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特許7429754起泡性水中油型乳化組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20240201BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20240201BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20240201BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23D7/01
A23L9/20
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022170634
(22)【出願日】2022-10-25
(62)【分割の表示】P 2021516212の分割
【原出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2022186894
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019083639
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一平
(72)【発明者】
【氏名】井原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】乃一 純
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-025454(JP,A)
【文献】特開2016-171764(JP,A)
【文献】特開平05-115242(JP,A)
【文献】特開平09-275923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-7/06
A23L 9/20
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と、HLBが8~8.5であり、ポリグリセリンの平均重合度が2~4であり、融点が58~69℃であり、脂肪酸部分の炭素数が8~24であり(但し、脂肪酸の炭素数が14.2以下の場合を除く)、かつ、脂肪酸部分は飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、を含有し、ホイップ時間が257秒以下であり、かつ、ホイップ後の硬化抑制性が16.7mm以下である起泡性水中油型乳化組成物の製造方法であって、
前記油脂中に、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程、を少なくとも行い、
前記工程は、油相部を調製する工程と、水相部を調製する工程と、前記油相部と水相部とを混合する工程と、を含み、
前記油相部を調製する工程では、前記油脂の一部又は全部に前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加して溶解乃至分散させる、起泡性水中油型乳化組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、起泡性水中油型乳化組成物及びその製造方法に関する。より詳しくは、乳化安定性が高く、ホイップドクリームにした場合には口どけが良くかつ経時的な硬化を抑制することのできる起泡性水中油型乳化組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホイップクリームの製品開発において口どけの良さが求められており、これに対し、例えば、ヤシ油やパーム核油等のラウリン系油脂が原料として用いられている。
【0003】
しかしながら、これらを原料にした場合、乳化安定性が低く、また、流通過程等における振とうにより、増粘や固化を生じやすいほか、ホイップ後に経時的にクリームが硬くなっていく“締まり”が生じやすいという問題があった。
【0004】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、油脂組成物全体中、上昇融点が30~35℃のラウリン系の油脂(A)を60~90重量%含有し、構成脂肪酸の内、ラウリン酸を10~40重量%、パルミチン酸を20~35重量%含有し、且つ飽和型脂肪酸総量50~70重量%であるランダムエステル交換油である油脂(B)を10~40重量%、その他の油脂(C)を0~30重量%含有する油脂組成物を、起泡性水中油型乳化油脂組成物全体中20~40重量%含有させる方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、構成脂肪酸中にラウリン酸を40%以上含み、且つ融点50℃未満である油脂Aと、融点50℃以上の油脂Bとを、重量比で油脂A:油脂B=99:1~87:13の割合で含み、35℃のSFC(固体脂含量)が6%以上、16%未満であり、15℃における固体脂含有量と35℃における固体脂含有量の差が55~69%である混合油脂10~35重量%を含有させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-220484号公報
【文献】特開2011-83195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、幾つかの方法は従来技術として当業者に知られているが、油脂を構成する脂肪酸に制限があったり、35℃におけるSFCが高く、口どけの点で納得のいくものでなかったりと、更なる技術の開発が望まれているという実情がある。
【0008】
そこで、本技術では、乳化安定性が高く、ホイップドクリームにした場合には口どけが良くかつ経時的な硬化を抑制することのできる起泡性水中油型乳化組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らが鋭意実験検討を行った結果、起泡性水中油型乳化組成物の構成成分に着目し、特定の種類のポリグリセリン脂肪酸エステルを油脂と併用することで、乳化安定性が高く、ホイップドクリームにした場合には口どけが良くかつ経時的な硬化を抑制することのできる起泡性水中油型乳化組成物が得られることを見出し、本技術を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本技術では、まず、油脂と、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、を含有する、起泡性水中油型乳化組成物を提供する。
本技術では、前記油脂は、植物性油脂であってもよい。この場合、前記植物性油脂は、ラウリン系油脂とすることができる。この場合、前記ラウリン系油脂は、構成脂肪酸中にラウリン酸を35~55質量%含んでいてもよい。
また、本技術では、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が2~10であってもよい。
更に、本技術では、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、エステル化率が20~45%であってもよい。
加えて、組成物100質量部中、前記油脂は10~50質量部であってもよく、組成物100質量部中、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは0.01~1質量部であってもよい。
【0011】
また、本技術では、前記起泡性水中油型乳化組成物を起泡させてなる、含気状乳化組成物も提供する。
【0012】
更に、本技術では、油脂と、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、を含有する起泡性水中油型乳化組成物の製造方法であって、前記油脂中に、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程、を少なくとも行う、起泡性水中油型乳化組成物の製造方法も提供する。
【0013】
なお、本明細書でいう「起泡性水中油型乳化組成物」は、起泡前のクリーム状の組成物を意味する。
また、本技術は、以下の態様をとることもできる。
「1」油脂と、HLBが5~9であり、融点が58~69℃であり、脂肪酸部分の炭素数が8~24であり(但し、脂肪酸の炭素数が14.2以下の場合を除く)、かつ、脂肪酸部分は飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、を含有する起泡性水中油型乳化組成物の製造方法であって、前記油脂中に、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程、を少なくとも行う、起泡性水中油型乳化組成物の製造方法。
「2」油脂に、HLBが5~9であり、融点が58~69℃であり、脂肪酸部分の炭素数が8~24であり(但し、脂肪酸の炭素数が14.2以下の場合を除く)、かつ、脂肪酸部分は飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル、を含有する、起泡性水中油型乳化組成物。
「3」前記油脂は、植物性油脂である、[2]の起泡性水中油型乳化組成物。
「4」前記植物性油脂は、ラウリン系油脂である、[3]の起泡性水中油型乳化組成物。
「5」前記ラウリン系油脂は、構成脂肪酸中にラウリン酸を35~55質量%含む、[4]の起泡性水中油型乳化組成物。
「6」前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの平均重合度が2~10である、[2]から[5]のいずれかの起泡性水中油型乳化組成物。
「7」前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、エステル化率が20~45%である、[2]から[6]のいずれかの起泡性水中油型乳化組成物。
「8」組成物100質量部中、前記油脂は10~50質量部である、[2]から[7]のいずれかの起泡性水中油型乳化組成物。
「9」組成物100質量部中、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは0.01~1質量部である、[2]から[8]のいずれかの起泡性水中油型乳化組成物。
「10」[2]から[9]のいずれかの起泡性水中油型乳化組成物を起泡させてなる、含気状乳化組成物。
【発明の効果】
【0014】
本技術によれば、乳化安定性が高く、ホイップドクリームにした場合には口どけが良くかつ経時的な硬化を抑制することのできる起泡性水中油型乳化組成物を提供できる。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
<1.起泡性水中油型乳化組成物>
本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物は、油脂と、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、を含有することを特徴とする。
【0017】
本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物では、前記油脂と前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとを併用することにより、後述する実施例に示すように、乳化安定性が高く、また、これを用いて調製したホイップドクリームは、口どけが良くかつ経時的な硬化が抑制されたものである。
【0018】
以下、各構成成分について詳細に説明する。
【0019】
(1)油脂
本技術において用いられる油脂は特に限定されず、動物性油脂、植物性油脂のいずれも用いることができる。動物性油脂としては、例えば、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等が挙げられる。また、植物性油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等が挙げられる。これらの油脂は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本技術では、これらの中でも、前記油脂として植物性油脂を用いることが好ましい。これにより、口どけを更に良好にすることができる。なお、本技術において用いられる油脂として植物性油脂を用いた場合、当該油脂以外の上述した他の油脂を本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物中に含んでいてもよい。
【0021】
また、本技術では、前記油脂として植物性油脂を用いる場合、ラウリン系油脂を用いることが好ましい。ここでいう「ラウリン系油脂」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸がラウリン酸を主体とする油脂、又はこれを加工して得られる油脂を意味する。なお、本技術において用いられる油脂としてラウリン系油脂を用いた場合、当該油脂以外の上述した他の油脂を本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物中に含んでいてもよい。
【0022】
本技術では、ラウリン系油脂を用いた場合であっても、後述するポリグリセリン脂肪酸エステルと併用することにより、乳化安定性に優れた組成物であり、調製したホイップドクリームも、口どけが良くかつ経時的な硬化現象も抑制されたものであるといった優れた効果を有する。
【0023】
前記ラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油のほか、これらを原料として得られる油脂であれば特に限定されず、ヤシ油、パーム核油の分別油;ヤシ油、パーム核油、これらの分別油の硬化油;ヤシ油、パーム核油、これらの分別油を主要原料(50質量%以上)として得られるエステル交換油であってもよい。また、これらの油脂は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
更に、本技術では、前記油脂としてラウリン系油脂を用いる場合、その構成脂肪酸中にラウリン酸を35~55質量%含むものであることが好ましく、40~55質量%含むものであることがより好ましい。これにより、口どけを良好にすることができる。
なお、前記油脂の構成脂肪酸は、基準油脂分析法(暫17-2007(キャピラリーガスクロマトグラフ法))に準じて測定することができる。
【0025】
また、前記油脂は、本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物100質量部中、10~50質量部であることが好ましい。これにより、口どけを更に良好にすることができる。
【0026】
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステル
本技術において用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃であることを特徴とする。
【0027】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン同士を脱水縮合したポリグリセリンと脂肪酸のエステル化反応によって得られ、ポリグリセリンの種類(重合度)、脂肪酸の種類(炭素数、二重結合の数)、エステル組成等により、多種類存在する。そして、その種類毎に著しく異なる性質を示すことが知られている。
【0028】
本技術において、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、6~9であることが好ましい。なお、HLBは、親水性と親油性の程度を表す指標となるものであり、本技術においてはアトラス法により算出した値である。アトラス法によるHLBは、下記式(1)から算出される。
【0029】
【数1】
S:ポリグリセリン脂肪酸エステルのけん化価
A:ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の酸価
【0030】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの融点は、58~65℃であることが好ましい。また、その凝固点は、53~65℃であることが好ましい。
【0031】
本技術において、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの融点及び凝固点の測定は、従来公知の方法を用いて行うことができ、例えば、示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0032】
本技術において、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、その平均重合度が限定されるものではないが、2~10であることが好ましい。ここで、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、下記式(2)及び(3)から算出される。
【0033】
【数2】
【0034】
上記式(3)中の水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法、2003年度版」に準じて算出される。
【0035】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、従来公知のエステル化反応により製造することができる。例えば、脂肪酸とポリグリセリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒の存在下でエステル化反応させることにより製造することができる。エステル化は、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が所望の値になるまで行われる。
【0036】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、エステル化率が20~45%であることが好ましく、20~40%であることがより好ましい。ここで、エステル化率とは、水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加する脂肪酸のモル数(M)としたとき、下記式(4)で算出される値である。水酸基価とは、上記式(3)により算出される値である。
【0037】
【数3】
【0038】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、通常炭素数8~24の飽和又は不飽和の脂肪酸が用いられる。前記脂肪酸は混合物であってもよく、前記脂肪酸の具体例としては、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベンタデシル酸、パルミチン酸、パルモトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ベヘン酸等が挙げられる。
【0039】
また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物100質量部中、0.01~1質量部であることが好ましい。これにより、乳化安定性を更に良好とすることができ、経時的な硬化も更に抑制することができる。
【0040】
(3)その他
本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物は、前記油脂及び前記ポリグリセリン脂肪酸エステル以外に、本技術の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。
【0041】
本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物の水相を構成する水としては、飲用可能なものであれば特に限定されず、例えば、蒸留水、イオン交換樹脂処理水、逆浸透膜(RO)処理水、限外ろ過膜(UF)処理水等の精製水、水道水、地下水、涌水等の天然水、アルカリイオン水等が挙げられる。本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物100質量%中の水の含有量も特に限定されず、前記油脂、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル、その他の原材料を配合した残余を水とすればよい。
【0042】
本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物の水相を構成するタンパク質としては、食用可能なものであれば特に限定されず、例えば、全卵、卵白、卵黄等の卵タンパク、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂肪乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、ホエータンパク、カゼインナトリウム等の乳タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク、えんどうタンパク、とうもろこしタンパク等の植物性タンパク、ゼラチン等の動物性タンパク等が挙げられ、好ましくは乳タンパクである。これらのタンパク質は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物は、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルと他の乳化剤を併用してもよく、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ただし、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを除く。)、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物は、乳製品を含んでいてもよく、乳製品としては、例えば、生クリーム、バター、バターオイル、牛乳、前記乳タンパク等が挙げられる。これらの乳製品は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0045】
他の任意成分としては、例えば、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸塩、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等のリン酸塩、β-カロテン等の着色料、抽出トコフェロール、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル等の酸化防止剤、ミルクフレーバー、バニラ香料、オレンジオイル等の着香料、キシロース、ブドウ糖、果糖等の単糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖等の二糖類、デキストリン、水飴等の澱粉分解物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のマルトオリゴ糖、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、還元水飴等の糖アルコール、リン酸架橋澱粉等の加工澱粉、水溶性ヘミセルロース、アラビアガム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘安定剤等が挙げられる。
【0046】
<2.含気状乳化組成物>
本技術に係る含気状乳化組成物は、前述した本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物を起泡(ホイップ)させてなることを特徴とする、“ホイップドクリーム”と呼ばれる起泡状態を呈するものである。
【0047】
ホイップ方法は特に限定されず、例えば、オープン式ホイッパー、密閉式連続ホイップマシン等の従来公知のホイップ装置を用いて行うことができる。また、その特性(例えば、粘度、オーバーラン、硬度等)も特に限定されず、用途等に応じて適宜設計することができる。
【0048】
本技術に係る含気状乳化組成物は、本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物を用いたものであるため、口どけが良く、経時的な硬化が抑制されたものである。
【0049】
<3.起泡性水中油型乳化組成物の製造方法>
上述した本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物の製造方法であって、前記油脂中に、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する工程(I)、を少なくとも行うことを特徴とする。また、必要に応じて、下記に示す工程(II)、工程(III)、その他の工程等を行ってもよい。
【0050】
(1)工程(I)
工程(I)では、本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物の油相部を調製する。具体的には、前記油脂の一部又は全部に、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加して溶解乃至分散させることで油相部を調製する。
【0051】
(2)工程(II)
工程(II)では、本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物の水相部を調製する。具体的には、水相部は、水に対し、前記水相を構成するタンパク質や、必要に応じて他の任意成分等を添加し調製する。
【0052】
(3)工程(III)
工程(III)では、油相部と水相部とを混合する。具体的には、工程(II)で得られた水相部に工程(I)で得られた油相部を添加して加温し、混合して予備乳化を行う。
【0053】
(4)その他の工程
工程(III)の後は、コンパウンドタイプとする場合には、生クリームの添加、予備加熱、殺菌、均質化、冷却、エージング等の起泡性水中油型乳化組成物の製造において通常行われるその他の工程を行い、本技術に係る起泡性水中油型乳化組成物を調製する。
【実施例
【0054】
以下、実施例に基づいて本技術を説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0055】
<<起泡性水中油型乳化組成物の製造>>
[使用原料]
植物性油脂(下記表3に示す2種類):ラウリン酸45%の油脂(太陽油脂株式会社製、パーム核油、ヤシ油、及び菜種極度硬化油の混合油脂、融点27.2℃)。ラウリン酸51%の油脂(太陽油脂株式会社製、パーム核分別油、パーム核油、及びヤシ油の混合油脂、融点32.1℃)。
ポリグリセリン脂肪酸エステル(油相部):下記表1に示す物性を有するポリグリセリン脂肪酸エステル。
ポリグリセリン脂肪酸エステル(水相部):阪本薬品工業株式会社製、製品名「SYグリスターMS-5S」。
脱脂粉乳:森永乳業株式会社製。
カゼインNa:TATUA社製。
クエン酸三ナトリウム:扶桑化学工業株式会社製。
溶解水:イオン交換水。
クリーム:森永乳業株式会社製(乳脂肪率48%の北海道クリーム、コンパウンドタイプの場合に使用)。
【0056】
[製造方法:実施例1~7、9~14及び比較例1~5]
実施例1~7、9~14及び比較例1~5は、ノンデイリータイプとした。
まず、植物性油脂45質量部に下記表1に示す実施例1~7、9~14及び比較例1~5のポリグリセリン脂肪酸エステル0.1質量部を溶解し、油相部を得た。
次に、溶解水51.3質量部に、脱脂粉乳3質量部、クエン酸三ナトリウム0.15質量部、ポリグリセリン脂肪酸エステルMS-5S0.15質量部、カゼインNa0.3質量部を溶解し、水相部を得た。
油相部と水相部を混合し、ホモミキサー(プライミクス社製、製品名「T.K. HOMOMIXER MARKII」)を用いて予備乳化を行い、殺菌工程の後、均質機(三丸機械工業株式会社製)に通液し、全圧5.0MPa、二段目2.0MPaにて均質工程を行い、冷却工程、エージング工程を行い、実施例1~7、9~14及び比較例1~5の起泡性水中油型乳化組成物を得た。
【0057】
[製造方法:実施例8]
実施例8は、コンパウンドタイプとした。
まず、植物性油脂23質量部に下記表1に示す実施例8のポリグリセリン脂肪酸エステル0.06質量部を溶解し、油相部を得た。
次に、溶解水35.34質量部に、脱脂粉乳3質量部、クエン酸三ナトリウム0.15質量部、ポリグリセリン脂肪酸エステルMS-5S0.15質量部、カゼインNa0.3質量部を溶解し、水相部を得た。
油相部と水相部を混合し、ホモミキサー(プライミクス社製、製品名「T.K. HOMOMIXER MARKII」)を用いて予備乳化を行い、48%クリーム38質量部を添加し、殺菌工程の後、均質機(三丸機械工業株式会社製)に通液し、全圧5.0MPa、二段目2.0MPaにて均質工程を行い、冷却工程、エージング工程を行い、実施例8の起泡性水中油型乳化組成物を得た。
【0058】
[製造方法:比較例6及び7]
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加せず、その分溶解水0.1質量部を添加し、上述した実施例1~7、9~14及び比較例1~5の起泡性水中油型乳化組成物と同様の製造方法により、比較例6及び7の起泡性水中油型乳化組成物を得た。
【0059】
起泡性水中油型乳化組成物の原料及びその配合量について、下記表2に示す。実施例1~7、9~14及び比較例1~7はノンデイリータイプの配合であり、実施例8のみコンパウンドタイプの配合とした。また、用いた植物性油脂の脂肪酸組成の割合について、下記表3に示す。実施例1~13及び比較例1~6は構成脂肪酸中にラウリン酸を45質量%含む植物性油脂(表3の左側参照)を用い、実施例14及び比較例7は構成脂肪酸中にラウリン酸を51質量%含む植物性油脂(表3の右側参照)を用いた。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
上記表3中、ラウリン酸は、炭素数12(C12)で表される。
【0063】
<<評価>>
得られた実施例1~14及び比較例1~7の起泡性水中油型乳化組成物の乳化安定性について試験を行った。また、実施例1~14及び比較例1~7の起泡性水中油型乳化組成物800g、グラニュー糖64gを卓上型ミキサー(愛工舎社製、製品名「ケンミックスプレミアKMM770」:回転数180rpm)を用いてホイップし、硬化抑制性及びホイップ時間について試験を行った。
【0064】
[乳化安定性]
得られた実施例1~14及び比較例1~7の起泡性水中油型乳化組成物と、48時間、100rpmの条件にて振とうした起泡性水中油型乳化組成物の粘度を測定し、その粘度変化を確認した。粘度(単位:mPa・s)は、粘度計(東機産業社製、製品名「RB-80L」)により測定した。下記表4中の数値は、振とう後の起泡性水中油型乳化組成物の粘度を振とう前の起泡性水中油型乳化組成物の粘度で割った値である。
【0065】
乳化安定性の評価基準は、以下の通りとした。
○:振とう後の起泡性水中油型乳化組成物の粘度を振とう前の起泡性水中油型乳化組成物の粘度で割った値が1.5以下
×:振とう後の起泡性水中油型乳化組成物の粘度を振とう前の起泡性水中油型乳化組成物の粘度で割った値が1.5超
【0066】
[硬化抑制性]
ホイップ直後とホイップ5分経過後の硬度を測定し、その硬度変化を確認した。硬度(単位:mm)は、先端角40°、質量12gのコーンをホイップドクリーム表面から自由落下させ、落下後5秒後のコーンの落下距離を測定し、当該落下距離を硬度とした。下記表4中の数値は、下記式(5)から算出された値である。硬化抑制性の数値が小さい程、硬化抑制の効果が高いことを意味する。
【0067】
【数4】
【0068】
硬化抑制性の評価基準は、以下の通りとした。
○:上記式(5)で算出された値が40以下
×:上記式(5)で算出された値が40超
【0069】
[ホイップ時間]
ホイップ開始からホイップ終了までの時間(単位:秒)を測定した。ホイップドクリームの硬度が、21.0±3.0mmの範囲に入った時点をホイップ終了とした。
【0070】
ホイップ時間の評価基準は、以下の通りとした。
○:ホイップ時間が350秒以下
×:ホイップ時間が350秒超
【0071】
評価結果を、下記表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
上記表4に示すように、実施例1~14の起泡性水中油型乳化組成物は、比較例1~7の起泡性水中油型乳化組成物と比較して、乳化安定性に優れていた。また、ホイップドクリームにした場合には、硬化抑制性に優れ、かつ、ホイップ時間も短かった。また、実施例1~14の起泡性水中油型乳化組成物は、ラウリン系油脂を配合しているため、ホイップドクリームにした場合に口どけも良好であった。
【0074】
以上のことから、油脂と、HLBが5~9であり、かつ、融点が58~69℃である、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、を含有することで、乳化安定性が高く、ホイップドクリームにした場合には口どけが良くかつ経時的な硬化を抑制することのできる起泡性水中油型乳化組成物を提供できることが分かった。