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特許7429912超音波振動薬液注入システム及び超音波振動薬液注入工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】超音波振動薬液注入システム及び超音波振動薬液注入工法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20240202BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
E21D9/06 301
E02D3/12 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023196949
(22)【出願日】2023-11-20
【審査請求日】2023-12-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596119571
【氏名又は名称】サン・シールド株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514035512
【氏名又は名称】株式会社人材開発支援機構
(73)【特許権者】
【識別番号】516284046
【氏名又は名称】東陽工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】323011981
【氏名又は名称】株式会社ジバング
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米森 清祥
(72)【発明者】
【氏名】野口 好夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 明人
(72)【発明者】
【氏名】横山 智也
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-47881(JP,A)
【文献】特開2014-201907(JP,A)
【文献】特開平8-134899(JP,A)
【文献】特開2018-138724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D9/06
E02D3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド工法によるトンネル掘削工事において、到達立坑(91)への貫通に先立って地下水の噴出を防止する薬液を、超音波振動を利用して貫通予定部(93)の周囲の地盤に注入する薬液注入システムであって、
立坑壁(92)に固定される立坑取り付け金具(30)、及び、前記立坑取り付け金具に先端が連結され、主剤と硬化剤とが混合された薬液を送出可能であり、電気信号により超音波振動を発生させる振動子(47)が内部に設けられたロッド本体(40)を有し、前記振動子が発生させた超音波振動を薬液及び地盤に付与しつつ、注入ポイント(GP)に薬液を注入する薬液注入ロッド(20)と、
前記薬液注入ロッドに主剤及び硬化剤をそれぞれ供給する薬液供給装置(50)と、
前記振動子に超音波振動を発生させる電気信号を出力する超音波発振器(61)と、
超音波振動の発生時に前記振動子を冷却するエアを前記薬液注入ロッドに供給するエア供給装置(620)と、を備え、
前記ロッド本体は、
前記薬液供給装置から供給された主剤及び硬化剤が先端側に形成された薬液混合室(444)に向かってそれぞれ送られる主剤通路(441)及び硬化剤通路(442)と、前記エア供給装置から供給されたエアを前記振動子の周囲に導入するエア通路(46)とが互いに隔離されて形成されている超音波振動薬液注入システム。
【請求項2】
前記ロッド本体は、前記主剤通路、前記硬化剤通路及び前記エア通路が同軸の三重管構造で形成されている請求項1に記載の超音波振動薬液注入システム。
【請求項3】
前記エア供給装置は、
圧縮空気を発生させるエアコンプレッサ(62)と、
圧縮空気を調圧するレギュレータ(63)と、
圧縮空気中の水分を除去し、前記ロッド本体に供給するエアドライヤ(64)と、
を含む請求項1に記載の超音波振動薬液注入システム。
【請求項4】
前記超音波発振器から前記振動子に電気信号を送る電気ケーブル(66)は、前記ロッド本体のエア送気口(451)に接続されるエアチューブ(65)の内部に挿通されている請求項1に記載の超音波振動薬液注入システム。
【請求項5】
シールド工法によるトンネル掘削工事において、到達立坑(91)への貫通に先立って地下水の噴出を防止する薬液を、超音波振動を利用して薬液注入ロッド(20)から貫通予定部(93)の周囲の地盤に注入する薬液注入工法であって、
前記薬液注入ロッドに主剤及び硬化剤をそれぞれ供給する薬液供給装置(50)、電気信号を出力する超音波発振器(61)、及び、前記薬液注入ロッドにエアを供給するエア供給装置(620)を設置する設置工程(S11)と、
立坑取り付け金具(30)を立坑壁(92)に固定する取付工程(S12)と、
前記超音波発振器が出力した電気信号により超音波振動を発生させる振動子(47)が内部に設けられたロッド本体(40)の先端を前記立坑取り付け金具に連結して前記薬液注入ロッドを構成する連結工程(S13)と、
前記薬液注入ロッドにて、前記薬液供給装置から供給された主剤と硬化剤とを混合して送出し、且つ、前記エア供給装置から供給されるエアで前記振動子を冷却しながら前記振動子が発生させた超音波振動を薬液及び地盤に付与しつつ、注入ポイント(GP)に薬液を注入する注入工程(S14)と、
を含む超音波振動薬液注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動薬液注入システム及び超音波振動薬液注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に開示された通り、超音波振動を用いて地盤に薬液を注入する薬液注入装置及び工法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5016947号公報
【文献】特許第6601739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の従来技術では主に、比較的広い範囲の軟弱地盤への薬液注入を目的として、地上から地中に向かって掘られた既設溝や削孔に注入管を貫入させる工法が想定されている。超音波振動を付与することで、割裂注入の発生が回避され、固化剤の円滑で均質な浸透が実現される。
【0005】
一方、シールド工法によるトンネル掘削工事では、シールドマシンが到達立坑に貫通した瞬間に土中の地下水が立坑内に流れ込むおそれがある。そのため、周囲の地盤に薬液を注入して地盤強化し、地下水の噴出を防止することが安全対策として求められる。
【0006】
従来、トンネル上部の地上からボーリングした削孔に薬液を注入する大掛かりな工法が専門業者によって行われていた。しかし、削孔に貫入した注入管を通して広範囲に薬液を浸透させるため、貫通予定部の周囲の狙いポイントに薬液が浸透せず、地下水の噴出を確実に防止できない懸念があった。また、専門業者の手配や施工準備に時間がかかるため、工事日程が延び、コストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、シールド工法によるトンネル掘削工事の到達立坑で地下水の噴出を防止するための、簡便でピンポイントに薬液注入できる超音波振動薬液注入システム及び超音波振動薬液注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、シールド工法によるトンネル掘削工事において、到達立坑(91)への貫通に先立って地下水の噴出を防止する薬液を、超音波振動を利用して貫通予定部(92)の周囲の地盤に注入する薬液注入システムである。このシステムは、薬液注入ロッド(20)と、薬液供給装置(50)と、超音波発振器(61)と、エア供給装置(620)と、を備える。
【0009】
薬液注入ロッドは、立坑壁(92)に固定される立坑取り付け金具(30)、及び、立坑取り付け金具に先端が連結されるロッド本体(40)を有する。ロッド本体は、主剤と硬化剤とが混合された薬液を送出可能であり、電気信号により超音波振動を発生させる振動子(47)が内部に設けられている。薬液注入ロッドは、振動子が発生させた超音波振動を薬液及び地盤に付与しつつ、注入ポイント(GP)に薬液を注入する。
【0010】
薬液供給装置は、薬液注入ロッドに主剤及び硬化剤をそれぞれ供給する。超音波発振器は、振動子に超音波振動を発生させる電気信号を出力する。エア供給装置は、超音波振動の発生時に振動子を冷却するエアを薬液注入ロッドに供給する。
【0011】
ロッド本体は、薬液供給装置から供給された主剤及び硬化剤が先端側に形成された薬液混合室(444)に向かってそれぞれ送られる主剤通路(441)及び硬化剤通路(442)と、エア供給装置から供給されたエアを振動子の周囲に導入するエア通路(46)とが互いに隔離されて形成されている。
【0012】
好ましくは、ロッド本体は、主剤通路、硬化剤通路及びエア通路が同軸の三重管構造で形成されている。これにより、コンパクトで製造しやすい構造が実現される。
【0013】
また好ましくは、エア供給装置は、圧縮空気を発生させるエアコンプレッサ(62)と、圧縮空気中の水分を除去するエアドライヤ(63)と、水分が除去された圧縮空気を調圧し、ロッド本体に供給するレギュレータ(64)と、を含む。圧縮空気中の水分を除去することで、振動子の接続端子部への水分付着によるショートを防止することができる。また、供給エア圧を調整することで、冷却性能のばらつきを低減することができる。
【0014】
また好ましくは、超音波発振器から振動子に電気信号を送る電気ケーブル(66)は、ロッド本体のエア送気口(451)に接続されるエアチューブ(65)の内部に挿通されている。これにより、ロッド本体に電気ケーブルの引き込み口を別途設ける必要がなくなり、配線が単純になる。並びに電気ケーブルの被覆損傷等に対する保護にもなる。また、エア配管及び電気信号配線の作業を一度に行うことができる。さらに、エア経路の途中に電気ケーブルを合流させた場合に懸念される合流部分からのエア漏れを防止することができる。
【0015】
本発明の別の態様は、シールド工法によるトンネル掘削工事において、到達立坑(91)への貫通に先立って地下水の噴出を防止する薬液を、超音波振動を利用して薬液注入ロッド(20)から貫通予定部(93)の周囲の地盤に注入する薬液注入工法である。この工法は、設置工程(S11)と、取付工程(S12)と、連結工程(S13)と、注入工程(S14)と、を含む。
【0016】
設置工程では、薬液注入ロッドに主剤及び硬化剤をそれぞれ供給する薬液供給装置(50)、電気信号を出力する超音波発振器(61)、及び、薬液注入ロッドにエアを供給するエア供給装置(620)を設置する。取付工程では、立坑取り付け金具(30)を立坑壁(92)に固定する。
【0017】
連結工程では、ロッド本体(40)の先端を立坑取り付け金具に連結して薬液注入ロッドを構成する。ロッド本体は、超音波発振器が出力した電気信号により超音波振動を発生させる振動子(47)が内部に設けられている。
【0018】
注入工程では、薬液注入ロッドにて、薬液供給装置から供給された主剤と硬化剤とを混合して送出し、且つ、エア供給装置から供給されるエアで振動子を冷却しながら振動子が発生させた超音波振動を薬液及び地盤に付与しつつ、注入ポイント(GP)に薬液を注入する。
【0019】
本発明のシステム及び工法では、到達立坑の内側から貫通予定部の周囲の注入ポイントにピンポイントに薬液注入することができる。超音波振動を用いて薬液を効果的に浸透させるため、地下水の噴出がより確実に防止され、安全性が向上する。また、注入ポイントに薬液注入ロッドを取り付けるだけの簡便な工法であり専門業者を手配する必要がないため、施工時間を短縮し、コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態による超音波振動薬液注入システムの全体構成を示す図。
図2】薬液注入ロッドの外観図。
図3】(a)薬液注入ロッドの軸方向模式断面図、(b)IIIb-IIIb線径方向模式断面図。
図4】薬液及びエアの流れを示す薬液注入ロッドの軸方向模式断面図。
図5】振動子の模式拡大図。
図6】超音波振動の発生を示す薬液注入ロッドの軸方向模式断面図。
図7】薬液供給装置の模式構成図。
図8】超音波発振器ユニットの模式構成図。
図9】一実施形態による超音波振動薬液注入工法のフローチャート。
図10】立坑取り付け治具の取付工程を説明する図。
図11】立坑取り付け治具とロッド本体との連結工程を説明する図。
図12】比較例の薬液注入工法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<一実施形態>
本発明の一実施形態による超音波振動薬液注入システム及び超音波振動薬液注入工法について図面に基づいて説明する。このシステム及び工法は、シールド工法によるトンネル掘削工事において、到達立坑への貫通に先立って地下水の噴出を防止する薬液を、超音波振動を利用して貫通予定部の周囲の地盤に注入するシステム及び工法である。
【0022】
図1図8を参照し、一実施形態の超音波振動薬液注入システムについて説明する。図1にシステムの全体構成を示す。地中を掘進したシールドマシン80が到達立坑91に貫通する直前の位置にある。到達立坑91の内壁には鋼製筒状の立坑壁92が埋め込まれている。このままシールドマシン80が到達立坑91の貫通予定部93に貫通すると、貫通した瞬間に土中の地下水が立坑内に流れ込むおそれがある。そのため、周囲の地盤90に薬液を注入して地盤強化し、地下水の噴出を防止することが安全対策として求められる。
【0023】
図1にはシステム全体の構成要素及び配線配管接続系統を概略的に示す。各構成要素について詳しくは図2図8を参照して後述する。この超音波振動薬液注入システム100は、薬液注入ロッド20、薬液供給装置50、超音波発振器61及びエア供給装置620を備える。本実施形態では、超音波発振器61及びエア供給装置620は超音波発振器ユニット60としてユニット化されている。
【0024】
薬液注入ロッド20は、立坑取り付け金具30及びロッド本体40を有し、到達立坑91内で略水平に保持されている。ロッド本体40は、主剤と硬化剤とが混合された薬液を送出可能である。また、ロッド本体40の内部には振動子47が設けられている。薬液注入ロッド20は、振動子47が発生させた超音波振動を薬液及び地盤に付与しつつ、注入ポイントGPに薬液を注入する。
【0025】
薬液供給装置50は、薬液注入ロッド20に主剤及び硬化剤をそれぞれ供給する。超音波発振器61は、振動子47に超音波振動を発生させる電気信号を出力する。エア供給装置620は、超音波振動の発生時に振動子47を冷却するエアを薬液注入ロッド20に供給する。
【0026】
図2に薬液注入ロッド20の外観を示す。以下、薬液注入ロッド20の説明で、立坑取り付け金具30が連結される側(図の左側)を先端側と称し、先端側と反対の方(図の右方)を後方と称する。薬液注入ロッド20は、ロッド本体40の先端に設けられた連結部42が立坑取り付け金具30に連結されて構成される。
【0027】
立坑取り付け金具30は、平鋼31にソケット32が溶接されており、ソケット32にコネクタ32Cがねじ込まれて固定されている。平鋼31が立坑壁92に溶接される(図10参照)ことで立坑取り付け金具30は立坑壁92に固定される。平鋼31の中央部には注入ポイントGPを囲むように開口33が形成されている。
【0028】
例えばコネクタ32Cはカムロックオス、連結部42はカムロックメスで構成されている。コネクタ32Cが連結部42に挿入されてカムロックのオスとメスとが嵌合した状態でレバー42Lをロックすることで、立坑取り付け金具30とロッド本体40とが連結する(図11参照)。
【0029】
ロッド本体40の外観には外筒411が現れている。ロッド本体40の後方には、主剤吸入口431及び硬化剤吸入口432が設けられている。主剤吸入口431及び硬化剤吸入口432の更に後方には、エア送気口451及びエア排気口452が設けられている。ロッド本体40の中央部には、クレーン作業用のリング付チェーン49が、重心を挟んで前後対称の2箇所を吊り上げ可能に取り付けられている。リング付チェーン49を用いて吊り上げながら、ロッド本体40は略水平の状態で立坑取り付け金具30に連結される。
【0030】
図3(a)、(b)に薬液注入ロッド20の軸方向及び径方向の断面を模式的に示す。また、薬液注入ロッド20内の薬液及びエアの流れを図4に示す。ロッド本体40には、電気信号により超音波振動を発生させる振動子47が内部に設けられている。振動子47の先端のホーン473は開口33に臨むように位置している。
【0031】
振動子47の後方には、薬液供給装置50から供給された主剤及び硬化剤が先端に向かって送られる薬液通路44と、エア供給装置620から供給されたエアを振動子47の周囲に導入するエア通路46とが互いに隔離されて形成されている。薬液通路44は、主剤通路441、硬化剤通路442、及び、ロッド本体40の先端側に形成された薬液混合室444からなる。薬液混合室444の後方では、主剤通路441と硬化剤通路442とは互いに隔離されて形成されている。
【0032】
詳しくは、薬液混合室444の後方において外筒411、中筒412及び内筒413の三部材が同軸に設けられている。外筒411と中筒412との間の環状空間が主剤通路441をなし、中筒412と内筒413との間の環状空間が硬化剤通路442をなす。内筒413の内側の空間がエア通路46をなす。このように本実施形態のロッド本体40は、主剤通路441、硬化剤通路442及びエア通路46が同軸の三重管構造で形成されている。これにより、コンパクトで製造しやすい構造が実現される。
【0033】
図4に示すように、薬液供給装置50から供給された主剤は、主剤吸入口431から主剤通路441を通り、薬液混合室444に向かって送られる。薬液供給装置50から供給された硬化剤は、硬化剤吸入口432から硬化剤通路442を通り、薬液混合室444に向かって送られる。主剤及び硬化剤は薬液混合室444で合流し、混合される。混合された薬液(クロスハッチングで図示)は、開口33から注入ポイントGPに注入される。
【0034】
また、エア供給装置620から供給されたエアは、エア送気口451からエア通路46を通って振動子47の周囲に導入され、エア排気口452から排出される。エア通路46内に配設されたエアチューブ465を用いてエアを流すことで、振動子47を冷却することに加え、薬液注入ロッド20内の錆びによる腐食を防止することができる。なお、図3図6ではエアチューブ465の図示を省略する。
【0035】
図5に振動子47の拡大図を示す。また、超音波発振器61から出力される電気信号により振動子47が超音波振動を発生する様子を図6に示す。振動子47は略円筒状を呈しており、本体471、フランジ部472、ホーン473等を含む。本体471は圧電素子等で構成され、超音波発振器61から送られた電気信号により振動する。
【0036】
ホーン473は、フランジ部472を挟んで、本体471の先端側に設けられている。図6に示すように、ホーン473は、本体471の振動を増幅して先端から超音波を放射する。ホーン473は、例えばON30秒-OFF30秒の周期で、周波数28kHz、出力10W~100Wの超音波を薬液及び地盤に向けて放射する。特許文献1、2に記載されているように、薬液に含まれる粒子や媒体、及び、地盤の土粒子、水、空気に超音波振動エネルギーが付与されることで、注入された薬液の浸透拡散効果が向上する。
【0037】
ところで、超音波振動の発生時に振動子47が発熱するため、性能を維持するには冷却が必要となるが、特許文献1、2には振動子の発熱に対する課題について何ら言及されていない。本実施形態では、超音波振動発生時における振動子47の発熱を冷却する構成を設けたことが特徴の一つである。
【0038】
超音波振動の発生時、エア供給装置620からのエアは、エア通路46を通って振動子47に供給される(図4参照)。本体471の後部外周にはウレタン樹脂モールドによる絶縁層474が形成されている。また、本体471の後方で電気ケーブル66に接続される接続端子475は、収縮チューブ476で覆われている。絶縁層474及び収縮チューブ476により、冷却エア中の水分付着によるショートが防止される。さらに収縮チューブ476は電気ケーブルの芯線の捩れやキンクを防止する。
【0039】
図7に薬液供給装置50の構成例を示す。薬液供給装置50は、主剤ミキサー511、硬化剤ミキサー512、薬液ポンプ53等を含む。主剤ミキサー511及び硬化剤ミキサー512と薬液ポンプ53とは、それぞれポンプ前ホース521、522で接続されている。薬液ポンプ53とロッド本体40の主剤吸入口431及び硬化剤吸入口432とは、それぞれポンプ後ホース541、542で接続されている。
【0040】
主剤ミキサー511及び硬化剤ミキサー512は、それぞれタンクに貯蔵された主剤及び硬化剤を攪拌する。薬液ポンプ53は、ミキサー511、512で攪拌された主剤及び硬化剤を吸入し、ロッド本体40の主剤吸入口431及び硬化剤吸入口432にそれぞれ圧送する。
【0041】
図8に超音波発振器ユニット60の構成例を示す。超音波発振器ユニット60は、超音波発振器61とエア供給装置620とが共通のプラットフォームにユニット化して設置されている。エア供給装置620は、上流から下流の順に、エアコンプレッサ62、レギュレータ63及びエアドライヤ64を含む。超音波発振器61にはAC200V電源が供給され、エアコンプレッサ62、レギュレータ63及びエアドライヤ64にはトランスを介してAC100V電源が供給される。
【0042】
超音波発振器61は、振動子47に超音波振動を発生させる電気信号を出力する。電気信号は、電気ケーブル66を経由して振動子47に送られる。なお、振動子47には2本の導線が接続される(図5参照)が、図8には簡略化して電気ケーブル66を1本の線で図示する。振動子47に発生させる超音波の周波数は例えば28kHz、超音波の出力は例えば10W~100Wである。電気信号のON/OFFはタイマーにより制御される。また、負荷電流値を計測、記録することで、超音波出力がモニタリングされる。
【0043】
エアコンプレッサ62は圧縮空気を発生させる。レギュレータ63は、圧縮空気を調圧(例えば0.2MPaに減圧)する。エアドライヤ64は、圧縮空気中の水分を除去して乾燥させ、エアチューブ65を介してロッド本体40のエア送気口451に供給する。振動子47側での上記の絶縁構造に加えて、エアドライヤ64により圧縮空気中の水分を除去することで、接続端子475への水分付着によるショートをより確実に防止することができる。また、レギュレータ63により供給エア圧を調整することで、冷却性能のばらつきを低減することができる。なお、他の機器でエアを使用している場合、振動子47の冷却用エアとして転用も可能である。
【0044】
超音波発振器61から振動子47に電気信号を送る電気ケーブル66は、ロッド本体40のエア送気口451に接続されるエアチューブ65の内部に挿通されている。これにより、ロッド本体40に電気ケーブルの引き込み口を別途設ける必要がなくなり、配線が単純になる。並びに電気ケーブルの被覆損傷等に対する保護にもなる。また、エア配管及び電気信号配線の作業を一度に行うことができる。さらに、エア経路の途中に電気ケーブルを合流させた場合に懸念される合流部分からのエア漏れを防止することができる。
【0045】
次に図9のフローチャート及び図10図11を参照し、一実施形態による超音波振動薬液注入工法について説明する。フローチャート中の記号「S」はステップを意味する。S11の設置工程では、超音波振動薬液注入システム100を構成する装置、機材等が搬入され、到達立坑91の周囲にプラントが仮設される。システム100を構成する装置には、薬液供給装置50、超音波発振器61及びエア供給装置620が含まれる。
【0046】
S12に先立ち、貫通予定部93の周囲に薬液注入ポイントGPの位置が決められる。S12の取付工程では、立坑壁92の注入ポイントGPに対応する位置に、作業者が立坑取り付け金具30の平鋼31を溶接して固定する。図10に取付工程の具体的な作業例として2つのパターンを示す。初期状態0から完了状態3まで、パターンAでは0→1A→2A→3の順、パターンBでは0→1B→2B→3の順に作業が実施される。完了状態3では、探り孔95からの水の流出を防ぐため、探り孔95に木栓96が嵌められる。
【0047】
パターンAでは、作業者は、先に立坑壁92に探り孔95を開け(1A)、水の流出程度を確認し、探り孔95に木栓96を嵌める(2A)。木栓96は、探り孔95の大きさに応じて適宜加工された木材がハンマーで打ち込まれる。その後、作業者は、探り孔95の周囲の立坑壁92に立坑取り付け金具30の平鋼31を溶接する。
【0048】
パターンBでは、作業者は、先に立坑壁92に立坑取り付け金具30の平鋼31を溶接する(1B)。その後、作業者は、立坑取り付け金具30の開口内側の立坑壁92に探り孔95を開け(2B)、探り孔95に木栓96を嵌める。
【0049】
S13の前に連結工程の準備として、ロッド本体40が水平を保ちながら到達立坑91内にクレーンで吊り下ろされる。ロッド本体40の先端が立坑取り付け金具30に臨む位置で保持されると、連結工程の直前に木栓96が取り外される。S13の連結工程では、作業者は、ロッド本体40の先端を立坑取り付け金具30に連結する。この連結によって薬液注入ロッド20が構成される。
【0050】
図11に、立坑取り付け治具30とロッド本体40との連結工程の手順を示す。ロッド本体40の連結部42は、カムロックメスのレバー42Lが支点を軸として回転可能である。手順1-2では、レバー42Lをアンロックした状態で、立坑取り付け金具30のソケット32に固定されたコネクタ32Cがロッド本体40の連結部42に挿入され、カムロックのオスとメスとが嵌り合う。挿入後の手順3-4では、立坑取り付け治具30とロッド本体40とが連結した状態でレバー42Lがロックされる。
【0051】
S14の注入工程では、薬液注入ロッド20にて、薬液供給装置50から供給された主剤と硬化剤とを混合して送出し、且つ、エア供給装置620から供給されるエアで振動子47を冷却しながら振動子47が発生させた超音波振動を薬液及び地盤に付与しつつ、注入ポイントGPに薬液を注入する。注入工程における薬液及びエアの流れ、超音波振動の発生については、図4図6を参照して上述した通りである。
【0052】
注入ポイントGP一箇所あたりの薬液注入が終わると、薬液供給装置50からの薬液供給、エア供給装置620からのエア供給、及び、超音波発振器61からの電気信号の出力を停止する。S15では、立坑取り付け治具30とロッド本体40との連結を解除する。そして、薬液通路44に残った薬液を除去してロッド本体40の内部を掃除する。
【0053】
シールド穴径が大きい工事や地下水量が多い軟弱地盤の工事では、貫通予定部93の周囲の複数箇所に薬液注入する必要がある場合がある。S16では、他の箇所にも薬液注入が必要か判断される。この判断については、最初から複数の注入ポイントGPを設定するよう計画されてもよいし、注入による地盤状態の変化を確認しながら判断されてもよい。他の箇所にも注入要(S16:YES)と判断された場合、S12~S15が繰り返される。立坑取り付け金具30は、立坑壁92から取り外して再利用できない場合を想定し、複数個の予備が用意されている。
【0054】
地盤強化が十分に達成され、他の箇所に注入不要(S16:NO)と判断されると、S17でプラントが撤去される。以上で本実施形態の超音波振動薬液注入工法は終了する。
【0055】
本実施形態による超音波振動薬液注入工法の効果について、一般的な薬液注入工法と比較して説明する。図12に一般的な薬液注入工法のフローチャートを比較例として示す。S91の設置工程では、装置、機材等が搬入され、到達立坑91の周囲にプラントが仮設される。S92では、ボーリングマシンが設置される。
【0056】
S93の削孔工程では、トンネル上部の地上からボーリングマシンにより削孔を形成する。S94の注入工程では、削孔に貫入した注入管を通して薬液を地盤に注入する。削孔一箇所あたりの薬液注入が終わると、S95では、注入管の引抜き、削孔の穴埋めが行われる。
【0057】
S96では、他の箇所にも薬液注入が必要か判断され、YESの場合、S93~S95が繰り返される。比較例の工法では、特許文献2の段落[0010]、[0015]等に記載されているように例えば1mピッチに多数の削孔が形成されることが一般的であり、S93~S95のループは多数回繰り返される。全箇所の削孔について薬液注入が完了すると、S97でプラントが撤去される。
【0058】
一般的な薬液注入工法と比較すると、プラントの設置、撤去に関するS11、S17についてはS91、S97と大差はない。しかし本実施形態では、比較例に特有のボーリングマシンの設置、削孔、注入管の引抜き等の工程S92、S93、S94が不要となる。これらの工程は、専門業者によって施行される大掛かりな工程である。それに対し本実施形態で実施される立坑取り付け金具30の取付やロッド本体40の連結、連結解除の工程S12、S13、S15は、シールド工事の施行業者が自分で作業可能な簡便な工程である。したがって本実施形態では、比較例に対し大掛かりな工程が不要となり、簡便な工程に置き換わる。
【0059】
シールド工事の施行業者にとって、比較例の工法では、専門業者の手配や施工準備に時間がかかるため、工事日程が延び、コストが高くなるという管理上の問題もあった。本実施形態の工法はシールド工事の施行業者が自分で作業可能な簡便な工法であるため、日程の管理やコスト低減の面からも有利となる。
【0060】
また、比較例の注入工程S94では削孔に貫入した注入管を通して広範囲に薬液を浸透させるため、貫通予定部の周囲の狙いポイントに薬液が浸透せず、地下水の噴出を確実に防止できない懸念があった。それに対し本実施形態の注入工程S14では、狙いの注入ポイントGPを特定してピンポイントに薬液を注入し、且つ、超音波振動を用いて薬液を効果的に浸透させるため、1回の薬液注入による地盤強化の効果が向上する。
【0061】
したがって、シールド穴径や地盤の条件が同じであれば、S16で「他の箇所にも注入要」と判断される回数はS96に比べて少なくなる。シールド穴径が比較的小さい工事の場合、本実施形態による超音波振動薬液注入工法では1回の薬液注入で地盤強化が完了する可能性が高い。よって、一般的な薬液注入工法に比べ、トータルでの施行時間を短縮することができる。さらに地下水の噴出がより確実に防止され、安全性が向上する。
【0062】
<その他の実施形態>
(1)薬液注入ロッド20を構成する立坑取り付け金具30とロッド本体40との連結構造はカムロックを用いるものに限らず、他の連結手段が用いられてもよい。
【0063】
(2)ロッド本体40における主剤通路441、硬化剤通路442及びエア通路46の配置は図3(b)に示す三重管構造に限らず、互いに隔離されて形成されていればよい。例えば主剤通路441と硬化剤通路442とが管内の壁を隔てて左右に分かれてもよい。また、主剤と硬化剤との混合位置は混合後の固化時間等の特性によって決まる。固化時間が長い薬剤を使用する場合、ロッド本体40のより後方で主剤と硬化剤とが混合されてもよい。
【0064】
(3)超音波発振器61とエア供給装置620とはユニット60を構成せず、分離配置されてもよい。圧縮空気中の水分による影響が問題とならない場合、エア供給装置620はエアドライヤ64を含まなくてもよい。エア供給装置620は、システム内部で圧縮空気を生成して供給するものに限らず、システム外部(例えば隣の別の工事設備)から供給されたエアを調圧して再供給してもよい。
【0065】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0066】
100・・・超音波振動薬液注入システム、
20 ・・・薬液注入ロッド、
30 ・・・立坑取り付け金具、
40 ・・・ロッド本体、
441・・・主剤通路、 442・・・硬化剤通路、 444・・・薬液混合室、
451・・・エア送気口、 46 ・・・エア通路、
47 ・・・振動子、
50 ・・・薬液供給装置、
61 ・・・超音波発振器、
620・・・エア供給装置、 62 ・・・エアコンプレッサ、
63 ・・・レギュレータ、 64 ・・・エアドライヤ、
65 ・・・エアチューブ、 66 ・・・電気ケーブル、
91 ・・・到達立坑、 92 ・・・立坑壁、 93 ・・・貫通予定部、
GP ・・・注入ポイント。
【要約】
【課題】シールド工法によるトンネル掘削工事の到達立坑で地下水の噴出を防止するための、簡便でピンポイントに薬液注入できる超音波振動薬液注入システムを提供する。
【解決手段】薬液注入ロッド20は、立坑壁92に固定される立坑取り付け金具30、及び、立坑取り付け金具に先端が連結されるロッド本体40を有する。ロッド本体40は、主剤と硬化剤とが混合された薬液を送出可能であり、電気信号により超音波振動を発生させる振動子47が内部に設けられている。薬液注入ロッド20は、振動子47が発生させた超音波振動を薬液及び地盤に付与しつつ、注入ポイントGPに薬液を注入する。薬液供給装置50は、薬液注入ロッド20に主剤及び硬化剤をそれぞれ供給する。超音波発振器61は、振動子47に超音波振動を発生させる電気信号を出力する。エア供給装置620は、超音波発生時に振動子47を冷却するエアを薬液注入ロッド20に供給する。
【選択図】図1
図1
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図9
図10
図11
図12