(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】推定方法および推定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20240202BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20240202BHJP
A61B 5/117 20160101ALI20240202BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S7/02 210
A61B5/117 100
A61B5/107 300
(21)【出願番号】P 2019159506
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2018247657
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中山 武司
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 翔一
(72)【発明者】
【氏名】本間 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】笹川 大
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-112540(JP,A)
【文献】特開2018-161462(JP,A)
【文献】特開2018-036247(JP,A)
【文献】特開2018-000229(JP,A)
【文献】国際公開第03/003905(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
A61B 5/06 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、
測定対象の領域の周囲に配置される前記M個の送信アンテナ素子であって、前記測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、
前記測定対象の領域の周囲に配置される前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、
算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、
逐次推定された複数の前記組のそれぞれについて、(i)当該組の第一生体の位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、(ii)当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている方向を基準とした所定範囲内の向きであるか否かを判定し、
推定された前記組の第一生体の位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、推定された前記組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きである場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号と
の相関を算出することで前記第一生体を識別し、
推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置
において取得された受信信号の時間波形を、前記識別済みの第一生体を
前記次の位置を示す情報に基づく第二識別領域で識別するための
第二教師信号として
前記メモリに記憶する
推定方法。
【請求項2】
前記識別領域の追加では、
(i)前記識別された後の前記第一生体の位置を前記推定による推定結果を元に所定の時間間隔で追従し続け、(ii)
前記第二識別領域において所定時間以上静止した場合、前記所定時間における受信信号と、当該受信信号を用いて推定された前記第一生体の位置、および、前記第一生体の向きとに基づき、前記第二識別領域における
前記第二教師信号を生成し、(iii)生成した前記第二教師信号を前記第二識別領域において前記識別済みの第一生体を識別するための教師信号として追加し、
前記第一生体の識別では、前記第一教師信号を用いて前記第一識別領域内の第一生体を識別し、前記第二教師信号を用いて前記第二識別領域内の第一生体を識別する
請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
さらに、前記推定結果に基づいて、前記第一生体が前記第一識別領域または前記第二識別領域において前記所定時間以上静止していると推定された場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域または前記第二識別領域において予め取得された、第二生体に対応する前記第一教師信号および前記第二教師信号とに基づき前記第一生体を識別する
請求項2に記載の推定方法。
【請求項4】
M個(Mは3以上)の送信アンテナ素子およびN個(Nは3以上)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、
前記メモリは、前記推定装置に対する第一生体の存在する鉛直方向における位置である鉛直位置、および、RCS(Rader cross-section)値の時間的変化と、前記第一生体の動作との対応関係を示す情報を記憶しており、
前記M個の送信アンテナ素子および前記N個の受信アンテナ素子は、測定対象の領域の周囲に配置され、
前記M個の送信アンテナ素子のうち少なくとも3個の送信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、
前記N個の受信アンテナ素子のうち少なくとも3個の受信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、
前記推定方法では、
前記測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、
算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する3次元位置であって、前記鉛直位置を含む3次元位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、
逐次推定された複数の前記3次元位置のそれぞれについて、当該3次元位置と、前記送信アンテナ素子の位置と、前記受信アンテナ素子の位置と、に基づいて、前記第一生体に対するRCS値を逐次算出し、
逐次推定された前記複数の3次元位置、および、逐次算出されたRCS値の時間的変化と、前記メモリに記憶されている前記対応関係を示す情報と、を用いて、複数の
前記組のそれぞれにおける前記第一生体の姿勢を逐次推定し、
推定された前記組において、当該組の3次元位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている第一方向を基準とした所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記メモリに予め記憶されている第一の姿勢と一致するか否かを判定し、
推定された前記組の第一生体の3次元位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記第一の姿勢と一致する場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号と
の相関を算出することで前記第一生体を識別し、
推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置
において取得された受信信号の時間波形を、前記識別済みの第一生体を
前記次の位置を示す情報に基づく第二識別領域で識別するための
第二教師信号として
前記メモリに記憶する
推定方法。
【請求項5】
前記識別領域の追加では、
(i)前記識別された後の前記第一生体の位置を前記推定による推定結果を元に所定の時間間隔で追従し続け、(ii)前記第一識別領域と異なる1以上の第二識別領域において所定時間以上静止した場合、前記所定時間における前記受信信号と、当該受信信号を用いて推定された前記第一生体の3次元位置、前記第一生体の向き、および、前記第一生体の姿勢とに基づき、前記第二識別領域における第二教師信号を生成し、(iii)生成した前記第二教師信号を前記第二識別領域において前記識別済みの第一生体を識別するための教師信号として前記メモリに記憶し、
前記第一生体の識別では、前記第一教師信号を用いて前記第一識別領域内の第一生体を識別し、前記第二教師信号を用いて前記第二識別領域内の第一生体を識別する
請求項4に記載の推定方法。
【請求項6】
さらに、前記推定結果に基づいて、前記第一生体が前記第一識別領域または前記第二識別領域において前記所定時間以上静止している場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域または前記第二識別領域において予め取得された、第二生体に対応する前記第一教師信号および前記第二教師信号とに基づき前記第一生体を識別する
請求項5に記載の推定方法。
【請求項7】
メモリを備える推定装置であって、
M個(Mは2以上)の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、
測定対象の領域の周囲に配置される前記M個の送信アンテナ素子であって、前記測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信する送信部と、
前記測定対象の領域の周囲に配置される前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信する受信部と、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出する第一行列算出部と、
算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定する推定部と、
逐次推定された複数の前記組のそれぞれについて、(i)当該組の第一生体の位置が前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、(ii)当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている方向を基準とした所定範囲内の向きであるか否かを判定する判定部と、
推定された前記組の第一生体の位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、推定された前記組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きである場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号と
の相関を算出することで前記第一生体を識別する生体識別部と、
推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置
において取得された受信信号の時間波形を、前記識別済みの第一生体を
前記次の位置を示す情報に基づく第二識別領域で識別するための
第二教師信号として前記メモリに記憶する記憶部と、を備える
推定装置。
【請求項8】
M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
測定対象の領域の周囲に配置される前記M個の送信アンテナ素子であって、前記測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、
前記測定対象の領域の周囲に配置される前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、
前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、
算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、
逐次推定された複数の前記組のそれぞれについて、(i)当該組の第一生体の位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、(ii)当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている方向を基準とした所定範囲内の向きであるか否かを判定し、
推定された前記組の第一生体の位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、推定された前記組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きである場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号と
の相関を算出することで前記第一生体を識別し、
推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置
において取得された受信信号の時間波形を、前記識別済みの第一生体を
前記次の位置を示す情報に基づく第二識別領域で識別するための
第二教師信号として
前記メモリに記憶する
推定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体に無線信号を照射し、その反射信号を受信して生体の識別を行う推定方法および推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に無線信号を照射し、その反射信号を受信して生体の識別を行う技術が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1には、自動車の運転者に対して電磁波を照射し、その反射波を用いて心拍及び心音信号を抽出することで、運転者個人を識別する装置が開示されている。また、非特許文献2には無線信号を用い被験者周囲にアンテナを設置し生体識別する方法が開示されている。また、特許文献2~5には、生体に無線信号を照射し生体の位置や向き、行動を推定する方法が開示されている。
【0003】
また、例えば特許文献6には、レーダを用いた個人識別を行う方法が開示されている。また、例えば特許文献7には、レーダを用いたバイタルデータ取得や位置追従を行う方法が開示されている。また非特許文献1には無線信号を用いた人の向き推定を行う方法が開示されており、非特許文献2には、無線信号を用いた人の生体識別を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-144132号公報
【文献】特開2018-8021号公報
【文献】特開2018-112540号公報
【文献】特表2017-508149号公報
【文献】特開2018-29671号公報
【文献】特開2018-75406号公報
【文献】特開2015-85065号公報
【文献】特開2002-256644号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nobuyuki Shiraki, Zhixiong Chen, Dai Sasakawa, Naoki Honma, Takeshi Nakayama, and Shoichi Iizuka, “Method of Estimating Human Orientation Using Array Antenna”, URL: https://www.mdpi.com/2079-9292/7/6/92
【文献】Dai Sasakawa, Naoki Honma, Takeshi Nakayama, and Shoichi Iizuka, “Human Identification Using MIMO Array”, IEEE SENSORS JOURNAL, VOL. 18, NO. 8, APRIL 15, 2018, URL: https://ieeexplore.ieee.org/document/8283708
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電磁波を利用した生体識別は、特許文献1または非特許文献2に開示されるように被測定者とアンテナとが比較的近距離の状態で生体識別を行う場合が多い。
【0007】
しかしながら、運転席または個室のような狭小領域において個人識別を行う場合、被験者とアンテナとの間の距離が近いという制約は問題となりにくいが、日常生活などの場面では利用しにくいという課題がある。
【0008】
本開示は、上述の事情を鑑みてなされたもので、例えば屋内など被験者とアンテナとの間の距離を離した状態でも電磁波を利用した生体識別を行うことができる推定装置及び推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示の一形態に係る推定方法は、M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、逐次推定された複数の前記組のそれぞれについて、(i)当該組の第一生体の位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、(ii)当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている方向を基準とした所定範囲内の向きであるか否かを判定し、推定された前記組の第一生体の位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、推定された前記組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きである場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号とに基づき前記第一生体を識別し、推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置を示す情報に基づく新たな識別領域を、前記識別済みの第一生体を識別するための前記識別領域として追加する。
【0010】
また、本開示の他の一形態に係る推定方法は、M個(Mは3以上)の送信アンテナ素子およびN個(Nは3以上)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、前記メモリは、前記推定装置に対する第一生体の存在する鉛直方向における位置である鉛直位置、および、RCS(Rader cross-section)値の時間的変化と、前記第一生体の動作との対応関係を示す情報を記憶しており、前記M個の送信アンテナ素子のうち少なくとも3個の送信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、前記N個の受信アンテナ素子のうち少なくとも3個の受信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、前記推定方法では、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する3次元位置であって、前記鉛直位置を含む3次元位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、逐次推定された複数の前記3次元位置のそれぞれについて、当該3次元位置と、前記送信アンテナ素子の位置と、前記受信アンテナ素子の位置と、に基づいて、前記第一生体に対するRCS値を逐次算出し、逐次推定された前記複数の3次元位置、および、逐次算出されたRCS値の時間的変化と、前記メモリに記憶されている前記対応関係を示す情報と、を用いて、前記複数の組のそれぞれにおける前記第一生体の姿勢を逐次推定し、推定された前記組において、当該組の3次元位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている第一方向を基準とした所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記メモリに予め記憶されている第一の姿勢と一致するか否かを判定し、推定された前記組の第一生体の3次元位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記第一の姿勢と一致する場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号とに基づき前記第一生体を識別し、推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置を示す情報に基づく新たな識別領域を、前記識別済みの第一生体を識別するための前記識別領域として追加する。
【0011】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、装置、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータで読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る推定方法および推定装置によれば、例えば屋内など被験者とアンテナとの間の距離を離した状態でも電磁波を利用した生体識別を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施の形態1における推定装置の構成の一例を示す構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す回路の詳細構成の一例を示す構成図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1における被験者の動きの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1におけるメモリに記憶されている教師データの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1における推定装置の初期動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施の形態1における推定装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、受信信号より算出した伝搬チャネルの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態2における推定装置の構成の一例を示す構成図である。
【
図11】
図11は、実施の形態2におけるメモリに記憶されている教師データの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、実施の形態2における推定装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本開示の基礎となった知見)
特許文献1では、自動車の運転席に座っている人物に電磁波を照射して、その人物からの反射波を測定する。そして、測定した結果に対して演算処理を行うことにより心拍または心音の測定を行い、測定した心拍または心音の時間相関を取得することにより生体識別を実現している。しかしながら、上述したように、特許文献1の方法は運転席のような狭い空間において、被験者とアンテナの位置が特定可能という限られた環境でのみ運用可能という問題がある。このため、屋内の日常生活のような場面ではアンテナと被験者の距離を離し、かつアンテナと被験者の位置関係に自由度を持たせた環境にて個人識別を行うことが求められている。
【0015】
発明者らは、この課題に対して研究を重ねた結果、屋内など被験者とアンテナの距離を離した状態でも電磁波を利用した生体識別を行う為、次のようなことを見出した。すなわち、識別対象が活動する部屋の周囲にアンテナ素子を設置し、様々な方向から送信波を送信し、かつ、様々な方向にて反射波、散乱波を受信することで生体の特徴をより多く補足した受信信号を取得する。そして、受信信号は生体とアンテナの距離や、生体の方向、姿勢により少なからず変化する為、生体識別を行うには、受信信号より生体の位置や向き、姿勢を推定しつつ、教師データを取得し、前記生体の位置や向き、姿勢を識別位置として保存する。そして、被験者が識別位置にて同じ向き、姿勢をした時に、教師データとの相関を算出することで、住空間のような領域においても、教師データ中に測定対象の生体が有るか否かを精度よく識別できることを見出した。
【0016】
より具体的には、上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る推定方法は、M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、逐次推定された複数の前記組のそれぞれについて、(i)当該組の第一生体の位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、(ii)当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている方向を基準とした所定範囲内の向きであるか否かを判定し、推定された前記組の第一生体の位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、推定された前記組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きである場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号とに基づき前記第一生体を識別し、推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置を示す情報に基づく新たな識別領域を、前記識別済みの第一生体を識別するための前記識別領域として追加する。
【0017】
これによれば、生体が、既にメモリに記憶されている第一識別領域内の位置、および、所定の範囲内の向きにおいて識別された後において、識別済みの生体が、当該第一識別領域外の位置へ移動した場合に、移動先の位置に基づく新たな識別領域を、識別済みの第一生体を識別するための識別領域として追加する。このため、次に生体を識別する場合に、第一識別領域以外の新たな識別領域においても、第一生体を識別することができるため、第一生体を効率よく識別することができる。
【0018】
また、前記識別領域の追加では、(i)前記識別された後の前記第一生体の位置を前記推定による推定結果を元に所定の時間間隔で追従し続け、(ii)前記第一識別領域と異なる第二識別領域において所定時間以上静止した場合、前記所定時間における受信信号と、当該受信信号を用いて推定された前記第一生体の位置、および、前記第一生体の向きとに基づき、前記第二識別領域における第二教師信号を生成し、(iii)生成した前記第二教師信号を前記第二識別領域において前記識別済みの第一生体を識別するための教師信号として追加し、前記第一生体の識別では、前記第一教師信号を用いて前記第一識別領域内の第一生体を識別し、前記第二教師信号を用いて前記第二識別領域内の第一生体を識別してもよい。
【0019】
これによれば、第二識別領域において、第二教師信号を用いて第二識別領域内の第一生体を識別することができるため、第一生体を第一識別領域および第二識別領域の両方で識別することができる。よって、次に、第一生体を識別する場合に、第一生体を効率よく識別することができる。
【0020】
また、さらに、前記推定結果に基づいて、前記第一生体が前記第一識別領域または前記第二識別領域において前記所定時間以上静止していると推定された場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域または前記第二識別領域において予め取得された、第二生体に対応する前記第一教師信号および前記第二教師信号とに基づき前記第一生体を識別してもよい。
【0021】
また、本開示の他の一態様に係る推定方法は、M個(Mは3以上)の送信アンテナ素子およびN個(Nは3以上)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、前記メモリは、前記推定装置に対する第一生体の存在する鉛直方向における位置である鉛直位置、および、RCS(Rader cross-section)値の時間的変化と、前記第一生体の動作との対応関係を示す情報を記憶しており、前記M個の送信アンテナ素子のうち少なくとも3個の送信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、前記N個の受信アンテナ素子のうち少なくとも3個の受信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、前記推定方法では、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する3次元位置であって、前記鉛直位置を含む3次元位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、逐次推定された複数の前記3次元位置のそれぞれについて、当該3次元位置と、前記送信アンテナ素子の位置と、前記受信アンテナ素子の位置と、に基づいて、前記第一生体に対するRCS値を逐次算出し、逐次推定された前記複数の3次元位置、および、逐次算出されたRCS値の時間的変化と、前記メモリに記憶されている前記対応関係を示す情報と、を用いて、前記複数の組のそれぞれにおける前記第一生体の姿勢を逐次推定し、推定された前記組において、当該組の3次元位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている第一方向を基準とした所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記メモリに予め記憶されている第一の姿勢と一致するか否かを判定し、推定された前記組の第一生体の3次元位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記第一の姿勢と一致する場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号とに基づき前記第一生体を識別し、推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置を示す情報に基づく新たな識別領域を、前記識別済みの第一生体を識別するための前記識別領域として追加する。
【0022】
これによれば、生体が、既にメモリに記憶されている第一識別領域内の位置、所定の範囲内の向き、および、第一の姿勢において識別された後において、識別済みの生体が、当該第一識別領域外の位置へ移動した場合に、移動先の位置に基づく新たな識別領域を、識別済みの第一生体を識別するための識別領域として追加する。このため、次に生体を識別する場合に、第一識別領域以外の新たな識別領域においても、第一生体を識別することができ、第一生体を効率よく識別することができる。
【0023】
また、前記識別領域の追加では、(i)前記識別された後の前記第一生体の位置を前記推定による推定結果を元に所定の時間間隔で追従し続け、(ii)前記第一識別領域と異なる1以上の第二識別領域において所定時間以上静止した場合、前記所定時間における前記受信信号と、当該受信信号を用いて推定された前記第一生体の3次元位置、前記第一生体の向き、および、前記第一生体の姿勢とに基づき、前記第二識別領域における第二教師信号を生成し、(iii)生成した前記第二教師信号を前記第二識別領域において前記識別済みの第一生体を識別するための教師信号として前記メモリに記憶し、前記第一生体の識別では、前記第一教師信号を用いて前記第一識別領域内の第一生体を識別し、前記第二教師信号を用いて前記第二識別領域内の第一生体を識別してもよい。
【0024】
これによれば、第二識別領域において、第二教師信号を用いて第二識別領域内の第一生体を識別することができるため、第一生体を第一識別領域および第二識別領域の両方で識別することができる。よって、次に、第一生体を識別する場合に、第一生体を効率よく識別することができる。
【0025】
また、さらに、前記推定結果に基づいて、前記第一生体が前記第一識別領域または前記第二識別領域において前記所定時間以上静止している場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域または前記第二識別領域において予め取得された、第二生体に対応する前記第一教師信号および前記第二教師信号とに基づき前記第一生体を識別してもよい。
【0026】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、装置、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータで読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0027】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0028】
(実施の形態)
[推定装置10の構成]
図1は、実施の形態における推定装置10の構成の一例を示す構成図である。
図2は、
図1に示す回路40の詳細構成の一例を示す構成図である。
【0029】
本開示における推定装置10は、アンテナ素子31A~31Hをそれぞれが有する送受信部30A~30Hと、回路40と、メモリ41とを備える。送受信部30A~30Hにおいて、送信アンテナ素子の総数はM個(Mは2以上の自然数)であり、受信アンテナ素子の総数はN個(Nは2以上の自然数)である。
【0030】
送受信部30A~30Hは、それぞれ2箇所以上(本実施の形態では8箇所)に配置される。本実施の形態では、送受信部30A~30Hは、例えば、平面視において縦6m×横6mの正方形の部屋を所定領域A1とした場合、所定領域A1の4つの角、および、4つの辺の中央の8箇所に配置されている。各送受信部30A~30Hは、水平方向に並ぶ4個のアンテナ素子からなるアレイアンテナを有する。これにより、所定領域A1の周囲には、32個の送信アンテナ素子と32個の受信アンテナ素子とが配置される。なお、上記は、アレイアンテナの配置の一例であり、アレイアンテナは、所定領域A1の4つの角のみに配置されてもよいし、4つの辺のみに配置されてもよいし、4つの辺のいずれかの辺とその両端の角などに配置されてもよい。また、送信アンテナ素子と受信アンテナ素子とは、同じ位置に配置されてもよいし、異なる位置に配置されてもよい。つまり、アレイアンテナは、所定領域A1の周囲を囲うように異なる2箇所以上に配置されていればどのように配置されていてもよい。
【0031】
M個の送信アンテナ素子は、生体50を含む所定領域A1に送信信号を送信する。送信信号は、送信機等により生成されたマイクロ波などの高周波の信号である。生体50は、ヒト等である。生体50は、推定装置10の識別対象であり、生体認証が行われる生体である。所定領域A1とは、予め定められた範囲の空間であり生体50を含む空間である。所定領域A1とは、生体50を識別するための測定対象の領域である。
【0032】
M個の送信アンテナ素子は、例えば、測定対象の生体50である第一生体を含む所定領域A1に第一送信信号を送信する。また、M個の送信アンテナ素子は、教師データとしての既知の生体50である第二生体を含む所定領域A1に第二送信信号を送信する。
【0033】
送受信部30A~30Hは、N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された送信信号が生体50によって反射された反射信号を含む受信信号を所定期間において受信する。例えば、送受信部30A~30Hは、それぞれが有する受信アンテナ素子を用いて、第一生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第一受信信号を所定期間受信する。また、例えば、送受信部30A~30Hは、それぞれが有する受信アンテナ素子を用いて、第二生体によって第二送信信号が反射された反射信号を含む第二受信信号である第一教師信号を所定期間のK倍(Kは2以上)の期間、受信する。
【0034】
本実施の形態では、推定装置10は、
図1に示すように、例えば8個の送受信部30A~30Hと、回路40と、メモリ41とを備える。つまり、M個の送信アンテナ素子及びN個の受信アンテナ素子は、8個の送受信部30A~30Hが有するアンテナ素子31A~31Hで構成されてもよい。なお、送受信部は、8個に限らない。
【0035】
[送受信部30A~30H]
本実施の形態では、8個の送受信部30A~30Hは、所定領域A1の周囲の位置に配置され、ヒト等の生体50を含む所定領域A1に対して送信信号を送信することで、生体50で反射された反射信号を含む受信信号を受信する。例えば、8個の送受信部30A~30Hは、それぞれが等間隔に円形に配置されてもよく、所定領域A1の周囲の角や辺の中央に配置されてもよい。
【0036】
図1に示すように、送受信部30A~30Hはそれぞれ、4個のアンテナ素子31A~31Hを有している。送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、所定領域A1に送信信号を送信する。より具体的には、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、ヒトなどの生体50に対して、マイクロ波を送信信号として発射する。なお、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、無変調の送信信号を送信してもよいし、変調処理が行われた送信信号を送信してもよい。変調処理が行われた送信信号を送信する場合、送受信部30A~30Hは、変調処理を行うための回路をさらに含むとしてもよい。
【0037】
また、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、生体50によって送信信号が反射された信号である反射信号を含む受信信号を所定期間受信する。送受信部30A~30Hは、受信した受信信号を回路40に出力する。なお、送受信部30A~30Hのそれぞれは、受信信号を処理するための回路を含んでいてもよい。この場合、送受信部30A~30Hのそれぞれは、受信した受信信号を周波数変換し、低周波信号に変換してもよい。また、送受信部30A~30Hのそれぞれは、受信信号に復調処理を行ってもよい。そして、送受信部30A~30Hのそれぞれは、周波数変換および/または復調処理することにより得られた信号を回路40に出力する。
【0038】
なお、
図1に示す例では、送信部と受信部とを、それぞれ送信用と受信用とで共通の4個のアンテナ素子を持つ8個の送受信部30A~30Hで構成されるとして表現したが、これに限らない。8個の送受信部30A~30Hは、8個に限らず、2以上の送受信部で構成されてもよい。また、送信アンテナ素子を有する送信部と受信アンテナ素子とを有する受信部とが別々に設けられるとしてもよい。また、1つの送受信部は、4個の送受信を共用する4個のアンテナ素子を有するとしたが、4個の送信アンテナ素子と4個の受信アンテナ素子とを有するとしても良い。また、各送受信部は、4個のアンテナ素子を有するとしたが、4個に限らずに、2個以上のアンテナ素子を有していればいくつのアンテナ素子を有していても良い。
【0039】
なお、
図1では、推定装置10は、8個の送受信部30A~30Hと、1個の回路40を備える構成を例示しているが、これに限らずに、1個の送受信部ごとに1個の回路40を有する構成としてもよく、このように複数の回路40を備える構成の場合、回路40による後段処理を分散処理してもよい。
【0040】
[回路40]
回路40は、推定装置10を動作させる各種処理を実行する。回路40は、例えば、制御プログラムを実行するプロセッサと、当該制御プログラムを実行するときに使用するワークエリアとして用いられる揮発性の記憶領域(主記憶装置)とにより構成される。この記憶領域は、例えば、RAM(Randdom Access Memory)である。
【0041】
回路40は、N個の受信アンテナ素子のそれぞれから取得した第一受信信号を、記憶領域に所定期間、一時的に記憶する。回路40は、第一受信信号の位相及び振幅を当該記憶領域に所定期間、一時的に記憶してもよい。本実施の形態では、回路40は、送受信部30A~30Hのそれぞれから取得した受信信号を記憶領域に所定期間、一時的に記憶する。
【0042】
なお、回路40は、推定装置10を動作させる各種処理を行うための専用回路により構成されていてもよい。つまり、回路40は、ソフトウェア処理を行う回路であってもよいし、ハードウェア処理を行う回路であってもよい。また、回路40は、不揮発性の記憶領域を有していてもよい。
【0043】
続いて、回路40の機能的な構成について説明する。
【0044】
回路40は、
図2に示すように、第一行列算出部410と、推定部411と、判定部412と、生体識別部413と、追加部414とを有する。
【0045】
<第一行列算出部410>
第一行列算出部410は、複素伝達関数測定用の既知信号をM個の送信アンテナ素子を用いて送信する。そして、第一行列算出部410は、N個の受信アンテナのそれぞれにより受信された受信信号を既知信号にて除算して推定する。
【0046】
より具体的には、まず、第一行列算出部410は、受信信号とメモリ41に記憶されている既知信号とを用いて、それぞれの第一行列H(t)を算出する。
【0047】
ここで、Mr個の受信アンテナ素子とMt個の送信アンテナ素子とで構成されるMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)アレイアンテナを所定領域A1の周囲に配置した場合に得られる第一行列H(t)は、以下の(式1)で表される。
【0048】
【0049】
(式1)において、hijはj番目の送信機からi番目の受信機の複素チャネル応答を示し、tは観測時間を示す。
【0050】
このように、第一行列算出部410は、N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の受信信号のそれぞれから、M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出する。つまり、第一行列算出部410は、送受信部30A~30Hにおいて所定期間に観測されたN個の受信信号を用いて、M個の送信アンテナ素子とN個の受信アンテナ素子とを1対1で組み合わせたときに取り得る全ての組み合わせであるM×N個の組合せのそれぞれについて、当該組合せにおける送信アンテナ素子と受信アンテナ素子との間の伝搬特性を表す複素伝達関数を算出することで、M×Nの複素伝達関数行列をM×Nの第一行列として算出する。
【0051】
<推定部411>
推定部411は、算出された第一行列を用いて、推定装置10に対する生体の存在する位置および生体の向きの組をN個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定する。推定部411は、例えば、算出された第一行列を参照し、特許文献2または非特許文献1に記載の方法などを用いて、所定領域A1に存在する生体の位置および向きを推定する。
【0052】
<判定部412>
判定部412は、逐次推定された複数の組のそれぞれについて、当該組の生体の位置が所定領域A1のうちの識別領域としてメモリ41に予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、当該組の生体の向きがメモリ41に予め記憶されている方向を基準とした所定範囲内の向きであるか否かを判定する。具体的には、判定部412は、メモリ41に記憶されている教師データ42のうちの識別領域を参照し、参照した識別領域において第一教師領域に紐付けされた生体の第一教師位置、および、第一教師向きを参照する。ここで、識別領域のうちの第一識別領域は、第一教師信号と、第一教師信号を受信したときの生体の位置である第一教師位置、および、生体の向きである第一教師向きと、生体を識別する識別情報(生体ID)とが紐付けられた情報である。識別情報は、例えば、生体を一意に識別する識別番号、文字列などである。判定部412は、例えば、基準となる第一教師位置の±25cmの範囲内の位置であること、かつ、基準となる第一教師向きの±20度の範囲内の向きであることを第一識別領域の条件とし、推定部411により得られた所定領域A1に存在する生体の推定位置、および、推定向きが、第一判定時間以上、例えば5秒以上の間にわたって、第一識別領域の条件を満たすか否かを判定する。
【0053】
ここで、第一判定時間は、5秒以上に限らずに、信頼性をさらに向上させたい場合は、5秒を超える長時間に設定されても良いし、短時間での判定を行う場合は5秒未満の短い時間に設定されてもよい。また、第一識別領域の位置の範囲は、基準位置の±25cmの範囲に限るものではなく、また、第一識別領域の向き範囲も、基準の向きの±20度の範囲に限るものではない。これらの、時間、位置の範囲、または、向きの範囲は、適用先の要件に合わせて、増減してもよい事は言うまでもない。
【0054】
<生体識別部413>
生体識別部413は、判定部412にて生体が第一識別領域の条件を満たすと判定された場合、受信信号の時間波形と、第一識別領域において予め取得された生体に対応する第一教師信号とに基づき、例えば、非特許文献2に記載の方法などを用いて生体識別を行う。具体的には、生体識別部413は、教師信号と、受信信号を受信することにより得られたM×N個の受信信号とから複数の相関係数を算出し、算出した複数の相関係数を用いて、第一生体と第二生体とが同一であるか否かを判定することで、第一生体を識別する。生体識別部413は、メモリ41において記憶されている第一識別領域において、第一教師信号に紐付けされた生体を識別する識別情報を特定し、生体識別結果を出力またはメモリ41に格納する。
【0055】
また、生体識別部413は、メモリ41に記憶されている教師データに、既に同じ第一教師位置および第一教師向きで複数の第二生体に対応する複数の教師信号が含まれている場合、複数の教師信号のそれぞれについて、上記生体識別を行ってもよい。この場合、生体識別部413は、第一生体を、複数の第二生体のうち第一生体と同一と判定された第二生体として識別する。
【0056】
<追加部414>
追加部414は、識別済みの生体が次に推定された生体の次の位置を示す情報に基づき、次の位置に基づく新たな識別領域を、識別済みの生体を識別するための識別領域として追加する。これにより、メモリ41の教師データ42には、第一生体を識別するための第一識別領域に、新たな第二識別領域が追加される。具体的には、追加部414は、生体識別部413により生体が生体識別済となった場合、例えば0.5秒間隔などのように定期的に推定部411により得られる複数の推定結果を元に、当該生体を追従し続ける。追加部414は、例えば、複数の推定結果に基づいて、当該生体の移動軌跡を生成することで、当該生体を追従してもよい。
【0057】
更に、追加部414は、第一識別領域と異なる第二識別領域において第二判定時間以上静止した場合、第二判定時間における受信信号と、当該受信信号を用いて推定された生体の位置である第二教師位置、および、生体の向きである第二教師向きとに基づき、第二識別領域における第二教師信号を生成する。第二教師信号は、第一教師信号とは異なる波形を有する。追加部414は、具体的には、当該生体が第一識別領域の条件の基準となる第一教師位置および第一教師向きのうちのいずれか1つに一致しない位置および向きで、第二判定時間以上、例えば5秒以上静止したか否かを示す、判定部412による判定結果を用いて処理を行う。第二判定時間は、第一判定時間と同じであってもよいし、異なっていてもよい。そして、追加部414は、生体識別済みの生体が当該位置および当該向きで第二判定時間以上静止したと判定部412により判定された場合、当該位置を第二教師位置とし、かつ、当該向きを第二教師向きとし、第二教師位置および第二教師向きと、第二判定時間において得られた受信信号である第二教師信号とを紐付けることで第二教師データを生成する。なお第二判定時間は、5秒間に限らずに、10秒、15秒などの時間であってもよい。
【0058】
その後、追加部414は、生成した第二教師データを第二識別領域としてメモリ41に記憶する。つまり、追加部414は、生成した第二教師信号を第二識別領域において識別済みの生体を識別するための教師信号としてメモリ41の識別領域に追加する。
【0059】
これにより、次のタイミングで第一生体を識別するときに、生体識別部413は、推定部411による推定結果に基づいて、第一生体が第一識別領域または第二識別領域において所定時間以上静止していると推定された場合、受信信号の時間波形と、第一識別領域または第二識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号および第二教師信号とに基づき第一生体を識別することができる。
【0060】
図3を用いて、具体例を説明する。
図3は、実施の形態における推定装置10による識別試験に用いた環境を示す図である。なお、識別試験の詳細については後述する。
【0061】
推定装置10は、最初に
図3の生体が位置50Aに存在する際に生体識別を行う。そして、生体が次に位置50Bに移動し、位置50Bで第二判定時間以上静止する場合、追加部414は、位置50Aから位置50Bまで当該生体の移動軌跡を追従し、追従した生体を生体識別した生体であると認識する。そして、生体が第二判定時間以上静止した位置50Bは第一識別領域の条件に一致しないため、推定装置10の追加部414は、第二判定時間以上静止した時点で位置50Bおよび当該位置50Bにおける生体の向きと、位置50Bに静止してから第二判定時間の間に得られた教師信号とを、既に識別した生体の識別情報とともに、教師データとしてメモリ41に記憶する。生体が位置50Bから位置50Cに移動し、位置50Cで第二判定時間以上静止した場合、推定装置10の追加部414は、位置50Bで第二判定時間以上静止した場合と同様の処理を行う。
【0062】
[メモリ41]
メモリ41は、不揮発性の記憶領域を有する補助記憶装置であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などである。メモリ41は、例えば、推定装置10を動作させる各種処理に利用される情報を記憶している。
【0063】
メモリ41は、
図1に示すように、教師データ42を記憶している。この教師データ42は、所定領域A1内の任意の位置および向きで静止中の既知の生体50について予め取得された受信信号の信号波形である。具体的には、教師データ42は、
図4に示すように、各生体を識別する識別情報と、識別領域と、教師信号とを含み、識別情報、識別領域および教師信号が互いに紐付けられている情報である。なお、
図4は、メモリ41に記憶されている教師データの一例を示す図である。
【0064】
識別領域は、教師位置および教師向きを含む。識別領域は、教師位置を基準とする所定範囲の領域と、教師向きを基準とする所定範囲の向きとを含んでいてもよい。識別領域は、教師位置および教師向きのそれぞれを基準として特定され、判定部412による判定の条件を決定するために用いられる。
【0065】
教師信号は、生体の位置および向きが、対応する識別領域で特定される条件を第一判定時間または第二判定時間以上満たす場合に、取得された受信信号の信号波形である。生体、生体の位置、および、生体の向きのいずれか1つが異なれば、異なる信号波形の受信信号が得られる。このため、教師信号は、生体、生体の位置、および、生体の向きのいずれか1つが異なれば、異なる信号波形を有する。よって、推定装置10は、第一生体の位置、第一生体の向きおよび受信信号が教師データにおける、識別領域および教師信号に一致すれば、第一生体は、一致した識別領域および教師信号に紐付けられている識別情報で示される第二生体と同一であると推定することができる。
【0066】
また、教師信号は、第二生体に対してM個の送信アンテナ素子より送信された第二送信信号が第二生体によって反射された反射信号を含む第二受信信号をN個の受信アンテナ素子に予め受信させることにより得られたM×N個の第二受信信号である。ここで、教師信号は、所定期間のK倍(Kは2以上)の期間、N個の受信部が予め第二受信信号を受信することにより得られたM×N個の第二受信信号であってもよい。
【0067】
本実施の形態では、M個の送信アンテナ素子及びN個の受信アンテナ素子は、
図1に示すように8個の送受信部30A~30Hで構成されている。この場合における教師信号の一例について
図5を用いて説明する。
図5は、
図1に示す教師信号の一例を示す図である。
図5に示す教師信号43は、1個の送受信部が測定期間において受信した受信信号の一例である。
【0068】
図5に示す教師信号43は、所定領域A1にて任意の位置、向きにて静止中の既知の生体50(第二生体)に対して、アンテナ素子31A~31Hから送信された送信信号が当該生体50の表面によって反射された反射信号を含む受信信号を、送受信部30A~30Hが予め受信することにより得られた複数の受信信号の時間応答波形であり、被測定時の位置および向きの推定結果と共に記憶される。つまり、
図5に示す教師信号43は、送受信部30A~30Hが反射信号を含む受信信号を、測定期間において、予め受信することにより得られた複数の受信信号である。ここで、測定期間は、上記の所定期間のK倍(Kは2以上)の期間である。測定期間は、例えば120〔s〕であるが、これに限らない。ヒトの心拍の周期以上であればよいので、3〔s〕でもよいし、10〔s〕でもよいし、30〔s〕でもよい。
【0069】
このようにして、推定装置10は、送受信部30A~30Hで受信された受信信号を、回路40で処理することで、生体50を識別することができる。
【0070】
[推定装置10の動作]
次に、以上のように構成された推定装置10の動作について説明する。
図6は、実施の形態における推定装置10の初期設定動作の一例を示すフローチャートである。
図7は、実施の形態における推定装置10の動作の一例を示すフローチャートである。
【0071】
まず、推定装置10は、初期設定として
図6のフローチャートのように教師信号を記録する。より具体的には、推定装置10は、M個の送信アンテナ素子を用いて、第一生体を含む所定領域A1に第一送信信号を送信する。そして、推定装置10は、N個の受信アンテナ素子のそれぞれが、第一生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第一受信信号を所定期間受信する(S11)。例えば、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hに所定領域A1へ送信信号を送信させる。
【0072】
次に、生体であるユーザに、所定の位置において、所定の向きで静止するように指示する(S12)。例えば、
図3に示すように、所定の範囲A1の中央の位置50Aで、TV70側を向いたまま静止するようにユーザに指示する。
【0073】
これにより、推定装置10は、ユーザが所定の位置において静止した状態で、第一送信信号を送信し、ユーザによって第一送信信号が反射された反射信号を含む第一受信信号を所定期間受信することができる。なお、ステップS11およびステップS12の順番は、上記に限らずに、ステップS12をステップS11よりも先に行ってもよいし、ステップS11およびS12を並行して行ってもよい。
【0074】
そして、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、第一生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第一受信信号を例えば60秒など所定期間受信し、回路40は、第一受信信号を既知信号で除算する事で教師信号としてメモリ41に記憶する(S13)。また、回路40は、メモリ41に当該生体の位置(教師位置)および向き(教師向き)と教師信号と共に当該生体を識別するIDとして生体ID(識別情報)を紐付けて記憶する。
【0075】
ここで、最初に教師信号を取得するために指定する位置および向きは、ユーザが予め手動で設定しても良い。また、教師信号を取得するための教師位置及び教師向きは、推定装置10により指定されなくてもよく、推定装置10の推定部411により生体の位置推定および向き推定を行い推定された位置および向きを、それぞれ教師位置および教師向きとしてメモリ41に記憶してもよい。
【0076】
次に教師データ取得後、実運用時の動作について
図7を用いて説明する。
【0077】
まず、推定装置10は、M個の送信信号を送信し、N個の受信信号を受信する。より具体的には、推定装置10は、M個の送信アンテナ素子を用いて、第二生体を含む所定領域A1に第一送信信号を送信する。そして、推定装置10は、N個の受信アンテナ素子のそれぞれが、第二生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第二受信信号を所定期間受信する。本実施の形態では、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hに、識別対象の生体50である第二生体を所定領域A1内に配置した状態で、所定領域A1へ送信信号を送信させる。そして、送受信部30A~30Hは、アンテナ素子31A~31Hを用いて、第一生体によって第一送信信号が反射された反射信号を含む第二受信信号を所定期間受信し、回路40の第一行列算出部410は、既知信号で除算する事で第一行列を算出する(S21)。
【0078】
図8は、受信した受信信号より算出した伝搬チャネルの一例を示す図である。
【0079】
図3に示す識別試験では、例えば、上述したように平面視において縦6m×横6mの正方形の部屋を所定領域A1とし、送受信部30A~30Hに相当する8台の送受信機を所定領域A1の周囲に配置している。8台の送受信機は、それぞれ、所定領域A1の4つの角と4つの辺の中央とに配置されている。被験者である生体は、識別試験において識別対象の生体50すなわち第一生体に相当する。また、アンテナ素子31A~31Hに相当する受信アンテナ素子及び送信アンテナ素子は、1素子が方形パッチアンテナであり、水平方向に並ぶ例えば4個のアンテナ素子からなるアレイアンテナである。より具体的には、8台の送受信機が有する32個の受信アンテナ素子は、それぞれ方形パッチアンテナであり、床面から0.9mの高さに設置されている。8台の送受信機が有する32個の送信アンテナ素子は、対応する受信アンテナ素子のマイクロ波の1波長分、当該受信アンテナ素子の真上に配置されている。
【0080】
なお、
図8に示すように、伝搬チャネルの成分h
1_1および成分h
3_3が他の成分に比べて周期的で大きな変動を示しており、同様の波形となっていることが分かる。成分h
1_1
やh
3_3は被験者50aの正面にある受信アンテナ素子のチャネル応答である。
【0081】
その他の成分は、被験者50aの背面または側面にある受信アンテナ素子のチャネル応答である。つまり、生体の背面及び側面の変動は小さいことが分かる。これは生体活動による変動は生体の正面の胸部及び/または腹部で起こるためと考えられる。
【0082】
次に、推定装置10の回路40の推定部411は、第一行列算出部410において算出された第一行列を用いて当該生体の位置および向きを推定する(S22)。推定部411は、より具体的には特許文献2記載のMUSIC法を用いる推定、非特許文献1記載の第一行列の特徴量を用いる推定などで生体の位置および向きを推定する。
【0083】
次に、回路40の判定部412は、メモリ41に記憶されている教師データ42から、教師信号、教師位置、教師向き、および識別情報(生体ID)を参照し、当該生体の推定位置および、推定向きが識別領域の条件に一致しているか否かの判定を行う(S23)。
【0084】
次に、ステップS23において生体が識別領域の条件に一致していると判定された場合(S23でYes)、生体識別部413は、非特許文献2記載の方法を用いて、教師信号と前記第一行列の相関計算を行うことで、生体識別の判定を行う(S24)。生体識別部413は、生体の生体識別の結果、教師データ42において生体IDが含まれる生体と一致すると判定された場合(S24でYes)、推定された当該生体の位置を示す位置データに当該教師信号と紐付けられている生体IDを付与する。
【0085】
次に前記生体の生体識別の結果、教師データ42において生体IDが含まれる生体と一致すると判定された場合(S24でYes)、例えば0.5秒など定期的に第一行列の算出と当該生体の位置および向きを推定し続ける。具体的には、ステップS21およびステップS22とそれぞれ対応するステップS25およびステップS26が行われる。これにより、ステップS24において識別済みの生体が新たに推定された位置が得られ、新たに推定された位置を示す位置データには、特定された生体IDが付与される。このようにして、識別済みの生体の追従が行われる。
【0086】
そして、判定部412は、ステップS25およびS26により得られた位置データを用いて、メモリ41に既に記憶されている識別領域の条件に一致しない条件にて当該生体が第二判定時間以上、例えば、5秒以上静止するか否かを判定する(S27)。
【0087】
ステップS27において、生体が識別領域の条件に一致している、または、第二判定時間以上静止していないと判定された場合(S27でNo)、ステップS25に戻る。例えば、これにより次に行われるステップS27は、前回のステップS27が行われた時から0.5秒後に行われてもよい。これにより、ステップS27でNoと判定される場合、定期的にステップS25~S27が行われることになる。
【0088】
なお、ステップS25およびステップS26を定期的に繰り返し行い、これにより得られた複数の位置データを用いて、ステップS27において、生体が5秒以上静止するか否かを判定してもよい。
【0089】
そして、ステップS27において識別領域の条件に一致しない条件にて当該生体が5秒以上静止したと判定された場合(S27でYes)、5秒以上静止しているときの、当該生体の位置、当該生体の向き、および、静止中に取得された受信信号から得られた第一行列を紐付けることで教師データを生成し、生成した教師データを新たな識別領域としてメモリ41に追加する(S28)。
【0090】
被験者となる生体は、所定領域A1に不在の状態から侵入した時点では生体識別されてない状態であるが、識別領域の条件に一致した状態で静止したときより生体識別が実施される。生体識別において、教師信号と第一行列の相関係数が高く、教師信号に紐付けられた生体IDの生体と同一であると判定された場合は、当該生体は、その後定期的に位置推定され当該位置に生体IDが紐付けられることでトラッキングされる。さらに、生体識別後において、識別済みの生体が、メモリ41に記憶されている識別領域の条件に一致しない状態で静止した場合は、静止した位置および向きで得られた受信信号が当該位置および向きとともにメモリ41の教師データに新たな識別領域として追加される。このように、識別済みの生体に対して、生体識別以後において、識別領域を追加していく事で、当該生体が生体識別可能な識別領域を増やすことができる。このため、所定領域A1での活動時に識別済みの生体が所定領域A1から一旦出た後に、所定領域A1に再度侵入した場合の当該生体に対する生体識別をしやすくすることができる。
【0091】
[効果等]
本実施の形態に係る推定装置10によれば、所定領域A1の周囲の例えば8カ所に設置した送受信機のそれぞれから送信波を送信して、受信信号を受信する。そして、推定装置10は、所定領域A1に侵入した生体の位置および向きを定期的に推定し、識別領域の条件に一致するか判定し続ける。その後、推定装置10は、推定された当該生体の位置および向きが識別領域の条件を満たした場合に生体識別を行い、生体識別の結果、教師データ42に含まれる第二生体と一致するか否かを判定する。そして、推定装置10は、生体識別において第二生体と一致すると判定された第一生体の位置および向きを推定することで、第一生体の追従を行い、教師データ42における識別領域の条件に一致しない条件で第一生体が静止した場合、当該静止位置、および、向きをそれぞれ教師位置および教師向きとし、また、このときに得られた受信信号から算出された第一行列を新たに記録する。これにより、新たな識別領域を追加することができ、第一生体を識別する領域を既に教師データ42に記録されている領域を増やすことができる。このため、測定対象の領域が比較的大きな空間であっても、測定対象の領域において第一生体を改めて識別する場合に、第一生体を効率よく識別することができる。
【0092】
なお、この生体識別では、設置するアンテナ素子の本数が多いほど、識別成功率は向上することもわかった。
【0093】
(実施の形態2)
実施の形態2では、送信アンテナアレイ、および受信アンテナアレイを垂直方向にもアレイ化し、生体の位置、および、向きに加え、高さ、または、姿勢を推定する推定装置10Aおよびその推定方法について説明する。
【0094】
[推定装置10Aの構成]
図9は、実施の形態2における推定装置10Aの構成の一例を示すブロック図である。
図10は、
図9に示す回路の詳細構成の一例を示す構成図である。
図9および
図10には、
図1および
図2と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。実施の形態2において、実施の形態1と同じ要素については特に言及が無い限り、同様の動作、バリエーションがあるとし、重複した説明は省略する。
【0095】
実施の形態2における推定装置10Aは、アンテナ素子61A~61Hをそれぞれが有する送受信部30A~30Hと、回路40Aと、メモリ41とを備える。
【0096】
[アンテナ素子61A~61H]
送受信部30A~30Hは、M個(Mは2以上の自然数)のアンテナ素子61A~61Hを有する。M個のアンテナ素子61A~61Hが水平面上の第一所定方向と垂直面上の第二所定方向に並んで配置されることで構成されるアレイアンテナを有する。本実施の形態では、送信部と受信部とを一体とし送受信部としたため、アンテナ素子も送信アンテナ素子と受信アンテナ素子とで共用しているが、送信アンテナ素子と受信アンテナ素子とをそれぞれ別に配置してもよい。
【0097】
このように、M個の送信アンテナ素子のうち少なくとも3個の送信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置される。また、N個の受信アンテナ素子のうち少なくとも3個の受信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置される。
【0098】
[回路40A]
回路40Aは、回路40と同様のハードウェア構成であるため、その説明を省略する。回路40Aは、回路40とは機能的な構成が異なる。具体的には、回路40Aは、推定部411、判定部412および追加部414の代わりに、それぞれ、3次元推定部411A、判定部412Aおよび追加部414Aを有する。第一行列算出部410および生体識別部413は、回路40と同様であるので説明を省略する。
【0099】
<3次元推定部411A>
アンテナ素子61A~61Hを送信アンテナ、および、受信アンテナとして採用することで、3次元推定部411Aは、特許文献2に開示された方法を用いることにより生体の位置、および、向き推定に加え、生体の高さ方向の位置の推定、および、生体の姿勢を推定する。
【0100】
具体的には、3次元推定部411Aは、算出された第一行列を用いて、推定装置に対する第一生体の存在する3次元位置、および、第一生体の向きの組をN個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定する。3次元位置は、平面視における二次元位置に加えて、鉛直方向における第一生体の位置である鉛直位置を含む。
【0101】
また、3次元推定部411Aは、逐次推定された複数の3次元位置のそれぞれについて、当該3次元位置と、送信アンテナ素子の位置と、受信アンテナ素子の位置と、に基づいて、第一生体に対するRCS値を逐次算出する。そして、3次元推定部411Aは、逐次推定された複数の3次元位置、および、逐次算出されたRCS値の時間的変化と、メモリ41に記憶されている対応関係を示す情報と、を用いて、複数の組のそれぞれにおける第一生体の姿勢を逐次推定する。
【0102】
なお、対応関係を示す情報とは、推定装置10Aに対する第一生体の存在する鉛直方向における位置である鉛直位置、および、RCS値の時間的変化と、第一生体の動作とが対応付けられた情報である。対応関係を示す情報とは、仰臥、胡坐、椅座および直立で示される各姿勢に予め対応付けられたRCS値の範囲および高さの範囲を示す情報である。例えば、仰臥は、第1RCS範囲および第1高さ範囲と対応付けられており、胡坐は、第2RCS範囲および第2高さ範囲と対応付けられており、椅座は、第3RCS範囲および第3高さ範囲と対応付けられており、直立は、第4RCS範囲および第4高さ範囲と対応付けられている。なお、第1RCS範囲~第4RCS範囲は、それぞれ異なるRCS値の範囲である。また、第1高さ範囲~第4高さ範囲は、それぞれ異なる高さの範囲である。
【0103】
<判定部412A>
判定部412Aは、推定された組において、当該組の3次元位置が、所定領域A1のうち、識別領域としてメモリ41に予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きがメモリ41に予め記憶されている第一方向を基準とした所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢がメモリ41に予め記憶されている第一姿勢と一致するか否かを判定する。具体的には、判定部412Aは、メモリ41に記憶されている教師データ42Aのうちの識別領域を参照し、参照した識別領域において第一教師信号に紐付けされた生体の第一教師位置、第一教師向きおよび第一教師姿勢を参照する。ここで、識別領域のうちの第一識別領域は、第一教師信号と、第一教師信号を受信したときの生体の位置である第一教師位置、当該生体の向きである第一教師向きと、当該生体の姿勢である第一教師姿勢と、生体を識別する識別情報とが紐付けられた情報である。メモリ41に記憶されている教師データ42Aは、
図11に示すように、識別領域は、教師位置および教師向きの他に、教師姿勢を含む点が、実施の形態1における教師データ42と異なる。なお、
図11は、実施の形態2におけるメモリに記憶されている教師データの一例を示す図である。
【0104】
このように、判定部412Aは、3次元推定部411Aの推定結果を元に判定条件に推定位置、および、推定向きに対し、推定姿勢を加え、識別領域の条件に一致するか判定する。より具体的には、判定部412Aは、生体の位置、および、生体向きの条件に加え、立位、座位、臥位などの生体の姿勢が教師データ取得時の条件と一致するか否かを判定する。
【0105】
<生体識別部413>
生体識別部413は、実施の形態1の生体識別部413と同様に、判定部412Aにて生体が第一識別領域の条件を満たすと判定された場合、受信信号の時間波形と、第一識別領域において予め取得された生体に対応する第一教師信号とに基づき、例えば、非特許文献2に記載の方法などを用いて生体識別を行う。第一識別領域の条件とは、推定された組の第一生体の3次元位置が第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が第一の姿勢と一致することである。
【0106】
<追加部414A>
追加部414Aは、実施の形態1の追加部414の機能に対し、判定条件として生体の姿勢が追加されている。追加部414Aは、識別済みの第一生体が次に推定された第一生体の次の位置を示す情報に基づき、次の位置に基づく新たな識別領域を、識別済みの第一生体を識別するための識別領域として追加する。これにより、メモリ41の教師データ42Aには、第一生体を識別するための第一識別領域に、新たな第二識別領域が追加される。より具体的には、追加部414Aは、生体識別部413により生体が生体識別済みとなった場合、例えば0.5秒間隔などのように定期的に3次元推定部411Aにより得られる複数の推定結果を元に、当該生体を追従し続ける。
【0107】
更に、追加部414Aは、第一識別領域と異なる第二識別領域において第二判定時間以上静止した場合、第二判定時間における受信信号と、当該受信信号を用いて推定された生体の位置である第二教師位置、生体の向きである第二教師向き、および、生体の姿勢である第二教師姿勢とに基づき、第二識別領域における第二教師信号を生成する。第二教師信号は、第一教師信号とは異なる波形を有する。追加部414Aは、具体的には、当該生体が第一識別領域の条件の基準となる第一教師位置、第一教師向き、および、第一教師姿勢のうちのいずれか1つに一致しない位置、向き、および、姿勢で、第二判定時間以上、例えば5秒以上静止したか否かを示す判定部412Aによる判定結果を用いて処理を行う。そして、追加部414Aは、生体識別済みの生体が当該位置、当該向き、および、当該姿勢で第二判定時間以上静止した場合、当該位置を第二教師位置とし、かつ、当該向きを第二教師向きとし、かつ、当該姿勢を第二教師姿勢とし、第二教師位置、第二教師向き、および、第二教師姿勢と、第二判定時間において得られた受信信号である第二教師信号とを紐付けることで第二教師データを生成する。
【0108】
これにより、次のタイミングで第一生体を識別するときに、生体識別部413は、推定部411による推定結果に基づいて、第一生体が第一識別領域または第二識別領域において所定時間以上静止していると推定された場合、受信信号の時間波形と、第一識別領域または第二識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号および第二教師信号とに基づき第一生体を識別することができる。
【0109】
[推定装置10Aの動作]
次に、以上のように構成された推定装置10Aの動作について説明する。
図12は、実施の形態2における推定装置10Aの動作の一例を示すフローチャートである。
図12において実施の形態1のフローチャートと同じ動きをする箇所は同一の符号を示し、説明を省く。
【0110】
ステップS21の後で、推定装置10Aの回路40Aの3次元推定部411Aは、第一行列算出部410において算出された第一行列を用いて当該生体の位置、向きおよび姿勢を推定する(S22A)。推定装置10Aのアンテナ素子61A~61Hは、それぞれ、複数のアンテナ素子が水平方向および垂直方向にアレイ化されている為、当該生体の位置および向きに加え、高さ、および、姿勢も推定可能である。
【0111】
次に、回路40Aの判定部412Aは、メモリ41に記憶されている教師データ42Aから、教師信号、教師位置、教師向き、教師姿勢および識別情報(生体ID)を参照し、当該生体の推定3次元位置、推定向き、および推定姿勢が識別領域の条件に一致しているか否かの判定を行う(S23A)。
【0112】
更にステップS24の当該生体の生体識別後、教師データ42Aにおいて生体IDが含まれる生体と一致すると判定された場合、例えば0.5秒など定期的に第一行列の算出と、当該生体の3次元位置、向き、および姿勢を推定し続ける。具体的には、ステップS21およびステップS22Aとそれぞれ対応するステップS25およびステップS26Aが行われる。これにより、ステップS24において識別済みの生体が新たに推定された3次元位置が得られ、新たに推定された3次元位置を示す位置データには、特定された生体IDが付与される。このようにして、識別済みの生体の追従が行われる。
【0113】
そして、判定部412Aは、ステップS25およびS26Aにより得られた位置データを用いて、メモリ41に既に記憶されている識別領域の条件に一致しない条件にて当該生体が第一判定時間以上、例えば5秒以上静止するか否かを判定する(S27)。
【0114】
ステップS27において、生体が識別領域の条件に一致している、または、第一判定時間以上静止していないと判定された場合(S27でNo)、ステップS25に戻る。例えば、これにより次に行われるステップS27は、前回のステップS27が行われた時から0.5秒後に行われてもよい。これにより、ステップS27でNoと判定される場合、定期的にステップS25~S27が行われることになる。
【0115】
なお、ステップS25およびステップS26を定期的に繰り返し行い、これにより得られた複数の位置データを用いて、ステップS27において、生体が5秒以上静止するか否かを判定してもよい。
【0116】
そして、ステップS27において識別領域の条件に一致しない条件にて当該生体が第二判定時間(5秒以上)静止したと判定された場合(S27でYes)、5秒以上静止しているときの、当該生体の3次元位置、当該生体の向き、当該生体の姿勢、静止中に取得された受信信号から得られた第一行列を紐付けることで教師データを生成し、生成した教師データを新たな識別領域である第二識別領域としてメモリ41に追加する(S28)。
【0117】
[効果等]
本実施の形態に係る推定装置10Aによれば、所定領域A1の周囲の例えば8カ所に設置した送受信機のそれぞれから送信波を送信して、受信信号を受信する。そして、推定装置10Aは、所定領域A1に侵入した生体の3次元位置、向き、および、姿勢を定期的に推定し、識別領域の条件に一致するか判定し続ける。その後、推定装置10Aは、推定された当該生体の位置、向き、および、姿勢が識別領域の条件を満たした場合に生体識別を行い、生体識別の結果、教師データ42Aに含まれる第二生体と一致するか否かを判定する。そして、推定装置10Aは、生体識別において第二生体と一致すると判定された第一生体の位置、向き、および、姿勢を推定することで、第一生体の追従を行い、教師データ42Aにおける識別領域の条件に一致しない条件で第一生体が静止した場合、当該静止位置、向き、および、姿勢をそれぞれ教師位置、教師向き、および、教師姿勢とし、また、このときに得られた受信信号から算出された第一行列を新たに記録する。これにより、新たな識別領域を追加することができ、第一生体を識別する領域を既に教師データ42に記録されている領域を増やすことができる。このため、測定対象の領域が比較的大きな空間であっても、測定対象の領域において第一生体を改めて識別する場合に、第一生体を効率よく識別することができる。
【0118】
なお、上記各実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ここで、上記各実施の形態の識別装置などを実現するソフトウェアは、次のようなプログラムである。
【0119】
すなわち、このプログラムは、コンピュータに、M個(Mは2以上の自然数)の送信アンテナ素子およびN個(Nは2以上の自然数)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、逐次推定された複数の前記組のそれぞれについて、(i)当該組の第一生体の位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、(ii)当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている方向を基準とした所定範囲内の向きであるか否かを判定し、推定された前記組の第一生体の位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、推定された前記組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きである場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号とに基づき前記第一生体を識別し、推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置を示す情報に基づく新たな識別領域を、前記識別済みの第一生体を識別するための前記識別領域として追加する推定方法を実行させる。
【0120】
また、このプログラムは、コンピュータに、M個(Mは3以上)の送信アンテナ素子およびN個(Nは3以上)の受信アンテナ素子からなるアンテナ部と、メモリとを備える推定装置による推定方法であって、前記メモリは、前記推定装置に対する第一生体の存在する鉛直方向における位置である鉛直位置、および、RCS(Rader cross-section)値の時間的変化と、前記第一生体の動作との対応関係を示す情報を記憶しており、前記M個の送信アンテナ素子のうち少なくとも3個の送信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、前記N個の受信アンテナ素子のうち少なくとも3個の受信アンテナ素子は、それぞれ、鉛直方向および水平方向の異なる位置に配置され、前記推定方法では、測定対象の領域に前記M個の送信アンテナ素子を用いて送信信号を送信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにより受信された信号であって、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれから送信された前記送信信号が第一生体によって反射された反射信号を含む受信信号を受信し、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれにおいて所定期間で受信されたN個の前記受信信号のそれぞれから、前記M個の送信アンテナ素子のそれぞれと、前記N個の受信アンテナ素子のそれぞれとの間の伝搬特性を示す各複素伝達関数を成分とする、M×Nの第一行列を算出し、算出された前記第一行列を用いて、前記推定装置に対する前記第一生体の存在する3次元位置であって、前記鉛直位置を含む3次元位置および前記第一生体の向きの組を前記N個の受信信号が受信された順である時系列に逐次推定し、逐次推定された複数の前記3次元位置のそれぞれについて、当該3次元位置と、前記送信アンテナ素子の位置と、前記受信アンテナ素子の位置と、に基づいて、前記第一生体に対するRCS値を逐次算出し、逐次推定された前記複数の3次元位置、および、逐次算出されたRCS値の時間的変化と、前記メモリに記憶されている前記対応関係を示す情報と、を用いて、前記複数の組のそれぞれにおける前記第一生体の姿勢を逐次推定し、推定された前記組において、当該組の3次元位置が、前記測定対象の領域のうち、識別領域として前記メモリに予め記憶されている第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記メモリに予め記憶されている第一方向を基準とした所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記メモリに予め記憶されている第一の姿勢と一致するか否かを判定し、推定された前記組の第一生体の3次元位置が前記第一識別領域内にあり、かつ、当該組の第一生体の向きが前記所定範囲内の向きであり、かつ、当該組における第一生体の姿勢が前記第一の姿勢と一致する場合、前記受信信号の時間波形と、前記第一識別領域において予め取得された、第二生体に対応する第一教師信号とに基づき前記第一生体を識別し、推定された、識別済みの前記第一生体の次の位置を示す情報に基づく新たな識別領域を、前記識別済みの第一生体を識別するための前記識別領域として追加する推定方法を実行させる。
【0121】
以上、本発明の一つまたは複数の態様に係る推定装置10、10Aについて、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本開示は、無線信号を利用して生体を識別する推定装置及び識別方法に利用でき、特に、生体に応じた制御を行う家電機器、生体の侵入を検知する監視装置などに搭載される推定装置及び識別方法に利用できる。
【符号の説明】
【0123】
10 推定装置
30A~30H 送受信部
31A~31H アンテナ素子
61A~61H アンテナ素子
40 回路
41 メモリ
42 教師データ
50 生体
50a 被験者
410 第一行列算出部
411 推定部
412 判定部
413 生体識別部
414 追加部