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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】精子の妊孕力増進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4745 20060101AFI20240202BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20240202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61P15/08
A61P43/00 107
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020530149
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2019026748
(87)【国際公開番号】W WO2020013086
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018132507
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌之
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107174583(CN,A)
【文献】特開平01-305016(JP,A)
【文献】特開2007-274907(JP,A)
【文献】Journal of Andrology,Vol.31,No.5,2010年,pp.437-444
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications,Vol.363,No.2,2007年,pp.257-262
【文献】Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,Vol.80,No.4,2016年,pp.726-734
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 15/08
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の直進運動性低下抑制剤。
【請求項2】
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の直進運動性向上剤。
【請求項3】
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の直線運動速度向上剤。
【請求項4】
精液中における精子の直線運動速度を向上させる、請求項3に記載の剤。
【請求項5】
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精嚢腺機能改善剤。
【請求項6】
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、加齢男性性腺機能低下症候群改善又は予防剤
【請求項7】
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子奇形率改善剤。
【請求項8】
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、体外受精率改善剤。
【請求項9】
精子保存液である、請求項1~のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精子の妊孕力増進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊症のうち、男性側に主たる原因がある男性不妊症は、全体の約50%を占めると言われている。男性不妊症としては、例えば、精液中の精子濃度が低い乏精子症、精子の運動能力が乏しい精子無力症等が挙げられる。男性不妊症に対しては、例えば、精液から回収した精子を使用する、人工授精法、体外受精法及び顕微授精法等の生殖補助医療が適用されている(例えば、特許文献1)。しかし、このような治療は患者の心身的負担が大きく、経済的にも容易なものではない。
【0003】
精液は、精漿と精子とで構成される。精漿は、精嚢腺、前立腺等副生殖腺からの分泌液の混合物である。精子は、精巣上体中では運動しておらず射出時に精漿と混合されることで運動を開始する。そのため、妊孕力を高めるには、精子が潜在的に持ちうる運動能のみならず、精漿自身の機能も重要となる。なお、精子は、鞭毛を利用して頭部を振動させながら遊泳する。
【0004】
ところで、テストステロンは男性ホルモンの一種であり、精巣中のライディッヒ細胞で産生されて血中に分泌される。精巣内のテストステロン濃度は血中よりも高く、この高濃度が精子形成には必須である。成人男性におけるテストステロンの主な生理作用としては、精子形成および骨格筋などにおけるタンパク同化作用の促進などがある。(特許文献2、3)
【0005】
男性においては、加齢とともにテストステロンの分泌量が減少することが知られており、テストステロンが顕著に低下している45歳以上の男性は全体の40%に達すると報告されている。このテストステロンの減少は精巣のライディッヒ細胞の不全に端を発していると言われ、男性の性機能においては、性欲減少、精子形成能低下、男性更年期障害、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)、前立腺肥大及び肥満のリスクを増大させることが知られている。これらの症状は、性機能障害の一つである勃起障害(ED)とも相関する。すなわち、加齢によるテストステロン分泌量の低下は、精子運動性とは無関係に、結果的に妊孕力を低下させることになる。このように、テストステロン分泌量の減少は男性の不妊に影響を及ぼすだけでなく、加齢男性性腺機能低下症候群の症状として、認知力低下、ほてり、抑うつ、睡眠障害、筋力低下、糖代謝・脂質代謝の悪化、内臓脂肪の増加、骨粗鬆症等をもたらし、男性のQOLをも著しく低下させる。この対処方法としてテストステロン補充療法が知られているが、まだ高いレベルの臨床研究がなされておらず、その有効性、リスク・ベネフィットについて議論がなされている段階であり、安全かつ有効な解決手段が求められている。(非特許文献1、2、3)
【0006】
精子の運動性の低下による妊孕力の低下は、ヒトのみならず、ウシやブタ等の家畜においても問題となっている。例えば、養豚業においては人工授精の普及が図られているが、長期間精液を保存した場合に精子の運動性が著しく低下する個体が多く認められている。そのため、ヒトに加えて非ヒト動物に対しても、精子の運動性を高めることで、妊孕力を高める方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-228518号公報
【文献】特開2005-306754号公報
【文献】特開2006-006311号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本泌尿器科学会雑誌、2004年、第95巻、p.751
【文献】綜合臨牀、2011年、第60巻、p.453
【文献】治療、2017年、第99巻、p.1132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、精子の妊孕力増進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ピロロキノリンキノン又はその塩が精子の直進運動性を高めるとともに、精子の妊孕力を高めることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づくものである。
【0011】
本発明は、例えば、以下の各発明を提供する。
[1]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の妊孕力増進剤。
[2]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の直進運動性低下抑制剤。
[3]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の直進運動性向上剤。
[4]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、副生殖腺機能改善剤。
[5]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、前立腺機能改善剤又は前立腺疾患予防剤。
[6]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精嚢腺機能改善剤。
[7]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、加齢男性性腺機能低下症候群に対する改善剤又は予防剤。
[8]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、テストステロン産生促進剤。
[9]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子形成能改善剤。
[10]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、男性不妊の改善剤又は予防剤。
[11]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、体外受精率改善剤。
[12]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する組成物を摂取することで、精子の妊孕力を高める方法。
[13]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する組成物を摂取することで、精子の直進運動性低下を抑制する方法。
[14]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する組成物を摂取することで、精子の直進運動性を高める方法。
[15]
ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子保存液。
[16]
精子の妊孕力を増進させることを特徴とする、[15]に記載の精子保存液。
[2-1]
精子の直進運動性低下を抑制する、[1]に記載の剤。
[2-2]
精子の直進運動性を向上させる、[1]に記載の剤。
[2-3]
テストステロンの産生を促進させる、[1]に記載の剤。
[2-4]
副生殖腺機能を改善する、[1]、[8]及び[2-3]のいずれかに記載の剤。
[2-5]
前立腺機能を改善又は前立腺疾患を予防する、[8]、[2-3]及び[2-4]のいずれかに記載の剤。
[2-6]
精嚢腺機能を改善する、[8]、[2-3]及び[2-4]のいずれかに記載の剤。
[2-7]
加齢男性性腺機能低下症候群を改善又は予防する、[8]又は[2-3]に記載の剤。
[2-8]
精子形成能を改善する、[8]及び[2-3]~[2-7]のいずれかに記載の剤。
[2-9]
男性不妊を改善又は予防する、[1]に記載の剤。
[2-10]
体外受精率を改善する、[1]に記載の剤。
[2-11]
精子の直進運動性低下を抑制することを特徴とする、[12]に記載の方法。
[2-12]
精子の直進運動性を高めることを特徴とする、[12]に記載の方法。
[2-13]
精子の妊孕力を高める組成物の製造における、ピロロキノリンキノン又はその塩の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、精子の妊孕力増進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験例1において、ヒロスワイン培地にピロロキノリンキノンを添加したときの精子の直進運動性を示すグラフである。
図2】試験例1において、ヒロスワイン培地にピロロキノリンキノンを添加したときの精子の直線運動速度を示すグラフである。
図3】試験例7において、各雄マウスにおけるテストステロン濃度を示すグラフである。
図4】(A)及び(B)は、試験例8において、WTマウスの精嚢腺細胞についてPSR染色したものを撮影した写真である。(C)及び(D)は、試験例8において、コントロール(KO)の精嚢腺細胞についてPSR染色したものを撮影した写真である。(E)及び(F)は、試験例8において、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウス(KO)の精嚢腺細胞についてPSR染色したものを撮影した写真である。なお、(A)、(C)及び(E)は40倍の倍率で観察したものであり、(B)、(D)及び(F)は40倍の観察像の一部を拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
〔1.精子の妊孕力増進剤〕
本実施形態に係る精子の妊孕力増進剤は、ピロロキノリンキノン又はその塩(「(A)成分」ともいう。)を含有する。
【0016】
本明細書において「精子の妊孕力」とは、精子の生殖能力(受精能、受胎能)を意味する。精子の妊孕力は、精液中の精子濃度、精子の運動能力、前立腺や精嚢腺などの副生殖腺の機能、精子形成能等の要因に影響され、精子濃度の低下、精子の運動能力欠乏、副生殖腺の機能低下、精子形成能の低下、精巣中及び血中のテストステロン濃度低下等により、精子の妊孕力が低下する。ここで、ピロロキノリンキノン又はその塩は、精子の直進運動性低下を抑制し、又は精子の直進運動性を高める効果を奏する。よって、本発明の一実施形態として、ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の直進運動性低下抑制剤、又は精子の直進運動性向上剤が提供される。なお、運動性を有する精子の中でも、直進運動をする精子は受精能が高く、中でも直線運動速度が高い精子ほど受精能がより高くなる。
【0017】
また、ピロロキノリンキノン又はその塩は、前立腺機能、精嚢腺機能、及び副生殖腺機能を改善する効果、加齢男性性腺機能低下症候群を改善又は予防する効果、並びに前立腺疾患を予防する効果を奏する。よって、本発明の一実施形態として、ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、前立腺機能改善剤又は前立腺疾患予防剤、精嚢腺機能改善剤、副生殖腺機能改善剤、或いは加齢男性性腺機能低下症候群に対する改善剤又は予防剤が提供される。
【0018】
さらに、ピロロキノリンキノン又はその塩は、テストステロンの産生を促進する効果、精子形成能を改善する効果、及び体外受精率を改善する効果を奏する。よって、本発明の一実施形態として、ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、テストステロン産生促進剤、精子形成能改善剤、男性不妊の改善剤又は予防剤、或いは体外受精率改善剤が提供される。
【0019】
したがって、これらの効果を併せ持つピロロキノリンキノン又はその塩は、精子の妊孕力を増進する効果、及び男性不妊を改善又は予防する効果を奏する。よって、本発明の一実施形態として、ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子の妊孕力増進剤、或いは男性不妊の改善剤又は予防剤が提供される。なお、上記各実施形態に係る、ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する剤をまとめて「本実施形態に係る剤」ともいう。
【0020】
「前立腺機能」としては、例えば、前立腺液の分泌が挙げられる。また、「前立腺疾患」としては、例えば、腫瘍性疾患、炎症性疾患、膿尿、排尿障害が挙げられる。腫瘍性疾患の例としては、前立腺肥大症、前立腺癌が挙げられる。炎症性疾患の例としては、急性前立腺炎、慢性前立腺炎が挙げられる。前立腺疾患の症状としては、例えば、排尿障害、血尿、頻尿、血精液が挙げられる。本実施形態に係る剤は前立腺機能を改善することで、これらの症状を改善又は予防することができる。
【0021】
「精嚢腺機能」としては、例えば、精嚢腺液の分泌が挙げられる。また、「精嚢腺疾患」としては、例えば、精嚢腺炎、精嚢腺異常拡張症、精液逆流症、精液漏が挙げられる。精嚢腺疾患の症状としては、例えば、排尿障害、血尿、頻尿、血精液、不妊が挙げられる。本実施形態に係る剤は精嚢腺機能を改善することで、これらの症状を改善又は予防することができる。
【0022】
「副生殖腺」としては、例えば、前立腺、精嚢腺、精巣上体、尿道球腺が挙げられる。副生殖腺機能としては、例えば、精漿の分泌が挙げられる。
【0023】
「加齢男性性腺機能低下症候群」にみられる症状としては、例えば、筋力の低下やそれに伴う筋肉痛、ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、頭痛、めまい、健康感の減少を感じる、不安感、ささいなことでイライラする、抑うつ、不眠、これらの症状に伴う集中力の低下や記憶力の低下、性欲(性的興奮)の減退、頻尿が挙げられる。本実施形態に係る剤はテストステロンの産生を促進することで、これらの症状を改善又は予防することができ、高価で安全性及び有効性が十分に担保されていないテストステロン補充療法の代替療法になり得る。また、テストステロンの産生が促進されると血流が改善することが知られている。血流障害は、動脈硬化、アテローム硬化症、静脈瘤、塞栓症、心筋梗塞、脳梗塞、頭痛、高血圧、認知症、抑うつ、腎不全、糸球体腎炎、虚血性肝炎、急性膵炎、虚血性胆管障害、バージャー病、レイノー病、浮腫、関節痛、耳鳴り、難聴(老人性難聴、騒音性難聴)、めまい、メニエール病、脱毛、勃起不全、排尿困難等の原因や悪化要因となることから、ピロロキノリンキノン又はその塩は、これら血流障害に由来する症状を予防又は改善する効果を有する。
【0024】
本明細書において「精子形成能」とは、健常な精子を形成する能力を意味し、具体的には、例えば、テストステロン産生能、精液中の精子数向上能、精子の奇形率低下能が挙げられる。
【0025】
ピロロキノリンキノンは、下記式:
【化1】
で表される公知の化合物である。
【0026】
ピロロキノリンキノンの塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩が挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム塩及びマグネシウム塩が挙げられる。
【0027】
ピロロキノリンキノン又はその塩としては、ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩が好ましく、ピロロキノリンキノンのナトリウム塩がより好ましく、ピロロキノリンキノン二ナトリウム塩が更に好ましい。
【0028】
ピロロキノリンキノン又はその塩は、市販されているものを使用することもできる。また、ピロロキノリンキノン又はその塩として、例えば、納豆、大豆、ココアパウダー、カカオマス、カカオ、パセリ、ピーマンなど、ピロロキノリンキノン又はその塩を含有するものを使用してもよい。
【0029】
ヒトに使用する場合、本実施形態に係る剤における(A)成分の含有量は、投与する製剤の安定性の観点から、本実施形態に係る剤の総量を基準として、ピロロキノリンキノン又はその塩の総含有量が、0.01~30重量%であることが好ましく、0.2~10重量%であることがより好ましく、1~5重量%であることが更に好ましく、1.3~3重量%であることが特に好ましい。また、非ヒト動物に使用する場合、本実施形態に係る剤における(A)成分の含有量は、本実施形態に係る剤の総量を基準として、ピロロキノリンキノン又はその塩の総含有量が、0.01~0.3重量%であることが好ましく、0.02~0.2重量%であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態に係る剤において、(A)成分の一日あたりの摂取量は摂取する個体の状態(体重、年齢、性別等)、製剤形態等に応じて異なりうるが、ヒトに使用する場合、1回量としての摂取しやすさの観点、(A)成分に基づく生理作用の有効性の観点、安全性の観点から、好ましくは7~100mg、より好ましくは10~40mg、更に好ましくは20~25mgであり、非ヒト動物に使用する場合、好ましくは1~30mg/kg、より好ましくは2~20mg/kgである。
【0031】
本実施形態に係る剤は、ポリアミン(「(B)成分」ともいう。)、及び生薬(「(C)成分」ともいう。)を更に含有してもよい。これにより、本発明による効果がより顕著に奏される。
【0032】
ポリアミンは、分子内に第一級アミノ基を2つ以上含む脂肪族炭化水素である。ポリアミンの具体例としては、例えば、プトレスシン、カダベリン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、カルジン、ホモスペルミジン、アミノプロピルカダベリン、スペルミン、テルミン、テルモスペルミン、カナバルミン、アミノペンチルノルスペルミジン、アミノプロピルホモスペルミン、カナバルミン、ホモスペルミン、カルドペンタミン、ホモカルドペンタミン、アミノプロピルカナバルミン、ビス(アミノプロピル)ホモスペルミン、ビス(アミノプロピル)ノルスペルミン、アミノブチルカナバルミン、アミノプロピルホモスペルミン、ホモペンタミン、カルドヘキサミン、ホモカルドヘキサミン、セルモヘキサミン、ホモセルモヘキサミンが挙げられる。ポリアミンとしては、利用しやすさの観点から、スペルミジン、スペルミン、プトレスシンが好ましく、スペルミジン、スペルミンがより好ましく、スペルミジンが更に好ましい。
【0033】
ポリアミンは、市販のものを用いることもできる。ポリアミンは、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、ポリアミンとして、大豆(好ましくは大豆胚芽)、小麦(好ましくは小麦胚芽)又は米(好ましくは米胚芽)等の植物からの抽出物、魚介類(好ましくは白子)からの抽出物、乾燥清酒酵母などのポリアミンを含有する組成物(「ポリアミン組成物」ともいう。)を用いることもできる。ポリアミン組成物が植物からの抽出物である場合、抽出溶媒としては、水、若しくはエタノール等の有機溶媒又はこれらの混合溶媒等を使用することができる。ポリアミン組成物としては、利用しやすさの観点から、植物からの抽出物が好ましく、大豆(好ましくは大豆胚芽)からの抽出物がより好ましい。市販のポリアミン組成物としては、例えば、「ソイポリア」(コンビ株式会社製)、「オリザポリアミン-P」(オリザ油化株式会社製)、「オリザポリアミン-LC」(オリザ油化株式会社製)、「ファイトポリアミン-S」(東洋紡株式会社製)、「ファイトポリアミン-SP」(東洋紡株式会社製)、「エリオンSP」(三菱瓦斯化学株式会社製)などが挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る剤における(B)成分の含有量は特に限定されず、(B)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。(B)成分の含有量としては、製剤の安定性の観点、(B)成分の有する臭気の影響を小さくする観点から、例えば、本実施形態に係る剤の総量を基準として、(B)成分の総含有量が、0.001~10重量%であることが好ましく、0.01~0.1重量%であることがより好ましく、0.02~0.05重量%であることが更に好ましい。
【0035】
本実施形態に係る剤において、(B)成分としてポリアミン組成物を含有する場合、ポリアミン組成物の含有量は特に限定されず、ポリアミン組成物の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。ポリアミン組成物の含有量としては、製剤の安定性の観点、(B)成分に基づく生理作用の有効性の観点、安全性の観点、(B)成分の有する臭気の影響を小さくする観点から、例えば、本実施形態に係る剤の総量を基準として、ポリアミン組成物の総含有量が、5~35重量%であることが好ましく、10~30重量%であることがより好ましく、14~23重量%であることが更に好ましい。
【0036】
本実施形態に係る剤における、(A)成分に対する(B)成分の含有比率は特に限定されず、(A)成分及び(B)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対する(B)成分の含有比率としては、本発明による効果をより一層高める観点から、例えば、本実施形態に係る剤に含まれる(A)成分の総含有量1重量部に対して、(B)成分の総含有量が、0.001~0.1重量部であることが好ましく、0.01~0.03重量部であることがより好ましく、0.015~0.02重量部であることが更に好ましい。
【0037】
本実施形態に係る剤において、(B)成分としてポリアミン組成物を含有する場合、(A)成分に対するポリアミン組成物の含有比率は特に限定されず、(A)成分及びポリアミン組成物の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対するポリアミン組成物の含有比率としては、本発明による効果をより一層高める観点から、例えば、本実施形態に係る剤に含まれる(A)成分の総含有量1重量部に対して、ポリアミン組成物の総含有量が、5~15重量部であることが好ましく、7~10重量部であることがより好ましい。
【0038】
本実施形態に係る剤において、(B)成分がスペルミジンとスペルミンとを含む場合、スペルミジンに対するスペルミンの重量比率は特に限定されず、(A)成分及び(B)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。スペルミジンに対するスペルミンの重量比率としては、本発明による効果をより一層高める観点から、例えば、0.01~10であることが好ましく、0.1~2であることがより好ましく、0.2~0.5であることが更に好ましい。
【0039】
本実施形態に係る剤において、(B)成分の一日あたりの摂取量は摂取する個体の状態(体重、年齢、性別等)、製剤形態等に応じて異なりうるが、(B)成分に基づく生理作用の有効性の観点、安全性の観点、(B)成分の有する臭気の影響を小さくする観点から、好ましくは0.001~20mg、より好ましくは0.01~2mg、更に好ましくは0.1~0.7mg、特に好ましくは0.3~0.4mgである。
【0040】
本実施形態に係る剤において、(B)成分としてポリアミン組成物を含有する場合、ポリアミン組成物の一日あたりの摂取量は摂取する個体の状態(体重、年齢、性別等)、製剤形態等に応じて異なりうるが、好ましくは50~400mg、より好ましくは100~300mg、更に好ましくは200~250mg、特に好ましくは201~220mgである。
【0041】
生薬は、薬用にする目的をもって、植物、動物、鉱物等の天然物の全部又は一部をそのまま、又はこれを乾燥する等の簡単な加工を施したものをいう。本実施形態に係る剤において、生薬の形態としては、例えば、生薬そのもの(原生薬);原生薬を乾燥、粉末化した生薬末;原生薬又は生薬末を水、若しくはエタノール等の有機溶媒又はこれらの混合溶媒等で抽出した生薬抽出物などが挙げられる。これらの中でも、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、生薬抽出物が好ましい。生薬抽出物は、抽出液そのまま(チンキ、流エキスなど)であってもよく、抽出液を希釈又は濃縮したもの(軟エキスなど)であってもよく、又は抽出液を乾燥した後、粉末化若しくはペースト状としたもの(乾燥エキスなど)であってもよい。
【0042】
生薬抽出物の具体例としては、例えば、ショウガエキス、マカエキス、カンゾウエキス、オウギエキス、チンピエキス、シャクヤクエキス、オタネニンジンエキス、ウコンエキス、ニクジュヨウエキス、ケイヒエキス、エゾウコギエキス、サンザシエキス、ジオウエキス、トウキエキス、ノコギリヤシエキス、イチョウ葉エキス、サイコエキス、ショウマエキス、サンヤクエキス、タイソウエキス、ビャクジュツエキス、ソウジュツエキス、レイシエキス、ロクジョウエキス、トンカットアリエキス、フランス海岸松樹皮エキス、ヨーロッパオークエキス、ジオスゲニン含有山芋エキス、カンカエキス、ニンニクエキス、エゾウコギエキス、ムクナエキス、クチナシエキス、シラジットエキス、冬虫夏草菌糸体末、黒ショウガエキス、黒胡椒抽出物が挙げられる。生薬抽出物としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、マカエキス、オタネニンジンエキス、ノコギリヤシエキス、ショウガエキス、トンカットアリエキス、フランス海岸松樹皮エキス、ヨーロッパオークエキスが好ましく、マカエキス、オタネニンジンエキスがより好ましい。
【0043】
生薬は、市販されているものを使用してもよい。生薬は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
本実施形態に係る剤における(C)成分の含有量は特に限定されず、(C)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。(C)成分の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る剤の総量を基準として、(C)成分の総含有量が、0.1~70重量%であることが好ましく、1~10重量%であることがより好ましく、2~4重量%であることが更に好ましい。
【0045】
本実施形態に係る剤における、(A)成分に対する(C)成分の含有比率は特に限定されず、(A)成分及び(C)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対する(C)成分の含有比率としては、本発明による効果をより一層高める観点から、例えば、本実施形態に係る剤に含まれる(A)成分の総含有量1重量部に対して、(C)成分の総含有量が、0.1~3重量部であることが好ましく、0.5~2.5重量部であることがより好ましく、1~1.5重量部であることが更に好ましい。
【0046】
本実施形態に係る剤における、(B)成分に対する(C)成分の含有比率は特に限定されず、(B)成分及び(C)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、製剤形態等に応じて適宜設定される。(B)成分に対する(C)成分の含有比率としては、本発明による効果をより一層高める観点から、例えば、本実施形態に係る剤に含まれる(B)成分の総含有量1重量部に対して、(C)成分の総含有量が、50~250重量部であることが好ましく、80~200重量部であることがより好ましく、100~170重量部であることが更に好ましい。
【0047】
本実施形態に係る剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の薬理活性成分又は生理活性成分を含むことができる。このような薬理活性成分又は生理活性成分の具体例としては、例えば、ユビキノン(コエンザイムQ10)、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンA、ビタミンE、ナイアシン、パントテン酸カルシウム、タウリン、カルノシン、アンセリン、バレニン、シトルリン、γアミノ酪酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、オルニチン、グルタミン酸、グルタミン、クレアチン、カルニチン、ルテオリン、ケルセチン、ゲニスチン、シアニジン、レスベラトロール、ジオスゲニン、イソフラボンアグリコン、リポ酸、亜鉛、鉄、カルシウム、セレン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、βカロテン、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、プラセンタエキス、ピクノジェノールが挙げられる。薬理活性成分又は生理活性成分としては、本発明による効果をより一層高める観点から、ユビキノン(コエンザイムQ10)、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE、アスタキサンチン、亜鉛、カルニチンが好ましく、ユビキノン(コエンザイムQ10)、アスタキサンチン、亜鉛がより好ましい。薬理活性成分又は生理活性成分は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
本実施形態に係る剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記成分の他に種々の添加剤を含むことができる。このような添加剤の具体例としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、糖類、糖アルコール・多価アルコール類、高甘味度甘味料、油脂、乳化剤、増粘剤、酸味料、果汁類等が挙げられる。賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、ゼラチン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、硅酸等が挙げられる。結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。矯味剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。糖類としては、ショ糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖等が挙げられる。糖アルコール・多価アルコール類としては、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。高甘味度甘味料としては、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、スクラロース等が挙げられる。油脂としては、紅花油(サフラワー油)、ブドウ種子油、ひまわり油(サンフラワー油)、オリーブ油、コーン油、ゴマ油、大豆油、菜種油、シソ油等が挙げられる。乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。増粘剤としては、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム等が挙げられる。酸味料としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられる。果汁類としてはレモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等が挙げられる。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。添加剤としては、製剤化時の(A)成分と(B)成分の安定性の観点から、油脂を含むことが好ましい。
【0049】
本実施形態に係る剤の剤形としては特に限定されず、例えば、錠剤(口腔内崩壊錠、チュアブル錠、トローチ錠等を含む)、顆粒剤、散剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、トローチ剤、ゼリー剤又は液剤(懸濁剤、乳剤、シロップ剤等を含む)等の内服剤;軟膏剤、坐剤、貼付剤、噴霧剤等の外用剤;注射剤等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすさの観点、本発明による効果をより一層高める観点から、内服剤であることが好ましく、錠剤、顆粒剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態に係る剤は、例えば、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品(飲料、食品)の成分として使用することができる。また、本実施形態に係る剤は、例えば、医薬製剤、医薬部外品製剤、特定保健用食品、栄養機能食品、老人用食品、特別用途食品、機能性表示食品、健康補助食品(サプリメント)、食品用製剤(例、製菓錠剤)、明らか食品として使用することもできる。さらに、本実施形態に係る剤は、例えば、動物用医薬品、飼料添加物、凍結精液用希釈液、人工授精用希釈液として使用することもできる。
【0051】
また、本実施形態に係る剤が食品として使用される場合、当該食品は一般食品にピロロキノリンキノン又はその塩、及び必要に応じてその他の成分を配合したものであってもよい。このような食品としては、クッキー、ビスケット、スナック菓子、ゼリー、グミ、チョコレート、ガム、飴、チーズ等の長期保存できるものが好ましく挙げられる。また、栄養ドリンク、ジュース、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料などの液体食品であってもよい。
【0052】
本実施形態に係る剤は、精子の妊孕力を増進する作用を必要とする対象(例えば、ヒト;ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット等の非ヒト動物)に好適に使用することができる。対象としては、本発明による効果をより一層高める観点から、ヒトが好ましい。また、本発明による効果をより一層高める観点から、非ヒト動物の中でもウシ、ブタ、ウマが好ましく、ブタがより好ましい。
【0053】
〔2.精子の妊孕力を高める方法、精子の直進運動性低下を抑制する方法及び精子の直進運動性を高める方法〕
ピロロキノリンキノン又はその塩は、精子の直進運動性低下を抑制する作用、及び精子の直進運動性を高める作用を有している。また、ピロロキノリンキノン又はその塩は、精子の直進運動性低下を抑制し、又は精子の直進運動性を高めることで、精子の妊孕力を高める作用を有している。したがって、本発明の一実施形態として、1)ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する組成物を摂取する、精子の妊孕力を高める方法、2)ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する組成物を摂取する、精子の直進運動性低下を抑制する方法、及び3)ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する組成物を摂取する、精子の直進運動性低下を抑制する方法が提供される。精子は、ヒトの精子であってもよく、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット等の非ヒト動物の精子であってもよい。精子としては、本発明による効果をより一層高める観点から、ヒトの精子が好ましい。また、本発明による効果をより一層高める観点から、非ヒト動物の精子の中でもウシの精子、ブタの精子、ウマの精子が好ましく、ブタの精子がより好ましい。
【0054】
なお、これらの実施形態における、組成物中のピロロキノリンキノン又はその塩の種類、含有量及び一日あたりの摂取量等、その他の成分の種類、含有量及び一日あたりの摂取量等、組成物の製剤形態等については、〔1.精子の妊孕力増進剤〕で説明したとおりである。
【0055】
〔3.精子保存液〕
ピロロキノリンキノン又はその塩は、精子の妊孕力を高める作用を有している。そのため、ピロロキノリンキノン又はその塩は、妊孕力が高められた精子を保存するための精子保存液としても用いることができる。したがって、本発明の一実施形態として、ピロロキノリンキノン又はその塩を含有する、精子保存液が提供される。
【0056】
本実施形態に係る精子保存液におけるピロロキノリンキノン又はその塩の種類は、〔1.精子の妊孕力増進剤〕で説明したとおりである。
【0057】
本実施形態に係る精子保存液におけるピロロキノリンキノン又はその塩の含有量は、精子保存液の総量を基準として、ピロロキノリンキノン又はその塩の総含有量が、0.0000000033~0.00033重量%であることが好ましく、0.00000033~0.000033重量%であることがより好ましく、0.0000033重量%であることが更に好ましい。
【0058】
本実施形態に係る精子保存液は、ラクトース、ガラクトース、スクロース、グリシン、及び乳酸からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有してもよい。これにより、本発明による効果がより顕著に奏される。
【0059】
本実施形態に係る精子保存液は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記成分以外の薬理活性成分又は生理活性成分を含むことができる。このような薬理活性成分又は生理活性成分の具体例としては、例えば、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、ポリミキシンB、ペニシリン等の抗生物質;各種アミノ酸が挙げられる。薬理活性成分又は生理活性成分は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
本実施形態に係る精子保存液は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記成分の他に種々の添加剤を含むことができる。このような添加剤の具体例としては、例えば、グルコース;クエン酸、炭酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、酢酸、リン酸又はこれらの塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の緩衝剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)等のキレート剤;グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド等の凍結保護物質;水が挙げられる。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本実施形態に係る精子保存液は、ピロロキノリンキノン又はその塩と、他の成分とを混合することで調製することができる。また、本実施形態に係る精子保存液は、公知の保存液を利用して調製することもできる。例えば、公知の保存液に、ピロロキノリンキノン又はその塩を添加することで調整することができる。公知の保存液としては、本分野で通常用いられる液体であれば特に限定されないが、例えば、モデナ液(構成成分:グルコース、クエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、EDTA-2Na、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ペニシリン及び水)が挙げられる。この場合、モデナ液中に、ピロロキノリンキノン又はその塩、及び必要に応じてその他の成分を所定の割合で添加して混合すればよい。
【0062】
本実施形態に係る精子保存液は、ヒトの精子、又はウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット等の非ヒト動物(好ましくはウシ、ブタ、ウマ)の精子の保存液として使用することができる。また、本実施形態に係る精子保存液は、例えば、凍結精液用希釈液、人工授精用希釈液として使用することもできる。
【実施例
【0063】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の試験例はすべて、広島大学動物実験倫理委員会の承認のもと、実施した。
【0064】
〔試験例1:精子の直進運動性及び直線運動速度の解析〕
37℃のウォーターバスにて、種々の量のピロロキノリンキノン二ナトリウム塩(PQQ二ナトリウム塩)を添加したヒロスワイン培地(HIRO SWINE B液、株式会社クライオプリザベーションサービス製)とPQQ二ナトリウム塩を添加していないヒロスワイン培地にそれぞれブタ精子を懸濁させ、サンプルとした。続いて該サンプルを37℃で2~6時間培養した。次に該サンプル5μLを精子運動性解析装置(Computer Aided Sperm Analysis(CASA) system)を用いて解析した。なお、精子の直進運動性については、観測される全精子中において直進運動している精子の数の割合を百分率で解析し、精子の直線運動速度については、直進運動している精子の平均速度を解析した。結果を図1及び2に示す。
【0065】
図1に示すように、PQQ二ナトリウム塩を添加した培地で培養した精子では、PQQ二ナトリウム塩を添加していない精子と比較して、直進運動性が向上していた。また、図2に示すように、PQQ二ナトリウム塩を添加した培地で培養した精子では、PQQ二ナトリウム塩を添加していない培地で培養した精子と比較して、直進運動している精子の平均速度が向上していた。以上より、PQQ二ナトリウム塩を添加することで、精子の直進運動性及び直線運動速度が向上することが確認された。
【0066】
〔試験例2:ピロロキノリンキノンの投与による雄マウスの妊孕力への影響〕
6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO)に、PQQ二ナトリウム塩を2週間飲水投与(2mg/kg/日)した。なお、水のみ2週間投与した雄マウスをコントロールとした。その後、hCG(胎盤性性腺刺激ホルモン)を投与した発情期の雌マウスと1時間同居させ、交尾を試みた。これを1匹の雄に対して3匹の雌と別々に行った。1時間同居させた後、雌マウスに膣栓が形成されていることをもって交尾の確認とし、交尾率(%)を算出した(n=3)。また、hCG(胎盤性性腺刺激ホルモン)を投与してから6時間経過後に、交尾が確認された雌マウスの卵管から卵を回収し、受精率を計測した。受精の判定は、倒立型システム顕微鏡(IMT-2、オリンパス社製)下で観察した際に、前核が2個生じている卵を受精卵とした。受精率は以下の式1で算出した。
(式1)受精率(%)={(受精していた卵の数)/(回収した卵の総数)}×100
なお、ライディッヒ細胞のNRG1が欠損すると、ライディッヒ細胞の増殖不全となり、血中のテストステロン濃度が低下し、精子形成に異常をきたすことが知られている。また、ライディッヒ細胞のNRG1が欠損すると、受精能が低下することが知られている。さらに、NRG1欠損マウスにテストステロンを投与すると、交尾率が上昇することが知られている(Endoclinology,157(12),p4899-4913,2016)。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウスでは、PQQ二ナトリウム塩を投与しないコントロールと比較して、交尾率及び受精率どちらも増加し、特に、交尾率の増加が顕著であった。すなわち、PQQ二ナトリウム塩の投与によって雄マウスの妊孕力が増進されるとともに、性欲(性的興奮)の減退が改善されたことが確認された。
【0069】
〔試験例3:ピロロキノリンキノンの投与による体外受精率への影響〕
6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO)に、PQQ二ナトリウム塩を2週間飲水投与(2mg/kg/日)した。なお、水のみ2週間投与した雄マウスをコントロールとした。その後、雄マウスの精巣上体から成熟精子を回収し、体外受精に供試した。媒精6時間後、卵を回収し、体外受精率(%)を計測した。受精の判定は、倒立型システム顕微鏡(IMT-2、オリンパス社製)下で観察した際に、前核が2個生じている卵を受精卵とした。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウスの精子では、PQQ二ナトリウム塩を投与しないコントロールの精子と比較して、体外受精率が増加した。すなわち、PQQ二ナトリウム塩の投与によって精子の妊孕力が増進されたことが確認された。
【0072】
〔試験例4:ピロロキノリンキノンの投与による精子形成能への影響〕
6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO)に、PQQ二ナトリウム塩を2週間飲水投与(2mg/kg/日)した。なお、水のみ2週間投与した雄マウスをコントロールとした。その後、雄マウスの精巣上体から成熟精子を回収し、精子の塗抹標本を作成後、メタノールで固定し、ヘマトキシリン・エオシン染色を行ったものを、倒立型システム顕微鏡(IMT-2、オリンパス社製)下で観察した。正常精子又は奇形精子の判定は、日産婦誌(第61巻、第6号、N-189の図E-4-2-1)に準じて、精子の頭部が一部欠損している、精子頭部の形態が円形である、精子の尾部が折れ曲がっている、精子の尾部が欠損している等、精子の外観に異常があるものを奇形精子とした。各個体あたり200個の精子を観察し、当該200個の精子中における奇形精子の割合を精子の奇形率(%)として算出した。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示すように、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウスの精子では、PQQ二ナトリウム塩を投与しないコントロールの精子と比較して、精子の奇形率が半数にまで顕著に減少した。すなわち、PQQ二ナトリウム塩の投与によって精子の形成能が向上することが確認された。
【0075】
〔試験例5:ピロロキノリンキノンの投与による前立腺機能、精嚢腺機能及び副生殖腺機能への影響〕
6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO)に、PQQ二ナトリウム塩を2週間飲水投与(2mg/kg/日)した。なお、水のみ2週間投与した雄マウスをコントロールとした。その後、雄マウスの副生殖腺(前立腺、精嚢腺及び精巣上体)から液成分を回収し、各液成分を混合した。該混合液を用いて、6か月齢野生型マウス(WTマウス)の精巣上体から回収した精子を培養し、2時間経過後の精子の直線運動速度(μm/秒)を、精子運動性解析装置(CASA)を用いて解析した。
前立腺、精嚢腺及び精巣上体からの液成分を混合することで、疑似的に精漿を再現することができ、該混合液を精子と接した環境下において精子を培養することで、疑似的に精液を再現することができる。そして、この時の精子の直進運動性を解析することで、前立腺機能、精嚢腺機能及び副生殖腺機能への影響を調べることができる。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4に示すように、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウスの精漿で培養した精子では、PQQ二ナトリウム塩を投与しないマウスの精漿で培養したコントロールの精子と比較して、精子の直線運動速度が向上した。したがって、PQQ二ナトリウム塩の投与により、前立腺液、精嚢腺液及び精漿の分泌が改善すること、すなわち、前立腺機能、精嚢腺機能及び副生殖腺機能が改善することが確認された。
【0078】
〔試験例6:ピロロキノリンキノンの投与による精嚢腺重量への影響〕
6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO)に、PQQ二ナトリウム塩を2週間飲水投与(2mg/kg/日)した。なお、水のみ2週間投与した雄マウスをコントロールとした。その後、精嚢腺を摘出し、その重量を測定した。結果を表5に示す。
【0079】
【表5】
【0080】
表5に示すように、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウスの精嚢腺は、PQQ二ナトリウム塩を投与しないコントロールの精嚢腺と比較して、重量が増加した。すなわち、PQQ二ナトリウム塩の投与によって精嚢腺機能が改善されることが確認された。
【0081】
〔試験例7:ピロロキノリンキノンの投与によるテストステロン濃度への影響〕
6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO)に、PQQ二ナトリウム塩を2週間飲水投与(2mg/kg/日)した。また、6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO;コントロール)と6か月齢野生型マウス(WTマウス)に対して、水のみをそれぞれ2週間投与した。その後、各マウスから採血し、続いて血清50μlを分取した。Rodent testosterone ELISA kit(Endocrine technology;競合法)を用いてテストステロンを定量した。結果を表6及び図3に示す。
【0082】
【表6】
【0083】
表6及び図3に示すように、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウスのテストステロン濃度は、PQQ二ナトリウム塩を投与しないコントロールのテストステロン濃度と比較して、顕著に向上し、正常なマウスと同程度のテストステロン濃度にまで改善した。すなわち、PQQ二ナトリウム塩の投与によってテストステロンの産生が促進されること、及び精子形成能が改善することが確認された。テストステロンの減少は男性更年期障害、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)、ならびに前立腺を始めとする副生殖腺の機能不全の原因となっているため、これらの症状を予防又は改善することも確認された。
【0084】
〔試験例8:ピロロキノリンキノンの投与による精嚢腺細胞への影響〕
6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO)に、PQQ二ナトリウム塩を2週間飲水投与(2mg/kg/日)した。また、6か月齢のライディッヒ細胞特異的NRG1欠損雄マウス(KO;コントロール)と6か月齢野生型マウス(WTマウス)に対して、水のみをそれぞれ2週間投与した。その後、精嚢腺を摘出、パラホルムアルデヒドによって固定し、次いで切片を得た。これをPAS染色し、倒立顕微鏡(キーエンス製)を用いて40倍の倍率で観察した。結果を図4に示す。なお、(A)及び(B)は、WTマウスの精嚢腺細胞についてPSR染色したものを撮影した写真であり、(C)及び(D)は、コントロール(KO)の精嚢腺細胞についてPSR染色したものを撮影した写真であり、(E)及び(F)は、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウス(KO)の精嚢腺細胞についてPSR染色したものを撮影した写真である。また、(A)、(C)及び(E)は40倍の倍率で観察したものであり、(B)、(D)及び(F)は40倍の観察像の一部を拡大したものである。
【0085】
図4に示すように、PQQ二ナトリウム塩を投与しないコントロールでは、精嚢腺細胞((D)において、囲って示したものに代表される細胞)が小さく委縮していた一方、PQQ二ナトリウム塩を投与したマウスの精嚢腺細胞((F)において、囲って示したものに代表される細胞)は、正常なマウスと同程度の大きさにまで改善した。すなわち、PQQ二ナトリウム塩の投与によって委縮していた精嚢腺細胞が回復するため、精嚢腺機能が改善されることが確認された。
【0086】
試験例1~8の結果より、ピロロキノリンキノン又はその塩は精子の妊孕力を増進する作用を有していることが確認された。すなわち、男性不妊を改善することが確認された。
【0087】
〔精子保存液の処方例〕
表7に記載の各成分を常法に従い混合して、処方例1の精子保存液を製造する。表7中における各成分の単位はmg(ミリグラム)である。
【0088】
【表7】
図1
図2
図3
図4