IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タブチの特許一覧

<>
  • 特許-配管更新工法 図1
  • 特許-配管更新工法 図2
  • 特許-配管更新工法 図3
  • 特許-配管更新工法 図4
  • 特許-配管更新工法 図5
  • 特許-配管更新工法 図6
  • 特許-配管更新工法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】配管更新工法
(51)【国際特許分類】
   F16L 1/00 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
F16L1/00 J
F16L1/00 V
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019223807
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021092285
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000151025
【氏名又は名称】株式会社タブチ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】寺田 孝
(72)【発明者】
【氏名】西條 一樹
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-508161(JP,A)
【文献】特開平04-337181(JP,A)
【文献】特開2003-129793(JP,A)
【文献】特開平06-238509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の保護材により覆われた既設配管を新配管に更新する際の、配管の更新工法であって、
前記既設配管を、周方向の1箇所で径方向及び管軸方向に切断する既設配管切断工程と、
前記既設配管を拡径する拡径工程と、
前記既設配管の設置対象物から前記保護材及び前記既設配管を取り外さない状態で、前記新配管を、前記拡径した既設配管の内周面に沿わせつつ前記保護材及び前記既設配管の内部に通す新配管挿入工程と、
を含む工法であり、
索状体を巻き上げることのできるウインチを2台用い、前記2台のうち1台である一方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の一方側端部に配置し、前記2台のうち他の1台である他方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の他方側端部に配置し、
前記一方側ウインチの有する索状体の端部と前記他方側ウインチの有する索状体の端部との間に配管加工治具を、前記既設配管の内部を通過可能に接続し、
前記一方側ウインチと前記他方側ウインチとを交互に操作することで、前記既設配管に対して前記配管加工治具を往復移動させ、この往復移動に伴って、前記既設配管切断工程と前記拡径工程とが行われることを特徴とする配管更新工法。
【請求項2】
管状の保護材により覆われた既設配管を新配管に更新する際の、配管の更新工法であって、
前記既設配管を、前記既設配管を覆っている状態の前記保護材を切断することなしに、周方向の1箇所で径方向及び管軸方向に切断する既設配管切断工程と、
前記既設配管を拡径する拡径工程と、
前記既設配管の設置対象物から前記切断されなかった前記保護材及び前記既設配管を取り外さない状態で、前記新配管を、前記拡径した既設配管の内周面に沿わせつつ前記保護材及び前記既設配管の内部に通す新配管挿入工程と、
を含むことを特徴とする配管更新工法。
【請求項3】
前記既設配管切断工程に先立つ、前記既設配管の内周面に管軸方向に沿う溝を形成する溝付工程を含み、
前記既設配管切断工程では、前記溝付工程で形成された前記溝に沿って前記既設配管が切断されることを特徴とする、請求項に記載の配管更新工法。
【請求項4】
前記既設配管切断工程において、前記既設配管の内周面に事前の加工を行うことなく前記切断を行う、請求項に記載の配管更新工法。
【請求項5】
前記既設配管切断工程、及び、前記新配管挿入工程が、前記既設配管及び前記保護材が建築物の外部に露出した端部にて行われる、請求項のいずれかに記載の配管更新工法。
【請求項6】
索状体を巻き上げることのできるウインチを2台用い、前記2台のうち1台である一方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の一方側端部に配置し、前記2台のうち他の1台である他方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の他方側端部に配置し、
前記一方側ウインチの有する索状体の端部と前記他方側ウインチの有する索状体の端部との間に配管加工治具を、前記既設配管の内部を通過可能に接続し、
前記一方側ウインチと前記他方側ウインチとを交互に操作することで、前記既設配管に対して前記配管加工治具を往復移動させ、この往復移動に伴って、前記既設配管切断工程と前記拡径工程とが行われる、請求項のいずれかに記載の配管更新工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温材等の保護材により覆われた既設配管を新配管に更新する際の、配管更新工法に関する。
【背景技術】
【0002】
保温材等の保護材により覆われた配管が広く用いられている。このような配管は、例えば、建築物内に設けられる給湯配管として給湯器と給湯対象箇所とを結ぶ。または、給水配管として水道メータと給水対象箇所とを結ぶ。これらの配管は、建築物における床下等に設けられる。
【0003】
この配管が経年等により老朽化した程度に応じて、配管を更新することがある。従来、このような場合には、保護材及び配管を全て取り換えていた。
【0004】
一方、特許文献1には、保護材(特許文献1の記載によると「保護管」)に覆われた配管の更新工法が記載されている。この工法によると、保護材から既設配管を引き抜き、その後、既設の保護材に新配管を通すことによって配管を更新する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-150145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の工法では、建築物の一部(例えば、配管が床下に設けられていた場合には床材)を一時的に解体して、保護材及び配管を露出した状態としなければ作業できなかった。このため、更新工事が大掛かりになってしまい、その分、工事コストも大きくかかっていた。
【0007】
また、特許文献1に記載の工法では、配管の引き抜き作業をしやすくすることを考慮しつつ、配管新設の際にあらかじめ保護材及び配管を建築物等に敷設していた。このため、配管の敷設形状を考慮する分、配管新設時の施工に手間がかかっていた。また、金属強化樹脂管等、このような施工ができない配管もあった。
【0008】
そこで本発明は、配管の更新に当たって、建築物の解体を極力不要とし、また、配管新設時の施工に格段の配慮が不要な配管更新工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、管状の保護材により覆われた既設配管を新配管に更新する際の、配管の更新工法であって、前記既設配管を、周方向の1箇所で径方向及び管軸方向に切断する既設配管切断工程と、前記既設配管を拡径する拡径工程と、前記既設配管の設置対象物から前記保護材及び前記既設配管を取り外さない状態で、前記新配管を、前記拡径した既設配管の内周面に沿わせつつ前記保護材及び前記既設配管の内部に通す新配管挿入工程と、を含むことを特徴とする配管更新工法である。
【0010】
前記構成によると、既設配管及び保護材を建築物等の設置対象物に固定したままとしておき、拡径した既設配管を、新配管を敷設する際のガイドとして利用できる。しかも、既設配管の引き抜き作業を行わなくてよいので、配管の更新を、配管の敷設形状に影響されにくく容易にできる。
【0011】
また、前記既設配管切断工程に先立つ、前記既設配管の内周面に管軸方向に沿う溝を形成する溝付工程を含み、前記既設配管切断工程では、前記溝付工程で形成された前記溝に沿って前記既設配管が切断されることができる。
【0012】
前記構成によると、溝付工程で形成された溝をガイドにして既設配管を切断することで、既設配管切断工程において切断に失敗することがなく、確実な切断が可能である。
【0013】
また、前記既設配管切断工程において、前記既設配管の内周面に事前の加工を行うことなく前記切断を行うことができる。
【0014】
前記構成によると、事前の加工を行うことなく既設配管切断工程を行うことにより、一連の工程を短縮化できる。
【0015】
また、前記既設配管切断工程、及び、前記新配管挿入工程が、前記既設配管及び前記保護材が建築物の外部に露出した端部にて行われるものとできる。
【0016】
前記構成によると、既設配管及び保護材が建築物の外部に露出した端部で作業可能であるから、建築物の解体の必要がないので、工事の低コスト化に貢献できる。
【0017】
また、索状体を巻き上げることのできるウインチを2台用い、前記2台のうち1台である一方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の一方側端部に配置し、前記2台のうち他の1台である他方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の他方側端部に配置し、前記一方側ウインチの有する索状体の端部と前記他方側ウインチの有する索状体の端部との間に配管加工治具を、前記既設配管の内部を通過可能に接続し、前記一方側ウインチと前記他方側ウインチとを交互に操作することで、前記既設配管に対して前記配管加工治具を往復移動させ、この往復移動に伴って、前記既設配管切断工程と前記拡径工程とが行われるものとできる。
【0018】
前記構成によると、ウインチを2台用い、索状体に接続された配管加工治具を往復移動させることにより、既設配管切断工程と拡径工程とが行われる。このため、新配管を挿入するための準備を効率良くできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、拡径した既設配管を、新配管を敷設する際のガイドとして利用できる。しかも、配管の更新を、配管の敷設形状に影響されにくく容易にできる。このため、配管の更新に当たって、建築物の解体が不要であり、また、配管新設時の施工に格段の配慮が不要であるとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る配管更新工法の対象である配管の、建築物への配置例を示す概略図である。
図2】前記配管更新工法に用いるウインチと配管切断治具との組み合わせを示す概略図である。
図3】(a)は前記配管切断治具の半断面図である。(b)は前記配管切断治具に取付けられる第1刃物の平面図である。(c)は前記配管切断治具に取付けられる第2刃物の平面図である。(d)は前記配管切断治具に取付けられる第3刃物の平面図である。
図4】前記配管更新工法に用いる配管拡径治具の半断面図である。
図5】(a)は前記配管更新工法における溝付工程の準備段階を示す軸方向断面図である。(b)は溝付工程(1段階目)を示す軸方向断面図である。(c)は溝付工程(1段階目)の後の既設配管の径方向断面図である。(d)は溝付工程(2段階目)を示す軸方向断面図である。(e)は溝付工程(2段階目)の後の既設配管の径方向断面図である。
図6】(a)は前記配管更新工法における既設配管切断工程を示す軸方向断面図である。(b)は既設配管切断工程の後の既設配管の径方向断面図である。(c)は拡径工程を示す軸方向断面図である。(d)は拡径工程の後の既設配管の径方向断面図である。
図7】(a)は前記配管更新工法における新配管挿入工程を示す軸方向断面図である。(b)は新配管敷設後の状態を示す軸方向断面図である。(c)は新配管敷設後の状態を示す径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明につき、一実施形態を取り上げて説明を行う。図1に、本実施形態の配管更新工法の対象である既設配管Poの、建築物への配置例を示す。既設配管Poは例えば給湯用の配管であって、外周が管状の保護材Gにより覆われている。既設配管Po及び新配管Pnは樹脂管であって、例えばポリエチレン管(PE管)、架橋ポリエチレン管(PE-X管)、ポリブテン管(PB管)である。樹脂管は、アルミニウム合金等の金属層を挟んだ多層管とすることもできる。保護材Gは、既設配管Po(特に拡径前)及び新配管Pnの外径寸法以上の内径寸法を有しており、発泡樹脂等の柔軟な材料、例えば発泡ポリエチレンから形成されていて、径方向において断熱及び保温の機能を有している。前記「柔軟な」に関し、本実施形態においては、新配管Pnの差し込みに際して新配管Pnから保護材Gが外力を受けた場合に、軸線がずれるような変形、または、径方向への圧縮変形がなされる程度の柔軟性を有していればよい。ちなみに、従来の工法(例えば特開2004-150145号公報(特許文献1)参照)では、保護材から既設配管を引き抜く際、また、既設の保護材に新配管を通す際に、発泡樹脂等の柔軟な材料から形成された保護材が用いられていると、コーナー部やバンド固定部で配管が保護材を突き破って破損してしまう。すなわち、柔軟な材料から形成された保護材に対して従来の工法は施工できなかった。
【0022】
図1に、既設配管Poの建築物(例えば家屋)Cへの配置例を示す。なお、配管更新後の新配管Pnも建築物Cに対して既設配管Poと同じ形態で配置される。既設配管Poは、床材Fによって管軸方向の少なくとも途中部分が覆われている。なお「管軸方向」とは、既設配管Poの軸中心に沿う方向を意味する。また、既設配管Poにおいて管軸方向の入口端及び出口端が、床材Fから上方に、または外壁から側方に露出されており、既設配管Poの入口端は例えば給湯器(図示しない)に接続され、出口端は、例えば浴室の水栓Vに接続されている。既設配管Poは、通水時の水圧で暴れないように、床材Fの下方に位置する基礎Bに、バンド等によって管軸方向において所定間隔で固定されている。前記固定に際しては、図1に示すように、保護材Gはバンド等と基礎Bにより径内方向への外力を受け、発泡樹脂等の柔軟な材料で形成された保護材Gの外径は外力によって圧縮されて縮径される。
【0023】
次に、本実施形態の配管更新工法に用いる装置及び治具につき説明する。本実施形態では、主に、ウインチ(巻上機)1、配管加工治具2(配管切断治具2A、配管拡径治具2B)、配管挿入治具3が用いられる。
【0024】
ウインチ1は2台で1組として用いられる。ウインチ1は、施工対象の配管の両端に1台ずつ配置される。ウインチ1は索状体であるワイヤ11を巻き上げることができるように構成されている。ウインチ1は、既設配管Poの一端側に1台、他端側にもう1台が配置されて用いられる。2台のウインチ1でワイヤ11がつながった状態で、1組中1台のウインチ1はワイヤ11が巻き上げられたことで引張力を発し、他の1台のウインチ1は前記引張力を受けてワイヤ11が引き出される。ウインチ1の駆動方式は手動であっても、電動等、原動機の動力を利用するものであってもよい。
【0025】
ワイヤ11の先端には治具接続部12が設けられている。治具接続部12には、ワイヤ11に接続されるワイヤ側接続部と、配管切断治具2Aに接続される治具側接続部と、ワイヤ側接続部に対して治具側接続部が回転可能となるように両接続部を連結する回転連結部と、を備える。この回転連結部として、治具接続部12にはベアリング121が内蔵されている。このベアリングは、ワイヤ11に対して治具接続部12が周方向に回転することを許容する。これにより、ワイヤ11に接続された配管切断治具2A(より詳しくは、配管切断治具2Aに取り付けられた刃物4)を周方向にずらすことができる。このため、後述の溝付工程及び既設配管切断工程において、例えば、ワイヤ11にねじれがあった場合でも、配管切断治具2Aは前記ねじれの影響を受けることなく、既設配管Poに対して周方向に一定の位置を保って、配管切断治具2Aを管軸方向に移動させることができる。また、配管切断治具2Aが既設配管Po内を移動する際に既設配管Poから抵抗を受けても、該抵抗を緩和するようにワイヤ11に対して回転するため、加工抵抗を抑制できる。
【0026】
本実施形態の治具接続部12は、配管切断治具2Aの軸方向一端側と軸方向他端側とに各々設けられ、一方の治具接続部12が一方のワイヤ11を配管切断治具2Aの一端側に接続し、他方の治具接続部12が他方のワイヤ11を配管切断治具2Aの他端側に接続する。接続されたワイヤ11は、配管切断治具2Aに対して同軸上に延出する。
【0027】
配管切断治具2Aは、長手方向両端が縮径された略円柱状とされている。この配管切断治具2Aは、治具接続部12との組み合わせで配管加工用具として機能する。配管切断治具2Aの側面視の半断面形状を図3(a)に示す。配管切断治具2Aにおける長手方向中央側の大径部における外径寸法は、工事対象の既設配管Poの内径よりも小さい。配管切断治具2Aは、長手方向両端で径方向中央にワイヤ装着部21を備える。このワイヤ装着部21に、ワイヤ11の先端に設けられた治具接続部12が接続される。本実施形態では、両者は螺合により接続される。また、配管切断治具2Aは刃物装着部22を備える。
【0028】
ここで、刃物装着部22に装着される加工手段の一例である刃物4について説明する。この刃物4は、平板状であって配管切断治具2Aに取り付けた状態で径方向の一端(図示上端)に、既設配管Poに対して切断を行う刃41を有している。また、図3(a)~(c)に示すように、刃物4の中央部分に取付孔42が形成されている。つまり、加工手段としての刃物4は、中央部に加工手段装着部としての刃物装着部22への装着部としての取付孔42と、両端部に刃41と、を備える。両端部の刃41は刃先が同じ方向、具体的には、刃物4の幅方向一方側の方向に向けて設けられている。本実施形態では、既設配管Poへの切り込みの深さに応じ、刃物装着部22への装着時に径方向の長さが異なる第1刃物4A(図3(b))、第2刃物4B(図3(c))、第3刃物4C(図3(d))の3種を用いている。即ち、加工手段としての刃物4は、既設配管Poに対して異なる加工ができるように、複数種類の加工部材(本実施形態では、第1刃物4A、第2刃物4B、第3刃物4C)を含む。各刃物4A~4Cにおいて、刃41の高さの高い側が刃物装着部22の移動元に位置し、低い側が刃物装着部22の移動先に位置するように、刃物装着部22に装着される。各刃物4A~4Cの使い分けについては後述する。
【0029】
刃物装着部22は、径方向に延びる1本の刃物用貫通穴221を有している。配管切断治具2Aでは、刃物用貫通穴221に直交するようにねじ穴222が設けられており、このねじ穴222に固定ねじ(図示しない)を取り付け、刃物4の取付孔42に固定ねじの先端が嵌められることにより、刃物4を固定ねじの先端で押さえることで、刃物用貫通穴221に挿入された刃物4を固定できる。
【0030】
配管拡径治具2Bは、図4に示すように、長手方向一端が縮径された略円錐状とされている。大径側の外径寸法は、既設配管Poの内径寸法よりも大きい。これにより、小径側を移動方向前方、大径側を移動方向後方として、既設配管切断工程を経た既設配管Po(図6(b)参照)の内部に配管拡径治具2Bを通過させることにより、図6(d)に示すように、分断部Dを広げるように拡径できる。配管拡径治具2Bは、径方向中央に長手方向に貫通するワイヤ装着部23を備える。このワイヤ装着部23の両端に、ワイヤ11の先端に設けられた治具接続部12が接続される。本実施形態では、配管切断治具2Aと同様に、両者は螺合により接続される。
【0031】
配管挿入治具3は、図7(a)に示すように、新配管Pnの端部に固定されて用いられる。新配管Pnへの固定は、新配管Pnに挿入する部分を、軸方向に段差が形成されたいわゆる「タケノコ」形状とすることで行ってもよいし、新配管Pnの側面を貫通して配管挿入治具3に至るねじを用いて固定してもよく、具体的手段は特に限定されない。配管挿入治具3は、新配管Pnの端部に固定された際に新配管Pnから露出する部分にワイヤ装着部31を備える。このワイヤ装着部31に、ワイヤ11の先端に設けられた治具接続部12が接続される。本実施形態では、配管切断治具2A及び配管拡径治具2Bと同様に、両者は螺合により接続される。
【0032】
次に配管更新工法について説明する。本実施形態の配管更新工法は、溝付工程、既設配管切断工程、拡径工程、新配管挿入工程を含む。なお、以下において1組のウインチ1を図5図7に示す配置に応じ、右ウインチ1R、左ウインチ1Lと称して説明する。なお、以下における「左右」は説明の便宜上用いており、方向が以下説明のものに限定されることはない。
【0033】
溝付工程では、既設配管Poの内周面に管軸方向に沿う溝Sを形成する。溝付工程に先立ち、図5(a)に示すように、右ウインチ1R(図示していない)からワイヤ11が既設配管Poに通される。この際、ワイヤ11は作業者の手により、図示右方から左方に押し込まれ、既設配管Poの図示左端から出される。
【0034】
図5(b)は溝付工程の1段階目を示す。図5(a)に示す状態で、右ウインチ1Rのワイヤ11の先端と左ウインチ1Lのワイヤ11の先端とを、治具接続部12を介して配管切断治具2Aで接続する。この際、配管切断治具2Aには第1刃物4Aが1枚取り付けられる。このように、加工手段としての刃物4は、配管切断治具2Aに対して着脱可能であり、配管切断治具に取り付けられた状態では、刃41が配管切断治具2Aに対して径外方向(そのうち一方)に突出する。この状態で右ウインチ1Rを操作し、第1刃物4Aの刃41を既設配管Poの内面に接するようにして配管切断治具2Aを既設配管Poの図示左端から図示右端まで移動させる。ここで 、図3(a)に示すように、配管切断治具2Aの長手方向における両端部は縮径しているため、配管切断治具2Aは既設配管Po内に挿入しやすい。また、上述した通り、配管切断治具2Aの長手方向中央側の大径部における外形寸法は既設配管Poの内径より小さいため、配管切断治具2Aは既設配管Poから抵抗を受けにくく、既設配管Poの図示左端から図示右端まで容易に移動させることができる。この結果、図5(c)に示すように、1本の溝Sが既設配管Poの内周部に形成される。
【0035】
図5(d)は溝付工程の2段階目を示す。配管切断治具2Aには第2刃物4Bが1枚取り付けられる。第2刃物4Bの向きは1段階目における第1刃物4Aと逆にされる。つまり、加工手段としての刃物4は、配管切断治具2Aに対して加工方向を配管切断治具2Aの軸方向一端側向きと軸方向他端側向きとに付け替え可能に構成されている。第2刃物4Bの方が第1刃物4Aよりも径方向への刃41の突出量が大きい。この状態で左ウインチ1Lを操作し、第2刃物4Bの刃41を1段階目で形成した溝Sに沿わせつつ、配管切断治具2Aを既設配管Poの図示右端から図示左端まで移動させる。この結果、図5(e)に示すように溝Sが深くなる。溝付工程はこれで終了となる。以上の溝付工程により既設配管Poに溝Sを形成した状態で、下記の既設配管切断工程で既設配管Poを切断することで、既設配管切断工程において切断に失敗することがなく、管軸方向の確実な切断が可能である。また、下記の既設配管切断工程において、溝Sに沿って切断することで、切断における抵抗を小さくすることができる。
【0036】
既設配管切断工程では、溝付工程で溝Sが形成された周方向の1箇所で、既設配管Poを径方向及び管軸方向に切断する。本実施形態では、この切断が管軸方向に連続して行われる。なお、前記「径方向」は、既設配管Poの軸中心を通る直径方向に限定されるものではなく、既設配管Poの径内側から径外側に向かう方向であればよい。このため、前記直径方向に対して斜めの方向であってもよい。
【0037】
図6(a)は既設配管切断工程を示す。配管切断治具2Aには第3刃物4Cが1枚取り付けられる。第3刃物4Cの方が第2刃物4Bよりも径方向への刃41の突出量が大きい。この状態で右ウインチ1Rを操作し、第3刃物4Cの刃41を溝付工程の2段階目を経て深くなった溝Sに沿わせつつ、配管切断治具2Aを既設配管Poの図示左端から図示右端まで移動させる。この結果、図6(b)に示すように分断部Dが形成されて、既設配管Poが径方向断面「C」字形状とされる。
【0038】
図6(c)は拡径工程を示す。配管切断治具2Aを外した上で、右ウインチ1Rのワイヤ11の先端と左ウインチ1Lのワイヤ11の先端とを、治具接続部12を介して配管拡径治具2Bで接続する。配管拡径治具2Bは小径部を図示左方に、大径部を図示右方に位置させる。この状態で左ウインチ1Lを操作し、配管拡径治具2Bを既設配管Poの図示右端から図示左端まで移動させる。この結果、図6(d)に示すように、分断部Dが広がるように変形される。なお、この変形は、保護材Gの内部空間の範囲内でなされる。
【0039】
新配管挿入工程では、新配管Pnを既設配管Poの内周面に沿わせつつ保護材G及び拡径工程により拡径された既設配管Poの内部に通す。まず、保護材Gの図示左方に新配管Pnを用意する。新配管Pnの右端部に配管挿入治具3を固定し、配管挿入治具3にワイヤ11の先端を、治具接続部12を介して接続する。なお、この段階では左ウインチ1Lとそのワイヤ11は使用しない。そして、図7(a)に示すように、右ウインチ1Rを操作して新配管Pnを引っ張ることにより、保護材G及び既設配管Poの内部に新配管Pnを通す。引っ張りにより保護材G及び既設配管Poの内部に新配管Pnを通すことで、押し込みにより新配管Pnを通すことに比べ、保護材G及び既設配管Poの折り曲げられた箇所であっても、引っ掛かる可能性を抑えつつ新配管Pnを通すことができる。新配管Pnから配管挿入治具3を取り外した状態を図7(b)(c)に示す。配管の更新はこれで終了であって、その後、両端部を給湯器や水栓に接続して工事を完了する。
【0040】
本実施形態では、新配管Pnの外径は、既設配管Poの内径と同じ又は若干大きくなっている。よって、新配管挿入工程では、新配管Pnが径方向断面「C」字形状とされた既設配管Poを径外方向に押し広げながら、既設配管Po内に挿入されることになる。ここで、保護材Gは上記の通り、柔軟な材料(例えば、発泡樹脂等)で形成されているため、前記押し広げの際には、保護材Gの内径が既設配管Poによって径外方向へ押し広げられる。即ち、保護材Gが柔軟な材料で形成され、外径が既設配管Poの内径と同じ又は若干大きい新配管Pnを既設配管Poに挿入すると、切断した既設配管Poを保護材Gで保持しつつ、新配管Pnの挿入による押し広げに対しては、柔軟な保護材Gの内径が変形して押し広げを吸収するので、新配管Pnを保護材Gと既設配管Poとでしっかりガイドしつつ、スムーズに挿入することができる。また、保護材Gが柔軟であると、新配管Pnが基礎Bに対してバンドで固定される部分(バンドの締付けによって圧縮されて縮径している部分)を通過する際にも、保護材Gの内径が変形することで、挿入抵抗を緩和することができる。
【0041】
このように、本実施形態の工法では、既設配管Po及び保護材Gが建築物Cの外部に露出した端部で作業可能である。このため、既設配管Poを新配管Pnに取り換える作業を、既設配管Poの設置対象物(本実施形態では建築物Cの基礎Bや床材F)から既設配管Po及び保護材Gを取り外さない状態で行うことができる。また、各ウインチ1の操作、及び、新配管Pnの既設配管Po及び保護材Gへの挿入が建築物Cの外部(詳しくは、建築物Cにおける床材Fと基礎Bとの間の閉鎖空間に対する外部)にて行える。このため、建築物Cの解体の必要がないので、工事の低コスト化に貢献できる。
【0042】
また、本実施形態の工法では、索状体としてのワイヤ11を巻き上げることのできるウインチ1を2台用い、前記2台のうち1台である一方側ウインチとしての右ウインチ1Rを既設配管Po及び保護材Gの一方側端部(右端部)に配置し、前記2台のうち他の1台である他方側ウインチとしての左ウインチ1Lを既設配管Po及び保護材Gの他方側端部(左端部)に配置し、右ウインチ1Rの有するワイヤ11の端部と左ウインチ1Lの有するワイヤ11の端部との間に配管加工治具2を、既設配管Poの内部を通過可能に接続し、右ウインチ1Rと左ウインチ1Lとを交互に操作することで、既設配管Poに対して配管加工治具2を往復移動させ、この往復移動に伴って、前記既設配管切断工程と前記拡径工程とが行われる。このため、新配管Pnを挿入するための準備を効率良くできる。
【0043】
以上、本実施形態の配管更新工法によると、既設配管Po及び保護材Gを建築物Cに固定したままとしておき、拡径した既設配管Poを、新配管Pnを敷設する際のガイドとして利用できる。しかも、既設配管Poの引き抜き作業を行わなくてよいので、配管の更新を、配管の敷設形状に影響されにくく容易にできる。
【0044】
また、配管の更新の際に建築物Cの解体を極力不要とし、また、配管新設時の施工に格段の配慮が不要である。この「格段の配慮」とは、配管に折損が生じるような急な曲がりを形成しないという最低限の配慮を超えた配慮を意味する。このように本実施形態の配管更新工法を採用することで、配管新設時における配管経路をラフに設定してもよく、しかも、配管新設時に、現場にて保護材Gに配管が抜き差しできるか否かのテストを行うことも不要であるから、配管新設時の工数が従来よりも増加することがない。
【0045】
また、配管切断治具2A及び加工手段としての刃物4を有する本体部と、この本体部をワイヤ11に接続する治具接続部12を備えた配管加工用具において、配管切断治具2A及び刃物4が、軸方向一端側から既設配管Poに進入して加工する場合と、軸方向他端側から既設配管Poに進入して加工する場合とで、異なる加工をできる。具体的には、溝付工程の各段階目や既設配管切断工程のように刃41の向きを変更することや、各刃物4A~4Cの種類を配管切断治具2Aに対して付け替えることにより変更することで、既設配管Poの入口から出口へ配管切断治具2Aの一端側が先頭で進入する往動の場合と、既設配管Poの出口から入口に配管切断治具2Aの他端側が先頭で進入する復動の場合とで異なる加工をすることができるので、既設配管Poに対して効率よく加工ができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について一例を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0047】
例えば、保護材Gは断熱及び保温の機能を有したものであっても、断熱及び保温の機能を有しておらず単に配管(既設配管Poまたは新配管Pn)を覆うに過ぎないものであってもよい。また、保護材Gは配管の管軸方向の全部を覆っている必要はなく、管軸方向の一部が覆われていてもよい。また保護材Gは、径方向断面「C」字形状のように、周方向で切れ目を有していてもよい。
【0048】
また、前記実施形態ではウインチ1を使用したが、ウインチ(巻上機)に該当しない装置であっても、ワイヤや鎖等の索状材料を長手方向に引っ張ることのできる種々の装置を用いることができる。
【0049】
また、本実施形態では、一方側ウインチ(右ウインチ1R)の有するワイヤ11の端部と、他方側ウインチ(左ウインチ1L)の有するワイヤ11の端部との間に、配管切断治具2Aを接続して溝付工程と既設配管切断工程とを行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、右ウインチ1Rの有するワイヤ11と左ウインチ1Lの有するワイヤ11に配管切断治具2Aを接続してもよい。これにより、ワイヤ11の先端に取り付けられた治具接続部12を利用する必要がなくなり、準備を効率よくできる。また、一本のワイヤの一方端側に一方側ウインチを設け、他方端側に他方側ウインチを設け、ワイヤの途中部分に配管切断治具2Aを接続する、即ち、一本のワイヤの両端に各々ウインチを設け、該ワイヤを配管切断治具2Aに挿通させるようにしてもよい。いずれの場合も、一方側ウインチを有するワイヤと他方側ウインチの有するワイヤとに配管切断治具2Aが、既設配管Poの内部に通過可能に接続される。よって、2台のウインチを用いて配管切断治具2Aを往復移動させ、溝付工程と既設配管切断工程と、が行われる。
【0050】
また、配管切断治具2Aは、前記実施形態では略円柱状であったが、既設配管Po内での管軸方向の移動に支障がなく、既設配管Poを切断する刃物を支持することが可能であれば、他の形状であってよい。また、配管切断治具2Aに装着される刃物は、固定刃、回転刃のいずれであってもよい。また、刃41の形状も特に限定されない。前記実施形態では、管軸方向の片方向で切断できる刃41であったが、管軸方向の両方向で切断できる刃41であってもよい。これにより、上述した刃物4の向きの変更を行うことなく、溝付工程又は既設配管切断工程を行うことができるため、本実施形態の配管更新工法を効率よく行うことができる。
【0051】
また、溝付工程内の段階に関する、段階の数及び処理内容は前記実施形態で示したもの(1段階目~2段階目)に限らず、種々に変更できる。更に、溝付工程は省略することもできる。つまり、既設配管切断工程において、既設配管Poの内周面に事前の加工を行うことなく切断を行うこともできる。この場合、事前の加工を行うことなく既設配管切断工程を行うことにより、一連の工程を短縮化できる利点がある。
【0052】
また、前記実施形態では、拡径工程を新配管挿入工程に先立って行った。しかしこれに限定されず、例えば、図7(a)に示す配管挿入治具3の移動方向前方に配管拡径治具2Bを配置することで、拡径工程を新配管挿入工程と同時に行うこともできる。
【符号の説明】
【0053】
1 ウインチ
11 索状体、ワイヤ
12 治具接続部
2 配管加工治具
2A 配管切断治具
2B 配管拡径治具
3 配管挿入治具
4 刃物
C 建築物
Po 既設配管
Pn 新配

G 保護材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7