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特許7430316半導体成長用基板、半導体素子、半導体発光素子および半導体素子製造方法
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  • 特許-半導体成長用基板、半導体素子、半導体発光素子および半導体素子製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】半導体成長用基板、半導体素子、半導体発光素子および半導体素子製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/16 20100101AFI20240205BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20240205BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20240205BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
H01L33/16
C30B25/18
C30B29/38 C
H01L21/205
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018193569
(22)【出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2020061526
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-05-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月 名城大学大学院 理工学研究科 電気電子・情報・材料工学専攻 博士論文「r面サファイア基板上無極性a面III族窒化物半導体のエピタキシャル成長に関する研究」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】神野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】杉森 正吾
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-65733(JP,A)
【文献】特開2017-154964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B25/18
C30B29/38
H01L21/205
H01L33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
r面を主面とするサファイア基板と、
前記主面上に形成されたAlNバッファ層とを備え、
前記AlNバッファ層は、積層方向にa軸方向への一軸配向性および面内方向に少なくともm軸方向への一軸配向性を有し、
前記AlNバッファ層に含まれる炭素の不純物濃度が、2.5×1019atoms/cm未満であり、酸素の不純物濃度が、7.0×10 20 atoms/cm 未満であることを特徴とする半導体成長用基板。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体成長用基板であって、
前記AlNバッファ層は、積層方向におけるX線回折のピーク角度が、バルクAlN単結晶よりも0.2~0.8度の範囲で低角側にシフトしていることを特徴とする半導体成長用基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体成長用基板であって、
前記AlNバッファ層は、面内方向におけるX線回折のピーク角度が、バルクAlN単結晶よりも0.2~0.8度の範囲で高角側にシフトしていることを特徴とする半導体成長用基板。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載の半導体成長用基板であって、
前記AlNバッファ層は、前記面内方向におけるX線ロッキングカーブ測定の半値幅が1度以下であることを特徴とする半導体成長用基板。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つに記載の半導体成長用基板を用い、
前記半導体成長用基板上に機能層を備えることを特徴とする半導体素子。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一つに記載の半導体成長用基板を用い、
前記半導体成長用基板上に活性層を備えることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項7】
r面を主面とするサファイア基板上にスパッタ法を用いてAlNバッファ層を形成するスパッタ工程と、
前記AlNバッファ層をアニールして、積層方向にa軸方向への一軸配向性および面内方向に少なくともm軸方向への一軸配向性を有する単結晶化するアニール工程と、
前記AlNバッファ層上にa面GaN層を成長する半導体層成長工程を備え、
前記AlNバッファ層に含まれる炭素の不純物濃度が、2.5×1019atoms/cm未満であり、酸素の不純物濃度が、7.0×1020atoms/cm未満であることを特徴とする半導体素子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体成長用基板、半導体素子、半導体発光素子および半導体素子製造方法に関し、特にa面GaN結晶層を成長させる半導体成長用基板、半導体素子、半導体発光素子および半導体素子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
照明用途に用いられる紫色から青色を発光するLEDとしては、窒化ガリウム(GaN)系材料の化合物半導体が一般的に用いられている。近年になって、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を用いた照明装置等が普及するにつれ、LEDチップの高輝度化が望まれるようになってきた。LEDを高輝度化するためには、電流密度を高くしても効率的に電子と正孔が発光再結合できるように、発光層の膜厚を厚くして発光層内部でのキャリア密度を下げる必要がある。
【0003】
しかし、一般的に用いられているc面を主面とするGaN系半導体材料では、c軸方向にピエゾ電界が生じるため、厚膜化した発光層内に電位差が生じ電子と正孔が空間的に分離してしまい、発光再結合の効率が著しく低下してしまうドループ特性が問題となっている。
【0004】
この問題を解決するため、非極性や半極性の面方位を主面としたGaN系材料で発光層を形成することで、積層方向へのピエゾ電界の影響を無くして厚膜化を図り、大電流での発光を可能にする技術も提案されている。GaN系半導体層では、a面やm面が非極性面であり、半極性面の代表例としてr面がある。
【0005】
特許文献1には、サファイア基板のr面上に有機金属気相成長法(MOCVD法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いてa面GaN層を成長させる技術が開示されている。r面サファイア基板上に形成されたa面GaN層を下地層として用い、n型層と発光層とp型層とを順次成長させることで、発光層の主面をa面として厚膜化とLEDのドループ特性の改善を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-214132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、r面サファイア上に形成されるa面GaNでは、成長面内に+c軸方向、-c軸方向、m軸方向が存在して面内異方性が大きく、結晶性が良好で表面平坦性に優れた高品質なa面GaN層を得ることが困難であった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、結晶性が良好で表面平坦性に優れた高品質なa面GaN層を成長させることが可能な半導体成長用基板、半導体素子、半導体発光素子および半導体素子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の半導体成長用基板は、r面を主面とするサファイア基板と、前記主面上に形成されたAlNバッファ層とを備え、前記AlNバッファ層は、積層方向にa軸方向への一軸配向性および面内方向に少なくともm軸方向への一軸配向性を有し、前記AlNバッファ層に含まれる炭素の不純物濃度が、2.5×1019atoms/cm未満であり、酸素の不純物濃度が、7.0×10 20 atoms/cm 未満であることを特徴とする。
【0010】
このような本発明の半導体成長用基板では、AlNバッファ層が積層方向および面内方向に一軸配向性を有することで、異常成長を抑制し結晶性が良好で表面平坦性に優れた高品質なa面GaN層を成長させることが可能となる。
【0011】
また本発明の一態様では、前記AlNバッファ層は、積層方向におけるX線回折のピーク角度が、バルクAlN単結晶よりも0.2~0.8度の範囲で低角側にシフトしている。
【0012】
また本発明の一態様では、前記AlNバッファ層は、面内方向におけるX線回折のピーク角度が、バルクAlN単結晶よりも0.2~0.8度の範囲で高角側にシフトしている。
【0014】
また本発明の一態様では、前記AlNバッファ層は、前記面内方向におけるX線ロッキングカーブ測定の半値幅が1度以下である
【0015】
また上記課題を解決するために本発明の半導体素子は、上記何れか一つに記載の半導体成長用基板を用い、前記半導体成長用基板上に機能層を備えることを特徴とする。
【0016】
また上記課題を解決するために本発明の半導体発光素子は、上記何れか一つに記載の半導体成長用基板を用い、前記半導体成長用基板上に活性層を備えることを特徴とする。
【0017】
また上記課題を解決するために本発明の半導体素子製造方法は、r面を主面とするサファイア基板上にスパッタ法を用いてAlNバッファ層を形成するスパッタ工程と、前記AlNバッファ層をアニールして、積層方向にa軸方向への一軸配向性および面内方向に少なくともm軸方向への一軸配向性を有する単結晶化するアニール工程と、前記AlNバッファ層上にa面GaN層を成長する半導体層成長工程備え、前記AlNバッファ層に含まれる炭素の不純物濃度が、2.5×10 19 atoms/cm 未満であり、酸素の不純物濃度が、7.0×10 20 atoms/cm 未満であることを特徴とする。
【0018】
このような本発明の半導体素子製造方法では、AlNバッファ層が積層方向および面内方向に一軸配向性を有するため、異常成長を抑制し結晶性が良好で表面平坦性に優れた高品質なa面GaN層を成長させることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、結晶性が良好で表面平坦性に優れた高品質なa面GaN層を成長させることが可能な半導体成長用基板、半導体素子、半導体発光素子および半導体素子製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態における半導体成長用基板を示す模式断面図である。
図2】スパッタ条件の違いによるAlNバッファ層2中の不純物濃度と、a面GaN層3の結晶性を示す表である。
図3】AlNバッファ層2のXRC(X-ray Rocking Curve)測定結果を示すグラフであり、(A)はa面での半値幅を示し、(B)はm面での半値幅を示している。
図4】AlNバッファ層2のX線回折測定結果を示すグラフであり、(A-1)は2θ/θ測定結果を示し、(B-1)は2θχ/φ測定結果を示し、(A-2)は膜厚とa面でのピーク回折強度の関係を示し、(B-2)は膜厚とm面でのピーク回折強度の関係を示している。
図5】a面GaN層3のXRC測定の回折スペクトルを示すグラフであり、(A)はa面内のc軸方向での結果を示し、(B)はa面内のm軸方向での結果を示し、(C)は{10-11}面内での結果を示している。
図6】第2実施形態の半導体装置であるLED10を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本発明の第1実施形態における半導体成長用基板を示す模式断面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の半導体成長用基板は、六方晶のr面を主面とするサファイア基板1と、サファイア基板1上に形成されたAlNバッファ層2と、AlNバッファ層2上に形成されたa面を主面とするa面GaN層3を備えている。ここではサファイア基板1として傾斜角度が0度のジャスト基板を示したが、r面を所定の面方位に数度傾斜させたオフ基板としてもよい。
【0023】
AlNバッファ層2はサファイア基板1とa面GaN層3との格子定数の相違を緩和するための層である。AlNバッファ層2の厚みとしては、厚くしすぎるとa面GaN層3の結晶品質が低下するため5~300nmの範囲が好ましく、5~90nmの範囲がより好ましく、5~30nmの範囲がさらに好ましい。また、AlNバッファ層2中に含まれる不純物濃度は、炭素が2.5×1019atoms/cm未満であり、酸素が7.0×1020atoms/cm未満であることが好ましい。AlNバッファ層2中に含まれる不純物濃度がこれらの範囲以上であると、単結晶のa面GaN層3をエピタキシャル成長できない。
【0024】
a面GaN層3は、AlNバッファ層2上において、主面がa面となるように成長された下地層であり、その上に窒化物半導体層をエピタキシャル成長するための層である。a面GaN層3の形成方法としては、MOCVD法やHVPE法(ハイドライド気相成長法:Hydride Vapor Phase Epitaxy)などの公知の方法を用いることができるが、MOCVD法を用いることが好ましい。a面GaN層3の膜厚は特に限定されないが、1μm以上形成することが好ましい。
【0025】
次に、図1に示した半導体成長用基板の製造方法について説明する。
【0026】
(スパッタ工程)
はじめに、r面を主面とするサファイア基板1上に、スパッタ法を用いてAlNバッファ層2を形成する。AlNバッファ層2を形成するスパッタ法としては、Alをターゲット材としてNおよびArガスを用いる反応性スパッタ法を採用してもよいが、AlNをターゲット材としてArガスを用いることがより好ましい。ターゲット材となるAlNとしては単結晶基板であっても粉末焼体であってもよく、その状態や形態は限定されない。
【0027】
反応性スパッタ法によりAlをターゲット材としてNおよびArガスを用いてAlNバッファ層2を形成する場合には、AlN膜の物理的な堆積プロセスに加えて、Alターゲット材とNガスの反応プロセスを考慮する必要がある。そのため反応性スパッタ法では、所望のAlNバッファ層2を得るための成膜条件を適切に設定して制御する難易度が高くなる。特に、半導体基板の大面積化が進むと、基板表面の面内分布も考慮する必要があるためさらに難易度が高くなる。
【0028】
一方、AlNをターゲット材としてArガスを用いるスパッタ法によりAlNバッファ層2を形成する場合には、Alターゲット材とNの反応プロセスを考慮する必要が無く、Arガス流量やチャンバー内の真空度等のパラメータを最適化するだけでよい。したがって、反応性スパッタ法でAlNバッファ層2を形成するよりも、AlNをターゲット材としてArガスを用いるスパッタ法を用いるほうが、AlNバッファ層2を形成する際の成膜条件の設定や制御が容易であり、大面積化にも対応が容易となる。
【0029】
AlNバッファ層2を形成する反応性スパッタの条件としては、基板温度は200℃以上500℃未満の範囲が好ましい。基板温度を500℃よりも高温にすると、成膜後にAlNバッファ層2に含まれる酸素や炭素の不純物濃度が高くなり、AlNバッファ層2上にa面GaN層3をエピタキシャル成長できないため、好ましくない。本実施形態の半導体素子成長方法では、高品質なAlN結晶が得られる1500℃程度よりも低温の200~500℃でスパッタ工程を実施するため、成膜直後のAlNバッファ層2はアモルファスライクな結晶性であると思われる。
【0030】
(アニール工程)
次に、スパッタ工程で成膜したAlNバッファ層2のアニール処理を実施し、AlNバッファ層2の再結晶化を促進して、積層方向および面内方向に一軸配向性を持たせる。アニール処理としては、例えば高周波誘導加熱方式による熱処理装置を用いることができる。アニール条件としては、不活性ガス(例えば窒素やAr)雰囲気中において1300℃以上1700℃未満の基板温度を0.5~3.0時間継続することが好ましい。より好ましくは1300℃以上1600℃以下である。アニール温度が1700℃以上であると、サファイア基板1が熱分解して劣化するため好ましくない。また、アニール温度が1300℃未満であると、AlNバッファ層2の再結晶化が不十分であり、AlNバッファ層2の積層方向および面内方向における一軸配向性が不十分となる。
【0031】
(半導体層成長工程)
次に、AlNバッファ層2の表面を洗浄した後に、キャリアガスとして水素、窒素を用い、V族原料としてアンモニア(NH)を用い、III族原料としてTMG(TrimethylGallium)を用いて、MOCVD法でa面GaN層3を成長させる。このとき、成長シーケンスは2段階で構成し、昇温した後に成長温度を一定とし、リアクタ圧力とV/III比および成長時間を変更している。例えば、昇温直後の第1ステップではV/III比を4000~5000程度とし、圧力を900~1000hPaとして10~20分程度維持する。第2ステップでは例えばV/III比を100~200程度とし、圧力を100~150hPaとして90~120分維持する。a面GaN層3を成長した後に室温まで冷却して取り出すことで、図1に示した本実施形態の半導体成長用基板を得ることができる。
【0032】
(実施例1-3)
スパッタ工程で、RF出力450W、10rpm、Ar流量5.0sccm、N流量5.0sccm、基板温度を300℃、到達真空度1.53×10-5Paの条件で、AlNバッファ層2を形成した。その後にアニール工程で、熱処理装置のカーボンサセプタ内に基板をセットし、減圧した後にN封入して380torrにし、昇温レート20℃/minで1600℃まで昇温して一時間アニールした。次に半導体素子成長工程で、温度を1010℃まで昇温した後に成長温度を1010℃で一定とし、第1段階ではV/III比4400、圧力933hPa、成長時間を10分とし、第2段階ではV/III比100、圧力100hPa、成長時間を90分でa面GaN層3を成長させて半導体成長用基板を得た。AlNバッファ層2の膜厚が30nm、90nm、180nmのものをそれぞれ実施例1-3とした。
【0033】
(比較例1-3)
スパッタ工程の後にアニール工程を実施せず、半導体素子成長工程を実施した他は実施例1と同様の条件で半導体成長用基板を得た。AlNバッファ層2の膜厚が30nm、90nm、180nmのものをそれぞれ比較例1-3とした。
【0034】
(比較例4)
スパッタ工程での基板温度を600℃とし、到達真空度が4.47×10-4Paである他は比較例1と同様の条件で比較例4の半導体成長用基板を得た。
【0035】
(比較例5-7)
スパッタ工程を用いず、r面を主面とするサファイア基板1上に、MOCVD法を用いてAlNバッファ層2をエピタキシャル成長させた他は、比較例1-3と同様にして半導体成長用基板を得た。成長条件は、成長温度1340℃、V/III比6300、であった。AlNバッファ層2の膜厚が30nm、90nm、180nmのものをそれぞれ比較例5-7とした。
【0036】
(スパッタ条件)
図2は、スパッタ条件の違いによるAlNバッファ層2中の不純物濃度と、a面GaN層3の結晶性を示す表である。AlNバッファ層2中の不純物濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定し、a面GaN層3の結晶性はSEM(Scanning Electron Microscope)像とX線回折により評価した。図中左側に実施例1の結果を示し、図中右側に比較例4の結果を示している。
【0037】
図2に示したように、AlNバッファ層2に含まれる不純物濃度は、実施例1では酸素濃度が6.58×1020atoms/cm、炭素濃度が2.19×1019atoms/cmであった。また、比較例4では酸素濃度が2.66×1021atoms/cmであり、炭素が9.72×1019atoms/cmであった。SEM像およびX線回折の結果から、実施例1ではAlNバッファ層2上に単結晶のa面GaN層3を成長できているが、比較例4では単結晶のa面GaN層3を成長できていないことわかる。したがって、スパッタ条件が500℃以上であると、到達真空度が低いため不純物濃度が高くなり、単結晶のa面GaN層を成長できないことがわかる。
【0038】
(AlNバッファ層2の評価)
図3は、AlNバッファ層2のXRC(X-ray Rocking Curve)測定結果を示すグラフであり、(A)はa面での半値幅を示し、(B)はm面での半値幅を示している。グラフ中のannealed sp-AlNは実施例1-3を示し、sp-AlNは比較例1-3を示し、ep-AlNは比較例5-7を示している。
【0039】
図3の(A)(B)に示したように、a面およびm面での半値幅は比較例1-3で最も大きく、実施例1-3が最も小さい。したがって、スパッタ法で形成した後に、アニール工程を経た実施例1-3でAlNバッファ層2の結晶性が最も良好であることがわかる。
【0040】
図4は、AlNバッファ層2のX線回折測定結果を示すグラフであり、(A-1)は2θ/θ測定結果を示し、(B-1)は2θχ/φ測定結果を示し、(A-2)は膜厚とa面でのピーク回折強度の関係を示し、(B-2)は膜厚とm面でのピーク回折強度の関係を示している。
【0041】
(A-1)では、全ての測定結果で53°付近と59°付近に回折ピークが確認できる。53°付近のピークはサファイア基板1のr面に対応し、59°付近のピークはAlNバッファ層2のa面に対応している。また実施例1-3では、バルクのAlN単結晶での理論的なピーク角度よりも、ピーク角度が0.2~0.8度の範囲で低角側にシフトしている。2θ/θ測定における低角側へのピーク角度は、AlNバッファ層2の積層方向における格子面間隔の広がりを示しており、実施例1-3では積層方向に引張応力が働いていると思われる。
【0042】
また(A-2)に示すように、実施例1-3では比較例1-3よりもピーク強度が著しく大きく、実施例1,2では比較例5,6よりもピーク強度が大きい。したがって、実施例1,2では、AlNバッファ層2が積層方向に良好にa軸配向していることがわかる。
【0043】
(B-1)では、全ての測定結果で33°付近に回折ピークが確認できる。33°付近のピークはAlNバッファ層2のm面に対応している。また実施例1-3では、バルクのAlN単結晶での理論的なピーク角度よりも、ピーク角度が0.2~0.8度の範囲で高角側にシフトしている。2θχ/φ測定における高角側へのピーク角度は、AlNバッファ層2の面内方向における格子面間隔の狭まりを示しており、実施例1-3では面内圧縮応力が働いていると思われる。
【0044】
また(B-2)に示すように、実施例1,2では比較例1,2よりもピーク強度が著しく大きく、実施例1では比較例5よりもピーク強度が大きい。したがって、実施例1,2では、AlNバッファ層2が面内方向に良好にm軸配向していることがわかる。
【0045】
図4で示したように、AlNバッファ層2の面内方向および積層方向での一軸配向性は実施例1,2が最も高く、面内方向の一軸配向性は膜厚が小さいほど良好であると言える。また実施例1-3では、バルクのAlN単結晶での理論的なピーク角度よりも積層方向で0.2~0.8度の範囲で低角側にシフトし、面内方向で0.2~0.8度の範囲で高角側にシフトしており、AlNバッファ層2に面内圧縮応力が加わっている。
【0046】
(a面GaN層3の結晶性評価)
図5は、a面GaN層3のXRC測定の回折スペクトルを示すグラフであり、(A)はa面内のc軸方向での結果を示し、(B)はa面内のm軸方向での結果を示し、(C)は{10-11}面内での結果を示している。図5(A)~(C)では、AlNバッファ層2の膜厚を30nmとした実施例1、比較例1、比較例5の測定結果を示している。
【0047】
図5(A)に示した測定結果における半値幅(単位:arcsec)は、実施例1が505、比較例1が609、比較例5が562であった。図5(B)では、実施例1が729、比較例1が758、比較例5が995であった。図5(C)では、実施例1が1071、比較例1が1472、比較例5が1404であった。
【0048】
図5(A)~(C)に示したように、実施例1の結晶性は比較例1,5よりも良好であり、面内方向および積層方向での一軸配向性を有するAlNバッファ層2を用いることで、a面GaN層3の結晶性と表面平坦性を良好にすることができる。
【0049】
以上に述べたように、本実施形態の半導体成長用基板では、AlNバッファ層が積層方向および面内方向に一軸配向性を有することで、異常成長を抑制し結晶性が良好で表面平坦性に優れた高品質なa面GaN層を成長させることが可能となる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図6を用いて説明する。図6は第2実施形態の半導体装置であるLED10を示す模式断面図である。図6に示すようにLED10は、r面を主面とするサファイア基板11、AlNバッファ層12、a面GaN層13、n型半導体層14、発光層(活性層)15、p型半導体層16、n側電極17、p側電極18を有している。
【0051】
第1実施形態と同様に、r面を主面とするサファイア基板11を用意し、スパッタ工程でAlNバッファ層12をサファイア基板11上に形成する。次に、アニール工程でAlNバッファ層12をアニールして単結晶化し、積層方向および面内方向に一軸配向性をもたせる。次に、半導体層成長工程でa面GaN層13をAlNバッファ層12上にエピタキシャル成長し、続けてMOCVD法でn型半導体層14、発光層15、p型半導体層16を順次成長して半導体基板を得る。
【0052】
次に、所定のパターンを用いてフォトリソグラフィーとエッチングによりp型半導体層16と発光層15の一部を除去してn型半導体層14の一部を露出させる。次に、n型半導体層14とp型半導体層16の露出面に蒸着等により電極材料を形成し、ダイシングして個別チップ化することでLED10を得る。
【0053】
ここではn型半導体層14、p型半導体層16をそれぞれ単層で説明したが、それぞれ材料や組成の異なる複数の層を含んでいるとしてもよく、例えば、n型半導体層14とp型半導体層16にクラッド層、コンタクト層、電流拡散層、電子ブロック層、導波路層などを含めてもよい。また、発光層15も単層で説明したが、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)などの複数層で構成してもよい。
【0054】
n型半導体層14は、a面GaN層13上にエピタキシャル成長され、a面を主面とするn型不純物がドープされた半導体層であり、n側電極17から電子が注入されて発光層15に電子を供給する層である。n型半導体層14を構成する材料は、III-V族化合物半導体層としては、例えばGaN、AlGaN、InGaN、AlInGaNなどが挙げられ、n型不純物としてはSiなどが挙げられる。
【0055】
発光層15は、n型半導体層14上にエピタキシャル成長され、a面を主面とする半導体層であり、層内で電子と正孔が発光再結合することでLED10が発光する。発光層15は、n型半導体層14とp型半導体層16よりもバンドギャップが小さい材料で構成されており、例えばInGaN、AlInGaNなどが挙げられる。発光層15は意図的に不純物を含まないノンドープとしてもよく、n型不純物を含むn型やp型不純物を含むp型としてもよい。発光層15は、a面を主面とする半導体層なので、厚膜化してもピエゾ電界による電子と正孔の空間的な分離は生じにくく、電流密度を高くしても効率的に電子と正孔が発光再結合できる。
【0056】
p型半導体層16は、発光層15上にエピタキシャル成長され、a面を主面とする半導体層であり、p側電極18から正孔が注入されて発光層15に正孔を供給する層である。p型半導体層16を構成する材料は、III-V族化合物半導体層としては、例えばGaN、AlGaN、InGaN、AlInGaNなどが挙げられ、p型不純物としてはZnやMgなどが挙げられる。
【0057】
本実施の形態でも、積層方向および面内方向に一軸配向性を有するAlNバッファ層12上に、a面GaN層13を下地層としてn型半導体層14、発光層15、p型半導体層16をエピタキシャル成長している。したがって、第1実施形態で述べたようにa面GaN層13は結晶性も表面平坦性も良好であり、その上に成長されたn型半導体層14、発光層15、p型半導体層16も結晶性と表面平坦性が良好となる。これにより、n型半導体層14、発光層15、p型半導体層16の特性も良好になり、LED10の外部量子効率の向上などが見込まれる。なお、本実施形態は、機能層として、n型半導体層14、発光層15、及びp型半導体層16を備えた例である。ここで、機能層とは、半導体素子において所定の電気的な機能を発揮するための層である。
【0058】
(第3実施形態)
本発明の半導体装置であるLED10は、上述したようにピエゾ電界によるドループが少なく、且つa面内での異方性が小さく良好な結晶品質であることから高輝度化を実現できるので、車両用灯具などの灯具に用いることでチップ数の低減や高出力化を図ることが可能となる。
【0059】
さらに、半導体装置はLEDに限定されず、半導体レーザや高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)等の他の用途であってもよい。これらの半導体装置においても、機能層とは、半導体素子において所定の電気的な機能を発揮するための層である。
【0060】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10…LED
1,11…サファイア基板
2,12…AlNバッファ層
3,13…a面GaN層
14…n型半導体層
15…発光層
16…p型半導体層
17…n側電極
18…p側電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6