(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター、核酸、その発現細胞、その用途及び癌治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240202BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240202BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240202BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240202BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240202BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240202BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240202BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240202BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240202BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/62 Z ZNA
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/12
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2022116679
(22)【出願日】2022-07-21
【審査請求日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522292688
【氏名又は名称】エバー シュプリーム バイオ テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周徳陽
(72)【発明者】
【氏名】邱紹智
(72)【発明者】
【氏名】黄士維
(72)【発明者】
【氏名】潘志明
(72)【発明者】
【氏名】セン佳穎
(72)【発明者】
【氏名】陳美智
(72)【発明者】
【氏名】林育全
(72)【発明者】
【氏名】呉仲峻
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-065219(JP,A)
【文献】国際公開第2020/043899(WO,A1)
【文献】特表2020-516276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体と、
前記HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体のC端に接続される二重特異性T細胞アダプターと、
をN端からC端まで順に備え、
前記HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体は、ヒト白血球抗原G(human
leukocyte antigen G;HLA-G)と特異的結合され、アミノ酸配列が配列番号:1及び/又は配列番号:2に示す少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体を含むHLA-G単一ドメイン抗体ユニットと、アミノ酸配列
が配列番号:29に示す膜貫通ドメインと、アミノ酸配列が配列番号:25に示すCD3zシグナル伝達ドメインと、を含有し、
前記二重特異性T細胞アダプターは、プログラム細胞死リガンド1(programmed death-ligand 1;PD-L1)と特異的結合され、アミノ酸配列が配列番号:5及び/又は配列番号:6に示す少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体を含むPD-L1単一ドメイン抗体ユニットと、CD3e分子と特異的結合され、アミノ酸配列が配列番号:9に示すCD3e単一ドメイン抗体と、を含有する多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項2】
前記HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体のN端に接続され、且つアミノ酸配列が配列番号:11に示す第1のシグナルペプチドを更に含む請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項3】
前記HLA-G単一ドメイン抗体ユニット及び前記膜貫通ドメインをタンデムで接続するCD8ヒンジ領域を更に含む請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項4】
前記HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及び前記二重特異性T細胞アダプターをタンデムで接続するP2Aペプチドを更に含む請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項5】
前記二重特異性T細胞アダプターのN端に接続され、且つアミノ酸配列が配列番号:15に示す第2のシグナルペプチドを更に含む請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項6】
前記HLA-G単一ドメイン抗体ユニットは、HLA-GとHLA-G受容体との相互作用及び/又は結合をブロックする請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項7】
前記HLA-G受容体は、KIR2DL4及び/又はLILRB1である請求項6に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項8】
前記PD-L1単一ドメイン抗体ユニットは、PD-L1とPD-L1受容体の相互作用及び/又は結合をブロックする請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項9】
前記PD-L1受容体は、プログラム細胞死タンパク質-1(programmed cell death protein-1;PD-1)である請求項8に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項10】
前記CD3e単一ドメイン抗体は、T細胞を活性化させ、及び/又は動員する請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター。
【請求項11】
請求項1に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターをコードする核酸であって、
HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片と、
前記HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片の3’端に接続される二重特異性T細胞アダプターをコードする断片と、
を5’端から3’端まで順に備え、
前記HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片は、
ヌクレオチド配列が配列番号:3及び/又は配列番号:4に示す少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体をコードする断片を含むHLA-G単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片と、ヌクレオチド配列
が配列番号:30に示す膜貫通ドメインをコードする断片と、ヌクレオチド配列が配列番号:26に示すCD3zシグナル伝達ドメインをコードする断片と、を含有し、
前記二重特異性T細胞アダプターをコードする断片は、
ヌクレオチド配列が配列番号:7及び/又は配列番号:8に示す少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体をコードする断片を含むPD-L1単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片と、ヌクレオチド配列が配列番号:10に示すCD3e単一ドメイン抗体をコードする断片と、を含有する核酸。
【請求項12】
免疫細胞と、
請求項11に記載の核酸と、
を備える多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞であって、
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、前記核酸を前記免疫細胞へトランスフェクトして得られるものである多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞。
【請求項13】
前記免疫細胞は、ナチュラルキラー細胞又はγδT細胞である請求項12に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞。
【請求項14】
請求項12に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞と、
医薬的に許容される担体と、
を含む癌治療用の医薬組成物。
【請求項15】
哺乳動物の腫瘍細胞死を誘発する薬物の調製に
おける請求項12に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原又は抗体を含む医薬製品に関し、特に、多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター、核酸、その発現細胞、癌治療用の医薬組成物及び多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の腫瘍治療法としては、手術療法、放射線療法、化学療法、及び標的療法を含む。腫瘍免疫療法は、上記の治療法とは別の腫瘍治療法であり、患者自体の免疫系を活性化させ、腫瘍細胞又は腫瘍抗原物質によって人体の特異な細胞性免疫及び体液性免疫応答を誘導し、人体の抗癌能力を高め、腫瘍の成長、拡大、再発を阻止することで、腫瘍を除去又は制御する。
【0003】
近年、免疫系の癌治療での役割がますます注目されており、現在、主な腫瘍免疫療法には、免疫チェックポイントの活性化をブロックすることで腫瘍細胞に対する自己T細胞の攻撃力を回復する免疫チェックポイント阻害療法と、T細胞に対する遺伝子組み換えによって腫瘍細胞に対する抗原認識及び殺傷能力を高めるキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)という2つのタイプが含まれる。また、二重特異性T細胞アダプター(bispecific T cell engager;BiTE)という別の新規な免疫療法も注目され、BiTEは、2種類のモノクローナル抗体の単鎖可変領域断片(single-chain fragment variables;scFvs)からなる抗体分子であり、標的細胞の表面の抗原及びT細胞の表面のCD3分子をそれぞれ特異的に認識できる2つの分子フックを有するため、T細胞を活性化させると同時に癌細胞を認識することができる。
【0004】
腫瘍は、その存在形態によって、固形腫瘍及び非固形腫瘍に分けられる。固形腫瘍は、常に臨床的に明確な固まりを有し、主に手術を主とする複合療法が適用される。非固形腫瘍は、殆ど血液悪性腫瘍であり、一般的に明確な固まりが発現されず、化学療法を主要とする。現在、臨床的に適用されるCAR免疫細胞及びBiTE腫瘍免疫療法は、血液悪性腫瘍の治療において効果的であるが、固形腫瘍への作用が限られており、腫瘍関連の標的タンパク質の選択が治療効果にとって非常に肝心であるので、CAR免疫細胞又はBiTEの固形腫瘍での治療効果を如何に高めるかは、研究する価値のある課題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター、核酸、多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞、その用途及び癌治療用の医薬組成物を提供することにある。前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターは、腫瘍細胞への優れた特異的結合能力を持つHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体と、T細胞表面のCD3分子及び腫瘍細胞表面のPD-L1を特異的に認識できる二重特異性T細胞アダプターと、を含む。前記核酸は、前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターをコードする。前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、前記核酸を含み、前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを発現し、腫瘍細胞を特異的に標的とすることができ、オフターゲット効果を回避し、同時にT細胞を活性化させ、免疫チェックポイントの活性化をブロックすることができ、更に効果的に腫瘍細胞を殺して、哺乳動物の腫瘍細胞死を誘発する薬物の調製に用いられる。前記癌治療用の医薬組成物は、前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞を含み、効果的に腫瘍細胞を殺して癌を治療することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の一実施形態は、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体と、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体のC端に接続される二重特異性T細胞アダプターと、をN端からC端まで順に備え、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体は、ヒト白血球抗原G(human leukocyte antigen G;HLA-G)と特異的結合され、アミノ酸配列が配列番号:1及び/又は配列番号:2に示す少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体を含むHLA-G単一ドメイン抗体ユニットと、アミノ酸配列が配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23又は配列番号:29に示す膜貫通ドメインと、アミノ酸配列が配列番号:25に示すCD3zシグナル伝達ドメインと、を含有し、二重特異性T細胞アダプターは、プログラム細胞死リガンド1(programmed death-ligand 1;PD-L1)と特異的結合され、アミノ酸配列が配列番号:5及び/又は配列番号:6に示す少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体を含むPD-L1単一ドメイン抗体ユニットと、CD3e分子と特異的結合され、アミノ酸配列が配列番号:9に示すCD3e単一ドメイン抗体と、を含有する多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを提供する。
【0007】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体のN端に接続され、且つアミノ酸配列が配列番号:11に示す第1のシグナルペプチドを更に含んでよい。
【0008】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、HLA-G単一ドメイン抗体ユニット及び膜貫通ドメインをタンデムで接続するCD8ヒンジ領域を更に含んでよい。
【0009】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及び二重特異性T細胞アダプターをタンデムで接続するP2Aペプチドを更に含んでよい。
【0010】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、二重特異性T細胞アダプターのN端に接続され、且つアミノ酸配列が配列番号:15に示す第2のシグナルペプチドを更に含んでよい。
【0011】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、HLA-G単一ドメイン抗体ユニットは、HLA-GとHLA-G受容体との相互作用及び/又は結合をブロックすることができる。
【0012】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、HLA-G受容体は、KIR2DL4及び/又はLILRB1であってよい。
【0013】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、PD-L1単一ドメイン抗体ユニットは、PD-L1とPD-L1受容体の相互作用及び/又は結合をブロックすることができる。
【0014】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、PD-L1受容体は、プログラム細胞死タンパク質-1(programmed cell death protein-1;PD-1)であってよい。
【0015】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターによれば、CD3e単一ドメイン抗体は、T細胞を活性化させ、及び/又は動員することができる。
【0016】
本発明の一態様の別の実施形態は、前文に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターをコードする核酸であって、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片と、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片の3’端に接続される二重特異性T細胞アダプターをコードする断片と、を5’端から3’端まで順に備え、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片は、ヌクレオチド配列が配列番号:3及び/又は配列番号:4に示す少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体をコードする断片を含むHLA-G単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片と、ヌクレオチド配列が配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24又は配列番号:30に示す膜貫通ドメインをコードする断片と、ヌクレオチド配列が配列番号:26に示すCD3zシグナル伝達ドメインをコードする断片と、を含有し、二重特異性T細胞アダプターをコードする断片は、ヌクレオチド配列が配列番号:7及び/又は配列番号:8に示す少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体をコードする断片を含むPD-L1単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片と、ヌクレオチド配列が配列番号:10に示すCD3e単一ドメイン抗体をコードする断片と、を含有する核酸を提供する。
【0017】
本発明の一態様のまた他の実施形態は、免疫細胞と、前文に記載の核酸と、を備える多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞であって、多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、前記核酸を前記免疫細胞へトランスフェクトして得られるものである多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞を提供する。
【0018】
前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞によれば、免疫細胞は、ナチュラルキラー細胞又はγδT細胞であってよい。
【0019】
本発明の一態様のまた他の実施形態は、前文に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞と、医薬的に許容される担体と、を含む癌治療用の医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明の別の態様の一実施形態は、哺乳動物の腫瘍細胞死を誘発する薬物の調製に用いられる前文に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞の用途を提供する。
【0021】
上記の発明の内容は、読者に本開示内容を基本的に理解させるように、本開示内容の簡略化された概要を提供する。この発明の内容は、本開示内容の完全な概説ではなく、また本発明実施例の重要な/肝心な素子を指摘し、又は本発明の範囲を限定するものではない。
【0022】
本発明の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより分かりやすくするために、添付図面の説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの構造及び作用機序を示す模式図である。
【
図3A】本発明のHLA-G単一ドメイン抗体の結合親和性を示す分析結果図である。
【
図3B】本発明のHLA-G単一ドメイン抗体の結合親和性を示す分析結果図である。
【
図4】本発明のHLA-G単一ドメイン抗体のLILRB1ブロック活性を示す分析結果図である。
【
図5】本発明のHLA-G単一ドメイン抗体のKIR2DL4ブロック活性を示す分析結果図である。
【
図6A】本発明のHLA-G単一ドメイン抗体によるナチュラルキラー(NK)細胞が媒介する細胞毒性の増強がMDA-MB-231細胞に及ぼす影響を示す分析結果図である。
【
図6B】本発明のHLA-G単一ドメイン抗体によるナチュラルキラー(NK)細胞が媒介する細胞毒性の増強がMDA-MB-231細胞に及ぼす影響を示す分析結果図である。
【
図7】本発明のPD-L1単一ドメイン抗体のPD-L1/PD-1バイオブロッキング活性を示す分析結果図である。
【
図8A】本発明のPD-L1単一ドメイン抗体の結合親和性を示す分析結果図である。
【
図8B】本発明のPD-L1単一ドメイン抗体の結合親和性を示す分析結果図である。
【
図9】本発明のPD-L1単一ドメイン抗体によるγδT細胞が媒介する細胞毒性の増強がMDA-MB-231細胞に及ぼす影響を示す分析結果図である。
【
図10】本発明のCD3e単一ドメイン抗体による末梢血単核細胞(PBMC)及びγδT細胞におけるCD3
+T細胞増殖への影響を示す分析結果図である。
【
図11】本発明の核酸及び比較例の核酸の構築を示す模式図である。
【
図12A】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞がHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体を発現する分析結果図である。
【
図12B】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞がHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体を発現する分析結果図である。
【
図13A】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図13B】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図14A】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図14B】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図15A】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図15B】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図16A】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図16B】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図17】本発明の実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
【
図18】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを分泌する作用機序を示す模式図である。
【
図19】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が二重特異性T細胞アダプターを分泌する分析結果図である。
【
図20A】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞の条件培地でのPBMCによって誘発される細胞毒性に対する増強による多形神経膠芽腫細胞への影響を示す分析結果図である。
【
図20B】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞の条件培地でのPBMCによって誘発される細胞毒性に対する増強による多形神経膠芽腫細胞への影響を示す分析結果図である。
【
図20C】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞の条件培地でのPBMCによって誘発される細胞毒性に対する増強による多形神経膠芽腫細胞への影響を示す分析結果図である。
【
図21A】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による動物介在療法の試験策略を示す模式図である。
【
図21B】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍マウスの腫瘍成長阻害への影響を示す分析結果図である。
【
図21C】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍マウスの腫瘍成長阻害への影響を示す分析結果図である。
【
図21D】本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍マウスの腫瘍成長阻害への影響を示す分析結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書の開示内容は、多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター、前記多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターをコードする核酸、前記核酸を含む多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞、その用途及び多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞をを含む癌治療用の医薬組成物を提出する。明細書は、腫瘍細胞の細胞試験により、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターが腫瘍細胞に対する免疫細胞の細胞毒性を増強できるため、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを発現する多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞に、腫瘍細胞に対する優れた特異的溶解能力を持たせることができることが証明された。明細書において動物試験により、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が優れた腫瘍成長阻害効果を持ち、哺乳動物の腫瘍細胞死を誘発する薬物の調製に用いられることが証明された。前記本発明の癌治療用の医薬組成物は、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞を含み、効果的に腫瘍細胞を殺して癌を治療することができる。
【0025】
本明細書に記載の「単一ドメイン抗体(single domain antibody;sdAb)」とは、抗体の軽鎖が欠失し、重鎖の可変領域のみが存在する抗体の一種を指す。インタクトな抗体には2つの免疫グロブリン軽鎖と2つの重鎖が含まれているため、インタクトな抗体の分子量は約150-160kDaである。対照的に、単一ドメイン抗体の分子量が約12-15kDaだけであり、単一ドメイン抗体の分子量が小さいため、ナノボディ抗体(nanobody)とも呼ばれる。単一ドメイン抗体は、構造が簡単であるが、依然としてインタクトな抗体と同じひいてはインタクトな抗体よりも高い特異的抗原結合親和性を実現することができる。
【0026】
本明細書に記載の「ヒト白血球抗原G(human leukocyte antigen G;HLA-G)」は、HLA-G遺伝子によってコードされ、非典型的な第1類の主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex;MHC)であり、重鎖が約45kDaである。HLA-Gは、胎児由来の胎盤細胞に発現し、免疫応答の負の調節に非常に積極的であり、その主な役割は細胞毒性免疫細胞の機能を阻害することである。
【0027】
本明細書に記載の「プログラム細胞死リガンド1(programmed death-ligand 1;PD-L1)」は、サイズが40kDaの第1型の膜貫通タンパク質であり、CD274遺伝子によってコードされ、その受容体-プログラム細胞死タンパク質-1(programmed cell death protein-1;PD-1)と結合できる。現在、研究からわかるように、腫瘍細胞表面のPD-L1の発現の増加は、免疫細胞のPD-1と結合して、宿主免疫細胞を抑制して機能を喪失させ、アポトーシスを招くことで、腫瘍細胞が免疫監視から逃れるようにすることができる。
【0028】
本明細書に記載の「CD3e分子(CD3Eとも呼ばれる)」は、T細胞表面の第1型の膜貫通タンパク質であり、CD3E遺伝子によってコードされ、T細胞発育において重要な役割を果たす。CD3e分子はCD3γ、CD3δ及びCD3ζ並びにT細胞受容体α/β及びγ/δヘテロ二量体と共にT細胞受容体-CD3複合物を形成する。CD3複合物は、抗原認識をいくつかの細胞内シグナル伝達経路に結合する上で重要な役割を果たす。
【0029】
以下の具体的な試験例によって、更に本発明を説明し、当業者のために寄与し、過度の解釈なしに本発明を十分に利用及び実施することができ、これらの試験例を、本発明の範囲を限定することを意図していると見なされるべきではなく、本発明の材料及び方法がどのように実施するかを説明することを意図している。
【0030】
一、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター並びに核酸
1.1.多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプター
図1を参照されたく、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの構造及び作用機序を示す模式図である。本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターは、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及び二重特異性T細胞アダプターをN端からC端まで順に含む。
【0031】
HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体は、HLA-G単一ドメイン抗体ユニット、膜貫通ドメイン及びCD3zシグナル伝達ドメインを含む。HLA-G単一ドメイン抗体ユニットは、HLA-Gと特異的結合され、少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体を含み、且つ少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体のアミノ酸配列が配列番号:1及び/又は配列番号:2に示された。膜貫通ドメインのアミノ酸配列が配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23又は配列番号:29に示され、CD3zシグナル伝達ドメインのアミノ酸配列が配列番号:25に示された。HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体から構成できる腫瘍標的受容体複合物により、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターと腫瘍細胞表面で特異的に認識するヒト白血球抗原Gとを結合してからシグナル伝達をトリガーして、シグナルカスケードを生成して本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞の活性化及び成長をもたらして、更に溶解顆粒のエキソサイトーシスを誘発し、標的腫瘍細胞を殺した。
【0032】
HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体のN端は、第1のシグナルペプチドを更に含んでよく、そのアミノ酸配列が配列番号:11に示された。HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体は、HLA-G単一ドメイン抗体ユニット及び膜貫通ドメインをタンデムで接続するCD8ヒンジ領域を更に含んでよく、CD8ヒンジ領域のアミノ酸配列が配列番号:17に示された。
【0033】
二重特異性T細胞アダプターは、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体のC端に接続され、且つPD-L1単一ドメイン抗体ユニット及びCD3e単一ドメイン抗体を含む。PD-L1単一ドメイン抗体ユニットは、PD-L1と特異的結合され、少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体を含み、且つ少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体のアミノ酸配列が配列番号:5及び/又は配列番号:6に示された。CD3e単一ドメイン抗体は、CD3e分子と特異的結合され、且つCD3e単一ドメイン抗体のアミノ酸配列が配列番号:9に示された。
【0034】
二重特異性T細胞アダプターのN端は、第2のシグナルペプチドを更に含んでよく、そのアミノ酸配列が配列番号:15に示された。また、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターは、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及び二重特異性T細胞アダプターをタンデムで接続するP2Aペプチドを更に含んでよく、P2Aペプチドのアミノ酸配列が配列番号:27に示された。P2Aペプチドは、発現された多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及び二重特異性T細胞アダプターで自己切断し、更に二重特異性T細胞アダプターを切断して細胞外に分泌した。
【0035】
1.2.核酸
本発明の核酸は、前文に記載の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターをコードするものであり、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片及び二重特異性T細胞アダプターをコードする断片を5’端から3’端まで順に含む。
【0036】
HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片は、HLA-G単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片、膜貫通ドメインをコードする断片及びCD3zシグナル伝達ドメインをコードする断片を含む。HLA-G単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片は、少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体をコードする断片を含み、且つ少なくとも1つのHLA-G単一ドメイン抗体をコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:3及び/又は配列番号:4に示された。膜貫通ドメインをコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24又は配列番号:30に示され、CD3zシグナル伝達ドメインをコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:26に示された。
【0037】
HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片の5’端は、第1のシグナルペプチドをコードする断片を更に含んでよく、そのヌクレオチド配列が配列番号:12に示された。HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片は、HLA-G単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片及び膜貫通ドメインをコードする断片をタンデムで接続するCD8ヒンジ領域をコードする断片を更に含んでよく、CD8ヒンジ領域をコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:18に示された。
【0038】
二重特異性T細胞アダプターをコードする断片は、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片の3’端に接続され、且つPD-L1単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片及びCD3e単一ドメイン抗体をコードする断片を含む。PD-L1単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片は、少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体をコードする断片を含み、且つ少なくとも1つのPD-L1単一ドメイン抗体をコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:7及び/又は配列番号:8に示された。CD3e単一ドメイン抗体をコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:10に示された。
【0039】
二重特異性T細胞アダプターをコードする断片の5’端は、第2のシグナルペプチドをコードする断片を更に含んでよく、そのヌクレオチド配列が配列番号:16に示された。本発明の核酸は、HLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体をコードする断片及び二重特異性T細胞アダプターをコードする断片をタンデムで接続するP2Aペプチドをコードする断片を更に含んでよく、P2Aペプチドをコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:28に示された。
【0040】
図2A及び
図2Bを参照されたく、
図2Aは、本発明の実施例1の核酸の構築を示す模式図であり、それは、インビトロ転写(in vitro transcription;IVT)mRNA技術により構築され、
図2Bは、本発明の実施例2の核酸の構築を示す模式図であり、それは、レンチウイルスベクターによって構築された。
図2A及び
図2Bにおけるラベルは、そのコードされたタンパク質である。
【0041】
実施例1の核酸及び実施例2の核酸は、第1のシグナルペプチドをコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:12に示され、HLA-G単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片が2つのHLA-G単一ドメイン抗体をコードする断片を含み、そのヌクレオチド配列がそれぞれ配列番号:3(HLA-G Nb #1)及び配列番号:4(HLA-G Nb #109)に示され、膜貫通ドメインをコードする断片が配列番号:30に示す4-1BB/TYKをコードする断片であり、CD3zシグナル伝達ドメインをコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:26に示された。第2のシグナルペプチドをコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:16に示され、PD-L1単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片が2つのPD-L1単一ドメイン抗体をコードする断片を含み、そのヌクレオチド配列がそれぞれ配列番号:8(PD-L1 Nb #15)及び配列番号:7(PD-L1 Nb #3)に示され、CD3e単一ドメイン抗体をコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:10に示された。実施例1及び実施例2におけるG-Sリンカー分子のヌクレオチド配列が配列番号:14に示された。また、本発明の核酸は、構築されたシステムに応じて5’端のプロモーターを選択することができる。実施例1の核酸は、そのプロモーターがT7プロモーターであってよく、実施例2の核酸は、そのプロモーターがEF-1aプロモーターであってよい。
【0042】
1.3.HLA-G単一ドメイン抗体
試験において、まずHLA-G単一ドメイン抗体を調製して、また表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance;SPR)分析により速度論的分析及びHLA-G組換えタンパク質(Origene;CAT#:TP305216)との結合親和性分析を行った。本試験例において調製されたHLA-G単一ドメイン抗体は、配列番号:1(HLA-G Nb #1)及び配列番号:2(HLA-G Nb #109)に示すHLA-G単一ドメイン抗体を含む。
【0043】
図3A、
図3B及び以下の表1を参照されたく、
図3Aは、HLA-G Nb #1の結合親和性を示す分析結果図であり、
図3Bは、HLA-G Nb #109の結合親和性を示す分析結果図であり、表1は、HLA-G Nb #1(表において#1と略す)及びHLA-G Nb #109(表において#109と略す)の速度論的分析結果である。
【0044】
【0045】
図3A、
図3B及び表1の結果からわかるように、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体とHLA-Gは、優れた結合親和性を持ち、HLA-G Nb #1のK
Dが0.11nMに、HLA-G Nb #109のK
Dが2.6nMに達することができる。
【0046】
試験において、更に本発明のHLA-G単一ドメイン抗体がHLA-GとHLA-G受容体との相互作用及び/又は結合をブロックできるかをテストし、試験においてテストするHLA-G受容体がKIR2DL4及びLILRB1であり、使用されるHLA-G単一ドメイン抗体がHLA-G Nb #1であり、競合性ELISAによりHLA-G Nb #1がビオチン化のKIR2DL4(Sino Biological;CAT#:13052-H02S)及びビオチン化のLILRB1(Sino Biological;CAT#:16014-H08H)とHLA-G組換えタンパク質(Origene;CAT#:TP305216)との相互作用及び/又は結合をブロックできるかをテストした。試験は、対照群として市販のHLA-Gモノクローナル抗体(87G;ThermoFisher)を別に含む。
【0047】
図4及び
図5を参照されたく、
図4は、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体のLILRB1ブロック活性を示す分析結果図であり、
図5は、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体のKIR2DL4ブロック活性の分析結果図である。
図4の結果からわかるように、87GのLILRB1に対するブロック活性のIC
50は1μMを超え、HLA-G Nb #1のLILRB1に対するブロック活性のIC
50は約70nMである。
図5の結果からわかるように、87GのKIR2DL4に対するブロック活性のIC
50は約104nMであり、HLA-G Nb #1のKIR2DL4に対するブロック活性のIC
50は約22nMである。上記の結果からわかるように、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体は、優れたHLA-GとLILRB1/KIR2DL4との相互作用及び結合をブロックする能力を持つ。
【0048】
試験において、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体によるナチュラルキラー(NK)細胞が媒介する細胞毒性の増強が腫瘍細胞に及ぼす影響を別にテストした。本試験においてテストする腫瘍細胞がMDA-MB-231細胞であり、テストするHLA-G単一ドメイン抗体がHLA-G Nb #1及びHLA-G Nb #109である。試験において、細胞密度が1×105個/ウェルのMDA-MB-231細胞を12ウェルプレートに接種し、一晩培養した後、3×105個/ウェル又は5×105個/ウェルの初代NK細胞をMDA-MB-231細胞を含むウェルに加えて、また1mg/mlのHLA-G Nb #1及び/又はHLA-G Nb #109、或いは10mg/mlの87Gをそれぞれ加えてから48時間後、フローサイトメトリーによりLIVE/DEAD細胞が媒介する細胞毒性の測定を行って、初代NK細胞によるMDA-MB-231細胞の特異的溶解を確認した。
【0049】
図6A及び
図6Bを参照されたく、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体によるナチュラルキラー(NK)細胞が媒介する細胞毒性の増強がMDA-MB-231細胞に及ぼす影響を示す分析結果図である。
図6Bにおいて、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示した。
図6Aの結果からわかるように、HLA-G Nb #1又はHLA-G Nb #109単独で処理した群別は、未処理の群別と比べると、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体は何れも初代NK細胞によるMDA-MB-231細胞の特異的溶解を増強できるが、同時にHLA-G Nb #1及びHLA-G Nb #109で処理した群別は、初代NK細胞によるMDA-MB-231細胞の特異的溶解を更に増強できる。
図6Bの結果からわかるように、HLA-G Nb #1又はHLA-G Nb #109で処理した群別は、未処理の群別と比べると、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体が初代NK細胞によるMDA-MB-231細胞の特異的溶解を増強することは統計的に有意な差(p<0.01)があり、HLA-Gモノクローナル抗体-87Gと比べると、同じ抗体濃度に変換する場合、本発明のHLA-G単一ドメイン抗体は初代NK細胞によるMDA-MB-231細胞の特異的溶解を更に増強できる。
【0050】
1.4.PD-L1単一ドメイン抗体
試験において、まずPD-L1単一ドメイン抗体を調製して、また本発明のPD-L1単一ドメイン抗体がPD-L1とPD-L1受容体の相互作用及び/又は結合をブロックできるかをテストした。本試験例において調製されたPD-L1単一ドメイン抗体は、配列番号:5(PD-L1 Nb #3)及び配列番号:6(PD-L1 Nb #15)に示すPD-L1単一ドメイン抗体を含む。
【0051】
ブロッキングテストは、PD-1/PD-L1 Blockade Bioassayキット(Promega)によりテストを行い、使用されるPD-L1単一ドメイン抗体がPD-L1 Nb #3及びPD-L1 Nb #15であり、テストするPD-L1受容体がPD-1である。試験において、細胞密度が1×104個/ウェルのPD-L1 aAPC/CHO-K1細胞を96ウェルプレートに接種し、一晩培養した後、1×104個/ウェルのPD-1エフェクター細胞をPD-L1 aAPC/CHO-K1細胞を含むウェルに加えて、また異なる濃度のPD-L1 Nb #3、PD-L1 Nb #15又はアテゾリズマブ(atezolizumab)をそれぞれ加えてから6時間後、Bio-Glo(商標)試薬を加えGloMax(登録商標) Discoverシステムにより発光を測定した。Sigmaplotソフトウェアによりデータに対して4PL曲線を描いた。アテゾリズマブは、市販のPD-L1モノクローナル抗体であり、対照群として用いられた。
【0052】
図7を参照されたく、本発明のPD-L1単一ドメイン抗体のPD-L1/PD-1バイオブロッキング活性の分析結果図である。結果からわかるように、アテゾリズマブのPD-1に対するブロック活性のIC
50は約41nMであり、PD-L1 Nb #15のPD-1に対するブロック活性IC
50は約0.48nMであり、PD-L1 Nb #3のPD-1に対するブロック活性のIC
50は約37.7nMである。本発明のPD-L1単一ドメイン抗体は優れたPD-L1とPD-1との相互作用及び結合をブロックする能力を持つことが示された。
【0053】
試験において、またSPR分析により本発明のPD-L1単一ドメイン抗体の速度論的分析及びPD-L1組換えタンパク質(Sino Biological;CAT#:10084-H05H)との結合親和性分析を行った。
図8A、
図8B及び以下の表2を参照されたく、本発明のPD-L1単一ドメイン抗体の結合親和性の分析結果図である。
図8AはPD-L1 Nb #15の結合親和性を示す分析結果図である。
図8BはPD-L1 Nb #3の結合親和性を示す分析結果図である。表2はPD-L1 Nb #15(表において#15と略す)及びPD-L1 Nb #3(表において#3と略す)の速度論的分析結果である。
【0054】
【0055】
図8A、
図8B及び表2の結果からわかるように、本発明のPD-L1単一ドメイン抗体とPD-L1は、優れた結合親和性を持ち、PD-L1 Nb #15のK
Dが0.91nMに、PD-L1 Nb #3のK
Dが0.86nMに達することができる。
【0056】
試験において、本発明のPD-L1単一ドメイン抗体によるγδT細胞が媒介する細胞毒性の増強が腫瘍細胞に及ぼす影響を別にテストした。本試験においてテストする腫瘍細胞はMDA-MB-231細胞であり、テストするPD-L1単一ドメイン抗体はPD-L1 Nb #15及びPD-L1 Nb #3である。試験において、細胞密度が1×105個/ウェルのMDA-MB-231細胞を12ウェルプレートに接種し、一晩培養した後、3×105個/ウェルの初代γδT細胞をMDA-MB-231細胞を含むウェルに加えて、また1mg/mlのPD-L1 Nb #15又はPD-L1 Nb #3、或いは10mg/mlのアテゾリズマブをそれぞれ加えてから48時間後、フローサイトメトリーによりLIVE/DEAD細胞が媒介する細胞毒性の測定を行って、初代γδT細胞によるMDA-MB-231細胞の特異的溶解を決定した。
【0057】
図9を参照されたく、本発明のPD-L1単一ドメイン抗体によるγδT細胞が媒介する細胞毒性の増強がMDA-MB-231細胞に及ぼす影響を示す分析結果図である。*はp<0.05を示した。結果からわかるように、PD-L1 Nb #15又はPD-L1 Nb #3で処理した群別は、未処理の群別と比べると、本発明のPD-L1単一ドメイン抗体が初代γδT細胞によるMA-MB-231細胞の特異的溶解を増強することは統計的に有意な差(p<0.05)があり、アテゾリズマブと比べると、同じ抗体濃度に変換する場合、本発明のPD-L1単一ドメイン抗体は初代γδT細胞によるMDA-MB-231細胞の特異的溶解を更に増強できる。
【0058】
1.5.CD3e単一ドメイン抗体
試験において、まずCD3e単一ドメイン抗体を調製して、また本発明のCD3e単一ドメイン抗体による末梢血単核細胞(PBMC)及びγδT細胞におけるCD3+T細胞増殖への影響をテストし、本試験例において調製されたCD3e単一ドメイン抗体のアミノ酸配列が配列番号:9(CD3e Nb)に示された。試験において、1mg/mlのCD3e Nb、10mg/mlのOKT3(Invitrogen;CAT#:MA1-10175)が塗り付けられた、又は未処理の12ウェルプレートを予備し、OKT3が市販のCD3モノクローナル抗体である。また1×106個/ウェルのPBMC又はγδT細胞をそれぞれ前記12ウェルプレートに接種してから、またウェル毎に50IU/mlのIL-2(Gibco;CAT#:PHC0021)及び2mg/mlのIL-15(Sino Biological;CAT#:10360-H07E)を加えてから、7日後に総細胞数を記録して、FITCに結合したOKT3(eBioscience;CAT#:11-0037-42)により染色し、フローサイトメトリーにより分析し、顕微鏡で40×で写真を撮りCD3陽性T細胞(CD3+T細胞)の数を計算し、その計算方法がCD3+T細胞の百分率×総細胞数である。
【0059】
図10を参照されたく、本発明のCD3e単一ドメイン抗体によるPBMC及びγδT細胞におけるCD3
+T細胞増殖への影響を示す分析結果図である。*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示し、***はp<0.001を示した。結果からわかるように、PBMCの部分において、本発明のCD3e単一ドメイン抗体及びOKT3での処理は何れもPBMCにおけるCD3
+T細胞の増殖を増強できるが、本発明のCD3e単一ドメイン抗体は未処理の群別又はOKT3で処理した群別の何れかと比べると、そのPBMCにおけるCD3
+T細胞増殖を増強する効果の何れも統計的差異がある(それぞれはp<0.001及びp<0.05)。γδT細胞の部分で、本発明のCD3e単一ドメイン抗体及びOKT3での処理は何れもγδT細胞におけるCD3
+T細胞の増殖を増強でき且つ差は統計学的に有意であり(それぞれはp<0.001及びp<0.01)、且つ本発明のCD3e単一ドメイン抗体はOKT3で処理した群別と比べると、その増強効果がより著しくなった。要するに、本発明のCD3e単一ドメイン抗体は、PBMC及びγδT細胞におけるCD3
+T細胞増殖を増強する優れた能力がある。
【0060】
二、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞、その用途及び癌治療用の医薬組成物
図11を参照されたく、本発明の実施例の核酸及び比較例の核酸の構築を示す模式図であり、ラベルがそのコードされたタンパク質である。実施例1の核酸(以下実施例1と略す)はIVT mRNA技術により構築され、実施例2の核酸(以下実施例2と略す)はレンチウイルスベクターにより構築され、構築の細部は前記の通りであり、ここに繰り返して説明しない。比較例1の核酸は、IVT mRNA技術により構築されるHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体であり、PD-L1及びCD3eを標的とする二重特異性T細胞アダプターを含まない。比較例1の核酸において第1のシグナルペプチドをコードする断片は配列番号:12に示すCD8aシグナルペプチドをコードする断片であり、HLA-G単一ドメイン抗体ユニットをコードする断片は2個のHLA-G単一ドメイン抗体をコードする断片を含み、そのヌクレオチド配列がそれぞれ配列番号:3(HLA-G Nb #1)及び配列番号:4(HLA-G Nb #109)に示され、膜貫通ドメインをコードする断片は配列番号:30に示す4-1BB/TYKをコードする断片であり、CD3zシグナル伝達ドメインをコードする断片のヌクレオチド配列が配列番号:26に示された。
【0061】
試験において、2μgの実施例1の核酸又は比較例1の核酸をそれぞれ1×106個のγδT細胞にエレクトロポレーションして、実施例3の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞(以下実施例3と略す)並びに比較例2のHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体発現細胞(以下比較例2と略す)が得られた。また、レンチウイルスにより実施例2の核酸をγδT細胞に形質導入して、実施例4の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞(以下実施例4と略す)が得られた。また1×106個の比較例2、実施例3、実施例4及び親γδT細胞(以下親細胞と略す)をiFluor 647に結合した抗VHH抗体(GenScript)により染色を行った。また1% BSAを含むPBSにより2回洗浄した後、フローサイトメトリーにより親細胞をバックグラウンドコントロールとして使用して、比較例2、実施例3及び実施例4が第1日~第7日の毎日のHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体の発現状況を測定して、実施例1及び実施例2のγδT細胞における形質導入率を確認した。
【0062】
本発明の癌治療用の医薬組成物は、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞を含む。前記癌治療用の医薬組成物は、例えば化学療法薬、標的療法薬、抗体薬、免疫調節剤又はそれらの組み合わせのような、別の癌治療の薬剤を更に含んでよいことが好ましい。
【0063】
図12A及び
図12Bを参照されたく、比較例2、実施例3及び実施例4のHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体を発現する分析結果図である。
図12Aは、第1日~第4日の分析結果図である。
図12Bは、第5日~第7日間の分析結果図である。
図12A及び
図12Bの結果からわかるように、比較例2は第1日のHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体の発現量が一番高く、59.8%に達するが、発現量が日々に低減し、第7日の発現量が13.5%だけである。実施例3のHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体の発現量も第1日に一番高く、56.1%に達し、発現量も日々に低減するが、第7日の発現量が依然として26.1%である。実施例4は第1日のHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体が10.3%だけであるが、日々に増加して第6日の発現量が一番高く、74%に達し、第7日になって54.8%の発現量に低減した。上記の結果から示されるように、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、その中に形質導入されたHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体を安定的に発現することができる。
【0064】
試験において、更に本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が腫瘍細胞に及ぼす細胞毒性をテストした。この試験において使用される多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は実施例4であり、テストされる細胞はトリプルネガティブ乳癌(Triple-negative breast cancer;TNBC)細胞、多形神経膠芽腫細胞、肺癌細胞、卵巣癌細胞及び膵臓癌細胞を含み、TNBC細胞はMDA-MB-231細胞及びMDA-MB-231 HLA-Gov細胞を含み、多形神経膠芽腫細胞はGBM-8901細胞及びDBTRG-05MG細胞を含み、肺癌細胞はA549細胞及びH1975細胞を含み、卵巣癌細胞はSKOV3細胞及びSKOV3 HLA-Gov細胞を含み、膵臓癌細胞はAsPC1細胞である。MDA-MB-231 HLA-Gov細胞は安定的にHLA-Gを過剰発現するMDA-MB-231細胞株であり、SKOV3 HLA-Gov細胞は安定的にHLA-Gを過剰発現するSKOV3細胞株であり、Lipofectamine 3000(Invitrogen)によりそれぞれHLA-GをコードできるpCMV1色素体をMDA-MB-231細胞株及びSKOV3細胞株にトランスフェクトして得られた細胞株である。
【0065】
試験において、実施例4又は親細胞をエフェクター細胞として、37℃でエフェクター細胞/腫瘍細胞(E:T)の割合が1:1、2:1、3:1、6:1及び10:1である条件で、エフェクター細胞及び腫瘍細胞を共培養した。全ての腫瘍細胞が共培養前に、緑色蛍光を発するカルセイン-AMで染色され、共培養の48時間後に赤色蛍光を発するヨウ化プロピジウムで染色され、フローサイトメトリーによりLIVE/DEAD細胞が媒介する細胞毒性の測定を行って、実施例4による腫瘍細胞の特異的溶解を確認した。
【0066】
図13A~
図17を参照されたく、本発明の実施例4による腫瘍細胞の特異的溶解を示す分析結果図である。
図13A及び
図13Bで分析された腫瘍細胞はMDA-MB-231細胞及びMDA-MB-231 HLA-Gov細胞であり、
図14A及び
図14Bで分析された腫瘍細胞はGBM-8901細胞及びDBTRG-05MG細胞であり、
図15A及び
図15Bで分析された腫瘍細胞はA549細胞及びH1975細胞であり、
図16A及び
図16Bで分析された腫瘍細胞はSKOV3細胞及びSKOV3 HLA-Gov細胞であり、
図17で分析された腫瘍細胞はAsPC1細胞である。
図13A~
図17において、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示し、***はp<0.001を示した。
【0067】
図13A及び
図13Bの結果からわかるように、親細胞と比べると、実施例4はE:Tの割合が1:1、2:1、3:1、6:1及び10:1である条件で何れもそのMDA-MB-231細胞及びMDA-MB-231 HLA-Gov細胞に対する特異的溶解を増強でき、且つ差は統計学的に有意である。
図14A及び
図14Bの結果からわかるように、親細胞と比べると、実施例4はE:Tの割合が1:1、2:1、3:1、6:1及び10:1の条件で何れもそのGBM-8901細胞及びDBTRG-05MG細胞に対する特異的溶解を増強でき、且つ差は統計学的に有意である。
図15A及び
図15Bの結果からわかるように、親細胞と比べると、実施例4はE:Tの割合が1:1、2:1、3:1、6:1及び10:1の条件で何れもそのA549細胞及びH1975細胞に対する特異的溶解を増強でき、且つ差は統計学的に有意である。
図16A及び
図16Bの結果からわかるように、親細胞と比べると、実施例4はE:Tの割合が1:1、2:1、3:1、6:1及び10:1の条件で何れもそのSKOV3細胞及びSKOV3 HLA-Gov細胞に対する特異的溶解を増強でき、且つ差は統計学的に有意である。
図17の結果からわかるように、親細胞と比べると、実施例4はE:Tの割合が1:1、2:1、3:1、6:1及び10:1の条件で何れもそのAsPC1細胞に対する特異的溶解を増強でき、且つ差は統計学的に有意である。上記の結果からわかるように、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、TNBC細胞、多形神経膠芽腫細胞、肺癌細胞、卵巣癌細胞又は膵臓癌細胞の何れもに対して優れた細胞毒性を有した。
【0068】
図18及び
図1を参照されたく、
図18は、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを分泌する作用機序を示す模式図である。本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターはHLA-G単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体と二重特異性T細胞アダプターとの間に自己切断ができるP2Aペプチドがあるため、多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを発現した後、二重特異性T細胞アダプターを切断でき、それを細胞外へ分泌した。
【0069】
本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞における二重特異性T細胞アダプターの分泌状況をテストするために、試験において、親細胞、実施例3又は実施例4とMDA-MB-231細胞を3:1のE:Tの割合でPD-L1が塗り付けられた12ウェルプレートに接種し、共培養の48時間後、抗CD3の抗体で二重特異性T細胞アダプターの分泌量を検出した。
【0070】
図19を参照されたく、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が二重特異性T細胞アダプターを分泌する分析結果図である。結果からわかるように、共培養前のデータと比べると、実施例3又は実施例4に関わらず、MDA-MB-231細胞と共培養した後、何れも二重特異性T細胞アダプターの分泌量を増加させることができ、これは本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が分泌される二重特異性T細胞アダプターが検出可能なものであると示された。
【0071】
本試験において、更に細胞侵入不可能なtranswell膜(孔径が0.4μm)により本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞から放出された多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの腫瘍細胞に対する細胞毒性を評価することができる。試験において、エフェクター細胞(PBMC)及び/又は腫瘍細胞(GBM-8901細胞又はDBTRG-05MG)を5:1のE:Tの割合で12ウェルプレートの底部に接種してから、細胞侵入不可能なtranswell膜を含む又は含まない上部空間に5×105の実施例3、親細胞又は比較例2を加えた。指定の時点で、底部細胞に対してLIVE/DEAD細胞が媒介する細胞毒性の測定を行って、フローサイトメトリーにより分析した。
【0072】
図20A、
図20B及び
図20Cを参照されたく、実施例3、親細胞又は比較例2の条件培地でのPBMCによって誘発される細胞毒性に対する増強による多形神経膠芽腫細胞への影響を示す分析結果図である。
図20Aは顕微鏡写真図であり、
図20B及び
図20Cは
図20Aの統計結果図であり、且つ*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示し、***はp<0.001を示した。
図20A及び
図20Bの結果からわかるように、未処理のブランク対照群と比べると、親細胞、比較例2及び実施例3の条件培地は何れもPBMCによって誘発される細胞毒性を増強でき、更にGBM-8901細胞に対する特異的溶解を引き起こすが、実施例3の条件培地で増強されたPBMCによって誘発される細胞毒性は著しく他の群別よりも好ましく、親細胞又は比較例2と比べると、差の何れも統計的に有意である(それぞれはp<0.001及びp<0.05)。
図20A及び
図20Cの結果からわかるように、未処理のブランク対照群と比べると、親細胞、比較例2及び実施例3の条件培地の何れもPBMCによって誘発される細胞毒性を増強でき、更にDBTRG-05MG細胞に対する特異的溶解を引き起こすが、実施例3の条件培地でPBMCによって誘発される細胞毒性は著しく他の群別よりも好ましく、親細胞又は比較例2と比べると、差の何れも統計的に有意である(それぞれはp<0.05及びp<0.05)。上記の結果からわかるように、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、確実に二重特異性T細胞アダプターを細胞培地に分泌でき、更にエフェクター細胞の腫瘍細胞に対する細胞毒性を増強して特異的溶解を引き起こした。
【0073】
更に、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞が癌治療の有効性があるかをテストするために、
図21Aを参照されたく、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による動物介在療法の試験策略を示す模式図である。試験の10日前(第-10日)に、まず同所性異種移植乳房腫瘍PBMC-huNGSマウスモデルを作り、雌のNGSマウスの左側第4乳腺に1×10
6個のMDA-MB-231-luc細胞を皮下注射し、移植の7日後(第-3日)、尾静脈注射で5×10
6個のhuPBMC細胞をNGSマウスに注射して、同所性異種移植乳房腫瘍PBMC-huNGSマウスモデル(以下腫瘍マウスと略す)を作った。また3日後(第0日)から治療を行い、治療形態は尾静脈注射で1×10
7個の親細胞又は実施例4を腫瘍マウスに注射し、追加して週に1回1×10
7個の親細胞又は実施例4を腫瘍マウスに注射し、追加回数が3回(第7日、第14日及び第21日)である。腫瘍マウスに対して、治療中に、週にインビボイメージングシステム(IVIS Spectrum;PerkinElmer)により監視腫瘍の成長状況を監視し、監視時点が第0日、第7日、第14日、第21日、第28日、第35日、第42日、第49日、第56日、第63日、第70日、第77日及び第84日である。また、腫瘍マウスの生存率はKaplan-Meier生存曲線によって分析された。
【0074】
図21B、
図21C及び
図21Dを参照されたく、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞による腫瘍マウスの腫瘍成長阻害への影響の分析結果図である。
図21BはIVISの画像図であり、写真の下の番号は腫瘍マウスの試験群別における番号である。
図21Cは各組の腫瘍マウスの各監視時点での生物発光量であり、生物発光量が腫瘍のサイズに比例した。
図21Dは各群の腫瘍マウスのKaplan-Meier生存曲線図である。
【0075】
結果からわかるように、治療されていない腫瘍マウス(以下担体群と略す)の腫瘍が第0日から徐々に成長しはじめ、第63日になってもう全ての担体群の腫瘍マウス(n=6)も死亡した。親細胞で治療された腫瘍マウス(以下親細胞群と略す)は担体群と比べると、その腫瘍の成長速度が遅いが、第0日から腫瘍のサイズも時間の経つにつれて増加し、第81日になってもう全ての親細胞群の腫瘍マウス(n=6)も死亡した。実施例4で治療された腫瘍マウス(以下実施例4群と略す)はその腫瘍サイズが制御され、ひいては6匹の実施例4群における2匹の腫瘍マウスは第84日に腫瘍残存のシグナルが検出されなく、1匹の生存日間数が第128日に伸ばすことができる。上記の結果からわかるように、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、腫瘍阻害の有効性を増強し、効果的に同所性異種移植乳房腫瘍PBMC-huNGSマウスの生存時間を延長することができる。
【0076】
要するに、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターは、特に腫瘍細胞の細胞膜で発現するHLA-Gと特異的結合されるため、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターを発現する発現細胞を特異的に腫瘍細胞を標的とし、オフターゲット効果を回避することができる。また、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターは、T細胞表面のCD3分子及び腫瘍細胞表面のPD-L1の二重特異性T細胞アダプターを特異的に認識でき、同時にT細胞を活性化させ、免疫チェックポイントの活性化をブロックすることができ、更に効果的に腫瘍細胞を殺して、哺乳動物の腫瘍細胞死を誘発する薬物の調製に用いられることができる。本発明の癌治療用の医薬組成物は、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞を含み、効果的に腫瘍細胞を殺して癌を治療することができる。実験データによって確認されるように、本発明の多重特異性単一ドメイン抗体キメラ抗原受容体及びT細胞アダプターの発現細胞は、動物モデルにおいて腫瘍の進行を阻害する優れた効果をもち、生物医学ヘルスケア市場に適用される可能性がある。
【0077】
本発明は実施形態によって前上記の通りに開示されたが、本発明を限定するためのものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修飾を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、下記特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。
【配列表】