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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】窒化ケイ素基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/13 20060101AFI20240202BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240202BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H05K1/03 610D
C04B35/587
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021527721
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020024964
(87)【国際公開番号】W WO2020262519
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019119570
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】堂崎 由夏
(72)【発明者】
【氏名】小橋 聖治
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092006(JP,A)
【文献】特開2014-005190(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147071(WO,A1)
【文献】特開2005-213131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/13
H05K 1/03
C04B 35/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方を含む第1領域と、
前記第1領域の周囲のうちの少なくとも一部分に位置する第2領域と、
を含み、
前記鉄元素及び前記クロム元素の前記少なくとも一方は、前記第1領域において、前記第2領域においてよりも、高い濃度で存在し、
前記第1領域は、前記鉄元素及び前記クロム元素の前記少なくとも一方のEPMA信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.005倍以上となる部分を含む、窒化ケイ素基板(ただし、窒化珪素を主成分とし、マグネシウム,希土類金属,アルミニウムおよび硼素を酸化物換算でそれぞれ2質量%以上6質量%以下,12質量%以上16質量%以下,0.1質量%以上0.5質量%以下,0.06質量%以上0.32質量%以下含んでなり、β-Si からなる主結晶相と、組成式がRE Si (REは希土類金属)として示される成分を含む粒界相とにより構成され、X線回折法によって求められる、回折角27°~28°におけるβ-Si の第1のピーク強度I に対する、回折角30°~35°におけるRE Si の第1のピーク強度I の比率(I /I )が20%以下(但し、0%を除く)であることを特徴とする窒化珪素質焼結体を除く)
【請求項2】
請求項1に記載の窒化ケイ素基板において、
前記第2領域は、前記鉄元素及び前記クロム元素の両方のEPMA信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.005倍未満となる部分を含む、窒化ケイ素基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の窒化ケイ素基板において、
前記第1領域は、前記鉄元素の前記EPMA信号強度の最大値が前記シリコン元素の前記EPMA信号強度の0.008倍以上となる部分を含む、窒化ケイ素基板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の窒化ケイ素基板において、
前記第1領域は、前記クロム元素の前記EPMA信号強度の最大値が前記シリコン元素の前記EPMA信号強度の0.006倍以上となる部分を含む、窒化ケイ素基板。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の窒化ケイ素基板において、
前記第2領域は、前記第1領域を囲んでいる、窒化ケイ素基板。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の窒化ケイ素基板において、
前記第1領域は、20μm以上350μm以下の円相当直径を有する、窒化ケイ素基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素基板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス(例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)又はダイオード)を搭載させるための絶縁性のセラミック基板として、窒化ケイ素基板が用いられることがある。
【0003】
特許文献1には、窒化ケイ素基板の製造方法の一例について記載されている。この方法では、窒化ケイ素粉末、焼結助剤粉末及び分散剤を含むスラリーに磁石を浸す。窒化ケイ素粉末は、10ppm以上1500ppm以下の鉄不純物を含んでいる。この方法によれば、窒化ケイ素粉末に含まれる鉄を磁石に付着させることができ、窒化ケイ素基板における鉄不純物の量を減少させることができる。次いで、スラリーからグリーンシートを形成する。次いで、グリーンシートを焼結させる。このようにして、窒化ケイ素基板が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-48046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化ケイ素基板の製造プロセスは、窒化ケイ素粉末を加熱する工程を含む。生産性の観点から、できる限り短い加熱時間で窒化ケイ素基板の密度が高くなることが望ましい。
【0006】
本発明の目的の一例は、短時間の加熱によって窒化ケイ素基板の密度を高くすることにある。本発明の他の目的は、本明細書の記載から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方を含む第1領域と、
前記第1領域の周囲のうちの少なくとも一部分に位置する第2領域と、
を含み、
前記鉄元素及び前記クロム元素の前記少なくとも一方は、前記第1領域において、前記第2領域においてよりも、高い濃度で存在し、
前記第1領域は、前記鉄元素及び前記クロム元素の前記少なくとも一方のEPMA信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.005倍以上となる部分を含む、窒化ケイ素基板である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、短時間の加熱によって窒化ケイ素基板の密度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る実施形態に係る窒化ケイ素基板の平面図である。
図2図1のA方向から見た窒化ケイ素基板の側面図である。
図3図1に示した領域αの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る実施形態に係る窒化ケイ素基板100の平面図である。図2は、図1のA方向から見た窒化ケイ素基板100の側面図である。図3は、図1に示した領域αの拡大図である。
【0012】
図3を用いて、窒化ケイ素基板100の概要を説明する。窒化ケイ素基板100は、第1領域102a及び第2領域102bを含んでいる。第1領域102aは、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方を含んでいる。第2領域102bは、第1領域102aの周囲のうちの少なくとも一部分に位置している。鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方は、第1領域102aにおいて、第2領域102bにおいてよりも、高い濃度で存在している。第1領域102aは、鉄元素及びクロム元素の上記少なくとも一方のEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.005倍以上となる部分を含んでいる。
【0013】
本実施形態によれば、短時間の加熱によって窒化ケイ素基板100の密度を高くすることができる。具体的には、本発明者は、鉄元素濃度及びクロム元素濃度の少なくとも一方の高い第1領域と、上記濃度が低い第2領域を形成させることで、窒化ケイ素基板100の密度は、後述する初期温度から後述する焼成温度までの昇温速度が速くても、高くなり得ることを新規に見出した。
【0014】
図1から図3を用いて、窒化ケイ素基板100の詳細を説明する。
【0015】
窒化ケイ素基板100は、第1面102及び第2面104を有している。図1は、窒化ケイ素基板100の第1面102を示している。第2面104は、第1面102の反対側にある。図1に示す例において、窒化ケイ素基板100の第1面102は、実質的に矩形形状を有している。この矩形は、厳密な矩形でなくてもよく、例えば、切片が形成された辺を有していてもよいし、又は丸まった角を有していてもよい。窒化ケイ素基板100の第1面102は、矩形とは異なる形状を有していてもよい。
【0016】
図1に示す例において、窒化ケイ素基板100の第1面102には、複数の第1領域102aが存在する。
【0017】
第1領域102aに含まれる成分の詳細は、以下のとおりである。
【0018】
第1領域102aは、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方を含む。鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方は、例えば、窒化ケイ素基板100を形成するための窒化ケイ素粉末内の不純物元素に由来し得る。
【0019】
第1領域102aは、イットリウム元素、マグネシウム元素、酸素元素及びシリコン元素のうちの少なくとも一つの元素をさらに含んでいてもよい。これらの元素は、例えば、窒化ケイ素基板100を形成するための焼結助剤粉末内の元素に由来し得る。
【0020】
第1領域102aは、リン元素、バナジウム元素、ニッケル元素及び炭素元素のうちの少なくとも一つの元素をさらに含んでいてもよい。これらの元素は、例えば、窒化ケイ素基板100を形成するための窒化ケイ素粉末内の不純物元素に由来し得る。
【0021】
第1領域102a及び第2領域102bのそれぞれに含まれる成分の濃度の詳細は、以下のとおりである。
【0022】
第1領域102aは、周囲の第2領域102bよりも、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方の濃度が高い領域である。ここで、上記濃度が高いことは、EPMA信号強度を測定することで確認できる。
【0023】
第1領域102aのEPMA信号強度と、第2領域102bのEPMA信号強度との差は、特に限定されないが、第1領域102aは、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方のEPMA信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.005倍以上(「EPMA信号強度比が0.005倍以上」と記載する場合がある。)であり、第2領域102bは、鉄元素及びクロム元素の両方のEPMA信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.005倍未満である。
【0024】
また、窒化ケイ素基板100の密度を高める場合、第1領域102aにおける、鉄元素のEPMA信号強度の最大値をシリコン元素のEPMA信号強度の0.008倍以上とすることが好ましい。この場合、シリコン元素のEPMA信号強度は、EPMAマッピングにおけるシリコン元素のEPMA信号強度の最大値にすることができる。第1領域102aにおける、クロム元素のEPMA信号強度の最大値をシリコン元素のEPMA信号強度の0.006倍以上とすることが好ましい。この場合、シリコン元素のEPMA信号強度は、EPMAマッピングにおけるシリコン元素のEPMA信号強度の最大値にすることができる。
【0025】
また、窒化ケイ素基板100の密度を高める場合、第2領域102bにおいては、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方のEPMA信号強度を、シリコン元素のEPMA信号強度の0.001倍超とすることが好ましい。
【0026】
第1領域102aが鉄元素及びクロム元素の両方を含み、鉄元素及びクロム元素のいずれもEPMA信号強度比が0.005倍以上の場合、本実施形態では、第1領域102aの鉄元素及びクロム元素の両方の濃度が、第2領域102bの上記元素濃度よりも高くなる。いずれか一方の元素のEPMA信号強度比が0.005倍未満の場合、この元素の濃度は1領域102a及び第2領域102bのいずれかにおいて高くてもよい。
【0027】
また、鉄元素及びクロム元素以外の元素について、第1領域102a及び第2領域102bのいずれが高濃度であってもよい。
【0028】
また、第1領域102aにおいて、鉄元素及びクロム元素の濃度が一定でもよいし、濃度ムラがあってもよい。例えば、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方のEPMA信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.005倍以上の領域において、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方のEPMA信号強度がシリコン元素のEPMA信号強度の0.006倍以上の領域が、10面積%以上、15面積%以上又は20面積%以上であってよい。
【0029】
第1領域102aの状態の詳細は、以下のとおりである。
【0030】
本実施形態では、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方の濃度ムラを作ることで密度を高くすることができる。この濃度ムラにより、第1領域102aと第2領域102bとは、色が異なり(例えば、色の濃さが異なり)、第1領域102aと第2領域102bを、目視でも確認することができる。
【0031】
第1領域102aの形状は特に限定されないが、本実施形態により窒化ケイ素基板100の密度を高める場合、第1領域102aを、第1面102上に散在する点状の領域として形成することが好ましい。
【0032】
第1領域102aを、第1面102上に散在する点状の領域として形成する場合、第1領域102aは、円形でも、円形以外(例えば、多角形、正多角形など)でもよい。また、多角形、正多角形、略円形等の形状の第1領域102a同士が接したり、一部重なったりして、連なる場合もある。また、この場合、一部に、点状の第1領域102aが密集したクラスタ部を有してもよい。クラスタ部において第1領域102a間の最短距離は例えば40μm以未満ある。
【0033】
第1領域102aを、第1面102上に散在する点状の領域として形成する場合、第1領域102a間の最短距離は、ほとんどが400μm以上である。最短距離とは、EPMA信号強度比の最大値の位置間の距離とする。また、「ほとんど」とは個数割合で例えば90%以上である。なお、点状の第1領域102aが密集したクラスタ部の場合、上記最短距離は、クラスタ部内の複数の第1領域102aで最もEPMA信号強度比が高い位置と、最も近い第1領域102aのEPMA信号強度比が最も高い位置との間の距離とする。
【0034】
なお、第1領域102aを、第1面102上に散在する点状の領域として形成される場合は、第2領域102bが第1領域102aを囲む場合の一例である。
【0035】
第1領域102aが点状の領域として形成される場合、顕微鏡等で第1領域102aを拡大したときに、第1領域102aは、さらに小さな点の集合体であってもよい。この集合体を構成する点同士は、接触していても、一部重なっていてもよい。
【0036】
第1領域102aを、第1面102上に散在する点状の領域として形成する場合、第1領域102aの大きさは円相当直径の平均が、20μm以上350μm以下が好ましい。なお、点状の領域として存在する第1領域102aの大きさは、それぞれ異なっても同じでもよい。また、円相当直径は、EPMA測定にて得られるマッピング画像を第1領域102aとそれ以外で2値化し、画像解析にて円面積相当径として得られる値とする。なお、測定箇所は窒化ケイ素基板100の第1面102の外周部付近及び中心付近の2か所とし、測定面積は400μm×400μmとし、2値化の閾値はシリコン元素の最大EPMA信号強度の0.005倍の値とし、この2か所の測定結果を平均する。
【0037】
第1領域102aを、第1面102上に散在する点状の領域として形成する場合、窒化ケイ素基板100の第1面102における第1領域102a(点)の数密度は、例えば、0.003cm-2以上0.3cm-2以下である。
【0038】
第1領域102aは、第1面102の表面にのみ存在してもよい。他の例として、第1領域102aは、第1面102から第2面104の厚さ方向全体に亘って形成されていてもよい。
【0039】
次に、窒化ケイ素基板100の製造方法について説明する。
【0040】
まず、窒化ケイ素粉末を準備する。窒化ケイ素粉末は、窒化ケイ素(Si)を含んでいる。窒化ケイ素粉末は、鉄不純物及びクロム不純物の少なくとも一方をさらに含んでいる。鉄不純物及びクロム不純物の少なくとも一方の量は、比較的多量であり、窒化ケイ素粉末の全質量に対して、例えば、10ppm以上2500ppm以下である。
【0041】
鉄不純物の量は、窒化ケイ素粉末の全質量に対して、例えば、10ppm以上2500ppm以下、好ましくは、150ppm以上1200ppm以下にすることができる。鉄不純物の量が多すぎる場合、窒化ケイ素基板100の表面には鉄に起因する傷が生じるおそれがある。したがって、鉄不純物の量の上限は、窒化ケイ素基板100の表面の傷を抑える観点から決定することができる。
【0042】
クロム不純物の量は、窒化ケイ素粉末の全質量に対して、例えば、10ppm以上2500ppm以下、好ましくは、50ppm以上400ppm以下にすることができる。
【0043】
窒化ケイ素粉末が鉄不純物及びクロム不純物の双方を含む場合、鉄不純物の量及びクロム不純物の量の和は、例えば、20ppm以上5000ppm以下、好ましくは、200ppm以上1600ppm以下にすることができる。
【0044】
窒化ケイ素粉末は、鉄不純物及びクロム不純物以外の不純物、例えば、リン不純物、バナジウム不純物、ニッケル不純物及び炭素不純物のうちの少なくとも一をさらに含んでいてもよい。
【0045】
さらに、焼結助剤粉末を準備する。焼結助剤粉末は、酸化イットリウム(Y)、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化ケイ素(SiO)のうちの少なくとも一を含んでいる。
【0046】
次いで、窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末を混合する。窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末を混合する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末を、乾式方式によってそのまま混合してもよいし、又は窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末を、湿式方式によって溶媒内で混合してもよい。
【0047】
窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体は、この混合体の全質量100質量部に対して、例えば、2質量部以上10質量部以下の焼結助剤粉末を含んでいる。窒化ケイ素(Si)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、例えば、90質量部以上98質量部以下にすることができる。酸化イットリウム(Y)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、1質量部以上10質量部未満にすることができる。酸化マグネシウム(MgO)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、0質量部超5質量部以下にすることができる。酸化ケイ素(SiO)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、0質量部以上3質量部以下にすることができる。
【0048】
次いで、窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末の混合体を加熱する。加熱によって窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末を焼結させて、窒化ケイ素基板100を形成することができる。
【0049】
加熱の詳細は、次のようになる。まず、窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末の混合体を1200℃(初期温度)に加熱する。次いで、加熱温度を初期温度(1200℃)から焼成温度(1200℃超の温度)まで、例えば、1.0℃/min以上10℃/min、好ましくは、2.5℃/min以上7.5℃/minの昇温速度で上昇させる。焼成温度は、例えば、1750℃以上1900℃以下、好ましくは1800℃以上1850℃以下にすることができる。加熱温度が焼成温度まで達した後、焼成温度における加熱を、例えば、2時間以上8時間以下行う。
【0050】
本実施形態においては、上述したように、窒化ケイ素粉末は、比較的多量の鉄不純物及びクロム元素の少なくとも一方を含んでいる。したがって、鉄不純物及びクロム不純物の少なくとも一方によって混合体の熱伝導率を向上させることができる。このため、初期温度(1200℃)から焼成温度(1200℃超の温度)までの昇温速度が高くても、混合体(窒化ケイ素基板100)の密度を高くすることができる。すなわち、短時間の加熱によって窒化ケイ素基板100の密度を高くすることができる。
【0051】
窒化ケイ素粉末が比較的多量の鉄不純物及びクロム不純物の少なくとも一方を含み、かつ初期温度(1200℃)から焼成温度(1200℃超の温度)までの昇温速度が高い場合、第1領域102a(すなわち、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方が高濃度に存在する領域)が形成され得る。第1領域102aは、鉄不純物及びクロム元素が高い昇温速度によって局所的に集中するために形成されると推定される。
【0052】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0053】
表1を参照しつつ、実施例1~9、比較例1~2及び参考例1について説明する。
【0054】
(実施例1)
実施例1に係る窒化ケイ素基板100は、以下のようにして製造した。
【0055】
まず、窒化ケイ素粉末を準備した。窒化ケイ素粉末は、窒化ケイ素粉末の全質量に対して、150ppmの鉄不純物及び50ppmのクロム不純物を含んでいた。
【0056】
さらに、焼結助剤粉末を準備した。
【0057】
次いで、窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末を乾式方式によって混合した。窒化ケイ素(Si)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、91質量部とした。酸化イットリウム(Y)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、6質量部とした。酸化マグネシウム(MgO)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、2質量部とした。酸化ケイ素(SiO)の含有率は、窒化ケイ素及粉末及び焼結助剤粉末の混合体の全質量100質量部に対して、1質量部とした。
【0058】
次いで、窒化ケイ素粉末及び焼結助剤粉末の混合体を加熱した。具体的には、まず、混合体を1200℃に加熱した。次いで、加熱温度を1200℃から1830℃(焼成温度)まで5℃/minの昇温速度で上昇させた。次いで、焼成温度における混合体の加熱を続けた。
【0059】
上述したプロセス後、□75mmのサイズの窒化ケイ素基板100を得た。
【0060】
(実施例2~4)
実施例2~4のそれぞれに係る窒化ケイ素基板100は、窒化ケイ素(Si)の含有率、酸化イットリウム(Y)の含有率、酸化マグネシウム(MgO)の含有率及び酸化ケイ素(SiO)の含有率が表1に示す値になる点を除いて、実施例1に係る窒化ケイ素基板100と同様にして製造した。
【0061】
(実施例5~8)
実施例5~8のそれぞれに係る窒化ケイ素基板100は、鉄濃度、クロム濃度、窒化ケイ素(Si)の含有率、酸化イットリウム(Y)の含有率、酸化マグネシウム(MgO)の含有率及び酸化ケイ素(SiO)の含有率が表1に示す値になる点を除いて、実施例1に係る窒化ケイ素基板100と同様にして製造した。
【0062】
(実施例9)
実施例9に係る窒化ケイ素基板100は、鉄濃度及びクロム濃度が表1に示す値になる点を除いて、実施例1に係る窒化ケイ素基板100と同様にして製造した。
【0063】
(比較例1~2)
比較例1~2のそれぞれに係る窒化ケイ素基板100は、鉄濃度、クロム濃度、窒化ケイ素(Si)の含有率、酸化イットリウム(Y)の含有率、酸化マグネシウム(MgO)の含有率及び酸化ケイ素(SiO)の含有率が表1に示す値になる点を除いて、実施例1に係る窒化ケイ素基板100と同様にして製造した。
【0064】
(参考例1)
参考例1に係る窒化ケイ素基板100は、鉄濃度、クロム濃度、窒化ケイ素(Si)の含有率、酸化イットリウム(Y)の含有率、酸化マグネシウム(MgO)の含有率及び酸化ケイ素(SiO)の含有率並びに1200℃から焼成温度(1830℃)までの昇温速度が表1に示す値になる点を除いて、実施例1に係る窒化ケイ素基板100と同様にして製造した。
【0065】
実施例1~9、比較例1~2及び参考例1のそれぞれに係る窒化ケイ素基板100の密度は、表1に示すようになった。
【0066】
実施例1~9、比較例1~2及び参考例1のそれぞれに係る窒化ケイ素基板100の第1面102における第1領域102aの数密度は、表1に示すようになった。
【0067】
実施例1~9、比較例1~2及び参考例1のそれぞれに係る窒化ケイ素基板100の第1面102をEPMAによって分析し、各元素についてEPMAマッピングを得た。EPMAマッピングの条件は、以下のとおりである。
装置:電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)
機種:日本電子社製 JXA-8230
加速電圧:15kV
ピクセルサイズ:1μm×1μm
マッピングサイズ:400μm×400μm
測定時間:30m秒/ピクセル
測定元素:Si(シリコン)元素、N(窒素)元素、O(酸素)元素、Y(イットリウム)元素、Mg(マグネシウム)元素、Fe(鉄)元素、Cr(クロム)元素、P(リン)元素、V(バナジウム)元素、Ni(ニッケル)元素、C(炭素)元素
【0068】
実施例1~9のそれぞれに係るEPMAマッピングでは、Cr元素、P元素、V元素、Ni元素及びC元素が検出された。これに対して、比較例1~2及び参考例1のそれぞれに係るEPMAマッピングでは、Cr元素、P元素、V元素、Ni元素及びC元素はいずれも検出されなかった。EPMAマッピングにおける各元素の検出の有無は、次のようにして決定した。まず、EPMAマッピングにおいてSi元素の最大強度信号を2000として各元素の信号強度を規格化して、補正されたマッピングを得る。補正されたマッピングにおいて最大信号強度が10以上である元素は検出されたものとし、補正されたマッピングにおいて最大信号強度が10未満である元素は検出されなかったものとした。
【0069】
実施例1~9のそれぞれに係るEPMAマッピングでは、高濃度のFeが局在的に存在する領域(第1領域102a)が観測された。第1領域102aにおいて、鉄元素のEPMA信号強度は、シリコン元素のEPMA信号に対して、表1に示す比を有していた。実施例1~9のそれぞれについて、表1に示すEPMA信号強度比は、実施形態において説明した方法を用いて算出した。
【0070】
比較例1に係るEPMAマッピングでは、高濃度のFeが局在的に存在する領域(第1領域102aに相当する領域)は観測されなかった。鉄元素のEPMA信号強度は、シリコン元素のEPMA信号に対して、表1に示す比を有していた。比較例1について、表1に示すEPMA信号強度比は、実施形態において説明した方法を用いて算出した。
【0071】
比較例2及び参考例1のそれぞれに係るEPMAマッピングでは、第1領域102aに相当する領域は観測されなかった。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示す結果より、窒化ケイ素粉末が比較的多量の鉄不純物及びクロム不純物の少なくとも一方を含む場合、初期温度(1200℃)から焼成温度(1200℃超の温度)までの昇温速度が高くても、混合体(窒化ケイ素基板100)の密度が高くなるといえる。さらに、表1に示す結果より、窒化ケイ素粉末が比較的多量の鉄不純物及びクロム不純物の少なくとも一方を含み、かつ初期温度(1200℃)から焼成温度(1200℃超の温度)までの昇温速度が高い場合、第1領域102a(すなわち、鉄元素及びクロム元素の少なくとも一方が高濃度に存在する領域)が形成されるといえる。
【0074】
この出願は、2019年6月27日に出願された日本出願特願2019-119570号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0075】
100 窒化ケイ素基板
102 第1面
102a 第1領域
102b 第2領域
104 第2面
図1
図2
図3