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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】靴
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20240202BHJP
   A43B 1/04 20220101ALI20240202BHJP
   D04B 21/14 20060101ALI20240202BHJP
   D04B 21/20 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
A43B1/04 ZAB
D04B21/14 Z
D04B21/20 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021543888
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019034967
(87)【国際公開番号】W WO2021044577
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千早
(72)【発明者】
【氏名】上福元 史隆
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕彰
(72)【発明者】
【氏名】田平 義仁
【審査官】沖田 孝裕
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-057909(JP,U)
【文献】実公昭37-010118(JP,Y1)
【文献】特開平08-197660(JP,A)
【文献】実開昭54-065234(JP,U)
【文献】特表2013-502301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
A43B 1/04
D04B 21/14
D04B 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ッパーを備えた靴であって、
前記アッパーは、繊維シートを備え、
該繊維シートは、靴の外表面を構成する表層、該表層よりも内側に配された内層、及び、前記表層と前記内層との間に設けられた中間層を有し、
前記表層、前記内層、及び、前記中間層のそれぞれが繊維で構成され、
該繊維シートには、前記中間層が部分的にしか設けられておらず、該中間層によって前記表層と前記内層とが接続されている接続部と、前記中間層が設けられずに前記表層と前記内層とが接続されていない非接続部とが備えられ
前方から後方に向けて、順に前足部、中足部、及び、後足部を有し、
前記前足部での前記接続部に対する前記非接続部の面積割合が、前記中足部と前記後足部との両方に比べて高い靴
【請求項2】
前記前足部での前記接続部と前記非接続部との合計に占める前記非接続部の面積割合が25%以上95%以下である請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記靴が、前方から後方に向けて、順に前足部、中足部、及び、後足部を有し、
前記中足部では、
前記靴の前後方向での寸法に比べて前記靴の上下方向での寸法が大きな前記接続部の面積が、前記上下方向に比べて前記前後方向での寸法が大きい前記非接続部の面積に比べて大きい請求項1記載の靴。
【請求項4】
前記繊維シートが経編地であり、
前記表層が表糸で構成され、前記内層が裏糸で構成され、前記中間層が前記表糸と前記裏糸との両方に編み掛けられている中間糸によって構成されている請求項1乃至の何れか1項に記載の
【請求項5】
前記表層の少なくとも一部がモノフィラメント糸で構成されている請求項1乃至の何れか1項に記載の
【請求項6】
前記非接続部では、前記表層と前記内層と間に空間部が設けられており、
前記繊維シートとは別の部材が前記空間部に収容され
該部材が、バルーン、前記中間層よりも薄いシート体、硬化可能な液体の硬化物、及び、繊維材の何れかである請求項1乃至の何れか1項に記載の
【請求項7】
前記繊維シートでは前記接続部と前記非接続部とが視覚的に相違しており、
前記接続部もしくは前記非接続部の形状に対応した文字、又は、前記接続部もしくは前記非接続部の形状に対応した図形が表面に現れている請求項1乃至のいずれか1項に記載の
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴のアッパーと靴とに関する。
【背景技術】
【0002】
靴は、従来、ソールやアッパーなどによって構成されている。
従来のスポーツシューズなどにおいて、アッパーは、通常、繊維シートなどの複数の部材で構成されている。
この種のアッパーでは、立体的な形状にした際に靴型にフィットするように裁断された繊維シートが主要な構成部材になっている。
このような繊維シートがアッパーに備えられている事例として、下記特許文献1には、アッパーを構成する部材が編地である靴が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第 WO 2016/033051号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アッパーは、強度、通気性などといった機能面で所定の特性を有することが要望されるだけでなく見た目についても重要視されており、前記繊維シートとともに該繊維シートとは別の皮革シートなどの部材を備えている場合がある。
例えば、靴のアッパーにおいては、繊維シートに縫い付けた皮革シートによって表面に図形や文字が描かれたりしている。
【0005】
靴の外観上において特定の図形や文字などを表すために用いられる皮革シートは、通常、一枚の大きな原料シートを刃型で打ち抜く方法によって作製されている。
前記皮革シートは、原料シートから無駄なく打ち抜くことができる形状になっているとは限らない。
そのため、原料シートの内、靴の部材として有効利用されずに廃材となってしまう部分の割合は、十分低い状態にはなっていない。
また、靴におけるこのような目的での皮革シートの利用は、靴の製造工程における手間を増やす要因ともなり得る。
このため、数多くのデザインの靴を製造しようとすると、製造工程が複雑になったり、多くの廃材が排出されたりする場合がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、種類を増やしても製造工程が複雑になったり、廃材が多く排出されたりするおそれが低い靴を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、繊維シート自体に図形や文字などを容易に描く方法を提供することで、上記のような課題の解決が図られている。
【0008】
上記課題を解決すべく本発明は、
靴のアッパーであって、
繊維シートを備え、
該繊維シートは、靴の外表面を構成する表層、該表層よりも内側に配された内層、及び、前記表層と前記内層との間に設けられた中間層を有し、
前記表層、前記内層、及び、前記中間層のそれぞれが繊維で構成され、
該繊維シートには、前記中間層が部分的にしか設けられておらず、該中間層によって前記表層と前記内層とが接続されている接続部と、前記中間層が設けられずに前記表層と前記内層とが接続されていない非接続部とが備えられているアッパーを提供する。
【0009】
上記課題を解決すべく本発明は、上記のようなアッパーを備えた靴を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態のアッパーを備えた靴を示す概略斜視図である。
図2図2は、中足部におけるアッパーの断面の状態を示した概略図であり、図1におけるII-II線矢視断面図である。
図3図3は、前足部におけるアッパーの断面の状態を示した概略図であり、図1におけるIII-III線矢視断面図である。
図4図4は、図1とは別のアッパーを備えた靴を示す概略斜視図である。
図5図5は、中足部におけるアッパーの断面の状態を示した概略図であり、図4におけるV-V線矢視断面図である。
図6図6は、アッパー内に形成された空間部に別の部材(バルーン)を収容した様子を示す概略断面図である。
図7図7は、アッパー内に形成された空間部に別の部材(バルーン)を収容した様子を示す概略断面図である。
図8図8は、アッパー内に形成された空間部に別の部材(シート)を収容した様子を示す概略断面図である。
図9図9は、アッパー内に形成された空間部に別の部材(硬化物)を収容した様子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態の一例について、図を参照しつつ説明する。
また、以下においては、スニーカーを例にして本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の靴を示したものである。
尚、以下において図1に示した靴1について説明する際に、踵の中心HCと爪先の中心TCとを結ぶシューセンター軸CXに沿った方向のことを長さ方向Xと称することがある。
また、シューセンター軸CXに沿った方向の内、踵から爪先に向けた方向X1を前方などと称し、爪先から踵に向けた方向X2を後方などと称することがある。
さらに、シューセンター軸CXに直交する方向の内、水平面HPに平行する方向を幅方向Yと称することがある。
この幅方向Yの内、足の第1指側に向けた方向Y1を内足方向などと称し、第5指側に向けた方向Y2を外足方向などと称することがある。
そして、水平面HPに直交する垂直方向Zを厚さ方向や高さ方向と称することがある。
さらに、以下においては、この垂直方向Zにおいて上方に向かう方向Z1を上方向と称し、下方に向かう方向Z2を下方向と称することがある。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の靴1は、アッパー2と靴底3とを有している。
前記靴底3は、ミッドソール31とアウトソール32とを有している。
本実施形態の靴1は、最も下方にアウトソール32を備えている。
本実施形態のアウトソール32は、たとえばシート状であり、厚さ方向が垂直方向Zとなるように靴1の最下部に配されている。
前記靴1は、着用者の足を上側から覆うアッパー2と前記アウトソール32との間にミッドソール31を備えている。
図1に示すように、本実施形態の靴1は、シュータン4とシューレース5とをさらに備えている。
【0014】
本実施形態のアッパー2は、前記シュータン4の幅方向両端部の上に重なり合う部分に複数のレースホール2hを有している。
本実施形態のアッパー2は、繊維シート21を備えている。
本実施形態の前記繊維シート21は、靴型(図示せず)の外表面に沿う立体的な形状となって前記靴底3の上側に設けられている。
【0015】
本実施形態の前記アッパー2は、前記繊維シート21以外に別の部材を備えていてもよい。
本実施形態の前記アッパー2は、天然皮革や人工皮革などによって構成された皮革シート22を備えていてもよい。
本実施形態の前記アッパー2は、前記レースホール2hの設けられた箇所に前記皮革シート22が配されている。
本実施形態における前記皮革シート22は、前記繊維シート21の外側に重ね合わされた状態で前記繊維シート21に接合されている。
【0016】
前記繊維シート21は、編地であってもよく、織地であってもよい。
前記繊維シート21は、不織布であってもよい。
【0017】
前記繊維シート21が編地である場合、その編み方は、経編であってもよく、緯編であってもよい。
即ち、前記繊維シート21は、経編地であっても緯編地であってもよい。
前記繊維シート21が経編地である場合、その編み方は、トリコットであっても、ラッセルであっても、ミラニーズであってもよい。
前記繊維シート21が緯編地である場合、その編み方は、平編であっても、リブ編であっても、両面編であっても、パール編であってもよい。
【0018】
前記繊維シート21が織地である場合、その織り方は、平織であっても、朱子織であっても、綾織であってもよい。
【0019】
前記繊維シート21が不織布である場合、該繊維シート21は、スパンボンド不織布であっても、メルトブロー不織布であってもよい。
前記繊維シート21は、サーマルボンド不織布であっても、ケミカルボンド不織布であっても、スパンレース不織布であってもよい。
前記繊維シート21は、ニードルパンチ不織布であっても、スパンレース不織布であっても、ステッチボンド不織布であってもよい。
【0020】
前記繊維シートの素材となる繊維は、特にその種類が限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、共重合ポリエステルなど)、ポリアミド(脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドなど)、フロロカーボンポリマー(ポリテトラフロロエチレン、テトラフロロエチレン-パーフロロアルキルエーテルコポリマー、ポリフッ化ビニリデンなど)の合成樹脂繊維などが挙げられる。
前記繊維は、綿、麻、竹、羊毛、絹、ロックウールなどの天然繊維で構成されていてもよい。
前記繊維は、キュプラ、レーヨンなどの再生繊維であっても、アセテートなどの半合成繊維であってもよい。
前記繊維は、スチールウールなどの金属繊維であってもよい。
【0021】
前記繊維は、単一構造である必要はなく、例えば、芯鞘構造を有するものであっても、サイドバイサイド構造を有するものであっても、多芯構造を有するものであってもよい。
【0022】
本実施形態での前記繊維の太さは、特に限定されない。
本実施形態での前記繊維の太さは、例えば、0.5dtex以上50dtex以下とされ得る。
前記繊維シート21は、太さや材質の異なる2以上の繊維を含んでいてもよい。
【0023】
前記繊維シート21は、短繊維で構成されていても連続繊維で構成されていてもよく、短繊維と連続繊維とが併用されたものであってもよい。
【0024】
前記繊維シート21は、スパン糸で構成されていても、フィラメント糸で構成されていてもよく、スパン糸とフィラメント糸とが併用されていてもよい。
前記フィラメント糸は、捲縮糸などの嵩高加工糸であってもよい。
前記フィラメント糸は、モノフィラメント糸であってもよく、マルチフィラメント糸であってもよい。
前記マルチフィラメント糸は、フィラメントを引き揃えただけの引き揃え糸であっても、撚りが加わった撚糸であってもよい。
【0025】
前記撚糸は、拠り数が500回/m未満の甘撚糸であっても、拠り数が500回/m以上1000回/m未満の中撚糸であっても、拠り数が1000回/m以上2500回/m未満の強撚糸であっても、拠り数が2500回/m以上の超強撚糸であってもよい。
【0026】
本実施形態で前記スパン糸や前記フィラメント糸が用いられる場合、その総繊度は、特に限定されない。
前記総繊度は、例えば、100dtex以上10000dtex以下とされ得る。
【0027】
本実施形態の前記繊維シート21は、図2図3に示されているように、靴1の外表面を構成する表層211、該表層211よりも内側に配された内層213、及び、前記表層211と前記内層213との間に設けられた中間層212とを含む少なくとも3層の積層構造を有している。
【0028】
前記表層211、前記内層213、及び、前記中間層212のそれぞれは、前記のような繊維で構成されている。
前記表層211、前記中間層212、及び、前記内層213のそれぞれは、厚さや繊維の密度などが異なっていてもよく、それぞれが異なる繊維で構成されていてもよい。
例えば、本実施形態における前記繊維シート21は、前記表層211、前記中間層212、及び、前記内層213の内の1つがマルチフィラメント糸、又は、スパン糸で構成され、別の1つがモノフィラメント糸で構成されてもよい。
本実施形態における前記繊維シート21は、例えば、1mm以上8mm以下の厚さとされ得る。
前記表層211、前記中間層212、及び、前記内層213のそれぞれは、通常、0.5mm以上4mm以下の厚さとなるように形成されてもよい。
【0029】
本実施形態の前記繊維シート21では、前記表層211の面積と前記内層213の面積とが概ね共通しているが、前記中間層212の面積は、前記表層211や前記内層213に比べて小さい。
即ち、本実施形態の前記繊維シート21では、前記中間層212が部分的にしか設けられていない。
本実施形態の前記繊維シート21は、前記中間層212によって前記表層211と前記内層213とが接続されている接続部21aと、前記中間層212が設けられずに前記表層211と前記内層213とが接続されていない非接続部21bとが備えられている。
【0030】
本実施形態での前記非接続部21bでは、前記表層211と前記内層213との間に前記中間層212の厚さに相当する距離が設けられている。
即ち、前記非接続部21bでは、内部に空間部210が形成されている。
【0031】
本実施形態の前記繊維シート21には、前記接続部21aと前記非接続部21bとがそれぞれ複数箇所に分散して設けられている。
前記接続部21aの内の1つは、前記繊維シート21の全体に亘って連なるように広がっており、該接続部21aによって包囲された複数の前記非接続部21bが前記繊維シート21に散在している。
本実施形態では、該非接続部21bの内の少なくとも一つの内側に複数の小さな接続部21aが散在していてもよい。
【0032】
本実施形態の前記繊維シート21では、前記接続部21aにおいて高い強度が発揮される。
本実施形態の前記繊維シート21では、前記非接続部21bにおいて優れた柔軟性が発揮される。
前記非接続部21bは、通気性においても優れている。
【0033】
本実施形態の前記繊維シート21は、靴1の前足部11、中足部12、及び、後足部13のそれぞれにおいて相対的に面積の大きな非接続部21bを有している。
尚、前足部11、中足部12、及び、後足部13とは、土踏まずの形成されている区間とその前後の区間とに靴1を長さ方向Xにおいて3分割した際の各部位に該当する。
即ち、本実施形態の靴1は、前方から後方に向けて、順に前足部11、中足部12、及び、後足部13を備えている。
【0034】
前記非接続部21bは、後述するように前記繊維シート21とは別の部材を収容し得る。
本実施形態のアッパー2では、このような別の部材によって強度やデザインの調整が可能になる。
その一方で、靴の製造工程を簡略化したり靴を軽量化したりする上では、このような部材に頼ることなく、前記繊維シート21によって所望の特性が発揮されることが好ましい。
具体的には、本実施形態のアッパー2では、前記後足部13での前記非接続部21bに対する前記接続部21aの面積割合が大きいことが好ましい。
一般的に靴のアッパーには、後足部において優れた剛性を発揮することが要望される。
上記のような好ましい態様によれば、このような要望が満足され得る。
【0035】
前記中足部12では、靴の前後方向での寸法に比べて靴の上下方向での寸法が大きな前記接続部の面積が、前記上下方向に比べて前記前後方向での寸法が大きい前記非接続部の面積に比べて大きいことが好ましい。
一般的に靴のアッパーには、中足部において上下方向への伸長に対して高い応力を発揮することが要望される。
上記のような好ましい態様によれば、このような要望が満足され得る。
上下方向での寸法が大きな前記接続部21aは、靴1の内足側と外足側との少なくとも一方において複数形成されていることが好ましい。
特に、本実施形態の靴1は、上下方向に長く伸びた形状となった前記接続部21aと前記非接続部21bとが前記中足部12の爪先側から踵側にかけて交互に並んだ状態になっていることが好ましい。
言い換えると、本実施形態の前記アッパー2は、上下方向に長く伸びた形状を有する前記接続部21aと上下方向に長く伸びた形状を有する前記非接続部21bとが隣り合っている状態が一組又は爪先側から踵側にかけて複数組並んでいることが好ましい。
【0036】
本実施形態の前記前足部11では、前記接続部21aに対する前記非接続部21bの面積割合が前記中足部12と前記後足部13との両方に比べて高いことが好ましい。
一般的に靴のアッパーには、前足部において高い通気性を有することが要望される。
上記のような好ましい態様によれば、このような要望が満足され得る。
特に、本実施形態の靴1は、前記前足部11において、前記接続部21aと前記非接続部21bとの合計面積に対する前記非接続部21bの面積割合が、25%以上であることが好ましい。
前記面積割合は、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましい。
但し、過度に非接続部21bを形成させると十分な強度が発揮され難くなるため、前記面積割合は、95%以下であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の前記表層211は、先述の通り繊維で構成されている。
該繊維は、糸の状態で前記表層211を構成し得る。
本実施形態での前記表層211は、繊維で構成されているため、繊維どうしの間や糸どうしの間に光の通る隙間が形成されている。
即ち、本実施形態のアッパー2では、前記表層211の前記隙間を通じて前記中間層212の様子が外側から確認できるようになっている。
前記非接続部21bは、前記中間層212が設けられていないため、表側から見たときに前記表層211を通じて前記内層213を視認し易い状態になっている。
従って、本実施形態の前記繊維シート21は、前記接続部21aと前記非接続部21bとが視覚的に異なった状態になり、これらの形状を変更することによって文字や図形などを自由に表現することができる。
【0038】
前記接続部21aでの中間層212の様子や、前記非接続部21bでの内層213の様子は、表層211に形成される前記隙間の大きさが大きいほど確認し易くなる。
従って、前記表層211は、ある程度の太さの糸で構成されていることが好ましい。
本実施形態の前記繊維シート21は、前記表層211が表糸2111によって構成されている。
内側の様子が確認し易くなる点において、前記表層211の少なくとも一部は、モノフィラメント糸で構成されていることが好ましい。
即ち、本実施形態においては、前記表糸2111の一部又は全部がモノフィラメント糸であることが好ましい。
上記のような効果をより顕著に発揮させる上において、前記モノフィラメント糸は、前記表糸2111の10質量%以上を占めることが好ましく、25質量%以上を占めることがより好ましく、50質量%以上を占めることがさらに好ましい。
中間層212や内層213の様子がより確認し易くなる上で、前記モノフィラメント糸は、無色透明であることが好ましい。
即ち、前記モノフィラメント糸は、顔料やフィラーを含有しないナチュラルカラーの合成樹脂製であることが好ましく、ポリエステルモノフィラメント、ポリアミドモノフィラメント、フロロカーボンモノフィラメントなどであることが好ましい。
【0039】
中間層212や内層213の様子がより確認し易くなるように、例えば、本実施形態の繊維シート21には、図4図5に示すような貫通孔211hを設けてもよい。
即ち、本実施形態の繊維シート21は、前記接続部21aと前記非接続部21bとの内の一方又は両方において前記表層211を貫通する貫通孔211hを形成させてもよい。
【0040】
本実施形態の前記繊維シート21は、単一の編地であることが好ましく、該編地の厚さ方向に前記表層211、前記中間層212及び前記内層213となる部位が設けられていることが好ましい。
前記繊維シート21は、経編地であることがより好ましい。
前記経編地では、通常、前記表層211が表糸2111で構成され、前記内層213が裏糸2131で構成され、前記中間層212が前記表糸2111と前記裏糸2131との両方に編み掛けられている中間糸2121によって構成され、前記中間層212を比較的厚く形成することが容易である。
そのため、前記経編地では、前記表層211と前記内層213との間に比較的広い空間部210を形成させ易い。
前記経編地では、前記貫通孔211hなども容易に形成することができる。
【0041】
本実施形態の前記繊維シート21は、前記表層211と前記内層213と間に設けられている前記空間部210に当該繊維シート21とは別の部材を収容させてもよい。
該部材は、前記表層211と前記内層213との一方又は両方に接着した状態で前記空間部210に収容されてもよい。
【0042】
前記部材は、繊維シート21に全く接着されない状態で前記空間部210に収容されてもよい。
その場合、収容する前記部材を前記空間部210の内部で移動可能な状態にすべく、該部材を前記非接続部21bの面積に比べて小さなものにしてもよい。
該部材の大きさ(面積)は、例えば、前記非接続部21bの面積の80%以下とすることができる。
前記部材の大きさは、前記非接続部21bの面積の50%以下であってもよい。
前記空間部210は、複数の部材を収容してもよい。
【0043】
前記繊維シート21に第1の非接続部21b(第1の空間部210)と第2の非接続部21b(第2の空間部210)とを含む複数の非接続部21b(空間部210)が形成されている場合、第1の空間部210に収容する第1の部材と第2の空間部210に収容する第2の部材とは、素材や大きさが同じであっても異なっていてもよい。
【0044】
前記空間部210に収容する前記部材としては、例えば、図6に示すように、中空状のバルーンP1であってもよい。
透明なフィルムで構成された中空状のバルーンP1を前記空間部210に収容させると、前記接続部21aと前記非接続部21bとの間に光透過性の違いがより顕著になり得る。
【0045】
前記バルーンP1の内部には、気体が収容されても液体が収容されてもよく、粉体が収容されていてもよい。
前記繊維シート21は、前記バルーンP1が当該繊維シート21とは異なる色合いとされ、前記接続部21aと前記非接続部21bとの見た目の違いがより顕著になっていてもよい。
この場合、前記バルーンP1に色付けしてもよく、該バルーンP1を透明にして内部に色のついた液体を収容してもよい。
【0046】
前記バルーンP1は、例えば、アルミラミネートフィルムのような光反射性に優れた素材で形成されてもよい。
即ち、前記バルーンP1と前記繊維シート21とのデザイン性の相違は、これらの色合いによって表現されても、光反射性(光沢)の違いによって発現されてもよい。
【0047】
前記バルーンP1が収容されている非接続部21bの表層211に前記貫通孔211hを形成させることで、当該貫通孔211hを通じて前記繊維シート21とはデザイン性の異なるバルーンP1をアッパー2の外側から直接見ることができるようになる。
【0048】
前記バルーンP1をゴム製にするなどすれば、前記空間部210に収容する部材に体積変化を生じさせることができる。
体積変化が可能な部材が前記空間部210に収容される場合、例えば、図7に示すように、当該バルーンP1を前記中間層212の厚さ以上にして、前記非接続部21bを外向きに膨らませることもできる。
【0049】
前記空間部210に収容する前記部材としては、例えば、図8に示すように、前記中間層212の厚さよりも薄いシートP2であってもよい。
該シートP2は、図形や文字などが描かれていてもよい。
この場合、前記シートP2に繊維シート21とは異なるデザインが施されていると、前記接続部21aと前記非接続部21bとの見た目の違いがより明確になる。
また、内側に前記シートP2が収容されている非接続部21bにおいても表層211に貫通孔211hを設けてもよい。
【0050】
前記空間部210は、例えば、図9に示すように、液体を硬化させた硬化物P3が前記部材として収容されていてもよい。
この場合、硬化可能な液体を空間部210に導入した後で当該液体を硬化させると、前記液体の一部が前記表層211や前記内層213に含浸して硬化し、前記硬化物P3が強固に保持され得る。
【0051】
前記液体は、金属フレークのような光反射性の粉末を含んでいてもよい。
前記硬化物が透明である場合、内部における前記粉末の光反射性を前記接続部21aと前記非接続部21bとの見た目の違いに有効利用することができる。
【0052】
前記液体は、ウレタンフォームの原液のような発泡性のものであってもよい。
即ち、前記硬化物P3は、発泡体であってもよい。
この場合、前記非接続部21bを前記硬化物P3(発泡体)によって外側に膨らんだ状態にすることができる。
【0053】
前記硬化物P3は、バルーンP1やシートP2と同様に繊維シート21とは異なるデザインとすることでアッパー2のデザインに利用することができる。
前記硬化物P3は、アッパー2の補強にも有効である。
例えば、後足部13に前記非接続部21bを設け、該非接続部21bを足の踵を覆うように配置し、該非接続部21bに前記硬化物P3を設けると、該硬化物P3がヒールカウンターとしての機能を発揮する。
この場合、非接続部21bは、踵の内足側、外足側、及び、後方の3方から覆うように設けられることが好ましい。
前記非接続部21bは、靴底3に接するように設けられることが好ましい。
【0054】
前記空間部210に収容する部材は、上記例示以外のものであってもよい。
例えば、前記空間部210には、糸やコットンのような繊維材を充填してもよい。
自然状態における前記空間部210の容積に対して該繊維材を過充填すれば、前記バルーンP1と同様に前記非接続部21bを外向きに膨らませることができる。
また、前記空間部210に収容する前記繊維材は、各種の色合いに着色されていてもよい。
【0055】
本実施形態の繊維シート21は、このような部材を前記空間部210に設けるのに代えて、該空間部210に面している前記内層213の表面に着色や図形の描画などを施してもよい。
【0056】
従来のアッパーでは、図形や文字などを描くために、所定の形状に外形加工された皮革シートが繊維シートに取り付けられたりしている。
本実施形態の靴1では、前記接続部21aや前記非接続部21bを特定の形状にすることでアッパー2の形成に用いられる繊維シート自体に文字や図形などが描かれるため皮革シートなどの使用数を従来の靴に比べて減少させることができる。
【0057】
靴のアッパーの構成部材とされる皮革シートは、通常、この皮革シートよりも面積が大きく皮革シートを数個~数十個採取可能な大きさを有する原料シートから採取される。
デザインの異なる多くの種類の靴を作製しようとした場合、色や材質の異なる原料シートを用意し、それぞれから所定の形状の皮革シートを採取することになる。
皮革シートなどを用いなくてもアッパーに様々な図形や文字を表示させることが容易な本実施形態の靴1は、このような従来の靴に比べて製造するのに手間がかからない。
また、本実施形態の靴1は、製造に際して皮革シートを採取した後の残りの原料シートが廃材となってしまうことが抑制されるため、省資源の観点においても優れている。
【0058】
尚、上記はアッパーや靴に関する本発明の一部の事例を示したものであり、本発明は上記例示に限定されるものではない。
例えば、上記ではアッパーに備えられた繊維シートが、表層、中間層、及び、内層の3層である場合を例示しているが、本発明のアッパーは、前記内層のさらに内側に別の層を有していてもよい。
また、このような事項以外についても、本発明は上記例示に各種の変更が加えられ得る。
即ち、本発明では、その効果が著しく損なわれない範囲において、靴やアッパーに関して従来公知の技術事項を広く採用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:靴、2:アッパー、3:靴底、4:シュータン、5:シューレース、21:繊維シート、21a:接続部、21b:非接続部、22:皮革シート、31:ミッドソール、32:アウトソール、211:表層、212:中間層、213:内層、2111:表糸、2121:中間糸、2131:裏糸

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9