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特許7429782耐海水性に優れた構造用鋼板及びこの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】耐海水性に優れた構造用鋼板及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240201BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20240201BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/50
C21D8/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022535152
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 KR2020017131
(87)【国際公開番号】W WO2021118128
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0163090
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジン-ホ
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0076148(KR,A)
【文献】特開2000-273576(JP,A)
【文献】特開2008-31540(JP,A)
【文献】特開2007-277616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造用鋼板であって、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.005%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、
鋼板全体の微細組織が、面積分率で、ベイナイト20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%以下であり、
前記構造用鋼板の長さ方向に両端部間の引張強度の偏差が50MPa未満であることを特徴とする構造用鋼板。
【請求項2】
前記構造用鋼板の長さ方向に両端部間の降伏強度の偏差が50MPa未満であることを特徴とする請求項1に記載の構造用鋼板。
【請求項3】
前記両端部のうち、いずれか一方の端部は、微細組織が面積分率で、ベイナイト:74%以上81%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライト:9%以上15%以下、その他の相としてパーライト及びMA:4%以上14%以下であり、
他方の端部は、微細組織が面積分率で、ベイナイト:57%以上67%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライト:31%以上41%以下、その他の相としてパーライト及びMA:2%以上6%以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の構造用鋼板。
【請求項4】
前記一方の端部は、鋼板の全長さをLとしたとき、0に該当する地点から1/3L地点までを意味し、
前記他方の端部は、鋼板の全長さをLとしたとき、2/3L地点からL地点までを意味するものであることを特徴とする請求項3に記載の構造用鋼板。
【請求項5】
請求項1に記載の構造用鋼板の製造方法であって、
重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.005%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを1000℃以上1200℃以下の温度で再加熱する段階と、
再加熱した鋼スラブを750℃以上950℃以下の仕上げ圧延温度に熱間圧延して鋼板を得る段階と、
圧延された鋼板を750℃以上の冷却開始温度から400℃以上700℃以下の冷却終了温度まで冷却する段階と、を含み、
前記冷却する段階において、移送される鋼板の先端部において7℃/s以上の初期冷却速度で冷却を開始し、移送される鋼板の先端部から後端部に向かうにつれて冷却速度を次第に増加させることを特徴とする構造用鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記冷却する段階において、冷却速度の勾配が0.5℃/s以上10℃/s未満となるように、先端部から後端部に向かうにつれて次第に冷却速度を増加させることであることを特徴とする請求項5に記載の構造用鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷却する段階において、鋼板の移送速度は1m/s以上10m/s未満であることを特徴とする請求項5に記載の構造用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海辺の建築構造用鋼板又は船舶内部のバラストタンク及び関連付属機器等のように、海水による腐食加速化環境において優れた腐食抵抗性を有する構造用鋼板及びこの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の腐食は、塩分のように水によく溶けるイオン形態の無機物質が多い場合に促進されることが一般的であり、特に、塩素イオン(Cl-)のように腐食を促進させる性質を有するイオンがある場合、非常に速い腐食が起こる。したがって、平均3.5%のNaClを含む海水環境において、金属は非常に速い速度で腐食が起こるため、海水に隣接する構造物、海水環境で運航する船舶など、様々な条件において腐食が問題となっている。
【0003】
これにより、様々な種類の防食処理により腐食を抑制する技術が提案されている。しかし、このような防食処理の防食年限は20~30年の水準に過ぎないため、素材自体の耐食性が確保されない場合、常にメンテナンスコストが発生する。すなわち、構造物の耐久性を50年以上の長期間に増大させ、構造物の運用期間中にかかる各種の防食費用を低減するためには、素材自体の耐食性強化が必須に要求される。
【0004】
鋼材の耐海水性を向上させる元素のうち最も効果的な元素として、クロム(Cr)と銅(Cu)が挙げられる。クロムと銅は、腐食環境によって異なる役割を果たし、適切な割合を添加すると、海水による腐食加速化環境でも優れた耐食効果を発揮することができる。ただし、クロムの場合、酸性環境では大きな効果が発揮できず、銅の場合、鋳造過程で鋳造割れを誘発するため、高価なニッケルを一定水準以上添加しなければならないという問題点がある。しかし、クロムには、強酸以外のほとんどの環境において耐食性向上の効果があり、最近、連続鋳造技術の発展により銅添加鋼の鋳造欠陥を防止するための最小ニッケル添加量が減少している。これにより、高価なニッケル添加量を減らして製品のコストを減少させることが可能となった。
【0005】
また、耐海水性と密接な関係を有する元素としてはマンガン(Mn)が挙げられる。鋼中でマンガンの含量が高くなると、腐食で発生する酸化還元反応中に酸化反応の電流密度値が上昇する傾向があり、その結果として、鉄鋼の腐食速度が上昇する傾向がある。したがって、マンガンは耐海水性を悪化させる傾向がある。
【0006】
一方、耐海水性に優れた鋼材に関しては、従来技術として特許文献1、2及び3が提案されている。特許文献1は、成分系及び製造条件を制御して鋼板の微細組織を制御することを提示しているが、低温組織の含量が20%未満と少ないと、強度確保が困難となり、ニッケル(Ni)含量を0.05%以下に規定して鋳造すると、鋳造欠陥が多量発生するおそれがある。
【0007】
特許文献2の場合、アルミニウム(Al)が0.1%以上添加されて、製鋼工程で粗大な酸化性介在物が形成され、圧延時に介在物が砕けて長く伸びる延伸介在物が発生するため、これにより空孔の形成が助長されて局部腐食抵抗性が阻害されるという問題がある。
【0008】
また、特許文献3の場合のように、タングステン(W)が添加される場合には、連鋳性欠陥が発生する懸念とともに、粗大析出物の生成によるガルバニック腐食の懸念があり、空冷による組織の粗大化により強度が低下するおそれがある。したがって、特許文献1~3による構造用鋼材自体では、耐海水性に加えて強度を確保することに困難がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0076148号公報
【文献】韓国公開特許第10-2011-0065949号公報
【文献】韓国公開特許第10-2004-0054272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、海水による腐食加速化環境において優れた腐食性抵抗性を有する構造用鋼板及びこの製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の課題は、前述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全般にわたる内容から本発明の更なる課題を理解するのに困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の構造用鋼板は、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.005%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、
鋼板全体の微細組織が、面積分率で、ベイナイト20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%以下であり、
上記構造用鋼板の長さ方向に両端部間の引張強度の偏差が50MPa未満であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の構造用鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.005%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを1000℃以上1200℃以下の温度で再加熱する段階と、
再加熱した鋼スラブを750℃以上950℃以下の仕上げ圧延温度に熱間圧延して鋼板を得る段階と、
圧延された鋼板を750℃以上の冷却開始温度から400℃以上700℃以下の冷却終了温度まで冷却する段階と、を含み、
上記冷却時に、移送される鋼板の先端部において7℃/s以上の初期冷却速度で冷却を開始して、移送される鋼板の先端部から後端部に向かうにつれて冷却速度を次第に増加させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、海水雰囲気で耐食性及び強度特性に優れた構造用鋼板及びこの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供するものである。
【0016】
本発明者らは、構造用鋼材自体の耐食性を向上させるための方法について鋭意研究し、その結果、クロム、銅等の含量を適切に制御し、再加熱温度、仕上げ圧延温度、冷却終了温度、冷却速度等の製造条件を最適化することにより微細組織を制御すれば、優れた耐海水性及び強度特性が確保できることを確認し、本発明を完成した。
【0017】
これに加えて、構造用鋼板を製造するスラブ再加熱-熱間圧延-冷却の過程のうち、冷却過程において、圧延された鋼板が移送されながら、先に冷却が開始される鋼板の先端部が後端部に比べて高い温度で冷却が開始される。ところで、このとき、本発明者らは、より優れた物性を有する鋼材を提供するために鋭意検討した結果、微細組織がオーステナイト相からフェライトに変わる温度である相変態温度(Ar3)が高い鋼材では、冷却過程で鋼板の先後端部の組織が大きく異なり、これにより強度偏差を招くという問題があることを見出した。
【0018】
すなわち、従来技術により製造される構造用鋼板は、最終製品において、長さ方向に両端部間の材質、特に降伏強度(及び/又は引張強度)のような特性に偏差が発生した。これにより、従来技術による構造用鋼板は、耐海水雰囲気で十分な寿命特性を確保することができなかった。
【0019】
そこで、本発明者らは、前述した鋼板の先後端部の材質偏差を減らすために鋭意検討した結果、先端部の弱冷、後端部の強冷を目標として移送される鋼板の先端部から後端部に向かうにつれて冷却速度を次第に増加させることにより、最終製品である鋼板において材質偏差が低減することを見出し、本発明を完成するに至った。以下では、本発明の構造用鋼板についてより詳細に説明する。
【0020】
本発明の一側面は、構造用鋼板として、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.005%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、
鋼板全体の微細組織が、面積分率で、ベイナイト20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが10%以下であり、
上記構造用鋼板の長さ方向に両端部間の引張強度の偏差が50MPa未満である構造用鋼板を提供する。
【0021】
すなわち、本発明によると、成分系及び製造条件の最適化によって鋼板の表面の腐食特性及び微細組織を最適化し、優れた強度特性を確保すると同時に、鋼板の長さ方向に両端部間の腐食速度を最小化することにより、優れた耐海水性及び耐腐食性を確保することができる。
【0022】
より具体的に、本発明は、構造用鋼板の長さ方向に両端部間の材質偏差を最小化する技術であって、本発明の一側面によると、海水雰囲気において鋼板自体の耐食性が向上し、400MPa以上の降伏強度、500MPa以上の引張強度を有すると同時に、鋼板の長さ方向に両端部間の強度偏差が50MPa以内である均一な強度特性を有する構造用鋼板及びこの製造方法を効果的に提供することができる。
【0023】
以下では、本発明の主な特徴のうち一つである鋼組成を構成する各合金成分を添加する理由及びこれらの適切な含量範囲について優先的に説明する。
【0024】
C:0.03%以上0.1%未満
Cは強度を向上させるために添加される元素であって、その含量を増加させると、焼入れ性を向上させて強度を向上させることができる。ただし、その添加量が増加するにつれて全面腐食抵抗性を阻害し、炭化物等の析出を助長するため、局部腐食抵抗性にも一部影響を及ぼす。全面腐食及び局部腐食抵抗性の向上のためにはC含量を減らす必要があるが、その含量が0.03%未満であると、構造用材料としての十分な強度を確保し難く、0.1%以上の場合は、溶接性を劣化させて溶接構造用鋼材として好ましくない。したがって、本発明において、上記C含量を0.03%以上0.1%未満に制限することができる。
【0025】
一方、強度確保の観点から、上記C含量は0.035%以上であってもよく、場合によっては0.038%以上であってもよい。耐食性の観点から、上記C含量が0.09%未満であってもよく、場合によっては鋳造割れをさらに向上させ、炭素当量を減らすために上記C含量は0.08%未満であってもよい。
【0026】
Si:0.1%以上0.8%未満
Siは脱酸剤として作用するだけでなく、鋼の強度を増加させる役割を発揮する元素であって、その効果が発揮されるためには0.1%以上が必要である。また、Siは全面腐食抵抗性の向上に寄与するため、含量を増加させることが有利であるが、上記Siの含量が0.8%以上の場合、靭性及び溶接性を阻害し、圧延時にスケールの剥離を困難にし、スケールによる表面欠陥等を誘発する。したがって、本発明において、上記Si含量を0.1%以上0.8%未満に制御することが好ましい。一方、場合によっては耐食性向上の観点から、Siの含量を0.2%以上とすることができ、より好ましくは0.25%以上とすることができる。また、靭性、溶接性の向上の観点から、Siの含量を0.7%以下とすることができ、より好ましくは0.5%以下とすることができる。
【0027】
Mn:0.3%以上1.5%未満
Mnは靭性を低下させることなく固溶強化によって強度を上昇させるのに有効な成分である。しかし、過剰に添加する場合、腐食反応時に鋼材の表面の電気化学反応速度を上昇させることにより耐食性を低下させることもある。上記Mnが0.3%未満添加される場合には、構造用鋼材の耐久性を確保し難いという問題がある。これに対し、上記Mn含量が増加すると、焼入れ性が増加して強度が増加するが、1.5%以上添加されると、製鋼工程においてスラブを鋳造するとき、厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、溶接性が低下し、さらに鋼板の表面の耐食性を低下させるという問題点がある。したがって、本発明において、上記Mn含量を0.3%以上1.5%未満に制限することが好ましい。一方、耐久性確保の観点から、上記Mnの含量を0.35%以上とすることができ、より好ましくは0.4%以上とすることができる。また、耐食性確保の観点から、上記Mnの含量を1.4%以下とすることができ、より好ましくは1.2%以下とすることができる。
【0028】
Cr:0.5%以上1.5%未満
Crは、腐食環境において鋼材の表面にCrを含む酸化膜を形成して耐食性を上昇させる元素である。海水環境においてCrの添加による耐食性効果が十分に奏されるためには、0.5%以上含有されなければならない。しかし、上記Crが1.5%以上と過度に含有されると、靭性及び溶接性に悪影響を及ぼすため、その含量を0.5%以上1.5%未満に制限することが好ましい。一方、耐食性確保の観点から、上記Crの含量を0.7%以上とすることができ、より好ましくは0.8%以上とすることができる。また、靭性及び溶接性確保の観点から、上記Crの含量を1.4%以下とすることができ、より好ましくは1.1%以下とすることができる。
【0029】
Cu:0.1%以上0.5%未満
Cuは、Niとともに0.1%以上含有させると、Feの溶出を遅らせるため、全面腐食及び局部腐食抵抗性の向上に有効である。しかし、上記Cu含量が0.5%以上添加されると、スラブの製造時に液体状態のCuが粒界に溶け込んで熱間加工時にクラックを発生させるホットショートネス(Hot Shortness)現象を誘発するため、本発明においてCu含量は0.1%以上0.5%未満に制限することが好ましい。また、スラブの製造時に発生する表面割れは、C、Ni、Mnの含量と互いに相互的に作用するため、各元素の含量に応じて表面割れの発生頻度は異なる場合があるが、当該元素の含量と関係なく表面割れの発生可能性を最小化するためには、Cu含量を0.45%未満とすることがより好ましい。一方、より好ましくは、上記Cu含量の上限は0.43%以下であってもよい。また、上記Cu含量の下限は0.2%以上であってもよく、より好ましくは0.3%以上であってもよい。
【0030】
Al:0.01%以上0.08%未満
Alは、脱酸のために添加される元素であって、鋼中のNと反応してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒を微細化させて靭性を向上させる元素である。上記Alは十分な脱酸のために、溶解状態で0.01%以上含有されることが好ましい。これに対し、Alが0.08%以上と過度に含有されると、製鋼工程で粗大な酸化物に介在物を形成し、アルミニウム酸化物(Al oxide)系の特徴によって圧延時に砕けて長く伸びる延伸介在物を形成する。このような延伸介在物の形成は、介在物の周辺に空孔の形成を助長し、このような空孔は局部腐食の開始点として作用するため、局部腐食抵抗性を阻害する役割を果たす。したがって、本発明においてAl含量は0.01%以上0.08%未満に制限することが好ましい。一方、十分な脱酸確保の観点から、上記Al含量を0.02%以上とすることができ、より好ましくは0.023%以上とすることができる。また、耐食性確保の観点から、上記Al含量を0.07%以下とすることができ、より好ましくは0.06%以下とすることができる。
【0031】
Ti:0.005%以上0.1%未満
Tiは、0.005%以上添加時したとき、鋼中で炭素と結合してTiCを形成し、析出強化効果により強度を向上させる役割を果たす。これに対し、上記Ti含量が0.1%以上添加される場合には、その含量の増加に比べて強度の向上効果は大きくない。したがって、本発明において上記Ti含量は0.005%以上0.01%未満とすることが好ましい。一方、十分な強度確保の観点から、上記Ti含量の上限は0.08%であってもよく、より好ましくは0.05%であってもよく、最も好ましくは0.03%であってもよい。また、上記Ti含量の下限は0.008%であってもよく、より好ましくは0.01%であってもよく、最も好ましくは0.02%であってもよい。
【0032】
Ni:0.05%以上0.1%未満
Niは、Cuと同様に0.05%以上含有させると、全面腐食及び局部腐食抵抗性の向上に有効である。また、Cuとともに添加すると、Cuと反応して融点の低いCu相の生成を抑制し、ホットショートネスを抑制する効果があるため、ほとんどのCu添加鋼ではNiをCu含量の1倍以上添加することが一般的であるが、本発明のようにC、Mnなど炭素当量関連元素の含量が低く、Cr含量が大きい場合、Cu含量の半分以下にして入れてもショートネスを十分に防止することができ、Niが高価な元素であるため、相対的な投入効果を考慮して0.1%を上限に制限することが好ましい。一方、より好ましくは、上記Ni含量の上限は0.09%であってもよく、上記Ni含量の下限は0.06%以上であってもよい。
【0033】
リン(P):0.03%以下
Pは、鋼中に不純物として存在し、その含量が0.03%を超えて添加されると、溶接性が著しく低下するだけでなく靭性が劣化する。したがって、P含量を0.03%以下に制限することが好ましい。一方、上記Pは不純物であり、その含量を低減するほど有利であるため、その下限は別途限定しなくてもよい。一方、溶接性及び靭性確保の観点から、上記Pの含量は0.02%以下であってもよく、より好ましくは0.014%以下であってもよい。
【0034】
硫黄(S):0.02%以下
Sは、鋼中に不純物として存在し、その含量が0.02%を超えると、鋼の延性、衝撃靭性及び溶接性を劣化させるという問題点がある。したがって、本発明では、S含量を0.02%以下に制限することが好ましい。特に、SはMnと反応してMnSのように延伸介在物を形成しやすく、延伸介在物の両端に存在する空孔は局部腐食の開始点となり得るため、その含量を0.01%以下に制限することがより好ましい。一方、上記Sは不純物であり、その含量を低減するほど有利であるため、その下限は別途限定しなくてもよい。また、延性、衝撃靭性及び溶接性確保の観点から、上記Sの含量は0.01%以下であってもよく、より好ましくは0.006%以下であってもよい。
【0035】
本発明による構造用鋼板は、上述した合金元素以外に、残りは鉄(Fe)成分である。ただし、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを排除することができない。これらの不純物は、通常の技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容については詳細に言及しない。
【0036】
一方、本発明の一側面によると、鋼板全体の微細組織は、面積分率で、ベイナイトが20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及びMA(島状マルテンサイト)が15%未満であってもよい。
【0037】
また、本発明の一側面によると、鋼板全体の微細組織は、面積分率で、ベイナイトが20%以上100%未満、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で0%超過80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0038】
また、本発明の一側面によると、鋼板全体の微細組織は、面積分率で、ベイナイトが20%以上99%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で1%以上80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0039】
また、本発明の一側面によると、鋼板全体の微細組織は、面積分率で、ベイナイトが20%以上98%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で2%以上80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0040】
本発明の一側面によると、構造用鋼の材料として使用するために、少なくとも500Mpa、普遍的には600Mpa以上の厚物材の強度を確保しなければならず、このために、本発明による構造用鋼板は、全微細組織として、面積分率で、ベイナイトが20%以上であり、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計が80%未満である組織を構成した。また、その他の相であるパーライト及びMAの場合、15%以上含まれる場合、本発明による構造用鋼板が使用される環境において低温靭性及び耐食性が不足する可能性があるため、上限を15%未満に制限した。
【0041】
本発明の一側面によると、構造用鋼板は、上述の成分系及び微細組織を満たすことにより、400MPa以上の降伏強度、及び/又は500MPa以上の引張強度を有することができる。
【0042】
また、本発明の一側面によると、構造用鋼板は、長さ方向に両端部間の降伏強度の偏差が50MPa未満であってもよく、且つ、本発明のさらに他の一側面によると、構造用鋼板は、長さ方向に両端部間の引張強度の偏差が50MPa未満であってもよい。あるいは、上記両端部間の降伏強度の偏差は、より好ましくは45MPa以下であってもよく、最も好ましくは41MPa以下であってもよい。あるいは、上記両端部間の引張強度の偏差は、より好ましくは40MPa以下であってもよく、最も好ましくは37MPa以下であってもよい。ただし、上記両端部間の降伏強度及び引張強度の偏差は少ないほど好ましいため、下限を別途限定しなくてもよい。ただし、一例として、上記両端部間の降伏強度の偏差の下限は5MPaであってもよく、上記両端部間の引張強度の偏差の下限は10MPaであってもよい。
【0043】
なお、本明細書において、上記長さ方向とは、鋼板の製造工程中、鋼板の圧延方向と一致し、且つ冷却時に鋼板の移送方向と一致する。また、本発明の一側面によると、上記両端部のうち、いずれか一方の端部は鋼板の全長さをLと定義したとき、0に該当する地点から1/3L地点までを意味し、他方の端部は2/3L地点からL地点までを意味する。
【0044】
すなわち、上述したように、本発明は鋼板の製造過程において、勾配冷却によって鋼板の長さ方向に両端部間の材質偏差を画期的に低減することができる発明であるため、本発明によると、両端部間の降伏強度の偏差(及び/又は引張強度の偏差)が50MPa未満である鋼板を効果的に得ることができる。
【0045】
本発明によると、両端部間の材質偏差が少ない鋼板を構造用鋼として使用することにより、特に海水雰囲気で耐腐食性能に優れ、これによって海水雰囲気で十分な寿命を有することができるようになる。
【0046】
一方、本発明の一側面によると、上記両端部のうち、いずれか一方の端部は、微細組織として、面積分率で、ベイナイトが20%以上100%未満、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計が面積分率で0%超過80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよく、他方の端部は、微細組織として、面積分率で、ベイナイトが20%以上100%未満、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計が面積分率で0%超過80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0047】
また、本発明の一側面によると、上記両端部のうち、いずれか一方の端部は、微細組織として、面積分率で、ベイナイトが70%以上98%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計を面積分率で2%以上30%以下、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよく、他方の端部は、微細組織として、面積分率で、ベイナイトが20%以上70%未満、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計が31%以上80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0048】
一方、本発明の一側面によると、上記両端部のうち、いずれか一方の端部は、微細組織として、面積分率で、ベイナイトが74%以上81%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計が面積分率で9%以上15%以下、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよく、他方の端部は、微細組織として、面積分率で、ベイナイトが20%以上67%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトの合計が31%以上41%以下、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0049】
本発明の一側面によると、上記両端部のうち、いずれか一方の端部は、微細組織が面積分率で、ベイナイト:74%以上81%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライト:9%以上15%以下、その他の相としてパーライト及びMA:4%以上14%以下であり、他方の端部は、微細組織が面積分率で、ベイナイト:57%以上67%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライト:31%以上41%以下、その他の相としてパーライト及びMA:2%以上6%以下であってもよい。
【0050】
また、本発明の一側面によると、上述の両端部を除く中間部分は、鋼板の全長さをLと定義したとき、1/3L地点から2/3Lまでの地点を意味し、上記中間部分の微細組織は、面積分率で、ベイナイトが20%以上100%未満、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で0%超過80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0051】
また、本発明の一側面によると、上述の両端部を除く中間部分は、鋼板の全長さをLと定義したとき、1/3L地点から2/3Lまでの地点を意味し、上記中間部分の微細組織は、面積分率で、ベイナイトが20%以上98%以下、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で2%以上80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%未満(0%の場合を含む)であってもよい。
【0052】
一方、本発明のさらに他の一側面は、重量%で、C:0.03%以上0.1%未満、Si:0.1%以上0.8%未満、Mn:0.3%以上1.5%未満、Cr:0.5%以上1.5%未満、Cu:0.1%以上0.5%未満、Al:0.01%以上0.08%未満、Ti:0.005%以上0.1%未満、Ni:0.05%以上0.1%未満、P:0.03%以下、S:0.02%以下、残部はFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを1000℃以上1200℃以下の温度で再加熱する段階と、再加熱した鋼スラブを750℃以上950℃以下の仕上げ圧延温度に熱間圧延して鋼板を得る段階と、圧延された鋼板を750℃以上の冷却開始温度から400℃以上700℃以下の冷却終了温度まで冷却する段階と、を含み、上記冷却時に、移送される鋼板の先端部において7℃/s以上の初期冷却速度で冷却を開始し、移送される鋼板の先端部から後端部に向かうにつれて冷却速度を次第に増加させるものである、構造用鋼板の製造方法を提供する。
【0053】
以下では、上述した構造用鋼板の製造方法について具体的に説明する。すなわち、本発明による構造用鋼板は、[スラブ再加熱-熱間圧延-冷却]の過程によって製造されることができ、各製造段階別の詳細な条件は下記のとおりである。
【0054】
[スラブ再加熱]
まず、上述した成分系からなるスラブを用意し、上記スラブを1000~1200℃の温度範囲に再加熱する。鋳造中に形成された炭窒化物を固溶させるために再加熱温度を1000℃以上とし、炭窒化物を十分に固溶させるために1050℃以上に加熱することがより好ましい。一方、過度に高い温度に再加熱する場合、オーステナイトが粗大に形成されるおそれがあるため、上記再加熱温度は1200℃以下とすることが好ましい。
【0055】
[熱間圧延]
上記再加熱した鋼スラブに対して、粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を実施することにより、圧延された鋼板を得ることができる。このとき、粗圧延は当該技術分野において通常的に公知された条件で行うことができ、仕上げ圧延は750℃以上の仕上げ圧延温度で完了することが好ましい。上記仕上げ圧延温度が750℃未満であると、粗大な空冷フェライトが多量に生成され、強度が低下するという問題が発生する可能性がある。これに対し、上記仕上げ圧延温度が950℃を超えると、組織の粗大化による強度及び靭性低下を招く可能性がある。したがって、本発明において、上記仕上げ圧延温度は750~950℃に制限することが好ましい。
【0056】
[冷却]
上述の圧延された鋼板を750℃以上の冷却開始温度から400~700℃の冷却終了温度まで冷却を行うことができ、このとき、移送される鋼板の先端部において7℃/s以上の初期冷却速度で冷却を開始することができる。
【0057】
具体的に、本発明において上記圧延された鋼板は、例えば、水冷により強制冷却することができる。すなわち、本発明は、十分な冷却によって厚物材においても高強度を確保することが核心技術であり、750℃以上の冷却開始温度で冷却を開始し、組織の粗大化を防止するために7℃/s以上の初期冷却速度で700℃以下の温度まで(すなわち、400~700℃の冷却終了温度まで)冷却することが必要である。ただし、上記冷却過程において、400℃未満の温度まで冷却すると、急冷過程により中心部に微細クラックを誘発する可能性があり、製品表面と中心部の材質偏差及び製品先後端部の材質偏差を誘発する可能性があるため、400℃以上の温度で冷却を終了することが好ましい。
【0058】
上記冷却段階において、より好ましくは、上記冷却開始温度(先端部における冷却開始温度)の下限は820℃であってもよく、上記冷却開始温度の上限は855℃であってもよい。また、上記冷却段階において、より好ましくは、上記冷却終了温度の下限は578℃であってもよく、上記冷却終了温度の上限は625℃であってもよい。
【0059】
一方、冷却速度の上限は設備能力に主に関係し、概ね板厚によって一定水準以上の冷却速度では、冷却速度がさらに増加しても強度に有意義な変化が現れないため、冷却速度の上限は別途限定しなくてもよい。
【0060】
また、本発明の一側面によると、好ましくは、上記初期冷却速度(すなわち、鋼板の移送方向に対して先端部における冷却開始速度)は、好ましくは10℃/s以上であってもよく、あるいは80℃/s以下であってもよい。上記初期冷却速度を10℃/s以上とすることにより、適切な制御冷却による微細組織及びそれに伴う十分な材質特性が得られる効果があり、80℃/s以下とすることにより、過冷却及びこれに伴う板変形による操業安全事故を防止する効果がある。ただし、より好ましくは、上記初期冷却速度の下限は20℃/sであってもよく、上記初期冷却速度の上限は70℃/sであってもよい。
【0061】
一方、本発明の一側面によると、上記冷却時間は特に限定するものではないが、5秒以上40秒以下の範囲で行うことができる。また、本発明の一側面によると、上記冷却後に得られる鋼板の厚さは5mm以上70mm未満であってもよい。
【0062】
一方、本発明において、上記冷却は、移送される鋼板の先端部から後端部に向かうにつれて冷却速度を次第に増加させることを特徴とする。すなわち、従来は、鋼板の製造過程中、冷却段階で鋼板が移送されることによって先端部と後端部との間の冷却程度に差が生じ、これにより板の先後端部の間の材質偏差が生じるという問題があった。そこで、本発明者らは、冷却中に発生する板の先後端部の材質偏差を減らすために鋭意検討した結果、先端部の弱冷、後端部の強冷を目標として、移送される鋼板の先端部から後端部に向かうにつれて冷却速度を次第に増加させ、これによって長さ方向に両端部間の引張強度及び/又は降伏強度の偏差が少ない構造用鋼板を効果的に得ることができた。
【0063】
したがって、上記のように移送される鋼板の先端部から後端部に向かうにつれて冷却速度を次第に増加させることにより、冷却時に移送される鋼板の後端部における冷却速度は、先端部における冷却速度よりも大きくなる。
【0064】
また、本発明の一側面によると、上記冷却時には、鋼板が移送されることによって、先端部から後端部に向かうほど冷却速度の勾配(Δ℃/s)が0.5℃/s以上10℃/s未満の範囲となるように、先端部から後端部に向かうにつれて次第に冷却速度を増加させる勾配冷却(あるいは、加速冷却)とすることができる。
【0065】
具体的に、本発明の一側面によると、上記冷却速度の勾配が0.5℃/s以上10℃/s未満であるというのは、初期冷却速度(例えば、7℃/s)を開始点として、移送される鋼板に対して1秒間隔で冷却速度を測定したとき、1秒間隔で測定される冷却速度の差が0.5℃/s以上10℃/s未満の範囲となるように、先端部から後端部に向かうにつれて次第に冷却速度を増加させることを意味する。
【0066】
本発明の一側面によると、上記冷却速度は、移送される鋼板上に一つの点をつけて上記鋼板を移送する際に、1秒間隔で上記点において測定される冷却速度の値であってもよい。一方、本発明の一側面によると、上述した1秒間隔で測定される冷却速度の差は0.5℃/s以上10℃/s未満の範囲であればよく、必ずしも移送される鋼板の全ての範囲において1秒間隔で測定される冷却速度の差が全て同じ値を有する必要はない。
【0067】
ただし、好ましくは、本発明の一側面によると、上述した1秒間隔で測定される冷却速度の差は、0.5℃/s以上10℃/s未満の範囲であってもよく、且つ、1秒間隔で測定される冷却速度の差は同一であってもよい。例えば、上記勾配冷却において、冷却速度の勾配が0.5℃/sであって、1秒間隔で測定される冷却速度の差が同じ場合というのは、初期冷却速度が10℃/sと仮定するとき、鋼板の移送方向に沿って冷却速度が次第に10.5℃/s、11℃/s、11.5℃/s、12℃/s、12.5℃/s等と増加することを意味する。
【0068】
一方、本発明の一側面によると、上記冷却速度の勾配を0.5℃/s以上とすることにより、適切な勾配冷却によって板の先後端部の微細組織及びそれによる本発明において目的とする強度の差を得ることができ、勾配冷却速度を10℃/s未満とすることにより、後端部の冷却程度を適切に調節して板形状を良好に維持することができ、工程を安全に行うことができる。ただし、本発明の目的とする効果を達成するために、より好ましくは、上記冷却速度の勾配(Δ℃/s)が3~6℃/s(すなわち、3℃/s以上6℃/s以下)であってもよい。
【0069】
上記先端部は、上述した鋼板の両端部のうち、いずれか一方の端部に対応し、上記後端部は、上述した鋼板の両端部のうち、他方の端部に対応する。したがって、上述したいずれか一方の端部及び他方の端部に対する説明は、それぞれ上記先端部及び後端部にも同様に適用することができる。
【0070】
したがって、前述の上記冷却開始温度は、先端部における冷却開始温度を意味し、上記先端部における冷却開始温度は、鋼板の全長さをLとしたとき、0である地点での温度(すなわち、鋼板の圧延方向に、先端部で冷却が開始される温度)を意味する。また、上記後端部における冷却開始温度は、鋼板の全長さをLとしたとき、2/3Lである地点での温度(すなわち、鋼板の圧延方向に、後端部で冷却が開始される温度)を意味する。このとき、上記鋼板の全長さLは少なくとも10m以上であってもよい。
【0071】
本発明の一側面によると、上記後端部における冷却開始温度の下限は760℃であってもよく、より好ましくは790℃であってもよい。また、上記後端部における冷却開始温度の上限は850℃であってもよく、より好ましくは835℃であってもよい。また、上記後端部における冷却開始温度は、上記先端部における冷却開始温度に比べて10℃以上(より好ましくは、15℃)以上低くてもよい。
【0072】
また、本発明のさらに他の一側面によると、冷却時に鋼板の移送速度は1m/s以上10m/s未満で行うことができる。一方、冷却時に鋼板の移送速度を引き上げる場合、鋼板先後端部の冷却開始温度の差を減らすことができるため、冷却時に鋼板の移送速度は1m/s以上とすることが好ましい。また、適切な冷却速度を確保して冷却設備を低減するための観点から、冷却時に鋼板の移送速度は10m/s未満とすることが好ましい。ただし、より好ましくは、上記冷却時に鋼板の移送速度の下限は3m/sであってもよく、上記冷却時に鋼板の移送速度の上限は8m/sであってもよい。
【0073】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0074】
(実施例)
まず、下記表1に示す成分系を有する溶鋼を設けた後、連続鋳造を用いて鋼スラブを製造し、下記表2に示す製造条件で再加熱、熱間圧延及び勾配冷却して鋼板を製造した。また、上記製造された鋼板について、冷却時に鋼板の先端部における冷却開始速度、冷却速度勾配、鋼板の移送速度を下記表3に示した。なお、下記表3に記載された冷却速度勾配(Δ℃/s)は、表3に記載された値であって、1秒間隔で測定される冷却速度の差が同じ場合を示す。また、冷却速度勾配は、移送される鋼板上に一つの点をつけて上記鋼板を移送する際、1秒間隔で上記点において測定される冷却速度の値に対する差を示したものである。また、上記冷却時に鋼板は表3に記載の移送速度で約5~10秒間移送された。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
一方、冷却時の鋼板の移送方向に対する鋼板の先後端部(すなわち、鋼板の長さ方向に両端部に対応)でそれぞれ試片を採取し、光学及び電子顕微鏡で微細組織を観察し、各相の面積分率を測定して下記表4に示した。また、冷却時の移送方向に対する鋼板の先後端部(すなわち、鋼板の長さ方向に両端部に対応)それぞれの材質及び材質偏差を計算して下記表5に示した。
【0079】
また、耐海水特性の評価として、海水を模した3.5%のNaCl溶液に1日間浸漬した後、50%のHCl+0.1%のヘキサメチレンテトラミン(Hexametylene tetramine)溶液とともに超音波洗浄機に入れて試片を洗浄し、重量減量を測定した後、これを初期試片の表面積で除して腐食速度を算出し、比較鋼と発明鋼の腐食速度を比較するために、比較鋼2の腐食速度100を基準にして相対腐食速度を比較評価し、その結果を表5に併せて示した。
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
上記表1に示すように、発明鋼1~4及び比較鋼1は、本発明で規定する合金組成を満たす例を示す。これに対し、比較鋼2及び3は、Cr、Cu、Ni又はMn等の主要元素において、本発明で規定する合金組成を満たしていない例を示す。
【0083】
具体的に、本発明で規定する合金組成及び製造条件のいずれも満たす発明鋼1~4の場合、鋼板の移送方向に対する先端部及び後端部ともに(すなわち、鋼板の長さ方向に両端ともにおいて)面積分率で、ベイナイトが20%以上、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトが合計で80%未満、その他の相としてパーライト及びMAが15%以下である低温組織を微細組織として有することを確認した。
【0084】
これにより、上述した発明鋼1~4は表5に示すように、鋼板の移送方向に対する先後端部ともにおいて降伏強度400MPa以上、引張強度500MPa以上の高い強度を有することにより、構造用鋼板として使用できる十分な特性を示すと同時に、鋼板に対する先後端部間の降伏強度の偏差及び引張強度の偏差がいずれも50MPa未満であって、先後端部間の材質偏差が少ない均質な様相を示した。
【0085】
これに対し、本発明で規定する合金組成を有するものの、勾配冷却をしない比較鋼1の場合、鋼板の移送方向に対する先後端部間の降伏強度の偏差及び引張強度の偏差が50MPa以上であることを確認した。また、本発明で規定する合金組成を有さない比較鋼2及び3の場合にも、鋼板の移送方向に対する先後端部間の降伏強度の偏差及び引張強度の偏差がいずれも50MPaを超えるものであった。
【0086】
一方、鋼板の長さ方向に両端部間の引張強度の偏差及び降伏強度の偏差が50MPa未満である発明鋼1~4は、比較鋼1~3に比べて、相対腐食速度が少ないものであって、耐海水特性においてより優れていた。したがって、本発明で規定する合金組成及び製造条件を満たす場合には、より低い腐食速度を有するため、耐海水雰囲気で十分な寿命を有することが確認できた。