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特許7430099マット材、排ガス浄化装置及びマット材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】マット材、排ガス浄化装置及びマット材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/28 20060101AFI20240202BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240202BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
F01N3/28 311P
F01N3/28 311S
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J23/42 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020071738
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021167594
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】川辺 貴之
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-132156(JP,A)
【文献】特表2013-505390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
B01D 53/94
B01J 23/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長0.5mm以上の長繊維からなるマットを含むマット材であって、
前記マット材の少なくとも一方の主面に、平均繊維長0.5mm未満の短繊維からなる短繊維層を備えることを特徴とするマット材。
【請求項2】
前記短繊維層は、前記マット材の両方の主面に設けられている請求項1に記載のマット材。
【請求項3】
前記短繊維の平均アスペクト比が3以上である請求項1又は2に記載のマット材。
【請求項4】
前記短繊維の平均アスペクト比が40以下である請求項3に記載のマット材。
【請求項5】
前記短繊維層の面比重は5~4000g/mである請求項1~4のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項6】
前記マットの少なくとも一方の主面に平滑層が設けられ、前記平滑層上に前記短繊維層を備える請求項1~5のいずれか1項に記載のマット材。
【請求項7】
前記平滑層上に接着剤層が設けられており、前記接着剤層により前記短繊維層が前記平滑層上に保持されている請求項6に記載のマット材。
【請求項8】
排ガス処理体と、
前記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、
前記排ガス処理体と前記金属ケーシングとの間に配置され、前記排ガス処理体を保持するマット材とを備える排ガス浄化装置であって、
前記マット材は、請求項1~7のいずれか1項に記載のマット材であり、
前記マット材の前記短繊維層が設けられた側の面が、金属ケーシング側に配置されることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項9】
平均繊維長0.5mm以上の長繊維からなるマットを含むマット材の製造方法であって、
前記マット材の少なくとも一方の主面に、平均繊維長0.5mm未満の短繊維からなる短繊維層を設ける工程を有することを特徴とするマット材の製造方法。
【請求項10】
前記マットの少なくとも一方の主面に平滑層を設ける工程と、前記平滑層上に前記短繊維層を設ける工程と、を有する請求項9に記載のマット材の製造方法。
【請求項11】
前記平滑層が両面テープであり、両面テープの粘着力によりマット上に平滑層が固定される請求項10に記載のマット材の製造方法。
【請求項12】
前記平滑層上に接着剤層を設け、前記接着剤層上に短繊維を付与することによって短繊維層を設ける請求項10又は11に記載のマット材の製造方法。
【請求項13】
前記短繊維層を形成する短繊維を、繊維の粉砕によって得る請求項9~12のいずれか1項に記載のマット材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット材、排ガス浄化装置及びマット材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、排ガス処理体と金属ケーシングとの間に配設される保持シール材(マット材)とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。この保持シール材(マット材)は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆う金属ケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体と金属ケーシングとの間から排ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0004】
このような排ガス浄化装置に高圧の排ガスが流入すると、排ガス処理体が排ガスに押され金属ケーシングから脱落してしまうという問題がある。
【0005】
特許文献1には、このような排ガス処理体の脱落を防止するために、マット材(保持材料)の表面に無機コロイド粒子を配置し、マット材と、マット材が接触する対象物との間の摩擦係数を増加させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-508044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが特許文献1に記載のマット材についてマット材と金属ケーシングとの間の摩擦係数を測定した結果、想定よりも摩擦係数が小さくなっていた。
本発明者らはこの理由について以下のように推定した。
【0008】
特許文献1に記載されたようなマット材は、その主面が金属ケーシングと接するように使用される。そして、マット材が金属ケーシングと接する面と金属ケーシングの表面の間で摩擦力が発生すると考えられる。
しかし、マット材の表面を微視的に見ると、マット材を構成する無機繊維は互いに絡み合っているために、マット材の表面は一様な面をなしているものではない。
そして、マット材の表面を微視的に見た場合に、マット材の表面における無機繊維が占める面積はマット材の面積に比べると少ない。そのため、実際には金属ケーシングの表面に対して無機繊維は点接触のような形で接しているものと考えられる。
【0009】
また、特許文献1では無機繊維の表面に無機コロイド粒子を配置している。粒子は面に対して点接触するので、無機繊維の表面に無機コロイド粒子が配置されたとしても、マット材は金属ケーシングの表面に対して点接触で接するものと考えられる。
【0010】
マット材が金属ケーシングの表面に点接触で接していると、マット材と金属ケーシングの表面が実際に接する面積が小さくなる。この場合、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数は、マット材と金属ケーシングが面接触していると想定した場合の摩擦係数よりも小さくなる。
【0011】
すなわち、上記のような理由により、特許文献1に記載のマット材を使用した場合に、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数が想定よりも小さくなるものと考えられる。
【0012】
本発明は、上記のような問題を鑑みてなされたものであり、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数を高くすることができる構造のマット材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のマット材は、平均繊維長0.5mm以上の長繊維からなるマットを含むマット材であって、上記マット材の少なくとも一方の主面に、平均繊維長0.5mm未満の短繊維からなる短繊維層を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明のマット材は、その主面において短繊維層を備える。
短繊維層を構成する短繊維同士は絡み合わずに、マット材の主面において倒れた状態となる。
このような場合、短繊維は金属ケーシングの表面に対して線接触することができるので、無機繊維が金属ケーシングの表面に対して点接触する場合に比べてマット材と金属ケーシングの表面が実際に接触する面積が大きくなる。その結果、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数を高くすることができる。
【0015】
本発明のマット材では、上記短繊維層は、上記マット材の両方の主面に設けられていることが好ましい。
マットの両方の主面に短繊維層を設けておくと、マット材のどちらの面においても高い摩擦係数を発揮させることができる。また、使用時にマット材の表裏を区別する必要がないので便利である。
【0016】
本発明のマット材では、上記短繊維の平均アスペクト比が3以上であることが好ましい。
短繊維の平均アスペクト比が3未満となるぐらいに低いと、短繊維の形状が粒子状に近づき、無機繊維の表面に無機コロイド粒子を配した場合に近い表面状態となる。その結果、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数が低くなってしまうことがある。
【0017】
本発明のマット材では、上記短繊維の平均アスペクト比が40以下であることが好ましい。
短繊維の平均アスペクト比が40を超えるぐらいに高いと、短繊維の形状が長繊維の形状に近づき、短繊維同士の絡み合いが増加する。その場合、マット材の表面を微視的に見た場合に、マット材の表面における無機繊維が占める割合が低下するのでマット材と金属ケーシングの間の摩擦係数が低くなってしまうことがある。
【0018】
本発明のマット材では、上記短繊維層の面比重は5~4000g/mであることが好ましい。
【0019】
本発明のマット材では、上記マットの少なくとも一方の主面に平滑層が設けられ、上記平滑層上に上記短繊維層を備えることが好ましい。
長繊維からなるマットの表面には凹凸が存在しているが、平滑層が設けられているとその凹凸の影響が除去される。そして、平滑層の上に短繊維層が設けられていることにより、短繊維の向きがマット材の主面で倒れる向きに揃いやすくなるので、短繊維層を設けることによる効果がより好適に発揮される。
【0020】
本発明のマット材では、上記平滑層上に接着剤層が設けられており、上記接着剤層により上記短繊維層が上記平滑層上に保持されていることが好ましい。
【0021】
短繊維層が接着剤層により平滑層上に保持されていると、短繊維層がマット材から分離してしまうことが防止されるので、短繊維層を設けた効果が安定して発揮される。
【0022】
本発明の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、上記排ガス処理体と上記金属ケーシングとの間に配置され、上記排ガス処理体を保持するマット材とを備える排ガス浄化装置であって、上記マット材は、本発明のマット材であり、上記マット材の上記短繊維層が設けられた側の面が、金属ケーシング側に配置されることを特徴とする。
【0023】
一般的に、金属ケーシングの表面と排ガス処理体の表面の状態を比べると、金属ケーシングの表面の方が平滑であるので滑りやすい。そのため、マット材と金属ケーシングとの間の摩擦係数を向上させる必要性が高い。マット材の短繊維層が設けられた面が金属ケーシング側に設けられていると、短繊維層を設けることによってマット材と接する部材、すなわち金属ケーシングとの間の摩擦係数を高める効果を好適に発揮することができる。
【0024】
本発明のマット材の製造方法は、平均繊維長0.5mm以上の長繊維からなるマットを含むマット材の製造方法であって、上記マット材の少なくとも一方の主面に、平均繊維長0.5mm未満の短繊維からなる短繊維層を設ける工程を有することを特徴とする。
【0025】
本発明のマット材の製造方法においては、上記マットの少なくとも一方の主面に平滑層を設ける工程と、上記平滑層上に上記短繊維層を設ける工程と、を有することが好ましい。
【0026】
本発明のマット材の製造方法においては、上記平滑層が両面テープであり、両面テープの粘着力によりマット上に平滑層が固定されることが好ましい。
【0027】
本発明のマット材の製造方法においては、上記平滑層上に接着剤層を設け、上記接着剤層上に短繊維を付与することによって短繊維層を設けることが好ましい。
【0028】
本発明のマット材の製造方法においては、上記短繊維層を形成する短繊維を、繊維の粉砕によって得ることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すマット材の層構造を模式的に示す斜視断面図である。
図3図3は、本発明のマット材の別の一例の層構造を模式的に示す斜視断面図である。
図4図4は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図5図5は、マット材の摩擦係数測定装置を示す概略図である。
図6図6は、マット材の摩擦係数測定装置を示す概略図である。
【0030】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明のマット材について詳述する。
本発明のマット材は、平均繊維長0.5mm以上の長繊維からなるマットを含むマット材であって、上記マット材の少なくとも一方の主面に、平均繊維長0.5mm未満の短繊維からなる短繊維層を備えることを特徴とする。
【0031】
図1は、本発明のマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、図1に示すマット材の層構造を模式的に示す斜視断面図である。
【0032】
図1には、平面視矩形である本発明のマット材1を示す。
マット材の平面視形状は矩形に限定されるものではなく、使用する場所に合わせて他の形状であってもよい。
また、マット材1を対象物に巻き付ける際に、端部同士が嵌合するように、マット材1の一方の端部2には凸部2aが設けられており、他方の端部3に凹部3aが設けられている。
このような凸部2a及び凹部3aが設けられていると、マット材1を後述する排ガス浄化装置に配置した際に、シール性が向上する。
なお、本発明のマット材は、マット材の端部に凸部及び凹部を有していなくてもよい。
また、マット材の端部の形状はL字形状であって、マット材を対象物に巻き付けた際に端部同士が嵌合するようになっていてもよい。
【0033】
マット材1は、図1及び図2に示すように、マット10と、マット10の第1の主面11に設けられた平滑層20と、平滑層20の上に設けられた短繊維層30を有する。
マット10は平均繊維長0.5mm以上の長繊維からなり、第1の主面11と第2の主面12を有する平面視矩形のマットである。
マット10は、マット材1と同様にその端部に凸部と凹部を有している。
【0034】
マットはその主面において長繊維が絡み合って露出しているため、マットの主面は凹凸を有する形状である。そのため、マットの主面は平滑面である金属ケーシングの表面に接したときに点接触で接するような面となっている。
【0035】
マットを構成する長繊維は、無機繊維であることが好ましい。
無機繊維は特に限定されず、アルミナ繊維、アルミナ-シリカ繊維、シリカ繊維、生体溶解性繊維、グラスウール、ロックウール等が挙げられる。これらの中では、アルミナ-シリカ繊維であることが好ましい。
これらの無機繊維は耐熱性が高く、このような無機繊維により形成されたマット材は、温度変化によって形状変化しにくい。
【0036】
さらに、無機繊維がアルミナ-シリカ繊維である場合、アルミナとシリカの組成比は、重量比でアルミナ(Al):シリカ(SiO)=60:40~80:20であることが好ましく、アルミナ(Al):シリカ(SiO)=70:30~74:26であることがより好ましい。
【0037】
長繊維の平均繊維長は0.5mm以上である。長繊維の平均繊維長は1~150mmであることが好ましく、10~80mmであることがより好ましい。
長繊維の平均繊維長が0.5mm未満であると、無機繊維の繊維長が短すぎるため、無機繊維同士の交絡が不充分となり、マットの強度が得られにくくなり、マットの形状保持性が低下しやすくなる。
【0038】
長繊維の平均繊維径は、1~20μmであることが好ましく、2~15μmであることがより好ましく、3~10μmであることがさらに好ましい。
長繊維の平均繊維径が1μm未満であると、破断荷重が低く、衝撃等により無機繊維が破断されやすくなる。
長繊維の平均繊維径が20μmを超えると、繊維内部の欠陥が出来やすく無機繊維の強度が低下し、排ガス処理体を保持するマット材としての面圧値が低くなる。
【0039】
長繊維の平均繊維長及び平均繊維径は、マットのSEM(走査型電子顕微鏡)観察において視野内の任意の無機繊維を100本観察することにより求める。
【0040】
マットの面比重は500~4000g/mであることが好ましい。
また、後述する短繊維層の面比重に比べてマットの面比重は小さくてもよく、大きくてもよい。
【0041】
上述したようにマットの主面は凹凸を有する形状である。
平滑層がこのようなマットの主面に設けられていると、マットの主面の凹凸が緩和されて平滑な面が得られる。
平滑層としては、平滑な面を有する樹脂フィルム、樹脂接着剤、無機接着剤等が挙げられる。
樹脂フィルムは両面テープの基材フィルムであってもよく、PEフィルム、PPフィルム、PVCフィルム、PETフィルム等が挙げられる。
【0042】
平滑層はマットの少なくとも一方の主面に設けられていればよい。また、マットの両方の主面に設けられていてもよい。
そして、平滑層上には短繊維層を備えていることが好ましい。
また、マット材に平滑層が設けられていなくてもよい。
【0043】
平滑層上には接着剤層が設けられていてもよく、接着剤層により短繊維層が平滑層上に保持されていてもよい。
なお、図1及び図2では平滑層と短繊維層の間に設けられた接着剤層の図示は省略している。
接着剤層は、両面テープの粘着層であってもよい。
また、接着剤層は、平滑層上に別途付与されたスプレーのり等の層であってもよい。
両面テープの粘着層を接着剤層とした場合に短繊維層を保持する接着力が不足する場合にはスプレーのりからなる接着剤層を別途付与することが好ましい。
また、マットの表面に短繊維を配置した後に外からスプレーのりでコーティングすることによってマット材の形状を固めたものであってもよい。この場合、短繊維層と接着剤層が一体化した層となる。
【0044】
短繊維層は、平均繊維長0.5mm未満の短繊維からなる層である。
短繊維層はマット材の少なくとも一方の主面に設けられている。
また、短繊維層がマット材の両方の主面に設けられていてもよい。
短繊維層を構成する短繊維同士は絡み合わずに、マット材の主面において倒れた状態となる。
このような場合、短繊維は金属ケーシングの表面に対して線接触することができるので、無機繊維が金属ケーシングの表面に対して点接触する場合に比べてマット材と金属ケーシングの表面が実際に接触する面積が大きくなる。その結果、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数を高くすることができる。
また、短繊維層を構成する短繊維の平均繊維長が0.2mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましい。
【0045】
短繊維の平均繊維径は、1~20μmであることが好ましく、2~15μmであることがより好ましく、3~10μmであることがさらに好ましい。
短繊維の平均繊維径は、長繊維の平均繊維径と同じであってもよい。
長繊維を粉砕して製造した短繊維を使用した場合は、短繊維と長繊維の平均繊維径はほぼ同様となる。
【0046】
短繊維は平均アスペクト比が3以上であることが好ましい。
また、アスペクト比がほぼ1である無機粒子と短繊維は明確に区別される。
また、短繊維は平均アスペクト比が40以下であることが好ましい。
【0047】
短繊維の平均繊維長及び平均繊維径は、短繊維層のSEM(走査型電子顕微鏡)観察において視野内の任意の無機繊維を100本観察することにより求める。
短繊維の平均アスペクト比は、短繊維の平均繊維長/平均繊維径の比で表される。
【0048】
短繊維層はその面比重が5~4000g/mであることが好ましい。
短繊維層では無機繊維同士が絡み合わずに存在しているため、長繊維からなるマットよりも緻密な層となる。
すなわち、短繊維層の嵩密度がマットの嵩密度よりも大きくなる。
【0049】
短繊維となる無機繊維の種類は特に限定されないが、長繊維となる無機繊維と同じ無機繊維を使用することが好ましい。
また、短繊維は長繊維である無機繊維を粉砕して得られた粉砕繊維であることが好ましい。
【0050】
図3は、本発明のマット材の別の一例の層構造を模式的に示す斜視断面図である。
図3には、マット10と、マット10の第1の主面11に設けられた短繊維層30とからなるマット材101を示している。
マット材101は平滑層を有していない点で図1及び図2に示すマット材1と異なる。
マット10と短繊維層30をそれぞれ構成する長繊維及び短繊維としては、図1及び図2に示すマット材1と同様のものを使用することができる。
【0051】
平滑層を有していないマット材においても、マット材の主面に短繊維層を備えていると、短繊維は金属ケーシングの表面に対して線接触することができるので、無機繊維が金属ケーシングの表面に対して点接触する場合に比べてマット材と金属ケーシングの表面が実際に接触する面積が大きくなる。その結果、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数を高くすることができる。
【0052】
短繊維をマット材の主面に保持させるために、マットと短繊維層の間に接着剤層が設けられていてもよい。
接着剤層はマットの表面に付与されたスプレーのりであってもよい。また、短繊維にスプレーのりを付与しておき、その短繊維をマット状に配置することによってマットと短繊維を接着させて接着剤層が設けられていてもよい。
また、マットの表面に短繊維を配置した後に外からスプレーのりでコーティングすることによってマット材の形状を固めたものであってもよい。
【0053】
次に、本発明のマット材の製造方法について説明する。
本発明のマット材の製造方法は、平均繊維長0.5mm以上の長繊維からなるマットを含むマット材の製造方法であって、上記マット材の少なくとも一方の主面に、平均繊維長0.5mm未満の短繊維からなる短繊維層を設ける工程を有することを特徴とする。
【0054】
本発明のマット材を構成するマットは、種々の方法により得ることができるが、例えば、抄造法又はニードリング法により製造することができる。
抄造法の場合、例えば、以下の方法により製造することができる。
無機繊維を開繊し、開繊した無機繊維を溶媒中に分散させて混合液とする。底面にろ過用のメッシュが形成された成形器に混合液を流し込み、混合液中の溶媒を脱溶媒処理することで無機繊維集合体を得る。そして、無機繊維集合体を乾燥することによりマットを得ることができる。
ニードリング法の場合、例えば、以下の方法により製造することができる。
塩基性塩化アルミニウム水溶液とシリカゾル等とを原料とする紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して無機繊維前駆体を作製する。続いて、上記無機繊維前駆体を圧縮して所定の大きさの連続したシート状物を作製し、焼成処理を施すことによりマットを得ることができる。この焼成処理の前後のいずれかにニードルパンチング処理を行い、無機繊維同士を交絡させる。
【0055】
この過程で得られる無機繊維を、その平均繊維長が0.5mm以上の長繊維となるようにマットの製造条件を調整する。
【0056】
続いて、短繊維層を設ける。
短繊維層を設ける際には、マットの少なくとも一方の主面に平滑層を設け、平滑層上に短繊維層を設けることが好ましい。
平滑層を設けてその上に短繊維層を設けて得られるマット材は、図1及び図2に示すようなマット材となる。
【0057】
平滑層と短繊維層を設ける場合、マットの少なくとも一方の主面に平滑層を設けて、平滑層の上に短繊維を撒く方法が挙げられる。
平滑層が両面テープである場合、マットの主面に両面テープを貼り付け、両面テープの表面に短繊維を撒いて短繊維層を形成することができる。
平滑層が両面テープである場合、両面テープの接着力によりマット上に平滑層が固定される。
また、マットの主面に両面テープを貼り付け、スプレーのりを両面テープの粘着層の上に散布して接着剤層を設けてから、短繊維を撒いて短繊維層を形成してもよい。
【0058】
短繊維は、繊維の粉砕によって得ることが好ましい。
特に、マットを構成する長繊維を粉砕して短繊維を得ることが好ましい。
繊維の粉砕には油圧プレス機等の装置を使用することができる。
繊維を粉砕してその平均繊維長が0.5mm未満となるようにする。
短繊維にはスプレーのりを散布して短繊維自体に接着力を付与するようにしてもよい。
【0059】
平滑層を設けずに短繊維層を設けてもよい。
この場合に得られるマット材は図3に示すようなマット材となる。
【0060】
短繊維層をマットの表面に設ける場合、短繊維をマット材の主面に保持させるために、マットと短繊維層の間に接着剤層を設けてもよい。
マットの表面にスプレーのりを散布して接着剤層とし、その上に短繊維を撒くことで短繊維層を形成することができる。
また、短繊維にスプレーのりを散布して短繊維自体に接着力を付与しておき、短繊維をマットの表面に撒くことで短繊維層を形成することができる。
また、マットの表面に短繊維を配置した後に外からスプレーのりでコーティングすることによってマット材の形状を固めて短繊維層を形成してもよい。
上記の工程により、本発明のマット材を得ることができる。
【0061】
以下、本発明の排ガス浄化装置について説明する。
本発明の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容する金属ケーシングと、上記排ガス処理体と上記金属ケーシングとの間に配置され、上記排ガス処理体を保持するマット材とを備える排ガス浄化装置であって、上記マット材は、本発明のマット材であり、上記マット材の上記短繊維層が設けられた側の面が、金属ケーシング側に配置されることを特徴とする。
【0062】
図4は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、本発明の排ガス浄化装置100は、金属ケーシング50と、金属ケーシング50に収容された排ガス処理体40と、排ガス処理体40及び金属ケーシング50の間に配設されたマット材1とを備えている。
【0063】
排ガス処理体40は、多数のセル41がセル壁42を隔てて長手方向に並設された柱状のものである。セルはその一方の端部が封止材43により封止されている。
なお、金属ケーシング50の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と、排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることとなる。
【0064】
上述した構成を有する排ガス浄化装置100を排ガスが通過する場合について、図4を参照して以下に説明する。
図4に示すように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置100に流入した排ガス(図4中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)40の排ガス流入側端面に開口した一のセル41に流入し、セル41を隔てるセル壁42を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁42で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス流出側端面に開口した他のセル41から流出し、外部に排出される。
【0065】
図4に示す排ガス浄化装置100では、マット材1は本発明のマット材であり、マット材1を構成するマット10側の面が排ガス処理体40の側に配置され、短繊維層30側の面が金属ケーシング50の側に配置されている。
【0066】
一般的に、金属ケーシングの表面と排ガス処理体の表面の状態を比べると、金属ケーシングの表面の方が平滑であるので滑りやすい。そのため、マット材と金属ケーシングとの間の摩擦係数を向上させる必要性が高い。マット材の短繊維層が設けられた面が金属ケーシング側に設けられていると、短繊維層を設けることによってマット材と接する部材、すなわち金属ケーシングとの間の摩擦係数を高める効果を好適に発揮することができる
【0067】
本発明の排ガス浄化装置を構成する金属ケーシングの材質は、耐熱性を有する金属であれば特に限定されず、具体的には、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属類が挙げられる。
【0068】
また、ケーシングの形状は、略円筒型形状の他、クラムシェル型形状、ケーシング断面において略楕円型形状、略多角形型形状等を好適に用いることができる。
【0069】
なお、図4に示す排ガス処理体40は、セル41のいずれか一方の端部が封止材43で封止されているフィルタであるが、本発明の排ガス浄化装置を構成する排ガス処理体は、セルの端部が封止されていなくてもよい。このような排ガス処理体は、触媒担体として好適に使用することが可能となる。
【0070】
排ガス処理体40は、炭化珪素や窒化珪素などの非酸化物多孔質セラミックからなっていてもよく、アルミナ、コージェライト、ムライト等の酸化物多孔質セラミックからなっていてもよい。これらの中では、炭化珪素であることが好ましい。
【0071】
排ガス処理体40の断面におけるセル密度は、特に限定されないが、好ましい下限は、31.0個/cm(200個/inch)、好ましい上限は、93.0個/cm(600個/inch)である。また、より好ましい下限は、38.8個/cm(250個/inch)、より好ましい上限は、77.5個/cm(500個/inch)である。
【0072】
排ガス処理体40には、排ガスを浄化するための触媒を担持させてもよく、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が好ましく、この中では、白金がより好ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いることもできる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0073】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
ニードリング法により、面比重(単位面積当たりの繊維重量)が1050g/mである、無機繊維(ムライト繊維)からなる無機繊維成形体を作製した。
このシート状部材を直径46mmの円形に打ち抜いた。
この部材がマット材におけるマットに相当する。
マットを構成する無機繊維の平均繊維長は4mm、平均繊維径は6.5μmであった。
無機繊維(長繊維)のアスペクト比は615である。
【0075】
マットの製造に使用したものと同じ無機繊維成形体を50g計量し、内径100mmの底付き円筒状シリンダーに計量された無機繊維成形体を入れて、2058N/cmの圧力で圧縮した。いったん圧力を開放してシリンダー内の無機繊維成形体をほぐした後、再び同じ圧力で無機繊維成形体を圧縮した。
当該操作により無機繊維を粉砕して短繊維を得た。
短繊維の平均繊維長は53.4μm(0.0534mm)であった。
短繊維のアスペクト比は8.2である。
【0076】
両面テープを直径46mmの円形に打ち抜き、マットに貼り付けた。
両面テープの離型紙を剥がし、両面テープの粘着層の上からスプレーのりを塗布した。
塗布したスプレーのりを覆うように、上記手順で作製した短繊維をまぶして短繊維層を形成した。
短繊維層の面比重は258g/mであった。
【0077】
(摩擦係数の測定)
以下の方法により、実施例1のマット材について、摩擦係数を測定した。
図5及び図6は、マット材の摩擦係数測定装置を示す概略図である。
摩擦係数測定装置200では、装置の左右に、ステンレス鋼製の平板(左板210及び右板220)がそれぞれ対向するように配置されている。また、左板210はロードセルとなっており、左板210の右側の面(マット材と接する側の面)に加わる荷重を測定することができる。
【0078】
まず、左板210、マット材1a、ステンレス鋼製の平板(中板230)、マット材1b、右板220の順になるように、2枚のマット材1a及び1bと中板230とを配置した。
左板210とマット材1aの間、及び、右板220とマット材1bの間(板とマット材の間)で滑らないように、左板210及び右板220の表面には突起部材240を設けた。
なお、マット材の短繊維層30側の面を中板230の側に配置した。
マット材1aは左板210及び中板230で挟まれ、マット材1bは中板230及び右板220で挟まれる。
また、中板230はロードセルとなっており、中板に加わる荷重を測定することができる。
【0079】
まず、左板210及び右板220に対して中板230の方向に圧力をかけ、マット材の嵩密度(GBD)が0.3g/cmとなるまで圧縮した。
その圧縮状態で10分保持(緩和)した。
【0080】
次に、マット材と中板の間の温度が25℃の状態で、中板230を図5中の矢印で示す向き(上方)に25mm/minの速度で移動させ、マット材の主面にせん断応力を印加した。
図6は中板を移動させた状態を示している。
なお、中板を移動させる方向は、中板に接している側のマット材の主面にせん断応力を印加した方向と同じである。
移動中のロードセルの荷重値及び中板に加わる静摩擦力を測定し、静摩擦力が最大となるときの摩擦係数(静摩擦係数)を測定した。
【0081】
(比較例1)
実施例1で使用した、マットに相当する無機繊維成形体をそのまま試料として用いて摩擦係数を測定した。
【0082】
(比較例2)
実施例1で使用した、マットに相当する無機繊維成形体の表面に無機コロイド粒子を付与した試料を準備した。
無機コロイド粒子を付与した面を、摩擦係数測定装置の中板の側に配置して、摩擦係数を測定した。
【0083】
表1に、実施例及び比較例におけるマット材の摩擦係数の測定結果を示す。
【表1】
【0084】
表1に示すように、表面に短繊維層を設けている実施例1のマット材は、短繊維層を設けていない比較例1のマット材及び無機コロイド粒子を表面に付与した比較例2のマット材に比べて高い摩擦係数を有していた。
このようなマット材の短繊維層を金属ケーシング側に配置することで、マット材と金属ケーシングの間の摩擦係数を高くすることができる。
【符号の説明】
【0085】
1、1a、1b、101 マット材
2 一方の端部
2a 凸部
3 他方の端部
3a 凹部
10 マット
11 第1の主面
12 第2の主面
20 平滑層
30 短繊維層
40 排ガス処理体
41 セル
42 セル壁
43 封止材
50 金属ケーシング
100 排ガス浄化装置
200 摩擦係数測定装置
210 左板
220 右板
230 中板
240 突起部材
G 排ガス

図1
図2
図3
図4
図5
図6