(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】同軸ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20240202BHJP
【FI】
H01B11/18 D
(21)【出願番号】P 2020527422
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024046
(87)【国際公開番号】W WO2020004132
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018119743
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大石 恭輔
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05293001(US,A)
【文献】特開平06-203664(JP,A)
【文献】特開2015-018669(JP,A)
【文献】特開2017-214501(JP,A)
【文献】実開昭55-131017(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体の外周に、少なくとも誘電体、外部導体を、順次配置してなる同軸ケーブルにおいて、
該外部導体の内側に、金属層及び接着剤がテープ状に一体化して形成されたテープ材を備え、
該金属層が、該外部導体の一部と接触するように、該接着剤で該外部導体に接着され、
180度捻り前後の特性インピーダンスの変化量が1.0Ω以下になるように形成されたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
前記テープ材が、樹脂層、前記金属層、前記接着剤の順で形成され、
前記誘電体と該金属層との間に、該樹脂層が位置することを特徴とする請求項
1に記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
前記金属層の厚みが、1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
前記外部導体の外側の最外周にシースを配置し、該シースの外側の最外径が、1.4mm以下であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項5】
前記金属層が、該金属層の外周面に線方向に沿って螺旋状に設けられた前記接着剤で、前記外部導体に接着されたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項6】
前記テープ材が、線方向に沿って縦添えするように配置されたことを特徴とする請求項
1又は2に記載の同軸ケーブル。
【請求項7】
前記外部導体が、複数本の導線からなる導電材料を横巻する構造であることを特徴とする請求項1
又は2項に記載の同軸ケーブル。
【請求項8】
使用可能周波数がDC~110GHzになるように形成されたことを特徴とする請求項1
又は2に記載の同軸ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報通信機器、通信端末機器、さらには計測機器等の高周波部品の信号伝達線路、および内視鏡、超音波診断装置等の医療用器具の機器配線路として用いられる同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器や通信端末機器等は、ますます小型化され、機器内の配線スペースがより狭くなり、同軸ケーブルは更なる細線化が求められている。一方、細線であっても、高速、大容量化する情報通信機器において、減衰量等の高周波特性を向上させることが切望されている。
【0003】
同軸ケーブルの高周波特性向上を目指した構造としては、例えば、誘電体の外周に金属箔PETラミネートテープを縦添えし、その上に外部導体として、軟銅線を複数本編組する構造が知られている(特許文献1)。しかし、特許文献1のように外部導体が編組構造の場合、横巻構造と比較して太くなるため細線化には不利である。
【0004】
外部導体として、複数本の線材を螺旋状に巻回した横巻構造の場合、同軸ケーブルの細線化には好適であるが、同軸ケーブルを屈曲した際、あるいは端末加工の際に、外部導体の乱れや浮き、ばらけが発生する懸念がある。この問題を解決するため、誘電体の外周に接着層を設け、接着層の外周に外部導体を有する構造が知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2の
図4では、誘電体の外周に接着テープを横巻している図が示されている。接着テープを横巻した場合、誘電体と外部導体との間の平滑性が損なわれ、減衰量や反射損失(VSWR)が増加する懸念がある。
【0005】
さらに、特許文献3の高周波信号伝送用同軸ケーブルでは、導体と、導体の周囲に形成された絶縁層と、絶縁層の周囲に形成された遮光層と、遮光層の周囲に素線を横巻きして形成されたシールド層と、シールド層の周囲に形成された被覆層とを備え、シールド層が遮光層に接着固定されおり、遮光層はあくまでも端末処理の際のレーザ光による内部導体の損傷を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-327641号公報
【文献】特開2011-058915号公報
【文献】特開2015-018669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の同軸ケーブルは、細線化に伴っての減衰量、反射損失等の電気特性悪化の対策や、端末加工時の外部導体の乱れ等の課題を、総合的に解決することは困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電気特性を改善し、捻れ前後における電気特性の変化を抑え、細線化可能であると共に、外部導体の乱れ等を防止することが可能な同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の同軸ケーブルは、外部導体の内側に、外部導体の一部と接触するように、接着剤で外部導体に接着された金属層を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1記載の同軸ケーブルは、外部導体の内側に、金属層及び接着剤がテープ状に一体化して形成されたテープ材を備え、金属層が、外部導体の一部と接触するように、接着剤で外部導体に接着されたことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の同軸ケーブルは、テープ材が、樹脂層、金属層、接着剤の順で形成され、誘電体と金属層との間に、樹脂層が位置することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の同軸ケーブルは、金属層の厚みが、1μm以上20μm以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の同軸ケーブルは、外部導体の外側の最外周にシースを配置し、シースの外側の最外径が、1.4mm以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の同軸ケーブルは、金属層が、金属層の外周面に線方向に沿って螺旋状に設けられた接着剤で、外部導体に接着されたことを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の同軸ケーブルは、テープ材が、線方向に沿って縦添えするように配置されたことを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の同軸ケーブルは、外部導体が、複数本の導線からなる導電材料を横巻する構造であることを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の同軸ケーブルは、使用可能周波数がDC~110GHzになるように形成されたことを特徴とする。
【0018】
請求項1記載の同軸ケーブルはさらに、180度捻り前後の特性インピーダンスの変化量が1.0Ω以下になるように形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、外部導体の内側に外部導体の一部と接触するように接着剤で外部導体に接着された金属層を備えることで、電気特性が改善し、捻れ前後における電気特性の変化を抑え、細線化可能であると共に、外部導体の乱れ等を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る同軸ケーブルの断面の一例を示す説明図である。
【
図2】
図1の断面のA部分を拡大した説明図である。
【
図3】本発明に係る同軸ケーブルの減衰量を示す説明図である。
【
図4】本発明に係る同軸ケーブルの捻れ前後での特性インピーダンスの変化を示す説明図である。
【
図5】本発明に係る同軸ケーブルの接着剤の配置の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の同軸ケーブルの一例として、基本構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る同軸ケーブルの断面の一例を示す説明図である。
図2は、
図1の断面のA部分を拡大した説明図である。
図3は、本発明に係る同軸ケーブルの減衰量を示す説明図である。
図4は、本発明に係る同軸ケーブルの捻れ前後での特性インピーダンスの変化を示す説明図である。
図5は、本発明に係る同軸ケーブルの接着剤の配置の一例を示す説明図である。
【0022】
図に示す同軸ケーブル1,10は、中心に内部導体2を配し、内部導体2の外周に、誘電体3、樹脂層4、金属層5、外部導体8を順次配置している。尚、後述する通り、樹脂層4は、必須ではない。また、
図1及び
図2で、同軸ケーブル1の最も外側にシース9を設けているが、同軸ケーブルとしては、シースを配置しているものもあれば、配置していないものもあり、いずれの場合であってもよい(シース9を含むケースについては、明示して説明する)。
【0023】
本願発明の同軸ケーブル1,10の特徴的な構造は、外部導体8の内側に、外部導体8の一部と接触するように、接着剤6で外部導体8に接着された金属層5を備えることである。尚、同軸ケーブル1,10の電線としての基本要素である内部導体2、誘電体3、外部導体8及びシース9については、特に限定されるものではないが、金属層5及び接着剤6と共に、詳細を記載する。
【0024】
まず、内部導体2の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されないが、例えば、銅や銀、アルミニウム等の金属線や、あるいは、それらに錫、鉄、亜鉛、銀、ニッケル等を添加した合金線等を素線として用いられる。金属線の表面は、銀、錫等のメッキが施されてもよい。また、内部導体2の構成は、特に限定されないが、屈曲に対する柔軟性、及び同軸ケーブル1の細線化等を考慮すると、金属線を複数本束ねて撚ることにより形成される撚線構造が好ましい。
【0025】
また、内部導体2の外径は、特に限定されないが、同軸ケーブル1,10の細線化等を考慮すると、AWG(アメリカンワイヤーゲージ)28以上であることが好ましく、より好ましくは、AWG36以上、最も好ましくはAWG40以上である。
【0026】
誘電体3の材質は、電気絶縁性を有する材質であれば特に限定されないが、例えば、ふっ素樹脂やポリオレフィン等の熱可塑性樹脂や、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン等が挙げられる。誘電体3の材質は、好ましくは、ふっ素樹脂やポリオレフィン等の熱可塑性樹脂を用いるとよく、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂は、柔軟性や押出成型性等で優れる。誘電体3の材質としてのふっ素樹脂は、他と比較して、誘電率が低く、かつ、体積抵抗率が高く絶縁性も高いため、同軸ケーブル1,10の細線化に適している。
【0027】
樹脂層4は必須ではないが、後述するテープ状の構成を採用した場合に、樹脂層4を有することが好ましく、テープ材7を施す工程において、テープ材7に張力が加わっても、樹脂層4が適度に伸びることで、テープ材7の破断を防ぐことが出来る。樹脂層4の材質は、特に限定されない。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン、ポリウレタン、ふっ素樹脂等が挙げられる。柔軟性や加工性等を考慮すると、PETが好ましい。
【0028】
金属層5の材質は、導電性を有していれば特に限定されない。金属層5は、例えば、銅、アルミニウム、鉛、錫、銀、金等が挙げられ、シールド特性や価格等を考慮すると、銅が好ましい。金属層5の厚さは、特に限定されないが、1μm以上20μm以下である。
【0029】
接着剤6は、金属層5を外部導体8に接着するためのもので、接着剤6の材質は、特に限定されない。接着剤6の材質は、例えば、ポリエステル系、アクリル系、オレフィン系、ウレタン系、シリコーン系等が挙げられ、特に、シロキサン等の不純物が発生しないポリエステル系、オレフィン系、ウレタン系等が好ましい。接着剤6がポリエステル系の場合、金属層5と外部導体8との接着性、耐久性が向上する。さらに、接着剤6は導電性を有していてもよい。接着剤6に導電性接着剤を用いる方法や、接着剤6に導電性フィラーを混合する方法等が挙げられる。
【0030】
接着剤6の融点は、特に限定されないが、常温において、接着剤6の硬化が進行せず、かつ、比較的簡易な設備で接着剤6を溶融させることができる60度~150度が好ましい。さらに好ましい接着剤6の融点は、80度~100度であり、例えば、ホットメルト接着剤が挙げられ、ホットメルト接着剤は、弾性接着剤等と比較して硬化速度が速い為、生産性に優れる。
【0031】
また、接着剤6の誘電率及び誘電正接は、特に限定されないが、高周波特性の観点で誘電率が4.0以下、誘電正接が0.1以下であることが好ましい。
【0032】
外部導体8の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されないが、例えば、銅やアルミニウム等の金属線や、あるいは、それらに錫、鉄、亜鉛、銀、ニッケル等を添加した合金線等を素線として用いられる。外部導体8を構成する金属線の表面は、銀、錫等のメッキが施されてもよい。
【0033】
外部導体8の構造は、複数本の導線からなる導電材料を横巻する構造が好ましい。外部導体8は、編組構造である場合と比較すると、同軸ケーブル1,10の細線化に有利である。同軸ケーブル1,10では、金属層5が接着剤6で外部導体8に接着されているため、外部導体8が横巻構造であっても、同軸ケーブル1,10を屈曲した際に、外部導体8の乱れや浮きを抑えることが可能である。
【0034】
尚、外部導体8の横巻の角度は、同軸ケーブル1,10の線方向に対して、5~45度が好ましく、特に5~25度の角度がより好ましい。
【0035】
さらに、外部導体8の素線径は、特に限定されないが、同軸ケーブル1,10の細線化を考慮すると、0.3mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.1mm以下である。また、外部導体8の本数は、特に限定されないが、外部導体8の素線径、及び、外部導体8を施す際の製造途中のケーブルの外径等に応じて、適宜決定される。
【0036】
シース9の材質は特に限定されないが、例えば、ふっ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル系エラストマー等が挙げられる。
【0037】
次に、外部導体8と金属層5との接着の状態を、同軸ケーブル1の断面を示す
図1と、
図1の断面のA部分の拡大である
図2をもとに説明する。まず、外部導体8と金属層5との接着は、外部導体8の内側に、金属層5が外部導体8の一部と接触するように行う。ここで、金属層5の全面が、外部導体8に密着した状態で接触している必要はなく、外部導体8と金属層5との間に、導通がある程度に接触していればよい。
【0038】
具体的には、
図2に示すように、金属層5が、外部導体外周部8aで接していれば、一部が接触した状態で接着剤6で接着されていると見なすことが可能である。他方、例えば、接着剤6aの部分では、外部導体8と金属層5との間に接着剤6aが存在し、外部導体8と金属層5とが接触していない部分があるが、他の部分で接触していれば、接触していない部分があってもかまわない。
【0039】
さらに、接着剤6が、外部導体8と金属層5との間に、どの程度配置(充填)されているかの程度であるが、
図2の接着剤6に一部空隙があるように、完全に充填されている必要はなく、あくまでも接着剤6により、外部導体8に金属層5の一部が接着された状態になっていればよい。さらに、
図2の接着剤6bで示すように、接着剤がシース9側にはみ出しても、同軸ケーブル1の性能を悪化させない限りにおいては、問題はない。
【0040】
次に、本願発明における同軸ケーブル1,10の生産性の向上や、多様な接着パターンの製造が容易なテープ状の構造を持つテープ材7を用いる場合の説明を行う。
【0041】
テープ材7は、金属層5及び接着剤6がテープ状に一体化して形成されたものである。尚、テープ材7を用いる場合、接着剤6が外部導体8側になるように用いる。テープ材7では、金属層5に対して接着剤6を層状に配置することになるが、金属層5の全面に接着剤6を配置する構造であっても良いし、接着剤6を有する箇所と有さない箇所の両方が存在する構造であっても良い。接着剤6を有する箇所と有さない箇所の両方が存在する接着パターンとしては、例えば、縦縞、横縞、螺旋状等を含む縞模様や、チェック柄、ドット柄等が挙げられる。
【0042】
テープ材7に限った話ではないが、
図5に示すような、接着剤6の配置パターンすなわち接着パターンが、接着剤6を有する箇所と有さない箇所の両方を交互に配置した螺旋状であることが好ましい。接着剤6が、同軸ケーブル10の線方向において、接着剤6を有する箇所と有さない箇所の両方を交互に有することで、同軸ケーブル10を屈曲した際に、外部導体8の乱れや浮きを抑えやすくなる。
【0043】
尚、接着パターンが螺旋状の場合、隣り合う接着剤6同士の隙間(ピッチ)は、特に限定されないが、2mm以下であることがより好ましい。また、この場合の接着剤6の幅は、特に限定されないが、外部導体の乱れや浮きをより効果的に防止する観点から0.5mm以上であることがより好ましい。
【0044】
テープ材7において、樹脂層4は必須ではないが、テープ材7が、樹脂層4、金属層5、接着剤6の順で形成され、誘電体3と金属層5との間に、樹脂層4が位置されるような構造にすることも可能であり、樹脂層4の効果は、上述の通りである。
【0045】
テープ材7の厚さは、特に限定されないが、50μm以下であることが好ましい。同軸ケーブル1,10の細線化に有利であり、かつ、同軸ケーブル1,10の屈曲時におけるテープ材7の影響を最小限に抑えられるため、同軸ケーブル1,10の屈曲に対する柔軟性の維持が可能となる。さらに好ましいテープ材7の厚さは、30μm以下であり、より一層、同軸ケーブル1,10の細線化に寄与する。また、同軸ケーブル1のシース9を含む最外径が1.2mm以下の場合、テープ材7の厚さは、20μm以下が、さらに好ましい。
【0046】
同軸ケーブル1,10に加工される前のテープ材7における接着剤6の厚さは、特に限定されないが、外部導体8の乱れや浮きの防止が可能であり、かつ、接着剤6が減衰量等の高周波特性に影響を及ぼすことを防ぐことを考慮すると、0.5μm以上10μm以下が好ましく、さらには、1μm以上5μm以下がより好ましい。
【0047】
テープ材7における樹脂層4の厚さは、特に限定されないが、1μm以上10μm以下が好ましく、さらには、1μm以上5μm以下がより好ましい。
【0048】
また、テープ材7における金属層5の厚さは、特に限定されないが、金属層5がテープ状か否かにかかわらず、1μm以上20μm以下が好ましく、1μm~10μmがより好ましいが、最も好ましくは3μm~8μmである。金属層5の厚さが薄くなることで、同軸ケーブルの細線化においても有利であり、同軸ケーブルの屈曲に対する柔軟性を確保しやすくなる。
【0049】
テープ材7における最も好ましい組み合わせは、同軸ケーブル1,10の細線化が可能であり、かつ、テープ材7の引張強度を確保する観点から、樹脂層4の厚さが1μm以上10μm以下、かつ、金属層5の厚さが5μm以上20μm以下、かつ、接着剤6の厚さが0.5μm以上10μm以下である。
【0050】
尚、テープ材7において、金属層5及び接着剤6の厚みの比率は特に限定されないが、2~10:1が好ましい。テープ材7における金属層5及び接着剤6の厚みの比率を、5~8:1にすることで、接着剤6が必要最小限に施されるため、テープ材7の金属層5と外部導体層8間の導通が良好となるため、伝送特性が向上する。
【0051】
また、テープ材7の幅は、特に限定されないが、テープ材7の重なり幅が大きすぎず、製造の容易性、経済性を向上させることが出来る範囲として、誘電体3の外周の1.5倍以下が好ましく、さらには、1.2倍以下がより好ましい。他方、テープ材7の幅は、テープ材7の形態によらず、誘電体3の外周を覆うことが可能となる範囲として、誘電体3の外周の0.8倍以上が好ましい。
【0052】
尚、テープ7における樹脂層4及び金属層5の幅は、同じであることが好ましいが、特に限定されず、例えば、樹脂層4の幅が、金属層5の幅より広くても良い。
【0053】
このような構成の同軸ケーブル1,10によれば、外部導体8の内側に外部導体8の一部と接触するように接着剤6で外部導体8に接着された金属層5を備えることで、電気特性が改善し、捻れ前後における電気特性の変化を抑え、細線化可能であると共に、外部導体の乱れ等を防止することが可能である。より具体的には、同軸ケーブル1,10の細線化を実施すると、外部導体8を配する際に十分な張力を加えるのが難しくなるため、同軸ケーブル1,10を屈曲した際に、外部導体8の乱れや浮きが発生しやすくなるが、本発明においては、外部導体8に金属層5を接着しているため、外部導体8の乱れや浮きを防止できる。
【0054】
さらに、同軸ケーブル1,10によれば、外部導体8の内側に外部導体8の一部と接触するように接着剤6で外部導体8に接着された金属層5を備えることで、同軸ケーブル1,10を加工する際に、外部導体8のばらけが防止されることで、同軸ケーブル1,10の加工作業性の向上や、同軸ケーブル1,10をコネクタ部に接続する際に反射損失を抑えることが可能である。
【0055】
また、同軸ケーブル1,10の外部導体8の内側に、外部導体8の一部と接触するように金属層5を有することから、金属層5が、同軸ケーブル1,10においてシールド部材として作用し、同軸ケーブル1,10のシールド特性を向上させ、電磁ノイズの遮蔽作用を高めることが可能である。
【0056】
また、同軸ケーブル1,10は、外部導体8の外側の最外周にシース9を配置し、シース9の外側の最外径が、1.4mm以下になるように形成するのが好ましく、特に好ましくは1.2mm以下に形成するようにするのがよい。
【0057】
また、テープ状のテープ材7で構成させることで、接着剤6がテープ材と一体化し、予め施されていることを特徴とするため、同軸ケーブル1,10自体の製造工程で接着剤6を塗布するような工程は不要であり、更には、シース9を有する場合、押出成形時の加熱により接着剤6が溶融することで、外部導体8との接着が可能である。
【0058】
シース9の押出成形時に、加熱と同時に加圧される場合、溶融した接着剤6が、外部導体8の線状体間に浸透することで、よりテープ材7と外部導体8間の接着性が向上する。また、シース9の押出成形時の加圧が大きい場合、接着剤6が外部導体8の線状体間に浸透し、金属層5及び外部導体8が接着剤6を介さず接する部分が生じるため導通する。導通することで、金属層5を有するテープ材7も外部導体8と一体で作用するため、同軸ケーブル1,10のシールド特性を向上させ、電磁ノイズの遮蔽作用を高められるため、より好ましい。
【0059】
接着剤6の粘度は、特に限定されないが、30~200Pa・sが好ましい。接着剤6が完全に硬化する前に、テープ材7から接着剤6が垂れることを防止し、かつ、接着剤6で「糸引き」が発生して、外部導体8に余分な接着剤6が付着することも防止できる。
【0060】
さらに、同軸ケーブル1,10のテープ材7を、線方向に沿って縦添えするように配置するようにすることで、横巻と比較して、誘電体3と外部導体8との間の平滑性が向上するため、減衰量や反射損失を抑えることが可能である。また、同軸ケーブル1,10のテープ材7を、線方向に沿って縦添えするように配置するようにすることで、細線化しやすくなる。
【0061】
尚、同軸ケーブル1,10を、テープ材7による構造であるかに関わらず、使用可能周波数がDC~110GHzになるように形成された形態にしたり、180度捻り前後の特性インピーダンスの変化量が1.0Ω以下になるように形成された形態にしたりすることが可能である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の同軸ケーブルについて、実施例及び比較例を挙げ、さらに具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例の同軸ケーブルは、内部導体は外径0.045mmの銀めっき軟銅線の素線を7本撚り合わせ、外径が約0.135mmとなる撚線であり、誘電体は肉厚0.14mmのPFA樹脂である。テープ材を構成する樹脂層は厚さ4μmのPETであり、金属層は厚さ8μmの銅であり、接着剤はポリエステル系ホットメルト接着剤である。テープ材は、同軸ケーブルの径方向において、内側より順に、樹脂層、金属層、接着剤を有している。接着剤の配置パターンについては後述する。
【0064】
実施例及び比較例の同軸ケーブルの外部導体は外径0.03mmの銀めっき軟銅線の素線を45本用いた横巻構造であり、横巻の角度は、同軸ケーブルの線方向に対して13.0度である。シースは肉厚0.03mmのPFA樹脂である。
【0065】
実施例1は、接着剤の配置パターンをそれぞれ変えて「実施例1-1~1-3」と記載する。実施例1-1は、接着剤の配置パターンが螺旋状であり、同軸ケーブルの線方向において、接着剤の幅、及び、隣り合う接着剤同士の隙間(ピッチ)は約0.5mmである。実施例1-2は、接着剤の配置パターンが螺旋状であり、同軸ケーブルの線方向において、接着剤の幅、及び、隣り合う接着剤同士の隙間(ピッチ)は約2.0mmである。実施例1-3は、金属層の外周全面に接着剤を有している。
【0066】
比較例1は、接着剤を有さない構造である。同軸ケーブルは、金属層の外周面に直接外部導体を横巻した構造である。
【0067】
実施例1及び比較例1について、外部導体のばらけの評価を行い、結果を表1に示す。
【0068】
(外部導体のばらけ評価方法)
まず、同軸ケーブルの長さ方向の端部のシース30mmを除去し、外部導体を露出させる。この段階で外部導体にばらけが発生した場合は、ばらけ評価を「×」とする。次に、露出した外部導体20mmを、約250度のはんだ槽に2秒漬けて、以下の基準でばらけを評価した。
◎:ばらけ発生無し
○:シースを除去した同軸ケーブルの外径の1倍以下のばらけ発生
×:シースを除去した同軸ケーブルの外径の1倍より大きいばらけ発生
【0069】
【0070】
表1より、全ての実施例1-1~1-3は、比較例1と比べて、外部導体の乱れや浮きを防止できているが、これは、金属層と外部導体間の少なくとも一部に、接着剤が有るためである。実施例1-1及び1-3は、実施例1-2と比較して、外部導体の乱れや浮きをより効果的に防止できている。これは、接着剤の配置パターンが螺旋状である場合、外部導体の乱れや浮きをより効果的に防止するためには、ピッチが一定の値以下であることが必要なことを示している。
【0071】
また、実施例1-3と比較例2とにおける減衰量の比較を行った結果が、
図3に示すグラフである。ここで、実施例1は上述の同軸ケーブルであるが、比較例2は、比較例1と同軸ケーブルとしての基本構造は同一であるが、テープ材を有しないものである。
(減衰量評価方法)
ネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー製N5230A)を用いて、長さ1000mmの同軸ケーブルに対して、300kHzから110GHzの範囲で減衰量を測定した。
【0072】
図3のグラフで分かるとおり、テープ材が有る場合と無い場合とでは減衰量に大きな差があり、テープ材があることで減衰量を抑えることができる。尚、本発明の同軸ケーブルが使用される周波数帯域は特に限定されないが、
図3のグラフでも明らかなように、DC~110GHzの広帯域において使用可能である。特に、本発明の同軸ケーブルは、減衰量を考慮すると100MHz~110GHzでの使用に適しており、より好ましくは3GHz~110GHz、最も好ましくは30GHz~110GHzの高周波帯域である。
【0073】
また、実施例1-3と比較例1の仕様の同軸ケーブルに、180度捻りを加えた前後での特性インピーダンスの変化を示したグラフが、
図4である。
(特性インピーダンス変化量の測定方法)
長さ:150mm(両端コネクタ付)
測定機:ネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー製N5230A)
通常(直線)状態における抵抗値と、180°捩じり状態の抵抗値(特性インピーダンス)の差を変化量とする。
【0074】
図4(A)が、接着剤で接着されている同軸ケーブルの捻回前、180度捻回時及び捻回戻し時の特性インピーダンを示したものであるが、180度捻り前後の特性インピーダンスの変化量は、0.1Ω以下に抑えられている。これに対して接着剤なしの比較例1では、最悪の場合で特性インピーダンスの変化量が1Ωを超える結果になっている。このように、本願発明の同軸ケーブルは、捩れに対する伝送特性の安定性に優れる。特に、特性インピーダンスの安定性について、180°捻回時の変化量が、捻回前と比べて1.0Ω以内であるように構成することが可能で、より好ましくは、0.5Ω以内に抑えることも可能である。
【0075】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0076】
本出願は、2018年6月25日に出願された日本国特許出願特願2018-119743号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2018-119743号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明によれば、電気特性が改善し、捻れ前後における電気特性の変化を抑え、細線化可能であると共に、外部導体の乱れ等を防止することが可能な同軸ケーブルを提供することができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・・同軸ケーブル
2・・・・内部導体
3・・・・誘電体
4・・・・樹脂層
5・・・・金属層
6・・・・接着剤
6a・・・接着剤
6b・・・接着剤
7・・・・テープ材
8・・・・外部導体
8a・・・外部導体外周部
9・・・・シース
10・・・同軸ケーブル