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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240202BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A61F2/16
A61F9/007 200Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020151086
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045475
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 和徳
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/048631(WO,A1)
【文献】特開2011-255029(JP,A)
【文献】特開2006-333980(JP,A)
【文献】特開2016-049321(JP,A)
【文献】特開2016-189925(JP,A)
【文献】国際公開第2008/149795(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00-2/97
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学機能を有する光学部と、前記光学部から延在する支持部と、を備える眼内レンズを折り畳みながら管内を前進させてノズルから放出する、眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズの進行方向に垂直な断面視において前記管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りが設けられ、
前記出っ張りにより、前記眼内レンズが前進しながら折り畳まれる際に前記光学部も前記支持部も前記左右両隅部に進入できないようにした、眼内レンズ挿入器具。
【請求項2】
前記出っ張りにより、前記左右両隅部の間に、折り畳まれた状態の前記支持部を収容可能な幅の空間が形成される、請求項1に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項3】
前記出っ張りは、内向き水平方向に出っ張り且つ下方にも出っ張る、請求項1又は2に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項4】
前記管の内壁の断面形状の上下左右の中点を通過する水平線からの傾斜角度が0~20度の範囲内のいずれかにおいて前記内壁に出っ張りが存在する、請求項1~3のいずれか一つに記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項5】
前記出っ張りが存在する部分における前記傾斜角度の最小値は0~15度の範囲内にある、請求項4に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項6】
前記出っ張りは、前記内壁の断面形状における左右両隅部の凹形状を凸形状に変化させる形状を有する、請求項4又は5に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項7】
前記支持部のうちの一つであって前方に配置された前方支持部に接触させて前記前方支持部を折り曲げるタッキングピンを有し、
前記タッキングピンは上方に向けて起立し、且つ、前記前方支持部と接触する面は前方に向かって上り坂となる斜面である、請求項1~6のいずれか一つに記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項8】
前記眼内レンズが予め搭載されたプリロード型である、請求項1~7のいずれか一つに記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項9】
前記出っ張りは、眼内レンズを前進させる際に光学部に対する前方支持部のタッキングが完了する程度に、前後方向に長尺に形成される、請求項1~8のいずれか一つに記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項10】
前記出っ張りは、前記眼内レンズ挿入器具におけるレンズ設置部に眼内レンズを設置した際に、前記光学部の前端から、前方に配置される前方支持部の前端までの間に少なくとも存在し、且つ、両前端を含むように前後方向に長尺に形成される、請求項9に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項11】
前記出っ張りの前後方向の長さは5~15mmである、請求項10に記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項12】
前方に向かうに従って、前記出っ張りの下端を下方に変位させる、請求項1~11のいずれか一つに記載の眼内レンズ挿入器具。
【請求項13】
光学機能を有する光学部と、前記光学部から延在する支持部と、を備える眼内レンズを折り畳みながら管内を前進させてノズルから放出する、眼内レンズ挿入器具の設計方法であって、
前記眼内レンズの進行方向に垂直な断面視において前記管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りを設ける設計変更工程を有し、
前記出っ張りにより、前記眼内レンズが前進しながら折り畳まれる際に前記光学部も前記支持部も前記左右両隅部に進入できないようにする、眼内レンズ挿入器具の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズ挿入器具及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術においては、超音波乳化術による混濁した水晶体の除去、及び水晶体除去後の眼内への埋植が広く行われている。そして現在では、シリコーンエストラマー等の軟質な材料からなる軟性の眼内レンズを、眼内レンズ挿入器具を用いて眼内に挿入することが行われている。
【0003】
軟性の眼内レンズを眼内に挿入する場合、該眼内レンズを折り畳むことが可能となり、角膜に対する切開創を小さくすることができる。
【0004】
眼内レンズを折り畳む方法として、眼内レンズ挿入器具内にて折り畳む手法が知られている。
【0005】
特許文献1、2では、眼内レンズ挿入器具内を眼内レンズが通過する通路に設けられた天板部に複数の突起を設けている。
【0006】
特許文献1では、通路内に配置される眼内レンズにおける光学機能を奏する光学部を、通路の底面側に押さえる。それにより、支持部が折り畳まれる側の光学面とは反対側の光学面と、通孔の壁面との間の隙間に、支持部が入り込んでしまうおそれを少なくしている(特許文献1の段落0005、段落0023、請求項1、図4等)。
【0007】
特許文献2では、光学部の折り曲げ時に天井面側に浮き上がり易い前方支持部の根元部分を、突出部により底面側に押さえることができる(特許文献2の段落0051~0053、図5等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-49321号公報
【文献】特開2016-189925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者の調べにより、眼内レンズを折り畳みながら管内を前進させてノズルから放出する際、管の内壁の上方の左右両隅部の存在が、眼内レンズの折り畳みの成否に影響を与えていることが知見された。
【0010】
図1は、眼内レンズ挿入器具のノズルに通じる管の内壁の断面概略図である。
符号10は管の内壁を示す。符号41は眼内レンズの光学部を指す。
図1(a)は、光学部が正常に谷折り形状に折り畳まれる様子を示す図であり、図1(b)~(d)は、光学部が左右両隅部に侵入することにより、光学部が異常な状態で折り畳まれる様子を示す図である。
図1(b)は、光学部と管の下方内壁との間に隙間Gが形成される様子を示す図である。図1(c)は、光学部が山折り形状に折り畳まれる様子を示す図である。図1(d)は、光学部が谷折り形状と山折り形状とが不均一となった状態で折り畳まれる様子を示す図である。
【0011】
特許文献1の図4又は特許文献2の図5の構成だと、光学部が図1(b)又は図1(d)に示す状態になり得る。特に図1(b)に示す状態だと、光学部により形成された隙間Gに、眼内レンズの支持部が入り込むおそれがある。
【0012】
本発明は、眼内レンズを精度良く折り畳む技術を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
図2は、眼内レンズ挿入器具のノズルに通じる管の内壁の左右両隅部に出っ張りを設けた様子を示す断面概略図である。符号15は前記出っ張りを示す。以降、明細書における管と出っ張りの符号の記載は省略する。
【0014】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を加えた。その結果、図2に示すように、管の内壁の上方の左右両隅部に光学部も支持部も進入できないような内壁の形状(即ち出っ張り)を採用することにより、光学部の姿勢が図1(a)の状態に矯正されたまま谷折り形状に折り畳まれることを知見した。
【0015】
上記の知見に基づいて得られた構成は以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
光学機能を有する光学部と、前記光学部から延在する支持部と、を備える眼内レンズを折り畳みながら管内を前進させてノズルから放出する、眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズの進行方向に垂直な断面視において前記管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りが設けられ、
前記出っ張りにより、前記眼内レンズが前進しながら折り畳まれる際に前記光学部も前記支持部も前記左右両隅部に進入できないようにした、眼内レンズ挿入器具である。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記出っ張りにより、前記左右両隅部の間に、折り畳まれた状態の前記支持部を収容可能な幅の空間が形成される。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の態様であって、
前記出っ張りは、内向き水平方向に出っ張り且つ下方にも出っ張る。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記管の内壁の断面形状の上下左右の中点を通過する水平線からの傾斜角度が0~20度の範囲内のいずれかにおいて前記内壁に出っ張りが存在する。
【0019】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の態様であって、
前記出っ張りが存在する部分における前記傾斜角度の最小値は0~15度の範囲内にある。
【0020】
本発明の第6の態様は、第4又は第5の態様に記載の態様であって、
前記出っ張りは、前記内壁の断面形状における左右両隅部の凹形状を凸形状に変化させる形状を有する。
【0021】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記支持部のうちの一つであって前方に配置された前方支持部に接触させて前記前方支持部を折り曲げるタッキングピンを有し、
前記タッキングピンは上方に向けて起立し、且つ、前記前方支持部と接触する面は前方に向かって上り坂となる斜面である。
【0022】
本発明の第8の態様は、第1~第7のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記眼内レンズが予め搭載されたプリロード型である。
【0023】
本発明の第9の態様は、
光学機能を有する光学部と、前記光学部から延在する支持部と、を備える眼内レンズを折り畳みながら管内を前進させてノズルから放出する、眼内レンズ挿入器具の設計方法であって、
前記眼内レンズの進行方向に垂直な断面視において前記管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りを設ける設計変更工程を有し、
前記出っ張りにより、前記眼内レンズが前進しながら折り畳まれる際に前記光学部も前記支持部も前記左右両隅部に進入できないようにする、眼内レンズ挿入器具の設計方法である。
【0024】
上記の態様に対して組み合わせ可能な本発明の他の態様は以下の通りである。
【0025】
眼内レンズ挿入器具の設計方法に係る態様は、上記各態様の特徴を有してもよい。
【0026】
前記内壁の断面形状の曲率の変化率が最も大きい箇所に出っ張りを設けてもよい。
【0027】
前記傾斜角度θが好適には0~15度、更に好適には10~15度の範囲内のいずれかにおいて内壁に出っ張りが存在するのが好ましい。
【0028】
例えば、左隅部に設けられた出っ張り(例えば段差状の出っ張り)のY1-Y2方向の幅wは、左右中点により形成される垂線の所定位置(例えば上下左右中点O)から左方向の内壁までの幅Wの10~60%が好ましい。実寸としては、左隅部に設けられた出っ張りのY1-Y2方向の幅は、0.5~2.5mmとする。右隅部に設けられた出っ張りについても同様の好適例とする。
【0029】
例えば、図8Cのように、左隅部に設けられた出っ張り(例えば段差状の出っ張り)のZ1-Z2方向の高さhは、前記上下左右中点Oを通過する上下線における上方内壁と下方内壁との間の高さHの30~80%が好ましい。実寸としては、左隅部に設けられた出っ張りのZ1-Z2方向の高さは、0.5~1.5mmとする。右隅部に設けられた出っ張りについても同様の好適例とする。
【0030】
眼内レンズの折り畳み開始以降に光学部が存在する箇所に出っ張りを設けるのが好ましい。レンズ設置部に眼内レンズを設置した際に、少なくとも光学部の前端から前方支持部の前端までの間に出っ張りを存在させるのが好ましく、両前端を含むように出っ張りが前後方向に長尺に形成されるのが好ましい。
【0031】
挿入筒本体の蓋に対して出っ張りを設け、蓋を閉めたときに結果として管内の左右両隅部に出っ張りが形成されてもよい。
【0032】
前方に向かうに従って、出っ張りの下端を下方に変位させてもよい。特に、レンズ設置部に眼内レンズを設置した際に、少なくとも光学部に対する後方支持部との接続部分において、前方に向かうに従って、出っ張りの下端を下方に変位するのが好ましい。
【0033】
出っ張りのX1-X2方向の長さは、眼内レンズを前進させる際に光学部に対する前方支持部のタッキングが正常に完了する程度の十分な長さであれば限定は無い。実寸としては、左隅部に設けられた出っ張りのX1-X2方向の長さは、5~15mmとする。右隅部に設けられた出っ張りについても同様の好適例とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、眼内レンズを精度良く折り畳む技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、眼内レンズ挿入器具のノズルに通じる管の内壁の断面概略図である。
図2図2は、眼内レンズ挿入器具のノズルに通じる管の内壁の左右両隅部に出っ張りを設けた様子を示す断面概略図である。
図3図3は、眼内レンズ挿入器具の外観の構成例を示す斜視図である。
図4図4は、挿入器具本体の先端部分の構造及び配置を示す斜視図である。
図5図5は、眼内レンズ挿入器具のケースの斜視図である。
図6図6は、眼内レンズ挿入器具をケースに装着した様子を示す斜視図である。
図7図7は、出っ張りの変形例を示す断面概略図である。
図8A図8Aは、出っ張りの位置関係を更に具体的に特定する手法を説明する断面概略図(その1)である。
図8B図8Bは、出っ張りの位置関係を更に具体的に特定する手法を説明する断面概略図(その2)である。
図8C図8Cは、出っ張りの位置関係を更に具体的に特定する手法を説明する断面概略図(その3)である。
図9図9は、別の眼内レンズ挿入器具の斜視図である。
図10図10は、別の眼内レンズ挿入器具の断面図であり、中央の図は、眼内レンズ挿入器具の上下中央点を通過するX-Y断面図であり、右側の図は、中央の図のA-A線を通過するX-Z断面図であり、左側の図(a)~(f)は、Y-Z断面図である。
図11図11は、眼内レンズを前進させる際の前方支持部とタッキングピンとの位置関係を示すX-Z面の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において「~」は所定の値以上かつ所定の値以下を指す。
【0037】
本実施形態においては、眼内レンズ挿入器具の各部の相対的な位置関係や動作の方向などを説明するにあたって、X軸方向の一方をX1方向、同他方をX2方向、Y軸方向の一方をY1方向、同他方をY2方向、Z軸方向の一方をZ1方向、同他方をZ2方向とする。そして、X1方向を先端側(前方、レンズ進行方向)、X2方向を後端側(後方)、Y1方向を右側(右方)、Y2方向を左側(左方)、Z1方向を上側(上方、眼内レンズを配置した時の厚さ方向及び光軸方向)、Z2方向を下側(下方)と定義する。このうち、X1方向及びX2方向は、眼内レンズ挿入器具1の長さ方向に相当し、Y1方向及びY2方向は、眼内レンズ挿入器具の幅方向に相当し、Z1方向及びZ2方向は、眼内レンズ挿入器具1の高さ方向に相当する。
【0038】
本実施形態では眼内レンズが予め搭載されたプリロード型の眼内レンズ挿入器具を例示するが、本発明はそれに限定されない。
【0039】
<本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の基本構成>
図3は、本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の外観の構成例を示す斜視図である。
図4は、本発明の実施形態に係る挿入器具本体の先端部分の構造及び配置を示す斜視図である。
【0040】
眼内レンズ挿入器具1は、眼内レンズを眼内に挿入する際に使用されるものである。本実施形態においては、眼内レンズの一例として、シリコーンエラストマーや軟性アクリルなどの軟質材料からなるワンピースタイプの眼内レンズ4(図4参照)であって、光学的な機能を果たす円形の有効光学部41a及びその周縁部41bを備える光学部41と、この光学部41の外周部の2箇所から湾曲して外向きに延びる2つの支持部42a,42bとを有する眼内レンズ4を取り扱うものとする。符合42aは、レンズ設置部11に設置されたときに前方に配置される前方支持部を示し、符号42bは、後方に配置される後方支持部を示す。
【0041】
眼内レンズ4の光学部41及び光学部41と連結する支持部42a,42bの基端側は軟質材料により構成される場合を例示する。この構成により眼内レンズ4の折り畳みが容易になる。なお、支持部42a,42bの末端側も同様に軟質材料により構成されてもよいし、硬質材料(例:ポリエチレン、PMMA等)により構成されてもよい。
【0042】
なお、光学部41における有効光学部41aは光学機能を奏する形状を有し、周縁部41bは有効光学部41aの周囲に円環状に形成されており、その円環が平板状である。もちろんそれ以外の構成を採用しても構わない。例えば、有効光学部41aのみから光学部41が構成されても構わない。また、周縁部41bが有効光学部41aと連続して形成されていても構わない、つまり、周縁部41bと有効光学部41aとが滑らかに連結され、連続面を形成しても構わない。
【0043】
眼内レンズ挿入器具1は、挿入器具本体5と、スライダ6と、挿入筒7と、回転部材8と、プランジャ9と、ロッド10(図3の眼内レンズ挿入器具1の内部に配置されて隠れている)と、を備えた構成となっている。これらの構成要素は、好ましくは、それぞれ樹脂の成形品によって構成されるものである。
【0044】
挿入器具本体5及び挿入筒7は、それぞれ中空構造をなし、互いに連結されることによって中空体を構成するものである。上述の通り、本発明は、中空体の管の内壁形状に大きな特徴がある。
【0045】
スライダ6は、挿入器具本体5に装着されている。スライダ6を前進させることにより、眼内レンズ4を前進させ、挿入筒本体7aの狭まる内径に沿わせて谷折り形状に折り曲げる(下方に向けて折り曲げる)。折り曲げられた眼内レンズ4を、プランジャ9ひいてはロッド10により前進させ、ノズル部7bから排出する。
【0046】
挿入筒7は、挿入器具本体5の先端部と連通するように配置されている。挿入筒7と挿入器具本体5の先端部とは一体成形されてもよいし、別体に成形され且つ該先端部に挿入筒7が装着されてもよい。挿入筒7は、中空の挿入筒本体7aと、細い管状のノズル部7bとを有している。
【0047】
その際、挿入器具本体5のレンズ設置部11は、そこに設置された眼内レンズ4と一緒に、挿入筒7の挿入筒本体7a内に収容して配置される。挿入筒本体7aの上面には注入孔7cが形成されている。注入孔7cは、粘弾性物質(たとえば、ヒアルロン酸ナトリウムなど)を注入するためのものである。注入孔7cから注入される粘弾性物質は、レンズ設置部11に設置される眼内レンズ4に供給される。
【0048】
回転部材8は、挿入器具本体5の後端部に回転自在に連結されている。
【0049】
プランジャ9は、挿入器具本体5と同軸に配置されている。プランジャ9の一部は回転部材8を介して挿入器具本体5の内部に配置され、プランジャ9の他部は回転部材8から後方に突出する状態で配置されている。
【0050】
ロッド10は、挿入器具本体5及び挿入筒7からなる中空体の内部に配置されている。ロッド10はプランジャ9と連結され、眼内レンズ4を前進させる役割を担う。
【0051】
レンズ設置部11は、図4に示すように、底面部11aと、レンズ受け部11bと、レンズガイド部11cとを備えている。レンズ受け部11bは、眼内レンズ4を下方から受けて支持するものである。眼内レンズ4は、前方支持部42aをその名の通り前方(X1方向)、他方の後方支持部42bをその名の通り後方(X2方向)に配置した状態でレンズ設置部11に設置される。眼内レンズ挿入器具1は、予め眼内レンズ4が挿入器具本体5のレンズ設置部11に設置されるプリロードタイプとなっている。このため、眼内レンズ4は、眼内レンズ挿入器具1の構成要素の1つとなる。但し、本発明を実施するにあたっては、必ずしもプリロードタイプである必要はない。
【0052】
<ケースの構成>
ケースの構成としては、例えば本出願人による特許第5254669号明細書の構成を採用して差し支えない。ケースの構成に関し、以下に記載が無い内容は、特許第5254669号明細書の構成を採用するものとし、特許第5254669号明細書の記載は本明細書に全て記載されているものとする。
【0053】
なお、上記WO2018/003854号公報の記載の内容と特許第5254669号明細書に記載の内容に齟齬がある場合は、上記WO2018/003854号公報の記載を優先する。例えば、特許第5254669号明細書だと突起部80により前方支持部を折り曲げた状態で眼内レンズ4をレンズ設置部に設置していると記載されているが、本実施形態においてはWO2018/003854号公報に記載のように折り曲げ前の状態の眼内レンズ4を載置する箇所をレンズ設置部11として扱う。
【0054】
図5は、本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具のケースの斜視図である。
図6は、本発明の実施形態に係る眼内レンズ挿入器具をケースに装着した様子を示す斜視図である。
【0055】
本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具1は、例えば合成樹脂素材により一体成形されたケース62に着脱自在に取り付けられ得る。特許第5254669号明細書の図10(本願における図5が対応)に示すように、ケース62には、眼内レンズ挿入器具1を取り囲むようにして底板部75にU字状の壁部76が立設され、当該底板部75の所定位置にタッキングピン20が立設されている。
【0056】
タッキングピン20は、特許第5254669号明細書の図11(本願における図6が対応)に示すように、眼内レンズ挿入器具1がケース62に装着されることにより眼内レンズ挿入器具1の突起挿入孔73に挿入し得るように構成されている。これにより眼内レンズ挿入器具1には、ケース62のタッキングピン20が先端部材71の移動空間の中央領域に配置され得るようになされている。
【0057】
図6に示すように、眼内レンズ挿入器具1をケース62に取り付けた状態で、スライダ6により、レンズ設置部11に載置された眼内レンズ4をノズル部7bの排出孔に向かって前進させる。なお、スライダ6を設けない構成を採用する場合、この前進はプランジャ9(直接的にはプランジャ9と連結したロッド10)にて行ってもよい。そのため、スライダ6又はプランジャ9と連結したロッド10のことを前進部材とも称する。
【0058】
この前進により、眼内レンズ4は、タッキングピン20に前方支持部42aが当接して前方支持部42aの先端がレンズ進行方向(前方、X1方向)とは逆方向の後方(X2方向)に折り返され、ほぼU字状に折り曲げられる。
【0059】
また、この眼内レンズ挿入器具1は、この状態のままケース62から離脱され、前方支持部42aが折り曲げられた状態のまま眼内レンズ4を前方(X1方向)に向けてプランジャ9で押し出してゆき、眼内レンズ4をノズル部7bから眼内に放出し得る。
【0060】
本実施形態における主な特徴部分は、眼内レンズがノズルに向けて通過する管内の内壁の左右両隅部に出っ張りを設けたことにある。それ以外は、公知の眼内レンズ挿入器具の構成を採用して差し支えない。例えば本出願人によるWO2018/003854号公報等の構成を採用して差し支えない。以下に記載が無い内容は、公知の眼内レンズ挿入器具の構成(例えばWO2018/003854号公報の構成)を採用するものとし、WO2018/003854号公報の記載は本明細書に全て記載されているものとする。
【0061】
また、本願図3図4は、WO2018/003854号公報の図1図6と、眼内レンズ4以外は構成が類似する。そのため、本願図4に記載の符号のうち本明細書に記載のない符号はWO2018/003854号公報に記載の説明の通りである。
【0062】
<本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の特徴部分>
以下、本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の特徴部分に焦点を当てる。
【0063】
本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の特徴部分の構成は以下の通りである。
「光学機能を有する光学部と、前記光学部から延在する支持部と、を備える眼内レンズを折り畳みながら管内を前進させてノズルから放出する、眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズの進行方向に垂直な断面視において前記管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りが設けられ、
前記出っ張りにより、前記眼内レンズが前進しながら折り畳まれる際に前記光学部も前記支持部も前記左右両隅部に進入できないようにした、眼内レンズ挿入器具。」
【0064】
本実施形態では、眼内レンズ挿入器具内の管の内壁形状に大きな特徴がある。前記管は、中空構造を成す挿入器具本体及び挿入筒により形成されている。本明細書における「内壁」とは、眼内レンズの進行方向に垂直な断面視(Y-Z平面での断面視)において、眼内レンズが通過する通路である管の最も内側の輪郭を形成する部分である。
【0065】
特許文献1、2では、天板部から下方に向けて突起が形成されているものの、管の内壁の上方の左右両隅部は凹形状のままである。具体的には、特許文献1の図4の符号42の左側の内壁左隅部と、符号44の右側の内壁右隅部は、凹形状(管の外側に向けて凸形状)のままである。特許文献2の図5の符号46の左側の内壁左隅部と、符号44の右側の内壁右隅部も同様である。
【0066】
その一方、本実施形態では、眼内レンズの進行方向に垂直な断面視(Y-Z平面での断面視)において前記管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りを設ける。以降、管の内壁の記載は、特記無い限り断面視(Y-Z平面での断面視)を前提とする。本発明の課題の欄で述べたように、この構成は、前記左右両隅部への光学部又は支持部の侵入が折り畳み精度に影響を与えるという新たな知見に基づいている。
【0067】
本実施形態における管の内壁の断面視形状には限定は無い。本実施形態の出っ張りを形成する前の該断面視形状は、図2に示すように、Y1-Y2を長軸としZ1-Z2を短軸とする楕円形状とする。
【0068】
図7は、出っ張りの変形例を示す断面概略図である。
【0069】
本実施形態における左右両隅部は、図2だと、出っ張りの両端間において曲率を連続的に変化させて仮想した断面輪郭線における左右両隅近傍(図2のCR、CL近傍)を指す。なお、図7(a)のように左右両隅部が出っ張りで覆われているのではなく隔離されている場合は、実際の断面輪郭線における左右両隅近傍(図2のCR、CL近傍)を指す。
【0070】
断面視において、出っ張りは、出っ張りの根元部分において曲率が急激に変化する部分である。例えば、出っ張りの根元部分の曲率が、出っ張りの根元の手前(即ち出っ張り近傍の管の内径形状)の曲率の10倍以上大きい状態を出っ張りとみなしてもよい。また、出っ張りの根元の手前の曲率から不連続に曲率が変化する箇所を出っ張りの根元とみなしてもよい。
【0071】
本実施形態の管の内壁形状により、光学部及び支持部が移動可能な領域を減らせる。その結果、光学部の姿勢が図1(a)の状態に矯正されたまま谷折り形状に折り畳まれ、そして前方支持部も後方支持部も光学部に挟み込まれ、眼内レンズを精度良く折り畳める。
【0072】
出っ張りの態様(数、素材、形状等)には限定は無い。眼内レンズが前進しながら折り畳まれる際に前記光学部も前記支持部も前記左右両隅部に進入できなければよい。
【0073】
出っ張りの数に関しては、図2に示すように左右両隅部にそれぞれ1つずつ(合計2つ)でも構わないし、左右両隅部にそれぞれ、一つは下方に出っ張り、もう一つは内向き水平に出っ張らせても構わないし(図7(a))。左右両隅部で個数を異ならせても構わない(図7(b))。例えば、光学部及び支持部が挟み込まれない程度の間隔を空けて出っ張りを複数設けることは妨げない(図7(c))。
【0074】
出っ張りの素材に関しては、挿入器具本体及び挿入筒である中空体の素材と同じであれば射出成形による一体形成が可能となり好ましいが、別素材であっても構わない。
【0075】
出っ張りの形状に関しては、前記出っ張りにより、前記左右両隅部の間に、折り畳まれた状態の前記支持部を収容可能な幅の空間(例えば図2中の符号S)が形成されるのが好ましい。
【0076】
<本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の基本構成>で挙げる眼内レンズを採用する場合、眼内レンズにおいて、光学部から前方支持部と後方支持部とが延在する。眼内レンズ挿入器具によっては、光学部の上に後方支持部を折り曲げて配置させておき、その後、眼内レンズを前進させる。本明細書では、光学部の上に支持部を折り曲げて配置させることを「タッキング」と称する。
【0077】
予め後方支持部をタッキングさせた場合、前記左右両隅部の間に、折り畳まれた状態の前記支持部を収容可能な幅の空間Sが形成されていると、眼内レンズの前進の際、後方支持部がこの空間Sに収まる。仮にこの空間Sが無いと、タッキング状態の後方支持部が左右の出っ張りと接触する。接触状態のまま眼内レンズが前進すると、左右の出っ張りによる摩擦のせいでタッキングが解除される可能性がある。この空間Sにより、そのような事態が発生する可能性を低減できる。
【0078】
なお、WO2018/003854号公報に記載のように、眼内レンズをロッドにより前進させる前の押出初期段階の状態に移動させるべくスライダを利用する場合、前段落に記載の空間Sにスライダの先端部分を収容させてもよい。
【0079】
特許文献1、2とは異なり、前記出っ張りは、図2に示すように左右両隅部において内向き水平方向に出っ張り且つ下方にも出っ張るのが好ましい。この構成により、光学部も支持部も左右両隅部に確実に進入できなくなる。
【0080】
前段落に記載の出っ張りの場合、図2に示すように段差状の出っ張りとなり、光学部も支持部も左右両隅部に確実に進入できなくなるという点で好ましい。この段差状の出っ張りは、光学部の姿勢が矯正されるのならば、段差部分が丸みを帯びていても構わない。
【0081】
以下、出っ張りの位置関係について、更に具体的に特定する。
【0082】
図8A~Cは、出っ張りの位置関係を更に具体的に特定する手法を説明する断面概略図(その1~3)である。
【0083】
出っ張りが設けられる前の管の内壁の断面形状を抽出する。そして、その形状の上下の中点であり且つ左右の中点である点Oを通過する水平線Lを仮想する。本明細書では、内壁から点Oの方向を内側、その反対側を外側と称している。
【0084】
そして、この水平線からの傾斜角度θが0~20度(好適には0~15度、更に好適には10~15度)の範囲内のいずれかにおいて内壁に出っ張りが存在するのが好ましい。本実施形態では、傾斜角度θが0~20度の範囲内のいずれか又は全体の内壁を、上方の左右両隅部と設定してもよい。但し、θが0度未満、20度超えの範囲内において内壁に出っ張りが存在することは、本発明は妨げない。
【0085】
出っ張りが存在する部分における傾斜角度θの最小値は0~15度の範囲内にあるのが好ましい。つまり、出っ張りの開始位置は、傾斜角度θが0~15度の範囲内にあり、その開始位置から、θの増加に伴い、内壁に対して連続又は不連続に出っ張りが設けられるのが好ましい。
【0086】
出っ張りは、前記内壁の断面形状における左右両隅部の凹形状(外側に凸)を凸形状(内側に凸)に変化させる形状を有するのが好ましい。また、前記内壁の断面形状の曲率の変化率が最も大きい箇所に出っ張りを設けてもよい。
【0087】
例えば、左隅部に設けられた出っ張り(例えば段差状の出っ張り)のY1-Y2方向の幅wは、左右中点により形成される垂線の所定位置(例えば上下左右中点O)から左方向の内壁までの幅Wの10~60%が好ましい。実寸としては、左隅部に設けられた出っ張りのY1-Y2方向の幅は、0.5~2.5mmとする。右隅部に設けられた出っ張りについても同様の好適例とする。
【0088】
例えば、図8Cのように、左隅部に設けられた出っ張り(例えば段差状の出っ張り)のZ1-Z2方向の高さhは、前記上下左右中点Oを通過する上下線における上方内壁と下方内壁との間の高さHの30~80%が好ましい。実寸としては、左隅部に設けられた出っ張りのZ1-Z2方向の高さは、0.5~1.5mmとする。右隅部に設けられた出っ張りについても同様の好適例とする。
【0089】
図9は、別の眼内レンズ挿入器具の斜視図である。
図10は、別の眼内レンズ挿入器具の断面図であり、中央の図は、眼内レンズ挿入器具の上下中央点を通過するX-Y断面図であり、右側の図は、中央の図のA-A線を通過するX-Z断面図であり、左側の図(a)~(f)は、Y-Z断面図である。
【0090】
これまでに説明した図3図6ではスライダ6を使用する一方、図9及び図10ではスライダ6を使用しない眼内レンズ挿入器具1を示す。また、レンズ設置部11の上方には蓋7dが設けられている。蓋7dは開閉可能である。図10では、蓋7dに対して出っ張り15を設け、蓋7dを閉めたときに結果として管内の左右両隅部に出っ張り15が形成される例を挙げる。
【0091】
出っ張り(例えば段差状の出っ張り)のX1-X2(前後)方向における配置は、眼内レンズを前進させる際に光学部に対する前方支持部のタッキングが正常に完了させられれば限定は無い。眼内レンズ4を精度良く折り畳むという観点から見ると、折り畳みに寄与する箇所に出っ張りを設けるのが好ましい。
【0092】
眼内レンズ4の折り畳み開始以降に光学部41が存在する箇所に出っ張りを設けるのが好ましく、図10で言うと、少なくとも(e)~(f)の間に出っ張りを設けるのが好ましい。(e)~(f)の間を別の言い方で表現すると、レンズ設置部11に眼内レンズ4を設置した際に、少なくとも光学部41の前端から前方支持部42aの前端までの間に出っ張りを存在させるのが好ましく、両前端を含むように出っ張りが前後方向に長尺に形成されるのが好ましい。
【0093】
但し、図10が示すように、眼内レンズ4の折り畳み開始時には光学部41が存在しない箇所(図10(a))から前方支持部42aの前端までの間に出っ張りを長尺に形成してもよい。
【0094】
出っ張りを設ける部材には限定は無いが、図10が示すように、蓋7dに出っ張りを設け、蓋7dを閉めたときに結果として管内の左右両隅部に出っ張りが設けられてもよい。もちろん、蓋7dを設けないプリロード型の眼内レンズ挿入器具を採用する場合、挿入筒本体7aの管の内壁の左右両隅部に出っ張りを設けてもよい。
【0095】
図10の右側の図が示すように、前方に向かうに従って、出っ張りの下端を下方に変位させてもよい。特に、レンズ設置部11に眼内レンズ4を設置した際に、少なくとも光学部41に対する後方支持部42bとの接続部分(例えば図10(a)~図10(b)にわたる部分)において、前方に向かうに従って、出っ張りの下端を下方に変位するのが、後方支持部42bの適切なタッキングの一助となり、好ましい。
【0096】
出っ張りのX1-X2方向の長さは、眼内レンズを前進させる際に光学部に対する前方支持部のタッキングが正常に完了する程度の十分な長さであれば限定は無い。実寸としては、左隅部に設けられた出っ張りのX1-X2方向の長さは、5~15mmとする。右隅部に設けられた出っ張りについても同様の好適例とする。
【0097】
以下、本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具がもたらす更なる効果について説明する。
【0098】
スライダを採用する場合、図5図6に示すように、突起部20は、眼内レンズ挿入器具1がケース62に装着されることにより眼内レンズ挿入器具1の突起挿入孔73に挿入し得るように構成されている。これにより眼内レンズ挿入器具1には、ケース62の突起部20が先端部材71の移動空間の中央領域に配置され得るようになされている。
【0099】
眼内レンズ挿入器具1をケース62に取り付けた状態で、スライダ6により、レンズ設置部11に載置された眼内レンズ4をノズル部7bの排出孔に向かって前進させる。
【0100】
この前進により、眼内レンズ4は、突起部20に前方支持部42aが当接して前方支持部42aの先端がレンズ進行方向(前方、X1方向)とは逆方向の後方(X2方向)に折り返され、ほぼU字状に折り曲げられる。突起部20はタッキングピン20とも称する。
【0101】
図11は、眼内レンズを前進させる際の前方支持部とタッキングピンとの位置関係を示すX-Z面の断面概略図である。
【0102】
図11に示すように、本実施形態に係るタッキングピン20は上方に向けて起立し、且つ、前記前方支持部42aと接触する面は前方に向かって上り坂となる斜面(スロープ)であるのが好ましい。
【0103】
この構成ならば、前方支持部がタッキングピン20と接触した後に上方への変位を促せる。言い方を変えると、この構成でなく特許第5254669号明細書の図10の符号80のようにタッキングピンが直方体形状だと、前方支持部がタッキングピンと接触した後に上方に変位するか下方に変位するか不確定となりやすい。以下、タッキングピンが上記斜面(スロープ)を有する例を挙げる。
【0104】
本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具1では、先に述べたように内壁の上方の左右両隅部には出っ張りが設けられる。そのため、眼内レンズ4の前進に伴う折り畳みの際に、光学部41も支持部42a、42bも左右両隅部には進入できない。これは、光学部41も支持部42a、42bも、自ずと下方寄りに配置されることを意味する。
【0105】
光学部41及び支持部42a、42bが下方寄りに配置されることにより、図11の(1)が示す従来の前方支持部よりも早いタイミングで、タッキングピン20と前方支持部42a(本実施形態である図11中の(2))とが接触する。これにより、眼内レンズの前進の際に、光学部41の内面の反対面である外面と眼内レンズ挿入器具1の内壁との間に前方支持部42aが入り込むおそれを低減できる。
【0106】
特に、眼内レンズ4全体が柔らかい素材で形成されている場合、管内を眼内レンズ4と共に通過する粘弾性物質との比重の違いにより、眼内レンズ4の支持部42a、42bが粘弾性物質中から浮き上がる傾向がある。この場合であっても、本実施形態の構成を採用すれば、光学部41も支持部42a、42bも、自ずと下方寄りに配置される。
【0107】
上記効果に関する知見を得た経緯について、以下、詳述する。
【0108】
本発明者は、特許第5254669号明細書に記載の突出部に前方支持部が当接した場合の動きに本発明者は着目した。その結果、特許第5254669号明細書に記載の突出部だと、眼内レンズ全体が前方に進行する際に、前方支持部が後方に向かって折れ曲がり続けて前方支持部の先端が眼内レンズ挿入器具の内壁近傍に移動するタイミングと、折り畳まれた眼内レンズにおける光学部の周縁が前進するタイミングとが非常に近いないし前方支持部の先端の方が早く内壁に移動する傾向があることが明らかとなった。
【0109】
そこで本発明者は、このタイミングを意図的にずらすべく、眼内レンズ4全体が前進する際に、後方に向かって折れ曲がる前方支持部42aの先端を従来よりも速やかに変位させ、前方支持部42aが内壁近傍に移動するタイミングを早める、という技術的思想を創出した。上記タイミングが早ければ、前方支持部42aが内壁近傍に移動した時には光学部41はまだ近くに存在しない。光学部41が近づいたときには前方支持部42aの折れ曲がりが進行し、既に前方支持部42aは内壁近傍から遠ざかっている。その結果、前方支持部42aが光学部41と下方内壁との間に挟み込まれる可能性を低減できる。
【0110】
上記例ではスライダを採用した眼内レンズ挿入器具を例示したが、スライダを使用せずロッド10(プランジャ9)のみにより眼内レンズを前進させる場合でも本発明は適用可能である。言い方を変えると、本発明は、スライダ有無にかかわらず適用可能であり、汎用性が高い。
【0111】
<本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の設計方法>
本発明は、眼内レンズ挿入器具の設計方法としても技術的意義がある。その内容は以下の通りである。
「光学機能を有する光学部と、前記光学部から延在する支持部と、を備える眼内レンズを折り畳みながら管内を前進させてノズルから放出する、眼内レンズ挿入器具の設計方法であって、
前記眼内レンズの進行方向に垂直な断面視において前記管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りを設ける設計変更工程を有し、
前記出っ張りにより、前記眼内レンズが前進しながら折り畳まれる際に前記光学部も前記支持部も前記左右両隅部に進入できないようにする、眼内レンズ挿入器具の設計方法。」
【0112】
本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の設計方法の特徴は、設計変更前の基本設計に対し、眼内レンズが通過する管の内壁の形状を設計変更することにある。
【0113】
一般的に、眼内レンズ挿入器具の管の内壁の形状を変更すると、眼内レンズの折り畳みの挙動が大きく変化する。せっかく、設計変更前の基本設計でもある程度の満足いく結果が得られていたとしても、眼内レンズの折り畳みの精度を向上させる目的で設計変更を試み、眼内レンズの折り畳みの挙動が想定外の結果に変化する可能性もある。
【0114】
その一方、本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の設計方法だと、設計変更前の管の内壁の基本設計(例えば図1(a))に対し、例えば図2のように管の内壁の上方の左右両隅部に出っ張りを設ける以外、管の内壁の断面形状を変化させずに済む。
【0115】
なお、設計変更前の管の内壁の形状と、設計変更後の管の内壁の形状との違いが、これまで述べてきた出っ張りのみである眼内レンズ挿入器具は、本実施形態に係る眼内レンズ挿入器具の設計方法を使用しているとみなせる。
【0116】
本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【符号の説明】
【0117】
1…眼内レンズ挿入器具
5…挿入器具本体
6…スライダ
7…挿入筒
7a…挿入筒本体
7b…ノズル部
7c…注入孔
7d…蓋
8…回転部材
9…プランジャ
10…ロッド
11…レンズ設置部
11a…底面部
11b…レンズ受け部
11c…レンズガイド部
15…出っ張り
15a…(出っ張りの)下端
30…管の内壁
73…突起挿入孔

62…ケース
20…突起部(タッキングピン)
75…底板部
76…U字状の壁部

4…眼内レンズ
41…光学部
41a…有効光学部
41b…周縁部
42a…前方支持部
42b…後方支持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11