(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】粒状有機肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05C 9/02 20060101AFI20240205BHJP
C05G 1/00 20060101ALI20240205BHJP
C05G 5/00 20200101ALI20240205BHJP
B09B 3/38 20220101ALI20240205BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20240205BHJP
【FI】
C05C9/02 ZAB
C05G1/00 A
C05G5/00
B09B3/38
B09B101:70
(21)【出願番号】P 2020005243
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】520152467
【氏名又は名称】朝日アグリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 智孝
(72)【発明者】
【氏名】石川 伸二
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】見城 貴志
(72)【発明者】
【氏名】松岡 英紀
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】飯島 克
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-116075(JP,A)
【文献】特開平02-160685(JP,A)
【文献】米国特許第05411568(US,A)
【文献】欧州特許第01288179(EP,B1)
【文献】中国特許出願公開第102153392(CN,A)
【文献】米国特許第04781749(US,A)
【文献】特公平02-054315(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B
C05C
C05D
C05F
C05G
B09B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0以上で1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、
尿素を5.0~20質量%の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.13以上で1.84未満の範囲に調整されているプレミックスを調製した後、
前記プレミックス
を有機資材に添加、混合した後、造粒、乾燥工程を行う粒状有機肥料の製造方法
であって、
前記有機資材として、最大容水量の測定方法(Hilgard法)に準じて、底面からの吸水時間を肥料製造時の混合時間に準じて30minとした保水量の測定で吸水後30分の保水量が180g/100gを越えている畜糞堆肥、食品残渣堆肥、なたね油粕、又は、ひまし油粕が用いられていて、
前記プレミックスを前記有機資材に添加、混合してなる混合物の水分量/保水量割合が20%を越えない粒状有機肥料の製造方法。
【請求項2】
製造した粒状有機肥料のウレアホルム態窒素が4%を越える請求項1記載の粒状有機肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は粒状有機肥料の製造方法及びこれにより製造した粒状有機肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の農業現場では、農業生産者の高齢化、土壌への施肥過剰による環境負荷から、省力的かつ効率的施肥効率から環境保全的な緩効的肥料の需要が拡大している。
【0003】
その中でも、樹脂皮膜等で粒状尿素等を被覆したコーティング肥料が主要となっているが、樹脂皮膜の残存、製造時の溶剤使用など逆に環境負荷の問題が発生している。
【0004】
本願出願人は、有機肥料にスラリー状の尿素、ホルムアルデヒド混合物を添加しながら造粒することにより、微生物分解を抑制し、肥料効果を緩効化させた緩効化粒状有機肥料及びその製造方法を提案している(特許文献1)。
【0005】
特許文献1で提案している粒状有機肥料では原料がすべて普通肥料原料で、樹脂被覆肥料のように樹脂の殻が土壌中に残存することがなかった。なによりも、粒状肥料中に均一にウレアホルムが充填されることにより、粒状肥料中の有機肥料と土壌中の微生物との接触が制限され、微生物分解が抑制されるものであった。粒状肥料中に均一に充填されたウレアホルムは微生物により徐々に分解され、有機肥料と土壌との接触面積が徐々に拡大して肥効が発現するものであった。このようなウレアホルムの緩効化、有機肥料と土壌との接触を制限することによる微生物分解の抑制の二元的効果により、理想的な肥料の緩効性発揮を可能にし、高品質作物の栽培に適した緩効度の高い粒状有機肥料とその製造方法であった。
【0006】
本願出願人が特許文献1で提案した緩効化粒状有機肥料では、製品のウレアホルム態窒素は4%程度であり、この点で、緩効度に関して改善、改良を加える余地があった。
【0007】
緩効度を改善、改良する観点からは、ウレアホルム態窒素を多くすることが考えられる。
【0008】
この場合、粉末のウレアホルムを入れることでウレアホルム態窒素を増加させることが可能であるが、粉末のウレアホルムを入れる場合、同時に粉末ウレアホルムに含有されている難分解性窒素化合物が作物への窒素利用率を低下させるおそれがある。
【0009】
また、粉末ウレアホルムは原料を液体に溶解・反応・乾燥したものであるが、乾燥時に粘性が高くなり乾燥が難しく、粉砕も必要なため製造に必要なエネルギーを要することになる。
【0010】
そこで、特許文献1で提案した緩効化粒状有機肥料とその製造方法で採用されていたように、スラリーを利用し、ウレアホルム態窒素を多くすることが考えられるが、スラリーの利用には以下のような問題点がある。
【0011】
スラリーの添加量に制限がある。例えば、特許文献1で提案した緩効化粒状有機肥料とその製造方法による実際の製品では、スラリー添加量は、原料に用いている骨粉、皮粉、なたね油かす、大豆油かす、乾燥菌体肥料、魚かす、等の有機肥料に添加、混合した後の全体に対して12質量%程度、上限は20質量%程度であった。
【0012】
特許文献1で提案した緩効化粒状有機肥料とその製造方法による実際の製品を転動造粒(ドラム式)で製造する場合、造粒時に、全ての原材料由来の水分、造粒を適切に進めるための加水が必要になる。そこで、液体のスラリーを添加できる量には制限がある。他の製造方式であるペレット(押出成型)や ブリケット(圧縮成型)を採用するにしても、転動造粒と同様に液性物の添加量の上限は高くない。
【0013】
スラリー中のウレアホルム態の分子サイズ分布は、尿素/ホルムアルデヒドのモル比調整である程度変更することが可能である。しかし、固形成分/水分比は保管性の問題から変更が難しく、スラリー中の固形成分の増加は困難である。
【0014】
また、スラリーは、製造時に縮合反応がある程度進み、造粒乾燥時に更に高次の縮合反応が進み、難分解性化合物が増加する。
【0015】
ウレアホルムは、尿素とホルムアルデヒドのモル比が低いほど緩効性は高くなるが、難分解性化合物も増加する。
【0016】
肥料原料の多くは酸性であり、造粒時の混合物のpHも酸性となりやすい。スラリーは酸性条件において縮合反応が進むため乾燥工程までの時間で難分解性化合物が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
この発明は、特許文献1で提案されている粒状有機肥料及びその製造方法を踏まえて緩効度が改善、向上し、製造コストの面でも改善された粒状有機肥料の製造方法とこれによって製造した粒状有機肥料を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
<スラリーのU/Fモル比と造粒工程前の尿素添加量>
本願の発明者は、特許文献1記載の発明ではスラリー中の固形成分の増加が困難であることから、スラリーを調製した後に尿素を添加することを考え、スラリーのU/Fモル比と造粒工程前の尿素添加量について検討を行った。
【0020】
尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が異なる尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して尿素を添加、混合したときの窒素構成割合、縮合程度を検討したものである。検討に用いたスラリーのU/F比は以下の通り。
【0021】
【0022】
表1におけるAU200~AU206は、特許文献1に係る緩効化粒状有機肥料の市販品を製造する際に用いている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーである。
【0023】
上記の4種のスラリーに対して尿素を添加、混合した後の混合モル比(すなわち、見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(見かけのU/F比))及び、縮合程度は以下の通りであった。
【0024】
次のように検討を行った。
表1に示したモル比のスラリー100gをビーカーに採った。
これに尿素0~10gを投入し撹拌子を30分間回し、溶解させた。
90℃の乾燥機内で16時間静置後1度撹拌し、その後24時間静置し乾燥を行った。
得られたウレアホルムを粉砕後、2mm以下に篩別し、窒素全量、冷水可用性窒素、熱緩衝液不溶性窒素(pH7.5±0.2の沸騰しているりん酸塩緩衝液に不溶の窒素)を測定した。
上記分析方法は、ホルムアルデヒド加工尿素肥料の規格による活性係数の分析であり、肥料等試験法(2018)の尿素性窒素の分析方法に従った。
速効性、緩効性、難分解性について、ウレアホルムの活性係数測定における
冷水可用性N=速効性
熱水不溶性N=難分解性
冷水不溶性N-熱緩衝液不溶性=緩効性
と定義して整理したところ以下の表2の結果になった。表2の結果をU/F比順、窒素(N)構成割合で
図1に表した。
【0025】
【0026】
表2における試料No.は表1のスラリー100gあたりの尿素の混合量を表している。例えば、表2における試料No.206-10は、表1の資料No.AU206 100gに、10gの尿素を溶解したものである。
【0027】
以上の分析から以下が認められた。
全体の傾向として難分解性が減少し、緩効性が増加していた。
低モルのスラリーが尿素との反応性を残していることが示唆された。
試料No.AU200のスラリー(スラリー時のU/F比:1.25)では緩効性割合が増えず、速効性が増加した。添加した尿素がほとんど未反応で、速効性割合が増加したと考えられる。
【0028】
特許文献1記載の発明においてスラリーを調製した後、尿素を添加することで固形成分の増加を図る場合、スラリー時のU/F比が1.25以上であると速効性割合が増加し、緩効性割合は増えないことから、スラリー時のU/F比は1.25未満であることが望ましいと考えられた。
【0029】
特許文献1記載の発明においてスラリーのU/F比が1.0を下回るとスラリーの粘性が高くなって肥料原料としては好ましくないものとなると考えられ、スラリーのU/F比は1以上であることが望ましいと考えられた。
【0030】
緩効性が増加することが望ましく、速効性や難分解性が増加することが望ましくないという観点から、表2、
図1の検討結果より、特許文献1記載の発明で行われていたようにスラリーを調製し、その後に、尿素を添加することで固形成分の増加を図る場合、スラリー時のU/F比は1.0以上で1.25未満であることが望ましいと考えられた。
【0031】
試料No.203-10(スラリー時のU/F比:1.00のAU203スラリー100gに尿素10g添加)、試料No.206-10(スラリー時のU/F比:1.10のAU206スラリー100gに尿素10g添加)は、混合モル比(見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(見かけのU/F比))が1.25、1.37で、更なる尿素添加の可能性を残していると考えられた。
【0032】
<スラリーのU/Fモル比及び尿素の混合による縮合程度>
上述したように、試料No.203-10(スラリー時のU/F比:1.00のAU203スラリー100gに尿素10g添加)、試料No.206-10(スラリー時のU/F比:1.10のAU206スラリー100gに尿素10g添加)は、更なる尿素添加の可能性を残していると考えられた。そこで、AU206(スラリー時のU/Fモル比:1.10)について次のようにして尿素添加量と縮合程度に関して検討した。
【0033】
U/Fモル比1.10のスラリー100gをビーカーに採った。
これに尿素を0~20gを投入し撹拌子を30分間回し、溶解させた。
90℃の乾燥機内で16時間静置後1度撹拌し、その後24時間静置し乾燥を行った。
得られたウレアホルムを粉砕後、2mm以下に篩別し、アンモニア態窒素、尿素態窒素、冷水不溶性窒素、熱緩衝液不溶性窒素(pH7.5±0.2の沸騰しているりん酸塩緩衝液に不溶の窒素)を測定した。
【0034】
検討に用いた試料No.AU206のスラリー(U/Fモル比1.10)に対して尿素を添加、混合した後の混合モル比及び、縮合程度は以下の表3通りであった。
【0035】
表3における試料No.は試料No.AU206のスラリー100gあたりの尿素の混合量を表している。例えば、表3における試料No.206-5は、試料No.AU206のスラリー100gに尿素5gを溶解したものである。
【0036】
表3における緩効性(1)、緩効性(2)、難分解性、速効性の定義は、ウレアホルムの活性係数測定における
尿素態窒素(N)+アンモニウム態窒素(N)(UN+AN)=速効性、
冷水可用性窒素(N)-(UN+AN)=緩効性(1)(メチロール尿素)、
熱水不溶性窒素(N)=難分解性(高度メチレン尿素)
熱水不溶性窒素(N)-熱緩衝液不溶性窒素(N)=緩効性(2)(メチレン尿素)
である。
【0037】
【0038】
表3の結果をU/F比順、窒素(N)構成割合で
図2に表した。
【0039】
検討結果が表3であった206シリーズの尿素態窒素(UN)及びアンモニウム態窒素(AN)を測定した結果、UNは計算値よりも低い値を示し、下記の表4のように計算上のUNの6割程度の残存率となった。
【0040】
【0041】
このように、尿素態窒素(UN)の残存率(%)は比較的低い値を示し、計算上のUNの6割程度の残存率であった。
【0042】
冷水可用性窒素(N)から「尿素態窒素+アンモニウム態窒素(UN+AN)」を差し引いた値をメチロール尿素と考えると表3の通り、かなりの部分がメチロール尿素として残っていると推定された。
【0043】
試料No.AU206のスラリー100gあたりに5g~20gの尿素を添加した場合、メチロール尿素+メチレン尿素の割合は68~74%に高めることができた。
【0044】
また、試料No.AU206のスラリー100gあたりに20gの尿素を添加した場合、難分解性の窒素は10%程度に抑えられた。
【0045】
肥料として考えた場合、肥効のほとんどない難分解性の窒素(N)が多いことは大きな欠点となる。そこで、上述した検討からは、AU206のスラリー100gあたりに20gの尿素を添加する設定が最も適していると考えられた。
【0046】
AU206のスラリー100gあたりに20gを越える尿素を添加する場合、溶解に非常に時間を要する、あるいは、溶解しない場合があることが認められた。
【0047】
そこで、尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して20質量%を越えない範囲の割合で尿素を添加することが、難分解性の高度メチレン尿素の生成を抑えつつ、緩効性窒素(N)の割合を上昇させることができると認められた。
【0048】
特許文献1記載の発明におけるスラリーを調製した後、5質量%、10質量%の尿素を添加して検討した結果に基づく、上述の、スラリー時のU/F比は1.0以上で1.25未満であることが望ましいという検討結果と、尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して20質量%を越えない範囲の割合で尿素を添加することが、難分解性の高度メチレン尿素の生成を抑えつつ、緩効性窒素(N)の割合を上昇させることができるというこの検討結果から、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0以上で1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、尿素を5.0~20質量%の割合で添加することが望ましいと認められた。この場合、見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)は1.13~1.84となる。
【0049】
<分解特性についての検討>
特許文献1に係る緩効化粒状有機肥料(ウレアホルム態入り有機複合肥料)において、特許文献1に係る緩効化粒状有機肥料を製造する際のスラリーを用いている場合と、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0~1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、尿素を5.0~20質量%の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.13~1.84未満の範囲に調整されているプレミックスを用いた場合とで分解特性の検討を行った。
【0050】
特許文献1に係る緩効化粒状有機肥料の市販品を製造する際に用いている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206(スラリー時のU/Fモル比1.1)(液状ウレアホルムスラリー)3kgを大型ポリビーカーに採った。
【0051】
これに尿素600g(20質量%)を投入し、撹拌子を30分間回し溶解させ、見かけのU/Fモル比1.64のスラリーを調整した(以下、これを「プレミックス」と呼ぶ)。
【0052】
下記の表5に示した配合比率で乾物混合原料5kgに対し、上記のプレミックスを所定量撹拌式混合機の中で加えよく混合し、分散させた。
【0053】
【0054】
次に混合分散させた原料を機器より取り出し、ペレット式造粒機にかけ造粒した。
さらに成形したペレットを回転式球形整粒機にかけ形をととのえた。
【0055】
同様な操作を繰り返し、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して20質量%の尿素を添加して見かけのU/Fモル比1.64に調製したプレミックスを用いて含有窒素割合12%の粒状有機肥料(新規品N12%)及び、含有窒素割合14%の粒状有機肥料(新規品N14%)を製造した。
【0056】
一方、スラリーAU206(スラリー時のU/Fモル比1.1)を表5における「調整スラリー」として用いる点以外は同様にして比較対象となる含有窒素割合12%の粒状有機肥料(既製品N12%)を製造した。
【0057】
整粒した造粒品は棚型乾燥機に入れ、75℃で12時間乾燥した後ふるいわけし2~4mmサイズ゛のものを製品とした。
【0058】
分解(無機化)測定方法
分解(無機化)測定方法は、土壌養分分析法に従い、一部改変して行った。
畑地土壌(淡色黒ボク土・沖積土)の土壌を4mmのふるいでふるい分け、ふるい下を供試した。乾土50gに(N50mg/100g乾土)相当量の粒状肥料を混合し、120mlのポリビンに入れ、最大容水量の55%になるように水を加え、ふたをした後25℃に静置した。
所定期間後サンプルを含む土壌を全量500mlのポリビンに移し10%KCl水溶液を250ml加え、60分間震とうし、濾液をサリチル酸法(アンモニア態窒素)、CuCd還元ナフチルエチレンジアミン法(硝酸態窒素)を用いて分析した。
【0059】
これより無機化率を計算したところ表6、
図3の結果になった。
【0060】
【0061】
粒状有機肥料(新規品N12%)は、既製品(N12%)に比べて緩効化していることが示された。特に、初期の分解が既製品よりも抑制されていた。
【0062】
図3図示の通り、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206に対して尿素を20質量%の割合で添加して見かけのU/Fモル比1.64に調製したプレミックスを用いて製造した粒状有機肥料(新規品N12%)は、前記プレミックスに替えてU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206を用いた以外は同様にして製造した粒状有機肥料(既製品N12%)に比べ、緩効化していることが示された。
【0063】
<最大容水量の高い有機資材の検討>
特許文献1で提案した緩効化粒状有機肥料とその製造方法による実際の製品では、スラリー添加量は、原料に用いている骨粉、皮粉、なたね油かす、大豆油かす、乾燥菌体肥料、魚かす、等の有機肥料に添加、混合した後の全体に対して12質量%程度、上限は20質量%程度であった。
【0064】
スラリーの利用によってウレアホルム態窒素を多くする場合、使用するスラリーの割合を多くするためには、粒状有機肥料の製造に用いられる有機資材として最大容水量の高いものを用いることが考えられる。
【0065】
そこで、最大容水量の高い有機資材について検討を行った。
保水量については、最大容水量の測定方法(Hilgard法)に準じて行い、底面からの吸水時間は肥料製造時の混合時間に準じて30minとした。
検討結果は
図4、表7の通りであった。
【0066】
【0067】
上記の検討から以下のように考えられた。
造粒時間の目安30分で判断すると、堆肥≒植物系>動物系>その他(灰等)の順で容水量は大きくなった。
植物系油粕類は、比重も低く、空げき率が大きいことがプラス要因となっていると見られる。
堆肥では、牛糞堆肥が吸水後30分の保水量が180g/100gで、それ以外の堆肥はいずれも吸水後30分の保水量が200g/100gを越えていた。
植物系では、菜種、米ぬか、ひまし(TN10)が吸水後30分の保水量が200g/100gを越えていた。
動物では、皮粉が吸水後30分の保水量が200g/100gを越えていた。
灰系等のその他では吸水後30分の保水量が180g/100gを越えるものはなかった。
【0068】
<造粒試験>
下記の表8に示した配合比率で粒状有機肥料を製造した。
【0069】
表8の新規製品(1)における「調整スラリー」は、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206に対して尿素を20質量%の割合で添加して見かけのU/Fモル比1.64に調製したプレミックスである。「既製品」における「調整スラリー」は、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206である。比較品(1)、(2)における「調整スラリー」は、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206に対して尿素を20質量%の割合で添加して見かけのU/Fモル比1.64に調製したプレミックスである。新規製品(1)と異なって「豚ぷん堆肥」を製造原料に用いないことから「比較品」としたものである。
【0070】
表8における「乾物原料」欄の「豚ぷん堆肥」~「インド菜種粕」に記載されている構成からなる乾物混合原料7kgに対し、上述した「調整スラリー」を所定量撹拌式混合機の中で加えよく混合し、分散させた。新規製品(1)では表8に示したように、上述の表7の検討結果で吸水後30分の保水量が292.3g/100gであった豚ぷん堆肥を最大容水量の高い有機資材として用いた。
【0071】
次に混合分散させた原料を機器より取り出し、ペレット式造粒機にかけ造粒した。さらに成形したペレットを回転式球形整粒機にかけ形をととのえた。
【0072】
同様な操作を繰り返し、比較品のサンプルを作成した。
ただし、比較品(1)、比較品(2)は調整スラリーを加えた段階で水分過剰状態となって、ペレット式造粒機を通過せず、造粒不可能であった。
【0073】
整粒した造粒品は棚型乾燥機に入れ、75℃12時間乾燥した後ふるいわけし2~4mmサイズのものを製品とした。
【0074】
新規製品(1)は、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206に対して尿素を20質量%の割合で添加して見かけのU/Fモル比1.64に調製したプレミックス30.0質量%を添加、混合している。そこで、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206を全体に対して25質量%で添加、混合して粒状有機肥料を作成した。
【0075】
また、豚ぷん堆肥50.0質量%で配合しているので、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206を最大容水量の高い有機資材に対して50質量%で添加、混合して粒状有機肥料を作成した。
【0076】
作成した新規製品(1)、既製品は後述する無機化試験、肥効試験に供した。
【0077】
【0078】
上述のように混合し、分散させたものにおける水分割合、水分量は表9の通りであった。
【0079】
【0080】
また保水割合、保水量は表10の通りであった。
【0081】
【0082】
製造した粒状有機肥料(ただし、比較品(1)、比較品(2)は上述したように造粒不可能であったので粒状になっていない有機肥料)の7kgあたりに換算した水分量、保水量及び、水分量/保水量の割合は表11の通りであった。
【0083】
【0084】
水分量/保水量割合を見ると、造粒可能な新規製品(1)は水分量/保水量割合が18.3%であった。一方、水分量/保水量割合が26.0%、25.7%の比較品(1)、(2)は造粒不可能であった。
【0085】
この結果、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0~1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、尿素を5.0~20質量%の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.13~1.84未満の範囲に調整されているプレミックスを調製し、これを有機資材に添加、混合したときの水分量/保水量割合は20%を越えないことが造粒可能性の観点から必要であると考えられた。
【0086】
上述の表8の検討では吸水後30分の保水量が292.3g/100gであった豚ぷん堆肥を最大容水量の高い有機資材として用いた。発明者の同様の検討によると、表7での検討において、吸水後30分の保水量が180g/100gを越えていたものは、いずれも、上述した表8の新規製品(1)の配合、構成とすることで粒状有機肥料を製造することができた。また、本発明の目的とする粒状有機肥料を製造する上では、吸水後30分の保水量が200g/100gを越えていたものの方がより好ましいと認められた。
【0087】
そこで、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0以上で1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、尿素を5.0~20質量%の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.13以上で1.84未満の範囲に調整されているプレミックスを調製し、前記プレミックスを最大容水量の高い有機資材に添加、混合した後、造粒、乾燥工程を行って粒状有機肥料を製造する際に、最大容水量の高い有機資材としては、吸水後30分の保水量が180g/100gを越えている有機資材が望ましく、より好ましくは、吸水後30分の保水量が200g/100gを越えている有機資材であると認められた。
【0088】
以上の検討結果を踏まえた本発明による粒状有機肥料の製造方法は、
尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0以上で1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、
尿素を5.0~20質量%の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.13以上で1.84未満の範囲に調整されているプレミックスを調製し、前記プレミックスを最大容水量の高い有機資材に添加、混合した後、造粒、乾燥工程を行うものである。
【0089】
尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が前記範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、尿素を前記の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が前記範囲に調整されているプレミックスを調製した後、これを最大容水量の高い有機資材に添加、混合した後、造粒、乾燥工程を行うことで、調製時の縮合反応を抑制し、難分解性の化合物の合成を抑え、造粒時における縮合反応の発現が多くなるようにして、高い緩効性成分の保持を可能にし、高い窒素発現と緩効性を発現できる、緩効性の肥効と土壌改良(土壌の物理・化学・生物性の改善)効果を合わせ持った新規肥料(緩効化粒状有機肥料)を提供するものである。
【0090】
また、このようにして粒状有機肥料を製造することで、固形成分量を高め、より多くの緩効性成分を添加できるようにしたものである。
【0091】
上述した本発明が提案する粒状有機肥料の製造方法では、最大容水量の高い有機資材を利用することで、従来は添加制限のあったスラリーをより多く添加でき、緩効性成分の保持力を高めることができた。
【0092】
最大容水量の高い前記有機資材としては、吸水後30分の保水量が180g/100gを越えている有機資材、より好ましくは、吸水後30分の保水量が200g/100gを越えている有機資材を用いることができ、例えば、家畜堆肥又は食品残渣堆肥を用いることができる。また、前記有機資材としてなたね油粕又はひまし油粕を用いることもできる。
【0093】
これらの場合、中性~微アルカリの堆肥などを利用すると、混合時~造粒時に縮合反応が進むことを抑制できるので有利である。
【0094】
なお、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0~1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、尿素を5.0~20質量%の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.13~1.84未満の範囲に調整されているプレミックスを調製し、これを最大容水量の高い有機資材に添加、混合してなる混合物の水分量/保水量割合は20%を越えないことが造粒可能性の観点から望ましい。
【0095】
最大容水量の高い有機資材として畜糞堆肥や食品残渣堆肥を用いることでこれらの付加価値(利用価値)を高め、生産者がこれらを利用する割合を高め、土づくり資材の施用を促進し、環境保全型農業を促進することが可能になる。
【0096】
粒状化であることから、ハンドリング性保存性を改善し、施肥作業負荷を低減し、省力化を図ることができる。
【0097】
すなわち、上述した本発明が提案する粒状有機肥料の製造方法で製造した粒状有機肥料は、一粒の緩効性肥料として施用でき、複数粒のブレンドと比べ播きムラがなく、一度の施用で、土壌改良と元肥施用可能である。
【0098】
上述した本発明が提案する製造方法で製造した粒状有機肥料は、上述した配合割合で調製することでウレアホルム態窒素が4%を越えるものとなる。
【0099】
上述した本発明が提案する粒状有機肥料の製造方法では、最大容水量の高い有機資材を利用することで、上述したように、従来は、有機肥料にスラリーを添加した後の全体に対して12質量%~20質量%程度であったスラリーの添加量を多くすることができる。
【0100】
上述した本発明が提案する粒状有機肥料の製造方法によれば、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0以上で1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーを、製造した粒状有機肥料の全体に対して20質量%を越える範囲で添加、混合することができる。
【0101】
発明者の検討によれば、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が1.0以上で1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーを、製造した粒状有機肥料の全体に対して20質量%~48質量%の範囲で添加、混合することが可能であった。
【0102】
また、スラリー時のU/Fモル比が1.0以上で1.25未満の範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーを、最大容水量の高い有機資材に対して50質量%を越えない範囲で添加、混合することで粒状有機肥料を製造することが可能であった。粒状有機肥料を製造する上で50質量%を越えないことが望ましい。
【0103】
造粒時での多量の尿素添加は、吸湿・固結の危険があったが、上述した本発明が提案する粒状有機肥料の製造方法では、尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が前記範囲に調整されている尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して、尿素を前記の割合で添加して見かけの尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が前記範囲に調整されているプレミックスを調製した後、これを最大容水量の高い有機資材に添加、混合した後、造粒、乾燥工程を行うことで良好な造粒性を維持できるようにした。
【0104】
尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーをタンクに保管しているとその間に縮合反応が進んでしまう。上述した本発明が提案する粒状有機肥料の製造方法では、造粒工程開始直前の前記プレミックスに尿素を添加、混合して造粒開始するのでこのような縮合反応を抑制できる。
【0105】
上述した本発明が提案する粒状有機肥料の製造方法において、造粒工程は、回転円筒型造粒機、ペレット式造粒機、ブリケット式造粒機の中のいずれかにより行うことができる。また、乾燥工程は、回転円筒型乾燥機、流動層型乾燥機、バンド型乾燥機の中のいずれかにより行うことができる。
【発明の効果】
【0106】
この発明によれば、緩効度が改善、向上し、製造コストの面でも改善された粒状有機肥料の製造方法とこれによって製造した粒状有機肥料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【
図1】尿素/ホルムアルデヒドのモル比(U/F比)が異なる尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーに対して尿素を添加、混合したときの窒素構成割合を分析した結果をU/F比順、窒素(N)構成割合で表した図。
【
図2】尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリー(試料No.AU206のスラリー)への尿素混合量による速効性、緩効性、難分解性を検討した結果を表す図。
【
図3】尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリー(試料No.AU206のスラリー)に20質量%の尿素を添加し、その溶液を珪藻土などに吸着して造粒を行って調製した粒状有機肥料と、特許文献1に係る緩効化粒状有機肥料(ウレアホルム態入り有機複合肥料)の市販品との無機化率を検討した結果を表す図。
【
図4】有機原料の現物あたり30分以内の吸水量が高い有機原料を検討した結果を表す図。
【
図5】本発明の肥料と従来の肥料の無機化率を検討した結果を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0108】
(実施例1)
上述した「造粒試験」の表8に示した配合比率でこの実施例の粒状有機肥料を製造した。すなわち、上述した表8の新規製品(1)にあるように、スラリー時のU/Fモル比1.1の尿素とホルムアルデヒドとからなるスラリーAU206に対して尿素を20質量%の割合で添加して見かけのU/Fモル比1.64に調製したプレミックスを「調整スラリー」として用い、最大容水量の高い有機資材として吸水後30分の保水量が292.3g/100gであることが確認されている豚ぷん堆肥を用いている表8の新規製品(1)欄記載の乾物混合原料7kgに対し「調整スラリー」を表8記載の配合で撹拌式混合機の中で加えよく混合し、分散させ、混合分散させた原料を機器より取り出し、ペレット式造粒機にかけ造粒した。成形したペレットを回転式球形整粒機にかけ形を整え、整粒した造粒品を棚型乾燥機に入れ、75℃12時間乾燥した後ふるいわけし2~4mmサイズのこの実施例の粒状有機肥料を製造した。
【0109】
また、上述した「造粒試験」の表8に示した配合比率で製造した「既製品」を比較対象とした。
【0110】
この実施例の粒状有機肥料と比較対象とについて肥料等試験法(2018)の分解(無機化)特性の項に従って無機化試験を行った。結果は
図5の通りであった。
【0111】
この無機化試験に供した粒状有機肥料は、pH6.5~7.5、90日目無機化率で70%以上、硬度2.0kgf以上、水分5%以下であった。
【0112】
この検討結果から、新規製品は既製品に比べ緩効度が高まっていることを確認できた。
【0113】
(実施例2)
実施例1と同様にしてこの実施例の粒状有機肥料を製造した。
【0114】
この実施例の粒状有機肥料について以下のように肥効試験を行った。
【0115】
栽培試験概要
試験品目:秋冬ハクサイ
施用量:20kg窒素/10a。基肥:追肥区(化成)は基肥:追肥=15:5(kg窒素/10a)
耕種概要:8月21日播種、9月11日基肥施用、9月13日定植(条間60cm×株間50cm)、10月23日追肥施用、11月26日収穫。
【0116】
結果は表12の通りであった。
【0117】
【0118】
この肥効試験の結果から、新規製品は基肥+追肥体系に比べ、調整重が同等以上となった。生育後半での窒素肥効の効果と考えられた。
【0119】
以上、本発明の実施形態、実施例を説明したが、本発明はかかる実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。