(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】装飾シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 7/00 20060101AFI20240202BHJP
B32B 21/08 20060101ALI20240202BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240202BHJP
B27N 3/02 20060101ALI20240202BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20240202BHJP
B27K 3/38 20060101ALI20240202BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
B27K7/00
B32B21/08
B32B27/18 A
B27N3/02 A
B27N3/02 C
B27K5/00 C
B27K3/38
B27M3/00 N
(21)【出願番号】P 2020174607
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2022-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月25日から令和2年9月27日 添付の表に記載の展示会 [刊行物等] 令和1年12月16日から令和2年10月16日 添付の表に記載の集会 [刊行物等] 令和2年6月15日から令和2年10月2日 添付の表に記載のプレスリリース [刊行物等] 令和1年10月23日から令和1年11月4日 第46回東京モーターショー2019 [刊行物等] 令和2年7月31日から令和2年8月2日 オートモービルカウンシル2020 [刊行物等] 令和2年9月22日から令和2年9月25日 国内事前取材会 [刊行物等] 令和2年10月6日 メディア向けオンライン事前取材会 [刊行物等] 令和2年10月8日から令和2年10月16日 国内発表会 [刊行物等] 令和2年10月12日から令和2年10月17日 公道試乗会 [刊行物等] 令和2年9月30日から令和2年10月16日 欧州の販売会社による自動車の販売 [刊行物等] 令和2年10月8日から令和2年10月16日 日本の販売会社による自動車の販売 [刊行物等] 令和2年10月10日から令和2年10月11日 MAZDA MX-30発表展示会
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河太 真理
(72)【発明者】
【氏名】山本 智久
(72)【発明者】
【氏名】清水 一宏
(72)【発明者】
【氏名】西山 雄気
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/050366(WO,A1)
【文献】特開2018-062167(JP,A)
【文献】特表2009-514699(JP,A)
【文献】再公表特許第2020/050366(JP,A1)
【文献】特開2000-326312(JP,A)
【文献】特開昭60-031915(JP,A)
【文献】特開2020-163850(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124510(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2020/0030846(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0214911(US,A1)
【文献】特開2000-199329(JP,A)
【文献】特開平1-123670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00- 9/00
B27M 1/00- 3/38
B27N 1/00- 9/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コルクシートの表面に中間層及び保護層を有する多層構造体からなる装飾シートであって、
前記コルクシートの、前記中間層と接する表面に脱色コルク層が形成されていて、
前記中間層が
着色剤を含有する水性エマルジョンを乾燥させてなる塗膜であり、
前記保護層が紫外線吸収剤を含有する樹脂組成物からなる紫外線吸収層を含み、かつ
前記保護層の表面が意匠面となる、装飾シート。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤がヒドロキシ基を含有するベンゾフェノン系化合物である、請求項1に記載の装飾シート。
【請求項3】
前記紫外線吸収層が前記紫外線吸収剤を含有する水性ウレタンエマルジョンを乾燥させてなる塗膜である、請求項1又は2に記載の装飾シート。
【請求項4】
前記紫外線吸収層中の前記樹脂組成物が樹脂を100質量部、前記紫外線吸収剤を5~60質量部含有する、請求項1~3のいずれかに記載の装飾シート。
【請求項5】
前記保護層が、さらに、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる層を含み、
前記紫外線吸収層よりも外側に、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる前記層が配置される、請求項1~4のいずれかに記載の装飾シート。
【請求項6】
前記保護層の坪量(g/m
2)が前記中間層の坪量(g/m
2)よりも大きい、請求項1~5のいずれかに記載の装飾シート。
【請求項7】
コルクシートの表面に中間層及び保護層を有する多層構造体からなる装飾シートの製造方法であって、
コルクシートの表面を脱色して脱色コルク層を形成し、
前記脱色コルク層の上に
着色剤を含有する水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって中間層を形成し、
前記中間層の上に、紫外線吸収剤を含有する水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって保護層を形成する、装飾シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルクシートの表面に中間層及び保護層を有する多層構造体からなる装飾シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コルクシートは独特の風合いを有していて意匠性に優れるとともに、弾力性があって触感も良好であることから、従来から、装飾シート等として広く使用されている。
【0003】
しかしながら、コルクは光によって退色し易いため、用途や使用場所が制限されることがあった。また、コルクは摩擦堅牢度が比較的低いため、物との接触によって退変色したり、汚染されたりすることによって外観が悪化することもあった。コルクの耐光性や摩擦堅牢度を向上させる方法として、コルクシートの表面に塗装を施す方法が知られている。しかしながら、公知の方法によりコルクシートに塗装層を形成した場合、耐光性及び摩擦堅牢度がなお不十分であるうえに、コルク独特の外観や触感が失われることがあった。さらに、塗料が揮発性有機化合物を含む場合には、環境面でも問題があった。
【0004】
特許文献1には、光吸収剤、顔料及びフェニレンジアミンを混合した塗料がコルク板の表面に施された変退色防止層を有するコルク板が記載されている。当該コルク板によれば、光吸収剤による光の吸収効果や、顔料やフェニレンジアミンによる光の遮断効果により、コルク板の変退色が防止されると記載されている。しかしながら、当該コルク板は、摩擦堅牢度が不十分であるうえに、耐光性もなお不十分であった。
【0005】
特許文献2には、コルク層と繊維層との積層体を得た後、変色防止のために前記コルク層を脱色してから、前記繊維層に樹脂シートを付着させる天然コルクフィルムの製造方法が記載されている。また、特許文献2には、カラー樹脂または透明樹脂を接着剤や熱圧着で付着させるか、カラー塗料または透明塗料を塗装することにより、前記コルク層に対してコーティング層を形成してもよいことが記載されている。しかしながら、前記天然コルクフィルムは耐光性がなお不十分であるうえに、摩擦堅牢度が不十分である場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭60-31915号公報
【文献】特開2018-62167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、コルク独特の外観を維持しつつ、耐光性及び摩擦堅牢度が向上した装飾シート及び環境への負荷が小さい装飾シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、コルクシートの表面に中間層及び保護層を有する多層構造体からなる装飾シートであって、前記コルクシートの、前記中間層と接する表面に脱色コルク層が形成されていて、前記中間層が水性エマルジョンを乾燥させてなる塗膜であり、前記保護層が紫外線吸収剤を含有する樹脂組成物からなる紫外線吸収層を含み、かつ前記保護層の表面が意匠面となる、装飾シートを提供することによって解決される。
【0009】
このとき、前記紫外線吸収剤がヒドロキシル基を含有するベンゾフェノン系化合物であることが好ましい。
【0010】
前記紫外線吸収層が前記紫外線吸収剤を含有する水性ウレタンエマルジョンを乾燥させてなる塗膜であることも好ましい。前記紫外線吸収層中の前記樹脂組成物が樹脂を100質量部、前記紫外線吸収剤を5~60質量部含有することも好ましい。前記保護層が、さらに、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる層を含み、前記紫外線吸収層よりも外側に、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる前記層が配置されることも好ましい。前記保護層の坪量(g/m2)が前記中間層の坪量(g/m2)よりも大きいことも好ましい。前記中間層が着色剤を含有する水性エマルジョンを乾燥させてなる塗膜であることも好ましい。
【0011】
上記課題は、コルクシートの表面に中間層及び保護層を有する多層構造体からなる装飾シートの製造方法であって、コルクシートの表面を脱色して脱色コルク層を形成し、前記脱色コルク層の上に水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって中間層を形成し、前記中間層の上に、紫外線吸収剤を含有する水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって保護層を形成する、装飾シートの製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の装飾シートは、耐光性及び摩擦堅牢度に優れ、なおかつコルク独特の外観も維持している。本発明の製造方法によれば、環境への負荷を抑制しながら、このような装飾シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の装飾シートの一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の装飾シートの一例を示した模式図である。本発明の装飾シート1は、コルクシート2の表面に中間層3及び保護層4を有する多層構造体からなる装飾シートであって、前記コルクシート1の、前記中間層3と接する表面に脱色コルク層5が形成されていて、前記中間層3が水性エマルジョンを乾燥させてなる塗膜であり、前記保護層4が紫外線吸収剤を含有する樹脂組成物からなる紫外線吸収層6を含み、かつ前記保護層4の表面が意匠面となるものである。当該装飾シート1は、耐光性及び摩擦堅牢度に優れ、なおかつコルク独特の外観も維持している。後述するように、前記保護層4が、さらに、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる層7を含み、前記紫外線吸収層6よりも外側に、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる前記層7が配置されていてもよい。
【0015】
本発明の装飾シートに用いられるコルクシートは特に限定されず、コルク粒と接着剤の混合物を圧搾成形して得られる成形体をスライスして得られるものが挙げられる。
【0016】
前記コルクシートの厚みは1~10mmが好ましい。前記厚みが1mm未満の場合、前記装飾シートの機械的強度が不足するおそれがある。一方、前記厚みが10mmを超える場合、脱色や塗工等の作業効率が低下するおそれがある。
【0017】
本発明の装飾シートは、前記コルクシートの表面に中間層及び保護層を有する多層構造体からなり、前記保護層の表面が意匠面となる。前記意匠面は、前記装飾シートが後述する自動車用内装材等として使用される際の可視部に形成されていればよい。したがって、前記コルクシート表面の一部に前記中間層及び前記保護層が形成されていてもよい。生産性の点からは、前記コルクシートの表面全体に形成されていることが好ましい。また、前記中間層及び前記保護層は、前記コルクシートの片面にのみ形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
【0018】
前記コルクシートの、前記中間層と接する表面に脱色コルク層が形成されている必要がある。これにより、前記装飾シートの耐光性が向上する。当該脱色コルク層は、前記コルクシートの表面を脱色することにより形成される。このとき、前記コルクシートの表面近傍のみが脱色されてもよいし、内部まで脱色されていてもよい。但し、本発明において、前記脱色コルク層の表面は、脱色前の前記コルクシートの表面と比較して、目視でより白く認識されて、より白度が高い必要がある。
【0019】
本発明の装飾シートは、前記コルクシートの前記脱色コルク層が形成されている表面に中間層を有し、前記脱色コルク層と前記中間層とが接する。前記中間層は水性エマルジョンを乾燥させてなる塗膜である。このような水性エマルジョンを用いることにより、環境への負荷が低減されるとともに、コルク本来の外観が維持される。前記中間層は、前記脱色コルク層が形成されている前記コルクシート表面の一部に形成されていてもよいし、全体に形成されていてもよいが、後者が好ましい。
【0020】
前記中間層は樹脂を含有する。当該樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ブロックイソシアネート、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂などが例示され、中でもウレタン樹脂及びアクリル樹脂が好ましく、ウレタン樹脂がより好ましい。
【0021】
前記中間層がさらに着色剤を含有することが好ましい。前記着色剤としては、無機顔料、有機顔料等の顔料、無機染料、有機染料等の染料、又はこれらの組み合わせが挙げられる。前記中間層中の前記着色剤の含有量は、前記着色剤の種類等に応じて意匠面が所望の色となるように適宜調整すればよいが、通常、前記樹脂100質量部に対して、0.1~50質量部である。前記中間層に含まれる樹脂の主成分が、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂であることが好ましく、ウレタン樹脂であることがより好ましい。
【0022】
本発明において、前記中間層中の前記紫外線吸収剤の含有量が前記樹脂100質量部に対して、0.1質量部以下であることが好ましく、前記中間層が前記紫外線吸収剤を実質的に含有しないことがより好ましい。
【0023】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記中間層が前記樹脂、前記着色剤及び前記紫外線吸収剤以外の他の添加剤を含有してもよい。前記中間層中の前記他の添加剤の含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
前記中間層の坪量は、5~100g/m2が好ましい。当該坪量が5g/m2未満の場合、得られる装飾シートの外観が悪化するおそれがある。一方、当該坪量が100g/m2を超える場合、高コストになるおそれがある。
【0025】
前記中間層の厚みは、0.05~25μmが好ましい。当該厚みが0.05μm未満の場合、得られる装飾シートの外観が悪化するおそれがある。当該厚みは5μm以上がより好ましい。一方、当該厚みが25μmを超える場合、高コストになるおそれがある。当該厚みは5μm以下がより好ましい。
【0026】
本発明の装飾シートは、前記中間層の表面に保護層を有する。当該保護層は紫外線吸収剤を含有する樹脂組成物からなる紫外線吸収層を含む。このように、前記中間層の表面に、紫外線吸収層が形成されることにより、本発明の装飾シートの耐光性及び摩擦堅牢度が向上する。特に、前記脱色コルク層とともに、前記紫外線吸収層が形成されることにより、耐光性が大幅に向上する。前記保護層は、前記中間層表面の一部に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよいが、後者が好ましい。前記保護層の表面が意匠面となる。
【0027】
前記紫外線吸収層は紫外線吸収剤を含有する樹脂組成物からなる。コスト面からは、前記保護層が前記紫外線吸収層のみを含むことが好ましい。前記樹脂組成物に含有される樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ブロックイソシアネート、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂などが例示され、中でもウレタン樹脂が好ましい。前記樹脂組成物に含まれる樹脂の主成分が、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂であることが好ましく、ウレタン樹脂であることがより好ましい。
【0028】
前記樹脂組成物中に含有される紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒロドキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン及びポリ(4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)-2-ヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物;2,2-ビス[{2-シアノ-(3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ}メチル]プロパン-1,3-ジイル=ビス(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリラート)、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルへキシル等のシアノアクリレート系化合物;フェニルサリシレート等のサリシレート系化合物等が挙げられ、中でも、ベンゾフェノン系化合物が好ましく、ヒドロキシ基を含有するベンゾフェノン系化合物がより好ましい。
【0029】
前記樹脂組成物は、前記樹脂を合計で100質量部、前記紫外線吸収剤を2~60質量部含有することが好ましい。前記紫外線吸収剤の含有量が2質量部未満の場合、得られる装飾シートの耐光性が低下するおそれがある。前記紫外線吸収剤の含有量は5質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、22質量部以上が特に好ましく、25質量部以上が最も好ましい。一方、前記含有量が60質量部を超える場合、得られる装飾シートの摩擦堅牢度が低下するおそれがある。前記含有量は50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、35質量部以下が特に好ましい。
【0030】
前記樹脂組成物中の前記着色剤の含有量は、前記樹脂の合計100質量部に対して、1質量部以下が好ましく、前記樹脂組成物が実質的に前記着色剤を含有しないことがより好ましい。
【0031】
前記樹脂組成物が前記樹脂、前記紫外線吸収剤及び前記着色剤以外の他の添加剤を含有してもよい。前記樹脂組成物中の前記他の添加剤の含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0032】
前記紫外線吸収層が前記紫外線吸収剤を含有する水性エマルジョンを乾燥させてなるものであることが好ましい。当該水性エマルジョンに含まれる樹脂としては、前記紫外線吸収層に含有される樹脂として上述したものが挙げられる。前記水性エマルジョンとしては水性ウレタンエマルジョン及び水性アクリルエマルジョンが好ましく、前者がより好ましい。
【0033】
前記保護層が、さらに、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる層を含み、前記紫外線吸収層よりも外側に、紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物からなる前記層が配置されていてもよい。これにより、前記装飾シートの摩擦堅牢度がさらに向上する。前記紫外線吸収剤を含有しない樹脂組成物として、前記紫外線吸収剤を含有しないこと以外は、前記紫外線吸収層に用いられる樹脂組成物として上述したものと同様のものが用いられる。前記保護層が前記紫外線吸収層以外の層を含む場合、前記保護層の総厚み(μm)に対する前記紫外線吸収層の厚み(μm)の比(紫外線吸収層/保護層)は通常1/9~9/1である。前記保護層に含まれるすべての層の坪量の合計(g/m2)に対する前記紫外線吸収層の坪量(g/m2)の比(紫外線吸収層/保護層)は通常1/9~9/1である。
【0034】
前記保護層の厚みは0.1~50μmが好ましい。前記厚みが0.1μm未満の場合、前記装飾シートの摩擦堅牢度が低下するおそれがある。前記厚みは1μm以上がより好ましい。一方、前記厚みが50μmを超える場合、高コストになるおそれがある。前記厚みは10μm以下が好ましい。
【0035】
前記装飾シートの摩擦堅牢度がさらに向上する点から、前記保護層が前記中間層よりも厚いことが好ましい。前記中間層の厚み(μm)に対する前記保護層の厚み(μm)の比(保護層/中間層)は1.2以上がより好ましい。一方、前記比(保護層/中間層)は通常、4以下である。
【0036】
前記保護層の坪量は10~300g/m2が好ましい。当該坪量が10g/m2未満の場合、得られる装飾シートの摩擦堅牢度が低下するおそれがある。一方、当該坪量が300g/m2を超える場合、高コストになるおそれがある。
【0037】
前記装飾シートの摩擦堅牢度がさらに向上する点から、前記保護層の坪量が前記中間層の坪量よりも大きいことが好ましい。前記中間層の坪量に対する前記保護層の坪量の比(保護層/中間層)は1.2以上がより好ましい。一方、前記比(保護層/中間層)は通常、4以下である。
【0038】
本発明の製造方法は、コルクシートの表面に中間層及び保護層を有する多層構造体からなる装飾シートの製造方法であって、コルクシートの表面を脱色して脱色コルク層を形成し、前記脱色コルク層の上に水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって中間層を形成し、前記中間層の上に、紫外線吸収剤を含有する水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって保護層を形成する方法である。当該方法は、上述した本発明の装飾シートなどの製造方法として好適に用いられる。
【0039】
前記コルクシートの表面を脱色(漂白)して脱色コルク層を形成する。このとき用いられる脱色液としては、過酸化水素と水を含む混合液からなる公知の過酸化水素系の脱色液が用いられる。前記混合液がさらにアンモニアを含有していても構わない。
【0040】
前記脱色液を用いて前記コルクシートの表面を脱色する方法は特に限定されず、前記脱色液を前記コルクシートの表面に塗布する方法や、前記脱色液に前記コルクシートを含侵させる方法、前記脱色液を前記コルクシートの表面に吹き付ける方法等が挙げられる。中でも、前記脱色液を前記コルクシートの表面に塗布する方法が好ましい。前記脱色液を前記コルクシートの表面に塗布する方法として具体的には、刷毛やローラーで前記脱色液を前記コルクシートの表面に塗布する方法等が挙げられる。
【0041】
前記コルクシートの表面を脱色して脱色コルク層を形成した後、前記脱色コルク層の上に水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって中間層を形成する。
【0042】
前記中間層の形成に用いられる前記水性エマルジョンは、水性媒体に樹脂が分散してなるものである。前記水性エマルジョンがさらに着色剤を含有することが好ましい。前記水性エマルジョンに含まれる前記樹脂や前記着色剤としては、本発明の装飾シートの中間層に含まれるものとして上述したものが用いられる。
【0043】
環境面から、前記水性媒体中の水の含有量は50質量%以上であることが好ましい。水以外の成分としては、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒が好ましく、アルコール及びケトンがより好ましく、アルコールがさらに好ましい。
【0044】
前記水性エマルジョン中の固形分量が1~90質量%であることが好ましい。固形分量が1質量%未満であると、厚い塗膜を形成することが困難になるおそれや乾燥効率が低下するおそれがある。固形分量は、より好適には5質量%以上であり、さらに好適には10質量%以上である。一方、固形分量が90質量%を超えると、流動性が低下して塗工が困難になるおそれがある。固形分量は、より好適には75質量%以下であり、さらに好適には50質量%以下である。
【0045】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記水性エマルジョンが前記樹脂、水性媒体、着色剤及び前記紫外線吸収剤以外の他の添加剤を含有してもよい。当該他の添加剤としては、分散剤、沈降防止剤、乳化剤、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、防腐剤、皮張り防止剤、たれ防止剤などが挙げられる。前記水性エマルジョン中の前記他の添加剤の含有量は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
前記脱色コルク層の上に前記水性エマルジョンを塗工する方法は特に限定されず、前記水性エマルジョンを前記脱色コルク層の上に塗布する方法や、前記水性エマルジョンに前記コルクシートを含侵させる方法、前記水性エマルジョンを前記脱色コルク層の上に吹き付ける方法等が挙げられる。中でも、前記水性エマルジョンを前記脱色コルク層の上に塗布する方法が好ましい。前記コルクシートの上に塗布する方法として具体的には、刷毛やローラーで前記水性エマルジョンを前記脱色コルク層の上に塗布する方法が挙げられる。
【0047】
前記脱色コルク層の上に前記水性エマルジョンを塗工した後、当該水性エマルジョンを乾燥させる。このときの乾燥条件は特に限定されないが、通常、乾燥温度は15℃~100℃であり、乾燥時間は15分~1日である。
【0048】
前記脱色コルク層の表面に前記中間層を形成した後、当該中間層の上に紫外線吸収剤を含有する水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって保護層を形成する。
【0049】
前記保護層の形成に用いられる前記水性エマルジョンは、水性媒体に樹脂が分散してなるものである。前記水性エマルジョンに含まれる前記樹脂や前記紫外線吸収剤としては、本発明の装飾シートの保護層に含まれるものとして上述したものが用いられる。
【0050】
前記水性媒体としては、前記中間層を形成するために用いられるものとして上述したものが用いられる。
【0051】
前記保護層の形成に用いられる前記水性エマルジョン中の固形分量が1~90質量%であることが好ましい。固形分量が1質量%未満であると、厚い塗膜を形成することが困難になるおそれや乾燥効率が低下するおそれがある。固形分量は、より好適には5質量%以上であり、さらに好適には10質量%以上である。一方、固形分量が90質量%を超えると、流動性が低下して塗工が困難になるおそれがある。固形分量は、より好適には75質量%以下であり、さらに好適には50質量%以下である。
【0052】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記保護層の形成に用いられる前記水性エマルジョンが前記樹脂、水性媒体、着色剤及び前記紫外線吸収剤以外の他の添加剤を含有してもよい。当該他の添加剤としては、前記中間層を形成するために用いられるものとして上述したものが用いられる。
【0053】
前記中間層の上に前記水性エマルジョンを塗工する方法や塗工された前記水性エマルジョンを乾燥させる方法は特に限定されず、前記中間層を形成する際に用いられる方法として上述した方法が用いられる。
【0054】
前記保護層として、上述した紫外線吸収剤を含有する水性エマルジョンを乾燥させてなる塗膜からなる紫外線吸収層に加えて、前記紫外線吸収剤を含有しない水性エマルジョンを乾燥させてなる塗膜からなる層を形成してもよい。当該層は、前記紫外線吸収層の上に、前記紫外線吸収剤を含有しない水性エマルジョンを塗工してから乾燥させることによって形成することができる。
【0055】
本発明の装飾シートは、前記コルクシートの裏面に樹脂成形体を接合して、装飾シートと樹脂成形体とが一体成形された複合成形体として用いてもよく、この複合成形体を例えば、ドアトリムや、インストルメントパネル、コンソール、カップホルダー等の自動車用内装材として使用してもよい。
【0056】
こうして得られる本発明の装飾シートは、耐光性及び摩擦堅牢度に優れ、なおかつコルク独特の外観も維持している。したがって、当該装飾シートは自動車、建築物等の内装材、等の用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0058】
[耐光性]
装飾シートの保護層の表面に、JIS B 7751に準拠した耐光性試験機にて紫外線を照射した。紫外線の照射条件を以下に示す。
光源:紫外線カーボンアーク灯光(JIS L0842に準拠)
ブラックパネル温度:63±3℃
照射時間:200時間
【0059】
紫外線未照射の装飾シートと紫外線照射後の装飾シートの保護層を目視することにより、照射後の装飾シートの保護層側の表面の退色度合いを以下の基準で評価し、装飾シートの耐光性の指標とした。なお、退色度合いの測定は、1~5等級のグレースケールと、各装飾シートとを目視で比較することにより行った。
A:退色度合20%以下
B:退色度合20%超え40%以下
C:退色度合40%超え60%以下
D:退色度合60%超え80%以下
E:退色度合80%超え
【0060】
[摩耗堅牢性]
下記の条件で装飾シートの摩擦試験を行った。
試験機:摩擦試験機II型(学振法)
摩擦子:摩擦用白綿布
荷重:5N
速度:30回/min
往復回数:5000回
【0061】
摩擦試験前の装飾シートに対する摩擦試験後の装飾シートの外観変化を目視で確認して、以下の基準で装飾シートの摩耗堅牢性を評価した。
A:外観が変化しなかった
B:外観がわずかに変化した
C:外観が大きく変化した
【0062】
実施例1
コルクシートとして、コルク粒と接着剤との混合物を圧搾成形して得られたコルク成形体を準備し、このコルク成形体をスライスすることで厚み2mmの内山工業株式会社製のコルクシートを得た。前記コルクシートの片面全体に木材用の過酸化水素系漂白液を塗布した後、常温にて1時間放置して乾燥させた。以上のとおり、コルクシートの片面を脱色(漂白)することにより、当該コルクシートの片面に脱色コルク層を形成した。前記脱色コルク層の表面は、脱色前の前記コルクシートの表面と比較して、目視でより白く認識され、白度が高かった。
【0063】
次に、水性ウレタンエマルジョン(大谷塗料製「水性VATONFX ナチュラルブラウン」)を前記コルクシートの脱色コルク層の表面全体にローラーを用いて塗布した後、常温にて2時間放置して乾燥させることにより、前記脱色コルク層の表面に所定の厚みの塗膜からなる中間層を形成した。なお、前記水性ウレタンエマルジョンは、水及びアルコール系溶剤を含む水性媒体に、植物油脂系のウレタン樹脂を主成分とする樹脂、着色剤として無機顔料(ナチュラルブラウン)、その他添加剤が分散又は溶解してなるものである。前記水性ウレタンエマルジョンの組成は、合成樹脂:14.0質量%、水:65.0~68.0質量%、アルコール系溶剤:14.0質量%、無機物(着色顔料等)0.1~3.0質量%、その他添加剤:4.0質量%である。なお、前記合成樹脂は、ウレタン樹脂を主成分として含有している。また、コルク層の表面に形成された前記中間層の坪量は60g/m2であった。前記中間層の表面がナチュラルブラウン色に着色していることが目視で確認され、当該中間層の表面は、前記脱色コルク層の表面と比較して、白度が低かった。
【0064】
紫外線吸収剤30質量部を大谷塗料株式会社製の湿気硬化型の水性ウレタン系コート剤「水性VATONFX トップクリヤー」300質量部に添加することにより、紫外線吸収剤を含有する水性ウレタンエマルジョンを得た。前記水性ウレタン系コート剤の組成は、合成樹脂:35質量%、水:56.3質量%、アルコール系溶剤:7.4質量%、その他添加剤:1.0質量%である。なお、前記合成樹脂は、ウレタン樹脂を主成分として含有している。紫外線吸収剤としてヒドロキシル基を含有するベンゾフェノン系化合物である2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンを用いた。当該水性ウレタンエマルジョンを前記中間層の表面全体にローラーを用いて塗布した後、常温にて1日間放置して乾燥させることにより、前記中間層の表面に所定の厚みの塗膜からなる紫外線吸収層を形成した。紫外線吸収層は、中間層を摩耗から保護する保護層として機能する。なお、紫外線吸収層中の樹脂組成物には、樹脂の合計100質量部に対して、28.6質量部の紫外線吸収剤が含有される。また、紫外線吸収層は、坪量が80g/m2であり、紫外線吸収層の坪量は、中間層の坪量よりも大きかった。
【0065】
実施例2~5
表1に示されるとおり紫外線吸収剤の添加量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして装飾シートの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。各装飾シートにおける、中間層の坪量は60g/m2であり、紫外線吸収層の坪量は80g/m2であった。各層の坪量は、塗工量を変えることにより調整した。
【0066】
実施例6
紫外線吸収層の形成に用いるコート剤を水性アクリル系コート剤に変更した以外は、実施例1と同様にして装飾シートの作製及び評価を行った。アクリル系コート剤は、日本カーバイド工業株式会社製のコート剤「ニカゾール」を使用した。結果を表1に示す。前記アクリル系コート剤は、アクリル樹脂を主成分とする固形分を30~40質量%、水を60~70質量%含有する。得られた装飾シートにおける、中間層の坪量は60g/m2であり、紫外線吸収層の坪量は80g/m2であった。各層の坪量は、塗工量を変えることにより調整した。
【0067】
実施例7、8
紫外線吸収剤の種類を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして装飾シートの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。実施例7では、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系化合物30質量部を水性ウレタン系コート材300質量部に添加した。実施例8では、紫外線吸収剤としてのシアノアクリレート系化合物30質量部を水性ウレタン系コート材300質量部に添加した。各装飾シートにおける、中間層の坪量は60g/m2であり、紫外線吸収層の坪量は80g/m2であった。各層の坪量は、塗工量を変えることにより調整した。
【0068】
比較例1
内山工業株式会社製のコルクシートを実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0069】
比較例2
中間層及び紫外線吸収層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして装飾シートの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。紫外線吸収層の坪量は80g/m2であった。坪量は、塗工量を変えることにより調整した。
【0070】
比較例3
紫外線吸収層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして装飾シートの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。中間層の坪量は60g/m2であった。坪量は、塗工量を変えることにより調整した。
【0071】
比較例4
紫外線吸収剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして装飾シートの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。得られた装飾シートにおける、中間層の坪量は60g/m2であり、保護層の坪量は80g/m2であった。各層の坪量は、塗工量を変えることにより調整した。
【0072】
比較例5
紫外線吸収剤を添加しなかった以外は実施例6と同様にして装飾シートの作製及び評価を行った。結果を表1に示す。得られた装飾シートにおける、中間層の坪量は60g/m2であり、紫外線吸収層の坪量は80g/m2であった。各層の坪量は、塗工量を変えることにより調整した。
【0073】
【0074】
前記コルクシートの表面に前記脱色コルク層が形成されるとともに、前記中間層の表面に保護層として前記紫外線吸収層が形成された実施例1~8の装飾シートは、優れた耐光性及び摩擦堅牢度を有し、紫外線照射後や摩擦試験後でもコルク独特の外観を維持していた。中でも、紫外線吸収剤としてベンゾフェノン系化合物を用いた場合(実施例1、6)に、耐光性が大幅に向上した。また、水性ウレタンエマルジョンを用いて前記紫外線吸収層を形成した場合(実施例1~5、7、8)、摩擦堅牢度が大幅に向上した。一方、前記脱色コルク層、前記中間層及び前記紫外線吸収層が形成されていないコルクシート(比較例1)、前記中間層及び前記紫外線吸収層が形成されていないコルクシート(比較例2)、及び前記紫外線吸収層が形成されていないコルクシート(比較例3)は耐光性及び摩擦堅牢度が低かった。また、前記紫外線吸収剤を含まない水性ウレタンエマルジョンを用いて保護層を形成した場合(比較例4及び5)、得られたコルクシートの耐光性が不十分であった。
【符号の説明】
【0075】
1 装飾シート
2 コルクシート
3 中間層
4 保護層
5 脱色コルク層
6 紫外線吸収層
7 層