(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】円筒形容器のX線検査方法及びX線検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20240205BHJP
【FI】
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2020037402
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】393011038
【氏名又は名称】リョーエイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌司
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008884(JP,A)
【文献】実開平06-033008(JP,U)
【文献】特開2009-164008(JP,A)
【文献】特開2004-301861(JP,A)
【文献】特開2011-112484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が空洞の円筒形容器をその中心軸線の回りに回転させながらX線を照射し、透過画像をディテクタで検出して
円筒形容器の壁面中の微小欠陥を検査する円筒形容器のX線検査方法であって、
X線源とディテクタとを、円筒形容器の中心軸線から円筒形容器の半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に
保持し、円筒形容器のオフセット方向の部分をX線のコーンビームの内側を通過させながら
ディテクタにより壁面の透過画像を取得し、取得された画像群から
壁面中の微小欠陥の3次元画像を再構成して壁面の欠陥を検査することを特徴とする円筒形容器のX線検査方法。
【請求項2】
X線源とディテクタに対する円筒形容器の位置を、その軸線方向に相対的に移動させながら壁面の欠陥を検査することを特徴とする請求項1に記載の円筒形容器のX線検査方法。
【請求項3】
内部が空洞の円筒形容器の頭部と底部をチャックして軸線の回りに回転させる容器回転機構と、
容器回転機構の両側に配置された軸線方向のスライド機構と、
一方のスライド機構に搭載され、X線源を、円筒形容器の中心軸線から円筒形容器の半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に保持する第1の昇降機構と、
他方のスライド機構に搭載され、ディテクタを円筒形容器の中心軸線から円筒形容器の半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に保持する第2の昇降機構とを備え、
ディテクタにより取得された画像群から壁面中の微小欠陥の3次元画像を再構成し、円筒形容器の壁面の欠陥を検査することを特徴とする円筒形容器のX線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクのような円筒形容器のX線検査方法及びX線検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
検査対象物をターンテーブル上に搭載して回転させながら、その一方に配置されたX線源からX線を照射し、反対側に配置されたディテクタによって透過画像を取得し、得られた画像群から3次元画像を再構成して検査対象物の内部欠陥などを検査するX線CT法は、例えば特許文献1に示されるように従来から広く知られている。
【0003】
その原理は
図1に示す通りであり、X線源1から照射されるコーンビーム(円錐状ビーム)2の内側に検査対象物3を配置し、反対側に平面状のディテクタ4を配置すれば、検査対象物3を360度方向から透過した画像を得ることができるので、得られた画像群から3次元画像を再構成することにより、内部欠陥を正確に検出することができる。
【0004】
しかし、直径が数10cmの大きな円筒形容器Wをこの方法でX線検査する場合には、投影面の全体が収まるような非常に大型のディテクタが必要となる。しかも容器壁面中のボイドなどの微小欠陥を検出するためには、その欠陥よりも小さなサイズのピクセルが得られる高分解能のディテクタが必要となる。この様な高分解能かつ大型のディテクタは非常に高額であり、工業的用途に用いることができない。しかもピクセル数が多くなるとそれを処理する演算装置にも高い機能が要求されるうえ、処理時間も長くなるので実用性が低下する。
【0005】
この問題の解決策として、
図2に示すように小型のディテクタ4を複数個並べて配置することも考えられる。しかし
図2の場合には高額のディテクタ4が3枚必要になるうえ、それぞれのディテクタ4の3つの画面を合成して画像処理を行わねばならず、演算装置にも高い機能が要求され、処理時間も更に長くなるため実用性がない。
【0006】
この問題の別の解決策として、
図3に示すように円筒形容器Wの中央部のみを対象としてX線CTを行い、円筒形容器Wを回転させることにより全周の検査を行う方法も考えられる。しかしこの方法では壁面の内部欠陥を正確に検出することは困難である。その理由を以下に説明する。
【0007】
図4に円筒形容器Wの特定部分のワーク片に対するX線ビームの透過方向を示し、
図5にディテクタ面との関係を示した。円筒形容器Wを回転させるため、ワーク片は手前側の位置と、反対側に回った奥の位置とで撮影される。手前側のA、Bの位置と、奥側のC、Dの各位置にあるときX線ビームはそれぞれ
図5に示す方向に透過するが、内部に黒丸で示すボイド等が存在したとしても、
図6に示したようにボイドの影の角度はどの位置においても大きくは変わらない。このように透過角度の範囲を十分に取れないため、
図7に示すような彗星状態の画像となり、透過方向に対して垂直方向のシルエットは鮮明であるが、透過方向のシルエットは不明となる。これでは奥行方向の情報が不足し、ボイドのサイズを正しく判定できない結果となる。従って
図3の方法は円筒形容器Wの壁面の内部欠陥の検査方法としては不適当である。
【0008】
さらに、
図1に示した面状のディテクタをスリットタイプのディテクタに置き換えることも考えられる。このような幅の狭いディテクタはサイズが大きくても安価であり、しかもワーク片に対する透過の角度を大きく取ることができる。しかしこの場合にはディテクタに対する円筒形容器Wのスライドピッチを発見しようとする欠陥のサイズよりも小さくし、例えば50μmの欠陥を検出するためにはスライドピッチをミクロン単位としなければならない。このため円筒形容器Wの全体を検査するには非常に長時間を要することとなり、現実性がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、円筒形容器の壁面の内部欠陥を、大型のディテクタを用いることなく、正確に検出することができる円筒形容器のX線検査方法及びX線検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するためになされた本発明の円筒形容器のX線検査方法は、内部が空洞の円筒形容器をその中心軸線の回りに回転させながらX線を照射し、透過画像をディテクタで検出して円筒形容器の壁面中の微小欠陥を検査する円筒形容器のX線検査方法であって、X線源とディテクタとを、円筒形容器の中心軸線から円筒形容器の半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に保持し、円筒形容器のオフセット方向の部分をX線のコーンビームの内側を通過させながらディテクタにより壁面の透過画像を取得し、取得された画像群から壁面中の微小欠陥の3次元画像を再構成して壁面の欠陥を検査することを特徴とするものである。
【0012】
なお、X線源とディテクタに対する円筒形容器の位置を、その軸線方向に相対的に移動させながら壁面の欠陥を検査することができる。
【0013】
また、上記の課題を解決するためになされた本発明の円筒形容器のX線検査装置は、内部が空洞の円筒形容器の頭部と底部をチャックして軸線の回りに回転させる容器回転機構と、容器回転機構の両側に配置された軸線方向のスライド機構と、一方のスライド機構に搭載され、X線源を、円筒形容器の中心軸線から円筒形容器の半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に保持する第1の昇降機構と、他方のスライド機構に搭載され、ディテクタを円筒形容器の中心軸線から円筒形容器の半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に保持する第2の昇降機構とを備え、ディテクタにより取得された画像群から壁面中の微小欠陥の3次元画像を再構成し、円筒形容器の壁面の欠陥を検査することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、円筒形容器の直径以下のサイズのディテクタを用い、円筒形容器の壁面の内部欠陥を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】小型のディテクタを用いたX線CT法の説明図である。
【
図3】円筒形容器の中央部のみを対象としてX線CTを行う場合の説明図である。
【
図4】円筒形容器Wの特定部分のワーク片に対するX線ビームの透過方向を示した断面図である。
【
図5】ディテクタ面に対するX線ビームの透過方向を示した断面図である。
【
図7】従来法によって得られる彗星状態の画像のイメージ図である。
【
図8】実施形態の円筒形容器の壁面の断面図である。
【
図9】本発明のX線源とディテクタの配置を示す説明図である。
【
図11】本発明の撮像領域を示す平面図と断面図である。
【
図12】ワーク片のA、B、Cの各ポジションにおけるX線の透過方向を示す説明図である。
【
図13】ワーク片のA、B、Cの各ポジションにおけるX線の透過方向を示す説明図である。
【
図14】ワーク片のA、B、Cの各ポジションにおけるX線の透過方向を示す説明図である。
【
図15】ワーク片中のボイドの影の方向を示す説明図である。
【
図16】本発明の配置を決定するパラメータである。
【
図17】本発明の方法によって得られる彗星状態の画像のイメージ図である。
【
図18】実施形態の円筒形容器のX線検査装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
本実施形態では、自動車に高圧タンクとして搭載される円筒形容器WをX線CT法により検査する。この円筒形容器Wは
図8に示すように樹脂タンク10の外周にカーボンファイバの糸11を巻き付けたもので、その壁面の厚みや、樹脂中にボイドがないかどうかをX線CT法により検査する。なお、検出したい欠陥としてはボイドのほか、均一な樹脂中に存在する欠陥、ワレ、異物などの変化箇所や、カーボンファイバの糸11と樹脂タンク10の隙間、糸の中の隙間など均一であるべき部分の不均一な箇所である。この円筒形容器Wはその内部にディテクタを挿入することはできないので、
図9に示すように円筒形容器Wをその中心軸線Oの回りに回転させながら、X線源12からX線を照射し、円筒形容器Wを挟んだ反対側に設けた平面状のディテクタ13により透過画像を検出する方法を採る。X線源12からは円錐状のコーンビーム14が放射される。
【0017】
図9に示すように、本発明においてはX線源12とディテクタ13とを、それらの中心を結ぶ直線Lが円筒形容器Wの中心軸線Oから円筒形容器Wの半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に配置する。すなわち、直線Lが円筒形容器Wの中心軸線Oと円筒形容器Wの表層との間を通るようにする。そして円筒形容器Wのオフセット方向の表層部分が、X線のコーンビーム14の内側を通過するようにし、円筒形容器Wの反オフセット方向の表層はX線のコーンビーム14の外側を通過させる。
図1に示した従来法ではディテクタ4のサイズを円筒形容器Wの直径の2倍程度としなければならなかったが、このような配置とすることにより、本発明ではディテクタ13のサイズを円筒形容器Wの直径以下に小型化することができる。
【0018】
図10は
図9の配置を斜視図で示したもので、実線で示した円弧状の壁面の透視画像がディテクタ13で検出されることとなる。また
図11に透視画像がディテクタ13で検出される範囲を示した。この検出範囲は一定であるが、円筒形容器Wを回転させることにより全周がこの範囲に入り、また、X線源12とディテクタ13に対する円筒形容器Wの位置を、その軸線方向に相対的に移動させることにより、円筒形容器Wのほぼ全体を検査することができる。
【0019】
次に、本発明によればディテクタ13を大型化することなく、円筒形容器Wの壁面の内部欠陥を正確に検出することができる理由を説明する。
図12に示すように、円筒形容器Wの壁面に黒丸で示すボイド15を含む一つのワーク片16を設定し、そのワーク片16のA、B、Cの各ポジションにおけるX線の透過方向を検討すると、
図13のようになる。すなわち、手前側のAのポジションではワーク片16の接線に対してX線の透過方向は約-60°であり、頂部のBのポジションではワーク片16の接線に対してX線の透過方向は約0°であり、奥側のCのポジションではワーク片16の接線に対してX線の透過方向は約60°である。これをまとめると
図14のようになり、ワーク片16に対するX線ビームの透過方向を大きく変化させることができる。このため、ボイド15の影も
図15に示すようになり、これらの透過画像群から3次元画像を再構成すれば、壁面の欠陥を正確に検査することが可能となる。なお、奥側のCのポジションでは手前側の壁面を透過したX線をさらに透過させることとなるが、円筒形容器Wの壁面は薄く内部は空洞であるためX線の減衰はなく、鮮明な画像を取得することができる。
【0020】
X線CTの画像群から3次元画像を再構成する技術は公知であり、市販のプログラムを用いることができる。プログラムには
図16に示される位置のパラメータを入力することとなる。AはX線源12のフォーカス中心点から円筒形容器Wの中心軸線Oまでの直線L方向の距離、Bは中心軸線Oからディテクタ13までの直線L方向の距離であり、AとBの寸法比率により画像の倍率が決定される。Dはオフセット量、PはX線源12のフォーカス中心点と中心軸線Oとを結ぶ直線がディテクタ13の表面の延長線との交点、Cはディテクタ13の中心から点Pまでの距離、θ1はディテクタ13の受光角度、θ2はディテクタ13の傾きである。これらのパラメータを事前に入力しておけば、3次元画像を再構成させることができる。
【0021】
なお、一般的なX線CT法ではワークに対して360°の全周方向から撮影するため、球状のボイドがあれば再構成によりきれいな球のシルエットを撮影することができる。これに対して本発明の方法では、せいぜい120°程度の方向からの透視画像しか得られないため、球状のボイドがあっても
図17に示されるような彗星状のシルエットしか得られない。しかしボイドの有無とボイドの位置を検出するためには、これで十分である。良否の判断はモニターに画像を表示させて人間の目で行うほか、画像解析ソフトを用いて判断させることもできる。
【0022】
次に、本発明の円筒形容器のX線検査方法を実施するためのX線検査装置の実施形態を示す。
図18はその全体斜視図であり、20は円筒形容器Wの頭部と底部をチャックして軸線の回りに回転させる容器回転機構である。容器回転機構20は、チャック用クランプ21と、回転手段22と、これらを円筒形容器Wの軸線方向にスライドさせるスライド機構23とを含む。スライド機構23は、円筒形容器Wをチャック用クランプ21にチャックしたり、取外す際に使用される。この実施形態では円筒形容器Wの頭部側と底部側の両方にスライド機構23を設けたが、片側は固定とすることも可能である。またこの実施形態では回転手段22の一方をモータを備えた駆動側とし、他方を従動側とした。この容器回転機構20により、円筒形容器Wをチャックしてその軸線の回りに回転させることができる。
【0023】
この容器回転機構20の両側には、それぞれ軸線方法のスライド機構24、25が配置されている。一方のスライド機構24にはX線源12が搭載されている。X線源12は第1の昇降機構26によって、円筒形容器Wの中心軸線Oから円筒形容器Wの半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に保持されている。なお円筒形容器Wのサイズに応じてこの距離は変化するため、第1の昇降機構26によってX線源12の高さは調整される。他方のスライド機構25にはディテクタ13が搭載されている。ディテクタ13は第2の昇降機構27によって、円筒形容器Wの中心軸線から円筒形容器Wの半径を超えない距離だけオフセットさせた位置に、同様に保持されている。
【0024】
この円筒形容器のX線検査装置は、容器回転機構20により円筒形容器Wをチャックしてその軸線の回りに回転させながら、本発明の検査方法による容器壁面の検査を行う、検査はスライド機構24、25によりX線源12とディテクタ13を軸線方向に移動させながら行う。しかしX線源12とディテクタ13を固定し、円筒形容器Wを軸線方向に移動させることも可能である。
【0025】
以上に説明したように、本発明によれば、大型のディテクタを必要とせず、円筒形容器Wの壁面の内部欠陥を正確に検出することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 X線源(先行技術)
2 コーンビーム
3 検査対象物
4 小型のディテクタ
10 樹脂タンク
11 カーボンファイバの糸
12 X線源(本発明)
13 ディテクタ
14 コーンビーム
15 ボイド
16 ワーク片
20 容器回転機構
21 チャック用クランプ
22 回転手段
23 スライド機構
24 スライド機構
25 スライド機構
26 第1の昇降機構
27 第2の昇降機構