(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】水電池及びこれを用いた水検出システム
(51)【国際特許分類】
H01M 6/32 20060101AFI20240202BHJP
H01M 50/627 20210101ALI20240202BHJP
H01M 50/691 20210101ALI20240202BHJP
H01M 50/474 20210101ALI20240202BHJP
G01C 13/00 20060101ALI20240202BHJP
G01F 23/00 20220101ALI20240202BHJP
【FI】
H01M6/32 A
H01M50/627
H01M50/691
H01M50/474
G01C13/00 E
G01F23/00 D
(21)【出願番号】P 2022051133
(22)【出願日】2022-03-28
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】300076736
【氏名又は名称】ニタコンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藝 浩資
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆
(72)【発明者】
【氏名】中西 健太
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-038410(JP,A)
【文献】特開2021-092940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/32
H01M 50/627
H01M 50/691
H01M 50/474
G01C 13/00
G01F 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金属で構成された正極板と、
前記正極板と対向姿勢に離間され、第二金属で構成された負極板と、
前記正極板と負極板を収納するケースと、
を備え、
前記ケースの内部で前記正極板と負極板との間を水検知空間として、該水検知空間に水が溜まると起電力を生じるよう構成してなる水電池であって、
前記正極板と負極板の間隔の平均が、水の表面張力を切ることのできる間隔以上に離間されて
おり、
前記水検知空間の間隔が、3mm以上である水電池。
【請求項2】
請求項1に記載の水電池であって、
前記正極板の第一金属が銅、前記負極板の第二金属がマグネシウムである水電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水電池であって、
前記水検知空間の間隔が、
4mm以上である水電池。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水電池であって、
前記正極板又は負極板の少なくとも一方が、平板状に形成されてなる水電池。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水電池であって、
前記正極板又は負極板の少なくとも一方が、網状に形成されてなる水電池。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水電池であって、
前記ケースが、その一部において、前記正極板と負極板の隙間を視認できる浸水穴を開口してなる水電池。
【請求項7】
請求項6に記載の水電池であって、さらに、
前記ケースを、前記浸水穴を底面側とし、前記正極板及び負極板をそれぞれ鉛直姿勢でかつ互いに平行状に保持する保持具を備える水電池。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の水電池であって、さらに、
前記水検知空間を前記正極板と負極板との間に形成するスペーサを備えてなる水電池。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水電池であって、
前記水検知空間が、空洞状である水電池。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の水電池と、
乾電池と、
前記水電池が冠水して起電力を生じたことをトリガとして、前記乾電池から電力供給を受けて動作する駆動機器と、
を備える水検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電池、特に水を検出するセンサとして利用可能な水電池、及びこれを用いて水を検出して動作する水検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水を注入することによって発電する水電池が知られている(例えば特許文献1)。従来の水電池は、起電力を高めると共に、できるだけ長時間、起電力を持続させる観点から開発されていた。このため従来の水電池では、水が完全に乾くまで起電力が持続するのが通常であった。
【0003】
しかしながら、用途によっては逆に、水が引いた場合に速やかに起電力を停止することが求められるケースがあることを、本願発明者らは見出した。例えば、一般幹線や家屋等の冠水を検出する水検出センサの電源として、水電池を利用することが提案されている(例えば特許文献2)。このような用途においては、水電池の起電力に応じて冠水の有無を判定する構成上、水が引いた際には、速やかに水電池の起電力を低下させて冠水が解消されたことを検出する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5638273号公報
【文献】特開2018-124163号公報
【0005】
しかしながら従来の水電池では、上述の通り水が完全に乾燥するまで起電力が持続するように設計されているため、水が引いた後も暫くは起電力が継続する結果、迅速に反応することができなかった。換言すると、水電池を用いた水検出センサでは、冠水の発生は比較的応答性よく検出する一方で、冠水が収まった場合の応答性が悪く、このため冠水が解消したことを迅速に検出できないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような観点から成されたものであり、その目的の一は、水がなくなった場合に速やかに起電力を低下させるようにした水電池及びこれを用いた水検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第1の側面に係る水電池によれば、第一金属で構成された正極板と、前記正極板と対向姿勢に離間され、第二金属で構成された負極板と、前記正極板と負極板を収納するケースと、を備え、前記ケースの内部で前記正極板と負極板との間を水検知空間として、該水検知空間に水が溜まると起電力を生じるよう構成してなる水電池であって、前記正極板と負極板の間隔の平均が、水の表面張力を切ることのできる間隔以上に離間されており、前記水検知空間の間隔が、3mm以上である。
【0008】
また、本発明の第2の側面に係る水電池によれば、上記側面において、前記正極板の第一金属が銅、前記負極板の第二金属がマグネシウムである。
【0009】
さらに、本発明の第3の側面に係る水電池によれば、上記いずれかの側面において、前記水検知空間の間隔が、4mm以上である。
【0010】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る水電池によれば、上記いずれかの側面において、前記正極板又は負極板の少なくとも一方が、平板状に形成されている。
【0011】
さらにまた、本発明の第の5側面に係る水電池によれば、上記いずれかの側面において、前記正極板又は負極板の少なくとも一方が、網状に形成されている。
【0012】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る水電池によれば、上記いずれかの側面において、前記ケースが、その一部において、前記正極板と負極板の隙間を視認できる浸水穴を開口している。上記構成により、浸水穴をケースの内面に連通させて、浸水穴からケース内に浸入させた水を正極板と負極板の隙間に供給し、正極板と負極板の間で起電力を生じさせることができる。
【0013】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る水電池によれば、上記いずれかの側面において、さらに、前記ケースを、前記浸水穴を底面側とし、前記正極板及び負極板をそれぞれ鉛直姿勢でかつ互いに平行状に保持する保持具を備える。
【0014】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る水電池によれば、上記いずれかの側面において、さらに、前記水検知空間を前記正極板と負極板との間に形成するスペーサを備えている。
【0015】
さらにまた、本発明の第9の側面に係る水電池によれば、上記いずれかの側面において、前記水検知空間が、空洞状である。
【0016】
さらにまた、本発明の第10の側面に係る水検出システムによれば、上記いずれかの側面に係る水電池と、乾電池と、前記水電池が冠水して起電力を生じたことをトリガとして、前記乾電池から電力供給を受けて動作する駆動機器とを備える。上記構成により、水電池を水検知センサとして利用し、乾電池で駆動させることで、水電池そのもので駆動する構成と比べて安定的な動作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1に係る水電池の外観斜視図である。
【
図2】
図1の水電池を斜め下方から見た斜視図である。
【
図3】
図2の水電池のケースを開いた状態を示す斜視図である。
【
図5】
図1の水電池のV-V線における断面図である。
【
図6】
図5の水電池をVI-VI線から見た図である。
【
図7】
図5の水電池をVII-VII線から見た図である。
【
図8】
図1の水電池を冠水センサに用いた例を示す斜視図である。
【
図9】
図8の構成において水電池が冠水した状態を示す要部拡大図付き断面図である。
【
図10】実施形態2に係る水電池を斜め上方から見た斜視図である。
【
図11】
図10の水電池を斜め下方から見た分解斜視図である。
【
図13】水電池を用いた水検出システムを示すブロック図である。
【
図14】冠水センサの冠水状態を監視する冠水モニタ画面を示すイメージ図である。
【
図15】
図14の冠水モニタ画面においていずれかの冠水センサで冠水が発生した状態を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[実施形態1]
【0019】
本発明の実施形態1に係る水電池を
図1~
図7に基づいて説明する。これらの図において、
図1は実施形態1に係る水電池100の外観斜視図、
図2は
図1の水電池100を斜め下方から見た斜視図、
図3は
図2の水電池100のケース10を開いた状態を示す斜視図、
図4は
図3の水電池100のケース10の展開図、
図5は
図1の水電池100のV-V線における断面図、
図6は
図5の水電池100をVI-VI線から見た図、
図7は
図5の水電池100をVII-VII線から見た図を、それぞれ示している。これらの図に示す水電池100は、電極板である正極板20と負極板30と、ケース10と、ケーブル40とを備えている。この水電池100は、ケース10の内部で正極板20と負極板30とを含浸させることで起電力を生じるよう構成している。
(ケース10)
【0020】
ケース10は、その内部を空洞とし、正極板20と負極板30を収納できる任意の形状とできる。
図1~
図2の例では、薄型の箱形としており、設置を容易に行える。またケース10は、耐水性を有する素材で構成することが好ましく、例えばプラスチックなどの樹脂製、耐水コートした紙製、防錆処理を施した金属製等とできる。特に樹脂製のケース10は、軽量で耐久性に優れ、安価に製造でき、好ましい。また樹脂製のケース10は可撓性を有することから、後述する展開式とすることも容易となる。
【0021】
またケース10を展開式としてもよい。このようにすることで、ケース10内に正極板20と負極板30をセットし易くできる。
図3の例では、上面11と下面12を展開できるように構成している。また上面11の内面には負極板30を、下面12の内面には正極板20を、それぞれ固定している。これにより、上面11と下面12を閉塞して、それぞれの内面で負極板30と正極板20を対向姿勢に配置できる。
【0022】
ケース10の展開図の一例を
図4に示す。このような構成とすることでケース10を一枚のシートで形成でき、部品点数も削減できる。またケース10を展開状態から組み立てて、中空状のケース10を容易に得ることができる。なおケース10の展開図は
図4に限らず、組み立てて中空状とできる既知の展開図を任意に採用できる。
【0023】
またケース10には、その一部に浸水穴14を開口している。浸水穴14からは、正極板20と負極板30の隙間を視認できる。このように構成することで、浸水穴14をケース10の内面に連通させて、浸水穴14からケース10内に浸入させた水を正極板20と負極板30の隙間に供給し、正極板20と負極板30の間で起電力を生じさせることができる。浸水穴14は、
図2に示すようにケース10の底面13に開口させることが好ましい。水電池100をこのような配置とすることで、冠水検出時にはケース10の底面13から水を浸入させて速やかに起電力を生じさせる一方、水が引いた際(排水時)には、ケース10の底面13から水を排出して、速やかに正極板20と負極板30の間(水検知空間SP)から水を排除し易くできる。
(正極板20)
【0024】
正極板20は、第一金属で構成される。第一金属は、比較的に導電性が強くイオン化傾向の小さい、電気化学的に比較的安定な金属とする。例えば、銅、ニッケル、銀等の金属またはこれらの金属を主体とする合金で作成される。
(負極板30)
【0025】
また負極板30は、第二金属で構成される。第二金属は、イオン化傾向および/または酸化傾向が比較的に大きな電極活物質、例えば、アルミニウム、金属マグネシウム、亜鉛など、またはそれらを少なくとも2種以上含む合金で作成される。
【0026】
正極板20と負極板30の大きさを等しくする。また水電池100の設置時には、その先端の高さが揃うように配置される。このように水電池を設計し、また設置することで、冠水時に起電力が発生するタイミングや起電力の大きさが、水電池同士で固体差を生じる事態を抑制できる。
【0027】
図3、
図5~
図7の例では、正極板20の第一金属として銅、負極板30の第二金属をマグネシウムとしている。これら正極板20や負極板30は、平板状とする他、メッシュ状としてもよい。メッシュ状とすることで、水に含浸しやすくなり、また通気性がよく水切りし易いため、水が引いた際には乾燥しやすく、起電力を速やかに停止させて反応性を高められる。さらにメッシュ状の電極板は、端縁にリード線を絡めて接続し易い利点が得られる。この例では、
図6に示すように正極板20の銅をメッシュ状としている。一方負極板30は、
図7に示すように中実な平板としている。負極板30は、正極板20とほぼ同じ大きさとする。この例では、幅10mm、長さ35mm、厚さ0.2mmのマグネシウム板としている。
【0028】
各電極板は、ケース10の内面に固定される。固定には接着剤や粘着テープ等が利用できる。
図3、
図5~
図7の例では、電極板の両端を接着剤50でもってケース10の内面に固定している。
(ケーブル40)
【0029】
また電極板を構成する正極板20と負極板30は、それぞれケーブル40が接続される。ケーブル40はケース10から引き出されて、外部機器と接続される。このため各ケーブル40の一端は正極板20、負極板30とそれぞれ接続され、他端は外部機器と接続する接続端子となる。またケーブル40の接続端は、水没を想定して防水する。例えば外部機器と接続する接続端子を防水コネクタとする。またケーブル40と電極板との接続には、例えば電極板の端縁にリード線を巻き付ける凹部を形成し、ケーブル40のリード線を巻き付けた後に半田付けしてシュリンクチューブやシリコーン樹脂などで被覆する。
(水検知空間SP)
【0030】
ケース10の内部で、正極板20と負極板30は対向姿勢で離間されている。正極板20と負極板30との間の空間は水検知空間SPとなる。この水検知空間SPに水が溜まると起電力を生じる。水検知空間SPの大きさ、すなわち正極板20と負極板30の間隔の平均D1は、水の表面張力を切ることのできる間隔以上とする。このようにすることで、水が引いたときに水検知空間SPに水が表面張力で残留する事態を回避できる。
【0031】
水検知空間SPは、3mm以上とすることが好ましい。発明者らの行った試験によれば、水検知空間を広くするほど、冠水を脱した際の排水効果は高い反面、起電力が弱くなる。かといって水検知空間を狭くするほど、起電力は高くなる反面、表面張力で電極間の隙間に水が残りやすくなり、冠水を脱した状態の検出タイミングが遅れる。このように従来は、水検知空間の設定は、応答性と動作の安定性の面で相反する特性を有していた。
【0032】
そこで本実施形態においては、後述する通り別途乾電池60を用意し、冠水を検出した際に動作させる駆動機器70の駆動電力は乾電池60から供給させることで、駆動機器70の動作を暗転させている。これにより、起電力が弱くとも支障なく動作できる環境を確保し、水電池100は冠水の検出を行える最低限の起電力で足りるようにしている。いいかえると、冠水状態から非冠水状態への切り替わりを応答性よく検出できるよう、水検知空間SPを広く取りつつも、安定動作を確保できる構成を採用している。
【0033】
また本実施形態に係る水電池100は、水検知空間SPを空洞状としたことで、従来の水電池のように電極板を絶縁部材で巻く構成と比べて、水が引いた際に水検知空間SPに水滴や水分が残存する対象を排除して、水切りのよい環境を実現できる。また絶縁部材に代えて、水検知空間SPの空隙を絶縁層として利用している。
【0034】
なお水検知空間SPは、電極板の大きさや構成によっても変化する。本願発明者らの行った試験によれば、電極板にメッシュを利用すると、水が網目部分に残り易くなって、応答性が悪くなる傾向が見られた。このため電極板の一方にメッシュを用いる場合は、4mm以上とすることが好ましい。
(スペーサ)
【0035】
また正極板20と負極板30との間に所望の水検知空間SPを形成できるよう、スペーサを設けてもよい。スペーサは、水検知空間SPの大きさに応じて形成され、例えば正極板20と負極板30との間に直接スペーサを介在させる場合は、スペーサの高さを水検知空間SPとなるように設計する。またスペーサを、電極板をケース10の内面に固定する接着剤50と共用してもよい。例えば
図5の断面図の例では、各電極板の両端をそれぞれ固定する接着剤50を突出させておき、ケース10を閉塞した際に、各電極板を固定した接着剤50が互いに当接して、水検知空間SPを形成するよう構成している。このようにして、スペーサを電極板の固定と共通化することで、構成の簡略化や製造工程の簡素化、コストの削減に寄与できる。
(保持具15)
【0036】
さらに水電池100は、ケース10を所望の位置及び姿勢に固定する保持具15を設けることが好ましい。ケース10は、上述の通り一部に浸水穴14を開口している。保持具15はこのケース10を、浸水穴14を底面13側とする姿勢に、正極板20と負極板30をそれぞれ鉛直姿勢でかつ互いに平行状とする姿勢に保持する。例えば
図8の斜視図に示すように、水電池100を電柱やパイプ等の柱状物に固定する場合、保持具15は帯状に構成される。保持具15を用いてこのような姿勢でケース10を固定することで、冠水検出時には
図9に示すようにケース10の底面13から水をケース10内に取り込み、要部拡大断面図に示すように正極板20と負極板30の間の水検知空間SPに水を案内して起電力を生じさせる。また、水が引いた際には、重力の作用でケース10の底面13から水をケース10外に排出して、正極板20と負極板30の間から水をなくし、起電力をカットできる。これにより、水の有無に応じた応答性に優れた水電池が得られ、水検知センサとして好適に利用できる。
[実施形態2]
【0037】
以上の水電池100は、ケース10をシート状に形成し、展開された状態から組み立てて薄型の角型とした例を説明した。ただ本発明はこの構成に限られず、他の形態のケースを利用することもできる。例えば、ケースを中空の円筒状や角柱状としてもよい。予め円柱や角柱のパイプ状に形成することで、強度を向上できる。一例として、パイプ状のケースを用いた水電池を実施形態2として、
図10~
図12に示す。これらの図において、
図10は実施形態2に係る水電池200を斜め上方から見た斜視図、
図11は
図10の水電池200を斜め下方から見た分解斜視図、
図12は
図10の水電池200の断面図を、それぞれ示している。これらの図に示す実施形態2に係る水電池200において、上述した実施形態1と同様の部材については、同じ符号を付して詳細説明を適宜省略する。
【0038】
水電池200は、正極板20Bと負極板30Bと、ケース10Bと、ケーブル40とを備えている。ケース10Bは、
図10に示すように円筒形のパイプ状としている。パイプ状のケーズ10Bは、上端にケーブル40を設ける一方で、
図11に示すように下端を開口して浸水穴14Bとしている。またケース10Bは、キャップ部16とカバー部17に二分割している。キャップ部16とカバー部17は、
図12に示すように外径と内径を等しくしつつ、キャップ部16の下端には、カバー部17の内径と等しい外径の小径部18を設けている。これにより、小径部18をカバー部17に嵌入して、キャップ部16とカバー部17を着脱自在に接合できる。これらキャップ部16やカバー部17は、耐水性のある材質、例えば樹脂で構成する。好ましくは水道管などに用いられる塩化ビニルが利用できる。またカバー部17をパイプ状としたことで、十分な強度を発揮でき、外部からの衝撃に対する耐性も高められる。
【0039】
キャップ部16の小径部18からは、正極板20Bと負極板30Bを突出させている。正極板20Bと負極板30Bとは、互いに平行姿勢で離間されており、その間に水検知空間SPを形成している。また正極板20Bと負極板30Bの間隔の平均D1を規定している。これら正極板20Bと負極板30Bは、後端をそれぞれパテや接着剤等によりキャップ部16の内部に固定される。この構成であれば、実施形態1と異なり、ケース10Bの展開時に正極板20Bと負極板30Bが離間されないので、正極板20Bと負極板30Bとの間隔D1を一定に維持し易くできる。また正極板20Bと負極板30Bの上端は、それぞれケーブル40と接続される。ケーブル40はキャップ部16の上端から引き出される。キャップ部16の上端のケーブル40の引き出し孔は、コーキング材などにより防水加工される。なおキャップ部16の上端の形状を、平坦でなくドーム状とすることで、雨水等がキャップ部16上面に溜まりにくくなり、内部への浸水の抑制効果を高められる。例えば正極板20Bや負極板30Bをケーブル40に接続する端子部分などを冠水させないことで、水電池の寿命を長くすることができる。
【0040】
カバー部17は、上下を開口した円筒状のパイプ状に形成される。またカバー部17の側面の一部に空気穴19を形成している。空気穴19は、カバー部17とキャップ部16を係合した際に、小径部18よりも下方に位置するよう、形成される。これにより、冠水時にカバー部17下端の浸水穴14Bから水がカバー部17内に侵入し易くできる。また空気穴19よりも上に水がキャップ部16内部に浸入しないように止める効果も得られる。
【0041】
この水電池200は、キャップ部16と本体部を簡単に分離でき、キャップ部16に設けた正極板20Bや負極板30Bが正しく動作するかの確認作業を容易に行える。またパイプ状に一体に形成することで強度も向上され、特に屋外に設置される水電池の耐性を高めることができる。さらに水道管のパイプに利用される塩ビ製パイプを利用して安価に製造できる利点も得られる。さらに水道管のパイプを流用することで、その治具であるサドルバンド等も流用でき、加えて一般的に販売されているホースクランプや結束バンド等を用いることで、水電池を設置する際の固定も安価に容易に行える。さらにまたパイプ状とすることで、浸水穴14Bをパイプの下面に大きく開口できるので、冠水時の水の侵入がよりスムーズとなり、また冠水が収まった際には浸水穴14Bから速やかに水を外部に排出できる。さらに浸水穴14Bを大きく開口させて、風通しをよくし、電極を乾燥させ易くできる効果も期待できる。
[水検出システム1000]
【0042】
このような水電池100を用いた水検出システム1000を
図13のブロック図に示す。この図に示す水検出システム1000は、乾電池60と、水電池100と、駆動機器70を備える。乾電池60は、リチウムイオン電池等のボタン電池や、単三、単四などの一次電池、あるいは充電可能な二次電池などが利用できる。
【0043】
駆動機器70は、水電池100が冠水して起電力を生じたことをトリガとして、乾電池60から電力供給を受けて動作する動作対象機器である。駆動機器70は、冠水を避けられる高所に設置することが好ましい。
図8、
図9の例では、駆動機器70として、冠水を検出してライトが点灯する非常ランプを示している。この非常ランプは、例えば冠水を告知して避難を勧告するために利用できる。また、道路に設置した電光掲示板を作動させるスイッチとして機能させることもできる。例えば道路が冠水中であることを知らせる「この道は通れません」と表示させる電光掲示板のスイッチとして、水電池を利用してもよい。また駆動機器70として、ランプに限らず、ブザーやスピーカ等を備えてもよい。
【0044】
あるいは駆動機器として、排水機場に設置された排水ポンプを用いてもよい。これにより水電池で冠水を検出して自動的に排水ポンプを動作させることができる。また、駆動機器として非常用電源や発電機、あるいは浸水防止用の扉を用いてもよい。例えば工場のような設備は、浸水すると機器が冠水して被害が出るため、冠水を検出して浸水防止用の扉を動作させるスイッチをONさせる、あるいはそのための駆動電力を確保するよう、停電時であれば自家発電機などの設備のスイッチをONさせるといった動作も可能となる。あるいは逆に、冠水時の漏電防止のために、送電を停止するブレーカのスイッチとして水電池を用いてもよい。
【0045】
さらに駆動機器に通信機能を持たせてもよい。例えば、冠水を検出したい箇所に水電池と通信機を設置し、防災センターに冠水情報を送信するようにして、各所での冠水の有無を集中的に管理することができる。例えば、冠水を監視したい部位にそれぞれ水検出システムを設置し、一般公衆回線を介して通信機器でサーバ側とネットワーク接続する。各水検出システムからはサーバ側に対し、冠水情報を一定の間隔で送信する。この様子は、サーバーやクライアントの端末で、
図14、
図15に示すようにGUI上で確認できる。これらの図は、水検出システムを構成するサーバーやクライアントの端末で表示される水検出画面80の例を示している。ここでは地図上の水検出システムを設置した位置に重ねて、各水検出システムの状態が表示されており、
図14ではすべての位置で水検出システムが正常、すなわち冠水が生じていないことを◎で示している。一方、
図15では一箇所の水検出システムが冠水を検出し、×で表示させている。このようにして、冠水の発生や解消をリアルタイムで確認することが可能となる。
【0046】
さらに広域の冠水のみならず、局所的な漏水の検出にも適用できる。例えば水道管や浄化槽などで、水漏れのおそれがある箇所に水電池を設置し、水漏れを検出すると警告を発する駆動機器に接続する。駆動機器は有線や無線で、漏水の発生を告知することが可能である。これにより、地下の下水や壁の中の水道管といった、人手での監視が困難な部位の漏水の監視に水電池や水検出システムを利用できる。さらには、一人暮らしの老人の見守り用に、トイレや水回りに水電池を設置することで、遠隔地に住む家族に対し、水が使用されていることを通じて、元気に生活していることを知らせるようにしてもよい。なお、設置する用途や部位に応じて、駆動機器を高所に設置する必要は必ずしもない。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る水電池及びこれを用いた水検出システムによれば、特に冠水状態から復帰した際の反応性に優れた水検出が実現される。水電池が水によって起電力を発生するという性質を利用し、水電池の水没によって発生した起電力でもって水検知信号を発信することで、冠水の発生や水位を検出する水検知センサは開発されている。このような水検知センサは、水没時には応答性よく動作する。その一方で、水電池は水に反応して起電力を生じるという性質上、水が残っていると起電力が持続する。一旦水電池が冠水すると、内部が完全に乾くのに時間がかかってしまう。このため水電池を水検知センサに使用すると、水が引いて、本来ならば水検知信号の発信を停止しなければならないにもかかわらず、電池内部に留まる水と電極が反応して電流供給が継続し続け、あるいは断続的に水を感知した等の情報を誤発信してしまうことがあった。このため、冠水の検出、特に水位が引いたタイミングの検出には不適であった。
【0048】
これに対し本実施形態に係る水電池は、電極の構成を工夫することで、水が引いた際に起電力の発生を速やかに停止できるようにし、特に冠水状態が解除された際に応答性よく検出可能とすることで、水検出のリアルタイム性を改善し、より正確な水検出を実現できる。この結果、例えば水感知センサに使用される水電池が浸水した後、水位が下降した際に迅速には起電力の発生を速やかに止めることで冠水の解消を検出可能とできる。また、駆動機器を駆動させるための乾電池60を別途準備することで、水感知センサが浸水時に発信回路を起動させるのに必要な容量の電力を安定的に得ることができ、従来問題となっていた、水電池の起電力が安定せず信頼性が低下する問題も解消できる。特に従来のリレーやマイクロスイッチのような機械的な接点を用いた水センサと比較して、起電力の有無を水検出に利用した本実施形態に係る水電池は、動作部分がないことで接触不良や動作不良といった機械的なトラブルをなくし、化学反応によって確実に反応させることで、長期に渡って信頼性の高い水検出を実現できる利点が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の水電池及びこれを用いた水検出システムを利用して、河川や水路、下水道等の氾濫等により冠水した道路、市街地、田畑等の状況や水位を、現地で又はインターネット等を通して、リアルタイムで把握できる。これにより、ユーザが冠水した領域に誤って侵入し、立ち往生したり、側溝等に落ちたりする事故を防止するとともに、避難行動を起こすきっかけとなる重要な情報の提供が可能となり、早期の避難開始や安全な避難経路の選択ができるなど、冠水によるさらなる被害の拡大の回避に役立てることができる。また、面的に複数個所に設置することにより、浸水範囲はもとより、非浸水範囲もリアルタイムで把握することができ、安全な避難経路の選択をさらに容易とすることができる。その結果、避難行動に伴う困難の解消に大きく貢献できる。
【符号の説明】
【0050】
1000…水検出システム
100、200…水電池
10、10B…ケース
11…上面
12…下面
13…底面
14、14B…浸水穴
15…保持具
16…キャップ部
17…カバー部
18…小径部
19…空気穴
20、20B…正極板
30、30B…負極板
40…ケーブル
50…接着剤
60…乾電池
70…駆動機器
80…水検出画面
SP…水検知空間