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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】電流検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/165 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
G01R19/165 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019078187
(22)【出願日】2019-04-16
(65)【公開番号】P2020176878
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-04-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】水谷 彰
(72)【発明者】
【氏名】桑原 清範
(72)【発明者】
【氏名】松尾 泰秀
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-89938(JP,A)
【文献】特開平3-179270(JP,A)
【文献】特開平2-216063(JP,A)
【文献】特表2017-518481(JP,A)
【文献】国際公開第2006/041102(WO,A1)
【文献】特開2020-176877(JP,A)
【文献】特開2020-178427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00-19/32
G01R 15/00-15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側及び二次側に分極された圧電トランスと、
前記圧電トランスの一方側を入力インピーダンスが誘導性となる共振周波数の近傍領域で駆動する発振器と、
被検出電流を順方向に導通させるように直列接続された2つのダイオードをそれぞれ有する2つの回路が被検出電流の入力端子間で並列に接続された構成のダイオードブリッジに対し、前記入力端子間で前記2つの回路と並列に抵抗が接続されるとともに、前記ダイオードブリッジのインピーダンスの出力対となる前記各回路の2つのダイオードの間が前記圧電トランスの他方側を終端する終端回路と並列に接続される回路構成を有した回路網と、
前記圧電トランスの他方側前記回路網接続さた状態で、被検出電流の導通状態に応じた検出信号を前記圧電トランスの一方側で出力する検出器と
を備えた電流検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電流検出装置において、
前記回路網は、
被検出電流の導通状態の変化に応じて前記圧電トランスの他方側に現れる終端等価抵抗の値を変化させ、
前記検出器は、
前記圧電トランスの他方側に現れる終端等価抵抗の変化に応じて前記圧電トランスの一方側に現れる共振状態の変化に基づいて、前記検出信号を出力することを特徴とする電流検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電流検出装置において、
前記回路網は、
前記ダイオードブリッジのカットオフ特性と検出対象とする被検出電流の上限又は下限を定める閾値との関係から定まる値の抵抗が前記ダイオードブリッジ接続されており、
前記終端回路には、前記圧電トランスの整合インピーダンス値の抵抗が接続されていることを特徴とする電流検出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の電流検出装置において、
前記圧電トランスは、
一次側及び二次側にそれぞれ電極対を有しており、一方側の電極対を通じて前記発振器により駆動され、他方側の電極対を通じて前記回路網に接続されることにより、前記発振器及び前記検出器を被検出電流から絶縁していることを特徴とする電流検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば微小電流の検出に適した電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、バッテリやコンデンサ等の容量性素子を負荷とする充電装置には、スイッチング電源回路が用いられている(特許文献1参照。)。充電装置は、直流電源部から供給される定格ライン電流をスイッチング電源回路(スイッチング素子)でPWM制御し、充電負荷に出力する電流を制御している。充電負荷の電圧はアイソレーションアンプを介して制御回路にフィードバックされ、負荷電圧が低い場合は充電電流の値を大きくし、負荷電圧が高くなるにつれて充電電流を低減させていく制御が行われる。そして、充電負荷の電圧が満充電状態になるとスイッチング動作を停止し、それ以上の充電電流の出力は行われなくなる。充電装置が直流電源部に接続されたままであっても、スイッチング電源回路はライン電流の導通を遮断していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-148663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スイッチング電源回路を遮断状態に制御していたとしても、例えば充電装置の回路内部に何らかの不具合(スイッチング素子の経年劣化等)があると、ごく僅かであるが回路内部に微小な電流が導通することがある。スイッチング動作停止時は、微小電流が導通していても、これを電圧検出回路では検出することができず、装置として何も対策をとることができない。もちろん、微小電流がスイッチング素子を貫通する程度では大きな問題とならないが、待機電力とは別に余計な電力損失を生じるという問題がある。また、スイッチング停止時にもライン電流が導通しているので、漏電による事故が発生する危険性も見逃すことができない。
【0005】
上記は充電装置を一例としたものであるが、例えば工業用や商用の大電流が流れるラインをスイッチ等でON-OFFするような場合でも、ライン電流の遮断後に微小電流がどこかで導通するといった漏洩電流の問題はしばしば生じ得ることから、その対策が求められている。
【0006】
そこで本発明は、上記対策として有用な微小電流を検出する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。なお、以下の説明における括弧書きはあくまで参考であり、本発明はこれに限定されない。
【0008】
本発明は、電流検出装置を提供する。本発明の電流検出装置は、圧電トランス及びこれに接続した回路網を電流検出の中心的な存在に据えて検出動作を行うものである。回路網はダイオードブリッジ、及抵抗で構成することができる。また圧電トランスは、一次側及び二次側に分極された4端子のものである。圧電トランスの一次側と二次側とは、圧電体(圧電素子、圧電セラミックス)そのものによって絶縁されている。
【0009】
圧電トランスには、その一方側(例えば一次側)に入力インピーダンスが誘導性となる共振周波数の近傍領域で駆動信号を印加して共振を起こさせつつ、他方側(例えば二次側)は終端回路により終端する。この終端回路と並列に回路網を圧電トランスの他方側に接続する。なお、終端回路を回路網の構成に含めてもよい。
【0010】
回路網は、被検出電流の導通状態によって以下のように電気的特性が変化する。
(1)被検出電流が比較的大きい電流値(例えば数十~数百A程度)である場合、被検出電流はダイオードブリッジを流れるため個々のダイオードが導通状態となり、圧電トランスの他方側(対向電極間)からみた回路網全体としてのインピーダンスは比較的低いインピーダンスの状態を維持する。
(2)被検出電流が微小な電流値(例えば数mA程度)である場合、ダイオードブリッジは個々のダイオードがカットオフ状態(微小電流Icutはカットオフを解消しない程度の電圧をVcutと想定すると、Icut≦Vcut/R1、但抵抗R1)となり、被検出電流抵抗のみを流れるため、圧電トランスの他方側(対向電極間)からみた回路網全体としてのインピーダンスは大電流の導通時と比較して高いインピーダンスとなる。
【0011】
その結果、上記(1)の被検出電流が比較的大電流である場合、圧電トランスの他方側(対向電極間)に終端されるインピーダンスは総じて低インピーダンスとなる。なお、終端回路のインピーダンスは、導通状態でダイオードブリッジが現出させる低インピーダンス値よりも十分に高いインピーダンスとする。
一方、上記(2)の被検出電流が微小な電流値である場合、圧電トランスの他方側(対向電極間)に終端されるインピーダンスは、ほぼ終端回路のインピーダンスに等しくなる。
【0012】
このようにして、被検出電流の導通状態(比較的大電流又は微小電流)に応じて圧電トランスの他方側(対向電極間)に現れる終端インピーダンスが変化することから、この変化を捕まえて検出信号を出力することができる。
【0013】
このため本発明の電流検出器は、検出器を備える。検出器は、圧電トランスの他方側を終端する終端回路と並列に前記回路網を接続させた状態で、被検出電流の導通状態に応じた検出信号を圧電トランスの一方側で出力する。検出信号は、例えば被検出電流の導通状態が比較的大電流の状態1と微小電流の状態2に変化したとすると、状態1と状態2とでそれぞれ固有の信号となる。
【0014】
これにより、例えば被検出電流を電源設備や発電設備のライン電流(大電流)とすると、検出信号が状態1を表す場合は正常にライン電流が流れていることを知ることができ、逆に検出信号が状態2を表す場合、ライン電流とは異なる微小電流が流れていることを知ることができる。このとき、微小電流として検出する電流Icutの閾値は上記の関係式〔Vcut/R1〕に基づいて任意に設定することができる。すなわち、ライン電流として許容できる極めて微小電流(漏電とはいえない微弱な値)を閾値とし、これ以上の電流値は許容できない微小電流(漏電状態の値)として検出する場合、ダイオードブリッジ及び抵抗を適宜に選定して閾値を設定することにより、許容値範囲内の微小電流(状態2)であるか、許容値以上の微小電流(状態1)であるかを検出することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、微小電流を検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態の電流検出装置の構成を概略的に示すブロック図である。
図2】圧電トランスを単体で示す図である。
図3】圧電トランスの入力インピーダンスの周波数特性を示す図である。
図4】圧電トランスの等価回路を示す図である。
図5図4中の被検出側対向電極P1-P2間に抵抗Rbを終端した場合に検出側対向電極P3-P4間からみた圧電トランスの等価回路である。
図6】圧電トランスの検出側インピーダンスが誘導性となる周波数領域で駆動した場合の等価回路を示す図である。
図7図6の等価回路で示した圧電トランスを駆動する場合の等価回路図である。
図8】電流検出装置の具体的な回路構成例を示す図である。
図9】発振器の出力波形と端子間電圧の電圧波形との関係を条件(イ)~(ハ)別に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、一実施形態の電流検出装置100の構成を概略的に示すブロック図である。
電流検出装置100は、例えば直流の被検出電流(ライン電流IL)を端子IN+から端子IN-に導通させて検出動作を行い、その結果を出力端子OUTに出力する。以下、電流検出装置100の構成について説明する。
【0019】
〔圧電トランス〕
電流検出装置100は、圧電トランスPZT1を備えている。圧電トランスPZT1は、例えば一次側と二次側とに分極処理された圧電体(圧電セラミックス)であり、外面には一次側電極対(対向電極P3,P4)及び二次側電極対(対向電極P1,P2)が形成されている。このような圧電トランスPZT1は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛等の圧電体を板状に成形し、分極処理して一次側と二次側とを構成したものであり、図1では長手方向の一側面視による外形を模式的に示している。圧電体の表面には、一次側電極対(対向電極P3,P4)及び二次側電極対(対向電極P1,P2)が例えば銀ペースト等で厚膜形成されている。これら対向電極P3,P4及び対向電極P1,P2はそれぞれ、圧電体の厚み方向で対をなしており、一次側電極対と二次側電極対との間には、圧電体の外面において充分な絶縁距離が確保されている。なお、圧電トランスPZT1は、複数の圧電体層を積層した積層体で構成されていてもよく、内層に電極が配置されていてもよい。
【0020】
また、電流検出装置100は、発振器110、検出器120及び回路網130を備えている。このうち、発振器110及び検出器120は、例えば圧電トランスPZT1の一次側に接続されており、回路網130は圧電トランスPZT1の二次側に接続されている。また、本実施形態では、一次側電極対(対向電極P3,P4)に発振器110が接続された回路構成となっている。
【0021】
〔回路網〕
回路網130は、例えば4つのダイオードD1~D4で構成するダイオードブリッジ抵抗R1dを配置した回路構成である。ダイオードブリッジは、個々のダイオードD1~D4が被検出電流を順方向に導通させるブリッジ構成であり抵抗R1dは、ダイオードD1~D4が導通状態又はカットオフ状態となるときの電流閾値を決定している。
【0022】
すなわち、上記のように被検出電流(以下、「ライン電流IL」とする。)は、端子IN+から端子IN-に流れる。このとき、抵抗値R1d、ダイオードD1~D4のカットオフ電圧をVcutとすると、ライン電流ILが〔IL>2×Vcut/R1d〕の関係を満たす通電状態である場合、ライン電流ILの一部はダイオードブリッジを流れ、4つのダイオードD1~D4が導通状態となる。このような通電状態は、例えばライン電流ILが通常の大電流で流れている場合を想定することができる。
【0023】
一方、ライン電流ILが〔IL≦2×Vcut/R1d〕の関係を満たす通電状態である場合、ライン電流ILの全てが抵抗R1dを流れるから、各ダイオードD1~D4はカットオフ状態となる。このような通電状態は、例えばライン電流ILの電路を遮断した後も、ライン電流ILに微小な電流(極微弱な電流)が流れている場合を想定することができる。なお、ライン電流ILが非通電状態(0A)である場合も本条件を満たす。したがって、本実施形態では上記の関係式を満たす微小電流までは許容範囲とするが、大電流とはいえなくとも上記の関係式を満たさないレベルの微小電流については許容範囲外として検出対象にすることが可能である。なお、このような使用形態についてはさらに後述する。
【0024】
〔終端回路〕
また、圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間は、終端抵抗(インピーダンス)Z1により終端されている。回路網130のダイオードブリッジ(ダイオードD1~D4)及び抵抗R1dは、この終端抵抗Z1と並列にして二次側対向電極P1-P2に接続されている。なお、図1では終端抵抗Z1を回路網130の構成として含めている。
【0025】
〔終端インピーダンスの変化〕
このとき、圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間からみた終端インピーダンスは、上記のようなライン電流ILの通電状態に応じたダイオードD1~D4の導通状態-カットオフ状態の切り替わりに応じて変化する。
【0026】
〔低インピーダンス時〕
例えば、ライン電流ILが〔IL>2×Vcut/R1d〕の関係を満たす通電状態である場合、ダイオードD1~D4のインピーダンスは低インピーダンスの状態を維持する。この結果、圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間に終端されるインピーダンスは大略低インピーダンスとなる。なお、終端抵抗Z1のインピーダンスは、このときダイオードD1~D4で構成するダイオードブリッジが現出させる低インピーダンスの値に対して十分高いインピーダンス値とする。また、抵抗R1dは、ダイオードD1~D4がブリッジを構成しているので、圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間に終端した終端抵抗Z1のインピーダンスに影響を与えない。
【0027】
〔高インピーダンス時〕
一方、一方、ライン電流ILが〔IL<2×Vcut/R1d〕の関係を満たす通電状態である場合、カットオフ状態のダイオードブリッジを圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間からみたインピーダンスは高インピーダンスである。したがって、圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間に終端されるインピーダンスは、ほぼ終端抵抗Z1のインピーダンスとなる。
【0028】
以上のように本実施形態の電流検出装置100では、検出対象であるライン電流ILの値は、〔2×Vcut/R1d〕を閾値として、圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間の終端インピーダンスを低-高に可変することが分かる。
【0029】
そこで本実施形態では、ライン電流ILの導通状態に応じて圧電トランスPZT1の二次側対向電極P1-P2間に現れるインピーダンスの変化の特性を利用して、ライン電流ILの通電状態に応じた検出動作を実現している。そのための構成が上記の発振器110及び検出器120である。以下、発振器110及び検出器120について説明する。
【0030】
〔発振器〕
発振器110は、圧電トランスPZT1の一次側対向電極P3-P4間に駆動信号を印加する。このとき駆動信号は、圧電トランスPZT1の一次側対向電極P3-P4間のインピーダンスが誘導性となる周波数領域(共振周波数の近傍)で発振する。なお、圧電トランスPZT1のインピーダンス-周波数特性については後述する。
【0031】
〔検出器〕
検出器120は、インピーダンスが誘導性となる駆動状態で圧電トランスPZT1の共振状態に基づく一部の電圧波形(容量端子間電圧Vca)を監視し、その結果に基づいて出力端子OUTに検出信号を出力する。なお、圧電トランスPZT1の内部等価回路及び一部の電圧波形についてはさらに後述する。
【0032】
〔圧電トランスによる絶縁〕
このように、発振器110及び検出器120は圧電トランスPZT1の一次側に接続され、一方、ライン電流ILが導通する回路網130は二次側に接続されることで、電流検出装置100において、一次側の回路と二次側の回路とが圧電トランスPZT1によって絶縁されていることが分かる。図1に示す縦方向の一点鎖線がその絶縁ラインである。
【0033】
なお、本実施形態では、圧電トランスPZT1に駆動信号が印加される側を「一次側」とし、その逆側を「二次側」としているが、印加電圧が相対的に大きい側を「一次側」とし、その逆側を「二次側」として考える場合もある。ライン電流ILは圧電トランスPZT1に印加される回路構成ではないが、回路網130が圧電トランスPZT1に接続されているため、回路網130を導通するライン電流ILの電圧が駆動電圧より高い場合、回路網130が接続されている側を「一次側」と考えることもできる。
【0034】
〔呼称の統一〕
このように、圧電トランスPZT1について「一次側/二次側」と言うときは、その場の使用条件や技術上の慣習等による違いがあって、一義的でないことがある。
そこで本実施形態では、「一次側/二次側」といった呼称の相対性に鑑み、以下のように呼称を統一するものとする。
【0035】
〔被検出側/検出側〕
すなわち、圧電トランスPZT1に回路網130が接続される側を「被検出側」とし、発振器110及び検出器120が接続される側を「検出側」とする。なお、これら「被検出側/検出側」との呼称は説明の便宜のためのものであり、圧電トランスPZT1が本来の意味での「一次側/二次側」を備えたものであることは言うまでもない。
【0036】
〔インピーダンス変化を利用した検出手法〕
図2は、圧電トランスPZT1を単体で示す図である。本実施形態で用いる圧電トランスPZT1は、上記のように絶縁型の4端子構造を有する。
【0037】
このような圧電トランスPZT1の検出側対向電極P3-P4間からみたインピーダンスZaは、被検出側対向電極P1-P2間に接続したインピーダンスの値によって変化する。特に、インピーダンスZaが誘導性である周波数領域において、圧電トランスPZT1の被検出側対向電極P1-P2間に終端されるインピーダンスは、検出側からみたインピーダンスZaのQ値に影響を与える。
【0038】
一方、被検出側対向電極P1-P2間に終端されるインピーダンスは、回路網130におけるダイオードブリッジのインピーダンス変化に影響されて高-低に変化することは既に説明した通りである。そして、ダイオードブリッジのインピーダンスは、ライン電流ILの通電状態によって大きく変化することから、被検出側対向電極P1-P2間に接続した回路網130は、微小電流の閾値(2×Vcut/R1d)を境にライン電流ILの値をインピーダンスの変化に変換することができる。
本実施形態の電流検出装置100ではこのような特性を利用して、微小電流を検出することができる。
【0039】
〔圧電トランスのインピーダンス周波数特性〕
ここで図3は、圧電トランスPZT1の入力インピーダンスの周波数特性を示す図である。通常、圧電トランスPZT1の入力インピーダンスは、位相が+90度に近くなる領域(共振周波数fr~反共振周波数frrの領域)で誘導性となり、それ以外では容量性となる。共振周波数fr~反共振周波数frrの領域内では、インピーダンスの絶対値が周波数の増加に伴って増加する。
【0040】
〔等価回路による説明〕
図4は、圧電トランスPZT1の等価回路を示す図である。この等価回路は、圧電トランスPZT1の共振周波数近傍の周波数領域に対するものである。そのため、被検出側対向電極P1-P2間は、理想トランスT1の巻線によって直流的には短絡しているようにみえているものの、実際には直流的に開放されている。このような理由から、圧電トランスPZT1の被検出側対向電極P1-P2間及び検出側対向電極P3-P4間は、直流電圧や共振周波数より十分に低周波の交流電圧に対しては、等価回路にかかわらず、高インピーダンスとなることに留意する。
【0041】
図5は、図4中の被検出側対向電極P1-P2間に抵抗Rbを終端した場合に検出側対向電極P3-P4間からみた圧電トランスPZT1の等価回路である。
図4の等価回路から図5の等価回路への変換は、以下の式により説明することができる。すなわち、図5の等価回路における抵抗R1’及び容量C1’は、次式〔数1〕で表される。
【数1】
【0042】
図6は、圧電トランスPZT1の検出側インピーダンスが誘導性となる周波数領域で駆動した場合の等価回路を示す図である。すなわち、検出側対向電極P3-P4からみたインピーダンスをZaとすると、このインピーダンスZaは、圧電トランスPZT1の共振周波数frの近傍においては、先の図3で示したように周波数の増大に伴って容量性インピーダンス領域から誘導性インピーダンス領域を経て、再度、容量性インピーダンスとなる周波数特性を有する。
【0043】
このとき、検出側対向電極P3-P4からみたインピーダンスZaが誘導性インピーダンスになる周波数領域に限定して考えると、図5の等価回路は図6の等価回路で表すことができる。すなわち、誘導性インピーダンス領域の条件下で図5の等価回路から図6の等価回路への変換に伴う抵抗Ra及びインダクタンスLaは、次式〔数2〕で表される。
【数2】
【0044】
〔駆動モデル〕
図7は、図6の等価回路で示した圧電トランスPZT1を駆動する場合の等価回路図である。すなわち、検出側対向電極P3-P4間に発振器OSCを接続し、これと直列に容量Caを配置した状態で、発振器OSCにより圧電トランスPZT1を検出側対向電極P3-P4間で駆動している。
【0045】
発振器OSCの発振周波数foscは、圧電トランスPZT1の検出側対向電極P3-P4間のインピーダンスZaが誘導性を示す周波数領域で、かつ共振周波数frの近傍に設定することとする。また、発振器OSCによる駆動中は、等価回路のインダクタンスLaの値が一定に維持される制御を行うものとする。なお、発振器OSCによる発振周波数foscの制御については、具体的な回路構成例とともに後述する。
【0046】
また、図7の駆動モデルにおいて、容量Caの値は、fosc≒1/(2π√(La×Ca)を満たす値として選定する。このとき、容量Caの端子間電圧Vcaは、次式〔数3〕で表される。
【数3】
【0047】
ここで、上式〔数2〕に示すようにインダンクタンスLaは、終端抵抗Rbの変化に伴って変動するため、上記のように発振器OSCによる駆動中はインダクタンスLaを一定に維持する発振周波数foscに制御する。しかしながら、図3に示したように、共振周波数frの近傍では位相角が急激に変化することから、制御でインダクタンスLaを一定に維持していても発振周波数foscの値は事実上ほとんど変化しない。このため、終端抵抗Rbの変化に伴う端子間電圧Vcaの変化は、内部等価抵抗Raの変化のみに依存し、その変化は、上式〔数3〕から等価抵抗Raの値に反比例することが分かる。
【0048】
そこで、終端抵抗Rb≒0Ωとした場合の等価抵抗Raの値Rasと、終端抵抗Rbを圧電トランスPZT1の整合インピーダンス値〔Rb≒1/(2πfosc×C02)〕とした場合の等価抵抗Raの値Rarbとの比を算出する。このとき発振周波数foscは、共振周波数frの近傍であると近似すると、これらの関係は次式〔数4〕で表される。
【数4】
【0049】
したがって、終端抵抗Rbが0Ω近辺の低抵抗値から圧電トランスPZT1の整合インピーダンスである値〔1/(2πfosc×C02)〕に変化すると、上式〔数4〕から端子間電圧Vcaの値は2R1/Rb倍に変化することになる。
【0050】
ここまでの検討から、図1に示した回路構成において、終端抵抗Z1のインピーダンス値を1/(2πfosc×C02)に選定したとすると、被検出側対向電極P1-P2間の終端等価抵抗Rbは以下の値となる。
すなわち、図1の回路構成においてダイオードブリッジのダイオードD1~D4が導通している場合、終端等価抵抗Rb≒0Ωとなる。
一方、ダイオードブリッジのダイオードD1~D4がカットオフである場合、終端等価抵抗Rb=1/(2πfosc×C02)となる。
【0051】
以上のことから、本実施形態の電流検出装置100は、以下のように微小電流の検出動作を実行することができる。
【0052】
発振器110は、その発振周波数foscが圧電トランスPZT1の共振周波数近傍であり、かつ検出側対向電極P3-P4間のインピーダンスZaが誘導性となる周波数で発振する。このとき、発振器110は、図6に示した等価回路のインダクタンスLaが常に一定値を維持する周波数に制御する。
【0053】
また、検出器120には、その回路内に圧電トランスPZT1と一体に共振するコンデンサを実装する。このコンデンサの容量は、図7の等価回路に示した容量Caに相当するものとして、インダクタンスLaとの共振周波数が発振周波数foscとなる定数に選定するものとする。
【0054】
また、被検出側対向電極P1-P2に接続した終端抵抗Z1は、圧電トランスPZT1の整合インピーダンスである1/(2πfosc×C02)の値を有するものとする。
抗R1dは、微小電流の検出閾値Idetに対応させて、その抵抗値R1d=2Vcut/Idetに選定する。ここでは、上記のようにダイオードD1~D4の順方向のカットオフ電圧Vcutを用いる。
【0055】
検出器120は、図7で等価的に示したコンデンサCaの端子間電圧Vcaを監視し、端子間電圧Vcaの値の変化からライン電流ILの導通状態に応じた検出信号を出力端子OUTに出力する。例えば、ライン電流ILが比較的大電流(例えば数十A以上)の導通状態にある場合に観測した端子間電圧Vcaの値に対し、その値が2R1/Rb倍程度に低下したことを検知すると、ライン電流ILが閾値Idet以下の導通状態に変化したと判断し、その旨(微小電流の通電状態)を表す検出信号を出力端子OUTに出力する。一方、ライン電流ILが比較的大電流のときも、その旨(大電流の通電状態)を表す検出信号を出力端子OUTに出力することとする。
【0056】
〔使用形態〕
本実施形態の電流検出装置100は、例えば以下の使用形態を適用することができる。
例えば、ライン電流ILを充電装置の電源経路上で端子IN+から端子IN-に導通させる。ライン電流ILとしては比較的大電流(例えば数十A程度)のものを使用し、検出目標とする微小電流(例えば数mA程度)を適宜に設定してダイオードD1~D4のカットオフ電圧Vcut、抵抗R1d、終端抵抗Z1のインピーダンスを選定する。これら選定した各値から閾値Idetが定まるので、電源経路において微小電流の許容範囲を設定することができる。
【0057】
ライン電流ILが比較的大電流の導通状態である場合、上記のようにダイオードブリッジが導通して低インピーダンス状態となる。この場合、検出器120からは例えばHigh信号を出力端子OUTから出力し、大電流の導通状態である旨を表す検出信号とする。ただし、閾値Idet以上のライン電流ILであれば、比較的大電流ではない電流(許容範囲を超える微小電流)についてもHigh信号が出力されることになる。
【0058】
一方、ライン電流ILが微小電流(閾値Idet以下)の導通状態である場合、上記のようにダイオードブリッジがカットオフとなって高インピーダンス状態となる。この場合、検出器120からは例えばLow信号を出力端子OUTから出力し、許容範囲以下である微小電流の導通状態である旨を表す検出信号とする。
【0059】
このとき、例えば充電装置に電源スイッチを備えているとすると、通常、電源スイッチをOFFにするとライン電流ILの経路が遮断されて大電流は通電していない状態になるはずである。この場合、電流レベルが許容範囲以下の微小電流(極微弱電流)であれば検出器120からLow信号が出力されるので、「電源スイッチOFFかつLow信号」の条件を満たす場合は正常と判断することができる。
ところが、電源スイッチをOFFにしてもなお、検出器120がHigh信号を出力している場合、許容範囲を超える微小電流の導通状態が検出されていることになる。したがって、「電源スイッチOFFかつHigh信号」の条件を満たした場合、それは充電装置内部のどこかで漏洩電流が発生していることを意味するので、異常と判断することができる。
なお、電源スイッチがONのとき、ライン電流ILは大電流の導通状態であるため、「電源スイッチONかつHigh信号」の条件を満たす場合は正常と判断することができる。
このようにして、本実施形態の電流検出装置100を微小電流の検出(漏電検出)に使用することができる。
【0060】
〔回路構成例〕
図8は、電流検出装置100の具体的な回路構成例を示す図である。以下、図1で示した回路構成との対応関係を説明する。
【0061】
図8の回路において、ダイオードD1~D4及び抵抗R1,R2が回路網130を構成する。ダイオードD1~D4及び抵抗R1の配置は図1の回路構成と同じである。抵抗R1は、図1で示した抵抗R1dに相当する。抵抗R2は、図1で示した終端抵抗Z1に相当するインピーダンスを構成する。
【0062】
オペアンプIC1とその周辺回路(抵抗R13~R16、コンデンサC3,C4)、及びトランジスタQ1,Q2,Q3とその周辺回路(抵抗R3~R11)は、図1に示した発振器110を構成する。発振器110の出力は、トランジスタQ1,Q2のコレクタが該当する。
【0063】
2つのコンデンサC1,C2は、図7の等価回路で示した容量Caを構成するものであり、これらコンデンサC1,C2は圧電トランスPZT1と一体となって共振する。したがって、コンデンサC1,C2は図1の回路構成では検出器120に含まれる。トランジスタQ1,Q2のコレクタ出力が電流源として動作している場合、等価回路でみた容量Caの値はCa=C1×C2/(C1+C2)となる。一方、トランジスタQ1,Q2のコレクタ出力が電圧源に近い動作をしている場合、等価回路でみた容量Caの値はCa=C1となる。
【0064】
また、検出器120の構成には以下が含まれる。
オペアンプIC2、ダイオードD5及びコンデンサC5は、コンデンサC1の端子間電圧を整流して直流電圧にする。コンデンサC1の端子間電圧は、上記で説明した端子間電圧Vcaに相当するものである。コンパレータIC3は、駆動電圧Vccの分圧値Vcc×R19/(R19+R20)を閾値として、コンデンサC1の端子間電圧を整流した直流電圧(コンデンサC5端子間電圧)を監視し、ライン電流ILが閾値以下になったとき、Low信号を出力端子OUTから出力する。
【0065】
〔発振器の動作〕
図8の回路に示す発振器110による発振動作は以下の通りである。
すなわち、発振器110の動作は、マルチバイブレータの基本動作に対して充放電時定数を目的周波数に位相制御したものである。位相制御とは、マルチバイブレータの基本動作による周波数と目的周波数との誤差を位相差として検出し、その位相差を電圧変換して帰還をかける制御である。ここでの目的周波数とは、図7の等価回路における共振周波数(1/2π√(La×Ca))である。
【0066】
図8の回路において、オペアンプIC1、抵抗R13~R16、及びコンデンサC3は上記マルチバイブレータの基本回路を構成するものである。圧電トランスPZT1の対向電極P4-P3間インピーダンスと、コンデンサC1,C2、及び抵抗R12は、充放電時定数を目的周波数に位相制御するための回路である。図8の回路の場合、目的周波数はコンデンサC1,C2、及び圧電トランスPZT1の対向電極P4-P3間インピーダンスとで構成する共振回路の共振周波数になる。ただし、目的周波数は、圧電トランスPZT1の対向電極P4-P3間インピーダンスが図3に示す誘導性領域の範囲内に限定しておく必要がある。このように目的周波数の範囲を限定することで、圧電トランスPZT1の対向電極P4-P3間の等価回路を図6に示すものとして考えることができる。
【0067】
発振器110が構成するマルチバイブレータの発振周波数は、コンデンサC3の充放電時間で定まる。コンデンサC3の充放電特性は、オペアンプIC1の出力電圧から抵抗R13を経由して入り込む電流と、コンデンサC1の端子間電圧から抵抗R12を経由して帰還入力してくる電流の合計値と、コンデンサC3に蓄積される電荷量とによって定まる。ここで、コンデンサC3に蓄積-放出される電荷量をqとし、コンデンサC3の充電時間をtc、放電時間をtdとする。このとき充放電時間tc,tdは下式で表される。
tc=q/Ic
td=q/Id
【0068】
上式におけるIcは、オペアンプIC1の出力電圧から抵抗R13を経由して入り込む電流と、コンデンサC1の端子間電圧から抵抗R12を経由して入り込む電流との合計電流の充電時間内における平均値とする。
【0069】
同様に上記におけるIdは、オペアンプIC1の出力電圧へ抵抗R13を経由して流れ出る電流と、コンデンサC1の端子間電圧へ抵抗R12を経由して流れ出る電流との合計電流の放電時間内における平均値とする。
【0070】
通常は、発振器110による発振波形をデューティーが1:1となる波形にして発振させるので、以下の説明においては、tc=td=taの条件が成り立つものとする。そうすると、抵抗R13を経由して入り込む電流と流れ出る電流は等しくなり、ともに電流Ir13とすることができる。また、抵抗R12を経由して入り込む電流と流れ出る電流は等しくなり、ともに電流Ir12とすることができる。このように定義すると充放電の時間taは下式となり、発振器110の発振周波数fは下式となる。
ta=q/Ic=q/(Ir13+Ir12)
f=(Ir13+Ir12)/(2q)
【0071】
発振器110の発振周波数fが圧電トランスPZT1の対向電極P4-P3間インピーダンスが誘導性となる範囲内であるとした場合、その動作は図7に示す等価回路で表すことができる。このとき、図7の等価回路における発振器OSCの出力は、図8の回路にあるトランジスタQ1,Q2のコレクタに相当する。また、図7の等価回路における抵抗Ra及びインダクタンスLaは、圧電トランスPZT1の対向電極P4-P3間インピーダンスを示している。そして、図7の等価回路における容量Caは、図8の回路にあるコンデンサC1とコンデンサC2の直列容量に相当する。ただし、図8の回路におけるコンデンサC1の端子間電圧は、図7の等価回路に現れる端子間電圧Vcaを実際にはコンデンサC1とコンデンサC2とにより分圧した電圧になる。したがって、図7の等価回路で発振器OSCの出力を1とすると、容量Ca及びその端子間電圧Vcaはそれぞれ下式〔数5〕で表される。なお、下式〔数5〕では、図7の等価回路に示したVcaと図8の回路におけるコンデンサC1の端子間電圧とを区別するため、図8でみたコンデンサC1の端子間電圧をVca1と記述するものとする。
【数5】
【0072】
上式から、コンデンサC1の端子間電圧Vca1の電圧波形は、図8のトランジスタQ1,Q2のコレクタの出力電圧との位相差φが発振周波数の影響を受けることが分かる。このとき位相差φは、発振周波数fの値(下記の条件(イ)、(ロ)、(ハ))に応じて大略下式〔数6〕のように影響を受ける。ただし、発振周波数fは、圧電トランスPZT1の対向電極P4-P3間インピーダンスが誘導性となる周波数の範囲内にあるものとする。
【数6】
【0073】
〔条件(イ)~(ハ)別の発振周波数〕
図9は、発振器OSCの出力波形と端子間電圧Vca1の電圧波形との関係を条件(イ)~(ハ)別に示した図である。なお、図9では端子間電圧Vca1をコンデンサC3の充電時間における電圧波形で示している。したがって、コンデンサC3の放電時間における電圧波形は図9に対して極性が反対になる。以下、条件(イ)~(ハ)別に説明する。
【0074】
図9の中央に示す〔条件(ロ)〕に見られるように、発振周波数fが目的周波数に一致しているときは(f=1/2π√(La×Ca))、発振器OSCの出力波形に対する端子間電圧Vca1の位相差φが-90°であり、充電時間の中間点で端子間電圧Vca1が0Vとなる。この場合、端子間電圧Vca1の電圧波形の充電時間内における平均値は0であり、図8の回路において抵抗R12を経由して帰還される充電電流Ir12も0Aとなる。したがって、図8のマルチバイブレータを構成する回路の発振周波数fは、純粋に抵抗R13経由の電流Ir13によるコンデンサC2の充放電時間で定まる周波数となり、誤差がないとしたときの目的周波数で発振を継続する。
【0075】
次に、図9の左側に示す〔条件(イ)〕に見られるように、発振周波数fが目的周波数より低周波(f<1/2π√(La×Ca))の場合、発振器OSCの出力波形に対する端子間電圧Vca1の位相差φが-90°より大きいが0°より小さくなる。この場合、Vca1の電圧波形の充電時間内における平均値はプラスとなるので、図8の回路で抵抗R12を経由して帰還する電流Ir12もプラスになり、この帰還電流Ir12がコンデンサC3を充電する方向に働く。これは、抵抗R13経由の電流Ir13に加えて電流Ir12がコンデンサC3を充電し、その充電時間を短縮することを意味する。したがって、この場合の発振周波数は、抵抗R13とコンデンサC3だけで定まる周波数より高周波側に制御されることになる。その結果、低周波であった発振周波数fが目的周波数(1/2π√(La×Ca))に近づくことになる。
【0076】
一方、図9の右側に示す〔条件(ハ)〕に示す場合は以下となる。この場合、発振周波数fが目的周波数より高周波(1/2π√(La×Ca)<f)であり、発振器OSCの出力波形に対する端子間電圧Vca1の位相差φが-90°より小さい。この場合、Vca1の電圧波形の充電時間内における平均値はマイナスとなるので、図8の回路で抵抗R12を経由して帰還する電流Ir12もマイナスになり、この帰還電流Ir12がコンデンサC3の電荷を放電する極性に働くため、電流Ir13によるコンデンサC3の充電時間を延長する作用を生じる。したがって、この場合の発振周波数は、抵抗R13とコンデンサC3だけで定まる周波数より低周波側に制御されることになる。その結果、高周波であった発振周波数fがやはり目的周波数(1/2π√(La×Ca))に近づくことになる。
【0077】
このように、発振器110は、目的周波数(圧電トランスPZT1とコンデンサC1,C2で構成する容量との共振周波数)との誤差を位相差として検出し、その位相差を電圧に変換して正味の充放電電流を増減し、発振周波数fを目的周波数近傍に制御することができる。
【0078】
以上の実施形態によれば、以下のような利点が得られる。
(1)ライン電流ILとして比較的大電流が想定される対象についても、簡素な回路構成で微小電流の検出を行うことができる。すなわち、通常なら大電流が流れるライン上で微小電流を検出しようとすると、そのライン上に電流検出抵抗を配置し、その端子間電圧を検出側に絶縁した状態で送信するための絶縁アンプが必要になるが、本実施形態の電流検出装置100は、絶縁アンプを必要とせず、簡素な回路構成で微小電流を検出することができる。
(2)また、被検出側と検出側が圧電トランスPZT1の一次側と二次側の絶縁距離で充分に絶縁されているにも関わらず、被検出側の回路構成である回路網130への電力供給は必要でない。この点、上記のように絶縁アンプを用いる回路構成とした場合、絶縁アンプに対して駆動電源を供給するための回路(例えばDC-DCコンバータ)が別途必要であり、装置の構成が複雑になるという問題がある。
(3)同じく被検出側と検出側とを圧電トランスPZT1によって絶縁しているため、検出器120でのノイズの影響を対策する必要がない。
(4)電流検出装置100は、「微小電流の検出」に対して「圧電トランス」という素材を適用したことで、全体として斬新な回路構成を実現する。その上で、「圧電トランス」そのものに対する信頼性は既に確立されていることから、電流検出装置の実用化に際して安全性や信頼性を考慮する必要がなく、産業上の利用性が高い。
【0079】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種種に変形して実施可能である。
電流検出装置100は、各図に示す構成だけでなく、同様の機能を発揮できる構成に変形して実施することができる。
【0080】
また、実施形態において圧電トランスPZT1の形状や大きさ、インピーダンス周波数特性、共振特性は一例として挙げたものであり、異なる形状や大きさ、特性のものを採用してもよい。
【0081】
発振器や検出器の動作において示した各種の値も例に過ぎず、実施に際して様々に異なる条件に応じた回路素子等の選定、調整等が行われることは当然である。実施形態では、閾値以下の微小電流を許容し、閾値を超える微小電流を許容しないこととしているが、閾値未満の微小電流を許容し、閾値以上の微小電流を許容しないこととしてもよく、閾値を許容範囲の上限とするか下限とするかは任意である。
【0082】
各実施形態において図示とともに挙げた構造はあくまで好ましい一例であり、基本的な構造に各種の要素を付加し、あるいは一部を置換しても本発明を好適に実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0083】
100 電流検出装置
110 発振器
120 検出器
PZT1 圧電トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9