(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】指輪の製造方法
(51)【国際特許分類】
A44C 9/00 20060101AFI20240202BHJP
B21D 53/44 20060101ALI20240202BHJP
B21H 1/06 20060101ALN20240202BHJP
B23B 1/00 20060101ALN20240202BHJP
B23B 5/00 20060101ALN20240202BHJP
【FI】
A44C9/00
B21D53/44
B21H1/06 Z
B23B1/00 Z
B23B5/00 Z
(21)【出願番号】P 2021094325
(22)【出願日】2021-06-04
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】394024064
【氏名又は名称】株式会社桑山
(74)【代理人】
【識別番号】100136331
【氏名又は名称】小林 陽一
(72)【発明者】
【氏名】千代 栄治
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特公昭50-034993(JP,B2)
【文献】特開2004-305508(JP,A)
【文献】特開2002-239803(JP,A)
【文献】特開2018-004042(JP,A)
【文献】特公平06-049244(JP,B2)
【文献】特開2014-104278(JP,A)
【文献】特開2019-070443(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0302540(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0343993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 9/00
B21D53/44
B21H 1/06
B23P15/00
B23B 1/00
B23B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属の板からワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、リング素材を略筒状のリングに成形する絞り工程と、そのリングを内周側と外周側からローラーで挟んで拡げる圧延工程と、圧延したリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部を
、頂角の二等分線がリングの軸方向と垂直方向となる向きで内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面に溝又はR面を形成する仕上げ加工工程を有することを特徴とする指輪の製造方法。
【請求項2】
異なる種類の貴金属の板からそれぞれワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、異なる種類の貴金属よりなるワッシャー状のリング素材を複数枚重ねてホットプレスにより接合することにより略筒状のリングにする工程と、そのリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部を
、頂角の二等分線がリングの軸方向と垂直方向となる向きで内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面に溝又はR面を形成する仕上げ加工工程を有することを特徴とする指輪の製造方法。
【請求項3】
貴金属の板からワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、リング素材を略筒状のリングに成形する絞り工程と、そのリングを内周側と外周側からローラーで挟んで拡げる圧延工程と、圧延したリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部をリングの軸方向と垂直方向で内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面
にR面を形成する仕上げ加工工程を有
し、内周面にR面を形成する仕上げ加工工程は、内周面を左半分の領域と右半分の領域に分け、各領域を刃先をリングに対して近づく方向又は遠ざかる方向の何れか一方向に動かしながら切削することを特徴とす
る指輪の製造方法。
【請求項4】
異なる種類の貴金属の板からそれぞれワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、異なる種類の貴金属よりなるワッシャー状のリング素材を複数枚重ねてホットプレスにより接合することにより略筒状のリングにする工程と、そのリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部をリングの軸方向と垂直方向で内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面
にR面を形成する仕上げ加工工程を有
し、内周面にR面を形成する仕上げ加工工程は、内周面を左半分の領域と右半分の領域に分け、各領域を刃先をリングに対して近づく方向又は遠ざかる方向の何れか一方向に動かしながら切削することを特徴とす
る指輪の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造による指輪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指輪の製造方法には、ロストワックス(鋳造)による製造方法と、素材をハンマリングし圧延する工程を経た上で外周面を切削する鍛造による製造方法とがある。ロストワックスによる指輪は、デザインを自由に施すことが可能で、複雑な形状の指輪を製作できる反面、強度が弱く、表面に傷が付きやすい欠点がある。反対に鍛造による指輪は、強度が高く、表面に傷が付きにくいが、自由にデザインを施すことが困難で、シンプルな形状のものしか製作できない欠点がある。
【0003】
鍛造による指輪は、特許文献1に開示されているように、鍛造により略筒状に成形されたリングを、内周側と外周側から回転するローラーで挟んで径を拡げる圧延工程により、内径が所望の寸法になるようにしている。その際、内周面に当たるローラーに凹面を形成しておくことで、指輪の内周面に膨出面を成形している。しかしこの方法では、膨出面は緩やかなRにしか加工できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、鍛造による指輪の内周面に自由にデザインを施すことが可能な指輪の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明による指輪の製造方法は、貴金属の板からワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、リング素材を略筒状のリングに成形する絞り工程と、そのリングを内周側と外周側からローラーで挟んで拡げる圧延工程と、圧延したリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部を、頂角の二等分線がリングの軸方向と垂直方向となる向きで内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面に溝又はR面を形成する仕上げ加工工程を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明による指輪の製造方法は、異なる種類の貴金属の板からそれぞれワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、異なる種類の貴金属よりなるワッシャー状のリング素材を複数枚重ねてホットプレスにより接合することにより略筒状のリングにする工程と、そのリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部を、頂角の二等分線がリングの軸方向と垂直方向となる向きで内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面に溝又はR面を形成する仕上げ加工工程を有することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明による指輪の製造方法は、貴金属の板からワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、リング素材を略筒状のリングに成形する絞り工程と、そのリングを内周側と外周側からローラーで挟んで拡げる圧延工程と、圧延したリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部をリングの軸方向と垂直方向で内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面にR面を形成する仕上げ加工工程を有し、内周面にR面を形成する仕上げ加工工程は、内周面を左半分の領域と右半分の領域に分け、各領域を刃先をリングに対して近づく方向又は遠ざかる方向の何れか一方向に動かしながら切削することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明による指輪の製造方法は、異なる種類の貴金属の板からそれぞれワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、異なる種類の貴金属よりなるワッシャー状のリング素材を複数枚重ねてホットプレスにより接合することにより略筒状のリングにする工程と、そのリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部をリングの軸方向と垂直方向で内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面にR面を形成する仕上げ加工工程を有し、内周面にR面を形成する仕上げ加工工程は、内周面を左半分の領域と右半分の領域に分け、各領域を刃先をリングに対して近づく方向又は遠ざかる方向の何れか一方向に動かしながら切削することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明による指輪の製造方法は、貴金属の板からワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、リング素材を略筒状のリングに成形する絞り工程と、そのリングを内周側と外周側からローラーで挟んで拡げる圧延工程と、圧延したリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部を、頂角の二等分線がリングの軸方向と垂直方向となる向きで内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面に溝又はR面を形成する仕上げ加工工程を有することで、鍛造による指輪の内周面に自由にデザインを施すことが可能であり、これにより指輪のデザイン性を高めたり、指への装着感を向上させたり、軽量化したりできる。
【0011】
請求項2記載の発明による指輪の製造方法は、異なる種類の貴金属の板からそれぞれワッシャー状のリング素材を打抜く工程と、異なる種類の貴金属よりなるワッシャー状のリング素材を複数枚重ねてホットプレスにより接合することにより略筒状のリングにする工程と、そのリングの端面と外周面と内周面を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角90°以下の切削チップの頂角部を、頂角の二等分線がリングの軸方向と垂直方向となる向きで内周面に当てて周方向に沿って削ることで、内周面に溝又はR面を形成する仕上げ加工工程を有することで、鍛造による指輪の内周面に自由にデザインを施すことが可能であり、これにより指輪のデザイン性を高めたり、指への装着感を向上させたり、軽量化したりできる。さらに本製造方法による指輪は、異なる種類の貴金属を組み合わせることで、より一層デザイン性の高いものとすることができる。
【0012】
請求項3及び4記載の発明による指輪の製造方法は、内周面にR面を形成する仕上げ加工工程は、内周面を左半分の領域と右半分の領域に分け、各領域を刃先をリングに対して近づく方向又は遠ざかる方向の何れか一方向に動かしながら切削することで、R面の中央部にバックラッシュに起因するスジが形成されるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による指輪の製造工程を模式的に示す図である。
【
図2】本発明による指輪の第1実施形態を示す縦断面図であって、(a)は内周面切削前の状態、(b)は内周面を荒加工した後の状態、(c)は内周面を仕上げ加工した後の状態を示す。
【
図3】内周面を荒加工する際のバイトを示す図である。
【
図4】内周面を荒加工する際のバイトの動きを示す図である。
【
図5】内周面を仕上げ加工する際のバイトを示す図である。
【
図6】内周面を仕上げ加工する際の手順を示す図である。
【
図7】本発明による指輪の第2実施形態を示す縦断面図であって、(a)は内周面切削前の状態、(b)は内周面を荒加工した後の状態、(c)は内周面を仕上げ加工した後の状態を示す。
【
図8】第2実施形態の指輪の内周面の仕上げ加工工程におけるバイトの動きを示す図である。
【
図9】本発明による指輪の製造方法の他の実施形態を示す図である。
【
図10】本発明による指輪の第3実施形態を示す縦断面図であって、(a)は内周面切削前の状態、(b)は内周面を荒加工した後の状態、(c)は内周面を仕上げ加工した後の状態を示す。
【
図11】標準的なバイトで指輪の内周面の仕上げ加工をしようとしたときの状態を示す参考図である。
【
図12】頂角が80°の切削チップを使用してリングの内周面に溝を加工したときの例を示す図である。
【
図13】頂角が80°の切削チップを使用してリングの内周面にR面を加工したときの例を示す図である。
【
図14】頂角が90°の切削チップを使用してリングの内周面に溝を加工した場合と、頂角が35°の切削チップを使用してリングの内周面に溝を加工した場合を対比して示す図である。
【
図15】頂角が10°の切削チップを使用してリングの内周面に溝を加工した場合と、頂角が35°の切削チップを使用してリングの内周面に溝を加工した場合を対比して示す図である。
【
図16】本発明の製造方法により製造した指輪の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明による指輪の製造方法の各工程を模式的に示している。
本発明の指輪の製造方法を
図1に即して説明する。まず、金やプラチナ等の貴金属の鋳塊を熱した状態でハンマリングし、その後、
図1(a)に示すように、一対の回転するローラー10,10間に通し、既定の厚みまで圧延する。
その後、圧延した板材から、
図1(b)に示すような、ワッシャー状のリング素材11をプレス機で打抜く。
次に、
図1(c)に示すように、そのワッシャー状のリング素材11をプレス機で絞り加工してすり鉢状に成形した後、それをもう一度絞り加工して略円筒状のリング12に成形する。
次に、
図1(d)に示すように、そのリング12に内周側と外周側から回転するローラー13,14押し付けて延ばし、リング12を細くすると同時に径を拡げる。
次に、
図1(e)に示すように、そのリング12を内周面で治具15を介して旋盤のチャック16に把持し、リング12の端面17と外周面18をバイト19で切削する。
次に、
図1(f)に示すように、リング12を外周面18で治具20を介して旋盤のチャック16に把持し、リング12の内周面21をバイト22,23で切削する。
【0015】
本発明の指輪の製造方法は、
図1(f)の工程、すなわちリング12の内周面21を旋盤(CNC自動旋盤)にて切削加工する点に特徴がある。内周面21の切削は、標準のバイト22を使用して所定の内径寸法に削る荒加工工程と、特殊なバイト23を使用して内周面21に溝24又はR面25を形成する仕上げ加工工程とを有している。
【0016】
図2は、本発明の指輪の製造方法により製作される指輪の第1実施形態を示している。本指輪は、
図2(c)に示すように、内径が14mmで幅が5mmとなっており、内周面21に溝24が周方向に連続して形成されている。
内周面21の切削前の状態では、
図2(a)に示すように、内径が13.5mmとなっている。荒加工工程では、
図2(b)に示すように、内径13.9mmまで切削する。その後、仕上げ加工工程で内周面21を溝24を有する凹凸形状に切削する。
【0017】
図3は、荒加工工程で使用するバイト22を示している。このバイト22は、市販のシャンク26に市販の切削チップ27を取付けたもので、切削チップ27は頂角αが55°のひし形のものである。このバイト22は、シャンク26を傾けた状態で旋盤の刃物台に取付けてある。
荒加工は、
図4(a)に示すように、バイト22を左方向に動かして切削チップ27をリング12内に差し入れ、次に
図4(b)に示すように、バイト22を手前側に動かして切削チップ27の刃先をリング12の内周面21に接触させる。次に、
図4(c)に示すように、バイト22を右方向に移動させながらリング12の内周面21を切削する。内径が所定の寸法になるまで、
図4(a)~(c)を繰り返して行う。
【0018】
図5は、仕上げ加工工程で使用するバイト23を示している。このバイト23は、指輪の内周面21の切削用に新たに設計したものであり、シャンク28と、シャンク28の先端部に取付けた切削チップ29とを有している。切削チップ29は、頂角βが35°と細く、左右対称に刃30,30が形成されている。切削チップ29の末端部31はまっすぐに切り落とした形になっており、これにより小さいリング12の内側に切削チップ29を干渉することなく挿入できるようにしてある。本バイト23は、シャンク28がリング12の軸と平行な向きで旋盤の刃物台に取付けられており、切削チップ29はリング12の軸方向と垂直方向となっている。
【0019】
図6は、内周面21の仕上げ加工の手順を示している。まず、
図6(a)に示すように、切削チップ29の刃先32を目視でリング12の内周側の角に合わせ、この時の刃先32の位置をNCに登録する。
次に、
図6(b)に示すように、仕上げたい形状33に沿う形で内周面21を切削チップ29の頂角部で浅く削る。その後、削った面の形状の左右のバランスを目視で確認し、左右どちらかに偏っている場合には、先にNCに登録した刃先32の位置を補正する。図中の拡大図(上)では左に偏っているため、刃先32の位置を少し右に補正し、図中の拡大図(下)に示すように、左右のバランスが同じになるようにする。
その上で、あらかじめ登録したプログラムに沿ってバイト23を動かして、
図6(c)に示すように、仕上げたい形状通りに内周面21を切削チップ29の頂角部で切削する。
本バイト23は、切削チップ29の刃30,30が左右対称で傾斜しているため、リング12に対して刃先32の位置を正確に合わせるのが容易でないが、上述のように刃先32の位置を補正することで、内周面をデザインしたとおりに正確に加工できる。
【0020】
本実施形態の指輪は、内周面12に溝24を形成したことで、指との接触面積が小さくなるので、指にはめたり外したりがしやすく、はめ心地も良い。また、削り落とした分だけ指輪を軽量化できる。
【0021】
図7は、本発明の指輪の製造方法により製作される指輪の第2実施形態を示している。本指輪は、
図2(c)に示すように、内径が14mmで幅が2.5mmとなっており、内周面21に幅方向の中央部が内周側に膨らんだR面25が形成してある。R面25は、R1.1及びR0.4の非常に小さいRとなっている。
内周面21の切削前の状態では、
図7(a)に示すように、内径が13.5mmとなっている。荒加工工程では、
図7(b)に示すように、内径13.9mmまで切削する。その後、仕上げ加工工程で内周面21をR面25を有する形状に切削する。仕上げ加工は、先に説明したのと同じ特殊なバイト23を使用して行うことができる。
【0022】
図8は、R面25を切削する際のバイト23の動きを示している。R面25の切削は、リング12の内周面21を左半分の領域と右半分の領域に分け、各領域を刃先32をリング12に対して近づく方向又は遠ざかる方向の何れか一方向に動かしながら、切削チップ29の頂角部で内周面21を切削する。具体的には、
図8(a)に示すように、内周面21の左半分の領域は刃先32を右方向に動かしつつリング12から遠ざかる方向に動かしながら切削し、
図8(b)に示すように、内周面21の右半分の領域は刃先32を左方向に動かしつつリング12から遠ざかる方向に動かしながら切削する。なお、各領域を刃先32をリング12に対して近づく方向に動かしながら切削することもできる。
【0023】
リング12の内周面にR面25を加工する際、左端から右端まで連続して切削した場合には、刃先32の前後方向の移動の向きが途中で変わるため、内周面の中央部にバックラッシュに起因するスジができる。上述のように、右半分の領域と左半分の領域に分け、刃先32を前後方向の同じ方向に動かしながら切削することで、内周面21の中央部にバックラッシュに起因するスジが形成されるのを防ぐことができる。
【0024】
本実施形態の指輪は、内周面21にR面25を形成したことで、指との接触面積が小さくなるので、指にはめたり外したりがしやすく、はめ心地も良い。また、削り落とした分だけ指輪を軽量化できる。
【0025】
図11は、参考までに標準のバイト(頂角90°の市販の切削チップ27を取付けたもの)22を使用してリング12の内周面21を切削しようとした場合を示している。このように標準のバイト22を使用する場合、バイト22の取付角度に関わらず刃30が干渉するために小さなRのR面を形成することができない。溝の加工も同様に、標準のバイト22では不可能である。
本発明は、
図5,6,8に示すように、頂角βが35°の切削チップ29の頂角部をリング12の軸方向と垂直方向で内周面21に当てて周方向に沿って削ることで、細かい溝24やR面25の加工が行えるようになり、リング12の内周面21に自由にデザインを施すことが可能となる。
【0026】
図16は、本発明の製造方法により製造した指輪の実施例を示している。このように本発明の製造方法によれば、指輪の内周面21に細かい溝24やR面25を有する複雑なデザインを施すことが可能である。
【0027】
図12は、頂角βが80°の切削チップ29を使用してリング12の内周面21に溝24を加工したときの例を示し、
図13は、頂角βが80°の切削チップ29を使用してリングの内周面21にR面25を加工したときの例を示している。これらの図に示すように、頂角βが80°の切削チップ29を使用した場合でも、頂角βが35°の切削チップ29を使用した場合と同様に、リング12の内周面21に溝24やR面25を形成することができる。
【0028】
切削チップ29の頂角βは、
図14に示すように、90°とすることもできる。ただしその場合は、頂角βが35°の場合と比べてリング12の内周面21のデザインの自由度が低くなる。
また、切削チップ29の頂角βは、
図15に示すように、10°とすることもできる。この場合は、頂角βが35°の場合と比べてリング12の内周面21のデザインの自由度がより高まるが、刃先欠損などが発生するおそれがある。
頂角βが35°±5°程度及び80°程度であると、リング12の内周面21のデザインの自由度が十分に高くなり、尚且つ十分な強度と耐久性を有しているので、切削チップ29を長持ちさせることができ、加工性と経済性を両立することができる。
【0029】
図9は、本発明による指輪の製造方法の他の実施形態を示しており、
図10はこの方法により製造した指輪の例(第3実施形態)を示している。この指輪は、
図10(c)に示すように、プラチナ34の両側を金35,35で挟んだ積層構造を成し、内周面21には溝24が形成してある。溝24の幅は、プラチナ34の部分の幅とほぼ同じになっている。
【0030】
本実施形態の指輪は、
図9(a)に示すように、異なる種類の貴金属の板(貴金属の鋳塊を熱した状態でハンマリングし、その後、所定の厚みまで圧延したもの)からワッシャー状のリング素材11a,11bをそれぞれ打抜く。次に、
図9(b)に示すように、異なる種類の貴金属よりなるワッシャー状のリング素材11a,11bを複数枚重ね(11aは金、11bはプラチナ)、これに高温・高圧を加えることで(ホットプレス)、拡散接合により各リング素材11a,11bの表面同士が強固に接合され、略筒状のリング素材12ができる。
次に、
図9(c)に示すように、そのリング12を内周面で治具15を介して旋盤のチャック16に把持し、リング12の端面17と外周面18をバイト19で切削する。
次に、
図9(d)に示すように、リング12を外周面18で治具20を介して旋盤のチャック16に把持し、リング12の内周面21をバイト22,23で切削する。内周面21の切削は、先に説明した第1実施形態と同様に行うことができる。
【0031】
上述した指輪の製造方法は、先に説明した
図1の製造方法とは、絞り工程(
図1(c)の工程)と、リング12を内周側と外周側からローラー13,14で挟んで拡げる圧延工程(
図1(d)の工程)を行わず、切削のみで内径を所定の大きさに仕上げている点が異なっている。これは、異種金属をホットプレスで接合したものの場合、絞り工程や圧延工程を行うと異種金属同士の接合部が離れるおそれがあるためである。本発明の製造方法のように、内周面21を切削加工することで、絞り工程と圧延工程を経ることなく種々の内径の指輪を製造することが可能であり、しかも特殊なバイト23を用いることで、内周面に自由にデザインを施すことができる。
【0032】
以上に述べたように、本発明による指輪(第1・第2実施形態)の製造方法は、貴金属の板からワッシャー状のリング素材11を打抜く工程と、リング素材11を略筒状のリング12に成形する絞り工程と、そのリング12を内周側と外周側からローラー13,14で挟んで拡げる圧延工程と、圧延したリング12の端面17と外周面18と内周面21を切削する切削工程とを備え、内周面21の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角βが90°以下の切削チップ29の頂角部をリング12の軸方向と垂直方向で内周面21に当てて周方向に沿って削ることで、内周面21に溝24又はR面25を形成する仕上げ加工工程を有することで、鍛造による指輪の内周面に自由にデザインを施すことが可能であり、これにより指輪のデザイン性を高めたり、指への装着感を向上させたり、軽量化したりできる。
【0033】
また、本発明の指輪(第3実施形態)の製造方法は、異なる種類の貴金属の板からそれぞれワッシャー状のリング素材11a,11bを打抜く工程と、異なる種類の貴金属よりなるワッシャー状のリング素材11a,11bを複数枚重ねてホットプレスにより接合することにより略筒状のリング12にする工程と、そのリング12の端面17と外周面18と内周面21を切削する切削工程とを備え、内周面の切削は、所定の内径寸法に削る荒加工工程と、頂角βが90°以下の切削チップ29の頂角部をリング12の軸方向と垂直方向で内周面21に当てて周方向に沿って削ることで、内周面21に溝24又はR面25を形成する仕上げ加工工程を有することで、鍛造による指輪の内周面に自由にデザインを施すことが可能であり、これにより指輪のデザイン性を高めたり、指への装着感を向上させたり、軽量化したりできる。さらに本製造方法による指輪は、異なる種類の貴金属を組み合わせることで、より一層デザイン性の高いものとすることができる。
【0034】
さらに、本発明の指輪の製造方法は、内周面21に溝24を形成する仕上げ加工工程は、刃先32をリング12の内周側の角に目視で合わせて刃先32の位置を登録し、リング12の内周面21を仕上げたい形状に沿って浅く削り、削った面の形状が左右どちらかに偏っている場合は、その偏り分だけ刃先32の位置を補正することで、内周面21をデザインしたとおりに正確に加工できる。
【0035】
また、本発明の指輪の製造方法は、内周面21にR面25を形成する仕上げ加工工程は、内周面21を左半分の領域と右半分の領域に分け、各領域を刃先32をリング12に対して近づく方向又は遠ざかる方向の何れか一方向に動かしながら切削することで、内周面21の中央部にバックラッシュに起因するスジが形成されるのを防ぐことができる。
【0036】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。指輪の内周面に形成する溝又はR面の形状は、適宜変更することができる。指輪の内周面には、溝とR面を組み合わせて形成することもできる。指輪の材質は問わない。内周面の切削は、CNC自動旋盤に限らず、普通旋盤、マシニングセンター等で行うこともできる。
【符号の説明】
【0037】
11,11a,11b リング素材
12 リング
21 内周面
24 溝
25 R面
29 切削チップ