(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】増粘剤含有液状調味料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240205BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20240205BHJP
A23L 29/20 20160101ALI20240205BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L27/60 A
A23L29/20
(21)【出願番号】P 2017168196
(22)【出願日】2017-09-01
【審査請求日】2020-08-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松山 勇介
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】東口 真人
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】植前 充司
【審判官】加藤 友也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-123066(JP,A)
【文献】特開平5-308913(JP,A)
【文献】特開2000-116353(JP,A)
【文献】特開2013-215164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 27/60
A23L 29/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘剤として少なくともキサンタンガムを0.2重量%以上含有させ、かつ香気成分を含有させる液状調味料において、該キサンタンガムの一部または全部に代えてカードランを使用することを特徴とする、キサンタンガムにより低下する
液状調味料のフレーバーリリースを改善する方法。
【請求項2】
液状調味料中に増粘剤としてカードランを0.05重量%以上となるように含有させる、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘剤および香気成分を含有する飲食品の製造方法および増粘剤および香気成分を含有する飲食品のフレーバーリリースを改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たれ、つゆ、ポン酢、ドレッシング等の液状調味料の中で、ポン酢およびドレッシングは、ごま、柑橘系の果汁、香辛料、香料等の香気成分またはその含有物を含むことが多い。また、例えばドレッシングでは日本農林規格で粘度が規定されているように、液状調味料において粘性は重要な物性の一つであるといえる。
【0003】
液状調味料の増粘手段としては、増粘剤であるキサンタンガム(特許文献1~3参照)等の増粘多糖類を用いる方法が多く知られている。特にキサンタンガムは、耐酸性、耐塩性に優れ、その溶液は高粘度を発現することから、他の飲食品と同様に液状調味料でも多用されている。
【0004】
しかし、特許文献4にも記載されているとおり、キサンタンガムを使用すると、ドレッシングの口当たりが重く、粘着性のある食感となり、香り立ち(フレーバーリリースともいう)が悪くなるという問題があった。
この課題を解決すべく、特許文献4ではペクチンが用いられているが、これはゲル状および濃厚溶液のドレッシングであって粘性の高いものが対象である。
【0005】
カードランもキサンタンガムと同様に増粘多糖類の一種である。しかし、カードランは、耐熱性、耐冷凍性に優れる等、キサンタンガムとは異なる有意性を有する。カードランも、他の増粘多糖類と同様、種々の飲食品の増粘のための素材として用い得ることが知られているが、フレーバーリリースの良否の観点での報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-289388号公報
【文献】特開2007-209288号公報
【文献】特開2005-253425号公報
【文献】特開2013-215164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、増粘剤としてキサンタンガムを使用するとフレーバーリリースが悪化する液状調味料のフレーバーリリースを改善する方法、およびフレーバーリリースが良好な、増粘剤を含有する液状調味料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)~(3)に関する。
(1)増粘剤として少なくともキサンタンガムを0.2重量%以上含有させ、かつ香気成分を含有させる工程を有する液状調味料の製造方法において、該キサンタンガムの一部または全部に代えてカードランを使用することを特徴とする、飲食品の製造方法。
(2)増粘剤としてカードランを0.05重量%以上含有する、上記(1)の方法により得られる液状調味料。
【0009】
(3)増粘剤として少なくともキサンタンガムを0.2重量%以上含有させ、かつ香気成分を含有させる液状調味料の製造方法において、該キサンタンガムの一部または全部に代えてカードランを使用することを特徴とする、キサンタンガムにより低下する飲食品のフレーバーリリースを改善する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、増粘剤としてキサンタンガム使用するとフレーバーリリースが悪化する液状調味料のフレーバーリリースを改善する方法、およびフレーバーリリースが良好な、増粘剤を含有する液状調味料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる液状調味料、すなわち、キサンタンガムをカードランで代替する前の液状調味料としては、通常は増粘剤としてキサンタンガムを0.2重量部以上含有させ、かつ、香気成分を含有させるものであれば、ドレッシング、ポン酢、たれ、つゆ等、いずれの液体調味料であってもよいが、キサンタンガムおよび香気成分のいずれも使用されることの多い、ドレッシングが好ましくあげられる。
【0012】
本発明の液状調味料は、増粘剤および香気成分を含有する液状調味料であって、増粘剤としてキサンタンガムの一部または全部に代えてカードランを使用して調製される。本発明の液状調味料は、調製に際し、キサンタンガムの配合量を通常量より減少させ、かつ、カードランおよび香気成分を液状調味料中に含有させる以外は、本発明に用いられる液状調味料の通常の原料および方法を用いて調製することができる。
【0013】
カードランは、アルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属に属する微生物により生産されるカードランが、性能、入手し易さ等から好ましく用いられる。アルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属に属する微生物としては、例えばアルカリゲネス フェカリス バール ミクソゲネス10C3K株[アグリカルチュラル バイオロジカル ケミストリー(Agricultural Biological Chemistry),Vol.30, page 196(1966)]、アルカリゲネス フェカリス バール ミクソゲネス10C3K株の変異株NTK-u(IFO 13140)(特公昭48-32673号)、アグロバクテリウム ラジオバクター(IFO 13127)およびその変異株U-19(IFO 13126)により生産される(特公昭48-32674号)ものがあげられる。カードランは、市販されており、容易に入手することができる(例えば、MCフードスペシャリティーズ社製)。
【0014】
香気成分は、液状調味料に使用可能な香気成分であればよく、オレンジフレーバー、ガーリックフレーバー、ゴマフレーバー、ジンジャーフレーバー、ペパーミントフレーバー、ゆずフレーバー、メントール等の食品用香料に加え、香気成分の含有物である、アニス、オールスパイス、オレガノ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショ、シナモン、ナツメグ、タイム、ターメリック、トウガラシ、ディル、パセリ、バジル、バニラ、マスタード、ミント、ローズマリー、ローレル等の香辛料もしくはこれらの抽出物、シソ、ショウガ、セリ、セロリ、タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニク、ミツバミョウガ、ワサビ等の香味野菜もしくはこれらの抽出物、食酢、柑橘類の果汁、ゴマ、醤油等の調味料等があげられる。
【0015】
本発明の液状調味料はキサンタンガムを含有してもよいが、フレーバーリリースの低下を避けるため、0.15重量%未満とすることが好ましい。
本発明の液状調味料に含有させるカードランの量は、液状調味料の粘度との関係で適宜設定すればよいが、液状調味料中0.05重量%以上とすることが好ましく、0.1重量%以上とすることがより好ましく、0.2重量%以上とすることがさらに好ましく、0.5重量%以上とすることがさらに好ましい。カードラン量に上限はないが、本発明の液状調味料の粘度との関係から、通常は1重量%以下である。また、キサンタンガムの一部のみ代替する場合、カードランの量は、キサンタンガム1重量部に対して0.3重量部以上であることが好ましく、0.4重量部以上であることがより好ましい。
【0016】
本発明の液状調味料は、カードランおよび香料成分の他、フレーバーリリースを妨げない限り、上記香気成分の含有物であげた以外の酸味料(クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、リン酸等)、調味料(イノシン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等)、乳化剤、糖類、澱粉類、食用油脂等を含有してもよい。
【0017】
また、本発明の液状調味料は、上記素材以外に、具材として、ニンジン、シイタケ、タマネギ、トウモロコシ、タケノコ、ピーマン等の野菜類、牛肉、豚肉等の畜肉、イカ、タコ、アサリ、ツナ等の魚介類等を含有してもよい。
以下、本発明の実施例をあげるが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
実施例1~3
第1表に記載したゆずフレーバー以外の原料を混合し、増粘剤のゲル化と殺菌のため、撹拌しつつ80℃以上となるように加熱し、冷却した。冷却後、第1表に記載した量のゆずフレーバーを添加し、ドレッシング(実施例1~3および比較例1~3)を調製した。
5名のパネラー(A~E)により、調製したドレッシングの「ゆずの香り立ち」について、順位づけを行い、一番強いものを5点とし、一番弱いものを1点として採点した。
香りの強さに差が見出せないものは同順位とし、同点とした。結果を第2表に示す。
なお、表中、「XG」はキサンタンガムを表し、「CUD」はカードランを表す。
【0019】
【0020】
【0021】
第2表に示すとおり、キサンタンガムの添加量が多いものほど、ゆずの香り立ちが弱くなったが、キサンタンガムの代わりにカードランを使用することにより、ゆずの香り立ちが改善された。特にキサンタンガム全部を完全にカードランに代えた実施例3のドレッシングでは、キサンタンガムおよびカードランを添加しない比較例1(対照)と同等の香り立ちまで回復した。
【0022】
また、キサンタンガムのみ使用して得られたドレッシングおよびキサンタンガムの一部または全部に代えてカードランを使用して得られたドレッシングのいずれも、増粘剤を含有しないドレッシングと比較して適度な粘性を有していた。さらに、増粘剤を含有するいずれのドレッシングでも添加した具材の沈降が抑制されたが、該沈降の抑制度合は、カードランを使用して得たドレッシングの方が優れていることを、別途の試験の結果確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明により、増粘剤としてキサンタンガム使用するとフレーバーリリースが悪化する液状調味料のフレーバーリリースを改善する方法、およびフレーバーリリースが良好な、増粘剤を含有する液状調味料の製造方法を提供することができる。