IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許7429825窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板
<>
  • 特許-窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板 図1
  • 特許-窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板 図2
  • 特許-窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板 図3
  • 特許-窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板 図4
  • 特許-窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/581 20060101AFI20240201BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240201BHJP
   C04B 41/80 20060101ALI20240201BHJP
   C04B 41/91 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C04B35/581
H05K1/03 610E
C04B41/80 A
C04B41/91 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023511247
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014941
(87)【国際公開番号】W WO2022210518
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021060245
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】尹 江
(72)【発明者】
【氏名】森 和久
(72)【発明者】
【氏名】小宮 勝博
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-129075(JP,A)
【文献】特開2001-102476(JP,A)
【文献】国際公開第02/042241(WO,A1)
【文献】特開2001-097779(JP,A)
【文献】特開平05-024930(JP,A)
【文献】特開2005-075695(JP,A)
【文献】特開平10-310475(JP,A)
【文献】特開2002-293637(JP,A)
【文献】国際公開第2006/135016(WO,A1)
【文献】特開平10-245267(JP,A)
【文献】国際公開第02/024605(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/033855(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/018140(WO,A2)
【文献】小林俊郎,セラミックスの強度と靭性,鉄と鋼,日本,一般社団法人日本鉄鋼協会,1990年02月01日,76巻,第2号,PP.149-157,ISSN:0021-1575, DOI:10.2355/tetsutohagane1955.76.2_149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/581
H05K 1/03
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と、焼結助剤粒子と、を含む、窒化アルミニウム焼結体であって、
金属板と積層して積層体を調製し、350℃の環境に5分間曝した後、25℃の環境で5分間冷却した前記積層体を対象とし、-78℃の環境に5分間曝した後に、25℃に戻す操作を1サイクルとして、10サイクルのヒートサイクル試験を行った場合に、観測されるクラック率が9.00面積%未満であり、
前記窒化アルミニウム粒子に対する電子顕微鏡画像解析によって測定される粒子径の累積頻度分布曲線において、小粒径からの積算値が全体の50%及び90%に達した時の粒子径を、それぞれd50及びd90としたときに、d90-d50の値が10.0μm未満であり、
d90が4.0~15.0μmである、窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
d50が5.2~9.0μmである、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
一対の主面を有する板状であり、前記主面における最大高さ粗さRyと算術平均粗さRaとの差が6.0μm以下である、請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項4】
前記最大高さ粗さRyが10.0μm未満である、請求項に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム焼結体と、当該窒化アルミニウム焼結体に取り付けられている導体部と、を備える、回路基板。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム焼結体と、当該窒化アルミニウム焼結体に取り付けられている金属板と、を備える積層基板。
【請求項7】
窒化アルミニウム及び焼結助剤を含む混合物で構成される成形体を1~6時間焼成して焼結体を得る焼成工程と、
前記焼結体を1400℃以上1700℃未満の温度で1時間以上加熱処理することでアニール処理物を得る工程と、
前記アニール処理物の表面を研磨処理することで窒化アルミニウム焼結体を得る工程と、を有し、
前記焼結助剤は酸化イットリウム及び酸化アルミニウムを含有し、
前記酸化イットリウムに対する前記酸化アルミニウムの質量比が0.5未満であり、
前記焼成工程は、
1700℃以上1800℃未満の温度で2.0時間以上加熱することによって、前記成形体から第一焼成体を得る工程と、
1800~1900℃の温度で1時間以上加熱することによって、前記第一焼成体から前記焼結体を得る工程と、を含み、
前記研磨処理は、研磨圧力:0.15~0.35MPa、研磨量:2~10μm、時間:1~5分間の条件のホーニング処理で行う、窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法、回路基板、並びに、積層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モーター等の産業機器、及び電気自動車等の製品には、大電力制御用のパワーモジュールが用いられている。このようなパワーモジュールには、半導体素子から発生する熱を効率的に拡散するとともに、漏れ電流を抑制するため、セラミック板を備える回路基板等が用いられている。このようなセラミック板に用いられるセラミック焼結体は、通常、セラミック原料粉末を所定形状に成形してセラミック成形体とした後に、セラミック成形体を焼結することで製造される。
【0003】
セラミック焼結体としては、窒化物、炭化物、硼化物、又は珪化物等で構成されるものが知られている。このうち、窒化アルミニウム焼結体は、熱伝導性及び電気絶縁性に優れている。このため、パワーモジュール等の電子部品のヒートシンク材として用いられている。これらの用途への適性を高めるため、特許文献1では、焼結助剤として酸化物換算で3~20質量部のZr,Tiの群から選択される窒化物を用いて、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率と機械的強度を高くする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-184316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワーモジュール等の電子部品は、一層の高性能化が図られており、これに伴って、電子部品に用いられる各種製品の性能への要求レベルが益々高くなっていくと考えられる。電子部品の使用時における発熱量の上昇も想定され、セラミック焼結体にも電子部品の構成部材間の熱膨張率の差による影響、すなわち構成部材間の変形量の違いに耐えるための優れた曲げ強さが求められる。優れた曲げ強さを有するセラミック焼結体を用いることによって電子部品の仕様寿命を長期化することも可能となり得る。
【0006】
本開示の目的は、曲げ強さに優れる窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法を提供することである。本開示の目的はまた、上記窒化アルミニウム焼結体を備え、接続信頼性に優れる積層基板及び回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、窒化アルミニウム粒子と、焼結助剤粒子と、を含む、窒化アルミニウム焼結体であって、金属板と積層して積層体を調製し、350℃の環境に5分間曝した後、25℃の環境で5分間冷却した上記積層体を対象とし、-78℃の環境に5分間曝した後に、25℃に戻す操作を1サイクルとして、10サイクルのヒートサイクル試験を行った場合に、観測されるクラック率が9.00面積%未満である、窒化アルミニウム焼結体を提供する。
【0008】
上記窒化アルミニウム焼結体は、特定条件のヒートサイクル試験を行った場合のクラックの発生が所定値以下に抑制されていることから、優れた曲げ強さを発揮し得る。本発明者らは検討によって、窒化アルミニウム焼結板の表面性状(例えば、主面における凹凸の程度等)にバラつきがあると、窒化アルミニウム焼結板に外力が加わった際に、主面における相対的に脆弱な部分に応力集中が起こり、期待されるような曲げ強さが発揮されない場合が生じ得ることを見出し、さらに特定条件下におけるヒートサイクル試験を行った場合に発生するクラックが、窒化アルミニウム結晶板の潜在欠陥を目視可能な亀裂へと成長させたものに対応し、上記クラック率が窒化アルミニウム焼結板の表面性状を評価するのに適していることを見出した。本開示は上記知見に基づいてなされたものである。
【0009】
上記窒化アルミニウム焼結体は、一対の主面を有する板状であり、上記主面における最大高さ粗さRyと算術平均粗さRaとの差が6.00μm以下であってよい。最大高さ粗さRyと算術平均粗さRaとの差が上記範囲内であることで、主面における性状のバラつきを抑制し、熱応力をより均一に分散させることが可能となり、より優れた曲げ強さを発揮し得る。
【0010】
上記最大高さ粗さRyが10.00μm未満であってよい。
【0011】
上記窒化アルミニウム粒子に対する電子顕微鏡画像解析によって測定される粒子径の累積頻度分布曲線において、小粒径からの積算値が全体の50%及び90%に達した時の粒子径を、それぞれd50及びd90としたときに、d90-d50の値が10.0μm未満であってよい。
【0012】
本開示の一側面は、上述の窒化アルミニウム焼結体と、当該窒化アルミニウム焼結体に取り付けられている導体部と、を備える、回路基板を提供する。
【0013】
上記回路基板は、上述の窒化アルミニウム焼結体を有することから、使用時の温度が高い場合であっても、部材間の変形に耐えることができ、優れた接続信頼性を発揮し得る。
【0014】
本開示の一側面は、上述の窒化アルミニウム焼結体と、当該窒化アルミニウム焼結体に取り付けられている金属板と、を備える積層基板を提供する。
【0015】
上記積層基板は、上述の窒化アルミニウム焼結体を有することから、使用時の温度が高い場合であっても、部材間の変形に耐えることができ、優れた接続信頼性を発揮し得る。
【0016】
本開示の一側面は、窒化アルミニウム及び焼結助剤を含む混合物で構成される成形体を1~6時間焼成して焼結体を得る焼成工程と、上記焼結体を1400℃以上1700℃未満の温度で1時間以上加熱処理することでアニール処理物を得る工程と、上記アニール処理物の表面を研磨処理することで窒化アルミニウム焼結体を得る工程と、を有し、上記焼結助剤は酸化イットリウム及び酸化アルミニウムを含有し、上記酸化イットリウムに対する上記酸化アルミニウムの質量比が0.5未満であり、上記焼成工程は、1700℃以上1800℃未満の温度で1時以上加熱することによって、上記成形体から第一焼成体を得る工程と、1800~1900℃の温度で1時間以上加熱することによって、上記第一焼成体から上記焼結体を得る工程と、を含む、窒化アルミニウム焼結体の製造方法を提供する。
【0017】
上記窒化アルミニウム焼結体の製造方法では、所定の割合で配合された焼結助剤を使用し、少なくとも2段階の所定の焼成工程を経ることで得られる焼結体に対してアニール処理を行うことで、窒化アルミニウム結晶の粒子間に形成された焼結助剤に由来する複合化合物を改めて液相化することによって、焼結体表面に微細な窒化アルミニウム粒子の成長を促し、上記焼結体表面に発生した粒界や亀裂等の欠陥を修復し、また主面上の凹凸を軽減し、その後研磨処理を行うことによって得られる焼結体の主面をより一層均一化することができる。これにより、得られる窒化アルミニウム焼結体は、外力が加わった際、主面の性状のバラつきによって応力集中が生じることを抑制できる。すなわち上述の製造方法によれば、曲げ強さに優れる窒化アルミニウム焼結体を製造できる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、曲げ強さに優れる窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上記窒化アルミニウム焼結体を備え、接続信頼性に優れる積層基板及び回路基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、窒化アルミニウム焼結板の一例を示す斜視図である。
図2図2は、積層基板の一例を示す斜視図である。
図3図3は、回路基板の一例を示す斜視図である。
図4図4は、実施例1における窒化アルミニウム焼結板の製造工程におけるアニール処理物の主面、及び窒化アルミニウム焼結板の主面を示すSEM画像である。
図5図5は、比較例1における窒化アルミニウム焼結板の製造工程における研磨処理前の焼結板の主面、及び窒化アルミニウム焼結板の主面を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合によって図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合によって重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0021】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0022】
窒化アルミニウム焼結体の一実施形態は、窒化アルミニウム粒子と、焼結助剤粒子と、を含む。図1は、窒化アルミ焼結板の一例を示す斜視図である。窒化アルミニウム焼結板100は、一対の主面を有する板状に成形された窒化アルミニウム焼結体を示しているが、その形状は、例えば、シート状であってよく、通常、直方体形状である。上記焼結助剤粒子とは、焼結助剤に由来する成分を含む粒子である。
【0023】
上記窒化アルミニウム焼結板100は、金属板と積層して積層体を調製し、当該積層体を350℃の環境に5分間曝した後に、25℃の環境で5分間冷却した上記積層体を対象とし、-78℃の環境に5分間曝した後に、25℃に戻す操作を1サイクルとして、10サイクルのヒートサイクル試験を行った場合に、観測されるクラック率が9.00面積%未満である。上記クラック率は、例えば、8.00面積%以下、6.00面積%以下、5.00面積%以下、4.00面積%以下、3.00面積%以下、2.00面積%以下、又は1.00面積%以下であってよい。上記クラック率が上記範囲内であることで、曲げ強さにより優れる。上記クラック率の下限値は特に限定されるものではないが、例えば、0.01面積%以上であってよい。上記クラック率は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.01~9.00面積%であってよい。
【0024】
本明細書におけるクラック率は、所定条件のヒートサイクル試験によって決定することができる。ヒートサイクル試験には、銀(Ag)、銅(Cu)及び活性金属を含むろう材(Agが90質量部、Cuが10質量部、Snが3質量部、及びTiが3.5質量部である組成を有するろう材)を介して、ろう材層の厚みが15μmになるように、上記窒化アルミニウム焼結板100に銅板(厚み:0.3mm)を、接合温度:830℃、接合時間:1時間、真空度:1×10-3Paの条件で接合することによって作製された測定サンプル(積層体)を用いる。当該サンプルに対する所定条件でのヒートサイクル試験によって、クラック率を測定する。ヒートサイクル試験の具体的な方法は実施例に記載のとおりとする。
【0025】
上記窒化アルミニウム焼結板100は、応力集中をより抑制し、曲げ強さをより向上させる観点から、対向する主面の少なくとも一方がより平滑であることが望ましく、両主面が平滑であることがより望ましい。上記窒化アルミニウム焼結板100は、少なくとも一方の主面における最大高さ粗さRyと算術平均粗さRaとの差が小さいことが好ましい。主面における最大高さ粗さRyと算術平均粗さRaとの差((Ry-Ra)の値)の上限値は、例えば、6.00μm以下、5.00μm以下、4.00μm以下、3.00μm以下、2.00μm以下、又は1.00μm以下であってよい。上記(Ry-Ra)の値の上限値が上記範囲内であることで、主面における性状のバラつきを抑制し、熱応力をより均一に分散させることが可能となり、より優れた曲げ強さを発揮し得る。(Ry-Ra)の値の下限値は特に限定されるものではなく、例えば、0.01μm超、又は1.00μm以上であってよい。上記(Ry-Ra)の値は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.01μm超6.00μm、又は1.00~6.00μmであってよい。
【0026】
上記窒化アルミニウム焼結板100の上記最大高さ粗さRyの上限値は、例えば、10.00μm未満、8.00μm以下、7.00μm以下、5.00μm以下、4.00μm以下、3.00μm以下、又は2.00μm以下であってよい。Ryの上限値が上記範囲内であることで、応力の集中をより抑制することができる。Ryの下限値は、例えば、0.30μm以上、0.60μm以上、又は1.00μm以上であってよい。Ryの下限値が上記範囲内であることで、窒化アルミニウム焼結板100の製造をより容易にすると共に、コストの上昇を抑制することができる。窒化アルミニウム焼結板100の最大高さ粗さRyの値は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.30~8.00μm、0.60~8.00μm、又は1.00~7.00μmであってよい。
【0027】
本明細書における最大高さ粗さRy及び算術平均粗さRaは、JIS B 0601:1994「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」に記載された最大高さ粗さRy及び算術平均粗さRaを意味し、ライン接触式の測定器によって測定することができる。ライン接触式の側的としては、例えば、株式会社ミツトヨ製の「表面粗さ測定機サーフテスト SJ-301」(製品名)等を使用できる。
【0028】
窒化アルミニウム粒子に対する電子顕微鏡画像解析によって測定される粒子径の累積頻度分布曲線において、小粒径からの積算値が全体の50%及び90%に達した時の粒子径を、それぞれd50及びd90としたときに、d90-d50の値が小さいことが好ましい。d90-d50の値の上限値は、例えば、10.0μm未満、8.0μm以下、6.0μm以下、5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、又は2.0μm以下であってよい。d90-d50の値の上限値が上記範囲内であることで、窒化アルミニウム粒子のバラつきが少なく、窒化アルミニウム焼結板100の主面において大きな欠損が発生することを抑制することができ、曲げ強さをより向上できる。d90-d50の値の下限値は、例えば、0.1μm以上、0.5μm以上、又は1.0μm以上であってよい。d90-d50の値の下限値が上記範囲内であることで、窒化アルミニウム焼結板100の製造をより容易にすると共に、コストの上昇を抑制することができる。
【0029】
窒化アルミニウム粒子のd90の上限値は、例えば、15.0μm以下、14.0μm以下、13.0μm以下、12.0μm以下、11.0μm以下、10.0μm以下、9.0μm以下、8.0μm以下、又は7.0μm以下であってよい。d90の上限値が上記範囲内であることは、窒化アルミニウム焼結板100中に粗大粒子の生成が抑制されていることを意味し、焼結体組織がより一層均一であることを意味する。すなわち、外部から力が加えられた際の応力集中が生じることを抑制し、焼結板の曲げ強さをより向上することができる。d90の下限値は、例えば、4.0μm以上、4.5μm以上、又は5.0μm以上であってよい。d90の下限値が上記範囲内であることで、優れた曲げ強さを発揮すると共に、熱伝導率などの他の特性の低下を抑制することができる。d90の下限値が上記範囲内であることでまた、窒化アルミニウム焼結板100の製造をより容易にすると共に、コストの上昇を抑制することができる。d90は上述の範囲内で調整してよく、例えば、4.0~15.0μm、又は5.0~15.0μmであってよい。
【0030】
本明細書におけるd50及びd90は、以下の方法で測定される値を意味する。まず、窒化アルミニウム焼結板100の厚み方向に水平な断面の走査型電子顕微鏡画像(2000倍で観察)を取得する。測定対象は窒化アルミニウム焼結板100の主面から厚み方向に50μmだけ掘り下げた位置とする。取得した画像における任意の位置において、50μm×50μmの領域を決定し、画像解析ソフトを用いて、窒化アルミニウム粒子の粒度分布を作成する。上述のようにして得られた、電子顕微鏡画像解析によって測定される粒子径の累積頻度分布曲線における小粒子径側からの累積頻度が50%となる粒子径及び90%となる粒子径をそれぞれ決定する。同画像において、上述と同様にして、5個の領域について粒子径を決定し、その算術平均値をそれぞれ窒化アルミニウムのd50及びd90とする。なお、窒化アルミニウム粒子の形状は通常一定でない。そこで、窒化アルミニウム粒子の粒径は、測定対象となる粒子の外周の最も離れた二点の距離とする。画像解析ソフトは、例えば、GNU GPLの下で配布されている「GIMP2」(商品名)又は「imageJ」(商品名)等を使用できる。
【0031】
窒化アルミニウム焼結板100の厚さの上限値は、例えば、1.0mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下、又は0.7mm以下であってよい。厚さの上限値が上記範囲内であることで、放熱シートの構成部材として用いた際の放熱性を向上し得る。窒化アルミニウム焼結板100の厚さの下限値は、例えば、0.15mm以上、又は0.20mm以上であってよい。厚さの下限値が上記範囲内であると、上記窒化アルミニウム焼結板を用いて調製される回路基板全体の放熱特性及び熱抵抗率が向上させることができる。窒化アルミニウム焼結板100の厚さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.20~1.0mmであってよい。
【0032】
上記窒化アルミニウム焼結板100は曲げ強さに優れる。上記窒化アルミニウム焼結板100の曲げ強さは、例えば、370MPa以上、390MPa以上、400MPa以上、450MPa以上、又は500MPa以上とすることができる。本明細書における曲げ強さは、JIS C 2141:1992「電気絶縁用セラミック材料試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値を意味する。具体的には、本明細書の実施例に記載の方法に沿って測定する。
【0033】
上記窒化アルミニウム焼結板100は組織が均一であることから、上述の曲げ強さの分布も十分抑制されている。上記窒化アルミニウム焼結板100は、その曲げ強さに対するワイブル統計による解析において、ワイブル係数が比較的大きなものとなっている。上記窒化アルミニウム焼結板100の曲げ強さに対する上記ワイブル係数は、例えば、10.0以上、12.0以上。13.0以上、14.0以上、15.0以上、又は16.0以上とすることもできる。
【0034】
ワイブル統計は、曲げ強さの分布を評価するために用いられる。窒化アルミニウム焼結板100について、縦軸に破壊確率F(σ)、横軸に曲げ強さσ(破壊時強度、抗折強度)を取ったワイブルプロットを作成した場合の、傾きmがワイブル係数である。ワイブル係数が大きいことは、曲げ強さの分布が狭く、正規分布に近くなることを意味する。ワイブルプロットにおける破壊確率F(σ)は、下記式(1)で与えられる。
F(σ)=1-exp[-(σ/η)]・・・(1)
上記式(1)中、ηはフィッティングパラメータである。
【0035】
上述の窒化アルミニウム焼結体は、例えば、以下のような方法で製造することができる。窒化アルミニウム焼結体の製造方法の一実施形態は、窒化アルミニウム及び焼結助剤を含む混合物で構成される成形体を1~6時間焼成して焼結体を得る焼成工程と、上記焼結体を1400℃以上1700℃未満の温度で1時間以上加熱処理することでアニール処理物を得る工程(以下、アニール工程ともいう)と、上記アニール処理物の表面を研磨処理することで窒化アルミニウム焼結体を得る工程(以下、研磨工程ともいう)と、を有する。
【0036】
まず、原料を準備する。原料としては、例えば、窒化アルミニウム、焼結助剤、及び、必要に応じて添加剤を用いる。添加剤としては、バインダー、可塑剤、分散媒、及び離型剤等が挙げられる。バインダーとしては、例えば、可塑性又は界面活性効果を有するメチルセルロース系のもの、熱分解性に優れたアクリル酸エステル系のものが挙げられる。可塑剤としては、例えば、グリセリン等が挙げられる。分散媒としては、例えば、イオン交換水及びエタノール等が挙げられる。
【0037】
窒化アルミニウムは、特に限定されるものではなく、金属アルミニウムを窒素雰囲気下で窒化する直接窒化法、及び、酸化アルミニウムをカーボンで還元する還元窒化法等、公知の方法で製造された窒化アルミニウム粉末を使用できる。
【0038】
上記焼結助剤は酸化イットリウム及び酸化アルミニウムを含有する。焼結助剤は粒状物であってよい。酸化イットリウムに対する酸化アルミニウムの質量比(酸化アルミニウムの含有量/酸化イットリウムの含有量の値)は、0.5未満である。これによって、窒化アルミニウム焼結板における酸化物の凝集を抑制することができる。酸化イットリウム及び酸化アルミニウムの配合割合は上述の範囲内で調整することができ、これによって窒化アルミニウム焼結板における酸化物の組成を調整することもできる。酸化アルミニウム及び酸化イットリウムは、焼結の際に、複合酸化物の液相を形成して焼結を促進する。これによって、窒化アルミニウム焼結板が十分に緻密化させることができる。
【0039】
上記焼結助剤の含有量は、窒化アルミニウム100質量部に対して、例えば、1~10.0質量部であってよい。焼結剤の含有量を上記範囲内とすることで、得られる窒化アルミニウム焼結体の密度を向上させ、曲げ強さをより向上させることができる。焼結助剤の含有量を上記範囲内とすることでまた、得られる窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率を向上させることができる。上記焼結助剤の含有量は焼結助剤の酸化物換算量で計算した値である。
【0040】
また、酸化アルミニウムの含有量は、窒化アルミニウム100質量部に対して、例えば、0.1~5.0質量部であってよい。酸化アルミニウムの含有量を0.1質量部以上とすることで、得られる窒化アルミニウム焼結体の密度をより向上させることができる。また酸化アルミニウムの含有量を5.0質量部以下とすることで、窒化アルミニウムの相対的な含有割合を増加させることができ、得られる窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率の低下をより抑制することができる。
【0041】
窒化アルミニウム、焼結助剤及び必要に応じて添加される添加剤は、配合して混合し、成形原料として用いてよい。成形原料をドクターブレード法等の公知の方法によって例えばシート状に成形してよい。得られた成形体の脱脂を行ってもよい。脱脂方法は特に限定されず、例えば、成形体を空気中又は窒素等の非酸化雰囲気中で300~700℃に加熱して行ってよい。加熱時間は、例えば1~10時間であってよい。
【0042】
窒化アルミニウム焼結体は、上述の成形体を焼成して得ることができる。焼成の工程(以下、焼成工程ともいう)は、不活性ガス雰囲気中で行ってよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素であってよい。焼成工程は、大気圧下で行ってもよい。
【0043】
焼成工程では、窒化アルミニウム及び焼結助剤を含む混合物で構成される成形体を1~6時間焼成して焼結体を得る(焼成時間が1~6時間である)。焼成工程は、1700℃以上1800℃未満の温度で1時以上加熱することによって、上記成形体から第一焼成体を得る工程(以下、第一焼成工程ともいう)と、1800~1900℃の温度で1時間以上加熱することによって、上記第一焼成体から上記焼結体を得る工程(以下、第二焼成工程ともいう)と、を含む。
【0044】
本明細書における焼成時間とは、上記成形体等の焼成対象物の置かれる雰囲気の温度が、上記焼成温度に到達してから、その温度に保持する時間を意味する。
【0045】
第一焼成工程の焼成温度は、焼結助剤の組成等によって選択することができ、例えば、1750℃以下、1730℃以下、又は1720℃以下であってよい。第一焼成工程の上記焼成温度に到達するまでの昇温速度は比較的大きくてよく、例えば、20℃/分以上、又は30℃/分以上であってよい。第一焼成工程で、好ましくは上記焼成温度に所定時間保持する。第一焼成工程における焼成時間は、例えば、1.0時間以上、2.0時間以上、又は2.5時間以上であってよい。
【0046】
第二焼成工程の焼成温度は、得られる焼結体の組織密度を向上させる観点から、例えば、1850℃未満、1840℃未満、又は1830℃以下であってよい。第二焼成工程の上記焼成温度に到達するまでの昇温速度は、例えば、0.5℃/分以上、又は1.0℃/分以上であってよい。第二焼成工程で、好ましくは上記焼成温度に所定時間保持する。第二焼成工程における焼成時間は、例えば、1.0時間以上、1.5時間以上、又は2.0時間以上であってよい。
【0047】
上記焼成工程の焼成時間は合計で6.0時間以下であるが、例えば、5.0時間以下、又は4.0時間以下であってよい。焼成時間の合計を上記範囲内とすることによって、上記成形体又は窒化アルミニウム焼結体の表層における焼結助剤が成形体又は窒化アルミニウム焼結板の外部へと抜けることを低減することができ、表面粗さを低減することができる。上記焼成工程の焼成時間は合計で、例えば、1.0時間以上、2.0時間以上、又は3.0時間以上であってよい。焼成時間の合計を上記範囲内とすることによって、焼結助剤を溶融させ、窒化アルミニウムの粒子の溶解を十分なものとし、より均一な環境で窒化アルミニウムの粒子の際成長を行うことができるため一層均一な粒度分布を有する窒化アルミニウム焼結体を調製することができる。上記焼成工程の焼成時間は上述の範囲内で調整でき、例えば、1.0~4.0時間であってよい。
【0048】
アニール工程は、焼成工程で得られた焼結体の主面上において、窒化アルミニウム結晶の粒子間に形成された焼結助剤に由来する複合化合物を改めて液相化することによって、微細な窒化アルミニウムの粒子を形成し、上記焼結体表面に発生した粒界や亀裂等の欠陥を修復し、また主面上における凹凸を軽減して、その上で続く研磨処理を行うことで、従来よりも主面における凹凸が軽減された窒化アルミニウム焼結体を調製できる。従来の窒化アルミニウム焼結体の製造方法においても研磨処理を行う場合はあるが、表面に窒化アルミニウムの粗大粒子が存在する等の事情によって、研磨前の凹凸が大きく研磨量を多くする必要がり、この過程で窒化アルミニウムの粗大粒子が表面から脱粒すると、大きな凹部が形成されるといった場合がある。これによって、従来の窒化アルミニウム焼結板の製造方法の場合、表面を平滑化するのは容易ではない。本開示の製造方法では、焼結工程において窒化アルミニウム粒子の粗大化を抑制し、均質化すると共に、アニール工程を介することによって、研磨量の増大を抑制し、更には脱粒の頻度を低下させることによって、より平滑で均質な主面を有する窒化アルミニウム焼結体を調製できる。
【0049】
アニール工程における加熱温度は、1400℃以上1700℃未満である。アニール工程における加熱温度は、例えば、1650℃以下、又は1600℃以下であってよい。加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、窒化アルミニウム粒子の粗大化を抑制しつつ、焼結体表面に窒化アルミニウムの微細な粒子を形成することができる。アニール工程における加熱温度の下限値は、例えば、1400℃以上であってよい。加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、焼結体表面における窒化アルミニウムの微細な粒子の形成を促進することができる。アニール工程における加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1400~1600℃であってよい。
【0050】
アニール工程における加熱時間は、1時間以上であるが、例えば、2時間以上であってよい。加熱時間の下限値を上記範囲内とすることで、液相反応を促進し、微細な窒化アルミニウムの粒子をより十分に析出させることができる。アニール工程における加熱時間の上限値は、例えば、6時間以下であってよい。加熱時間の上限値を上記範囲内とすることで、主面における窒化アルミニウム粒子の粗大化を抑制できる。アニール工程における加熱時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1~6時間であってよい。
【0051】
研磨工程は、例えば、ホーニング処理等によって行うことができる。ホーニング処理は、例えば、アニール処理物の表面を研磨圧力:0.15~0.35MPa、研磨量:2~10μm、時間:1~5分間の条件で行うことができる。
【0052】
上述の製造方法によって得られた窒化アルミニウム焼結板は、必要に応じて所望の形状に加工してもよい。窒化アルミニウム焼結体は、例えば、一対の主面を有する板状に加工され、窒化アルミニウム焼結板とされてもよい。窒化アルミニウム焼結体に金属回路又は金属板等の金属部を取り付けて基板としてもよい。基板は、例えば、窒化アルミニウム焼結板の主面と銅板等の金属板の主面とを接合した積層基板であってよい。また、金属板の一部をエッチング等によって除去して導体部となる回路パターンが形成された回路基板であってもよい。このように、本開示の基板は、積層基板であってよく、回路基板であってもよい。板状の場合、窒化アルミニウム焼結体の厚みの下限値は、例えば、0.10mm以上、0.20mm以上、又は0.25mm以上であってよい。板状の場合、窒化アルミニウム焼結体の厚みの上限値は、例えば、3.00mm以下、1.50mmm以下、又は1.00mm以下であってよい。窒化アルミニウム焼結体の厚みは上述の範囲内で調整することがき、例えば、0.10~3.00mm、又は0.25~1.00mmであってよい。窒化アルミニウム焼結体の厚みを上述の範囲内とすることで、回路基板全体の放熱特性及び熱抵抗率をより高水準で両立することができる。
【0053】
積層基板の一実施形態は、上述の窒化アルミニウム焼結板と、当該窒化アルミニウム焼結板に取り付けられている金属板と、を備える。図2は、積層基板の一例を示す斜視図である。積層基板200は、互いに対向するように配置された一対の金属板110と、一対の金属板110の間に窒化アルミニウム焼結板100と、を備える。金属板110としては、例えば、銅板等が挙げられる。窒化アルミニウム焼結板100と、金属板110の形状及びサイズは同じであってもよいし、異なっていてもよい。金属板110と窒化アルミニウム焼結板100は、例えば、ろう材によって接合されていてもよい。一対の金属板110の一方を放熱材とし、他方を回路パターンに加工してもよい。回路パターンは、レジストを用いて金属板110をエッチングして形成してもよい。これによって、漏れ電流等を十分に抑制することが可能な回路基板を形成したり、放熱基板を形成したりすることができる。
【0054】
回路基板の一実施形態は、上述の窒化アルミニウム焼結板と、当該窒化アルミニウム焼結板に取り付けられている導体部と、を備える。図3は、回路基板の一例を示す斜視図である。回路基板300は、窒化アルミニウム焼結板100と、複数の導体部20と、金属板110と、を備える。導体部20は、窒化アルミニウム焼結板100の一方の主面100A上に設けられ、金属板110は、窒化アルミニウム焼結板100の他方面に設けられる。回路基板300をパワーモジュールに用いた場合に、金属板110は、放熱材として機能してもよい。
【0055】
積層基板200及び回路基板300における窒化アルミニウム焼結板100は、電気絶縁性及び熱伝導性に優れる窒化アルミニウム焼結板で構成される。このため、パワーモジュール等の種々の製品に用いたときに優れた信頼性を有する。
【0056】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、本開示の基板の形状及び構造は、図2及び図3のものに限定されない。例えば、窒化アルミニウム焼結板100の両方の主面に、回路パターンが形成されていてもよい。また、導体部20は、金属板110をエッチングして形成することに代えて、金属粉末を溶射し熱処理することによって形成してもよい。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例
【0057】
以下、本開示について、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
(窒化アルミニウム焼結板の作製)
窒化アルミニウムの粉末100質量部にたいして、焼結助剤として酸化イットリウム粉末6.0質量部、及びα-酸化アルミニウム0.3質量部を配合し、ボールミルを用いて混合して混合粉末を得た。混合粉末100質量部に対し、セルロースエーテル系バインダー(信越化学工業株式会社製、商品名:メトローズ)を6質量部、グリセリン(花王株式会社製、商品名:エキセパール)を5質量部、及びイオン交換水を10質量部添加して、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合し、成形原料を得た。
【0059】
この成形原料を、スクリュー式押出成型機によって成形し、シート状の成形体(幅:80mm、厚み:0.8mm)を作製し、100℃で1時間乾燥した後、裁断して、縦:60mm×横:60mm形状の成形体を得た。この成形体に、離型剤として窒化ホウ素粉を塗布した後、複数の上記成形体を積層し、積層体の質量が95kgとなるよう調整した。得られた積層体を、空気中で、600℃で加熱して脱脂することによって、脱脂体を得た。
【0060】
次に、脱脂体を、加熱炉に入れて、窒素ガス雰囲気中で、大気圧下、20℃/分の昇温速度で25℃から1700℃まで昇温し、1700℃で2.5時間保持した(第一焼成工程)。次に、1℃/分の昇温速度で、1820℃まで昇温し、1820℃で2時間保持した(第二焼成工程)。その後、加熱を停止し、加熱炉内で放冷して、焼結体を得た。
【0061】
上記焼結体を、窒素ガス雰囲気中、1700℃で2時間、加熱処理することでアニール処理物を得た(アニール工程)。次に、上記アニール処理物の表面を研磨圧力:0.15~0.35MPa、研磨量:2~10μm、時間:1~5分間の条件で、ホーニング処理することによって、厚さ:0.635mmの窒化アルミニウム焼結板を得た(研磨工程)。なお、参考のために、アニール処理物の主面、及び窒化アルミニウム焼結板の主面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって取得したSEM画像を図4に示す。図4中、(a)はアニール処理物の主面を示し、(b)は窒化アルミニウム焼結板の主面を示す。図4の(a)に示されるとおり、アニール処理物には表面上に窒化アルミニウムの微細な粒子が形成されていることが確認できる。また、図4の(b)に示されるとおり、研磨後の窒化アルミニウム焼結板の主面には、目立った脱粒箇所等が観察されなかった。
【0062】
<窒化アルミニウム焼結板に対するヒートサイクル試験>
得られた窒化アルミニウム焼結板(厚み:0.635mm)について、ヒートサイクル試験を行った。具体的には、まず、銀(Ag)、銅(Cu)及び活性金属を含むろう材(Agが90質量部、Cuが10質量部、Snが3質量部、及びTiが3.5質量部である組成を有するろう材)を介して、ろう材層の厚みが15μmになるように、上記窒化アルミニウム焼結板に銅板(厚み:0.3mm)を、接合温度:830℃、接合時間:1時間、真空度:1×10-3Paの条件で接合することによって窒化アルミニウム基板(積層体)を調製した。得られた積層体について、350℃の環境に5分間曝した後に、25℃の環境で5分間冷却した。上記前処理をなった積層体を、まずドライアイス中(-78℃)の環境に5分間曝した後に、室温(25℃)に戻す操作を1サイクルとして、これを10サイクル実施するヒートサイクル試験を行った。試験後の窒化アルミニウム基板に対して、塩化銅水溶液、フッ化アンモニウム、及び過酸化水素によってエッチングすることで、上記積層体から、金属板及びろう材を除去し、窒化アルミニウム焼結板を取り出した。得られた窒化アルミニウム焼結板の上記銅板が積層されていた側の主面の画像をスキャナで、600dpi×600dpiの解像度で取り込んだ。取得画像に対して、画像解析ソフト「GIMP2」で二値化(閾値:140)した後、窒化アルミニウム焼結板の主面に水平方向に向かって発生したクラックの面積を、窒化アルミニウム焼結板の主面の面積(全面積)で除すことで、クラックの率を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
<窒化アルミニウム焼結板の物性測定>
得られた窒化アルミニウム焼結板について、窒化アルミニウム(AlN)粒子のd50(平均粒子径)及びd90、並びに、主面における算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRyを測定した。結果を表1に示す。
【0064】
<窒化アルミニウム焼結板の評価>
得られた窒化アルミニウム焼結板の曲げ強さ及び曲げ強さの分布(ワイブル係数)を測定した。窒化アルミニウム焼結板の曲げ強さは、JIS C 2141:1992「電気絶縁用セラミック材料試験方法」に記載の方法に準拠して測定した。また、得られた曲げ強さの結果に基づいてワイブルプロットを作成し、ワイブル係数を決定した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
アニール工程におけるアニール温度を1400℃とし、アニール時間を1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結板を調製した。
【0066】
(実施例3)
アニール工程におけるアニール時間を6時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結板を調製した。
【0067】
(実施例4)
アニール工程におけるアニール温度を1500℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結板を調製した。
【0068】
(比較例1)
アニール工程におけるアニール温度を1800℃に変更し、アニール時間を8時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結板を得た。なお、参考のために、研磨処理前の焼結体の主面、及び窒化アルミニウム焼結板の主面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって取得したSEM画像を図5に示す。図5中、(a)は研磨処理前の焼結体の主面を示し、(b)は窒化アルミニウム焼結板の主面を示す。図5の(a)及び(b)から確認されるように、研磨後の窒化アルミニウム焼結板の主面に、窒化アルミニウム粒子の脱粒によって形成された凹部が観察されている。
【0069】
(比較例2)
アニール工程を実施しなかったこと以外は、比較例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結板を調製した。
【0070】
(比較例3)
アニール工程におけるアニール時間を2時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結板を調製した。
【0071】
<窒化アルミニウム焼結板に対するヒートサイクル試験>
実施例2~4、及び比較例1~3で得られた窒化アルミニウム焼結板のそれぞれについて、実施例1と同様にして、ヒートサイクル試験を行った。結果を表1に示す。
【0072】
<窒化アルミニウム焼結板の物性測定>
実施例2~4、及び比較例1~3で得られた窒化アルミニウム焼結板のそれぞれについて、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム(AlN)粒子のd50(平均粒子径)及びd90、並びに、主面における算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRyを測定した。結果を表1に示す。
【0073】
<窒化アルミニウム焼結板の評価>
実施例2~4、及び比較例1~3で得られた窒化アルミニウム焼結板のそれぞれについて、実施例1と同様にして、窒化アルミニウム焼結板の曲げ強さ及び曲げ強さの分布(ワイブル係数)を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本開示によれば、曲げ強さに優れる窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上記窒化アルミニウム焼結体を備え、接続信頼性に優れる積層基板及び回路基板を提供できる。
【符号の説明】
【0076】
20…導体部、100…窒化アルミニウム焼結板、110…金属板、200…積層基板、300…回路基板。
図1
図2
図3
図4
図5