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特許7429913シート加工方法、および、シート加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】シート加工方法、および、シート加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/57 20140101AFI20240202BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20240202BHJP
【FI】
B23K26/57
G02F1/15 505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019107028
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020199515
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504221107
【氏名又は名称】株式会社レーザーシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉野 昌明
(72)【発明者】
【氏名】平岡 知己
(72)【発明者】
【氏名】南 佐和
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-276057(JP,A)
【文献】特開2014-060392(JP,A)
【文献】特開2014-179110(JP,A)
【文献】特開2014-072268(JP,A)
【文献】特開2016-137499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/57
G02F 1/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明シートに覆われた透明導電層を加工するシート加工方法であって、
トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーであって、前記透明シートの透過率が前記透明導電層の透過率よりも高い前記パルスレーザーを、前記透明シートを通して前記透明導電層に照射し、かつ、前記パルスレーザーを照射している間に、前記透明導電層に交流電圧を印加し、それによって、前記透明導電層のなかで前記パルスレーザーが照射された部分を絶縁化する
シート加工方法。
【請求項2】
透明シートに覆われた透明導電層を加工するシート加工方法であって、
トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーであって、前記透明シートの透過率が前記透明導電層の透過率よりも高い前記パルスレーザーを、前記透明シートを通して前記透明導電層に照射し、かつ、前記パルスレーザーを照射した後に、前記透明導電層に交流電圧の印加と非印加とを交互に繰り返し、それによって、前記透明導電層のなかで前記パルスレーザーが照射された部分を絶縁化する
シート加工方法。
【請求項3】
前記透明シートは、樹脂シートであり、
前記透明導電層は、透明導電性酸化物層である
請求項1または2に記載のシート加工方法。
【請求項4】
前記パルスレーザーは、超短パルス光である
請求項1から3のいずれか一項に記載のシート加工方法。
【請求項5】
前記透明導電層は、酸化インジウムスズから形成され、
前記パルスレーザーは、赤外領域に含まれる波長を有する
請求項1からのいずれか一項に記載のシート加工方法。
【請求項6】
透明シートに覆われた透明導電層を加工するシート加工装置であって、
トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーであって、前記透明シートの透過率が前記透明導電層の透過率よりも高い前記パルスレーザーを、前記透明シートを通して前記透明導電層に照射する照射部と、
前記透明導電層に交流電圧を印加する印加部と、
前記照射部と前記印加部との駆動を制御する制御部と、を備え
前記制御部は、前記照射部が前記パルスレーザーを前記透明導電層に照射している間に、前記印加部に前記透明導電層に交流電圧を印加させる
シート加工装置。
【請求項7】
透明シートに覆われた透明導電層を加工するシート加工装置であって、
トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーであって、前記透明シートの透過率が前記透明導電層の透過率よりも高い前記パルスレーザーを、前記透明シートを通して前記透明導電層に照射する照射部と、
前記透明導電層に交流電圧を印加する印加部と、
前記照射部と前記印加部との駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記照射部に前記パルスレーザーを前記透明導電層に照射させた後に、前記印加部に前記透明導電層への交流電圧の印加と非印加とを交互に繰り返させる
シート加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート加工方法、および、シートを加工するシート加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の異なる材質の膜を積層させ、所定の機能を発現させる機能性シートが様々な分野において実用化されつつある。例えば、特許文献1には、可変透過窓などに応用される機能性シートとしてEC(Electro Chromic)素子が開示されている。EC素子は、一対の透明シート、一対の透明導電層、および、EC層を備える。詳しくは、EC素子は、EC層の厚さ方向において該EC層が一対の透明導電層に挟まれ、該一対の透明導電層が一対の透明シートによって挟まれている。EC素子の端面には、封止部が設けられている。封止部は、EC素子端面から水分や導電性の異物などが内部に侵入することによる不具合、例えば、透明導電層間の短絡を有効に抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-070789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなEC素子の普及に伴って、EC素子が適用可能な環境条件の範囲も広がっている。例えば、EC素子が適用可能な温度の範囲が広がると、当該EC素子を構成する各層の熱膨張係数における差異が顕在化することが想定される。これにより、EC素子を例にとれば、透明導電層と封止部との間に隙間が形成されやすくなる。そのため、水分や異物が封止部を通過して内部に侵入するなど封止部の実効性が低下するおそれがある。このように、EC素子が適用可能な環境条件範囲を広げるにあたっては、透明導電層の外周部のように短絡が生じ得る部分と、外周部以外の部分のように光制御を求められる部分との間での絶縁性を確保することが望まれている。
【0005】
なおこうした課題は、EC素子に限らず、透明シートによって覆われた透明導電層を備え、当該透明導電層のなかの一部分と他の部分との間で絶縁が必要である機能性シートに共通する。
【0006】
本発明は、透明シートに覆われた透明導電層のなかの一部分と他の部分との間での絶縁性が確保される環境の範囲を拡張可能にしたシート加工方法、および、シート加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのシート加工方法は、透明シートに覆われた透明導電層を加工するシート加工方法であって、トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーであって、前記透明シートの透過率が前記透明導電層の透過率よりも高い前記パルスレーザーを、前記透明シートを通して前記透明導電層に照射し、それによって、前記透明導電層のなかで前記パルスレーザーが照射された部分を絶縁化する。
【0008】
上記構成によれば、強度分布が一様であるトップハット型のレーザーを用いるため、透明導電層のなかの被照射部分では、レーザーのパワー密度を均一にできる。これにより、レーザーの照射による特性の変化が照射部分以外で生じることが抑えられる。しかも、レーザーの照射を間欠的に繰り返すパルスレーザーを用いるため、レーザーが通る透明シートでは、透明シートの発熱が抑えられる。このように、被照射部分でのパワー密度の均一化と、透明シートにおける発熱とが抑えられる状況において、被照射部分を絶縁化することが可能である。結果として、透明シートに覆われた透明導電層のなかの一部分と他の部分との間での絶縁性が確保される環境を拡張可能である。
【0009】
上記シート加工方法において、前記透明シートは、樹脂シートであり、前記透明導電層は、透明導電性酸化物層であってもよい。この構成によれば、透明導電酸化物製の透明導電層の被照射部分を絶縁化しつつ、合成樹脂製の透明シートが変形や変質することが抑えられる。
【0010】
上記シート加工方法において、前記パルスレーザーは、超短パルス光であってもよい。この構成によれば、透明シートの加熱がさらに抑えられるため、レーザーの照射による発熱で透明シートが変形したり変質したりすることがより抑えられる。
【0011】
上記シート加工方法において、前記パルスレーザーを照射している間に、前記透明導電層に交流電圧を印加してもよい。この構成によれば、透明導電層に対するレーザーの照射とともに、透明導電層に交流電圧を印加することによって、交流電圧を印加しない場合に比べて、被照射部分が絶縁化されやすくなる。
【0012】
上記シート加工方法において、前記パルスレーザーを照射した後に、前記透明導電層に交流電圧の印加と非印加とを交互に繰り返してもよい。この構成によれば、透明導電層にパルスレーザーを照射した後に、さらに透明導電層に交流電圧の印加と非印加とが繰り返される。そのため、被照射部分が絶縁化される途中でパルスレーザーの照射が終了した場合であっても、被照射部分を絶縁化することが可能にもなる。
【0013】
上記シート加工方法において、前記透明導電層は、酸化インジウムスズから形成され、前記パルスレーザーは、赤外領域に含まれる波長を有してもよい。この構成によれば、酸化インジウムスズから形成される透明導電層の一部分を透明基材に覆われた状態で絶縁化することができる。
【0014】
上記課題を解決するためのシート加工装置は、透明シートに覆われた透明導電層を加工するシート加工装置であって、トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーであって、前記透明シートの透過率が前記透明導電層の透過率よりも高い前記パルスレーザーを、前記透明シートを通して前記透明導電層に照射する照射部と、前記透明導電層に交流電圧を印加する印加部と、を備える。この構成によれば、透明導電層に対するレーザーの照射とともに、透明導電層に交流電圧を印加することによって、交流電圧を印加しない場合に比べて、被照射部分が絶縁化されやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透明シートに覆われた透明導電層のなかの一部分と他の部分との間での絶縁性が確保される環境を拡張することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態におけるシート加工装置の概略的な構成を示す装置構成図。
図2】EC素子の構造を示す断面図。
図3】EC素子の構造を拡大図とともに示す平面図。
図4】一実施形態におけるシート加工方法を説明するためのフローチャート。
図5】一実施形態におけるシート加工方法を説明するためのフローチャート。
図6】変更例におけるEC素子の構造を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から図5を参照して、シート加工方法、および、シート加工装置の実施形態を説明する。以下では、シート加工装置の構成、加工対象シートの一例であるEC素子の構成、および、シート加工装置を用いたEC素子の加工方法を順に説明する。
【0018】
[シート加工装置の構成]
図1を参照してシート加工装置の構成を説明する。
図1が示すように、シート加工装置10は、照射部11と印加部12とを備える。照射部11は、照射対象Sに焦点を位置させて、トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーLを照射対象Sに照射する。印加部12は、照射対象Sに交流電圧を印加する。
【0019】
照射部11は、レーザー源11a、トップハット光学系11b、ミラー11c、および、集光レンズ11dを備える。レーザー源11aは、照射対象Sに照射するパルスレーザーLを発振する。レーザー源11aは、パルスレーザーLの光軸に垂直な面における強度分布がガウシアン分布であるパルスレーザーLを発振する。本実施形態において、レーザー源11aは、パルスレーザーLとして超短パルス光を発振することが好ましい。超短パルス光において、半値全幅として算出されるパルス幅が、例えば1000フェムト秒以下である。パルス幅が1000フェムト秒よりも大きい場合には、すなわちパルス幅がナノ秒オーダーやピコ秒オーダーである場合には、パルスレーザーLを照射された対象において気泡が生じる確率が高くなる。そのため、パルス幅が1000フェムト秒以下であることによって、レーザー光線を照射された対象において気泡が生じることが抑えられる。本実施形態では、超短パルス光のパルス幅は、290フェムト秒である。
【0020】
パルスレーザーLは、赤外領域に含まれる波長を有する。パルスレーザーLの波長は、1030nm以上であることが好ましい。パルスレーザーLの強度は、加工対象シートが樹脂シートを備える場合に、樹脂シートの変形や変質を抑える観点から、0.1W以下であることが好ましい。
【0021】
トップハット光学系11bは、レーザー源11aが発振したパルスレーザーLの上述した強度分布を、ガウシアン分布からトップハット分布に変換する。トップハット光学系11bは、パルスレーザーLの成形器として、例えば、回折格子を備えてもよいし、ホモジナイザーを備えてもよいし、フィールドマッピング型の成形器を備えてもよい。
【0022】
トップハット型に成形されたパルスレーザーLにおいて、Mスクエア値が、例えば1.1以上1.5以下であることが好ましい。Mスクエア値は、理想的なガウシアン分布を有するレーザーのビームパラメーター積(BPP)に対する、実際のパルスレーザーLのビームパラメーター積(BPP)の比(BPP/BPP)である。
【0023】
ミラー11cは、ステージ13における1つの位置に向けて光を反射するように構成されてもよい。あるいは、ミラー11cは、走査光学系の一例であるガルバノ光学系でもよい。ガルバノ光学系は、照射対象Sが配置されるXY平面に設定される座標に応じて、照射対象SのなかでパルスレーザーLが照射される位置を走査することが可能に構成されている。
【0024】
集光レンズ11dは、XY平面に垂直なZ方向において、照射対象Sに対する距離を変えることが可能に構成されている。これにより、集光レンズ11dは、パルスレーザーLにおける焦点の位置を変えることが可能である。なお、ミラー11cがガルバノ光学系である場合には、集光レンズ11dはfθレンズである。
【0025】
集光レンズ11dにおいて、開口数NAは0.4以下であることが好ましい。すなわち、集光レンズ11dにおいて、FナンバーFは、0.2以下であることが好ましい。なお、FナンバーFと開口数NAとは、以下の式を用いて互いに換算することが可能である。
【0026】
F=1/2NA
印加部12は、交流電源12aおよび2つのプローブ12bを備える。各プローブ12bは、交流電源12aに電気的に接続されている。各プローブ12bは、照射対象Sにおける同一の面に接することが可能に構成されている。2つのプローブ12bは、照射対象Sにおける被照射部分を絶縁化するとき、および、照射対象Sにおける被照射部分が絶縁性を有するか否かを判断するときに用いられる。
【0027】
交流電源12aは、2つのプローブ12bを通じて照射対象Sに交流電圧を印加する。交流電源12aは、例えば0V以上130V以下の交流電圧を出力し、かつ、例えば50Hz以上60Hz以下の交流電圧を出力するものとする。また、シートサイズ、すなわち照射対象Sの大きさに応じて出力容量を変えることが望ましい。例えば、照射対象Sが1m角の大きさを有するシートである場合には、出力容量が0.1KVA以上0.5KVA以下であることが望ましい。
【0028】
印加部12は、さらに、一対のプローブ12b間に交流電圧を印加する印加期間と、一対のプローブ12b間に交流電圧を印加しない非印加期間を所定の回数だけ交互に繰り返すことが可能に構成されている。
【0029】
照射部11は、印加部12が印加期間と非印加期間とを繰り返す間に、照射対象Sに対してパルスレーザーLを照射しないように構成されている。
印加部12は、印加部12が印加期間と非印加期間とを繰り返す際に、照射対象Sに対してパルスレーザーLが照射される場合に照射対象Sに印加する第1交流電圧よりも高い第2交流電圧を印加することが好ましい。
【0030】
印加期間と非印加期間とは、互いに同じ長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。印加期間および非印加期間は、例えば0.01秒以上10秒以下の範囲に含まれるいずれかの長さに設定される。交流電源12aが第2交流電圧の印加と非印加とを繰り返す周期は、例えば0.01秒以上10秒以下の範囲に含まれるいずれかの長さに設定される。
【0031】
ステージ13は、照射対象Sを支持する。ステージ13は、例えば、集光レンズ11dに対する照射対象Sの位置を変更することが可能に構成されている。この場合には、ステージ13は、照射対象Sが配置されるXY平面に設定される座標に応じて、集光レンズ11dに対する照射対象Sの位置を変える。ステージ13が、集光レンズ11dに対する照射対象Sの位置を変えることによって、照射対象SのなかでパルスレーザーLが照射される位置を変えることができる。なお、ステージ13は、XY平面上における1つの位置に照射対象Sの位置を固定するように構成されてもよい。
【0032】
照射対象SにおけるパルスレーザーLの照射位置の走査は、以下の方法で行うことが可能である。すなわち、シート加工装置10がガルバノ光学系を備える場合には、ガルバノ光学系を用いて照射位置の走査を行うことが可能である。また、シート加工装置10が、XY平面において照射対象Sの位置を変えることが可能なステージ13を備える場合には、ステージ13を用いて照射位置の走査を行うことが可能である。さらには、シート加工装置10が、ガルバノ光学系と、XY平面において照射対象Sの位置を変えることが可能なステージ13とを備える場合には、これらの両方を用いて照射位置の走査を行うことが可能である。
【0033】
載置台14は、照射対象Sが位置するステージ13を支持している。
シート加工装置10は、照射部11および印加部12の駆動を制御する制御部15を備える。制御部15は、中央演算処理装置、および、メモリを備える。制御部15は、各種の処理を全てソフトウェアで処理するものに限らない。例えば、制御部15は、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。制御部15は、ASICなどの1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(マイクロコンピュータ)、あるいは、これらの組み合わせ、を含む回路としても構成される。なお、以下では、制御部15が、読み取り可能な可読媒体に加工プログラムを記憶し、可読媒体が記憶する加工プログラムを読み出して実行し、各種信号の出力を行う例を説明する。
【0034】
制御部15は、パルスレーザーLの焦点が照射対象Sに位置する状態でパルスレーザーLを照射対象Sに照射するための制御信号を生成する。そして、制御部15は、生成した制御信号を照射部11に入力する。照射部11は、制御部15が入力した制御信号に応じて照射対象SにパルスレーザーLを照射する。
【0035】
制御部15は、印加部12に交流電圧を印加させるための制御信号を生成する。そして、制御部15は、生成した制御信号を印加部12に入力する。印加部12は、制御部15が入力した制御信号に応じて照射対象Sに交流電圧を印加する。
【0036】
制御部15は、パルスレーザーLの照射によって照射対象Sに形成された被照射部分が絶縁性を有するか否かを判断する。制御部15は、被照射部分の絶縁性を判断する上で基準となる情報を記憶している。被照射部分の絶縁性を判断する上で基準となる情報は、例えば、被照射部分が絶縁性を有するときの照射対象Sの抵抗値である。
【0037】
なお、シート加工装置10は、照射対象Sの抵抗値を測定する際に用いられる直流電源を備えてもよい。また、シート加工装置10は、照射対象Sの光透過率を評価する際に用いられる照射部および受光部を備えてもよい。
【0038】
[EC素子の構成]
図2および図3を参照して、EC素子の構成を説明する。上述したように、EC素子は、加工対象シートの一例である。
【0039】
図2が示すように、EC素子20は、電解質層21、一対の透明導電層22a,22b、および、一対の透明シート23a,23bを備える。透明シート23a,23bにおけるパルスレーザーLの透過率は、透明導電層22a,22bにおけるパルスレーザーLの透過率よりも高い。
【0040】
各透明シート23a,23bは、合成樹脂、あるいは、無機ガラスから形成されている。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、および、ポリカーボネート(PC)などであってよい。透明シート23a,23bは単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。透明シート23a,23bが多層構造を有する場合には、多層構造を構成する複数の層には、互いに異なる材料から形成された層が含まれてよい。
【0041】
各透明導電層22a,22bは、例えば、透明導電性酸化物(TCO)から形成される。TCOは、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、および、酸化スズ(SnO)などである。各透明導電層22a,22bは、例えば、カーボンナノチューブ、あるいは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)から形成されてもよい。
【0042】
本実施形態では、上述したように、レーザー源11aが発振するパルスレーザーLの波長が赤外領域に含まれるため、透明導電層22a,22bは、ITOから形成されて、各透明シート23a,23bは、上述した各合成樹脂から形成されることが好ましい。ITOは、赤外領域の光に対する高い吸収特性を有する。そのため、透明導電層22a,22bをITOから形成することによって、透明導電層22a,22bがパルスレーザーLから吸収するエネルギー量と、透明シート23a,23bがパルスレーザーLから吸収するエネルギー量との差が大きくなりやすい。
【0043】
第1透明導電層22aおよび第2透明導電層22bの少なくとも一方が、パルスレーザーLの照射対象Sである。本実施形態では、第1透明導電層22aおよび第2透明導電層22bの両方が、照射対象Sである。第1透明導電層22aにパルスレーザーLが照射される場合には、第1透明シート23aを介して第1透明導電層22aにパルスレーザーLが照射される。第2透明導電層22bにパルスレーザーLが照射される場合には、第2透明シート23bを介して第2透明導電層22bにパルスレーザーLが照射される。
【0044】
電解質層21は、電解質層21の厚さ方向において、一対の透明導電層22a,22bによって電解質層21は、金属を含むエレクトロクロミック材料(以下、EC材料とも称する)を含んでいる。
【0045】
図3は、加工後のEC素子20における平面構造を示している。図3が示す拡大図は、EC素子20のなかで、第1透明導電層22aにおいてパルスレーザーLが照射された被照射部分の一部を示している。なお、第2透明導電層22bに形成された被照射部分は、第1透明導電層22aに形成された被照射部分と同等の構成であるため、第2透明導電層22bの被照射部分についての詳しい説明を省略する。
【0046】
図3が示すように、EC素子20は、電解質層21の厚さ方向から見て、例えば四角形状を有している。なお、EC素子20は、四角形状に限らず、例えば円形状、および、四角形状以外の多角形状などの任意の形状を有することが可能である。
【0047】
第1透明導電層22aは、一対の第1端子部22atを備える。一対の第1端子部22atは、電解質層21の厚さ方向から見て、例えば、第1透明導電層22aに設定される対角線上に位置している。また、各第1端子部22atは、電解質層21の厚さ方向から見て、EC素子20における1つの角部に位置している。各第1端子部22atは、EC素子20の外縁よりも外側に飛び出る形状および大きさを有している。一対の第1端子部22atにおいて、一方の第1端子部22atに一方のプローブ12bが接続され、かつ、他方の第1端子部22atに他方のプローブ12bが接続される。
【0048】
第2透明導電層22bは、一対の第2端子部22btを備える。一対の第2端子部22btは、電解質層21の厚さ方向から見て、例えば、第2透明導電層22bに設定される対角線上に位置している。また、各第2端子部22btは、電解質層21の厚さ方向から見て、EC素子20における1つの角部に位置している。各第2端子部22btは、EC素子20の外縁よりも外側に飛び出る形状および大きさを有している。一対の第2端子部22btにおいて、一方の第2端子部22btに一方のプローブ12bが接続され、かつ、他方の第2端子部22btに他方のプローブ12bが接続される。
【0049】
電解質層21の厚さ方向から見て、第1透明導電層22aが有する第1端子部22atと、第2透明導電層22bが有する第2端子部22btとは、EC素子20における互いに異なる角部に位置している。なお、電解質層21の厚さ方向から見て、第1透明導電層22aが有する一方の第1端子部22atは、第2透明導電層22bが有する一方の第2端子部22btと互いに重なり、かつ、第1透明導電層22aが有する他方の第1端子部22atは、第2透明導電層22bが有する他方の第2端子部22btと互いに重なってもよい。
【0050】
第1透明導電層22aには、第1透明導電層22aの外縁に沿って被照射部分22a1が形成されている。被照射部分22a1は、第1透明導電層22aのなかでパルスレーザーLが照射された部分である。図3が示す例では、第1透明導電層22aの外縁の全体に沿って被照射部分22a1が形成され、これによって、被照射部分22a1は閉環状を有している。なお、被照射部分22a1の外縁における一部のみに沿って形成されてもよい。
【0051】
シート加工装置10によれば、第1透明導電層22aのなかでパルスレーザーLの焦点が位置する部分を変更することによって、第1透明導電層22aでの被照射部分22a1の位置を変更することが可能である。そのため、シート加工装置10によれば、第1透明導電層22aにおける任意の位置に、任意の形状を有した被照射部分22a1を形成することが可能である。
【0052】
二点鎖線で囲まれる領域Aの拡大図には、被照射部分22a1の一部が示されている。被照射部分22a1は、1つ以上の変性部a11によって形成されている。変性部a11は、第1透明導電層22aにおいてパルスレーザーLが照射された軌跡に応じた形状を有している。本実施形態では、変性部a11は、第1透明導電層22aの外縁に沿う線状を有している。変性部a11において、第1透明導電層22aの外縁が延びる方向に直交する方向の長さが幅Wである。変性部a11の幅Wは、例えば10μm以上100μm以下である。
【0053】
被照射部分22a1は、複数の変性部a11によって形成されることが可能である。図3が示す例では、被照射部分22a1は、6本の変性部a11によって形成されている。被照射部分22a1が複数の変性部a11から形成される場合には、複数の変性部a11は、各変性部a11が延びる方向と直交する方向に沿って並んでいる。1つの変性部a11の幅Wと、当該変性部a11と隣り合う変性部a11との間の距離との和が、ピッチPである。変性部a11のピッチPは、例えば20μm以上200μm以下である。このように、変性部a11のピッチPが、20μm以上200μm以下である場合には、変性部a11の数を6以下とすることによって、被照射部分22a1の幅が、人の目の分解能よりも小さくなる。これにより、被照射部分22a1は、EC素子20の観察者によって視認されないため、EC素子20において意匠性の低下が抑えられ、かつ、被照射部分22a1の全体における絶縁化の確度が高められる。
【0054】
変性部a11は、導電性を有しない部分である。変性部a11は、第1透明導電層22aを形成する材料の一部が、第1透明導電層22aのなかでパルスレーザーLが照射された部分から消失することによって組成が変化し、これによって、導電性を失った部分でもよい。この場合には、変性部a11が導電性を有しないため、第1透明導電層22aのなかで、変性部a11を介して互いに隣り合う部分では、一方と他方との間で絶縁される。
【0055】
あるいは、変性部a11は、第1透明導電層22aのなかでパルスレーザーLが照射された部分を形成する材料が当該部分から消失し、これによって、導電性を失った部分でもよい。すなわち、この場合には、変性部a11は、第1透明導電層22aに形成された空隙であってもよい。これによっても、第1透明導電層22aのなかで、変性部a11を介して互いに隣り合う部分では、一方と他方との間で絶縁される。
【0056】
第1透明導電層22aにおいて、変性部a11における反射率は、変性部a11以外の部分における反射率と異なっている。また、第1透明導電層22aにおいて、変性部a11における屈折率は、変性部a11以外の部分における屈折率と異なっている。
【0057】
被照射部分22a1が絶縁性を有するか否かは、第1透明導電層22aの抵抗値を測定すること、または、EC素子20の光透過率を測定することによって把握することが可能である。なお、被照射部分22a1が絶縁性を有するか否かを把握するために、抵抗値の測定と光透過率の測定との両方を行ってもよい。
【0058】
第1透明導電層22aの抵抗値を測定する場合、例えば、シート加工装置10では、2つのプローブ12bのうち、一方のプローブ12bが一方の第1端子部22atに接続され、かつ、他方のプローブ12bが他方の第1端子部22atに接続される。そして、シート加工装置10がプローブ12b間に直流電圧を印加することによって、シート加工装置10が第1透明導電層22aの抵抗値を測定する。被照射部分22a1が絶縁化されている場合には、被照射部分22a1が絶縁化されていない場合に比べて、第1透明導電層22aの抵抗値が高くなる。例えば、第1透明導電層22aの抵抗値が1MΩ以上である場合に、被照射部分22a1が絶縁化されていると判断することが可能である。
【0059】
EC素子20の透過率を測定する場合には、例えば、シート加工装置10では、第1透明導電層22aが有する1つの第1端子部22atに一方のプローブ12bが接続され、かつ、第2透明導電層22bが有する1つの第2端子部22btに他方のプローブ12bが接続される。そして、シート加工装置10は、端子部22at,22bt間にEC材料を析出させるための電圧を印加する。この際、電解質層21の厚さ方向から見て、EC素子20のうち、被照射部分22a1よりも外側の部分において光透過率が変わる一方で、被照射部分22a1よりも内側の部分において光透過率が変わらない場合には、被照射部分22a1が絶縁化されていると判断することが可能である。一方で、EC素子20の全体において光透過率が変わった場合には、被照射部分22a1が絶縁化されていないと判断することが可能である。
【0060】
なお、EC素子20の光透過率は、例えば、EC素子20を撮影した撮影結果に基づき把握することが可能である。あるいは、EC素子20の光透過率は、EC素子20に対して光を照射する照射部と、照射部がEC素子20に照射した光を受光する受光部とを用いて把握することが可能である。この場合には、EC素子20のなかで、電圧の印加の有無によって光透過率が変わるか否かを判断したい部分を、照射部と受光部とによって挟む。そして、電圧の印加時と非印加時との両方において、照射部がEC素子20に照射した光を、EC素子20を介して受光部に受光させる。電圧の印加の有無によって受光部が受光した光の強度が所定値以上変わった場合に、EC素子20の光透過率が変わったと判断することが可能である。一方で、電圧の印加の有無によって受光部が受光した光の強度が所定値未満しか変わらなかった場合に、EC素子20の光透過率が変わっていないと判断することが可能である。
【0061】
[EC素子の加工方法]
図4を参照して、EC素子20の加工方法を説明する。以下に図面を参照して説明する処理は、EC素子20の加工方法を実施する上で、シート加工装置10が備える制御部15によって行われる、または、制御部15が、シート加工装置10が備える照射部11または印加部12に行わせる処理である。なお、第2透明導電層22bに対して行われる処理は、第1透明導電層22aに行われる処理と同等である。そのため以下では、第1透明導電層22aが照射対象Sである場合について説明する一方で、第2透明導電層22bが照射対象Sである場合についての説明を省略する。
【0062】
EC素子20の加工方法は、透明シート23a,23bと、透明シート23a,23bに覆われた透明導電層22a,22bとを備えるEC素子20を加工する方法である。
【0063】
EC素子20の加工方法は、透明シート23a,23bを介して透明導電層22a,22bにパルスレーザーLを照射する照射工程を備える。照射工程は、パルスレーザーLの焦点を透明導電層22a,22bに位置させ、トップハット型の強度分布を有したパルスレーザーLを透明導電層22a,22bに照射することを含む。透明シート23a,23bにおけるパルスレーザーLの透過率が、透明導電層22a,22bにおけるパルスレーザーLの透過率よりも高い。
【0064】
ガウシアン型に比べて光軸に垂直な断面における強度の分布が一様であるトップハット型のパルスレーザーLを用いることによって、パルスレーザーLの照射対象Sを覆う透明シート23a,23bの一部にのみパルスレーザーLのパワー密度が高くなることが抑えられる。これにより、透明シート23a,23bの変形や変質が抑えられる。しかも、パルスレーザーLを用いることによって、透明シート23a,23bおよび透明導電層22a,22bに対してパルスレーザーLが照射されている期間と照射されていない期間とが交互に繰り返され、透明シート23a,23bが加熱されにくくなる。これによっても、透明シート23a,23bの変形や変質が抑えられる。そして、照射対象Sに照射されるパルスレーザーLの強度が均一化される。
【0065】
このように透明シート23a,23bに対する変形や変質が抑えられる状況において、焦点が位置する透明導電層22a,22bにはパルスレーザーLが照射されて、それによって、被照射部分を絶縁化することが可能となる。そして、パルスレーザーLの照射によって被照射部分を絶縁する方法によれば、透明導電層22a,22bのなかで、被照射部分よりも透明導電層22a,22bの中心寄りの部分に向けて水分や異物が透過することが抑えられる。結果として、透明導電層22a,22bのなかの外周部分とそれ以外の部分との間で、絶縁性を確保することが可能である。
【0066】
以下、図面を参照して、EC素子20の加工方法を詳しく説明する。なお、以下では、第1透明導電層22aに変性部a11を形成する場合のEC素子20の加工方法を説明する。EC素子20は、EC素子20に照射されるパルスレーザーLの光軸上において、第1透明シート23aと集光レンズ11dとの距離が、第1透明導電層22aと集光レンズ11dとの距離よりも小さくなるように、ステージ13上に配置されている。
【0067】
図4が示すように、制御部15は、まず、印加部12に、プローブ12bを通じて第1透明導電層22aに対して第1交流電圧を印加させる(ステップS11)。当該工程が、印加工程である。
【0068】
次いで、制御部15は、印加部12に第1交流電圧を印加させ続けた状態で、照射部11にEC素子20に対してパルスレーザーLを照射させる(ステップS12)。当該工程が、照射工程である。上述したように、パルスレーザーLは、超短パルス光であることが好ましい。パルスレーザーLとして超短パルス光を用いるため、パルスレーザーLが透明シート23a,23bを介して透明導電層22a,22bに照射された場合に、透明シート23a,23bが加熱されにくい。これにより、透明シート23a,23bが変形したり変質したりすることがより抑えられる。
【0069】
この際に、制御部15は、照射部11を駆動して、パルスレーザーLの焦点を第1透明導電層22aに合わせた状態で、照射部11に第1透明導電層22aに対してパルスレーザーLを照射させる。このように、EC素子20の加工方法は、照射工程が行われている間に、透明導電層に第1交流電圧を印加する印加工程を備える。照射工程では、パルスレーザーLを走査することによって、1つの変性部a11を第1透明導電層22aに形成する。透明導電層22a,22bにパルスレーザーLを照射しつつ、各透明導電層22a,22bに第1交流電圧を印加することによって、第1交流電圧を印加しない場合に比べて、透明導電層22a,22bにおけるパルスレーザーLの被照射部分が絶縁化されやすくなる。
【0070】
次いで、制御部15は、第1交流電圧の印加、および、パルスレーザーLの照射を停止し、1つの変性部a11を形成することによって被照射部分22a1が絶縁化されたか否かを判断する(ステップS13)。上述したように、被照射部分22a1が絶縁性を有するか否かは、第1透明導電層22aの抵抗値、および、EC素子20の光透過率の少なくとも一方によって判断することが可能である。
【0071】
第1透明導電層22aの抵抗値によって被照射部分22a1における絶縁性の有無を判断する場合には、制御部15は、第1透明導電層22aが有する一方の第1端子部22atに一方のプローブ12bを接続させ、かつ、第1透明導電層22aが有する他方の第1端子部22atに他方のプローブ12bを接続させる。そして、制御部15は、一対の第1端子部22at間に直流電圧を印加させ、このときにおける第1透明導電層22aの抵抗値を測定する。制御部15は、測定された抵抗値が所定値以上である場合には、被照射部分22a1が絶縁性を有すると判断する(ステップS13:YES)。一方で、制御部15は、測定された抵抗値が所定値未満である場合には、被照射部分22a1が絶縁性を有しないと判断する(ステップS13:NO)。
【0072】
これに対して、EC素子20の光透過率によって被照射部分22a1における絶縁性の有無を判断する場合には、制御部15は、第1透明導電層22aが有する1つの第1端子部22atに一方のプローブ12bを接続させ、かつ、第2透明導電層22bが有する1つの第2端子部22btに他方のプローブ12bを接続させる。そして、制御部15は、一対の端子部22at,22bt間に電圧を印加させて、このときにおけるEC素子20の光透過率に基づいて、被照射部分22a1における絶縁性の有無を判断する。被照射部分22a1よりも外側の部分において光透過率が変わる一方で、被照射部分22a1よりも内側の部分において光透過率が変わらない場合には、制御部15は、被照射部分22a1が絶縁性を有すると判断する(ステップS13:YES)。一方で、EC素子20の全体において光透過率が変わる場合には、制御部15は、被照射部分22a1が絶縁性を有しないと判断する(ステップS13:NO)。
【0073】
制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されたと判断した場合には(ステップS13:YES)、制御部15は、EC素子20の加工に関わる処理を一旦終了する。
一方で、制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されていないと判断した場合には(ステップS13:NO)、制御部15は、EC素子20に対するパルスレーザーLの照射回数nに1を追加し(ステップS14)、1を追加した後の照射回数nが2であるか否かを判断する(ステップS15)。
【0074】
制御部15が、照射回数nが2ではないと判断した場合には(ステップS15:NO)、制御部15は、印加部12に、第1透明導電層22aが有する一対の第1端子部22atに対して、再び第1交流電圧を印加させる(ステップS11)。次いで、制御部15は、照射部11に、第1透明導電層22aのなかで、(n-1)回目においてパルスレーザーLを照射した部分とは異なる部分に対してパルスレーザーLを照射させる(ステップS12)。そして、制御部15は、被照射部分22a1が絶縁化されたか否かを判断する(ステップS13)。制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されたと判断した場合には(ステップS13:YES)、制御部15は、EC素子20の加工に関わる処理を一旦終了する。
【0075】
制御部15が、照射回数nが2であると判断した場合には(ステップS15:YES)制御部15は、印加部12に、第1透明導電層22aが有する一対の第1端子部22atに対して、再び交流電圧を印加させる(ステップS21)。次いで、制御部15は、照射部11に、第1透明導電層22aのなかで、ステップS12においてパルスレーザーLを照射した部分とは異なる部分にパルスレーザーLを照射させる(ステップS22)。そして、制御部15は、EC素子20に対するパルスレーザーLの照射回数nに1を追加し(ステップS23)、照射回数nが第1透明導電層22aに対してパルスレーザーLを照射することが可能な最大の回数に等しいか否かを判断する(ステップS24)。上述したように、本実施形態では、照射部11が第1透明導電層22aに対してパルスレーザーLを照射可能な最大の回数は6回である。そのため、制御部15は、照射回数nが6回であるか否かを判断する。制御部15が、照射回数nが6でないと判断した場合には(ステップS24:NO)、照射回数nが6になるまで、照射部11にパルスレーザーLの照射を繰り返させる。
【0076】
そして、制御部15が、照射回数nが6であると判断した場合には(ステップS24:YES)、制御部15は、先に説明したステップS13と同様にして、被照射部分22a1が絶縁化されたか否かを判断する(ステップS25)。制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されたと判断した場合には(ステップS25:YES)、制御部15は、EC素子20の加工に関わる処理を一旦終了する。
【0077】
制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されていないと判断した場合には(ステップS25:NO)、図5が示すように、制御部15は、交流電源12aが出力する交流電圧を、ステップS11、および、ステップS21において交流電源12aが出力する第1交流電圧よりも高い第2交流電圧とする(ステップS31)。
【0078】
次いで、制御部15は、第2交流電圧の印加と非印加とを所定の周期で交互に繰り返す(ステップS32)。すなわち、制御部15は、第2交流電圧の印加と非印加とを切り替えるスイッチのオンとオフとを交互に切り替える。これにより、交流電源12aが上述した印加期間と非印加期間とを所定の周期で繰り返す。当該工程は、第1透明導電層22aに対する第2交流電圧の印加と非印加とを交互に繰り返す交番工程である。交番工程は、照射工程の後、かつ、印加工程の後に行われる。また、上述したように、交番工程では、印加工程において第1透明導電層22aに印加される第1交流電圧よりも高い第2交流電圧を第1透明導電層22aに印加する。
【0079】
透明導電層22a,22bにレーザーを照射した後に、さらに透明導電層22a,22bに対して第2交流電圧を所定の周期で印加することによって、照射工程によって被照射部分22a1が絶縁化されていない場合であっても、その被照射部分を絶縁化することが可能になる。そのため、被照射部分22a1の絶縁化をより確実に行うことが可能である。
【0080】
そして、制御部15は、ステップS13、および、ステップS25と同様に、第2交流電圧の印加と非印加との切り替えを終了して、被照射部分22a1が絶縁化されたか否かを判断する(ステップS33)。制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されたと判断した場合には(ステップS33:YES)、制御部15は、EC素子20の加工に関わる処理を一旦終了する。一方で、制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されていないと判断した場合には(ステップS33:NO)、制御部15は、第1透明導電層22aに対する絶縁化の処理が不可能であると判断して(ステップS34)、EC素子20の加工に関わる処理を一旦終了する。
【0081】
なお、制御部15が、第1透明導電層22aに対する絶縁化の処理が不可能であると判断した場合には、制御部15が、シート加工装置10の外部に対して、第1透明導電層22aに対する絶縁化の処理が不可能であることを報知することが好ましい。制御部15による報知は、例えば、ブザーなどを用いた音による報知でもよいし、表示デバイスを用いた文字情報による報知でもよい。
【0082】
以上説明したように、シート加工方法、および、シート加工装置の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)強度分布が一様であるトップハット型のパルスレーザーLを用いることによって、パルスレーザーLの照射対象Sを覆う透明シート23a,23bの一部にのみパルスレーザーLのパワー密度が高くなることが抑えられる。これにより、透明シート23a,23bの変形や変質が抑えられる。
【0083】
(2)しかも、パルスレーザーLを用いることによって、透明シート23a,23bおよび透明導電層22a,22bに対してパルスレーザーLが照射されている期間と照射されていない期間とが交互に繰り返され、透明シート23a,23bが加熱されにくくなる。これによっても、透明シート23a,23bの変形や変質が抑えられる。
【0084】
(3)このように透明シート23a,23bに対する変形や変質が抑えられる状況において、焦点が位置する透明導電層22a,22bにはパルスレーザーLが照射されることによって被照射部分を絶縁化することが可能である。そして、パルスレーザーLの照射によって被照射部分を絶縁する方法によれば、透明導電層22a,22bのなかで、被照射部分よりも透明導電層22a,22bの中心寄りの部分に対して水分や異物が透過することが抑えられる。結果として、透明導電層22a,22bのなかの外周部分とそれ以外の部分との間で、絶縁性を確保することが可能である。
【0085】
(4)一例として、透明導電酸化物製の透明導電層22a,22bの被照射部分を絶縁化しつつ、合成樹脂製の透明シート23a,23bが変形や変質することが抑えられる。
(5)透明導電層22a,22bにパルスレーザーLを照射しつつ、透明導電層22a,22bに第1交流電圧を印加するため、第1交流電圧を印加しない場合に比べて、パルスレーザーLの被照射部分が絶縁化されやすくなる。
【0086】
(6)透明導電層22a,22bにレーザーを照射した後に、さらに透明導電層22a,22bに対して第2交流電圧を所定の周期で印加するため、照射工程では被照射部分が絶縁化の途中であっても、その被照射部分を絶縁化することが可能になる。そのため、被照射部分の絶縁化をより確実に行うことが可能である。
【0087】
(7)ITOは赤外領域の光に対する高い吸収特性を有する。そのため、透明シート23a,23bを介して透明導電層22a,22bにパルスレーザーLを照射した場合に、透明導電層22a,22bがパルスレーザーLから吸収するエネルギー量と、透明シート23a,23bがパルスレーザーLから吸収するエネルギー量との差が大きくなりやすい。これにより、透明導電層22a,22bを絶縁化させつつ、透明シート23a,23bの変形や変質を抑えることが可能である。
【0088】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[照射対象]
・透明導電層は、ITOなどの透明酸化物半導体に限らず、例えば、金属、導電性金属化合物、および、導電性高分子などから形成されてもよい。
【0089】
図6が示すように、照射対象Sを備えるEC素子20には、第1電極部22aeと第2電極部22beとが形成されていてもよい。各電極部22ae,22beは、各透明導電層22a,22bを透明導電層22a,22b間に電圧を印加する外部電源に接続するための端子が形成される部分である。
【0090】
第1電極部22aeは、電解質層21、第2透明導電層22b、および、第2透明シート23bの各々に形成された開口を通じて、EC素子20の外部に露出している。第2電極部22beは、電解質層21、第1透明導電層22a、および、第1透明シート23aの各々に形成された開口を通じて、EC素子20の外部に露出している。EC素子20は、1つの第1端子部22atと1つの第2端子部22btとを備える。
【0091】
そして、第1透明導電層22aにパルスレーザーLが照射される場合には、印加工程において、第1電極部22aeと第1端子部22atとを通じて、第1透明導電層22aに第1交流電圧が印加される。これに対して、第2透明導電層22bにパルスレーザーLが照射される場合には、印加工程において、第2電極部22beと第2端子部22btとを通じて、第2透明導電層22bに第1交流電圧が印加される。
【0092】
パルスレーザーLが照射された後のEC素子20において被照射部分が絶縁化されたか否かを判断する場合には、上述したように、透明導電層22a,22bの抵抗値、および、EC素子20の光透過率の少なくとも一方に基づいて、絶縁化の有無を判断することが可能である。
【0093】
第1透明導電層22aの抵抗値に基づいて絶縁化の有無を判断する場合には、第1電極部22aeおよび第1端子部22atにそれぞれプローブ12bを接続する。次いで、プローブ12b間に直流電圧を印加することによって、第1透明導電層22aの抵抗値を測定することが可能である。なお、第2透明導電層22bの抵抗値に基づいて絶縁化の有無を判断する場合には、第2電極部22beおよび第2端子部22btにそれぞれプローブ12bを接続する。次いで、プローブ12b間に直流電圧を印加することによって、第2透明導電層22bの抵抗値を測定することが可能である。
【0094】
EC素子20の光透過率に基づいて絶縁化の有無を判断する場合には、第1電極部22aeおよび第2電極部22beにそれぞれプローブ12bを接続する。次いで、プローブ12b間にEC材料を析出させるための電圧を印加する。なお、受光部は、第1透明導電層22aのなかで、変性部a11を含む第1部分を透過した第1の光と、第1透明導電層22aのなかで、変性部a11を含まない第2部分を透過した第2の光との両方をそれぞれ受光する。また、受光部は、EC素子20に電圧が印加されている状態と、電圧が印加されていない状態との両方において、第1の光と第2の光とを受光する。
【0095】
そして、EC素子20に電圧が印加されたときに受光される第1の光の強度と、EC素子20に電圧が印加されていないときに受光される第1の光の強度との差である第1強度差を算出する。また、EC素子20に電圧が印加されたときに受光される第2の光の強度と、EC素子20に電圧が印加されていないときに受光される第2の光の強度との差である第2強度差を算出する。第1強度差と第2強度差との差異が所定以上である場合に、変性部a11が絶縁性を有すると判断することが可能である。
【0096】
[レーザー]
・パルスレーザーLの波長は、赤外領域に含まれる波長でなくてもよい。例えば、レーザーの波長は、可視領域に含まれる波長でもよいし、紫外領域に含まれる波長でもよい。パルスレーザーLの波長がこれらの領域に含まれる場合であっても、パルスレーザーLがトップハット型かつパルス状であって、透明シート23a,23bにおけるパルスレーザーLの透過率が、透明導電層22a,22bにおけるパルスレーザーLの透過率よりも高いことによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0097】
[交番工程]
・交番工程では、ステップS11、および、ステップS21において第1透明導電層22aに印加された交流電圧と同じ高さの交流電圧が第1透明導電層22aに印加されてもよい。
【0098】
・EC素子20の加工方法は、交番工程を備えてなくてもよい。この場合であっても、EC素子20の加工方法が上述した照射工程を備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0099】
・ステップS13、および、ステップS25において、制御部15が、被照射部分22a1が絶縁化されていると判断した後であっても、交番工程が行われてもよい。
【0100】
[印加工程]
・印加工程は、照射工程よりも後に開始されてもよい。この場合には、照射工程が行われている間に、印加工程の開始と終了とが行われてもよいし、印加工程が照射工程と同時に終了されてもよいし、印加工程が照射工程よりも後に終了されてもよい。いずれの場合であっても、照射工程が行われている間に、透明導電層22a,22bに交流電圧が印加されるため、上述した(4)に準じた効果を得ることはできる。
【0101】
・印加工程が照射工程よりも前に開始された場合にも、印加工程は、照射工程よりも前に終了されてもよいし、照射工程と同時に終了されてもよいし、照射工程よりも後に終了されてもよい。いずれの場合であっても、照射工程が行われている間に、透明導電層22a,22bに交流電圧が印加されるため、上述した(4)に準じた効果を得ることはできる。
【0102】
[照射工程]
・第1透明導電層22aにパルスレーザーLを照射する回数と、第2透明導電層22bにパルスレーザーLを照射する回数とは互いに異なってもよい。すなわち、第1透明導電層22aが有する変性部a11の数と、第2透明導電層22bが有する変性部の数とは互いに異なってもよい。
【0103】
・第1透明導電層22aにおける被照射部分22a1の形状と、第2透明導電層22bにおける被照射部分の形状とは、互いに異なってもよい。
・EC素子20に対してパルスレーザーLを照射した照射回数nが最大回数に到達するまで、印加部12による交流電圧の印加、照射部11によるパルスレーザーLの照射、および、制御部15による絶縁化の判断を繰り返してもよい。すなわち、パルスレーザーLの照射回数nが最大回数に到達するまで、図4を参照して先に説明したステップS11からステップS14の処理を繰り返してもよい。この場合には、パルスレーザーLの照射回数nが最大回数に到達した後に、図5を参照して先に説明したステップS31からステップS34の処理を行えばよい。
【0104】
[加工対象シート]
・シート加工装置10の加工対象である機能性シートは、上述したEC素子20に限らず、例えば、発光シート、表示シート、および、センサーシートなどであってよい。この場合であっても、各シートが、透明シートによって覆われた透明導電層を有し、かつ、透明導電層に対してトップハット型かつパルスレーザーLが照射されることによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【符号の説明】
【0105】
10…シート加工装置、11…照射部、11a…レーザー源、11b…トップハット光学系、11c…ミラー、11d…集光レンズ、12…印加部、12a…交流電源、12b…プローブ、13…ステージ、14…載置台、15…制御部、20…EC素子、21…電解質層、22a…第1透明導電層、22a1…被照射部分、22ae…第1電極部、22at…第1端子部、22b…第2透明導電層、22be…第2電極部、22bt…第2端子部、23a…第1透明シート、23b…第2透明シート、a11…変性部、L…パルスレーザー、S…照射対象。
図1
図2
図3
図4
図5
図6