(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20240205BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20240205BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240205BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240205BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6837 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/686 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022106805
(22)【出願日】2022-07-01
(62)【分割の表示】P 2019527430の分割
【原出願日】2017-11-23
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】10-2016-0156824
(32)【優先日】2016-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年3月28日発行のScientific Reports, 7:45554(2017)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】515288362
【氏名又は名称】ジェンキュリクス インク
【氏名又は名称原語表記】GENCURIX INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ、サン レ
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ユン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、チン イル
(72)【発明者】
【氏名】シン、ヨン キ
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-516426(JP,A)
【文献】特表2015-518724(JP,A)
【文献】特開2006-129880(JP,A)
【文献】特表2011-526487(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0311700(US,A1)
【文献】特表2013-523105(JP,A)
【文献】武田薬品工業株式会社, ”乳がんの病期分類(TNM分類)|今すぐ知りたい!乳がん”, [online], 2016.03.
【文献】Breast Cancer Res. Treat.,2012年,Vol.132,pp.499-509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N 15/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳がん患者の化学治療(chemotherapy)の有用性を予測する方法であって、下記段階:
(a)乳がん患者から得た生物学的試料から、UBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)及びMKI67(Marker of proliferation Ki-67)の増殖関連遺伝子、及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)免疫関連遺伝子のmRNA発現水準を測定する段階;
(b)前記(a)段階で測定されたmRNAの発現水準を標準化する段階;
(c)前記乳がん患者の腫瘍の大きさ及びpN-レベルを評価する段階;
(d)前記(b)段階における標準化の値、並びに前記(c)段階での腫瘍の大きさ及びpN-レベルを、下記[式1]と[式2]に代入して数値を計算する段階:
[式1]
Unscaled BCT score(U-BS)=a*△Ct_UBE2C+b*△Ct_TOP2A+c*△Ct_RRM2+ d*△Ct_FOXM1+e*△Ct_MKI67+f*△Ct_BTN3A2+g*Tumor_size(cm)+h*pN(0 or 1)
[式2]
BCT score=0 if 0.8*Unscaled BCT score(U-BS)-13.71<0
BCT score=0.8*U-BS-13.71 if 0≦0.8*U-BS-13.71≦10
BCT score=10 if 0.8*U-BS-13.71>10
(予後遺伝子の値は、標準遺伝子を用いて計算された標準化されたmRNA発現値であり、Tumor_sizeは腫瘍の長軸の長さ、pNはリンパ節の転移の病理学的判断によって判定される値を示す。前記aは0.16乃至1.09、bは0乃至0.71、cは0乃至0.53、dは0乃至0.57、eは0乃至0.35、fは-1.02乃至0、gは0.25乃至1.52、及びhは0.19乃至2.25である);及び
(e)前記(d)段階で計算された数値が、Unscaled BCT score又はBCT scoreの敏感度(sensitivity)と特異度(specificity)の合計が最大となる地点と比較して大きいほど、化学治療の有用性が高いと予測する段階
を含む方法。
【請求項2】
前記化学治療の有用性の予測は、化学治療後の再発、転移及び転移性再発からなる群から選択される一つ以上が発生するかどうかを予測することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、又はエストロゲン受容体及びプロゲステロン受容体が陽性でありながらHER2が陰性である乳がんであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記乳がんは、癌転移分類(Tumor Node Metastasis:TNM)システムによって
0期又は
1期に分類される初期乳がんであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記(a)段階以降に、腫瘍の大きさ及びpN-レベルを評価する段階をさらに含み、前記(c)段階において、腫瘍の大きさが大きいほど、及びpN-レベルが高いほど、化学治療の有用性が高いものと判断することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記標準化は、CTBP1(C-terminal-binding protein 1)、CUL1(cullin 1)及びUBQLN1(Ubiquilin-1)からなる群から選択される一つ以上の標準遺伝子の平均発現量に対する比を算出することによって行われることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記試料は、患者のがん細胞を含む組織のホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed paraffin-embedded、FFPE)試料、新鮮組織(fresh tissue)及び凍結組織からなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝子の発現量を測定するための方法は、マイクロアレイ、PCR(polymerase chain reaction)、RT-PCR、定量的RT-PCR(qRT-PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(real-time PCR)、ノーザンブロット(northern blot)、DNAチップ及びRNAチップからなる群から選択されるいずれか一つの方法であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記(d)段階での数値が4以上の場合、化学治療の有用性が大きいものと予測し、4未満の場合、化学治療の有用性が小さいものと予測することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記(a)段階における発現量の測定は、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子に特異的に結合するプライマー対により行われることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記プライマー対は、配列番号1乃至12の配列からなることを特徴とする請求項10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年11月23日に出願された韓国特許出願第10-2016-0156824号に基づく優先権を主張し、前記明細書全体は参照により本出願に援用する。
【0002】
本発明は、乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法に関するもので、より詳細には、(a)乳がん患者から得た生物学的試料から、UBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)及びMKI67(Marker of proliferation Ki-67)からなる群から選択される一つ以上の増殖関連遺伝子、及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)免疫関連遺伝子のmRNA発現水準を測定する段階;(b)前記(a)段階で測定されたmRNAの発現水準を標準化する段階;及び(c)前記(b)段階で標準化された一つ以上の増殖関連遺伝子及び免疫関連遺伝子の組み合わせにより乳がん患者の化学治療の有用性を予測する段階であり、前記増殖関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が大きいものとして、及び前記免疫関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が小さいものとして予測する段階を含む乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
乳がんは、女性において最もよくみられる癌で、死亡率が2番目に高い癌である。2001年の乳がんの有病率は、アメリカで100000人当たり90-100で、ヨーロッパでは100000人当たり50-70だった。この疾患の発病は、世界的に増加する傾向にある。乳がんの危険因子は、人種、年齢、癌抑制遺伝子BRCA-1、BRCA-2及びp53の突然変異などを含む。アルコール摂取、高脂肪食、運動不足、外因性閉経後ホルモン及び電離放射線も、乳がんの発病リスクを増加させる。エストロゲン受容体及びプロゲステロン受容体陰性乳がん(それぞれ"ER-"及び"PR-")、大きな腫瘍の大きさ、高い等級の細胞診断結果、及び35歳以下の場合、その予後が悪い(非特許文献1)。2005年には、約212000件の新しい侵襲性乳房癌症例、58000件の新しい非侵襲性乳房癌症例が診断されると推算され、40000人の女性が乳がんで死亡するものと予想される。
【0004】
現在の乳がんに対する治療方法は、手術後に、抗がん治療、抗ホルモン治療、標的治療、あるいは放射線治療など、後の再発を減らすための追加補助的な治療が必要な場合が多い。このうち化学治療(chemotherapy)は、抗がん治療療法の一つである。乳がん患者の病理学的状態は、がんの状態、腫瘍の大きさ、腫瘍の病理学的段階、又は他の因子によって、患者ごとに異なる。このように、様々な病理学的状態と乳がん患者との異なった反応により、一部の患者は抗がん剤を利用した化学治療が効果があるかもしれないが、他の患者には効果がないかもしれない。化学治療の効果が大きくない患者に持続的に抗がん剤を投与することは、副作用だけを増加させ、患者に望まない苦痛を与える恐れがある。
【0005】
こうした観点から、乳がん患者に抗癌剤を投与する前に、該当患者から化学治療の有用性を正確に予測できる方法が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Goldhirsch et al. (2001). J. Clin. Oncol. 19: 3817-27
【発明の概要】
【0007】
[発明の詳しい説明]
[技術的課題]
この発明者は、患者のがん細胞を含む組織のFFPE試料を利用し、乳がん患者の予後を予測できるアルゴリズムを開発するために、研究努力した結果、乳がん組織から得られた遺伝子情報や臨床情報を収集、分析し、予後予測に関わる遺伝子セットを発掘し、発掘された遺伝子の中からFFPE試料に適用させ、適した遺伝子及びそのセットを選別及び組み合わせて、乳がん患者の予後を予測できるアルゴリズムを開発しており、前記アルゴリズムによって患者を区分することで、乳がん患者から化学治療の有用性が予測できることを発見し、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、乳がん患者の化学治療(chemotherapy)の有用性を予測する方法であって、下記段階:
(a)乳がん患者から得た生物学的試料から、UBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)及びMKI67(Marker of proliferation Ki-67)からなる群から選択される一つ以上の増殖関連遺伝子、及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)免疫関連遺伝子のmRNA発現水準を測定する段階;
(b)前記(a)段階で測定されたmRNAの発現水準を標準化する段階;及び
(c)前記(b)段階で標準化された一つ以上の増殖関連遺伝子及び免疫関連遺伝子の組み合わせにより乳がん患者の化学治療の有用性を予測する段階であって、前記増殖関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が大きいものとして、及び前記免疫関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が小さいものとして予測する段階
を含む方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、乳がん患者の化学治療(chemotherapy)の有用性を予測する方法であって、下記段階:
(a)乳がん患者から得た生物学試料から、UBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)、MKI67(Marker of proliferation Ki-67)及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)のmRNA発現水準を測定する段階;
(b)前記遺伝子のmRNA発現水準を標準化する段階;
(c)前記乳がん患者の腫瘍の大きさ及びpN-レベルを評価する段階;
(d)前記(b)段階における標準化の値、前記(c)段階での腫瘍の大きさ、及びpN-レベルを、下記の[式1]と[式2]に代入し数値を計算する段階;
[式1]
Unscaled BCT score(U-BS)=a*△Ct_UBE2C+b*△Ct_TOP2A+c*△Ct_RRM2+d*△Ct_FOXM1+e*△Ct_MKI67+f*△Ct_BTN3A2+g*Tumor_size(cm)+h*pN(0 or 1)
[式2]
BCT score=0 if 0.8*Unscaled BCT score(U-BS)-13.71<0
BCT score=0.8*U-BS-13.71 if 0≦0.8*U-BS-13.71≦10
BCT score=10 if 0.8*U-BS-13.71>10
(予後遺伝子の値は、標準遺伝子を用いて計算された標準化されたmRNA発現値であり、Tumor_sizeは腫瘍の長軸の長さ、pNはリンパ節の転移の病理学的判断によって判定される値を示す。前記aは0.16乃至1.09、bは0乃至0.71、cは0乃至0.53、dは0乃至0.57、eは0乃至0.35、fは-1.02乃至0、gは0.25乃至1.52及びhは0.19乃至2.25である);及び
(e)前記(d)段階で計算された数値が大きいほど、化学治療の有用性が大きいと予測する段階
を含む方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的はUBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤を含む乳がん患者の化学治療の有用性予測用の組成物を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的はUBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤で構成された乳がん患者の化学治療の有用性予測用の組成物を提供することである。
【0012】
また、本発明の他の目的はUBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤で必須に構成される乳がん患者の化学治療の有用性予測用の組成物を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤を含む乳がん患者の化学治療の有用性の予測用キットを提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、乳がん患者の化学治療の有用性の予測用製剤を製造するための、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤の使用を提供することである。
【0015】
[技術的解決方法]
前記の目的を達成するために、本発明は、乳がん患者の化学治療(chemotherapy)の有用性を予測する方法であって、下記段階:
(a)乳がん患者から得た生物学的試料から、UBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)及びMKI67(Marker of proliferation Ki-67)からなる群から選択される一つ以上の増殖関連遺伝子、及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)免疫関連遺伝子のmRNA発現水準を測定する段階;
(b)前記(a)段階で測定されたmRNAの発現水準を標準化する段階;及び
(c)前記(b)段階で標準化された一つ以上の増殖関連遺伝子及び免疫関連遺伝子の組み合わせにより乳がん患者の化学治療の有用性を予測する段階であって、前記増殖関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が大きいものとして、及び前記免疫関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が小さいものとして予測する段階
を含む方法を提供することである。
【0016】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、乳がん患者の化学治療(chemotherapy)の有用性を予測する方法であって、下記段階:
(a)乳がん患者から得た生物学的試料から、UBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)、MKI67(Marker of proliferation Ki-67)及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)のmRNA発現水準を測定する段階;
(b)前記遺伝子のmRNA発現水準を標準化する段階;
(c)前記の乳がん患者の腫瘍の大きさ及びpN-レベルを評価する段階;
(d)前記(b)段階における標準化の値、前記(c)段階での腫瘍の大きさ及びpN-レベルを、下記の[式1]と[式2]に代入して数値を計算する段階
[式1]
Unscaled BCT score(U-BS)=a*△Ct_UBE2C+b*△Ct_TOP2A+c*△Ct_RRM2+ d*△Ct_FOXM1+e*△Ct_MKI67+f*△Ct_BTN3A2+g*Tumor_size(cm)+h*pN(0 or 1)
[式2]
BCT score=0 if 0.8*Unscaled BCT score(U-BS)-13.71<0
BCT score=0.8*U-BS-13.71 if 0≦0.8*U-BS-13.71≦10
BCT score=10 if 0.8*U-BS-13.71>10
(予後遺伝子の値は、標準遺伝子を用いて計算され標準化されたmRNA発現値であり、Tumor_sizeは腫瘍の長軸の長さ、pNはリンパ節の転移の病理学的判断によって判定される値を示す。前記aは0.16乃至1.09、bは0乃至0.71、cは0乃至0.53、dは0乃至0.57、eは0乃至0.35、fは-1.02乃至0、gは0.25乃至1.52及びhは0.19乃至2.25である);及び
(e)前記(d)段階で計算された数値が大きいほど、化学治療の有用性が高いと予測する段階
を含む方法を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的を達成するため、本発明は、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤を含む乳がん患者の化学治療の有用性の予測用の組成物を提供する。
【0018】
また、本発明の他の目的を達成するために、本発明は、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤からなる乳がん患者の化学治療の有用性の予測用の組成物を提供する。
【0019】
また、本発明の他の目的を達成するために、本発明は、本質的に、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤からなる乳がん患者の化学治療の有用性の予測用の組成物を提供する。
【0020】
本発明の他の目的を達成するため、本発明は、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤を含む乳がん患者の化学治療の有用性の予測用キットを提供する。
【0021】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、乳がん患者の化学治療有用性の予測用製剤を製造するための、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤の使用を提供する。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明は、乳がん患者の化学治療(chemotherapy)の有用性を予測する方法であって、下記段階:
(a)乳がん患者から得た生物学的試料から、UBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1) 及びMKI67(Marker of proliferation Ki-67)からなる群から選択される一つ以上の増殖関連遺伝子、及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)免疫関連遺伝子のmRNA発現水準を測定する段階;
(b)前記(a)段階で測定されたmRNAの発現水準を標準化する段階;及び
(c)前記(b)段階で標準化された一つ以上の増殖関連遺伝子及び免疫関連遺伝子の組み合わせにより乳がん患者の化学治療の有用性を予測する段階であって、前記増殖関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が大きいものとして、及び前記免疫関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が小さいものしてと予測する段階
を含む方法を提供することである。
【0024】
本発明で"化学治療(chemotherapy)の有用性"とは、乳がん患者に化学物質のような抗がん剤を投与する治療療法を進めた際に、有効な治療効果が表われるかどうかを意味するものである。また、前記"有効な治療効果"とは、癌の完治、再発、転移又は転移性再発を含める概念であり、最も望ましくは転移性再発をするかどうかを意味するが、これに制限されるものではない。
【0025】
本発明における前記"転移性再発"は、治療前に乳がんの発生部位及び/又は同側の乳房及び/又は反対側の乳房内の部位に転移した局所転移性再発と、肺、肝臓、骨、リンパ節、皮膚、脳のような遠隔部位に転移して発生する遠隔転移性再発とを含む概念である。好ましくは、本発明において、前記遷移性再発は、遠隔転移性再発であってよいが、これに制限されるものではない。
【0026】
本発明において、"転移性再発"とは、初期治療後、少なくとも一つの乳房腫瘍から由来して変形した、すなわち癌細胞がその腫瘍から分離され、腫瘍と離れた位置(以下"遠隔部位"という)から癌に成長し続けることをいう。遠隔部位は、例えば一つ以上のリンパ節内であることがあり、これらは移動性でも固定されていてもよく、腫瘍に対して同じ側でも、反対側でもよく、鎖骨の上、あるいは脇などにある可能性がある。
【0027】
乳がん患者の化学治療の有用性の予測は、主に腫瘍の大きさ(T)、リンパ節周辺部への転移状態(N)及び他器官への遠隔転移(distant metastasis)(M)を評価する手術後の疾病の病期(stage)(TNM病期)によって決定される。TNM病期によって分類された患者の化学治療の有用性の予測は、同一の病期でも異なる。つまり、同一の病期の乳がんでも、化学治療の有用性はエストロゲンやプロゲステロン受容体(ER又はPR)の発現の有無、及びHER2(human epidermal growth factor receptor 2)の過発現の有無、又は遺伝子の増幅によって決定されることがある。同一の病期の乳がんであったとしてもエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体又はHER2の発現の有無によって病態や予後が著しく異なるため、これを明確に分けた後、治療方法を具体的に設定することが必要である。
【0028】
したがって、最近は、遺伝子学的、分子生物学的に乳房癌の特性を分類して(表1)、サブタイプによって治療による結果及び予後は異なり、手術的方法や抗がん化学治療の選択の指標に使用される。
【0029】
【0030】
本発明での乳がんは、好ましくは、エストロゲン受容体及び/又はプロゲステロン受容体陽性でありながらHER2陰性である乳がんであってもよく、最も好ましくは、ルミナールA型乳がんであってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0031】
一方、乳がんの場合、病期が高いほど癌が進行されたのであり、予後も良くない。乳がんは0-4期に区分する。乳がんはTNM病期を使用しているが、TNMの病期を決定するためには3つの要素が必要である。癌自体の大きさや特性によって決定されるT病期、リンパ節の侵犯の程度によって決定されるN病期、そして乳房以外の他の部位に転移があるかどうかによって決定されるM病期がある。それぞれの病期における病理学的特性を要約すれば、以下の[表2]のようである。
【0032】
【0033】
本発明において、前記の乳がんは好ましくは、早期乳がんであり、より好ましくは、pN0又はpN1期に該当する乳がんであり、最も好ましくは、TNMの病期による0期又は1期に分類されることがあるが、これに制限されることではない。
【0034】
以下では、本発明における乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法の各段階をより詳細に説明する。
【0035】
(a)乳がんの患者から生物学的試料を得る段階;
本発明において、前記生物学的試料は、乳がん患者の乳がん組織でもある。前記の乳がん組織には、一部の正常細胞も含まれることがあり、好ましくは、がん細胞を含む乳がん組織のホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed paraffin-embedded、FFPE)試料、新鮮組織(fresh tissue)及び凍結組織からなる群から選ばれるが、これに制限されるわけではない。
【0036】
(b)前記(a)段階の試料からUBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)及びMKI67(Marker of proliferation Ki-67)からなる群から選択される一つ以上の増殖関連遺伝子及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)免疫関連遺伝子のmRNA発現水準を測定する段階;
【0037】
本発明で乳がん患者の化学治療の有用性を予測するマーカーとして機能するのはUBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)及びMKI67(Marker of proliferation Ki-67)からなる増殖関連遺伝子群及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)免疫関連の遺伝子である。これらはそれぞれ独立的に選択できるが、好ましくは、2つ以上の遺伝子の組み合わせによって、乳房癌患者の化学治療の有用性を予測に利用できる。
【0038】
前記各遺伝子は、党業界に公示された各遺伝子の配列又は各遺伝子のシノニム(synonym)の配列、好ましくは、人間から由来された各遺伝子の配列であり、より好ましくは、UBE2C(Gene ID:11065)、TOP2A(Gene ID:7153)、RRM2(Gene ID:6241)、FOXM1(Gene ID:2305)、MKI67(Gene ID:4288)、BTN3A2(Gene ID:11118)でもあるが、これに制限されることはない。
【0039】
各遺伝子に対するシノニム及びその配列はGenBankで検索できる。
【0040】
本発明において、前記mRNA発現水準を測定する方法は、当業界において遺伝子の発現水準を測定するために行う全ての方法が用いられ、好ましくは、マイクロアレイ、PCR(polymerase chain reaction)、RT-PCR、定量的RT-PCR(qRT-PCR)、リアルタイム重合酵素連鎖反応(real-time PCR)、ノーザン・ブロット(northern blot)、DNAチップ及びRNAチップからなる群から選ばれるが、これに制限されるわけではない。
【0041】
本発明の対象遺伝子の発現水準の測定は、好ましくは、対象遺伝子の発現量の検出、より好ましくは、対象遺伝子の発現量の定量的な検出である。発現量の検出のために、試料組織内でのmRNA分離及びmRNAにおけるcDNA合成過程が必要な場合がある。mRNAの分離のためには、当業界に公知された試料におけるRNAの分離方法が用いられることがあり、好ましくは、試料はFFPE試料であるので、FFPEサンプルに適合したmRNAの分離方法でもある。cDNA合成過程は、mRNAを鋳型として行う、当業界に公知されたcDNA合成方法が用いられることがある。好ましくは、本発明の乳がん患者の化学治療の有用性を予測するマーカーの発現水準の測定は、FFPE試料でのmRNA発現の定量的検出なので、FFPE試料に対するmRNA分離方法及びリアルタイムRT-qPCR(real time reverse transcription quantitative polymerase chain reaction)による測定でもある。
【0042】
また、本発明において、対象遺伝子の発現水準の測定は、当業界に告知された方法によって行われるが、レポーター蛍光染料及び/又はクエンチャー(quencher)蛍光染料で標識されたプローブを使用した光学的定量分析システムによって測定できる。前記測定は、商業的に販売される器具、例えば、ABIPRISM 7700(商標)Sequence Detection System(商標)、Roche Molecular Biochemicals Lightcycler及びこれに付属するソフトウェア等のシステムによって行われる。このような測定データは、測定値又は閾値サイクル(Ct又はCp)として表現できる。測定された蛍光値が初めて統計学的に有意なものと記録されるときの地点が閾値サイクルであり、これは、検出対象がPCR反応の鋳型として存在する初期値に反比例して現れるので、閾値サイクルの値が低い場合、定量的により多くの検出対象が存在することを示している。
【0043】
(c)前記(b)段階で測定されたmRNAの発現水準を標準化する段階;
本発明における検出対象遺伝子の発現水準は、対象患者又は試料によって全体的な遺伝子発現量又は発現水準に差があり得るため、標準化が必要である。標準化は基本発現量又は発現水準の差で表される遺伝子の発現量又は発現水準との違いを通じて行なって、好ましくは、CTBP1(C-terminal-binding protein 1)、CUL1 (cullin 1)及びUBQLN1(Ubiquilin-1)のうち、一つ乃至三つの遺伝子の発現量(又は複数の遺伝子が選別されている場合、これらの発現量の平均)を測定し、それについて比を算出することによって行うことができる。
【0044】
(d)前記(c)段階で標準化された一つ以上の増殖関連遺伝子及び免疫関連遺伝子の組み合わせにより、乳がん患者の化学治療の有用性を予測する段階であって、前記増殖関連遺伝子が過発現した場合、化学治療の有用性が大きいものと、及び前記免疫関連遺伝子が過発現した場合の化学治療の有用性が小さいものと乳がん予後を予測する段階;
本発明において前記“化学治療の有用性が高いもの”とは、化学治療を受けていない時と比較して、化学治療を受けた後、癌の転移、再発又は転移性再発の確率が低くなることを意味する。すなわち、化学治療の副作用よりその効果が大きいため、化学治療を進めた方がより望ましい場合を意味するといえる。
【0045】
一方、前記“化学治療の有用性が小さいもの”とは、化学治療を受けなかった時に比較して、化学治療を受けた後、転移、再発又は転移性再発の確率に大きな変化がなかったり、むしろさらに悪い予後を示す場合を意味する。すなわち、化学治療の効果は期待できず、副作用が存在するため、化学治療を進めない方が望ましい場合を意味するといえる。
【0046】
好ましくは、"化学治療の有用性が大きいもの"とは、化学治療を受けなかった時と比較して、10年以内のがんの転移、再発又は転移性再発の確率がもっと低くなることを意味し、"化学治療の有用性が小さいもの"とは、化学治療を受けなかった時と比較して、10年以内に転移、再発又は転移性再発の確率に特別な変化がないか、むしろさらに高まった場合を意味する。
【0047】
前記"10年"とは、原発性乳がん(primary breast cancer)患者の手術でがんを除去した時点(つまり、手術日起点)から10年間を意味する。
【0048】
本発明において、前記増殖関連遺伝子の過発現は、乳がん患者の悪い予後及び化学治療の有用性が高いものと密接な相関性があり、前記免疫関連遺伝子の過発現は乳がん患者の良い予後及び化学治療の有用性が小さいものと密接な相関性がある。したがって、前記増殖関連遺伝子と免疫関連遺伝子の発現の様相を組み合わせることで、化学治療の有用性をより正確に予測することができる。
【0049】
すなわち、本発明の前記遺伝子組み合わせは、原発性乳がん(primary breast cancer)手術後の追加的な化学治療が必要ない患者を選別するのに利用できる。本発明の前記遺伝子組み合せの対象患者群は、好ましくは、手術前と後もいかなる化学治療を受けていない患者群で、今後化学治療を受けるのが病気の進行経過に有利か、又は受けない方が有利かを決めようとする患者群と言える。
【0050】
本発明において、前記化学治療の有用性が小さな患者郡は乳房癌の予後が悪くないものと予想される患者群で(つまり、今後"良い予後"を示すと予想される患者群)、10年内転移、再発又は転移性再発の発生確率が低いため、手術後追加的に化学治療が必要ではないが、化学治療の有用性が高い集団は、乳がんの予後はよくないと予想される患者群で(つまり、今後の"悪い予後"を示すと予想される患者群)、手術後10年内転移、再発又は転移性再発の発生確率が高いため、手術後追加的な化学治療が勧められる。すなわち、乳がんの予後が悪くないと予想される患者は、化学治療による副作用が治療効果より大きいため、化学治療を受けない方が今後乳がんの進行経過により有利になると判断でき、逆に、乳がんの予後が悪くなると予想される患者は、化学治療による効果が副作用より優れているため、化学治療を受ける方が今後の乳がんの進行経過により有利になると判断できるのである。
【0051】
本発明はまた、前記(b)段階以降に、腫瘍の大きさ及びpN-レベルを評価する段階をさらに含め、前記(d)段階で腫瘍の大きさが大きいほど、及びpN-レベルが高いほど、化学治療の有用性が高いと判断することを特徴とする乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法を提供する。
【0052】
すなわち、増殖関連遺伝子の発現、免疫関連遺伝子の発現、腫瘍の大きさ及びpN-レベルを組み合わせることで、化学治療の有用性をより正確に予測でき、このような組み合わせを通じて、乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法は、従来報告されたことがない。
【0053】
本発明において、前記の腫瘍の大きさとは、がんの長軸の長さを意味し、好ましくは、病理学者の判断によって測定されたがんの長軸の長さをいう。腫瘍の大きさはセンチメートル(centimeter)単位で表記される。
【0054】
本発明において、前記pNは、乳がんの段階を区分する方法のうち病理学的区分方法(pathological classification)により、リンパ節への転移の有無を判断する方法を意味する。病理学的区分方法は、手術後病理組織学的区分方法(postsurgical histopathological classification)とも呼ばれ、乳がん患者の治療を始める前に得られた情報とともに、手術又は病理学的検査から得た情報を取りまとめて病理段階を区分する方法である。
【0055】
pNは、病理学的区分方法のうち、リンパ節への転移程度を基準とする仕分け方法で、腋窩リンパ節を切除し、腫瘍の転移を判断する。pN-レベルが上昇するほどリンパ節への腫瘍細胞転移が多くなり、乳がん予後が悪いため、化学治療の有用性が大きいと判断できる。
【0056】
本発明で、前記pN段階は好ましくは、pN0段階又はpN1段階でもあるが、これに制限されることはない。pN0段階とは、局所リンパ節への転移が全く観察されていない段階を意味し、pN1段階とは、1~3個の同側脇の下のリンパ節微細遷移が発見された段階を意味する。
【0057】
すなわち、前記方法によれば、(b)段階で測定した遺伝子の発現水準とともに腫瘍の大きさ及びpN-レベルを予後予測因子又は乳がん患者の化学治療の有用性予測因子と判断することで、より正確に乳がん患者の予後及び化学治療の有用性が予測できる。
【0058】
本発明は、乳がん患者の化学治療の有用性予測方法であって、下記段階:
(a)乳がんの患者から生物学的試料を得る段階;
(b)前記(a)段階の試料からUBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2からなる予後予測用遺伝子及びCTBP1、CUL1及びUBQLN1からなる標準遺伝子のmRNA発現水準を測定する段階;
(c)前記標準遺伝子を利用して前記予後予測用遺伝子のmRNA発現水準を標準化する段階;
(d)前記乳房癌患者の腫瘍の大きさ、及びpN-レベルを評価する段階;
(e)前記(c)段階における標準化の値、前記(d)段階での腫瘍の大きさ、及びpN-レベルを、下記の[式1]と[式2]に代入して数値を計算する段階
[式1]
Unscaled BCT score(U-BS)=a*△Ct_UBE2C+b*△Ct_TOP2A+c*△Ct_RRM2+d*△Ct_FOXM1+e*△Ct_MKI67+f*△Ct_BTN3A2+g*Tumor_size(cm)+h*pN(0 or 1)
[式2]
BCT score=0 if 0.8*Unscaled BCT score(U-BS)-13.71<0
BCT score=0.8*U-BS-13.71 if 0≦0.8*U-BS-13.71≦10
BCT score=10 if 0.8*U-BS-13.71>10
(予後遺伝子の値は、標準遺伝子を用いて計算された標準化されたmRNA発現値であり、Tumor_sizeは腫瘍の長軸の長さ、pNはリンパ節の転移の病理学的判断によって判定される値を示す。前記aは0.16乃至1.09、bは0乃至0.71、cは0乃至0.53、dは0乃至0.57、eは0乃至0.35、fは-1.02乃至0、gは0.25乃至1.52、及びhは0.19乃至2.25である);及び
(f)前記(e)段階で計算された数値が大きいほど、化学治療の有用性が大きいと予測する段階
を含む方法を提供することである。
【0059】
前記(a)乃至(d)段階については前述の通りである。
(e)前記(c)段階における標準化の値、前記(d)段階での腫瘍の大きさ、及びpN-レベルを、下記の[式1]に代入して数値を計算する段階;
[式1]
Unscaled BCT score (U-BS)=a*△Ct_UBE2C+b*△Ct_TOP2A+c*△Ct_RRM2+ d*△Ct_FOXM1+e*△Ct_MKI67+f*△Ct_BTN3A2+g*Tumor_size(cm)+h*pN(0 or 1)
(予後遺伝子の値は標準遺伝子を用いて計算された標準化されたmRNA発現値であり、Tumor_sizeは腫瘍の長軸の長さ、pNはリンパ節の転移の病理学的判断によって判定される値を示す。前記aは0.16乃至1.09、bは0乃至0.71、cは0乃至0.53、dは0乃至0.57、eは0乃至0.35、fは-1.02乃至0、gは0.25乃至1.52及びhは0.19乃至2.25であること)
【0060】
前記の遺伝子及びTumor_size、pNそれぞれに該当する係数との線形組み合わせにより予後予測点数を計算。増殖遺伝子及びTumor_size、pNは正の係数を持ち、免疫遺伝子は負の係数を持つ。各係数は、生存分析の結果、計算された係数値(点の推定値)の95%の信頼区間範囲内で適用され、好ましくは、各係数の点推定値が使用される。
【外1】
【0061】
【0062】
好ましくは、本発明による乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法は、乳がん患者の臨床結果を支配する2つの主要な生物学的特性である免疫反応及び細胞増殖に関連しており、FFPE検体組織で発現が安定的であり、予後による発現の違いが大きな遺伝子を対象に選別して、Coxの分析を通じて、前記遺伝子や予後に重要な2つの臨床情報(腫瘍の大きさ、pN-レベル)に対する係数(coefficient)を計算して、標準化された遺伝子の発現値、腫瘍の大きさやpN-レベルに乗じて、式1によってBCT scoreを求めて、化学治療の有用性を予測できることを特徴とする。
【0063】
[式1]
Unscaled BCT score=0.63*△Ct_UBE2C+0.32*△Ct_TOP2A+0.13*△Ct_RRM2+ 0.02*△Ct_FOXM1+0.04*△Ct_MKI67-0.42*△Ct_BTN3A2+0.89*Tumor_size(cm)+ 1.22*pN(0 or 1)
【0064】
前記予後予測因子(遺伝子、臨床情報)が生存率に影響を及ぼす程度は、Cox比例ハザード分析(Cox proportional hazard analysis)を通じて定量的な値で表すことができる。Cox比例危険モデルは、予後因子がない場合の危険度と、予後因子がある場合の危険度の比例値である比例危険比(relative hazard ratio、HR)値を通じて、予後因子が生存率に及ぼす影響度合いを表現する。比例危険比(HR)の値が1より大きければ、予後因子がある場合に、ない場合より危険度が上がり、1より小さい場合、予後因子がある場合、危険度がさらに減少する。各予後因子に対する比例危険比をlogスケールに転換した値を、各因子についた係数(coefficient)といい、この値をBCT scoreモデルの算出式係数で使用する(Cox、David R. "Regression models and life-tables." Journal of the Royal Statistical Society. Series B (Methodological) (1972): 187-220)。遺伝子の係数については、交差検証(cross validation)を通じて、算出式の結果の妥当性を検証判断した。
【0065】
前記式にてそれぞれの“△Ct_予後予測用遺伝子”には、各遺伝子の発現量を標準化した値が代入される。前記標準化は、基本発現量又は発現水準の差を示せる遺伝子の発現量又は発現水準との違いを通じて行って、好ましくは、CTBP1(C-terminal-binding protein 1)、CUL1(cullin 1)及びUBQLN1(Ubiquilin-1)から一つ乃至三つの遺伝子の発現量(又は複数の遺伝子が選別された場合、これら発現量の平均)を測定し、これについての比を算出することによって行われることができる。
【0066】
具体的に、CTBP1(C-terminal-binding protein 1)、CUL1(cullin 1)及びUBQLN1(Ubiquilin-1)からなる標準化用遺伝子の発現平均値に各予後予測用遺伝子の発現値を差し引いた後、30を加えた値を"△Ct_予後予測用遺伝子"値とし、この値が前記予後予測用の各遺伝子の標準化の値となる。すなわち、それぞれの予後予測用の遺伝子の標準化の値は、下記の式に代入して計算される。
【0067】
[△Ct_予後予測遺伝子=((Ct_CTBP1+Ct_CUL1+Ct_UBQLN1)/3)-Ct_予後予測遺伝子+30]
【0068】
前記"予後予測遺伝子"とは、標準化をしようとするUBE2C(Ubiquitin-conjugating enzyme E2C)、TOP2A(Topoisomerase 2 alpha)、RRM2(ribonucleotide reductase M2)、FOXM1(Forkhead box M1)、MKI67(Marker of proliferation Ki-67)及びBTN3A2(Butyrophilin subfamily 3 member A2)中のいずれかを意味する。
【0069】
前記"Ct"とは、PCR増幅産物が一定量増幅されたときのサイクル数を意味する。リアルタイムRT-PCR法を採用する場合、一般的に、増幅サイクル数1乃至10までは蛍光強度の変化はノイズレベルであり、0と同じため、これらを増幅産物0のサンプル・ブランクと見なして、これらの標準偏差SDを算出して10を掛けた蛍光値を閾値として、その閾値を最初に上回るPCRサイクルの数を、Ct(cycle threshold)値とする。したがって、増幅産物が多い場合、Ct値は小さい値となり、増幅物が少ない場合、Ct値は大きな値となる。
【0070】
本発明では、標準遺伝子を使用して各予後遺伝子の発現値を標準化しており、3つの標準遺伝子の平均Ct値を使用して、試験上発生できる技術的な誤差を最小化した。
【0071】
本発明において、前記[式1]の計算値を直観的な数値で表現するために、下記[式2]のような線形変換(linear transformation)によって0と10の間の値に変換する。
【0072】
[式2](BCT score計算式)
BCT score=0 if 0.8*Unscaled BCT score(U-BS)-13.71<0
BCT score=0.8*U-BS-13.71 if 0≦0.8*U-BS-13.71≦10
BCT score=10 if 0.8*U-BS-13.71>10
【0073】
(f)前記(e)段階で計算された数値が大きいほど化学治療の有用性が大きいと予測する段階;
【0074】
本発明の実施例によると、本発明の乳がん患者の化学治療の有用性を予測方法で危険群分類の正確度を評価する変数である敏感度(sensitivity)と特異度(specificity)の合計が最大となる地点を算出した結果、前記の[式1]によって計算された数値が22.1を超過する場合には化学治療の有用性が大きい(転移高危険群)と、22.1以下の場合、化学治療の有用性が小さい(転移低危険群)と、判断することができた。
【0075】
一方で、前記[式1](Unscaled BCT score)を線形変換する[式2](BCT score)の場合、その値が4以上の場合は化学治療の有用性が大きい(転移高危険群)と、4未満の場合、化学治療の有用性が小さい(転移低危険群)と判断することができた。
【0076】
本発明で前記"敏感度(sensitivity)"は、10年以内に転移した患者の中で検査結果で、高危険群であるの比率を意味し、前記"特異度(specificity)"は10年間無転移患者の中で検査結果でも、低危険群であるの比率を意味する。
【0077】
本発明の実施例によれば、本発明者たちはBCT score及びBCT scoreに用いられる遺伝子と臨床情報(即ち、がんの大きさ及びpN-レベル)の統計的有意性を判断するために、Cox比例危険モデルを使って分析してみた結果、本発明によるBCT score一般的な予後指標として使われる臨床情報、及びこれらを用いた臨床情報基盤の予後評価モデルであるNPI Score、PREDCIT、SNAPよりも有意性が確認された。
【0078】
また、本発明の実施例によれば、同じ患者群を対象にBCT score及び他の臨床情報基盤モデルのc-indexを比較した結果、BCT scoreが最も高いc-index値を示すことが分かり、BCT scoreが他のモデルより高い乳がん予後予測力を示すことを確認した。
【0079】
したがって、本発明の前記アルゴリズムは、原発性乳がん(primary breast cancer)手術後の追加的な化学治療の必要がない患者を選別するのに用いられる。本発明の前記本アルゴリズムの対象患者群は、好ましくは、手術前にも後にも何らかの化学治療を受けない患者群で、"良い予後(good prognosis)"を持った患者群は、10年内転移、再発又は転移性再発の発生確率が低くて手術後追加的に化学治療が必要としないが(化学治療の有用性が小さい)、"悪い予後(poor prognosis)"を持った集団は、手術後10年内転移、再発又は転移性再発の発生確率が高くて手術後に追加的な化学治療が推奨されることができる(化学治療の有用性が大きい)。
【0080】
すなわち、本発明の前記[式1]、又は[式1]及び[式2]による乳がん患者の化学治療の有用性を予測するアルゴリズムは、広範囲な臨床試料を対象に、乳がんの予後と密接に関連された増殖関連遺伝子、免疫関連遺伝子、及び臨床情報(癌の大きさ及びpN-レベル)を分析して算出されたもので、その予後予測力が、従来の臨床情報基盤の予後評価モデルなど他のモデルより高い乳がん予後予測力を示し、それに基づいた化学治療の有用性の予測も極めて正確である。
【0081】
本発明はまた、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤を含む乳がん患者の化学治療の有用性の予測用の組成物を提供する。
【0082】
また、本発明の他の目的を達成するために、本発明は、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤からなる乳がん患者の化学治療の有用性の予測用の組成物を提供する。
【0083】
また、本発明の他の目的を達成するために、本発明は、本質的に、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤からなる乳がん患者の化学治療の有用性予測用の組成物を提供する。
【0084】
本発明はまた、前記の組成物が、CTBP1、CUL1及びUBQLN1遺伝子の発現量を測定する製剤をさらに含むことを特徴とする組成物を提供する。
【0085】
本発明において、前記の遺伝子の発現量を測定する製剤が、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67、BTN3A2、CTBP1、CUL1及びUBQLN1遺伝子に特異的に結合するプライマー対であることを特徴と言える。
【0086】
本明細書で使われる用語"プライマー"は、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)を意味するもので、核酸鎖(鋳型)に相補的なプライマー延長産物の合成が導かれる条件、すなわち、ヌクレオチドとDNA重合酵素のような重合剤の存在、そして適合する温度とpHの条件から合成の開始点として作用しうる。好ましくは、プライマーはデオキシリボヌクレオチドで単一鎖である。本発明におけるプライマーは、天然(naturally occurring)dNMP(即ち、dAMP、dGMP、dCMP及びdTMP)、変形ヌクレオチド又は非自然ヌクレオチドを含むことができる。また、プライマーはリボヌクレオチドも含むことができる。
【0087】
本発明のプライマーは、ターゲット核酸にアニーリングされ、鋳型依存性核酸重合酵素によって、ターゲット核酸に相補的な配列を形成する延長プライマー(extension primer)でもあり、これは固定化プローブがアニーリングされている位置まで延長され、プローブがアニーリングされている部位を占める。
【0088】
本発明で利用される延長プライマーは、ターゲット核酸の第1の位置に相補的な混成化ヌクレオチド配列を含む。用語"相補的"は、所定のアニーリング又は混成化の条件下でプライマー又はプローブがターゲット核酸の配列に選択的に混成するほど十分に相補的であることを意味し、実質的に相補的(substantially complementary)及び完全に相補的(perfectly complementary)であることをすべて包括する意味を持ち、好ましくは、完全に相補的なものを意味する。本明細書で、プライマー配列に関連して用いられる用語、"実質的に相補的な配列"は、完全に一致している配列のだけではなく、特定の配列にアニーリングしてプライマーとして機能することができる範囲内で、比較対象の配列と部分的不一致している配列も含まれる意味である。
【0089】
プライマーは、重合剤の存在下で延長産物の合成をプライミングすることができる程度に十分に長くなければならない。プライマーの適切な長さは、多数の要素、例えば温度、応用分野及びプライマーのソース(source)に基づいて決定されるが、典型的には15~30ヌクレオチドである。短いプライマー分子は、鋳型と十分に安定した混成複合体を形成するために、一般的に、より低い温度を必要とする。用語"アニーリング"又は"フライミング"は鋳型核酸にオリゴデオキシヌクレオチド又は核酸が並置(apposition)されることを意味し、前記併置は、重合酵素がヌクレオチドを重合して鋳型核酸又は彼の一部に相補的な核酸分子を形成させる。
【0090】
プライマーの配列は、鋳型の一部配列と完全に相補的な配列を持つ必要はなく、鋳型と混成化され、プライマー固有の作用ができる範囲内での十分な相補性を持てば十分である。したがって、本発明におけるプライマーは、鋳型の上述のヌクレオチドの配列に完全に上補的な配列を持つ必要はなく、この遺伝子配列に混成化されプライマー作用ができる範囲内で十分な相補性を持つと足りる。このようなプライマーのデザインは、上述したヌクレオチド配列を参照して、当業者によって、容易に行うことができ、例えば、プライマーのデザイン用プログラム(例:PRIMER3プログラム)を利用し、ことができる。
【0091】
好ましくは、本発明において、前記プライマー対は、配列番号1乃至18で表示される配列からなることを特徴とすることができる。本発明で遺伝子の発現量を測定するために選別された遺伝子のプライマーやプローブ配列を、下記の[表3]に示した。
【0092】
【0093】
本発明は、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤を含む乳がん患者の化学治療の有用性の予測用キットを提供する。
【0094】
本発明はまた、前記キットが、CTBP1、CUL1及びUBQLN1遺伝子の発現量を測定する製剤をさらに含むことを特徴とするキットを提供する。
【0095】
本発明のキットは、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67、BTN3A2、CTBP1、CUL1及びUBQLN1増幅が可能なプライマー対に加えて、PCR反応、試料でのRNA分離及びcDNAの合成に使用される当業界に公示された道具及び/又は試薬を追加で含めることができる。本発明のキットは、必要に応じて各成分を混合するのに使われるチューブ、ウェルプレート及び使用方法を記載した指示資料などを追加して含むことができる。
【0096】
また、本発明は、乳がん患者の化学治療の有用性の予測用製剤を製造するためのUBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、MKI67及びBTN3A2遺伝子の発現量を測定する製剤の使用を提供する。
【0097】
本発明はまた、前記発現量を測定する製剤が、CTBP1、CUL1及びUBQLN1遺伝子の発現量を測定する製剤をさらに含むことを特徴とする製剤の使用を提供する。
【0098】
本発明の前記"遺伝子の発現量を測定する製剤"は、上記と同様であり、前記"化学治療の有用性を予測できる遺伝子"は上記と同様であり、UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1、4MKI67、BTN3A2、CTBP1、CUL1及びUBQLN1からなる群から選択される一つ以上である。
【0099】
本発明の用語「~を含む(comprising)」とは、「含有する」又は「特徴とする」と同様に使用され、組成物あるいは方法において、言及されていない追加的な成分要素あるいは方法段階等を排除しない。用語「からなる(consisting of)」とは、別途記載されていない追加的な要素、段階又は成分などを除外することを意味する。用語「本質的に~からなる(essentially consisting of)」とは、組成物又は方法の範囲において、記載された成分要素又は段階並びにその基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分要素又は段階等を含むものを意味する。
【発明の効果】
【0100】
本発明は、乳がんの予後と有意な相関性を表す遺伝子群及び臨床情報を利用した乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法に関するものであり、本発明の方法により、乳がん患者に対する化学治療の有用性を正確に予測できる効果があり、今後、乳がん治療のあり方についての手掛かりを示す目的で有効に使うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【
図1】
図1は、アルゴリズム算出試験群でunscaled BCT scoreの分布を示した結果である。
【
図2】
図2は、アルゴリズム算出試験群及び検証試験群でBCT scoreの分布を示した結果である。
【
図3】
図3は、BCT scoreによって区分された高危険群(化学治療の有用性が大きいグループ)や、低危険群(化学治療の有用性が小さなグループ)における10年以内の無遠隔転移生存率を示した図面である。
【
図4】
図4は、C-indexを通じた乳がん予後予測モデルの予測力評価結果を示した図面である。
【
図5】
図5は、本発明によるアルゴリズムで、低危険群の患者及び高危険群の患者を区分した後、化学治療を受けたり、受けない患者集団での10年間の無遠隔転移の確率を計算した結果である。
【
図6】
図6は、本発明によるアルゴリズムで、低危険群に分類された患者のうち、臨床情報に基づいて、低危険群に分類された患者群で化学治療による10年以内の無遠隔転移の確率の差を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0102】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0103】
ただし、以下の実施例は本発明を例示するにすぎず、本発明の内容が下記の実施例に限られるものではない。
【0104】
<実施例1>
初期の乳がんの発現プロファイルの収集
NCBIのGene Expression Omnibus(GEO、www.ncbi.nlm.nih.govgeo)は、研究者がマイクロアレイをはじめとする遺伝子発現及び突然変異に対する大規模実験データを保存するデータベースサイトである。このサイトのデータは自由に再分析ができ、本予後遺伝子の導出過程もこのサイトの資料を使った。
【0105】
本研究に使用されたマイクロアレイデータは、"Affymetrix Human Genome U133A Array"というマイクロアレイチップを使用したデータに限定した。このチップには、約2万2千個の探針(probe:プローブ)が存在し、各探針は一つの遺伝子を指す。このようなチップ分析を通じて、人体内のほとんどの遺伝子に対するmRNA発現程度を測定することができる。
【0106】
NCBI GEOサイト内で、"Affymetrix Human Genome U133A Array"基盤のリンパ節陰性であり、手術後どのような化学治療を受けない患者群が対象であるマイクロアレイデータセットを調査しており、その結果、次のような3つのデータセットから684の検体データを確保した。検体データセットに対する情報をする[表4]及び[表5]に示した。
【0107】
【0108】
【0109】
<実施例2>
無遠隔転移生存期間(Distant-Metastasis-free survival、DMFS)の分布によって、10年以上遠隔転移性再発がない集団を"予後が良い集団"に分類しており、5年以内に遠隔転移性再発が発生した集団を"予後が悪い集団"に分類した。このような分類基準によって検体集団を分類した結果、212個の予後が良い集団と159つの予後が悪い集団に分類された。予後が良い集団で平均DMFSは13年であるが、予後が悪い集団で平均DMFSは2.2年だった。
【0110】
<実施例3>
予後予測遺伝子の選択
前記予後が良い集団である212個のサンプルと、予後が悪い集団である159個のサンプルとでSAM(Significant Analysis of Microarray)分析を通じて、予後集団間の発現量に違いがある遺伝子を調べた。SAM分析結果のq値を利用して、予後が良い集団で過発現した遺伝子、予後が悪い集団で過発現した遺伝子を選択した。選択された遺伝子を一つに統合した結果、計302の重複されていない遺伝子セットが作られ、これらの遺伝子の発現パターンを調べるための群分析を、主成分分析(Principal Component Analysis、PCA)方法を利用して行った。2つの主成分を選択し、各主成分について、関連した生物学的機能を調べるために、群別に遺伝子オントロジー(GO)機能分析を行った。
【0111】
GO分析の結果、主成分1は増殖に集中されており、主成分2は免疫反応に集中されていることが分かった。増殖と免疫反応に関与する2つの主成分に属する遺伝子を対象に、予後集団間の発現量が最も大きな遺伝子をそれぞれ選択した。各遺伝子セットにおいて、遺伝子は増殖の発現パターンを代表する意味でp-gene、免疫反応の発現パターンを表すi-geneと命名した。
【0112】
前記p-gene又はi-geneに分類された遺伝子群において、下記条件に合った遺伝子を遺伝子予後診断モデルの候補遺伝子に選別した。:
(i)免疫又は免疫反応に高い連関性がある。
(ii)検体間の発現の差が大きい。
(iii)平均的に高い発現値を持つ。
(iv)qRT-PCR実験結果、FFPE検体と凍結検体で発現の高い連関性を示す。
前記の基準により選別された遺伝子群は以下の通りである。
(1)10種の増殖関連遺伝子群(p-genes):AURKA、CCNB2、FOXM1、MKI67、MMP11、PTTG1、RACGAP1、RRM2、TOP2A及びUBE2C
(2)6種の免疫反応関連遺伝子群(i-genes):BTN3A2、CCL19、CD2、CD52、HLA、DPA1及びTRBC1
【0113】
<実施例4>
乳がん予後予測アルゴリズムの実装のための変数の選別
<4-1>アルゴリズムの実現に向けたサンプル修得
三星(サムスン)病院と峨山(アサン)病院で化学治療を受けなかった乳がん患者のサンプルを174個入手してアルゴリズムの実装に使用しており、227個のサンプルをアルゴリズムの検証に使用した。
【0114】
得た患者サンプルの臨床情報は下記[表6]に示した。
【0115】
【0116】
<4-2>予後予測に使われる遺伝子の選別
先立って選別された16遺伝子は、FFPE検体からRNAを抽出してqRT-PCRを行い、その発現値を計算した。
【0117】
各遺伝子の発現増加に伴う遠隔転移の危険性の変化は、Cox比例危険モデルを使って把握できる。Coxの比例危険モデルで、一定時間間隔で危険因子(遺伝子)の有無によって事件(遠隔転移)の発生の危険の程度の比を危険度(hazard ratio、HR)と定義し、このような危険度が1より大きければ、危険因子が事件発生の危険が増加させることで、1より小さければ危険が減少することを意味する。
【0118】
p-geneに分類された増殖関連遺伝子は、危険度の値が1以上で、発現値が大きくなるほど予後に悪影響を与え、反対にi-geneに分類された遺伝子は、危険度の値が1以下で、発現値が大きくなるほど良い予後の結果を示すことが確認された。
【0119】
観察された遺伝子群のうち、予後予測の重要度が他の遺伝子よりも高く、他の研究と予後の方向性が一致する遺伝子を最終アルゴリズムに用いられる遺伝子と選択した。
【0120】
選択された遺伝子は、増殖関連遺伝子5個(UBE2C、TOP2A、MKI67、RRM2、FOXM1)と免疫反応関連遺伝子1個(BTN3A2)であり、追加的に発現標準化に向けてFFPE組織に適合する標準遺伝子3個(CTBP1、CUL1、UBQLN1)を、既存の論文を通じて、選別してその発現値を分析に使用した("Identification of novel reference genes using multiplatform expression data and their validation for quantitative gene expression analysis." PLoS One 4(7): e6162.2009)。
【0121】
<4-3>アルゴリズムに用いる臨床程度の選別
一変数Cox比例危険モデルを使用して、化学治療を受けなかった乳がん患者対象に、転移性再発と関連された重要な臨床因子が何なのか確認した(P値(p-value)<0.05)。
【0122】
これに対する結果を下記の[表7]に示した。
【0123】
下記[表7]に示したとおり、pN、病理学的病期(pathologic stage、癌のサイズ(Tumor size)及びNPI scoreが遠隔転移に有意だと確認された。
【0124】
【0125】
このうち、癌の大きさ(Tumor size)は、化学治療を受けていない乳がん患者群で遠隔転移性再発に重要な因子だったが、化学治療を受けた乳がん患者群では有意な因子ではなかった。
【0126】
pNは、化学治療を受けない患者群と化学治療を受けた患者群の両方で有意だが、化学治療を受けない患者群における危険比(hazard ratio)値が、化学治療を受けた患者群における危険比値と比べて7倍以上の差があった。つまり、pNは、化学治療を受けた患者群より、化学治療を受けていない患者群で、より強力な遠隔転移性再発に対する指標であることがわかった。
【0127】
病理学的病期(Pathologic stage)も有意な因子であるが、癌の大きさ(Tumor size)、pNが含まれる概念であり、NPI scoreはがんの大きさ、リンパ節転移の程度などをもとに計算されるので、この指標もやはり癌が大きさやpNの情報と重畳され、最終的に化学治療を受けていない患者群を対象とした予後予測モデルで、臨床情報は、癌の大きさ(Tumor size)及びpN情報を選択した。
【0128】
<実施例5>
Cox比例危険モデル基盤のBCT score計算式の導出
<5-1>計算式の導出
増殖関連遺伝子のp-geneグループ(UBE2C、TOP2A、RRM2、FOXM1及びMKI67)は、発現量が多いほど予後に悪い結果を示し、免疫関連遺伝子のi-gene(BTN3A2)は、発現量が多いほど予後に良い結果を示す。前記遺伝子をCox比例危険分析により、以下のような式を算出した。
【0129】
[Unscaled BCT score計算式]
Unscaled BCT score (U-BS)=0.63*△Ct_UBE2C+0.32*△Ct_TOP2A+ 0.13*△Ct_RRM2+0.02*△Ct_FOXM1+0.04*△Ct_MKI67-0.42*△Ct_BTN3A2+ 0.89*Tumor_size(cm)+1.22*pN(0 or 1)
【0130】
前記計算式によってUnscaled BCT score(U-BS)を算出して分布を確認し、これに対する結果を
図1に示した。
【0131】
BCT Scoreのcut-offは、患者を10年内遠隔転移性再発の発生に対する低危険群又は高危険群を分類する。危険群分類の正確度(accuracy)の評価変数が正に敏感度(sensitivity)と特異度(specificity)であり、本発明のアルゴリズムでは、敏感度と特異度は次のように定義される。
【0132】
*敏感度(sensitivity):10年内遠隔転移性再発された患者の中の検査結果で、高危険群の比率。
【0133】
*特異度(specificity):10年内遠隔転移性再発のない患者の中の検査結果で、低危険群の比率。
【0134】
前記敏感度と特異度の値が大きいほど分類が良かったと言えるが、敏感度を高めれば特異度が落ち、逆に特異度を高めれば敏感度が落ちる。本発明のアルゴリズムでは、敏感度と特異度の両方を考慮し、危険群分類のcut-off地点を敏感度と特異度の合計が最大となるようにしたBCT score分類地点を計算し算出した。
【0135】
[
図2]に示したとおり、前記基準に従って敏感度と特異度の合計が最大となる地点は22.13767で同地点を遠隔転移の高危険群と低危険群を分ける閾値(threshold)に指定した。つまり、BCT score(BS)が22.13767以上の場合、遠隔転移の高危険群、未満の場合、遠隔転移の低危険群に分類できるのである。
【0136】
<5-2>Scaled計算式の導出
前記実施例<5-1>の計算式をより直観的な数値で表現するために、線形変換(linear transformation)によってBCT scoreに変換し、計算式は次のようである。
【0137】
[BCT score(BS)計算式]
BCT score=0 if 0.8*U-BS-13.71<0
BCT score=0.8*U-BS-13.71 if 0≦0.8*U-BS-13.71≦10
BCT score=10 if 0.8*U-BS-13.71>10
【0138】
前記計算式でBCT scoreの値が0より少なければ、0に置換され、10より大きい場合10に変換される。BCT scoreが大きくなるにつれて、10年内癌の再発、転移又は転移性再発の確率は大きくなる。
【0139】
前記計算式によってBCT scoreを算出し、その分布を確認し、これに対する結果を
図2に示した。
図3に示したように、BCT scoreで患者を遠隔転移の発生について高危険群と低危険群を分類する閾値は4に設定(敏感度と特異度の合計が最大となる地点)した。つまり、BCT scoreが4以上である場合には、再発、転移又は転移性再発高危険群と、未満なら、低危険群に分類できる。
【0140】
<実施例6>
予後予測性能評価
<6-1>アルゴリズム算出試験群と検証試験群による性能評価
前記<実施例5>の計算式によって分類した高危険群は、低危険群より高い確率で再発・転移又は転移性再発が発生することを意味する。アルゴリズム算出試験群(discovery set)とアルゴリズムの検証試験群(validation set)生存分析を通じた遠隔転移性再発確率を推定した結果を
図3に示した。
【0141】
図3に示した通り、アルゴリズム算出試験群とアルゴリズム検出試験群でBCT scoreに基づく、低危険群の10年以内の無遠隔転移の確率はそれぞれ97.82%、96.47%であり、高危険群の10年以内の無遠隔転移の確率は61.07%、76.31%で、両試験群の両方で統計的に有意な10年内遠隔転移性再発確率の差があることを確認した(p-values<0.001、log-rank test)。
【0142】
<6-2>一変数及び多変数Cox比例危険モデルを使用したBCT scoreの予後予測に対する統計的有意性検証
BCT scoreの遠隔転移の予測に対する統計的有意性を検証するために、Cox比例危険分析を使用し、臨床情報及び臨床情報基盤の予後評価モデルより有意性をもっているかを分析した。
【0143】
アルゴリズム算出試験群及び検証試験群で多変数Cox比例危険分析の結果、BCT Scoreは、予後の指標として使われる一般的な臨床情報より遠隔転移の予測に統計的に有意な指標で確認された(p-values<0.05)。これと同様に、BCT Scoreは、臨床情報を基盤とする予後モデルより統計的に有意な指標であることが、多変数Cox比例ハザード分析を通じて確認できた(p-values<0.05)。
【0144】
【0145】
<6-3>C-indexを使ったBCT scoreの予後予測力評価
C-index(C指標)は0.5から1までの値を持ち、0.5に近いほど予後予測力は落ち、1に近いほど高い予後予測力を持つ。BCT scoreの予後予測力を評価するために臨床情報基盤モデルとC-index比較評価を行った。
【0146】
同じ患者群を対象にBCT score及び他の臨床情報基盤モデルのC-indexを比較した結果、BCT scoreが最も高いC-index値を見せることが分かった。他の予後予測モデルよりBCT scoreが高い予後予測力を持っていることを意味する(
図4)。
【0147】
<実施例7>
化学治療の有用性予測力
前記、実施例1乃至6を通じて確立したアルゴリズムを利用して乳がん患者の化学治療の有用性を予測できるかどうかを確認することを試みた。
【0148】
峨山(アサン)病院で手術を受けた患者検体346個を得て本実施例に使用した。化学治療を受けた検体と、化学治療を受けなかった前記実施例4の検体を、本発明によるアルゴリズムで分析し、高危険群と低危険群に区分して、化学治療の有無による10年の無遠隔転移の確率を比較した。
【0149】
前記患者の具体的な臨床情報をする表9に示しており、無遠隔転移の確率について結果を
図5に示した。
【0150】
【0151】
図5に示したとおり、本発明のアルゴリズムによって区分された低危険群では、化学治療を受けない患者群で無遠隔転移の確率が96.0%に対して、化学治療を受けた患者群から96.4%で化学治療を受けた患者群で無遠隔転移の確率が0.4%増加した。これは、低危険群患者群では、化学治療の利益がないと判断できる。一方、本発明のアルゴリズムによって区分された高危険群では、化学治療を受けた患者群の無遠隔転移の確率が91.9%に対して、化学治療を受けない患者群は65.4%で、統計的に有意に、化学治療を受けた患者群の予後がより良かったことを確認することができた。さらに、無疾病の生存確率及び全体の生存確率においても、低危険群は、化学治療の有無による有意な生存確率の差はなく、高危険群では有意な化学治療の効果が見られることを確認した。
【0152】
本発明のアルゴリズムによって区分された各危険群で、患者の無遠隔転移生存率に影響を与えかねない因子に対するCoxの比例危険モデル基盤一変数及び多変数分析結果[表10]のように、低危険群では、化学治療が無遠隔転移生存率に影響を及ぼさないし、高危険群では、化学治療の有無が、患者の無遠隔転移生存率に影響を与える因子と確認された。
【0153】
【0154】
<実施例8>
化学治療の有用性予測力の比較
本発明の低危険群患者群で化学治療の利益がないことは、臨床情報に基づく危険群分類モデルであるmodified Adjuvant! Onlineと比較したときよりも明確に確認された。Modified Adjuvant! Onlineは、患者の臨床情報を基盤に患者のリスクの程度を予測し、高危険群又は低危険群に分類する。本発明のアルゴリズムによって、低危険群と分類された全266人の患者のうち、患者の臨床情報基盤モデルであるModified Adjuvant! Onlineの危険群分類に従って、別の10年無遠隔転移の確率を示すのかを比較した。
【0155】
図6に示したとおり、本発明によるアルゴリズムで、低危険群に分類された患者のうち、臨床情報に基づいて低危険群に分類された患者群において、化学治療による10年以内に無遠隔転移の確率の差は0.3%であり、化学治療によって統計的に有意な無遠隔転移生存率の増減がない、化学治療の有用性がない患者群であることを確認した。同様に、本発明によるアルゴリズムで、低危険群に分類された患者のうち、臨床情報に基づいて、高危険群に分類された患者群において、化学治療による10年以内に無遠隔転移の確率の差は2.3%であり、化学治療によって統計的に有意な無遠隔転移生存率の増減がないことを確認することができた。
【0156】
つまり、乳がんの診断を受けた患者として、本発明のアルゴリズムによって、低危険群に判断された特定の患者の場合には、化学治療を通じて無遠隔転移の確率の有意な増加がないだろうと予測して見ることができ、高危険群に判断された特定の患者の場合には、化学治療を受けることで手術後10年以内に無遠隔転移生存率が高く、さらに予後がいいと予測できるのである。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明は、乳がんの予後と有意な相関性を示す遺伝子群及び臨床情報を利用した乳がん患者の化学治療の有用性を予測する方法に関するものであり、本発明の方法により、乳がん患者に対する化学治療療法の有用性を正確に予測できる効果があり、今後、乳がん治療のあり方についての情報を提示する目的で有用に使うことができ、産業上利用可能性が非常に優れている。
【配列表】