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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20240202BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20240202BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240202BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L29/14
C08L21/00
C08K5/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020037368
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2020164804
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019062918
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509328892
【氏名又は名称】株式会社 ガラステクノシナジー
(73)【特許権者】
【識別番号】514082295
【氏名又は名称】マスダ商事株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391048049
【氏名又は名称】滋賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】國領 一人
(72)【発明者】
【氏名】増田 幸次
(72)【発明者】
【氏名】平尾 浩一
(72)【発明者】
【氏名】神澤 岳史
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 博之
(72)【発明者】
【氏名】上田中 隆志
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-149976(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152293(WO,A1)
【文献】特開2013-141794(JP,A)
【文献】特開昭64-075551(JP,A)
【文献】特開2019-044110(JP,A)
【文献】特開昭60-038445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と、ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルホルマール樹脂を除く)とを含み、
前記ポリビニルアセタール樹脂を除いた、前記ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂母材のメルトフローレートが0.01g/10分以上4g/10分以下の範囲内にあり、
前記ポリオレフィン系樹脂の含有量と前記ポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリオレフィン系樹脂:ポリビニルアセタール樹脂=99.9:0.1~0.1:99.9の範囲内にあることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
さらに前記樹脂母材にゴム組成物を含む、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム組成物は、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、およびこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアセトアセタールおよびポリビニルブチラールからなる群より選ばれる少なくとも1種である
請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である
請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらにラジカル発生剤を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、特に、親水性を有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン(PP)等のプラスチックは、一般には表面濡れ性が低く、成形品への印字や塗装が困難であった。プラスチックの濡れ性の改善方法としては、コロナ放電やフレーム処理、化学処理、プライマー処理などによる方法がある。コロナ放電やフレーム処理による方法は、装置が高価であり濡れ性が長持ちしない、また、複雑な形状には適さないという課題がある。化学処理においては、クロムなどの有害物質を含む薬液の使用の必要がある。プライマー処理では、溶剤の乾燥が必要であり、また、耐熱性が低かった。そこで、プラスチックの成形時に、親水性成分を混合して混練し、親水性成分の分散したプラスチックの成形の試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法によっても、親水性成分が成形品の表面に出てこずに所望の親水性が得られない、あるいは、親水性成分が欠陥となり脆くなる、という問題があった。また、特許文献1の技術では、各成分の親和性を高めるための相間媒介物質の添加を必須としており、コストメリットが少なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-149976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するものであり、構成成分の粘度に着目し、後処理によることなく表面の濡れ性が良好な樹脂組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂と、ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルホルマール樹脂を除く)とを含み、
前記ポリビニルアセタール樹脂を除いた、前記ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂母材のメルトフローレートが0.01g/10分以上4g/10分以下の範囲内にあり、
前記ポリオレフィン系樹脂の含有量と前記ポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリオレフィン系樹脂:ポリビニルアセタール樹脂=99.9:0.1~0.1:99.9の範囲内にあることを特徴とする。
【0006】
本発明の樹脂組成物において、さらに前記樹脂母材にゴム組成物を含むことが好ましく、前記ゴム組成物は、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、およびこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0007】
本発明の樹脂組成物において、前記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアセトアセタールおよびポリビニルブチラールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0008】
本発明の樹脂組成物において、前記ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明の樹脂組成物において、さらにラジカル発生剤を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構成成分の粘度に着目し、後処理によることなく表面の濡れ性が良好な樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)~(D)は、本発明の樹脂組成物および比較例の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比がポリプロピレン:ポリビニルブチラール=75:25である。
図2図2(A)~(D)は、本発明の樹脂組成物および比較例の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比がポリプロピレン:ポリビニルブチラール:エチレンプロピレンジエンゴム=50:25:25である。
図3図3(A)、(B)は、比較例の樹脂組成物の赤外分光スペクトルであり、同一の樹脂でのゴム組成物の有無を比較したものである。
図4図4(A)、(B)は、本発明の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比がポリプロピレン:ポリビニルブチラール:エチレンプロピレンジエンゴム=50:25:25である。
図5図5(A)、(B)は、本発明の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比が高密度ポリエチレン:ポリビニルブチラール=75:25である。
図6図6(A)、(B)は、本発明の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比が高密度ポリエチレン:ポリビニルブチラール:エチレンプロピレンジエンゴム=50:25:25である。
図7図7(A)、(B)は、比較例の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比が低密度ポリエチレン:ポリビニルブチラール=75:25である。
図8図8(A)、(B)は、本発明の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比が低密度ポリエチレン:ポリビニルブチラール:エチレンプロピレンジエンゴム=50:25:25である。
図9図9(A)、(B)は、本発明の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比が直鎖状低密度ポリエチレン:ポリビニルブチラール=75:25である。
図10図10(A)、(B)は、実施例8の樹脂組成物および比較例4の樹脂組成物の赤外分光スペクトルである。樹脂組成物は、重量比がポリプロピレン:可塑剤を含むポリビニルブチラール=75:25である。
図11図11は、母材および実施例11~13で得られた試験片について、常温(23℃)から-40℃までの温度範囲での耐衝撃性の測定を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂と、ポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルホルマール樹脂を除く)とを含み、前記ポリビニルアセタール樹脂を除いた、前記ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂母材のメルトフローレートが0.01g/10分以上4g/10分以下の範囲内にあり、前記ポリオレフィン系樹脂の含有量と前記ポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリオレフィン系樹脂:ポリビニルアセタール樹脂=99.9:0.1~0.1:99.9の範囲内とすることにより、後処理によることなく表面の濡れ性が良好な樹脂組成物を実現することができたものである。前記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、樹脂の粘度に関する物性値を示す値であり、JIS K7210-1の標準的試験方法により測定される。本発明において、MFRは、測定条件2.16kg、230℃(JIS K6921-2においてポリプロピレン樹脂について定められた条件)として測定した値である。
【0013】
本発明の樹脂組成物のうち、前記ポリビニルアセタール樹脂を除いた、前記ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂母材のメルトフローレートを、0.01g/10分以上4g/10分以下の範囲内とすることで、10万を超える分子量の前記ポリビニルアセタール樹脂を添加しても、断面と比較して、表面により多くのOH基(親水性成分)を露出させることができることが判明した。
【0014】
前記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアセトアセタールおよびポリビニルブチラールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量は、1,000以上であることが好ましく、さらに好ましくは、10,000以上である。本発明によると、前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量が1.0×10以上の範囲であってもよい。また、前記ポリオレフィン系樹脂の含有量と前記ポリビニルアセタール樹脂の含有量との重量比が、ポリオレフィン系樹脂:ポリビニルアセタール樹脂=99.5:0.5~50:50の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは99:1~75:25の範囲内である。
【0015】
前記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、および前記樹脂を主成分とする各種共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。また、前記ポリオレフィン樹脂としては、1種類を単独で配合してもよく、2種以上のポリオレフィン樹脂を併用してもよい。
【0016】
前記樹脂組成物において、さらに、ゴム組成物を含むことが好ましい。前記ゴム組成物は、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NR)、イソプレンゴム、およびこれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記ゴム組成物としては、1種類を単独で配合してもよく、2種以上の前記ゴム組成物を併用してもよい。
【0017】
なお、本発明の樹脂組成物において、さらに、ゴム組成物を含む場合、表面の濡れ性を備えたうえで、さらに耐衝撃性を向上させることもでき、より多くの用途に適用することができるため好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、その他、任意の成分として、無機フィラー、有機フィラー、顔料、染料、ラジカル開始剤、可塑剤、難燃剤および酸化防止剤等の一般的な添加剤等を、本発明における効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0019】
ラジカル開始剤は、構成成分からの水素の引き抜き反応(構成成分の活性化)および活性化した成分同士の架橋反応の促進に用いられる。ラジカル開始剤としては、有機ラジカル開始剤または無機ラジカル開始剤が挙げられ、一般的には有機ラジカル開始剤が使用される。有機ラジカル開始剤には、アゾ化合物または有機過酸化物が挙げられるが、有機過酸化物が好ましい。さらに、有機過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジ-t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシド)ヘキシン-3、t-ブチルクミルペルオキシド、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリペルオキソナン、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)ヘキサン、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピルヘキシル)ベンゼン、ジ-t-ヘキシルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。これらの中でも、押出機内などの高温下での使用に適したジクミルペルオキシド、または、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンを使用することが好ましい。ラジカル開始剤は単一で用いても、2種類以上を併用しても、いずれでもよい。
【0020】
ラジカル開始剤(架橋剤)の配合量は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部であることが好ましく、0.5~3重量部であることがより好ましく、1.0~2.0重量部であることがさらに好ましい。
【0021】
樹脂組成物にラジカル開始剤が配合されていることにより、ポリビニルアセタール樹脂等の構成成分から水素が引き抜かれてラジカル反応が起こり、構成成分同士が化学的に結合され得る。そのため、本樹脂組成物は、構成成分界面での剥離が起こりにくく、衝撃を受けても破断しにくくなっている。つまり、本実施形態の樹脂組成物によれば、優れた靭性(タフネス)が得られる。
【0022】
また、可塑剤としては、PVB等のポリビニルアセタール樹脂との親和性が良いことから、分子中にエーテル結合を有するエステル化合物を用いることが好ましい。具体的には、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘキサノエート、ジエチレングリコールジ-n-ヘキサノエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。特に好ましいエステルとしては、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、例えば、ニーダーに各材料を投入して混練した後、それらを押出成形機で製造することができる。なお、必要に応じて、得られた樹脂組成物をペレット化してもよいし、シート状に加工してもよい。
【0024】
本発明の樹脂組成物において、さらに、ゴム組成物を含む樹脂組成物は、優れた耐衝撃性を有するので、例えば、パレットやコンテナの材料、合成木材として好適に用いられる。
【実施例
【0025】
以下、本発明を実施例および比較例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0026】
[実施例1、比較例1]
ポリオレフィン系樹脂としてメルトフローレートの異なるポリプロピレンを用いて、分子量の異なる2種類のポリビニルアセタール樹脂を、それぞれ別に添加した結果を示す。
【0027】
図1は、ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)およびポリプロピレン(PP、ホモポリマー「ノーブレン」Y501N、住友化学工業株式会社製、MFR=13.1)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、重量比でPP:PVB=75:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルである。図1(A)は、MFRが0.52g/10分のポリプロピレンおよび分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図1(B)は、MFRが0.52g/10分のポリプロピレンおよび分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図1(C)は、MFRが13.1g/10分のポリプロピレンおよび分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図1(D)は、MFRが13.1g/10分のポリプロピレンおよび分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0028】
MFRが0.52g/10分のポリプロピレン(EA9)の系では、高分子量アセタール樹脂(BH-3)、低分子量アセタール樹脂(BL-1)のいずれを用いた場合であっても、表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)が表れていることがわかる(実施例1)。
【0029】
一方、MFRが13.1g/10分のポリプロピレン(Y501N)の系では、低分子量アセタール樹脂(BL-1)を用いた場合には、表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)が表れていることがわかる。それに対して、高分子量アセタール樹脂(BH-3)を用いた場合には、表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)は表れておらず、断面のみに存在している(比較例1)。
【0030】
このように、ポリオレフィン系樹脂として、メルトフローレートが4g/10分以下のものを用いることで、10万を超える分子量の前記ポリビニルアセタール樹脂を添加しても、断面と比較して、表面により多くのOH基(親水性成分)を露出させて、表面の濡れ性が良好な樹脂組成物を得ることが可能であることがわかった。
【0031】
[実施例2、比較例2]
ポリオレフィン系樹脂としてメルトフローレートの異なるポリプロピレンを用いて、さらに樹脂母材にゴム組成物を含み、分子量の異なる2種類のポリビニルアセタール樹脂を、それぞれ別に添加した結果を示す。
【0032】
図2は、ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)およびポリプロピレン(PP、ホモポリマー「ノーブレン」Y501N、住友化学工業株式会社製、MFR=13.1)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、さらにゴム組成物としてエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM、「ESPRENE505」、住友化学工業株式会社製)を、重量比でPP:PVB:EPDM=50:25:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルである。上記において、樹脂母材(PP+EPDM)のMFRは、EA9の場合は1.7g/10分であり、Y501Nの場合は4.5g/10分であった。
【0033】
図2(A)は、MFRが1.7g/10分の樹脂母材および分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図2(B)は、MFRが1.7g/10分の樹脂母材および分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図2(C)は、MFRが4.5g/10分の樹脂母材および分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図2(D)は、MFRが4.5g/10分の樹脂母材および分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0034】
MFRが1.7g/10分の樹脂母材(EA9)の系では、高分子量アセタール樹脂(BH-3)、低分子量アセタール樹脂(BL-1)のいずれを用いた場合であっても、断面に比較して表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)がより多く表れていることがわかる(実施例2)。
【0035】
一方、MFRが4.5g/10分の樹脂母材(Y501N)の系では、低分子量アセタール樹脂(BL-1)、高分子量アセタール樹脂(BH-3)のいずれの場合も、OH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)は同程度表面に発現している(比較例2)。図3は、同一の樹脂での前記ゴム組成物の有無を比較したものであり、図3(A)は図1(D)の、図3(B)は図2(D)の再掲である。高分子量アセタール樹脂(BH-3)を用いた場合に、ゴム組成物を含まない樹脂母材を用いた場合(図3(A)、比較例1、MFR=13.1)と比較すると、ゴム組成物を含む樹脂母材を用いた場合(図3(B))には、断面のみの偏在は見られなくなっているが、表面に明確に発現しているとまではいえなかった。
【0036】
このように、ポリオレフィン系樹脂として、メルトフローレートが4g/10分以下のものを用い、さらに樹脂母材にゴム組成物を含有することで、10万を超える分子量の前記ポリビニルアセタール樹脂を添加しても、断面と比較して、表面により多くのOH基(親水性成分)を露出させて、表面の濡れ性が良好な樹脂組成物を得ることが可能であることがわかった。
【0037】
[実施例3]
ポリオレフィン系樹脂として「ノーブレン」AY564(ポリプロピレン(PP)、住友化学工業株式会社製、MFR=14.9)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、さらにゴム組成物としてエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM、「ESPRENE505」、住友化学工業株式会社製)を、重量比でPP:PVB:EPDM=50:25:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルを図4に示す。上記において、樹脂母材(PP+EPDM)のMFRは、3.9g/10分であった。
【0038】
図4(A)は、分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図4(B)は、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0039】
MFRが3.9g/10分の樹脂母材の系では、高分子量アセタール樹脂(BH-3)、低分子量アセタール樹脂(BL-1)のいずれを用いた場合であっても、断面に比較して表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)がより多く表れていることがわかる。
【0040】
[実施例4]
ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン(HDPE、「ノバテックHD」HF313、日本ポリエチレン株式会社製、MFR=0.065)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、重量比でHDPE:PVB=75:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルを図5に示す。
【0041】
図5(A)は、分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図5(B)は、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0042】
MFRが0.065g/10分の樹脂母材の系では、高分子量アセタール樹脂(BH-3)、低分子量アセタール樹脂(BL-1)のいずれを用いた場合であっても、断面に比較して表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)がより多く表れていることがわかる。
【0043】
[実施例5]
ポリオレフィン系樹脂として高密度ポリエチレン(HDPE、「ノバテックHD」HF313、日本ポリエチレン株式会社製、MFR=0.065)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、さらにゴム組成物としてエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM、「ESPRENE505」、住友化学工業株式会社製)を、重量比でHDPE:PVB:EPDM=50:25:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルを図6に示す。上記において、樹脂母材(HDPE+EPDM)のMFRは、0.083g/10分であった。
【0044】
図6(A)は、分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図6(B)は、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0045】
MFRが0.083g/10分の樹脂母材の系では、高分子量アセタール樹脂(BH-3)、低分子量アセタール樹脂(BL-1)のいずれを用いた場合であっても、断面に比較して表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)がより多く表れていることがわかる。
【0046】
[比較例3]
図7に、ポリオレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(LDPE、「ノバテックHD」LC525、日本ポリエチレン株式会社製、MFR=8.4)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、重量比でLDPE:PVB=75:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルを示す。図7(A)は、分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図7(B)は、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0047】
MFRが8.4g/10分の低密度ポリエチレン(LC525)の系では、低分子量アセタール樹脂(BL-1)を用いた場合には、表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)が表れていることがわかる。それに対して、高分子量アセタール樹脂(BH-3)を用いた場合には、表面よりも断面のほうがOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)が強く観測され、さらに断面のデータ間でもばらつきが大きかった。
【0048】
[実施例6]
ポリオレフィン系樹脂として低密度ポリエチレン(LDPE、「ノバテックHD」LC525、日本ポリエチレン株式会社製、MFR=8.4)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、さらにゴム組成物としてエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM、「ESPRENE505」、住友化学工業株式会社製)を、重量比でLDPE:PVB:EPDM=50:25:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルを図8に示す。上記において、樹脂母材(LDPE+EPDM)のMFRは、1.6g/10分であった。
【0049】
図8(A)は、分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図8(B)は、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0050】
MFRが1.6g/10分の樹脂母材の系では、高分子量アセタール樹脂(BH-3)、低分子量アセタール樹脂(BL-1)のいずれを用いた場合であっても、断面に比較して表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)がより多く表れていることがわかる。なお、本実施例は、比較例3と同じポリオレフィン樹脂(LC525)を用いている。ゴム組成物を添加しない樹脂母材では、MFRが8.4g/10分であったが、これにゴム(EPDM)を添加して、MFRを1.6g/10分と粘度を高くすることで、高分子量アセタール樹脂(BH-3)を用いた場合にも、OH基が表面に発現するようになったことがわかる。
【0051】
[実施例7]
ポリオレフィン系樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(「スミカセン-L」FR152、住友化学株式会社製、MFR=1.8)を用い、ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(PVB)を用い、重量比でLLDPE:PVB=75:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルを図9に示す。
【0052】
図9(A)は、分子量が1.9×10のPVB(「エスレックB・K」BL-1、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片、図9(B)は、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)を用いた試験片の赤外分光スペクトルである。図中、実線で示しているのが、試験片表面の赤外分光スペクトルであり、破線で示しているのが、試験片断面の赤外分光スペクトルである。
【0053】
MFRが1.8g/10分の樹脂母材の系では、高分子量アセタール樹脂(BH-3)、低分子量アセタール樹脂(BL-1)のいずれを用いた場合であっても、断面に比較して表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)がより多く表れていることがわかる。とくに、高分子量アセタール樹脂を用いたときのほうが、よりその傾向は顕著であった。
【0054】
[実施例8、比較例4]
ポリビニルアセタール樹脂として可塑剤を添加したポリビニルブチラール(PVB)を用いた結果を示す。
【0055】
図10は、ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)およびポリプロピレン(PP、ホモポリマー「ノーブレン」Y501N、住友化学工業株式会社製、MFR=13.1)を用い、ポリビニルアセタール樹脂として可塑剤を添加したポリビニルブチラール(PVB)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25で混練して射出成形して得た試験片の赤外分光スペクトルである。図10(A)は、MFRが0.52g/10分のポリプロピレン、および、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)に可塑剤を重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合した可塑剤添加PVBを用いた試験片の赤外分光スペクトルである(実施例8)。図10(B)は、MFRが13.1g/10分のポリプロピレンおよび、分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)に可塑剤を重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合した可塑剤添加PVBを用いた試験片の赤外分光スペクトルである(比較例4)。可塑剤としては、トリエチレングリコール-2-エチルヘキサノエート(G-260、積水化学工業株式会社製)を用いた。図10(A)および(B)で示しているのは、試験片表面の赤外分光スペクトルである。
【0056】
実施例8の試験片表面の赤外分光スペクトル(図10(A))は、実施例1で示した図1(B)の系に可塑剤を加えたものについての分析結果であるが、表面の状況には変化が見られなかった。また、比較例4の試験片表面の赤外分光スペクトル(図10(B))は、比較例1で示した図1(D)の系に可塑剤を加えたものについての分析結果であるが、こちらも実施例8と同様に、表面の状況には変化が見られなかった。
【0057】
MFRが0.52g/10分のポリプロピレン(EA9)の系では、表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)が表れていることがわかる(実施例8)。
【0058】
一方、MFRが13.1g/10分のポリプロピレン(Y501N)の系では、表面にOH基に同定される部分のピーク(3300cm-1付近)は表れておらず、比較例1と同様に、断面のみに存在しているものと考えられる(比較例4)。
【0059】
このように、ポリオレフィン系樹脂として、メルトフローレートが4g/10分以下のものを用いることで、10万を超える分子量の前記ポリビニルアセタール樹脂に可塑剤が含まれたものを添加しても、実施例1と同様に、表面により多くのOH基(親水性成分)を露出させて、表面の濡れ性が良好な樹脂組成物を得ることが可能であることがわかった。
【0060】
実施例8および比較例4の試験片と、各々の系で用いたポリプロピレンの試験片とについて、常温(23℃)での耐衝撃性の測定を行った。その結果、実施例8の系においては、母材は4.9kJ/mであったが、実施例8の試験片の衝撃値は7.1kJ/mであり、機械特性が向上していることがわかる。一方、比較例4の系においては、母材であるポリプロピレン(「ノーブレン」Y501N)の衝撃値は3.0kJ/mであったが、比較例4の試験片の衝撃値は2.8kJ/mであり、機械特性が低下していることがわかる。
【0061】
本実施例によると、可塑剤が添加されている、例えば、自動車のフロントガラス等に用いられる中間膜のPVB樹脂や、端材として余ったPVB樹脂フィルムについても、表面の濡れ性と機械特性の双方が良好な樹脂組成物として有効に再利用が可能であることが示されている。
【0062】
[実施例9]
ポリビニルアセタール樹脂として可塑剤およびラジカル開始剤を添加したポリビニルブチラール(PVB)を用いた結果を示す。
【0063】
分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したもの100重量部に対し、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキシド(「パークミルD」、日油株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0064】
得られた試験片について、常温(23℃)での耐衝撃性の測定を行ったところ、衝撃値は8.0kJ/mであり、実施例8で得られたラジカル開始剤を添加していない試験片よりも、機械特性(耐衝撃性)が向上していることがわかる。
【0065】
[実施例10]
ポリビニルアセタール樹脂として可塑剤および、実施例9とは異なるラジカル開始剤を添加したポリビニルブチラール(PVB)を用いた結果を示す。
【0066】
分子量が1.1×10のPVB(「エスレックB・K」BH-3、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したもの100重量部に対し、ラジカル開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(「カヤヘキサAD」、化薬アクゾ株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0067】
得られた試験片について、常温(23℃)での耐衝撃性の測定を行ったところ、衝撃値は9.8kJ/mであり、実施例8で得られたラジカル開始剤を添加していない試験片よりも、機械特性が向上していることがわかる。
【0068】
[実施例11]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したもの100重量部に対し、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキシド(「パークミルD」、日油株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0069】
得られた試験片について、常温(23℃)から-40℃までの温度範囲での耐衝撃性の測定を行った。結果を図11に示す。
【0070】
[実施例12]
工程端材のPVB中間膜(可塑剤を含む)100重量部に対し、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキシド(「パークミルD」、日油株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。なお、本工程端材は、エステル系可塑剤を約25%(PVB:可塑剤=3:1)、分子量が約1.1×10のPVBをそれぞれ含むものであった。
【0071】
得られた試験片について、常温(23℃)から-40℃までの温度範囲での耐衝撃性の測定を行った。結果を図11に示す。
【0072】
[実施例13]
工程端材のPVB中間膜(可塑剤を含む)100重量部に対し、ラジカル開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(「カヤヘキサAD」、化薬アクゾ株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0073】
得られた試験片について、常温(23℃)から-40℃までの温度範囲での耐衝撃性の測定を行った。結果を図11に示す。
【0074】
図11には、実施例11~13の各試験片での耐衝撃性の測定結果に加え、母材であるポリプロピレン(「ノバテック」EA9)の各温度での衝撃値を示した。実施例11~13で得られた各試験片はいずれも、測定したすべての温度帯域において、母材であるポリプロピレン(「ノバテック」EA9)の衝撃値を上回っていることがわかる。実際のリサイクルの場面においては、添加物が明らかとはならなかったり、複数の製品についての工程端材が混合される。実施例11~13によると、PVBの種類が異なっていたり不明であったとしても、衝撃値について同様の傾向がみられることから、本発明はリサイクルの場面において有効活用可能であると考えられる。
【0075】
[実施例14(A)]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したものを作製した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0076】
[実施例14(B)](実施例11と同条件)
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したもの100重量部に対し、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキシド(「パークミルD」、日油株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、「ノバテック」EA9、日本ポリプロ株式会社製、MFR=0.52)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0077】
[実施例15(A)]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したものを作製した。ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP、「ノバテック」FL203D、日本ポリプロ株式会社製、MFR=3.0)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0078】
[実施例15(B)]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したもの100重量部に対し、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキシド(「パークミルD」、日油株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP、「ノバテック」FL203D、日本ポリプロ株式会社製、MFR=3.0)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0079】
[比較例5(A)]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したものを作製した。ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP、「ノバテック」FB3B、日本ポリプロ株式会社製、MFR=7.5)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0080】
[比較例5(B)]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したもの100重量部に対し、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキシド(「パークミルD」、日油株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP、「ノバテック」FB3B、日本ポリプロ株式会社製、MFR=7.5)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0081】
[比較例6(A)]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したものを作製した。ポリオレフィン系樹脂として高分子量タイプのポリプロピレン(PP、ホモポリマー「ノーブレン」Y501N、住友化学工業株式会社製、MFR=13.1)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0082】
[比較例6(B)]
分子量が1.15×10のPVB(「エスレックB・K」BH-A、積水化学工業株式会社製)に、可塑剤(G-260、積水化学工業株式会社製)を、重量比でPVB:可塑剤=3:1で配合したもの100重量部に対し、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキシド(「パークミルD」、日油株式会社製)を2重量部添加した。ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン(PP、ホモポリマー「ノーブレン」Y501N、住友化学工業株式会社製、MFR=13.1)を用い、重量比でPP:PVB(可塑剤を含む)=75:25となるように混練し、射出成形して試験片を得た。
【0083】
実施例14(A)、実施例14(B)、実施例15(A)、実施例15(B)、比較例5(A)、比較例5(B)、比較例6(A)および比較例6(B)で得られた試験片について、常温(23℃)での衝撃値の測定を行った。また、各実施例および比較例で使用した各PP(母材)の衝撃値も併せて測定を行った。結果を表1に示す。メルトフローレートが4g/10分以下の範囲内の樹脂母材を用いた実施例14(A)、実施例14(B)、実施例15(A)および実施例15(B)においては、ポリビニルブチラールを配合することで、母材よりも耐衝撃性が向上していることがわかる。それに対して、メルトフローレートが4g/10分を超える樹脂母材を用いた比較例5(A)、比較例5(B)、比較例6(A)および比較例6(B)においては、ポリビニルブチラールを配合することで、母材よりも耐衝撃性が低下していることがわかる。
【0084】
なお、メルトフローレートが0.52g/10分の樹脂母材を用いた実施例8と実施例9とを比較すると、ラジカル開始剤を添加したことで機械特性(耐衝撃性)が向上していた。同じ樹脂母材を用いた実施例14(A)と実施例14(B)においてもラジカル開始剤を添加したことで機械特性(耐衝撃性)が向上する結果となった。一方で、メルトフローレートが3.0g/10分の樹脂母材を用いた実施例15(A)、実施例15(B)については、いずれも樹脂母材よりも耐衝撃性が向上しているが、ラジカル開始剤添加による機械特性(耐衝撃性)向上の効果は得られていないことがわかる。樹脂母材のメルトフローレートは、0.5を超えて3.0未満の範囲内であることが、耐衝撃性の点からは好ましいと考えられる。
【0085】
【表1】
【0086】
(サンプルの作製方法)
上記において用いた、測定用のサンプルの作製方法は以下のとおりである。なお、各サンプルにおいて配合されていない材料がある場合には、適宜、その工程を省略して、以下の作製方法を適用した。
【0087】
はじめに、各材料の下準備として、各材料を二軸押出機のホッパーに投入可能な形状(例えば、数ミリ角の粉粒体)に加工した。
【0088】
次に、各材料を二軸押出機のホッパーに投入する前に、あらかじめ各材料を混ぜ合わせた。
【0089】
次に、二軸の押出機を用いて、上記のように加工した各材料を混練した。二軸押出機としては、株式会社テクノベル製の「KZW15-45HG」(Φ=15、L/D=45)を用いた。装置の運転条件として、スクリュー回転数を250rpm、及びフィーダー吐出量を毎分15gとした。二軸押出機は、第1~第6の6つのシリンダを有するが、各シリンダの設定温度については、第1シリンダ~第6シリンダ及びダイスを180℃とした。二軸押出機で各材料を加熱且つ混合し、二軸押出機のダイスから樹脂混合物を押し出した。押し出された混合物は、ストランド状(ひも状)である。
【0090】
続いて、ダイスから押し出されたストランド状の樹脂混合物を水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット化した。そして、得られたペレットを袋に入れてかき混ぜるなどして、品質の均一化を図った。
【0091】
次に、得られたペレットを用いて、試験片の成形を行った。なお、試験片の成形に先行して、ペレットを80℃に設定した恒温槽で約2時間加熱乾燥させた。
【0092】
続いて、射出成形機を用いて、上記作製したペレットを原料として、JIS K7139に準拠した多目的試験片(80mm×10mm×4mm)を作製した。射出成形機としては、日精樹脂工業株式会社製の「ES1000」を使用した。装置の運転条件として、シリンダ温度を180℃で一定になるように設定し、射出速度を5~40mm/秒の所定の速度、保圧を20~50MPaの所定の圧力、保圧時間を15秒、金型温度を40℃、冷却時間を15~40秒とした。なお、PVAcAとPPとの2成分を混合する場合は、前記シリンダ温度をヘッド部195℃、前部190℃、中部190℃にそれぞれ設定して行った。
【0093】
(耐衝撃性(アイゾット衝撃値)の測定方法)
作製した多目的試験片に株式会社安田精機製作所製の「No.189 PNCAノッチ加工機」を用いて2mmのノッチを入れた。その後、株式会社安田精機製作所製の「No.258-L-PC衝撃試験機」を用いて、所定の温度でアイゾット衝撃試験を行った。ハンマーの荷重は2.75Jとし、サンプル数はN=5で測定を実施した。
【0094】
以上、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の樹脂組成物は、各種用途に利用可能であり、特に、濡れ性が必要となる用途において、好適に利用可能である。例えば、冷凍倉庫のパレットやコンテナ、金属パレットを構成する金属フレームのカバー等に好適に用いることができる。また、バッテリーのセパレーター材料にも応用の可能性がある。さらに、本発明の樹脂組成物は、リサイクル可能である。すなわち、成形時に親水性成分が表面に存在するようになるため、製品を破砕してリサイクルを行った後も、リサイクル前と同様の効果が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11