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特許7429808希土類添加ファイバ及びファイバレーザ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】希土類添加ファイバ及びファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20240201BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20240201BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01S3/067
G02B6/02 376Z
H01S3/10 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022578028
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2021030977
(87)【国際公開番号】W WO2022162985
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021014119
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【弁理士】
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】北原 倫太郎
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/067723(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/026906(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003184(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203930(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0262780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/067
H01S 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径Rのコアであって、その中心から半径Rreまでの範囲を占める添加領域に希土類元素が添加されたコアと、
前記コアの周囲を覆い、前記コアの屈折率よりも低い屈折率を有するクラッドと
を備え、
動作波長における正規化周波数Vは2.4以上4.5以下であり、
0<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)R
を満たす、希土類添加ファイバ。
【請求項2】
0.1R<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)R
をさらに満たす、請求項1に記載の希土類添加ファイバ。
【請求項3】
0.3R<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)R
をさらに満たす、請求項2に記載の希土類添加ファイバ。
【請求項4】
前記正規化周波数Vは2.4以上4.2以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の希土類添加ファイバ。
【請求項5】
前記正規化周波数Vは2.4以上3.9以下である、請求項4に記載の希土類添加ファイバ。
【請求項6】
前記コアの半径RはV/0.34[μm]以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の希土類添加ファイバ。
【請求項7】
前記希土類元素はイッテルビウムである、請求項1から6のいずれか一項に記載の希土類添加ファイバ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の希土類添加ファイバと、
前記希土類添加ファイバに添加された前記希土類元素を励起する励起光を生成して前記希土類添加ファイバに導入する少なくとも1つの励起光源と
を備える、ファイバレーザ装置。
【請求項9】
前記希土類添加ファイバの少なくとも一部が200mm以下の曲げ径で曲げられている、請求項8に記載のファイバレーザ装置。
【請求項10】
前記希土類添加ファイバの少なくとも一部が100mm以下の曲げ径で曲げられている、請求項9に記載のファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類添加ファイバ及びファイバレーザ装置に係り、特にファイバレーザ装置において用いられる希土類添加ファイバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザ装置は、従来のレーザ装置と比較すると、集光性に優れ、高いパワー密度の光を得ることができ、また小さなビームスポットを実現できることから、レーザ加工分野や医療分野など様々な分野において用いられている。近年、高パワーのレーザの需要が高まっており、ファイバレーザ装置においても高出力化が進められている。ファイバレーザ装置の高出力化が進むと、ファイバレーザ装置内の光ファイバを伝搬する光のパワー密度も高くなり、誘導ラマン散乱に起因する光の波長変換が生じ易くなる。このような誘導ラマン散乱が生じると、設計上増幅されるべき波長の光の出力が低下してしまい、ファイバレーザ装置の出力が不安定となることが考えられる。また、ファイバレーザ装置に用いられるファイバブラッググレーティング(FBG)のような光部品は、意図する波長以外の光では十分に機能しないため、誘導ラマン散乱に起因する光の波長変換が進むと、これらの光部品が機能せず、ファイバレーザ装置の故障を招くおそれがある。このため、高出力のファイバレーザ装置においては、誘導ラマン散乱に起因する光の波長変換が生じないように、コア径を拡大したマルチモードファイバを用いることによって光ファイバを伝搬する光のパワー密度を下げることも行われている。
【0003】
ファイバレーザ装置において用いられる希土類添加ファイバとしてマルチモードファイバを用いた場合には、光パワーがある閾値を超えると、横モード不安定性(TMI:Transverse Mode Instability)という現象が発生することが知られている。このTMI現象とは、基本モードと高次モードとの伝搬定数の差に応じた周期的な屈折率変動が希土類添加ファイバ中に形成される現象である。
【0004】
このTMI現象は次のようなプロセスにより発生すると考えられている。希土類添加ファイバ中を複数のモードが伝搬すると、それらのモード間の干渉が生じる。ここで、レーザ発振中の希土類添加ファイバでは、建設的な干渉が生じる部分では誘導放出が盛んに発生し、逆に破壊的な干渉が生じる部分では誘導放出があまり発生しない。誘導放出が生じると、量子欠損により一定の熱が発生するため、モード間の干渉の周期に応じた発熱分布が長手方向に生じ、これが周期的な屈折率変動となる。
【0005】
このようなTMI現象が発生すると、長手方向に沿った周期的な屈折率変動が長周期グレーティングとして機能し、基本モードと高次モードの間でモード間結合が生じ得る。このようなモード間結合が生じると、出力されるレーザ光のビーム品質が悪化してしまい、上述したファイバレーザ装置の利点である集光特性が損なわれてしまう。例えば、非特許文献1においては、光パワーがある閾値を超えると、ビーム品質が急激に悪化することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】T. Eidam, C. Wirth, C. Jauregui, F. Stutzki, F. Jansen, H.-J. Otto, O. Schmidt, T. Schreiber, J. Limpert, and A. Tunnermann, “Experimental observations of the threshold-like onset of mode instabilities in high power fiber amplifiers,” Optics express 19, 13218-13224 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、TMI現象により生じる長周期グレーティングを光が透過する際における基本モードと高次モードとの間のモード間結合を抑制することができる希土類添加ファイバを提供することを第1の目的とする。
【0008】
また、本発明は、出力されるレーザ光のビーム品質の悪化を抑制することができるファイバレーザ装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、TMI現象により生じる長周期グレーティングを光が透過する際における基本モードと高次モードとの間のモード間結合を抑制することができる希土類添加ファイバが提供される。この希土類添加ファイバは、半径Rのコアと、上記コアの周囲を覆い、上記コアの屈折率よりも低い屈折率を有するクラッドとを備える。上記コアの中心から半径Rreまでの範囲を占める添加領域に希土類元素が添加される。上記希土類添加ファイバの動作波長における正規化周波数Vは2.4以上4.5以下であり、0<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)Rが満たされる。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、出力されるレーザ光のビーム品質の悪化を抑制することができるファイバレーザ装置が提供される。このファイバレーザ装置は、上述した希土類添加ファイバと、上記希土類添加ファイバに添加された上記希土類元素を励起する励起光を生成して上記希土類添加ファイバに導入する少なくとも1つの励起光源とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態における希土類添加ファイバの断面を模式的に示す図である。
図2A図2Aは、光ファイバの正規化周波数V=2.5であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図2B図2Bは、光ファイバの正規化周波数V=3であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図2C図2Cは、光ファイバの正規化周波数V=3.5であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図2D図2Dは、光ファイバの正規化周波数V=4であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図2E図2Eは、光ファイバの正規化周波数V=4.45であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図3図3は、各正規化周波数VにおいてLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数が1よりも小さくなり始めるときを図示するグラフである。
図4A図4Aは、光ファイバの正規化周波数V=4であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP21モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図4B図4Bは、光ファイバの正規化周波数V=4.45であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP21モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図5A図5Aは、光ファイバの正規化周波数V=4であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP02モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図5B図5Bは、光ファイバの正規化周波数V=4.45であるときの希土類元素の添加領域とLP01モードとLP02モードとの間の規格化結合定数との関係を示すグラフである。
図6図6は、正規化周波数Vに対してLP11モード及びLP02モードの規格化伝搬定数bが0となるときの光ファイバの曲げ径を示すグラフである。
図7図7は、必要とされる希土類添加ファイバの長さL’と添加領域の半径Rreとの関係を示すグラフである。
図8図8は、本発明の一実施形態におけるファイバレーザ装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る希土類添加ファイバ及びファイバレーザ装置の実施形態について図1から図8を参照して詳細に説明する。図1から図8において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、図1から図8においては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や一部の構成要素が省略されている場合がある。以下の説明では、特に言及がない場合には、「第1」や「第2」などの用語は、構成要素を互いに区別するために使用されているだけであり、特定の順位や順番を表すものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における希土類添加ファイバ10の断面を模式的に示す図である。図1に示すように、希土類添加ファイバ10は、半径Rのコア20と、コア20の周囲を覆う内側クラッド30と、内側クラッド30の周囲を覆う外側クラッド40とを含んでいる。内側クラッド30の屈折率はコア20の屈折率よりも低く、外側クラッド40の屈折率は内側クラッド30の屈折率よりも低い。なお、本実施形態では、希土類添加ファイバ10が2つのクラッドを有するダブルクラッドファイバである例を説明するが、これに限られるものではなく、希土類添加ファイバ10は単一のクラッド層を有していてもよく、あるいは3つ以上のクラッド層を有していてもよい。
【0014】
この希土類添加ファイバ10は、例えばファイバレーザ装置の増幅用光ファイバとして用いられるものであり、イッテルビウム(Yb)やエルビウム(Er)、ツリウム(Tr)、ネオジム(Nd)などの希土類元素が添加された添加領域22と、希土類元素が添加されていない非添加領域24とを含んでいる。この添加領域22は、コア20の中心から半径Rre(0<Rre<R)までの領域である。本発明者は、このような希土類添加ファイバ10の添加領域22の半径Rreを以下のように設計することで希土類添加ファイバ10におけるモード間結合を抑制できることを見出した。
【0015】
一般的に、長周期グレーティングによるモード間の結合定数κは、以下の式(1)で表される。この結合定数κが小さいほど、モード間の光パワーの移行も少なくなる。すなわち、この結合定数κが小さい場合にはモード間結合が抑制される。
【数1】
ここで、x及びyは、光ファイバの光軸に垂直な断面における2次元座標、Δnは、長手方向における屈折率変動の振幅、EFM及びEHOMは、それぞれ基本モードと高次モードの電界分布を表している。
【0016】
上述したように、TMI現象により生じる屈折率変動は量子欠損による発熱に起因するものである。この量子欠損は希土類元素が添加された領域において生じ得るため、本発明者は、光ファイバ中の希土類元素が添加された領域において上述した屈折率変動が生じると考えた。そこで、上記式(1)におけるΔnの部分を希土類元素が添加された領域に置き換え、希土類添加ファイバ10のコア20の添加領域22に希土類元素を添加した場合のLP01モードとLP11モードのモード間の結合定数κを異なる正規化周波数Vで計算した。この結果を図2A図2Eに示す。図2A図2Eにおいて、横軸は、添加領域22の半径Rreをコアの半径Rで規格化した値Rre/Rを表しており、縦軸は、算出された結合定数κをRre/R=1であるときの結合定数で規格化した値(規格化結合定数)を表している。図2AはV=2.5、図2BはV=3、図2CはV=3.5、図2DはV=4、図2EはV=4.45のときの規格化結合定数を示している。
【0017】
図2A図2Eから、LP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数は、添加領域22の半径Rreを小さくすればするほど小さくなることがわかる。それぞれの正規化周波数Vにおいて、規格化結合定数が1よりも小さくなり始めるときのRreをR’reとすると、
V=2.5のとき、R’re/R=0.95
V=3のとき、R’re/R=0.9
V=3.5のとき、R’re/R=0.75
V=4のとき、R’re/R=0.7
V=4.45のとき、R’re/R=0.65
である。これをグラフにすると図3に示すようになる。この図3から、正規化周波数Vが高くなると、添加領域22の半径Rreを小さくしなければ規格化結合定数を1よりも小さくできないことがわかる。
【0018】
ここで、図3に示されるR’re/Rを2次関数でフィッティングすると以下の式(2)が得られる。
【数2】
【0019】
したがって、添加領域22の半径Rreを上記式(2)で定義されるR’reよりも小さくすれば、規格化結合定数を1よりも小さくすることができる。すなわち、
0<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)R ・・・(3)
を満たすように添加領域22の半径Rreを設定すれば、希土類元素をコア20の全領域に添加した場合(規格化結合定数が1)に比べてLP01モードからLP11モードへの結合を抑制できることとなる。
【0020】
同様に、LP01モードとLP21モードとの間の規格化結合定数は図4A及び図4Bに示すように計算される。図4AはV=4、図4BはV=4.45のときの規格化結合定数を示している。図4A及び図4Bから分かるように、LP01モードとLP21モードとの間の規格化結合定数は、図2A図2Eに示されるLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数と同様の傾向を示している。また、図4A図2D図4B図2Eを比較すれば分かるように、添加領域22の半径Rreが同じであれば、LP01モードとLP21モードとの間の規格化結合定数の方がLP01モードとLP11モードとの間の規格化結合定数よりも小さくなっている。このことから、上記式(3)を満たすように添加領域22の半径Rreを設定すれば、LP01モードとLP21モードとの間のモード間結合も抑制できることが分かる。
【0021】
また、LP01モードとLP02モードとの間の規格化結合定数は図5A及び図5Bに示すように計算される。図5AはV=4、図5BはV=4.45のときの規格化結合定数を示している。図5A及び図5Bから分かるように、添加領域22の半径Rreがコア20の半径Rよりも小さい場合には、LP01モードとLP02モードとの間の規格化結合定数は、希土類元素をコア20の全領域に添加した場合よりも大きくなる。このため、本発明者は、添加領域22の半径Rreではなく、希土類添加ファイバ10の規格化周波数Vを調整することにより、LP01モードとLP02モードとの間のモード間結合を抑制することを考えた。
【0022】
一般的に、ファイバレーザ装置において使用される希土類添加ファイバの全長は数メートルから数十メートルであり、この希土類添加ファイバがコイル状に巻回されて筐体内に収容されている。一般的に、正規化周波数Vが3.9を超えるとLP21モードとLP02モードが導波できるようになるが、希土類添加ファイバの正規化周波数Vが低くなると、LP02モードの伝送損失が大きくなるため、希土類添加ファイバ内をLP02モードが実質的に伝搬しない状態になり得る。
【0023】
図6は、正規化周波数Vに対してLP11モード及びLP02モードの規格化伝搬定数bが0となるときの光ファイバの曲げ径を示すものである。規格化伝搬定数bが0であることは、そのモードがコアを伝搬できないことを意味している。例えば、V=4.5の場合、LP02モードは直径約100mm以下で曲げられた光ファイバを伝搬することができない。また、V=4.2の場合であれば、LP02モードは直径約200mm以下で曲げられた光ファイバを伝搬することができない。
【0024】
したがって、上記式(3)を満たすように添加領域22の半径Rreを設定した上で、動作周波数(発振周波数)における希土類添加ファイバ10の正規化周波数Vが4.5以下、好ましくは4.2以下となるようにすれば、TMI現象により生じた長周期グレーティングを光が透過する際に、コア20を導波するLP01モードとLP11モードとの間の結合、LP01モードとLP21モードとの間の結合、及びLP01モードとLP02モードとの間の結合をそれぞれ抑制することができ、ビーム品質の悪化を抑制することができる。
【0025】
ところで、希土類添加ファイバにおいて吸収される励起光の量は、希土類添加ファイバの断面内に含まれる希土類元素の量と希土類添加ファイバの長さの積に比例する。したがって、コア20の全領域に希土類元素を添加した場合に所定量の励起光を吸収するために必要とされる希土類添加ファイバ10の長さをLとすると、希土類元素をコア20の中心から半径Rreまでの添加領域22に添加した場合に同量の励起光を吸収するために必要とされる希土類添加ファイバ10の長さL’は、以下の式(4)で表される。
【数3】
【0026】
この式(4)から、希土類元素を添加する添加領域22の半径Rreを小さくしすぎると、励起光を十分に吸収するために希土類添加ファイバ10の全長を長くする必要が生じることがわかる。希土類添加ファイバ10の全長が長くなると、誘導ラマン散乱が生じやすくなり、コア20を拡大した効果が低減してしまう。
【0027】
ここで、上述した希土類添加ファイバ10の長さL’と添加領域の半径Rreとの関係について考察する。図7は、Rre/RとL’/Lの関係を示すグラフである。図7に示すように、Rre≧0.1Rであれば、必要とされる希土類添加ファイバ10の長さL’をコア20の全領域に希土類元素を添加した場合に必要される長さLの100倍以下にすることができる。さらに、Rre≧0.3Rであれば、必要とされる希土類添加ファイバ10の長さL’をコア20の全領域に希土類元素を添加した場合に必要される長さLの約10倍以下にすることができる。したがって、希土類添加ファイバ10が長くなりすぎないためには、0.1R<Rreとすることが好ましく、0.3R<Rreとすることがより好ましい。
【0028】
ところで、光ファイバの正規化周波数Vは、以下の式(5)により定義されるものである。本実施形態において用いられる希土類添加ファイバ10の正規化周波数Vは2.4以上である。
【数4】
ここで、λは光ファイバの動作波長(レーザの発振波長)であり、n1はコアの屈折率、n2はクラッドの屈折率、Δはコアとクラッドの比屈折率差である。
【0029】
比屈折率差Δは、以下の式(6)により定義される。
【数5】
【0030】
上記式(5)及び(6)から、光ファイバの正規化周波数Vをある程度以下にするためには、コアの半径Rを小さくするか、あるいはコアとクラッドの比屈折率差Δを小さくする必要があることが分かる。コアとクラッドの比屈折率差Δを小さくしすぎると、コアへの光の閉じ込め効果が低減するため、TMI現象が生じる閾値以下の光パワーにおいても、わずかな外乱などによってモード間結合が生じやすくなる。本発明者は、例えばR[μm]≦V/0.34となるように希土類添加ファイバ10のコア20の半径Rを小さくすることで、コア20への光の閉じ込め効果を維持しつつ、正規化周波数Vを小さくすることを見出した。
【0031】
次に、上述した希土類添加ファイバ10を用いたファイバレーザ装置の実施形態について説明する。図8は、上述した希土類添加ファイバ10を用いたファイバレーザ装置100の構成を模式的に示すブロック図である。図8に示すように、このファイバレーザ装置100は、レーザ光を増幅可能な増幅用光ファイバとして上述した希土類添加ファイバ10を含む光共振器110と、光共振器110の一端側(前方)から光共振器110に励起光を供給する複数の前方励起光源120Aと、光共振器110の他端側(後方)から光共振器110に励起光を供給する複数の後方励起光源120Bと、複数の前方励起光源120Aから出力される励起光を結合して光共振器110に導入する前方光コンバイナ130Aと、複数の後方励起光源120Bから出力される励起光を結合して光共振器110に導入する後方光コンバイナ130Bと、後方光コンバイナ130Bから延びるデリバリファイバ140と、デリバリファイバ140の下流側の端部に設けられたレーザ出力部150とを備えている。それぞれの前方励起光源120Aと前方光コンバイナ130Aとは光ファイバ160Aで接続され、それぞれの後方励起光源120Bと後方光コンバイナ130Bとは光ファイバ160Bで接続されている。
【0032】
光共振器110は、所定の発振波長(例えば1070nm)の光を高い反射率で反射する高反射部170Aと、この波長の光を高反射部170Aよりも低い反射率で反射する低反射部170Bとを含んでいる。高反射部170A及び低反射部170Bは、例えば、光の伝搬方向に沿って周期的に光ファイバの屈折率を変化させて形成したファイバブラッググレーティング(FBG)やミラーにより構成される。図8に示す例では、高反射部170A及び低反射部170Bをファイバブラッググレーティングにより構成している。
【0033】
励起光源120A,120Bに接続される光ファイバ160A,160Bは、それぞれコアと、コアの周囲を覆い、コアの屈折率よりも低い屈折率を有するクラッドとを有しており、これらの光ファイバ160A,160Bのコアの内部には、励起光源120A,120Bで生成された励起光が伝搬する光導波路が形成されている。
【0034】
励起光源120A,120Bとしては、例えば波長975nmのレーザ光を出射可能な高出力マルチモード半導体レーザ素子を含むレーザモジュールが用いられる。それぞれの前方励起光源120Aで生成された励起光は、光ファイバ160Aのコアを伝搬して前方光コンバイナ130Aに向かい、前方光コンバイナ130Aで結合されて光共振器110に導入される。また、それぞれの後方励起光源120Bで生成された励起光は、光ファイバ160Bのコアを伝搬して後方光コンバイナ130Bに向かい、後方光コンバイナ130Bで結合されて光共振器110に導入される。なお、前方励起光源120Aで生成される励起光の波長と後方励起光源120Bで生成される励起光の波長は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
励起光源120A,120Bからそれぞれ光コンバイナ130A,130Bを介して光共振器110に導入された励起光は、希土類添加ファイバ10の内側クラッド30及びコア20の内部を伝搬する。この励起光は、コア20の添加領域22を通過する際に希土類元素イオンに吸収され、この希土類元素イオンが励起されて自然放出光が生じる。この自然放出光が高反射部170Aと低反射部170Bとの間で再帰的に反射され、特定の波長(例えば1070nm)の光が増幅されてレーザ発振が生じる。このように光共振器110で増幅されたレーザ光は、希土類添加ファイバ10のコア20の内部を伝搬し、その一部が低反射部170Bを透過する。低反射部170Bを透過したレーザ光は、後方光コンバイナ130Bからデリバリファイバ140のコアに導入され、デリバリファイバ140のコアを伝搬して、図8に示すように、レーザ出力部150から出力レーザ光Pとして例えば加工対象物に向けて出射される。
【0036】
一例として、希土類添加ファイバ10のコア20の半径Rは9.25μm、屈折率は1.4523である。また、内側クラッド30の屈折率は1.45、コア20と内側クラッド30の比屈折率差Δは0.16%である。この希土類添加ファイバ10の正規化周波数Vは上記式(5)よりV=4.44となる。希土類添加ファイバ10の全長は15m、その曲げ径は100mmである。コア20の添加領域22にはイッテルビウムが添加され、添加領域22の半径Rreは5.5μmである。この例においては、上記式(3)は0<Rre<5.97μmとなるから、式(3)が満たされている。また、0.3R=2.78μmであるから、0.3R<Rreが満たされている。
【0037】
希土類添加ファイバ10の曲げ径が100mmであることから、上述したようにLP02モードが希土類添加ファイバ10のコア20を伝搬できないため、コア20を導波可能なモードは、LP01モード、LP11モード、LP21モードとなる。このとき、基本モードであるLP01モードとLP11モードとの規格化結合定数は0.98、LP01モードとLP21モードとの規格化結合定数は0.96となる。したがって、この希土類添加ファイバ10を増幅用光ファイバとして用いることにより、希土類元素をコア20の全領域に添加する場合に比べて、LP01モードからLP11モードへの結合及びLP01モードからLP21モードへの結合をそれぞれ抑制でき、レーザ出力部150から出力される出力レーザ光Pのビーム品質の低下を抑制することができる。
【0038】
図8に示す例では、光共振器110の両側に励起光源120A,120Bと光コンバイナ130A,130Bが設けられており、双方向励起型のファイバレーザ装置となっているが、光共振器110の一方の側にのみ励起光源と光コンバイナを設置することとしてもよい。また、ファイバレーザ装置としては、シード光源からのシード光を励起光源からの励起光を用いて増幅するMOPAファイバレーザ装置も知られているが、上述した希土類添加ファイバ10は、このようなMOPAファイバレーザ装置における増幅用光ファイバとして用いることも可能である。
【0039】
以上述べたように、本発明の第1の態様によれば、TMI現象により生じる長周期グレーティングを光が透過する際における基本モードと高次モードとの間のモード間結合を抑制することができる希土類添加ファイバが提供される。この希土類添加ファイバは、半径Rのコアと、上記コアの周囲を覆い、上記コアの屈折率よりも低い屈折率を有するクラッドとを備える。上記コアの中心から半径Rreまでの範囲を占める添加領域に希土類元素が添加される。上記希土類添加ファイバの動作波長における正規化周波数Vは2.4以上4.5以下であり、0<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)Rが満たされる。
【0040】
このような希土類添加ファイバによれば、コアを導波する基本モードと高次モードとの間の結合定数を小さくすることができるため、TMI現象により生じる長周期グレーティングを光が透過する際における基本モードと高次モードとの間のモード間結合を抑制することができる。
【0041】
また、0.1R<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)Rが満たされることが好ましい。添加領域の半径Rreを0.1Rよりも大きくすることにより、希土類添加ファイバを過度に長くすることなく、基本モードと高次モードとの間のモード間結合を抑制することができる。さらに、0.3R<Rre<(0.0247V2-0.3353V+1.6474)Rが満たされるようにすることにより、希土類添加ファイバの長さをより短くしつつ、基本モードと高次モードとの間のモード間結合を抑制することができる。
【0042】
上記正規化周波数Vは2.4以上4.2以下であってもよい。正規化周波数Vをこのような範囲とすることにより、LP02モードが希土類添加ファイバのコア中を導波しにくくなるため、基本モードとLP02モードとの間のモード間結合を抑制することができる。さらに、上記正規化周波数Vは2.4以上3.9以下であってもよい。正規化周波数Vをこのような範囲とすることにより、LP02モードが希土類添加ファイバのコア中をほとんど導波しなくなるか、導波しなくなるため、基本モードとLP02モードとの間のモード間結合を実質的になくすことができる。
【0043】
上記コアの半径RはV/0.34[μm]以下であることが好ましい。コアの半径RをV/0.34[μm]以下とすることで、コアの屈折率を過度に小さくすることなく、正規化周波数Vを小さくすることができる。
【0044】
上記希土類元素としてイッテルビウムを用いてもよい。希土類元素としてイッテルビウムを用いた場合には、この希土類添加ファイバを材料加工用のファイバレーザ装置に用いることが可能となる。
【0045】
本発明の第2の態様によれば、出力されるレーザ光のビーム品質の悪化を抑制することができるファイバレーザ装置が提供される。このファイバレーザ装置は、上述した希土類添加ファイバと、上記希土類添加ファイバに添加された上記希土類元素を励起する励起光を生成して上記希土類添加ファイバに導入する少なくとも1つの励起光源とを備える。
【0046】
このようなファイバレーザ装置によれば、希土類添加ファイバにおける基本モードと高次モードとの間のモード間結合が抑制されるため、出力されるレーザ光のビーム品質の悪化を抑制することができ、高い集光性を維持しつつ高出力のレーザ光を出力することができる。
【0047】
上記希土類添加ファイバの少なくとも一部が200mm以下の曲げ径で、より好ましくは100mm以下の曲げ径で曲げられていることが好ましい。このように希土類添加ファイバの少なくとも一部を曲げることで、希土類添加ファイバのコア中を導波するLP02モードを少なくすることができるため、基本モードとLP02モードとの間のモード間結合を抑制することができる。
【0048】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【0049】
本出願は、2021年2月1日に提出された日本国特許出願特願2021-014119に基づくものであり、当該出願の優先権を主張するものである。当該出願の開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ファイバレーザ装置において用いられる希土類添加ファイバに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0051】
10 希土類添加ファイバ
20 コア
22 添加領域
24 非添加領域
30 内側クラッド
40 外側クラッド
100 ファイバレーザ装置
110 光共振器
120A,120B 励起光源
130A,130B 光コンバイナ
140 デリバリファイバ
150 レーザ出力部
170A 高反射部
170B 低反射部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8