(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】熱伝導転写印刷
(51)【国際特許分類】
B41M 5/382 20060101AFI20240205BHJP
B41J 2/325 20060101ALI20240205BHJP
B41J 27/00 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B41M5/382 310
B41J2/325 A
B41J27/00 A
(21)【出願番号】P 2019528852
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 IB2017057542
(87)【国際公開番号】W WO2018100530
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/057226
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】512048354
【氏名又は名称】ランダ ラブズ (2012) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】ベンジョン ランダ
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】清水 康司
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-992(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2536361(GB,A)
【文献】特開昭61-199978(JP,A)
【文献】特開平10-800(JP,A)
【文献】特開平8-187884(JP,A)
【文献】特開2005-186411(JP,A)
【文献】特開2013-216058(JP,A)
【文献】特開昭62-162576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M5/36-5/382
B41J2/325,27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に熱転写印刷する印刷システムであって、
a) 両側である前面側及び裏面側を有し、前記前面側に画像化表面を含む転写部材と、
b) 熱可塑性ポリマーでできている
個別粒子の単層、又は熱可塑性ポリマーでコーティングされた
個別粒子の単層
で、前記画像化表面
を周期的にコーティングまたは補充するコーティングステーションと、
c) 前記転写部材の裏面側から粒子がコーティングされた前記画像化表面の選択された領域にエネルギーが印加され、前記選択された領域内で前記画像化表面における前記粒子を粘着性のあるものにする画像化ステーションと、
d) 前記転写部材の前記画像化表面及び基板表面が互いに押し合わせられて、粘着性のあるものにされた粒子コーティングの領域のみを前記基板表面に転写させる転写ステーションと、
を備え、
前記転写部材は、前記コーティングステーション、前記画像化ステーション及び前記転写ステーションに対して移動可能であり、
e) 前記コーティングステーションで塗布される前記
個別粒子の単層は、前記粒子を前記画像化表面に塗布し、前記画像化表面と直接接触していない塗布された粒子を除去して、前記画像化表面に実質的に1個の粒子のみの深さの
個別粒子の層を付着させることによって形成され、
f) 前記画像化ステーションは、前記転写部材の前記裏面側に熱接触し、前記転写部材を経る熱伝導によって前記画像化表面上の前記粒子にエネルギーを印加するよう動作する感熱プリントヘッドを有する、印刷システム。
【請求項2】
請求項1記載の印刷システムにおいて、前記転写ステーションは、前記転写部材の前記前面側に対面して位置決めされて、前記転写部材の前記画像化表面及び前記基板表面が互いに押し合わされるニップを画定する印象シリンダを有し、
前記画像化ステーションの前記感熱プリントヘッドは、前記ニップで又は前記ニップに隣接して前記転写部材の前記裏面側に熱を印加するよう整列させ、これにより熱可塑性粒子を粘着性のあるものにすること、及び前記粒子を前記基板表面に刷ることがほぼ同時に生ずるようにする、印刷システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の印刷システムにおいて、さらに、前記転写部材の前記裏面側に潤滑剤を制御可能に放出して前記転写部材が前記感熱プリントヘッドを摺動するとき前記裏面側を潤滑するよう構成された潤滑システムを備える、印刷システム。
【請求項4】
請求項3記載の印刷システムにおいて、前記転写部材が厚さを有し、前記潤滑剤は、前
記転写部材の前記厚さを通過でき、剥離促進剤として作用する、印刷システム。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか1項記載の印刷システムにおいて、さらに、前記転写ステーションを通過した後、前記基板を処理する処理ステーションを備える、印刷システム。
【請求項6】
請求項5記載の印刷システムにおいて、前記処理ステーションは、前記基板に転写された画像を、及び/又は転写された画像を受ける前記基板を加熱するよう動作するヒーターを有する、印刷システム。
【請求項7】
請求項6記載の印刷システムにおいて、前記ヒーターは前記転写された画像に接触しない、印刷システム。
【請求項8】
請求項6記載の印刷システムにおいて、前記ヒーターは前記転写された画像に接触する加熱されたシリコーン被覆ローラ又はベルトを含む、印刷システム。
【請求項9】
請求項1~8のうちいずれか1項記載の印刷システムにおいて、第1転写ステーションで基板に転写された前記熱可塑性ポリマーは、少なくとも、前記基板に付着する粒子の層によって第2転写ステーションで接触されるまで粘着性を保持する、印刷システム。
【請求項10】
請求項9記載の印刷システムにおいて、前記第2転写ステーションの前記粒子は、ワニス、保護コーティング又は装飾コーティングとして作用する、印刷システム。
【請求項11】
基板表面に熱転写印刷する方法であって、以下のステップ、すなわち、
a) 両側である前面側及び裏面側を有し、前記前面側に画像化表面を含む可動転写部材を準備するステップと、
b) 熱可塑性ポリマーでできている
個別粒子の単層、又は熱可塑性ポリマーでコーティングされた
個別粒子の単層を前記画像化表面に塗布するステップと、
c) 前記転写部材の前記裏面側から粒子がコーティングされた前記画像化表面の選択された領域に熱伝導による熱が印加され、前記選択された領域内で前記画像化表面における前記粒子を粘着性のあるものにするステップと、並びに
d) 前記画像化表面及び前記基板表面が互いに押し合わせられ、粘着性のあるものにされた粒子コーティングの前記領域のみを前記基板表面に転写させるステップと、
を備え、
e) ステップb)を
周期的に繰り返して、ステップd)で先に塗布された単層コーティングが前記基板表面に転写された前記選択された領域に新しい
個別粒子の単層コーティングを塗布し、前記画像化表面を再び
個別粒子の単層で均一にコーティングされた状態が残
り補充された画像化表面が形成されるようにして、ステップc)~d)を繰り返して受けることができるようにし、
塗布される前記粒子コーティングの単層は、前記粒子を前記画像化表面に塗布し、前記画像化表面と直接接触していない塗布された粒子を除去して、前記画像化表面に実質的に1個の粒子のみの深さの
個別粒子の層を付着させることによって形成される、方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法において、第1転写ステーションで前記基板表面に転写された前記粒子及び/又は前記粒子を前記第1転写ステーションで前記基板表面に転写することによって選択的にコーティングされた前記基板は、第2転写ステーションにおいて粒子の層と接触する前及び/接触している間に、選択的加熱されない、印刷システム。
【請求項13】
請求項11又は12記載の方法において、第1転写ステーションで前記基板表面に転写された前記粒子は、前記粒子を前記第1転写ステーションで前記基板表面に転写することによって形成される画像が、第2転写ステーションで前記基板表面に付着する粒子の層に接触するまで、粘着性を保持する、印刷システム。
【請求項14】
請求項12又は13記載の方法において、前記第2転写ステーションの前記粒子は、ワニス、保護コーティング又は装飾コーティングとして作用する、印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、2016年11月30日出願の国際出願PCT/IB2016/057226号のパリ条約優先権を主張し、この出願の内容は参照により全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0002】
本開示は、基板の表面に熱塑性材料のフィルム(薄膜)で印刷する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
本開示は、2016年12月1日発行で2015年5月27日の優先日を有する本願出願人による特許文献1(国際公開第2016/189512号)の教示を発展させたものである。不必要な繰り返しを避けるため、本開示全体にわたりこの公報が参照されるであろう。
【0004】
ポリマー製のインク薄膜(フィルム)を担持するリボンを採用する熱転写プリンタは既知である。リボンは、普通のタイプライターで使用されるインクリボンに相当するものであり、しかし、インクは固形インクであり、また衝撃ではなく、インクをペーパーに転写すべきリボンの領域のみを加熱する感熱プリントヘッドによってインクリボンから基板(通常はペーパー)に転写される。熱転写プリンタは、着色リボンから順次に画像を転写することによって、モノクローム又はフルカラーで印刷することができる。
【0005】
このようなプリンタは高品質の印刷を達成するが、ムダが多く、したがって、運用にコストがかかり、これはすなわち、リボンが、概して、1回使用であり、また廃棄することが必要な時点でインク表面の大部分が印刷基板に転写されずにいるからである。
【0006】
特許文献1は、熱転写プリンタと同一原理で動作する印刷システム及び方法を開示するが、1回使用リボンを、ポリマーインクフィルムを担持する代わりに、熱塑性粒子又は熱塑性被覆した粒子の層でコーティングした転写部材に置き換え、該粒子は、各転写サイクル後に補充することができ、転写部材が多数印刷サイクルを実施でき、大幅にムダを減少することができる。
【0007】
とくに、特許文献1は基板の表面に熱転写印刷する方法を開示し、この方法は、以下のステップ、すなわち、
a) 前面側及び裏面側があり、前記前面側に画像化表面を有する転写部材を準備するステップと、
b) 熱塑性ポリマーで形成された、又はコーティングされた個別粒子を前記転写部材の前記画像化表面にコーティングするステップと、
c) 前記画像化表面に直接的に接触しないほぼすべての粒子を除去して、前記画像化表面上に均一で単層の粒子コーティングを残すステップと、
d) 前記コーティングした画像化表面の選択された領域にエネルギーを印加し、また前記選択された領域内で前記粒子を加熱し、また粘着性のあるものにするステップと、並びに
e) 前記エネルギーの印加中又は印加後のいずれかで、前記コーティングした画像化表面の少なくとも一部分及び前記基板表面の対応部分を互いに押し合わせ、粘着性のあるものとされた前記粒子コーティングの領域のみを前記基板表面に転写させるステップと、を備える。
【0008】
連続印刷を可能にするためには、選択された領域から第1基板表面に粒子を転写した後に、ステップb)及びc)を繰り返すことができ、少なくともステップe)で先に塗布された単層コーティングが前記基板表面に転写された前記選択された領域に新鮮な粒子の単層コーティングを塗布し、ステップd)及びe)で記載したように、前記画像化表面を再び粒子の単層で均一にコーティングされた状態が残るようにしている。換言すれば、後続の画像印刷(サイクルからサイクルまで同一である必要はない)のためには、ステップb)~e)を順次繰り返すことができる。
【0009】
特許文献1は、粒子をEM放射に被曝されることによって粒子を粘着性のあるものにすることのみを教示し、本発明は、粒子を粘着性のあるものにする代案的方法を教示することに拡張している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2016/189512号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1態様によれば、基板の表面に熱転写印刷する印刷システムを提供し、このシステムは、
a) 互いに対向する前面側及び裏面側があり、前記前面側に画像化表面を有する可動転写部材と、
b) 熱塑性ポリマーで作製された、又はコーティングされた粒子の単層を前記画像化表面に塗布するコーティングステーションと、
c) 前記転写部材の裏面側から粒子がコーティングされた前記画像化表面の選択された領域にエネルギーが印加され、前記選択された領域内で画像化表面における粒子を粘着性のあるものにする画像化ステーションと、
d) 前記転写部材の画像化表面及び基板表面が互いに押し合わせられて、粘着性のあるものにされた粒子コーティングの領域のみを前記基板表面に転写させる転写ステーションと、
を備え、
e) 前記画像化ステーションは、前記転写部材の裏面側に熱接触し、前記転写部材を経る熱伝導によって前記画像化表面上の粒子にエネルギーを印加するよう動作する感熱プリントヘッドを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の第2態様によれば、基板の表面に熱転写印刷する方法を提供し、この方法は、以下のステップ、すなわち、
a) 互いに対向する前面側及び裏面側があり、前記前面側に画像化表面を有する転写部材を準備するステップと、
b) 熱塑性ポリマーで作製された、又はコーティングされた粒子の単層を前記画像化表面に塗布するステップと、
c) 前記転写部材の裏面側から粒子がコーティングされた前記画像化表面の選択された領域に熱伝導による熱が印加され、前記選択された領域内で画像化表面における粒子を粘着性のあるものにするステップと、並びに
d) 前記画像化表面及び前記基板表面が互いに押し合わせられて、粘着性のあるものにされた粒子コーティングの領域のみを前記基板表面に転写させるステップと、
を備え、
e) ステップb)を繰り返して、ステップd)で先に塗布された単層コーティングが前記基板表面に転写された前記選択された領域に新鮮な粒子の単層コーティングを塗布し、前記画像化表面を再び粒子の単層で均一にコーティングされた状態が残るようにして、ステップc)~e)を繰り返して受けることができるようにする。
【0013】
本発明の特定の非限定的実施形態の特徴は特許請求の範囲の従属請求項に記載する。
【0014】
本明細書に使用する用語「粘着性のある(tacky)」及び「十分に粘着性のある(sufficiently tacky)」は、粒子コーティングが、必ずしも接触に対して粘着性を示すことを意味するだけではなく、転写ステーションで基板に圧着するとき基板の表面に付着できるに十分なように柔軟化されるものも意味することを意図する。粘着性のある粒子又は粘着性のあるものにされた粒子の領域は、後に印刷基板に転写される個別のフィルム(薄膜)又は連続フィルムを形成することができ、これらフィルムは、随意的に、画像化表面(又はそのセグメント)が基板(又はそれに対応するセグメント)に接触する際に加わる圧力の結果として、及び/又は転写されたフィルムの随意的な他の処理(例えば、溶融、乾燥、硬化等)の結果として薄いフィルムを生ずる。このような随意的な他の処理としては、既に転写された画像及び/又は受取基板の加熱があり、前記加熱は、転写された画像に接触しない手段又は転写された画像に接触する手段によって行い、これら双方の手段は従来周知である。ホットエア、放射加熱、高周波加熱等々の非接触加熱の場合、転写された画像を加熱することは、その画像の基板に対する付着力、耐摩耗性、化学耐性、等々を高めることができる。シリコーンコーティングした溶融ローラ又はベルトのような画像に接触する加熱手段の場合、非接触加熱の恩恵に加えて、画像フィルムはより輝く光沢及び耐擦過性も得ることができる。
【0015】
用語「単層」及び単層を得ることができる異なるやり方の意図した意味は、特許文献1及び国際公開第2016/189513号に記載されており、これら特許文献は粒径、ポリマーフィルム厚さ並びに粒子を塗布するコーティングステーションの設計及び構造の詳細を提示している。
【0016】
手短に言えば、各転写後に画像化表面上の粒子コーティングの補充を容易にするためには、互いに付着するよりも強力に画像化表面に付着する粒子を利用する。この結果、塗布された層は、オーバーラップがあるとしてもほとんどない、ほぼ個別粒子の単層であり、したがって、単層の厚さは粒子の厚さと同等(例えば、1~3倍)である。換言すれば、層は、画像化表面の大部分の面積にわたって1個の粒子分の厚さのみであり、粒子全部でなくとも大部分が画像化表面に少なくとも若干の直接接触をする。
【0017】
単層を有することの1つの利点は、粒子と粒子がコーティングされる画像化表面との間に良好な熱結合が得られる点である。
【0018】
熱塑性粒子は、40μm未満、20μm未満、10μm未満、若しくは5μm未満、若しくは1μm未満、又は100nm~4μmの範囲内、若しくは300nm~1μmの範囲内、若しくは500nm~1.5μmの範囲内の粒径を有することができる。
【0019】
熱伝導によって印加された熱に被曝する選択された領域に対応するパターンの基板における印刷を可能にするためには、加熱された粘着性粒子の親和性は、画像化表面よりも基板に対する方が一層大きいものとする必要がある。さらに、選択された領域における基板に対する粘着性粒子のこの相対的に高い親和性は、粘着性があるものにされていない粒子に対する素(bare)の基板の親和性よりも大きいものとすべきである。この文脈において、基板に本発明方法又は装置によって印刷されるべき任意な所望の画像パターンがない場合に、基板は「素」であると称される。素の基板は、大部分の目的のために熱塑性粒子に対する親和性はほとんど持たないが、粘着性粒子の選択的親和性を可能にするため、幾分の残留親和性は許容することができる(例えば、視覚的な発見は不能である場合に)、又は特別な印刷効果にとっては望ましいものでさえある。素の基板面域に対する望ましくない転写は、寄生又は寄生性転写とも称される。
【0020】
用語「熱塑性粒子」は、粒子をコーティングするか又はほぼすべての粒子を形成するかに係わらず、熱塑性粒子が意図した目的に供することができるポリマー存在の任意な中間範囲を含めて、熱塑性ポリマーを含むすべての粒子(着色又は無色)に言及するのに使用される。外部コーティングに特に限定せず、熱塑性ポリマーが全体粒子内に均一に存在できる後者の場合、粒子は熱塑性ポリマーで作製されていると言える。
【0021】
粒子(加熱前及び加熱後)、転写部材のコーティング又は補充のために原粒子を搬送する流体、画像化表面、印刷基板、方法の任意のこのような素子間におけるこのような親和性勾配は、適当な材料又は特徴、例えば、硬度、滑らかさ、疎水性、親水性、電荷、極性、任意な2つの素子間における相互作用に影響を及ぼすことが既知である任意のこのような特性を選択することによって変調させることができる。
【0022】
粒子の粘着性フィルムを画像化表面から基板に転写するのを支援するため、画像化表面を疎水性にすることができる。
【0023】
幾つかの実施形態において、熱塑性粒子自体を疎水性とすることができる。このような場合、異なる状態にある粒子と画像化表面との間における相対親和性は、少なくとも部分的に疎水性-疎水性相互作用に基づくものであり得る。幾つかの実施形態において、粒子の単層の画像化表面への付着は、以下により詳細に説明するように、画像化表面の比較的低い硬度により支援される。比較的柔軟な画像化表面は、各個別粒子との緊密な接触を形成するのを支援し、このような密接接触はそれ自体画像化表面と粒子との間における比較的大きな接触面積があることの証しであり、これは粒子と比較的硬い表面との間に形成される離散的接触とは対照的である。したがって、このような緊密な接触は、例えば、疎水性-疎水性相互作用又はファン・デル・ワールス力のような、画像化表面と粒子との間の任意な短距離引力の効果を一層強めることができる。
【0024】
幾つかの実施形態において、熱塑性粒子及び/又は画像化表面は、代案的及び付加的に、電荷をベースとする相互作用によって、互いに対する(及び本発明教示による印刷プロセスに適した任意な他の流体又は表面に対する)所望の相対親和性を獲得することができる。例えば、正に帯電した粒子は負に帯電した表面を好むことができる。このような場合、異なる状態にある粒子と画像化表面との間における相対親和性は、電荷-電荷相互作用に基づくものであり得る。
【0025】
図面とともにこれらの記載は、当業者に対して非限定的な実施例として本発明の教示をどのように実施するかを明らかにするであろう。図面は説明的詳述目的であり、また本発明の基本的理解に必要以上に実施形態の構造的詳細を細密に示そうとするものではない。分かり易く簡潔にするため、図面に示される幾つかの対象物は縮尺通りに描かれてはいない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本願人による特許文献1に既に開示されている印刷システムの概略図を示す。
【
図2】薄い熱伝導性転写部材を利用する本発明のデジタル印刷システムの概略図である。
【
図3】
図2に例示されたデジタル印刷システムにおける他の実施形態の概略図である。
【
図4】
図2に例示されたデジタル印刷システムにおける他の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
例示的な印刷システムの概説
図1は、本開示の印刷システムを開発する元となる特許文献1(WO2016/189512)に記載の印刷システムを示す。
図1において、転写部材として作用するドラム10は、画像化表面として作用する外表面12を有する。ドラム10が矢印で示すように時計方向に回転するとき、微粒子の単層コーティングを取得するコーティングステーション14の下方を周期的に通過する。コーティングステーション14を退出した後、画像化表面12は画像化ステーション16の下方を通過し、この画像化ステーション16において、画像化表面12の選択された領域に放射線が印加され、画像化表面12の選択された領域における粒子コーティングを粘着性のあるものにする。
図1において、放射線は、画像化表面12の前面側の選択された領域をレーザー放射に被曝させることによって印加される。これとは対照的に、以下に詳細に説明する本発明開示においては、熱を転写部材の裏面側に直接印加する。
【0028】
次に、画像化表面12は、基板(サブストレート)20がドラム10と印象シリンダ(圧胴)22との間で圧迫されるニップを有する転写ステーション18を通過する。図には示さないが、印象シリンダは外表面に圧縮可能層を有することができる。転写ステーション18で加わる圧力は、画像化ステーション16におけるレーザー放射に対する被曝によって粘着性のあるものにされた画像化表面12のコーティングにおける選択された領域を画像化表面12から基板20に転写させる。基板に転写される選択した粘着性のエリアに対応する画像化表面12における領域は、結果として粒子転写によって消尽して露出することになる。この後、画像化表面12は、コーティングステーション14に復帰することによってそのサイクルを完了することができ、このコーティングステーション14において、新たな単層粒子コーティングが、先に塗布された粒子が転写ステーション18で基板20に転写されて露出した領域にのみ塗布される。このステップは、粒子コーティングの補充として見なすことができる。後に詳述するように、印刷基板とも称される基板は種々の材料(例えば、ペーパー、厚紙、プラスチック、織物等)で作製することができ、基板のうち幾つかは、随意的に、所望の特性に基づいてコーティングされた形態及び未コーティングの形態で存在することができ、また異なる形態(例えば、シート又は連続ウェブ)で転写ステーションに供給できる。
【0029】
基板に転写されるよう選択的に加熱される熱塑性ポリマー粒子は、フィルム(薄膜)、又は以下にさらに詳述するようにポリマーフィルムを形成すると言える。本明細書で使用する用語「フィルム」は、画像化表面上で被曝した粒子の各スポットが材料の薄層又はコーティングを形成でき、少なくとも転写ステーションで基板に転写されるまで可撓性を有し得るものであることを示す。用語「フィルム」は、画像化ステーションで加熱された隣接粒子のスポットが連続的コーティングとして集合的に転写されることを意味すると捉えられるべきではない。画像化表面上に形成された薄いフィルム(すなわち、レーザービームに十分に被曝した1つ以上の隣接粒子による)は、たかだか粒子厚さを保持する、又は転写の際により薄くさえなり得ると考えられる。したがって、本発明の教示による印刷システム及び方法によれば、有利にも粘着性のあるものにされた粒子の薄い層を基板上に印刷できる。幾つかの実施形態において、印刷されたフィルムは、1マイクロメートル以下、800nmを超えない、又は600nmを超えない、又は400nmを超えない、又は200nmを超えない、又は100nmさえも超えない厚さを有することができる。
【0030】
コーティングステーション
コーティングステーション14は、特許文献1(国際公開第2016/189512号)及び国際公開第2016/189513号とほぼ同一であり、したがって、ここでは詳細に説明しない。基本的には、コーティングステーションは、複数個のスプレーヘッド1401を備え、これらスプレーヘッド1401はドラム10の軸線に沿って互いに整列する。スプレーヘッドのスプレー1402は、ベル状のハウジング1403内に閉じ込められ、ハウジングの下側リム1404は、画像化表面に対してぴったり合う形状にし、ベル状のハウジング1403とドラム10との間に狭いギャップのみが残るようにする。スプレーヘッド1401は共通の供給レール1405に接続し、この供給レール1405はスプレーヘッド1401に加圧流体キャリヤ(ガス状又は液体)を供給し、この加圧流体キャリヤ内には、画像化表面12をコーティングするのに使用すべき微粒子を懸濁させる。
【0031】
ハウジング1403の内部空間によって形成されるプレナム1406内に閉じ込められるスプレーヘッド1401からの流体及び余剰粒子は、矢印で示される適当な吸引源に接続される出口パイプ1407から抽出され、またスプレーヘッド1401に戻る再循環をさせることができる。本明細書でスプレーヘッドに言及したが、共通供給パイプ又は導管に沿って流体懸濁粒子を供給できる任意な他のタイプのノズル又はオリフィスも含まれる。
【0032】
流体及び懸濁粒子を画像化表面上に直接的にスプレーする上述の実施形態の代替案として、特許文献1の
図2に示すコーティングステーションは、流体及び懸濁粒子を画像化表面上に擦り付けるよう動作する回転アプリケータを有することができる。この回転アプリケータは、代案として、ファイバ又は発泡体で作製した剛毛を有するブラシとすることができる。
【0033】
幾つかの実施形態において、コーティングシステム14の入口側、及び代表的には
図1に示す外部の上流場所に、粒子層の先に露出した領域に補充する前に画像化表面12の温度を低下させることができる冷却器1422を設ける。
【0034】
コーティングシステム14の入口側の冷却器1422及び出口側のヒーター1424の双方を設けることができる。さらに、ドラム10は、ドラム内部の適当な冷却器/ヒーターによって温度制御することができ、存在する場合のこのような温度制御構成は、画像化表面の外表面又は外表面の一部が任意な所望の温度に維持できるように動作する。
【0035】
コーティング粒子
コーティング粒子の形状及び組成は、特許文献1に完全に記載されている。本明細書に記載の本発明は、顔料着色された、染色された、又は無色の粒子を採用することができる。手短に言えば、高品質の印刷にとって、粒子は、塗布された単層コーティングの粒子間の隙間を減少するようできるだけ微細である、また必要な画像解像度より小さいのが望ましい。所望画像解像度に基づいて、幾つかの用途では、とくに、顔料着色された熱塑性粒子にとって10マイクロメートル(μm)までの粒径が適切であると考えられる。しかし、改善された画像品質を得るためには、粒径は2、3マイクロメートル、及びより好適には、約1μm未満であるのが好ましい。幾つかの実施形態において、適当な粒子は、100nm~4μmの間、300nm~1μmの間、とくには500nm~1.5μmの間における平均直径を有することができる。このような粒子を生産する方法に基づいて、粒子はほぼ球形であり得るが、このことは必須ではなく、血小板のような形状にもなり得る。
【0036】
ワニス又はラッカーのような保護又は装飾用のコーティングを形成するのに使用されるような無色の粒子の場合、平均直径が5マイクロメートル、10μm、20μm、30μm、又は40μmですらもの大きな粒子が望ましいことがあり得る。無色粒子は特別な印刷システム又は印刷ジョブに望ましい単独タイプであり得るが、幾つかの実施形態においては、無色粒子は、以下に詳述するように着色粒子が既に転写されている印刷基板上に最後に使用されて塗布される。
【0037】
代表的には、このようなサイズは、粒子母集団の平均として得られ、また顕微鏡法及び動的光散乱(DLS:Dynamic Light Scattering)法のような任意な従来既知の技術によって決定することができる。粒子母集団の平均直径は、DLSによって測定されるように、DV50(最大粒子の流体力学的直径であり、この直径下でサンプル体積の50%が存在する)によって評価することができ、また母集団の優勢部分のサイズはDV90で評価することができる。
【0038】
幾つかの実施形態において、熱伝導で印加される熱に対する被曝による単層粒子の転換から生ずるポリマーフィルム(薄膜)は、2μm以下、又は1μm以下、又は750nm未満ですらもの厚さを有する。他の実施形態において、ポリマーフィルムの厚さは、100nm以上、又は200nmを超える、又は300nmを超えものですらもある。ポリマーフィルムの厚さは、300nm~1,000nmの範囲内、又は500nm~1,500nmの範囲内、又は600nm~800nmの範囲内、又は700nm~1,000nmの範囲内であり得る。
【0039】
熱塑性粒子が無色である、例えば、オーバーコーティングを意図している実施形態においては、一般的に粒子は顔料着色粒子よりも大きく、また後の転写で得られるフィルム(薄膜)はこれに応じて大きい厚さを有することがあり得る。このような実施形態においては、ポリマーフィルムの厚さは、40μmまで達する、又は30μmを超えない、又は20μmを超えない、又は10μmを超えないものであり得る。
【0040】
幾つかの実施形態において、粒子はほぼ疎水性とすることができる。
【0041】
粒子キャリヤ
コーティング粒子が懸濁する流体と言える粒子キャリヤは、液体又はガスのいずれかとすることができる。液体である場合キャリヤは水をベースとするのが好ましく、またガス状である場合キャリヤは空気とするのが好ましい。経済性を考慮する場合、ハウジングのプレナム内部から抽出(例えば、吸引)される余剰粒子は供給源及び/又はアプリケータ装置に再循環させることができる。
【0042】
画像化ステーション
図1の画像化ステーション16は、やはり特許文献1に完全に記載されており、本開示において画像化ステーションは以下に
図2につきより詳細に説明される転写部材の裏面に熱接触する感熱プリントヘッド708に置き換わるため、ここで詳細に説明する必要はない。
【0043】
画像化表面
幾つかの実施形態において、画像化表面12は、代表的にはエラストマーで作製した疎水性表面とし、この表面は、概して剥離傾向のある材料(例えば、シリコーンをベースとした材料)から調合し、本明細書に記載の特性を有するよう調整することができる。シリコーンをベースとする母材は、意図された粒子と結合するのに適した任意の厚さ及び/又は硬さを有することができる。適当な硬さは、コーティングステーション14で粒子を画像化表面12に塗布するときに粒子に対して強力な結合を生じ、この結合は、粒子相互が付着する傾向よりも強力であるような硬さとする。比較的薄い画像化表面(例えば、5μm以下の厚さ)に関しては、剥離傾向材料は中位から低位にかけての硬度を有することができるとともに、比較的厚い画像化表面(例えば、約100μmまでもの厚さ)に関しては、剥離傾向材料(例えば、シリコーンをベースとした材料)は比較的高位の硬度を有することができると考えられる。幾つかの実施形態において、約60ショアA~約80ショアAの間における比較的高位の硬度が画像化表面にとって好適である。他の実施形態において、60、50、40、30、20ショアA未満又は10ショアA未満でさえもの中・低硬度が満足のいくものである。特別な実施形態において、画像化表面は約30~40ショアAの硬度を有し、より低い硬度は球形粒子にとって好適であると考えられる。この硬度は少なくとも5ショアAである。
【0044】
画像化表面の疎水性は、粒子を熱伝導によって加わる熱に対して被曝させることによって生じた粘着性フィルムを分裂することなくきれいに基板に転写できるようにする。表面は、基準液体が一般的には蒸留水である液体/空気/固体の界面におけるメニスカスによって形成される、ぬれ角又は接触角とも称される角度が90゜を超えるとき疎水性であると言える。普通はゴニオメータ又は液滴形状アナライザを用いて測定され、またコーティングプロセスの動作条件に関連する所定温度及び圧力で評価できるこのような条件の下で、水はビードになる傾向があり、表面に対してぬれを生ずることがなく、したがって、付着することがない。
【0045】
図1の画像化表面12はドラム10の外表面である。しかし、本開示では、
図2に示すように、画像化表面は、案内ローラ40上に案内されたベルトの形態を有する無端転写部材700の表面であり、またこの無端転写部材700は、コーティングステーション14を通過するドラム30によって上方に適切な張力が維持される。付加的構造は画像化表面12及びコーティングステーション14の互いの相対移動を可能にすることができる。例えば、画像化表面は、静電コーティングステーション下方を繰り返し通過できる可動プラテン、又は静止プラテンであって、このプラテンの一方の端縁から他方の端縁までコーティングステーションが繰り返し移動して全体的に画像化表面を粒子で被覆できるようにする静止プラテンを形成することができる。都合よくは、画像化表面及びコーティングステーションの双方は、間隙を介して互いに及び静止ポイントに対して移動し、コーティングステーションによって分配される粒子による画像化表面の全体コーティングを達成するにかかる時間を短縮することができる。画像化表面のすべてのこのような形態は、コーティングステーションに対しては可動(例えば、回転可能に、周期的に、無限に、又は繰り返しの移動可能、等々)であると言うことができ、このコーティングステーションで任意のこのような画像化表面を粒子でコーティングする(又は露出した領域に粒子を補充する)ことができる。
【0046】
図2では
感熱プリントヘッド708にさらされ
る転写部材700の走行部を2個の案内ローラ40が区切るが、このことは限定的であると解すべきではなく、1つ又はそれ以上の案内ローラ又は平滑なスライダをこの効果に使用することができる。
【0047】
転写部材
図2に示す感熱プリントヘッド708のような直接接触感熱プリントヘッド熱転写印刷装置は、市販されており、また主にタグ及びラベル、バーコード、並びに搭乗券を印刷するのに一般的に使用されている。これらは、従来熱塑性着色剤層でコーティングされたリボンを使用する。このリボンは受熱基板及び感熱プリントヘッドとの間に挟まれ、この感熱プリントヘッドは熱塑性着色剤を加熱及び溶融し、印刷画像の形態で基板に転写する。熱塑性着色剤層は均一なフィルムであるため、そのフィルムの一部が基板に転写された後にこの結果生ずる空所がリボンを再使用には適さないものにしてしまう。したがって、このような熱転写印刷プロセスは極めてムダが多く、またコスト的に効果的ではない。
【0048】
図2に示す本発明実施形態によれば、リボンは、多数印刷サイクルに再使用可能な転写部材700によって置き換えられる。転写部材の裏面側に直接熱接触することでエネルギーを画像化表面に印加する感熱プリントヘッド708を用いるとき、50μm、40μm、30μm、20μm、又は10μmほどすらもの薄い転写部材を採用する必要がある。最も基本的な形態において、このような転写部材は、単に2層、すなわち、耐熱性ポリマーベース層及び上述の画像化表面を有することができる。
【0049】
薄いベース層に適した耐熱性ポリマーの例は既知であり、ポリイミド(デュポン社Kapton(登録商標)のような)、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)、アラミドポリマー、スチレン・アクリロニトリル共重合体、等々がある。低溶融温度粒子の場合では、従来の熱転写リボンにおけるベース層に最も一般的に使用されているPETのようなより低い溶融温度ポリマーをベース層として使用することができる。
【0050】
画像化表面は転写ステップ中に粒子の粘着性フィルム(薄膜)を容易に剥離させなければならない。粘着性フィルムの画像化表面から基板への転写を支援するためには、画像化表面が低表面エネルギーを有する疎水性のあるものとすることができる。このような低表面エネルギーの表面は従来周知であり、一般的なシリコーン剥離コーティング、シリコーンエラストマー、フッ化シリコーン化合物、フッ素重合体、フッ化エラストマー、等々がある。上述の剥離材料のいずれもこのような薄い転写部材の画像化表面の剥離層として採用することができる。
【0051】
熱転写リボン技術で周知であるように、ベース層には付加的な「バックコート」(しばしば、裏打ち層又はスリップ層として知られている)をコーティングし、転写部材と感熱プリントヘッドとの間における摺動摩擦を減少し、またプリントヘッドの摩耗を減少できるようにしている。従来周知な例示的なバックコート材料としては、シリコーンオイル、UV硬化シリコーン、及びシリコーンブロック共重合体がある。このようなバックコート組成物は、さらに、当業者に周知である「スリップ剤」を含むことができ、スリップ剤としては、長鎖カルボン酸又は長鎖リン酸、リン酸の長アルキル鎖エステル、及び長アルキル鎖アクリレートの誘導体がある。
【0052】
図2において、参照符号1000で示す第1印刷システムは、
図1に示したものに基づき、画像化システム16を熱転写ヘッド708に置き換えており、また転写部材はドラムではなくベルトである。この実施形態において、代表的にはコーティングステーション14が顔料着色した熱塑性粒子の単層を塗布するこの第1印刷システム1000のニップを通過した後、基板に転写された熱塑性粒子がワニス又は保護若しくは装飾コートとして作用できる第2印刷システム2000のニップに基板が通過する。この印刷システム2000においては、コーティングステーション14′は、透明粒子の単層をドラム30′上に通過する転写部材700′に塗布する。しかし、転写部材700′における粒子の感熱プリントヘッドによる選択的加熱はなく、転写部材700′は基板20に押し付けられ、また透明粒子が基板に転写され、これはすなわち印刷システム1000によって塗布された基板上でのポリマーフィルムが依然として粘着性を帯びている、又は圧力ローラ720及び/又は印象シリンダ(圧胴)22′が加熱される、のいずれかに起因するからである。前者の場合、基板の画像面域のみがワニスコーティングを有し、後者の場合、基板表面全体が透明コーティングを受け取る。
図2はさらに、ポリマーフィルムを定着、硬化又は乾燥するための熱処理を受けることができる仕上げステーション740を示す。このような熱処理がポリマーフィルムとの圧力接触によって達成される場合、さらに、光沢のような所望表面仕上げを基板表面に付与するよう作用することもできる。
【0053】
図2において、熱転写ヘッド708は粘着性のあるものにされた粒子が基板20に転写されるニップに配置するように示した。しかし、これは必須ではなく、また図に示すように、ニップは、圧力ローラ721及び案内ローラ723との間における転写部材経路で印象シリンダ22と圧力ローラ721及び熱転写ヘッド708との間に画定することができる。粒子が先ず粘着性のあるものにされ、その後に受取基板に押し付け接触されるだけであるような場合、粒子は加熱された時点から基板に接触するまでの時点まで少なくとも幾分の粘着性を保持しなければならない。このことは、転写部材及び/又は粒子の温度特性が、その接触を行うまで十分な温かさ(すなわち、粘着性)を適切に維持するのを確実にすることによって、又は好適には、基板に押し付け接触されるまで粘着性を保持するに適切な遅延結晶化特性(ホットメルト接着剤の技術では「オープンタイム」と称される)を有する熱塑性粒子を採用することによって達成することができる。
【0054】
転写部材700は、上述したように、低摩擦バックコートを有することができるが、
図4の実施形態において、潤滑剤を転写部材700の裏面側と感熱プリントヘッド708との間に形成されるギャップに塗布することができる。
図4の実施形態は、
図3におけるものとはローラ725の形態とした潤滑剤アプリケータを付加した点でのみ異なる。
【0055】
図4において、潤滑剤が転写部材700の裏側表面に潤滑ローラ725によって塗布され、この潤滑ローラは感熱プリントヘッド708の上流、かつ好適には近接して位置決めする。潤滑ローラ725は、圧力ローラ721及び案内ローラ723の回転軸線にほぼ平行に、また転写部材700の幅全体にわたり延在する。潤滑ローラ725は、潤滑剤リザーバ(ここでは図示せず)に流体連通し、また円筒形表面に沿って複数の開孔を設けた中空チューブを有することができる。中空チューブは、さらに、その円筒形表面に沿ってスポンジのような多孔質材料で作製された圧縮可能スリーブで包囲することができる。したがって、このスリーブは、中空チューブから開孔及びスリーブを経由して転写部材700の裏面側にほぼ半径方向に液体をドリップさせることができるよう構成される。
【0056】
潤滑ローラ725は、圧縮可能スリーブが転写部材に接触するように位置決めされ、また軸線周りに回転するよう構成される。転写部材の移動に応じて回転することができる(例えば、転写部材との摩擦で駆動されることによって)、又はスリーブの表面が転写部材の裏面を摺動するよう転写部材の移動とは独立的に回転することができる。幾つかの実施形態において、潤滑ローラ725は転写部材の移動によって決定される方向とは反対方向に回転することができる。
【0057】
動作にあたり、中空チューブは潤滑剤でほぼ充満し、潤滑剤は、中空チューブの開孔及び圧縮可能スリーブにドリップして転写部材の裏面に沁み出すことができる。幾つかの実施形態によれば、潤滑剤は、例えば、ポンプによって開孔により加圧され、また幾つかの実施形態によれば、オイルが開孔から重力でドリップすることができる。
【0058】
印刷システムのいかなる構成においても、潤滑剤は転写部材及び、潤滑剤が転写部材経路で接触するいかなる素子(例えば、案内ローラ)と共存可能であり、また少なくとも印刷システムの動作で感熱プリントヘッドにより発生した温度で安定しているものが有利である。潤滑剤は、代表的には転写部材の表面エネルギーよりも高い表面張力を有し、オイルの潤滑に起因して面上でビードを形成する。
【0059】
幾つかの実施形態において、潤滑剤は、転写部材に貫通し、画像化表面上に滲み出て薄いフィルム(薄膜)を形成し、上述したように、転写ステーションにおける粘着性粒子又はフィルム(薄膜)の基板上への剥離を促進し得るシリコーンオイルとすることができる。このような実施形態において、潤滑剤として転写部材の裏面側における適当なシリコーンオイルの使用は、転写部材の耐用寿命期待値を高めることができ、これはすなわち、時間経過とともに減少しまた終了しさえもするシリコーン母材からのシリコーンオイルの自然放出に比べて、追加される潤滑剤は動作中とめどなく供給される。シリコーンオイルの粘性は、転写部材のシリコーン母材における浸透性及び全体厚さに従って、シリコーンオイルの転写部材への十分な貫通が得られ、ただし画像化表面の均一性、ひいては印刷品質に影響を及ぼすおそれのある程度まで転写部材を膨張させるのを回避するよう選択することができる。同様に、シリコーンオイルの分子量は、転写部材にわたる拡散を可能にするに十分小さいが、拡散速度を制御する程度に十分な大きさのものとすることができる。いずれにしても、転写部材の前面側から脱離され得るシリコーンオイルは、画像化表面上に形成された画像の所望剥離を生ずるほどに十分多い量であるが、印刷基板へのいかなる有意な転写を回避するに十分なほど少ない量である。特別な実施形態においてはインク画像の転写部材から印刷基板への剥離を容易にする潤滑剤は、「剥離促進剤」と見なされる。幾つかの実施形態において、粘性は30~400mPa・Sの範囲内にある。より好適には、粘性は50~300mPa・Sの範囲内にあるものとすることができる。
【0060】
図2に示すデジタル印刷システムは単色しか印刷できないが、多色印刷は、コーティング、画像化及び転写のステーション(印刷システム1000で示すような)による多重構成に同一基板を順次に通過させ、これら多重構成を互いに同期及び/又は整合させ、各々が異なる色を印刷することによって達成することができる。このような場合、異なるコーティングステーション間に基板処理ステーションを設けるのが望ましいことがあり得る。処理ステーションは、例えば、先行転写ステーションの出口における基板の温度を低下させることができる冷却器とすることができる。幾つかの転写済みフィルム(薄膜)は、異なる粒子の後続転写を損なうおそれがある程度に幾分の残留粘着性を保持し得るため、基板に転写されたフィルムを冷却することによってこのような残留粘着性を排除するのが有利であり得る。熱塑性ポリマーに基づいて、いかなる残留粘着性も排除、又はプロセスに影響を与えないレベルまでの低下は、代案として、処理ステーションを硬化ステーションとすることによって達成することができる。
【0061】
さらに、上述の段落では、コーティング、画像化及び転写のステーションにおける各構成は異なる色の印刷用と見なしたが、他の実施形態においては、このようなステーション(印刷システム1000によって示される少なくとも2つの上記ステーション構成を備える印刷システムにおける)のワンセットを使用して、無色粒子を塗布することができる。例えば、無色粒子は最終構成で塗布することができる。このような場合、最終画像化ステーションの放射に被曝した最終コーティングステーションにおける粘着性熱塑性粒子の無色フィルムは、最終転写ステーションで転写されて、例えば、先行着色済みフィルムに対するオーバーコートとして作用する。これらステーションは、オーバーコート構成又はサブシステムを形成すると言える。逆に、無色印刷の構成は、例えば、着色フィルムの後塗布及び/又は付与し得る視覚効果を変更するためシリーズの最初にすることができる。これらステーションは、アンダーコート構成又はサブシステムを形成すると言える。
【0062】
さらに、印刷システムは、たとえモノクロームであっても、両面印刷を可能にする両面印刷システムを備えることができる。幾つかの事例において、両面印刷は、例えば、基板を未だ印刷されていない側面を反転させ、またこの基板の未印刷側面を、第1側面を印刷するのに供された同一処理及び印象ステーションに戻す基板移送システムのレベルで対処することができる。他の事例において、両面印刷は、2つの個別転写ステーションを設け(及びそれぞれ上流又は下流のステーション)、各転写ステーションが同一基板の異なる側面を印刷できるようにすることによって対処することができる。
【0063】
基板
図面に示す印刷システムは、任意の特別な基板タイプには限定されない。基板は、ペーパー又はカードの個別シートとする、又は連続ウェブの形態を有することができる。軟化したポリマー粒子の薄いフィルムを基板に塗布する方法に起因して、フィルムは基板の表面に在留する傾向がある。このことは、高品質の印刷を異なる品質のペーパー上で達成することができる。さらに、基板材料は、繊維質である必要はなく、また任意なタイプの表面、例えば、プラスチックフィルム又は剛性ボードとすることができる。
【0064】
幾つかの実施形態において、印刷基板の表面は粘着性粒子のフィルムの転写に利するよう処理することができる。処理は物理的(例えば、コロナ)又は化学的なものとすることができる(例えば、適当な外部コートを含む基板)。
【0065】
転写ステーション
図2に示す転写ステーションは、転写部材700及びその外側画像化表面12に押し付けられる滑らかな印象シリンダ(圧胴)22のみ有する。印象シリンダ22は基板移送システムの一部を形成することができ、この場合、この基板移送システムは個別基板シートの先導端縁に係合するグリッパを装備することができる。デジタル印刷システム以外において、印象シリンダ22は、基板20に転写すべき粒子コーティングの領域を選択するエンボス加工表面を有することができる。
【0066】
本明細書の記載及び本発明の特許請求の範囲において、動詞「備える(comprise)」、「含む(include)」及び「有する(have)」のそれぞれ、並びにそれらの変化形を使用して、動詞の目的語が、必ずしも部材、コンポーネント、素子、ステップ又は動詞における主語の一部の完全なリストではないことを示す。これら用語は「からなる」及び「ほぼからなる」を包含する。
【0067】
本明細書で使用する単数形「a」、「an」、「the」は複数形があることにも言及し、文脈でそれ以外を明示しない限り、「少なくとも1つ(at least one)」又は「1つ又はそれ以上(one or more)」を意味する。
【0068】
位置的又は運動的な用語、例えば、「上側(upper)」、「下側(lower)」、「右(right)」、「左(left)」、「底部(bottom)」、「下方(below)」、「低下した(lowered)」、「低い(low)」、「頂部(top)」、「上方(above)」、「上昇した(elevated)」、「高い(high)」、「垂直方向の(vertical)」、「水平方向の(horizontal)」、「前方の(front)」、「後方の(back)」、「後方に(backward)」、「前方に(forward)」、上流(upstream)」、「下流(downstream)」、並びにそれらの文法的な変化形は、単に例示としての目的のために使用し、若干のコンポーネントの相対的な位置決め、配置又は変位を説明し、その説明における第1及び第2のコンポーネントを示すものである。このような用語は、必ずしも例えば、「底部(bottom)」コンポーネントが「頂部(top)」コンポーネントの下方にあることを示すものではなく、なぜなら、このような方向、コンポーネント又はその双方は、空間内で反転、回転、若しくは移動する、対角線方向の向き若しくは位置に配置される、水平方向若しくは垂直方向に配置される、又は同様の変更を加えられるからである。
【0069】
他に明示しない限り、選択の選択肢リストにおける最後の2つの部材間において「及び/又は(and/or)」を使用することは、挙げられた選択肢のうち1つ又はそれ以上の選択が適切であることを示し、またそうすることができる。
【0070】
本明細書において、他に明示しない限り、本発明の実施形態における特徴の条件又は関係特性を修飾する「ほぼ(substantially)」及び「約(about)」のような形容詞は、条件又は特性は意図する用途のための実施形態の動作に容認可能な公差範囲内、又は測定を実施することから及び/若しくは使用する測定機器から予想される変動内に規定されることを意味すると理解すべきである。用語「約(about)」が数値に前置されているとき、±15%又は±10%、又は単に±5%でさえも示すことを意図し、また幾つかの事例では精密値を示すことを意図する。
【0071】
本発明は、若干の実施形態及び全体的に関連した方法につき説明したが、実施形態及び方法を変更及び置換できることは当業者には明らかであろう。本発明は本明細書に記載の特定の実施形態によって限定されるものではないと理解すべきである。
【0072】
本発明の理解又は完全な開示に必要な程度に、特に本願人の出願を含めて本明細書記載のすべての公報、特許、特許出願は、参照により全体が本明細書に組み入れられるものとする。