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特許7430226少なくとも部分的に透明の物体内に偽造防止マーキングを構成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】少なくとも部分的に透明の物体内に偽造防止マーキングを構成する方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20240202BHJP
   C30B 33/04 20060101ALI20240202BHJP
   G04B 39/00 20060101ALI20240202BHJP
   G04B 45/00 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
C03C23/00 D
C30B33/04
G04B39/00 Z
G04B45/00 Z
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022129838
(22)【出願日】2022-08-17
(65)【公開番号】P2023039413
(43)【公開日】2023-03-20
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】21195595.0
(32)【優先日】2021-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ・ブールメ
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン・ル ブドゥイル
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-192633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00,
C30B 33/04,
G04B 37/22,39/00,45/00,
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に透明の非晶質、半結晶性又は結晶性材料から作製された物体(1)の厚み内に偽造防止マーキング(18)を構成する方法であって、前記少なくとも部分的に透明の物体(1)は、上面(2)と、前記上面(2)からある距離に延在する底面(4)とを備え、前記方法は、以下の連続するステップ:
‐むき出しの状態の前記少なくとも部分的に透明の物体(1)を得るステップ;
‐前記少なくとも部分的に透明の物体(1)の前記上面(2)及び前記底面(4)のうちの一方に、構成したい前記偽造防止マーキングのプロファイルに輪郭が対応する少なくとも1つの開口(8)を画定するマスク(6)を設けるステップであって、前記マスク(6)は、前記少なくとも部分的に透明の物体(1)の表面の、構成対象でないエリアを覆う、ステップ;
‐前記マスク(6)の前記少なくとも1つの開口(8)を通して、前記少なくとも部分的に透明の物体(1)に1価又は多価イオンビーム(14)を衝突させることによって、前記偽造防止マーキングを構成するステップであって、前記マスク(6)の機械的特性は、前記少なくとも部分的に透明の物体(1)の前記表面の、前記表面が前記マスク(6)で覆われているエリアを、前記イオンビーム(14)のイオンがエッチングするのを防止するために十分なものである、ステップ;
‐前記マスク(6)を除去するステップ;
‐前記少なくとも部分的に透明の物体(1)を、アルカリ性pHの浴(16)に入れるステップ
を含み、
前記偽造防止マーキング(18)が、裸眼で知覚不可能であるものの、白色発光ダイオードタイプの光源を用いて検知可能になるように、前記イオンビーム(14)の衝突が前記物体(1)の反射率の変化を誘発することを特徴とする、方法。
【請求項2】
少なくとも1つの反射防止コート(22、24)を、前記物体の前記上面(2)及び前記底面(4)のうちの少なくとも一方の上に堆積させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)は、好ましくは合成の、サファイア、ルビー、又はダイヤモンド製であることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)は、半結晶性有機材料製であることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)は、無機ガラス又は非晶質有機材料製であることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)は、事前洗浄されることを特徴とする、請求項1及び2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1価又は多価イオンビーム(14)は、ECR電子サイクロトロン共鳴型1価又は多価イオン源によって生成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)に対して、窒素N、酸素O、ヘリウムHe、炭素C、アルゴンAr、キセノンXe、又は四フッ化炭素CF4若しくはメタンCH4をイオン化することによって得られた炭素Cイオンを用いて衝撃を発生させることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオンは、10kV~40kVの電圧で加速され、イオン注入量は3×1016~6×1016イオン/cmであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)に対して、28kVの電圧で1.53s/cmの持続時間にわたって加速された、窒素Nイオンを用いて、衝撃を発生させ、イオン注入量は3.5×1016イオン/cmであり、イオンビーム強度は5.5mAであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記マスク(6)は、前記偽造防止マーキングの前記輪郭が切り取られた材料のシートであり、前記材料のシートは、前記プロファイルを構成したい前記少なくとも部分的に透明の物体(1)の前記上面(2)又は前記底面(4)に固定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)の前記上面(2)又は前記底面(4)上に堆積させられる前記マスク(6)は、メタライゼーションによって形成される金属コートであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記メタライゼーションは、以下の技法:物理蒸着(Physical Vapour Deposition:PVD)、化学蒸着(Chemical Vapour Deposition:CVD)、プラズマ強化化学蒸着のうちの1つを用いた蒸着によって実施されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属コートは、厚さが1~1500nmの窒化クロムCrNのコートであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)に構成されることになる前記偽造防止マーキングの前記プロファイルに前記輪郭が対応する前記少なくとも1つの開口(8)は、フォトリソグラフィーによって前記金属コートに配設されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも部分的に透明の物体(1)は、腕時計風防であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的に透明の物体内に、技術的又は装飾的機能を有するパターンを構成する方法に関する。本発明は特に、1価又は多価イオンビームを用いた、このような構成方法に関する。より具体的には、本発明は、少なくとも部分的に透明の非晶質、半結晶性又は結晶性材料で作製された物体内に、パターンを構成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に腕時計産業の分野では、偽造との戦いが常に懸念されている。そのため、偽造との戦いにおいてマーキング技法が価値のある資産となっている。腕時計製造の分野における偽造防止マーキングに関して、使用されるマーキング技法によってよりもこれらのマーキングを読み取る技法によって識別される、2つのレベルが特定されており、実際には、真正の製品を偽造製品から確実に区別できる必要がある。
【0003】
第1の偽造防止マーキングのレベルは、読み取りデバイスを用いずに誰でも識別できるマーキングに相当する。これらは誰でも識別できるものの、ホログラム等のこれらのマーキングは、再現が複雑であるため、確かに抑止力を有する。これらの偽造防止マーキングは、これらが付される物体の審美性にも貢献できる。レベル1偽造防止マーキングは通常、裸眼で識別できる。しかしながら、これらは例えばレリーフ印刷による触覚等の他の感覚を伴う場合もある。
【0004】
第2のマーキングレベルは、読み取りデバイスを用いなければ識別できないマーキングに相当する。ここで以下の2つの選択肢が考えられる。バーコード等のマーキングは裸眼で視認可能であるものの、そのデコードにはリーダーが必要である。このようなマーキングはバッチや製品を個別化するために使用でき、また他の多くの情報を含むことができる。あるいは、マーキングは視認できないものである。この場合、マーキングは、例えば赤外線又は紫外線を備えた読み取りデバイスを用いて、光の波長に作用することによってしか明らかにすることができない。
【0005】
逆説的であるが、視認可能な又は容易に視認可能な偽造防止マーキングの、安心を与える性質は、消費者の信頼に作用し得るため、偽造業者にとって利益となる場合がある。従って、ホログラムを含む偽造医薬製品のケースの売れ行きが、ホログラムを含まないオリジナルの医薬製品より良好となる例が報告されている。読み取りデバイスを用いずに消費者が識別可能な偽造防止マーキングの主な欠点は、偽造対象の物品を即座に識別できる点である。従って、偽造業者は自身の作品をオリジナルと容易に比較できるようになる。視認可能な偽造防止マーキングを、物体の審美性を損なうことなく該物体に取り付けることも、問題になる場合がある。裸眼で視認できない偽造防止マーキングは、偽造業者がまず物体上のその存在を識別する必要があるため、それ自体は偽造がより困難である。しかしながら、これらのマーキングの作成方法は、多くの場合、実装に時間及びコストがかかる。更にこのような裸眼で視認できないマーキングの存在を明らかにするためには、ほとんどの場合専用のデコーダーが必要である。従って、特に異なる複数の製造業者からの物体を試験できるようにしたり、互いに異なる複数の偽造防止マーキング技法を使用したりしたい場合には、多額の投資が必要になる場合がある。従ってほとんどの場合、ある製品の真正性を保証したいときに、適切なデコーダーが利用可能であることを保証することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、少なくとも部分的に透明の物体内に偽造防止マーキングを、確実かつ再現可能に構成する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、少なくとも部分的に透明の非晶質、半結晶性又は結晶性材料から作製された物体の厚み内に偽造防止マーキングを構成する方法に関し、上記少なくとも部分的に透明の物体は、上面と、上記上面からある距離に延在する底面とを備え、上記方法は、以下の連続するステップ:
‐むき出しの状態の上記少なくとも部分的に透明の物体を得るステップ;
‐上記少なくとも部分的に透明の物体の上記上面又は上記底面のうちの一方に、構成したい上記偽造防止マーキングのプロファイルに輪郭が対応する少なくとも1つの開口を画定するマスクを設けるステップであって、上記マスクは、上記少なくとも部分的に透明の物体の表面の、構成対象でないエリアを覆う、ステップ;
‐上記マスクの上記少なくとも1つの開口を通して、上記少なくとも部分的に透明の物体に1価又は多価イオンビームを衝突させることによって、上記偽造防止マーキングを構成するステップであって、上記マスクの機械的特性は、上記少なくとも部分的に透明の物体の表面の、この表面が上記マスクで覆われているエリアを、上記イオンビームのイオンがエッチングするのを防止するために十分なものである、ステップ;
‐上記マスクを除去するステップ;
‐上記少なくとも部分的に透明の物体を、アルカリ性pHの浴に入れるステップ
を含む。
【0008】
これらの特徴により、本発明は、少なくとも部分的に透明の物体の厚さ内に偽造防止マーキングを確実かつ再現可能に形成する方法を提供する。このような、裸眼で知覚不可能なマーキングは、広域スペクトル光源、例えば発光ダイオードタイプの光源で照明することによって、非常に簡単に明らかにすることができる。実際に、本発明による上記方法の上記ステップに従うことによって、上記偽造防止マーキングが構成されたエリアにおいて、照明されたときに極めてわずかではあるものの上記マーキングを検知できるようにするためには十分な反射率の変化を示す、少なくとも部分的に透明の物体が得られる。従って、本発明の顕著な利点の1つは、本発明の教示に従ってマーキングされた物体の真正性を保証できるようにするために、専用の、多くの場合高価な機器を用いる必要がないことである。一般的に市販されている単なる広域スペクトル光源で十分である。更に、本発明による方法によって得られる偽造防止マーキングは、改ざん防止性を有する。このようなマーキングを、例えば腕時計のサファイア風防に構成した場合、このマーキングを改変する唯一の方法は、ダイヤモンドペーストを用いた上記風防の研磨、又は上記風防の溶融である。
【0009】
本発明による方法のある具体的実施形態によると、少なくとも1つの反射防止コートを、上記物体の上記上面及び上記底面のうちの少なくとも一方の上に堆積させる。
【0010】
本発明による方法の別の具体的実施形態によると、上記少なくとも部分的に透明の物体は、好ましくは合成の、サファイア、ルビー、又はダイヤモンド製である。
【0011】
本発明による方法の別の具体的実施形態によると、上記少なくとも部分的に透明の物体は、半結晶性有機材料製である。
【0012】
本発明による方法の別の具体的実施形態によると、上記少なくとも部分的に透明の物体は、無機ガラス又は非晶質有機材料製である。
【0013】
本発明の別の具体的実施形態によると、上記少なくとも部分的に透明の物体は、事前洗浄される。
【0014】
本発明による方法の別の具体的実施形態によると、上記1価又は多価イオンビームは、ECR(電子サイクロトロン共鳴)型1価又は多価イオン源によって生成される。
【0015】
本発明の別の具体的実施形態によると、上記少なくとも部分的に透明の物体に対して、窒素N、酸素O、ヘリウムHe、炭素C、アルゴンAr、キセノンXe、四フッ化炭素CF、又はメタンCHイオンを用いて衝撃を発生させる。
【0016】
本発明の別の具体的実施形態によると、上記イオンは、10kV~40kVの電圧で加速され、イオン注入量は3.1016~6.1016イオン/cmである。
【0017】
本発明の別の具体的実施形態によると、上記少なくとも部分的に透明の物体に対して、28kVの電圧で1.53s/cmの持続時間にわたって加速された、窒素Nイオンを用いて、衝撃を発生させ、イオン注入量は3.5.1016イオン/cmであり、イオンビーム強度は5.5mAである。
【0018】
本発明の別の具体的実施形態によると、上記マスクは、上記偽造防止マーキングの上記輪郭が切り取られた材料のシートであり、この材料のシートは、上記パターンを構成したい上記少なくとも部分的に透明の物体の上記上面に固定される。
【0019】
本発明の他の具体的実施形態によると:
‐上記少なくとも部分的に透明の物体の上記表面上に堆積させられる上記マスクは、メタライゼーションによって形成される金属コートであり;
‐上記メタライゼーションは、以下の技法:物理蒸着(Physical Vapour Deposition:PVD)、化学蒸着(Chemical Vapour Deposition:CVD)、プラズマ強化化学蒸着のうちの1つを用いた蒸着によって実施され;
‐上記金属コートは、厚さが1~1500nmの窒化クロムCrNのコートであり;
‐上記少なくとも部分的に透明の物体に構成されることになる上記偽造防止マーキングの上記プロファイルに上記輪郭が対応する上記少なくとも1つの開口は、フォトリソグラフィーによって上記金属コートに配設される。
【0020】
本発明の別の具体的実施形態によると、上記少なくとも部分的に透明の物体は、腕時計風防である。
【0021】
本発明の更なる特徴及び利点は、本発明による方法の実施形態の例についての以下の詳細な説明から、更に明らかになるだろう。この例は、添付の図面を参照して、純粋に例示的で、単に非限定的なものとして与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、上面上にマスキングコートが堆積された腕時計風防の断面図である。
図2図2は、マスキングコートが光感受性樹脂のコートで覆われた、図1の腕時計風防の断面図である。
図3図3は、光感受性樹脂のコートが露光され、この光感受性樹脂のコートの、露光された部分だけが重合している、図2の腕時計風防の断面図である。
図4図4は、図3の腕時計風防の断面図であり、この図は光感受性樹脂のコートの現像を示し、この光感受性樹脂のコートの、露光された部分だけが残り、露光されていない部分が除去されている。
図5図5は、マスキングコートの、露光された光感受性樹脂のコートに覆われていない部分が除去されている、図4の腕時計風防の断面図である。
図6図6は、光感受性樹脂のコートの残りが除去された、図5の腕時計風防の断面図であり、腕時計風防の上面は、マスクを形成するマスキング層で一部覆われ、上記マスクにおいて、開口の輪郭が、腕時計風防の厚さ内に構成されることになる偽造防止マーキングのプロファイルに対応する。
図7図7は、マスクの開口を介してイオンビームを用いて、腕時計風防に対して衝撃を発生させることによって、腕時計風防の偽造防止マーキングが形成された、図6の風防の断面図である。
図8図8は、アルカリ性pHの浴に入れられた図7の腕時計風防の断面図である。
図9図9は、光源を用いた偽造防止マーキングの検知を示す。
図10図10は、前面及び背面に反射防止コートを堆積させた腕時計風防の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、大規模製造サイクルに特定の困難なしに統合できる、少なくとも部分的に透明の物体の偽造防止マーキング方法を提案することからなる、一般発明概念から出発する。更に、本発明による方法に従って構成される、裸眼で視認できないマーキングは、実際には誰もが持っている単なる広域スペクトル光源を用いて検知できる。従って、本発明によってマーキングされた物体を認証できるようにするために、高価であることが多く、かつ検査の実施場所に常にあるとは保証されない専用のデコーダーを用いる必要はない。同様に、本発明に従って形成された偽造防止マーキングは事実上改変不可能であり、マーキングされた物体の破壊のみが、これらのマーキングを除去するための解決策となることが多い。
【0024】
以下の例では、腕時計のサファイア風防内での、本発明による方法に従った偽造防止マーキングの構成を説明する。当然のことながら、この例は単なる例として、限定を目的とすることなく与えられるものであり、本発明は、非晶質、半結晶性又は結晶性材料製の、あらゆる少なくとも部分的に透明の物体のマーキングに適用できる。
【0025】
全体として一般参照番号1で示されている、サファイア製の腕時計風防は、上面2と、上面2からある距離に延在する底面4とを備える。図示されている例では、偽造防止マーキングは腕時計風防1の上面2に形成される。当然のことながら、偽造防止マーキングは全く同様に、この腕時計風防1の底面4に形成することもできる。
【0026】
このような腕時計風防1を得た後、まず、腕時計風防1の厚さ内に構成しようとしている偽造防止マーキングのプロファイルに輪郭が対応する少なくとも1つの開口8を画定するマスク6を、その上面2に設けるステップを実施する。図示されていない本発明の第1の実施形態によると、マスク6は、偽造防止マーキングの輪郭が切り取られた別個の材料のシートであり、この材料のシートは、腕時計風防1の上面2に固定される。
【0027】
本発明による方法の好ましい実施形態によると、マスク6はフォトリソグラフィーによって、腕時計風防1の上面2に直接形成される。この目的のために、まず腕時計風防1の上面2を、マスク6が作製されることになる材料のマスキングコート10で覆うステップを実施する(図1を参照)。好ましくは1~1500nmの厚さを有するマスキングコート10は、以下の技法:物理蒸着、即ちPVD;化学蒸着、即ちCVD;又はプラズマ強化化学蒸着、即ちPECVDのうちの1つを用いた、窒化クロムCr、例えばCrN等の材料の蒸着によって形成できる。
【0028】
マスキングコート10を堆積させた後、これを光感受性樹脂のコート12で覆う(図2を参照)。続いて、この光感受性樹脂のコート12の露光された部分だけが重合するように、この光感受性樹脂のコート12を露光させる(図3を参照)。その後、光感受性樹脂のコート12を現像すると、この光感受性樹脂のコート12の露光された部分12aだけが残り、露光されていない部分12bが除去される(図4を参照)。最後に、マスキングコート10の、光感受性樹脂のコート12で覆われていない部分を、例えば化学エッチングによって除去し(図5を参照)、続いて光感受性樹脂のコート12の露光された部分12aを除去する。このようにして、上面2が、マスク6を形成するマスキングコート10で一部覆われ、このマスク6において、1つ以上の開口8の輪郭が、腕時計風防1の厚さ内に構成されることになる偽造防止マーキングのプロファイルに対応する、腕時計風防1が得られる(図6を参照)。
【0029】
マスキングコート10をフォトリソグラフィーによって適切に構成して、マスク6を形成した後、腕時計風防1の偽造防止マーキングが実施される。この目的のために(図7を参照)、マスク6の少なくとも1つの開口8を通して、腕時計風防1に1価又は多価イオンビーム14を衝突させ、ここでこのマスク6の機械的特性は、腕時計風防1の表面2の、この上面2がマスク6で覆われているエリアを、イオンビーム14のイオンがエッチングするのを防止するために十分なものである。本発明による方法の好ましい実施形態によると、腕時計風防1に対して、窒素N、酸素O、ヘリウムHe、炭素C、アルゴンAr、キセノンXe、又は四フッ化炭素CF若しくはメタンCHをイオン化することによって得られた炭素Cイオンを用いて、衝撃を発生させる。これらのイオンを加速させるために、ECR電子サイクロトロン共鳴型1価又は多価イオン源を使用できる。好ましくは、イオンは10kV~40kVの電圧で加速され、イオン注入量は3.1016~6.1016イオン/cmである。腕時計風防1に対して窒素Nイオンを用いて衝撃を発生させる特定の場合においては、窒素Nイオンは28kVの電圧で1.53s/cmの持続時間にわたって加速され、イオン注入量3.5.1016イオン/cmであり、イオンビーム強度は5.5mAである。
【0030】
所望の偽造防止マーキングを腕時計風防1の厚さ内に構成するための腕時計風防1のイオン衝撃の後、マスク6を除去してから、腕時計風防1をアルカリ性pHの浴16に入れる(図8を参照)。偽造防止マーキングの構成後に腕時計風防1を入れることができる好適な浴の例は、Borer社がdeconex OP 141の名称で市販している製品によって与えられる。これは、pHが13の水酸化カリウムベースの溶液からなる。
【0031】
本発明による方法に従って得られる偽造防止マーキング18は、裸眼では知覚不可能であるものの、広域スペクトル光源20、例えば発光ダイオードタイプの光源で照明することによって、非常に簡単に明らかにすることができる(図9を参照)。実際に、本発明による上記方法の上記ステップに従うことによって、偽造防止マーキング18が構成されたエリアにおいて、光源20によって照明されたときに極めてわずかではあるものの偽造防止マーキング18を検知できるようにするためには十分な反射率の変化を示す、透明の腕時計風防1が得られる。従って、本発明の顕著な利点の1つは、本発明の教示に従ってマーキングされた物体の真正性を保証できるようにするために、専用の、多くの場合高価な機器を用いる必要がないことである。例えば、本発明の必要性に好適な光源20は、白色温度が4700~5300°Kの、TANEO社がSTZL 24 Rの名称で市販している汎用ランプである。
【0032】
偽造防止マーキングの構成前に、腕時計風防1を事前洗浄して脱脂できる。
【0033】
腕時計風防1の厚さ内に偽造防止マーキングを構成した後、1つ以上の反射防止コート22、24を、腕時計風防1の上面2又は底面4のうちの一方又は他方に更に堆積させることができる(図10を参照)。1つ以上の反射防止コート22、24は例えば、シリカ(SiO)又はフッ化マグネシウム(MgF)を用いて形成される。シリカ製コートとフッ化マグネシウム製コートとを組み合わせることもできる。これらのコートの厚さは、個別に考慮した場合に通常150nm未満である。酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素及び酸化アルミニウム、並びに窒化ケイ素といった他の材料も、反射防止コートの形成に使用できる。これらの反射防止コート22、24は、蒸着によって堆積させることができる。想定できる堆積技法の中では、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、又は原子層堆積、即ちALDを挙げることができる。シリカ製コートとフッ化マグネシウム製コートとを組み合わせることもできる。これらのコートの厚さは、個別に考慮した場合に通常150nm未満である。酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素及び酸化アルミニウム、並びに窒化ケイ素といった他の材料も、反射防止コートの形成に使用できる。
【0034】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び単純な変形が考えられることは明らかである。特に、本発明はサファイア製の腕時計風防を参照して上で説明されている。しかしながら、本発明はこの特定の実施形態に限定されないこと、及び本発明は、好ましくは合成のサファイア、ルビー、又はダイヤモンドで作製された、いずれのタイプの少なくとも部分的に透明の物体に対しても適用可能であることは、明らかである。また本発明は、無機ガラス等の半結晶性有機材料製、又は非晶質有機材料製の、少なくとも部分的に透明の物体にも適用される。
【符号の説明】
【0035】
1 腕時計風防
2 上面
4 底面
6 マスク
8 開口
10 マスキングコート
12 光感受性樹脂のコート
12a 光感受性樹脂のコートの露光された部分
12b 光感受性樹脂のコートの露光されていない部分
14 イオンビーム
16 浴
18 偽造防止マーキング
20 光源
22、24 反射防止コート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10