(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】特に携行型時計の製造のための、真珠様光沢の効果のあるセラミックス部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 37/22 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
G04B37/22 Q
G04B37/22 V
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022066037
(22)【出願日】2022-04-13
【審査請求日】2022-04-13
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・リンティメル
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-207853(JP,A)
【文献】特開昭58-81977(JP,A)
【文献】特開2020-84324(JP,A)
【文献】特開2020-55742(JP,A)
【文献】特表2019-513221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 37/00-37/22
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携行型時計の製造のための、真珠様光沢の効果のあるセラミックス部品(10、15)を作成する方法(1)であって、
前記セラミックス部品の本体部分としてのセラミックス体(8)を形成する形成ステップ(2)と、
前記セラミックス体(8)の表面の少なくとも1つの部分(13)にO
xN
yタイプのオキシ窒化物成分によって作られたオキシ窒化物層(9)を堆積させる堆積ステップ(4)と、及び
加熱によって、前記オキシ窒化物層(9)の少なくとも1つの部分(13)を酸化することで、この部分を
前記真珠様光沢の効果をもたらす程度まで反射光が干渉現象を起こす部分として形成する酸化ステップ(6)とを行う
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記形成ステップ(2)は、少なくとも1種類の粉末材料とバインダーとの混合物から前駆体を生成するサブステップを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記形成ステップ(2)は、型内への注入又はプレスによって、前記セラミックス体(8)のために望む形をした材料体を形成するサブステップを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記形成ステップ(2)は、前記材料体を硬化させて所望の形状を得るように前記材料体を焼結するサブステップを含む
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記形成ステップ(2)の間に形成されるセラミックス体(8)は
、白色セラミックスによって作られる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化ステップ(6)の前に、前記オキシ窒化物層を構造化する構造化ステップ(5)を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記構造化ステップ(5)は、フォトリソグラフィーによって、又は直接アブレーション、例えばレーザーによるもの、によって行う
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記オキシ窒化物成分は、ZrO
xN
yタイプのオキシ窒化ジルコニア、CrO
xNタイプのオキシ窒化クロム、及びTiO
xN
yタイプのオキシ窒化チタンから選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記セラミックス体(8)は、前記酸化ステップ(6)の間に、少なくとも500
℃まで加熱される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記セラミックス体(8)は、前記酸化ステップ(6)の間に、少なくとも600℃、まで加熱される
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記堆積ステップ(4)は、PVDタイプの物理蒸着によって行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記形成ステップ(2)の間に形成されるセラミックス体(8)は、ジルコニアを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記堆積ステップ(4)の前に、前記セラミックス体(8)を研磨する研磨ステップ(3)を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の製造のための、真珠様光沢(mother-of-pearl)の効果があるセラミックス部品を製造する方法に関する。
【0002】
本発明は、好ましくは携行型時計の製造の分野(これに限定されない)のために意図された、外側コンポーネントの製造の分野において利用することができる。好ましくは、このようなコンポーネントは、例えば、携行型時計ケース、ブレスレットリンク、表盤、携行型時計ケース、クラスプ要素に取り付けられるように意図された携行型時計ベゼルであることができる。
【0003】
本発明は、さらに、移動体電話や携帯電話、そして、特に携行可能な、コンピュータ端末の分野において用いられる外側コンポーネントの製造に利用することができ、これによって、例えば、移動体電話やタブレットの外殻を形成し、さらには、宝飾品や食器の分野において利用することができる。
【0004】
本発明は、特に、硬い材料によって作られた要素、すなわち、衝撃や傷に耐性のある要素に関する。この硬い材料は、特に、テクニカルセラミックスのタイプのものであることができる。また、各要素は、二酸化ジルコニウム(「ジルコニア」)、酸化アルミニウム(「アルミナ」)、又はセラミックス支持体と金属マトリックスを組み込んだ複合材料(「サーメット」)によって作ることができる。また、本発明の外側コンポーネントの各要素は、合成サファイアや合成ルビーによって作ることもできる。
【0005】
このような部品を製造するために、
- 少なくとも1種類の粉末材料とバインダーの混合物から前駆体を作成するステップと、
- 型内への注入又は押すことによって材料体を形成して、材料体に最終部品の形状を与えるステップと、及び
- 前記材料体を焼結して、硬化させ、所望の部品を得るステップと
を行う方法を用いる。
【背景技術】
【0006】
得られたセラミックス部品に伝統的な方法を用いて着色することができる。例えば、白色に着色する。光沢やマット性の度合いが異なるようなセラミックスの色を得る方法がいくつかある。
【0007】
しかし、元の色合いにバリエーションが限定され、他の色合いを得ることは難しく、したがって、セラミックスの色を興味深い色にすることはできていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するように意図され、色が真珠様であるような、ないし反射が玉虫色であるような、セラミックス部品を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、本発明は、特に携行型時計の製造のための、真珠様光沢の効果のあるセラミックス部品を作成する方法に関する。
【0010】
この方法は、
セラミックス体を形成する形成ステップと、
前記セラミックス体の少なくとも1つの部分にOxNyタイプのオキシ窒化物成分によって作られたオキシ窒化物層を堆積させる堆積ステップと、及び
好ましくは加熱によって、前記オキシ窒化物層の少なくとも1つの部分を酸化する酸化ステップと
を行うという点で画期的である。
【0011】
このように、当該方法によって、セラミックスの面において真珠様光沢の色を得ることができる。実際に、セラミックス部品の一部の表面上のオキシ窒化物層を酸化することによって、この層を部分的に光透過性にすることができる。この層を通して前記セラミックス体の色を見ることができ、これによって、玉虫色の効果が発生し、真珠様光沢仕上げになる。
【0012】
本発明の特定の実施形態において、前記形成ステップは、少なくとも1種類の粉末材料とバインダーとの混合物から前駆体を生成するサブステップを含む。
【0013】
本発明の特定の実施形態において、前記形成ステップは、型内への注入又はプレスによって、前記セラミックス体のために望む形をした材料体を形成するサブステップを含む。
【0014】
本発明の特定の実施形態において、前記形成ステップは、前記材料体を硬化させて所望の形状を得るように前記材料体を焼結するサブステップを含む。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、前記形成ステップの間に形成されるセラミックス体は、一体的に作られ、好ましくは白色セラミックスによって作られる。
【0016】
本発明の特定の実施形態において、この方法は、前記酸化ステップの前に、前記オキシ窒化物層を構造化する構造化ステップを行う。
【0017】
本発明の特定の実施形態において、前記構造化ステップは、フォトリソグラフィーによって、又は直接アブレーション、例えばレーザーによるもの、によって行う。
【0018】
本発明の特定の実施形態において、前記オキシ窒化物成分は、ZrOxNyタイプのオキシ窒化ジルコニア、CrOxNタイプのオキシ窒化クロム、及びTiOxNyタイプのオキシ窒化チタンから選択される。
【0019】
本発明の特定の実施形態において、前記セラミックス体は、前記酸化ステップの間に、少なくとも500℃、好ましくは少なくとも600℃、まで加熱される。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、前記堆積ステップは、PVDタイプの物理蒸着によって行う。
【0021】
本発明の特定の実施形態において、前記形成ステップの間に形成されるセラミックス体は、好ましくは、全体的にジルコニアを含む。
【0022】
本発明の特定の実施形態において、前記堆積ステップの前に、前記セラミックス体を研磨する研磨ステップを行う。
【0023】
添付の図面を参照しながら以下に与えられる説明を読むことによって、他の特徴や利点が明らかになる。なお、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る方法のいくつかのステップを表すブロック図である。
【
図2】セラミックス体と、その上に堆積されたオキシ窒化物層の概略断面図である。
【
図3】オキシ窒化物層を構造化するサブステップの間における
図2の材料体の概略断面図である。
【
図4】オキシ窒化物層を構造化するサブステップの間における
図2の材料体の概略断面図である。
【
図5】オキシ窒化物層を構造化するサブステップの間における
図2の材料体の概略断面図である。
【
図6】オキシ窒化物層を構造化するサブステップの間における
図2の材料体の概略断面図である。
【
図7】酸化ステップ後に得られる材料体の概略断面図である。
【
図8】本発明に係る方法を用いて得られる部品の例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上で説明したように、本発明は、特に携行型時計の製造のための、真珠様光沢の効果があるセラミックス部品、例えば、携行型時計ケース、ブレスレットリンク、携行型時計ベゼル、及びセラミックスインデックスがある表盤の部品、を製造する方法1に関する。当然、この方法1は、携行型時計の製造を離れて、あらゆるセラミックス部品に用いることができる。
【0026】
この方法1は、セラミックス体を形成する第1のステップ2を行う。一般的には、この第1のステップはいくつかのサブステップを含む。第1のサブステップは、少なくとも1種類の粉末材料とバインダーの混合物から前駆体を作成することを伴う。この材料は、好ましくは、セラミックスである。この第1のステップ2は、バインダーに取り込まれたセラミックスベースの粉末から前駆体を形成するように意図されている。
【0027】
これに関連して、セラミックスベースの粉末は、少なくとも1種類の金属酸化物、少なくとも1種類の金属窒化物、又は少なくとも1種類の金属炭化物を含むことができる。例として、セラミックスベースの粉末は、酸化アルミニウム、又は酸化アルミニウムと酸化クロムの混合物、又は酸化ジルコニウムを含むことができる。また、バインダーは、様々な性質を有することができ、例えば、ポリマータイプ又は有機タイプの性質を有することができる。
【0028】
この第1のステップ2は、得ようとする最終的な部品に対応する形状を有する材料体を形成するサブステップを含む。このために、好ましくは、前駆体を型に注入することによる成形方法を用いる。代わりに、前駆体をプレスする方法を、上ダイと下ダイを備え、その間において前駆体がプレスされるようなプレスデバイスとともに用いることができる。
【0029】
第1のステップ2は、材料体を焼結して、セラミックス材料において硬い材料体を形成する第3の焼結サブステップを含む。好ましくは、前記焼結サブステップにおいて、熱分解を行う。焼結ステップの間に、前記材料体は、作られている材料に応じた係数で収縮する。
【0030】
得られるセラミックス体は、好ましくは、一体的に作られ、例えば、好ましくは全体的に、ジルコニアを含む。
【0031】
第2のステップ3において、前記焼結体は、滑らかな面を与えるように研磨され、これは、第3のステップにおける堆積を容易にし、最終的な部品においても引き続き見えるセラミックス体の部分に対して有利な美的外観を与えることを可能にする。
【0032】
当該方法1の第3のステップ4は、セラミックス体の少なくとも1つの部分上に、OxNyタイプのオキシ窒化物化合物の層を堆積させることを伴う。オキシ窒化物化合物は、好ましくは、ZrOxNyタイプのオキシ窒化ジルコニア、CrOxNタイプのオキシ窒化クロム、及びTiOxNyタイプのオキシ窒化チタンから選択される。この層は、好ましくは、50~1000nm、さらには100~500nm、の範囲内の厚みを有する。
【0033】
オキシ窒化物層の堆積は、好ましくは、PVDタイプの物理蒸着によって行う。例えば、反応性スプレー堆積法を用いる。
【0034】
随意的に、当該方法1は、オキシ窒化物化合物の層を構造化する第4のステップ5を行う。このステップは、特定の真珠様光沢のパターンを望む場合に行う。前記構造化は、層の一部の部分を除去することによってオキシ窒化物層に形状を与えることを伴う。例えば、風防を通して見えるロゴ、ブランド、又は時間インデックスに対応するパターンを選択することができる。
【0035】
この構造化ステップ5は、好ましくは、フォトリソグラフィーによって行われる。フォトリソグラフィーは、保持すべき層の部分に感光性樹脂の層を堆積させてその部分を保護し、オキシ窒化物層を化学的にエッチングして前記樹脂によって保護されていない部分を除去することを伴う。したがって、保護樹脂がなくなった後には層の一部のみが保持される。
【0036】
代わりに、前記構造化は、オキシ窒化物層の一部を除去するレーザーを用いて行うことができる。
【0037】
第5のステップ6において、オキシ窒化物層を酸化して、真珠様光沢ないし玉虫色の外観を与える。このために、前記部品は、好ましくは炉内で、加熱される。前記部品は、少なくとも500℃、好ましくは少なくとも600℃、まで加熱される。加熱によって、オキシ窒化物層の全体又は一部を酸化し、それを少なくとも部分的に光透過性にする。この部分的に光透過性の層は、真珠様光沢ないし玉虫色の効果を与える。
【0038】
図2~7は、上記の方法にしたがって部品を作成する様々なステップ、特にオキシ窒化物層を構造化するステップ、について示している。
【0039】
図2において、当該方法の第1及び第2のステップにしたがって形成されるセラミックス体8は、PVDタイプの当該方法の第3のステップにしたがって、オキシ窒化物層9で被覆される。
【0040】
オキシ窒化物層9を構造化し、保持する部分を選択するために、感光性樹脂11をオキシ窒化物層9全体に塗布するようなフォトリソグラフィーを行う。樹脂11の一部を保護するために、樹脂11上にマスクを配置する。このマスクは、オキシ窒化物層9が得るべき形状を有し、用いる樹脂に応じてポジ型又はネガ型のいずれかである。
【0041】
アセンブリーに、放射線、好ましくは紫外線、が与えられ、照射される樹脂の特徴を変える。このようにして、
図3に示しているように、一方が放射線を照射され、他方の部分には放射線が照射されない2種類の樹脂部分11、12が得られる。
【0042】
代わりに、マスクの使用を避けて、紫外線レーザーのような選択的紫外線源で樹脂11に直接照射することができる。
【0043】
図4に示しているように、一方の樹脂部分11が除去されて、オキシ窒化物層の部分上に樹脂部分12のみを保持するようにする。
【0044】
図5において、残りの樹脂部分12によって保護されていないオキシ窒化物層の部分14が、化学的エッチングサブステップによって除去される。したがって、セラミックス体8上にオキシ窒化物層の一部13と残りの樹脂部分12が部分的に被覆されたものを得ることができる。
【0045】
そして、選択された層の部分を保護することを可能にした樹脂部分12が除去されて、セラミックス体8と前記部分のみを保持する。
【0046】
当該方法の第5のステップによると、前記オキシ窒化物層の部分13は、当該方法の第5のステップにしたがって、加熱することによって酸化されて、少なくとも部分的に光透過性にされる。このようにして、玉虫色ないし真珠様光沢の効果を発生させる光透過層13で部分的に被覆されたセラミックス体8が得られる。
【0047】
図8は、携行型時計ベゼル用のセラミックスリングの形をした部品15の例である。この場合において、前記リングはほぼ完全に玉虫色の層16で被覆されている。上記の方法を用い、前記オキシ窒化物層を構造化するステップが、例えば、前記リングにロゴを描くことに寄与する。
【0048】
部品によっては、玉虫色の層で完全に覆うことができ、この場合においては、構造化ステップは行わない。
【0049】
当然、本発明は、図示している例に限定されず、当業者であれば明白な様々な変異形態や改変が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 セラミックス部品を作成する方法
2 形成ステップ
3 研磨ステップ
4 堆積ステップ
5 構造化ステップ
6 酸化ステップ
8 セラミックス体
9 オキシ窒化物層
10、15 セラミックス部品
11、12 樹脂部分
16 玉虫色の層