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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】幹細胞の機能強化用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240202BHJP
   A61K 35/28 20150101ALN20240202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20240202BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
A61P43/00 105
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022542055
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 KR2020016695
(87)【国際公開番号】W WO2021141237
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0001466
(32)【優先日】2020-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521385817
【氏名又は名称】エスシーエム ライフサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ソン、スンウク
(72)【発明者】
【氏名】キム、シナ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ビョル
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501183(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105154395(CN,A)
【文献】特開2014-097063(JP,A)
【文献】特表2014-503176(JP,A)
【文献】STEM CELL RESEARCH & THERAPY, 8:140,1-12
【文献】関西医科大学雑誌,2015年,66,19-24
【文献】IMMUNOL.TODAY,1999年,20(10),469-473
【文献】TRENDS IN GLYCOSCIENCE AND GLYCOTECHNOLOGY,2005年, 17(96),133-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA/BIOTECHNO/CABA/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-1β及びビタミンB6を含む、in vitroにおける中間葉幹細胞の免疫抑制及び症能を増進するための組成物。
【請求項2】
IFN-αをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記IL-1β及びビタミンB6は、1:1~1:6,000(w/v)の比率で含まれるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記IL-1β、IFN-α及びビタミンB6は、1:0.01~5:1~6,000(w/v)の比率で含まれるものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記中間葉幹細胞は、脂肪、骨髄、胎盤または臍帯血由来中間葉幹細胞である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記IL-1β、ビタミンB6;またはIL-1β、IFN-α及びビタミンB6;は、IFN-γ抑制増進、ICOSL(誘導性共刺激リガンド)発現増加、IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)発現増加及びガレクチン1発現増加からなる群から選択された1種以上の前記中間葉幹細胞の免疫抑制及び症能増進を誘導するものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
1)IL-1β及びビタミンB6をヒトから単離された中間葉幹細胞に処理して培養するステップ;を含む、in vitroにおける中間葉幹細胞の免疫抑制及び症能増進方法。
【請求項8】
前記1)ステップでIFN-αを共に処理するものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記中間葉幹細胞の免疫抑制及び症能増進は、IFN-γ抑制増進、ICOSL(誘導性共刺激リガンド)発現増加、IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)発現増加及びガレクチン1発現増加からなる群から選択された1種以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
1)IL-1β及びビタミンB6をヒトから単離された中間葉幹細胞に処理して培養するステップ;を含む、in vitroにおける免疫抑制及び症能が増進された中間葉幹細胞の製造方法。
【請求項11】
前記1)ステップでIFN-αを共に処理するものである、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL-1β(インターロイキン-1β)及びビタミンB6(ビタミンB6);またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-α(インターフェロン-α)を含む幹細胞の免疫調節及び炎症調節能増進用組成物及びそれを利用した免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、未分化細胞であって、自己再生を通して長らく分裂でき、特定環境下では多様な種類の細胞に分化できる細胞をいう。幹細胞は、起源となる組織によって胚芽幹細胞(Embryonic stem cell)と成体幹細胞(Adult stem cell)に分けられるが、胚芽幹細胞を利用した治療実験が倫理的な面と腫瘍形成の可能性で難しい点があるのに対し、成体幹細胞は、多様な組織から容易に得ることができるという長所があり、多様な疾患治療に適用しようとする研究が盛んに進行している。
【0003】
今まで多くの化合物免疫抑制剤または抗炎症剤が開発されており、臨床的に最もよく使用される免疫抑制剤としては、シクロスポリン(cyclosporine、Neoral、Cipol A)、アザチオプリン(imuran)、プレドニゾロン(一種のステロイド)がある。前記免疫抑制剤は、抗原刺激から抗体生成に至る過程中、大食細胞による抗原の貪食、リンパ球等による抗原認識、細胞分裂、T細胞とB細胞の分裂、抗体生成等のいくつかの過程を阻害させることで免疫抑制を引き起こす。このような薬物は、ほとんど抗腫瘍活性を同時に有しているが、その理由は、DNA障害、DNA合成阻止等を媒介として細胞分裂を阻止するためである。しかし、それによる代表的な副作用として高血圧と腎毒性(腎機能が低下する)があり、この副作用の発生率が高いため、使用するとき、十分に経過を観察しなければならない等の問題点がある。その他の副作用として、稀に震え、発作、肝炎、胆液貯留、血中尿酸増加、筋肉気力低下、多毛症(hypertrichosis)、歯肉肥大(gingival hypertrophy)等がある。よく使用される抑制剤のうちアザチオプリンは、白血球数値の減少、貧血、血小板減少等、骨髄機能を抑制することもあり、膵臓炎、肝炎、胆汁貯留と共に稀に脱毛、発熱等を示す合併症があり得る。ステロイド製剤の一つであるプレドニゾロンは、免疫抑制剤のうち最も早く使用され始めたが、動脈硬化症を促進させるだけではなく、高血圧、胃潰瘍、糖尿、成長阻害、骨粗鬆症、白内障、緑内障等を起こすので注意すべき薬物である。従って、安全な免疫抑制剤または抗炎症剤の必要性が浮上している。
【0004】
このような問題点を解決するために、近年、幹細胞を利用した治療法が炎症及び免疫疾患治療のために試みられている。特に、中間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)は、炎症を抑制させるか調節T細胞(regulatory T cell、Treg)の生成を誘導するかまたは細胞死に関与する免疫細胞の死滅を誘導するものと知られており、それを利用した多様な治療剤の開発が盛んになされている。
【0005】
しかし、幹細胞を利用した多様な臨床試験で効果の持続性や、長期追跡結果、生体内生存割合が極めて低いという問題点が報告されており、幹細胞治療剤を改善するための多様な試みがなされている。例えば、治療効果を高めるために幹細胞に特定遺伝子を挿入するか、幹細胞機能をブースティングできる多様な化学物、ペプチド等を前処理する方法、培養時、低酸素、温度、光のような刺激条件を加える方法が試みられるか、幹細胞の生存率を高めるために支持体と共に投与する方法が研究されている。幹細胞機能強化のための多様な研究のうち遺伝子操作を利用した機能改善方法は効果的であり得るが、導入される遺伝子の安全性等の問題点が指摘される。
【0006】
従って、幹細胞そのものに遺伝子を導入して機能を強化するよりは、培養中、多様なプライミング要素処理を通して幹細胞の内在的機能を強化するための多様な研究が試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、幹細胞の炎症調節及び免疫調節能を強化するための多様なプライミング方法に関して研究していた中で、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αを処理すると幹細胞の機能を効果的に強化させることができることを確認して本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明の目的は、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αを含む幹細胞の免疫調節及び炎症調節能増進用組成物及びそれを利用した免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞の製造方法、このような方法で製造された免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、IL-1β及びビタミンB6を含む幹細胞の免疫調節及び炎症調節能増進用組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、1)IL-1β及びビタミンB6を幹細胞に処理して培養するステップ;を含む、幹細胞の免疫調節及び炎症調節能増進方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、1)IL-1β及びビタミンB6を幹細胞に処理して培養するステップ;を含む、免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記製造方法で製造された免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞を含む免疫疾患予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞を個体に処理するステップ;を含む免疫疾患予防または治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、本発明に係るIL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αを幹細胞に処理すると、IFN-γ抑制増進、ICOSL(誘導性共刺激リガンド)発現増加、IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)発現増加及びガレクチン1(Galectin 1)発現増加を誘導できるので、幹細胞を利用した各種の免疫疾患治療分野で多様に活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】IL-1β及びビタミンB6の濃度別の複合処理によるIDO発現量増加を確認した結果を示した図である(P値=*<0.1)。
図2】IL-1β及びIFN-αの濃度別の複合処理によるIDO発現量増加を確認した結果を示した図である(P値=*<0.1)。
図3】IL-1β、ビタミンB6及びIFN-αの単一または複合処理によるIFN-γ抑制能を確認した結果を示した図である(P値=***<0.001、****、####、$$$$、&&&&<0.0001)。
図4】IL-1β、ビタミンB6及びIFN-αの単一または複合処理によるICOSL発現量増加を確認した結果を示した図である(P値=*<0.1、**、##<0.01、&&&<0.001)。
図5】IL-1β、ビタミンB6及びIFN-αの単一または複合処理によるガレクチン1発現量増加を確認した結果を示した図である(P値=*<0.1、##<<0.01、****、####、$$$$<0.0001)。
図6】IL-1β、ビタミンB6及びIFN-αの単一または複合処理によるIDO発現量増加を確認した結果を示した図である(P値=$<0.1、**<0.01、***、###、&&&<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の様態によれば、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αを含む幹細胞の免疫調節及び炎症調節能増進用組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αの幹細胞の免疫調節及び炎症調節能増進用途を提供する。
【0019】
本発明のIL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αは、幹細胞の免疫調節及び炎症調節能を強化して機能強化幹細胞を誘導できる。
【0020】
IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αの組み合わせは、これらの単一成分を幹細胞に処理することと比較してシナジー効果を示し、低い処理濃度でも目的とする幹細胞の機能強化を効果的に誘導できる。
【0021】
具体的に、幹細胞の機能強化を誘導するために、IL-1β及びビタミンB6の組み合わせを幹細胞に処理した後に培養でき、IL-1β及びビタミンB6は、1:1~1:6,000(w/v)の比率で組成物に含まれ得、好ましくは1:60~1:6,000(w/v)の比率、さらに好ましくは1:1,000~6,000(w/v)の比率で含まれ得る。本発明の一具現例においては、IL-1β 20ng/ml、ビタミンB6 25~100μg/mlを複合処理し、これを通して幹細胞の免疫調節及び炎症調節機能が強化されるシナジー効果を確認した。
【0022】
また、本発明においては、幹細胞の機能強化をより顕著に誘導するために、IL-1β、ビタミンB6及びIFN-αの組み合わせを幹細胞に処理した後に培養し、IL-1β、IFN-α及びビタミンB6は、1:0.01~5:1~6,000(w/v)の比率で含まれ得、さらに好ましくは1:0.05~2:1,000~6,000(w/v)の比率で含まれ得る。本発明の一具現例においては、複合処理のための濃度としてIL-1β 20ng/ml、IFN-α 20ng/ml、ビタミンB6 50μg/mlを選定して幹細胞に処理し、免疫調節及び炎症調節機能の強化を確認した。
【0023】
特にIL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせを処理すると、個別物質を幹細胞に処理した結果と比較してIFN-γ抑制増進、ICOSL(誘導性共刺激リガンド)発現増加、IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)発現増加及びガレクチン1発現増加のような免疫調節及び炎症調節機能が非常に顕著に強化され得ることを確認して、これらの組み合わせが幹細胞の機能強化に最適な組み合わせであることを確認した。
【0024】
また、IL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせは、幹細胞効能マーカーであるTSG6またはガレクチン9の発現をさらに増進させることができる。
【0025】
本発明において、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-α処理によって機能が強化される幹細胞は、自己複製能力を有しながら二つ以上の細胞に分化する能力を有する細胞をいい、万能幹細胞(totipotent stem cell)、全分化能幹細胞(pluripotent stem cell)、多分化能幹細胞(multipotent stem cell)に分類できる。前記幹細胞は、目的によって適宜制限なく選択され得、ヒトを含む哺乳動物、好ましくはヒトから由来した公知になった全ての組織、細胞等の成体細胞から由来でき、例えば、脂肪、骨髄、胎盤(または胎盤組織細胞)、または臍帯血由来中間葉幹細胞であってよい。
【0026】
本発明によってIL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αを幹細胞に処理して培養すると幹細胞の機能が強化され得る。本発明において、幹細胞の機能強化とは、幹細胞が内在的に有している炎症調節及び免疫調節能をブースティングすることを意味し、このとき、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-αは、幹細胞をブースティングするためのプライミング製剤として活用され得る。より具体的に、前記機能強化は、炎症調節及び免疫調節能強化でIFN-γ抑制増進、ICOSL(誘導性共刺激リガンド)発現増加、IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)発現増加及びガレクチン1発現増加からなる群から選択された1種以上の幹細胞の免疫調節及び炎症調節能の増進を意味し得る。
【0027】
また、本発明は、1)IL-1β及びビタミンB6を幹細胞に処理して培養するステップ;を含む、幹細胞の免疫調節及び炎症調節能増進方法を提供する。
【0028】
また、本発明は、1)IL-1β及びビタミンB6を幹細胞に処理して培養するステップ;を含む、免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞の製造方法を提供する。
【0029】
本発明において、免疫調節及び炎症調節能をさらに増進させるためには、IL-1β及びビタミンB6にさらにIFN-αを共に処理することを特徴とし得、同時にまたは順次に処理できる。
【0030】
前記方法は、in vitro、ex vivoで遂行されることを含むことができ、培養は、当分野に広く公知になった幹細胞培養に必要な成分を含む培地または幹細胞の増殖を促進できる成分をさらに含む培地で遂行され得る。前記本発明の幹細胞は、通常の培地で生育可能であり、本発明の幹細胞を培養するために、培養対象、即ち、培養体となる細胞が必要とする栄養物質を含むものであり、特殊な目的のための物質がさらに添加されて混合されたものであってよい。前記培地は、培養器または培養液ともいい、天然培地、合成培地または選択培地を全て含む概念である。例えば、本発明においては、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)またはα-MEMを使用することができるが、これに制限されるものではない。その他、温度、培養時間等の培養条件は、通常の中間葉幹細胞の培養条件に従い得る。
【0031】
本発明の方法において、免疫調節及び炎症調節能増進用組成物と重複する内容は、明細書記載の複雑性を避けるために省略する。
【0032】
また、本発明は、前記製造方法で製造された免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞を提供する。
【0033】
前記幹細胞は、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-α処理によって機能が強化された幹細胞であり、未処理幹細胞と比較して免疫調節及び炎症調節能が増進されたことを特徴とする。
【0034】
より具体的に、本発明の幹細胞は、未処理幹細胞と比較してIFN-γ抑制増進能、ICOSL(誘導性共刺激リガンド)発現増加能、IDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)発現増加能及びガレクチン1発現増加能からなる群から選択された1種以上の幹細胞の免疫調節及び炎症調節能が増進された幹細胞であることを特徴とし得る。
【0035】
本発明の幹細胞は、免疫調節及び炎症調節能が増進されたので、炎症関連メカニズム、免疫調節メカニズムと関連した多様な免疫疾患及び炎症性疾患の治療に使用することができ、特に免疫疾患の予防または治療に有用に使用され得る。
【0036】
従って、本発明は、前記幹細胞を含む、免疫疾患予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0037】
また、本発明は、前記幹細胞を個体、好ましくはこれを必要とする個体に投与するステップ;を含む免疫疾患予防または治療方法を提供する。
【0038】
本発明において、免疫疾患とは、本発明の幹細胞で発現能が強化されたIDO、ICOSLを媒介とした疾患であってよく、免疫または炎症関連メカニズム上でIDO、ICOSLが正常に発現されないか、そのタンパク質が分泌されないことで発生する疾患であってよい。
【0039】
より具体的に、前記免疫疾患は、クローン病、紅斑病、アトピー、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、慢性疲労症候群、線維筋痛症、甲状腺機能低下症、亢進症、強皮症、ベーチェット病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、重症筋無力症、メニエール症候群(Meniere’s syndrome)、ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome)、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、白斑症、子宮内膜症、乾癬、全身性強皮症、喘息及び潰瘍性大腸炎からなる群から選択された1種以上であってよい。
【0040】
本発明の薬学的組成物の有効成分である幹細胞は、IL-1β及びビタミンB6;またはIL-1β、ビタミンB6及びIFN-α処理によって炎症及び免疫調節能が強化された幹細胞であるので、未処理幹細胞を有効成分として含む免疫疾患治療剤と比較して顕著に優れた効果を示すことができる。
【0041】
本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含むことができる。また、薬学組成物の製造には、固体または液体の製剤用添加物を使用することができる。製剤用添加物は、有機または無機のいずれであってもよい。
【0042】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、白糖、ブドウ糖、トウモロコシデンプン(corn starch)、デンプン、タルク、ソルビトール、結晶セルロース、デキストリン、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガカント(tragacanth)、ゼラチン、シェラック(shellac)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン(pectin)等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が挙げられる。着色剤としては、通常医薬品に添加することが許可されているものであれば、いずれも使用することができる。これらの錠剤、粒剤には、糖衣、ゼラチンコーティング、その他、必要に応じて適宜コーティングすることができる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤等を添加することができる。
【0043】
本発明の薬学的組成物は、当業界において通常製造されるいかなる剤形にも製造され得、製剤の形態は、特に限定されるものではないが、好ましくは、外用剤であってよい。本発明の外用剤には、シート剤、液状塗布剤、噴霧剤、ローション剤、クリーム剤、パップ剤、粉剤、浸透パッド剤、ゲル剤、パスタ剤、リニメント剤、軟膏剤、エアゾール、粉末剤、懸濁液剤、経皮吸収剤等の通常の外用剤の形態が含まれ得る。これらの剤形は、全ての製薬化学に一般的に公知になった処方書である文献[Remington’s Pharmaceutical Science]に記述されている。
【0044】
本発明の薬学的有効量は、患者の傷の種類、適用部位、処理回数、処理時間、剤形、患者の状態、補助剤の種類等によって変わり得る。使用量は、特に限定されないが、通常、本発明の薬学組成物の1日有効量を患者に適用時、0.00001~10000μgであってよい。前記1日量は、1日に1回、または適当な間隔をおいて1日に2~3回に分けて投与してもよく、数日間隔で間欠投与してもよい。
【0045】
しかし、本発明の薬学的組成物の前記使用量は、投与経路、患者の年齢、性別、体重、患者の重症度、傷の種類、適用部位、処理回数、処理時間、剤形、患者の状態、補助剤の種類等の様々な関連因子に照らして決定されるものであるので、前記有効量は、いかなる側面にも本発明の範囲を制限するものと理解されてはならない。
【0046】
また、本発明は、前記組成物を個体に投与するステップを含む、個体の免疫反応または炎症反応を抑制する方法を提供する。
【0047】
本発明において、「個体」とは、牛、犬、豚、鶏、羊、馬、ヒトを含む哺乳動物を意味するが、これに制限されるものではない。
【実施例
【0048】
以下、実施例を通して本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、専ら本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものとは解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であるだろう。
【0049】
実験例1.幹細胞機能強化実験群の選定及び幹細胞の培養
37℃及び5%COインキュベーターで、貯蔵状態(LN2 タンク保管)の中間葉幹細胞を解凍して培養し、このとき、10%FBSまたは4%hPLを含有する培地(DMEM、α-MEM)で細胞コンフルエンスが80%程度に増殖するまで培養した。培養した中間葉幹細胞を100mmディッシュに播種した後、中間葉幹細胞機能強化のための候補物質を選定した。
【0050】
候補物質としては、IL-1β、IFN-α及びビタミンB6を選定し、機能強化のための濃度を設定した。IL-1βは、MSC処理時、TSG6、IDOの発現を増加させることのできる最低有効濃度が20ng/mlであることを確認し、これを基準とした。
【0051】
選定された20ng/ml IL-1βとビタミンB6、IFN-αを濃度を異にして組み合わせ、これによる効果をIDO(インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ)発現変化で確認した。IDOは、T細胞増殖に必須なトリプトファンをキヌレン酸(kynurenine)に替えることで、T細胞のような免疫細胞の増殖を抑制する免疫調節因子と知られている。幹細胞を培養した後、TRIzol(Invitrogen)を利用して総RNAを分離した後、PrimeScript(商標)reagent Kit with gDNA Eraser(TaKaRa)を利用して総RNAでcDNAを合成してqRT-PCRを遂行した。これを通してIDOの発現変化を確認し、その結果を図1及び図2に示した。
【0052】
図1に示したように、ビタミンB6を25~100μg/mlに変化させて20ng/m IL-1βと共に処理した結果、処理された全ての実験群でIL-1β単独処理に対比してIDOの発現が増加することを確認した。特に50μg/ml~100μg/ml処理群ではIL-1β単独処理に対比して約2倍以上のIDO発現増加が現れ、優れた機能強化効果を確認した。
【0053】
図2に示したように、IFN-αを1~40ng/mlで複合処理した実験群でもIL-1β単独処理に対比して顕著なIDO発現増加を確認した。
【0054】
前記結果に基づいて、IL-1βと組み合わせて処理できる機能強化物質としてビタミンB6 50μg/ml及びIFN-α 20ng/mlを選定し、これらを組み合わせて中間葉幹細胞の機能強化効果を以下の実験で確認した。
【0055】
選定された候補物質及びこれらの濃度組み合わせを表1に示し、これらを24時間の間中間葉幹細胞に処理し、機能強化効果を確認した。
【表1】
【0056】
実施例1.実験群処理による中間葉幹細胞機能強化の確認
1.1 実験群処理によるIFN-γの分泌の確認
前記表1のような実験群処理によって中間葉幹細胞の活性が変化したかを確認するために、免疫調節活性物質であるPHA(Phytohemagglutinin)刺激条件でT-細胞を活性化させた後、中間葉幹細胞を3日間共同培養した。この後、共同培養した上清液を収得してIFN-γ kit(BD Biosciences)を通して前炎症性サイトカインであるIFN-γの分泌を確認して中間葉幹細胞の免疫調節能変化の有無を確認した。対照群としては、実験物質を処理していない中間葉幹細胞を利用した。実験群処理によるIFN-γの分泌を図3に示した。
【0057】
図3に示したように、PHA刺激によってIFN-γ分泌量が増加し、このようなIFN-γの増加は、中間葉幹細胞処理によって減少した。一方、IL-1β、IFN-α、ビタミンB6の単一処理実験群の場合、未処理対照群に対比してIFN-γ分泌量の変化が有意でないことを確認した。しかし、IL-1β+IFN-α、IL-1β+ビタミンB6、IFN-α+ビタミンB6処理群の場合、単独処理群と対比して有意的にIFN-γの分泌を抑制できることを確認した。またIL-1β、IFN-α及びビタミンB6を全て処理した実験群では、非常に顕著なIFN-γ分泌抑制効果を確認し、これは2つの実験物質を組み合わせた実験群と比較しても約2倍以上の分泌抑制能を示すことを確認した。
【0058】
1.2.実験群処理による炎症、免疫調節因子発現の比較
ICOSL(誘導性共刺激リガンド)は、調節T細胞を誘導させて活性化されたT細胞を抑制するものと知られている。実施例1.1において実験群処理による中間葉幹細胞の機能強化効果を確認したので、実験群処理が中間葉幹細胞の炎症及び免疫調節能力を誘導するかをさらに確認するための実験を遂行した。実験例1のように幹細胞を培養した後、TRIzol(Invitrogen)を利用して総RNAを分離した後、PrimeScript(商標)reagent Kit with gDNA Eraser(TaKaRa)を利用して総RNAでcDNAを合成してqRT-PCRを遂行した。これを通して炎症及び免疫調節の代表的な因子であるICOSLの発現変化を確認し、その結果を図4に示した。
【0059】
図4に示したように、ICOSLの発現は、IL-1βの単一物質処理群では増加したが、IFN-α、ビタミンB6の単一処理群では明らかな増加を示さなかった。しかし、これらを組み合わせて処理した実験群ではICOSL発現の増加が誘導され、特にIL-1βをビタミンB6と組み合わせた実験群及びIL-1β、IFN-α、ビタミンB6を全て組み合わせた実験群では、IL-1βの単一処理群に対比して非常に顕著に増加することを確認した。これは、実施例1.1において確認されたIFN-γ分泌抑制結果とも一致する結果であり、IL-1βとビタミンB6の組み合わせ、またはIL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせを中間葉幹細胞に処理する場合、中間葉幹細胞の免疫及び炎症調節機能を効果的に強化できることを示す結果である。
【0060】
1.3 実験群処理によるガレクチン1の発現変化の確認
ガレクチン1は、幹細胞高効能と密接な関連のある幹細胞効能指標(potency marker)と知られており、発現が増加するほど幹細胞の機能及び効能が強化されるものと知られている。従って、実験群処理が中間葉幹細胞の炎症及び免疫調節能力を誘導するかをさらに確認するためにガレクチン1発現確認実験を遂行した。実験例1のように幹細胞を培養した後、TRIzol(Invitrogen)を利用して総RNAを分離した後、PrimeScript(商標)reagent Kit with gDNA Eraser(TaKaRa)を利用して総RNAでcDNAを合成してqRT-PCRを遂行した。これを利用して幹細胞効能指標であるガレクチン1の発現変化を確認し、その結果を図5に示した。
【0061】
図5に示したように、ガレクチン1の発現は、IL-1βの単一物質処理群では増加したが、ビタミンB6の単一処理群では明らかな増加を示さなかった。しかし、これらを組み合わせて処理した実験群ではガレクチン1の顕著な発現増加が誘導され、特にIL-1βをビタミンB6と組み合わせた実験群及びIL-1β、IFN-α、ビタミンB6を全て組み合わせた実験群では、IL-1βの単一処理群に対比して非常に顕著に増加することを確認した。これは、実施例1.1において確認されたIFN-γ分泌抑制結果及び実施例1.2のICOSL結果と一致する結果であり、IL-1βとビタミンB6の組み合わせ、またはIL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせを中間葉幹細胞に処理する場合、中間葉幹細胞の免疫及び炎症調節機能を効果的に強化できることを示す結果である。
【0062】
1.4 実験群処理によるIDOの発現変化の確認
前記実施例1.2及び1.3を通してIL-1βとビタミンB6の組み合わせ、またはIL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせが免疫及び炎症調節のための中間葉幹細胞の機能を強化できることを確認したので、最も優れた効果を示すIL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせに対して追加実験を遂行した。IL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせを中間葉幹細胞に処理し、前記実施例1.2と同じ実験方法でIDO発現変化誘導効果を確認し、その結果を図6に示した。
【0063】
図6に示したように、IDOは、IL-1βの単独処理及びビタミンB6の単独処理によっては明らかな発現変化を示さなかった。しかし、IL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせを中間葉幹細胞に処理した実験群では、個別実験物質を処理した中間葉幹細胞と比較して最大約135倍以上のIDO発現増加効果を示した。
【0064】
前記のような実験結果を組み合わせると、IL-1βとビタミンB6の組み合わせ、またはIL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせを中間葉幹細胞に処理すると、中間葉幹細胞が有している免疫及び炎症調節能力をさらに増進させることのできることが分かる。従って、IL-1βとビタミンB6の組み合わせ、またはIL-1β、IFN-α及びビタミンB6の組み合わせは、中間葉幹細胞の炎症調節及び免疫調節機能強化のためのプライミング因子として活用され得る。
【0065】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単に好ましい実施様態であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかであるだろう。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物により定義されるといえるだろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6