(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】レーザ誘発型屈折率変化を用いたスケーラブルな製造
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20240202BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20240202BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240202BHJP
【FI】
A61F2/16
H01S3/00 B
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2021526303
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 US2019061451
(87)【国際公開番号】W WO2020102514
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-11
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511105986
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ ロチェスター
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ノックス,ウェイン エイチ
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ルイティン
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-527839(JP,A)
【文献】特開2017-213603(JP,A)
【文献】特開2014-128683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
H01S 3/00
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の眼科用デバイスを修正するためのレーザ書き込みシステムを設計する方法であって、
前記方法は:
(a)レーザ書き込みシステムパラメータのある範囲にわたって決定される、前記眼科用デバイスの少なくとも1つの材料特性を決定するステップ;
(b)前記眼科用デバイスの少なくとも1つの設計特性を決定するステップ;並びに
(c)決定された前記材料特性及び前記設計特性を用いて、前記レーザ書き込みシステムの少なくとも1つのシステムパラメータを、前記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するように構成するステップ
を含み、
前記レーザ書き込みシステムは:
(i)レーザビームを生成するよう構成されたレーザ;
(ii)前記レーザビームを複数の出力に分割するよう構成されたスプリッタ;及び
(iii)各々が、前記出力のうちの少なくとも1つを、1つの前記眼科用デバイスへと配向して、前記眼科用デバイスに1つ以上の局所的屈折率修正を書き込むよう構成された、複数の書き込みヘッド
を含み、
前記少なくとも1つの設計特性は、前記眼科用デバイスに光学的損傷を引き起こさずに、前記レーザ書き込みシステムで前記眼科用デバイスに書き込まれる、前記眼科用デバイスに関して設計された最大位相シフトを含み、
前記少なくとも1つの材料特性は:第1のレーザ繰返し周波数での、前記眼科用デバイスの誘発された単層光学位相シフトに関する、少なくとも1つの第1の損傷閾値;及び第2のレーザ繰返し周波数での、前記眼科用デバイスの誘発された単層光学位相シフトに関する、第2の損傷閾値を含み、
前記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するステップは、前記眼科用デバイスを修正するための書き込み層の最適な数を、前記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するための前記レーザ書き込みシステムの書き込みヘッドの最適な数と組み合わせて決定するステップ、及び前記眼科用デバイスに光学的損傷を引き起こさずに、前記眼科用デバイスに関して設計された最大位相シフトを得るステップを含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの材料特性を決定するために使用される、前記レーザ書き込みシステムパラメータの前記範囲は、パワー範囲、走査速度範囲、レーザ繰返し周波数範囲、及び集束レンズ開口数の範囲のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの材料特性を決定するために使用される、前記レーザ書き込みシステムパラメータの前記範囲は、前記パワー範囲、前記走査速度範囲、前記レーザ繰返し周波数範囲、及び前記集束レンズ開口数の範囲のうちの少なくとも2つを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
決定される前記材料特性はまた、前記眼科用デバイスにおいて誘発された位相シフトを前記レーザ書き込みシステムの構成に関連付ける定量的モデルの、少なくとも1つのフィッティングパラメータを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
決定される前記材料特性はまた、前記定量的モデルの多光子次数を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記定量的モデルは:
を含む2光子レジームモデルであり、
Δφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、βは前記フィッティングパラメータである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記定量的モデルは:
を含む3光子レジームモデルであり、
Δφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、γは前記フィッティングパラメータである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記定量的モデルは:
を含む4光子レジームモデルであり、
Δφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、γは前記フィッティングパラメータである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記定量的モデルは更に飽和係数を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記定量的モデルは:
を含むN次光子レジームモデルであり、
Δφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、及びγは前記フィッティングパラメータである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記定量的モデルは、複数の多光子レジームモデルの合計を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記定量的モデルは:
を含み、
Δφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、βは2次フィッティングパラメータであり、γは3次フィッティングパラメータであり、δは4次フィッティングパラメータである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するステップは、前記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するための、最適なレーザ繰返し周波数、レーザ波長、レーザパルス幅、及び走査速度のうちの1つを決定するステップを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記眼科用デバイスの線間隔特性を決定するステップを更に含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
眼科用デバイスに関して設計された最大位相シフトを得るように複数の眼科用デバイスを修正するためのレーザ書き込みシステムであって、
前記レーザ書き込みシステムは:
(a)レーザビームを生成するよう構成されたレーザ;
(b)前記レーザビームを複数の出力に分割するよう構成されたスプリッタ;及び
(c)各々が、前記出力のうちの少なくとも1つを、1つの前記眼科用デバイスへと配向して、前記眼科用デバイスに1つ以上の局所的屈折率修正を書き込むよう構成された、複数の書き込みヘッド
を備え、
前記レーザ書き込みシステムは、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法に従って構成され、よって、前記複数の書き込みヘッドは、前記眼科用デバイスに光学的損傷を引き起こさずに、前記眼科用デバイスに関して設計された前記最大位相シフトを得て、前記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するように前記眼科用デバイスに決定された最適な数の書き込み層を書き込むための決定された最適な数の書き込みヘッドを備える、レーザ書き込みシステム。
【請求項16】
前記レーザは、パルス幅が350フェムト秒未満、繰返し周波数が1~60MHz、波長が340nm~1100nmであるパルスレーザビームを生成するよう構成され、前記眼科用デバイスは、コンタクトレンズ若しくは眼内レンズ、又はヒドロゲル角膜インプラントである、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記レーザは、波長が515nm~520nm、又は1030nm~1040nm、又は400nm~410nm、又は795nm~805nmであるパルスレーザビームを生成するよう構成される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
レーザ書き込みシステムを用いて局所的屈折率変化を眼科用デバイスに書き込む方法であって、
前記方法は:
請求項15~17のいずれか1項に記載のレーザ書き込みシステムを提供するステップ;並びに
(a)前記レーザ書き込みシステム内でパルスレーザビームを生成するステップ;
(b)前記パルスレーザビームを複数の出力に分割するステップであって、前記出力のうちの少なくともいくつかはそれぞれ、前記レーザ書き込みシステム内の1つの書き込みヘッドと関連する、ステップ;及び
(c)各前記書き込みヘッドにおいて、前記パルスレーザビームを眼科用デバイスに対して走査して、1つ以上の屈折率変化を前記眼科用デバイスに書き込むステップ
を含む、方法。
【請求項19】
ステップ(a)が、波長が1030nm~1040nm、パルス幅が350フェムト秒未満、繰返し周波数が20MHz未満であるパルスレーザビームを生成するステップを含み、
前記レーザ書き込みシステムは、1500mW未満の前記書き込みヘッドにおける平均パワー、及び100mm/秒超の走査速度において、少なくとも0.3波の、書き込まれる単層位相シフトを誘発するように操作される、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記眼科用デバイスは、式:
において1e‐59m
6・波/(W
4・s)~3e‐59m
6・波/(W
4・s)の4光子吸収パラメータを有する、ヒドロゲル材料であり、
Δφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは前記書き込みヘッドにおける前記パルスレーザビームの平均パワーであり、NAは前記書き込みヘッドの開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはレーザパルス持続時間であり、γは前記4光子吸収パラメータである、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【連邦政府が後援する研究又は開発】
【0001】
本発明は、全米科学財団(National Science Foundation.)によって授与されたIIP:1549700の下で、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【技術分野】
【0002】
ヒドロゲル系材料及び他の眼科用材料に屈折率(RI)又は位相変化を誘発するための、フェムト秒微小機械加工。
【背景技術】
【0003】
フェムト秒微小機械加工は、その独自の特性、例えば材料内への迅速かつ正確なエネルギ堆積、周囲のエリアへの熱拡散の排除、焦点体積内の構造変化等を理由として、シリカガラス内の3次元微細加工、バルクポリ(メチルメタクリレート)内に書き込まれた埋め込み管状導波路、及び架橋PMMA系コポリマー内に形成されたチャネル導波路又は回折格子を含む、材料内に高度に局在化した微細構造を形成するために利用されてきた。この10年間、この技法は、ヒドロゲル系コンタクトレンズ、眼内レンズ(IOL)、及び角膜組織といった眼科用材料の光学特性を、異なる複数の屈折率成形構造を形成することによって変化させるために、応用されてきた。Gandara‐Montanoらは、ヒドロゲル系コンタクトレンズに任意のゼルニケ多項式を書き込むことに成功した。位相ラップレンズをIOL内に直接書き込むことにより、標的エリアの親水性を変化させ、また-3.0~+1.5ジオプトリーという広い度数範囲を有する高品質の屈折率分布型(gradient‐index:GRIN)フレネルレンズを、プラノコンタクトレンズ材料に書き込んだ。角膜組織内、更にはネコの生体の眼内における、非侵襲的な組織内屈折率成形のために、NIR/青色フェムト秒レーザが使用されてきた。
【0004】
レーザ誘発型屈折率変化(LIRIC)の有効性を決定し得る因子は多数存在し、材料特性及びレーザ曝露パラメータの両方が含まれる。達成可能な最大屈折率変化の限界を拡張するために、化学組成、含水量、ドーパントのタイプ、又はドーパントの濃度を含む、材料の特性が研究されてきた。
【0005】
3420cm-1を中心とする水のO‐H伸縮振動から生じるラマンスペクトルシグネチャは、位相変化の大きさが修正領域の含水量の高さに関連することを示しており、また、研究対象のヒドロゲルに比べて水の屈折率が低いことにより、レーザ処理されたエリアにおいて誘発される負の位相変化を説明できる。フェムト秒微小機械加工プロセスにおける水の機能は:高い熱容量によって、熱が誘発する破壊の閾値を上昇させること;低い熱拡散率によって、レーザ処理されたエリアから周囲への熱放散を遅らせること;又は水性媒体中のポリマー材料の、光が誘発する加水分解を促進することであると考えられている。
【0006】
少なくとも一部のフェムト秒書き込みに必要な化学組成に関して、非線形吸収によって堆積されるエネルギを増大させるため、及び化学反応を発生させるために吸収されたエネルギを伝達するための、2つの活性成分、即ちドーパント及びクエンチャーが存在する。ドープされたヒドロゲルは、非線形吸収係数の向上により、ドープされていないヒドロゲルよりもはるかに大きなRIの変化を生成することが報告されている。
【0007】
材料特性とは別に、誘発されるRIの変化は、システムパラメータ、並びに走査速度、レーザ平均パワー、開口数(NA)、パルス幅、レーザビーム波長、及び同一エリア内に書き込まれる層の数といった多くのシステムパラメータの効果にも強く依存する。フェムト秒微小機械加工プロセスを最適化するために、これらのパラメータのうちの多くが広く研究されてきた。走査速度が低く、平均パワーが高く、レーザ波長が短いほど、ヒドロゲルポリマー内で誘発される屈折率の変化を大きくすることができることが報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
いくつかの材料におけるレーザ誘発型屈折率変化(LIRIC)の有効性に影響を与える因子の過去の研究は進歩してきたが、依然として改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本特許は、レーザ誘発型フェムト秒レーザ微小機械加工において誘発される変化等の屈折率変化を利用して、製造プロセスを最適化するための、システム及び方法を記載する。本特許で説明される技法の応用には、コンタクトレンズ、眼内レンズ(生体外)、及び他の眼科用材料の、LIRICカスタマイズが含まれる。
【0010】
本特許はまた、商用規模のLIRIC製造システム及び方法を設計するために使用できる、LIRICのために本発明者らが開発した光化学モデルを記載する。本発明者らは、ヒドロゲルにおける青色での書き込みのための2光子モード、及びヒドロゲルにおける1035nmでの書き込みのための4光子モードにおいて、本発明者らの光化学モデルを試験した。単なる一例として、本発明者らのモデルは、最高3.7m/秒の、緑色の517nmを用いた極めて高速での書き込みを予測しており、これは500mwかつ10MHzで実証された。
【0011】
複数の眼科用デバイスを修正するためのレーザ書き込みシステムを設計する方法の一例は:(a)レーザ書き込みシステムパラメータのある範囲にわたって決定される、上記眼科用デバイスの少なくとも1つの材料特性を決定するステップ;(b)上記眼科用デバイスの少なくとも1つの設計特性を決定するステップ;並びに(c)決定された上記材料特性及び上記設計特性を用いて、上記レーザ書き込みシステムの少なくとも1つのシステムパラメータを、上記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するように構成するステップを含み、上記レーザ書き込みシステムは:(i)レーザビームを生成するよう構成されたレーザ;(ii)上記レーザビームを複数の出力に分割するよう構成されたスプリッタ;及び(iii)複数の書き込みヘッドを含み、各上記書き込みヘッドは、上記出力のうちの少なくとも1つを、1つの上記眼科用デバイスへと配向して、上記眼科用デバイスに1つ以上の局所的屈折率修正を書き込むよう構成される。
【0012】
いくつかの例では:上記少なくとも1つの材料特性は、上記眼科用デバイスの誘発された単層光学位相シフトに関する損傷閾値を含み;上記少なくとも1つの設計特性は、上記眼科用デバイスに関して設計された最大位相シフトを含む。
【0013】
いくつかの例では、上記少なくとも1つの材料特性は:第1のレーザ繰返し周波数での、上記眼科用デバイスの誘発された単層光学位相シフトに関する、少なくとも1つの第1の損傷閾値;及び第2のレーザ繰返し周波数での、上記眼科用デバイスの誘発された単層光学位相シフトに関する、第2の損傷閾値を含む。
【0014】
いくつかの例では、上記少なくとも1つの材料特性を決定するために使用される、上記レーザ書き込みシステムパラメータの上記範囲は、パワー範囲、走査速度範囲、レーザ繰返し周波数範囲、及び集束レンズ開口数の範囲のうちの少なくとも1つを含む。
【0015】
いくつかの例では、上記少なくとも1つの材料特性を決定するために使用される、上記レーザ書き込みシステムパラメータの上記範囲は、上記パワー範囲、上記走査速度範囲、上記レーザ繰返し周波数範囲、及び上記集束レンズ開口数の範囲のうちの少なくとも2つを含む。
【0016】
いくつかの例では、決定される上記材料特性はまた、上記眼科用デバイスにおいて誘発された位相シフトを上記レーザ書き込みシステムの構成に関連付ける定量的モデルの、少なくとも1つのフィッティングパラメータを含む。
【0017】
いくつかの例では、決定される上記材料特性はまた、上記定量的モデルの多光子次数を含む。
【0018】
【0019】
のような2光子レジームモデルであり、ここでΔφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、βは上記フィッティングパラメータである。
【0020】
【0021】
のような3光子レジームモデルであり、ここでΔφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、γは上記フィッティングパラメータである。
【0022】
【0023】
のような4光子レジームモデルであり、ここでΔφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、γは上記フィッティングパラメータである。
【0024】
いくつかの例では、上記定量的モデルは飽和係数も含む。
【0025】
【0026】
のようなN次光子レジームモデルであり、ここでΔφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、及びγは上記フィッティングパラメータである。
【0027】
いくつかの例では、上記定量的モデルの上記多光子次数は、2光子レジーム、3光子レジーム、又は4光子レジームである。
【0028】
いくつかの例では、上記定量的モデルは、複数の多光子レジームモデルの合計を含む。
【0029】
【0030】
であり、ここでΔφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは平均パワーであり、NAは開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはパルス持続時間であり、βは2次フィッティングパラメータであり、γは3次フィッティングパラメータであり、δは4次フィッティングパラメータである。
【0031】
いくつかの例では、上記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するステップは、上記眼科用デバイスを修正するための書き込み層の最適な数を、上記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するための上記レーザ書き込みシステムの書き込みヘッドの最適な数と組み合わせて決定するステップを含む。
【0032】
いくつかの例では、上記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するステップは、上記レーザ書き込みシステムのスループットを最適化するための、最適なレーザ繰返し周波数、レーザ波長、レーザパルス幅、及び走査速度のうちの1つを決定するステップを含む。
【0033】
いくつかの例では、上記眼科用デバイスの上記少なくとも1つの材料特性を決定するステップは、上記少なくとも1つの材料特性を、レーザ書き込みシステムパラメータの第1の範囲、及びレーザ書き込みシステムパラメータの第2の範囲にわたって決定するステップを含み、上記第1の範囲及び上記第2の範囲は、少なくとも1つの異なるレーザ繰返し周波数パラメータ、レーザ波長パラメータ、レーザパルス幅パラメータ、及び走査速度パラメータを含む。
【0034】
いくつかの例では、上記設計方法は、上記眼科用デバイスの線間隔特性を決定するステップも含む。
【0035】
複数の眼科用デバイスを修正するためのレーザ書き込みシステムの一例は:(a)レーザビームを生成するよう構成されたレーザ;(b)上記レーザビームを複数の出力に分割するよう構成されたスプリッタ;及び(c)複数の書き込みヘッドを含み、各上記書き込みヘッドは、上記出力のうちの少なくとも1つを、1つの上記眼科用デバイスへと配向して、上記眼科用デバイスに1つ以上の局所的屈折率修正を書き込むよう構成され、ここで上記レーザ書き込みシステムは、上述の方法に従って構成される。
【0036】
いくつかの例では、上記レーザは、パルス幅が350フェムト秒未満、繰返し周波数が1~60MHzであるパルスレーザビームを生成するよう構成される。
【0037】
いくつかの例では、上記レーザは、波長が340nm~1100nmであるパルスレーザビームを生成するよう構成される。
【0038】
いくつかの例では、上記レーザは、波長が515nm~520nm、又は1030nm~1040nm、又は400nm~410nm、又は795nm~805nmであるパルスレーザビームを生成するよう構成される。
【0039】
いくつかの例では、上記スプリッタは、上記レーザビームを2~64個の出力に分割するよう構成される。
【0040】
いくつかの例では、上記眼科用デバイスは、コンタクトレンズ若しくは眼内レンズ、又はヒドロゲル角膜インプラントである。
【0041】
レーザ書き込みシステムを用いて局所的屈折率変化を眼科用デバイスに書き込む方法の一例は:上述の方法に従って構成された上述のようなレーザ書き込みシステムを提供するステップ;並びに(a)上記レーザ書き込みシステム内でパルスレーザビームを生成するステップ;(b)上記パルスレーザビームを複数の出力に分割するステップであって、上記出力のうちの少なくともいくつかはそれぞれ、上記レーザ書き込みシステム内の1つの書き込みヘッドと関連する、ステップ;及び(c)各上記書き込みヘッドにおいて、上記パルスレーザビームを眼科用デバイスに対して走査して、1つ以上の屈折率変化を上記眼科用デバイスに書き込むステップを含む。
【0042】
特定のレーザ書き込みシステムを用いて局所的屈折率変化を特定の眼科用デバイスに書き込む方法の一例は:(a)波長が1030nm~1040nm、パルス幅が350フェムト秒未満、繰返し周波数が20MHz未満であるパルスレーザビームを生成するステップ;(b)上記パルスレーザビームを複数の出力に分割するステップであって、上記出力のうちの少なくともいくつかはそれぞれ1つの書き込みヘッドと関連する、ステップ;及び(c)各上記書き込みヘッドにおいて、上記パルスレーザビームを眼科用デバイスに対して走査して、1つ以上の屈折率変化を上記眼科用デバイスに書き込むステップを含み、上記レーザ書き込みシステムは、1500mW未満の上記書き込みヘッドにおける平均パワー、及び100mm/秒超の走査速度において、少なくとも0.3波の、書き込まれる単層位相シフトを誘発できるように、構成される。
【0043】
【0044】
において1e‐59m6・波/(W4・s)~3e‐59m6・波/(W4・s)の4光子吸収パラメータを有する、ヒドロゲル材料であり、ここでΔφは書き込まれる単層位相シフトであり、Pは上記書き込みヘッドにおける上記パルスレーザビームの平均パワーであり、NAは上記書き込みヘッドの開口数であり、νはレーザ繰返し周波数であり、λはレーザ波長であり、Sは走査速度であり、τはレーザパルス持続時間であり、γは上記4光子吸収パラメータである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】フェムト秒書き込みシステム。Ybドープファイバレーザは、一連の調整可能な繰返し周波数で、30Wまでの最大出力パワーを用いて、フェムト秒パルスを送達できる
【
図2a】平均パワー~500mW、走査速度(上から下に)5mm/秒、50mm/秒及び100mm/秒、繰返し周波数15MHzで書き込まれた格子線のDIC画像
【
図2b】平均パワー~500mW、走査速度(上から下に)5mm/秒、50mm/秒及び100mm/秒、繰返し周波数60MHzで書き込まれた格子線のDIC画像
【
図2c】平均パワー(上から下に)~500mW、~1000mW及び~1500mW、走査速度100mm/秒、繰返し周波数15MHzで書き込まれた格子線のDIC画像
【
図2d】平均パワー(上から下に)~500mW、~1000mW及び~1500mW、走査速度100mm/秒、繰返し周波数60MHzで書き込まれた格子線のDIC画像
【
図3a】1075mW(上の2つ)及び1105mW(下の2つ)という異なる2つのパワーでJ+Jコンタクトレンズに書き込まれた4つの位相バーのDIC画像
【
図3b】ラスター走査(左)及び矩形ループ走査(右)という異なる2つの走査方法を示す概略図
【
図3c】パワー1105mW、走査速度200mm/秒、繰返し周波数15MHzで書き込まれた2つの位相バーのインターフェログラム
【
図3d】レーザ処理エリアと周囲との間の位相差を示す位相マップ
【
図4a】5MHz、10MHz、15MHz及び60MHzという異なる周波数において:J+J Acuvueコンタクトレンズに書き込まれた位相バーに関する、543nmで測定された位相変化の大きさを、パワーの関数として示す、定量的結果
【
図4b】5MHz、10MHz、15MHz及び60MHzという異なる周波数において:J+J Acuvueコンタクトレンズに書き込まれた位相バーに関する、543nmで測定された位相変化の大きさを単一パルスエネルギの関数として示す、定量的結果
【
図4c】5MHz、10MHz、15MHz及び60MHzという異なる周波数において:Contaflex GM Advance 58サンプルに書き込まれた位相バーに関する、543nmで測定された位相変化の大きさを、パワーの関数として示す、定量的結果
【
図4d】5MHz、10MHz、15MHz及び60MHzという異なる周波数において:Contaflex GM Advance 58サンプルに書き込まれた位相バーに関する、543nmで測定された位相変化の大きさを、単一パルスエネルギの関数として示す、定量的結果
【
図5a】多光子吸収プロセスの次数の決定を目的とした、Contaflexサンプルに関する、5MHz、10MHz、15MHz及び60MHzにおける、焦点体積内の平均パワーの対数に対する、543nmで誘発された位相変化の対数のプロット
【
図5b】多光子吸収プロセスの次数の決定を目的とした、J+Jコンタクトレンズに関する、5MHz、10MHz、15MHz及び60MHzにおける、焦点体積内の平均パワーの対数に対する、543nmで誘発された位相変化の対数のプロット
【
図6】Contamac 58サンプルに書き込まれた、543nmで測定された位相変化の大きさを、パワーの関数として示す、定量的結果
【
図7】Contamac 58サンプルに関する、焦点体積内の平均パワーの対数に対する、543nmにおける誘発された位相変化の対数のプロット
【
図8】LIRICマルチヘッド書き込みシステムの一例の概略図
【
図9】
図8のLIRICマルチヘッド書き込みシステムと共に使用できる、ハイパワースプリッタ構成の一例の概略図
【
図10】
図8のLIRICマルチヘッド書き込みシステムと共に使用できる、走査及び送達サブシステムの一例の概略図
【
図11】総材料損傷又は散乱効果が発生することになる閾値未満で屈折率変化が発生するパルスエネルギ範囲
【
図12】総材料損傷又は散乱効果が発生することになる閾値を超えて屈折率変化が発生する走査速度範囲
【
図13】プラノヒドロゲル内に作成されたLIRICレンズの例
【
図14】薄層に書き込まれたフレネルタイプの位相ラップ光学レンズの一例
【
図15】(a)3mm/秒、(b)5mm/秒、(c)10mm/秒、(d)15mm/秒、(e)20mm/秒、(f)30mm/秒、及び(g)40mm/秒の速度について、繰返し周波数80MHz、及び800nmの、100fsレーザパルスに応答したJohnson & Johnson Acuvue2コンタクトレンズにおける、パワー及び速度の関数としての位相変化をプロットしたデータ
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下の詳細な説明は、眼科用材料のためのLIRIC書き込みシステム及び方法、並びにLIRIC製造システム及び方法を改善するための、本発明者らの光化学モデルを用いた技法の例を提示する。以下に記載される具体例は単なる例示を目的としており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、以下に記載のシステム、方法、及び技法を変更してよい。
【0047】
レーザパルス繰返し周波数
本特許に記載の例のうちのいくつかでは、視力矯正におけるフェムト秒微小機械加工の実現可能性及び実用性を高めるために、本発明者らは、レーザパルス繰返し周波数に依存して、平均パワーを低減し、また眼科用材料の内部に検出可能な屈折率(RI)の変化を誘発するために必要な走査速度を高める。複数の研究グループが、Hz及びKHzの範囲での、溶融シリカ及び金属の内部における微小構造の形成に対する繰返し周波数の影響を報告している。これらの研究の大半は、アブレーション効率、金属のレーザ穿孔、欠陥形成、又はレーザによって誘発される微小構造の表面テクスチャに対する、繰返し周波数の影響に焦点をあわせたものである。Reichmanらによって実施されたキロヘルツレーザシステムとメガヘルツレーザシステムとの間の比較は、メガヘルツ繰返し周波数での修正によって、キロヘルツ周波数での修正に比べて屈折率の上昇が大きい、より高品質の導波路が得られることを示した。しかしながら、本発明者らの知る限り、ヒドロゲル系ポリマー内でフェムト秒微小機械加工によって誘発されるRIの変化に対する繰返し周波数の影響を示す研究は、これまでに存在しない。
【0048】
ヒドロゲルポリマーのフェムト秒微小機械加工において現在使用されている典型的な繰返し周波数は、80MHz超である。しかしながら、本発明者らによる調査以前には、この高い繰返し周波数(>80MHz)が、いずれの光学的損傷も与えることのない、眼科用材料の書き込みに最適な繰返し周波数であるのかどうかについて、調査されていない。同一の単一パルスエネルギを考えると、繰返し周波数が高いパルス列が誘発する累積温度上昇は、繰返し周波数が低いパルス列よりも大きく、これは、ポリマーの熱分解を想定した場合に、上記パルス列の高い繰返し周波数がより大きな屈折率変化を誘発できるはずであることを示している。しかしながら、本発明者らは、レーザが誘発するRIの変化が、熱が誘発する分解プロセスと、非線形多光子吸収プロセスによって発生する直接的な光化学的変化との両方の組み合わせに起因する可能性を考えた。累積的な熱の影響は、繰返し周波数が高い領域においてより顕著になり得るものの、同量の平均パワーに対して単一パルスエネルギが小さくなるため、材料が吸収できる光子エネルギは減少し、その一方で、繰返し周波数が低いパルスは、単一パルスエネルギが大きいため、より小さな平均パワーで、光学的破壊閾値に容易に達することができ、また全体的な損傷を引き起こすことができる。従って本発明者らは、誘発されるRIの変化及び光学的損傷閾値の両方に対する、繰返し周波数の影響を調査した。調査の一部として、本発明者らは、最適な繰返し周波数を利用することで、フェムト秒機械加工プロセスに必要なパワーの量を削減して、フェムト秒機械加工プロセスを高速化できることを発見した。
【0049】
以下の複数のサブセクションでは、誘発される位相変化の大きさに繰返し周波数がどのように影響するかを示す、定性的及び定量的実験結果を提示し、上記位相変化は、以下の式:
【0050】
【0051】
によってRIの変化と関連し、ここで:Δφは、誘発された位相変化の大きさであり、その単位は波の数であり、また特定の基準波長(例えばこの例ではλ=543nm)で測定されており;Δnは、誘発された平均RI変化であり;Lはレーザが誘発する領域の長手方向厚さである。15MHz及び60MHzという異なる2つの繰返し周波数で、格子線をヒドロゲル系コンタクトレンズに書き込み、低い繰返し周波数での修正と高い周波数での修正との間の大きな不一致を、微分干渉(DIC)顕微鏡画像から容易に可視化できることを示した。5MHz、10MHz、15MHz、及び60MHzという異なる4つの繰返し周波数において連続した位相シフトバーを製作することによって、更に全体的な定量的結果を得た。較正関数は、誘発された位相変化と、多光子吸収プロセス及びパルスオーバラップ効果による分子密度の変化とを関連付けることにより、光化学モデルから導出される。較正関数中の係数を最小二乗法でフィッティングする。繰返し周波数の関数としての単一パルスエネルギ損傷閾値も調査して、材料の損傷閾値のすぐ下の、達成可能な最大位相変化を決定し、また書き込みプロセスのダイナミックレンジを取得した。
【0052】
1.実験のセットアップ
本発明者らの実験に使用したシステム構成を
図1に示す。書き込みプロセスに使用した光源は、KM Lab Y‐Fi(イッテルビウムファイバ)レーザであり、これはパルス持続時間~120fs、中心波長1035±5nmのフェムト秒レーザパルスを送達する。パルス持続時間は、市販の自己相関器(Newport、PSCOUT2‐NIR‐PMT)で測定され、パルスコンプレッサとして作用する内部格子ペアによって調整できる。この強力なY‐Fiレーザは、全法線分散(all‐normal‐dispersion:ANDi)Ydドープファイバ発振器を内包し、これは、パルスピッカーを用いて1MHzから60MHzまでの範囲で微調整可能な繰返し周波数を実現する。発振器からのパルス繰返し周波数は60MHzに固定され、パルスピッカーは、同一の時間間隔で高速パルス列から特定のパルスを抽出するため、上記発振器とは異なる繰返し周波数が得られる。使用可能な繰返し周波数は60/NMHz(ここでNは4~60の整数)である。パルスピッカーの後に増幅器を使用して、60MHzで0.5μJの最大パルスエネルギに相当する30Wまで、平均パワーを増幅する。Y‐Fiレーザの後にHWP及びPBSを配置して、入射する直線偏光ビームを、直交偏光及び制御可能なパワーを有する2つのビームに分割する。HWP‐PBSユニットの分割比は90:10に設定した。入射するビームの90%がPBSを通って伝達され、ビームの10%が、書き込みプロセスで使用されるパワーの監視のためにパワーメータに反射される。2つの正レンズからなるビーム拡張器をHWP‐PBSユニットの後に配置して、サンプルの書き込みのための有効開口数(NA)が0.47となり、対応する回折限界スポットサイズが2.75μmとなるように、ビームサイズを増幅する。3つの低GDDミラー(Thorlabs、UM10‐45B)をシステムに挿入して、光ビーム経路を折り畳んだ後、顕微鏡の対物レンズ(Olympus、LCPLN50XIR)を通してビームを送ることにより、サンプル内部に回折限界スポットを形成する。顕微鏡の対物レンズは、Z軸のステップ制御を提供するモータ駆動式垂直ステージ(Newport、GTS30V)に取り付けられる。サンプルを顕微鏡のガラススライドとカバースリップとの間にハサミ、溶液に浸漬して水和状態を維持する。続いてこのサンプルを、3m/秒までの速度でのXY軸方向走査を可能にする2D直線並進移動ステージ(Aerotech、PRO115LM)に設置する。集束レンズ及びCCDカメラからなる後方反射モニターを用いて、通常はポリマーサンプルの中央となるように設定されていた書き込み深さを特定する。
【0053】
2.実験結果
誘発される位相変化に対する繰返し周波数の影響を説明するために、本発明者らは、異なる複数のパワー及び異なる複数の走査速度を用いて、異なる複数の繰返し周波数において定性的実験及び定量的実験の両方を実施した。本発明者らの定性的実験で使用したサンプルは、1,1,1‐トリメチロールプロパントリメタクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートと架橋した2‐ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸とのコポリマーである、「etafilcon A」として知られる軟質親水性材料で作製された、ヒドロゲル系コンタクトレンズ(Acuvue2、Johnson & Johnson)である。ラスター走査法を用いて、周期的な格子構造をコンタクトレンズの上面の下~50μmに作成した。
図2(a)及び(b)は、5mm/秒、50mm/秒、及び100mm/秒の3つの異なる走査速度、並びに15MHz及び60MHzの2つの異なる繰返し周波数で、~500mWのパワーを用いて書き込まれた、格子のDIC画像である。各格子は、線間隔5μmの10本の格子線からなり、その結果全体の幅は50μmとなる。サンプル内での一定の速度を維持するために、各格子の長さは20mmに設定され、これは確実に、ステージの加速及び減速移動距離を補償するために十分な長さである。同一の平均パワー及び同一の繰返し周波数を考えると、格子線は、走査速度が上昇するほど細くなった。これは、使用する走査速度が低いほど、大きなRIの変化を誘発できることを示している。15MHzで得られたDIC画像(
図2(a))と、60MHz(
図2(b))で得られたDIC画像との間には、明確な違いを見出すことができる。15MHzで微小機械加工された格子線は、3つの走査速度全てにおいて確認できるものの、60MHzでは、最も低い走査速度においてさえ、格子線の検出が困難である。500mW、1000mW、及び1500mWの3つの異なるパワー、並びに2つの異なる繰返し周波数を用いて、100mm/秒で得られた結果を、それぞれ
図2(c)及び(d)に示す。走査速度スケーリング実験からと同様の結果が、パワースケーリング実験から得られた。格子線は、繰返し周波数及び走査速度が同一に維持されている間は、光学的破壊閾値に達するまでは、パワーが上昇するに従って明るくなった。光学的損傷は、格子線に沿って高度に局在化された、溶融跡及び多孔性を伴う暗色のカーボンスポット又は材料歪みの形成によって示された。同一の繰返し周波数で得られた結果は、Dingらの論文で引き出された結論と一致しており、上記論文は、平均パワーを上昇させ、かつ走査速度を低下させるほど、達成できるRIの変化が大きくなることを暗示している。しかしながら、他の照射パラメータを同一に維持しながら2つの異なる繰返し周波数でのDIC画像を比較すると、いくつかの新たな発見が得られる。15MHzで書き込まれた明るい中央の格子線(
図2(c))、及び60MHzでのかなり薄い格子線(
図2(d))によって示されているように、同一の平均パワーでは、周波数が低い使用するパルス列の繰返し周波数を低くすると、はるかに大きな屈折率変化を得ることができる。所与の平均パワー1500mWに関して、15MHzでは炭化した格子線を観察でき、60MHzではわずかな修正が誘発されたことが、画像において示されているように、パルスの繰返し周波数が低いと、より低い平均パワーで光学的損傷が引き起こされる。15MHzと60MHzとのこのような注目すべき違いは、単一パルスエネルギの観点から説明できる。平均パワーとパルス間隔の積としての単一パルスエネルギは、同一の平均パワーに関して、60MHzにおいてよりも15MHzにおいてのほうが4倍大きく、これは、繰返し周波数が低いほど、多光子吸収によって材料が吸収できるパルスあたりのエネルギが大きくなり、より大きな量のRIの変化を誘発できることを示している。
【0054】
定量的結果を生成するために、より体系的な実験を実施した。本発明者らは、+4ジオプトリー及びベース曲率8.7mmのAcuvue J+Jコンタクトレンズ内に、格子線の代わりに位相バーを刻み込んだ。2D直線ステージの移動距離はここでも20mmに設定し、走行速度をサンプル内で200mm/秒で一定に維持する。各位相バーは、1μm間隔の30本の格子線で構成され、この間隔は集束スポットサイズより小さいため、30μm×20mmの寸法の連続した位相カーペットが形成される。
図3(a)に示されているように、2つの異なる暴露条件で書き込まれた4つの位相バーが存在する。上の2つの位相バーは1075mWで作成され、下の位相バーは1105mWで作成された。2つの書き込み条件の差は(損傷が生じない限り)DIC画像から直接検出することはできないが、自作の2波長マッハ・ツェンダー干渉計(MZI)の下で、書き込まれたエリア内で誘発される位相変化を周囲に対して測定することによって、十分に特定できる。この実験で使用した走査方法は、ラスター走査ではなく、
図3(b)で示されているように矩形ループ走査であり、これにより、2つの同一の位相バーを100μmの間隔で横に並べて書き込むことができる。更に矩形ループ走査は、2つの隣接する位相線が誘発する空間的な熱の影響を最小化する。というのは、2つの隣接する格子線の間隔が、ラスター走査の場合より100倍大きいためである。543nmの基準光で測定した位相変化の量を抽出し、Goldsteinによるブランチカットのアンラッピングアルゴリズム、及び干渉縞パターン分析のフーリエ変換法によってアンラップする。(
図3(a)の下の2つの位相バーの生成に使用した)同一の照射パラメータで書き込まれた2つの位相バーと、これらに対応して取得された位相マップとを、それぞれ
図3(c)及び(d)に示す。インターフェログラムから明らかな位相シフトを観察でき、また書き込まれた領域内の位相変化は、元の領域とは異なっており、縁部に急峻な不連続が存在する。平均位相変化は-0.54波と算出され、1つの位相バー内での変動は0.05波未満であった。
図3(d)の上の位相バーと下の位相バーとの間の、誘発された位相変化の差は、おおよそ0.02波であり、これは、フェムト秒微小機械加工プロセスによって一貫した安定的な位相変化を達成できることを示している。各走査線の長手方向の厚さは、10本の走査線からなる1つの格子構造の断面画像を取得することによって、およそ8μmであるものと推定され、従って、543nmにおける-0.54波の位相変化に対応するRIの変化は、式(1)から、-0.037であるものと算出される。
【0055】
3.位相変化の定量的光化学モデル
異なる複数の繰返し周波数で誘発される位相変化をマッピングするために、試験されたパワーは、MZIによって小さな位相変化を測定できる小さな値から始まり、サンプルの損傷が発生する値で終わるものであった。走査パターンは矩形ループ走査であり、書き込み速度は200mm/秒に固定されていた。5MHz、10MHz、15MHz、及び60MHzの4つの異なる繰返し周波数において定量的データを収集するために、2つの材料をレーザ処理した。材料のうちの1つは、前節で説明したAcuvue J+Jコンタクトレンズであり、他方の材料は、Contaflex GM Advance 58(Contamac Inc.)という名称のプラノヒドロゲルサンプルであり、これは「Acofilcon A」(「2‐ブテン二酸(2Z)‐,ジ‐2‐プロペニルエステル;2,3‐ジヒドロキシプロピル2‐メチル‐2‐プロペン酸、1‐エチル‐2‐ピロリドン、2‐ヒドロキシエチル2‐メチル‐2‐プロペン酸、及びメチル2‐メチル‐2‐プロペン酸とのポリマー」の同義語)で作製されている。平均パワー及び単一パルスエネルギの関数としての、4つの繰返し周期における測定された位相変化の大きさを、J+Jコンタクトレンズに関して
図4(a)及び4(b)、Contaflex GM Advance 58サンプルに関して
図4(c)及び4(d)に、それぞれ示す。各実験データは、同一のレーザ照射パラメータを用いて書き込まれた8~12の位相バーからの位相変化値を平均して得られた。個々のデータに割り当てられた分散は、これらの矩形から得られた標準偏差を示す。
【0056】
フィッティング曲線は、多光子吸収プロセス及び上書き係数を伴う光化学モデルから導出される。RIの変化は、多光子吸収による励起体積内のポリマーマトリックスの密度変化によって誘発されると考えられる。本発明者らによる、1035nmの近赤外光を用いる特定のケースでは、300nm付近の強いUV線形吸収カットオフ波長により、書き込みプロセス中に4光子吸収プロセスが発生すると予期された。次に、励起される分子の密度の変化Dを、簡単にするために吸収限界を小さなものと仮定して、以下の形式:
【0057】
【0058】
で表現でき、ここでεは、堆積されたエネルギを分子密度変化に関連付ける材料定数であり、Eは、材料が吸収する単一パルスエネルギであり、VOLは光‐物質間相互作用の体積であり、βは4次光子吸収係数であり、IPeakはピークパルス強度であり、Lは相互作用領域の長手方向厚さである。4光子吸収プロセスとは別に、パルスオーバラップに起因する蓄積効果も考慮する必要がある。スポットの上書きは、簡単にするために均一な(「トップハット」)ビームプロファイルを想定することによって、スポットサイズをスポット間の間隔で除算したもの:
【0059】
【0060】
として説明でき、ここでωは、材料内の回折限界レーザスポットサイズであり、νはパルス繰返し周波数であり、Sは走査速度である。式(3)は、スポットあたりのパルス数を表し、変位したレーザパルスの交差に関する詳細な説明は、他の研究に見出すことができる。従って、スポットあたりのパルス数を、式(3)に基づいて、5MHz、10MHz、15MHz、及び60MHzそれぞれにおいて~18、~35、~53、及び~210であるものと算出できる。
【0061】
式(2)及び式(3)に従うと、全体的な励起分子密度変化を、単一パルスが引き起こす分子密度変化と、オーバラップ効果Nとの積として表現できる。数学的操作を行い、単一パルスエネルギを平均パワー及び繰返し周波数に関して表現した後、本発明者らは、位相変化の式:
【0062】
【0063】
の最終結果を提案でき、ここでPは平均パワーであり、NAは開口数であり、τはパルス持続時間である。パラメータγは定数であり、これは4光子吸収係数を含み、吸収されたエネルギを位相変化に関連付ける。これは、最小二乗フィッティング法を用いて決定できる。その結果は、3つの低い繰返し周波数に関してはフィッティング曲線が実験結果と十分に一致するものの、60MHzでは実験データとフィッティング曲線との間に偏差が存在することを示す。フィッティングパラメータは、J+Jコンタクトレンズに関してγ=2.82e‐59m6・波/(W4・s)、Contaflexサンプルに関してγ=1.33e‐59m6・波/(W4・s)であることが分かる。これらの結果は、4光子吸収速度、又は吸収されたエネルギを変換してContaflexサンプルのRIの変化を誘発する能力が、J+Jコンタクトレンズのものより小さいことを示唆し得る。従って、吸収断面を増大させるためにドーパントを添加すること、又はエネルギ変換効率の向上のためにクエンチャーを添加することが考えられる。
【0064】
図4からいくつかの結論を引き出すことができる。
図4(a)及び4(c)に示されているように、543nmで測定された位相変化の大きさは、所与の繰返し周波数に関して、両方の材料についてパワーの上昇に従って増大し、また、比較的低い繰返し周波数が、非常に小さなパワーにおいて同一量の位相変化を誘発でき、これは
図2に示されている定性的結果と一致している。その一方で、比較的低い繰返し周波数は、両方の材料について、低いパワーでサンプルの損傷を引き起こす。しかしながら、単一パルスエネルギに関する損傷閾値は、2つの材料で異なる挙動を示す。
図4(b)に示されているように、J+Jコンタクトレンズの光学的破壊を開始させるために必要な単一パルスエネルギは、5MHzにおいて~82nJ、10MHzにおいて~81nJ、15MHzにおいて~77nJ、及び60MHzにおいて~63nJである。従って実験結果は、J+Jコンタクトレンズのサンプル損傷閾値が、繰返し周波数の上昇、又は同様に1つのスポットにおけるレーザ発射数の上昇に従って、低下することを示している。しかしながら、
図4(d)は、Contaflexサンプルの単一パルスエネルギ損傷閾値が、5MHzにおいて~83nJ、10MHzにおいて~82nJ、15MHzにおいて84nJ、及び60MHzにおいて82nJであることを示しており、これは、損傷閾値が繰返し周波数に依存しないことを示す。本発明者らは、光学的破壊閾値とスポットあたりのパルス数との間の関係を、インキュベーション効果によって説明できると考える。同一の単一パルスエネルギを考えると、位相変化の大きさは繰返し周波数が上昇するに従って増大するが、これは2つの隣接するパルスのオーバラップによって生じる蓄積効果に起因する可能性がある。繰返し周波数が高いパルス列は、ある1つのスポットに対してより多数のレーザ発射を生成でき、これは、材料が吸収できるパルスエネルギが多いことを意味する。従って、単一パルスエネルギ損傷閾値の変化が5MHz~60MHzの繰返し周波数に関して穏やかであることを考慮することにより、損傷閾値のすぐ下の、達成可能な最大位相変化は、繰返し周波数の上昇に従って増大すると結論づけるのが合理的である。
図4(b)及び4(d)に示されているように、J+Jコンタクトレンズに関する、達成可能な最大位相変化は、5MHzにおいて~0.38波、10MHzにおいて~0.6波、15MHzにおいて~0.7波、及び60MHzにおいて~1波であり、Contaflexサンプルに関しては、5MHzにおいて~0.17波、10MHzにおいて~0.26波、15MHzにおいて~0.33波、及び60MHzにおいて0.56波である。より高い繰返し周波数においてパルスオーバラップ効果が増大すること、及び異なる複数の繰り返し周波数において単一パルスエネルギ閾値がおおよそ同一であることは、損傷閾値のすぐ下の、達成可能な最大位相変化の上昇に寄与する。
【0065】
4.位相変化の経験的モデル
図4に示されているように、光化学モデル及びオーバラップ効果から導出されたフィッティング曲線は、5MHz、10MHz、及び15MHzの低い繰り返し周波数では良好に機能するが、60MHzではそれほど完璧ではない。60MHzにおける偏差を説明するための理由は複数存在する。高い繰返し周波数における偏差は、インキュベーション反応による累積的な線形吸収色中心によって、スポットあたりのパルス数が少ない場合の4から、スポットあたりのパルス数が多い場合の1への、非線形次数の減少を示し得る。線形吸収欠陥の形成は、UV‐可視透過スペクトルを調べた後の、UV吸収端付近のレーザ照射エリアの吸光度の上昇によっても確認された。非線形次数の減少を示すために、本発明者らは、実験データを二重対数スケールにプロットする。
図5(a)及び5(b)に示されているように、本発明者らは、4つの異なる繰返し周波数における、誘発される位相変化の対数を、焦点体積内の平均パワーの対数に対してプロットしている。経験的モデルは線形フィッティング法を用いて得られたため、多光子吸収プロセスの次数は、線形フィッティングされた傾向線勾配によって示された。また本発明者らは、繰返し周波数の上昇に伴って減少する傾向線勾配も観察した。しかしながら、本発明者らの論文で使用されている、RIの変化に応じて二次関数的にスケーリングされるはずの回折効率とは対照的に、誘発される位相/RIの変化と平均パワーとの間の直接的な関係を得ることで、多光子吸収プロセスの次数を決定した。(
図5(a)に示されているように)Contaflexサンプルについて、傾向線勾配は、5MHzにおける4.15から60MHzにおける3.17まで減少し、これは、多光子吸収プロセスが、より多数の色中心の形成によって、スポットあたりのパルス数が少ない純粋な4光子吸収プロセスから、スポットあたりのパルス数が多い、より低次の多光子吸収プロセスへと進化することを示している。(
図5(b)に示されているように)J+Jコンタクトレンズにおいて、傾向線勾配は、この減少規則に同様に従い、5MHzにおける3.4から60MHzにおける3.1までわずかに減少する。多光子吸収プロセスの次数は減少し続け、また材料の4光子吸収及び色中心の線形吸収の両方を考慮すると、全体的なパワー依存度が低下する。
【0066】
色中心の形成によってパルス数が多い場合に非線形次数が減少すること以外に、60MHzにおける偏差は、高繰返し周波数レーザへの曝露の後に材料内部で達成される累積温度上昇が極めて大きいことに起因する可能性がある。この熱蓄積効果は、高繰返し周波数ドメインにおいてより重要な役割を果たすことができ、光化学的効果とは異なるパワー依存度を有する別個の光熱効果によって、位相変化を誘発し得る。60MHzにおける偏差の第3の説明は、高強度における飽和効果である可能性がある。というのは、本発明者らは、誘発される位相変化が無限に増大できず、誘発された位相変化が高い値に達すると飽和する傾向を有することに気づいたためである。飽和係数を理論モデルに導入しない場合、パワー及び繰返し周波数が上昇すると、フィッティング結果は実験結果よりも高くなる。従って、より良好なフィッティングのために、飽和係数を光化学モデルに導入できる。利用可能な分子の有限の個数に対して制限が存在し得ると仮定した場合、又は材料が、吸収したエネルギを位相変化の誘発のために再配向する能力が限定されている場合、又は脱重合プロセスが再結合効果とバランスが取れている場合、飽和係数を、材料定数εの下に挿入できる。一方、高レーザ強度で測定された非線形吸収係数の減少と同様に、4次光子吸収係数に飽和係数を付加することもできる。次に本発明者らは、修正済み光化学モデルを、古典的な飽和係数を採用することによって、以下の形式:
【0067】
【0068】
で表現できることを提案し、ここでΔφ0は、式(4)で表される、小さな信号によって誘発される位相変化であり、本発明者らは、Aを、誘発される位相変化、励起分子密度、平均パワー/強度、又はピーク強度として表現しようとした。5MHz~60MHzの全ての繰返し周波数に関する最良のフィッティング結果は、Aを平均パワー/強度として示すことによって得られ、4つ全ての繰返し周波数において、J+Jコンタクトレンズに関して95%超、Contaflexサンプルに関して97%超の、決定係数R2が得られた。しかしながら、Aが、誘発される位相変化、励起分子密度、及びピーク強度を含む他のパラメータを表す場合、この修正された光化学モデルは60MHzにおいて良好に機能しない。
【0069】
吸収されたパルスエネルギをRIの変化に関連付ける正確な機序は、依然として議論の対象であり、更なる調査の対象となり得る。材料が多光子吸収によって吸収する累積パルスエネルギは、電子を高電子状態に励起して、直接結合解離を誘発でき、又は吸収されたエネルギは、電子から格子に移動して、ポリマーマトリックスを加熱し、その後のポリマーの熱分解を誘発できる。光分解反応又は熱によって推進されるプロセスのいずれかである脱重合は、通常、ランダムな鎖の切断及び直接結合破壊によって、ポリマー鎖の体積を増大させ、これによって、モノマー形成、内部引張応力の伝播、及び体積膨張を引き起こし、上記体積膨張は、分子量が低い値にシフトすること、及びポリマー分子量分布が広がることによって確認される。ポリマーがより小さなモノマー又はオリゴマーに分解された後、これらの小さな断片は、レーザ照射エリアから周囲に拡散し得、その後、加水分解の増強によって、拡張されて空いたエリアを水分子が占有でき、これにより、レーザ処理エリアの水含有量が増大する。従って、誘発される位相/RIの変化の符号が負であるのは、水の屈折率がサンプル自体より低いこと、及び流体力学的膨張によってポリマー密度が低下することが原因である可能性がある。更なる研究のための可能な1つの手段は、ラマン分光法を利用して、レーザ照射エリアにおける化学組成の変化を洞察し、ヒドロゲルポリマーのRIの変化が、非放射崩壊による熱誘発型分解に起因するのか、又は多光子イオン化若しくは光熱的効果と光化学的効果との組み合わせによる、直接化学結合破壊手順に起因するのかを決定するステップを含む。
【0070】
5.フェムト秒微小機械加工プロセスに対する繰返し周波数の影響
繰返し周波数の影響は、フェムト秒微小機械加工プロセスにおいて重要な役割を果たすことが実証されている。単一パルスエネルギに関する損傷閾値を、試験される全ての繰返し周波数に関して略同一に維持しながら、繰返し周波数が低いパルスを利用することによって、より低い平均パワー及びより迅速な走査速度で、同一量の位相変化を達成できる。定性的結果及び定量的結果の両方に基づいて、本発明者らは、誘発される位相変化が、多光子吸収、及び隣接するパルスが誘発するオーバラップ効果の両方によって材料が吸収する、パルスエネルギの量に依存すると結論づけることができる。実験データのフィッティングのために、本発明者らは、光化学モデルに基づいて較正関数を開発した。誘発される位相変化は、1035nmにおける4光子非線形吸収の結果として、4次のべき乗としてスケーリングされる。コンタクトレンズのフェムト秒微小機械加工のための最適な繰返し周波数は、少なくともいくつかの製造プロセスに関して約15MHzであるようであるが、これは、損傷のすぐ下で達成可能な最大位相変化が、60MHzで得られるものよりもわずかに低いものの、必要な平均パワーがおよそ3倍小さいためである。
【0071】
6.2光子モデル及び他のモデル
以上の記述は、4光子レジームの文脈で提示されている。他のシステム及び材料に関しては、2光子レジームがより適切な光化学モデルとなる場合があり、以下の位相変化の式:
【0072】
【0073】
を利用でき、ここでPは平均パワーであり、NAは開口数であり、τはパルス持続時間である。パラメータβは、2次光子吸収係数を含む、吸収されるエネルギを位相変化と関連付ける定数である。
【0074】
一般的な問題として、少なくともいくつかの例では、式(6)のような2光子モデルは、比較的高いエネルギでの書き込みに適切である場合があり、式(4)のような4光子モデルは、比較的低いエネルギでの書き込みに適切である場合がある。いくつかの例では、対数‐対数スケール上でのパワーに対する位相シフトのプロットのフィッティング線の勾配は、2光子モデルと4光子モデルのいずれがより適切であるかを示すことができる。例えば
図5(a)の線の勾配はおよそ4であり、これは4光子モデルの使用を示し、また
図7の線の勾配はおよそ2であり、これは2光子モデルの使用を示す。
【0075】
図6は、異なる複数の平均パワー(単位:ワット)において405でContamac 58サンプルに書き込まれた位相シフトのプロットを示し、Fで標識された線は、実験データにフィッティングされた式(6)の2光子光化学モデルを示す。この例では、フィッティング定数βは5*10
-24であり、損傷閾値より下で書き込まれた最大位相シフト(543nmで測定)は-0.90である。
【0076】
一部のシステム及び材料に関しては、3光子モデル又は他の光子モデルが最も適切である場合があり、一般的な条件について、2光子、3光子、及び4光子効果の合計が最も好ましい場合がある。3光子レジームに関しては、以下の位相変化の式:
【0077】
【0078】
を使用でき、ここでPは平均パワーであり、NAは開口数であり、τはパルス持続時間である。パラメータγは、3次光子吸収係数を含む、吸収されるエネルギを位相変化と関連付ける定数である。
【0079】
N次光子レジームについては、以下の位相変化の式:
【0080】
【0081】
を使用でき、ここでPは平均パワーであり、NAは開口数であり、τはパルス持続時間である。パラメータγは、N次光子吸収係数を含む、吸収されるエネルギを位相変化と関連付ける定数である。
【0082】
2光子、3光子、及び4光子効果の合計を含む一般的な条件については、以下の位相変化の式:
【0083】
【0084】
を使用でき、ここでPは平均パワーであり、NAは開口数であり、τはパルス持続時間である。この例では、パラメータβ、γ、及びδはそれぞれ、2次、3次、及び4次光子吸収係数を含む定数である。
【0085】
LIRICによるスケーラブルな製造
適用可能な走査速度、開口数、及び繰返し周波数において所与の材料で得ることができる最大位相シフトに関する情報を含む、上述の光化学モデル及び実験から導出される情報を用いて、最適なスループット及び他の効率を有する商用規模のLIRICシステム及び方法を設計及び実装できる。
【0086】
図8は、コンタクトレンズ又は眼内レンズ等の眼科用材料に使用できるLIRICマルチヘッド書き込みシステムの一例を示す。
図8のシステムは、レーザ12、及び上記レーザのビームをN個の等しい出力16に分割するスプリッタ14を含む。各出力は、調質サブシステム、走査サブシステム、及び送達サブシステムに関連付けることができるが、
図8では、1つのビーム調質サブシステム18、並びに1つの走査及び送達サブシステム20のみを具体的に図示している。また
図8に概略図で示されているように、書き込みヘッドに対する眼科用デバイスの装填、位置決め、及び位置合わせ、並びに効率的な取り外しを促進することによって、レーザ書き込みシステムの全体的なスループットを更に補助するために、操作サブシステム22を含めてよい。
【0087】
様々なレーザを書き込みシステムに使用してよい。非限定的な例としては、短パルスレーザ(例えばパルス幅が350fs未満、繰返し周波数(微調整可能な又は固定された繰返し周波数)1~60MHzのフェムト秒レーザ)が挙げられ、これは340nm~1100nm(例えば405nm、517nm、800nm、又は1035nm付近)で動作する。
【0088】
図9は、
図1のLIRICマルチヘッド書き込みシステムで使用してよいビームパワースプリッタの一例を示す。
図9では、(斜めの破線で示されている)50%ビームスプリッタ、及び(斜めの実線で示されている)100%リフレクタが、パワーが比較的高いレーザ12のビームを、パワーがより小さな、8個の等しいビーム16に分割する。他の例では、スプリッタはレーザビームを、パワーがより小さな、等しくないビームに分割してよい。
【0089】
図8に戻ると、ビーム調質サブシステム18では、パワーがより小さな上記レーザビームは、例えば分散補償、ビームサイジング、(例えば音響光学若しくは電気光学部品を用いた)パワー制御、楕円率制御、及び/又はパワー監視を受けてよい。
【0090】
図10は、
図8のLIRICマルチヘッド書き込みシステムで使用してよい走査及び送達サブシステムの一例を示す。
図10では、(この例ではTi‐サファイアレーザからの)レーザビーム30を、対物レンズ32を通して送ることにより、眼科用材料(この例では、水系環境37内で2つのガラススライド35及び36の間に保持されたヒドロゲル34)内に回折限界スポットを形成し、これにより3D構造38を形成する。図示されていないが、サンプルは、X軸及びY軸に沿った軸方向走査のための並進移動ステージ上に設置してよく、対物レンズは垂直並進移動のためにZ軸に沿って並進移動させてよく、これにより、材料内での正確な書き込みを3次元で実施できる。高速XYZ並進移動ステージ、高速ガルバノメータ走査システム、及び(Wayne H,. Knoxらに2016年5月26日に発行された米国特許出願第2016/0144580号明細書に記載されているような)シェーカースキャナを含む、いずれの好適な走査システムを利用してよい。いくつかの例では、走査速度は1mm/秒~10メートル/秒であってよい。
【0091】
走査及び送達サブシステムは、十分な(例えば
図11に示されているように、最小閾値より高いが損傷閾値未満である)エネルギの短いレーザパルスを十分な(例えば
図12に示されているように、損傷閾値より高いが速度の上限閾値未満である)走査速度で送達することにより、光子の非線形吸収(典型的には多光子吸収)を引き起こしてよく、これは焦点における材料の屈折率の変化につながる。
図11及び12では、損傷閾値は、デバイスの光学的品質の劣化を検出できる閾値を反映していてよい。更に、集束領域のすぐ外側の材料の領域は、レーザ光による影響を最小限しか受けない。従って、光学ポリマー材料の選択された領域を、レーザで修正することによって、これらの領域において屈折率の変化を得ることができる。照射領域は、非照射領域に対して、ラマンスペクトルの有意な差を示さないものとすることができる。また照射領域は散乱損失をほとんど又は全く示さないものとすることができ、これは、照射領域に形成される構造が、コントラストを強調することなく、適切な倍率下で明瞭に視認できるものではないことを意味している。
【0092】
上記書き込みシステムを利用して、材料の内部にレンズ又は他の光学的構築物を形成してよい。例えば
図13は、ヒドロゲルの内部に書き込まれたLIRICレンズを示し、
図14は、プラノヒドロゲルの内部に書き込まれたフレネルタイプの位相ラップ光学レンズを示す。同様のレンズ又は他の光学的構築物をコンタクトレンズに書き込んで、コンタクトレンズの光学的特性を変化させることもできる。必要な最大位相シフトに応じて、レンズ又は他の光学的構築物を、単層又は複層で材料に書き込むことができる。Wayne H. Knoxらに2015年1月13日に発行された米国特許第8,932,352号明細書「Optical Material and Method for Modifying the Refractive Index」、及びWayne H. Knoxらに2015年9月29日に発行された米国特許第9,144,491号明細書「Method for Modifying the Refractive Index of an Optical Material」は、材料に書き込んでよい格子及び他の光学的構築物の更なる例を記載している。
【0093】
上述の光化学モデルから導出された情報を用いて、
図8~10の製造システムのような製造システムを、最適なスケール及びスループットのために設計及び構成できる。LIRICシステムのスループットに影響を与える可能性があり、また最適化モデルへの入力として考慮できる、多数の入力が存在し、これは、レーザの仕様、スキャナの仕様、材料特性、及びLIRICデバイスの所望の設計を含むがこれらに限定されない。当然のことながら、これらの入力の一部、例えばデバイスのための特定の所望の設計特性は、製造の最適化のために変化させなくてよく、その一方で、特定のレーザ仕様を含む他の変数を、LIRIC製造プロセスの最適化のために比較的容易に変化させることができる。
【0094】
1.レーザ仕様
レーザ仕様入力としては、限定するものではないが、平均レーザパワー、パルス幅、波長、繰返し周波数、レンズNA(開口数)、システムのパワースループット、及びデバイス書き込みヘッドの個数が挙げられる。例示的なパルス幅としては、フェムト秒スケールのパルス幅、及びいくつかの例では350fs未満のパルス幅が挙げられる。例示的な繰返し周波数としては、1~60MHzの繰返し周波数が挙げられる。例示的な波長としては、405nm、517nm、800nm、及び1035nm付近の波長を含む340nm~1100nmの波長が挙げられる。例示的なNAとしては、0.19~1.0のNAが挙げられる。
【0095】
2.スキャナ仕様
スキャナ仕様入力としては、限定するものではないが、最大走査速度、低速軸解像度(線間隔)、ターンアラウンド(ブランキング)時間、フルフィールドサイズ、及び走査パターン(例えばラスター、ボックス、スパイラル等)が挙げられる。例示的な走査速度としては、1mm/秒~10メートル/秒の速度が挙げられる。
【0096】
3.材料特性
材料特性入力としては、限定するものではないが、材料の非線形吸収係数(例えば2次限界、4次元界、及び2次~4次項の混合等)、並びに(適用可能な走査速度、開口数、繰返し周波数、又は他の因子において決定される)得られる最大位相シフトが挙げられる。
【0097】
ある例では、材料特性を決定するための第1のステップは、例えば平均パワー及び走査速度の関数として、関心対象の材料に書き込まれた位相シフトを測定することである。位相対パワーを対数‐対数スケール上にプロットすることによって、(飽和未満の)小さな信号を用いるレジームにおける非線形プロセスの勾配を決定できる。決定された勾配は、関心対象の材料に対して適用可能な光化学モデルの指標となり得る(例えば2に近い勾配は2光子モデルの指標となり得、4に近い勾配は4光子モデルの指標となり得る等)。適用可能な光化学モデル(例えば上で特定した2及び/又は4光子レジームモデル)を、データに対してフィッティングしてよく、損傷閾値のすぐ下の最大位相シフトを特定できる。続いてこの情報を用いて、所望の走査速度における書き込みパワーの範囲を確立できる。なお、少なくともいくつかのシステム及び方法に関する最良の結果は、1光子吸収が最小化された場合に得られるが、これらの場合であっても、少量の1光子吸収は許容できることに留意されたい。
【0098】
2光子レジームの具体例を
図6~7で提供する。平均パワー及び走査速度の両方の関数として、関心対象の材料の書き込まれた位相シフトを測定する、4光子レジームの具体例を、
図15~16で提供し、これは
図6~7のデータと同様に分析できる。
図15は、(a)3mm/秒、(b)5mm/秒、(c)10mm/秒、(d)15mm/秒、(e)20mm/秒、(f)30mm/秒、及び(g)40mm/秒の速度について、繰返し周波数80MHz、及び800nmの100fsレーザパルスに応答したJohnson & Johnson Acuvue2コンタクトレンズにおいて実施したLIRIC実験から得られた、パワー及び速度の関数としての位相変化をプロットしたデータを示し、
図16は、
図15のデータの3次元可視化である。平均パワー及び繰返し周波数の関数として位相シフトを測定する、4光子レジームの別の例は、
図4~5で提供されている。
【0099】
4.デバイスの設計の詳細
デバイス設計入力としては、限定するものではないが、書き込まれる光学デバイスの直径、(例えば回折スポットを形成しない滑らかな位相シフトを保証するために)必要な線間隔、及びデバイスに必要な最大位相シフトに対して影響を及ぼす細部(例えば位相ラッププロファイル、目的とする光パワー等)が挙げられる。
【0100】
5.必要な走査層
LIRICプロセスに必要な走査層の個数は、デバイスの書き込みに必要な時間に影響を及ぼすことになる。必要な走査層の個数は、デバイスの仕様によって必要とされる最大位相シフト、並びに関連するレーザ及びスキャナのパラメータにおいてデバイス材料内で生成される最大位相シフトの両方の関数である。必要な層の個数は、デバイスが必要とする最大位相シフトを、関連するレーザ及びスキャナのパラメータにおいてデバイス材料内で生成される最大位相シフトで除算したものである。
【0101】
6.推定書き込み時間
あるデバイスに関する推定書き込み時間は、書き込みが必要な層の数、並びにデバイス幅又は直径、線間隔、線の数(デバイス幅を線間隔で除算したもの)、走査速度、及びスキャナの効率(デッドタイムを考慮するため)を含むいくつかの他の変数の関数である。あるデバイスを書き込むための時間は:
【0102】
【0103】
によって推定でき、ここでWはデバイスの幅(単位:mm)であり、Nlinesは線の個数であり、Sは走査速度(単位:mm/秒)であり、ηはスキャナ効率である。
【0104】
7.書き込みヘッドの個数
マルチヘッド書き込みシステムに組み込むことができる書き込みヘッドの個数は、レーザの最大パワー、デバイスに1層の位相シフトを書き込むために必要な最大パワー、及びシステムの損失係数(典型的には約50%)の関数である。システムがサポートできる書き込みヘッドの個数は:
【0105】
【0106】
によって推定でき、ここでPmaxはレーザの最大パワーであり、Pmax‐phaseshiftは、デバイスに1層の位相シフトを書き込むために必要な最大パワーであり、Fはシステムの損失係数である。一例として、最大パワーが10W、システムの損失係数が50%、単層最大位相シフトの達成のための要件がデバイス1つあたり0.5Wである、517nmレーザについて、システムは、単一のレーザ源を用いて10個のヘッドをサポートできると推定される。
【0107】
8.マルチヘッド書き込みシステムのためのLIRIC最適化
本発明者らは、レーザ繰返し周波数がLIRIC書き込みプロセスの複数の側面に驚くほど大きな影響を及ぼし得ることを発見した。驚くべきことに、比較的低い繰返し周波数を用いて、比較的小さなパワー要件で、相当な位相変化を達成できる。これは例えば
図4(a)を用いて可視化でき、この図では、5~15MHzでのプロセスが、対応する60MHzでのプロセスよりもはるかに低いパワーで、相当な位相変化を達成している。これに関して可能性がある1つのトレードオフは、少なくともいくつかの例において、繰返し周波数が比較的低いプロセスが、比較的小さな位相変化及びパワー値において、対象材料の損傷閾値に到達する可能性があり、繰返し周波数が比較的高いプロセスが必然的に必要とするよりも多くの層への書き込みが必要となる可能性があることである。これもまた
図4(a)を用いて可視化でき、この図では、5~15MHzでのプロセスが、対応する60MHzでのプロセスよりも前に、材料損傷前の最大位相変化(これらのプロセスに関するフィッティング線の上端)に到達することを確認できる。
【0108】
これらの因子、及び上述のLIRIC書き込みプロセスの他の因子を考慮することにより、製造スループットの最適化が可能となる。一例が以下の表1で提示されており、これは、全ての繰返し周波数において同一の平均パワーを有する30Wの1035nmレーザを利用すること、及びシステムが50%のシステム損失を有し、また1波の最大位相シフトを必要とするデバイスを製造するために使用されることを想定している。
【0109】
【0110】
表1から確認できるように、5MHzでのプロセスは30個の書き込みヘッドにパワーを供給でき、これは60MHzでのプロセスがパワーを供給できる個数より8.25倍も多かった。しかしながら、トレードオフとして、5MHzのプロセスでは、書き込まれる層の個数が60MHzでのプロセスの3倍も多く必要となり、各デバイスに必要な書き込み時間がおよそ3倍となった。この簡単な例では、書き込まれる層の個数が3倍必要となったが、5MHzでのプロセスがサポートできる書き込みヘッドの個数ははるかに多いため、60MHzでのプロセスの2.75倍高いスループットを有するシステムが得られた。
【符号の説明】
【0111】
12 レーザ
14 スプリッタ
16 N個の等しい出力
18 ビーム調質サブシステム
20 走査及び送達サブシステム
22 操作サブシステム
30 レーザビーム
32 対物レンズ
34 ヒドロゲル
35、36 ガラススライド
37 水系環境
38 3D構造