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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】レーザスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20240202BHJP
   B23K 26/22 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019108061
(22)【出願日】2019-06-10
(65)【公開番号】P2020199525
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 宰
(72)【発明者】
【氏名】澤部 修平
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-030018(JP,A)
【文献】特開2017-042790(JP,A)
【文献】特開昭59-039491(JP,A)
【文献】特開平09-141470(JP,A)
【文献】特開2006-224134(JP,A)
【文献】特開2011-173146(JP,A)
【文献】特開2010-023047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21
B23K 26/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数重ねた金属板の所定領域にレーザ光軸を固定的に設定した状態で最表面に位置した金属板の近位側に焦点を位置させて所定時間に亘り連続してレーザをデフォーカス照射するステップを実行する、レーザスポット溶接方法であって
前記所定時間の途中で前記最表面に位置した金属板の近位側で単発的に焦点制御してレーザをフォーカス照射することを含む、レーザスポット溶接方法。
【請求項2】
前記フォーカス照射の前後で、前記デフォーカス照射の照射径が異なる、請求項1記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項3】
前記フォーカス照射の前後で、前記デフォーカス照射の照射径が漸次または段階的に変化する、請求項1または2記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項4】
前記所定時間の途中で、前記フォーカス照射を2回実行する、請求項1記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項5】
前記2回のフォーカス照射の前後、および/または、前記2回のフォーカス照射の間で、前記デフォーカス照射の照射径が異なる、請求項4記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項6】
前記2回のフォーカス照射の前後、および/または、前記2回のフォーカス照射の間で、前記デフォーカス照射の照射径が漸次または段階的に変化する、請求項4記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項7】
前記フォーカス照射から前記デフォーカス照射への移行時は、前記デフォーカス照射から前記フォーカス照射への移行時よりもデフォーカス量の変化が相対的に緩やかである、請求項1~6の何れか一項記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項8】
レーザスポット溶接方法であって、
複数重ねた金属板の所定領域にレーザ光軸を固定的に設定した状態で、
最表面に位置した金属板の近位側に焦点を位置させて第1の照射径で第1の時間に亘りレーザをデフォーカス照射するステップと、
最表面に位置した金属板の近位側で単発的に焦点制御してレーザをフォーカス照射するステップと、
最表面に位置した金属板の近位側に焦点を位置させて第2の照射径で第2の時間に亘りレーザをデフォーカス照射するステップと、
を連続して実行することを含む、レーザスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークにレーザを照射しその光エネルギーによって照射部位の材料を加熱溶融するレーザ溶接は、非接触で高速溶接が行える利点があり、アーク溶接や抵抗スポット溶接からの代替が進んでいる。抵抗スポット溶接を代替するレーザスポット溶接としては、例えば特許文献1に記載されるように、スポット領域内でレーザビームを円形状や渦巻状に走査することで、ブローホールなどの欠陥を除去して接合強度を得ている。
【0003】
しかし、このような溶接方法は、スポット領域内でビーム走査を行うための俊敏なスキャナ操作が必要であり、制御動作が煩雑であるうえ、ビーム走査の分だけタクトタイムが長くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-115876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡潔な動作で安定的に接合強度が得られ、制御の複雑化やタクトタイムの増加を回避できるレーザスポット溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザスポット溶接方法は、
複数重ねた金属板の所定領域にレーザ光軸を固定的に設定した状態で最表面に位置した金属板の近位側に焦点を位置させて所定時間に亘り連続してレーザをデフォーカス照射するステップを実行する、レーザスポット溶接方法であって
前記所定時間の途中で前記最表面に位置した金属板の近位側で単発的に焦点制御してレーザをフォーカス照射するステップを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るレーザスポット溶接方法は、上記のように、所定時間に亘りレーザをデフォーカス照射するステップの途中で焦点制御してレーザを単発的にフォーカス照射するステップを実行するので、先ず、デフォーカス照射領域が予熱されるとともに、中心部から溶融が開始され、その状態で、単発的にフォーカス照射されることで、スパッタを抑制しつつ溶け込み深さが確保されるとともに、キーホールを通じて金属蒸気が排出され、次いで、更なるデフォーカス照射により、キーホールが緩和され、溶融部が熱伝導により予熱領域全体に拡大されることで、キーホールの急激な崩壊による気泡残留が抑制され、レーザ光軸の走査を伴わない簡潔な動作でありなら、所望の接合強度が得られ、制御の複雑化やタクトタイムの増加を回避できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明第1実施形態に係るレーザスポット溶接における(a)最初のデフォーカス照射、(b)フォーカス照射、(d)後のデフォーカス照射を示す側断面図、(c)照射径の変化を示す模式的なグラフである。
図2】本発明第1実施形態に係るレーザスポット溶接における(a)最初のデフォーカス照射、(b)フォーカス照射、(c)後のデフォーカス照射中間、(d)デフォーカス照射終了時の溶接部の変化を示す模式的な斜視図である。
図3】本発明第1実施形態に係るレーザスポット溶接における照射径および溶融部スポット径の変化を示す模式的なグラフである。
図4】本発明第2実施形態に係るレーザスポット溶接における照射径および溶融部スポット径の変化を示す模式的なグラフである。
図5】本発明第3実施形態に係るレーザスポット溶接における照射径および溶融部スポット径の変化を示す模式的なグラフである。
図6】本発明第4実施形態に係るレーザスポット溶接における照射径および溶融部スポット径の変化を示す模式的なグラフである。
図7】本発明第5実施形態に係るレーザスポット溶接における照射径および溶融部スポット径の変化を示す模式的なグラフである。
図8】本発明第6実施形態に係るレーザスポット溶接における照射径および溶融部スポット径の変化を示す模式的なグラフである。
図9】本発明第7実施形態に係るレーザスポット溶接における照射径および溶融部スポット径の変化を示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1および図2は、3枚重ねた金属板11,12,13に対する本発明の第1実施形態に係るレーザスポット溶接を示している。金属板11,12,13は、特に限定されるものではないが、板厚0.6~2.0mmの薄鋼板を想定している。
【0011】
3枚の金属板11,12,13は、それらの何れか(通常は隙間の下側の金属板12,13)に予め突起部(エンボス、不図示)をプレス加工しておき、突起部を介して重ね合されるか、または、金属板の間に挿入された不図示のスペーサを介して重ね合され、必要に応じてクランプなどの治具で保持されることによる間隔調整された隙間、および/または、プレス加工品のフランジ部などにスプリングバックで生じる間隔調整されていない隙間を有して重ねられている。
【0012】
レーザスポット溶接の実施に際しては、図1(a)に示すように、最表面に位置した金属板11の上方にレーザ加工ヘッドを位置させ、光軸Lxを固定した状態で、デフォーカス量dx(照射径Dx)にてレーザ照射Laを行う(第1ステップ)。
【0013】
このレーザ照射径Dxは、1回の溶接工程中で最大面積(最小パワー密度)もしくはそれに準じた照射領域に対応し、パワー密度が抑えられているため、この段階では3枚の金属板11,12,13を貫通する溶融部は形成されず、最表面の金属板11から下位の金属板12,13への熱伝導によって照射領域全体が予熱Haされるとともに、エネルギー分布が高い金属板11の中心部から溶融Waが開始される。
【0014】
次いで、図1(b)に示すように、光軸Lxを固定したまま、レーザ溶接機の光学系にて焦点制御を行い、実質的にフォーカス状態(デフォーカス量do、照射径Do)としてレーザ照射Lbを行う(第2ステップ)。
【0015】
このレーザ照射径Doは、1回の溶接工程中で最小面積(最大パワー密度)の照射領域に対応するが、これに先立つ第1ステップで金属板11,12,13が予熱Haされ、かつ照射領域に溶接部Wbが形成されていることで、急激な昇温が緩和され、スパッタの発生が抑制される。この状態で、溶接部Wbの中央で3枚の金属板11,12,13にキーホールKbが形成され、このキーホールKbを通じて金属蒸気が排出されるとともに、溶接部Wbに最下の金属板13まで達する充分な溶け込み深さが得られる。
【0016】
続いて、図1(d)に示すように、光軸Lxを固定したまま、レーザ溶接機の光学系にて焦点制御を行い、デフォーカス量dx(照射径Dx)にてレーザ照射Laを行い、溶融部Wbを最終的にWdまで拡大してレーザ照射Laを終了する(第3ステップ)。
【0017】
このように、第2ステップで高パワー密度のレーザ照射LbによりキーホールKbが形成された後、低パワー密度のデフォーカス・レーザ照射Laが実施され、入熱が継続されることで、キーホールKbの急激な崩壊による気泡の残留が抑制される。
【0018】
また、図2(b)~(d)に示すように、中心部から周辺部に向けての熱伝達により、加熱領域Hc内での安定的な溶融Wcが促され、レーザ照射径Dxに対応する最終的な溶接部Wdが得られる。
【0019】
なお、金属板11,12,13に低融点金属の表面処理層が存在する場合に、溶融部とその周辺で発生する表面処理層の金属蒸気は、上記のような中心部から周辺部に向かう熱伝達と、溶融径の拡大に際し、間隙を利用して拡散され排出が促進される。
【0020】
図3は、上述した実施形態のレーザスポット溶接における照射径Dの変化と溶融部の拡大を示しており、図示のように、本発明に係るレーザスポット溶接は、
複数重ねた金属板11,12,13の所定領域にレーザ光軸Lxを固定した状態で、
(i)照射径Dxで時間Taに亘りレーザをデフォーカス照射Laし、照射領域を予熱Haするとともに中央に溶融部Waを形成する第1ステップ、
(ii)焦点制御してレーザを単発的にフォーカス照射Lbし、キーホール型貫通溶接により溶融部Wbの溶け込み深さを確保する第2ステップ、
(iii)照射径Dxで時間Tdまでレーザをデフォーカス照射Laし、熱伝導型溶接により溶融部をWdまで拡大する第3ステップ
を連続して実行することにより、レーザ光軸Lxの走査を伴わない簡潔な動作にて、スパッタやブローホールを抑制しつつ所望の接合強度の溶接部Wdを得るものである。
【0021】
上記第1、第3ステップにおいて、デフォーカス照射Laの照射径Dxは、第2ステップにおけるフォーカス照射Lbの照射径Doの1.5倍以上、好適には2倍以上、より好適には4倍以上になるようにデフォーカスされることが好ましい。フォーカス照射径Doに対するデフォーカス照射径Dxの拡大率が小さい場合、最終的な溶接部Wdの径が不足し、実用的な溶接部が得られない。
【0022】
上記第1ステップにおけるデフォーカス・レーザLaの照射時間Taは、金属板11,12,13の各板厚や合計板厚にも依るが、0.01~0.1秒、好適には0.02~0.05秒であることが好ましい。第1ステップにおける照射時間Taが短すぎる場合、予熱や中央溶融部の形成が不充分になり、第2ステップでフォーカス状態のレーザ照射Lbに移行した際にスパッタを生じる虞がある。また、第2ステップにおける単発的フォーカス照射Lbの照射時間は、第1~第3ステップ合計照射時間Tdの10~20%であることが好ましい。
【0023】
上記実施形態に係るレーザスポット溶接の効果を検証するために、金属板11,12,13として、最表面側(レーザ照射側)から、板厚t1=0.6mm、t2=1.2mm、t3=0.8mmの鋼板を使用し、レーザ出力6kW、デフォーカス照射径Dx=4.0mm、フォーカス照射径Do=1.0mmとして、Ta=0.02秒、Td=0.4秒間のレーザ照射を行ったところ、スパッタやブローホールのない良好な溶接部Wdが得られた。
【0024】
なお、上記第1実施形態では、所定時間のデフォーカス照射Laの途中で1回の単発的フォーカス照射Lbを実施する場合を示したが、単発的フォーカス照射Lbを2回実施することもでき、さらに、1回のレーザスポット溶接のベースとなるデフォーカス照射にける照射径の設定により、種々の実施形態が存在する。以下、代表的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図4に示す第2実施形態のレーザスポット溶接では、一定の照射径Dxのデフォーカス照射Laの途中、時刻T1で1回目の単発的フォーカス照射Lbを行った後、時刻T2で2回目の単発的フォーカス照射Lbを行う場合を示している。
【0026】
図5に示す第3実施形態のレーザスポット溶接では、フォーカス状態の照射径Doからレーザ照射Laを開始し、時刻Tcで照射径Dcとなるように、デフォーカス照射径を漸次拡大し、その後、最終的に最大照射径Dxまで照射径を漸次拡大するレーザ照射Lcの途中で1回の単発的フォーカス照射Lbを実施する場合を示している。
【0027】
図6に示す第4実施形態のレーザスポット溶接では、一定の照射径Dxで時刻T1までデフォーカス照射Laを行い、1回目の単発的フォーカス照射Lbを行った後、照射径をフォーカス状態の照射径Doまで漸次縮小する途中の時刻T2で、2回目の単発的フォーカス照射Lbを行う場合を示している。
【0028】
図7に示す第5実施形態のレーザスポット溶接では、デフォーカス照射径Dc1からレーザ照射Lc1を開始し、時刻T1で1回目の単発的フォーカス照射Lbを行った後、最初のデフォーカス照射径Dc1よりも大きいデフォーカス照射径Dc2にて時刻T2までレーザ照射Lc2を行い、時刻T2で2回目の単発的フォーカス照射Lbを行った後、デフォーカス照射径Dxでレーザ照射Laを行う場合を示している。
【0029】
図8に示す第6実施形態のレーザスポット溶接では、最大の照射径Dxにてデフォーカス照射Laを開始し、時刻T1で1回目の単発的フォーカス照射Lbを行った後、最初のデフォーカス照射径Dxよりも小さいデフォーカス照射径Dcにて時刻T2までレーザ照射Lcを行い、時刻T2で2回目の単発的フォーカス照射Lbを行った後、再びデフォーカス照射径Dxでレーザ照射Laを行い時刻Tdでレーザ照射Laを終了する場合を示している。
【0030】
図9に示す第7実施形態のレーザスポット溶接では、図5に示した第3実施形態と同様に、フォーカス状態の照射径Doからレーザ照射Laを開始し、デフォーカス照射径Dcまで照射径を漸次拡大し、その後、最終的に最大照射径Dxまで照射径を漸次拡大するレーザ照射Lcの途中、時刻T1で1回目の単発的フォーカス照射Lbを行った後、時刻T2で、フォーカス状態よりやや大きい照射径Do2にて2回目の単発的フォーカス照射Lb2を行う場合を示している。
【0031】
なお、上記実施形態では、レーザ光学系の制御によりデフォーカス量dx~doを変化させる場合について述べたが、レーザ加工ヘッドの位置を機械的に上下動(直線移動)させることでデフォーカス量を変化させることもできる。
【0032】
また、上記各実施形態では、2枚ないし3枚の金属板を重ねてレーザスポット溶接する場合を示したが、4枚以上の金属板を重ねてレーザスポット溶接することも可能である。実験では合計板厚4.2mmまで確認しているが、レーザ出力などの条件によりそれ以上の溶接も可能と思われる。
【0033】
また、上記各実施形態では、最表面の金属板11に対して垂直上方からレーザ照射する場合を示したが、照射角度40度までは実用範囲の加工性が得られる。また、水平面以外の任意の角度で傾斜配置された金属板に対しても溶接可能である。
【0034】
以上、本発明のいくつかの実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
11,12,13 金属板
dx,do デフォーカス量
La,Lb,Lb1,Lb2,Lc,Lc2,Ld レーザ照射
Lx レーザ光軸
Dx,Do,Do2,Dc,Dc1,Dc2 レーザ照射径
Ha,Hb 予熱部
Kb キーホール
Wa,Wb,Wc 溶融部
Wd 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9