IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ダイセルの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】エポキシ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 303/48 20060101AFI20240205BHJP
   C08G 59/02 20060101ALI20240205BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240205BHJP
   B29C 45/02 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
C07D303/48
C08G59/02 ZNM
C08L63/00
B29C45/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019172124
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021050143
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】井上 寛子
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-071363(JP,A)
【文献】国際公開第2005/087776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 303/48
C08G 59/02
C08L 63/00
B29C 45/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R1はアルキル基を示す)
で表される化合物と、1,3,5-シクロヘキサントリオールとのエステル交換反応により、下記式(2)
【化2】
で表される化合物を生成させる工程1と、
生成した前記式(2)で表される化合物に過酸を反応させて、下記式(3)
【化3】
で表されるエポキシ化合物を得る工程2を含むエポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
過酸が過ギ酸及び/又は過酢酸である、請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
工程2の反応を酢酸エステル系溶媒の存在下で行う、請求項1又は2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
工程1の反応をアルカリ金属アミド及び/又はアルキルアルカリ金属の存在下で行う、請求項1~3の何れか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記式(3)で表されるエポキシ化合物の塩素含有量が1000ppm以下である、請求項1~4の何れか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項6】
下記化合物(e)と下記エポキシ化合物(3)を、前者/後者(重量比)が60/40~10/90の範囲で含有する組成物。
化合物(e):(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、及び下記式(e-1)~(e-10)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物
【化4】
【化5】
(式中、Lは炭素数1~3のアルキレン基を示し、n 1 ~n 8 はそれぞれ1~30の整数を示す)
エポキシ化合物(3):下記式(3)で表される化合物
【化6】
【請求項7】
25℃、せん断速度3.1(1/s)における粘度が2000~32000mPa・sである、請求項6に記載の組成物
【請求項8】
トランスファー成形用である、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
封止材である、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項10】
リフレクタ形成用組成物である、請求項6~8の何れか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物を製造する方法、及びエポキシ化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は種々の硬化剤や硬化触媒と反応させることにより、高い強度を有し、耐熱性、透明性等に優れる硬化物を形成することができる。そのため、封止材、コーティング剤、接着剤、インキ、シーラント等の原料として極めて有用である。
【0003】
このようなエポキシ化合物の製造方法として、特許文献1には、1,3,5-シクロヘキサントリオールにシクロヘキセンカルボン酸クロライドを反応させて、1,3,5-トリス(3-シクロヘキセンカルボニルオキシ)シクロヘキサンを生成させ、生成した前記化合物に、塩素系溶媒の存在下、メタクロロ過安息香酸を反応させて、1,3,5-トリス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボニルオキシ)シクロヘキサンを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-71363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記方法では、エポキシ化合物に塩素化合物が混入することが避けられず、例えばエポキシ化合物に塩素化合物が混入したものを、プリント基板の封止材等に使用すれば、塩素化合物によってプリント基板の配線(特に、銅配線)が腐食されるため、長期信頼性が低下することが問題である。また、前記問題は、電子部品の小型化、高密度化に伴い、より顕著化している。
【0006】
従って、本発明の目的は、塩素含有量が少ない1,3,5-トリス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボニルオキシ)シクロヘキサンを効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、エステル交換反応を利用して、1,3,5-トリス(3-シクロヘキセンカルボニルオキシ)シクロヘキサン(下記式(2)で表される化合物)を生成させ、生成した1,3,5-トリス(3-シクロヘキセンカルボニルオキシ)シクロヘキサンに過酢酸を反応させれば、効率よく、1,3,5-トリス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボニルオキシ)シクロヘキサン(下記式(3)で表されるエポキシ化合物)を製造できること、反応に塩素化合物を使用する必要がないため、塩素含有量が少ないエポキシ化合物を製造できることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R1はアルキル基を示す)
で表される化合物と、1,3,5-シクロヘキサントリオールとのエステル交換反応により、下記式(2)
【化2】
で表される化合物を生成させる工程1と、
生成した前記式(2)で表される化合物に過酸を反応させて、下記式(3)
【化3】
で表されるエポキシ化合物を得る工程2を含むエポキシ化合物の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、また、過酸が過ギ酸及び/又は過酢酸である、前記エポキシ化合物の製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、また、工程2の反応を酢酸エステル系溶媒の存在下で行う、前記エポキシ化合物の製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、また、工程1の反応をアルカリ金属アミド及び/又はアルキルアルカリ金属の存在下で行う、前記エポキシ化合物の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記式(3)で表されるエポキシ化合物の塩素含有量が1000ppm以下である、前記エポキシ化合物の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、下記式(e)で表される化合物と下記式(3)で表されるエポキシ化合物を、前者/後者(重量比)が90/10~1/99の範囲で含有する組成物を提供する。
【化4】
(式(e)中、Xは単結合又は連結基を示す)
【化5】
【0014】
本発明は、また、トランスファー成形用である前記組成物を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエポキシ化合物の製造方法によれば、従来法に比べて、効率よく1,3,5-トリス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボニルオキシ)シクロヘキサンを製造することができる。
また、本発明のエポキシ化合物の製造方法では、塩素系溶媒等の塩素含有化合物を使用する必要がないため、得られるエポキシ化合物の塩素含有量を極めて低い値とすることができる。そのため、前記エポキシ化合物は半導体等の封止材料として好適に使用することができ、前記エポキシ化合物を用いて封止された半導体は、塩素による配線の腐食が抑制され、配線が腐食されることによる断線や絶縁不良等の発生が抑制される。
従って、本発明のエポキシ化合物の製造方法によって得られるエポキシ化合物を使用すれば、電子部品のより一層の小型化、高密度化、高信頼化、及び長寿命化を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[エポキシ化合物の製造方法]
本発明のエポキシ化合物の製造方法は、下記式(1)
【化6】
(式(1)中、R1はアルキル基を示す)
で表される化合物(=化合物(1))と、1,3,5-シクロヘキサントリオールとのエステル交換反応により、下記式(2)
【化7】
で表される化合物を生成させる工程1と、
生成した前記式(2)で表される化合物(=化合物(2))に過酸を反応させて、下記式(3)
【化8】
で表されるエポキシ化合物(=化合物(3))を得る工程2を含む。
【0017】
式(1)中、R1はアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~8(好ましくは1~6、特に好ましくは1~3)程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0018】
(工程1)
工程1は上記化合物(1)と、1,3,5-シクロヘキサントリオールとのエステル交換反応により、上記式(2)で表される化合物を生成させる工程である。
【0019】
上記化合物(1)の使用量は、1,3,5-シクロヘキサントリオール1molに対して、例えば3~7mol、好ましくは4~6molである。
【0020】
エステル交換反応は、強塩基性触媒の存在下で行うことが好ましい。強塩基性触媒としては、例えば、アルカリ金属アミド、アルキルアルカリ金属が挙げられる。
【0021】
前記アルカリ金属アミドは、例えば、下記式(c1)で表される。
【化9】
(式中、Mはアルカリ金属を示し、R2、R3は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又はトリアルキルシリル基を示す。R2、R3がアルキル基である場合、これらの基は互いに連結して隣接する窒素原子と共に環を形成していてもよい)
【0022】
Mはアルカリ金属を示し、例えば、Li、Na、K、Cs等が挙げられる。
【0023】
2、R3におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数1~20(好ましくは1~10、特に好ましくは1~3)程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0024】
2、R3におけるトリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル、t-ブチルジメチルシリル基等の、炭素数1~20(好ましくは1~10、特に好ましくは1~3)程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基置換シリル基が挙げられる。
【0025】
2、R3が互いに連結して隣接する窒素原子と共に形成していてもよい環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環等の5~6員環の、ヘテロ原子として窒素原子を含有する複素環が挙げられる。
【0026】
前記アルカリ金属アミドとしては、例えば、リチウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウム2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、リチウムヘキサメチルジシラジド等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
前記アルキルアルカリ金属は、例えば、下記式(c2)で表される。
4-M (c2)
(式中、Mはアルカリ金属を示し、R4はアルキル基を示す)
【0028】
式(c2)中のMは、上記式(c1)中のMに同じである。
【0029】
4におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数1~20(好ましくは1~10、特に好ましくは1~5)の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0030】
前記アルキルアルカリ金属としては、例えば、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
強塩基性触媒としては、なかでも、エステル交換反応を促進する効果に優れる点で、アルカリ金属アミドが好ましく、特にリチウムアミドが好ましい。
【0032】
強塩基性触媒の使用量は、上記化合物(1)100molに対して、例えば10~50mol程度、好ましくは15~35molである。
【0033】
エステル交換反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、常圧下における沸点が140℃以上(すなわち、1,3,5-シクロヘキサントリオールの融点以上)の溶剤を使用することが、1,3,5-シクロヘキサントリオールを良好に溶解させることができる点で好ましい。また、前記溶剤は疎水性溶媒(すなわち、低極性溶媒)であることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、t-ブチルアルコール等のアルコール;オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ベンゾニトリル等のニトリル等を挙げることができる。これらの溶媒は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0034】
溶媒の使用量としては、上記化合物(1)と、1,3,5-シクロヘキサントリオールの合計量の、例えば1~10重量倍、好ましくは1~3重量倍である。
【0035】
エステル交換反応の反応温度は、例えば150~250℃、好ましくは170~200℃である。反応時間は、例えば1~4時間程度である。エステル交換反応は常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。エステル交換反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0036】
また、反応の進行に伴い、R1OH(R1は上記式(1)中のR1に同じ)が生成するが、生成したR1OHは、反応系外に除去することが、反応の進行を促進する上で好ましい。
【0037】
エステル交換反応終了後、反応生成物は、酸で中和処理を行い、更に水洗するのが好ましい。
【0038】
エステル交換反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により、分離精製できる。これにより、上記式(2)で表される化合物が得られる。
【0039】
(工程2)
工程2は、上記式(2)で表される化合物に過酸を反応させて、上記式(3)で表されるエポキシ化合物を得る工程(エポキシ化反応工程)である。
【0040】
前記過酸は、例えば下記式(a)で表される。
5-C(=O)OOH (a)
(式中、R5は水素原子又は炭化水素基を示す)
【0041】
前記R5における炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基が含まれる。
【0042】
前記脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数1~20(好ましくは1~10、特に好ましくは1~3)程度のアルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等の炭素数2~20(好ましくは2~10、特に好ましくは2~3)程度のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2~20(好ましくは2~10、特に好ましくは2~3)程度のアルキニル基等を挙げることができる。
【0043】
前記脂環式炭化水素基としては、3~20員の脂環式炭化水素基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等の3~20員(好ましくは3~15員、特に好ましくは5~8員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基等の橋かけ環式炭化水素基等を挙げることができる。
【0044】
前記芳香族炭化水素基としては、炭素数6~14(好ましくは6~10)の芳香族炭化水素基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0045】
上記式(a)で表される過酸のうち、R5が水素原子である過酸としては、例えば、過酸化水素が挙げられる。
【0046】
上記式(a)で表される過酸のうち、R5が脂肪族炭化水素基である過酸としては、例えば、過ギ酸、過酢酸等が挙げられる。
【0047】
上記式(a)で表される過酸のうち、R5が芳香族炭化水素基である過酸としては、例えば、過安息香酸等が挙げられる。
【0048】
前記過酸としては、なかでも、上記式(a)で表される過酸のうち、R5が脂肪族炭化水素基である過酸(特に、過ギ酸及び/又は過酢酸)を使用することが、酸化力に優れると共に、溶媒として塩素系溶媒を使用する必要がなく、目的物であるエポキシ化合物に塩素含有化合物の混入を抑制することができる点で好ましい。
【0049】
前記過酸の使用量は、式(2)で表される化合物1molに対して、例えば3~6mol程度、好ましくは3~4.5molである。
【0050】
前記エポキシ化反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、疎水性溶媒(すなわち、低極性溶媒)が好ましい。このような溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;エチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状エーテル系溶媒;酢酸エチル等の酢酸エステル系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0051】
前記溶媒としては、なかでも、常圧下における沸点が、反応温度より高く、しかも前記沸点が高すぎないため、留去しやすく取り扱いやすい点で、酢酸エステル系溶媒を使用することが好ましい。
【0052】
溶媒の使用量としては、式(2)で表される化合物の、例えば1~10重量倍、好ましくは2~5重量倍である。
【0053】
前記エポキシ化反応の反応温度は、例えば20~50℃である。反応時間は、例えば0.5~12時間程度である。エステル交換反応は常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。エポキシ化反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0054】
前記エポキシ化反応終了後、反応生成物は、水洗し、更に塩基で中和処理を行うのが好ましい。
【0055】
前記エポキシ化反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により、分離精製できる。これにより、化合物(3)が得られる。
【0056】
本発明のエポキシ化合物の製造方法によれば、エステル交換反応及びエポキシ化反応が速やかに進行して、化合物(3)を高い収率(収率は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上)で製造することができる。
【0057】
本発明のエポキシ化合物の製造方法により得られる化合物(3)は、揮発性が低く、取扱性に優れる。また、硬化により耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。
【0058】
また、本発明のエポキシ化合物の製造方法によれば、塩素含有量が少ないエポキシ化合物を製造することができる。塩素含有量は、エポキシ化合物全量の例えば1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0059】
本発明の製造方法により得られるエポキシ化合物は上記の通り塩素含有量が少ないので、プリント基板の封止材等として好適に使用することができる。
【0060】
そして、本発明の製造方法で得られたエポキシ化合物を封止材として使用すれば、塩素により配線が腐食する問題が生じないので、電子部品の一層の小型化、高密度化、高信頼化、及び長寿命化を実現することができる。
【0061】
[組成物]
本発明の組成物(例えば、硬化性組成物)は、下記式(e)で表される化合物(=化合物(e))と、下記式(3)で表されるエポキシ化合物(=化合物(3))を含有する。
【化10】
(式(e)中、Xは単結合又は連結基を示す)
【化11】
【0062】
(化合物(e))
本発明における化合物(e)は、上記式(e)で表される化合物である。式(e)中、Xは単結合又は連結基を示す。式(e)中のシクロヘキセンオキシド基は置換基を有していても良く、前記置換基としては、例えば、C1-3アルキル基等が挙げられる。
【0063】
前記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、カーボネート基(-O-CO-O-)、アミド基(-CONH-)、及びこれらが複数個連結した基等を挙げることができる。
【0064】
上記二価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~18の二価の脂環式炭化水素基等を挙げることができる。炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等を挙げることができる。炭素数3~18の二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基等を挙げることができる。
【0065】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8の直鎖又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2~4のアルケニレン基である。
【0066】
上記式(e)で表される化合物としては、例えば、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタンや、下記式(e-1)~(e-10)で表される化合物等が挙げられる。尚、下記式(e-5)中のLは炭素数1~8のアルキレン基であり、なかでも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1~3の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。また、下記式(e-5)、(e-7)、(e-9)、(e-10)中のn1~n8は、それぞれ1~30の整数を示す。
【0067】
【化12】
【0068】
【化13】
【0069】
本発明の組成物に含有される前記化合物(e)と前記化合物(3)の重量比(前者/後者)は90/10~1/99の範囲であり、なかでも、適度な粘度を有し、且つ耐熱性に優れた硬化物が得られる点において、前記重量比は、好ましくは60/40~10/90、特に好ましくは50/50~10/90、最も好ましくは40/60~20/80である。化合物(e)の含有量が過剰になると、前記組成物の100~150℃における粘度が低くなりすぎて金型の外に漏れ出しやすくなり、漏れ出した組成物によりバリが形成され易くなる傾向がある。尚、前記組成物の100~150℃における粘度は、例えば100~2500mPa・sの範囲が好ましい。また、化合物(e)の含有量が過剰になると、得られる硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。一方、化合物(e)の含有量が過少になると、組成物の粘度が高くなりすぎて、例えば、トランスファー成形に使用することは困難となる傾向がある。
【0070】
本発明の組成物の、25℃、せん断速度3.1(1/s)における粘度は、例えば500~32000mPa・sであり、なかでも、トランスファー成形のし易さの点において、好ましくは1000~32000mPa・s、特に好ましくは2000~25000mPa・s、最も好ましくは2000~10000mPa・s、とりわけ好ましくは2000~5000mPa・sである。前記スラリーの粘度は、前記化合物(e)と前記化合物(3)の配合割合を調整することでコントロールすることができる。
【0071】
本発明の組成物は、前記化合物(e)と前記化合物(3)以外にも他の成分を含有していても良く、例えば、硬化触媒、硬化剤、硬化促進剤、溶剤等が挙げられる。
【0072】
前記硬化触媒の使用量としては、前記化合物(e)と前記化合物(3)の合計100重量部に対して、例えば0.1~3.0重量部程度、好ましくは0.3~1.5重量部である。
【0073】
前記硬化剤の使用量としては、前記化合物(e)と前記化合物(3)の合計100重量部に対して、例えば80~130重量部程度である。
【0074】
前記硬化促進剤の使用量としては、前記化合物(e)と前記化合物(3)の合計100重量部に対して、例えば0.1~3.0重量部程度、好ましくは0.3~1.5重量部である。
【0075】
本発明の組成物は、前記化合物(e)と前記化合物(3)と、必要に応じて他の成分を配合し、混合することにより調製することができる。
【0076】
本発明の組成物は、加熱処理及び/又は光照射を行うことにより、組成物中に含まれる前記化合物(e)と前記化合物(3)の重合反応を進行させて硬化物を得ることができる。
【0077】
前記組成物の硬化物は耐熱性に優れ、Tg(DMA-tanδ)、すなわち、動的粘弾性測定装置(DMA)測定により求められるtanδのピークトップ温度は、例えば180℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは210℃以上である。また、Tg(TMA)、すなわち、TMA測定により求められる熱膨張率の変曲点は、例えば190℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは210℃以上、最も好ましくは220℃以上である。
【0078】
また、前記化合物(3)として、上記エポキシ化合物の製造方法により得られたものを使用すれば、塩素含有量が少ない組成物が得られる。組成物中に塩素が含まれる場合、前記化合物(e)や前記化合物(3)のエポキシ基が塩素によって開環することによって、硬化反応が進行し難くなるため、耐熱性に優れた硬化物を得ることは困難となるが、塩素含有量が少ない組成物であれば、優れた硬化性を発揮することができ、耐熱性に優れた硬化物を形成することができる。
【0079】
本発明の組成物の塩素含有量は、例えば1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
【0080】
本発明の組成物は、上記の通り優れた耐熱性を有する硬化物を形成することができる。そのため、本発明の組成物は、例えば、光半導体装置の(透明)封止材や、光反射用リフレクタ等を製造する原料として好適である。
【実施例
【0081】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0082】
実施例1
1Lのステンレス製反応器に、1,3,5-シクロヘキサントリオール[東京化成工業(株)製]51.0gと3-シクロヘキセン-1-カルボン酸メチル[東京化成工業(株)製]275.9g、キシレン326.9g、及びリチウムアミド[LiNH2、MERCK社製]1.24gを仕込み、反応器内温度を190℃まで昇温した。また、反応途中から留出したメタノールを除去した。
このようにして得られた反応液を酢酸エチル345gで希釈し、酢酸6.4gを添加して中和した。その後、水洗を行い、反応液の溶媒を留去して、化合物(2)を170.0g得た(収率:96%)。
次に、得られた化合物(2)170.0gを酢酸エチル510gで希釈し、40℃の条件下、28%過酢酸364.1gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、7時間反応させた。得られた反応液を水洗し、さらに10%水酸化ナトリウム水溶液で中和した。その後、溶媒を留去して、化合物(3)を177.8g得た(収率:95%)。得られた化合物(3)の塩素含有量は検出限界以下(すなわち、10ppm以下)であった。
【0083】
実施例2(組成物の調製)
下記表1に記載の処方で各成分を配合し、自公転式撹拌装置(商品名「あわとり錬太郎AR-250」、(株)シンキー製)を使用して均一に混合し、脱泡して組成物を得た。得られた組成物の、25℃、せん断速度3.1(1/s)における粘度は、31400mPa・sであった。
【0084】
尚、組成物の粘度は、レオメーター(商品名「PHYSICA UDS200」、Anton Paar社製)を用い、温度25℃、回転速度186rpmの条件で測定した。
【0085】
(組成物の硬化)
得られた組成物を成型機に充填し、80℃で3時間、続いて180℃で2時間加熱することによって硬化物を得た。そして、得られた硬化物について、下記硬化物の耐熱性評価1を行った。
【0086】
実施例3~4(実施例4は参考例とする)、比較例1
下記表1に記載の通りに処方を変更した以外は実施例2と同様にして、組成物及びその硬化物を得、得られた硬化物の耐熱性を評価した。
【0087】
実施例5(組成物の調製)
下記表2に記載の処方で各成分を配合し、自公転式撹拌装置を使用して均一に混合し、脱泡して組成物を得た。
【0088】
(組成物の硬化)
得られた組成物を成型機に充填し、100℃で2時間、続いて150℃で2時間、更に180℃で1時間加熱することによって、硬化物を得た。また、得られた硬化物について、下記硬化物の耐熱性評価1,2を行った。
【0089】
比較例2(組成物の調製)
下記表2に記載の通りに処方を変更した以外は実施例5と同様にして、組成物及びその硬化物を得、得られた硬化物の耐熱性を評価した。
【0090】
(硬化物の耐熱性評価1)
得られた硬化物から、厚さ0.5mm×幅8mm×長さ40mmのサイズの試験片を切り出した。動的粘弾性測定装置(DMA)(セイコーインスツルメント(株)製)を用いて、上記試験片の損失正接(tanδ)のピークトップ温度(Tg(DMA-tanδ))を測定した。
尚、測定は以下の条件で実施した。
測定雰囲気:窒素気流下
測定温度範囲:-50~300℃
昇温速度:2℃/分
変形モード:引張モード
【0091】
(硬化物の耐熱性評価2)
得られた硬化物のガラス転移温度(Tg(TMA))を、TMA測定装置(商品名「TMA/SS100」、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用し、JIS K7197に準拠した方法により、窒素雰囲気下にて、昇温速度5℃/分で、測定温度範囲30~300℃における熱膨張率を測定した後、ガラス転移温度以下及びガラス転移温度以上の曲線にそれぞれ接線を引き、これらの接線の交点から求めた。
尚、ガラス転移温度以下での線膨張係数(ppm/℃)をα1、ガラス転移温度以上での線膨張係数(ppm/℃)をα2とする。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
セロキサイド2021P:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、(株)ダイセル製
SI-100L:硬化触媒、サンアプロ(株)製
リカシッドMH700F:硬化剤、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸=70/30、新日本理化(株)製
U-CAT 12XD:硬化促進剤、サンアプロ(株)製