(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】砂粒子の硬化成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 3/02 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
B28B3/02 C
(21)【出願番号】P 2023177343
(22)【出願日】2023-10-13
【審査請求日】2023-11-16
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】温品 達也
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064172(JP,A)
【文献】特開2003-145297(JP,A)
【文献】特開昭59-023804(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115182329(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114368943(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105773790(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてSiO
2:20~60%、TiO
2:0~30%、Al
2O
3:0~30%、Fe
2O
3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、粒子密度が2~3g/mm
3である砂粒子を型枠に充填した後、
前記砂粒子に、振動周波数が30~500Hzである振動、及び加圧応力が30~500N/mm
2である圧力のみを付加して、
ブロック状
で強度が1N/mm
2
以上である硬化成形物を得ることを特徴とする砂粒子の硬化成形物の製造方法。
【請求項2】
前記振動の前記振動周波数は100~300Hzであることを特徴とする請求項1に記載の砂粒子の硬化成形物の製造方法。
【請求項3】
前記圧力の前記加圧応力は150~250N/mm
2であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の砂粒子の硬化成形物の製造方法。
【請求項4】
前記硬化成形物は、月又は岩石惑星で採取される前記砂粒子のみからなることを特徴とする請求項1に記載の砂粒子の硬化成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球や月、あるいは火星等の岩石惑星において容易に得られる砂粒子(レゴリス)を用いてブロック状の建築資材を製造する方法及びそれにより製造された砂粒子の硬化成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙科学技術の進展により月、火星等の岩石惑星における人類の居住が現実味を帯びてきた。
それに伴い、月、火星等の岩石惑星において発電施設・居住区・観測施設などの活動拠点となる施設や、それに伴う交通インフラなどを整備する必要が生じる。
そして、月、火星等の岩石惑星における施設の建設に際し、必然的に建築資材が必要になる。
昨今、そのような建築資材として、地球におけるコンクリートのような建設材料の開発も進められている。
また、このような建設材料の開発においては、持続的にかつ省コストで月、火星等の岩石惑星における施設の建設を行えるという点が非常に重要であるものの、建築資材を地球からの輸送のみに頼るのは現実的でない。
このため、月、火星等の岩石惑星において容易に得られる材料を用い、かつ少ないエネルギー投入により効率良く建築資材を製造できる技術が必要とされている。
本発明と関連する公知技術や先行技術としては、例えば以下に示すようなものが知られている。
【0003】
非特許文献1には、レーザー加熱により建築資材として使用可能なレゴリス固化体を作製可能との報告がある。
【0004】
また、特許文献1には「粉末固化装置および粉末固化体の製造方法」という名称で、粉末固化装置および粉末固化体の製造方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明である粉末固化装置は、粉末に振動と圧力を加えるための振動加圧用金型と、この粉末が充填される粉末充填用金型と、振動加圧用金型に加圧力を伝える加圧機構と、振動加圧用金型に振動を伝える超音波振動発生装置および振動伝達機構と、振動加圧用金型と粉末充填用金型との間に通電することで粉末を加熱する通電加熱装置とを有し、粉末充填用金型に充填された粉末に対し、振動加圧用金型により振動と圧力を加え、かつ通電加熱装置により加熱することにより、粉末を固化することを特徴とする。
そして、上述のような特許文献1に開示される発明によれば、例えばパウダーベッド方式等を選択した従来の粉末積層造形法よりも高速に粉末を固化させ、造形物を作製することができる。さらに、特許文献1に開示される装置(又は方法)により作製される造形物は、内部組織の変化を抑制し、均一な組織の造形物を得ることが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】藤田雅之、他3名、「レーザー加熱による月の模擬砂を用いた建設材料の作製」、第65回宇宙科学技術連合講演会講演集、2021年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の非特許文献1に開示される技術により製造可能な建築資材の寸法は25mm×25mm程度である。
このため、非特許文献1に開示される技術により作製される建築資材を用いて人が居住可能な建物や施設を建設することは現実的でなかった。
【0008】
また、特許文献1に開示される発明では、粉体の層厚に関して「例えば、100μm~500μm」との記載がある(特許文献1中の明細書段落[0021]の記載を参照)。
よって、特許文献1に開示される装置又は方法により得られる造形物(硬化物)は、先の非特許文献1に開示される技術により作製される建築資材(硬化物)よりもさらに小さいことが明らかであり、特許文献1に開示される技術により作製される造形物(硬化物)を用いて人が居住可能な建物や施設を建設することは一層現実的ではなかった。
【0009】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、地球や月、あるいは火星等の岩石惑星にふんだんに存在する砂粒子(レゴリス)を用いて、より少ないエネルギー投入により、建築資材として使用可能な砂粒子の硬化成形物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1の発明である砂粒子の硬化成形物の製造方法は、主成分としてSiO2:20~60%、TiO2:0~30%、Al2O3:0~30%、Fe2O3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、粒子密度が2~3g/mm3である砂粒子を型枠に充填した後、この砂粒子に、振動周波数が30~500Hzである振動、及び加圧応力が30~500N/mm2である圧力のみを付加して、ブロック状の硬化成形物を得ることを特徴とする。
上記構成の第1の発明において砂粒子は、ブロック状の硬化成形物を製造する際の主原料になる。
また、第1の発明により砂粒子の硬化成形物が形成される仕組みは下記の通りであると考えられる。
型枠に充填した砂粒子に、振動周波数が30~500Hzである振動を付加することで、不揃いな砂粒子が再配列されて型枠内の砂粒子中の空隙が減少する。
そして、型枠内の砂粒子に、加圧応力が30~500N/mm2である圧力(圧縮力)を付加することで、個々の砂粒子の粒子間距離を極めて小さくすることができ、これにより重力や外力などの崩壊させる力よりも砂粒子同士の噛み合い(ロッキング)やファンデルワールス力が卓越したブロック状の硬化成形物が形成されると考えられる。
また、第1の発明によれば、ブロック状の砂粒子の硬化成形物を得るために必要な砂粒子に対する処理が振動と圧力の付加のみである。そして、これらの処理はいずれも動力源として電力さえあれば実現できるので、地球上において資源の乏しい僻地や月、あるいは火星等の岩石惑星等における過酷な環境下(例えば真空、低温、高放射線、低重力等)においても例えば、ソーラーパネル等により得られる電力を利用して実施できる。
【0011】
第2の発明は、上述の第1の発明であって、振動の振動周波数は100~300Hzであることを特徴とする。
上記構成の第2の発明では、振動の振動周波数を100~300Hzに特定することで、得られる砂粒子の硬化成形物の硬度を効率良く上昇させることができる。この結果、より強度が優れたブロック状の建築資材を提供することができる。
【0012】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明であって、圧力の加圧応力は150~250N/mm2であることを特徴とする。
上記構成の第3の発明では、圧力の加圧応力を150~250N/mm2に特定することで、得られる砂粒子の硬化成形物の硬度を効率良く上昇させることができる。この結果、より強度の優れたブロック状の建築資材を提供することができる。
【0013】
第4の発明は、上述の第1の発明であって、硬化成形物は、月又は岩石惑星で採取される砂粒子のみからなることを特徴とする。
上記構成の第4の発明によれば、ブロックの原料として月、火星等の岩石惑星において容易に入手できる砂粒子のみを用い、この砂粒子を硬化成形するために必要な処理(振動処理及び加圧処理のみ)を行うためのエネルギーとして電力のみを用いて、人手で取り扱うことができる程度の十分な大きさを有し、かつ人が手で掴んでも容易に粉砕することがなく、建築資材として使用可能なブロック状の砂粒子の硬化成形物を製造することができる。
【0014】
第5の発明である砂粒子の硬化成形物は、主成分としてSiO2:20~60%、TiO2:0~30%、Al2O3:0~30%、Fe2O3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、振動加圧処理前の粒子密度が2~3g/mm3である砂粒子を有し、振動周波数が30~500Hzである振動、及び加圧応力が30~500N/mm2である圧力、のみの付加処理済硬化成形物であり、この硬化成形物は、ブロック状をなしていることを特徴とする。
上記構成の第5の発明は、先の第1乃至第3のそれぞれの発明である製法により製造された硬化成形物を物の発明として特定したものであり、その作用は、第1乃至第3のそれぞれの製法による作用と同じである。
【0015】
第6の発明は、上述の第5の発明であって、硬化成形物は、強度が1N/mm2以上であり、長さ、幅、高さのそれぞれが50~500mmの範囲内であることを特徴とする。
上記構成の第6の発明によれば、硬化成形物の強度及び外形サイズが、建築資材としての使用により適した砂粒子の硬化成形物を提供することができる。
【0016】
第7の発明は、上述の第5又は第6の発明であって、硬化成形物は、月又は岩石惑星で採取される砂粒子のみからなることを特徴とする。
上記構成の第7の発明は、先の第4の発明である製法により製造された硬化成形物を物の発明として特定したものであり、その作用は第4の発明による作用と同じである。
【発明の効果】
【0017】
上述の第1、第5、第6の発明によれば、地球や月、あるいは火星等の岩石惑星にふんだんに存在する砂粒子を用い、手間やエネルギーを極力費やすことなく、建築資材として必要十分な強度を有するブロック状の固形物を製造することができる。
特に、月、火星等の岩石惑星では、地球上で容易に得られる資源、例えば水、空気(酸素)、化石燃料等の入手が極めて困難か、あるいは入手不可能であることが想定されるが、そのような環境下でも原料として砂粒子を、また動力源として電力のみを用いて、例えば人が居住可能な建物や人の活動拠点となる施設等の建設を可能にする建築資材として砂粒子の硬化成形物を製造して提供することができる。
【0018】
第2、第3の発明によれば、砂粒子に対して付加する処理(振動及び加圧)の種類を増やすことなくより硬度が高いブロック状の砂粒子の硬化成形物を製造することができる。
この場合、第2、第3の発明により製造される砂粒子の硬化成形物を用いて建設される建物や施設の強度を高め、これにより使用時の安全性を向上させることができる。
この結果、地球上において水や化石燃料等の乏しい僻地(例えば砂漠等)や月、あるいは火星等の岩石惑星において、人が居住したり活動したりするための拠点となる建物や施設の利便性を高めるとともに、その用途を広げることもできる。
【0019】
第4、第7の発明によれば、月、火星等の岩石惑星において人が居住可能な建物や人の活動の拠点となる施設等の建設が容易になる。しかも、本発明に係る砂粒子の硬化成形物を用いた建物や施設の建設に要するコストを大幅に節減できる。
この結果、月、火星等の岩石惑星における人類の活躍に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図2】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造の様子を示すイメージ図である。
【
図3】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造の様子を示すイメージ図である。
【
図4A】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法により製造された砂粒子の硬化成形物(試作品A)の外観の画像である。
【
図4B】比較例に係る砂粒子の硬化成形物の画像である。
【
図5A】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物を製造する際の振動周波数と硬度の関係を示すグラフである。
【
図5B】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物を製造する際の加圧応力と硬度の関係を示すグラフである。
【
図6】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造に用いる成形用型を分解した状態を示す斜視図である。
【
図7】本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造に用いる装置のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法、及び砂粒子の硬化成形物、及びその製造に用いられる砂粒子の硬化成形物製造装置について
図1乃至
図7を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
[1;砂粒子の硬化成形物の製造方法について]
はじめに、
図1乃至
図3を参照しながら本発明の実施形態(以下、単に「本実施形態」という)に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法について説明する。
図1は本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法の各工程を示すフローチャートである。また、
図2及び
図3はいずれも本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造の様子を示すイメージ図である。
本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1におけるステップS1(
図1を参照)は、例えばステンレス(例えば、SUS400)等の金属製で立方体形の中空部4aが形成される肉厚の短筒体である枠体4と、同じくステンレス製で厚板状の底板3を備えてなる型枠10(
図2を参照)の中空部4a内に、砂粒子6(レゴリス)を充填する工程である。
なお、このステップS1において型枠10の中空部4a内に充填される砂粒子6は、主成分としてSiO
2:20~60%、TiO
2:0~30%、Al
2O
3:0~30%、Fe
2O
3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、かつ粒子密度が2~3g/mm
3であるものであり、例えば地球上においては単に「砂」や「砂質土壌」などと呼ばれ、地表や地中にふんだんに存在している。
さらに、この砂粒子6は地球上に存在するもの以外に、同じ組成及び粒子密度を有するものであれば、月に存在する月レゴリスや、火星等の岩石惑星に存在するレゴリスを支障なく使用できる。
【0023】
より詳細には、地球やその衛星である月、あるいは火星等の岩石惑星は、超新星爆発によって宇宙空間に飛び散ったガスやちりが集まって恒星である太陽が生まれた後、その周囲に生じた無数の微惑星が衝突・合体して形づくられたと考えられている。
このため、地球上で採取される砂粒子6の組成は、その衛星である月で採取される砂粒子6の組成と一致する蓋然性が高く、さらに、地球と同様のプロセスを経て形成された火星等の岩石惑星において採取される砂粒子6の組成とも一致する蓋然性が高い。
したがって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、地球上で採取される砂粒子6のみならず、月で採取される砂粒子6や、火星等の岩石惑星で採取される砂粒子6を使用する場合も、地球上で採取された砂粒子6を用いて製造される砂粒子の硬化成形物(本発明品)と同様の物理的性質を有する蓋然性が高い。
特に月は、先にも述べた通り、地球と同様の生成過程を経て生まれたと考えられており、しかもNASAによる月探査計画において採取された月の砂粒子(月レゴリス)は、地球の玄武岩と同じ成分であることが確認されている。
そして、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1に用いる砂粒子6の組成(上記参照)は、地球に存在する玄武岩を起源とする砂粒子の組成も包含しているから、月で採取される砂粒子(月レゴリス)も当然に本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1における主原料の砂粒子6として支障なく使用できる。
【0024】
また、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1におけるステップS2(
図1を参照)は、例えばステンレス(例えば、SUS400)等の金属製の蓋5と、型枠10からなる成形用型2の中空部4a内に充填された砂粒子6に対して、振動周波数が30~500Hzである振動、及び加圧応力が30~500N/mm
2である圧力、のみを付加して砂粒子6を硬化成形する工程である。
より具体的には、このステップS2は、例えば成形用型2の外側面上の任意の位置に設けられる振動発生装置8により、成形用型2を介して砂粒子6に対して振動周波数が30~500Hzである振動を付加しつつ、成形用型2における蓋5を型枠10の中空部4a内に向かって、例えば
図3に示すような電動式で万力タイプの加圧装置9を用いて加圧応力が30~500N/mm
2に達するまで押入する工程である。
なお、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、砂粒子6を硬化成形するにあたり、砂粒子6に対して振動周波数が30~500Hzである振動を付加する処理と、加圧応力が30~500N/mm
2である圧力を付加する処理、以外の処理は一切行われない。
【0025】
そして、このステップS2では、振動発生装置8により付加される振動によって型枠10の中空部4a中に充填される不揃いな砂粒子が再配列されて、砂粒子6中に存在する空隙が減少する。さらに、砂粒子6中の空隙が減少した砂粒子6に、加圧装置9により蓋5を介して圧縮力を作用させることで、個々の砂粒子6の粒子間距離が極めて小さい状態になる。
この結果、砂粒子6からなる硬化成形物を崩壊させようとする重力や外力などの力よりも、砂粒子6同士の噛み合い(ロッキング)や、ファンデルワールス力が卓越したブロック状の硬化成形物(後段に示す砂粒子の硬化成形物11を参照)を形成させることができると考えられる。
【0026】
また、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、上述のような振動加圧処理の処理対象である砂粒子6の粒子密度が特に2~3g/mm3に特定されていることで、上記原理によりブロック状の硬化成形物をより確実に生成させることができる。
なお、地球や月で入手可能な砂粒子の粒子密度は通常2~3g/mm3の範囲内であるため、地球や月で入手可能な砂粒子のほとんどを本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1に用いられる砂粒子6(主原料)として使用できる。
【0027】
なお、地球や月、あるいは火星等の岩石惑星において採取される砂粒子6の粒子密度が2~3g/mm3の範囲内にない場合は、採取された砂粒子6を分級するなどして粒子密度を調整すればよい。
【0028】
そして、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1によれば、主成分としてSiO2:20~60%、TiO2:0~30%、Al2O3:0~30%、Fe2O3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、かつ粒子密度が2~3g/mm3である砂粒子6に対して、振動周波数が30Hz以上の振動、及び加圧応力が30N/mm2以上である圧力のみを付加することで、強度が1N/mm2以上の砂粒子の硬化成形物11を製造することができる。
【0029】
また、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1のステップS2では、砂粒子6に作用させる振動の振動周波数が30Hzを超えて500Hzに近づくほど、得られるブロック状の砂粒子の硬化成形物11の硬度を高くすることができる。
さらに、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1のステップS2では、砂粒子6に作用させる圧力の加圧応力が30N/mm2を超えて大きくなるほど、得られるブロック状の砂粒子の硬化成形物11の硬度を高くすることができる。
なお、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、砂粒子6に作用させる振動や加圧応力の上限値を上述の通り特定しているが、これは成形用型2の強度や耐久性、あるいは振動発生装置8や加圧装置9の強度や耐久性を考慮したものである。したがって、主原料である砂粒子6が粉砕しない限りにおいて、砂粒子6に作用させる振動や加圧応力の上限値は上述の値を超えてもかまわない。
【0030】
そして、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1におけるステップS3は、先のステップS2において成形用型2内において形成された砂粒子の硬化成形物11を成形用型2から離型する工程である。
より具体的には、特に図示しないが型枠10の開口4cに嵌設される蓋5を取り外した後、型枠10の中空部4aに砂粒子の硬化成形物11を収容したまま型枠10を上下反転させ、さらに枠体4と底板3を一体に固定するボルト7(
図3を参照)を取り外して、枠体4と底板3を分解することで、枠体4の中空部4a内に生成した砂粒子の硬化成形物11を取り出すことができる。
【0031】
図4Aは本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法により製造された砂粒子の硬化成形物(試作品A)の外観の画像である。
より詳細には、
図4Aに示す試作品A(砂粒子の硬化成形物11)は、主成分としてSiO
2:48.1%、TiO
2:1.7%、Al
2O
3:17.2%、Fe
2O
3:16%、MgO:2.9%、CaO:10.4%をそれぞれ含有し、かつ粒子密度が2.72g/mm
3である砂粒子6を、中空部4aのサイズが100mm×200mm×70mmである成形用型2(全てSUS400)に充填した後、振動周波数が200Hzである振動を蓋5の長辺側の側面のそれぞれに設けた2つの振動発生装置8(エクセン株式会社製、製品名;振動モータKM3S-2PD;図示せず)により付加しながら、加圧装置9(株式会社 島津製作所製、製品名;万能載荷試験機、型番;UH-1000kN;
図3を参照)により加圧応力が100N/mm
2に到達するまで蓋5(寸法;98mm×198mm×220mm)を介して砂粒子6に圧縮力を付加してから、生成された硬化物を成形用型2から離型して得たものである。
また、得られた試作品A(砂粒子の硬化成形物11;
図4Aを参照)のサイズは、100mm×200mm×60mmであった。
【0032】
図4Aに示す試作品A(砂粒子の硬化成形物11)の強度は3.1N/mm
2であった。
なお、上記試作品A(砂粒子の硬化成形物11)の強度の測定には、「万能載荷試験機(製品名)」(株式会社 島津製作所製、型番;UH-1000kN)を用いた。さらに、上記試作品A(砂粒子の硬化成形物11)の強度の測定は「JIS A 1108」に準拠した。
【0033】
また、上記試作品A(砂粒子の硬化成形物11;
図4Aを参照)の製造に使用した砂粒子6と同じ組成及び粒子密度を有する砂粒子6を、同上の成形用型2に充填した後、成形用型2の蓋5を介して同上の振動発生装置8を用いて振動周波数が30Hzである振動を付加しながら(なお、振動発生装置8の設置数及び設置位置も試作品Aの製造時と同じ)、同上の加圧装置9により加圧応力が30N/mm
2に到達するまで砂粒子6に圧縮力を付加した後、成形用型2から離型して得た試作品B(図示せず)の強度は1N/mm
2であった。
なお、上記試作品B(砂粒子の硬化成形物11)の強度の測定も、「万能載荷試験機(製品名)」(株式会社 島津製作所製、型番;UH-1000kN)を用いて行った。さらに、上記試作品B(砂粒子の硬化成形物11)の強度の測定も「JIS A 1108」に準拠した。
【0034】
よって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1によれば、砂粒子6に付加する振動の振動周波数が30Hzを超えて大きくなるほど、また砂粒子6に付加する圧力の加圧応力が30N/mm
2を超えて大きくなるほど、得られる砂粒子の硬化成形物11の強度が高くなると考えられる。
また、後段において試験結果(
図5A、5B)を参照しながら詳細に説明するが、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1によれば、砂粒子6に付加する振動の振動周波数が30Hzを超えて大きくなるほど、また砂粒子6に付加する圧力の加圧応力が30N/mm
2を超えて大きくなるほど、得られる砂粒子の硬化成形物11の硬度が高くなる。
したがって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1により得られる砂粒子の硬化成形物11の強度は、砂粒子の硬化成形物11の硬度と相関すると考えられる。
【0035】
図4Bは比較例に係る砂粒子の硬化成形物の画像である。
図4Bに示す比較例に係る砂粒子の硬化成形物(以下、単に「比較品12」という)は、先の
図4Aに示す砂粒子の硬化成形物11(試作品A)の製造に使用した砂粒子6と同じ組成及び粒子密度を有する砂粒子6に、圧力のみを付加して得たものである。
より詳細には、比較品12は、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11(試作品A)の製造に使用した砂粒子6と同じ組成及び粒子密度を有する砂粒子6を、同上の成形用型2に充填した後、同上の加圧装置9により加圧応力が100N/mm
2に到達するまで砂粒子6に圧縮力のみを付加してから、成形用型2から離型して得たものである。
【0036】
砂粒子6に対して圧力(圧縮力)のみを付加した比較品12では、先の
図4Aに示す試作品A(砂粒子の硬化成形物11)と比較して硬度が著しく低く、成形用型2から離型した際に原形をとどめていなかった。
また、比較品12は人が手で掴める程度の強度を有さず、建築資材として使用できる状態ではなかった。なお、この傾向は、砂粒子6に対して作用させる圧力(圧縮力)を大きくしても変わらなかった。
したがって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11を得るには、砂粒子6に対して圧力(圧縮力)と振動の両者を付加する必要がある。
【0037】
なお、上述の試作品A、B(砂粒子の硬化成形物11)及び比較品12(
図4Bを参照)の製造に使用した成形用型2の蓋5には、鉛直上方に配される面から鉛直下方側に配される面に向かって直径34mm×深さ150mmの有底穴5aが45mm間隔で平行に4つ形成されているが、この有底穴5aは蓋5の重量を軽減するために形成したものである。
【0038】
[2;本発明に係る砂粒子の硬化成形物について]
本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11は、先の
図1に示す砂粒子の硬化成形物の製造方法1により製造されるブロック状の固形物である。
より詳細には、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11は、主成分としてSiO
2:20~60%、TiO
2:0~30%、Al
2O
3:0~30%、Fe
2O
3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、振動加圧処理前の粒子密度が2~3g/mm
3である砂粒子を有し、振動周波数が30~500Hzである振動、及び加圧応力が30~500N/mm
2である圧力、のみの付加処理済硬化成形物であり、この硬化成形物は、ブロック状をなしている。
また、この砂粒子の硬化成形物11の強度が1N/mm
2以上であり、その長さ、幅、高さのそれぞれが50~500mmの範囲内である場合は、建築資材としての使用により適した砂粒子の硬化成形物を提供することができる。
【0039】
なお、先の
図1に示す砂粒子の硬化成形物の製造方法1によれば、長さ、幅、高さのそれぞれが5~500mmの範囲内であるブロック状の固形物を製造することができるが、このようなブロック状の固形物を人が居住するための建物や、人が活動する際の拠点となる施設を建設するための建築資材として用いるには、少なくとも人の手で把持できる程度の大きさであるほうがそのハンドリングが容易である。
このため、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11は、その長さ、幅、高さのそれぞれを50~500mmの範囲内に設定するとよい。
【0040】
また、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11を建築資材として用いて月基地を建設することを想定して、この月基地における鉛直荷重を考慮しつつ月基地の構造計算を行ったところ、建築資材である砂粒子の硬化成形物11が必要とする強度はおよそ0.3N/mm2であった。
地球上では通常、構造設計に用いる各部材(建築資材)の「安全率」を3に設定することが一般的であり、月基地においても同様に安全率を設定すると、建築資材である砂粒子の硬化成形物11は、0.3N/mm2の3倍の強度を有していることが望ましい。
したがって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11が1N/mm2以上の強度を有する場合は、月基地の建設に十分に適した建築資材を提供することができる。
【0041】
[3;本発明による作用・効果について]
本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1(及びこの製法に製造される砂粒子の硬化成形物11)によれば、地球や月、あるいは火星等の岩石惑星にふんだんに存在する砂粒子6を用いて、手間やエネルギーを極力費やすことなく、建築資材として最低限必要な強度を有するブロック状の砂粒子の硬化成形物11を製造することができる。
特に、地球上においては砂漠等の資源や資材が乏しい僻地において容易に入手できる砂粒子6と、ソーラーパネルを用いることで容易に得られる動力源である電力を用いて、建築資材として使用可能なブロック状の砂粒子の硬化成形物11を容易にかつ効率良く製造することができる。
この場合、砂漠等の僻地において人が居住可能な建物や、人が活動する際の拠点となる施設等を建設するための建築資材の供給が容易になる。この結果、地球上の僻地において、人の活動の拠点となる場所を省エネルギーかつ省コストにより提供できる。
【0042】
特に、月、火星等の岩石惑星では、地球上で容易に得られる資源、例えば水、空気(酸素)、化石燃料等の入手が極めて困難か、あるいは入手不可能であることが想定されるが、そのような環境下でも主原料として砂粒子6を、また振動及び加圧処理のための動力源として電力のみを用いて、人が居住可能な建物や、人が活動する際の拠点となる施設等を建設するための建築資材を製造することが可能になる。
より詳細には、月、火星等の岩石惑星では、例えばソーラーパネルを用いることで、太陽等の恒星から放射される光エネルギーから電力を得ることができる。
つまり、月、火星等の岩石惑星においても、先の
図3に示す振動発生装置8や加圧装置9を駆動させるための電力を得ることができる。
したがって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1は、月、火星等の岩石惑星においても支障なく実施することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1を特に月で実施する場合、砂粒子6に付加する振動の振動周波数を30Hz以上に設定するとともに、同じく砂粒子6に付加する圧力の加圧応力を30N/mm2以上に設定することで、月基地材料(建築資材)として成立すると考えられている砂粒子の硬化成形物11の目標強度1N/mm2を実現できる。
【0044】
[4-1;硬化成形時に付加する振動について]
図5Aは本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物を製造する際の振動周波数と硬度の関係を示すグラフである。
なお、
図5Aに示すデータを得るための各試験品の製造には、先の
図4Aに示す試作品A(砂粒子の硬化成形物11)の製造に用いた砂粒子6と同じ組成及び粒子密度を有する砂粒子6を使用した。また、成形用型2は先の試作品A(
図4Aの砂粒子の硬化成形物11を参照)の製造に用いたものと同じ成形用型2を使用した。その他、製造設備(振動発生装置8及び加圧装置9)も先の試作品Aの製造に用いたものと同じものを使用した。
また、
図5Aに示すデータを得るための各試験品を製造する際の、砂粒子6に付加する加圧応力は150N/mm
2に統一した。
また、得られた試験品の硬度の測定は、山中式土壌硬度計(株式会社藤原製作所製、製品名;標準型土壌硬度計、型番;No.351)を用い、試験品の上面三箇所に上記山中式土壌硬度計を刺して、得られた値を平均して硬度(支持強度)を算出した。なお、試験品の硬度の測定手順は使用した山中式土壌硬度計に付属する解説書に記載される手順に従った。
【0045】
図5Aに示すように、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、振動周波数が高いくなるほど得られた試験品の硬度が上昇する傾向が認められた。
さらに、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、特に振動周波数が100Hzを超える場合の試験品の硬度が顕著に高くなる傾向が認められた。
よって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、先のステップS2の振動加圧処理時に、砂粒子6に付加する振動の振動周波数を100~300Hzに設定することで、製造される砂粒子の硬化成形物11の硬度を高くすることができる。この結果、建築資材としての使用に適するより硬度の高い(強度が高い)ブロック状の固形物を容易に製造することができる。
【0046】
[4-2;硬化成形時に付加する圧力について]
図5Bは本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物を製造する際の加圧応力と硬度の関係を示すグラフである。
なお、
図5Bに示すデータを得るための各試験品の製造には、先の
図4Aに示す試作品A(砂粒子の硬化成形物11)の製造に用いた砂粒子6と同じ組成及び粒子密度を有する砂粒子6を使用した。また、成形用型2は先の試作品A(
図4Aの砂粒子の硬化成形物11を参照)の製造に用いたものと同じ成形用型2を使用した。その他、製造設備(振動発生装置8及び加圧装置9)も先の試作品Aの製造に用いたものと同じものを使用した。
また、
図5Bに示すデータを得るための各試験品を製造する際に、砂粒子6に付加する振動周波数は120Hzに統一した。
また、得られた試験品の硬度の測定は、山中式土壌硬度計(株式会社藤原製作所製、製品名;標準型土壌硬度計、型番;No.351)を用い、試験品の上面三箇所に上記山中式土壌硬度計を刺して、得られた値を平均して硬度(支持強度)を算出した。なお、試験品の硬度の測定手順は使用した山中式土壌硬度計に付属する解説書に記載される手順に従った。
【0047】
図5Bに示すように、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、砂粒子6に作用させる加圧応力が大きくなるほど得られた試験品の硬度が上昇する傾向が認められた。
さらに、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、特に加圧応力が150N/mm
2を超える場合に、得られた試験品の硬度が高くなる傾向が認められた。
よって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、先のステップS2の振動加圧処理時に砂粒子6に付加する圧力の加圧応力を150~250N/mm
2に設定することで、製造される砂粒子の硬化成形物11の硬度を高くすることができる。この結果、建築資材としての使用に適するより硬度の高い(強度が高い)ブロック状の固形物を容易に製造することができる。
【0048】
さらに、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、先のステップS2における振動加圧処理時に砂粒子6に付加する振動の振動周波数を30~500Hzにするとともに、圧力の加圧応力を150~250N/mm2にすることで、硬度(強度)が高いブロック状の砂粒子の硬化成形物11を一層効率良く製造することができる。
【0049】
一般に、物体の質量に応じて振動し易い周波数が存在する。そして、本発明品の主原料である砂粒子6(レゴリス)等に代表される砂程度の質量を有する物体は、70Hzを超える高周波が砂粒子の硬化成形物11(発明品)の硬度の上昇に貢献することが本発明がなされる過程で明らかになった。
【0050】
[4-3;振動を付加するタイミングについて]
本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1では、砂粒子6の加圧処理中(圧縮処理中)に振動を付加する場合を例に挙げて説明しているが、振動は砂粒子6を加圧処理 (圧縮処理)する前に、つまり砂粒子6に対して加圧処理するタイミングとは別のタイミングで、付加してもよい。
この場合、例えば本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1の実施場所が、月、あるいは火星等の岩石惑星のように大出力の電力を容易に得られない環境でも、砂粒子6に対する振動処理と加圧処理を別々に行うことで、限られた電力を有効活用しながら本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11を製造することができる。
また、砂粒子6に対して、加圧処理と振動処理を同時に行う場合も、別々に行う場合のいずれも、砂粒子6に対して加圧処理のみを行う場合と比べて、製造される砂粒子の硬化成形物11の硬度を大幅に高くできる。
【0051】
[5;成形用型について]
図6は本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造に用いる成形用型を分解した状態を示す斜視図である。
図6に示すように、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11の製造に用いる成形用型2は、例えばステンレス製(例えば、SUS400)で立方体形の蓋5と、同じくステンレス製で水平方向の中央に立方体形の中空部4aが形成されている短角筒体からなる枠体4と、この枠体4の下端側(開口4cと相対する側の面)に、複数本のボルト7により着脱可能に設けられるステンレス製の厚板からなる底板3を備えていてもよい。
また、本実施形態では、底板3に枠体4を一体に固定したものを型枠10とよんでいる。
さらに、本実施形態に係る成形用型2の底板3、枠体4にはそれぞれ、ボルト孔3a、ボルト孔4bが形成されており、底板3上に枠体4を載置した際にボルト孔3aとボルト孔4bが連通し、枠体4の裏面側からボルト7を螺着することができる。
なお、型枠10は、底板3上に枠体4を載置した際に、枠体4の開口4c側からボルト7を螺着できるよう構成してもよい。
なお、蓋5の重量を低減する目的で、この蓋5には鉛直上方に配される面から鉛直下方側に配される面に向かって有底穴5aが4つ形成されているが、この有底穴5aはなくてもよい。また、蓋5に形成される有底穴5aの数は4以外でもよい。
【0052】
そして、
図2、
図3及び
図6に示すような成形用型2を用いる場合は、底板3と枠体4を分離できるので、振動加圧処理済の砂粒子の硬化成形物11を成形用型2から容易に離型できる。
【0053】
なお、本実施形態では、底板3と枠体4を分離可能に構成する場合を例に挙げて説明しているが、製造しようとする砂粒子の硬化成形物11の外形サイズが大きい場合は、型枠10の枠体4を複数のパーツにより構成して、枠体4を分割可能に構成してもよい。
この場合は、大型の砂粒子の硬化成形物11を製造する際の離型性を良好にできるので、大型の砂粒子の硬化成形物11の生産性を向上させることができる。
【0054】
また、成形用型2の枠体4に形成される中空部4aの形状は、先の
図2や
図6示すような立方体形である必要はなく、例えば円柱状等の任意のブロック形状にしてもよい。
この場合、使用目的に応じて適切な形状を有するブロック状の砂粒子の硬化成形物11を製造することができるので、砂粒子の硬化成形物11を建築資材として使用する際の用途を広げることができる。
【0055】
なお、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11は、その強度が損なわれない限りにおいて、他の砂粒子の硬化成形物11と連結したり重ねたりして使用する際の連係力(ブロック状の砂粒子の硬化成形物11の間に作用する摩擦力)が高まるよう、その表面に嵌合用の凸部や凹部を備えていてもよい。
この場合は、このような嵌合用の凸部や凹部を形成可能な成形用型2を準備する必要がある。
【0056】
さらに、本実施形態においては成形用型2の材質として特にステンレス(例えば、SUS400)を用いる場合を例に挙げて説明しているが、砂粒子6に対して目的とする大きさの圧縮力を付加する際に十分な強度が発揮されるのであれば、成形用型2の材質はステンレス以外でもよい。
【0057】
[6;砂粒子の硬化成形物の原料について]
(砂粒子のみを用いる場合)
本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1により砂粒子の硬化成形物11を製造する際の原料は、主成分としてSiO2:20~60%、TiO2:0~30%、Al2O3:0~30%、Fe2O3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、かつ粒子密度が2~3g/mm3である砂粒子6のみでもよいし、あるいはこの砂粒子6に何らかの添加剤を添加したものを用いてもよい。
【0058】
特に前者の場合、つまり本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11を製造する際の原料を、上述のような組成及び粒子密度を有する砂粒子6のみに特定する場合は、地球上の僻地や、月、あるいは火星等の岩石惑星において砂粒子の硬化成形物11を製造する際の原料の調達が極めて容易になる。
この場合、地球上の僻地や、月、火星等の岩石惑星において人が居住可能な建物や、人の活動の拠点となる施設等の構造物の建設が一層容易になる。しかも、その際の建物や施設の建設に要するコストも大幅に節減できる。
この結果、地球上の僻地や、月、火星等の岩石惑星において人類の活躍の場を効率良く広げることができる。
【0059】
(砂粒子及び水を用いる場合)
また、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11を製造する際の原料として、上述のような組成及び粒子密度を有する砂粒子6に添加剤として例えば水を加えてもよい。
この場合は、先の
図1に示す本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1を構成する各工程を実施する前に、図示しない準備工程として、主成分の組成が上記の通りであり、かつ粒子密度が2~3g/mm
3である砂粒子6に適量の水(添加剤)を混ぜて混合体を得る工程が実施される。
また、この場合は、上記混合体を成形用型2に充填して(ステップS1)から、振動加圧処理(ステップS2)した後、成形用型2から離型された(ステップS3)砂粒子の硬化成形物11中の水が蒸発する際に、砂粒子の硬化成形物11内において負圧が増大して個々の砂粒子6同士の空隙が相対的に小さくなり、これにより砂粒子の硬化成形物11全体が乾燥収縮する。
この結果、個々の砂粒子6の粒子間距離がより一層小さくなり、原料である砂粒子6に添加剤として水を添加しない場合に比べて、砂粒子の硬化成形物11の硬度を上昇させることができる。
【0060】
よって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11の製造時に砂粒子6に添加剤として水を加える場合は、より強度が高く建築資材に適した砂粒子の硬化成形物11(乾燥体)を製造することができる。
この結果、建築資材としてより実用性の高い砂粒子の硬化成形物11を製造することができる。
【0061】
(砂粒子及びポリマーを用いる場合)
さらに、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11を製造する際の原料として、上述のような組成及び粒子密度を有する砂粒子6に添加剤として例えばポリマーを加えてもよい。
この場合も、先の
図1に示す本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1を構成する各工程を実施する前に、図示しない準備工程として、主成分の組成が上記の通りであり、かつ粒子密度が2~3g/mm
3である砂粒子6と適量のポリマー(添加剤)を混ぜて混合体を得る工程が実施される。
また、この場合は、上記混合体を成形用型2に充填して(ステップS1)から、振動加圧処理(ステップS2)した後、成形用型2から離型された(ステップS3)砂粒子の硬化成形物11中のポリマーが硬化することで、個々の砂粒子6がポリマーにより接着される。このため、原料である砂粒子6に添加剤として水を添加する場合に比べて、製造される砂粒子の硬化成形物11の硬度を大幅に上昇させることができる。
【0062】
よって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11の製造時に砂粒子6に添加剤としてポリマーを加える場合は、より強度が高く建築資材に適した砂粒子の硬化成形物11(ポリマー硬化体)を製造することができる。
この結果、建築資材としてより実用性の高い砂粒子の硬化成形物11を製造することができる。
なお、上記ポリマーとしては従来公知の接着剤に使用される各成分を単独で又は適宜器組み合わせて使用できる。さらに、このポリマーは熱硬化性を有していてもよい。
【0063】
[7;砂粒子の硬化成形物製造装置について]
図7を参照しながら本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物11を製造するのに用いる装置について説明する。
図7は本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造に用いる装置のイメージ図である。
図7に示すように本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物製造装置13は、例えば先に述べたような組成及び粒子密度を有する砂粒子6のみ、又はこの砂粒子6に添加剤(水又はポリマー)を加えてなる混合体、を収容して所望の立体形状に成形する成形用型2と、この成形用型2に収容される上記原料に成形用型2を介して振動周波数が30~500Hzである振動を付加する振動発生装置8と、この成形用型2に収容される上記原料に成形用型2を介して加圧応力が30~500N/mm
2である圧力(圧縮力)を付加する例えば電動式で万力タイプの加圧装置9を備えている。
【0064】
そして、上述のような本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物製造装置13を用いることで、主原料が上記組成及び粒子密度を有する砂粒子6であり、振動加圧処理済でブロック状をなす砂粒子の硬化成形物11を製造することができる。
【0065】
なお、
図7(及び先の
図3)では、振動発生装置8を成形用型2における枠体4の外側面に、互いに対向させながら1対の振動発生装置8を設ける場合を例に挙げて説明しているが、振動発生装置8の設置場所は枠体4以外にも、蓋5の外側面でもよい。また、成形用型2における振動発生装置8の設置数も2である必要はなく、例えば成形用型2の外底面に設ける場合(ただし、この場合は
図7に示す加圧装置9と異なる機構の加圧手段を用いる必要がある)は、1でもよい。
そして、成形用型2に設ける振動発生装置8の設置数が少ない場合は、個々の砂粒子6間の空隙を小さくするのに時間を要するものの、省電力で砂粒子の硬化成形物製造装置13を動作させることができるので、地球以外の環境下での、つまり月、火星等の岩石惑星での本発明の実施に好適である。
【0066】
さらに、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物製造装置13における加圧装置9は、
図7に示すような電動式の万力タイプのもの以外にも、手動式の万力タイプのものや、油圧ジャッキなどの機構を有するものを適宜採用してもよい。
特に、砂粒子の硬化成形物製造装置13における加圧装置9として油圧ジャッキ機構を有するものを採用する場合は装置全体を軽量化できる。このため、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物の製造方法1を地球上の僻地や、月、あるいは火星等の岩石惑星において実施するにあたり、砂粒子の硬化成形物製造装置13を地球から持ち込む際の輸送コストを節減できる。
【0067】
なお、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物製造装置13を構成する振動発生装置8や加圧装置9はいずれも電力のみで動作させることができる。
特に月、火星等の岩石惑星では、地球上とは異なり動力を得るための燃料の確保が極めて難しいか、あるいは入手不可能であることが予想される。
また、宇宙における動力源は、ソーラーパネルにより発電される電力が一般的である。
したがって、本実施形態に係る砂粒子の硬化成形物製造装置13を、上記構成に加えて発電設備としてソーラーパネルを備えるものとして特定する場合は、月、あるいは火星等の岩石惑星における使用に特に適した装置を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように本発明は、地球や月、あるいは火星等の岩石惑星(地球型惑星)にふんだんに存在する砂粒子を主原料として用い、かつ動力として電力のみを用い、さらに原料に振動処理及び加圧処理のみを付加するだけで、建築資材としての使用に必要十分なサイズ及び硬度(強度)を有する砂粒子の硬化成形物を製造することができる砂粒子の硬化成形物の製造方法及びこの製法により製造される砂粒子の硬化成形物であり、月、あるいは火星等の岩石惑星の開発に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…砂粒子の硬化成形物の製造方法 2…成形用型 3…底板 3a…ボルト孔 4…枠体 4a…中空部 4b…ボルト孔 4c…開口 5…蓋 5a…有底穴 6…砂粒子(レゴリス) 7…ボルト 8…振動発生装置 9…加圧装置 10…型枠 11…砂粒子の硬化成形物 12…比較品 13…砂粒子の硬化成形物製造装置
【要約】
【課題】地球や月、あるいは火星等の岩石惑星において容易に入手できる砂粒子を原料として用いて必要最小限度のエネルギー投入により建築資材として使用可能なブロック状の固形物を製造できる方法を提供する。
【解決手段】主成分としてSiO
2:20~60%、TiO
2:0~30%、Al
2O
3:0~30%、Fe
2O
3:5~30%、MgO:0~30%、CaO:0~20%をそれぞれ含有し、粒子密度が2~3g/mm
3である砂粒子を型枠に充填した後、この砂粒子に、振動周波数が30~500Hzである振動、及び加圧応力が30~500N/mm
2である圧力のみを付加して、ブロック状の硬化成形物を得ることを特徴とする砂粒子の硬化成形物の製造方法1による。
【選択図】
図1