(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 29/02 20060101AFI20240202BHJP
F04B 39/04 20060101ALI20240202BHJP
F04B 39/12 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
F04C29/02 351A
F04B39/04 J
F04B39/12 101D
F04C29/02 361A
(21)【出願番号】P 2020108296
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(74)【代理人】
【識別番号】100115554
【氏名又は名称】野村 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中井 啓晶
(72)【発明者】
【氏名】西山 典禎
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-137004(JP,A)
【文献】特開2020-094759(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0040672(US,A1)
【文献】特開2007-255214(JP,A)
【文献】特開2010-001775(JP,A)
【文献】特開2014-080901(JP,A)
【文献】特開2017-101557(JP,A)
【文献】特開2016-109065(JP,A)
【文献】実開昭64-004879(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 23/00-29/12
F04B 39/00-39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒ガスを圧縮する圧縮機構部とこの圧縮機構部を駆動する電動機とを密閉容器内に備え、
前記電動機によって
前記密閉容器内を上方の容器内空間と下方の容器内空間に分割し、
前記上方の容器内空間には前記密閉容器の外部に前記冷媒ガスを吐出する吐出管を設け、
前記下方の容器内空間には前記圧縮機構部を配置し、
前記下方の容器内空間の底部にはオイル溜まりを備え、
前記電動機は、外側に固定子、内側に回転子を設けた構成とするとともに、
前記固定子と前記密閉容器との間に外側冷媒通路、前記固定子と前記回転子で囲まれる領域に内側冷媒通路、前記回転子の内部に回転子冷媒通路をそれぞれ設け、
前記圧縮機構部は、シリンダ、ピストン、およびベーンによって形成される吸入室および圧縮室と、前記シリンダの上端面を閉塞する上軸受を有し、
前記上軸受とマフラーカバーとにより区切られた吐出空間は、吐出ポートを介して前記圧縮室と連通し、
前記下方の容器内空間を前記内側冷媒通路が開口する内側空間と前記外側冷媒通路が開口する外側空間に仕切る区画部材を備
え、
前記マフラーカバーには、前記内側空間にのみ開口する吐出口を有し、
前記区画部材の上端は前記固定子の下部に隙間なく接続され、前記区画部材の下端の内径は前記区画部材の前記上端の内径よりも小さく、
前記区画部材の前記下端と前記マフラーカバーとの隙間を、前記内側空間と前記外側空間の間の開口部とした
圧縮機。
【請求項2】
前
記開口部
の面積は、前記回転子冷媒通路および前記内側冷媒通路が前記下方の容器内空間に開口する合計開口部面積に対して、25%以下である請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記区画部材は、前記固定子に設けられた絶縁体の一部である請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記区画部材は、前記固定子の絶縁体に組みつけて固定された請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前
記開口部は、前記吐出口を基準に前記電動機とは反対側に設けられた請求項1から4のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記固定子は、コアのティースに対してコイルが集中的に巻き回されて組み立てられた集中巻固定子である請求項1から
5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記固定子のコアは、分割可能な状態でティースに対してコイルが巻き回されて組み立てられた分割コア固定子である請求項1から
6のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記冷媒ガスは、ハイドロフルオロオレフィンもしくは、プロパンを含む冷媒である請求項1から
7のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項9】
前記回転子冷媒通路は、前記下方の容器内空間側
の開口部よりも前記上方の容器内空間側
の開口部の方が、回転軸に対して外側に位置するように設けた請求項1から
8のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項10】
前記回転子冷媒通路は、前記下方の容器内空間側
の開口部から前記上方の容器内空間側
の開口部に向かって、反回転方向側にずらした請求項1から
8のいずれか1項に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮した冷媒ガスからオイルを分離して冷媒ガスを吐出する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、密閉容器内部において密閉容器外部に吐出される冷凍機油量を抑制するロータリ圧縮機の構成を開示する。このロータリ圧縮機は、圧縮機構部の一部である上軸受に設けたバルブカバーから、冷媒ガスおよびオイルを回転子の下方端に向けて吐出し、冷媒ガスを回転子の上方へと導く通路を回転子に設け、その通路出口に対向する位置に回転子と一体に回転する回転板を設け、固定子の外周に設けた油戻し通路の固定子下端側と潤滑油貯留部とを油戻し通路手段で連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、圧縮機構部にて圧縮された冷媒ガスに含まれるオイルを分離して、オイル溜まりへと戻り易くすることで、オイルが吐出管から冷媒ガスに混ざって吐出し、圧縮機内部のオイル量が減少するのを抑制した圧縮機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における圧縮機は、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構部とこの圧縮機構部を駆動する電動機とを密閉容器内に備え、前記電動機によって密閉容器内を上方の容器内空間と下方の容器内空間に分割し、前記上方の容器内空間には密閉容器の外部に冷媒ガスを吐出する吐出管を設け、前記下方の容器内空間には圧縮機構部を配置し、更に前記下方の容器内空間の底部にはオイル溜まりを備えた圧縮機において、前記電動機は、外側に固定子、内側に回転子を設けた構成とするとともに、固定子と密閉容器との間に外側冷媒通路、固定子と回転子で囲まれる領域に内側冷媒通路、回転子の内部に回転子冷媒通路をそれぞれ設け、且つ、前記下方の容器内空間を前記内側冷媒通路が開口する内側空間と外側冷媒通路が開口する外側空間に仕切る区画部材を備えた構成とし、更に前記圧縮機構部には前記区画部材で仕切った内部空間にのみ開口する吐出口を備えた構成としてある。
【発明の効果】
【0006】
本開示における圧縮機は、圧縮機構部から吐出される冷媒ガスとその中に含まれるオイルが密閉容器内部において冷媒ガス中からオイルが分離されて、冷媒ガスが吐出管から吐出され、オイルは冷媒通路を下ってオイル溜まりへと戻る過程において、区画部材が内側冷媒通路および回転子冷媒通路を上昇通路、外側冷媒通路をオイルの戻り(下り)通路となるように下方の容器内空間を区画する。よって、上方の容器内空間で分離されたオイルが下方の容器内空間へと戻り易くなるとともに、下方の容器内空間を内側空間と外側空間に区画したことで、回転子や吐出ガスの流れによる撹拌でオイルがオイル溜まりへと戻るのを阻害することを防止する。そのため、冷媒通路隙間の冷媒ガスの流れに逆らってオイルが降下する必要がなく、電動機部の上部にオイルが滞留して、摺動部の潤滑を良好にするために必要なオイル溜まりのオイル量が減少するのを抑制するとともに、吐出管から吐出されるオイルの量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】実施の形態1における下方の容器内空間拡大断面図
【
図3】実施の形態1における圧縮工程を示す圧縮室平面図
【
図7】実施の形態1における回転子冷媒通路形状を示す立体図
【
図8】固定子絶縁体を区画部材に用いた実施の形態における下方の容器内空間拡大断面図
【
図9】マフラーカバーを区画部材に用いた実施の形態における下方の容器内空間拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、バルブカバーに設けた吐出口から回転子下端に向かって冷媒ガスを吐出し、更に回転子上部において通過してきた冷媒ガスを回転板に衝突させることで冷媒ガス中のオイルを分離し、固定子の外周に設けた油戻し通路の固定子下端側とオイル溜まりを油戻し通路手段で連結することで戻りオイルの撹拌を抑制する技術があった。これにより、回転子冷媒通路を通った冷媒ガス中に含まれるオイルが、吐出管から吐出されて、オイル溜まりのオイル量が減少したり、冷凍サイクル中の熱交換器における熱交換を阻害したりすることが軽減される。
【0009】
しかしながら、吐出口から回転子下端に向かって冷媒ガスを吐出したとしても、冷媒ガスは必ずしも回転子に設けた冷媒通路だけを通ることはなく、電動機下部の空間において拡散し、固定子の外周に設けた通路からも電動機上部空間に向かって流れる。
【0010】
このことが要因となり、オイルが電動機上部空間から固定子の外周に設けた油戻し通路を通って電動機下部空間へ戻ろうとしても、逆向きの冷媒ガスの流れによってオイルが押し戻され、戻り経路を失ったオイルが電動機の上部空間に滞留することでオイル溜まりのオイル量が減少すると言う課題を発明者らは発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0011】
そこで本開示は、圧縮機構部にて圧縮された冷媒ガスに含まれるオイルを上方の容器内空間から下方の容器内空間、そしてオイル溜まりへと戻り易くすることで、オイルが吐出管から吐出して圧縮機内部のオイル量が減少するのを抑制した圧縮機を提供する。
【0012】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0014】
(実施の形態1)
以下、
図1~
図7を用いて、実施の形態1を説明する。
【0015】
[1-1.構成]
[1-1-1.圧縮機の全体構成]
図1において、圧縮機は、電動機2と圧縮機構部3をクランク軸31で連結して密閉容器1内に収容し、底部にオイル溜まり6と、上部に吐出管5を設けている。密閉容器1内は電動機2によって、吐出管5のある上方の容器内空間81とオイル溜まり6や圧縮機構部3を含む下方の容器内空間82に分割されており、それらの容器内空間は電動機2断面に設けられた複数の冷媒通路(後述する)によって繋がっている。
【0016】
また、圧縮機構部3はアキュームレータ40を介して吸入管4と接続されている。なお、冷媒としては、ハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒を用いている。
【0017】
[1-1-2.電動機の構成]
密閉容器1内に収容した電動機2は、
図1、
図2に示すように、外側に配置された固定子22と、内側に配置された回転子24で構成されており、回転子24は圧縮機構部3のクランク軸31と連結され、回転子24の自転に伴ってクランク軸31を回転させる。
【0018】
固定子22は、
図5に示すように、コア22aのティース22a-1に対してコイル22bが集中的に巻き回されて組み立てられた集中巻固定子であり、更に、固定子22のコア22aは、分割可能な状態でティース22a-1に対してコイル22bが巻き回されて組み立てられた分割コア固定子でもある。この固定子22は、密閉容器1の内側に焼嵌められて固定されている。
【0019】
回転子24は、回転子コア24aの内部に磁石24bを配置し、クランク軸31に焼嵌めて固定されている。回転子24の外周部と固定子22のティース22a-1先端の間には、回転子24と固定子22が接触しないように僅かな隙間であるエアギャップが設けられている。
【0020】
電動機2には前記した如く複数の冷媒通路、具体的には外側冷媒通路25、内側冷媒通路26、回転子冷媒通路27が設けられている。
【0021】
外側冷媒通路25は、固定子22の外周部に備えられた一つもしくは複数の切欠き部と密閉容器1との間に設けられた空間で形成している。
【0022】
内側冷媒通路26は、固定子22と回転子24の間に設けられたエアギャップと、隣り合うティース22a-1に巻き付けられたコイル22b間の隙間を合わせた空間で構成されている。
【0023】
回転子冷媒通路27は、回転子の内部を貫通して設けた通路であり、
図7に示すように、下方の容器内空間への開口部27bよりも上方の容器内空間への開口部27aの方が、回転軸に対して外側に位置する如く設けてあり、また、下方の容器内空間への開口部27bから上方の容器内空間への開口部27aに向かって、反回転方向側にずらした構成としている。
【0024】
[1-1-3.圧縮機構部の構成]
圧縮機構部3は、
図2および
図3に示すように、シリンダ30とこのシリンダ30の両端面を閉塞する端板35で形成された吸入室49および圧縮室39と、シリンダ30内に端板35でもある上軸受35aおよび下軸受35bに支持されたクランク軸31の偏心部31aに嵌合されたピストン32と、このピストン32の外周に偏心回転に追従して往復運動しシリンダ30内を吸入室49(
図3参照)と圧縮室39とに仕切るベーン33(
図3参照)を備えている。
【0025】
クランク軸31には軸線部に油穴41が設けられるとともに、上軸受35a、下軸受35bに対する壁部には、それぞれ油穴41に連通した給油穴42、43が設けられている。また、クランク軸31の偏心部31aに対する壁部には油穴41に連通した給油穴44が設けられ、外周部には油溝45が形成されている。
【0026】
一方、シリンダ30には、吸入室49に向けてガスを吸入する吸入ポート46が開通され、上軸受35aには、吸入室49から転じて形成される圧縮室39からガスを吐出する吐出ポート38が開通されている。吐出ポート38は上軸受35aを貫通する平面視円形の孔として形成されており、吐出ポート38の上面には所定の大きさ以上の圧力を受けた場合に解放される吐出弁36とその弁の最大変位を規制するバルブストップ36bが設けられている。上軸受35aとマフラーカバー37により区切られた吐出空間52は、吐出ポート38を介して圧縮室39と連通し、吐出口37bにより下方の容器内空間82の内側空間82aに開口している。
【0027】
なお、上軸受35aの外周近辺には、
図4に示すように、オイル戻し通路35a-1が設けられている。
【0028】
[1-1-4.下方の容器内空間の構成]
下方の容器内空間は
図2に示すように、その底部に設けたオイル溜まり6の上部に圧縮機構部3が構成されている。そして、上記圧縮機構部3と電動機2との間に区画部材28を設けて、下方の密閉容器内を内側空間82aと外側空間82bに区画している。より具体的に説明すると、区画部材28は
図2、
図6に示すように、固定子22下端における内側冷媒通路26開口部と外側冷媒通路25開口部の間に設けられ、圧縮機構部3と電動機2の間の下方の容器内空間82を内側空間82aと外側空間82bに区画している。そして、圧縮機構部3から吐出空間52を介して冷媒ガスを吐出する吐出口37bは下方の容器内空間82の内、内側空間82a側に開口している。
【0029】
内側空間82aと外側空間82bの間の開口部82-1は、区画部材28とマフラーカバー37の隙間であり、この面積を
図5で示す回転子冷媒通路27と内側冷媒通路26とが下方の容器内空間82へ開口する合計開口部面積の25%以下になるように構成している。
【0030】
また、吐出口37bを基準として、電動機2と吐出管5が同じ側に設けられているのに対して、開口部82-1は吐出口37bを基準に吐出管5とは反対側に設けている。
【0031】
この区画部材28は固定子22の絶縁体22cに組み付けられて固定されており、区画部材28の下端内径は、固定子22のコイルエンド22b-1外径よりも小さい。
【0032】
[1-2.動作]
以上のように構成された圧縮機について、その動作を以下説明する。
【0033】
[1-2-1.冷媒ガスの圧縮動作]
吸入管4から吸い込んだ冷媒ガスは、アキュームレータ40を介して吸入ポート46から圧縮機構部3へと導かれる。
【0034】
アキュームレータ40は、圧縮機構部3での過度な液圧縮を防止するため、吸入管4から流入する冷媒中に液成分が混在した場合に、その中から冷媒ガスを選択的に吸入ポート46に導く。アキュームレータ40は、円筒状のケースの上部に吸入管4、下部に冷媒ガス導出管が接続されている。冷媒ガス導出管の一端は吸入ポート46に接続され、他端はケースの内部空間の上部まで延出している。
【0035】
圧縮機構部3においては、ピストン32がクランク軸31の偏心部31aに嵌合し、クランク軸31によって偏心回転する。ベーン33は、偏心回転するピストン32の外周面との接触を維持するために、ピストン32の偏心回転に対してピストン32に向かって往復運動する。これにより、シリンダ30内には容積を拡大していく吸入室49と吸入ポート46から区画されて容積を縮小していく圧縮室39が形成される。つまり、吸入室49の容積拡大に伴って、冷媒ガスは吸入管4から吸い込まれ、圧縮室39での容積縮小に伴って圧縮された冷媒ガスが吐出ポート38から吐出空間52へと吐出される。吐出空間52の冷媒ガスは、吐出口37bから内側空間82aへと送り出されるが、区画部材28によって外側空間82bおよび外側冷媒通路25への経路は制約されるため、相対的に通過し易い内側冷媒通路26および回転子冷媒通路27を通って上方の容器内空間81へ流れ、吐出管5より密閉容器1の外へ送り出される。
【0036】
なお、圧縮室39、吸入室49を除く密閉容器1の内部空間は、圧縮されて高温高圧状態となった冷媒ガスが滞在する空間であり、オイル溜まり6のオイルも高圧状態となる。
【0037】
[1-2-2.オイル循環経路]
クランク軸31は、オイル溜まり6から油穴41を通じてオイルを汲み取り、クランク軸31内部から給油穴42、43、44を通じて上軸受35a、下軸受35b、吸入室49、圧縮室39へと供給する。
【0038】
吸入室49、圧縮室39に供給されたオイルはシリンダ30とピストン32との間の摺動部を湿潤する。ここで上記シリンダ30の高さはピストン32が内部で摺動できるように、ピストン32の高さよりやや大きめに設定されており、ピストン32の端面と端板35との間に隙間がある。そのため、この隙間を介して高圧状態のオイルが圧力の低い吸入室49、圧縮室39へと供給される。
【0039】
一方、吸入室49および圧縮室39へと供給されたオイルは、圧縮された冷媒ガスと共に吐出ポート38を通って吐出空間52から吐出口37bを経て内側空間82aへと吐出される。また、上軸受35aとクランク軸31の潤滑油として上軸受35aの上端から排出されたオイルも同様に内側空間82aに排出される。
【0040】
内側空間82aに排出されたオイルの一部については、内側空間82aの表面に付着して自重により落下し、上軸受35aのオイル戻し通路35a-1を通ってオイル溜まり6へと戻る。その他のオイルについては、冷媒ガスと共に回転子冷媒通路27もしくは内側冷媒通路26を通って上方の容器内空間81へ至る。上方の容器内空間81においては、上方の容器内空間81の表面への付着や自重、オイル自身の表面力によってオイルは電動機2の上部に集まり、外側冷媒通路25を下って外側空間82bおよびオイル戻し通路35a-1を経由して、オイル溜まり6へと戻る。
【0041】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、圧縮機は、密閉容器1内に、圧縮機構部3と、電動機2と、区画部材28と、上方の容器内空間81と、下方の容器内空間82と、オイル溜まり6と、を備える。密閉容器1内は、電動機2によって上方の容器内空間81と下方の容器内空間82に分割され、吐出管5は上方の容器内空間81に配置され、圧縮機構部3とオイル溜まり6は下方の容器内空間82に配置されている。
【0042】
圧縮機構部3は、シリンダ30とこのシリンダ30の両端面を閉塞する端板35で形成された吸入室49および圧縮室39と、上記端板35でもある上軸受35aおよび下軸受35bに支持されたクランク軸31の偏心部31aに嵌合されてシリンダ30内に位置するピストン32と、このピストン32の外周にピストン32の偏心回転に追従して往復運動しシリンダ30内を吸入室49と圧縮室39とに仕切るベーン33を備えている。
【0043】
クランク軸31には軸線部に油穴41が設けられるとともに、上軸受35a、下軸受35bに対する壁部には、それぞれ油穴41に連通した給油穴42、43が設けられている。また、クランク軸31の偏心部31aに対する壁部には油穴41に連通した給油穴44が設けられ、外周部には油溝45が形成されている。
【0044】
一方、シリンダ30には、吸入室49に向けてガスを吸入する吸入ポート46が開通され、上軸受35aには、吸入室49から転じて形成される圧縮室39からガスを吐出する吐出ポート38が開通されている。吐出ポート38は上軸受35aを貫通する平面視円形の孔として形成されており、吐出ポート38の上面には所定の大きさ以上の圧力を受けた場合に解放される吐出弁36とその弁の最大変位を規制するバルブストップ36bが設けられている。上軸受35aとマフラーカバー37により区切られた吐出空間52は、吐出ポート38を介して圧縮室39と連通し、吐出口37bにより内側空間82aと連通する。吐出口37bから内側空間82aに吐出された冷媒ガスとそれに含まれるオイルは、区画部材28に区画されることで内側冷媒通路26および回転子冷媒通路27に優先的に導かれ、上方の容器内空間81へと流れていく。
【0045】
これにより、外側冷媒通路25に関しては、区画部材28により経路を制限され、下方の容器内空間82から上方の容器内空間81へと流れる冷媒ガスが少なくなる。
【0046】
そのため、上方の容器内空間81において、外側冷媒通路25の開口部から冷媒ガスが吹き上がるのを抑制でき、上方の容器内空間81において冷媒ガスとの比重差により溜まったオイルが外側冷媒通路25を下って下方の容器内空間82の外側空間82bへと戻り易くなる。さらに、外側空間82bでは、区画部材28により区画された内側空間82aとは異なり、回転子24の回転運動に伴う強い流れ場の影響を受けにくいため、オイルが再び巻き上げられることなく、上軸受35aのオイル戻し通路35a-1からオイル溜まり6へとオイルを戻すことができる。この結果として、上方の容器内空間81内のオイル量が減少することとなり、吐出管5からのオイル流出を抑制することができる。
【0047】
また、本実施の形態の圧縮機における内側空間と外側空間の間の開口部面積は、回転子冷媒通路および内側冷媒通路の下方の容器内空間に対する合計開口部面積に対して、25%以下になるようにしている。
【0048】
これにより、吐出口37bから吐出された冷媒ガスは外側空間82bへの経路を顕著に制限されると同時に、上方の容器内空間81から戻ってきた外側空間82bのオイルは回転子24が生じる撹拌流の影響を受けにくくなる。
【0049】
そのため、外側冷媒通路25から戻るオイルがオイル溜まり6へと戻り易くなる。
【0050】
さらに、本実施の形態の圧縮機では、固定子は、コアのティースに対してコイルが集中的に巻き回されて組み立てられた集中巻固定子としている。この集中巻固定子は、コイルエンド22b-1をコンパクトに構成することができるため、電動機2と圧縮機構部3が近接して設置され易く、下方の容器内空間において回転子24による撹拌影響を受け易くなるが、区画部材28で区画しておくことでその影響を抑制できる。
【0051】
これにより、集中巻固定子の電動機を用いていても外側冷媒通路25からオイル溜まり6へと戻るオイル戻り効果を効率的なものとすることができる。
【0052】
さらに、本実施の形態の圧縮機の電動機は、固定子22のコア22aを、分割可能な状態でティース22a-1に対してコイル22bが巻き回されて組み立てられる分割コア固定子としている。
【0053】
これにより、ティース22a-1に対してより多くのコイル22bを巻き付けることが可能となり、電動機2の効率が高まる一方で、コイル22bの量が増え、内側冷媒通路26が狭くなることで、吐出口37bから吐出された冷媒ガスとそれに含まれるオイルが通路を求めて外側冷媒通路25にも流れようとしても、この流れを区画部材28が抑制するようになる。
【0054】
したがって、本開示の技術による効果がより顕著に発揮されることになり、電動機2の効率を向上させつつ外側冷媒通路25からオイル溜まりへのオイル戻り効果を確保することができる。
【0055】
さらに、本実施の形態では、
図2に明示するように区画部材28の下端内径は、固定子22のコイルエンド22b-1の外径よりも小さくしている。
【0056】
これにより、外側空間82bを広く設けると共に、回転子24の回転影響が上軸受35aのオイル戻し通路35a-1を介してオイル溜まり6のオイルを巻き上げるのも抑制することができる。
【0057】
そのため、上方の容器内空間81に吹き上げられるオイル量を抑え、外側空間82bを通ってオイル溜まり6へとオイルを戻り易くすることができる。
【0058】
さらに、本実施の形態の区画部材28は、固定子22の絶縁体22cに組みつけて固定するようにしている。
【0059】
これにより、固定子22製造時において、ティース22a-1にコイル22bを巻き付ける工程で、区画部材28との干渉を避ける必要がなくなるため製造効率を上げることができ、区画部材28の下端内径をコイルエンド22b-1の外径より小さくするのも容易になる。更に、固定子22と区画部材28の間に隙間を生じることなく設置できるため、内側空間82aと外側空間82bの間の開口部を減らすことができる。また、分割コア固定子に対しても、コアを組み合せて密閉容器1に収まる形に組み立てた後に区画部材28を組み付けられるため、分割コアに合わせて区画部材28を分割する必要がなくなる。
【0060】
そのため、内側空間82aと外側空間82bをより厳密に区画できるようになり、外側冷媒通路25からオイル溜まりへとオイルを戻り易くすることができる。
【0061】
さらに、本実施の形態では、内側空間82aと外側空間82bの間の開口部82-1は、吐出口37bを基準に電動機2とは反対側に設けている。
【0062】
これにより、吐出口37bから内側空間82aに吐出された冷媒ガスとそれに含まれるオイルが外側空間82bに漏れ出たとしても、吐出口37bから電動機2に向かう方向の速度成分は失われるため、オイルが冷媒ガスから分離され易くなる。
【0063】
そのため、外側空間82bに漏れ出た冷媒ガスに含まれるオイルも分離されて、オイル溜まり6へと効率よく戻ることになる。
【0064】
さらに、本実施の形態では、回転子冷媒通路27は、下方の容器内空間への開口部27bよりも上方の容器内空間への開口部27aの方が、回転軸に対して外側に位置するように設けている。
【0065】
これにより、回転動作が加わった回転子冷媒通路27内の流体には、下方の容器内空間82側と上方の容器内空間81側で異なる遠心力が作用するため、回転子冷媒通路27の回転が流体搬送力を生み出すようになり、内側空間82aに吐出された冷媒ガスが外側空間82bに向かうことなく、回転子冷媒通路27もしくは内側冷媒通路26を通り易くなる。
【0066】
そのため、外側冷媒通路25を上昇する冷媒ガスが低減し、オイルがオイル溜まり6へと戻り易くなる。
【0067】
さらに、本実施の形態では、回転子冷媒通路27は、下方の容器内空間への開口部27bから上方の容器内空間への開口部27aに向かって、反回転方向側にずれるように設けている。
【0068】
これにより、回転動作が加わった回転子冷媒通路27内の流体には、回転子冷媒通路27の壁面が下方の容器内空間82側から上方の容器内空間81側へ押し出す向きに力が作用するため、回転子冷媒通路27の回転が流体搬送力を生み出すようになり、内側空間82aに吐出された冷媒ガスが外側空間82bに向かうことなく、回転子冷媒通路27もしくは内側冷媒通路26を通り易くなる。
【0069】
そのため、外側冷媒通路25を上昇する冷媒ガスが低減し、オイルがオイル溜まり6へと戻り易くなる。
【0070】
さらに、本実施の形態では、冷媒ガスは、ハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒を用いている。
【0071】
このハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒は、単位体積当たりのエネルギー運搬能力が小さく、他の冷媒に比べて多くの冷媒を吸入、圧縮、吐出する必要が生じる。
【0072】
そのため、冷媒ガスの流速が増加することで外側冷媒通路25を上昇する冷媒ガスも増えやすくなるが、区画部材28により区画された本開示の圧縮機においては、外側冷媒通路25への冷媒ガスの流れが区画部材28により抑制されるので、本開示の技術による効果がより顕著に発揮され、冷媒流速が早くなっても外側冷媒通路25からオイル溜まりへのオイル戻りを確実なものに維持することができる。
【0073】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0074】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0075】
実施の形態1では、区画部材28の一例として固定子22に区画部材28を固定した圧縮機を説明した。この区画部材28は下方の容器内空間82を外側空間82bと内側空間82aに区画するためのものであればよい。したがって、区画部材28は固定子22に固定されたものに限定されず、
図8に示すように、固定子22の絶縁体22cをそのまま延伸して、下方の容器内空間82を区画する構成のものとしてもよく、本開示の技術を実施するために部材を追加することなく効果を得ることができる。
【0076】
又、区画部材28は固定子22に固定されたものに限定されず、圧縮機構部3に組み付けて構成したものであってもよい。具体的には、
図9を用いて説明すると、マフラーカバー37の外周部を絶縁体22cに向かって延伸すれば、マフラーカバー37が区画部材28としての機能を果たし、本開示の技術を実施するために部材を追加することなく効果を得ることができる。
【0077】
また、実施の形態1では、冷媒ガスの一例として、ハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒を用いることとして説明した。この冷媒ガスは、単位体積当たりのエネルギー運搬能力が小さいものであればあるほど、外側冷媒通路25を冷媒ガスが上昇し易くなるため、オイルがオイル溜まり6へと戻るのを阻害する。したがって、ハイドロフルオロオレフィンを含む冷媒に限定されず、プロパンを含む冷媒であっても、区画部材28によって内側空間82aと外側空間82bに区画しておけば外側冷媒通路25への冷媒ガスの流れを抑制でき、外側冷媒通路25から戻るオイルを確実にオイル溜まりへと戻すことができる。
【0078】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示は、圧縮された冷媒ガスがオイルと共に圧縮機内部に排出される圧縮機に適用可能である。具体的には、冷暖房空調装置や冷蔵庫等の冷凍装置、あるいはヒートポンプ式の給湯装置等において冷媒ガスを圧縮するための圧縮機に、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 密閉容器
2 電動機
3 圧縮機構部
4 吸入管
5 吐出管
6 オイル溜まり
22 固定子
22a コア
22a-1 ティース
22b コイル
22b-1 コイルエンド
22c 絶縁体
24 回転子
24a 回転子コア
24b 磁石
24c バランスウエイト
25 外側冷媒通路
26 内側冷媒通路
27 回転子冷媒通路
27a 上方の容器内空間への開口部
27b 下方の容器内空間への開口部
28 区画部材
30 シリンダ
31 クランク軸
31a 偏心部
32 ピストン
33 ベーン
35 端板
35a 上軸受
35a-1 オイル戻し通路
35b 下軸受
36 吐出弁
36b バルブストップ
37 マフラーカバー
37b 吐出口
38 吐出ポート
39 圧縮室
40 アキュームレータ
41 油穴
42 給油穴
43 給油穴
44 給油穴
45 油溝
46 吸入ポート
49 吸入室
52 吐出空間
81 上方の容器内空間
82 下方の容器内空間
82a 内側空間
82b 外側空間
82-1 内側空間と外側空間の間の開口部