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特許7430045ほうじ茶飲料、ほうじ茶飲料の製造方法、並びにほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】ほうじ茶飲料、ほうじ茶飲料の製造方法、並びにほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/16 20060101AFI20240202BHJP
   A23F 3/14 20060101ALI20240202BHJP
   A23F 3/40 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A23F3/16
A23F3/14
A23F3/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019172118
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021048774
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】岩城 理
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-208286(JP,A)
【文献】Han'guk Yongyang Siklyong Hakhoechi(Journal of Korean Society of Food Science and Nutrition),1985年,14(3),301-304
【文献】茶叶科学(Journal of Tea Science),2019年06月15日,39(3),297-308
【文献】日本農芸化学会誌,1999年,73(9),893-906
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
JSTPlus/JMEDChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/CABA/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比が、0.25以上1.1以下である、ほうじ茶飲料。
【請求項2】
スクロース、グルコース及びフルクトースの合計含有量が、100mg/L以上200mg/L以下である、請求項1に記載のほうじ茶飲料。
【請求項3】
2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比が、0.16以上0.30以下である、請求項1又は2に記載のほうじ茶飲料。
【請求項4】
スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比を0.25以上1.1以下の範囲内に調整すること、及び2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比を0.16以上0.30以下の範囲内に調整することを含む、ほうじ茶飲料の製造方法。
【請求項5】
スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比を0.25以上1.1以下の範囲内に調整すること、及び2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比を0.16以上0.30以下の範囲内に調整することを含む、ほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほうじ茶飲料、ほうじ茶飲料の製造方法、並びにほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほうじ茶飲料は、特有の焙煎香を有し、広く飲用されている。一方で、ほうじ茶飲料の香味を改良する試みもなされている。例えば、特許文献1には、焙煎香が強く、あっさりしていて、しかもすっきりとした後味を備えており、冷めた状態でもおいしく飲用できるほうじ茶飲料として、単糖と二糖とを合わせた糖類の濃度が60ppm~220ppmであり、単糖の濃度に対する二糖の濃度の比率(二糖/単糖)が5.0~15.0であり、没食子酸の濃度に対する前記糖類の濃度の比率(糖類/没食子酸)が2.0~5.0である容器詰ほうじ茶飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4880798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の消費者の嗜好の多様化に伴い、ほうじ茶飲料においても、更なる選択肢が求められている。
【0005】
本発明は、香り立ち、及び味の厚みが良好なほうじ茶飲料を提供することを目的とする。本発明はまた、香り立ち、及び味の厚みが良好なほうじ茶飲料を得ることのできるほうじ茶飲料の製造方法を提供することを目的とする。本発明はさらに、ほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比が、0.25以上1.1以下である、ほうじ茶飲料に関する。
【0007】
本発明に係るほうじ茶飲料は、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比(以下、「単糖/二糖比」ともいう。)が上記範囲内にあるため、単糖/二糖比が上記範囲外にあるほうじ茶飲料と比較して、香り立ちが向上すると共に味の厚みが向上する。なお、従来のほうじ茶飲料(単糖/二糖比の調整を行っていないほうじ茶飲料)は、単糖/二糖比が0.1よりも小さく、上記範囲外にある(試験例1参照)。
【0008】
上記ほうじ茶飲料は、スクロース、グルコース及びフルクトースの合計含有量が、100mg/L以上200mg/L以下であってよい。
【0009】
上記ほうじ茶飲料は、2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比が、0.16以上0.30以下であることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比を0.25以上1.1以下の範囲内に調整すること、及び2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比を0.16以上0.30以下の範囲内に調整することを含む、ほうじ茶飲料の製造方法にも関する。
【0011】
本発明はさらに、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比を0.25以上1.1以下の範囲内に調整すること、及び2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比を0.16以上0.30以下の範囲内に調整することを含む、ほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法にも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、香り立ち、及び味の厚みが良好なほうじ茶飲料を提供することが可能になる。本発明によればまた、香り立ち、及び味の厚みが良好なほうじ茶飲料を得ることのできるほうじ茶飲料の製造方法を提供することが可能となる。本発明によればさらに、ほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比(単糖/二糖比)が、0.25以上1.1以下の範囲内にある。単糖/二糖比がこの範囲内にあると、単糖/二糖比がこの範囲外にあるほうじ茶飲料と比較して、香り立ちが向上すると共に味の厚みが向上する。
【0015】
本明細書においてほうじ茶飲料とは、一般にほうじ茶飲料として分類されるものであればよく、ほうじ茶茶葉を抽出して得られるほうじ茶抽出物を含む液体である。ほうじ茶飲料は、ほうじ茶抽出物に加え、例えば、種々の添加物、水等を含んでいてもよい。ほうじ茶茶葉は、例えば、煎茶等の緑茶の製造工程において蒸熱に代えて炒って製造した茶葉であってよい。ほうじ茶茶葉は、公益社団法人日本茶業中央会が「緑茶の表示基準」(平成31年3月18日改正)において定めるほうじ茶、すなわち、煎茶や番茶などを強い火で焙って製造したものであってもよい。ほうじ茶抽出物は、液状であってもよく、粉末状等の固形状であってもよい。ほうじ茶抽出物は、ほうじ茶茶葉を抽出して得られる抽出液の濃縮物であってもよい。
【0016】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、単糖/二糖比が0.25以上1.1以下の範囲内にあればよい。単糖/二糖比の下限は、香り立ち、及び味の厚みがより一層良好になるという観点から、0.3以上であることがより好ましい。単糖/二糖比の上限は、香り立ち、及び味の厚みがより一層良好になるという観点から、1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることが更に好ましく、0.7以下であることが更により好ましく、0.6以下であることが特に好ましい。単糖/二糖比の具体的な範囲としては、例えば、0.25以上0.9以下であってよく、0.3以上0.9以下であってもよく、0.3以上0.6以下であってもよい。
【0017】
単糖/二糖比は、下記式1により算出される値である。
(式1):単糖/二糖比=(ほうじ茶飲料に含まれるフルクトースの量+ほうじ茶飲料に含まれるグルコースの量)/ほうじ茶飲料に含まれるスクロースの量
ほうじ茶飲料に含まれるフルクトース、グルコース及びスクロースの量(フルクトースの含有量、グルコースの含有量、及びスクロースの含有量)は、例えば、後述の実施例に記載の方法(単糖及び二糖の含有量等の分析の方法)により測定することができる。
【0018】
ほうじ茶飲料の単糖/二糖比は、例えば、ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させる方法、ほうじ茶抽出物にフルクトース、グルコース及び/又はスクロースを添加する方法などにより、調整することができる。インベルターゼは、スクロースをフルクトース及びグルコースに分解する酵素である。ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させることにより、ほうじ茶抽出物中のスクロースがフルクトース及びグルコースに変換されるので、スクロースの含有量を減少させると共にフルクトース及びグルコースの合計含有量を増加させることができる(単糖/二糖比が増加する。)。ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させる際には、所望の単糖/二糖比となるように酵素反応の程度を調節すればよい。また、本実施形態に係るほうじ茶飲料は、インベルターゼを作用させたほうじ茶抽出物と、インベルターゼを作用させていないほうじ茶抽出物とを混合することで、単糖/二糖比を調整してもよい。
【0019】
インベルターゼは、スクロースをフルクトース及びグルコースに分解する活性を有するものであれば、任意のものを使用することができる。また、市販されているインベルターゼを使用してもよい。具体的には、例えば、インベルターゼ(三菱ケミカルフーズ社製)、インベルターゼ(ノボノルディスクバイオインダストリー社製)、マキシンヴェルトL10000(日本シイベルヘグナー社製)、スミチーム(登録商標)INV(新日本化学工業社製)を挙げることができる。
【0020】
ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させる方法の具体例として、以下を例示できる。インベルターゼの使用量は、ほうじ茶抽出物を基準として、例えば、25unit/L以上75unit/L以下であってよく、30unit/L以上65unit/L以下であってもよい。なお、インベルターゼの使用量とは、1Lのほうじ茶抽出物に対して、所定の活性となるよう使用されるインベルターゼの量のことを言う。インベルターゼを作用させる際の温度(酵素反応温度)は、例えば、30℃以上80℃以下であってよく、40℃以上60℃以下であってもよい。インベルターゼを作用させる時間(酵素反応時間)は、例えば、10分以上6時間以下であってよく、20分以上2時間以下であってもよい。インベルターゼを作用させる際のほうじ茶抽出物のpHは、例えば、3.0以上6.5以下であってよく、4.5以上6.2以下であってもよい。ほうじ茶抽出物の原料となるほうじ茶茶葉の種類、使用量等に応じて、インベルターゼを作用させる条件を、例えば、上記例示した範囲内で設定することにより、所望の単糖/二糖比を有するほうじ茶飲料を調製することができる。
【0021】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、スクロース、グルコース及びフルクトースの合計含有量が、100mg/L以上200mg/L以下であってよい。当該合計含有量は、110mg/L以上180mg/L以下であってもよく、120mg/L以上160mg/L以下であってもよく、120mg/L以上150mg/L以下であってもよい。
【0022】
ほうじ茶飲料のスクロース、グルコース及びフルクトースの合計含有量は、例えば、加水、所定の茶葉の選定、茶葉の焙煎条件の調整、茶葉の抽出条件の調整、並びにスクロース、グルコース及び/又はフルクトースの添加等によって調整することができる。
【0023】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比(以下、「清涼香/焙煎香比」ともいう。)が、0.16以上0.30以下であることが好ましく、0.16以上0.25以下であることがより好ましく、0.16以上0.23以下であることが更に好ましい。清涼香/焙煎香比がこれらの範囲内にあると、香り立ちが向上すると共に味の厚みが向上するという本発明による効果がより一層顕著に奏される。なお、2,3,5-トリメチルピラジンは、焙煎香を有する香気成分であり、サリチル酸メチルは清涼香を有する香気成分である。
【0024】
清涼香/焙煎香比は、ほうじ茶飲料に含まれるサリチル酸メチルと2,3,5-トリメチルピラジンとのピーク面積比であり、下記式2により算出される値である。
(式2):清涼香/焙煎香比=ほうじ茶飲料に含まれるサリチル酸メチルのピーク面積/ほうじ茶飲料に含まれる2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積
ほうじ茶飲料に含まれるサリチル酸メチル及び2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積は、例えば、後述の実施例に記載の方法(2,3,5-トリメチルピラジン及びサリチル酸メチルの含有量等の分析の方法)により測定することができる。
【0025】
ほうじ茶飲料の清涼香/焙煎香比は、例えば、ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させる方法、並びにほうじ茶抽出物にサリチル酸メチル及び/又は2,3,5-トリメチルピラジンを添加する方法などにより、調整することができる。
【0026】
ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させることにより、スクロースがフルクトース及びグルコースに分解される量が増えるにつれて、サリチル酸メチルの含有量が増加する。このサリチル酸メチルの含有量の増加は極大を有しており、極大に達した後は、スクロースがフルクトース及びグルコースに分解される量が増えるにつれて減少する(試験例1~4参照)。一方で、2,3,5-トリメチルピラジンの含有量は変化しないため、ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させることにより、その作用の程度を調整することで、清涼香/焙煎香比を調整することができる。インベルターゼを作用させる方法の具体例としては、単糖/二糖比の説明で例示した各条件を挙げることができる。
【0027】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、インベルターゼを作用させたほうじ茶抽出物と、インベルターゼを作用させていないほうじ茶抽出物とを混合することで、清涼香/焙煎香比を調整してもよい。また、本実施形態に係るほうじ茶飲料は、単糖/二糖比を調整したうえで、必要に応じて例えば、サリチル酸メチル及び/又は2,3,5-トリメチルピラジンを添加することにより清涼香/焙煎香比を調整することが好ましい。
【0028】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、2,3,5-トリメチルピラジンの含有量が、1μg/L以上1000μg/L以下であってよい。2,3,5-トリメチルピラジンの含有量の上限は、500μg/L以下であってもよく、300μg/L以下であってもよく、150μg/L以下であってもよく、100μg/L以下であってもよい。
【0029】
ほうじ茶飲料の2,3,5-トリメチルピラジンの含有量は、例えば、加水、所定の茶葉の選定、茶葉の焙煎条件の調整、茶葉の抽出条件の調整、2,3,5-トリメチルピラジンの添加等によって調整することができる。
【0030】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、サリチル酸メチルの含有量が、1μg/L以上100μg/L以下であってよい。サリチル酸メチルの含有量の上限は、50μg/L以下であってもよく、30μg/L以下であってもよく、15μg/L以下であってもよい。
【0031】
ほうじ茶飲料のサリチル酸メチルの含有量は、ほうじ茶抽出物にインベルターゼを作用させる方法の他、例えば、加水、所定の茶葉の選定、茶葉の焙煎条件の調整、茶葉の抽出条件の調整、サリチル酸メチルの添加等によって調整することができる。
【0032】
サリチル酸メチル及び2,3,5-トリメチルピラジンの含有量は、以下の分析方法により測定することができる。すなわち、20mLのヘッドスペースバイアルに8mLの各ほうじ茶飲料及び40μLの内部標準液(5mg/Lのリナロール-d3)を添加し、密栓する。そして、密栓したバイアルを50℃で15分間振盪した後、SPME用ファイバー(Polydimethylsiloxane/Divynylbenzene 65μm:スペルコ社製)をバイアル中のヘッドスペースに露出させる。50℃で30分間揮発性成分をファイバーに吸着させた後、注入口で3分間脱着させGC/MSにより分析する。GC/MS分析の測定条件は以下のとおりとすることができる。
・分析機器:6890N GC、5973N MSD(アジレント・テクノロジー株式会社製)
・カラム:HP-1MS、30m(長さ)×0.25mm(内径)、1.0μm(膜厚)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
・注入モード:スプリットレス注入
・流量:1mL/分(定流量)
・注入口温度:270℃
・オーブン温度:40℃(3分)→5℃/分→200℃(0分:達温)→10℃/分→320℃(3分)
・MS検出器:SIM m/z 152(サリチル酸メチル)、124(リナロール-d3)、122(2,3,5-トリメチルピラジン)
なお、上述のSPME-GC-MS法においては、標準液を別途添加して作成した検量線を使用する標準添加法により測定することとしてもよい。また、夾雑物質の影響を受ける場合、及び/又は感度が不足する場合には、MS検出器でモニターするイオン、ファイバーの種類、吸着温度、吸着時間及びカラムの種類からなる群より選択される1以上の条件を適宜変更すること、及び/又は、GC/MS/MS又は2次元GC-MSを使用することが好ましい。
【0033】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、カフェインの含有量が、例えば、70mg/L以上200mg/L以下であってよく、100mg/L以上180mg/L以下であってもよく、120mg/L以上160mg/L以下であってよい。ほうじ茶飲料のカフェインの含有量の調整は、例えば、加水、所定の茶葉の選定、茶葉の焙煎条件の調整、茶葉の抽出条件の調整、カフェインの添加等によって行うことができる。
【0034】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、没食子酸の含有量が、例えば、1mg/L以上50mg/L以下であってよく、5mg/L以上40mg/L以下であってもよく、10mg/L以上30mg/L以下であってよい。ほうじ茶飲料の没食子酸の含有量の調整は、例えば、加水、所定の茶葉の選定、茶葉の焙煎条件の調整、茶葉の抽出条件の調整、没食子酸の添加等によって行うことができる。
【0035】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、総カテキン含有量が100mg/L以上400mg/L以下であってよく、150mg/L以上350mg/L以下であってもよく、150mg/L以上300mg/L以下であってもよい。総カテキン含有量とは、カテキン類(カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン及びエピガロカテキン)の含有量の合計量である。ほうじ茶飲料の総カテキン含有量の調整は、例えば、加水、所定の茶葉の選定、茶葉の焙煎条件の調整、茶葉の抽出条件の調整、カテキン類の添加等によって行うことができる。
【0036】
カフェイン、没食子酸、及びカテキン類の含有量は、例えば、後述の実施例に記載の方法(カフェイン、没食子酸及びカテキン類の含有量等の分析の方法)により測定することができる。
【0037】
本実施形態に係るほうじ茶飲料のpHは、例えば、5.5~6.5であってよい。
【0038】
本実施形態に係るほうじ茶飲料には、本発明の効果に影響を与えない程度において、飲料用として公知の添加剤等を含有させることができる。添加剤等としては、特に限定されないが、例えば、重曹、アスコルビン酸、酸化防止剤、香料、各種エステル剤、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、保存料、調味料、高甘味度甘味料、酸味料、果汁エキス類、乳類、pH調整剤、難消化デキストリン、品質安定剤などを使用することができる。添加剤は、単独又は併用して配合することができる。
【0039】
本実施形態に係るほうじ茶飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は、例えば、ペットボトル、紙パック、金属缶、ガラスビン等であってよい。
【0040】
ほうじ茶飲料の製造において、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比を0.25以上1.1以下に調整することによって、ほうじ茶飲料の香り立ちが向上すると共に味の厚みが向上する。したがって、本発明は、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比を0.25以上1.1以下の範囲内に調整することを含む、ほうじ茶飲料の香り立ち、及び味の厚みを向上させる方法と捉えることもできる。当該方法は、2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比を0.16以上0.30以下の範囲内に調整することを更に含んでいてもよい。当該方法における具体的な態様等は、上述したとおりである。
【0041】
本発明はまた、スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比を0.25以上1.1以下の範囲内に調整することとを含む、ほうじ茶飲料の製造方法と捉えることもできる。当該製造方法は、2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比を0.16以上0.30以下の範囲内に調整することを更に含んでいてもよい。当該製造方法における具体的な態様等は、上述したとおりである。
【実施例
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0043】
(ほうじ茶抽出物の調製)
摘採後の茶葉(1番茶)を、荒茶加工し、回転ドラム型焙煎機にて焙煎加工を施した。得られた茶葉9gを90℃の熱水、抽出時間8分、よく比27倍の条件にて抽出した。この抽出液を1μmのカートリッジフィルタにより濾過処理をし、ほうじ茶抽出物を得た。
【0044】
(インベルターゼ処理)
得られたほうじ茶抽出物に対し、インベルターゼ(三菱ケミカルフーズ社製,力価625unit/g)を0ppm(試験例1)、50ppm(試験例2)、100ppm(試験例3)又は150ppm(試験例4)となるように添加し、32℃で20分間、酵素反応を行った。この場合におけるインベルターゼの使用量は、0unit/L(試験例1)、31.3unit/L(試験例2)、62.5unit/L(試験例3)、93.8unit/L(試験例4)となる。なお、1ppmは、1mg/Lと同義である。酵素反応後、直ちに食品衛生法の基準の条件にて殺菌処理して酵素を失活させた。その後、室温まで冷却して、試験例1~4のほうじ茶飲料を得た。
【0045】
調製したほうじ茶飲料のpHをpHメーター(F-72、株式会社堀場製作所製)で測定した。ほうじ茶飲料のpHはいずれも6.0±0.3であった。
【0046】
(含有量等の分析)
試験例1~4のほうじ茶飲料について、単糖、二糖、カテキン類、カフェイン及び没食子酸の含有量、並びに2,3,5-トリメチルピラジンとサリチル酸メチルとのピーク面積比を分析した。分析方法は、下記に示すとおりである。分析結果は表1にまとめて示した。
【0047】
<単糖及び二糖>
各ほうじ茶飲料を、0.45μmの酢酸セルロースフィルターでろ過したものを、以下の条件で分析して求めた。定量は絶対検量線法で実施した。
使用機器:Ultimate3000 LC(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
検出器:コロナCAD検出器
カラム:Asahipak NH2P-50(4.6×250mm)(Shodex社製)
移動相A:超純水
移動相B:アセトニトリル
カラム温度:40℃
注入量:5μL
流速:1mL/min
グラジエントB:75%(0min)-75%(30min)-10%(45min)-10%(60min)
【0048】
<2,3,5-トリメチルピラジン及びサリチル酸メチル>
塩化ナトリウム3gを予め入れた20mLのヘッドスペースバイアルに8mLの各ほうじ茶飲料を密栓した。密栓したバイアルを50℃で15分間振盪した後、SPME用ファイバー(Polydimethylsiloxane/Divynylbenzene 65μm:スペルコ社製)をバイアル中のヘッドスペースに露出させた。50℃で30分間揮発性成分をファイバーに吸着させた後、注入口で3分間脱着させGC/MSにより分析した。GC/MS分析の測定条件は以下のとおりであった。
・分析機器:7890B GC、5977 MSD(アジレント・テクノロジー株式会社製)
・カラム:InertCap Pure-WAX、30m(長さ)×0.25mm(内径)、0.25μm(膜厚)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
・注入モード:スプリットレス注入
・流量:1mL/分(定流量)
・注入口温度:270℃
・オーブン温度:40℃(3分)→5℃/分→250℃(5分:達温)
2,3,5-トリメチルピラジンピーク(m/z 122)の面積値とサリチル酸メチルピーク(m/z 120)の面積値から面積比(サリチル酸メチル/2,3,5-トリメチルピラジン)を求めた。
【0049】
<カテキン類及びカフェイン>
各ほうじ茶飲料を、超純水で10倍希釈し、0.45μmの親水性混合セルロースエステルフィルターでろ過したものを測定試料とした。測定にはHPLC(島津prominence、株式会社島津製作所製)を用いた。測定条件は下記のとおりとした。
カラム:WakoPak Navi C18-5、4.6×150mm(富士フィルム和光純薬株式会社製)
注入量:20μL
流量:1mL/分
移動相A:超純水:リン酸:アセトニトリル=1000:2.5:2.5(v/v/v)
移動相B:メタノール
0~2分:移動相A93.3%、移動相B6.7%→37分:移動相A73.3%、移動相B26.7%→37.1~47分:移動相A0%、移動相B100%→47.1~55分:移動相A93.3%、移動相B6.7%
ストップタイム:55分
ポストタイム:0分
オーブン温度:40℃
UV検出器波長:測定242nm及び272nm
蛍光検出器:励起波長280nm、蛍光波長310nm
定量方法:絶対検量線法
【0050】
<没食子酸>
0.45μmの親水性PTFEフィルターでろ過したものを測定試料とした。測定にはHPLC(Agilent1260 LC,アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。測定条件は下記のとおりとした。
カラム:Sunshell C18、4.6mm×250mm、5μm(株式会社クロマニックテクノロジーズ社製)
注入量:20μL
流量:1mL/分
移動相A:リン酸:超純水=2.5:1000
移動相B:メタノール
0~5分:移動相A95%、移動相B5%→25分:移動相A80%、移動相B20%→30分:移動相A0%、移動相B100%
ストップタイム:35分
ポストタイム:15分
オーブン温度:40℃
UV検出器波長:測定280nm、幅4nm
定量方法:絶対検量線法
【0051】
(官能評価)
訓練されたパネル5名が試験例1~4のほうじ茶飲料を飲用し、「香り立ち」、「味の厚み」及び「総合評価」を評価した。
【0052】
「香り立ち」の評価では、「香り立ちが良い」を5点、「香り立ちが悪い」を1点とし、試験例1のほうじ茶飲料の評点を3点として5段階評価(1~5点)で評点を付けた。「味の厚み」の評価では、「味の厚みがある」を5点、「味の厚みがない」を1点とし、試験例1のほうじ茶飲料の評点を3点として5段階評価(1~5点)で評点を付けた。「総合評価」の評価では、「ほうじ茶飲料としての風香味のバランスがよい」を5点、「ほうじ茶飲料としての風向味のバランスが悪い」を1点とし、試験例1のほうじ茶飲料の評点を3点として5段階評価(1~5点)で評点を付けた。なお、風香味のバランスは、香り立ちと味の厚みとのバランスで評価した。
【0053】
各評価項目について、パネル5名の評点の平均値を評価結果とした。評価結果を表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
スクロースの含有量に対するグルコースとフルクトースの合計含有量の比が、0.25以上1.1以下であり、また2,3,5-トリメチルピラジンのピーク面積に対するサリチル酸メチルのピーク面積の比が、0.16以上0.30以下であるほうじ茶飲料(試験例2及び試験例3)は、香り立ち、及び味の厚みが良好であり、飲料としての総合評価も高かった。