(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】落石防止具
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20240205BHJP
【FI】
E01F7/04
(21)【出願番号】P 2021006946
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-04-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年11月10日 2020年度 土科学センター財団講演会にて、「不安定転石群に対する新しい発生源対策工法」に関する研究について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】508321823
【氏名又は名称】株式会社イノアック住環境
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】沢田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紳二
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-133248(JP,A)
【文献】実開昭53-029105(JP,U)
【文献】国際公開第2018/087842(WO,A1)
【文献】特開2012-117360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面への固定部と、
落石の受け皿部と、を備える落石防止具であって、
前記受け皿部は、網目を有するネット体と、前記網目を塞ぐ形態で前記ネット体に付着したポリウレタン発泡体と、を備え
、
前記受け皿部は、落石を受ける受け面を有し、
前記ポリウレタン発泡体は、前記ネット体を上方から覆うようにして設けられて前記受け面を構成する、落石防止具。
【請求項2】
前記受け皿部のうち前記固定部から離隔した部位と、前記地面とを連結するための連結部を備える、請求項1に記載の落石防止具。
【請求項3】
前記受け皿部の
前記受け面の角度を変える機構を備える、請求項1又は請求項2に記載の落石防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、落石防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、待受式の衝撃吸収柵が開示されている。この衝撃吸収柵は、所定の間隔を隔てて立設した複数の支柱と、複数の支柱間に張り巡らした防護ネットと、緩衝装置付きの上下辺ロープと、を具備する。そして、防護ネットの一部に落石等の落下物が衝突すると、防護ネットが谷側へ撓み変形し、防護ネットの緩衝作用により落下物の衝撃エネルギーの一部を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のような方法では、小さい石がネットの網目をすり抜けるおそれがあり、改善が望まれる。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するためになされたものであり、小さい石の落下を抑制できる落石防止具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の落石防止具は、
地面への固定部と、
落石の受け皿部と、を備える落石防止具であって、
前記受け皿部は、網目を有するネット体と、前記網目を塞ぐ形態で前記ネット体に付着したポリウレタン発泡体と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、小さい石の落下を抑制できる落石防止具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る落石防止具を示す図である。
【
図3】ポリウレタン発泡体を一部省略して、落石防止具を斜面の上側から見た図である。
【
図4】落石防止具の使用態様を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
上記の落石防止具は、前記受け皿部のうち前記固定部から離隔した部位と、前記地面とを連結するための連結部を備えているとよい。このような構成によれば、受け皿部を2点以上で支えることができ、受け皿部の姿勢が安定する。
【0010】
上記の落石防止具は、前記受け皿部の受け面の角度を変える機構を備えているとよい。このような構成によれば、受け皿部に堆積した石を容易に取り除くことができる。
【0011】
本開示の一実施形態の落石防止具10について、
図1から
図4を参照して説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0012】
図1に示すように、落石防止具10は、道路Rの近くに設置されて、道路Rへの落石を防止する。落石防止具10は、小型で設置し易いため、狭小な道路Rへの小規模落石を防止するのに適している。山間部の狭小な道路Rでは、小規模落石による被害が多発している。小規模落石による被害は、小さい石が人や乗物に直接衝突したり、時間の経過とともに道路Rに小さな石が堆積したりして生じることが多い。落石防止具10は、これまでコストの面で導入が難しかった狭小な道路Rに対応して設置され、道路Rを安全に利用可能とする。
【0013】
落石防止具10は、
図2及び
図3に示すように、地面Gへの固定部11と、落石の受け皿部20と、を備えている。本実施形態の落石防止具10は、連結部30と角度変更機構40とを更に備えている。角度変更機構40は、受け皿部20の受け面21の角度を変える機構に相当する。
【0014】
固定部11は、落石防止具10を地面Gに固定するための部分である。固定部11は、例えば、グラウンドアンカーやロックボルト等のアンカーによって構成されている。固定部11には、受け皿部20を支持する支柱12が取り付けられている。固定部11は、落石防止具10の設置範囲に応じて一つのみ設けられてもよく、所定の間隔を空けて複数設けられてもよい。
【0015】
受け皿部20は、落石を受ける受け面21を有している。受け皿部20は、受け面21で受けた落石を一定量まで堆積させることができるように構成されている。受け皿部20の形状及び大きさは特に限定されない。
【0016】
受け皿部20は、網目23を有するネット体22と、網目23を塞ぐ形態でネット体22に付着したポリウレタン発泡体24と、を備えている。ネット体22は、支柱12に張られて受け皿部20の骨格を構成する。ポリウレタン発泡体24は、ネット体22を上方から覆うようにして設けられて受け面21を構成する。
【0017】
ネット体22は、例えば、金属製のロープネット、繊維製のロープネット、ひし形金網等によって構成されている。ネット体22は、ポリウレタン発泡体24に埋まった状態で設けられていることが好ましい。このような構成によれば、ポリウレタン発泡体24によってネット体22の錆び、劣化、損傷等を抑制できる。
【0018】
ポリウレタン発泡体24は、例えば、施工現場にて、ポリオールや架橋剤、発泡剤等を主成分とする主剤(A液)とイソシアネートを主成分とする硬化剤(B液)の2液の液体原料を反応させて形成される。ポリウレタン発泡体24は、2液性のポリウレタンフォームである。2液性のウレタンフォームの硬化時間は、1液性のポリウレタンフォームの硬化時間に比べて短く、発泡、硬化する前に原料がネット体22の網目23から下に落ちにくい。2液性のウレタンフォームの硬化時間は、ポリウレタン発泡体24によって網目23を塞ぐ程度や、ネット体22に積層される厚さに応じて適宜設計できる。
【0019】
ポリウレタン発泡体24は、原料をネット体22に吹き付けることによって形成できる。具体的には、施工者は、支柱12に張られたネット体22に対して斜面の上側から原料を吹き付ける。すると、ネット体22を構成する線状の部分に液体原料が付着して、発泡、硬化する。ポリウレタン発泡体24は、発泡による体積膨張に伴って、網目23を塞ぐ形態で形成される。本実施形態のポリウレタン発泡体24は、穴を有しないブロック状やパネル状に形成される。網目23は、ポリウレタン発泡体24によって全体が塞がれていることが好ましい。ネット体22は、落石防止具10の設置箇所における地面Gの状況や落石防止具10の設置範囲、自重による撓み等によって落石防止具10毎に異なる形状を有している。ポリウレタン発泡体24は、ネット体22に追従して形成されるから、ネット体22の形状や大きさに合わせて予め成形する手間が掛からない。
【0020】
ポリウレタン発泡体24は、ネット体22の上方に所定の厚さ積層しているとよい。積層したポリウレタン発泡体24の最大の厚さは、衝撃吸収性の観点から、10mm以上が好ましい。上限は特に限定するものではないが、重量の観点において、2000mm以下が好ましく、1000mm以下がより好ましい。受け皿部20は、地面Gから離れた部位よりも、地面G側の部位の方が落石の衝撃及び堆積した石の荷重を受けやすい。このため、積層したポリウレタン発泡体24の厚さは、地面Gから離れた部位よりも地面G側の部位の方が大きいことが好ましい。例えば、積層したポリウレタン発泡体24の厚さは、地面Gから離れた端部から地面G側に向かって大きくなっているとよい。
【0021】
ポリウレタン発泡体24は、軟質ウレタンフォームと硬質ウレタンフォームのいずれであってもよいが、硬質ウレタンフォームであることが好ましい。硬質ウレタンフォームは、軟質ウレタンフォームより硬度が高くて復元性の低い発泡体である。硬質ウレタンフォームは、落石を受けて衝撃が加わった際に、座屈変形して衝撃を好適に吸収できる。
【0022】
ポリウレタン発泡体24の発泡倍率は、施工現場に運び込む原料低減の観点から、好ましくは10倍以上であり、より好ましくは20倍以上であり、さらに好ましくは30倍以上である。ポリウレタン発泡体24の発泡倍率の上限値は、特に限定されないが、通常40倍以下である。
【0023】
連結部30は、受け皿部20のうち固定部11から離隔した部位25と、地面Gとを連結するため部分である。連結部30は、固定部11に係る荷重を分散して受ける補助的な固定構造を構成する。また、本実施形態では、連結部30は、受け皿部20を固定部11とは異なる箇所で支持して、受け面21を所定の方向に向けた姿勢に保持する。
【0024】
連結部30が受け皿部20を支持する態様は特に限定されない。本実施形態の連結部30は、受け皿部20を吊り下げるようにして支持している。連結部30は、いわゆる吊り下げロープである。連結部30は、一端が地面Gに設けられたアンカー31に固定され、他端が受け皿部20の固定部11とは反対側に位置する部位25に固定されている。本実施形態の連結部30は、アンカー31に対して着脱可能に固定されている。
【0025】
角度変更機構40は、
図4に示すように、受け面21に載った落石を下方に落とすための機構である。角度変更機構40は、受け面21の角度を変更できるように構成されている。この受け面21の角度は、落石を受ける第1の角度と、受けた石を落下させる第2の角度との間で、変更される。第2の角度は、受けた石を落下させることができる角度であれば特に限定されない。本実施形態では、第2の角度において、受け面21が水平面に対して傾斜する。
【0026】
角度変更機構40は、例えば、固定部11に設けられたヒンジ部によって構成できる。受け皿部20は、ヒンジ部を介して固定部11に取り付けられている。受け面21は、第2の角度において、地面Gとは反対側に向けて下降するように傾斜する。
【0027】
図4を参照して、落石防止具10の使用態様について説明する。左の図のように、落石防止具10は、落石発生の予測や道路Rとの位置関係に基づいて所定の位置及び範囲に設置される。落石が生じると、受け皿部20が落石を受けて、道路R側への石の落下が抑制される。仮にポリウレタン発泡体24が付着していないネット体では、網目を通過した石が道路Rに落下する懸念がある。他方、落石防止具10は、ポリウレタン発泡体24が網目23を塞ぐ形態でネット体22に付着しているから、小さい石の落下も抑制できる。
【0028】
中央の図のように、時間の経過とともに受け皿部20には石が堆積する。受け皿部20に堆積した石は定期的に取り除かれる。具体的には、右の図のように、連結部30の地面Gへの固定部分を外して、中央の図に示す第1の角度から、右の図に示す第2の角度に受け面21の角度を変更する。すると、受け面21に載った石は、自重によって落下して受け皿部20から取り除かれる。この際、受け皿部20の下方に石を運搬するための荷台等を配置して、落下した石を受けてもよい。落石防止具10は、小型であるから、受け皿部20の受け面21の角度を変える作業を人力や小型の装置を用いて容易に行うことができる。その後、連結部30を地面Gへ再度の固定して、左の図の状態に戻す。
【0029】
なお、ポリウレタン発泡体24は、落石の衝撃及び堆積した石の荷重を受けたり、風雨にさらされたりすることによって劣化する。このため、落石とともにポリウレタン発泡体24の一部または全部を定期的に取り除いて、再度、ポリウレタン発泡体24を付着させてもよい。ポリウレタン発泡体24は、固定部11やネット体22等の構造物に比して、設置に手間がかからない。このため、固定部11やネット体22を使い回すとともに、ポリウレタン発泡体24を適宜作り直して、落石防止具10を長期にわたって利用できる。
【0030】
次に、本実施形態の落石防止具10の作用効果について説明する。落石防止具10によれば、ポリウレタン発泡体24が付着していないネット体を備えた落石防止具に比して、小さい石の落下を抑制できる。従来、落石防護対策には専らネットが用いられており、小さい石の落下を抑制するためにはネットの網目を小さくするより他なかった。このため、従来の落石防護対策では、網目より小さい石の落下を抑制できなかった。落石防止具10は、今まで用いられてこなかった軽量かつ隙間を埋める性能が高いポリウレタン発泡体24を用いることによって、従来は実現できなかった小さい石の落下を抑制できる。
【0031】
また、ポリウレタン発泡体24は、落石を受けて衝撃が加わった際に衝撃を吸収する。このため、落石によって、ネット体22及び固定部11が損傷することを抑制できる。また、ポリウレタン発泡体24が落石時の衝撃を吸収することによって、石が受け面21で弾んで、道路R側に落ちることを抑制できる。さらに、落石衝撃でポリウレタン発泡体が座屈して石の一部がポリウレタン発泡体24に刺さるようにして変形した場合には、刺さった石をポリウレタン発泡体24によって安定的に保持できる。
【0032】
さらに、落石防止具10によれば、ポリウレタン発泡体24を用いることにより、本実施形態よりも網目の細かいネット体を使用する場合に比して受け皿部20の重さが抑えられる。特に、落石防止具10の設置箇所が、道路の整備されていない山間地や、設備の搬入が難しい斜面等である場合には、材料や設備の搬入が難しいという課題がある。ポリウレタン発泡体24は簡易な設備で形成することができ、例えば、設備をトロッコや人力等で現場に搬入可能である。本実施形態の方法では、ポリウレタン発泡体24を形成するための原料や設備の搬入が容易である上に、網目の大きいネット体22を使用できる。この結果、落石防止具10の形成に係る材料及び設備の輸送に掛かるコスト低減に寄与できる。
【0033】
さらに、ポリウレタン発泡体24を用いることによって、ネット体22の形状が複雑でも、ポリウレタン発泡体24がネット体22に追従して網目23を好適に塞ぐことができる。さらに、ポリウレタン発泡体24を吹き付けるのみで、煩雑な設置作業をすることなく、ポリウレタン発泡体24をネット体22に付着できる。
【0034】
本実施形態の落石防止具10は、受け皿部20のうち固定部11から離隔した部位25と、地面Gとを連結するための連結部30を備えている。このような構成によれば、受け皿部20を2点以上で支えることができ、受け皿部20の姿勢が安定する。
【0035】
本実施形態の落石防止具10は、受け皿部20の受け面21の角度を変える角度変更機構40を備えている。このような構成によれば、受け皿部20に堆積した石を容易に取り除くことができる。
【0036】
<他の実施形態>
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えるべきである。
ポリウレタン発泡体は、空隙を一部残してネット体の網目を塞いでもよい。
上記実施形態では、落石防止具は連結部及び角度変更機構を備えているが、落石防止具は連結部又は角度変更機構を備えなくてもよい。角度変更機構を備えない構成において、道具を用いて受け皿部に堆積した石を取り除いてもよい。
【0037】
固定部、受け皿部、連結部、及び角度変更機構の数、配置、及び形状は適宜変更可能である。連結部は、下方から受け皿部を支持してもよい。角度変更機構は、連結部と受け皿部との連結部分に設けられていてもよい。
落石防止具は、道路への落石を防止する用途以外の落石防護に用いられてもよい。例えば、落石防止具は、家屋に隣接した傾斜地に設置され、家屋への落石防止に用いられてもよい。
【符号の説明】
【0038】
10…落石防止具
11…固定部
12…支柱
20…受け皿部
21…受け面
22…ネット体
23…網目
24…ポリウレタン発泡体
25…部位(受け皿部のうち固定部から離隔した部位)
30…連結部
31…アンカー
40…角度変更機構
G …地面
R …道路