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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20240205BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20240205BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20240205BHJP
   F16H 61/688 20060101ALI20240205BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240205BHJP
   F16H 37/02 20060101ALI20240205BHJP
   B60K 5/04 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/14
F16H61/662
F16H61/688
F16H63/50
F16H37/02 R
B60K5/04 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020183466
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073467
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】岸 大輔
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157946(JP,A)
【文献】特開2015-145692(JP,A)
【文献】特開2015-209915(JP,A)
【文献】特開2019-116959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/14
F16H 61/662
F16H 61/688
F16H 63/50
F16H 37/02
B60K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力が入力されるインプット軸と駆動輪に伝達されるエンジン駆動力を出力するアウトプット軸との間にベルト式の無段変速機構を備え、前記無段変速機構によるベルト変速比が大きいほど前記インプット軸と前記アウトプット軸との間の全体でのユニット変速比が大きくなる第1モードと、前記ベルト変速比が大きいほど前記ユニット変速比が小さくなる第2モードとに選択的に切り替わり、前記ベルト変速比が一定の切替値であるときに前記第1モードと前記第2モードとが切り替わっても前記ユニット変速比が変化しないように構成された無段変速機を搭載した車両用の制御装置であって、
前記車両を加速させる加速要求に応じたパラメータを取得するパラメータ取得手段と、
前記パラメータと目標回転数との関係を定めた変速線図に基づいて、前記パラメータ取得手段により取得される前記パラメータに応じた目標回転数を設定し、前記インプット軸の回転数を目標回転数に一致させる変速比を求めて、当該変速比を前記ユニット変速比の目標である目標変速比に設定する目標設定手段と、
前記パラメータ取得手段により取得される前記パラメータに応じた要求駆動力を算出する要求駆動力算出手段と、
前記目標設定手段により設定される前記目標変速比に一致する前記ユニット変速比での前記エンジン駆動力を算出するエンジン駆動力算出手段と、
前記エンジンの出力を増加させる制御による前記エンジン駆動力の増加量を算出する駆動力増加量算出手段と、
前記第1モードにおいて、前記目標設定手段により設定される前記目標変速比が前記切替値以下であるとき、前記第1モードから前記第2モードに切り替え、前記第2モードにおいて、前記駆動力増加量算出手段により算出される増加量が前記要求駆動力算出手段により算出される前記要求駆動力から前記エンジン駆動力算出手段により算出される前記エンジン駆動力を減じた値よりも大きい場合、前記目標設定手段により設定される前記目標変速比が前記切替値より大きくても、前記第2モードを継続させるモード切替手段と、を含む、制御装置。
【請求項2】
前記モード切替手段は、前記第2モードにおいて、前記駆動力増加量算出手段により算出される増加量が前記要求駆動力算出手段により算出される前記要求駆動力から前記エンジン駆動力算出手段により算出される前記エンジン駆動力を減じた値よりも大きい場合に、前記第2モードの継続による得失を考慮して、前記第2モードを継続させるか否かを決定する、請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される変速機として、動力を無段階に変速する無段変速機構を備え、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を2つの経路で分割して伝達可能な動力分割式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。
【0003】
動力分割式の無段変速機では、無段変速機構、平行軸式歯車機構および遊星歯車機構が設けられている。無段変速機構は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有している。無段変速機構のセカンダリ軸は、遊星歯車機構のサンギヤに接続されている。平行軸式歯車機構は、インプット軸の動力が伝達/遮断されるスプリットドライブギヤと、スプリットドライブギヤとギヤ列を構成し、遊星歯車機構のキャリヤと一体回転するスプリットドリブンギヤとを備えている。遊星歯車機構のリングギヤには、アウトプット軸が接続されている。アウトプット軸の回転は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に伝達される。
【0004】
前進走行時における動力伝達モードとして、第1モード(ベルトモード)および第2モード(スプリットモード)が設けられている。
【0005】
第1モードでは、インプット軸とスプリットドライブギヤとの間での動力の伝達/遮断を切り替える第1クラッチが解放されて、スプリットドライブギヤが自由回転状態にされ、遊星歯車機構のキャリヤが自由回転状態にされる。また、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとを結合/分離する第2クラッチが係合されて、サンギヤとリングギヤとが結合される。そのため、無段変速機構から出力される動力により、サンギヤおよびリングギヤが一体的に回転し、アウトプット軸がリングギヤと一体的に回転する。したがって、第1モードでは、無段変速機構の変速比であるベルト変速比(プーリ比)が大きいほど、その変速比に比例して、動力分割式無段変速機全体での変速比であるユニット変速比(インプット軸の回転数/アウトプット軸の回転数)が大きくなる。
【0006】
第2モードでは、第2クラッチが解放されて、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとの結合が解除される。また、第1クラッチが係合されて、インプット軸からスプリットドライブギヤに動力が伝達される。インプット軸からスプリットドライブギヤに伝達される動力は、スプリットドライブギヤからスプリットドリブンギヤを介することにより一定の変速比(スプリット点)で変速されて、遊星歯車機構のキャリヤに入力される。サンギヤは、ベルト変速比に応じた回転数で回転する。そのため、第2モードでは、ベルト変速比が大きいほどユニット変速比が小さくなり、スプリット点以下のユニット変速比を実現することができる。
【0007】
変速制御では、たとえば、変速線図に従って、アクセル開度(アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合)および車速に応じた目標回転数が設定され、無段変速機に入力される回転数を目標回転数に一致させる変速比が目標変速比に設定される。そして、ユニット変速比が目標変速比に一致するように、ベルト変速比が変更される。
【0008】
第1モードと第2モードとの切り替えは、目標変速比とスプリット点の変速比(スプリットギヤ比)との比較により判定される。すなわち、第1モードにおいて、目標変速比がスプリットギヤ比以下(ハイ側)であれば、第1モードから第2モードへの切り替えが判定される。また、第2モードにおいて、目標変速比がスプリットギヤ比以上(ロー側)であれば、第2モードから第1モードへの切り替えが判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-142302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
第2モードは、スプリットドライブギヤおよびスプリットドリブンギヤにより動力が伝達されるギヤ伝達方式であるため、動力伝達効率が良く、車両の走行燃費の向上に有効である。ところが、アクセルペダルが少しだけ踏み増された場合であっても、目標変速比がスプリットギヤ比以上になれば、第2モードから第1モードに切り替えられるため、第2モードで走行可能な時間が短いという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、車両が第2モードで走行可能な時間を増やすことができる、制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明に係る制御装置は、エンジンからの動力が入力されるインプット軸と駆動輪に伝達されるエンジン駆動力を出力するアウトプット軸との間にベルト式の無段変速機構を備え、無段変速機構によるベルト変速比が大きいほどインプット軸とアウトプット軸との間の全体でのユニット変速比が大きくなる第1モードと、ベルト変速比が大きいほどユニット変速比が小さくなる第2モードとに選択的に切り替わり、ベルト変速比が一定の切替値であるときに第1モードと第2モードとが切り替わってもユニット変速比が変化しないように構成された無段変速機を搭載した車両用の制御装置であって、車両を加速させる加速要求に応じたパラメータを取得するパラメータ取得手段と、パラメータと目標回転数との関係を定めた変速線図に基づいて、パラメータ取得手段により取得されるパラメータに応じた目標回転数を設定し、インプット軸の回転数を目標回転数に一致させる変速比を求めて、当該変速比をユニット変速比の目標である目標変速比に設定する目標設定手段と、パラメータ取得手段により取得されるパラメータに応じた要求駆動力を算出する要求駆動力算出手段と、目標設定手段により設定される目標変速比に一致するユニット変速比でのエンジン駆動力を算出するエンジン駆動力算出手段と、エンジンの出力を増加させる制御によるエンジン駆動力の増加量を算出する駆動力増加量算出手段と、第1モードにおいて、目標設定手段により設定される目標変速比が切替値以下であるとき、第1モードから第2モードに切り替え、第2モードにおいて、駆動力増加量算出手段により算出される増加量が要求駆動力算出手段により算出される要求駆動力からエンジン駆動力算出手段により算出されるエンジン駆動力を減じた値よりも大きい場合、目標設定手段により設定される目標変速比が切替値より大きくても、第2モードを継続させるモード切替手段とを含む。
【0013】
この構成によれば、車両には、エンジンの動力を変速して、変速後の動力を駆動輪に伝達されるエンジン駆動力として出力する無段変速機が搭載されている。
【0014】
無段変速機は、動力伝達モードが第1モードと第2モードとに切り替わり、ベルト変速比が一定の切替値であるときには、第1モードと第2モードとが切り替わってもユニット変速比が変化しないように構成されている。第1モードでは、ベルト変速機構によるベルト変速比が大きいほど、インプット軸とアウトプット軸との間の全体でのユニット変速比が大きくなる。第2モードでは、ベルト変速比が大きいほど、ユニット変速比が小さくなる。
【0015】
無段変速機の変速制御では、変速線図に基づいて、加速要求に応じた目標変速比が設定されて、ユニット変速比が目標変速比に一致するように、ベルト変速比が変更される。第1モードにおいて、切替値以下の目標変速比が設定された場合、第1モードから第2モードに切り替えられる。第2モードでは、原則、切替値よりも大きい目標変速比が設定された場合に、第2モードから第1モードに切り替えられるが、エンジンの出力を増加させる制御によるエンジン駆動力の増加量が加速要求に応じた要求駆動力から目標変速比に一致するユニット変速比でのエンジン駆動力を減じた値よりも大きい場合には、切替値よりも大きい目標変速比が設定されても、第2モードが維持される。
【0016】
これにより、加速要求や走行負荷の増加により要求駆動力が上がっても、第2モードを従来よりも長く継続させることができる。そのため、車両が第2モードで走行可能な時間を増やすことができ、車両の走行燃費を向上することができる。また、第1モードと第2モードとが頻繁に切り替わることによる変速ビジー感を低減でき、ドライバビリティを向上することができる。
【0017】
モード切替手段は、第2モードにおいて、駆動力増加量算出手段により算出される増加量が要求駆動力算出手段により算出される要求駆動力からエンジン駆動力算出手段により算出されるエンジン駆動力を減じた値よりも大きい場合に、第2モードの継続による得失を考慮して、第2モードを継続させるか否かを決定してもよい。
【0018】
この構成では、たとえば、第2モードの継続による利得が損失を上回る場合には、第2モードを継続させて、車両が第2モードで走行可能な時間を増やすことができる。一方、第2モードの継続による損失が利得以上である場合には、第2モードから第1モードに切り替えることにより、利得以上の損失が生じることを抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車両が第2モードで走行可能な時間を増やすことができる。その結果、車両の走行燃費を向上することができる。また、第1モードと第2モードとが頻繁に切り替わることによる変速ビジー感を低減でき、ドライバビリティを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が搭載された車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
図2】車両の前進時および後進時におけるクラッチおよびブレーキの状態を示す図である。
図3】遊星歯車機構のサンギヤ、キャリヤおよびリングギヤの回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
図4】ベルト変速機構によるベルト変速比と変速機の全体でのトータル変速比との関係を示す図である。
図5】車両の制御系の構成を示すブロック図である。
図6】変速制御に用いられる変速線図の一例を示す図である。
図7】モード切替判定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0023】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0024】
エンジン2には、エンジン2の動力は、トルクコンバータ3およびCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0025】
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
【0026】
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0027】
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
【0028】
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
【0029】
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
【0030】
CVT4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、CVT4は、ベルト変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
【0031】
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0032】
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
【0033】
ベルト変速機構33は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、ベルト変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
【0034】
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油室54が形成されている。
【0035】
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
【0036】
ベルト変速機構33では、プライマリプーリ43の油室54およびセカンダリプーリ44の油室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プーリ比)が連続的に無段階で変更される。
【0037】
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
【0038】
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0039】
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
【0040】
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
【0041】
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
【0042】
また、アウトプット軸32には、パーキングギヤ83が相対回転不能に支持されている。パーキングギヤ83の周囲には、パーキングポール(図示せず)が設けられている。パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝に係合することにより、パーキングギヤ83の回転が規制(パーキングロック)され、パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝から離脱することにより、パーキングギヤ83の回転が許容(パーキングロック解除)される。
【0043】
また、CVT4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
【0044】
クラッチC1は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0045】
クラッチC2は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0046】
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
【0047】
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。図4は、ベルト変速機構33によるベルト変速比とCVT4の全体でのトータル変速比との関係を示す図である。
【0048】
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0049】
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジションおよびD(ドライブ)ポジションの各レンジ位置がこの順に一列に並べて設けられている。
【0050】
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放され、パーキングギヤ83が固定されることにより、CVT4の変速レンジの1つであるPレンジ(駐車レンジ)が構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、CVT4の変速レンジの1つであるNレンジ(中立レンジ)が構成される。クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71およびピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
【0051】
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、CVT4の変速レンジの1つであるDレンジ(前進レンジ)が構成される。このDレンジでの動力伝達モードには、ベルトモード(第1モードの一例)およびスプリットモード(第2モードの一例)が含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
【0052】
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
【0053】
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3および図4に示されるように、CVT4全体でのトータル変速比がベルト変速機構33のベルト変速比に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
【0054】
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
【0055】
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
【0056】
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、ベルト変速機構33のベルト変速比が大きいほど、CVT4のトータル変速比が小さくなり、ベルト変速比に対するトータル変速比の感度(ベルト変速比の変化量に対するトータル変速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
【0057】
アウトプット軸32を回転させるエンジン駆動力は、出力ギヤ37を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介して駆動輪7L,7Rに伝達される。これにより、駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
【0058】
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、CVT4の変速レンジの1つであるRレンジ(後進レンジ)が構成される。Rレンジでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
【0059】
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介して駆動輪7L,7Rに伝達される。これにより、駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
【0060】
車両1の前進時には、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73との直結により、サンギヤ71の回転速度とリングギヤ73の回転速度とが一致するのに対し、車両1の後進時には、遊星歯車機構35の構成上、リングギヤ73の回転速度がサンギヤ71の回転速度よりも必ず低くなる。そのため、Rレンジでは、変速比が最大プーリ比よりも大きくなり、DレンジおよびRレンジで最大プーリ比が構成されている場合、車両1の後進時に、前進時と比較して、変速比が大きくなり、アウトプット軸32から出力される動力が大きくなる。
【0061】
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0062】
車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。図5には、複数のECUのうちの1つのECU91が示されている。
【0063】
ECU91には、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。たとえば、アクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサや、車両1の車速に応じた検出信号を出力する車速センサ、エンジン2の回転数に応じた検出信号を出力するエンジン回転センサなどがECU91に接続されている。また、ECU91には、各種センサから入力される検出信号以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。
【0064】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ92、燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグ93およびエンジン2の回転によって発電するオルタネータ94などが付随して設けられている。また、エンジン2には、EGR(Exhaust Gas Recirculation)システムが採用されている。EGRシステムは、エンジン2から排出される排ガスの一部をエンジン2に還流させるシステムである。EGRシステムには、排ガスを流通させるEGR通路における排ガスの流量を調節するためのEGRバルブ95が含まれる。ECU91は、電子スロットルバルブ92、点火プラグ93、オルタネータ94およびEGRバルブ95の動作を制御する。
【0065】
トルクコンバータ3およびCVT4を含むユニットには、各部に油圧を供給するための油圧回路96が備えられている。ECU91は、CVT4の変速制御などのため、油圧回路96に含まれる各種のバルブなどを制御する。
【0066】
また、車両1には、車内(車室内)を空調するエアコンディショナ(A/C)97が搭載されており、ECU91は、エアコンディショナ97の動作を制御する。
【0067】
なお、電子スロットルバルブ92、オルタネータ94、EGRバルブ95、油圧回路96およびエアコンディショナ97は、ECU91を含む複数のECUの協働により制御されてもよく、たとえば、電子スロットルバルブ92、点火プラグ93、オルタネータ94およびEGRバルブ95は、エンジンECUにより制御され、油圧回路96は、ECU91により制御され、エアコンディショナ97は、エアコンECUにより制御されてもよい。
【0068】
<変速制御>
図6は、CVT4の変速制御に用いられる変速線図の一例を示す図である。
【0069】
CVT4のユニット変速比は、ECU91によるベルト変速比の変更ならびにクラッチC1,C2およびブレーキB1の係合/解放により制御される。ユニット変速比を変更する変速制御では、変速線図に基づいて、アクセル開度および車速に応じた目標回転数が設定される。変速線図は、アクセル開度(Ap)と車速と目標回転数との関係を定めたマップであり、ECU91の不揮発性メモリに格納されている。アクセル開度は、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合であり、アクセルセンサの検出信号から求められる。車速は、車速センサの検出信号から算出される。目標回転数が設定されると、インプット軸31に入力される回転数を目標回転数に一致させるユニット変速比の目標である目標変速比が求められ、その目標変速比に応じたベルト変速比の目標が設定される。
【0070】
その後、ベルト変速比の目標に基づいて、プライマリプーリ43の可動シーブ52に供給される油圧であるプライマリ圧およびセカンダリプーリ44の可動シーブ56に供給される油圧であるセカンダリ圧の指令値が設定され、各指令値に基づいて、ベルト変速比の目標と実ベルト変速比との偏差が零に近づくように、プライマリ圧およびセカンダリ圧が制御される。実ベルト変速比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
【0071】
変速制御では、ユニット変速比が図5に示されるスプリット点を跨いで変更される場合があり、その場合、ベルトモードとスプリットモードとの切り替え(以下、単に「モード切替」という。)が伴う。スプリット点は、ベルトモードとスプリットモードとが切り替えられてもユニット変速比が変化しない点であり、スプリット点でのベルト変速比である切替値は、スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比であるスプリットギヤ比に等しい。
【0072】
モード切替は、クラッチC1,C2の係合の切り替えにより達成される。すなわち、クラッチC1,C2に供給される油圧の制御により、解放状態のクラッチC1(係合側)が係合され、係合状態のクラッチC2(解放側)が解放されることにより、ベルトモードからスプリットモードに切り替わる。逆に、係合状態のクラッチC1(解放側)が解放され、解放状態のクラッチC2(係合側)が係合されることにより、スプリットモードからベルトモードに切り替わる。
【0073】
図7は、スプリットモードにおけるモード切替判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0074】
スプリットモードでは、ECU91により、図7に示されるモード切替判定処理が行われる。
【0075】
そのモード切替判定処理では、目標変速比が切替値より大きいか否かが判定される(ステップS1)。目標変速比が切替値以下である場合(ステップS1のNO)、スプリットモードの継続が決定される。
【0076】
目標変速比が切替値より大きい場合(ステップS1のYES)、アクセル開度および車速に応じた要求駆動力が算出される。要求駆動力の算出のために、ECU91の不揮発性メモリにマップの形態で格納されているエンジントルク特性線が参照されて、アクセル開度およびエンジン回転数に応じたエンジントルクが求められる。アクセル開度は、目標変速比の算出に用いられた値である。エンジン回転数は、エンジン回転センサの検出信号から算出される。さらに、エンジン回転数およびタービン回転数から、トルクコンバータ3のトルク比が算出される。タービン回転数は、トルクコンバータ3のタービンランナ23の回転数であり、タービンランナ23(インプット軸31)の回数に同期したパルス信号を検出信号として出力するタービン回転センサの検出信号から算出される。そして、エンジントルク、トルクコンバータ20のトルク比および現在のユニット変速比から、要求駆動力が算出される。また、エンジントルク、トルクコンバータ20のトルク比および目標変速比から、ユニット変速比が目標変速比に一致する状態でエンジン2からアウトプット軸32に伝達されるエンジン駆動力が算出される。
【0077】
また、エンジン2の出力を増加させるアシスト制御によるエンジン駆動力の増加量(以下、単に「駆動力増加量」という。)が算出される。エンジン2の出力を増加させる制御としては、たとえば、アクセル開度と電子スロットルバルブ92のスロットル開度との関係を示す電子スロットル特性の変更、点火プラグ93の電気放電による点火時期の進角、オルタネータ94による発電の抑制(発電による負荷の軽減)、EGRバルブ95を閉じることによるEGRシステムの動作停止、エアコンディショナ97の動作の停止などを挙げることができる。
【0078】
そして、駆動力増加量が要求駆動力からエンジン駆動力を減じた値よりも大きいか否かが判断される(ステップS2)。
【0079】
駆動力増加量が要求駆動力からエンジン駆動力を減じた値よりも大きい場合(ステップS2のYES)、スプリットモードの継続による得失が考慮されて、スプリットモードの継続によるメリットがあるか否かが判断される(ステップS3)。
【0080】
スプリットモードは、ベルトモードよりも動力伝達効率に優れているので、スプリットモードの継続による利得としては、動力伝達効率の向上を挙げることができる。しかし、スプリットモードの継続時間の長さによっては、スプリットモードを継続している方がベルトモードに切り替わるよりも燃料消費量が多い場合がある。かかる得失が考慮されて、具体的には目標回転数(目標変速比)から、スプリットモードからベルトモードに切り替えた場合の燃料消費量の時間積算量が第1時間積算量として求められる。また、現在のユニット変速比から、スプリットモードを継続した場合の燃料消費量の時間積算量が第2時間積算量として求められる。さらに、エンジン2の出力を増加させるアシスト制御を行うことにより悪化する燃料消費量の時間積算量が第3時間積算量として求められる。そして、第1時間積算量から第2時間積算量を減じた値と第3時間積算量との大小が比較されて、第1時間積算量から第2時間積算量を減じた値が第3時間積算量以上である場合には、スプリットモードの継続による利得が損失を上回り、スプリットモードの継続のメリットがあると判断される。一方、第1時間積算量から第2時間積算量を減じた値が第3時間積算量未満である場合には、スプリットモードの継続による損失が利得以上であり、スプリットモードの継続によるメリットがないと判断される。
【0081】
スプリットモードの継続によるメリットがある場合(ステップS3のYES)、目標変速比が切替値より大きくても、スプリットモードの継続が決定される。
【0082】
一方、スプリットモードの継続によるメリットがない場合(ステップS3のNO)、スプリットモードからベルトモードへの切り替えが決定される(ステップS4)。
【0083】
なお、ベルトモードでは、切替値以下の目標変速比が設定された場合、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられ、目標変速比が切替値よりも大きい場合には、ベルトモードが維持される。
【0084】
<作用効果>
以上のように、CVT4の変速制御では、変速線図に基づいて、アクセル開度(加速要求に応じたパラメータ)に応じた目標変速比が設定されて、ユニット変速比が目標変速比に一致するように、ベルト変速比が変更される。
【0085】
第1モードであるベルトモードでは、切替値以下の目標変速比が設定された場合、ベルトモードから第2モードであるスプリットモードに切り替えられる。スプリットモードでは、原則、切替値よりも大きい目標変速比が設定された場合に、スプリットモードからベルトモードに切り替えられるが、エンジン2の出力を増加させるアシスト制御による駆動力増加量がアクセル開度に応じた要求駆動力から目標変速比に一致するユニット変速比でのエンジン駆動力を減じた値よりも大きく、スプリットモードの継続によるメリットがある場合には、切替値よりも大きい目標変速比が設定されても、スプリットモードが維持される。
【0086】
これにより、加速要求や走行負荷の増加により要求駆動力が上がっても、スプリットモードを従来よりも長く継続させることができる。そのため、車両がスプリットモードで走行可能な時間を増やすことができ、車両の走行燃費を向上することができる。また、ベルトモードとスプリットモードとが頻繁に切り替わることによる変速ビジー感を低減でき、ドライバビリティを向上することができる。
【0087】
また、スプリットモードの継続による得失が考慮されて、スプリットモードの継続によるメリットがある場合に、スプリットモードが維持され、スプリットモードの継続によるメリットがない場合には、スプリットモードからベルトモードに切り替えられることにより、スプリットモードの継続による利得以上の損失が生じることを抑制できる。
【0088】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0089】
たとえば、スプリットモードの継続による損失(デメリット)として、オルタネータ94による発電の抑制による発電量不足(バッテリ電圧不足)するといった損失もあるので、発電量不足が生じる場合には、スプリットモードが継続されずに、スプリットモードからベルトモードに切り替えられてもよい。
【0090】
また、車両1は、FF方式を採用しているとしたが、前輪および後輪の全輪が駆動輪となる4WD(four-wheel-drive:四輪駆動)方式を採用したものであってもよい。
【0091】
前述の実施形態では、スプリット変速機構36を経由する第1動力伝達経路とベルト変速機構33を経由する第2動力伝達経路とに分岐して動力を伝達する構成を取り上げたが、スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を含む平行軸式歯車機構に限らず、ベルト機構などのギヤ機構以外の機構であってもよい。ベルト機構が採用される場合、そのベルト機構は、変速比が固定のものであってもよいし、変速比が可変のものであってもよい。
【0092】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0093】
1:車両
2:エンジン
7L,7R:前輪(駆動輪)
31:インプット軸
32:アウトプット軸
33:ベルト変速機構(無段変速機構)
91:ECU(制御装置、目標設定手段、要求駆動力算出手段、エンジン駆動力算出手段、モード切替手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7