレータ同士も同厚みであるとした場合、特定仮想軌跡上で、推定した一対の正極箔位置同士の中点の軌跡上位置を、負極箔の負極箔位置と推定する手法が挙げられる。但し、これに限らず、蓄電デバイスに使用している、正極板および負極板の層構成や厚さ、セパレータの厚さ、想定している特定仮想軌跡に応じて、一方極の電極板の電極箔の箔位置から、適切に他方極の電極板の電極箔の箔位置を推定できる手法を採用すれば良い。
【0017】
(4)更に他の態様は、上述の(1)~(3)のいずれかの蓄電デバイスの箔位置特定方法により特定した前記電極箔の前記箔位置を用いて、異極を介して隣り合う同極の又は隣り合う異極の上記電極箔間の箔間距離を算出する箔間距離算出工程を備える蓄電デバイスの箔間距離算出方法である。
【0018】
この蓄電デバイスの箔間距離算出方法によれば、X線CT解析だけでは、不明瞭な軌跡上X線吸収量の変化となる蓄電デバイスであっても、適切に各電極箔の箔位置を特定でき、異極を介して隣り合う同極の又は隣り合う異極の電極箔間の箔間距離を適切に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係り、電池の箔位置特定方法および間距離算出方法の各工程を示すフローチャートである。
図2】実施形態に係り、解析工程において、X線CT解析装置を用いて電池のX線CT解析を行い、各位置のX線吸収量を取得する様子を示す説明図である。
図3】実施形態に係り、電池の被検査領域における電極体の層構成を示す説明図である。
図4】X線CT解析を行って取得した各位置のX線吸収量から作成した電池の断面画像例である。
図5】実施形態に係り、電池のうち特定仮想軌跡の各軌跡上位置における軌跡上X線吸収量を示すグラフ、各電極の箔位置、及び箔間距離の例である。
図6】実施形態に係り、フィッティング領域内の各軌跡上位置における軌跡上X線吸収量を示すグラフ、近似曲線、および、推定した箔位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本技術の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態に係る電池10の箔位置特定方法および間距離算出方法の各工程のフローチャートを示す。電池10の箔位置特定および間距離算出に用いるX線CT解析装置XCTは、図2に示すように、X線焦点SXOからX線を円錐状に放射するX線源SX、X線源SXから放射されたX線を検出するX線検出器DX、被検査物(本例では電池10)を載置しつつ回転軸線AXの周りに回転させる回転台RBを有している。さらには、これらを制御すると共に、X線検出器DXで検出した各部のX線の強度データを基に、電池10の各位置P(r,θ,z)におけるX線吸収量AB(r,θ,z)、任意の仮想断面におけるX線吸収量ABの分布を示す断面画像、任意の特定仮想軌跡HTに沿ったX線吸収量ABの変化を示すグラフ(吸収量プロファイル)などを算出する処理コンピュータCMP、及び、得られた各データ、断面画像、吸収量プロファイル等を示すモニタMNを有している。
【0021】
本実施形態では、先ず解析工程S1において、X線CT解析装置XCTを用いて被検査物である電池10のX線CT解析を行い、処理コンピュータCMPにおいて、電池10のうち、破線で示すX線が照射される円柱状の被検査領域10S内の各位置P(r,θ,z)(但し、(r,θ,z)は円柱座標系における座標を示す)におけるX線吸収量AB(r,θ,z)を取得する。
【0022】
なお、X線焦点SXOから回転軸線AXまでの第1距離SRDと、X線焦点SXOからX線検出器DXまでの第2距離SDDとの比が、拡大率R(R=SDD/SRD)であり、一般に拡大率Rが大きいほど、X線吸収量AB(r,θ,z)の分解能が高くなる。X線CT解析装置XCT全体の形状の制約から、第2距離SDDは固定の大きさとされているのが通常である。一方、回転台RBの位置を変更することにより第1距離SRDは可変である。但し、被検査物(例えば電池10)の体格が大きい場合には、回転台RB上で電池10を回転させた場合に、電池10がX線源SXと干渉しないようにするため、第1距離SRDを大きくせざるを得ず、拡大率Rが小さくなり、算出されるX線吸収量AB(r,θ,z)の分解能が低くなる。また、被検査物(例えば電池10)の体格が大きいと、X線が被検査物を透過する距離が長くなり、X線検出器DXに届くX線の強度が全体に低くなるため、この点でもX線吸収量AB(r,θ,z)の分解能が低くなりがちである。これを防止するために、X線源SXのX線焦点SXOから放射されるX線のエネルギーを高くすると、X線検出器DXに届くX線の強度のコントラストが低下し、この場合も、X線吸収量AB(r,θ,z)の分解能が低くなりがちになる。
【0023】
このため、例えば、電池10の積層型の電極体20のうち、図3に示すように、正極板21と負極板25とがセパレータ29を介して交互に積層されている部位について、X線CT解析を行った場合に、例えば、図4に示すような、分解能の低い電池10の断面画像例が得られることがある。
【0024】
なお、図3に示すように、正極板21は、アルミニウムからなる正極箔22と、この両側にそれぞれ形成された互いに同厚みの正極層23a,23bからなる。正極層23a,23bは、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの遷移金属元素を含む正極活物質を含んでいるため、正極箔22に比して高いX線吸収係数を有する。一方、負極板25は、銅からなる負極箔26と、この両側にそれぞれ形成された互いに同厚みの負極層27a,27bからなる。負極層27a,27bは、例えば、黒鉛などの炭素系物質からなる負極活物質を多く含んでいるため、負極箔26、正極箔22、正極層23a,23bに比して相対的に低いX線吸収係数を有する。ポリエチレンなどからなるセパレータ29も、同様に低いX線吸収係数を有する。
【0025】
このため、図4では、断面上の各位置P(r,θ,z)のうち、X線吸収量が大きい正極層23a,23bを有する正極板21が存在する部位は相対的に白く示され、X線吸収量が小さい負極層27a,27bを有する負極板25及びセパレータ29が存在する部位は相対的に黒く示される。なお、正極箔22、負極箔26及びセパレータ29は、正極層23a,23b及び負極層27a,27bに比して厚みが薄い(概ね1/10以下の厚み)ため、図4の断面画像からは、正極箔22や負極箔26を明確に識別してその位置を特定することが困難である。
【0026】
そこで取得工程S2で、処理コンピュータCMPにより、電池10の電極板である正極板21あるいは負極板25を貫通する特定仮想軌跡HTの各軌跡上位置dにおけるX線吸収量AB(r,θ,z)である軌跡上X線吸収量AB(d)を取得する。軌跡上位置dは、特定仮想軌跡HT上の任意の位置を原点とし、この原点から特定仮想軌跡HTに沿って測定した距離としても表すことができる。本実施形態では、特定仮想軌跡HTとして、図3図4において左右方向に延び、複数の正極板21及び複数の負極板25を垂直に貫通する直線状の一点鎖線で示す特定仮想軌跡HTを想定した例を示す。図3において、この特定仮想軌跡HTが正極箔22と交わる点の軌跡上位置dを、それぞれ正極箔22の箔位置dpfとする。また、特定仮想軌跡HTが負極箔26と交わる点の軌跡上位置dを、それぞれ負極箔26の箔位置dnfとする。
【0027】
図5に、特定仮想軌跡HT上の各軌跡上位置d(原点からの距離d)における軌跡上X線吸収量AB(d)の大きさの変化を示すグラフ(吸収量プロファイル)を示す。図5のグラフでは、X線吸収量が大きい各正極板21の正極層23a,23bに対応し、軌跡上X線吸収量AB(d)の値が最大で150を越える複数の山部が観察されるほか、X線吸収量が小さい各負極板25に対応する谷部が観察される。各々の谷部には、厚みは薄いがX線吸収係数の大きい銅からなる負極箔の存在により小さなピークが観察される。しかしながら、特許文献1の図7図8等と比較すれば容易に理解できるように、この図5のグラフを見るだけでは、各々の正極箔22の箔位置dpfや負極箔26の箔位置dnfを正確に特定することが難しいことが判る。
【0028】
そこで、本実施形態では、先ず正極箔位置特定工程S3において、各正極箔22の箔位置dpf(例えばdpf1~dpf9)を以下のようにして特定する。領域設定工程S31において、特定仮想軌跡HTのうち、単一の正極箔22を内部に含むフィッティング領域AF(図5では、AF1~AF9)の範囲を定める。具体的には、図5のグラフにおいて、軌跡上X線吸収量AB(d)の大きさが100を越える範囲を、フィッティング領域AF1~AF9と設定する。
【0029】
ついで、フィッティング工程S32及び正極箔位置推定工程S33を、繰返し判定工程S34により繰返し行って、各々のフィッティング領域AF(例えばAF1~AF9)について、単一の正極箔22の箔位置dpf(例えばdpf1~dpf8)を特定する。
【0030】
例えば図6に示すように、フィッティング工程S32では、フィッティング領域AF6における軌跡上X線吸収量AB(d)の変化に対して、これにフィットして変化し、かつ、フィッティング領域AF6内に単一ピークFCP6を生じる近似曲線FC6(図6に太線の破線で示した)を定める。なお、本実施形態では、近似曲線FC6にガウス関数を用いた。正極板21は、正極箔22の両面に同厚みの電極層23a,23bを有していることから、単一ピークFCP6に対応する軌跡上位置d(箔位置dpf)を中心として、特定仮想軌跡HT(距離d)について対称な(左右対称な)近似曲線FC6をフィッティングさせるのが適切だからである。これにより精度良く箔位置dpf1等を特定することができる。なお、特定仮想軌跡HT(距離d)について対称な近似曲線FCとして、例えば、ローレンツ関数、二次関数、cos関数などを用いても良い。
【0031】
続いて正極箔位置推定工程S33では、フィッティング領域AF6のうち、定められた近似曲線FC6における単一ピークFCP6に対応する軌跡上位置dを、単一の正極箔22の箔位置dpf6と推定する。
【0032】
そして、繰返し判定工程S34では、設定された各々のフィッティング領域AF(例えばAF1~AF8)について、フィッティング工程S32により近似曲線FCを定め、正極箔位置推定工程S33により正極箔22の箔位置dpfを推定するまで、フィッティング工程S32及び正極箔位置推定工程S33を繰り返す。これにより、各々のフィッティング領域AF(例えばAF1~AF8)について、各フィッティング領域AFに含まれる正極箔22の箔位置dpf(例えばdpf1~dpf8)を推定することができる(図5参照)。かくして、複数の正極箔22及び負極箔26のうち、各正極箔22の箔位置dpf(例えばdpf1~dpf8)を特定することができる。
【0033】
次いで負極箔位置推定工程S4では、上述の正極箔位置特定工程S3で特定した正極箔22の箔位置dpf(例えばdpf1~dpf8)を用いて、正極箔とは異極の各負極箔26の箔位置dnf(例えばdnf1~dnf7)を推定する。具体的には、隣り合う正極箔22について特定した一対の箔位置dpf(例えば、一対の箔位置dpf1と箔位置dpf2)から、隣り合う正極箔22の同士の間に位置する負極箔26の箔位置dnf(例えばdnf1)を推定する。具体的には、例えば、一対の箔位置dpf1と箔位置dpf2の中間の軌跡上位置dを、負極箔26の箔位置dnf1と推定する。正極層23a,23bは互いに同厚み、負極層27a,27bも互いに同厚みであり、セパレータ29も均一な厚みであるためである。同様に正極箔22の箔位置dpf2~dpf8からも、各負極箔26の箔位置dnf2~dnf7を推定する(図5参照)。かくして、複数の一方極の電極箔(本実施形態では正極箔22)の箔位置dpf1等を適切に特定できるほか、これらに挟まれた他方極の電極箔(本実施形態では負極箔26)の箔位置dnf1等も容易に推定することができる。
【0034】
更に箔間距離算出工程S5では、正極箔位置特定工程S3で特定した正極箔22の箔位置dpf1~dpf8を用いて、異極である負極箔26を介して隣り合う同極の正極箔22間の箔間距離DP1~DP7を算出する。かくして、X線CT解析(図4参照)だけでは、不明瞭な軌跡上X線吸収量の変化となる蓄電デバイスであっても、適切に各電極箔(本実施形態では正極箔22)の箔位置dpf1等を特定でき、隣り合う異極又は同極の電極箔間(本実施形態では同極の正極箔22同士の間)の箔間距離DP1等を適切に算出することができる。
【0035】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。例えば実施形態では、正極箔22の箔位置dpf1等については、各フィッティング領域AF1等において、軌跡上X線吸収量AB(d)の変化に対してフィットして変化する近似曲線FCを定めて特定した。その一方、負極箔26の箔位置dnf1等については、近似曲線によるフィッティングを用いず、正極箔22の箔位置dpf1等から算出した。図5のグラフに示す例では、各負極箔26に対応する部位付近で得られる軌跡上X線吸収量AB(d)の大きさが小さく、正極箔22の箔位置dpf1等と同様に近似曲線を用いて、各負極箔26の箔位置dnf1等を適切に特定することが難しいからである。
【0036】
しかし、各負極箔26に対応する部位付近で得られる軌跡上X線吸収量AB(d)の大きさが、各負極箔26の箔位置dnfを近似曲線を用いて適切に特定することができる程度に大きい場合には、正極箔22の箔位置dpf1等と同様に近似曲線を用いて特定するようにしても良い。この場合には、箔間距離算出工程で、特定した正極箔22の箔位置dpf1等及び負極箔26の箔位置dnf1等を用いて、隣り合う異極の正極箔22-負極箔26間の箔間距離を算出することもできる。
【0037】
また、実施形態では、図3に示すように、電池10の積層型の電極体20の、正極板21と負極板25とセパレータ29とがいずれも平板状とされて積層された被検査領域10Sについて、X線CT解析を行い、各正極箔22の箔位置dpf1等を特定した。また、各負極箔26の箔位置dnf1等を推定したり、正極箔22間の箔間距離DP1等を算出した例を示した。しかし、この実施形態と同様の手法は、扁平捲回型の電極体のうち正極板、負極板及びセパレータが平板状に積み重なった平坦部についても適用できる。
【0038】
加えて、この実施形態と同様の手法を、扁平捲回型の電極体のうち正極板、負極板及びセパレータが半円筒状に曲げられて積み重なったR部、円筒捲回型の電極体について、適用して、各正極箔の箔位置を特定し、また、各負極箔の箔位置等を推定し、さらに、正極箔間の箔間距離等を算出することもできる。
【符号の説明】
【0039】
10 電池(蓄電デバイス)
21 正極板(電極板)
22 正極箔
23a,23b 正極層
23at,23bt (正極層の)厚み
25 負極板(電極板)
26 負極箔
27a,27b 負極層
P(r,θ,z) 位置
AB(r,θ,z) X線吸収量
HT 特定仮想軌跡
d 軌跡上位置
AB(d) 軌跡上X線吸収量
AF,AF1,AF2,…,AF6,…,AF9 フィッティング領域
FC,FC6 近似曲線
FCP,FCP6 (近似曲線の)単一ピーク
dpf,dpf1,dpf2,…,dpf6,…,dpf8 (正極箔の)箔位置
dnf,dnf1,dnf2,…,dnf7 (負極箔の)箔位置
DP,DP1,DP2,…,DP7 (正極箔同士の)箔間距離
S1 解析工程
S2 取得工程
S3 正極箔位置特定工程(箔位置特定工程)
S32 フィッティング工程
S33 正極箔位置推定工程(箔位置推定工程)
S4 負極箔位置推定工程(他方極箔位置推定工程)
S5 箔間距離算出工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6