(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】トランスファークレーンの嵩上げ工事方法、及び嵩上げ用ポスト
(51)【国際特許分類】
B66C 5/02 20060101AFI20240205BHJP
B66C 19/00 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B66C5/02
B66C19/00 G
(21)【出願番号】P 2021107004
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000227755
【氏名又は名称】日本アイキャン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春日 紀重
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-237883(JP,A)
【文献】特開2003-246581(JP,A)
【文献】特開2002-356296(JP,A)
【文献】特開2017-193449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 5/00 - 7/16
B66C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する三方向を上下方向、左右方向、前後方向とするとともに、鉛直方向を上下方向として、
左右に離間して上下方向に立設された二本の脚体の上端間にガーダが架設されてなる二基の門型の構造体が前後方向に対向しつつ相互に接続されてなる駆体構造を備えたトランスファークレーンにおいて、前記脚体を延長して当該トランスファークレーンを嵩上げするための工事方法であって、
二基の前記門型の構造体のそれぞれにおける二本の前記脚体同士を固定するための固縛材と、前後の前記ガーダ同士を固定するための固縛材とを設置する固縛ステップと、
前記脚体のそれぞれの上端側に、支柱の上端にウインチが設置されてなる嵩上げ用ポストを取り付けるポスト取付ステップと、
前記脚体の上端側を水平方向に切断する脚体切断ステップと、
前記トランスファークレーンにおいて、脚体切断ステップによる切断箇所から上部の構造物を前記嵩上げ用ポストのウインチにより吊り上げて、当該切断箇所に所定の上下幅の間隙を設ける上部構造物吊り上げステップと、
前記間隙に前記トランスファークレーンの嵩上げ高さ分の長さを有する延長脚を取り付ける延長脚取付ステップと、
を含むトランスファークレーンの嵩上げ工事方法。
【請求項2】
請求項1に記載のトランスファークレーンの嵩上げ工事方法であって、
前記ポスト取付ステップに先だって、前記トランスファークレーンの付帯設備のうち、前記嵩上げ用ポストに干渉する付帯設備を撤去する設備撤去ステップと、
前記延長脚取付ステップの後に、前記設備撤去ステップにより撤去した前記付帯設備に対し、前記嵩上げ分の長さに応じて延設する改造工事を実施した上で、当該撤去した前記付帯設備を使用可能な状態に復旧させる設備復旧ステップと、
を含むトランスファークレーンの嵩上げ工事方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトランスファークレーンの嵩上げ工事方法であって、
前記脚体切断ステップに先立って、溶接作業用の第1の足場を設置する第1足場設置ステップと、
前記上部構造物吊り上げステップに続いて溶接作業用の第2の足場を設置する第2足場設
置ステップと、
前記上部構造物吊り上げステップに先立って、前記第2の足場が取り付けられた状態の延長脚を用意する第2足場準備ステップと、
を含み、
前記延長脚取付ステップでは、前記上部構造物吊り上げステップに続いて前記第2足場準備ステップにより用意した前記延長脚を前記間隙の位置に配置するとともに、前記第1
の足場において前記延長脚の下端を溶接した上で、前記第2
の足場において、前記延長脚の上端を溶接する、
トランスファークレーンの嵩上げ
工事方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のトランスファークレーンの嵩上げ
工事方法において、
前記延長脚取付ステップの後に、二基の前記門型の構造体のそれぞれについて、前記ガーダと脚体との間に補強材を架け渡す工事を実施する、
トランスファークレーンの嵩上げ工事方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のトランスファークレーンの嵩上げ工事方法であって、
前記嵩上げ用ポストは、前記支柱と、当該支柱の先端に設置された足場からなる駆動フレームと、当該駆動フレーム上に設置される前記ウインチと、当該ウインチによって索引されるワイヤーロープと、前記支柱の下端側側面に設置された第1のロープシーブと、前記駆動フレーム上に設置された第2及び第3のロープシーブとを備え、
前記ウインチ、及び第1~第3の前記ロープシーブは、同じ方向に回転軸を有し、前記支柱を上下方向に立設させつつ前記ウインチの回転軸を前後方向に向けた際に、左右外側から内側に向かって当該ウインチ、前記第1のロープシーブ、前記第2のロープシーブ、及び前記第3のロープシーブがこの順に並ぶように配置され、
前記ポスト
取付ステップに先立って、前記ガーダの上面の左右両端に、上端にロープシーブが取り付けられるツールを設置し、
前記ポスト
取付ステップでは、前記ツールの上端に前後方向に回転軸を有する第4のロープシーブを取り付けるとともに、前記ウインチが左右外側に配置されるように、前記支柱を前記脚体の左右外側に取り付け、前記ワイヤーロープを、前記ウインチを起点として、第1から第4の前記ロープシーブの順に掛け渡した上で、当該ワイヤーロープの末端を前記駆動フレームの所定の位置に固定する、
トランスファークレーンの嵩上げ工事方法。
【請求項6】
請求項
5に記載のトランスファークレーンの嵩上げ工事方法に用いる前記嵩上げ用ポストであって、
前記支柱と、当該支柱の先端に設置された足場からなる駆動フレームと、
当該駆動フレーム上に設置された前記ウインチと、
当該ウインチによって索引されるワイヤーロープと、
前記支柱の下端側側面に設置された第1のロープシーブと、
前記駆動フレーム上に設置された第2及び第3のロープシーブと、
を備え、
前記ウインチ、及び第1~第3の前記ロープシーブは、同じ方向に回転軸を有するとともに、前記支柱を上下方向に立設させつつ前記ウインチの回転軸を前後方向に向けた際に、左右外側から内側に向かって当該ウインチ、前記第1のロープシーブ、前記第2のロープシーブ、及び前記第3のロープシーブがこの順に並ぶように配置されている、
嵩上げ用ポスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスファークレーンの嵩上げ工事方法と、当該工事方法に用いる嵩上げ用ポストとに関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナヤード等に設置されるトランスファークレーンは、コンテナを移動させたり積み上げたりするために用いられる特殊車両である。
図1に典型的なトランスファークレーン1の概略構成を示した。ヤードに設置されたトランスファークレーン1において、鉛直方向にしたがって上下の各方向を規定するとともに、図中に示したように相互に直交する三方向を上下、左右、前後の各方向とすると、トランスファークレーン1は、左右方向に離間して上下方向に立設された二本の脚体2の上端にガーダ3が架け渡されてなる門型の二基の構造体が前後方向に平行となるように連結された駆体構造を有している。各脚体2の下端にはタイヤ51を備えた「走行ボギー」等と称される走行装置5が設けられており、トランスファークレーン1は、この走行装置5による走行機能を備えたものとなっている。
【0003】
各構造体のガーダ間(3-3)には、左右方向に移動可能なトロリ4が架け渡されている。トロリ4の下方には、コンテナ6を着脱自在に保持するスプレッダ41がワイヤーロープ42により吊り下げられている。ワイヤーロープ42は、トロリ4に設置されたウインチ43により索引されることで、スプレッダ41が上下方向に移動する。トロリ4は運転席44を備えて操縦者によって操縦される。そして、ガーダ3やトロリ4の各所、及び二つの門型の構造体における左右で同じ側の脚体間(2-2)には、階段21が設置されている。また、ガーダ3の上面やトロリ4の上面等には手すり31を備えた通路32等が設置されている。トロリ4の操縦者や保守点検員らは、これらの階段21や通路32を使って、トランスファークレーン1の上方の構造物や設備にアクセスする。
【0004】
以上の構成や構造を備えたトランスファークレーン1は、走行機能により自身を移動させたりトロリ4を移動させたりしてスプレッダ41をコンテナ6の直上の位置まで移動させて、荷役作業を行う。トランスファークレーン1による荷役作業は、平置きされているコンテナ6やヤードに搬入されたコンテナ6を上下方向に積み重ねることにある。それによって、限られたヤードの面積により多数のコンテナ6を保管することが可能となる。そして、トランスファークレーン1は、積み上げ可能なコンテナ6の数によって分類することができる。例えば、最大で四個のコンテナ6を積み上げることが可能なトランスファークレーン1は、「ワン・オーバー・フォー(1over4)型」、「4+1型」などと称される。参考までに、
図2に、「1over5」型のトランスファークレーン1の概略図を示した。
図2は、トランスファークレーン1を前後方向から見たときのコンテナ6の積み上げ状態を示しており、トロリ4の位置が解りやすいように、ガーダ3上の通路32の手すり31の一部を省略している。
【0005】
なお、以下の非特許文献1には、トランスファークレーンの概要等が記載されている。また、以下の非特許文献2には、実際に製造されているトランスファークレーンの仕様等が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】古賀孝信、「コンテナターミナルにおける荷役機械(その1)」、港湾荷役機械システム協会、荷役機械 第41巻 第4号、p431-p437、[online]、[令和3年6月9日検索]、インターネット<URL:http://keiyukai.info/wp-content/uploads/2017/11/auto_jsTpiR.pdf>
【文献】三菱ロジスネクスト株式会社、”トランスファークレーン”、[online]、[令和3年6月9日検索]、インターネット<URL:https://www.logisnext.com/assets/dl/product/Transfer-crane-RTG.PDF>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の物流の増大傾向は、当然のことながら海上物流にも当てはまる。海上物流の増大は、ヤードで保管されるコンテナの数を増大させることになる。限られた面積のヤードでより多くのコンテナを管理するためには、コンテナをより上方に積み上げる必要がある。なお、トランスファークレーンによる積み上げ可能なコンテナの数は、脚体の高さによって規定されるため、ヤードで管理するコンテナの数が多くなれば、より高い脚体を有するトランスファークレーンを設置する必要がある。
【0008】
しかしながら、ヤードに大型のトランスファークレーンを導入するには、そのトランスファークレーン自体に掛かるコストだけではなく、設置済みのトランスファークレーンに対する、他の場所に移送するためのコスト、あるいは分解や廃棄のためのコストも必要となる。
【0009】
そこで本発明は、既存の設置済みのトランスファークレーンを、より低いコストで嵩上げしてコンテナの積み上げ数を増大させることができるトランスファークレーンの嵩上げ工事方法、及び当該工事方法に用いる嵩上げ用ポストを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、互いに直交する三方向を上下方向、左右方向、前後方向とするとともに、鉛直方向を上下方向として、左右に離間して上下方向に立設された二本の脚体の上端間にガーダが架設されてなる二基の門型の構造体が前後方向に対向しつつ相互に接続されてなる駆体構造を備えたトランスファークレーンにおいて、前記脚体を延長して当該トランスファークレーンを嵩上げするための工事方法であって、二基の前記門型の構造体のそれぞれにおける二本の前記脚体同士を固定するための固縛材と、前後の前記ガーダ同士を固定するための固縛材とを設置する固縛ステップと、前記脚体のそれぞれの上端側に、支柱の上端にウインチが設置されてなる嵩上げ用ポストを取り付けるポスト取付ステップと、記脚体の上端側を水平方向に切断する脚体切断ステップと、前記トランスファークレーンにおいて、脚体切断ステップによる切断箇所から上部の構造物を前記嵩上げ用ポストのウインチにより吊り上げて、当該切断箇所に所定の上下幅の間隙を設ける上部構造物吊り上げステップと、前記間隙に前記トランスファークレーンの嵩上げ高さ分の長さを有する延長脚を取り付ける延長脚取付ステップと、を含むトランスファークレーンの嵩上げ工事方法としている。
【0011】
前記ポスト取付ステップに先だって、前記トランスファークレーンの付帯設備のうち、前記嵩上げ用ポストに干渉する付帯設備を撤去する設備撤去ステップと、前記延長脚取付ステップの後に、前記設備撤去ステップにより撤去した前記付帯設備に対し、前記嵩上げ分の長さに応じて延設する改造工事を実施した上で、当該撤去した前記付帯設備を使用可能な状態に復旧させる設備復旧ステップと、を含むトランスファークレーンの嵩上げ工事方法としてもよい。
【0012】
前記脚体切断ステップに先立って、溶接作業用の第1の足場を設置する第1足場設置ステップと、前記上部構造物吊り上げステップに続いて溶接作業用の第2の足場を設置する第2足場設置ステップと、前記上部構造物吊り上げステップに先立って、前記第2の足場が取り付けられた状態の延長脚を用意する第2足場準備ステップと、を含み、前記延長脚取付ステップでは、前記上部構造物吊り上げステップに続いて前記第2足場準備ステップにより用意した前記延長脚を前記間隙の位置に配置するとともに、前記第1の足場において前記延長脚の下端を溶接した上で、前記第2の足場において、前記延長脚の上端を溶接する、トランスファークレーンの嵩上げ工事方法とすれば、好適である。
【0013】
前記延長脚取付ステップの後に、二基の前記門型の構造体のそれぞれについて、前記ガーダと脚体との間に補強材を架け渡す工事を実施する、トランスファークレーンの嵩上げ工事方法としてもよい。
【0014】
前記嵩上げ用ポストは、前記支柱と、当該支柱の先端に設置された足場からなる駆動フレームと、当該駆動フレーム上に設置される前記ウインチと、当該ウインチによって索引されるワイヤーロープと、前記支柱の下端側側面に設置された第1のロープシーブと、前記駆動フレーム上に設置された第2及び第3のロープシーブとを備え、
前記ウインチ、及び第1~第3の前記ロープシーブは、同じ方向に回転軸を有し、前記支柱を上下方向に立設させつつ前記ウインチの回転軸を前後方向に向けた際に、左右外側から内側に向かって当該ウインチ、前記第1のロープシーブ、前記第2のロープシーブ、及び前記第3のロープシーブがこの順に並ぶように配置され、
前記ポスト取付ステップに先立って、前記ガーダの上面の左右両端に、上端にロープシーブが取り付けられるツールを設置し、
前記ポスト取付ステップでは、前記ツールの上端に前後方向に回転軸を有する第4のロープシーブを取り付けるとともに、前記ウインチが左右外側に配置されるように、前記支柱を前記脚体の左右外側に取り付け、前記ワイヤーロープを、前記ウインチを起点として、第1から第4の前記ロープシーブの順に掛け渡した上で、当該ワイヤーロープの末端を前記駆動フレームの所定の位置に固定する、
トランスファークレーンの嵩上げ工事方法とすることもできる。
【0015】
また、本発明の範囲には、上記トランスファークレーンの嵩上げ工事方法に用いる前記嵩上げ用ポストも含まれており、当該嵩上げ用ポストは、前記支柱と、当該支柱の先端に設置された足場からなる駆動フレームと、当該駆動フレーム上に設置された前記ウインチと、当該ウインチによって索引されるワイヤーロープと、前記支柱の下端側側面に設置された第1のロープシーブと、前記駆動フレーム上に設置された第2及び第3のロープシーブと、を備え、前記ウインチ、及び第1~第3の前記ロープシーブは、同じ方向に回転軸を有するとともに、前記支柱を上下方向に立設させつつ前記ウインチの回転軸を前後方向に向けた際に、左右外側から内側に向かって当該ウインチ、前記第1のロープシーブ、前記第2のロープシーブ、及び前記第3のロープシーブがこの順に並ぶように配置されている、嵩上げ用ポストである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既存の設置済みのトランスファークレーンを、より低いコストで嵩上げしてコンテナの積み上げ数を増大させることができるトランスファークレーンの嵩上げ工事方法、及び当該工事方法に用いる嵩上げ用ポストが提供される。なお、その他の効果については、以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】典型的なトランスファークレーンの概略構成を示す図である。
【
図2】トランスファークレーンによるコンテナの積み上げ状態を示す図である。
【
図3A】実施例に係る嵩上げ工事方法の概略を説明するための図であり、嵩上げ工事前のトランスファークレーンの状態を示している。
【
図3B】実施例に係る嵩上げ工事方法の概略を説明するための図であり、嵩上げ工事後のトランスファークレーンの状態を示している。
【
図4A】実施例に係る嵩上げ工事方法における第1段階の工事に含まれる工程の内容を説明するための図であり、前後方向から見たときの第1段階の工事前のトランスファークレーンの状態を示している。
【
図4B】第1段階に含まれる工程の内容を説明するための図であり、前後方向から見たときの第1段階の工事後のトランスファークレーンの状態を示している。
【
図5A】第1段階に含まれる工程の内容を説明するための図であり、左右方向から見たときの第1段階の工事後のトランスファークレーンの状態を示している。
【
図5B】第1段階に含まれる工程の内容を説明するための図であり、上方から見たときの第1段階の工事後のトランスファークレーンの状態を示している。
【
図6】実施例に係る嵩上げ工事方法に用いる嵩上げ用ポストの概略構成を示す図である。
【
図7】実施例に係る嵩上げ工事方法における第2段階の工事の内容を説明するための図であり、第2段階の工事後のトランスファークレーン全体を前後方向から見たときの図である。
【
図8】第2段階の工事後のトランスファークレーンの一部と嵩上げ用ポストとを拡大したときの図である。
【
図9A】実施例に係る嵩上げ工事方法における第3段階の工事の内容を説明するための図であり、トランスファークレーンの上部構造物が吊り上げられた状態を示している。
【
図9B】実施例に係る嵩上げ工事方法における第3段階の工事の内容を説明するための図であり、脚体の切断箇所に延長脚が取り付けられた状態を示している。
【
図10】溶接作業用の足場が設置された状態にある延長脚の概略を示す図である。
【
図11】実施例に係る嵩上げ工事方法における第4段階の工事の内容を説明するための図であり、嵩上げ工事が完了した後のトランスファークレーンの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0019】
===トランスファークレーンの嵩上げ工事について===
実施例に係るトランスファークレーンの嵩上げ工事方法(以下、「実施例に係る嵩上げ工事方法」と言うことがある)は、脚体の高さを伸長させることで、例えば、既存の「1 over 4」型のトランスファークレーンを「1 over 5」型のトランスファークレーンとして使用できるように改造するものである。
【0020】
もちろん、様々な荷役機械が稼働中のヤード内では、工事に必要な機材や資材の設置スペースを可能な限り狭小化する必要があることから、トランスファークレーン全体を吊り上げるような大型の工事用クレーンを用いた工事方法や、脚体全体を交換するような工事方法を採用することは難しい。
【0021】
そこで、既存のトランスファークレーンの脚体に短い脚体(以下、「延長脚」と言うことがある)を継ぎ足すことで脚体を延長させることが考えられる。なお、嵩上げ工事の前後で耐荷重性能が維持できることも必要となることから、脚体において、延長脚を継ぎ足した部分よりも上方の質量を最小限にできるような工事方法にすることも必要となる。すなわち、既存の脚体の上端側に延長脚を継ぎ足すこととなる。しかし、その一方で、延長脚を脚体の上端側に継ぎ足すことは、高所での作業を要することになる。そのため、高所での作業を行うために、既存の脚体の近傍に長大な作業用ポストなどを並立させれば、脚体を交換することと同様にヤード内に工事のための広大な作業スペースを確保する必要が生じる。このように、既存の脚体に延長脚を継ぎ足す手法での嵩上げ工事には考慮すべき点が多々ある。そして、本発明は、このような嵩上げ工事において考慮すべき点に鑑み、なされたものである。
【0022】
===嵩上げ工事方法の概略===
図3Aと
図3Bは、実施例に係る嵩上げ工事方法の概略を説明するための図である。
図3Aは、嵩上げ工事前のトランスファークレーン1の状態を示す図であり、
図3Bは、嵩上げ工事後のトランスファークレーン1の状態を示す図である。なお
図3Bでは、脚体2に継ぎ足された延長脚10を斜線のハッチングで示した。
図3A、
図3Bに示したように、実施例に係る嵩上げ工事方法では、脚体2の上端側を切断し、その切断した部分に、延長脚10を挿入して固定することで脚体2を延長する。本実施例は、ガーダ3のほぼ直下の位置で脚体を切断している。
【0023】
ところで、延長脚10を脚体2の切断箇所に挿入する際には少なくともガーダ3とトロリ4の全質量を吊り下げておく必要があるが、実施例に係る嵩上げ工事方法では、ガーダ3を吊り下げるために工事用のクレーン等の大型の機材を用いず、上端にウインチが設置されたポストを脚体2に取り付けるとともに、このポストのウインチを用いて脚体2の切断箇所よりも上方の構造物(以下、「上部構造物」と言うことがある)を吊り下げることとしている。そして、このポスト(以下、「嵩上げ用ポスト」と言うことがある)は、ウインチがガーダ3を延長脚10の長さ分だけ高い位置に吊り上げられる程度の長さがあればよく、しかも、嵩上げ用ポスト、合計四本の脚体2のそれぞれに設置されることから、各嵩上げ用ポストが備えるウインチが担う荷重は、最大でも上部構造物の1/4で済む。そしてウインチに掛かる実質的な荷重は、ロープシーブを用いることで、さらに低くすることもできる。したがって、実施例に係る嵩上げ工事方法では、上部構造物全体を吊り下げるための大型の工事用クレーンが不要となる。
【0024】
なお、海上コンテナのサイズは、規格によって決まっており、その高さに関しては、8ft6in(2591mm)か、9ft6in(2896mm)であることから、実施例に係る嵩上げ工事方法では、長さ3mの延長脚10を用いて脚体2の長さを延長している。すなわち、嵩上げ用ポストのウインチは、上部構造物を、当初の高さに対して3m強の高さまで吊り上げることができればよい。
【0025】
===実施例===
実施例に係る嵩上げ工事方法について、工事全体の工程を便宜的に第1~第4の四つの段階に区切って説明する。概略的には、第1段階は、実質的な嵩上げ工事に取りかかる前に、工事に不要な設備をトランスファークレーンから取り外したり、工事に必要な設備を備え付けたりするための工程を含む。第2段階は、上記の嵩上げ用ポストを設置する等して、脚部の切断準備をするための工程を含み、第3段階は、脚部を切断して延長脚を取り付けるまでの工程を含む。そして、第4段階は工事用に設置した設備を撤去するとともに第1段階で取り外した設備を元に戻す等してトランスファークレーンを稼働可能な状態に復帰させる工程を含む。
【0026】
<第1段階>
図4A、
図4B、
図5A、
図5Bは、第1段階に含まれる工程の内容を説明するための図である。
図4A、
図4Bは、トランスファークレーン1を前後方向から見たときの図であり、
図5Aは、
図4Bにおけるトランスファークレーン1を紙面右方から見たときの側面図に対応する。
図5Bは、トランスファークレーン1を上方から見たときの図である。なお、
図4B、
図5A、
図5Bを含め、以下に示す各図では、既存のトランスファークレーン1に対して工事に際して付加した部材等の一部について、他の部材と区別しやすいように網点のハッチングで示した。また、以下の各図では、要部の構造等が理解し易いように、他の部位を省略している場合がある。
【0027】
図4Aに示したように、第1段階では、トランスファークレーン1に対し、スプレッダ41を上方に巻き上げておくとともに、トロリ4を所定の位置(例えば、左右中央等)に固定した上で作業を開始する。そして、例えば、図中において破線の矩形枠30で示した領域において、工事作業の障害となる、設備や部位等の干渉物を、取り外したり切断したりして撤去する。干渉物としては、階段21、手すり31、さらには配管(例えば、走行装置5用の発動機の排気管等)や、トロリ4の横行逸脱防止用のエンドバッファ等である。また、脚体2内に電源ケーブルや通信線など電線が敷設されている場合には、トランスファークレーン1の下方において、電源や制御盤などに接続されている電線の一端側を切り離すとともに、その電線をガーダ3上の通路32などに巻き上げた状態で保持しておく。
【0028】
次に、
図4Bに示したように、脚体2の切断作業や、延長脚10の下端側を溶接により取り付ける作業を行う際の足場11を設置する。また、トランスファークレーン1は、上述したように、二つの門型構造体が前後に連結された構造を有していることから、工事中にガーダ3を脚体2から切り離せば、前後のガーダ間(3-3)、及び一つの門型構造体における左右の脚体間(2-2)の相対的な位置関係がずれる可能性がある。そこで、
図4B、
図5A、
図5Bに示すように、前後のガーダ3同士、および左右の脚体2同士を、鋼材等からなる固縛材(12~14)を介して連結しておく。実施例に係る嵩上げ工事方法では、左右の脚体間(2-2)に設置する固縛材12は、
図4Bに示したように、トラス梁からなり、本実施例では、一つの固縛材12は、左右一対の脚体2に対し二つのトラス梁を前後に配置して互いに接続したものである。そして、この二つのトラス梁を接続した固縛材12を、二つの門型の構造体のそれぞれに設置する。
【0029】
また、前後のガーダ間(3-3)には、
図5Aに示したように、ガーダ3の左右のそれぞれの端部にて上下方向で平行となるように架け渡された鉄骨からなる二本の固縛材13と、
図5Bに示したように、上方から見てX字状となるように二本の鉄柱を襷掛けにした固縛材14とで構成される。
【0030】
さらに、
図4B、
図5Bに示したように、後述する嵩上げ用ポストを取り付けるためのフレーム(以下、「ポスト取付フレーム15」と言うことがある)を脚体2の上端側に溶接等によって設置する。実施例では、それぞれの脚体2の上端側に上下二箇所にポスト取付フレーム15を設置している。また、ガーダ3の左右両端の上面にロープシーブを取り付けるための部材(以下、「ガーダ吊りピース16」と言うことがある)を溶接などにより設置する。
【0031】
<第2段階>
上述した第1段階に次いで、第2段階では、主に、各脚体2に嵩上げ用ポストを取り付ける工程と、脚体2の切断準備作業に移行するまでの工程を実施する。
図6に嵩上げ用ポスト100の概略構成を示した。嵩上げポスト100は、鉄骨からなる角柱状の支柱101の上端に鉄骨で組まれた足場(以下、「駆動フレーム102」と言うことがある)を備え、その駆動フレーム102の上にウインチ103が設置されている。また、支柱101の側面や駆動フレーム102上には、ワイヤーロープ104が掛けられるロープシーブ(105~107)も設置されている。ロープシーブ(105~107)は、ウインチ103と同方向に回転軸を有している。また、ウインチ103を操作するための信号や電源を供給するための配線108がウインチ103に接続されている。なお、配線108の一端はウインチ103に接続され、他端は地上に設置されたウインチ103の制御装置に接続される。
【0032】
図7に第2段階におけるトランスファークレーン1の状態を示した。
図8に
図7における破線の矩形枠40で示した領域内の拡大図を示した。以下、
図6~
図8を参照しつつ、第2段階に含まれる工程について説明する。第2段階では、まず、第1段階において脚体2の上端側に設置したポスト取付フレーム15と、嵩上げ用ポスト100の下端側に設置されたシャープレート109とを溶接して、嵩上げポスト100を設置する。
【0033】
次いで、ガーダ3に設置したガーダ吊りピース16にロープシーブ110を取り付け、このロープシーブ110にウインチ103からのワイヤーロープ104を掛け渡す。
図8に示したように、嵩上げ用ポスト100には、ロープシーブ(105~107)が駆動フレーム102上に二つ、支柱101の側面に一つ設置されている。ワイヤーロープ104は、図中太線矢印で示したように、ウインチ103を起点として、順に、支柱側面のロープシーブ105、駆動フレーム102上でウインチ103に隣接して設置されたローブシーブ106、ガーダ吊りピース16と上下方向で対向する位置にあるローブシーブ107を経由してガーダ吊りピース16に取り付けたローブシーブ110に掛けられる。そして、各ロープシーブ(105~107,110)を、上記の順で、第1ロープシーブ105、第2ローブシーブ106、第3ロープシーブ107、第4ロープシーブ110と称することとすると、第3ロープシーブ107から第4ロープシーブ110に掛けられたワイヤーロープ104は、駆動フレーム102の所定の位置、例えば、第3ロープシーブ107のフランジ部分(
図8、符号111)等に固定される。なお、
図6に示したように、第3ロープシーブ107と第4ロープシーブ110との間のワイヤーロープ3は、必要に応じ複数本掛けにする。また、一端がウインチ103に接続された配線108については、他端を地上に設置されたウインチ103の制御装置に接続する。
【0034】
次いで、脚体2の切断準備として、切断箇所に切断線17を罫書き、脚体2内の補強材(スティフナ)を切断した上で、罫書いた切断線17に沿いつつ、角柱状の脚体2の四隅を残して脚体2を切断する。このとき、ガーダ3の荷重の全てを、四つの嵩上げ用ポスト100のそれぞれに設置されたウインチ103に分散させて受けさせる。
【0035】
<第3段階>
図9A、
図9Bに、第3段階におけるトランスファークレーンの状態を示した。脚体2の切断準備が整ったらば、脚体2の四隅を切断し、脚体2と、切断箇所から上部の構造(以下、「上部構造物」と言うことがある)とを切り離す。そして、ウインチ103を巻き上げ、
図9Aに示したように脚体2の切断箇所に延長脚10が挿入できる程度(約3m)の間隙18を開ける。次いで、延長脚10を地上に設置した工事用クレーンなどで吊り上げつつ、当該間隙18の間に配置する。なお、四つの嵩上げ用ポスト100のそれぞれに設置されたウインチ103は、地上に設置された制御装置に対する操作により駆動される。なお、制御装置がウインチの操作信号を無線送信するように構成され、ウインチがその無線信号により遠隔操作されるように構成されていてもよい。
【0036】
制御装置は、地上の作業者の操作により、四つの嵩上げ用ポスト100のウインチ103から任意の一つ以上のウインチ103に対し、個別、あるいは同時にワイヤーロープ104を巻き上げさせたり、巻き戻させたりすることができるようになっている。地上の作業者は、高所の作業者からの無線機などを介した指示にしたがって所定のウインチ104に所定の動作をさせながら、上部構造物を吊り上げたり吊り下げたりする。
【0037】
また、第3段階では、
図9Bに示したように、第1段階で設置した足場11とは別に、延長脚10の上端側の溶接作業のための足場19を、延長脚10の周囲に設置する。なお、第1段階では、脚体2の切断作業や延長脚10の下端側の溶接作業のための足場(以下、「第1の足場11」と言うことがある)を、高所作業車等を用いて設置することができる。一方、延長脚10の上端側の溶接作業のための足場(以下、「第2の足場19」と言うことがある)については、第1の足場11と同様にして設置することもできるが、実施例に係る嵩上げ工事方法では、地上で延長脚10に第2の足場19を取り付けておき、この第2の足場19が取り付けられた状態の延長脚10を吊り上げ、上記の間隙18の位置に配置することで設置している。
図10に、第2の足場19が設置された状態の延長脚10の概略を示した。そして、この第2の足場19を備えた延長脚10を上記の間隙18に配置したならば、第1の足場11にて延長脚10の下端を溶接する作業を行う。
【0038】
このように、実施例に係る嵩上げ工事方法では、高所での第2の足場19の設置作業を省略することができる。また、延長脚10に足場19を設置する作業を、第2段階までの工事と並行して事前に実施しておくことで、第2の足場19の設置作業に要する時間を節約することもできる。延長脚10の下端側のみを溶接した状態で第2の足場19を設置することによる溶接箇所への負荷も軽減することができ、作業の安全性をより高めることができる。
【0039】
そして、嵩上げ用ポスト100に上部構造物の全質量を荷重させた状態で、延長脚10を脚体2の切断箇所に設けた間隙18に位置決めをして配置したならば、延長脚10の下端側、及び上端側をこの順に溶接し、脚体2を延長する。
【0040】
<第4段階>
上述した第3段階の工程により全ての脚体2に延長脚10を取り付けたならば、第4段階の工程に移行する。
図11に第4段階の工程を実施し、嵩上げ工事が完了した後のトランスファークレーン1の状態を示した。第4段階では、嵩上げ用ポスト100とガーダ3の左右両端に設置した固縛材(
図5A:符号13)を撤去するとともに、第1段階で撤去した階段21や配管の再設置、電線の再配線などの復元工事を行う。なお、脚体2を延長したことにより、階段21や、地上付近からトランスファークレーン1の上方にまで延設される配管等は、当初の状態に復元することができない。そこで、第4段階では、階段21や配管等をさらに上方に延長する等、脚体2を延長したことにより不具合が生じた付帯設備を改造する工事を行う。なお、電線については一般的に余長分があるため、基本的には延長は不要であるが、必要に応じて延長させてもよい。また、実施例に係る嵩上げ工事方法では、脚体2とガーダ3との間に補強材20を袈裟懸けにして設置する工事も行う。そして、最後に、足場(11,19)や、
図4Bに示したトラス梁からなる固縛材12や、
図5Bに示したX字状の固縛材14を撤去し、トランスファークレーン1の嵩上げ工事を完了させる。工事が完了したならば、トロリ4の固定状態を解除し、トランスファークレーン1を稼働可能な状態に復帰させる。
【0041】
上記実施例に係る嵩上げ工事方法によれば、延長脚10を取り付けた箇所が、脚体2の上端側からの上の上部構造体の質量が支えられる程度の強度を有していれば、工事の前後で耐荷重性能が維持されることになる。また、実施例に係る嵩上げ工事方法によれば、高所への資材の輸送に用いるクレーンは、上記の嵩上げ用ポスト100や延長脚10を吊り上げられる程度の吊り上げ荷重を有していればよい。また、足場(11,19)は、延長脚10の溶接位置にのみ設置すればよく、第1の足場11は高所作業車を用いて設置することができる。すなわち、トランスファークレーン1の全体に足場を組む必要がない。溶接作業用の足場(11,19)に作業者を運搬する際には、高所作業車を用いればよい。
【0042】
実施例に係る嵩上げ工事方法では、脚体2をガーダ3のほぼ直下で切断していたが、脚体2は、嵩上げ用ポスト100のウインチ103の吊り上げ重量や、支柱101の長さなどに応じて、脚体2の上端側の適所で切断することができる。
【0043】
なお、当然のことながら、実施例に係る嵩上げ工事方法に含まれる工程は、上述した第1~第4の各段階に含まれる工程に限らない、また、各工程の実施順番も、前後して実施しても問題がなければ適宜に順番を入れ替えることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 トランスファークレーン、2 脚体、3 ガーダ、4 トロリ、5 走行装置、
6 コンテナ、10 延長脚 11 足場(第1の足場)、12~14 固縛材、
15 ポスト取付フレーム、16 ガーダ吊りピース、17 切断線、18 間隙、
19 足場(第2の足場)、20 補強材、21 階段、31 手すり、32 通路、
41 スプレッダ、42 ワイヤーロープ、43 ウインチ、44 運転席、
51 タイヤ、100 嵩上げ用ポスト、101 支柱、
102 足場(駆動フレーム)、103 ウインチ、104 ワイヤーロープ、
105~107,110 ロープシーブ、108 配線、109 シャープレート