(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】蛍光体、蛍光体の製造方法、発光素子、発光装置および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/64 20060101AFI20240202BHJP
C09K 11/85 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/86 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/78 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/63 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/62 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/59 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/61 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/77 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/79 20060101ALI20240202BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240202BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240202BHJP
【FI】
C09K11/64
C09K11/85
C09K11/86
C09K11/80
C09K11/78
C09K11/63
C09K11/62
C09K11/59
C09K11/61
C09K11/77
C09K11/79
C09K11/08 B
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2021526887
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020024014
(87)【国際公開番号】W WO2020262200
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019118166
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】豊島 広朗
(72)【発明者】
【氏名】川越 美満
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526532(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105400513(CN,A)
【文献】国際公開第2008/004640(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/188319(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M
α(L,A)
βX
γで表される蛍光体母体結晶の元素Mの少なくとも一部が付活物質としてEuに置換されており、一般式:M
α(L,A)
βX
γ:Eu
δで表される組成を有する蛍光体であって、
前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、Srを少なくとも含む)であり、
前記Lは、Li、Na及びKから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Aは、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、F及びClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
前記α、β、γおよびδが、
8.70≦α+β+γ+δ≦9.30、
0.00<α≦1.30、
3.70≦β≦4.30、
3.70≦γ≦4.30、および
0.00<δ≦1.30を満たすものであり、
波長260nmの光を照射したときの蛍光スペクトルにおいて、波長569nmにおける蛍光強度をI0とし、波長617nmにおける蛍光強度をI
1としたとき、蛍光強度比I
1/I
0が0.01以上0.4以下である、
蛍光体。
【請求項2】
前記蛍光スペクトルにおいて、波長628nmにおける発光強度をI
2としたとき、蛍光強度比I
2/I
0が0.01以上0.3以下である請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
当該蛍光体が、組成式Sr
eLi
fAl
gO
h1N
h2Eu
iで表され、
組成比e、f、g、h1、h2および及びiが、
e+f+g+h1+h2+i=9、
0.00<e<1.30、
0.70≦f≦3.30、
0.70≦g≦3.30、
3.70≦h1+h2≦4.30(ただし、h1>0)、
0.00<i<1.30、及び
0.70≦e+i≦1.30
である請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記組成比f及びgが、
7/40≦g/(f+g)<30/40
である、請求項3に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記組成比h1及びh2が、
0<h1/(h1+h2)≦1
である、請求項3または4に記載の蛍光体。
【請求項6】
波長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射したとき、430nm以上670nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記波長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射したとき、560nm以上580nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発する請求項6に記載の蛍光体。
【請求項8】
レーザ回折散乱法で測定される体積頻度粒度分布において、累積値が50%となる平均粒子径をd50としたとき、d50が0.1μm以上50μm以下である粉末状の、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項9】
Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される少なくとも1種類以上の元素M、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素L、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素A、O、N、F及びClからなる群から選択される少なくとも1種類以上のX元素(ただし、XがNのみであることを除く)、およびEuを含む組成を有する蛍光体の製造方法であって、
前記組成を構成する各元素を含む原料混合物を得る混合工程と、
前記原料混合物を焼成することにより、前記原料混合物に含まれる少なくとも一部のEu
3+をEu
2+に還元する焼成工程と、を含み、
波長260nmの光を照射したときの蛍光スペクトルにおいて、波長569nmにおける蛍光強度をI0とし、波長617nmにおける蛍光強度をI
1としたとき、蛍光強度比I
1/I
0が0.01以上0.4以下である蛍光体を得る、
蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程は、NH
3を含む焼成雰囲気下で実施されるものである、請求項9に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の蛍光体を含む発光素子。
【請求項12】
請求項11に記載の発光素子を備える、発光装置。
【請求項13】
請求項11に記載の発光素子を備える、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体、蛍光体の製造方法、発光素子、発光装置および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum-Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display))又はSED(Surface-Conduction Electron-Emitter Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode-Ray Tube))、発光ダイオード(LED(Light-Emitting Diode))、液晶ディスプレイバックライト(Liquid-Crystal Display Backlight)などに用いられている。特に、近紫外や青色発光の半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせた白色LEDは、液晶ディスプレイや照明器具などの用途で一般に用いられている。
【0003】
近年、液晶ディスプレイや照明用途のLEDでは、高い色再現性が強く求められており、そのためにはなるべく半値幅の狭い蛍光体が望ましいとされている。例えば液晶ディスプレイ用途の白色LEDでは、半値幅の狭い緑色蛍光体や赤色蛍光体が求められており、このような要求を満たす半値幅の狭い、狭帯緑色蛍光体や狭帯赤色蛍光体が近年報告されている。また、高輝度化が求められる照明用途では、半値幅の狭い狭帯黄色蛍光体が求められている。
【0004】
狭帯緑色蛍光体の例として、β型サイアロンを母体結晶とし、それをEuで付活した緑色の蛍光体、即ちβ型サイアロン蛍光体が知られている(特許文献1参照、本明細書では、前記β型サイアロンのような結晶を「蛍光体母体結晶」という。単に「母体結晶」と表記することもある。)。β型サイアロン蛍光体では、結晶構造を保ったまま酸素含有量を変化させることにより、発光ピーク波長がより短波長側に向けて変化することが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、β型サイアロンをCeで付活すると、青色の蛍光体となることが知られている(例えば、特許文献3参照)。また、狭帯赤色蛍光体の一例として、SrLiAl3N4を蛍光体母体結晶として、これにEuを付活させた蛍光体(非特許文献1参照)が知られている。
【0005】
ここでEuやCeのような発光を司る元素のことを付活元素という。一般に付活元素は、蛍光体中でイオンの状態で存在し、蛍光体母体結晶中の元素の一部に置換して存在している。
【0006】
このように蛍光体は、蛍光体母体結晶と、それに置換させる付活元素との組み合わせで、発光色が決まる。さらに、蛍光体母体結晶と付活元素との組み合わせによって、発光スペクトル、励起スペクトルなどの発光特性や、化学的安定性、あるいは熱的安定性が決まるため、蛍光体母体結晶が異なる場合、あるいは付活元素が異なる場合は、異なる蛍光体とみなされる。また、化学組成が同じであっても蛍光体母体結晶の結晶構造が異なれば発光特性や化学的な安定性が異なるため、異なる蛍光体とみなされる。
【0007】
一方、多くの蛍光体においては、蛍光体母体結晶の結晶構造を保ったまま、構成する元素の一部または全部を、異なる元素で置換することが可能であり、これにより発光色を変化させることが行われている。例えば、一般にYAG結晶の母体結晶にCeが置換している蛍光体は、緑色発光をするが、YAG結晶中のYの一部をGdで、Alの一部をGaで置換した蛍光体は、黄色発光を呈する。また、CaAlSiN3で表される蛍光体母体結晶にEuが置換している蛍光体では、Caの一部をSrで置換することにより、結晶構造を保ったまま組成を変化させることができ、発光ピーク波長を短波長化できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-255895号公報
【文献】国際公開第2007/066733号
【文献】国際公開第2006/101096号
【非特許文献】
【0009】
【文献】NATURE MATERIALS VOL 13 SEPTEMBER 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、LEDのさらなる高輝度化に対する要望が高まっており、蛍光体の発光(蛍光)特性についてさらなる向上が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、
Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶の元素Mの少なくとも一部が付活物質としてEuに置換されており、一般式:Mα(L,A)βXγ:Euδで表される組成を有する蛍光体であって、
前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、Srを少なくとも含む)であり、
前記Lは、Li、Na及びKから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Aは、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、F及びClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
前記α、β、γおよびδが、
8.70≦α+β+γ+δ≦9.30、
0.00<α≦1.30、
3.70≦β≦4.30、
3.70≦γ≦4.30、および
0.00<δ≦1.30を満たすものであり、
波長260nmの光を照射したときの蛍光スペクトルにおいて、波長569nmにおける蛍光強度をI0とし、波長617nmにおける蛍光強度をI1としたとき、蛍光強度比I1/I0が0.01以上0.4以下である、
蛍光体が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、
Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される少なくとも1種類以上の元素M、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素L、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素A、O、N、F及びClからなる群から選択される少なくとも1種類以上のX元素(ただし、XがNのみであることを除く)、およびEuを含む組成を有する蛍光体の製造方法であって、
前記組成を構成する各元素を含む原料混合物を得る混合工程と、
前記原料混合物を焼成することにより、前記原料混合物に含まれる少なくとも一部のEu3+をEu2+に還元する焼成工程と、を含み、
波長260nmの光を照射したときの蛍光スペクトルにおいて、波長569nmにおける蛍光強度をI0とし、波長617nmにおける蛍光強度をI1としたとき、蛍光強度比I1/I0が0.01以上0.4以下である蛍光体を得る、
蛍光体の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上述した蛍光体を含む発光素子が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上述した発光素子を備える、発光装置が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上述した発光素子を備える、画像表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発光特性が向上した蛍光体に関する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】SrLi
3AlO
4結晶の結晶構造を示す図である。
【
図2】SrLi
3AlO
4結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す図である。
【
図3】本実施形態の蛍光体を用いた表面実装型LED素子の概略図である。
【
図4】実施例1で合成した合成物の粉末X線回折結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0019】
<1.蛍光体>
本実施形態の蛍光体は、Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶の元素Mの少なくとも一部が付活物質としてEuに置換されたEu付活蛍光体である。
蛍光体は、一般式:Mα(L,A)βXγ:Euδで表される組成を有する。
一般式中、
前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Lは、Li、Na及びKから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Aは、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、
前記Xは、O、N、F及びClから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であり、
前記α、β、γ及びδが、
8.70≦α+β+γ+δ≦9.30、
0.00<α≦1.30、
3.70≦β≦4.30、
3.70≦γ≦4.30、および
0.00<δ≦1.30を満たす。
【0020】
本実施形態の蛍光体は、波長260nmの光を照射したとき、波長569nmにおける蛍光強度をI0とし、波長617nmにおける蛍光強度をI1としたときの蛍光強度比I1/I0が0.01以上0.4以下となるように構成される。
【0021】
本発明者の知見によれば、蛍光体の合成中において還元処理が不十分だとEu3+の発光強度が増加し、内部量子効率、外部量子効率、吸収率などの発光特性が低下する傾向にあることが見出された。
これに対して、合成過程において還元処理を適切に処理することで、これらの発光特性が向上できることが分かった。このとき、Eu3+の発光強度が小さくなる一方で、Eu2+の発光強度の蛍光強度が大きくなったことから、Eu3+の発光強度/Eu2+の発光強度の蛍光強度比を指標とすることで、蛍光体の還元処理の程度を評価できると考えた。
さらに検討を重ねた結果、上記の蛍光強度比I1/I0を指標とし、I1/I0を上記の範囲内とすることによって、蛍光体における内部量子効率、外部量子効率、吸収率などの発光特性を向上できることが見出されるに至った。
【0022】
詳細なメカニズムは定かではないが、Eu3+の発光強度の増加が抑制され、相対的にEu2+の発光強度の増加が促進したために、また、Eu3+に対するEu2+の存在比が高まるために、内部量子効率、外部量子効率、吸収率などの発光特性が向上したと、考えられる。
【0023】
Eu2+由来の発光の中でも、波長569nmの蛍光を指標に採用し、Eu3+由来の発光の中でも、波長617nmの蛍光を指標に採用することによって、安定的な評価が可能にある。例えば、Eu3+由来の発光として、波長617nm、波長628nm、波長656nm、波長708nmがあるが、波長656nm、波長708nmの蛍光は検出感度が低いため、評価にバラツキが生じる恐れがある。
【0024】
蛍光強度比I1/I0の上限は、0.40以下、好ましくは0.35以下、より好ましくは0.30以下である。これにより、蛍光体の発光特性を向上させることができる。一方、蛍光強度比I1/I0の下限は、特に制限されないが、たとえば、0.01以上としてもよい。
【0025】
本実施形態の蛍光体によれば、蛍光体母結晶を上記組成および結晶構造としつつ、蛍光強度比I1/I0を0.4以下とすることにより、蛍光特性を高めることができる。
【0026】
本実施形態の蛍光体は、波長260nmの光を照射したとき、波長628nmにおける発光強度をI2としたときの蛍光強度比I2/I0が0.01以上0.3以下であることが好ましい。
蛍光強度比I2/I0の上限は、例えば、0.30以下、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.20以下である。一方、蛍光強度比I2/I0の下限は、特に制限されないが、たとえば、0.01以上としてもよい。
【0027】
蛍光強度比I1/I0を0.4以下としつつ、蛍光強度比I2/I0を0.3以下とすることにより、蛍光体母結晶を上記組成および結晶構造としつつ、蛍光特性をより一層高めることができる。
【0028】
なお、本発明が完成するまでの過程において、本発明者らは、Sr元素、Li元素、Al元素及びO元素をそれぞれ含む原料物質から、組成式がSrLi3AlO4で表される物質を合成し、鋭意検討していたところ、該合成物質は、混合物ではなく、その結晶構造解析により、SrLi3AlO4を単位とし、本発明以前において報告されてない結晶構造を有する単一の化合物であることを確認した。また、SrLi3AlO4結晶のみならず、その一部又は全ての元素が他の特定の元素で置換されても、SrLi3AlO4結晶と同じ結晶構造を保ちうることを確認し、これらを纏めて、M、L、A及びXの記号で表される、組成式がMα(L,A)βXγの結晶(ただし、前記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、前記Lは、Li、Na及びKから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、前記Aは、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、前記Xは、O、N、F、Clから選ばれる1種類又は2種類以上の元素(ただし、XがNのみであることを除く)である。)であることを確認した。
【0029】
さらに前記のMα(L,A)βXγ結晶の元素Mの少なくとも一部がEuに置換されており、一般式:Mα(L,A)βXγ:Euδで表される組成を有する(ただし、前記α、β、γ及びδが、8.70≦α+β+γ+δ≦9.30であって、δについては0.00<δ≦1.30を満たす。)結晶についても、Mα(L,A)βXγ結晶と同じ結晶構造を保ち、しかもこれが蛍光発光を示すことから、前記組成式が、Mα(L,A)βXγで表される結晶は、新規な蛍光体母体結晶となりうる、即ち組成式が、Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶の元素Mの少なくとも一部がEuに置換している新規な蛍光体を見出すに至り、本発明の完成に至った。
【0030】
表1に、本発明を完成するきっかけとなった、SrLi3AlO4結晶に関する、X線結晶構造解析の結果を示した。当該SrLi3AlO4結晶の作製方法については後述する。
【0031】
【0032】
表1において、格子定数a、b、cは、SrLi3AlO4結晶の単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。また表1中の原子座標x、y、zは、単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。この結晶中には、Sr、Li、Al、Oの各原子が存在し、Srは2種類の同じ席(Sr(1)からSr(2))に存在する解析結果を得た。また、LiとAlとは7種類の同じ席(Li,Al(1)からLi,Al(7))に存在する解析結果を得た。Liは、1種類の同じ席(Li(8))に存在する解析結果を得た。さらに、Oは8種類の同じ席に存在する解析結果を得た。
【0033】
図1に、SrLi
3AlO
4結晶の結晶構造を示す。
図1中、1は、四面体の頂点に位置するO原子である。2は、四面体間に位置するSr原子である。3は、中心がAl原子のAlO
4四面体である。4は、中心がLi原子のLiO
4四面体である。即ち、SrLi
3AlO
4結晶は三斜晶系に属し、P-1空間群(International Tables for Crystallographyの2番の空間群)に属する。なお、この結晶中には、発光を担う所謂付活元素としてEuが、Srの一部を置換する形で結晶中に取り込まれる。
【0034】
以上の結果は、本発明の蛍光体が見出される以前に、公知の技術情報として知られてなく、即ち、組成式が、Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶の元素Mの少なくとも一部Euに置換している本実施形態の蛍光体は新規な蛍光体である。
【0035】
さらに組成式が、Mα(L,A)βXγで表される結晶、即ち、SrLi3AlO4結晶の元素の一部または全部を他の元素で置き換えたり、後述するようにEuを付活元素としてさらに置換させた結晶では、表1に示されるSrLi3AlO4結晶の格子定数からは変動するが、基本的な結晶構造、原子が占める席、及び、その座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはなく、その結晶構造が変化することはない。
【0036】
即ち、前述の「前記SrLi3AlO4結晶のみならず、その一部又は全ての元素が他の特定の元素で置換されても、SrLi3AlO4結晶と同じ結晶構造を保ちうる」とは、組成式が、Mα(L,A)βXγで表される結晶に関し、X線回折又は中性子線回折の結果を、P-1の空間群でリートベルト解析して求めた格子定数、及び原子座標から計算されたAl-O間及びLi-O間の化学結合の長さ(近接原子間距離)が、前記表1に示すSrLi3AlO4結晶の格子定数と原子座標とから計算された化学結合の長さと比べて、±5%以内であることを満たすことである。このとき、化学結合の長さが±5%を超えて変化すると、化学結合が切れて別の結晶となることが実験上確認された。
【0037】
本実施形態に係るM
α(L,A)
βX
γ結晶においては、例えば
図1に示されるSrLi
3AlO
4結晶において、Srが入る席にMの記号で表される元素が、Li、Alとが入る席には、それぞれL、Aの記号で表される元素が、Oが入る席にXの記号で表される元素が入ることができる。この規則性により、SrLi
3AlO
4の結晶構造を保ったまま、Mが1に対して、LとAとが合計で4、Xが合計で4の原子数の比とすることができる。また、Euは、Srが入る席に入ることができる。ただし、M、L、Aで表される元素およびEuが示すプラス電荷の合計と、Xが示すマイナス電荷の合計とは、互いに打ち消し合い、結晶全体の電気的中性が保たれることが望ましい。
【0038】
図2に、SrLi
3AlO
4結晶の結晶構造から表1に示される数値を基に計算した、CuKα線を用いた粉末X線回折のピークパターンを示す。
【0039】
なお、結晶構造が未知である結晶が、前記SrLi
3AlO
4結晶と同じ結晶構造を有しているか否かの簡便な判定方法として、次の方法を好ましく用いることができる。即ち、判定対象となる結晶構造が未知である結晶に関して、測定したX線回折ピークの位置(2θ)と、
図2に示される回折のピーク位置とが、主要ピークについて一致したときに両者の結晶構造が同じである、即ち結晶構造が未知であった結晶の結晶構造は、SrLi
3AlO
4結晶と同じ結晶構造であると判定する方法である。主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判定するとよい。本実施形態においては、実施例にてこの判定方法を用いた。
【0040】
以上に述べたように、本実施形態の蛍光体は、Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶の少なくとも一部の元素Mの位置をEuで置換した蛍光体であるが、Lは、一部又は全部がLi元素であり、Aは、一部又は全部がAl、Ga及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素であり、Xは、O及びNから選ばれる1種類又は2種類の元素(ただし、XがNのみであることを除く)であってもよい。
【0041】
ここで、従来の蛍光体の製造では、N元素を含む原料物質、即ち窒化物を用いると、該原料物質由来でO元素がわずかに含まれる蛍光体が製造されていた。しかし、本実施形態では、後述するが、O元素を含む原料物質、即ち酸化物を用いて蛍光体が製造される。この製造方法は、酸化物のみを用いて蛍光体を製造することに限定されず、窒化物を用いてもよいが、窒化物のみを用いて蛍光体を製造しない。よって、Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶のXの全部がN元素で置換されることはない。
【0042】
本実施形態の蛍光体に関わる、組成式が、Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶は、前記元素のあらゆる組み合わせとなる組成式で表されるものであり得るが、パラメータp(ただし、0≦p<2.0である。)を用いて、以下に例示する組成式で、さらに具体的に示した蛍光体母体結晶であることが好ましい。即ち、本実施形態の蛍光体母体結晶は、例えば、SrLi3-pAl1+pO4-2pN2p、MgLi3-pAl1+pO4-2pN2p、CaLi3-pAl1+pO4-2pN2p、BaLi3-pAl1+pO4-2pN2p、ZnLi3-pAl1+pO4-2pN2p、(Ca,Mg)Li3-pAl1+pO4-2pN2p、(Sr,Ca)Li3-pAl1+pO4-2pN2p、(Sr,Ba)Li3-pAl1+pO4-2pN2p、SrLi3-pGa1+pO4-2pN2p、MgLi3-pGa1+pO4-2pN2p、CaLi3-pGa1+pO4-2pN2p、BaLi3-pGa1+pO4-2pN2p、ZnLi3-pGa1+pO4-2pN2p、SrLi3-p(Al,Ga)1+pO4-2pN2p、MgLi3-p(Al,Ga)1+pO4-2pN2p、CaLi3-p(Al,Ga)1+pO4-2pN2p、BaLi3-p(Al,Ga)1+pO4-2pN2p、ZnLi3-p(Al,Ga)1+pO4-2pN2p、SrLi3-p(Al,Si)1+pO4-2pN2p、MgLi3-p(Al,Si)1+pO4-2pN2p、CaLi3-p(Al,Si)1+pO4-2pN2p、BaLi3-p(Al,Si)1+pO4-2pN2p、ZnLi3-p(Al,Si)1+pO4-2pN2p、SrLi3-p(Ga,Si)1+pO4-2pN2p、MgLi3-p(Ga,Si)1+pO4-2pN2p、CaLi3-p(Ga,Si)1+pO4-2pN2p、BaLi3-p(Ga,Si)1+pO4-2pN2p、又はZnLi3-p(Ga,Si)1+pO4-2pN2p(ただし、0≦p<2.0である。好ましくは0≦p<1.95である。)であることが好ましい。蛍光体の発光強度を変えるときや色調を制御したいときには、これらの組成式で表される蛍光母体結晶から適宜選択し得る。
【0043】
より発光強度が高い蛍光体を得るときには、Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶が安定して生成することが好ましい。そのような蛍光体を得る場合の蛍光体母体結晶の候補として、SrLi3-pAl1+pO4-2pN2p、MgLi3-pAl1+pO4-2pN2p、CaLi3-pAl1+pO4-2pN2p、BaLi3-pAl1+pO4-2pN2p、(Ca,Mg)Li3-pAl1+pO4-2pN2p、(Sr,Ca)Li3-pAl1+pO4-2pN2p、(Sr,Ba)Li3-pAl1+pO4-2pN2p、SrLi3-pGa1+pO4-2pN2p、MgLi3-pGa1+pO4-2pN2p、CaLi3-pGa1+pO4-2pN2p又はBaLi3-pGa1+pO4-2pN2p(ただし、0≦p<2.0である。好ましくは0≦p<1.95である。)の組成式で表されるものが挙げられる。
【0044】
また、本実施形態の蛍光体では、蛍光体母体結晶が、三斜晶系に属し、空間群P-1対称性を有する結晶であってもよい。
【0045】
また、本実施形態の蛍光体では、蛍光体母体結晶の格子定数a、b及びcが、
a=0.5754±0.05nm、
b=0.7344±0.05nm、及び
c=0.9743±0.05nm
の範囲の値であることが好ましい。
【0046】
さらに本実施形態の蛍光体では、組成式SreLifAlgOh1Nh2Euiで表され、
組成比e、f、g、h1、h2及びiが、
e+f+g+h1+h2+i=9、
0.00<e<1.30、
0.70≦f≦3.30、
0.70≦g≦3.30、
3.70≦h1+h2≦4.30(ただし、h1>0)
0.00<i<1.30、及び
0.70≦e+i≦1.30
であることが好ましい。このような組成比とすることで蛍光体母体結晶が安定して生成すると考えられ、より発光強度が高い蛍光体が得られうる。
【0047】
前記組成比eは、Srの組成割合を表すパラメータであり、1.30未満であれば、結晶構造が安定になり発光強度の低下を抑制できる。前記組成比fは、Liの組成割合を表すパラメータであり、0.70以上であって、3.30以下であれば、結晶構造が不安定にならず、発光強度の低下を抑制できる。前記組成比gは、Alの組成割合を表すパラメータであり、0.70以上であって、3.30以下であれば、結晶構造が不安定にならず、発光強度の低下を抑制できる。前記組成比h1、h2は、O及びNの組成割合を表すパラメータであり、h1+h2が3.70以上であって4.30以下(ただしh1>0)であれば、蛍光体の結晶構造が不安定にならず、発光強度の低下を抑制できる。前記組成比iは、Euの組成割合を表すパラメータであり、iが0.00を超えていれば、付活元素の不足による輝度の低下を抑制することができる。なおiは、1.30未満であれば、蛍光体母体結晶の構造を維持することが十分可能である。1.30以上であると、蛍光体母体結晶の構造が不安定となることがある。また、iをさらに1.30未満にすれば、付活元素間の相互作用により引き起こされる濃度消光現象による発光強度の低下を抑制することができるため好ましい。
【0048】
さらに、前記組成比f及びgが、
7/40≦g/(f+g)<30/40
である蛍光体は、結晶構造が安定であり特に発光強度が高いと考えられ、好ましい。
【0049】
また、前記組成比h1及びh2が、0<h1/(h1+h2)≦1である蛍光体は、さらにより結晶構造が安定であり、発光強度が高いと考えられ、好ましい。
【0050】
また、本実施形態の蛍光体は、例えば、250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、430nm以上670nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発し得る。
【0051】
特に好ましくは、前記波長250nm以上500nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む光を照射すると、560nm以上580nm以下の波長範囲に光強度ピークを含む蛍光を発し得る。
【0052】
本実施形態の蛍光体は前記蛍光体母体結晶に、Euが付活元素として置換している蛍光体である。付活元素としてEuを含む蛍光体は、発光強度が高い蛍光体であり、特定の組成では430nm以上670nm以下の青色から赤色の蛍光を発する蛍光体が得られる。
【0053】
特に好ましくは、本実施形態の蛍光体は、組成式Sr1-rLi3-qAl1+qO4-2qN2qEurで表され、
パラメータq及びrが、
0≦q<2.0、及び
0<r<1.0
と表すことができる蛍光体でもある。前記組成式で表される蛍光体は、安定な結晶構造を保ったまま、qとrのパラメータの値を適宜変えてEu/Sr比、Li/Al比、N/O比を変化させることにより、蛍光体の励起ピーク波長や発光ピーク波長を連続的に変化させることができる。
【0054】
蛍光体の発光ピーク波長が変化することにより、励起光が照射されたときに発光する色が、CIE1931色度座標上の(x,y)の値で、例えば0≦x≦0.8、0≦y≦0.9の範囲とすることができる。このような蛍光体は、青色から赤色までを発光させることを可能とすることから、例えば白色LED用の蛍光体として好ましく用いられる。
【0055】
なお、本実施形態の蛍光体は、例えば励起源が100nm以上500nm以下の波長を持つ真空紫外線、紫外線、可視光、又は放射線の持つエネルギーを吸収して発光する蛍光体である。放射線としては、例えばX線、ガンマ線、α線、β線、電子線、中性子線が挙げられるが、特に限定されない。これらの励起源を用いることにより本実施形態の蛍光体を効率よく発光させることができる。
【0056】
また、励起光が380nm~450nmのときに発光ピーク波長が550nmから650nm、好ましくは550nmから630nm、より好ましくは550nmから590nmになるように制御するときには、上述したパラメータq及びrが、q=0、及び0<r<0.05を満たすことが好ましい。
【0057】
本実施形態の蛍光体は、本実施形態の蛍光体の単結晶の粒子、又は本実施形態の蛍光体の単結晶が凝集した粒子、あるいはそれらの混合物であることが好ましい。本実施形態の蛍光体は、なるべく純度の高いことが望ましいが、本実施形態の蛍光体以外の物質、例えば不可避的に含まれる本実施形態の蛍光体以外の不純物については、蛍光体の発光が損なわれない限り含まれていてよい。
【0058】
例えば、原料物質や焼成容器に含まれるFe、Co及びNiの不純物元素は、蛍光体の発光強度を低下させる恐れがある。この場合、蛍光体中のこれらの不純物元素の合計を500ppm以下とすることにより、発光強度低下への影響は少なくなる。
【0059】
また、本実施形態の蛍光体を製造すると、本実施形態の蛍光体以外の他の結晶相やアモルファス相(副相ともいう)を有する化合物が同時に生成することがありうる。副相は、本実施形態の蛍光体と同じ組成を有するとは限らない。本実施形態の蛍光体は、なるべく副相を含まない方が好ましいが、蛍光体の発光が損なわれない範囲において、副相を含んでいてもよい。
【0060】
即ち本発明の実施形態の1つとして、本実施形態の蛍光体は、上述のMα(L,A)βXγで表される結晶を蛍光体母体結晶とし、これにEuの付活元素がイオンの状態で置換している化合物と、前記化合物とは異なる副相などの他の結晶相との混合物であり、化合物の含有量が20質量%以上である蛍光体がある。
【0061】
Mα(L,A)βXγで表される結晶の蛍光体単体では目的の特性が得られない場合、前記実施形態を用いるとよい。Mα(L,A)βXγで表される蛍光体母体結晶の含有量は目的する特性により調整するとよいが、20質量%以上にすれば発光強度が十分になる。このような観点から、本実施形態の蛍光体において、20質量%以上を上述の化合物の主成分とすることが好ましい。このような蛍光体であれば、励起源を照射することにより400nmから670nmの範囲の波長にピークを持つ蛍光を発光し得る。
【0062】
また、本実施形態の蛍光体の形状については特に限定はないが、分散した粒子として用いる場合には、例えば平均粒子径が0.1μm以上50μm以下の単結晶粒子、あるいは単結晶が集合体した粒子であることが好ましい。この範囲の粒子径に制御すると、発光効率が高く、LEDに実装する場合の操作性が良い。前記平均粒子径は、JISZ8825(2013)で定められる、レーザ回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布(累積分布)から算出される体積基準のメディアン径(d50)である。また、本実施形態の蛍光体を再度焼結し、非粒子の形状としても用いることが可能である。特に蛍光体を含む板状の焼結体は、一般に蛍光体プレートとも呼ばれ、例えば発光素子の発光部材として、好ましく用いることができる。
【0063】
<2.蛍光体の製造方法>
本実施形態の蛍光体を製造する方法について説明する。
蛍光体の製造方法の一例は、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される少なくとも1種類以上の元素M、Li、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素L、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素A、O、N、F及びClからなる群から選択される少なくとも1種類以上のX元素(ただし、XがNのみであることを除く)、およびEuを含む組成を有する蛍光体の製造方法であって、その組成を構成する各元素を含む原料混合物を得る混合工程と、原料混合物を焼成することにより、原料混合物に含まれる少なくとも一部のEu3+をEu2+に還元する焼成工程と、を含む。
以上の蛍光体の製造方法によって、波長260nmの光を照射したとき、波長569nmにおける蛍光強度をI0とし、波長617nmにおける蛍光強度をI1としたときの蛍光強度比I1/I0が0.01以上0.4以下である蛍光体を得る。
【0064】
上記混合工程の一例として、元素Mを含む原料物質と、元素Lを含む原料物質と、元素Aを含む原料物質と、元素X(ただし、XがNのみであることを除く)である)を含む原料物質と、Euを含む原料物質とを混合して、原料混合物を得てもよい。
なお、原料物質が化合物の場合、1つの化合物に、M、L、A、X及びEuのうち複数の元素を含んでいてもよく、また、原料物質が単体、すなわち単独の元素からなるものでもよい。例えば、元素Xが、元素Mを含む原料物質、元素Lを含む原料物質、元素Aを含む原料物質、またはEuを含む原料物質のいずれかに含まれる場合、元素Xを含む原料物質を使用しなくてもよい。
【0065】
元素Mを含む原料物質は、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種類又は2種類以上の元素を含有する金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化物が好ましく用いられる。
【0066】
元素Lを含む原料物質は、Li、Na及びKから選ばれる1種類又は2種類以上の元素を含有する金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化物が好ましく用いられる。
【0067】
元素Aを含む原料物質は、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素を含有する金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化物が好ましく用いられる。
【0068】
元素Euを含む原料物質は、Euを含有する合金、酸化物、窒化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物であり、具体的には酸化ユーロピウムが好ましく用いられる。各原料物質は粉末状であることが好ましい。
【0069】
元素Xを含む原料物質は、酸化物、窒化物、フッ化物及び塩化物から選ばれる単体又は2種類以上の混合物である。前記酸化物、窒化物、フッ化物及び塩化物は、前記M、L、A又はEuを含有するものでもよい。ただし、窒化物は原料物質の一部であって全部ではない。
【0070】
例えば、Euで付活したSrLi3AlO4蛍光体を製造する場合は、ユーロピウムの酸化物、窒化物、又はフッ化物と、ストロンチウムの酸化物、窒化物、又はフッ化物と、リチウムの酸化物、窒化物、又はフッ化物と、アルミニウムの酸化物、窒化物、又はフッ化物とを含有する化合物を用いて原料混合物となすことが好ましい。また、ストロンチウムとリチウム、ストロンチウムとアルミニウム、アルミニウムとリチウム、ストロンチウムとリチウムとアルミニウムからなる複合金属、酸化物、炭酸塩、水酸化物、酸窒化物、窒化物、水素化物、フッ化物、又は塩化物などを出発原料として用いてもよい。特に、酸化ユーロピウムと酸化ストロンチウムと酸化リチウムと酸化リチウムアルミニウムとを用いるのがより好ましい。
【0071】
本実施形態の蛍光体の製造方法では、本実施形態の蛍光体の合成のための焼成時に、焼成温度以下の温度で液相を生成する、蛍光体を構成する元素以外の元素を含む化合物を添加して焼成してもよい。このような液相を生成する化合物は、フラックスとして働き、蛍光体の合成反応及び粒成長を促進するように機能するため、安定な結晶が得られて蛍光体の発光強度が向上することがある。
【0072】
前記焼成温度以下の温度で液相を生成する化合物には、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Li、Na、K、Al、Ga、B、In、Sc、Y、La及びSiから選ばれる1種類又は2種類以上の元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物及びリン酸塩の1種類又は2種類以上の混合物がある。これらの化合物はそれぞれ融点が異なるため、合成温度によって使い分けるとよい。これら、液相を生成する化合物も、本実施形態では便宜上原料物質に含める。
【0073】
蛍光体を粉体又は凝集体形状で製造するには、各原料物質は粉体であることが好ましい。また、蛍光体の合成反応は、原料粉末間の接触部分が起点となり起こることから、原料粉末の平均粒子径を500μm以下とすると、原料粉末の接触部が増えて反応性が向上するため好ましい。
【0074】
(混合方法)
本実施形態の蛍光体の製造方法において、各原料物質を混合して原料混合物となす方法は特に限定はなく、公知の混合方法が用いられる。即ち、乾式で混合する方法の他、各原料物質と実質的に反応しない不活性な溶媒中で湿式混合した後に、溶媒を除去する方法などにより混合することができる。なお混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル等が好ましく利用される。
【0075】
(焼成容器)
原料混合物の焼成において、原料混合物を保持する焼成容器としては種々の耐熱性材料が使用されうるが、例えば、窒化ホウ素焼結体等の窒化ホウ素製の容器、アルミナ焼結体等のアルミナ製の容器、カーボン焼結体等のカーボン容器、モリブテンやタングステンやタンタル金属製の容器などを用いることができる。
【0076】
(焼成温度)
本実施形態の蛍光体の製造方法において、原料混合物の焼成温度は、適宜設定可能だが、例えば、780℃以上1500℃以下としてもよい。焼成温度を780℃以上とすることにより、蛍光体の結晶成長を進行しやすくし、十分な蛍光特性を得ることができる。また焼成温度を1500℃以下とすることにより、蛍光体が分解することを抑制し、蛍光特性の低下を抑制することができる。なお、焼成時間は焼成温度によっても異なるが、通常1~10時間程度である。焼成における加熱、温度保持、冷却の経時パターンは特に限定はなく、また焼成の途中で、必要に応じ原料物質を追加してもよい。
【0077】
(焼成雰囲気)
焼成工程は、原料混合物中の少なくとも一部のEu3+をEu2+の状態に還元可能な還元性の焼成雰囲気下で行う。焼成雰囲気には、例えば、NH3、N2などの中性ガスを含めてもよく、H2、CH4などの還元性ガスを含めてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、発光強度の観点から、NH3、N2、またはH2を用いてもよく、好ましくはNH3、N2を用いてもよい。
焼成雰囲気中のガスは、例えば、NH3、またはN2が主成分となるように構成されてもよい。NH3またはN2の純度は、200℃で、例えば、98体積%以上、好ましくは99体積%以上である。
また、断熱材やヒーターなどの炉材として、カーボン製である黒鉛抵抗加熱方式の電気炉、モリブテンやタングステン製であるオールメタル炉、アルミナや石英製の炉心管をヒーターで加熱する管状炉、耐腐食性を付与した炉を用いてもよい。炉材に応じて、適切なガス種を使用してもよい。
【0078】
(焼成圧力)
焼成時の圧力範囲は、原料混合物及び生成物である蛍光体の熱分解が抑えられるため、可能な範囲で加圧した雰囲気が好ましい。具体的には、0.1MPa(大気圧)以上が好ましい。
【0079】
(焼成回数)
上述した焼成工程の回数は、1回でもよいが、複数回としてもよい。
なお、焼成工程の回数は、原料混合物を焼成温度および焼成圧力を制御し、焼成温度で保持した後、焼成圧力の制御を解除して、室温まで冷却するまでの工程の繰り返し数をいう。
【0080】
本実施形態では、たとえば蛍光体中に含まれる各元素の種類や配合量、蛍光体の調製方法等を適切に選択することにより、上記蛍光強度比I1/I0およびI2/I0を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば還元性の焼成雰囲気下で焼成工程を行うこと、焼成雰囲気中のガス種、焼成温度、焼成工程の回数を適切に選択すること等が、上記蛍光強度比I1/I0およびI2/I0を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0081】
(焼成後のアニール処理)
焼成して得られた蛍光体、及びこれを粉砕処理した後の蛍光体粉末、さらに粒度調整後の蛍光体粉末を、600℃以上、1300℃以下の温度で熱処理(アニール処理ともいう)することもできる。この操作により、蛍光体に含まれる欠陥及び粉砕による損傷が回復することがある。欠陥及び損傷は発光強度の低下の要因となることがあり、前記熱処理により発光強度が回復することがある。
【0082】
さらに、焼成後や前記アニール処理後の蛍光体を、溶剤や、酸性又は塩基性溶液で洗浄することもできる。この操作により、焼成温度以下の温度で液相を生成する化合物の含有量や副相が低減させることもできる。その結果、蛍光体の発光強度が高くなることがある。
【0083】
このように本実施形態の蛍光体は、放射線、及び、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を持ち得、青色から赤色の発光をし得、特に特定の組成では450nm以上650nm以下の青色から赤色を呈し得、かつ、発光波長や発光ピーク幅を調節し得る。このような発光特性により、本実施形態の蛍光体は、さらに本実施形態の蛍光体や、本実施形態の蛍光体を含む蛍光体プレートを用いた発光素子を構成する材料として有用である。さらに前記発光素子を用いた照明器具、画像表示装置も、また本実施形態の蛍光体は、顔料、紫外線吸収剤にも好適である。本実施形態の蛍光体はそれ単独で用いるだけでなく、例えば本実施形態の蛍光体を含む諸材料と樹脂等とを混合した組成物を、さらに成形した蛍光成形物、蛍光シートや蛍光フィルムのような成形体を提供することができる。なお本実施形態の蛍光体は、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気及び水分環境下での長期間の安定性にも優れているという利点をも有し、耐久性に優れた製品を提供し得る。
【0084】
<3.発光素子>
本実施形態の蛍光体は、種々の用途に使用することができるが、本実施形態の蛍光体を含む発光素子もまた本発明の態様のひとつである。前記発光素子に含まれる本実施形態の蛍光体の形状は、粒子状であっても、粒子状の蛍光体を再度焼結したものであっても良い。粒子状の蛍光体を再度特に平板状に焼結したものを蛍光体プレートと呼ぶこともある。また、ここでいう発光素子は、一般的に蛍光体、及び前記蛍光体の励起源とを含み構成されている。
【0085】
本実施形態の蛍光体を用いて、一般に発光ダイオード(LEDともいう)と呼ばれる発光素子をなす場合には、例えば樹脂やガラス(これらを纏めて固体媒体という)中に、本実施形態の蛍光体を分散させた蛍光体含有組成物を、励起源からの励起光が蛍光体に照射されるように配置した形態が一般的に好ましく採用される。このとき、蛍光体含有組成物中には、本実施形態の蛍光体以外の蛍光体を併せて含有させることも可能である。
【0086】
前記蛍光体含有組成物の固体媒体として使用可能な樹脂は、成形する以前や蛍光体を分散させるときにおいては液状の性質を示し、本実施形態の蛍光体や発光素子として好ましくない反応等を生じないものであれば、任意の樹脂を目的等に応じて選択することが可能である。樹脂の例としては、付加反応型シリコーン樹脂、縮合反応型シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。前記樹脂が熱硬化性樹脂である場合は、これを硬化させることにより、本実施形態の蛍光体を散させた蛍光体含有組成物が得られる。
【0087】
前記固体媒体の使用割合は、特に限定はなく、用途等に応じて適宜調整すればよいが、一般的には、本実施形態の蛍光体に対する固体媒体の質量割合で、通常3質量%以上、好ましくは5質量%以上、また、通常30質量%以下、好ましくは15質量%以下の範囲である。
【0088】
また、本実施形態の蛍光体含有組成物は、本発明の蛍光体及び固体媒体に加え、その用途等に応じて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等が挙げられる。具体的には、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等が挙げられる。
【0089】
また本実施形態の蛍光体以外の蛍光体としては、BAM蛍光体、β-サイアロン蛍光体、α-サイアロン蛍光体、Sr2Si5N8蛍光体、(Sr,Ba)2Si5N8蛍光体、CaAlSiN3蛍光体、(Ca,Sr)AlSiN3蛍光体、KSF蛍光体、YAG蛍光体、及び(Ca,Sr,Ba)Si2O2N2から選ばれる1種類又は2種類以上の蛍光体をさらに含んでもよい。
【0090】
発光素子の実施形態の1つとして、本実施形態の蛍光体に加えて、さらに、発光体又は発光光源によりピーク波長420nm以上500nm以下の光を発する青色蛍光体を含むことができる。このような、青色蛍光体としては、AlN:(Eu,Si)、BAM:Eu、SrSi9Al19ON31:Eu、LaSi9Al19N32:Eu、α-サイアロン:Ce、JEM:Ceなどがある。
【0091】
また、発光装置の実施形態の1つとして、本実施形態の蛍光体に加えて、さらに、発光体又は発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体を含むことができる。このような、緑色蛍光体としては、例えば、β-サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si2O2N2:Euなどがある。
【0092】
さらに、発光装置の実施形態の1つとして、本実施形態の蛍光体に加えて、さらに、発光体又は発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体を含むことができる。このような黄色蛍光体としては、YAG:Ce、α-サイアロン:Eu、CaAlSiN3:Ce、La3Si6N11:Ceなどがある。
【0093】
さらにまた、発光装置の実施形態の1つとして、本実施形態の蛍光体に加えて、さらに、発光体又は発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体を含むことができる。このような赤色蛍光体としては、CaAlSiN3:Eu、(Ca,Sr)AlSiN3:Eu、Ca2Si5N8:Eu、Sr2Si5N8:Eu、KSF:Mnなどがある。
【0094】
本実施形態の発光素子に、本実施形態の蛍光体が、蛍光体プレートの形状として含まれる場合、前記蛍光体プレートとは、粒子状の本実施形態の蛍光体を、所望の形状に成型後、加熱焼結したものである。ただし、本実施形態の蛍光体プレートには、本実施形態の蛍光体以外の蛍光体や、その他の成分を含んでいてもよい。ここでいうその他成分としては、例えば媒体となるガラス等や、バインダー樹脂、分散剤、及び焼結助剤が挙げられる。前記バインダー樹脂、分散剤、及び焼結助剤の添加剤は特に限定はないが、一般に加熱焼結時に同時に分解除去される当該分野で公知の物質を好ましく用いることができる。
【0095】
前記蛍光体プレートを製造する際に用いる蛍光体粒子の平均粒子径については、特に限定はないが、成形性を付与するバインダー樹脂の添加量を蛍材料の粒子の比表面積に伴って加減するため、例えば0.1μm以上30μm以下の平均粒子径を有するものを好ましく用いることができる。
【0096】
前記蛍光体プレートは、公知の方法で製造することができる。例えば、粉末状とした本実施形態の蛍光体に、バインダー樹脂、分散剤、焼結助剤等の添加剤を添加し、さらに分散媒を加えて湿式混合し、得られたスラリーの粘度を調整してシート状、ディスク状等の形状にし、これを加熱焼成して添加剤を分解除去すると共に、本実施形態の蛍光体シートを得ることができる。加熱焼成の温度、時間、及び焼成雰囲気は、用いた材料によって公知の条件に適宜変更すればよい。その他に、本実施形態の蛍光体より低融点なガラス粉末を加えて成形し、その後焼成して蛍光体プレートを製造する方法なども有効である。
【0097】
本実施形態の発光素子に含まれる励起源とは、本実施形態の蛍光体や他の種類の蛍光体を励起させて発光させる、励起エネルギーを発する例えば光源である。本実施形態の蛍光体は、100~190nmの真空紫外線、190~380nmの紫外線、電子線などを照射しても発光するが、好ましい励起源としては、例えば青色半導体発光素子が挙げられる。この励起源からの光により本実施形態の蛍光体も発光し、発光素子として機能する。なお、本実施形態の発光素子は、単一の素子である必要は無く、複数の発光素子が組み合わされた一体型の素子であってもよい。
【0098】
本実施形態の発光素子の一形態として、発光体又は発光光源がピーク波長300~500nm、好ましくは300~470nmの紫外又は可視光を発し、本実施形態の蛍光体が発する青色光~黄緑色光~赤色光(例えば、435nm~570nm~750nm)と、本実施形態の他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光を混合することにより白色光又は白色光以外の光を発する発光素子がある。
【0099】
なお、前述の発光素子の実施形態は例示であって、本実施形態の蛍光体に加えて、青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体あるいは赤色蛍光体を適宜組み合わせ、所望の色味を有した白色光を達成することができることは言うまでもない。
【0100】
またさらに、発光素子の実施形態の1つとして、発光体又は発光光源が280~500nmの波長の光を発するLEDを用いると発光効率が高いため、高効率の発光装置を構成することができる。なお、使用する励起源からの光は、特に単色光に限定されず、複色光でもよい。
【0101】
図3に、本実施形態の蛍光体を用いた発光素子(表面実装型LED)の概略を示す。
【0102】
表面実装型白色発光ダイオードランプ(11)を製作した。可視光線反射率の高い白色のアルミナセラミックス基板(19)に2本のリードワイヤ(12、13)が固定されており、それらワイヤの片端は基板のほぼ中央部に位置し、他端はそれぞれ外部に出ていて電気基板への実装時ははんだづけされる電極となっている。リードワイヤのうち1本(12)は、その片端に、基板中央部となるように発光ピーク波長450nmの青色発光ダイオード素子(14)が載置され固定されている。青色発光ダイオード素子(14)の下部電極と下方のリードワイヤとは導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(13)とが金細線からなるボンディングワイヤ(15)によって電気的に接続されている。
【0103】
第一の樹脂(16)と上述した実施形態の蛍光体を混合した蛍光体(17)とを混合したものが、発光ダイオード素子近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明であり、青色発光ダイオード素子(14)の全体を被覆している。また、セラミック基板上には中央部に穴の開いた形状である壁面部材(20)が固定されている。壁面部材(20)は、その中央部が青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた樹脂(16)がおさまるための穴となっていて、中央に面した部分は斜面となっている。この斜面は光を前方に取り出すための反射面であって、その斜面の曲面形は光の反射方向を考慮して決定される。また、少なくとも反射面を構成する面は白色又は金属光沢を持った可視光線反射率の高い面となっている。当該発光素子では、該壁面部材(20)を白色のシリコーン樹脂によって構成した。壁面部材の中央部の穴は、チップ型発光ダイオードランプの最終形状としては凹部を形成するが、ここには青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた第一の樹脂(16)のすべてを封止するようにして透明な第二の樹脂(18)を充填している。当該発光素子では、第一の樹脂(16)と第二の樹脂(18)とには同一のエポキシ樹脂を用いることができる。同発光素子は白色発光する。
【0104】
<4.発光装置>
さらに、上述した態様の発光素子を含む発光装置も、本発明の態様のひとつである。発光装置の具体例としては、照明器具、液晶パネル用バックライト、各種の表示器具等が挙げられる。
【0105】
<5.画像表示装置>
さらに、上述した態様の発光素子を含む画像表示装置も、本発明の態様のひとつである。画像表示装置の具体的としては、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)等が挙げられる。
【0106】
<6.顔料>
本実施形態の蛍光体は、その機能を利用して、例えば顔料の構成材料として使用することも可能である。即ち、本実施形態の蛍光体に太陽光、蛍光灯などの照明を照射すると白色の物体色が観察されるが、その発色がよいこと、そして長期間に渡り劣化しないことから、本実施形態の蛍光体は例えば無機顔料に好適にしようすることができる。このため、塗料、インキ、絵の具、釉薬、プラスチック製品に添加する顔料として用いると長期間に亘って良好な白色を高く維持することができる。
【0107】
<7.紫外線吸収剤>
本実施形態の蛍光体は、それ単独で使用するのではなく、その機能を利用して、例えば紫外線吸収剤の構成材料として使用することも可能である。即ち、本実施形態の蛍光体を含む紫外線吸収剤を、例えばプラスチック製品や塗料内部に練り込んだり、プラスチック製品の表面に塗布したりすると、それらを紫外線劣化から効果的に保護することができる。
【0108】
<8.蛍光体シート>
本実施形態の蛍光体を、例えば樹脂と混合して組成物となし、さらにこれを成形した蛍光体成形物、蛍光体フィルム、蛍光体シートも、本実施形態の蛍光体の好ましい使用例として挙げられる。例えばここでいう本実施形態の蛍光体シートとは、本実施形態の蛍光体を、媒体中に均一に分散させるように含ませたシートである。媒体の材質は特に限定されないが、透明性を有することが好ましく、シート状に形態を保持できる材料であり、例えば樹脂が挙げられる。具体的には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート樹脂、PET変性ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、変性アクリル、ポリスチレン樹脂及びアクリルニトリル・スチレン共重合体樹脂等が挙げられる。本実施形態の蛍光体シートにおいては、透明性の面からシリコーン樹脂やエポキシ樹脂が好ましく用いられる。耐熱性の面を考慮すると、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。
【0109】
本実施形態の蛍光体シートには、必要に応じた添加剤を加えることができる。例えば、成膜時の必要に応じて成膜時のレベリング剤、蛍光体の分散を促進する分散剤やシート表面の改質剤としてシランカップリング剤等の接着補助剤等を添加してもよい。また、蛍光体沈降抑制剤としてシリコーン微粒子等の無機粒子を添加してもよい。
【0110】
本実施形態の蛍光体シートの膜厚は、特に限定されないが、蛍光体含有量と、所望の光学特性から決めるのがよい。蛍光体含有量や作業性、光学特性、耐熱性の観点から、膜厚は、例えば、10μm以上、3mm以下、より好ましくは50μm以上1mm以下である。
【0111】
本実施形態の蛍光体シートの製造方法には特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。なお本実施形態の蛍光体シートは、本実施形態の蛍光体を含んでいればよく、単層シートであっても多層シートであっても良く、シート全体が均一である必要はない。シートの片側又は両側の表面、又は内部に、基材層を設けることも可能である。基材層の材質も、特に限定はないが、例えば、公知の金属、フィルム、ガラス、セラミック、紙等を使用することができる。具体的には、アルミニウム(アルミニウム合金も含む)、亜鉛、銅、鉄などの金属板や箔、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、アラミドなどのプラスチックのフィルム、前記プラスチックがラミネートされた紙、又は前記プラスチックによりコーティングされた紙、前記金属がラミネート又は蒸着された紙、前記金属がラミネート又は蒸着されたプラスチックフイルムなどが挙げられる。また、基材が金属板の場合、表面にクロム系やニッケル系などのメッキ処理やセラミック処理されていてもよい。特に、基材は柔軟で、強度が高いフィルム状であることが好ましい。そのため、例えば、樹脂フィルムが好ましく、具体的には、PETフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0112】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0114】
(参考例)
Mα(L,A)βXγで表される結晶、又は前記Mα(L,A)βXγで表される結晶を除くSrLi3AlO4で表される蛍光体母体結晶と同一の結晶構造を有する結晶である、蛍光体母体結晶の代表となるものとして、SrLi3AlO4を合成し、これを参考例とした。次いで、得られた参考例のSrLi3AlO4の結晶構造を解析し、これが前例の無い新規物質であることをまず確認した。実施例1~7で合成した各蛍光体の蛍光体母体結晶の結晶構造と比較するための基準とした。
【0115】
<原料物質>
参考例のSrLi3AlO4の原料物質として、酸化アルミニウム(タイミクロン、大明化学工業社製)粉末と、酸化ストロンチウム(SrO、高純度化学社製)粉末と、酸化リチウム(Li2O、高純度化学社製)粉末と、アルミン酸リチウム(LiAlO2、高純度化学社製)粉末と、酸化ユーロピウム(Eu2O3、純度99.9%信越化学工業社製)粉末とを用いた。
【0116】
前記の酸化ストロンチウム(SrO)、酸化リチウム(Li2O)、アルミン酸リチウム(LiAlO2)を、乾燥したN2ガスで満たされたグローブボックス中で、SrとLiとAlの原子比(Sr:Li:Al)が1:3:1となるような割合で秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳棒と乳鉢を用いて10分間混合した。次いで、得られた原料混合粉末を、アルミナ製のるつぼに充填した。
【0117】
原料混合粉末を充填した前記るつぼを、管状炉にセットした。混合粉末の焼成手順は次の通りであった。まず、ロータリーポンプにより焼成雰囲気を一旦10Pa以下の減圧状態とし、純度が99.999体積%のNH3を導入して炉内の圧力を大気圧とし、NH3ガス流量を2L/minに制御し、室温から毎分7℃の速度で800℃まで昇温し、その温度で4時間保持した。その後、NH3ガスの導入を解除して、室温まで冷却した。
【0118】
るつぼから焼成した原料混合粉末(本明細書では「合成物」ともいう。)を取り出し、窒化ケイ素焼結体製の乳棒と乳鉢を用いて粉砕して粉末状にした。この粉末状の合成物について、ICP発光分光分析法による元素分析を実施したところ、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成に変化がないことを確認した。
【0119】
粉末状態の合成物を光学顕微鏡で観察し、8μm×6μm×4μmの大きさの結晶粒子を採取して、ガラスファイバーの先端に有機系接着剤で固定した。これをMoKα線の回転対陰極付きの単結晶X線回折装置(SMART APEX II Ultra、ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて、X線源の出力が50kV、50mAの条件でX線回折測定を行った。その結果、この結晶粒子が単結晶であることを確認した。
【0120】
X線回折測定結果から単結晶構造解析ソフトウエア(APEX2、ブルカー・エイエックスエス社製)を用いて結晶構造を求めた。得られた結晶構造データは前記表1に示した。また、結晶構造を
図1に示す。表1には、結晶系、空間群、格子定数、原子の種類、及び、原子位置が記載してあり、このデータを用いて、単位格子の形状と、その格子中の原子の並びを決定することができる。
【0121】
この結晶は、三斜晶系(Triclinic)に属し、空間群P-1、(International Tables for Crystallographyの2番の空間群)に属し、格子定数a、b、c及び角度α、β、γは、それぞれ
a=0.5754nm
b=0.7344nm
c=0.9743nm
α=83.931度
β=76.692度
γ=79.657度
であった。
【0122】
原子位置は前記表1に示すとおりであった。SrやOは、独立した原子位置に存在しているが、LiとAlは、結晶全体としてLiとAlの原子比が3:1となるように同じ原子位置に任意の割合で存在している。
【0123】
表1に示す結晶構造データから、SrLi
3AlO
4結晶は今まで報告されていない新規の物質であることが確認された。また結晶構造データから粉末X線回折パターンを計算した。
図2に、SrLi
3AlO
4結晶の結晶構造から計算したCuKα線を用いた粉末X線回折を示す。今後は、合成物の粉末X回折測定を行い、測定された粉末X線回折パターンが
図2と同じであれば
図1に示したSrLi
3AlO
4結晶が生成していると判定した。
【0124】
さらに、MLi3AlO4結晶に対し、SrLi3AlO4結晶を除くSrLi3AlO4結晶と同一の結晶構造を有する結晶に関して検討を行ったところ、SrLi3AlO4結晶は、結晶構造を保ったままSrの一部又は全部をMg、Ca、Ba及びZnで置換できることがわかった。即ち、MLi3AlO4(Mは、Mg、Ca、Ba及びZnから選ばれる1種類又は2種類又は混合)の結晶は、SrLi3AlO4結晶と同じ結晶構造を持つ。さらにLiの一部をAlで置換、Alの一部もしくは全部をGa及びSiで置換でき、SrLi3AlO4と同一の結晶構造を持つ結晶の1つの組成であることが確認された。
【0125】
さらに、MLi3AlO4結晶に対し、SrLi3AlO4結晶を除くSrLi3AlO4結晶と同一の結晶構造を有する結晶に関して検討を行ったところ、SrLi3AlO4結晶は、結晶全体として電気的中性を保つために、LiとAlの比率を制御することで、Oの一部をNで置換することができることが確認された。これらの結晶を組成式:Sr1-rLi3-qAl1+qO4-2qN2qEur(ただし、組成式中、0≦q<2.0、及び0<r<1.0である。)で表される組成としても記述できる。
【0126】
SrLi3AlO4結晶として結晶構造を保ったまま格子定数等が変化した結晶も、粉末X線回折測定により得られた格子定数の値と前記表1の結晶構造データとから粉末X線回折パターンを計算できる。したがって、計算した粉末X線回折パターンと測定された粉末X線回折パターンとを比較することにより、それがSrLi3AlO4結晶であるか否かが判定できる。
【0127】
(実施例1)
下記表2に示す、実施例1における設計組成(原子比)にしたがって、粉末状の原料物質を、下記表3の原料混合組成(質量比)となるように、乾燥したN2ガスで満たされたグローブボックス中で秤量した。
秤量した原料混合粉末を窒化ケイ素焼結体製乳棒と乳鉢とを用いて10分間混合を行なった。その後、混合粉末をアルミナ製のるつぼに充填した。
【0128】
【0129】
【0130】
原料混合粉末を充填した前記るつぼを、管状炉にセットした。混合粉末の焼成手順は次の通りであった。まず、ロータリーポンプにより焼成雰囲気を一旦10Pa以下の減圧状態とし、純度が99.999体積%のNH3を導入して炉内の圧力を大気圧とし、NH3ガス流量を2L/minに制御し、室温から毎分7℃の速度で800℃まで昇温し、その温度で4時間保持した。その後、NH3ガスの導入を解除して、室温まで冷却した。
【0131】
るつぼから焼成物を取り出し、窒化ケイ素焼結体製の乳棒と乳鉢を用いて粉砕して、75μmの目のふるいを通し、粉末状の合成物(実施例1の蛍光体)を得た。
レーザ回折法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径(d50)は18μmであった。粉末状の合成物についてICP発光分光分析法で元素分析を実施したところ、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成変化がないことを確認した。
【0132】
(実施例2)
焼成温度を825℃としたことを除き、表2の設計組成、表3の原料混合組成に従って、実施例1と同様の方法で実施例2の蛍光体(粉末状の合成物)を作製した。実施例2の合成物の粉末の平均粒子径は、18μmであった。また、ICP発光分光分析法により、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成変化がないことを確認した。
【0133】
(実施例3)
焼成時間を12時間としたことを除き、表2の設計組成、表3の原料混合組成に従って、実施例1と同様の方法で実施例3の蛍光体(粉末状の合成物)を作製した。実施例3の合成物の粉末の平均粒子径は、18μmであった。また、ICP発光分光分析法により、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成変化がないことを確認した。
【0134】
(実施例4)
焼成時間を8時間とし、焼成処理を3回実施し、Eu濃度が異なる設計組成、原料混合組成であることを除き、表2の設計組成、表3の原料混合組成に従って、実施例1と同様の方法で実施例4の蛍光体(粉末状の合成物)を作製した。実施例4の合成物の粉末の平均粒子径は、18μmであった。また、ICP発光分光分析法により、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成変化がないことを確認した。
【0135】
(実施例5)
焼成時間を8時間とし、焼成処理を3回実施し、Eu濃度が異なる設計組成、原料混合組成であることを除き、表2の設計組成、表3の原料混合組成に従って、実施例1と同様の方法で実施例5の蛍光体(粉末状の合成物)を作製した。実施例5の合成物の粉末の平均粒子径は、18μmであった。また、ICP発光分光分析法により、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成変化がないことを確認した。
【0136】
(実施例6)
焼成時間を8時間とし、焼成処理を3回実施したことを除き、表2の設計組成、表3の原料混合組成に従って、実施例1と同様の方法で実施例6の蛍光体(粉末状の合成物)を作製した。実施例6の合成物の粉末の平均粒子径は、18μmであった。また、ICP発光分光分析法により、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成変化がないことを確認した。
【0137】
(比較例1)
焼成工程の雰囲気をNH3ではなくAr雰囲気で実施したことを除き、表2の設計組成、表3の原料混合組成に従って、実施例1と同様の方法で比較例1の蛍光体(粉末状の合成物)を作製した。比較例1の合成物の粉末の平均粒子径は、18μmであった。また、ICP発光分光分析法により、Sr、Li、Alの原子比(分析値)が、1.0:3.0:1.0であり、焼成前後で組成変化がないことを確認した。
【0138】
(X線回折)
CuのKα線を用いた粉末X線回折測定した。
図4に、実施例1の合成物のX線回折結果を示す。
【0139】
図4の合成物のX線回折パターンは、
図2に示すSrLi
3AlO
4結晶から計算したX線パターンと良い一致を示し、SrLi
3AlO
4結晶と同一の結晶構造を有する結晶であることが確認された。
例えば、
図2の2θ=15.92度、38.02度、36.20度、30.12度、22.64度、44.68度、66.22度、69.90度、32.18度、57.52度のピークが、
図4の2θ=16.00度、38.12度、36.30度、30.22度、22.72度、44.78度、66.38度、70.08度、32.28度、57.72度の夫々のピークと一部に強度の高さの逆転はあるものの、ほぼ対応しているので、良い一致を示している。ここで、2θの角度の誤差は、±1度と見積もった。
【0140】
以上から、実施例1の合成物は、SrLi
3AlO
4結晶にEuが置換している無機化合物であることが確認された。図示しないが、実施例2~6も、実施例1と同様のX線回折パターンを得た。実施例2~6のX線回折パターンと
図2の主要ピークとの対応を、それぞれ10本の主要ピークで行った結果も、実施例1と同様であった。
【0141】
以上より、実施例1~6の合成物は、SrLi3AlO4結晶にEuの付活イオンが置換している新規な無機化合物を主成分として含むことが確認された。
【0142】
【0143】
得られた各実施例、比較例の蛍光体(合成物)について、以下の評価項目に基づいて評価を行った。
【0144】
[蛍光強度]
各実施例及び比較例の合成物の粉末に関して、発光スペクトルは、分光蛍光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス社製F-7000)により以下手順により測定した。
各実施例及び比較例の合成物の粉末を紫外線領域から可視領域まで高い透過率を有する合成石英製のセルに充填した。粉末サンプルを充填したセルを分光蛍光光度計の所定の位置にセットして、発光光源(Xeランプ)から260nmの波長に分光した単色光を照射して、発光スペクトルを測定した。なお、励起側のスリット幅は10.0nm、発光側のスリット幅は5.0nmに設定して発光スペクトルを測定した。また、発光スペクトルに励起光の高次光による影響を除去するためにカットフィルター(290nm以下の波長の光を吸収するフィルター)を使用した。得られた発光スペクトルに基づいて、波長569nmにおける蛍光強度(I0)を1として、波長617nmにおける蛍光強度(I1)、波長628nmにおける発光強度(I2)を算出した。蛍光強度比I1/I0、蛍光強度比I2/I0を表4に示す。
【0145】
[発光特性]
各実施例および比較例の合成物の粉末に関して、吸収率、内部量子効率、外部量子効率を、マルチチャンネル分光器(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定し、以下の手順で算出した。
各実施例、比較例の合成物の粉末を凹型セルの表面が平滑になるように充填し、積分球の所定の位置に取り付けた。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光を励起源として、蛍光体の試料に照射し、試料の蛍光スペクトル測定を行った。
試料部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)を取り付けて、波長455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
試料部に各合成物の粉末を取り付けて、波長455nmの励起光を照射して得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465~800nmの範囲で算出した。
吸収率=(Qex-Qref)/Qex×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
上記の測定方法を用い、株式会社サイアロンより販売している標準試料NSG1301を測定した場合、外部量子効率は55.6%、内部量子効率74.8%となった。この試料を標準として装置を校正した。
【0146】
表4に、吸収率、内部量子効率、外部量子効率について得られた結果を示す。表4に示すように、各実施例の蛍光体は、比較例1の蛍光体に比べて、吸収率、内部量子効率、外部量子効率がともに向上することが確認された。
【0147】
この出願は、2019年6月26日に出願された日本出願特願2019-118166号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0148】
1 酸素原子
2 ストロンチウム原子
3 AlO4四面体(中心Al原子)
4 LiO4四面体(中心Li原子)
11表面実装型白色発光ダイオードランプ
12、13 リードワイヤ
14 青色発光ダイオード素子
15 ボンディングワイヤ
16 第一の樹脂
17 蛍光体
18 第二の樹脂
19 アルミナセラミックス基板
20 壁面部材