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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/24 20060101AFI20240202BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20240202BHJP
   H01Q 1/40 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q1/38
H01Q1/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020072504
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021170708
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【弁理士】
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】平野 聡
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宗之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 康宏
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/077813(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0043470(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0006192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/24
H01Q 1/38
H01Q 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異なる偏波を送受信可能なアンテナ装置において、
誘電体基板と、
前記誘電体基板に形成され、それぞれ前記誘電体基板の厚さ方向である第1の方向に延伸する複数の垂直偏波用素子と、
前記誘電体基板の1又は複数の導体層に形成された複数の水平偏波用素子と、
前記誘電体基板に形成され、少なくとも前記1又は複数の導体層のそれぞれの平面内で前記複数の水平偏波用素子と対向して配置されるグランド導体と、
を備え、
前記複数の垂直偏波用素子と前記複数の水平偏波用素子は、前記第1の方向から見た平面視で、所定方向に沿って交互に並んで配置され、
前記複数の水平偏波用素子は、前記誘電体基板のうち前記所定方向の一端の外縁部に面する領域に配置される1つの第1水平偏波用素子と、前記複数の垂直偏波用素子の間に配置される1又は複数の第2水平偏波用素子とを含み、
前記第1水平偏波用素子は、基端から先端までが前記平面内で前記所定方向に沿って直線状に延伸する第1の平面形状を有し、
前記1又は複数の第2水平偏波用素子の各々は、前記第1の方向から見た平面視で、基端から先端までが前記平面内で複数の方向に折り曲げられて延伸する第2の平面形状を有する、
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の平面形状は、前記所定方向を長辺方向とする長方形であることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第2の平面形状は、前記所定方向を長辺方向とする第1の長方形の一端に、前記第1の方向及び前記所定方向に直交する方向を長辺方向とする第2の長方形を接続したクランク形状であることを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記グランド導体は、前記平面内で前記複数の水平偏波用素子のそれぞれと対称的な平面形状で配置される構成部分を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記複数の水平偏波用素子の各々は、前記複数の導体層のそれぞれに形成されて前記第1の方向に対向する複数の平面電極と、前記複数の平面電極の間を電気的に接続する1又は複数のビア導体とを含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数の水平偏波用素子のそれぞれの前記基端は、使用周波数帯域の中心周波数に対応する波長λ0に関し、前記所定方向に沿ってλ0/2の間隔で配置されることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記誘電体基板に形成され、前記複数の垂直偏波用素子のそれぞれの前記基端と電気的に接続される複数の垂直偏波用給電端子と、前記複数の水平偏波用素子のそれぞれの前記基端と電気的に接続される複数の水平偏波用給電端子とが設けられることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの異なる偏波を送受信可能なアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高周波信号を用いた無線通信において、2つの異なる偏波(例えば、垂直偏波と水平偏波)の両方を送受信可能なアンテナ装置が知られている。例えば、特許文献1には、基板上の所定方向に沿って水平偏波用素子と垂直偏波用素子とを交互かつ一列に並べて配置した構造を有するアンテナ装置が開示されている。この種のアンテナ装置に対し、複数の水平偏波用素子及び複数の垂直偏波用素子に所定の周波数の入力信号を給電することで、水平偏波と垂直偏波の両方を共用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2008/136455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、アンテナ装置の小型軽量化の観点から、誘電体基板を用いて、アンテナ素子を構成する導体パターンを形成したアンテナ構造が提案されている。このような誘電体基板を用いたアンテナ装置をできるだけ小型化するには、特に水平偏波用素子の配置スペースを縮小することが重要となる。例えば、水平偏波用素子として導体パターンを折り曲げることで経路長を確保し、配置スペースを縮小し得る構成を挙げることができる。しかしながら、発明者らの検証の結果、クランク形状などの折り曲げた導体パターンを用いた水平偏波用素子と誘電体基板の外縁部との距離が小さい場合、インピーダンス特性が劣化するという問題が確認された。そのため、水平偏波と垂直偏波を共用可能なアンテナ装置の小型化と良好なインピーダンス特性とを両立することが困難であるという課題があった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、誘電体基板を用いて複数の水平偏波用素子と複数の垂直偏波用素子とを配置し、良好なインピーダンス特性を保ちつつ小型化に適したアンテナ装置を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のアンテナ装置は、2つの異なる偏波を送受信可能なアンテナ装置において、誘電体基板(10)と、前記誘電体基板に形成され、それぞれ前記誘電体基板の厚さ方向である第1の方向(Z)に延伸する複数の垂直偏波用素子(13)と、前記誘電体基板の1又は複数の導体層に形成された複数の水平偏波用素子(11、12)と、前記誘電体基板に形成され、少なくとも前記1又は複数の導体層のそれぞれの平面内で前記複数の水平偏波用素子と対向して配置されるグランド導体(20、21、22)とを備え、前記複数の垂直偏波用素子と前記複数の水平偏波用素子は、前記第1の方向から見た平面視で、所定方向(Y)に沿って交互に並んで配置されている。前記複数の水平偏波用素子は、前記誘電体基板のうち前記所定方向の一端の外縁部に面する領域に配置される1つの第1水平偏波用素子(11)と、前記複数の垂直偏波用素子の間に配置される1又は複数の第2水平偏波用素子(12)とを含み、前記第1水平偏波用素子は、基端から先端までが前記平面内で前記所定方向に沿って直線状に延伸する第1の平面形状を有し、前記1又は複数の第2水平偏波用素子の各々は、前記第1の方向から見た平面視で、基端から先端までが前記平面内で複数の方向に折り曲げられて延伸する第2の平面形状を有することを特徴としている。
【0007】
本発明のアンテナ装置によれば、誘電体基板に形成した複数の水平偏波用素子と複数の垂直偏波用素子とを所定方向に沿って交互かつ一列に並べて配置し、誘電体基板の一端の外縁部に面する第1水平偏波用素子は直線状に延伸する第1の平面形状とし、それ以外の1又は複数の第2水平偏波用素子は折り曲げられて延伸する第2の平面形状としたので、全ての水平偏波用素子を第2の平面形状とする際に問題となる第1水平偏波用素子のインピーダンス特性の劣化を抑制できるので、配置スペースを十分に縮小しつつ良好なアンテナ特性を保つこと可能となる。
【0008】
本発明において、第1の平面形状及び第2の平面形状として多様な形状を用いることができる。第1の平面形状としては、例えば、所定方向を長辺方向とする長方形を用いることができる。また、第2の平面形状としては、例えば、所定方向を長辺方向とする第1の長方形の一端に、第1の方向及び所定方向に直交する方向を長辺方向とする第2の長方形を接続したクランク形状を用いることができる。
【0009】
本発明において、グランド導体は、平面内で複数の水平偏波用素子のそれぞれと対称的な平面形状で配置される構成部分を含めて構成してもよい。これにより、複数の水平偏波用素子の各々は、対称的なグランド導体の部分を含めてダイポールアンテナとして機能するので、アンテナ特性の向上を実現することができる。
【0010】
本発明において、複数の水平偏波用素子の各々は、複数の導体層のそれぞれに形成されて第1の方向に対向する複数の平面電極と、この複数の平面電極の間を電気的に接続する1又は複数のビア導体とを含んで構成することができる。これにより、水平偏波用素子における多様な電流経路が形成されるので、アンテナ装置の広帯域化に適している。
【0011】
本発明において、前記複数の水平偏波用素子のそれぞれの前記基端は、使用周波数帯域の中心周波数に対応する波長λ0に関し、前記所定方向に沿ってλ0/2の間隔で配置することが望ましい。また、本発明において、誘電体基板に形成され、複数の垂直偏波用素子のそれぞれの基端と電気的に接続される複数の垂直偏波用給電端子と、複数の水平偏波用素子のそれぞれの基端と電気的に接続される複数の水平偏波用給電端子とが設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電体基板に形成した複数の水平偏波用素子と複数の垂直偏波用素子とを所定方向に沿って交互かつ一列に並べて配置し、誘電体基板の一端の外縁部に面する第1水平偏波用素子を直線状に延伸する第1の平面形状とし、他の1又は複数の第2水平偏波用素子を折り曲げられた第2の平面形状としたので、第1水平偏波用素子を第2の平面形状とすることに起因するインピーダンス特性の劣化を防止でき、配置スペースを縮小しつつ、良好なアンテナ特性を得られるアンテナ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のアンテナ装置をX方向から見た部分的な断面図(図2のA-A断面)である。
図2図1のアンテナ装置に含まれる複数の導体層の平面構造をZ方向の上方から見た平面図である。
図3図1のアンテナ装置をY方向に沿って図1の左側から見た断面図(図2のB-B断面)である。
図4図1のアンテナ装置をY方向に沿って図3と同方向から見た断面図であって、図3とは異なる断面(図2のC-C断面)で見た断面図である。
図5】本実施形態のアンテナ装置に対するシミュレーションにより得られたインピーダンス特性の検証結果を示す図である。
図6】本実施形態との対比のため、図2の左端の水平偏波用素子11の平面形状を長方形からクランク形状に変更した場合について図5と同様のシミュレーションにより得られたインピーダンス特性の検証結果を示す比較例である。
図7】本実施形態のアンテナ装置の作製方法の概要を説明する第1の図である。
図8】本実施形態のアンテナ装置の作製方法の概要を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明の技術思想を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0015】
図1図4を用いて、本発明を適用した一実施例に係るアンテナ装置の構造について説明する。図1図5では、説明の便宜のため、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向(本発明の第1の方向)をそれぞれ矢印にて示している。図1は、本実施形態のアンテナ装置をX方向から見た部分的な断面図(図2のA-A断面)であり、図2は、本実施形態のアンテナ装置に含まれる複数の導体層の平面構造をZ方向の上方から見た平面図であり、図3は、図1のアンテナ装置をY方向に沿って図1の左側から見た断面図(図2のB-B断面)であり、図4は、図1のアンテナ装置をY方向に沿って図3と同方向から見た断面図であって、図3とは異なる断面(図2のC-C断面)で見た断面図である。
【0016】
本実施形態のアンテナ装置は、セラミック等の誘電体材料からなる多層構造の誘電体基板10を用いて構成される。誘電体基板10には、Y方向に延伸する4個の水平偏波用素子11、12と、Z方向に延伸する4個の垂直偏波用素子13と、多層構造のグランド導体20、21、22がそれぞれ設けられている。誘電体基板10には6層の導体層30a、30b、30c、30d、30e、30fが形成され、それぞれの導体層30a~30fには多様な導体パターンが形成されるともに、それぞれの導体層30a~30eの間をZ方向に接続する複数のビア導体40~43が設けられている。水平偏波用素子11、12、垂直偏波用素子13、グランド導体20~22のそれぞれの構造は、各導体層30a~30fの導体パターン及びビア導体40~43を組合せて実現される。また、図2に示すように、4個の水平偏波用素子11、12は、2通りの異なる平面形状に応じて、1個の水平偏波用素子11と、3個の水平偏波用素子12とに区分されるが、水平偏波用素子11、12の2通りの異なる平面形状について詳しくは後述する。
【0017】
誘電体基板10は、Y方向に沿う長辺と、X方向に沿う短辺と、Z方向に沿う所定の厚さを有する矩形の板状部材であり、所定の誘電率を有する誘電体層と、導電材料からなる前述の導体層30a~30fとを交互に積層してなる。図1からわかるように、最上層の導体層30a及び最下層の導体層30fは、誘電体基板10のうちZ方向に対向する1対の表面に露出しており、導体層30b、30c、30d、30eは、誘電体基板10の内層を構成する。また、最下層の導体層30fには、4個の水平偏波用素子11、12と電気的に接続される4個の給電端子31と、4個の垂直偏波用素子12と電気的に接続される4個の給電端子32とが設けられている。
【0018】
図2には、本実施形態のアンテナ構造を理解するため、複数の導体層30a~30fが重なった状態をZ方向の上方から見た平面構造が示されている。まず、4個の水平偏波用素子11、12は、Y方向に沿って一定の間隔で一列に並んで配置されている。図2の左端に位置する1個の水平偏波用素子11(第1水平偏波用素子)は、導体層30dにおいて、Y方向を長辺方向とする長方形の平面形状(第1の平面形状)を有する。一方、それ以外の3個の水平偏波用素子12(第2水平偏波用素子)の各々は、Y方向を長辺方向とする長方形の一端にX方向を長辺方向とする長方形を接続した平面形状(クランク形状:第2の平面形状)を有する。
【0019】
なお、4個の水平偏波用素子11、12のY方向の互いの間隔は、アンテナ装置のアンテナ特性の観点から、その使用周波数帯域の中心周波数f0に対応する波長をλ0としたとき、λ0/2に設定することが望ましい。本実施形態において想定する使用周波数帯域に対応する間隔λ0/2は数mm程度の値になる。なお、この場合の間隔λ0/2は、隣接する水平偏波用素子11、12のそれぞれの基端(例えば、図2において、左から2番目の水平偏波用素子12とB―B断面の交点の位置)同士の間隔として定められる。
【0020】
また、4個の垂直偏波用素子13の各々は、水平偏波用素子11、12と同様、Y方向に沿って一定の間隔で一列に並んで配置されている。この場合、水平偏波用素子11、12及び垂直偏波用素子13はY方向に沿って交互かつ一列に並ぶことになる。各々の垂直偏波用素子13は、図4に示すように、導体層30bと導体層30fとの間を接続するビア導体43を用いて構成される。よって、垂直偏波用素子13は、給電端子32に接続される下端から上端までZ方向に延伸される構造を有する。なお、4個の垂直偏波用素子13のY方向の互いの間隔も、水平偏波用素子11、12と同様、λ0/2に設定することが望ましい。
【0021】
図1に示すように、水平偏波用素子12は、Z方向に沿って対向する3つの平面電極12a、12b、12cと、それぞれの平面電極12、12b、12cの間を接続する複数のビア導体40と、により構成される立体的構造を有する。3つの平面電極12a、12b、12cは、上部から順に3層の導体層30b、30c、30dにそれぞれ形成され、いずれも前述のクランク形状を有する。また、図3に示すように、水平偏波用素子12(平面電極12a)からX方向に延びる導体パターンP1を介してビア導体40に接続され、ビア導体40の下端が給電端子31に接続される。なお、図1には示されないが、図2の左端の水平偏波用素子11についても、水平偏波用素子12と同様の3層構造であり、それぞれ長方形の平面形状を有する3層の平面電極及び複数のビア導体40により構成される。このように、水平偏波用素子11、12を多層構造とすることで、電流経路を多様にしてアンテナ装置を広帯域化することができる。ただし、水平偏波用素子11、12の層数に制約はなく、1層の平面電極のみを用いて構成してもよい。
【0022】
また、図2に示すように、左端の水平偏波用素子11に隣接する1個のグランド導体20は、Y方向に沿って水平偏波用素子11と対称的な平面形状(長方形)を有する。同様に、3個の水平偏波用素子12に隣接する3個のグランド導体21の各々は、Y方向に沿って水平偏波用素子12と対称的な平面形状(クランク形状)を有する。また、図1に示すように、3個のグランド導体21の各々の立体的構造は、水平偏波用素子12と同様、Z方向に沿って対向する3つの平面電極21a、21b、21cと、それぞれの平面電極21a、21b、21cの間を接続する4つのビア導体41とにより構成される。なお、図1には示されないが、グランド導体20についても、同様の3層構造立体的構造を有する。以上のように、水平偏波用素子11、12とそれに対称的なグランド導体20、12とは、一体的にダイポールアンテナとして動作する。
【0023】
グランド導体22は、各導体層30a~30fの広い範囲にわたって形成され、アンテナ装置の反射器として機能する。すなわち、図2に例示されるように、グランド導体22は、各導体層30a~30fのうち水平偏波用素子11、12及び垂直偏波用素子13の配置領域に対向する領域に配置される。多層構造のグランド導体22は、Z方向に沿って形成された複数のビア導体42を介して各層が互いに接続されている。アンテナ特性の向上のためには、グランド導体22の全体の面積を十分に確保する必要がある。ただし、Z方向から見た平面視で、グランド導体22が水平偏波用素子11、12及び垂直偏波用素子13と重ならないように配置することが望ましい。なお、前述のダイポールアンテナの一部をなすグランド導体20、21は、導体層30a~30fにおける所定の導体パターン(不図示)を介してグランド導体22と接続されている。
【0024】
本実施形態のアンテナ装置において、給電端子31を介して所定の周波数の入力信号を水平偏波用素子11、12に給電すると水平偏波の電磁波が外部に放射される。同様に、給電端子32を介して所定の周波数の入力信号を垂直偏波用素子13に給電すると垂直偏波の電磁波が外部に放射される。この場合、アンテナ装置から電磁波の放射方向は、概ね誘電体基板10の側面方向であるX方向に合致する。よって、本実施形態のアンテナ装置を携帯端末等の内部に載置する際の薄型化が容易となる。
【0025】
本実施形態のアンテナ装置においては、1個の水平偏波用素子11と3個の水平偏波用素子12とを異なる平面形状で形成した点が特徴的である。ここで、水平偏波用素子11、12の長辺方向の長さに着目すると、図2に示すように、水平偏波用素子11が長さL1であり、水平偏波用素子12が長さL2であって、L1>L2の関係にある。通常、使用周波数に共振させるために、水平偏波用素子11、12の基端から先端までの経路長を波長に応じた適切な長さに設定する必要があるが、クランク形状は長方形に比べて経路長を長く確保できるので、前述のようにL1>L2となる。そのため、4個の水平偏波用素子11、12の間隔が一定であっても、それらを全てクランク形状にできれば、Y方向の配置スペースを縮小するために有利である。
【0026】
しかし、発明者らの検証の結果、全ての水平偏波用素子11、12及びそれらと対称的なグランド導体20、21をクランク形状で形成する場合、主に誘電体基板10の外縁部に面した水平偏波用素子11のインピーダンス特性が劣化することが確認された。この場合、グランド導体20、21を含むダイポール構成で考えると、図2の左端の水平偏波用素子11はY方向に沿って誘電体基板10の外縁部に面しているが、図2の右端の水平偏波用素子12は両側の2個の垂直偏波用素子13の間に位置し、Y方向に沿って誘電体基板10の外縁部に面しているのは垂直偏波用素子13である。そして、インピーダンス特性を改善するには、外縁部に面した水平偏波用素子11を、グランド導体20とともに、クランク形状ではなく、長方形の平面形状とすることが有効であることが確認された。また、外縁部に面する1個の水平偏波用素子11のみを長方形の平面形状とすればよいので、4個の水平偏波用素子11、12の全てを長方形の平面形状とする場合に比べ、Y方向の配置スペースを十分に縮小することができる。
【0027】
次に、図5及び図6を用いて、本実施形態のアンテナ装置に関してのアンテナ特性の検証結果について説明する。図5は、本実施形態のアンテナ装置に対するシミュレーションにより得られたインピーダンス特性の検証結果を示している。ここでは、図2の平面構造を有する4個の水平偏波用素子11、12のそれぞれに周波数範囲23~33GHzの入力信号を供給した場合のリターンロスを求めた。図5においては、図2の左側から、水平偏波用素子11のインピーダンス特性a1と、3個の水平偏波用素子12の左側から右側にかけてのインピーダンス特性a2、a3、a4とを示している。通常、良好なアンテナ特性を確保するには、リターンロスの値が-10dB程度を下回ることが望ましい。よって、4個の水平偏波用素子11、12のいずれについても、概ね周波数24~30GHzにわたる広い周波数帯域で、十分なリターンロスを得られることが確認された。
【0028】
これに対し、図6は、本実施形態との対比のため、図2の左端の水平偏波用素子11の平面形状(対称的配置のグランド導体20も含む)を長方形からクランク形状(3個の水平偏波用素子12と同一形状)に変更した場合について図5と同様のシミュレーションにより得られたインピーダンス特性の検証結果を比較例として示している。図6においては、クランク形状の水平偏波用素子11のインピーダンス特性b1のみを示すとともに、図5と同形状の3個の水平偏波用素子12は概ね図5の近いインピーダンス特性であるため省略している。図5図6を比較すると、水平偏波用素子11をクランク形状にした場合のインピーダンス特性b1は、図5のインピーダンス特性a1と比べて、-10dBのリターンロスを確保し得る周波数範囲が明らかに狭くなっている。すなわち、ダイポールアンテナとして機能する水平偏波用素子11及び対称的なグランド導体20のうち、クランク形状のX方向に延びる部分と誘電体基板10の外縁部と距離が近いと、インピーダンスの劣化を招くことが想定される。
【0029】
以上から、本実施形態のアンテナ装置では、外縁部に面した水平偏波用素子11を長方形で形成し、それ以外の水平偏波用素子12をクランク形状で形成することにより、インピーダンス特性を改善する効果が確認された。そして、本実施形態のアンテナ装置では、インピーダンス特性を保ちつつ、3個の水平偏波用素子12をクランク形状とすることで配置スペースを縮小でき、アンテナ装置の小型化に適している。なお、本実施形態では、4個の水平偏波用素子11、12及び4個の垂直偏波用素子13を配置する構成を示したが、水平偏波用素子11、12及び垂直偏波用素子13の個数には制約がなく、複数の水平偏波用素子11、12及び垂直偏波用素子13を配置した構成に対して本発明を適用することができる。
【0030】
次に、本実施形態のアンテナ装置の作製方法の概要について、図7及び図8を参照しつつ説明する。まず、誘電体基板10を構成する複数の誘電体層として、例えば、ドクターブレード法により形成した低温焼成用の複数のセラミックグリーンシート50を用意する。そして、図7(A)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート50の所定位置に打ち抜き加工を施して、複数のビアホール51を開口する。なお、各セラミックグリーンシート50における各ビアホール51の位置及び個数は、図1及び図2の複数のビア導体40~43の配置に対応して設定される。
【0031】
次に、図7(B)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート50に開口された複数のビアホール51のそれぞれに、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により充填することにより、複数のビア導体40~43を形成する。続いて、図8(A)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート50の表面又は裏面に、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布することにより、図1の導体層30a~30fのそれぞれの導体パターンを形成する。このとき形成される導体パターンと前述のビア導体40~43等とにより、アンテナ装置における水平偏波用素子11、12、垂直偏波用素子13、グランド導体20~22とを含む基本構造が画定される。
【0032】
そして、図8(B)に示すように、複数のセラミックグリーンシート50を順に積層した上で、加熱加圧することにより積層体を形成する。その後、得られた積層体を脱脂、焼成することにより、本実施形態で説明したように誘電体基板10に構成されたアンテナ装置が完成する。
【0033】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更を施すことができる。すなわち、図1図4を用いて説明したアンテナ装置の構造は、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や材料を用いた多様なアンテナ装置に対して広く本発明を適用することができる。例えば、アンテナ素子11を構成する水平偏波用素子11、12の平面形状は、長方形やクランク形状には限られず、本発明の作用効果を得られる限り、多様な平面形状を採用することができる。また、水平偏波用素子11、12を構成する平面電極やビア導体の配置や個数も適宜に増減することができる。
【0034】
一方、本実施形態では、複数の水平偏波用素子11、12と対称的に配置される複数のグランド導体20、21とがダイポールアンテナとして動作する場合を説明したが、水平偏波用素子11、12のみを配置して対称的なグランド導体20、21を配置しない場合であっても本発明の適用が可能である。この場合、各々の水平偏波用素子11、12はモノポールアンテナとして機能する。
【符号の説明】
【0035】
10…誘電体基板
11、12…水平偏波用素子
13…垂直偏波用素子
20、21、22…グランド導体
30a、30b、30c、30d、30e、30f…導体層
31、32…給電端子
40、41、42、43…ビア導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8