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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】繊維用サイジング剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/148 20060101AFI20240201BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240201BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
D06M13/148
D06M15/227
D06M15/263
D06M15/507
D06M15/53
D06M15/55
D06M15/564
D06M15/643
D06M15/693
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023566915
(86)(22)【出願日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2023023691
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2022133901
(32)【優先日】2022-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌彦
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-084116(JP,A)
【文献】特開2013-129946(JP,A)
【文献】特開2007-063739(JP,A)
【文献】国際公開第2022/209895(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 13/535
D06M 15/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)を含有する繊維用サイジング剤であって、
前記化合物(A)が、熱硬化性樹脂(A1)、熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(A)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(A))が0.0005~0.13であり、
前記熱硬化性樹脂(A1)が、エポキシ樹脂(A1-1)、ビニルエステル樹脂(A1-2)及び不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂(A2)が、芳香族系ポリウレタン樹脂(A2-1)、飽和ポリエステル樹脂(A2-2)及びポリオレフィン樹脂(A2-3)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ゴム(A3)が、シリコーンゴム(A3-1)及びジエン系ゴム(A3-2)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記エポキシ樹脂(A1-1)が芳香族エポキシ樹脂である、繊維用サイジング剤。
【請求項2】
化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)を含有する繊維用サイジング剤であって、
前記化合物(A)が、熱硬化性樹脂(A1)、熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記化合物(A)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(A))が0.0005~0.13であり、
非イオン性化合物(C)をさらに含有し、前記非イオン性化合物(C)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(C))が0.001~0.5である、繊維用サイジング剤。
【請求項3】
非イオン性化合物(C)をさらに含有し、前記非イオン性化合物(C)の重量平均分子量が1000~20000である、請求項に記載の繊維用サイジング剤。
【請求項4】
前記アセチレン系化合物(B)が、アセチレンアルコール(B1)、アセチレンジオール(B2)、アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)及びアセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の繊維用サイジング剤。
【請求項5】
前記アセチレンアルコール(B1)が下記一般式(1)で表される化合物であり、前記アセチレンジオール(B2)が下記一般式(2)で表される化合物であり、前記アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)が下記一般式(3)で表される化合物であり、前記アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)が下記一般式(4)で表される化合物である、請求項に記載の繊維用サイジング剤。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。)
【化2】
(式(2)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。)
【化3】
(式(3)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。Rは水素原子、または炭素数1~5のアルキル基である。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を示す。nは1~50の数である。)
【化4】
(式(4)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。Rは水素原子、または炭素数1~5のアルキル基である。なお、式(4)における複数のRは、同一であってもよく異なっていてもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を示す。m、nはそれぞれ独立して1~50の数である。)
【請求項6】
繊維ストランドに対して、請求項1~のいずれかに記載の繊維用サイジング剤を付着させた、サイジング剤付着繊維ストランド。
【請求項7】
マトリックス樹脂と、請求項に記載のサイジング剤付着繊維ストランドとを含む、繊維強化複合材料。
【請求項8】
前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用サイジング剤及びその用途に関する。詳細には、繊維用サイジング剤、これを用いた繊維ストランド及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途、航空・宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途等に、プラスチック材料(マトリックス樹脂と称される)を各種合成繊維で補強した繊維強化複合材料が幅広く利用されている。これらの複合材料に使用される繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。これら各種合成繊維は通常、フィラメント形状で製造され、その後ホットメルト法やドラムワインディング法等により一方向プリプレグと呼ばれるシート状の中間材料に加工されたり、フィラメントワインディング法によって加工されたり、場合によっては織物又はチョップドファイバー形状に加工されたりする等、各種高次加工工程を経て、例えば強化繊維として使用されている。
【0003】
繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が広く使用されている。エポキシ樹脂以外にもラジカル重合系のマトリックス樹脂として不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂等が使用されている。
繊維強化複合材料の機械強度を向上させるためには、マトリックス樹脂と繊維の濡れ性や接着性が重要となり、上記のエポキシ樹脂、ラジカル重合系のマトリックス樹脂に対して、繊維の濡れ性や接着性が向上するサイジング剤(例えば、特許文献1、2等)が提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載のサイジング剤は、繊維とエポキシ樹脂やラジカル重合系のマトリックス樹脂の濡れ性や接着性はそれぞれ向上するものの、両立させることは難しく、工程通過性や最終的な複合材料の物性を満足させることはできなかった。また、繊維によっては、伸度が小さく、且つ脆い性質を有するものもある。従来のサイジング剤が付与されたこれらの繊維は、加工工程における機械的摩擦等が発生し、毛羽発生や繊維切断、集束性不足などの問題が起こることがあった。
よって、繊維強化複合材料の分野において、繊維とマトリックス樹脂との濡れ性を高めて、強固に接着させることができ、繊維ストランドの毛羽抑制、集束性向上を可能とし、さらには長期保管安定性に優れたサイジング剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開昭53-52796号公報
【文献】日本国特開平06-173170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる従来の技術背景に鑑み、本発明の目的は、繊維ストランドに対するマトリックス樹脂の濡れ性を向上させる繊維用サイジング剤、それを用いた繊維ストランド及び繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の化合物(A)及び特定の化合物(B)を特定の比率で含む繊維用サイジング剤であれば、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明の繊維用サイジング剤は以下の実施態様が含まれる。
<1>化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)を含有する繊維用サイジング剤であって、前記化合物(A)が、熱硬化性樹脂(A1)、熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種であり、前記化合物(A)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(A))が0.0005~0.13である、繊維用サイジング剤。
【0008】
<2>前記熱硬化性樹脂(A1)が、エポキシ樹脂(A1-1)、ビニルエステル樹脂(A1-2)及び不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)から選ばれる少なくとも1種であり、前記熱可塑性樹脂(A2)が、芳香族系ポリウレタン樹脂(A2-1)、飽和ポリエステル樹脂(A2-2)及びポリオレフィン樹脂(A2-3)から選ばれる少なくとも1種であり、前記ゴム(A3)が、シリコーンゴム(A3-1)及びジエン系ゴム(A3-2)から選ばれる少なくとも1種である、前記<1>に記載の繊維用サイジング剤。
<3>非イオン性化合物(C)をさらに含有し、前記非イオン性化合物(C)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(C))が0.001~0.5である、前記<1>又は<2>に記載の繊維用サイジング剤。
<4>前記非イオン性化合物(C)の重量平均分子量が1000~20000である、前記<3>に記載の繊維用サイジング剤。
<5>前記アセチレン系化合物(B)が、アセチレンアルコール(B1)、アセチレンジオール(B2)、アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)及びアセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)から選ばれる少なくとも1種である、前記<1>~<4>のいずれかに記載の繊維用サイジング剤。
<6>前記アセチレンアルコール(B1)が下記一般式(1)で表される化合物であり、前記アセチレンジオール(B2)が下記一般式(2)で表される化合物であり、前記アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)が下記一般式(3)で表される化合物であり、前記アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)が下記一般式(4)で表される化合物である、前記<5>に記載の繊維用サイジング剤。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。)
【化2】
(式(2)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。)
【化3】
(式(3)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。Rは水素原子、または炭素数1~5のアルキル基である。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を示す。nは1~50の数である。)
【化4】
(式(4)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。Rは水素原子、または炭素数1~5のアルキル基である。なお、式(4)における複数のRは、同一であってもよく異なっていてもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を示す。m、nはそれぞれ独立して1~50の数である。)
<7>繊維ストランドに対して、前記<1>~<6>のいずれかに記載の繊維用サイジング剤を付着させた、サイジング剤付着繊維ストランド。
<8>マトリックス樹脂と、前記<7>に記載のサイジング剤付着繊維ストランドとを含む、繊維強化複合材料。
<9>前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれる少なくとも1種である、前記<8>に記載の繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維用サイジング剤は、繊維に対してサイジング剤を均一に付与できる。また、繊維に対してマトリックス樹脂との優れた濡れ性と接着性を付与できる。さらには、繊維の毛羽抑制、高い集束性を付与できる。本発明の繊維ストランドを使用することにより、優れた物性を有する繊維強化複合材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維用サイジング剤の各成分について詳細に説明する。
〔化合物(A)〕
本発明の繊維用サイジング剤は、化合物(A)を含む。化合物(A)は、熱硬化性樹脂(A1)、熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種である。化合物(A)は、1種でもよく2種以上を併用しても良い。
本発明の繊維用サイジング剤が硬化性樹脂(A1)、熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種を含むことでマトリックス樹脂の濡れ性が向上する要因は、化合物(A)が繊維表面を均一に覆うことで繊維表面全体に適度な極性を付与させ、マトリックス樹脂との親和性を向上させているためと考えている。
【0011】
熱硬化性樹脂(A1)としては、本願効果を奏する点でエポキシ樹脂(A1-1)、ビニルエステル樹脂(A1-2)、不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)及びフェノール樹脂(A1-4)等が挙げられ、これらの中でもエポキシ樹脂(A1-1)、ビニルエステル樹脂(A1-2)及び不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、エポキシ樹脂(A1-1)及び不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)から選ばれる少なくとも1種であると本願効果をより奏する点でより好ましい。これらの樹脂は1種でもよく2種以上を併用しても良い。
【0012】
熱可塑性樹脂(A2)としては、本願効果を奏する点で芳香族系ポリウレタン樹脂(A2-1)、飽和ポリエステル樹脂(A2-2)及びポリオレフィン樹脂(A2-3)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、芳香族系ポリウレタン樹脂(A2-1)、飽和ポリエステル樹脂(A2-2)及びポリオレフィン樹脂(A2-3)から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、飽和ポリエステル樹脂(A2-2)及びポリオレフィン樹脂(A2-3)から選ばれる少なくとも1種が本願効果をより奏する点でさらに好ましい。これらの樹脂は2種以上を併用しても良い。
【0013】
ゴム(A3)としては、本願効果を奏する点でシリコーンゴム(A3-1)及びジエン系ゴム(A3-2)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、これらの中でもジエン系ゴム(A3-2)であると本願効果をより奏する点でより好ましい。これらの樹脂は2種以上を併用しても良い。
【0014】
〔エポキシ樹脂(A1-1)〕
エポキシ樹脂(A1-1)とは、分子構造内に反応性のエポキシ基を2個以上有する化合物である。エポキシ樹脂としては、エピクロルヒドリンと活性水素化合物から得られるグリシジルエーテル型が代表的であり、その他にグリシジルエステル型、グリシジルアミン型、脂環型等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
エポキシ樹脂(A1-1)のエポキシ当量は、100~1500g/eqが好ましい。エポキシ当量が前記範囲内であると、繊維ストランドの経時変化の抑制と、マトリックス樹脂との接着性とを両立できる。該エポキシ当量の上限は、より好ましくは1000g/eq、さらに好ましくは800g/eq、特に好ましくは700g/eqである。一方、該エポキシ当量の下限は、より好ましくは120g/eq、さらに好ましくは150g/eq、特に好ましくは170g/eqである。また、例えば、120g/eq~1000g/eqがより好ましく、150g/eq~800g/eqがさらに好ましく、170g/eq~700g/eqが特に好ましい。なお、エポキシ当量とは、JIS-K7236に準拠したものをいう。
【0016】
エポキシ樹脂(A1-1)の重量平均分子量は、耐熱性が良好となる点で、100~10000が好ましい。該平均分子量の下限は、より好ましくは150、さらに好ましくは200である。一方、該平均分子量の上限は、より好ましくは8000、さらに好ましくは7000である。また、例えば150~8000がより好ましく、200~7000がさらに好ましい。該重量平均分子量は実施例に記載の方法によるものである。
【0017】
エポキシ樹脂(A1-1)は、マトリックス樹脂の濡れ性が向上する観点から、分子構造中に芳香環を有する芳香族エポキシ樹脂が好ましい。
上記の芳香族エポキシ樹脂としては、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコールなどの単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、レゾルシンノボラック、ビスフェノールFノボラック、ビスフェノールAノボラック、ジシクロペンタジエン変性フェノール、トリフェニルメタン、テトラフェニルエタンなどの多核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0018】
これら芳香族エポキシ樹脂の中でも、下記一般式(5)で示される化合物であると、本願効果の観点から、好ましい。
【化5】
(式(5)中、R、R、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。)
pは0~30の整数であり、マトリックス樹脂の濡れ性が向上する観点から、0~20が好ましく、0~10がさらに好ましい。
【0019】
上述のエポキシ樹脂(A1-1)の製造方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用できる。また、上述のエポキシ樹脂は、一般に市販されているものであり、本発明の炭素繊維用サイジング剤では、それら市販のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0020】
〔ビニルエステル樹脂(A1-2)〕
ビニルエステル樹脂(A1-2)は、ビニルエステル基、アクリレート基及びメタクリレート基から選ばれる少なくとも1種を有する化合物である。ビニルエステル樹脂(A1-2)は、1種又は2種以上を使用してもよい。なお、ビニルエステル基は「CH2=CHOCO-」で表される基を示し、アクリレート基は「CH2=CHCOO-」で表される基を示し、メタクリレート基は「CH2=CCH3COO-」で表される基を示すものとする。
【0021】
ビニルエステル樹脂(A1-2)としては、たとえば、アルキル(メタ)アクリル酸エステル、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、ベンジル(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリル酸エステル、グリシジル(メタ)アクリレート、2-メタクリロイロキシエチル2-ヒドロキシプロピルフタレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、2-ヒドロキシ-3フェノキシプロパノール(メタ)アクリル酸エステル、ポリアルキレングリコールノニルフェニルエーテル(メタ)アクリル酸エステル、2-(メタ)アクリロイルキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、アルキレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマーなどが挙げられる。
【0022】
これらの中でも、ビニルエステル樹脂(A1-2)としては、マトリックス樹脂との接着性が優れる点で、オキシアルキレン基及びアリール基から選ばれる少なくとも1種を有すると好ましく、アリール基を含むとより好ましい。具体的には、2-メタクリロイロキシエチル2-ヒドロキシプロピルフタレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物が好ましく、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物がさらに好ましく、ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールA(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物、アルキレンオキサイド付加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸付加物が特に好ましい。
【0023】
〔不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)〕
不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)としては、炭素-炭素二重結合を有するポリエステル樹脂であって、前記ビニルエステル樹脂(A1-2)以外の樹脂であれば特に限定はないが、例えば、α,β-不飽和ジカルボン酸を含む酸成分とアルコールとを反応させて得られる不飽和ポリエステルを挙げることができる。α,β-不飽和ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等及びこれらの酸無水物等の誘導体等を挙げることができ、これらは2種以上を併用してもよい。また、必要に応じてα,β-不飽和ジカルボン酸以外の酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和ジカルボン酸及びこれらの酸無水物等の誘導体をα,β-不飽和ジカルボン酸と併用してもよい。アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の脂肪族グリコール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド(1~100モル)付加物、キシレングリコール等の芳香族ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等を挙げることができ、これらの2種以上を併用してもよい。
【0024】
不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)の中でも、マトリックス樹脂との接着性が優れるため、芳香族系不飽和ポリエステル樹脂であると好ましい。芳香族系不飽和ポリエステル樹脂の中でも、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、EOと略す)付加物との縮合物、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと略す。)付加物との縮合物、並びに、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのEO及びPO付加物(EO及びPOの付加は、ランダムでもブロックでもよい)との縮合物がより好ましい。
【0025】
不飽和ポリエステル樹脂(A1-3)の重量平均分子量は、耐熱性が良好となる点で1000~12000が好ましい。該重量平均分子量の上限は、8000がより好ましく、7000がさらに好ましい。一方、該重量平均分子量の下限は、1500がより好ましく、2000がさらに好ましい。また、例えば1500~8000がより好ましく、2000~7000がさらに好ましい。酸価は5以下が好ましい。該重量平均分子量は実施例に記載の方法によるものである。
【0026】
〔フェノール樹脂(A1-4)〕
フェノール樹脂としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、t-ブチルフェノール、ノニルフェノール、カシュー油、リグニン、レゾルシン、カテコール等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類との縮合により得られる樹脂を挙げることができ、ノボラック樹脂やレゾール樹脂等を挙げることができる。ノボラック樹脂は、シュウ酸等の酸触媒存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はフェノール過剰の条件で反応させることで得られる。レゾール樹脂は、水酸化ナトリウム、アンモニア又は有機アミン等の塩基触媒の存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はホルムアルデヒド過剰の条件で反応させることにより得られる。
【0027】
〔芳香族系ポリウレタン樹脂(A2-1)〕
芳香族系ポリウレタン系樹脂(A2-1)は、ポリイソシアネート類とポリオール類と、必要により鎖伸長剤との反応により得ることができるものであり、ポリイソシアネート類及びポリオール類のうち少なくとも1つが芳香族系化合物を含むものである。
【0028】
ポリイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート類、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート類等を挙げることができる。ポリイソシアネート類としては、アルキル基(例えば、メチル基)が主鎖又は環に置換した化合物を使用してもよい。
【0029】
ポリオール類としては、例えば、ポリエステルジオール(フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数4~12脂肪族ジカルボン酸成分;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、無水フタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等のC2-12脂肪族ジオール成分;ε-カプロラクトン等の炭素数4~12ラクトン成分等から得られるポリエステルジオール等)、ポリエーテルジオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノールA-アルキレンオキサイド付加物等)、ポリエステルエーテルジオール(ジオール成分の一部として上記ポリエーテルジオールを用いたポリエステルジオール)等を挙げることができる。
【0030】
さらに、鎖伸長剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの炭素数2~10アルキレンジオールの他、ジアミン類等を挙げることができる。ジアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンなどの炭素数2~10程度の直鎖又は分岐鎖状アルキレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミンなどの直鎖又は分岐鎖状ポリアルキレンポリアミン等の脂肪族ジアミン類;イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジアミン類;フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミン類等を挙げることができる。
【0031】
芳香族系ポリウレタン樹脂(A2-1)の中でも、耐熱性とマトリックス樹脂との接着性を両立できるため、芳香族ポリエステル系ポリウレタン樹脂であるとさらに好ましい。
【0032】
〔飽和ポリエステル樹脂(A2-2)〕
飽和ポリエステル樹脂(A2-2)としては、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等を挙げることができる。飽和ポリエステル樹脂としては、耐熱性とマトリックス樹脂との接着性を両立できるため、ポリアルキレンアリレート樹脂又は芳香族ポリエステル樹脂が好ましく、芳香族ポリエステル樹脂がより好ましい。
芳香族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリ炭素数2~4アルキレンテレフタレート;このポリアルキレンテレフタレートに対応するポリ炭素数2~4アルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレートなど);1,4-シクロへキシルジメチレンテレフタレート(PCT))等を挙げることができる。芳香族ポリエステル樹脂は、アルキレンアリレート単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステルであってもよく、共重合成分には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどの炭素数2~6アルキレングリコール、ポリオキシ炭素数2~4アルキレングリコール、フタル酸、イソフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸等を挙げることができる。さらに、少量のポリオール及び/又はポリカルボン酸を用い、線状ポリエステルに分岐鎖構造を導入してもよい。
【0033】
さらに、変性化合物で変性した変性ポリエステル系樹脂(例えば、アミノ基及びオキシアルキレン基から選択された少なくとも一種を有する芳香族ポリエステル樹脂)を用いてもよい。変性化合物としては、ポリアミン類(エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタンなどの炭素数2~10程度の直鎖又は分岐鎖状アルキレンジアミン等の脂肪族ジアミン類;イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジアミン類;例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミン類;等)、ポリオール類(例えば、(ポリ)オキシエチレングリコール、(ポリ)オキシトリメチレングリコール、(ポリ)オキシプロピレングリコール、(ポリ)オキシテトラメチレングリコール等の(ポリ)オキシ炭素数2~4アルキレングリコール類等)等を挙げることができる。変性は、例えば、ポリエステル樹脂と変性化合物とを加熱混合し、アミド化、エステル化又はエステル交換反応を利用して行うことができる。
【0034】
飽和ポリエステル樹脂(A2-2)の重量平均分子量は、耐熱性が良好となる点で3000~20000が好ましい。該重量平均分子量の上限は、19000がより好ましく、18000がさらに好ましい。一方、該重量平均分子量の下限は、6000がより好ましく、7000がさらに好ましい。また、例えば6000~19000がより好ましく、7000~18000がさらに好ましい。該重量平均分子量は実施例に記載の方法によるものである。
【0035】
〔ポリオレフィン樹脂(A2-3)〕
ポリオレフィン樹脂(A2-3)としては、例えば、オレフィン系モノマーと、オレフィン系モノマーと共重合可能な不飽和カルボン酸などのモノマーとの共重合体が挙げられ、公知の方法で製造できる。ポリオレフィン樹脂は、オレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、オレフィン系モノマーに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。ポリオレフィン樹脂は1種又は2種以上を用いてもよい。
【0036】
オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどが挙げられる。これらは単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
上記のオレフィン系モノマーと、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合比率としては、マトリックス樹脂との接着性が良くなる点で、共重合体の合計重量を100重量%として、オレフィン系モノマー80~99.5重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー0.5~20重量%であることが好ましく、オレフィン系モノマー90~99重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー1~10重量%であることがさらに好ましく、オレフィン系モノマー95~98重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー2~5重量%であることが特に好ましい。
【0038】
なお、ポリオレフィン樹脂(A2-3)は、乳化物の保管安定性が良くなる点で、共重合により導入したカルボキシル基などの変性基が、塩基性化合物で中和されていることが好ましい。塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属塩;アンモニア;ラウリルアミン、エチレンジアミン、トリメチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、モノブタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。これらの中でもアミン類がさらに好ましく、ジエタノールアミンが特に好ましい。
【0039】
ポリオレフィン樹脂(A2-3)の重量平均分子量としては、耐熱性が良好となる点で5000~200000が好ましい。該重量平均分子量の上限は、150000がより好ましく、130000がさらに好ましい。一方、該重量平均分子量の下限は、6000がより好ましく、7000がさらに好ましい。また、例えば6000~150000がより好ましく、7000~130000がさらに好ましい。該重量平均分子量は実施例に記載の方法によるものである。
【0040】
〔シリコーンゴム(A3-1)〕
シリコーンゴムとしては、例えば付加型シリコーン樹脂、自己架橋型シリコーン樹脂、シリコーンゴム皮膜形成型シリコーン樹脂成分、およびシリコーンゴムパウダーが挙げられ、加熱や反応等により皮膜を形成するものであると好ましい。シリコーンゴムは1種または2種以上を用いても良い。
付加型シリコーン樹脂としては、例えば、室温硬化型シリコーンゴム(RTVシリコーンゴム)、低温硬化型シリコーンゴム(LTVシリコーンゴム)、反応性シリコーンを乳化剤で乳化したO/W型エマルジョンのシリコーン樹脂成分などが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより発現させるためには、室温硬化型シリコーンゴム(RTVシリコーンゴム)又は反応性シリコーンを乳化したシリコーン樹脂の水分散体であると好ましく、該水分散体を乾燥させることによりシリコーンゴム皮膜を形成できるものであるとさらに好ましい。
【0041】
〔ジエン系ゴム(A3-2)〕
ジエン系ゴム(A3-2)としては、共役ジエン構造を有する重合性単量体を構成単位として含む重合体であれば、特に限定されず、共役ジエン構造を有する重合性単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。
【0042】
ジエン系ゴム(A3-1)の具体例としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-イソプレン共重合体、メタアクリロニトリル-ブタジエン共重合体、メタクリロニトリル-イソプレン共重合体、メタクリロニトリル-ブタジエン-イソプレン共重合体、アタクリロニトリル-メタクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリル酸共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリル酸n-ブチル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-アクリル酸n-ブチル-イタコン酸モノn-ブチル共重合体などが挙げられる。なかでも、耐熱性に優れる点で、スチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ジエン系ゴムは水分散体を使用してもよく、該水分散体を乾燥させることにより皮膜を形成できるものであってもよい。
【0043】
〔アセチレン系化合物(B)〕
本発明の炭素繊維用サイジング剤は、アセチレン系化合物(B)を含む。化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)を併用することにより、表面張力を下げ、またマトリックス樹脂と繊維表面との親和性が高まることでマトリックス樹脂の濡れ性を向上させることができると推測する。
アセチレン系化合物(B)を使用せずに、他の界面活性剤のみを用いた場合、化合物(A)のみを用いた場合であっても、表面張力を下げる効果はあるが、マトリックス樹脂と繊維表面との親和性が不十分であるため、マトリックス樹脂の濡れ性は十分ではないと推測する。
なお、アセチレン系化合物とは、分子構造中にアセチレン基と水酸基等の親水基を有する化合物をいう。アセチレン系化合物(B)は一種単独でもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
アセチレン系化合物(B)は、アセチレン系界面活性剤であると好ましく、アセチレンアルコール(B1)、アセチレンジオール(B2)、アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)及びアセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)から選ばれた少なくとも1種であるとより好ましい。これらの中でも、アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)及びアセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)が好ましく、アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)がさらに好ましい。
【0045】
アセチレンアルコール(B1)とは、分子構造中にアセチレン基と、1つの水酸基を有する化合物である。
アセチレンアルコール(B1)は、上記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0046】
アセチレンジオール(B2)とは、分子構造中にアセチレン基と、2つの水酸基を有する化合物である。
アセチレンジオール(B2)は、上記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0047】
アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)とは、アセチレンアルコールの水酸基にアルキレンオキサイドを付加させた化合物である。
アセチレンアルコールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B3)とは、上記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0048】
アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)とは、アセチレンジオールの水酸基の少なくとも1つにアルキレンオキサイドを付加させた化合物である。
アセチレンジオールにアルキレンオキサイドを付加した化合物(B4)は、上記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0049】
式(1)及び式(3)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。当該アルキル基は直鎖でもよく、分岐構造を有していてもよい。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~7、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~5である。
式(2)及び式(4)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~8のアルキル基である。当該アルキル基は直鎖でもよく、分岐構造を有していてもよい。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~7、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~5である。
【0050】
式(3)及び式(4)中、Rは水素原子、または炭素数1~5のアルキル基である。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。
式(3)及び式(4)中、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を示す。つまり、オキシエチレン基、オキシプロピレン基又はオキシブチレン基を示す。オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましく、オキシエチレン基がさらに好ましい。(AO)又は(AO)を構成するAOは、1種でもよく、2種以上であってもよい。2種以上の場合、ブロック付加体、交互付加体、ランダム付加体のいずれであってもよい。
【0051】
式(3)中、nは1~50の数である。nは1~45が好ましく、1~40がより好ましく、1~35がさらに好ましい。
式(4)中、m、nはそれぞれ独立して1~50の数である。m、nは、それぞれ独立して、1~45が好ましく、1~40がより好ましく、1~35がさらに好ましい。
【0052】
アセチレン系化合物(B)のHLBは、乳化性の点から、4~25が好ましい。該HLBの上限は、より好ましくは20、さらに好ましくは18である。一方、該HLBの下限は、より好ましくは5、さらに好ましくは6である。本発明におけるHLBは、Griffinらが提唱したアトラス法により、実験的に求めることができる。
【0053】
アセチレン系化合物(B)は、公知の化合物であり、公知の方法により容易に製造することができる。例えば、このような化合物は、レッペ反応と呼ばれる、加圧下で、アセチレンにケトン又はアルデヒドを、アルカリや金属化合物などの触媒の存在下で反応させる方法により得ることができる。
また、上記の化合物(B3)又は化合物(B4)は、それぞれ、アセチレンアルコール(B1)又はアセチレンジオール(B2)にアルキレンオキサイド(例えばエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド)をアルカリや金属化合物などの触媒の存在下で付加重合させることにより得ることができる。
【0054】
〔非イオン性化合物(C)〕
本発明の繊維用サイジング剤は、非イオン性化合物(C)を含むと、マトリックス樹脂の濡れ性を向上させる点で好ましい。非イオン性化合物(C)は、前記化合物(A)及び前記アセチレン系化合物(B)を除く化合物であり、非イオン性界面活性剤であると好ましい。
【0055】
上記化合物(C)としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルケニルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンジミリスチレート、ポリオキシエチレンジステアレート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレート等のソルビタンエステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンひまし油エーテル等のポリオキシアルキレンひまし油エーテル;ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル等のポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル;オキシエチレン-オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体;オキシエチレン-オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端ショ糖エーテル化物;等を挙げることができる。化合物(C)は界面活性剤であると乳化性が良好となる点で好ましい。
【0056】
上記化合物(C)の重量平均分子量は、本願効果を奏する観点から、1000~20000が好ましい。該重量平均分子量の上限は、より好ましくは18000、さらに好ましくは17000、特に好ましくは16000である。一方、該重量平均分子量の下限は、より好ましくは1500、さらに好ましくは1800、特に好ましくは2000である。また、例えば1500~18000がより好ましく、1800~17000がさらに好ましく、2000~16000が特に好ましい。該重量平均分子量は実施例に記載の方法によるものである。
【0057】
オキシエチレン-オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体は、本願効果を奏する観点から、ブロック共重合体が好ましい。
オキシエチレン-オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体を構成するオキシエチレン基の平均付加モル数としては、本願効果を奏する観点から、10~500が好ましい。該平均付加モル数の上限は、より好ましくは450、さらに好ましくは400である。一方、該平均付加モル数の下限は、より好ましくは30、さらに好ましくは50である。また、例えば30~450がより好ましく、50~400がさらに好ましい。
【0058】
オキシエチレン-オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体は、本願効果を奏する観点から、オキシプロピレン基の平均付加モル数としては、1~100が好ましい。該平均付加モル数の上限は、より好ましくは80、さらに好ましくは70、特に好ましくは60である。一方、該平均付加モル数の下限は、より好ましくは5、さらに好ましくは10、特に好ましくは15である。また、例えば、5~80がより好ましく、10~70がさらに好ましく、15~60が特に好ましい。
【0059】
〔繊維用サイジング剤〕
本発明の繊維用サイジング剤は、化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)を含み、前記化合物(A)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(A))が0.0005~0.13である。尚、化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)の重量とは、本発明のサイジング剤に含まれる不揮発分に占める各成分の重量をさす。
化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)を特定の比率で含むことでマトリックス樹脂の濡れ性が向上する要因は、化合物(A)とアセチレン系化合物(B)の相溶性が向上するためと考えている。該((B)/(A))が0.0005未満では、マトリックス樹脂の濡れ性が不足し、0.13を超えるとマトリックス樹脂との接着性が不足する。
マトリックス樹脂の濡れ性を向上させる観点から、該((B)/(A))の上限は、0.125が好ましく、0.12がより好ましく、0.115がさらに好ましく、0.11が特に好ましく、0.10が最も好ましい。一方、該((B)/(A))の下限は、0.001が好ましく、0.005がより好ましく、0.007がさらに好ましく、0.01が特に好ましく、0.012が最も好ましい。また、例えば0.001~0.125が好ましく、0.005~0.12がより好ましく、0.007~0.115がさらに好ましい。
【0060】
本発明の繊維用サイジング剤が非イオン性化合物(C)を含む場合、マトリックス樹脂との接着性を向上させる観点から、前記非イオン性化合物(C)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(C))は、0.001~0.5が好ましい。尚、アセチレン系化合物(B)及び非イオン性化合物(C)の重量とは、本発明のサイジング剤に含まれる不揮発分に占める各成分の重量をさす。
該重量比の上限は、より好ましくは0.4、さらに好ましくは0.3、特に好ましくは0.2である。一方、該重量比の下限は、より好ましくは0.02、さらに好ましくは0.03、特に好ましくは0.05である。また、例えば0.02~0.4がより好ましく、0.03~0.3がさらに好ましく、
【0061】
本発明の繊維用サイジング剤が非イオン性化合物(C)を含む場合、マトリックス樹脂の濡れ性と接着性の観点から、前記化合物(A)と前記非イオン性化合物(C)の合計に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/((A)+(C)))は、0.005~0.5が好ましい。尚、化合物(A)、アセチレン系化合物(B)及び非イオン性化合物(C)の重量とは、本発明のサイジング剤に含まれる不揮発分に占める各成分の重量をさす。
該重量比の上限は、より好ましくは0.4、さらに好ましくは0.3、特に好ましくは0.2である。一方、該重量比の下限は、より好ましくは0.007、さらに好ましくは0.009、特に好ましくは0.01である。また、例えば0.007~0.4がより好ましく、0.009~0.3がさらに好ましく、0.01~0.2が特に好ましい。
【0062】
本発明の繊維用サイジング剤の不揮発分に占める化合物(A)の重量割合は、集束性、接着性の点で、20重量%~99重量%であると好ましい。該重量割合の上限は、より好ましくは98重量%、さらに好ましくは97重量%、特に好ましくは95重量%である。一方、該重量割合の下限は、より好ましくは25重量%、さらに好ましくは30重量%、特に好ましくは40重量%、最も好ましくは50重量%である。また、例えば25重量%~98重量%がより好ましく、30重量%~97重量%がさらに好ましく、40重量%~95重量%が特に好ましい。
【0063】
本発明の繊維用サイジング剤の不揮発分に占めるアセチレン系化合物(B)の重量割合は、マトリックス樹脂との濡れ性の点で、0.05重量%~10重量%であると好ましい。該重量割合の上限は、より好ましくは9重量%、さらに好ましくは8重量%、特に好ましくは7重量%である。一方、該重量割合の下限は、より好ましくは0.06重量%、さらに好ましくは0.08重量%、特に好ましくは0.1重量%である。また、例えば0.06重量%~9重量%がより好ましく、0.08重量%~8重量%がさらに好ましく、0.1重量%~7重量%が特に好ましい。
【0064】
本発明のサイジング剤を製造する方法については、特に限定はなく、公知の手法が採用できる。サイジング剤を構成する各成分を攪拌下の水中に投入して水溶液、乳化物または水分散物とする方法、サイジング剤を構成する各成分を製造する際に水溶液、乳化物または水分散物とする方法、界面活性剤の入った水中に、サイジング剤を構成する各成分を攪拌下、投入して乳化または分散する方法、サイジング剤を構成する各成分を、予め乳化分散した乳化分散液に混合する方法、サイジング剤を構成する各成分を混合し、得られた混合物を軟化点以上に加温後、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法、サイジング剤を付与する給油浴において、乳化分散した乳化分散液とを混合する方法等が挙げられる。
【0065】
本発明のサイジング剤は、水に自己乳化及び/又は乳化分散してなると好ましい。サイジング剤が水に自己乳化及び/又は乳化分散してなる場合の平均粒子径は、特に限定はないが、保管安定性の観点から、10μm以下が好ましく、0.01~1μmがより好ましく、0.01~0.5μmがさらに好ましい。なお、本発明でいう平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製LA-920)で測定された算術平均径をいう。
【0066】
〔繊維ストランド〕
本発明の繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、上記の繊維用サイジング剤を付着させたものであり、熱硬化性樹脂又は熱可塑性マトリックス樹脂を補強するための強化繊維として好適に使用できる。
【0067】
本発明の繊維ストランドの製造方法は、前述した繊維用サイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む製造方法である。
繊維用サイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させて付着物を得る方法については、特に限定はないが、繊維用サイジング剤をキスローラー法、ローラー浸漬法、スプレー法その他公知の方法で、原料合成繊維ストランドに付着させる方法であればよい。これらの方法のうちでも、ローラー浸漬法が、繊維用サイジング剤を原料合成繊維ストランドに均一付着できるので好ましい。
得られた付着物の乾燥方法については、特に限定はなく、例えば、加熱ローラー、熱風、熱板等で加熱乾燥することができる。
【0068】
なお、本発明の繊維用サイジング剤の原料合成繊維ストランドへの付着にあたっては、繊維用サイジング剤の構成成分全てを混合後に付着させてもよいし、構成成分を別々に二段階以上に分けて付着させてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、並びに、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルケトン樹脂などの熱可塑性樹脂を原料合成繊維ストランドに付着させてもよい。
【0069】
本発明の繊維ストランドは、各種熱硬化性樹脂又は各種熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の強化繊維として使用でき、使用する形態としては、連続繊維の状態でも、所定の長さに切断された状態でもよい。
【0070】
原料合成繊維ストランドへの繊維用サイジング剤の不揮発分の付着量は適宜選択でき、合成繊維ストランドが所望の機能を有するための必要量とすればよいが、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1~20重量%であることが好ましい。連続繊維の状態の合成繊維ストランドにおいては、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1~10重量%がより好ましく、0.5~5重量%がさらに好ましい。また、所定の長さに切断された状態のストランドにおいては0.5~20重量%がより好ましく、1~10重量%がさらに好ましい。
【0071】
繊維用サイジング剤の付着量が少ないと、マトリックス樹脂との濡れ性に関する本発明の効果が得られにくく、また、合成繊維ストランドの集束性が不足し、取扱い性が悪くなることがある。また繊維用サイジング剤の付着量が多過ぎると、合成繊維ストランドが剛直になり過ぎて、コンポジット成型の際に樹脂含浸性が悪くなったりすることがあり好ましくない。
【0072】
本発明の繊維用サイジング剤を適用し得る(原料)合成繊維ストランドの合成繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維、ポリケトン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。得られる繊維強化複合材料としての物性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維およびポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種が好ましく、炭素繊維がさらに好ましい。
【0073】
〔繊維強化複合材料〕
本発明の繊維強化複合材料は、熱硬化性マトリックス樹脂又は熱可塑性マトリックス樹脂と前述の繊維ストランドを含むものである。繊維ストランドは本発明の繊維用サイジング剤により処理されているので、繊維ストランドおよび熱可塑性マトリックス樹脂との親和性が良好となり、接着性に優れた繊維強化複合材料となる。
本発明の繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂と前述の繊維ストランドを含むものである。繊維ストランドは本発明のサイジング剤により処理されて、サイジング剤が均一に付着しており、繊維ストランド及びマトリックス樹脂との親和性が良好となり、接着性に優れた繊維強化複合材料となる。さらに、高温処理時のサイジング剤の熱分解を抑制でき、熱分解に起因したマトリックス樹脂との接着阻害を抑制できる。ここで、マトリックス樹脂とは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂をいい、1種又は2種以上含んでいてもよい。熱硬化性樹脂としては、特に制限はなく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これらの中でも本発明のサイジング剤による接着性向上効果がより高い点から熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂がさらに好ましい。
【0074】
これらマトリックス樹脂は、繊維ストランドとの接着性をさらに向上させるなどの目的で、その一部又は全部が変性したものであっても差し支えない。
繊維強化複合材料の製造方法としては、特に限定はなく、チョップドファイバー、長繊維ペレットなどによるコンパウンド射出成型、UDシート、織物シートなどによるプレス成型、その他フィラメントワインディング成型など公知の方法を採用できる。
繊維強化複合材料中の合成繊維ストランドの含有量についても特に限定はなく、繊維の種類、形態、熱可塑性マトリックス樹脂の種類などにより適宜選択すればよいが、得られる繊維強化複合材料に対して、5~70重量%が好ましく、20~60重量%がより好ましい。
【実施例
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)、部は特に限定しない限り、「重量%」、「重量部」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
【0076】
<浸透性評価>
浸透性の評価を次のフェルト沈降試験にて実施した。
2cm×2cmに切断したニッケ社製オリフェルトS20(No.103)を不揮発分濃度1%となるように水で希釈した各サイジング剤100mLに浮かべ、沈降するまでの時間(秒数)を計測し、浸透性の評価を行った。温度:23℃。沈降するまでの時間が短い程浸透性に優れることを意味する。
指標は次の通りで、◎及び○を合格とした。
非常に良好(◎):90秒以下
良好 (○):90秒超180秒以下
やや不良 (△):180秒超300秒以下
不良 (×):300秒超
【0077】
<処理剤の付着率>
サイジング剤組成物を付与した繊維約10gをソックスレー抽出器に入れ、メチルエチルケトンで2時間抽出し、抽出前後の繊維の重量差から算出した。
【0078】
<マトリックス樹脂のドロップの作製方法>
エポキシ樹脂:エポキシ樹脂jER828(三菱ケミカル株式会社製)100重量部、DICY(三菱ケミカル株式会社製)3重量部に調整されたマトリックス樹脂のドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させ、80℃×1時間、150℃×3時間加熱し硬化させた。
ポリアミド樹脂:ポリアミド樹脂T-663(東洋紡社製)を複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)上で溶融させ、ドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させた。
【0079】
<マトリックス樹脂の濡れ性>
複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)を使用し各マトリックス樹脂の濡れ性を評価した。実施例及び比較例で得られた炭素繊維ストランドより、炭素繊維フィラメントを取り出し、試料ホルダーにセッティングした。上記マトリックス樹脂のドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させ、引き抜き方向のドロップ径が100~120μmの範囲にあるドロップを20個選定し、炭素繊維フィラメントに対する接触角を測定、その平均値を得た。サイジング剤未処理炭素繊維ストランドより取り出した炭素繊維フィラメントを用いて同様にして得た接触角と比較して、下記基準に従い各マトリックス樹脂濡れ性を評価し、◎及び〇を合格とした。
◎:サイジング剤未処理炭素繊維の接触角に比較して2°以上接触角が小さい。
○:サイジング剤未処理炭素繊維の接触角に比較して1°以上接触角が小さい。
△:サイジング剤未処理炭素繊維の接触角とほぼ同等(接触角の差が±1°未満)
×:サイジング剤未処理炭素繊維の接触角に比較して1°以上接触角が大きい。
【0080】
<接着性>
複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)を使用し、マイクロドロップレット法により接着性を評価した。
実施例及び比較例で得られた炭素繊維ストランドより、炭素繊維フィラメントを取り出し、試料ホルダーにセッティングした。各マトリックス樹脂のドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させ、測定用の試料を得た。測定試料を装置にセッティングし、ドロップを装置ブレードで挟み、炭素繊維フィラメントを装置上で0.06mm/分の速度で走行させ、炭素繊維フィラメントからドロップを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。
次式により界面剪断強度τを算出し、炭素繊維フィラメントとマトリックス樹脂との接着性を評価した。マトリックス樹脂としては上記のエポキシ樹脂及びポリアミド樹脂を用いた。各マトリックス樹脂ドロップの作製は上記に示した方法で行った。
界面剪断強度τ(単位:MPa)=F/πdl
(F:最大引き抜き荷重 d:炭素繊維フィラメント直径 l:ドロップの引き抜き方向の粒子径)
【0081】
<耐擦過性>
TM式摩擦抱合力試験機TM-200(大栄科学精器製作所(株)製)を用い、ジグザグに配置した鏡面クロムメッキステンレス針3本を介して50gの張力で、実施例及び比較例で得られた炭素繊維ストランドを1000回擦過させ(往復運動速度300回/分)、炭素繊維ストランドの毛羽たちの状態を下記基準で目視判定し、◎及び〇を合格とした。
◎:擦過前と同じく毛羽発生が全く見られなかった。
○:数本の毛羽は見られたものの、実用上全く問題ないレベルであった。
△:毛羽立ちが多くみられ、糸切れも若干確認できた。
×:毛羽立ち及び単糸の糸切れが非常に多く確認できた。
【0082】
<集束性>
炭素繊維に各サイジング剤(水で3%に希釈、目標付着率1%)をサイジングしたものを、カッターナイフで5mmの長さで10本切りだした際にほぐれるかどうか目視で評価した。以下の評価基準で判断し、◎及び○を合格とした。
◎:2本以下ほぐれる
○:3~4本ほぐれる
△:5本~7本ほぐれる
×:8本以上ほぐれる
【0083】
<重量平均分子量及び数平均分子量>
本発明において重量平均分子量及び数平均分子量は、下記のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)測定方法により測定し、ポリスチレン換算した値をいう。
(GPC測定条件)
装置:装置名「HPLC LC-6A SYSTEM」(SHIMAZU社製)
カラム:「KF-800P(10mm×4.6mmφ)」、「KF-804(300mm×8mmφ)」、「KF-802.5(300mm×8mmφ)」、「KF-801(300mm×8mmφ)」(以上、SHODEX社製)
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/min
サンプル量:100μl(100倍希釈)
カラム温度:50℃
検量線作成標準物質:ポリスチレン(PSt)
【0084】
実施例に使用した化合物は次の通り。
a1-1:jER828/jER1001=50/50(重量比)(三菱ケミカル株式会社製エポキシ樹脂混合物)
a1-2:ビニルエステル樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物)
a1-3:不飽和ポリエステル樹脂(下記合成例a1-3)
a1-4:jER807/jER4005P=50/50(重量比)(三菱ケミカル株式会社製エポキシ樹脂混合物)
a1-5:ビニルエステル樹脂(トリメチロールプロパントリメタクリレート)
a1-6:不飽和ポリエステル樹脂(下記合成例a1-6)
a2-1:芳香族ポリウレタン樹脂(下記合成例a2-1)
a2-2:飽和ポリエステル樹脂(下記合成例a2-2)
a2-3:ポリオレフィン樹脂(無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(プロピレン/無水マレイン酸グラフト共重合比率(重量%):95/5、重量平均分子量:30000))
a2-4:芳香族ポリウレタン樹脂(下記合成例a2-4)
a2-5:飽和ポリエステル樹脂(下記合成例a2-5)
a2-6:ポリオレフィン樹脂(無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(プロピレン/無水マレイン酸グラフト共重合比率(重量%):85/15、重量平均分子量:37000))
a3-1:KM-9749(信越化学工業株式会社製)
a3-2:SBL0533(株式会社エネオスマテリアル製)
a3-3:KM-2002-L-1(信越化学工業株式会社製)
a3-4:SBL0548(株式会社エネオスマテリアル製)
a’4 :イソオクチルステアレート
b1:2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド20モル付加物
b2:2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキサイド5モル付加物
b3:3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール
b4:2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール
c1:POEOブロックポリエーテル(PO/EO=20/80)(Mw15500)
c2:POEOブロックポリエーテル(PO/EO=50/50)(Mw4500)
尚、a1-1、a1-2、a1-3、a1-4、a1-5、a1-6、a2-3、a2-6、a’4、b3及びb4は非自己乳化性成分であった。
【0085】
(合成例a1-3)
無水マレイン酸0.9モルとビスフェノールAのエチレンオキサイド4モル付加物1.0モルを140℃で5時間反応させて、酸価2.5の不飽和ポリエステル樹脂(a1-3)を得た。重量平均分子量(Mw)は5051であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.6であった。
【0086】
(合成例a1-6)
無水マレイン酸0.8モルとビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物1.0モルを140℃で3時間反応させて、酸価3.5の不飽和ポリエステル(a1-6)を得た。重量平均分子量(Mw)は1626であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.7であった。
【0087】
(合成例a2-1)
反応器中に窒素ガスを封入下、テレフタル酸498部、イソフタル酸332部、エチレングリコール248部、ジエチレングリコール106部、テトラメチレングリコール45部およびジブチル錫オキサイド0.2部を仕込み、190~240℃で10時間エステル化反応を行い、芳香族ポリエステルポリオールを得た。次に、得られた芳香族ポリエステルポリオール1000部を120℃で減圧により脱水し、80℃まで冷却後、メチルエチルケトン680部を仕込み撹拌溶解した。引き続きイソホロンジイソシアネート218部および鎖伸張化剤として2,2-ジメチロールプロピオン酸67部を仕込み、70℃で12時間ウレタン化反応を行った。反応終了後、40℃まで冷却し、13.6%アンモニア水97部を加えて中和反応後、65℃で減圧処理をしてメチルエチルケトンを留去し、芳香族ポリウレタン樹脂(a2-1)を得た。
【0088】
(合成例a2-4)
反応器中に窒素ガスを封入下、テレフタル酸332部、イソフタル酸332部、アジピン酸146部、エチレングリコール258部、ジエチレングリコール106部、ネオペンチルグリコール52部およびジブチル錫オキサイド0.2部を仕込み、190~240℃で10時間エステル化反応を行い、芳香族ポリエステルポリオールを得た。次に、得られた芳香族ポリエステルポリオール1000部を120℃で減圧により脱水し、80℃まで冷却後、メチルエチルケトン680部を仕込み撹拌溶解した。引き続きヘキサメチレンジイソシアネート160部および鎖伸張化剤として2,2-ジメチロールプロピオン酸67部を仕込み、70℃で12時間ウレタン化反応を行った。反応終了後、40℃まで冷却し、13.6%アンモニア水97部を加えて中和反応後、65℃で減圧処理をしてメチルエチルケトンを留去し、芳香族ポリウレタン樹脂(a2-4)を得た。
【0089】
(合成例a2-2)
反応器中に窒素ガスを封入下、ジメチルイソフタレート950部、ジエチレングリコール1000部、酢酸亜鉛0.5部および三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140~220℃で3時間エステル交換反応を行った。次に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸30部を添加し、220~260℃で1時間エステル化反応を行った後、240~270℃で減圧下2時間重縮合反応を行い、飽和ポリエステル樹脂(a2-2)を得た。
【0090】
(合成例a2-5)
反応器中に窒素ガスを封入下、ジメチルイソフタレート475部、ジメチルテレフタレート475部、ジエチレングリコール1000部、酢酸亜鉛0.5部および三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140~220℃で3時間エステル交換反応を行った。次に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸30部を添加し、220~260℃で1時間エステル化反応を行った後、240~270℃で減圧下2時間重縮合反応を行った後、240~270℃で減圧下2時間重縮合反応を行い、飽和ポリエステル樹脂(a2-5)を得た。
【0091】
(繊維用サイジング剤の製造)
(実施例1)
非自己乳化性成分である75重量部のエポキシ樹脂混合物a1-1、乳化剤として10重量部のc1と10重量部のc2とを乳化装置に仕込み、撹拌下水を序々に加え転相乳化させ、均一な非自己乳化性成分の水分散体を得た。その後、非自己乳化性成分及び乳化剤以外の残りの成分として5重量部のb1を水分散体へ混合し、不揮発分濃度が40重量%のサイジング剤を得た。
【0092】
(実施例2~39及び比較例1~14)
非自己乳化性成分としてa1-1、a1-2、a1-3、a1-4、a1-5、a1-6、a2-3、a2-6、a’4、b3及びb4から選ばれる成分を、乳化剤としてc1及びc2から選ばれる成分を、非自己乳化性成分と乳化剤以外の残りの成分としてa2-1、a2-2、a2-4、a2-5、a3-1、a3-2、a3-3、a3-4、b1及びb2から選ばれる成分を、それぞれ表1~6に記載の不揮発分組成とする以外は実施例1と同様にして、サイジング剤を得た。なお、表に記載の数値はサイジング剤の不揮発分に占める各成分(水分散体の場合は、その不揮発分)の重量割合を示す。
【0093】
(サイジング剤付着繊維ストランドの製造)
得られたサイジング剤を水で希釈して不揮発分濃度が3重量%のサイジング剤希釈液を調製した。
次いで、サイジング剤未処理炭素繊維ストランド(繊度800tex、フィラメント数12000本)を調製したサイジング剤希釈液にDip Nip法により浸漬・含浸させた後、105℃で15分間熱風乾燥させて、サイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。得られたサイジング剤処理炭素繊維ストランドを用いて前述の方法により、浸透性、処理剤の付着率、マトリックス樹脂の濡れ性、接着性、耐擦過性、集束性を評価した。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0097】
表1~4から明らかなように、実施例のサイジング剤は、化合物(A)、アセチレン系化合物(B)を含有し、前記化合物(A)に対する前記化合物(B)の重量割合((B)/(A))が0.0005~0.13であるため、繊維に優れたマトリックス樹脂との濡れ性を与え、サイジング剤として好適に利用できる。
一方、表5及び6に示すように、比較例のサイジング剤は、化合物(B)を含まない場合(比較例1~3)、化合物(A)を含まない場合(比較例4、11、14)、(B)/(A)が0.0005~0.13の範囲内でない場合(比較例5~10、12、13)である。評価の結果、比較例1~3、5、7、9、12及び14ではマトリックス樹脂との濡れ性が不足し、比較例4、6、8、10、11及び13では、マトリックス樹脂との濡れ性は良好であるが集束性が不足するためにサイジング剤としての要件を満たしていないため、いずれの比較例の処理剤も繊維ストランドに対するマトリックス樹脂の濡れ性を向上させる繊維用サイジング剤として利用できず、本願課題を解決できない。
【産業上利用の可能性】
【0098】
マトリックス樹脂を強化繊維で補強した繊維強化複合材料は、自動車用途、航空・宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途等に用いられる。強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。
【要約】
課題 繊維ストランドに対するマトリックス樹脂の濡れ性を向上させるサイジング剤、それを用いた繊維ストランド及び繊維強化複合材料を提供する。
解決手段 化合物(A)及びアセチレン系化合物(B)を含有し、前記化合物(A)が、熱硬化性樹脂(A1)、熱可塑性樹脂(A2)及びゴム(A3)から選ばれる少なくとも1種であり、前記化合物(A)に対する前記アセチレン系化合物(B)の重量比((B)/(A))が0.0005~0.13である、繊維用サイジング剤。