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  • 特許-圧密化木材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】圧密化木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
B27K5/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020028880
(22)【出願日】2020-02-22
(65)【公開番号】P2021133518
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592072791
【氏名又は名称】鳥取県
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100215393
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 祐資
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】桐林 真人
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-054482(JP,A)
【文献】特開平07-054467(JP,A)
【文献】特開平07-080804(JP,A)
【文献】特開2004-330502(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0036424(US,A1)
【文献】特開2006-116843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タオル地を下側プレス板の上側に敷き、
タオル地よりも平滑な表面を有する剥離用生地をタオル地の上側に敷き、
加工対象の木材を剥離用生地の上側に載せ、
タオル地に含ませていた水分を前記木材の下面側の表層部に染み込ませ、
下側プレス板を加熱しながら前記木材の上側に上側プレス板を押し当てて前記木材を圧縮する
ことによって、
前記木材の下面側を圧密化して硬化させることを特徴とする圧密化木材の製造方法。
【請求項2】
目標の温度まで予め加熱された下側プレス板の上側にタオル地を敷き、
タオル地に水分を含ませた後、
加工対象の木材をタオル地の上側に載せ、
タオル地に含ませていた水分を前記木材の下面側の表層部に染み込ませ、
下側プレス板を加熱しながら前記木材の上側に上側プレス板を押し当てて前記木材を圧縮する
ことによって、
前記木材の下面側を圧密化して硬化させることを特徴とする圧密化木材の製造方法。
【請求項3】
前記タオル地の面密度が、0.02g/cm~2g/cmである請求項1又は2記載の圧密化木材の製造方法。
【請求項4】
上側プレス板を、下側プレス板と略等しい温度に保つ請求項1~いずれか記載の圧密化木材の製造方法。
【請求項5】
上側プレス板及び下側プレス板の温度を、前記木材の圧縮開始から終了までの間、略一定に保つ請求項記載の圧密化木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧密加工によって表面が硬化された圧密化木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スギは、温かみのある質感や風合いが魅力的な木材であり、建材としての需要が拡大しつつある。しかし、スギは、柔らかく傷つきやすいため、床板や壁板に使用することを敬遠する人もいる。この点、スギなどの柔らかい木材であっても、その表面にウレタン塗料などで塗装を施すと、傷つきにくくすることができる。しかし、塗装を施すと、無垢の木材が有する質感や風合いが損なわれてしまう。
【0003】
ところで、木材を硬化させる技術として、木材を加熱しながら加圧することで圧縮する「圧密加工」が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この圧密加工は、木材に水分を含ませて、木材を変形しやすくした状態で行われる。圧密加工を行うと、木材が元々有していた質感や風合いを損なうことなく、木材を硬化させることも可能である。
【0004】
しかし、圧密加工には、
[1]木材に閉じ込められていた水分が加熱により膨張することが原因で、解圧時の木材に割れや膨圧が生じるおそれがある。
[2]局所的に硬い部分(節)がある木材には使用しにくい。
という欠点があった。
【0005】
このような実状に鑑みて、これまでには、特許文献2の図1に示されるように、穴のあいた金属板4の上に木材5を載せ、金属板の穴から水蒸気を送り込みながら木材5を圧縮する方法も提案されている。これにより、木材の割れを防ぐだけでなく、節のある木材を加工することも可能になるとされている(同文献の段落0013~0014を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-80804号公報
【文献】特開2006-116843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の方法には、
[1]元々硬い節の部分も圧縮するため、木材5における広い範囲に大量の水分を含ませる必要がある。このため、木材5の板厚方向における略全体(全層)に圧縮変形が生じて歩留まりが悪くなる。
[2]木材5における、金属板4の穴に重なる部分には、圧力が加わらないため、その部分の表面が硬化されない。このため、加工後の木材の表面に傷がつきやすい部分が残ってしまう。
[3]木材5における、金属板4に接していた側の面には、金属板4の凹凸を反転させた幾何学的な凹凸模様が形成されてしまう。このため、木材5の自然な質感や風合いが損なわれる。
という欠点があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、木材の割れを抑えることや、節のある木材を加工することができるだけでなく、木材の表面における略全体を限られた量の水分で効率的に圧密化して硬化させることができる圧密化木材の製造方法を提供するものである。また、木材が元々有している質感や風合いを損なうことなく、木材を硬化させることも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、
タオル地を下側プレス板の上側に敷き、
加工対象の木材をタオル地の上側に載せ、
タオル地に含ませていた水分を前記木材の下面側の表層部に染み込ませ、
下側プレス板を加熱しながら前記木材の上側に上側プレス板を押し当てて前記木材を圧縮する
ことによって、
前記木材の下面側を圧密化して硬化させることを特徴とする圧密化木材の製造方法を提供することによって解決される。
【0010】
ところで、「タオル地」という語は、狭義には、「緯糸と経糸からなる織物であって、緯糸を織り込む際に、経糸の一部(パイル糸)を緩めて布地にループ状の部分を形成した生地(パイル生地)」を意味する。しかし、本明細書において、「タオル地」という語は、ふかふかとした表面を有する厚手の生地の総称として用いており、狭義のタオル地に限定されない。「タオル地」には、シャーリング生地や起毛生地(毛布など)も含まれる。
【0011】
このように、タオル地に含ませていた水分を木材の下面側の表層部に染み込ませて、木材の下面側を加熱しながら木材を圧縮すると、木材は、下面側の表層部のみが選択的に圧密化(表層圧密)される。換言すると、木材の下面側の表層部以外は、殆ど圧密化されない状態となる。このため、歩留まりを良くするだけでなく、木材の下面側を、限られた量の水分で効率的に圧密化して硬化させることができる。
【0012】
また、木材の下面側の表層部にのみ水分を染み込ませた場合であっても、木材を加熱しながら圧縮するときに、その水分(圧密加工時には加熱されて水蒸気になる。)が閉じ込められた状態となっていると、解圧したときの木材に割れや膨圧が生じるおそれがある。この点、本発明のように、木材の下側にタオル地を敷くことによって、圧密加工時でも、木材の下面側に保持された水分(水蒸気)がタオル地を通じて外側に逃げることができるようになる。したがって、木材の割れや膨圧を防ぐことも可能になる。
【0013】
さらに、節のある木材に圧密加工を施すことも可能になる。というのも、本発明の方法で節のある木材を圧縮すると、タオル地は、節に重なる部分では、節に強く押されて薄くなるものの、その周囲(節に重ならない部分)では、節に重なる部分ほどは薄くならず、木材における柔らかい部分(節に重ならない部分)を押し上げるようになる。したがって、節のある部分(元々硬い部分)をそのまま残し、節のない部分(元々柔らかい部分)のみを選択的に圧密化して硬化させることができるからである。
【0014】
さらにまた、本発明の方法で木材を圧密加工すると、木材(圧密化木材)の表面には、節の部分が凸部として残った状態になる。このため、浮造り加工(木材の柔らかい部分のみを削ることで木目の凹凸を強調する加工)を施した木材のように、自然な質感や風合いを強調して、木材の付加価値を高めることも可能になる。
【0015】
本発明の圧密化木材の製造方法においては、前記木材とタオル地との間に、タオル地よりも平滑な表面を有する剥離用生地を挟むことも好ましい。というのも、上述したように、タオル地は、表面にループや起毛を有している。このため、加工対象の木材を、タオル地の上側に直接載せた状態で圧縮すると、タオル地が木材(圧密化木材)の下面に貼り付くおそれがある。この点、タオル地よりも平滑な表面を有する剥離用生地を、木材とタオル地との間に挟むことで、木材(圧密化木材)の下面にタオル地が貼り付かないようにすることができるからである。
【0016】
本発明の圧密化木材の製造方法において、加工対象の木材の下側に敷くタオル地は、厚みをある程度有していることが好ましい。木材に含まれている水分が圧密加工時に逃げやすくなるからである。ただし、タオル地を厚くしすぎると、下側プレス板から木材に圧力が伝わりにくくなり、木材を所望のレベルに圧密化しにくくなるおそれがある。このため、タオル地は、厚くしすぎるのもよくない。
【0017】
ここで、タオル地の厚さは、それに加える圧力によって容易に変化するため、客観的な方法で測定することが難しい。この点、タオル地の面密度(タオル地の単位面積当たりの重量)であれば、容易に測定することができるし、タオル地の厚さは、概ねタオル地の面密度に比例する。このため、本明細書においては、タオル地の厚さを、タオル地の面密度で表すことにする。上記の要求を満たすタオル地の面密度(タオルが乾燥しているときの値。複数枚のタオル地を積層する場合には、その合計値。以下同じ。)は、概ね、0.02~2g/cmである。
【0018】
本発明の圧密化木材の製造方法において、下側プレス板を目標の温度まで加熱するタイミングや、タオル地に水分を含ませるタイミングは、特に限定されない。しかし、[1]水分を含ませたタオル地を下側プレス板の上側に敷いた後、[2]下側プレス板を目標の温度まで加熱する、という順で行うと、下側プレス板を加熱しているときにタオル地の水分が蒸発するようになり、木材を載置するときのタオル地に含まれている水分の量にバラツキが生じる。このため、木材における軟化深度(水分を含ませる深さ)を制御しにくくなる。したがって、[1]下側プレス板を目標の温度まで予め加熱する、[2]下側プレス板の上側にタオル地を敷く、[3]タオル地に水分を含ませる、という順で行うことが好ましい。
【0019】
本発明の圧密化木材の製造方法において、下側プレス板の温度は、圧密加工が可能であれば、特に限定されない。下側プレス板のみを加熱し、上側プレス板を加熱しなくてもよい。しかし、下側プレス板と上側プレス板との温度差が大きいと、圧縮される木材の板厚方向に温度勾配が生じ、圧密加工後の木材(圧密化木材)に反りなどの変形が生じやすくなる。このため、下側プレス板だけでなく、上側プレス板も加熱し、上側プレス板を下側プレス板と略等しい温度に保つことが好ましい。
【0020】
本発明の圧密化木材の製造方法においては、下側プレス板の温度や、上側プレス板の温度を、経時的に変化させてもよい。しかし、この場合には、温度制御が複雑になることに加えて、一の木材の加工を終えてから次の木材の加工を開始するときに、下側プレス板や上側プレス板が所定の温度になるまで待つ必要が生じるなど、圧密加工のサイクルタイムが長くなるおそれがある。このため、下側プレス板及び上側プレス板の温度を、圧縮開始から終了までの間、略一定に保つようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によって、木材の割れを抑えることや、節のある木材を加工することができるだけでなく、木材の表面における略全体を限られた量の水分で効率的に圧密化して硬化させることができる圧密化木材の製造方法を提供することが可能になる。また、木材が元々有している質感や風合いを損なうことなく、木材を硬化させることも提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の圧密化木材の製造方法において、木材を圧縮する前の状態を示した断面図である。
図2】本発明の圧密化木材の製造方法において、木材を圧縮している状態を示した断面図である。
図3】本発明の圧密化木材の製造方法によって得られた圧密化木材を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
0.本発明の圧密化木材の製造方法の概要
本発明の圧密化木材の製造方法は、圧密加工によって表面が硬化された圧密化木材を製造するものである。圧密加工には、木材の全層を圧密化する全層圧密と、木材の表層部だけを圧密化する表層圧密とがある。本発明の圧密化木材の製造方法は、これらのうち、表層圧密に該当する。
【0024】
図1は、本発明の圧密化木材の製造方法において、木材50を圧縮する前の状態を示した断面図である。図2は、本発明の圧密化木材の製造方法において、木材を圧縮している状態を示した断面図である。本発明の圧密化木材の製造方法では、図1及び図2に示すように、下側プレス板10と上側プレス板20を備えたプレス装置を用いて、木材50を圧密加工する。具体的には、下記[1]~[8]の工程を行う。
[1]下側プレス板10を加熱し、下側プレス板10を目標の温度に達するまで昇温させる。(下側プレス板昇温工程)
[2]下側プレス板10の上面に、タオル地30を敷く。(タオル地敷設工程)
[3]タオル地30の上側に剥離用生地40を敷く。(剥離用生地敷設工程)
[4]タオル地30に加水する。(加水工程)
[5]剥離用生地40の上側に加工対象の木材50を載せる。(木材載置工程)
[6]上記[5]の木材載置工程を終えた状態でしばらく放置し、タオル地30の水分で木材50の下面側の表層部を蒸らす。(蒸らし工程)
[7]上側プレス板20を下降させて木材50の上側に押し当て、木材50を圧縮する。(圧縮工程)
[8]上側プレス板20を上昇させ、圧密加工した木材50(圧密化木材)を取り出す。(木材取り出し工程)
【0025】
上記[6]の蒸らし工程では、タオル地30に保持されていた水分が、下側プレス板10の熱によって蒸発して水蒸気となり、その水蒸気で木材50の下面側の表層部のみが選択的に蒸らされるようになる。これにより、木材50の下面側の表層部のみが変形しやすくなるので、上記[7]の圧縮工程において、木材50の下面側の表層部のみが圧密化されるようになる。言い換えると、木材50の下面側の表層部以外の部分は、殆ど圧密化されない。このため、木材50の厚さは、圧縮化される前後で大きく変わらない。したがって、歩留まりを良くすることができる。加えて、木材50の下面側を、限られた量の水分で効率的に圧密化して硬化することができる。
【0026】
また、上記[2]のタオル地敷設工程で、タオル地30を下側プレス板10の上側に敷くことによって、木材50の下面側に保持されていた水分(圧密加工時には加熱されて水蒸気になる。)を、上記[7]の圧縮工程を行う際に、図2の矢印Aで示すように逃がすことができる。このため、木材50の割れや膨圧の原因となる水分を逃がすことができる。
【0027】
さらに、上記[2]のタオル地敷設工程で、タオル地30を下側プレス板10の上側に敷くことによって、上記[7]の圧縮工程を行う際に、タオル地30が、節部51に重なる部分では、節部51に強く押されて薄くなるものの、非節部52に重なる部分では、節部51に重なる部分ほどは薄くならず、非節部52を押し上げるようになる。このため、非節部52だけが選択的に圧密化される。したがって、節部51のある木材50に圧密加工を施すことが可能となっている。
【0028】
図3は、本発明の圧密化木材の製造方法によって得られた圧密化木材50aを示した断面図である。図3に示した圧密化木材50aは、図2に示した圧密化木材50a(木材50)と上下が逆になっている。この圧密化木材50aには、図3に示すように、非節部52の表層部に圧密化層52a(間隔の狭い斜線ハッチングで示した部分)が形成されている。圧密化層52aは、もともと柔らかい非節部52の表層部を圧縮して硬化した部分である。このため、傷がつきにくいものとなっている。圧密化層52aには、塗装なども施されていないため、圧密化木材50aには、無垢の木材が有する自然な風合いが残っている。
【0029】
非節部52における圧密化層52a以外の層(表層部以外の層)は、非圧密化層52b(間隔の広い斜線ハッチングで示した部分)となっている。この非圧密化層52bは、殆ど圧縮されておらず、略元の厚さを保っている。このため、圧密化木材50aは、歩留まりがよいだけでなく、限られた量の水分で効率的に圧密化されたものとなっている。また、圧密化木材50aには、割れや膨圧が生じていない。というのも、上述したように、上記[7]の圧縮工程を行う際、木材50の下面側に保持されていた水分を、タオル地30(図2)を通じて逃がしたからである。
【0030】
さらに、圧密化木材50aは、元々硬かった節部51では、殆ど圧縮されていない。このため、木材50における圧密化層52aが形成された側の面において、節部51が凸状に表われた状態となっている。したがって、圧密化木材50aは、浮造り加工を施した木材と同様、木材の自然な質感や風合いが強調されて、付加価値が高められたものとなっている。
【0031】
以下、上記[1]~[8]の各工程について詳しく説明する。
【0032】
1.下側プレス板昇温工程
上記[1]の下側プレス板昇温工程は、下側プレス板10を加熱して、目標の温度(Tとする。)に達するまで昇温させる工程である。加工対象の木材50をプレス装置にセットするよりも前に、下側プレス板10の温度を予め目標の温度Tに上昇させておくことで、上記[6]の蒸らし工程を開始するときの条件を均一化することができる。このため、蒸らし工程における木材50の軟化深度(水分が染み込む深さ)を制御しやすくなる。
【0033】
この下側プレス板昇温工程は、上記[5]の木材載置工程の後に行ってもよい。しかし、加工対象の木材50をセットした後に下側プレス板昇温工程を行うと、蒸らし工程を開始するときの木材50に含まれている水分の量にバラツキが生じるなど、蒸らし工程を開始するときの条件が不均一になり、蒸らし工程における木材50の軟化深度(水分が染み込む深さ)を制御しにくくなる。というのも、下側プレス板昇温工程を行っているときの木材50にもタオル地30から水分が移動するところ、この下側プレス板昇温工程の間にどれだけの水分が木材50に移動するかを読みにくいからである。このため、下側プレス板昇温工程は、木材載置工程よりも先に行う方が好ましい。
【0034】
本実施態様の圧密化木材の製造方法において、下側プレス板昇温工程における目標の温度Tは、蒸らし工程及び圧縮加工を開始する温度と等しくしている。このため、温度Tは、水分を気化させることができ、且つ、タオル地30や木材50にダメージを与えない範囲で設定される。具体的には、温度Tは、100~200℃の範囲で設定する。下側プレス板10の温度Tは、160~190℃とすることが好ましい。
【0035】
ところで、本実施態様の圧密化木材の製造方法では、この下側プレス板昇温工程を行う際に、上側プレス板20を昇温させる上側プレス板昇温工程も同時に行っている。これにより、上記[7]の圧縮工程を行う際の木材50に、板厚方向での温度勾配が生じないようにして、木材50の割れなどを防ぐことが可能になる。上側プレス板昇温工程を行う場合において、上側プレス板20を昇温させる目標の温度(Tとする。)は、下側プレス板10の目標の温度Tと略等しく設定することが好ましい。上側プレス板昇温工程は、下側プレス板昇温工程と同時に行わなくてもよいが、同時に行った方が効率的である。
【0036】
2.タオル地敷設工程
タオル地敷設工程は、図1に示すように、下側プレス板10の上面に、タオル地30を敷く工程である。タオル地30としては、パイル生地や、シャーリング生地や、起毛生地(毛布など)が例示される。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、パイル生地で形成されたハンドタオルをタオル地30として用いている。
【0037】
下側プレス板10の上側には、タオル地30を1枚のみ敷いてもよい。しかし、タオル地30が1枚のみだと、上記[7]の圧縮工程において、タオル地30で形成される層が薄くなり、木材50の下面側の表層部に保持された水分(水蒸気)がタオル地30を通じて逃げにくくなる。このため、下側プレス板10の上側には、タオル地30を2枚以上敷くことが好ましい。下側プレス板10の上側には、タオル地30を3枚以上敷くことがより好ましく、4枚以上敷くことがさらに好ましい。
【0038】
ただし、下側プレス板10の上側に敷くタオル地30の枚数を多くしすぎると、タオル地30で形成される層が厚くなりすぎる。このため、非節部52に圧力が伝わりにくくなり、非節部52を選択的に圧密化しにくくなるおそれがある。したがって、下側プレス板10の上側に敷くタオル地30の枚数は、30枚以下とすることが好ましい。下側プレス板10の上側に敷くタオル地30の枚数は、20枚以下とすることがより好ましく、15枚以下とすることがさらに好ましい。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、下側プレス板10の上側に10枚のタオル地30を敷いている。ただし、図1及び図2においては、図示の便宜上、タオル地30を5枚のみ描いている。
【0039】
タオル地30は、薄くしすぎるのも、厚くしすぎるのも好ましくない。タオル地30の厚さには、好ましい範囲がある。この点、本明細書においては、既に述べたように、タオル地30の厚さを、タオル地30の面密度(タオル地30が乾燥しているときの値。複数枚のタオル地30を積層する場合には、その合計値。以下同じ。)で表すこととした。タオル地30が薄くなり過ぎないようにするためには、タオル地30の面密度を、0.02g/cm以上とすることが好ましい。タオル地30の面密度は、0.05g/cm以上とすることがより好ましく、0.09g/cm以上とすることがさらに好ましい。
【0040】
一方、タオル地30が厚くなり過ぎないようにするためには、タオル地30の面密度を2g/cm以下とすることが好ましい。タオル地30の面密度は、1.5g/cm以下とすることよりが好ましく、1g/cm以下とすることがさらに好ましい。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、1枚当たりの面密度が0.05g/cmであるタオル地30を10枚積層することによって、タオル地30の全体の面密度を0.5g/cmとしている。
【0041】
タオル地30の面積は、通常、木材50の面積よりも広くされる。タオル地30が、木材50よりも小さいと、木材50がタオル地30からはみ出てしまい、上記[7]の圧縮工程において、木材50の下面側の表層部全体を圧密化することができなくなるからである。
【0042】
3.剥離用生地敷設工程
剥離用生地敷設工程は、図1に示すように、タオル地30の上側に剥離用生地40を敷く工程である。上述したように、タオル地30には、表面にループを有するパイル生地や、表面に起毛を有する毛布などが用いられるので、加工対象の木材50を、タオル地30の上側に直接載せて圧縮すると、タオル地30が木材50の下面に貼り付くおそれがある。この点、剥離用生地40をタオル地30と木材50の間に挟むことで、上記[7]の圧縮工程において、圧縮した後の木材50にタオル地30が貼り付かないようにしている。
【0043】
この剥離用生地40には、タオル地30よりも平滑な表面を有するものが採用される。また、木材50の表層部に染み込んだ水分を、タオル地30を通じて逃がすことができるようにするため、剥離生地40は、透水性を有するものが採用される。このような生地としては、表面にパイル部や起毛部がない生地(平織生地や綾織生地など)が例示される。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、ガーゼ(木綿糸を目の粗い平織りにした布)を剥離用生地40として用いている。剥離用生地40は、複数枚を重ねてもよいが、通常、1枚あれば足りる。
【0044】
4.加水工程
加水工程は、タオル地30に水分を保持させる工程である。この加水工程でタオル地30に保持された水分は、上記[6]の蒸らし工程で水蒸気となって木材50の下面側の表層部をふやけさせる(軟化させる)のに利用される。この加水工程は、上記[2]のタオル地敷設定工程よりも前に行ってもよい。しかし、本実施態様の圧密化木材の製造方法では、最初に下側プレス板昇温工程を行うようにしたところ、下側プレス板10の上側に敷く前のタオル地30に予め加水しておくと、下側プレス板10にタオル地30を敷いた直後から、タオル地30の水分が蒸発するようになってしまう。このため、上記[6]の蒸らし工程において、木材50の軟化深度を制御しにくくなる。したがって、加水工程は、蒸らし工程よりも前で蒸らし工程にできるだけ近いタイミングに行うことが好ましい。本実施態様の圧密化木材の製造方法では、木材載置工程の直前に加水工程を行っている。
【0045】
タオル地30に保持させる水の量は、少なくしすぎても、多くしすぎてもよくない。タオル地30に保持させる水の量が少なすぎると、木材50の表層部に十分に水を染み込ませることができず、木材50の表層部を圧密化しにくくなるからである。このため、タオル地30に保持させる水の量(木材50の単位面積当たりの値。以下同じ。)は、0.05mL/cm以上とすることが好ましい。タオル地30に保持させる水の量は、0.1mL/cm以上とすることがより好ましく、0.2mL/cm以上とすることがさらに好ましい。
【0046】
一方、タオル地30に保持させる水の量が多すぎると、木材50の表層部以外の広い範囲にも水が染み込んでしまい、木材50の表層部のみを選択的に圧密化しにくくなる。このため、タオル地30に保持させる水の量は、2mL/cm以下とすることが好ましい。タオル地30に保持させる水の量は、1mL/cm以下とすることがより好ましく、0.5mL/cm以下とすることがさらに好ましい。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、タオル地30に保持させる水の量を、0.4mL/cmとしている。
【0047】
5.木材載置工程
木材載置工程は、図1に示すように、剥離用生地40の上側(タオル地30の上側)に、木材50を載せる工程である。木材50は、圧密化しようとする面を下側(剥離用生地40側)に向けて置く。上記[1]の下側プレス板10を目標の温度Tまで昇温させた後に、木材50を載置することで、上記[6]の蒸らし工程で木材50に供給される水分量を制御しやすくなるため、軟化深度(水分を染み込ませる深度)を目的の範囲に収めやすくなる。
【0048】
ところで、木材50は、上記[4]の加水工程を行うよりも前の段階においても、水分をある程度含んでいる。この点、元々の含水率が高い木材50を、この木材載置工程で載置すると、上記[7]の圧縮工程で、木材50の全体(全層)が変形するようになり、木材50の表層部のみを選択的に圧縮しにくくなる。このため、木材載置工程で載置する木材50は、含水率が低いものであることが好ましい。具体的には、木材50の含水率(加水工程を行う前の含水率。以下同じ。)を、30%以下とすることが好ましく、20%以下とすることがより好ましい。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、タオル地30の上側に載置するよりも前に木材50を自然乾燥させ、その含水率を15%以下にまで低下させている。
【0049】
6.蒸らし工程
蒸らし工程は、上記[5]の木材載置工程を終えた状態のまま、木材50をしばらく放置し、タオル地30の水分で木材50の下面側の表層部を蒸らす工程である。これにより、木材50の下面側の表層部(特に非節部52の表層部)のみを、ふやけさせて軟化させ、圧縮変形しやすい状態とすることができる。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、下側プレス板10と上側プレス板20とを、上記[1]の下側プレス板昇温工程(及び上側プレス板昇温工程)で加熱した温度T,Tに保ったまま、蒸らし工程を行うようにしている。蒸らし工程は、通常、5~30分間行い、好ましくは、10~15分間行う。
【0050】
7.圧縮工程
圧縮工程は、図2に示すように、上側プレス板20を下降させて、木材50の上側に押し当て、木材50の下面側の表層部を加熱しながら圧縮する工程である。これにより、木材50の下面側の表層部が圧密化される。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、下側プレス板10と上側プレス板20とを、上記[1]の下側プレス板昇温工程(及び上側プレス板昇温工程)で加熱した温度T,Tに保ったまま、圧縮工程を開始するようにしている。
【0051】
圧縮工程において木材50に加える圧力は、木材50の種類や、得られる圧密化木材50aの用途などによっても異なり、特に限定されない。しかし、木材50に加える圧力が小さすぎると、木材50の表層部を、十分に圧密化できなくなるおそれがある。このため、木材50に加える圧力は、1kgf/cm以上とすることが好ましい。木材50に加える圧力は、3kgf/cm以上とすることがより好ましく、5kgf/cm以上とすることがさらに好ましい。
【0052】
一方、木材50に加える圧力を大きくしすぎると、木材50に割れなどの破損が生じるおそれがある。このため、木材50に加える圧力は、30kgf/cm以下とすることが好ましい。木材50に加える圧力は、20kgf/cm以下とすることがより好ましく、15kgf/cm以下とすることがさらに好ましい。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、圧縮工程で木材50に加える圧力を10kgf/cmとしている。圧縮工程を行う時間は、特に限定されないが、通常、30~150分とされ、好ましくは100~120分とされる。
【0053】
この圧縮工程を行う間においては、下側プレス板10や上側プレス板20の温度を、経時的に変化させてもよいが、この場合には、複雑な温度制御が必要になるし、圧密化木材50aの製造のサイクルタイムが長くなるおそれもある。このため、本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、下側プレス板10及び上側プレス板20の温度は、圧縮工程の開始から終了までの間、略一定に保つようにしている。
【0054】
ところで、本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、図1に示すように、下側プレス板10と上側プレス板20の間にスペーサー60を設けている。このスペーサー60がないと、下側プレス板10に対して上側プレス板20が下降しすぎてしまい、得られる圧密化木材50aの板厚が目標値よりも小さくなるおそれがあるところ、このスペーサー60を設置することで、上側プレス板20が所定の位置よりも下降しないようにし、得られる圧密化木材50aの板厚を目標値に一致させることが可能になる。
【0055】
8.木材取り出し工程
木材取り出し工程は、上側プレス板20を上昇させ、圧密加工された木材50(図3における圧密化木材50a)を取り出す工程である。上記[3]の剥離用生地敷設工程で、木材50とタオル地30との間に剥離用生地40を配していたため、圧密化木材50aからタオル地30を容易にはがすことができる。木材取り出し工程が終了すると、本発明の圧密化木材の製造方法における一連の工程が完了する。
【0056】
本発明の圧密化木材の製造方法では、木材50の割れや膨圧の原因となる水分(水蒸気)が、上記[7]の圧縮工程において、タオル地30を通じて逃げているため、上記[7]の圧縮工程が終了した直後に上側プレス板20を上昇させても、木材50に割れや膨圧が生じない。このため、上記[7]の圧縮工程が終了した直後に、木材50を取り出すことができる。
【0057】
ところで、取り出した圧密化木材50aには、図3に示すように、圧密化層52a側の面に節部51が凸状に残っている。節部51におけるこの凸状に突き出た部分によって、木材の自然な質感や風合いを強調することができる。ただし、圧密化木材50aの用途によっては、節部51が凸状になっていることが好ましくない場合もある。このような場合には、圧密化木材50aの表層部を研磨などし、節部51における凸状に突き出た部分を除去することもできる。圧密化木材50aは、その表層部を0.2~0.5mm程度削り取っても十分な硬さを有している。
【0058】
9.次の圧密化木材の製造
続けて別の木材50を圧密加工する場合には、上記[1]~[8]の工程を再び行うとよい。本実施態様の圧密化木材の製造方法においては、上述したように、下側プレス板10と上側プレス板20の温度を、上記[7]の圧縮工程の開始から終了までの間、略一定に保つようにしたため、上記[8]の木材取り出し工程が終了した直後に、次の木材50の圧密加工を開始することができるようになっている。圧縮工程を行う際には、節部51から滲出した油分などが、タオル地30や剥離用生地40に染み込むおそれがあるところ、タオル地30や剥離用生地40が油分などで汚れている場合には、タオル地30や剥離用生地40を交換することが好ましい。汚れたタオル地30や剥離用生地40は、洗浄して再利用することができる。
【0059】
10.用途
本発明の圧密化木材の製造方法は、各種の木材を圧密化するのに使用することができる。本発明の圧密化木材の製造方法では、針葉樹材や、広葉樹材などを硬化して、圧密化木材にすることができる。特に、スギ材やパイン材などの針葉樹材は、柔らかく傷つきやすいものが多い。このため、針葉樹材を原材料とした場合に、本発明の圧密化木材の製造方法を採用する意義が特に高まる。本発明の圧密化木材の製造方法で得られた圧密化木材は、床板や壁板などの建材や、タンスやイスなどの家具材などとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 下側プレス板
20 上側プレス板
30 タオル地
40 剥離用生地
50 木材
50a 圧密化木材
51 節部
52 非節部
52a 圧密化層
52b 非圧密化層
60 スペーサー
図1
図2
図3