(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】脂肪族アルコールの抽出
(51)【国際特許分類】
C12P 7/04 20060101AFI20240202BHJP
C07C 31/125 20060101ALI20240202BHJP
C07C 27/34 20060101ALI20240202BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
C12P7/04
C07C31/125
C07C27/34
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2022505433
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(86)【国際出願番号】 EP2020070765
(87)【国際公開番号】W WO2021018715
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-12-22
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ハース
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リヒター
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-218340(JP,A)
【文献】特開昭53-121713(JP,A)
【文献】特開昭63-044539(JP,A)
【文献】国際公開第2019/002240(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5~16個の炭素原子を有する脂肪族アルコールを水性培地から抽出する方法であり、
(a)前記脂肪族アルコールを前記水性培地から抽出培地へ抽出するのに十分な時間、前記水性培地内の前記脂肪族アルコールを、少なくとも1つの前記抽出培地に接触させ、
(b)前記脂肪族アルコールを含む前記抽出培地を前記水性培地から分離する工程
を有し、
前記抽出培地は、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシドを含み、
前記水性培地は、炭素源を前記脂肪族アルコールに転化することができる少なくとも1つの微生物に前記炭素源を接触させることにより、前記炭素源から前記脂肪族アルコールを生成する発酵培地であり、前記発酵培地は再利用される、方法。
【請求項2】
前記微生物は、
(i)前記炭素源を酢酸塩および/またはエタノールに転化することができる酢酸生成微生物である第1微生物と、炭素鎖を伸長するための微生物であり、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)およびクロストリジウム・カルボキシディボランス(C.Carboxidivorans)からなる群から選択され、前記酢酸塩および/または前記エタノールを転化して酸を生成することができる第2微生物と、の混合体であるか、あるいは
(ii)前記炭素源を前記脂肪族アルコールに転化することができるクロストリジウム・カルボキシディボランス(C.carboxidivorans)であり、
前記第1微生物はさらに、前記酸を対応する脂肪族アルコールに転化することができる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記抽出培地はさらに、12~18個の炭素原子を有するアルカンを少なくとも1つ含む、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記アルカンはヘキサデカンである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記アルカンは分岐鎖状アルカンである、請求項3または請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪族アルコールはヘキサノールである、請求項1~請求項5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記アルカンに対する、前記少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシドの重量比は、1:100~1:10の間である、請求項
3~請求項
5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記水性培地のpHは5.5~7の間に維持されている、請求項1~請求項7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記トリアルキルホスフィンオキシドは、トリオクチルホスフィンオキシドである、請求項1~請求項8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記抽出培地は再利用される、請求項1~請求項9のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族アルコールを水性培地から抽出する方法に関する。特に、本方法は、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシドと、必要に応じて少なくとも1つのアルカンと、を使用する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族アルコールは、当技術分野においていくつかの役割を持っている。例えば、それらは、ポリマー、医薬品、溶剤、および食品添加物の製造に使用され得る。
【0003】
特許文献1は、有機溶媒を含む有機溶媒系を用いてアルコール水溶液を抽出する工程を含む、アルコールの生成方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、サトウキビまたはサトウキビから得られた生成物を、抽出原料として、未臨界状態または超臨界状態の流体に接触させる工程を含む、第一級ノルマル脂肪族高級アルコールの回収方法を開示している。
【0005】
したがって、当技術分野では、脂肪族アルコール、特に工業規模で生成された脂肪族アルコールを抽出するためのより安価でより効率的な抽出方法が必要とされている。さらに、脂肪族アルコールを生成する生物工学的方法と関連付けて使用することができる脂肪族アルコールの抽出方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開番号第1985/000805号
【文献】米国特許第4714791号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、当技術分野で利用可能な現在の方法よりも効率的かつ安価な脂肪族アルコールの抽出手段を提供することにより、上記課題の解決を試みる。本発明はまた、脂肪族アルコールを生成する生物工学的方法と組み合わせて使用することができる脂肪族アルコールの抽出手段を提供する。
【0008】
本発明の一態様によれば、脂肪族アルコールを水性培地から抽出する方法であり、
(a)前記脂肪族アルコールを前記水性培地から抽出培地へ抽出するのに十分な時間、前記水性培地内の前記脂肪族アルコールを、少なくとも1つの前記抽出培地に接触させ、
(b)前記脂肪族アルコールを含む前記抽出培地を前記水性培地から分離する工程
を有し、
前記抽出培地は、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)と、必要に応じて少なくとも1つのアルカンと、を含み、
前記脂肪族アルコールは、炭素源を前記脂肪族アルコールに転化することができる少なくとも1つの微生物に前記炭素源を接触させることにより、前記炭素源から生成される、方法が提供される。
【0009】
前記微生物は、
(i)前記炭素源を酢酸塩および/またはエタノールに転化することができる酢酸生成微生物である第1微生物と、炭素鎖を伸長するための微生物であり、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)およびクロストリジウム・カルボキシディボランス(C.Carboxidivorans)からなる群から選択され、前記酢酸塩および/または前記エタノールを転化して酸を生成することができる第2微生物と、の混合体であるか、あるいは
(ii)前記炭素源を前記脂肪族アルコールに転化することができるクロストリジウム・カルボキシディボランス(C.carboxidivorans)であり、
前記第1微生物はさらに、前記酸を対応する脂肪族アルコールに転化することができる。
【0010】
好ましくは、前記アルカンは少なくとも12個の炭素原子を含む。
【0011】
特に、本発明の任意の態様に係る抽出方法は、使用する抽出剤の量に応じて収率を増加させることができる。例えば、50重量%未満の抽出培地を使用すると、純粋なアルカンのみを使用した場合と同量の脂肪族アルコールを抽出することができる。したがって、少量の抽出培地で、より多くの脂肪族アルコールを抽出することができる。抽出培地は微生物に対して有害でもない。したがって、脂肪族アルコールを生物工学的に生成する場合は、本発明の任意の態様に係る抽出培地が存在してよい。さらに、脂肪族アルコールは、蒸留により、本発明の任意の態様に係る抽出培地から容易に分離することができる。分離後、例えば蒸留により、抽出培地は容易に再利用できる。
【0012】
本発明の任意の態様に係る方法は、少なくとも1つの脂肪族アルコールを水性培地から抽出する方法であってよい。単離された脂肪族アルコールは、当該脂肪族アルコールが生成された培地から分離され得る少なくとも1つの脂肪族アルコールを指してよい。一例では、脂肪族アルコールは、水性培地(例:脂肪族アルコールが炭素源の特異的細胞により生成される発酵培地)で生成されてよい。単離された脂肪族アルコールは、水性培地から抽出されたその脂肪族アルコールを指してよい。特に、当該抽出工程により、水性培地から過剰の水を分離することができ、その結果、抽出された脂肪族アルコールを含む混合物が生成される。
【0013】
抽出培地(extracting medium)は、「抽出培地(extraction medium)」と呼ばれることもある。抽出培地は、本発明の任意の方法に従って生成された脂肪族アルコールを、当該脂肪族アルコールが最初に生成された水性培地から、抽出/単離するために使用されてよい。抽出工程の最後に、水性培地から過剰な水を取り除いてよく、その結果、抽出された脂肪族アルコールを含む抽出培地が得られる。抽出培地は、水性培地から脂肪族アルコールを抽出する効率的な手段をもたらし得る化合物の組み合わせを含んでいてもよい。特に、抽出培地は、(i)少なくとも12個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルカンと、(ii)少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシドと、を含んでいてもよい。本発明の任意の態様に係る抽出培地は、脂肪族アルコールを、アルカントリアルキルホスフィンオキシド抽出培地に効率的に抽出することができる。このトリアルキルホスフィンオキシドと少なくとも1つのアルカンとの混合物の抽出培地は、発酵培地の存在下で所望の脂肪族アルコールを抽出する際に当該混合物が効率的に機能するので、本発明の任意の態様に係る方法に適していると考えられる。特に、トリアルキルホスフィンオキシドと少なくとも1つのアルカンとの混合物は、特別な装置を稼働する必要がなく、比較的簡単に機能し、高い生成物収率が得られるので、当技術分野で現在知られているどの脂肪族アルコールの抽出方法よりも良好に作用すると考えられる。
【0014】
アルカンは、少なくとも12個の炭素原子を有していてもよい。特に、アルカンは、12~18個の炭素原子を有していてもよい。一例では、アルカンは、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、およびオクタデカンからなる群から選択されてもよい。別の例では、抽出培地は、アルカンの混合物を含んでいてもよい。別の例では、アルカンは分岐鎖状アルカンであってもよい。特に、分岐鎖状アルカンはスクアレンであってよい。
【0015】
トリアルキルホスフィンオキシドは、一般式OPX3(式中、Xはアルキルである。)で表される。本発明の任意の態様に係る適切なトリアルキルホスフィンオキシドは、直鎖状、分岐鎖状または環状炭化水素から構成されるアルキル基を有しており、前記炭化水素は、1~約100個の炭素原子と、1~約200個の水素原子から構成される。特に、本発明の任意の態様に係るトリアルキルホスフィンオキシドに関して使用される「アルキル」は、1~20個の炭素原子、しばしば4~15個の炭素原子、または6~12個の炭素原子を有する炭化水素基を指してよく、直鎖状、環状、分岐鎖状、またはこれらの混合体であってよい。Xは、1つの分子内の同一のまたは異なるアルキルラジカルであってもよい。1つのトリアルキルホスフィンオキシド分子中に異なるアルキルラジカルが存在する場合、当該アルキルラジカルは、C8およびC10から選択されることが好ましい。典型的には、トリアルキルホスフィンオキシドは、トリブチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0016】
より具体的には、トリアルキルホスフィンオキシドは、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)であってよい。トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)は、式OP(C8H17)3で表される有機リン化合物である。少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)は、少なくとも1つのアルカンとともに、抽出培地内に存在してよい。特に、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)と、少なくとも12個の炭素原子を有するアルカンと、の混合物は、アルカンに対する、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)の重量比が約1:100~1:10であってよい。より具体的には、本発明の任意の態様に係る抽出媒体中でのアルカンに対する、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)の重量比は、約1:100、1:90、1:80、1:70、1:60、1:50、1:40、1:30、1:25、1:20、1:15、または1:10であってよい。さらに具体的には、アルカンに対する、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)の重量比は、1:90~1:10、1:80~1:10、1:70~1:10、1:60~1:10、1:50~1:10、1:40~1:10、1:30~1:10、または1:20~1:10の範囲内で選択されてよい。アルカンに対する、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)の重量比は、1:40~1:15または1:25~1:15であってよい。一例では、アルカンに対する、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)の重量比は、約1:15であってよい。この例では、アルカンは、ヘキサデカンであってよく、したがって、ヘキサデカンに対する、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)の重量比は、約1:15であってよい。
【0017】
本明細書で使用される用語「約(about)」は、20%以内の変動を指す。特に、本明細書で使用される用語「約(about)」は、所与の測定値または値の+/-20%、より具体的には+/-10%、よりいっそう具体的には+/-5%を指す。
【0018】
好ましい本発明に係る方法では、抽出培地は、ホスフィンオキシドとは別に第2の有機成分を含む。第2有機成分は、少なくとも12個の炭素原子を有する。第2有機成分は、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、およびスクアレン、または白色鉱油(Fragoltherm-Q-32-N)などのアルカンの混合物からなる群から選択されてよい直鎖状または分岐鎖状アルカンである。さらに、第2有機成分は、ジイソプロピルビフェニル、部分的に水素化されたターフェニル、ジベンジルトルオール、およびジイソプロピルナフタレン、またはソルベッソ200(Solvesso 200)などの芳香族溶媒の混合物からなる群から選択されてよい芳香族炭化水素を含んでいてよい。第2有機成分として、オレイルアルコール、2-オクチルドデカノール、および2-ヘキシルドデカノールからなる群から選択されてよいアルコールを使用することもできる。
【0019】
本発明の任意の態様に係る抽出培地は、脂肪族アルコールを抽出培地に効率的に抽出することができる。アルキルホスフィンオキシド分子あたり少なくとも2つの異なるアルキルラジカルを含む少なくとも1つのアルキルホスフィンオキシドと、少なくとも1つのアルカンと、の混合物の抽出培地は、水性生成培地の存在下で所望の脂肪族アルコールを抽出する際に当該混合物が効率的に機能するので、本発明の任意の態様に係る方法に適していると考えられる。アルカンは、直鎖状または分岐鎖状アルカンであってよい。一例では、アルカンは分枝鎖状アルカンであってよく、分枝鎖状アルカンはスクアレンであってよい。
【0020】
別の例では、アルキルホスフィンオキシド分子あたり少なくとも2つの異なるアルキルラジカルを含む少なくとも1つのアルキルホスフィンオキシドと、少なくとも1つの部分的に水素化された芳香族炭化水素と、の混合物の抽出培地は、水性生成培地の存在下で所望の有機酸および/またはアルコールを抽出する際に当該混合物が効率的に機能するので、本発明の任意の態様に係る方法に適していると考えられる。特に、アルキルホスフィンオキシド分子あたり少なくとも2つの異なるアルキルラジカルを含む少なくとも1つのアルキルホスフィンオキシドと、少なくとも1つの部分的に水素化された芳香族炭化水素と、の混合物は、特別な装置を稼働する必要がなく、比較的簡単に機能し、高い生成物収率が得られるので、当技術分野で現在知られているどの方法よりも良好に作用すると考えられる。さらに、アルカンまたは部分的に水素化された芳香族溶媒と組み合わせた、本発明の任意の態様に係る抽出培地は微生物に対して毒性もない。
【0021】
本発明の任意の態様に係る工程(a)では、水性培地中の脂肪族アルコールは、水性培地から抽出培地に脂肪族アルコールを抽出するのに十分な時間、抽出培地と接触されてよい。当業者であれば、分布平衡に達するまでに必要な時間と、抽出工程を最適化するために必要となり得る適切なバブル凝集と、を特定することができる。必要時間は、抽出され得る脂肪族アルコールの量に左右される例もある。特に、脂肪族アルコールを水性培地から抽出培地へ抽出するのに必要な時間は、ほんの数分しかかからない場合がある。発酵と同時に抽出が行われる例では、抽出時間は発酵時間と同等である。
【0022】
抽出予定の脂肪族アルコール量に対する、使用される抽出培地の比率は、抽出が行われる速さに応じて変動してよい。一例では、抽出培地の量は、脂肪族アルコールを含む水性培地の量に等しい。抽出培地を水性培地と接触させる工程の後、2つの相(水性相および有機相)は、当技術分野で知られている任意の手段を用いて分離される。一例では、分液漏斗を使用して2つの相を分離してよい。また、2つの相は、ミキサセトラ(mixer-settlers)、パルスカラム(pulsed columns)などを使用して分離されてもよい。一例では、脂肪族アルコールがヘキサノールである場合、ヘキサノールは抽出培地よりも著しく低い沸点で蒸留するという事実を考慮して、ヘキサノールからの抽出培地の分離は、蒸留を用いて実施されてよい。当業者であれば、抽出したい脂肪族アルコールの特性に応じて、工程(b)において、抽出培地を所望の脂肪族アルコールから分離する最良の方法を選択することができる。特に、本発明の任意の態様に係る工程(b)には、工程(a)の脂肪族アルコールの回収が含まれる。
工程(b)は、好ましくは工程(0)でリサイクルまたはリユースするために再び利用可能になされた有機吸収剤で終了することが好ましい(以下を参照)。
【0023】
脂肪族アルコールは、2~16個、好ましくは5~12個の炭素原子を有する脂肪族アルコールからなる群から選択されることが好ましい。より具体的には、脂肪族アルコールは、4~16個、4~14個、4~12個、4~10個、5~16個、5~14個、5~12個、5~10個、6~16個、6~14個、6~12個、または6~10個の炭素原子を有する脂肪族アルコールからなる群から選択されてよい。特に、脂肪族アルコールは、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、およびオクタノールからなる群から選択されてよい。さらに具体的には、脂肪族アルコールは、ブタノールおよびヘキサノールからなる群から選択されてよい。特に、脂肪族アルコールはヘキサノールである。
【0024】
脂肪族アルコールを生成することができる微生物が、当技術分野で一般に知られている、細菌を培養するための任意の培地、基質、条件、および方法で培養され得る例もある。これにより、生物工学的方法を使用して脂肪族アルコールを生成することができる。脂肪族アルコールの生成に用いられる微生物に応じて、適切な増殖培地、pH、温度、攪拌速度、接種レベル、および/または好気性、微好気性もしくは嫌気性条件が変わる。当業者であれば、本発明の任意の態様に係る方法を実施するために必要な他の条件を理解するであろう。特に、容器(例:発酵槽)内の条件は、使用される微生物に応じて変わってよい。微生物の最適な働きに適した条件の変動は、当業者の知識の範囲内である。
【0025】
一例では、本発明の任意の態様に係る方法は、pHが5~8の間、または5.5~7の間である水性培地中で実施されてよい。圧力は、1~10バールの間であってよい。微生物は、約20℃~約80℃の範囲の温度で培養されてよい。一例では、微生物は、37℃で培養されてよい。
【0026】
微生物の増殖と脂肪族アルコールの生成のために、水性培地が、微生物の増殖または脂肪族アルコールの生成促進に適した任意の栄養素、成分、および/またはサプリメントを含んでいてもよい例もある。特に、水性培地は、以下の少なくとも1つを含んでいてもよい:炭素源、アンモニウム塩などの窒素源、酵母エキス、またはペプトン;ミネラル;塩;補因子;緩衝剤;ビタミン;および細菌の増殖を促進し得るその他の成分および/または抽出物。使用する培地は、特定の菌株の要件に適している必要がある。多様な微生物の培地の説明は、「Manual of Methods for General Bacteriology」に記載されている。
【0027】
したがって、本発明の任意の態様に係る脂肪族アルコールの抽出方法は、脂肪族アルコールを生成する任意の生物工学的方法と共に使用されてよい。通常では、生物学的方法を使用して脂肪族アルコールを生成する発酵工程時に、脂肪族アルコールが水性培地に回収されたままになり、発酵培地中で特定の濃度に達した後、まさに標的である生成物(脂肪族アルコール)が微生物の活動および生産力を阻害するので、これは特に有利である。よって、これは発酵工程の全体的な収率を制限する。この抽出方法を使用すると、脂肪族アルコールが生成されると同時に脂肪族アルコールが抽出されるので、最終生成物阻害が大幅に減少する。
【0028】
本発明の任意の態様に係る方法はまた、脂肪族アルコールを回収するための蒸留および/または沈殿に全く依存しないので、脂肪族アルコールが生成されると同時に特に発酵方法から脂肪族アルコールを除去する従来の方法よりも、効率的かつ費用効果が高い。蒸留または沈殿工程は、製造コストの上昇、収率の低下、そして廃棄物の増加をもたらし、方法の全体的な効率が低下する可能性がある。本発明の任意の態様に係る方法は、これらの欠点の克服を試みる。
【0029】
一例では、脂肪族アルコールはヘキサノールである。この例では、ヘキサノールは、少なくとも1つの炭素源、例えば、合成ガスから生成されてよい。
【0030】
合成ガスは、少なくとも1つの酢酸生成細菌および/または水素酸化細菌の存在下でヘキサノールに転化されてよい。特に、当技術分野で知られている任意の方法が使用されてよい。ヘキサノールは、少なくとも1種の原核生物による合成ガスから生成されてよい。特に、原核生物は、大腸菌(Escherichia coli)などのエスケリキア属(Escherichia)、クロストリジウム・ルジュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・カルボキシディボランス(Clostridium carboxidivorans)、もしくはクロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)などのクロストリジウム属(Clostridia)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)などのコリネバクテリウム属(Corynebacteria)、カプリアビダス・ネケーター(Cupriavidus necator)もしくはカプリアビダス・メタリデュランス(Cupriavidus metallidurans)などのカプリアビダス属(Cupriavidus)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、もしくはシュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleavorans)などのシュードモナス属(Pseudomonas)、デルフチア・アシドボランス(Delftia acidovorans)などのデルフチア属(Delftia)、枯草菌(Bacillus subtillis)などのバシラス属(Bacillus)、ラクトバシラス・デルブルエッキイー(Lactobacillus delbrueckii)などのラクトバシラス属(Lactobacillus)、またはラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)などのラクトコッカス属(Lactococcus)からなる群から選択されてよい。
【0031】
別の例では、ヘキサノールは、炭素源、例えば、少なくとも1種の真核生物による合成ガスから生成されてよい。本発明の方法で使用される真核生物は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス属(Aspergillus)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などのサッカロマイセス属(Saccharomyces)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア属(Pichia)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などのヤロウイア属(Yarrowia)、イッサチェンキア・オリエンタリス(Issathenkia orientalis)などのイッサチェンキア属(Issatchenkia)、デバリオマイセス・ハンセニイ(Debaryomyces hansenii)などのデバリオマイセス属(Debaryomyces)、アークスラ・アデニニボランス(Arxula adenoinivorans)などのアークスラ属(Arxula)、またはクルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)などのクルイベロマイセス属(Kluyveromyces)から選択されてよい。
【0032】
本明細書で使用される用語「酢酸生成細菌(acetogenic bacteria)」は、ウッド-リュングダール経路(Wood-Ljungdahl pathway)を使用することができ、その結果CO、CO2、および/または水素を酢酸塩に転化することができる微生物を指す。これらの微生物には、野生型ではウッド-リュングダール経路を持たないが、遺伝子組み換えの結果、この形質を獲得した微生物が含まれる。そのような微生物として大腸菌細胞があるが、これに限定されない。これらの微生物は、カルボキシド栄養性(carboxydotrophic)細菌としても知られ得る。現在、酢酸生成細菌の21種の異なる属が当技術分野で知られており(ドレイクら、2006年)、これらにはいくつかのクロストリジウムも含まれ得る(ドレイク&クーゼル、2005年)。これらの細菌は、エネルギー源として水素を使用するとともに、炭素源として二酸化炭素または一酸化炭素を使用することができる(ウッド、1991年)。さらに、アルコール、アルデヒド、カルボン酸、および多数のヘキソースも炭素源として使用できる(ドレイクら、2004年)。酢酸塩の生成をもたらす還元的経路は、アセチル-CoA経路またはウッド-リュングダール経路と呼ばれる。特に、酢酸生成細菌は、アセトアナエロビウム・ノテラ(Acetoanaerobium notera)(ATCC 35199)、アセトネマ・ロンガム(Acetonema longum)(DSM 6540)、アセトバクテリウム・カルビノリカム(Acetobacterium carbinolicum)(DSM 2925)、アセトバクテリウム・マリクム(Acetobacterium malicum)(DSM 4132)、アセトバクテリウム属種No.446(モリナガら、1990年、J. Biotechnol.、第14巻、187~194頁)、アセトバクテリウム・ウィリンガエ(Acetobacterium wieringae)(DSM 1911)、アセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)(DSM 1030)、アルカリバクルム・バッキ(Alkalibaculum bacchi)(DSM 22112)、アルカエオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)(DSM 4304)、ブラウティア・プロダクタ(DSM 2950、以前はルミノコッカス・プロダクタス(Ruminococcus productus)、以前はペプトストレプトコッカス・プロダクタス(Peptostreptococcus productus))、ブチリバクテリウム・メチロトロフィカム(Butyribacterium methylotrophicum)(DSM 3468)、クロストリジウム・アセチカム(Clostridium aceticum)(DSM 1496)、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)(DSM 10061、DSM 19630およびDSM 23693)、クロストリジウム・カルボキシディボランス(Clostridium carboxidivorans)(DSM 15243)、クロストリジウム・コスカッティ(Clostridium coskatii)(ATCC No. PTA-10522)、クロストリジウム・ダラケイ(Clostridium drakei)(ATCC BA-623)、クロストリジウム・フォルミコアセチカム(Clostridium formicoaceticum)(DSM 92)、クロストリジウム・グリコリクム(Clostridium glycolicum)(DSM 1288)、クロストリジウム・ルジュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)(DSM 13528)、クロストリジウム・ルジュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)(ATCC 55988)、クロストリジウム・ルジュングダーリイERI-2(Clostridium ljungdahlii ERI-2)(ATCC 55380)、クロストリジウム・ルジュングダーリイO-52(Clostridium ljungdahlii O-52)(ATCC 55989)、クロストリジウム・マヨムベイ(Clostridium mayombei)(DSM 6539)、クロストリジウム・メトキシベンゾボランス(Clostridium methoxybenzovorans)(DSM 12182)、クロストリジウム・ラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)(DSM 15248)、クロストリジウム・スカトロゲネス(Clostridium scatologenes)(DSM 757)、クロストリジウム属種ATCC 29797(シュミットら、1986年、Chem. Eng. Commun.、第45巻、61~73頁)、デスルホトマクルム・クズネツォビイ(Desulfotomaculum kuznetsovii)(DSM 6115)、デスルホトマクルム・サーモベゾイカム亜種サーモシントロフィカム(Desulfotomaculum thermobezoicum subsp. thermosyntrophicum)(DSM 14055)、ユウバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)(DSM 20543)、メタノサルキナ・アセチボランスC2A(Methanosarcina acetivorans C2A)(DSM 2834)、ムーレラ属HUC22-1(Moorella sp. HUC22-1)(サカイら、2004年、Biotechnol. Let.、第29巻、1607~1612頁)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)(DSM 521、以前はクロストリジウム・サーモアセチカム(Clostridium thermoaceticum))、ムーレラ・サーモオートトロフィカ(Moorella thermoautotrophica)(DSM 1974)、オキソバクター・フェニギイ(Oxobacter pfennigii)(DSM 322)、スポロミュサ・アエリボランス(Sporomusa aerivorans)(DSM 13326)、スポロミュサ・オバータ(Sporomusa ovata)(DSM 2662)、スポロミュサ・シルバセティカ(Sporomusa silvacetica)(DSM 10669)、スポロミュサ・スフェロイデス(Sporomusa sphaeroides)(DSM 2875)、スポロミュサ・テルミチダ(Sporomusa termitida)(DSM 4440)、およびサーモアナエロバクター・キブイ(Thermoanaerobacter kivui)(DSM 2030、以前はアセトゲニウム・キブイ(Acetogenium kivui))からなる群から選択されてよい。
【0033】
より具体的には、クロストリジウム・カルボキシジボランスのATCC BAA-624菌株を使用してよい。さらに具体的には、例えば米国特許公開公報第2007/0275477号および米国特許公開公報第2008/0057554号に記載されているようなクロストリジウム・カルボキシジボランスの「P7」および「P11」とラベル付けされた細菌株を使用してよい。
クロストリジウム・カルボキシジボランス中でのCO2を含む合成ガスからのヘキサノールの生成は、特に、ネヴェーラら、Journal of Chemical Technology&Biotechnology 92(4)、2017年4月に教示されている。
【0034】
別の特に適切な細菌は、クロストリジウム・ルジュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)であってよい。特に、クロストリジウム・ルジュングダーリイPETC(Clostridium ljungdahlii PETC)、クロストリジウム・ルジュングダーリイERI2(Clostridium ljungdahlii ERI2)、クロストリジウム・ルジュングダーリイCOL(Clostridium ljungdahlii COL)、およびクロストリジウム・ルジュングダーリイO-52(Clostridium ljungdahlii O-52)からなる群から選択した菌株を、合成ガスのヘキサノールへの転化に使用してよい。これらの菌株は、例えば、国際公開公報第98/00558号、国際公開公報第00/68407号に記載されており、ATCC 49587、ATCC 55988、およびATCC 55989である。
【0035】
酢酸生成細菌は、水素酸化細菌と組み合わせて使用されてよい。一例では、酢酸生成細菌と水素酸化細菌の両方を使用して、炭素源(例えば、合成ガス)からヘキサノールを生成してよい。別の例では、酢酸生成細菌のみを合成ガスの代謝に使用して、炭素源(例えば、合成ガス)からヘキサノールを生成してよい。さらに別の例では、水素酸化細菌のみをこの反応に使用してよい。
【0036】
水素酸化細菌は、アクロモバクター属(Achromobacter)、アシドチオバシラス属(Acidithiobacillus)、アシドボラックス属(Acidovorax)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、アナベナ属(Anabena)、アクウィフェクス属(Aquifex)、アルスロバクター属(Arthrobacter)、アゾスピリルム属(Azospirillum)、バシラス属(Bacillus)、ブラディリゾビウム属(Bradyrhizobium)、キュープリアビダス属(Cupriavidus)、デルキシア属(Derxia)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、ヘルバスピリルム属(Herbaspirillum)、ハイドロゲノバクター属(Hydrogenobacter)、ハイドロゲノバクルム属(Hydrogenobaculum)、ハイドロゲノファーガ属(Hydrogenophaga)、ハイドロゲノフィラス属(Hydrogenophilus)、ハイドロゲノサーモス属(Hydrogenothermus)、ハイドロゲノビブリオ属(Hydrogenovibrio)、イデオネーラ属菌種O1(Ideonella sp. O1)、キルピディア属(Kyrpidia)、メタッロスパエラ属(Metallosphaera)、メタノブレウィバクテル属(Methanobrevibacter)、マイコバクテリウム属(Myobacterium)、ノカルディア属(Nocardia)、オリゴトロファ属(Oligotropha)、パラコッカス属(Paracoccus)、ペロモナス属(Pelomonas)、ポラロモナス属(Polaromonas)、シュードモナス属(Pseudomonas)、シュードノカルディア属(Pseudonocardia)、リゾビウム属(Rhizobium)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)、ロドスピリルム属(Rhodospirillum)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、
チオカプサ属(Thiocapsa)、トレポネーマ属(Treponema)、バリオボラックス属(Variovorax)、キサントバクター属(Xanthobacter)、およびオーテルシア属(Wautersia)からなる群から選択されてよい。
【0037】
炭素源、例えば合成ガスからのヘキサノールの生成では、細菌の組み合わせを使用してもよい。1つまたは複数の水素酸化細菌と一緒に複数の酢酸生成細菌が存在してもよい。別の例では、複数の種類の酢酸生成細菌のみが存在してもよい。さらに別の例では、複数の水素酸化細菌のみが存在してもよい。カプロン酸としても知られているヘキサン酸は、一般式C5H11COOHで表される。
【0038】
特に、ヘキサンの生成方法は、以下の工程:
炭素源、例えば合成ガスを、ウッド-リュングダール経路を使用でき、かつ鎖伸長できる少なくとも1つの細菌と接触させ、ヘキサノールを生成する工程
を含んでもよい。
【0039】
特に、微生物は、
(i)炭素源を酢酸塩および/またはエタノールに転化することができる酢酸生成微生物である第1微生物と、炭素鎖を伸長するための微生物であり、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)およびクロストリジウム・カルボキシディボランス(C.Carboxidivorans)からなる群から選択され、酢酸塩および/またはエタノールを転化して酸を生成することができる第2微生物と、の混合体であるか、あるいは
(ii)炭素源を脂肪族アルコールに転化することができるクロストリジウム・カルボキシディボランス(C.carboxidivorans)
であってよく、
第1微生物はさらに、酸を対応する脂肪族アルコールに転化することができる。
【0040】
本明細書で使用される用語「接触(contacting)」は、培地中の脂肪族アルコールと、工程(a)の抽出培地と、を直接接触させること、および/または微生物と、炭素源、例えば合成ガスと、を直接接触させることを意味する。例えば、細胞と、炭素源を含む培地と、は、異なるコンパートメントに存在してもよい。特に、炭素源は、気体状態であってもよく、本発明の任意の態様に係る細胞含有培地に添加されてよい。
【0041】
一例では、炭素源、例えば合成ガスからのヘキサノールの生成は、鎖伸長可能細菌を用いてヘキサノールを生成することができる細菌と、酢酸生成細菌と、の併用を含んでもよい。一例では、酢酸生成細菌と、鎖伸長可能細菌と、の両方を使用して、炭素源、例えば合成ガスからヘキサノールを生成してもよい。例えば、クロストリジウム・ルジュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)をクロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)と同時に使用してもよい。別の例では、炭素源、例えば合成ガスの代謝のために酢酸生成細菌のみを使用して、炭素源、例えば合成ガスからヘキサノールを生成してもよい。この例では、酢酸生成細菌は、鎖伸長とウッド-リュングダール経路との両方を行うことができてよい。一例では、酢酸生成細菌は、ウッド-リュングダール経路と鎖伸長との両方を行い得るクロストリジウム・カルボキシディボランス(C. carboxidivorans)であってよい。
【0042】
鎖伸長を行うことができる生物は、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)、クロストリジウム・カルボキシディボランス(C. Carboxidivorans)などからなる群から選択されてよい。これらの微生物には、野生型では鎖伸長を行う能力を持たないが、遺伝子組み換えの結果、この形質を獲得した微生物が含まれる。特に、微生物はクロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)であってよい。
【0043】
一例では、本発明の任意の態様に係る使用される細菌は、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)およびクロストリジウム・カルボキシジボランス(C. Carboxidivorans)からなる群から選択される。
【0044】
特に、細胞は、単糖(例:グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、アラビノース、またはキシルロース)、二糖(例:ラクトース、またはスクロース)、オリゴ糖、多糖(例:デンプン、またはセルロース)、一炭素基質、および/またはそれらの混合物を含む炭素源と接触させられる。より具体的には、細胞は、COおよび/またはCO2を含む炭素源と接触させられて、脂肪族アルコールを生成する。
【0045】
二酸化炭素および/または一酸化炭素を含む基質の供給源に関して、当業者であれば、炭素源としてのCOおよび/またはCO2を提供するための供給源となり得るものが多数存在することを理解するであろう。実際には、本発明の炭素源として、微生物に十分な量の炭素を供給することができる任意のガスまたは任意のガス混合物を使用することができ、その結果、酢酸塩および/またはエタノールがCOおよび/またはCO2の供給源から生成され得ることが分かる。
【0046】
一般に、本発明の細胞の場合、炭素源は、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、特に少なくとも90重量%のCO2および/またはCOを含んでおり、重量%の百分率は、本発明の任意の態様に係る細胞に利用可能なすべての炭素源に関係する。炭素材料源は提供されてよい。
【0047】
気体形態の炭素源の例には、排気ガス(例:合成ガス、煙道ガス、酵母発酵またはクロストリジウム発酵によって生成される石油精製ガス)がある。これらの排気ガスは、セルロース含有材料のガス化または石炭ガス化から生じる。一例では、これらの排気ガスは、必ずしも他の方法の副産物(by-products)として生成されるわけでなく、本発明の混合培養で使用するために特別に生成されてよい。
【0048】
本発明の任意の態様によれば、本発明の任意の態様に係る工程(a)(以下を参照)で使用される酢酸塩および/またはエタノールの製造のための炭素源は、合成ガスであってよい。合成ガスは、例えば、石炭ガス化の副産物として生成されてよい。したがって、本発明の任意の態様に係る微生物は、廃棄物質を価値のある資源に転化することができる。
【0049】
別の例では、合成ガスは、置換有機化合物および非置換有機化合物を生成するための本発明の混合培養で使用する広く入手可能な低コストの原材料農産物のガス化の副産物であってよい。
【0050】
ほとんどすべての形態の植物をこの目的に使用できるので、合成ガスに転化することができる原料の例は、数多くある。特に、原料は、多年生草(例:ススキ)、トウモロコシ残渣、加工廃棄物(例:おがくず)などからなる群から選択される。
【0051】
一般に、合成ガスは、主に熱分解、部分酸化、および水蒸気改質によって、乾燥バイオマスのガス化装置で得ることができ、合成ガスの一次生成物は、CO、H2、およびCO2である。合成ガスは、CO2の電気分解による生成物であってもよい。当業者であれば、所望量のCOを含む合成ガスを生成するためのCO2の電気分解を実施する適切な条件が分かるであろう。
【0052】
通常、ガス化方法から得られた合成ガスの一部は、生成物の収率を最適化し、タールの生成を避けるために、最初に処理される。合成ガス中の不要なタールとCOの分解(クラッキング:cracking)は、石灰および/またはドロマイトを使用して行われてよい。これらの方法は、例えば、リード、1981年に詳細に記載されている。
【0053】
本発明に係る方法の全体的な効率、脂肪族アルコールの生産性、および/または全体的な炭素回収率は、連続ガスフロー中のCO2、CO、およびH2の化学量論に左右され得る。適用される連続ガスフローは、CO2とH2の複合物であってよい。特に、連続ガスフローにおいて、CO2の濃度範囲は、約10~50重量%、特に3重量%であってよく、H2は、44~84重量%、特に64~66.04重量%以内である。別の例では、連続ガスフローはまた、N2のような不活性ガスを、最大で50重量%のN2濃度まで含んでもよい。
【0054】
供給源の混合物は、炭素源として使用できる。
【0055】
本発明の任意の態様によれば、還元剤、例えば水素を、炭素源と一緒に供給してもよい。特に、この水素は、Cおよび/またはCO2が供給および/または使用されるときに供給されてよい。一例では、水素ガスは、本発明の任意の態様に従って存在する合成ガスの一部である。別の例では、合成ガス中の水素ガスが本発明の方法に対して不足している場合、追加の水素ガスを供給してもよい。一例では、水素は水の電気分解による生成物であってよい。
【0056】
一例では、脂肪族アルコールはヘキサノールである。より具体的には、COおよび/またはCO2を含む炭素源は、連続ガスフロー中で細胞に接触する。さらに具体的には、連続ガスフローは合成ガスを含む。これらのガスは、例えば、水性培地に通じるノズル、フリット、水性培地にガスを供給するパイプ内の膜などを使用して供給されてよい。
【0057】
当業者であれば、適切な間隔でストリームの組成と流量を監視する必要があることが分かるだろう。ストリームの組成の制御は、構成要素ストリームの割合を変化させて、目標のまたは望ましい組成を達成することによって行われ得る。混合ストリームの組成と流量は、当技術分野で知られている任意の手段によって監視することができる。一例では、当該システムは、少なくとも2つのストリームの流量と組成を連続的に監視し、それらを組み合わせて、最適な組成を有する連続ガスフロー中における単一の混合基質ストリームと、最適化された基質ストリームを発酵槽に渡すための手段と、を生成するようになされている。
【0058】
用語「水溶液(an aqueous solution)」または「培地(medium)」には、水、主に、本発明の任意の態様に係る細胞を、少なくとも一時的に、代謝的に活性な状態および/または生存可能な状態に維持するために使用され得る溶媒としての水を含む任意の溶液が含まれ、必要に応じて追加の基質も含まれる。当業者は、多数の水溶液(通常、培地と呼ばれ、細胞を維持および/または培養するために使用され得る)の調製に精通しており、例えば、大腸菌の場合はLB培地、クロストリジウム・ルジュングダーリイ(C. ljungdahlii)の場合はATCC1754-培地が使用され得る。不要な副産物による生成物の不要なコンタミを回避するために、水溶液として、複雑培地とは対照的に、最少培地(すなわち、細胞を代謝的に活性な状態および/または生存可能な状態に保つのに不可欠な塩および栄養素の最小限のセットしか含まないかなり単純な組成を有する培地)を使用することが有利である。例えば、M9培地を最少培地として使用してもよい。所望の生成物を生成するのに十分な時間、細胞を炭素源と共に培養する。例えば、少なくとも1時間、2時間、4時間、5時間、10時間、または20時間である。選択される温度は、本発明の任意の態様に係る細胞が触媒能力および/または代謝的活性を維持するような温度でなければならず、細胞がクロストリジウム・ルジュングダーリイ(C. ljungdahlii)細胞である場合、例えば10~42℃、好ましくは30~40℃、特に32~38℃である。本発明の任意の態様に係る水性培地には、脂肪族アルコールが生成される培地も含まれる。これは主に、溶液が実質的に水を含む培地を指す。一例では、脂肪族アルコールを生成するために細胞が使用される水性培地は、脂肪族アルコールの抽出のために抽出培地と接触するまさしくその培地である。
【0059】
特に、本発明の任意の態様に係る微生物と炭素源との混合物を、任意の既知のバイオリアクタまたは発酵槽中で使用して、本発明の任意の態様を実施してよい。一例では、脂肪族アルコールの生成から始まり、脂肪族アルコールの抽出で終わる、本発明の任意の態様に係る方法一切は、単一の容器内で行われる。したがって、脂肪族アルコールの生成工程と脂肪族アルコールの抽出工程との間に分離工程がない場合がある。これにより、時間とコストを節約できる。特に、発酵工程時、微生物が、水性培地中、抽出培地の存在下で増殖してよい。したがって、本発明の任意の態様に係る方法は、脂肪族アルコールを生成するワンポット手段を提供する。また、脂肪族アルコールは生成と同時に抽出されるので、最終生成物の阻害が生じず、脂肪族アルコールの収率が維持される。脂肪族アルコールを除去するために、さらなる分離工程を実施してもよい。漏斗、カラム、蒸留などを使用するような当技術分野で知られている任意の分離方法を使用してよい。その後、残りの抽出培地および/または細胞を再利用してよい。
【0060】
別の例では、抽出工程を別個の工程として、および/または別のポットで行ってもよい。発酵が行われ、抽出したい脂肪族アルコールが既に生成された後、本発明の任意の態様に係る抽出培地を発酵培地に添加するか、あるいは発酵培地を抽出培地を含むポットに添加してもよい。次に、所望の脂肪族アルコールを、漏斗、カラム、蒸留などを使用するような当技術分野で知られている任意の分離方法によって抽出してよい。その後、残りの抽出培地を再利用してよい。
【0061】
この方法の別の利点は、抽出培地を再利用できる点である。すなわち、抽出培地から脂肪族アルコールが分離されれば、抽出培地をリサイクルして再利用することができ、廃棄物を減らすことができる。
【0062】
本発明の別の態様によれば、水性培地から脂肪族アルコールを抽出するための、少なくとも1つのトリアルキルホスフィンオキシド、好ましくはトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)と、必要に応じて少なくとも1つのアルカンと、の使用が提供され、当該アルカンは少なくとも12個の炭素原子を有することが好ましい。特に、アルカンは12~18個の炭素原子を有してよい。より具体的には、アルカンはヘキサデカンであってよい。さらに具体的には、脂肪族アルコールは、5~16個の炭素原子を有する脂肪族アルコールからなる群から選択される。一例では、脂肪族アルコールはヘキサノールであってよい。
【0063】
本発明に係る好ましい方法では、エタノールおよび/または酢酸塩を出発物質として使用する。
本発明に係るこの好ましい方法は、エタノールおよび/または酢酸塩から生成された脂肪族アルコールを抽出しており、工程(a)の前に工程(0)を有している。
工程(0):水性培地中で、エタノールおよび/または酢酸塩を、炭素鎖を伸長することができる少なくとも1つの微生物と接触させ、当該エタノールおよび/または酢酸塩から脂肪族アルコールを生成する工程。
本発明に係る好ましい方法によれば、脂肪族アルコールを分離する工程(b)後の水性培地は、工程(0)に再利用されてよい。本発明に係る抽出培地は微生物に対して毒性がないので、この再利用工程により、微生物をリサイクルおよびリユースすることができる。本発明に係る方法で水性培地を再利用する当該工程は、最初のサイクルで工程(a)および(b)から最初に抽出されなかった脂肪族アルコールの残留物を、さらに抽出する機会があるか、あるいは水性培地を再利用するのと同じ回数だけ抽出する機会があるというさらなる利点を持っている。炭素鎖を伸長して、脂肪族アルコールを生成することができる工程(0)の微生物は、炭素鎖を伸長することができるすべての生物であってよい(参照:ジョンら、Biotechnol Biofuels(2016年)9:129)。炭素鎖伸長経路は、H. セードルフら、2008年にも開示されている。本発明の任意の態様に係る微生物には、野生型では炭素鎖を伸長することができないが、遺伝子組み換えの結果、この形質を獲得した微生物も含まれてよい。特に、工程(0)の微生物は、クロストリジウム・カルボキシディボランス(Clostridium carboxidivorans)、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)、およびクロストリジウム・ファロス(C.pharus)からなる群から選択されてよい。特に、本発明の任意の態様に係る微生物は、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)であってよい。
【0064】
本発明の任意の態様に係る工程(0)では、エタノールおよび/または酢酸塩を、炭素鎖を伸長して当該エタノールおよび/または酢酸塩から脂肪族アルコールを生成することができる少なくとも1つの微生物と接触させる。一例では、炭素源は、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、吉草酸塩、およびヘキサン酸塩からなる群から選択される少なくとも1つの他の炭素源と、エタノールと、の組み合わせであってよい。特に、炭素源はエタノールと酢酸塩であってよい。別の例では、炭素源は、プロピオン酸とエタノール、酢酸塩とエタノール、イソ酪酸とエタノール、または酪酸とエタノールの組み合わせであってよい。一例では、炭素基質は、エタノール単体であってよい。別の例では、炭素基質は、酢酸塩単体であってよい。
【0065】
酢酸塩および/またはエタノールの供給源は、入手可能性に応じて異なってよい。一例では、エタノールおよび/または酢酸塩は、合成ガスの発酵生成物、または当技術分野で知られている任意の炭水化物であってよい。特に、酢酸塩および/またはエタノールを生成するための炭素源は、アルコール、アルデヒド、グルコース、スクロース、フルクトース、デキストロース、ラクトース、キシロース、ペントース、ポリオール、ヘキソース、エタノール、および合成ガスからなる群から選択されてよい。供給源の混合物を炭素源として使用できる。
【0066】
さらに具体的には、炭素源は合成ガスであってよい。合成ガスは、少なくとも1つの酢酸生成細菌の存在下で、エタノールおよび/または酢酸塩に転化されてよい。一例では、脂肪族アルコールの生成は、合成ガス由来の酢酸塩および/またはエタノールから行われ、炭素鎖を伸長することができる微生物と酢酸生成細菌との併用が含まれてよい。例えば、クロストリジウム・ルジュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)を、クロストリジウム・クルイベリ(Clostridium kluyveri)と同時に使用してよい。別の例では、単一の酢酸生成細胞が、両生物の活性を発揮することができる。例えば、酢酸生成細菌は、ウッド-リュングダール経路と炭素鎖伸長経路の両方を使用することができるクロストリジウム・カルボキシディボランス(C. carboxidivorans)であってよい。
【0067】
本発明の任意の態様に係る工程(a)で使用されるエタノールおよび/または酢酸塩は、炭素源(例:合成ガス)の発酵生成物であってもよく、または他の手段によって得られものであってもよい。その後、エタノールおよび/または酢酸塩を、工程(a)で微生物と接触させてよい。
【0068】
本明細書で使用される用語「接触(contacting)」は、微生物と、エタノールおよび/または酢酸塩と、を直接接触させることを意味する。一例では、エタノールが炭素源であり、工程(a)の接触には、エタノールを工程(a)の微生物と接触させることが含まれる。接触は、直接接触または間接接触であってよく、間接接触には、エタノールから細胞を分離する膜などや、細胞とエタノールを2つの異なるコンパートメント等に保持できる膜などが含まれてよい。例えば、工程(a)では、脂肪族アルコールと抽出培地は、異なるコンパートメントに存在してよい。
【0069】
工程(a)で抽出を行う本発明の任意の態様によれば、発酵は工程(0)で行われるので、抽出時間は、発酵時間と同等であってよい。
【実施例】
【0070】
上文は、好ましい実施形態であり、特許請求の範囲から逸脱しない範囲で、当業者に理解されるように、設計、構成または操作が変更または修正されてもよい。例えば、これらの変形例は、特許請求の範囲に含まれることを意図している。
【0071】
実験例1
ヘキサノールの抽出の一般的説明:
蒸留水にヘキサノール(4g/Kg)を入れた溶液を準備した。酢酸アンモニウム緩衝液(酢酸を添加することによりpH5.8に調整された酢酸アンモニウム0.6g/Kg)を当該溶液に添加し、抽出時のpHを5.8に近づけた。水溶液を分液漏斗に入れ、トリアルキルホスフィン(TAPO)とアルカンの有機混合物、または純粋なトリアルキルホスフィンと激しく混合した。有機相に対する水相の質量比は、9:1であった。激しく混合した後、相を分離し、HPLCまたは1H-NMRで個別に分析して、各相のヘキサノール濃度を測定した。ヘキサノールの分布を分配定数Kdで示しており、Kdは、有機相の濃度を水相の濃度で割った比率である。
【0072】
【0073】
【0074】
上記の表から分かるように、トリアルキルホスフィンは、広いpH範囲にわたって適用できる。