(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】スパークプラグ用主体金具およびスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
H01T13/20 E
(21)【出願番号】P 2022023445
(22)【出願日】2022-02-18
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【氏名又は名称】山内 聡
(72)【発明者】
【氏名】三田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】杉原 敬太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慎泰
(72)【発明者】
【氏名】小酒井 洋平
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-048930(JP,A)
【文献】特表2009-541942(JP,A)
【文献】特開2015-198053(JP,A)
【文献】特開2004-011024(JP,A)
【文献】国際公開第00/000652(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の金具本体と、
前記金具本体の表面に設けられている金属メッキ層と、
前記金属メッキ層を被覆するように設けられており、クロムを含有する化成被膜層と
を備える、スパークプラグ用主体金具であって、
前記化成被膜層には、ジルコニウム成分が0.1質量%以上の含有割合で含まれている、
スパークプラグ用主体金具。
【請求項2】
前記化成被膜層には、前記ジルコニウム成分が2.0質量%以下の含有割合で含まれている、
請求項1に記載のスパークプラグ用主体金具。
【請求項3】
前記化成被膜層には、コバルト成分がさらに含まれており、
前記コバルト成分の含有割合は、前記ジルコニウム成分の含有割合以下となっている、
請求項1または2に記載のスパークプラグ用主体金具。
【請求項4】
前記化成被膜層には、コバルト成分がさらに含まれており、
前記化成被膜層中の前記コバルト成分の含有割合は、0.1質量%以下である、
請求項1から3の何れか1項に記載のスパークプラグ用主体金具。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のスパークプラグ用主体金具と、
少なくとも一部が前記スパークプラグ用主体金具の内部に配置されている筒状の絶縁体と、
前記絶縁体の先端に配置されている中心電極と、
前記スパークプラグ用主体金具に接合され、前記中心電極との間でギャップを形成する接地電極と
を備えているスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるスパークプラグ用の主体金具、およびこの主体金具を備えるスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンなどの内燃機関の着火手段として、スパークプラグが用いられている。スパークプラグは、軸状の中心電極と、その中心電極を先端側で保持し軸方向に延びる絶縁体と、その絶縁体を内側に保持する筒状の主体金具とを有している。スパークプラグは、中心電極の先端部と、主体金具の先端部に取り付けられた接地電極との間で火花放電が発生するように構成されている。
【0003】
主体金具は、一般に、炭素鋼などの鉄系材料で構成され、その表面には防食のためのメッキ処理が施されている。メッキ処理は、例えば、亜鉛を含有するアルカリ性のメッキ浴中で行われる。これにより、主体金具の表面には亜鉛メッキ層が形成される。亜鉛メッキ層は鉄に対しては優れた防食効果を有するが、鉄製の金具表面に形成された亜鉛メッキ層は犠牲腐食により消耗しやすく、また、生じた酸化亜鉛により白く変色して外観も損なわれ易いという欠点がある。
【0004】
そこで多くのスパークプラグでは、亜鉛メッキ層の表面をさらにクロメート被膜で覆い、メッキ層の腐食を防止することが行われている。例えば、特許文献1には、主体金具の表面が、カチオン系成分が主にクロムと珪素であり、含有されるクロム成分の90重量%以上が三価クロムである珪素複合クロメート被膜によって被覆されているスパークプラグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなクロメート被膜で覆われているスパークプラグは、亜鉛メッキ層の腐食を抑制することができる一方、クロメート被膜に含まれる成分の一部が六価クロムの形で環境中に溶出することが問題となっている。
【0007】
そこで、本発明では、六価クロムの溶出を抑制することのできるスパークプラグ用主体金具、およびこの主体金具を備えるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面にかかるスパークプラグ用主体金具は、筒状の金具本体と、前記金具本体の表面に設けられている金属メッキ層と、前記金属メッキ層を被覆するように設けられており、クロムを含有する化成被膜層とを備えている。このスパークプラグ用主体金具において、前記化成被膜層には、ジルコニウム成分が0.1質量%以上の含有割合で含まれている。
【0009】
上記の構成によれば、金属メッキ層を被覆するように化成被膜層が設けられていることで、金属メッキ層の腐食を抑えることができる。さらに、化成被膜層中のジルコニウム成分の含有割合が0.1質量%以上となっていることで、六価クロムの溶出を抑制することのできるスパークプラグ用主体金具が得られる。
【0010】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用主体金具において、前記化成被膜層には、前記ジルコニウム成分が2.0質量%以下の含有割合で含まれていてもよい。
【0011】
上記の構成によれば、化成被膜層中のジルコニウム成分の含有割合を2.0質量%以下とすることで、化成被膜層中の他の成分の含有量が相対的に低下することを避けることができる。
【0012】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用主体金具において、前記化成被膜層には、コバルト成分がさらに含まれており、前記コバルト成分の含有割合は、前記ジルコニウム成分の含有割合以下となっていてもよい。
【0013】
上記の構成によれば、化成被膜層中にコバルト成分が含まれていることで、主体金具表面の腐食を抑制することができる。また、化成被膜層中のコバルト成分の含有割合がジルコニウム成分の含有割合以下となっていることで、化成被膜層中にコバルト成分が含まれている場合においても、六価クロムの溶出量を低く抑えることができる。
【0014】
上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用主体金具において、前記化成被膜層には、コバルト成分がさらに含まれており、前記化成被膜層中の前記コバルト成分の含有割合は、0.1質量%以下であってもよい。
【0015】
上記の構成によれば、化成被膜層中にコバルト成分が含まれていることで、主体金具表面の腐食を抑制することができる。また、化成被膜層中のコバルト成分の含有割合が0.1質量%以下となっていることで、化成被膜層中にコバルト成分が含まれている場合においても、六価クロムの溶出量を低く抑えることができる。
【0016】
また、本発明のもう一つの局面にかかるスパークプラグは、上記の本発明の一局面にかかるスパークプラグ用主体金具と、少なくとも一部が前記スパークプラグ用主体金具の内部に配置されている筒状の絶縁体と、前記絶縁体の先端に配置されている中心電極と、前記スパークプラグ用主体金具に接合され、前記中心電極との間でギャップを形成する接地電極とを備えている。
【0017】
上記の構成によれば、主体金具からの六価クロムの溶出が抑制することのできるスパークプラグを得ることができる。したがって、六価クロムの溶出という環境への悪影響を低減させることのできるスパークプラグが得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の一局面によれば、六価クロムの溶出を抑制することのできるスパークプラグ用の主体金具を得ることができる。また、本発明の一局面によれば、主体金具からの六価クロムの溶出を抑制することのできるスパークプラグを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるスパークプラグの外観および内部構成を示す部分断面図である。
【
図2】
図1に示すスパークプラグの主体金具の表面の一部分の構成を示す断面模式図である。
【
図3】
図1に示すスパークプラグの製造工程の一部を示すフローチャートである。具体的には、主体金具に被膜を形成するための各工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図3に示す化成被膜層形成工程が行われる様子を示す模式図である。
【
図5】本実施例におけるクロム溶出試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、スパークプラグ1を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、スパークプラグ1を構成している主体金具30の製造方法について説明する。
【0021】
(スパークプラグの構成)
先ず、スパークプラグ1の全体構成について、
図1を参照しながら説明する。スパークプラグ1は、絶縁体50および主体金具30を備えている。
【0022】
絶縁体50は、スパークプラグ1の長手方向に延びる略円筒形状の部材である。絶縁体50内には、軸線Oに沿って延びる軸孔50aが形成されている。絶縁体50は、絶縁性、耐熱性、および熱伝導性に優れた材料で形成されている。例えば、絶縁体50は、アルミナ系セラミックなどで形成されている。
【0023】
絶縁体50の先端部51には、中心電極20が設けられている。本実施の形態においては、スパークプラグ1において、中心電極20が設けられている側をスパークプラグ1の先端側とし、その他端側を後端側とする。
図1においては、図面下方側が先端側であり、図面上方側が後端側である。
【0024】
絶縁体50の他方の端部(すなわち、後端部)には、端子金具53が取り付けられている。中心電極20と端子金具53との間には、導電性のガラスシール55が設けられている。
【0025】
中心電極20は、その先端部分が絶縁体50の先端部51から突出した状態で、絶縁体50の軸孔50aに貫通保持されている。中心電極20は、電極母材21と芯材22とを有している。電極母材21は、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料で形成される。Ni基合金に添加される合金元素としては、Al(アルミニウム)等が挙げられる。芯材22は、電極母材21の内側に埋設されている。芯材22は、電極母材よりも熱伝導性に優れた金属材料(例えば、Cu(銅)又はCu合金など)で形成することができる。電極母材21および芯材22は、鍛造によって一体化される。なお、この構成は一例であり、芯材22は設けられていなくてもよい。すなわち、中心電極20は電極母材のみで形成されていてもよい。
【0026】
また、中心電極20の先端には、例えば、円柱状に成形された貴金属チップが設けられている。貴金属チップは、溶接等により中心電極20の先端に接合される。貴金属チップは、例えば、Pt、Rh、Ir、およびRuから選ばれる1種の貴金属を50wt%以上の含有割合で含む。
【0027】
主体金具(スパークプラグ用主体金具)30は、内燃機関のネジ穴に固定される略円筒形状の部材である。主体金具30は、絶縁体50を部分的に覆うように設けられている。略円筒形状の主体金具30内に絶縁体50の一部が挿入された状態で、主体金具30の後端側に存在する絶縁体50との隙間は、タルク61によって充填されている。
【0028】
主体金具30の本体部分は、筒状の金具本体30aで形成されている。金具本体30aは、導電性を有する金属材料で形成されている。このような金属材料としては、低炭素鋼、または鉄を主成分とする金属材料などが挙げられる。金具本体30aは、後端側から順に、主に、加締部31、工具係合部32、湾曲部33、座部34、および胴部36などを有している。
【0029】
工具係合部32は、内燃機関のネジ穴に主体金具30を取り付けるときにレンチなどの工具を係合させる部位である。工具係合部32の後端側には、加締部31が形成されている。加締部31は、後端側に向かうほど径方向内側に折り曲げられている。座部34は、工具係合部32と胴部36との間に位置しており、先端側に環状のガスケットが配置される。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態で、座部34は、環状のガスケットを図示しないエンジンヘッドに押し付ける。工具係合部32と座部34との間には、薄肉の湾曲部33が形成されている。胴部36は、絶縁体50の先端部51側に位置している。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられる際には、胴部36の外周に形成されたネジ溝(図示せず)が内燃機関のネジ穴に螺合される。
【0030】
また、主体金具30の先端部側(胴部36が位置する側)には、接地電極11が取り付けられている。接地電極11は、溶接などによって主体金具30に接合されている。接地電極11は、全体が略L字形に屈曲する板状体で、基端側が主体金具30の先端面に接合固定されている。接地電極11の先端部は、絶縁体50の軸線Oの仮想延長線が通過する位置にまで延びている。そして、接地電極11の先端部の近傍には、中心電極20側の面に、中心電極20の先端面と対向する貴金属チップ12が溶接されている。
【0031】
これにより、接地電極11の先端部は、中心電極20の先端部に対向するように配置され、接地電極11の先端部(具体的には、接地電極11に溶接された貴金属チップ12)と中心電極20の先端部との間で火花放電が発生するギャップが形成される。なお、別の実施態様では、接地電極11が貴金属チップ12を有していない構成とすることもできる。
【0032】
接地電極11は、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料を電極母材として形成される。Ni基合金に添加される合金元素としては、Al(アルミニウム)等が挙げられる。接地電極11は、Ni以外の成分として、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、およびTi(チタン)より選択される少なくとも一つの元素を含んでいてもよい。
【0033】
(主体金具の構成)
続いて、スパークプラグ1を構成する主体金具30のより具体的な構成について説明する。ここでは、主体金具30の表面に形成されている被膜について説明する。
図2には、主体金具30の表面の一部分の断面構成を示す。
【0034】
主体金具30の表面の被膜は、それぞれ異なる種類の成分を含有する複数の層で構成されている。この被膜は、亜鉛メッキ層(金属メッキ層)41、化成被膜層42という少なくとも2つの層を有している。具体的には、主体金具30の表面の被膜は、金具本体30aに近い側から順に、亜鉛メッキ層41、および化成被膜層42が積層された構造を有している(
図2参照)。
【0035】
亜鉛メッキ層41は、金具本体30aの表面に設けられている。化成被膜層42は、亜鉛メッキ層41を被覆するように設けられている。化成被膜層42は、クロム(Cr)などを含有している。
【0036】
亜鉛メッキ層41は、亜鉛(Zn)を主成分として含有する。ここで、Znを主成分として含有するとは、亜鉛メッキ層41に含まれる各種元素のうち、Znの含有量が最も多いことを意味する。亜鉛メッキ層41は、金具本体30aの表面に従来公知の亜鉛メッキ処理を行うことによって形成することができる。亜鉛メッキ層41の厚さt1は、例えば、3μm以上10μm以下とすることができる。
【0037】
なお、本実施形態では、金属メッキ層の一例として亜鉛メッキ層41を挙げているが、主体金具30の表面に設けられている金属メッキ層は、亜鉛メッキ層に限定はされない。金属メッキ層は、例えば、ニッケルメッキ層であってもよい。
【0038】
化成被膜層42は、クロム(Cr)を主成分として含有するクロム層43、およびシリコン(Si)を主成分として含有するシリコン層44などの複数の層で構成されている(
図2参照)。
【0039】
クロム層43は、クロム(Cr)を主成分として含有する。ここで、Crを主成分として含有するとは、クロム層43に含まれる各種元素のうち、Crの含有量が最も多いことを意味する。クロム層43に含まれるCr成分は、その大部分(例えば、全Cr成分の90質量%以上)が三価クロムからなる三価クロム系クロメートとして存在する。
【0040】
クロム層43には、クロム以外の含有成分として、ジルコニウム(Zr)が含まれている。ジルコニウム(Zr)は、クロム層43中に、ジルコニウム、クロム、酸素、水素を主成分としたイオン化合物の形態で存在する。本実施形態では、化成被膜層42(より具体的には、主にクロム層43)中にイオン化合物の形態で存在するジルコニウムが、ジルコニウム成分に相当する。
【0041】
また、クロム層43には、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)などの成分が含まれていてもよい。化成被膜層42中にコバルト成分が含まれていることで、主体金具表面の腐食を抑制することができる。
【0042】
なお、クロム層43がコバルト成分を含有する場合、化成被膜層42中のコバルト成分の含有量(含有割合)は、ジルコニウム成分の含有量(含有割合)以下となっていることが好ましい。また、クロム層43がコバルト成分を含有する場合、化成被膜層42中のコバルト成分の含有量(含有割合)は、0.1質量%以下となっていることが好ましい。
【0043】
三価クロム系クロメート中のクロムは、被膜生成時にはCr3+の形態で存在するが、被膜中にコバルト成分が含まれていると、このコバルト成分によって酸化され、経時的にCr6+(六価クロム)に変化する。そのため、クロム層43中のコバルト成分の含有量(含有割合)を0.1質量%以下とすることで、被膜中のCr成分はCr3+の形態で安定して存在することができる。これにより、被膜からの六価クロムの溶出量を減少させることができる。なお、被膜からの六価クロムの溶出量をより抑えるためには、化成被膜層42中にコバルトが含まれていないことが好ましい。
【0044】
化成被膜層42中のジルコニウム成分の含有量(含有割合)は、0.1質量%以上となっている。ジルコニウムは、後述する化成被膜層形成工程において、Zr3+の形態で化成被膜層42中に取り込まれる。その後、以下の化学式(I)に示すように、化成被膜層42中のジルコニウム成分は、最も安定なZr4+の形態になろうとすることにより、化成被膜層42内は還元雰囲気となる。
3Zr3+ →3Zr4++3e- (I)
【0045】
そのため、クロム層43中にジルコニウム成分が含まれていることで、化成被膜層42中のクロム成分は、以下の化学式(II)に示すように、六価クロム(Cr6+)の状態からより安定なCr3+の形態になろうとする。すなわち、クロム層43中にジルコニウム成分が含まれていることで、化成被膜層42中のCr成分は、Cr3+の形態で安定して存在することができる。
Cr6+ +3e- →Cr3+ (II)
【0046】
このように、化成被膜層42中にジルコニウム成分が含まれていることで、被膜からの六価クロムの溶出量を抑えることができる。
【0047】
また、化成被膜層42中にコバルト成分が含まれている場合においても、化成被膜層42中にジルコニウム成分が含まれていることで、六価クロムの溶出量を低くすることができる。化成被膜層42中のコバルト成分の含有割合は、ジルコニウム成分の含有割合以下となっていることが好ましい。これにより、六価クロムの溶出量をより低くすることができる。
【0048】
化成被膜層42中のジルコニウム成分の含有量(含有割合)は、2.0質量%以下となっていることが好ましい。これは、ジルコニウム成分の含有量を2.0質量%よりも多くした場合であっても、六価クロムの溶出量の抑制効果に与える影響が小さいためである。また、ジルコニウム成分の含有量を2.0質量%以下とすることで、化成被膜層42中の他の成分の含有量が相対的に低下することを避けることができる。
【0049】
シリコン層44は、ケイ素酸化物(SiO2)を主成分として含有する。ここで、ケイ素酸化物(SiO2)を主成分として含有するとは、シリコン層44に含まれる各種元素のうち、ケイ素酸化物(SiO2)の含有量が最も多いことを意味する。
【0050】
主体金具30の表面の被膜には、亜鉛メッキ層41、並びに、クロム層43およびシリコン層44を有する化成被膜層42に加えて、中間層が含まれていてもよい。具体的には、亜鉛メッキ層41とクロム層43との間に、主に亜鉛(Zn)およびクロム(Cr)を含有する中間層が含まれていてもよい。また、クロム層43とシリコン層44との間に、主にクロム(Cr)およびシリコン(Si)を含有する中間層が含まれていてもよい。
【0051】
化成被膜層42は、亜鉛メッキ層41が形成された金具本体30aに対して、後述する成膜処理(化成被膜層形成工程)を行うことによって形成することができる。
【0052】
化成被膜層42に含まれるクロム層43の厚さt2は、例えば、0.05μm以上0.30μm以下とすることができる。クロム層43の厚さt2を0.05μm以上とすることで、最上層のシリコン層44を形成しやすくなる。これにより、シリコン層44およびクロム層43で被覆されている亜鉛メッキ層41の防食効果を高めることができる。また、クロム層43の厚さt2を0.30μm以下とすることでクロムの使用量を抑えることができる。
【0053】
また、クロム層43の厚さは、0.20μm未満であることが好ましい。クロム層43の厚さを0.20μm未満に薄膜化することにより、主体金具の表面の被膜に含まれるクロムの絶対量を減らすことができる。これにより、主体金具からの六価クロムの溶出をさらに抑制することができる。
【0054】
化成被膜層42に含まれるシリコン層44の厚さt3は、例えば、0.05μm以上1.0μm以下とすることができる。シリコン層44の厚さt3を0.05μm以上とすることで、亜鉛メッキ層41の防食効果を高めることができる。また、シリコン層44の厚さt3を1.0μm以下とすることで、主体金具30の表面の絶縁性が高くなることを抑制し、スパークプラグ1の導電性能を維持することができる。
【0055】
また、クロム層43の厚さt2に対するシリコン層44の厚さt3の比t3/t2は、0.8以上となっている。各層の厚さの比をこのようにすることで、クロム層43中のコバルトの含有量を低く抑えた場合であっても、主体金具の表面の腐食を抑えることができる。
【0056】
なお、クロム層43の厚さt2に対するシリコン層44の厚さt3の比t3/t2は、1.9以上であることがより好ましい。各層の厚さの比をこのようにすることで、主体金具の表面の防食性をより高めることができる。
【0057】
クロム層43を覆うようにシリコン層44が設けられていることで、主体金具30の表面に設けられている被膜の防食性能を向上させることができるため、金具本体30aの腐食をより確実に抑えることができる。
【0058】
また、シリコン層44の厚さt3が上記のように規定されていることで、クロム層43中に含まれるコバルト成分の含有量を少なくしても、充分な防食性能を有する被膜が得られる。また、亜鉛メッキ層41を保護する効果が高まり、亜鉛メッキ層41の犠牲腐食を抑えることができる。
【0059】
(主体金具の製造方法)
続いて、主体金具30の製造方法について説明する。先ず、金具本体30aを製造する。金具本体30aの製造については、従来公知の製造方法が適用できるため、詳しい説明は省略する。
【0060】
続いて、金具本体30aの表面に被膜(具体的には、亜鉛メッキ層41、化成被膜層42など)を形成する。
図3には、金具本体30aの表面に被膜の形成を行うための各工程を示す。
図3に示すように、被膜を形成するための工程には、主として、メッキ工程(S11)、硝酸活性処理工程(S12)、化成被膜層形成工程(S13)、および乾燥工程(S14)が含まれる。また、各工程の間では、金具本体30aを洗浄する水洗処理が行われる。
【0061】
メッキ工程(S11)では、例えば、従来公知の電解亜鉛メッキ法を用いて、金具本体30aの表面に亜鉛メッキ層41を形成する。その後、硝酸活性処理工程(S12)を行う。この工程では、硝酸を含有する酸性溶液中に金具本体30aを浸漬させて、亜鉛メッキ層41の表面のアルカリ性の付着物を除去する。
【0062】
硝酸活性処理工程(S12)の終了後、化成被膜層形成工程(S13)を行う。具体的には、
図4に示すように、クロメート処理液110で満たされた薬液槽100へ、メッキ処置後の金具本体30aを浸漬させる。
【0063】
クロメート処理液110には、主として、クロム供給剤、ジルコニウム供給剤、および添加剤などが含まれている。クロム供給剤には、硝酸クロム、カルボン酸塩などが含まれている。ジルコニウム供給剤には、塩化ジルコニウムや硝酸ジルコニウムのようなジルコニウム塩などが含まれている。添加剤には、金属塩化物、二酸化ケイ素(SiO2)などが含まれている。
【0064】
また、クロメート処理液110には、コバルト供給剤が含まれていてもよい。コバルト供給剤には、塩化コバルトや硝酸コバルトのようなコバルト塩が含まれている。
【0065】
なお、上述したように、化成被膜層42からの六価クロムの溶出を抑えるためには、化成被膜層42中のコバルト成分の含有量を0.1質量%以下にすることが好ましい。そこで、クロメート処理液110中のコバルトの含有量は、非常に微量(例えば、0.1質量%以下)であるか、あるいは、クロメート処理液110には、コバルトが含まれていないことが好ましい。
【0066】
クロメート処理液110のpHは、例えば、1~4の範囲内とすることができる。pHの調製は、例えば、硝酸、希硝酸、または塩酸、および水酸化ナトリウムを添加することで行うことができる。また、クロメート処理液110の温度は、例えば、20℃以上40℃以下の範囲内とすることができる。また、クロメート処理液110への浸漬時間(処理時間)は、例えば、30秒以上60秒以下の範囲内とすることができる。
【0067】
上記のような条件で化成被膜層形成工程(S13)を行うことで、亜鉛メッキ層41が形成された金具本体30aの表面に、化成被膜層42が形成される。より具体的には、亜鉛メッキ層41上に、クロム層43、およびシリコン層44が順に形成される。化成被膜層42中のジルコニウム成分およびコバルト成分の含有量は、上記の各条件(すなわち、クロメート処理液110の配合、pH、温度、および浸漬時間)を適宜変更することで、調整することができる。また、クロム層43の厚さt2、およびシリコン層44の厚さt3は、上記の各条件(すなわち、クロメート処理液110の配合、pH、温度、および浸漬時間)を適宜変更することで、調整することができる。
【0068】
化成被膜層形成工程(S13)の終了後、金具本体30aをクロメート処理液110から取り出し、乾燥工程(S14)を行って、金具本体30aの表面に形成された被膜を乾燥させる。乾燥工程(S14)おいては、環境下の温度を40~220℃とすることが好ましい。
【0069】
以上のようにして、金具本体30aの表面に被膜が形成される。その後、金具本体30aの先端側に接地電極11などを取り付ける。これにより、主体金具30が得られる。この主体金具30は、スパークプラグ1を製造する際の部品の一つとして使用される。主体金具30を備えたスパークプラグ1の製造については、従来公知の製造方法が適用できるため、詳しい説明は省略する。
【0070】
(実施形態のまとめ)
以上のように、本実施形態にかかるスパークプラグ1は、主体金具30と、絶縁体50と、中心電極20と、接地電極11とを備えている。主体金具30は、筒状の金具本体30aと、金具本体30aの表面に設けられている亜鉛メッキ層(金属メッキ層)41と、亜鉛メッキ層41を被覆するように設けられている化成被膜層42とを有している。
【0071】
化成被膜層42は、クロムなどを含有する、いわゆるクロメート被膜である。この化成被膜層42には、ジルコニウム成分が0.1質量%以上の含有割合で含まれている。
【0072】
上記の構成によれば、亜鉛メッキ層41を被覆するように化成被膜層42が設けられていることで、亜鉛メッキ層41の腐食を抑制することができる。さらに、化成被膜層42に、0.1質量%以上の含有割合でジルコニウム成分を含ませることで、化成被膜層42内のクロム成分が六価クロムの形態になることが抑制され、その結果、主体金具30からの六価クロムの溶出を抑制することができる。この主体金具30を用いてスパークプラグ1を製造することで、環境への悪影響を低減させたスパークプラグ1を得ることができる。
【0073】
なお、化成被膜層42には、コバルト成分がさらに含まれていてもよい。これにより、主体金具表面の腐食を抑制することができる。すなわち、化成被膜層42中に、コバルト成分およびジルコニウム成分が含まれていることで、コバルト成分による腐食抑制作用とジルコニウム成分による六価クロムの溶出抑制作用を得ることができる。
【0074】
さらに、化成被膜層42中に含まれるコバルト成分をできるだけ少なくする(例えば、ジルコニウム成分の含有割合以下にする)ことで、六価クロムの溶出量をより少なくすることができる。
【0075】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定はされない。
【0076】
(金具本体への被膜の形成)
本実施例では、上述の実施形態で説明した構成を有する金具本体30aを複数個用意し、表面に被膜を形成する処理を行った。なお、金具本体30aの材質は特に限定されないが、本実施例では低炭素鋼を使用した。
【0077】
先ず、金具本体30aに対して、メッキ処理を行った。具体的には、従来公知のアルカリ浴を用いた電解亜鉛メッキ処理を施すことによって、膜厚約0.5~10μmの亜鉛メッキ層41を形成した。
【0078】
その後、一般的な方法で水洗処理および硝酸活性処理を行った後、クロメート処理液110中に金具本体30aを浸漬させてクロメート処理(すなわち、本実施形態の化成被膜層形成工程)を行った。これにより、亜鉛メッキ層41の表面に、クロム層43およびシリコン層44を有する化成被膜層42を形成した。
【0079】
使用したクロメート処理液110には、以下の薬剤および溶媒などが含まれている。なお、各薬剤の配合比は、各サンプル(実施例A-F、比較例G-H)によって種々に変更した。
クロム供給剤(Cr供給剤):処理液中のCr含有量は500~4000ppm
ジルコニウム供給剤(Zr供給剤):処理液中のCr含有量は0.9~6.5ppm
添加剤:処理液中の含有量は、10~70mL/L
コバルト供給剤(Co供給剤):処理液中のCo含有量は0~50ppm
【0080】
また、全てのサンプル(実施例A-F、比較例G-H)において、クロメート処理液110のpHは、希硝酸を用いて3.0に調製した。また、全てのサンプル(実施例A-F、比較例G-H)において、クロメート処理液110の温度を30℃とした。また、各サンプル(実施例A-F、比較例G-H)に適用した処理時間(浸漬時間)は、45秒であった。
【0081】
表1には、各サンプル(実施例A-F、比較例G-H)に使用したクロメート処理液に含まれる各薬剤の配合を示す。
【0082】
【0083】
表1では、クロメート処理液110に含まれるCr供給剤、Zr供給剤、添加剤、およびCo供給剤の含有濃度について、上記の濃度範囲を5段階で区分した場合の各実施例および各比較例の実施段階として「1」から「5」までの数値で表している。具体的には、Cr供給剤に関しては、数値「3」は約2250ppmである。Zr供給剤に関しては、数値「1」は約0.9ppmであり、数値「2」は約2.3ppmであり、数値「3」は約3.7ppmであり、数値「4」は約5.1ppmであり、数値「5」は約6.5ppmである。添加剤に関しては、数値「4」は約40mL/Lである。
【0084】
Co供給剤に関しては、数値「3」は約25ppmであり、数値「4」は約38ppmである。
【0085】
また、実施例C,D,E,Fでは、処理液にCo供給剤を添加しなかった。比較例G,Hでは、処理液にZr供給剤を添加しなかった。
【0086】
(各成分の含有量の測定)
以上のようにして、金具本体30aの各サンプル(実施例A-F、比較例G-H)に被膜を形成した。そして、各サンプルに形成された化成被膜層42中のジルコニウム成分およびコバルト成分の含有量(質量%)を測定した。具体的には、収束イオンビーム装置(FIB)を用いて各サンプルの表面に形成された被膜の断面を切り取り、その断面をSTEM装置(走査透過型電子顕微鏡)で観察することによって各成分の含有量を測定した。
【0087】
測定された各サンプルのジルコニウム成分およびコバルト成分の含有量(質量%)を、以下の表2に示す。
【0088】
【0089】
表2に示すように、クロメート処理液にZr供給剤を添加しなかったサンプル(比較例G,H)では、化成被膜層42中にジルコニウム成分は検出されなかった。これに対して、クロメート処理液にZr供給剤を添加した各サンプル(実施例A-F)では、処理液中のジルコニウム成分の含有量に応じて化成被膜層42中のジルコニウム成分の含有量が増加することが確認された。
【0090】
また、クロメート処理液にCo供給剤を添加しなかったサンプル(実施例C,D,E,F)では、化成被膜層42中のコバルト成分の含有量は検出限界以下(すなわち、0.1質量%未満)となった。
【0091】
(クロム溶出試験)
各サンプル(実施例A-F、比較例G-H)について、六価クロムの溶出量を確認する試験を行った。具体的には、サンプルを温度40℃、湿度98%の環境下に6日間放置した後、欧州規格EN15205に基づく六価クロム抽出試験を実施した。
【0092】
その結果を表2および
図5に示す。
図5では、各サンプル(実施例A-F、比較例G-H)について、複数個のサンプルの溶出量(μg/cm
2)の実測値を示すとともに、それぞれの平均値(Ave.)についても示す。表2では、各サンプルについて、六価クロムの溶出量(μg/cm
2)の平均値を示す。
【0093】
図5に示すように、化成被膜層42中にジルコニウム成分を0.1質量%以上含有する各サンプル(実施例A-F)では、化成被膜層42中にジルコニウム成分を含有しない各サンプル(比較例G,H)と比較して、六価クロムの溶出値を低くすることができることが確認された。
【0094】
また、化成被膜層42中のコバルト成分の含有割合が、ジルコニウム成分の含有割合よりも少ない各サンプル(実施例B-F)では、両成分の含有割合が同程度のサンプル(実施例A)と比較して、六価クロムの溶出値をより低くすることができることが確認された。
【0095】
また、化成被膜層42中のジルコニウム成分の含有割合が徐々に増加するにしたがって、六価クロムの溶出値がより少なくなることが確認された。そして、化成被膜層42中のジルコニウム成分の含有割合が0.8質量%以上となっている各サンプル(実施例E,F)では、六価クロムの溶出値が0.002μg/cm2以下(すなわち、検出限界以下)となることが確認された。
【0096】
以上の結果より、化成被膜層42中にジルコニウム成分が0.1質量%以上含まれることで、主体金具からの六価クロムの溶出を抑制することができることが確認された。
【0097】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本明細書で説明した種々の実施形態の構成を互いに組み合わせて得られる構成についても、本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 :スパークプラグ
11 :接地電極
20 :中心電極
30 :主体金具(スパークプラグ用主体金具)
30a :金具本体
41 :亜鉛メッキ層(金属メッキ層)
42 :化成被膜層
43 :クロム層
44 :シリコン層
50 :絶縁体