(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】視標表示装置及び眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/028 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A61B3/028
(21)【出願番号】P 2022134859
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2018162058の分割
【原出願日】2018-08-30
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 英一
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-047095(JP,A)
【文献】特開2014-028070(JP,A)
【文献】特開平07-327928(JP,A)
【文献】特開2013-048753(JP,A)
【文献】特開平08-071041(JP,A)
【文献】特開平06-090902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に視標を呈示する視標表示部と、
前記視標表示部を収容し前記視標を視認する窓部が設けられた筐体と、
を備え、
検眼距離が前記被検眼から250mm~600mmの距離であり、前記被検眼から前記窓部までの距離が、
前記検眼距離よりも短く、
前記筐体の一側又は両側に、被検者が把持する把持部を有していることを特徴とする視標表示装置。
【請求項2】
被検眼に視標を呈示する視標表示部と、
前記視標表示部を収容し前記視標を視認する窓部が設けられた筐体と、
を備え、
検眼距離が前記被検眼から250mm~600mmの距離であり、前記被検眼から前記窓部までの距離が、
前記検眼距離よりも短く、
前記筐体
は、被検者側であって前記窓部の下方に、被検者が腕を載置する載置部
が、前記筐体から突出して設けられていることを特徴とする視標表示装置。
【請求項3】
前記載置部は、
前記筐体に対して高さ方向の位置が変更自在に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の視標表示装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の視標表示装置と、前記被検眼の視機能を矯正するための複数の光学部材を有し各光学部材を前記被検眼と前記視標表示部との間に選択的に配置する検眼光学系と、を備えることを特徴とする眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視標表示装置及び眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼に視標を呈示し、その見え方に関する被検者からの応答に基づいて被検眼の視機能を検査する自覚検眼が知られている。この自覚検眼には、被検眼から例えば5m先等の遠用視距離に呈示された視標の見え方を検査し、検査結果に基づいて最適な矯正方法を決定する遠用検眼と、被検眼から数十cm(例えば30~40cm)の近用視距離に視標を呈示して、加齢等による調整力の変化を検査する近用検眼とがある。
【0003】
一方、光学系を介して遠用視距離に虚像を結像し、この虚像を遠用検眼の視標とする視標表示装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の視標表示装置では、筺体内に凹面鏡や反射ミラーを含む光学系と、視標を表示するディスプレイが収容されている。ディスプレイにより表示された視標の光束を凹面ミラーや反射ミラーで反射することで、光学的に検眼距離を確保することで、被検眼と視標の実距離を短くすることができ、省スペース化を可能としている。
【0004】
また、特許文献1には、遠用検眼と近用検眼とで共通のディスプレイを使用し、遠用検眼時と近用検眼時でディスプレイの位置や向きを変更する構成の視標表示装置も開示されている。しかしながら、液晶ディスプレイ等の電子表示デバイスを遠用検眼用の視標の呈示位置と近用検眼用の視標の呈示位置とに付替える必要がある、各呈示位置に電力や信号情報を送るための配線を行う必要がある等、構造的、電気的に複雑な移動機構が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、省スペース化を図ることができ、簡易な構成の視標表示装置及び眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の視標表示装置は、被検眼に視標を呈示する視標表示部と、前記視標表示部を収容し前記視標を視認する窓部が設けられた筐体と、を備え、前記被検眼から前記窓部までの距離が、近用視距離よりも短く、前記筐体の一側又は両側に、被検者が把持する把持部を有していることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の眼科装置は、上述のような視標表示装置と、前記被検眼の視機能を矯正するための複数の光学部材を有し各光学部材を前記被検眼と前記視標表示部との間に選択的に配置する検眼光学系と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された視標表示装置及び眼科装置では、省スペース化を図ることができ、簡易な構成の視標表示装置及び眼科装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る視標表示装置を備える検眼装置の制御系のブロック構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る視標表示装置の外観構成を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る検眼装置本体の外観構成と、検眼装置本体の光学部材及びその駆動機構の概略を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る視標表示装置の光学系の構成図の一例である。
【
図5】第1実施形態に係る視標表示装置において、近用レンズ(第2の光学系)を光路中に配置したときの光学図の一例である。
【
図6】第1実施形態に係る視標表示装置において、近用レンズ(第2の光学系)を光路中に配置したときの光学図の他の例である。
【
図7】第1実施形態に係る検眼装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第1実施形態の変形例で用いる複数の近用レンズを嵌め込んだターレット板の平面図である。
【
図9】第2実施形態に係る視標表示装置の外観構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の視標表示装置及びこの視標表示装置を備える眼科装置の一例としての自覚式の検眼装置(以下、単に「検眼装置」という。)の第1実施形態を、図面を参照しながら説明する。第1実施形態に係る検眼装置は、被検者が左右の両眼を開放した状態で、被検眼の視機能の検査及び矯正が実行可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、本実施形態の検眼装置では、片眼を遮蔽し、片眼ずつ検査等することも可能となっている。
【0012】
[検眼装置100の構成]
第1実施形態に係る検眼装置100の構成を、
図1~
図4を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る検眼装置100の構成を表すブロック図である。
図2は、視標表示装置2の外観構成を示す模式図であり、
図3は、検眼装置本体1の外観構成と、検眼装置本体1の光学部材及びその駆動機構の概略を示す図である。
図4は視標表示装置2の光学系の構成図の一例である。
【0013】
第1実施形態の検眼装置100は、
図1に示すように、検眼装置本体(レフラクターヘッド)1と、視標表示装置2と、コントローラ3と、を主に備えて構成される。
【0014】
なお、本明細書を通じて
図2~
図4に記すようにX軸、Y軸及びZ軸を取り、被検者(被検眼E)から見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(検眼装置本体1から見て視標表示装置2の方向、奥行き方向)をZ方向とする。
【0015】
〔検眼装置本体1〕
検眼装置本体1は、
図3の紙面上図に示すように、例えば、検眼テーブル4に備えられる。検眼テーブル4は、検眼装置本体1の支持やコントローラ3の載置のための机である。検眼テーブル4には、長手方向に伸縮可能及び円周方向に回転自在に構成された支柱5が設けられ、この支柱5には、横方向に延びる支持アーム6が設けられている。支持アーム6には、支持部材7が取り付けられ、この支持部材7に、検眼装置本体1が吊り下げられている。検眼装置本体1は、
図4に示すように、被検眼Eと視標表示装置2との間に挿脱自在に配置される。
【0016】
検眼装置本体1は、被検者S(
図3参照)の左右の被検眼E(左眼EL,右眼ER)に対応するように、左右に一対設けられた左眼用及び右眼用の検眼光学系としての検眼ユニット10L,10Rを備えている。各検眼ユニット10L,10Rは、左右方向(X方向)にスライド可能に支持部材7に取り付けられ、相対接近及び離反が可能となっている。以下、「左眼用及び右眼用」を、単に「左右眼用」、又は「左右の」と省略することがある。
【0017】
左右眼用の検眼ユニット10L,10Rには各々左右眼用の検眼窓11L,11Rが設けられている。各検眼ユニット10L,10R内には、左右眼用の検眼窓11L,11Rに選択的に配置して検眼に用いる左右眼用の複数の光学部材12L,12Rが配置されている。また、各検眼ユニット10L,10R内には、各検眼窓11L,11Rに配置されて各検眼窓11L,11Rをそれぞれ開閉(遮蔽・開放)する左右眼用の遮光部材が設けられている。左右眼用の光学部材12L,12R及び遮光部材は、左右眼用の駆動機構13L,13Rによって個別に動作可能に構成されている。
【0018】
また、検眼装置本体1には、左右眼用の検眼ユニット10L,10Rの間に、被検眼Eの特性の測定に際して被検者が額を当てる額当部15が設けられている。
【0019】
左右眼用の複数の光学部材12L,12Rは、被検眼Eの視機能を矯正するために用いられる各種レンズ及び偏光部材からなる集合体である。各光学部材12L,12Rは、例えば、偏光フィルタ、球面レンズ、円柱レンズ、プリズムを含んでいる。複数の光学部材12L,12Rは、検眼パラメータの種別ごとに組分けされる。
【0020】
検眼パラメータは、被検眼Eの視機能を検査するための検査条件を示すものである。例えば、検眼パラメータの種別は、球面度数、乱視度数、乱視軸角度、加入度数、瞳孔間距離、プリズム度数及びプリズム基底方向等が挙げられる。
【0021】
左右眼用の駆動機構13L,13Rは、左右眼用の複数の光学部材12L,12Rのそれぞれを左右の検眼窓11L,11Rに配置させ、かつ、検眼窓11L,11Rから退避させることが可能に構成されている。例えば、
図3の紙面下図に示すように、各駆動機構13L,13Rは、左右眼用の複数の円板形状のターレット板14L,14Rを有している。各ターレット板14L,14Rは、各駆動機構13L,13Rによって、円の中心を軸として円周回りに回転可能に構成される。各ターレット板14L,14Rは、外周縁の近傍に複数の孔hを有する。孔hには、光学部材12L,12Rがそれぞれ嵌め込まれている。駆動機構13L,13Rは、ターレット板14L,14Rを回転させることにより、複数の光学部材12L,12Rのそれぞれを検眼窓11L,11Rに配置させ、かつ、検眼窓11L,11Rから退避させる。駆動機構13L,13Rは、例えば、アクチュエータと、複数の歯車組やラック・アンド・ピニオン等の駆動力伝達機構と、等から構成される。
【0022】
〔視標表示装置2〕
視標表示装置2は、
図4に示すように、検眼装置本体1を介して被検眼Eの前方に配置される。視標表示装置2は、
図2に示すように、視標呈示光学系30が収容された直方体形状の筺体21と、基台22と、上下動機構23と、制御部24と、を主に備えて構成される。
【0023】
制御部24は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM等から構成される。制御部24は、コントローラ3からの指示信号に従って、視標表示装置2の動作を制御する。
【0024】
筺体21は、上下動機構23を介して基台22に設けられ、公知の上下動機構23によって、筺体21の高さを変更自在となっている。筺体21の上部側の前面(被検眼E側)には、被検者が視標を視認するための窓部(ウィンドウ)25が開口されている。この窓部25には、ポリアクリレート樹脂(PMMA)等の透明樹脂製のフィルタ26が設けられている。
【0025】
筺体21の内部には、
図4に示すように、視標呈示光学系30が設けられている。この視標呈示光学系30は、視標表示部としてのディスプレイ31と、第1反射ミラー32と、第1の光学系としての遠用レンズ33と、第2反射ミラー34と、第2の光学系としての近用レンズ35と、近用レンズ35の駆動機構36と、を主に備えて構成されている。この他にも、第2反射ミラーの駆動機構等も備えている。
【0026】
本実施形態では、被検眼Eとフィルタ26との距離、すなわちワーキングディスタンス(WD)を100mmとしている。また、フィルタ26と第2反射ミラー34との距離を100mmとし、第2反射ミラー34と遠用レンズ33との距離を150mmとしている。よって、被検眼Eから遠用レンズ33までの距離は350mmとなっている。なお各部材間の距離が上記に限定されるものではなく、視標表示装置2の用途、仕様、設計、デザイン等に応じて適宜の距離とすることができる。
【0027】
なお、WDについては、近用視距離よりも短く設定することが望ましい。従来は、このWDは、1m前後となるように視標呈示光学系が構成されており、近用検眼の際には、このWD内に近用検眼用の視標を配置していた。しかし、更なる省スペース化のため、WDを短くすることが望まれている。したがって、WDを上記範囲となるように視標呈示光学系30を構成することで、更なる省スペース化を図ることができる。本実施形態では、筺体21に収容されたディスプレイ31の視標Oを近用検眼と遠用検眼とで共有することができるため、被検眼Eとフィルタ26との間に近用検眼用の視標を配置する必要がなく、WDを近用検眼時の近用視距離よりも短くすることができる。また、WDを検眼装置本体1の厚みより大きく設定することで、被検眼Eと視標表示装置2との間に、検眼装置本体1を容易に挿脱することができる。
【0028】
ディスプレイ31は、制御部24の制御の下、その表示面(表示領域)31aに視標を表示することによって、被検眼Eに視標を呈示する。ディスプレイ31は、遠用レンズ33の前側焦点位置(
図4のf0)よりも手前(被検眼E側)に配置されている。視標表示装置2の制御部24は、コントローラ3からの指示信号を受けることによって、視力検査視標、赤緑検査視標、乱視検査視標、両眼視機能検眼視標等の視標の画像を表示面31aに表示する。また、制御部24は、遠用検眼及び近用検眼の際の検眼距離に応じて視標の画像の拡縮や上下左右反転等の画像処理を行った上で、視標の画像を表示面31aに表示する。
【0029】
ディスプレイ31は、液晶ディスプレイ(LCD)や有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL)等の電子表示デバイスによって構成される。ディスプレイ31の表示面31aは、ピクセル(画素)がアレイ状に配列されている。表示する視標に応じて、表示面31aの所定の領域に視標を表示することができる。
【0030】
視標としては、検眼に用いるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、ランドルト環(
図4参照)、スネレン視標、Eチャート等であってもよいし、ひらがなやカタカナ等の文字、動物や指等の絵等を用いた視標であってもよいし、十字視標等の両眼視機能検眼用の特定の図形や風景画や風景写真等であってもよく、様々な視標を用いることができる。また、視標Oが静止画であってもよいし動画であってもよい。本実施形態では、電子表示デバイスからなるディスプレイ31を備えているため、所望の形状及び形態の視標を表示することができ、多様な検眼が可能となる。
【0031】
第1反射ミラー32は、ディスプレイ31の表示面31aに表示された視標からの光束を反射して遠用レンズ33に導く。
【0032】
遠用レンズ33は、第1反射ミラー32で反射された視標Oからの光束を屈折して、視標Oの虚像を被検眼Eから第1の検眼距離に結像する。遠用レンズ33は、凸レンズや凸メニスカスレンズ等の凸レンズ系で構成することができる。本実施形態では、1枚の平凸レンズで構成しているが、遠用レンズ33がこの構成に限定されるものではなく、2枚以上のレンズから構成してもよいし、貼り合わせレンズから構成してもよい。
【0033】
第2反射ミラー34は、遠用レンズ33を透過した光束を反射して被検眼Eから第1の検眼距離の像点位置に虚像を呈示する。第2反射ミラー34は、公知の駆動機構によってX軸回りに可動可能に構成されている。そのため、被検眼Eの床面からの高さに応じて、第2反射ミラー34の傾斜角度を調節することができる。この構成により、被検眼Eの高さがいずれであっても、被検眼Eに表示面31aからの光束を導いて、検眼に適した視標Oの像を被検眼Eに呈示することができる。
【0034】
本実施形態の第1の検眼距離は、遠用検眼を行うための遠用視距離である。遠用視距離としては、例えば、被検眼Eから3m~6mが好適に挙げられるが、本実施形態では5mとしている。そのため、
図4に示すように、被検眼Eから5mの位置に遠用検眼用の虚像Iを結像する光学特性を有する遠用レンズ33及び光学配置を用いている。
【0035】
近用レンズ35は、遠用レンズ33とディスプレイ31間の光路中に挿脱自在に配置される。この光路中に配置された近用レンズ35と遠用レンズ33により、被検眼Eから、第1の検眼距離よりも短い第2の検眼距離に視標Oの像i’(
図5、
図6参照)が結像される。本実施形態では、近用レンズ35によって、視標Oの像が縮小して結像されるように、近用レンズ35による結像倍率を縮小倍率としている。
【0036】
近用レンズ35も、凸レンズ系で構成することができる。本実施形態では、近用レンズ35を1枚の両凸レンズで構成しているが、これの構成に限定されるものではなく、2枚以上のレンズから構成してもよいし、貼り合わせレンズから構成してもよい。
【0037】
本実施形態の第2の検眼距離は、近用検眼を行うための近用視距離である。近用視距離としては、例えば、被検眼Eから250mm~600mmが好適に挙げられる。本実施形態では、近用レンズ35を光軸Lに沿って移動させることで、近用視距離を、被検眼Eから350mm~400mの範囲で任意に設定できるようにしている。
【0038】
駆動機構36は、制御部24の制御の下、近用レンズ35を駆動して、ディスプレイ31と遠用レンズ33との間の光路中へ近用レンズ35を配置し、さらには光路中から退避させる。
【0039】
さらに駆動機構36は、光路中に配置した近用レンズ35を、光軸Lに沿ってY方向(上方及び下方)に移動させる。これにより、被検眼Eから350mm~400mの位置に視標の像i’を結像させることができる。
【0040】
駆動機構36は、近用レンズ35の光路中への挿脱と、光軸Lに沿った移動が可能であればよく、特に限定されることはない。例えば、アクチュエータと、複数の歯車組やラック・アンド・ピニオン等の駆動力伝達機構と、等から構成することができる。
【0041】
ここで、視標表示装置2において、近用レンズ35を用いずに、従来のようにディスプレイ31を300mm~400mmの近用視距離位置に移動させて近用検眼を行う場合を想定する。この視標表示装置2では、被検眼から遠用レンズ33までの距離が350mmであるため、近用視距離300mmで近用検眼を実施する場合は、遠用レンズ33より50mm手前(
図4にaで示す位置)にディスプレイ31を配置すればよい。これに対して、近用視距離400mmで近用検眼を実施する場合は、遠用レンズ33よりも50mm奥(
図4にbで示す位置)にディスプレイ31を配置する必要があり、この場合、遠用レンズ33を光路中から退避させる必要がある。
【0042】
このように、遠用検眼時と近用検眼時でディスプレイ31の位置が異なるため、各々の位置にディスプレイ31を移動する機構が必要になる。また、コンパクト化のために光路を反射ミラーなどで折り曲げている場合は、ディスプレイ31の向きなども変更する必要がある。
【0043】
さらに、近用検眼時はディスプレイ31を被検眼Eの近くに配置するため、画素ピッチの細かい、高精細のディスプレイ31が必要となり、コスト高となる。更には、両眼視機能検眼のため、画素ごとに偏光方向の異なる偏光フィルタや位相フィルタを配置する必要があるが、高精細のディスプレイ31では、これらの配置が困難となる。
【0044】
これに対して、本実施形態では、ディスプレイ31を移動させず、遠用レンズ33とディスプレイ31の位置関係は変更することなく、遠用レンズ33とディスプレイ31との間の光路中に近用レンズ35を配置することで、近用検眼を可能としている。したがって、複雑な移動機構を設ける必要がなく、視標表示装置2を簡易な構成とすることができる。さらに、本実施形態では近用レンズ35の結像倍率を縮小倍率としているので、ディスプレイ31の画素ピッチが近用レンズ35で縮小されて被検眼Eに投影される。そのため、画素ピッチが荒いディスプレイ31であっても、精細な像を結像することができ、近用検眼用の視標として好適に用いることができる。
【0045】
〔コントローラ3〕
コントローラ3は、検者が検眼装置100を操作するために用いられる。コントローラ3は、検者Tによる操作を受け付け、この操作に応じた指示信号を検眼装置本体1又は視標表示装置2又はこれら双方へ出力する。コントローラ3と検眼装置本体1及び視標表示装置2とは、一般的な通信インターフェイス(I/F)によって、通信可能に接続される。コントローラ3は、各通信I/Fを介して、指示信号を検眼装置本体1や視標表示装置2へ出力する。
【0046】
コントローラ3は、
図1に示すように、検眼装置100全体の動作を制御する制御部40と、検者Tからの操作指示を受け付ける受付部41と、検眼パラメータ、検査情報又は検査結果等を表示する表示部42と、などを有して構成される。
【0047】
受付部41として、例えば、キーボードやマウス等を備えている。また、表示部42は、LCDや有機EL等の電子表示デバイスにより構成することができる。表示部42がタッチパネル式であれば、表示部42の表示面が受付部41としても機能する。受付部41は、視標表示装置2のディスプレイ31の表示面31aに表示する各種視標Oの選択指示、プリズム度数、球面度数(S)、円柱度数(C)、軸角度(A)、瞳孔間距離(PD)、加入度(ADD)等を設定するための指示、被検眼Eを左眼若しくは右眼又は両眼に設定するための指示等を受け付ける。
【0048】
コントローラ3は、受付部41や表示部42を備えた検眼専用のコントローラとしてもよいし、ノート型パーソナルコンピュータを用いてもよい。または、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯端末(情報処理装置)で構成することもできる。
【0049】
制御部40は、マイクロプロセッサと、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等の記憶部40aと、を有して構成される。制御部40は、記憶部40aに、検眼装置100の各部の制御を行うためのコンピュータプログラムを予め記憶する。制御部40は、このコンピュータプログラムを、例えばRAM上に展開して実行することにより、検眼装置100の動作を統括的に制御する。また、記憶部40aには、コンピュータプログラムのほかに、検眼のための各種検眼パラメータ、検眼結果などが記憶される。
【0050】
制御部40は、受付部41で受け付けた操作指示に応じて、検眼パラメータや検査情報を表示部42に表示させる。また、タッチパネル式の表示部42の場合は、操作キーなどを表示部42に表示させる。また、制御部40は、操作指示に応じて、駆動機構13L,13Rを駆動してターレット板14L,14Rを回転させ、検眼窓11L,11Rに配置される屈折レンズの度数やプリズムの度数を変更する。また、駆動機構13L,13Rを駆動して遮蔽部材を作動させ、検眼窓11L,11Rを開閉する。
【0051】
また、制御部40は、受付部41で受け付けた呈示対象視標の選択指示によって選択された視標Oをディスプレイ31の表示面31aに表示させるための指示信号を、視標表示装置2に送信する。
【0052】
上述のような構成の第1実施形態の検眼装置100を用いて、遠用検眼と近用検眼を実行するときの動作の一例を、
図4~
図6の光学図及び
図7のフローチャートに従って説明する。
図5、
図6は、近用レンズ35を光路中に配置したときの光学図である。
図5、
図6は、説明を容易とするために、第1反射ミラー32、第2反射ミラー34による光路の変更を省略して、光学構成を模式的に示した図である。また、各部材のサイズや部材間の距離は、実際のスケールとは異なっている。
【0053】
まず、準備作業として検眼装置100(検眼装置本体1、視標表示装置2及びコントローラ3)を電源オンして起動させる。次いで、検眼装置本体1を、
図4に示すように、視標表示装置2の窓部25の前方に配置する。なお、検眼の目的や種類等によっては、検眼装置本体1を用いずに、視標表示装置2を直接に視認してもよい。
【0054】
被検者が額当部15に額を当てることで、左眼用の検眼ユニット10L及び右眼用の検眼ユニット10Rの前方に、左右の被検眼Eが配置される。このとき、検者がコントローラ3を操作して駆動機構13L,13Rを駆動するか又は手動で、被検眼Eの瞳孔間距離PDに応じて、検眼ユニット10L,10Rを左右方向にスライドさせ、左眼EL及び右眼ERに臨んで検眼窓11L,11Rが配置されるように調整する。
【0055】
そして、検者Tがコントローラ3を操作して、遠用検眼又は近用検眼の検眼指示をすると、制御部40がこの検眼指示を受け付ける(ステップS1)。遠用検眼の指示を受け付けた場合には(ステップS2の判定がYES)、制御部40は、光路中から近用レンズ35の退避を指示する指示信号を、視標表示装置2に送信する。この指示信号を受けた視標表示装置2では、制御部24の制御の下、駆動機構36が近用レンズ35を駆動して、
図4に二点鎖線で示すようにディスプレイ31と遠用レンズ33との間の光路中から近用レンズ35を退避させる(ステップS3)。
【0056】
次に、検者Tがコントローラ3を操作して、所定の視標Oの呈示を指示すると、これを受け付けた制御部40が、視標表示装置2に視標Oの表示を指示する指示信号を送信する。この指示信号を受けた視標表示装置2の制御部24は、ディスプレイ31の表示面31aに、大きさ等を適宜調整した遠用検眼用の視標Oを表示する(ステップS4)。なお、ステップS3とステップS4の工程は、逆順に実行してもよいし、実質同時に実行してもよい。
【0057】
以上の工程により、
図4に示すように、表示面31aに表示された視標Oからの光束が、第1反射ミラー32で反射され、遠用レンズ33に導かれる。遠用レンズ33は、第1反射ミラー32で反射された光束を屈折して、視標Oの虚像Iを被検眼Eから5mの位置に結像する。この虚像Iを、検眼ユニット10(10L,10R)の検眼窓11(11L,11R)を介して被検者に注視させ、コントローラ3で検眼ユニット10(10L,10R)を操作することで、被検眼Eの遠用検眼を実行する(ステップS5)。これにより、被検眼Eから5mの遠用視距離に設置した視標を用いたときと同様の遠用検眼が可能となる。
【0058】
また、このような遠用視の状態で、視標Oの見え方などに応じて、ターレット板14L,14Rを回転させて、光学部材12L,12Rの適宜のレンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、遠用時の屈折異常や斜位等の矯正を行うことができる。
【0059】
一方、近用検眼の指示を受け付けた場合は(ステップS2の判定がNO)、制御部40は、光路中への近用レンズ35の配置を指示する指示信号を、視標表示装置2に送信する。この指示信号を受けた視標表示装置2では、制御部24の制御の下、駆動機構36が近用レンズ35を駆動して、
図4に実線で示すようにディスプレイ31と遠用レンズ33との間の光路中に近用レンズ35を配置する(ステップS6)。
【0060】
次いで、駆動機構36は、必要に応じて近用レンズ35を光軸Lに沿って移動させ、近用視距離に応じた位置に配置する(ステップS7)。また、検者がコントローラ3を操作して、近用検眼用の所定の視標Oの呈示を指示すると、これを受け付けた制御部40が、視標表示装置2への視標Oの表示を指示する指示信号を送信する。この指示信号を受けた視標表示装置2では、制御部24が、ディスプレイ31の表示面31aに、上下左右反転させ、大きさ等を適宜調整した近用検眼用の視標Oを表示する(ステップS8)。ステップS6~S8の工程は、逆順に実行してもよいし、実質同時に実行してもよい。
【0061】
これにより、表示面31aに表示された視標Oからの光束が、第1反射ミラー32で反射された後、近用レンズ35及び遠用レンズ33によって屈折され、視標Oの像i’(
図5、
図6参照)が被検眼Eから近用視距離の位置に結像される。
【0062】
より具体的には、例えば、
図5に示すように、近用視距離を400mmとする場合、光軸L上において、遠用レンズ33より50mm手前に視標Oの像(像i’)が結像される位置に、近用レンズ35を配置する。つまり、近用レンズ35と遠用レンズ33の焦点距離等の光学特性に応じて、近用レンズ35が視標Oからの光束を屈折して、遠用レンズ33の手前に像iを結像する位置に、近用レンズ35を配置する。
【0063】
近用レンズ35により結像された像iは遠用レンズ33により屈折され、被検眼Eから400mmの位置に像i’が結像される。被検者は、検眼装置本体1の検眼ユニット10を介して、視標Oの像i’を視認することができる。
【0064】
像i,i’は、倒立像であるため、制御部24は、遠用検眼時に対して視標Oの画像を上下左右反転させて表示面31aに表示する。これにより、被検者は、上下左右が正しく表示された視標Oの像(像i’)を観察することができる。また、制御部24は、近用レンズ35を介した結像倍率に応じた大きさの視標Oを表示する。これにより、視標Oの像が近用レンズ35の挿入によって縮小されても、被検者は近用検眼に適した視角の視標Oの像を観察することができる。
【0065】
また、
図6に示すように、近用視距離を300mmとする場合、遠用レンズ33の奥側(被検眼E側)50mmの位置に視標Oの像(像i’)を呈示する。このため、近用レンズ35を、光軸Lに沿って、
図5の位置から遠用レンズ33の方向に移動し、近用レンズ35によってディスプレイ31上の視標Oが
図6のiの位置に結像される位置に配置する。
【0066】
この像iは遠用レンズ33により屈折され、被検眼Eから300mmの位置に像i’が結像される。このとき、
図5に示す近用視距離400mmの時と、結像倍率が異なるため、ディスプレイ31上に大きさを変更して視標Oを表示する。これにより、近用視距離300mmに対応し、上下左右が正しく、かつ鮮明な視標Oの像を被検眼Eに呈示することができる。
【0067】
以上により、近用検眼時に遠用レンズ33を退避したり、ディスプレイ31の位置を移動したりすることなく、被検眼Eから400mmの位置に近用視用の視標を呈示することができる。また、近用レンズ35による画素ピッチの縮小、ディスプレイ31への視標Oの上下反転表示及び大きさの調整により、鮮明な近用検眼用の視標Oを呈示することができる。
【0068】
そして、被検者に、この視標Oの像i’を注視させ、被検眼Eの近用検眼を実行する(ステップS9)。これにより、加齢等による被検眼Eの調節力の変化等を検査することができる。また、見え方などに応じて、ターレット板14L,14Rを回転させて、光学部材12L,12Rの適宜のレンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、近用視時の調節の状態や斜位等の矯正を行うことができる。
【0069】
(変形例)
以下、第1実施形態の変形例について説明する。上記第1実施形態では、所定の焦点距離の1つの近用レンズ35を、近用視距離に応じて光軸Lに沿って移動する実施形態を説明した。一変形例として、例えば、焦点距離の異なる複数の近用レンズ35を備え、近用レンズ35を光軸L上で移動させることなく、光軸L上の同じ位置に各近用レンズ35を選択的に配置する構成とすることができる。
【0070】
この場合、公知の駆動機構によって、複数の近用レンズ35の中から近用視距離に対応した近用レンズ35をピックアップして光路中に配置する構成としてもよい。また、
図8に示すように、焦点距離の異なる複数の近用レンズ35を嵌め込んだ円板形状のターレット板37を用いてもよい。公知の駆動機構によってターレット板37を円周周りに回転させることで、光軸L上に選択的に近用レンズ35を配置する。
図8のターレット板37では、円周周りに複数開口した孔h’に、例えば、300mm用、400mm用、500mm用、600mm用の近用レンズ35a,35b,35c,35dを嵌め込んでいるが、これに限定されるものではない。これら以外の近用視距離に対応するレンズを用いてもよいし、さらに多くのレンズを用いてもよい。また、ターレット板37の一つの孔h’に、レンズを嵌め込こまずに、開口部38を設けている。この開口部38にはガラス等を嵌め込んでもよい。また、開口部38に限らず、切欠き部等でもよい。遠用検眼の際には、ターレット板37を回転させて、この開口部38を光路中に配置することで、近用レンズ35a,35b,35c,35dが光路中から退避され、遠用レンズ33による遠用視距離への虚像Iの結像を支障なく行うことができる。
【0071】
さらに異なる変形例として、例えば、近用視距離300mmと400mmの一方に合わせて近用レンズ35を光軸L上に配置し、当該近用視距離で近用検眼を実施する。他方の近用視距離での近用検眼の際には、一方の近用視距離に合せた近用レンズ35に対して、更に別のレンズを光路中に追加して配置することで、他方の近用視距離に対応する合成焦点距離とする。これにより、他方の近用視距離に虚像を結像させることができる。さらに異なるレンズを近用レンズ35の前後に追加等することで、300mm、400mm以外の近用視距離に対応する合成焦点距離とすることができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る視標表示装置2Aについて、
図9を参照しながら説明する。第2実施形態に係る視標表示装置2Aは、筺体21に被検者の肘や腕を置く肘置部(載置部)27と被検者が把持する把持部28を設けたこと以外は、上記第1実施形態の視標表示装置2と同様の外観構成を備えている。そのため、第1実施形態と同様の構成については、詳細な説明は省略する。
【0073】
図9に示すように、第2実施形態に係る視標表示装置2Aは、筺体21と、基台22と、上下動機構23と、制御部24と等を備えている。筺体21は、フィルタ26が設けられた窓部25を有し、筺体21内部には、
図1等に示す第1実施形態又はその変形例と同様の視標呈示光学系30が収容されている。しかしながら、第2実施形態に係る視標表示装置2Aの視標呈示光学系が、これらに限定されるものではなく、被検眼Eに視標を呈示できるものであれば、いずれの構成であってもよい。
【0074】
第2実施形態では、窓部25の下方であって筺体21の前方に、被検者が肘を置く肘置部27を設けている。肘置部27を設けた製品は従来も存在するが、この場合、肘置部27は固定的に設けられている。本実施形態では、肘置部27の取り付け高さ方向の位置を変更可能とすることで、肘置部27の高さを変更自在な構成としている。
【0075】
さらに本実施形態では、筺体21の両側に、被検者が把持する把持部28を一対設けている。把持部28は、上下方向の何れの位置でも把持できるように、上下方向に長尺に延びるバー型取っ手から構成している。
【0076】
なお、本実施形態では、把持時の安定性等をより向上させるべく、把持部28を一対設けているが、この構成に限定されるものではない。把持部28を筺体21のいずれか一側のみに設けてもよく、省スペース化が可能となる。また、本実施形態では肘置部27と把持部28の双方を設けているが、これに限定されることもなく、コスト、デザイン、設置スペース等を考慮して、いずれか一方のみ設けるものであってもよい。
【0077】
検眼の際、座位や立位での被検眼Eの高さには個人差がある。本実施形態の視標表示装置2では、上下動機構23により、視標呈示光学系30を収容する筺体21を上下動することで、視標呈示光学系30の光軸Lと被検眼Eの高さを合わせることができる。ところで、検眼中は、被検者は例えば額当部15に額を当て、顔の位置を固定する。検眼中はこの姿勢を保持する必要がある。しかしながら、検眼には時間を要するため、被検者が疲労感を覚え、姿勢保持が困難となることがある。
【0078】
そこで、被検者は検眼テーブル4や、肘置部27に腕を載せることで、額当部15に当てた額と併せて姿勢を保持しようとする。しかしながら、検眼テーブル4や固定的に設けられた肘置部27は、被検眼Eを配置する位置からの高さが一定であるため、子供や小柄な人は肘等が検眼テーブル4等に届かないことがある。逆に、大柄の人では検眼テーブル4等に肘を置くと、首をすくめないと被検眼Eの高さを合せられないことがある。したがって、長時間の姿勢保持が困難となることがある。
【0079】
これに対して、本実施形態では、肘置部27の取り付け位置を、上下方向に変更可能としている。そのため、光軸Lに合わせて被検眼Eを配置した状態での被検者の肘の高さに合わせて、肘置部27の高さを調整することで、肘を置いたときの安定性が向上し、被検者は楽な姿勢で視標Oを視認することができ、長時間の姿勢保持が可能となる。
【0080】
また、検眼中に、筺体21の両側に設けた把持部28を把持してもよい。この把持部28は、上下方向に延びるバー型取っ手であるため、被検者は上下方向の最適な位置で把持部28を把持することができる。この場合も長時間の姿勢保持が可能となる。
【0081】
なお、第2実施形態の視標表示装置2Aも、被検眼Eとの間に検眼装置本体1を介在せずに、直接に視標O(虚像I,像i’)を視認してもよい。また、第2実施形態の視標表示装置2と検眼装置本体1とを備えた検眼装置とし、検眼装置本体1の検眼ユニット10越しに視標Oを視認する構成としてもよい。
【0082】
以下、本発明の作用効果を説明する。上記各実施形態及び変形例の視標表示装置2,2Aは、被検眼Eに視標を呈示する一つの視標表示部(ディスプレイ31)と、視標表示部に表示された視標Oの虚像Iを被検眼Eから第1の検眼距離に結像する第1の光学系(遠用レンズ33)と、視標表示部と第1の光学系との間の光路中に挿脱自在に配置される第2の光学系(近用レンズ35)と、視標表示部、第1の光学系及び第2の光学系を収容し視標Oを視認する窓部25が設けられた筺体21と、を備えている。第2の光学系が光路中に配置されたときに、第1の光学系及び第2の光学系により、被検眼Eから、第1の検眼距離よりも短い第2の検眼距離に視標Oの像i’を結像するように構成されている。また、上記各実施例等の眼科装置としての検眼装置100は、上述のような視標表示装置2,2Aと、被検眼Eの視機能を矯正するための複数の光学部材12を有し各光学部材12を被検眼Eと視標表示部(ディスプレイ31)との間に選択的に配置する検眼光学系(検眼ユニット10)を備えて構成される。
【0083】
以上の構成により、第1の光学系を光路中から退避させたり、ディスプレイ31の位置を変更したりすることなく、光路中に第2の光学系を挿脱するだけで、視標Oの呈示位置を第1の検眼距離と第2の検眼距離に容易に切り替えることができる。したがって、異なる検眼距離に視標を呈示することが可能であり、この異なる検眼距離への視標の呈示の切り替えが容易で、簡易な構成の視標表示装置2,2A及び検眼装置100を提供することができる。
【0084】
また、第1の検眼距離が、被検眼Eから3m~6mの遠用視距離であれば、被検眼Eの遠用検眼を精度よく行うことができる。また、第2の検眼距離が、被検眼Eから250mm~600mmの近用視距離であれば、書物の視認時、パソコン視認時等に対応した近用検眼を精度よく行うことができる。
【0085】
また、第1の光学系(遠用レンズ33)及び第2の光学系(近用レンズ35)は、少なくとも1枚のレンズからなる光学レンズ系及び凹面反射鏡のいずれかから構成されるものとすることで、簡易な構成で、省スペース化を図ることが可能な視標表示装置2,2Aや検眼装置100を提供できる。
【0086】
また、上記第1実施形態では、第2の光学系(近用レンズ35)は、光路中に挿入された状態で光軸Lに沿って移動自在に構成されている。この構成により、像i’が結像される第2の検眼距離を、第2の光学系を移動するだけで、簡単に所望の距離に設定することができ、光学系の簡易化が可能となる。
【0087】
また、変形例では、第2の光学系(近用レンズ35)が、焦点距離の異なる複数の光学部材(近用レンズ35a~35d)を備え、各光学部材を視標表示部(ディスプレイ31)と第1の光学系(遠用レンズ33)との間の光路中に選択的に配置するように構成されている。これにより、第2の検眼距離を所定の範囲で容易に変更することができ、様々な第2の検眼距離での近用検眼が可能となる。
【0088】
また、上記各実施形態及び変形例では、遠用検眼用の視標と近用検眼用の視標は同一の視標表示部(ディスプレイ31)を用いて表示しているため、視標表示装置2,2A及び検眼装置100のコスト削減や省スペース化を図ることができる。また、被検眼Eと窓部25との間に近用検眼用の視標を配置する必要がないため、被検眼Eから窓部25までの距離が、第2の検眼距離、より具体的には近用視距離よりも短く設定できる。そのため、更なる省スペース化を図ることができる。
【0089】
また、上記各実施形態及び変形例では、第2の光学系による結像倍率を、縮小倍率としていることで、例えば、電子表示デバイスからなる視標表示部(ディスプレイ31)を用いた場合、その画素ピッチが第2の光学系で縮小されて、精細な像i’を結像することができ、好適な近用検眼用の視標が得られる。
【0090】
この場合、視標Oの画像を生成して視標表示部(ディスプレイ31)の表示面31aに表示させる制御部24を備え、制御部24は、光路中に第2の光学系が配置されているときは、第2の検眼距離に応じて、表示面31aへの視標Oの表示の大きさを変更して表示する構成とすることが望ましい。これにより、第2の光学系によって視標Oが縮小されても、被検者は近用検眼に適したサイズの視標Oの像を観察することができ、近用検眼を精度よく行うことができる。
【0091】
また、眼科装置は、視標呈示光学系の構成を問わず、被検眼Eに視標を呈示する視標表示部(ディスプレイ31)と、視標表示部を収容し視標Oを視認する窓部25が設けられた筐体21と、を備えた構成とすればよい。このとき、被検眼Eから窓部25までの距離が、近用視距離よりも短いものとすることで、眼科装置の省スペース化を図ることができる。
【0092】
また、第2実施形態のように、筐体21の一側又は両側に、被検者が把持する把持部28を有した構成、または筺体21の被検者側であって窓部25の下方に、被検者が腕を載置する載置部(肘置部27)を有する構成、さらには、載置部は、高さ方向の位置が変更自在である構成とすれば、被検者の長時間の姿勢保持が可能となる。その結果、より精度よく、より効率的な検眼が可能となる。
【0093】
以上、本発明の眼科装置を実施形態に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0094】
例えば、上記各実施形態では、第1の光学系を平凸レンズ等からなる遠用レンズ33で構成し、第2の光学系を両凸レンズ等からなる近用レンズ35で構成しているが、この構成に限定されるものではない。第1の光学系や第2の光学系を、凹面反射鏡(凹面反射ミラー)で構成してもよい。第1の光学系を凹面反射鏡とした場合、特許文献1のように、凹面反射鏡の光軸に対してディスプレイ31を傾斜させて配置し、ディスプレイ31に表示された視標からの光束を凹面反射鏡で反射し、この反射された光束を光路折り曲げミラー等で光路を折り曲げて被検眼Eに導くように構成することができる。
【0095】
また、第2の光学系を凹面反射鏡とした場合、例えば、第2の検眼距離に像を結像させる場合は、第1反射ミラー32を退避させて、代わりに第2の光学系としての凹面反射鏡を配置する。そして、ディスプレイ31に表示された視標からの光束を凹面反射鏡で反射して第1の光学系に導く構成とすることができる。
【0096】
また、上記各実施形態及び変形例では、検眼装置本体1を検眼テーブル4に設けているが、この構成に限定されることはない。例えば、視標表示装置2,2Aに検眼装置本体1を取り付けた構成としてもよい。この場合、検眼装置本体1を視標表示装置2,2Aに可動自在に取り付け、この検眼装置本体1を、検眼目的等に応じて窓部25の前方から退避させたり、窓部25の前方に配置したりする構成としてもよい。これにより、検眼装置本体1及び視標表示装置2,2Aが一体型の、より簡易な構成で省スペース化が可能な検眼装置100を提供することができる。
【0097】
また、検眼装置本体1(検眼ユニット10)が、上記実施形態等の構成に限定されるものではなく、検眼装置本体1に代えて、検眼時に一般的に使用されるメガネ型の検眼試験枠を用いてもよい。
【0098】
また、上記実施形態等の視標呈示光学系30に、反射ミラー、その他の光路変更部材を追加し、光路変更部材で光路を折り曲げることで、視標表示装置の高さを短くして、よりコンパクトな視標表示装置としてもよい。このような視標表示装置を、検眼装置本体1が取り付けられた検眼テーブル4に載置するか又は一体化することで、より効果的に省スペース化を図ることができる。
【符号の説明】
【0099】
2,2A 視標表示装置 10,10L,10R 検眼ユニット(検眼光学系)
12,12L,12R 光学部材 21 筺体 24 制御部 25 窓部
27 肘置部(載置部) 28 把持部 31 ディスプレイ(視標表示部)
33 遠用レンズ(第1の光学系)
35,35a,35b,35c 近用レンズ(第2の光学系)
100 検眼装置(眼科装置)